GX投資加速へ政府支援 水素普及に15年で3兆円


政府は12月15日、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を持ち回り形式で開き、GX投資促進に向けた20兆円規模の政府支援のうち、16分野の脱炭素化に13兆円を充てる方針を示した。

内訳は、鉄鋼や化学、紙、セメントなど製造業4分野のエネルギー転換のための設備投資支援として10年間で1.3兆円、家庭の断熱窓への改修や高効率給湯器の導入といった、くらし分野のGXに3年間で2兆円(GX経済移行債以外も含む)など。

エネルギーでは、水素燃料の普及やペロブスカイト太陽電池などの次世代再生可能エネルギー、次世代革新炉、CCS(CO2の回収・貯留)の4分野が支援対象。特に既存燃料との値差を支援することで普及を後押しする水素については、供給開始から15年間で3兆円規模の支援を措置する。

政府はGX投資促進支援に充てるため、2024年2月にも、GX経済移行債の発行を始める。23年度は最大1.6兆円を発行。最終的には20兆円規模とし、10年間で150兆円の官民投資の「呼び水」としたい考えだ。

【コラム/1月10日】第7次エネ基で自死しないために NDCとの断絶を


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

パリ協定では2025年に35年以降の数値目標についてのNDC(温室効果ガス削減の国別目標)を提出することとなっている。今年の年明けから、日本政府はエネルギー基本計画の見直しに着手することになっており、それと整合性のあるNDCを提出する、というのが今の行政の考えのようだ。

だが、これは危険極まりない。NDCに関する国際交渉での相場は跳ね上がっているからだ。温暖化防止国際会議・COP28では、35年に世界全体で60%削減(19年比)という数字が打ち出された。EUでは欧州委員会が1990年比で90%削減という無謀な法案をこの春に提出しようとしている。

どちらも産業、なかんずくエネルギー多消費産業に対する死刑宣告に等しい。

すでに2030年目標に向けての現在の政策すら、ドイツでは産業の大脱出(エクソダス)を引き起こしている。ドイツ最大手の化学企業BASFは中国へ100億ユーロ投資して工場を建設する。日本の大手鉄鋼会社もインドで高炉を建設する一方で、米国の鉄鋼会社を2兆円かけて買収すると報じられている。産業、なかんずくエネルギー集約産業は、CO2規制がむやみに強化されつつあるEUや日本から逃げ出している。政府が水素技術開発の補助金などを出したところで引き留めることは出来ない。これは企業判断としてはやむを得ず、ある意味合理的かもしれない。だが国家としては、存亡にかかわる致命的な失敗だ。

温暖化政策が政権支持率に影響 主要国の動向は

ここ数年間、EUでも米国でも左派リベラル的な政策を推進する政権が続いてきた。だがここにきて、まず野放図な移民の受け入れで国民の不満が爆発した。国民に負担を強いる脱炭素の推進も、それに次いで不満の火種になっている。EUでは国政選挙のたびに右派が勝つようになっており、今夏の欧州議会選挙でも右派が躍進するだろう。米国は今年末に共和党の大統領が誕生すれば、トランプであれ誰であれ、パリ協定から離脱し、グリーンディール(脱炭素のこと)を止め、ESG(環境・社会・統治)に反対する。

COP28では、グローバルサウスもロシアも、G7(主要7カ国)の偽善に満ちた「50年脱炭素」のお説教などに従わないことが改めて鮮明になった。グローバルサウスがG7に唯々諾々と従わないのはこの問題だけではない。対ロシア経済制裁でも、イスラエルとハマスの戦争においてもそうだ。

米国バイデン政権、ドイツの信号機連立政権(社会党、緑の党、自由党)のいずれも、支持率が低迷している。国民に支持されない中、国際交渉については行政府が担当しているので、左派リベラルの支持基盤を喜ばすために、これら政権はますますグリーンな方向に先鋭化している。

だが、米国は共和党が大統領選に勝てばグリーン路線は全て180度転換する。

EUはこのままではネットゼロ(脱炭素)による自死に至るであろう。だが今年にも政治の右傾化が進み、やがてネットゼロ目標は放棄されるだろう。

日本はやはり支持率の低い岸田政権の下、脱炭素の制度化が着々と進んでいる。慣性のついてしまった行政府は巨大な船のように方向転換が効かない。今後、その一貫として「野心的な」NDCが設定され、35年の国のCO2数値目標が無謀な数値にピン止めされ、それを各部門に割り当てた「積み上げ」計算をして第7次エネルギー基本計画を策定するとなると、一体どうなるか。

エネルギーコストは高騰し、企業のエクソダスには歯止めが掛からなくなり、日本経済は沈没する。

そのときには日本は中国の影響力を避ける術が無くなる。中国は日本の中立化を狙うだろう。中国は、それをただの中立に留めるのではなく、新中国的な中立化――日本のフィンランド化――を図るだろう。つまり日本は中国の属国になる。そこでは自由、民主といった我々が大事にしている価値が著しく制限される。これは事実上の日本の死である。

安保と経済いかに守るか 第7次エネ基に書くべきこと

日本を取り巻く地政学状況は深刻だ。エネルギー自死を避けるため、第7次エネルギー基本計画においては、安全保障と経済を重点とするほかない。経済が重要なのは、それが総合的な国力の基盤であり、国の安全保障に直結するからでもある。

基本計画に書くべきは以下の項目だ。

① 原子力の最大限の活用

再稼働はもちろん、新増設、SMR(小型モジュール炉)の導入、輸出などに踏み込み、原子力についてはリスクゼロを追い求めるのを止めるべきだ。原子力を利用しないことによるエネルギー安全保障上のリスクおよび経済上の不利益の方が大きい。化石燃料は輸入依存であるし、再エネは不安定で高価だからだ。核融合の実証も進めるべきだ。

