日本の社会課題解決を目指す まずは地域からサステナブルへ


【エネルギービジネスのリーダー達】目﨑 雅昭/GPSSグループ共同代表

外資系証券マンからバックパッカーを経て再生可能エネルギービジネスを立ち上げた。

サステナブルなエネルギーをより安く、多く供給していくことがモットーだ。

めざき・まさあき 慶応大学商学部卒、ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス社会人類学修士号。米メリルリンチ証券に5年間勤務。29歳から10年間、世界100カ国を旅する。2012年に日本メガソーラー整備事業(GPSS)を設立。

 再生可能エネルギーのコスト削減とサステナブルな社会の実現をミッションに、2012年10月に発足したGPSSグループ。地域社会と連携しながら太陽光をはじめとする再エネ開発・運営を手掛け、生活に欠かせないエネルギーを確実に確保できる社会の構築を目指している。

5種類の電源を組み合わせ 再エネ電気を安定的に供給

創業時の会社名は「日本メガソーラー整備事業」で、現在の名称に変更したのは17年のこと。 「より安定的に電気を供給していかなければならない」との思いから、現在は太陽光に加え、風力、地熱、中小水力、バイオガスの5種類の再エネを手掛けている。

「当社にとって、サステナブルなエネルギーをいかに社会に供給できるかが勝負であり、社会的な貢献、使命でもある」と語るのは、目﨑雅昭グループ共同代表だ。再エネFIT(固定価格買い取り)制度のスタートに合わせて起業したが、高額の売電収入を目当てに参入した他事業者とは一線を画し、サステナブルなエネルギーでサステナブルな社会を実現することを目標に掲げた。

建設会社を自前で持つことにしたのも、低コストで競争力のある再エネ電源の開発を可能にするためだ。10年にわたって実績を積み上げた今、発電所の設計から建設、運営・保守を自社グループ内で実施できることが同社の成長の原動力となっている。

プロジェクトを進めるに当たって重視しているのが、再エネ資源を保有しエネルギーの供給源となる地域との協業だ。発電所を地域と共同所有すれば、事業が高い収益を上げるほどより多くの経済的なベネフィットを地域にもたらし、ひいては活性化にもつながるとの信念が、同社のビジネスの根幹にある。

目﨑共同代表がエネルギービジネスを通じてサステナブルな社会の実現を目指す背景にあるのが、少子高齢化や生産性の低下など日本が国家としての衰退は避けられないことへの危機感だ。

「エネルギーや食糧を輸入に依存している中、日本の経済力的にそれらの獲得が困難になる状況がいつ訪れてもおかしくない。エネルギーと食糧をなるべく早く、そしてなるべく多く供給できるようにしていくことが当面の目標だ」。太陽光の開発においては、農業法人を立ち上げ、農地と組み合わせた営農型のプロジェクトを進めている。

【コラム/6月23日】経済財政運営と改革の基本方針2023年を考える~雇用重視の経済運営が基本だが


飯倉 穣/エコノミスト

1,基本方針23の高揚感は

日本経済は、ウクライナ侵略戦争・エネ価格変動・金融不安等の下で、一進一退かつ日銀頼りである。そして政治的課題満載である。現状少子高齢化、地域、国土保全、経済安全保障等が話題となり、又過去の誤謬による経済不均衡(財政悪化等)も継続している。これまで同様、苦境を改善する経済運営に関心が集まっている。

その打開策の項目出しとなる「経済財政運営と改革の基本方針2023」(以下基本方針23という)を決定した(23年6月16日)。報道もあった。「「骨太」財源あいまい 防衛増税 後ろ倒し示唆 閣議決定尾」「骨太の方針 メタボ化 与党要望丸のみ 財政健全化の道筋欠く」(朝日同6月17日)、「賃金底上げで好循環 負担増の議論先送り 骨太の方針 閣議決定」(日経同)。目玉無しで焦点定まらずの印象である。

