【今そこにある危機】佐々木弘志/名古屋工業大学客員准教授
近年、日本政府や社会インフラに対する攻撃が相次いでいる。
防衛力強化の一環で、わが国の「サイバー安全保障」は新局面に入った。
2022年12月、日本政府は、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画を新たな防衛3文書として閣議決定した。中でも注目を浴びたのが、国家安全保障戦略に示された「能動的サイバー防御」の方針である。
これは、①重要インフラ含む民間事業者との情報共有の強化、②悪用サーバなどを検知することを目的とした通信事業者からの情報提供、③安全保障上の懸念がある場合、攻撃者のサーバなどへの侵入や無害化を行う権限の付与―の三つの措置の実現を目指しており、日本政府において、「サイバーセキュリティ」が「サイバー安全保障」の文脈で十分な予算と人が付くことで、国の重要な「経営課題」として位置付けられた。

政府機関に相次ぐ攻撃 被害を抑えたデンマーク
わが国のサイバー安全保障リスクの現状はどうか。昨年8月、内閣サイバーセキュリティセンターは、メールシステムがサイバー攻撃を受け、約5000通のメールが漏えいした可能性について発表した。また、今年2月に報じられた過去の外交上の機密に関わる公電システムの情報漏えい事案などからも、政府機関が継続的にサイバー攻撃の標的となっており、実際に被害が出ていることから、安全保障上の懸念があると言える。
社会インフラに対しては、昨年7月に名古屋港のコンテナ運用システムがサイバー攻撃の被害を受け、2日半の間、約2万本のコンテナの搬出入に影響が出た。国内では初のサイバー攻撃による大規模な社会インフラの停止である。この影響で大手自動車会社の海外向け部品の工場4拠点の生産停止や、アパレルメーカへの衣類納入遅れなどサプライチェーン上のビジネス被害が発生した。
このように、政府機関、社会インフラともにサイバー脅威が高まりを見せる中で、政府と民間事業者が協力して、より踏み込んだ対処にあたる「能動的サイバー防御」の実現は急務だ。
能動的サイバー防御は法的な議論もあり、実現には課題が多いが、その必要性を強く示したのが昨年5月にデンマークのエネルギー業界を襲ったサイバー攻撃である。この事案では、台湾製の同じ通信機器を使用する22社の同国内のエネルギー事業者が同時に攻撃を受けた。一連の攻撃により、数社の遠隔監視・制御に用いていた通信装置が無効化され、制御システムの遠隔運転ができなくなり、手動運転に追い込まれた。
このような国家全体のサイバー脅威への対処として、デンマークではインフラセキュリティ対応チームSektorCERTを設置し、国土中に配置した270台のセンサー機器からの情報を基に、エネルギー業界を含む重要インフラ事業者のサイバー脅威の監視・事故対応の支援を行っている。
本事案では、SektorCERTがサイバー攻撃を検知し、攻撃を受けたエネルギー事業者と連携して迅速な対応を行ったことが攻を奏し、攻撃者にインフラを不正に操作されずに済んだ。SektorCERTが能動的サイバー防御の①と②相当の措置を実現することで、被害を最小限に抑えることができたといえる。もし対応が遅れていたら、長期間のサービス停止や設備破壊などの深刻な被害が発生したかもしれない。
SektorCERTの事故レポートによれば、本攻撃にはロシア軍支援のサイバー攻撃者グループ「サンドワーム」の仕業である痕跡があったという。サンドワームは15、16年にウクライナでの大規模停電を引き起こしたグループであり、現在もウクライナはもちろん、敵とみなす国の社会インフラに対するサイバー攻撃を行っている。もし本件がデンマークのウクライナ支援に対するロシア政府の報復ならば、決してわが国も他人事ではない。