② エネルギーコストの低減

脱炭素に伴うエネルギーコスト増は国力を毀損し安全保障を損なう。エネルギーコスト、とりわけ電力コストについては低減すべく明確に数値でコミットするべきだ。政府による光熱費補助などではなく、根本的な低コスト化を計るべきである。それには、原子力の活用に加え、再生可能エネルギーの大量導入を止めることや、化石燃料の安定調達を図ることだ。米国共和党のデサンティスはガソリン価格をガロンあたり2ドルに下げることを大統領候補選の公約の柱としている。見習うべきだ。

③ 化石燃料の安定調達

日本のエネルギー供給の柱は今なお化石燃料である。現行の第6次エネルギー基本計画では供給量の見通しが少なすぎて、燃料の調達や利用の妨げになってきた。この愚を避け、石油・石炭・ガスのいずれについても世界各地に多様化された供給源からの安定した調達を実現すべく、政府はコミットすべきだ。

④ 化石燃料代替技術の技術開発

再エネや電気自動車、水素・アンモニア、メタネーションなどの合成燃料については、今なおコストが高いため、そのコストを低減する技術開発に注力し、結果として世界全体で普及させることを目指すべきだ。コストの下がる見込みが無いと判明した技術開発プログラムは中断して基礎研究に戻す。これら技術の国内での導入量拡大については、②のエネルギーコストの低減に寄与する限りにおいて行うべきだ。

以上の計画を進めた場合、うまく行けば、原子力が最大限導入され、電力コストが安価になり、EVやヒートポンプなどの電気利用技術も技術開発によって安価になる。結果、需要部門の電化も進み、日本のCO2は大幅に削減される。

そのような試算をしてもよいが、それはエネルギー基本計画の一部にすべきではない。独立した複数の機関があれこれ試算すればよい。米国はそのようになっている。エネルギー基本計画の一部とすると、そのNDCとの整合性を取るような圧力が働き、計画内のあらゆる数値が「数値目標」として運用されることになり、化石燃料の調達と利用に支障をきたすなど、安全保障と経済を損なう懸念があるからだ。

NDC自体は首相の意思としての国家の数値目標を掲げ、上記1、4などの政策を列挙しておけばよい。NDCとは普通はその程度のものである。エネルギー基本計画で数値を細かく積み上げてそれをNDCにする国など、日本以外にはどこにもない。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

名古屋港のCO2を海外で貯留 BPと協力協定で脱炭素化を支援


【中部電力】

中部電力は海外でのCO2貯留の検討を進める。2023年9月に、英石油大手BPの子会社BPベラウ社と、インドネシア・西パプア州のタングーにあるCO2貯留地を活用する実現可能性調査のための協力協定を締結した。両社はこの協定に基づき、愛知県名古屋港で排出されたCO2をタングーに貯留する事業の実現可能性を調査する。

BPベラウ社は、インドネシア最大のガス生産プロジェクトである「タングーLNG」のオペレーターで、権益保有者の代表を務めている。23年10月には、タングーLNGの第3系列が新たに稼働し、生産能力は年間760万tから年間1140万tに増加、国内の天然ガス生産量の約35%に貢献する予定だ。

BPがタングーLNGで運営するタングーCCUSプロジェクトは、21年にインドネシア政府より承認を受けて進められている。現在最も進んでいるCCUSプロジェクトで、CO2の貯留可能量は約18億t。同国初のCCSハブになる可能性がある。

中部電力グループとBPは、50年までに事業全体におけるCO2排出量をネット・ゼロにすることを目指している。

タングーにCO2輸送 アジアの脱炭素化を促進

中部電力とBPは今回締結した協定以前にも、23年2月に日本とアジア地域の脱炭素化に向けた協力協定を結んでいた。それにより、名古屋港周辺の脱炭素化支援に取り組んでいる。名古屋港は貨物取扱量が日本最大の港で、日本のCO2総排出量の3%を占めており、30年度までに13年度比で46%削減する目標を掲げている。目標達成のため、BPの大規模CCSプロジェクトの開発経験と、中部電力の中部エリアでのエネルギー事業者としての知見を組み合わせ、日本とアジア地域の脱炭素ソリューションの促進に向けて検討を進めていく。

中部電力の岸久嗣氏(右)とBPのキャシー・ウー氏
提供:Indonesia CCS Center

締結に際してBPのキャシー・ウーガス&低炭素エネルギー、アジア太平洋地域社長は、「BPと中部電力は長年にわたり関係を育んできた。この協定はインドネシアと日本のネット・ゼロ目標達成を支援するため、両社がCCUSのイニシアチブを通じて継続的に協力していくことを表している」とコメントしている。

一方、中部電力の佐藤裕紀グローバル事業本部長は、「相当量のCO2貯留が可能だと期待されている、タングーという貯留地を特定して実現可能性を調査できることは、名古屋港CCUS事業にとって、重要なマイルストーンになる。日本政府の掲げる30年のCCS事業の実現に向け、BPと協力してタングーの評価に取り組んでいく」と話している。

「原発容量3倍」で22カ国が宣言 日本は実効性ある取り組みを


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 客員論説委員

日米英などが世界の原発設備を2050年までに3倍に増やすと宣言した。

さらなる原発活用に向けてはエネルギー基本計画の抜本的な見直しなどが必須だ。

今回の宣言はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれていた第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)に合わせ、日本や米国、英国、韓国、仏、フィンランドなど22の有志国が参加した。「世界全体の原発の設備容量を2050年までに3倍に増やす」と宣言し、温室効果ガスの排出削減対策の一環で米国が賛同を呼びかけていた。

発電時に温室ガスを排出しない原発は、電源の脱炭素化につながるとして期待が大きく、世界的に見直し機運が高まっている。COP28では太陽光や風力などの再生可能エネルギーの設備容量を3倍に増やすことでも首脳級会合で合意した。世界各国が目指す「50年までのカーボンニュートラル」を実現するためには、ともに電源の脱炭素化が欠かせないとの判断である。