基本方針23は、「新しい資本主義」を通じて、経済の付加価値を高め、企業が上げた収益を構造的賃上げによって労働者に分配し、消費も企業投資も伸び、更なる経済成長である「成長と分配の好循環」を成し遂げると述べる。一見もっともな表現だが、実現に首を傾げる。政策の実効性があるような、ないようなで、貫徹に向けた高揚を感知できない。経済の流れから乖離する論理や逆立ちの発想もある。毎年の見直しの意味を探りつつ、生産・所得・支出という経済の流れから、基本方針23の経済政策を考える。

2,新しい資本主義の意味、誤解なき読み方は

今回の注目点は、現政権提唱の新しい資本主義の中身の具体化、目指す経済運営の姿と盛り込まれた具体的施策の妥当性である。資本主義とは何か。繰り言になるが、現代的意味では「資本という貨幣を媒介として、生産手段の私的所有を前提として、自由市場で利益獲得を目的に商品・サービスの生産を、雇用を通じて行う経済システム」であろう。今回、この捉え方を再定義する内容は見当たらない。(「資本主義を超える制度は資本主義でしかあり得ない」:新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 2023改訂版参照)。

そうであれば「新しい」は、経済運営の理念的なことであろうか。下村治博士は、経済均衡を念頭に置いた「節度ある経済運営」を訴えていた。平成時代は、手当たり次第の運営で、現状の日本経済・財政(停滞・破綻状態)がある。今回「新」手当たり次第になっていないことを願いたい。

政策的な新規性はどうだろうか。市場経済における生産と所得への介入の視点である。過去経済政策の流れは、平成前の市場経済尊重・雇用重視から、バブル形成・崩壊以降「新自由主義・市場経済徹底・競争重視」となる。現政権は、従来の新自由主義・投資金融尊重を踏襲している。故に新しいとは言いにくい。

これらの点を踏まえれば、「新しい」に違う意味や使い方を見出すことが必要なようである。基本方針23の文中にある「新しい資本主義」の使い方を見てみよう。基本方針23は、様々な施策の羅列である。この言葉を施策の総称と考え「各施策」に置き換えて読めば、大変理解しやすい。新しい資本主義の意味は何かと、あまり深く定義や内容を追求すると、誤解を生む。方針作成者の知恵なのか政治家の都合か不明である。

3,期待ばかりの成長理論

基本方針23で述べる様々な政策・施策は時宜を得ているか。また論に適っているか。まず経済面では、価格転嫁・労働市場改革・民間投資に期待する。そして賃金と物価の好循環、成長と分配の好循環を目指す。それぞれ一理はあろうが、経験的に蓋然性に乏しい。価格転嫁は、当然価格効果で経済縮小である。三位一体の労働市場改革(リ・スキリング・能力向上、職務給導入、労働移動円滑化)は、効果不鮮明でまた不安定雇用改善の経路が不明である。成長産業があれば、施策なしで労働移動となる。オイルショック後半世紀の産業構造の変化と雇用の推移を思い出して欲しい。成長産業少なく、衰退産業もあり、規制あるも雇用を守りきれず、低生産性のサービス分野等に労働を押し込めてきた。

生産性向上とイノベーションに向けた民間投資を引き出す、またGX等官民連携投資等で国内投資拡大と述べる。この考えは、論理の逆転か過剰期待である。本来イノベーションを背景とする設備投資が生産性を向上すると考えれば、本末転倒である。技術革新は、個々人の創意工夫とその集団的活動である。創造醸成の環境づくりが肝要である。これまで国立大学・国立研究所の独法化で研究者の生活不安定を招いている。また市場経済重視(投資金融重視等)で企業の研究開発力が上昇していない。期待のスタートアップは、ベンチャーの焼き直しである。つまり研究・開発環境と研究・開発力の劣化がある。

技術革新は期待したいが、原動力となる研究開発体制の修正を模索せざるを得ない。経済成長は、過去40年の経験を踏まえれば、意図して可能ということでなく、過去の幸運なエネ・国際環境下の企業活動の賜のようである。「市場も国家も」「官も民も」ということでない。

