脱炭素電源による供給力確保を目指し、容量市場の一部としてスタートした長期脱炭素電源オークション。
初回は多くの蓄電池案件が落札。第二のFITになりかねないとの懸念が高まっている。
「まるで再生可能エネルギーFIT(固定価格買い取り)制度の二の舞。いや、高いとはいえFITは発電するだけマシで、これでは脱炭素にも供給力にも貢献しない設備の費用を国民に負わせるだけだ」
電力業界関係者がこう憤りを見せるのは、4月26日に電力広域的運営推進機関が公表した長期脱炭素電源オークションの初回(2023年度)約定結果についてだ。その内訳を見ると、30件という蓄電池の落札案件の多さが目を引く。
今回、揚水・蓄電池は100万kWの募集上限に対し、それを大きく上回る539・7万kWが応札。脱炭素電源の新設・リプレースの落札案件が少なく全体の募集容量400万kWに満たないことから、66万kWが追加約定された結果、揚水・蓄電池合わせて166・9万kW、蓄電池だけで109・2万kWと、同枠の当初の上限を上回る容量を落札することになった。

出典:電力広域的運営推進機関
要件を満たせるのか 蓄電池案件への懸念噴出
脱炭素社会に向けた再エネ利用の最大化には、基盤インフラ設備として蓄電池が果たす役割は大きい。一体何が問題視されているのか。
今回、案件ごとの落札価格は明らかにされていないが、1kW当たり2万4000~2万5000円辺りが当落水準と目される。容量拠出金として最終的には需要家が費用を負担する以上、安い案件から落札されるのは当然だ。だがアグリゲーター事業者の一人は、「極端なことをしない限り無理がある価格設定で、20年間要件を満たし続けることはおろか、きちんと稼働するのかさえ怪しい」と訝しむ。
しかも、落札事業者として名を連ねるのは、一部を除き業界関係者でさえ初めて見るような外資系企業。大手電力関係者は、「そもそもまともに動かす気がないのではないか」と見ており、「需給調整市場や卸電力市場で約定しないよう、高額で売り入札すれば利用率を下げられる。あとは故障する前に売却してしまえばいい。それが悪いというのではなく、それを許容してしまっている制度側の問題だ」と指摘する。
いずれにしても、蓄電池に絞って見ると、長期にわたって脱炭素電源による供給力を確保するという同オークションの目的から大きく乖離してしまったというのが電力業界の大方の評価のようだ。
既に第2回オークションの募集要項策定に向けた検討が始まっているが、業界からは、「規律を厳格化するか、一層のこと脱炭素オークションから蓄電池を除外するべきだ」、「揚水のリプレースがままならなくなれば、需給安定にも悪影響をもたらす。少なくとも揚水と蓄電池の枠を分けるべきだ」といった、抜本的な制度見直しへの要望が聞こえてくる。
一方で、中国電力の島根原子力発電所3号機(130万kW)が落札したことに、資源エネルギー庁も業界関係者も胸をなでおろしているだろう。「島根3号がなければ、脱炭素オークションの結果はさらに悲惨なものになっていた。水素やアンモニアは不確実性が高く、現時点で脱炭素に資する大型電源は原子力だけなのだから」(前出の大手電力関係者)
初回は、建設工事途中も含めた新設・リプレースのみが応札要件だったが、次回以降は、既設の安全対策投資についても対象とすることが検討の俎上に上がっている。各原子力事業者がそれを受けてどういった動きを見せるのか、注目される。
将来の脱炭素化を条件に、脱炭素電源とは別枠で募集されたLNG専焼火力も予想外の展開となった。3年間で600万kWを上限としていたにもかかわらず、初回で575・6万kWが落札しほぼ枠を使い切ってしまったのだ。
火力電源投資のボラティリティの高さから各社が躊躇していた投資判断を後押ししたことは、脱炭素オークションの大きな成果だと言えるだろう。再エネ拡大に向けた調整力確保のためにも、次回以降の募集要項策定ではLNG専焼火力の枠をさらに拡充することも論点となる。
業界に衝撃与えた JERA奥田社長の発言
容量市場が単年度を対象とするのに対し、脱炭素オークションは原則、20年間にわたって固定費水準の容量収入が保証されるスキーム。その代わり、スポット市場や非化石価値取引市場などから得られる収益の9割を事後的に還付することが求められる。
広域機関が19~23年度の5年間のスポット価格を基に還付額控除後の約定総額を試算したところ、脱炭素電源はマイナス43億~1560億円、LNG専焼火力はマイナス3163億~1062億円となった。落札事業者は市場価格が低迷すれば容量収入を得て、高水準となれば還付金を納付することにはなるが、市場からの収入で利益を得られる。同機関の山次北斗企画部部長は、「結果として、脱炭素オークションは電源投資を行う発電事業者にとってある種の保険のような役割を果たす面もあると考えられる」と、その意義を語る。
ところが、JERAの奥田久栄社長が5月16日の記者会見で、落札した知多火力発電所7、8号機について「投資意思決定をしたわけではない」と発言した。燃料費などの変動費回収リスクは全て事業者が負うことになり、9割還付のルールの下では投資回収が不透明だというのがその理由だ。
この発言は業界関係者を相当驚かせた。「9割還付は制度の前提である上に、還付しなければならないということは、それだけ市場が高騰し稼げる自信があるということではないのか」と、奥田社長の真意を図りかね一様に首を傾げる。
何はともあれ、確実な供給力の確保策へ、まだまだ試行錯誤が続くことになりそうだ。





