国際エネルギー機関(IEA)は23年11月、気温上昇を産業革命前に比べて1・5℃に抑えるには、50年までに2倍以上の原発設備容量が必要との試算を公表した。世界原子力協会によると、世界の原発は436基あり、発電電力量の約10%を賄っている。これを3倍に増やすことで、脱炭素に弾みをつけたい考えだ。

COP28では原発の必要性を再認識した
©COP28

原発拡大に動き始めた欧米 日本は安全審査が停滞

すでに欧米諸国は、原発設備容量の拡大に動き始めている。世界的な脱炭素の潮流で化石燃料を必要としない原発の優位性を確認しただけでなく、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー安全保障の重要性が再認識されたからだ。

フランスは最大で14基の原発新設を決めたほか、英国も原発の設備容量を3倍に引き上げて電力需要の25%を原発による電力で賄う計画をまとめた。欧州連合(EU)は50年までに原発設備容量を150GWにまで高める方針を打ち出した。

米国のバイデン政権は21年、電力などのインフラ投資法で総額60億ドルに上る資金援助政策を公表し、22年にはインフレ抑制法を制定して原発向けに11億ドルを拠出する計画を示した。これにより25年に閉鎖予定だったパシフィック・ガス・アンド・エレクトリックが運営する原発の稼働延長を決めた。さらに23年3月には12億ドルを投じ、今後数年以内に閉鎖を計画する原発の稼働延長を支援することも決定した。

米国では安価な再エネや天然ガスを背景にして13年以降、10基以上の原発が稼働を停止。これに伴い、米国内で稼働する原発は92基に減少し、電源全体の原発比率も約2割まで低下した。このため、バイデン政権は原発の縮小はエネルギー安全保障や脱炭素への影響が大きいと判断し、小型モジュール炉(SMR)の開発支援などと合わせて原発の活用にかじを切った格好だ。

ただ、SMR開発の米ニュースケールパワーは23年11月、アイダホ州でのSMR建設を中止すると発表した。同社は29年までに米国初となるSMRを稼働させる計画だったが、ここ数年、建設費が大きく上昇しており、採算の確保が難しいと判断した。同社によると、初号機の発電コストは当初計画より5割高い1kW時当たり8.9セントになる見通しだ。政府による支援はあるが、発電コストの低減が実用化の課題だ。

日本の原発政策も課題が山積している。岸田文雄政権は「グリーントランスフォーメーション(GX)推進計画」を策定し、東京電力・福島第一原発事故後、封印してきた原発の建て替えを解禁し、運転期間の延長も容認した。だが、原子力規制委員会による安全審査が停滞しており、国内に33基ある原発のうち、再稼働したのは12基にとどまる。特に西日本地域では関西電力や九州電力などの原発再稼働は進んでいるが、東日本地域では原発事故後、1基の原発も再稼働を果たしていない。

こうした原発再稼働を巡る東西格差は、利用者が負担する電気料金にも跳ね返っている。原発再稼働が進む九電や関電は昨年、家庭向けの規制料金を据え置いたが、原発が稼働していない東電や東北電力、北海道電力は料金値上げを実施。この結果、九電や関電の家庭向け標準料金は月額6000円台前半なのに対し、東電や東北電は7000円台半ばと2割以上も高い。この料金水準は政府の電気・ガス代補助で抑え込まれており、補助がなくなれば家計負担はさらに重くなる。

「エネ基」改定で原発新設へ 供給体制の再構築が必至

日本が原発の活用に向けて本格的に取り組むためには、24年秋に予定される「エネルギー基本計画」の抜本的な見直しが避けて通れない。現行の計画では30年度における電源構成について、再エネを36~38%、原発は20~22%としている。22年度の電源構成実績をみると、再エネ比率は前年度から1.4ポイント増えて21.7%となった。今後は洋上風力発電の大量導入も控えており、政府はこの再エネ比率の目標を前倒しで達成する方針だ。

一方で原発比率は、前年度よりも1.3ポイント減少して5.6%にとどまった。50年度以降も原発を活用し続けるためには、欧米諸国と同様に原発の建て替えや新設を積極化させる必要がある。

これに対し、化石燃料を使用する火力発電比率は前年度とほぼ同じ72.7%を占めた。燃料価格の高騰で火力発電の伸びは抑制されたが、現行のエネルギー基本計画では火力発電は4割程度まで下げるのが目標だ。電力の安定供給と脱炭素の達成に向け、新たに策定するエネルギー基本計画では再エネ比率と原発比率の目標をさらに引き上げることが不可欠である。

エネルギー基本計画の見直しを巡っては、電力需要見通しの改定も課題だ。特に今後は、九州や北海道で半導体工場の新設が予定されており、電力需要の増大は確実だ。さらにデジタル化の推進に伴い、データセンターの新設も相次いでいる。大量の電力消費が見込まれる中で、原発を通じた大規模な電力供給体制の構築は待ったなしだ。現実を見据えた需要見通しを示す必要がある。

岩谷がコスモの筆頭株主に シナジー効果に期待の声


岩谷産業が12月1日、旧村上ファンドグループが保有していたコスモエネルギーホールディングスの株式約1740万株を、約1000億円で取得した。これまでの保有分と合わせて約20%となり、筆頭株主となった。

両社はLPガス事業で取引があり水素事業でも協業の検討を進めていたが、強い提携関係があったわけではない。業界に詳しいアナリストは岩谷産業がシナジー効果を期待できる分野として、LPガス元売大手ジクシスとの連携、コスモ石油マーケティングの燃料油販売網や自動車関連サービスなどを活用した協業、風力発電国内第3位のコスモエコパワーへの参画などを挙げる。

「コスモは風力に強みがあるが、ENEOSや出光興産と比べて脱炭素化対応が遅れている。国内に水素製造拠点を持つ岩谷と組むことは、総合エネルギー企業体として生まれ変わるきっかけになる。岩谷にとってはコスモがアブダビで水素・アンモニアの協業を進めていることも魅力だろう」(業界関係者)。一方、メディア関係者からは「コスモが岩谷の保有株にプレミアムを付けて買い戻す可能性も否定できない」との声も。今後の展開から目が離せない。

【マーケット情報/1月8日】欧米原油が小幅上昇、供給不安が根強い


【アーガスメディア=週刊原油概況】

1月2日から8日までの一週間における原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油を代表するブレント先物が小幅上昇。中東の情勢悪化を背景とした供給不安が根強い。

中東では、イエメンを拠点とする武装集団フーシによる紅海での攻撃が、激しさを増している。これを受け、米国をはじめとする13カ国の海軍が、紅海の巡廻に参加した。また、4日には、米軍のドローンがイラクの軍事指導者を複数殺害したとの発表があり、中東における緊張が一段と高まった。これらにより、中東産原油の供給不安が強まり、欧米価格の強材料となった。

一方、中東原油の指標となるドバイ現物は小幅下落。サウジアラムコ社が2月積みの公式販売価格を引き下げたことが、重荷となった。さらに、供給不安を出荷増の見通しが相殺したようだ。英国からの主要油種の出荷は2月、増加する見込み。加えて、米国のクッシング在庫が前週比で増加し、7月以来の最高を記録した。


【1月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.77ドル(前週比0.39ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.12ドル(前週比0.23ドル高)、オマーン先物(DME)=77.83ドル(前週比0.11ドル安)、ドバイ現物(Argus)=77.67ドル(前週比0.42ドル安)

*1月1日は祝日のため、1月2日との比較

【覆面ホンネ座談会】「卸」内外無差別は何のため? 新電力から異論噴出の実態


テーマ:電力卸取引の内外無差別

経済産業省電力・ガス取引監視等委員会が主導する大手電力会社による内外無差別な卸取引の徹底。電力市場の公平な競争環境を担保する狙いがあるが、不自由さもあると業界関係者の評判は芳しくない。

〈出席者〉 A 大手エネルギー関係者  B 新電力関係者   C コンサルタント

―電力卸取引の内外無差別の取り組みをどう評価しているだろうか。

A それなりに規模の大きな新電力は、これまでも大手電力との交渉による相対契約によってある程度電源を確保できていた。それが、内外無差別の流れで2022年に大手側から今後は交渉できなくなるかもしれないと言われ始め、実際、23年には全く交渉できなくなり、卸調達を受けるために入札に参加せざるを得なくなった。相対交渉の時はオーダーメイドの調達ができたし、こちらも汗をかくことで好条件を引き出すことさえできた。今は、レパートリーが増えてきたとはいえ、入札条件は必ずしも当社にとって都合の良いものばかりではないのが痛い。入札一辺倒による内外無差別対応について、望ましくないと思っている新電力は多いと思うよ。

B 全小売事業者が入札という同じ土俵の上で調達するということは、個別に相対交渉をしてきた新電力の過去の営業努力が全く無駄になってしまうということだ。小規模な事業者にとっても、大手電力によって入札条件がさまざまで不透明な上に獲得できる量もたかが知れているし、結局入札には参加できなかったという話も聞く。現状への評価は総じてネガティブだと言わざるを得ない。

C これまで大手の電源にアクセスする手段がなかった事業者にその機会が与えられたことを評価する声もあり、一定の進捗はあったのだろう。だけど使い勝手が良いかというとそうでもなく、特に小規模事業者は与信の問題があって必ずしも活用しきれていない。内外無差別を仕掛けた当の新電力も、相対・個別交渉を一気に切られてその強みを生かせなくなってしまったというし、内外無差別を強く主張することで、その手段が入札に絞られてしまったことは予期せぬことだった。

―そもそも、何をもって内外無差別な卸取引が行われていると評価するのか。

C 監視委の内外無差別の評価結果で、23年度の通年の相対契約について内外無差別な卸売りが担保されていると評価されたのは北海道と沖縄の2電力のみだった。あの評価表に合わせて大手各社が入札要件を書いているのが今の傾向だ。

A 監視委だって、入札一辺倒にしたいと考えているわけではない。大手電力が規制当局の指導を恐れるがあまりに、入札さえ実施すれば問題ないだろうと安全サイドに寄ってしまった結果、今の状況を招いた。監視委から言うのははばかられるかもしれないから、資源エネルギー庁から大手電力に対し、必ずしも入札でなくともよいということを言ってもらえないものだろうか。

B 経産省は消費者庁に対して強いアレルギーを持っていて、これ以上電力制度に突っ込まれたくない。大手電力がさまざまな監視を受ける中で、最も安全な方法を採ってしまうのもそのためだ。現行の法的分離体制の下できちんと内外無差別が機能していることが証明されれば、もう少し緩くなるのだろうが、正直やすきに流れてしまったなと思う。

現状の内外無差別は「公平性」という点で疑問符が付く

公平性のはき違え!? 一律対応に募る不満

―規制当局の企図する通り、競争は進むのだろうか。

B 内外無差別で自由化が進むというけど、問題は大手電力の域外営業がほとんど行われていないことだ。一部が東京エリアで活動しているだけで、地方に行くほど大手同士の競争がない。結局域外では競争力も営業力もないのであれば、内外無差別が進んだところで競争の進展は期待できない。

C 監視委の専門会合で、大手電力の域外進出の割合は3・5%程度と示されていた。その時は電源調達に問題があるのではなく、域外では知名度がないことなどからだとの説明だった。もともと自由化がスタートした時は、大手同士の域外での「仁義なき戦い」が想定されていたにもかかわらず、無風だ。

―本来求められている内外無差別の在り方とはどのようなものだろう。

B 相対交渉を含め、多種多様なレパートリーがあってこそ公平な競争環境なのだということをもう少し理解してもらいたい。新電力と大手電力との信頼関係に基づく個別交渉に加え、原子力などアクセスしづらい大型電源の一部を入札にするなど、選択肢は多様であるべきだ。今の状況では、多くの人員を割いてきちんとリスクに対応している事業者と、コストも人もかけない、いわゆるフリーライドと呼ばれる事業者を一緒くたにしているだけで、とても公平とは言えない。

A 自由化は自由な交渉が保証されなければならないはずで、交渉力のない新電力が買えるようになったことは弱者救済でしかない。一方で、北海道電力が24年度から常時バックアップを廃止することを決め、入札による内外無差別が進むことで他電力もこれに続く可能性がある。これがそうした新電力にとって良いことなのか、甚だ疑問だ。

C そもそも、調達のレパートリーを拡大するという意味では、そうした新電力の販売部門にトレーディングなどフロント業務ができる人がいないことに問題がある。そのために、相対交渉ができなかったし、入札システムに移行してもその状況を生かせない。人材育成が後手に回ってしまったような新電力は、厳しいことに変わりないよ。

A そういう人材を育成することも競争のうちで、外部から採用するのか、もしくは委託するのかそういった努力をしていかないと。

洋上風力公募の第2弾選定 落札者は「良い形に分散」


結果として、バランスの取れた選定になったと言えるのか。経産省は12月13日、再エネ海域利用法に基づく公募第2弾4海域のうち3海域の結果を発表。①秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖=JERA、Jパワー、伊藤忠商事、東北電力連合、②新潟県村上市・胎内市沖=三井物産、RWE、大阪ガス連合、③長崎県西海市江島沖=住友商事、東京電力リニューアブルパワー(RP)連合―という落札になった。

商社では大手3社が、エネルギー会社では大手5社がそれぞれ選定された格好だ。第1弾3海域が三菱商事、中部電力系シーテック連合の総取りとなったことを踏まえると、「ある意味、良い形に分散された」(大手電力関係者)と見る向きが多い。評価点数の内訳を見ると、①②では応札者の価格がおおむね120点で並ぶ中、事業実現性が決め手に。③については逆に価格点が勝敗を分けた。

気になるのは丸紅、東京ガスが落札できなかったことだ。残る海域の秋田県八峰町・能代沖では、ENEOS系グループが有力視されている。大手の意地を掛け、次の第3弾で勝負に出るのか。

独自の技術力を生かしたソリューション テーブルの利用状況をリアルタイム把握


【ほくでん情報テクノロジー】

北海道電力のグループ企業で、その基幹業務システムや情報インフラの構築・運用・保守サービスを一貫して担うほくでん情報テクノロジーは、安定供給とグループの発展に貢献してきた。その確かな知見と技術力を生かし、開発したのが「ステータスボード」だ。

現場の声をもとに開発 ゆくゆくは道外にも展開

ステータスボードは、ビュッフェスタイルのレストランなどでテーブルの利用状況をリアルタイムに把握し、スタッフの業務を効率化するソリューションだ。

これまでは、表・裏で食事中・食事終了を表す食事札を目視で確認し、利用状況を把握していた。同システムでは、この食事札に置いたときの向き(表・裏・縦・横)を検知するIoTセンサーを搭載し、表・裏に加え縦置き・横置きを判別可能に。食事中と食事終了のほか、テーブルの清掃が完了した準備中と食器のセットも完了した案内可能の4ステータスを設定できるようになった。センサーはクラウド上のアプリと連携しており、パソコンやタブレットなどの端末から確認できる仕組みだ。

画面上では、各テーブルの状況がステータスで色分けされて表示される。また、食事開始からの経過時間や来客予定人数、子連れやアレルギーの有無など利用客ごとの特記事項なども表示。このほか、テーブルの配置などのレイアウト変更や利用しない席を無効とする設定、グループでの利用客をくくるなど、ビュッフェ運営に役立つ機能が多数盛り込まれている。

同ソリューションの開発に当たり、実証実験と評価作業には、北海道内の最大手である鶴雅グループのリゾートホテル「北天の丘 あばしり湖 鶴雅リゾート」に協力を仰いだ。同ホテルがある網走市とほくでん情報テクノロジーがある札幌市は300km以上離れているが、ウェブ会議を有効活用しながら現場の意見や要望事項をタイムリーに取り入れた。利用状況を表す4ステータスや画面上で特記事項を確認する機能などは、現場の声をもとに実装されたという。魚住元社長は「エネルギーインフラを支えてきた技術力が生きた。ただ、同じ技術でも、電力会社とホテルでは使い方が異なる。要望に迅速に対応できないとご採用いただけない」と語る。

「北天の丘 あばしり湖 鶴雅リゾート」メインラウンジ

デジタルソリューション部の開発スタッフは「ステータスボードは、顧客のニーズと当社のシーズがマッチし実現したソリューション。まずは道内の宿泊業のお客様に、予約システムとの連携などニーズに合わせた機能改善を続けていく。将来的には道外へも裾野を広げたい」と展望を語る。

ほくでん情報テクノロジーが培ってきた技術力をもって手掛ける、新たなソリューションに今後も注目だ。

東電RPが包括提携を模索 大手エネや商社が候補か


東京電力リニューアブルパワー(RP)が、大手の商社やエネルギー会社との包括提携を模索しているもようだ。現在、東電RPは水力993万kW、太陽光3万kW、風力2.1万kWを保有。現行の第4次総合特別事業計画では「東電グループの新たな事業の柱として、再生可能エネルギー事業のさらなる成長を実現するため、事業規模・事業領域の拡大、それらを実現するための競争力の強化を見据えた将来の事業体の在り方を検討していく」との宿題が課せられている。

そうした中、原子力損害賠償・廃炉等支援機構は12月1日に発表した東電経営改革評価の中で、年4500億円規模の利益を安定的に創出するため「(JERAに続く)包括的アライアンスの実現などに強い覚悟を持って挑戦していかなければならない」と提起した。

関係筋によれば、東電RPは複数の商社やエネルギー会社と交渉を進めているという。国の洋上風力公募第2弾では、住友商事と組み複数地点に応募、長崎県西海市江島沖を落札したことで、相手先には住商が有力視されているが、「国内最大の水力会社になる」との視点に立てば、大手電力会社など別の選択肢も。23年度内には方向性が明るみに出るか。

「国内最大水力会社」もあり得る?

【イニシャルニュース 】反再エネ乱開発宣言へ S県I地域で進行中


反再エネ乱開発宣言へ S県I地域で進行中

福島市が8月31日に、自然破壊などにつながる大規模太陽光発電の建設に反対する「ノーモア・メガソーラー宣言」を発表し大きな話題を集める中、大規模再エネ開発反対の旗を振る自治体は全国的に着々と増えつつある。とりわけ注目されるのが、S県東部のI地域の動きだ。

現在、再エネ関係者のY氏らが中心となりI地域にある自治体十数市町に対し、「再エネ乱開発反対共同宣言」をぶち上げるよう呼び掛けを行っているのだ。これまでの地道な活動の結果、およそ半数の自治体から賛同への好感触が得られているという。

「I地域では、これまでもメガソーラーや大型風力など大規模再エネ開発を巡って、開発事業者と地元住民のトラブルがたびたび起きており、自然破壊への影響を懸念する声も日増しに高まっている。とりわけ、数年前にA市で豪雨による重大災害が発生したことで、住民側の危機意識は極めて高いものがある」

そんな中、懸念されるのが、肝心のA市がこの宣言活動に消極的な姿勢を見せていることだという。理由は不明だが、そもそも大元であるS県のK知事が大規模再エネ開発ストップに乗り気ではないとみられているのだ。

「現在までに、全国8県(兵庫、和歌山、岡山、山梨、山形、宮城、奈良、長野)がメガソーラー開発を規制する条例を制定している。悲惨な災害を経験したS県では、むしろ率先して太陽光条例を制定すべき立ち場にある。なのに、なぜ及び腰なのか。個人的には、K知事が再エネ推進勢力とのつながりを取りざたされていることに関係があると考えている」(Y氏)

S県が難しいなら、まずはI地域から―。遠からず、実名報道できる時期が訪れることを期待したい。

乱開発ストップが全国的な潮流になるか

東電社長は続投濃厚か 気になる後任候補は?

東京電力ホールディングスの小早川智明社長が来年交代するのではないか―。そんな噂が一時、師走の電力業界周辺を駆け巡った。

「原子力規制委員会が柏崎刈羽原発(KK)の燃料移動制限解除に動き出したことで、再稼働実現への道筋が見えてきた。後は新潟県側の同意が得られれば2024年内の再稼働が可能になる。小早川氏は社長就任から6年がたつので、これを花道に後進に道を譲るのでは。次期社長の有力候補は役員のS氏だ」。電力事情通はこう話す。

ただ関係者に聞けば、事はそう単純ではない。

「まず24年は、現行の第四次総合特別事業計画の見直しの年に当たる。福島第一原発の廃炉問題をはじめ課題は山積みのため、経産省ラインと共に第五次総特の策定に向けた検討を本格化させることが、小早川社長の大きな仕事になる。またKKについても、新潟県の花角英世知事が県民の信を問うと公言している限り、すんなりいくとは思えない。これも現在の小早川体制で責任を持って対応に当たることが必要だ。24年の交代は考え難い」(元東電関係者)

ことは人事だけに何が起きるかは分からないのが世の常だが、現在60歳という小早川氏の年齢を考えても、あと数年は社長業を続けても不思議ではない。

ともあれ、後任についてはS氏が適材という点では、複数の関係者の見方が一致している。一部報道などで取りざたされていた、グループ会社社長のN氏の芽はどうなのかも気になるところだ。

エネルギー最適価値提供へ 東ガスが新ブランド発表


東京ガスと東京ガスエンジニアリングソリューションズは2023年11月30日、ソリューション事業ブランド「IGNITURE(イグニチャー)」を立ち上げた。同ブランドの狙いは家庭、法人、地域・コミュニティー各部門の顧客に対し、レジリエンス、エネルギーの最適化、脱炭素の3点で、新たな価値を提供することだ。

「IGNITURE」を発表した笹山社長(中央)

家庭向けでは太陽光発電や蓄電池、ハイブリッド給湯器などの設備を導入し、自動制御などでデマンドレスポンス(DR)やAIを活用した設備最適管理、卒FITの余剰電力買い取りなどを実施する。法人向けにおいても、省エネ設備や太陽光など再エネの導入、デジタルを活用した設備の最適運用を行う方針だ。

この実現に向け、電力のデジタル取引プラットフォームを構築する予定。LNG火力など自社電源と組み合わせ、市場変動を考慮した需給の最適化を行う。

東京ガスの笹山晋一社長は会見で「住宅やコミュニティーに蓄電池やEVなど分散型エネルギーの導入が進み、需要家も電気をつくる側に回る。イグニチャーの下、どのように使ったらいいか、省エネや低コスト、省CO2の視点からシステム構成を提案していく」とアピールした。

IPCC絶対視の風潮に異議あり 気候変動の半分は「自然現象」


【識者の視点】田中 博/筑波大学名誉教授

地球温暖化防止国際会議のCOPなどでは強力なCO2削減が最重要との共通認識が大前提となっている。

一部の科学者は、昨今の温暖化には自然変動が多分に含まれていると警鐘を鳴らしている。

筆者は2023年春に筑波大学で定年退職を迎えたが、最終講義の演題は「間違いだらけの地球温暖化論争」だった。講演内容は、温暖化懐疑論には間違いがあるし温暖化危機論にも間違いはある、という中立的な趣旨でまとめた。温暖化研究者が一度懐疑論者のレッテルを貼られると、国家プロジェクトから外されたり、論文が受理されなくなったりする。しかし、研究者人生の断末魔の叫びとしてこのタイトルを選んだ。

太陽定数は定数でない IPCC仮説の完全崩壊 

地球温暖化とは、人為起源のCO2などが原因で起こる温暖化と定義されるが、最近は気候変動という表現にすり替えられた。これなら人間活動と無関係な自然変動が含まれてもいいからだ。筆者は、異常気象をもたらすブロッキング高気圧や北極振動の研究をしてきたが、これらは力学的には自然変動だ。気候変動として温暖化が起きていることには同意するが、原因の90%以上が人為起源であるとのIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の説明には反論してきた。長年の研究結果から、気候変動の半分は人為起源ではなく自然変動であり、人間がCO2排出量を抑えたとしても異常気象は発生し、気候変動は起こると考えている。ただ、こうした仮説には納得できる明確な根拠が必要だ。気候変動の数値モデルを開発しても、その結果はあくまで仮説にすぎず、真実の証明にはならない。

国際学術誌に掲載された現役最後の論文は、筆者を含む各国の研究者37人の共著であり、温暖化の大半が自然変動で生じていることの根拠を提示した。結論は二つあり、一つは、地上観測で集計される全球平均気温の上昇には都市のヒートアイランド効果が半分程度含まれていることだ。世界平均で100年当たり0.89℃と観測される気温の長期トレンドは、実はヒートアイランドの影響で62%も増えている。

二つ目は、太陽放射強度(太陽定数)は長期的に変化する点だ。太陽定数は定数であるかのようにかつて教科書で教わったが、これは固定観念である。人工衛星活用以降のデータは、歴代の複数の衛星観測値に1㎡当たり10Wもの平均バイアスがある。作業仮説としてこのバイアスを除去すると、太陽黒点の11年周期の変動が滑らかに表現される一方で、衛星観測データの長期トレンドはなくなる(図)が、これは真実ではない。

太陽放射強度偏差の経年変化(Soon et al. 2023, Climate, 11(9),179, 2023 から引用)

IPCC報告の気候モデル予測では、太陽放射強度がほぼ一定のモデルA (図Solar♯1) が一貫して使われ、1000年スパンの年平均気温はほぼ一定となる。太陽放射強度は一定と仮定したのだから、近年の温暖化はCO2放射強制力のみで説明されることになるが、これは当然の帰結である。数値モデルの結果は真実の証明とはならない。

一方、太陽放射強度は長期的に変動するというモデルB(Solar♯2)がある。18世紀ころの小氷期と呼ばれる寒冷期には黒点が長期間消滅した時期があり、当時の太陽放射強度は低下していたとの仮定に基づいている。モデルAもBも対等な仮説だが、後者が気候モデル予測に使われることはない。本研究では、モデルBの結果として得られる気温変動が、先述のヒートアイランド効果を差し引いた気温変動とほぼ一致することから、モデルBが正しいと結論した。論文査読では、「IPCCの結果と整合的でないので不採用」との回答が一部にあった。IPCCが絶対視され、この論文は受理すべきでないという圧力があったが、一部の好意的な査読者によって受理された。

もし本論文の結論が今後のさらなる研究で検証されれば、過去の温暖化も長周期変動も、太陽放射強度の変動という自然変動で説明でき、CO2放射強制による調整(チューニング)が不要となる。これはIPCC仮説の完全崩壊を意味し、コロナ禍のような厳しいCO2削減を30年続けてネットゼロにしても、温暖化には何の影響もないことになる。そうであれば、引き続き石炭火力は一番安全で安いエネルギー源といえる。

再エネの主力電源化に向けて 適正な制御で系統連系拡大に貢献


【四国計測工業】

四国計測工業は培ってきた技術力で、再エネを適正に制御する「再エネ出力制御システム」を開発。

再エネ拡大の役割を担う同システムは多くの一般送配電事業者に採用され、芦原科学大賞も受賞した。

1951年に創立した四国計測工業は、電力量計、遠方監視制御装置などに始まり、近年では中央給電指令所、系統制御所などの電力ネットワークの需給・系統制御や、給電運用システムの設計、製作、保守を担っている。

同社が「再生可能エネルギー出力制御システム」の開発を始めたのは2016年。FIT(固定価格買取制度)の施行以降、太陽光発電(PV)設備の系統連系が急速に進展していた頃だ。日照条件に恵まれている四国エリアでは、ほかのエリアに比べ、比較的早期に再エネ発電を制御することが必須になると想定したことに始まる。

50万V基幹系統の給電制御から配電系統まで、同社が持つ電力安定供給を担う大規模システムの豊富なノウハウや高度な技術力を生かし、制御システムは約2年で完成。18年度初めに四国電力に納入した。同年10月には、九州エリアで本土初の再エネ出力制御が実施され、全国的に出力制御システム導入の機運が高まっていった。四国エリアでは22年度に初めて出力制御を実施した。

発電出力が需要を上回り、余剰電力が発生すると、電力広域的運営推進機関で定められた「優先給電ルール」に従って、①揚水発電の揚水運転と火力発電制御、②連系線を活用した他エリアへの送電、③バイオマス発電制御、④PV・風力発電制御、⑤水力、地熱などの長期固定電源の発電制御―の順で出力をコントロールする。

再エネが普及すればするほど出力制御は増えることになるが、だからといって再エネはもう十分ということではないと、系統システム部の平尾成良・再エネ制御システム課長は言い、こう説明する。「電力需要の少ない春や秋に一時的に制御しても、年間を通して見ると、再エネ設備の連系が増えれば活用の裾野は広がる。適正に制御すれば、国のエネルギー政策基本指針で、30年に再エネを電源構成全体の36~38%にするという目標達成への大きな役割を担える」。

再エネの裾野を広げたいと話す平尾さん(右)と正岡さん

公平に出力制御 制度改正にも速やかに対応

出力制御で最も重要なのは、「公平性」だ。連系の申し込み時期により、旧ルール(1年間に30回まで)、新ルール(1年間にPVは360時間、風力は720時間まで)、無制限無補償(制限なし)といった個別ルールがあり、この分類に基づいて公平に制御を割り当てなくてはならない。

制御システムは、中央給電指令所から翌日の制御必要量の指示を受けると、どの設備をどのくらいの時間制御するかを計算し、制御対象となる発電事業者に指令を発信する。連系時期が早く、通信で制御システムにつながっていないオフラインの再エネ設備の場合は、発電事業者に電話やメールで連絡し、翌日の制御操作を指示。手動で制御してもらう。出力制御機能付パワーコンディショナー(PCS)がついたオンラインの再エネ設備の場合は、当日、制御システムからインターネットなどを介して制御を行う。

現在、国の制度では原則として10‌kW以上の全てのPVが制御対象となっており、数万~数十万台を管理・制御することが求められる。出力制御機能付PCSはメーカーや機種ごとに仕様が異なる上、制御指示を一斉に取りに来るとサーバーに大きな負荷がかかる。

同社は、数十万台のアクセスに対応でき、インターネット接続時におけるセキュリティー対策など、信頼性の高いシステムづくりに注力し、公平性に加え迅速かつ適正な制御を実現している。

発電事業者の出力制御対応が難しい500kW未満のオフラインのPVについては、新しいルール「代理制御」に対応し、ほかのオンラインの事業者が代わりに制御する機能も備えた。

同社の制御システムは、既に多くの一般送配電事業者に納入済み。この実績について、平尾さんは「電力系統に係る給電運用システムに精通していることと、先行エリアへの納入実績が安心感になり、採用につながった。また、制御システムをパッケージ化して、低コストも実現している。導入までが短納期で、各社のシステム環境に合わせたカスタマイズができることも強み」と胸を張る。

最新技術の獲得に励む 芦原科学賞大賞を受賞

50年のカーボンニュートラル(CN)に向け、再エネ電源の増加とともに系統の混雑処理も始まりつつある。今後は送電線の空いている容量を活用して発電する「ノンファーム型」接続が始まる。

同社は、NEDOの実証事業「日本版コネクト&マネージを実現する制御システムの開発」に参画し、最新技術の獲得に励んでいる。実導入に向け、現在は実系統での実証段階に入ったところだ。 

系統システム部の正岡寿夫部長は「今は需給バランスのみの制御だが、系統制御のシステムも組み合わせることが必要になってくる。電力系統を有効に使うため細やかに制御して、システム面からCNに貢献したい」と話す。 

再エネ出力制御システムはこのほど、かがわ産業支援財団の「第30回 芦原科学賞」で大賞を受賞した。制御システムの開発と納入実績が、香川県内の産業技術の高度化と産業の振興に寄与したと高い評価を受けた。平尾さんは、「今後は蓄電池の普及や太陽光パネルの高効率化などへの対応で、制御システムはますます重要な存在になる。制度改定に継続的に対応し、電力の安定供給と再エネ拡大に貢献し続けたい」と、意気込む。

四国計測工業は、キャッチフレーズ「情熱は制御できない。」をマインドに、計測・制御を中心とする技術で未来に挑戦し、地域社会の発展に貢献していく。

再エネ出力制御システムの概要

西側とサウジを割く強い遠心力 危機と隣り合わせの状況続く


【論点】国際石油秩序に大きな試練/小山正篤 石油アナリスト

ロシア、中東で有事が同時進行する事態は、国際石油秩序に大きな試練を与えている。

今日の世界が石油危機に陥る危険性と隣り合わせの状況が続く。

2022年はロシアの対ウクライナ侵略開始、23年はイスラエル・ハマス戦争勃発。世界は一つの大規模地域紛争が次の紛争を誘発する激しい動揺期にある。

ここで国際石油需給の現状を検討しつつ、それが投げ掛ける課題についても考えてみよう。

OPECプラス 有志8カ国・原油生産(単位:100万バレル/日)
※生産量はIEA推計、23年第4四半期は10月並みと仮定


足元の石油需給は均衡 現状維持のIEA見通し

23年(11月末まで)のブレント原油価格はバレル当たり平均80ドル強、22年平均に比して20ドル弱下がり、また上下の振幅も20年以降で最も穏やかだった。

この安定の最大の要因は、ロシア石油輸出総量の高位安定である。23年1~10月平均で日量750万バレル強。ほぼ22年並みの水準を保ち、21年と比べるとむしろ若干増加している。ただ仕向け地は劇的に変化した。欧州向けは21年対比で日量300万バレル弱減少。そのほぼ同量がインド・中国向けに増大した。インド原油輸入に占めるロシア産の比率は21年の2%から23年4~10月期に4割へと急伸。こうして欧州・西側向けが遮断されながらも、ロシア外の世界全体への供給量は確保され、国際市場を安定させた。

この現実を踏まえた上で、サウジアラビアの主導下、OPECプラスが原油生産量を調整してきた。ここで注意すべきは、21年後半以降の継続的増産が22年8月に完了した時点で、OPECプラスが既に分極化していたことだ。割当量が実生産量と整合するのはわずか8カ国(サウジ、UAE、クウェート、イラク、オマーン、アルジェリア、カザフスタン、ガボン)に過ぎず、ロシアを含む他の12カ国では割当量は生産量に対して著しく過大となって形骸化していた。

従って22年11月以降の減産を担ったのも、この「有志8ヵ国」であり、23年5月以降は自ら生産目標量を日量120万バレル弱、追加で削減。7月以降にはさらにサウジが単独で日量100万バレル引き下げた。23年11月時点のIEA見通しに基き推計すると、23年平均の原油生産量は対前年比で日量約110万バレルの減少になる(23年第4四半期のOPEC各国の生産量を10月並みと前提)。

一方、非OPECプラス諸国の原油生産およびNGL(天然ガス液)などの非原油系供給などが計・日量約300万バレル増。対して石油需要増は日量200万バレル強。すなわち、サウジ主導の有志国による減産効果により、世界全体の需給量は概ね均衡した。

これら有志国の24年の年間原油生産割当量は、22年11月減産時の数量を概ね踏襲している。23年11月末の閣僚級会合後、24年第1四半期は、この割当量対比で日量・計220万バレル抑制と発表された(ガボンを除く7ヵ国分)。つまりは基本的に23年後半の自主目標量の継続、すなわち現状維持である。