現状は、経済の水準維持に注力することが必要である。その意味で、今回ようやく経済安全保障の、エネルギー確保で再エネに加え、原子力活用が少し前進したことは評価できる。引き続き自由化失敗の電力の安定供給体制の再構築が求められる。

EVの「充電待ち」 ユーザーのマナーで打開


【どうするEV】箱守知己/CHAdeMO協議会 広報部長

日本政府は、2035年までに公共利用できる充電設備を15万基まで増やす計画を立てています。この数には、直流を用いて短時間で充電できる「急速充電器」と、交流を使って比較的長い時間で充電する「普通充電器」が含まれ、次世代自動車振興センター(NeV)の調査によると、補助金交付から見た充電器の数は、21年度までに急速充電器が7786基、普通充電器が3万1881基で、合計4万基弱というのが現状です。政府の計画を実現するには、これを35年までに3.8倍ほど増やさなければなりません。

電気自動車(EV)の普及が進むにつれて、高速道路のサービスエリア、パーキングをはじめとする充電スタンドでは、先客が充電器を使っているために「充電待ち」が増えています。「もっと多くの充電器を設置すればいい」という声が聞こえてきますが、国内ではアメリカのスーパーチャージャーのように10台の充電器がズラリと並ぶ大規模な充電スタンドの例は見当たりません。そもそも国土の狭いわが国では、休日になると充電スタンドはおろか、ガソリン車の駐車スペースを見つけることさえ難しいのはご存じのとおり。こうした国情の中でも、これからのEV社会に向けて充電器の数を増やすことは必須です。最近、高速道路で導入されている1台の充電器で複数台を同時充電できるスタンドは解決策の一つでしょう。

しかしながら、そのような限られた設備を効率よく運用するためには、使う側のマナー向上も大切です。例えば、充電スタンドの前にガソリン車を駐車させるような迷惑行為が実際に起こっています。トラックが駐まっていて、充電器に近づけないといった事例もありました。こうした問題を解決するには、社会全体にEVが抱える現状を知ってもらう必要があるのです。

EV充電器の賢い利用が求められる

EVドライバーの一般的なマナーとして、「急速充電は1回30分まで」というものがあります。しかし、充電が終了しているのにその場を離れたままで、ほかのユーザーを待たせるような事例も少なくありません。EVドライバーへのマナー周知は喫緊の課題の一つといえるでしょう。

さらに中級レベルのマナーとしては、電力余力がある中で頻繁に充電したくなる衝動を抑えることです。携帯電話も同じですが、電池残量が半分以上残っているのに充電プラグをつないでしまうのは、むしろ電池の劣化を早めてしまいます。EVも賢い使い方を心がけたいものです。

上級テクニックとしては、一部のインターチェンジで利用可能な「充電のためのETCを使った高速一時退出」を使って、インターチェンジ近くのカーディーラーや道の駅などを利用する方法もあります。

このように、EVは「気を付けて、でも恐れずに」の精神で付き合ってゆけば、「充電待ち」の打開策は見えてくるものです。

はこもり・ともみ NHK、東京都、国立大学に勤務後、2022年4月より現職。主にアジア地区の広報を担当。「EVsmart」ブログチーム所属。EVオーナーズクラブ副代表を務め、EVとの関わりは12年目に。

【火力】長期予見性が毀損? 電源オークションの展望


【業界スクランブル/火力】

長期脱炭素電源オークションの初回オークションが来年1月に実施される。本制度は、長期の投資回収予見性を高め、新規電源への投資を促すことで安定供給を確保しようというもの。電力自由化の進展に伴い短期ベースの取引が中心となり、長期にわたる電源投資の停滞が懸念されていたが、既に供給力不足による電力需給のひっ迫や卸市場の価格高騰が顕在化しており、将来に向けて安定電源を確保する仕組みの整備は待った無しの状況だ。

しかし、脱炭素にこだわるあまり本制度の売りである「長期の予見性」が毀損されているのではないかと危惧している。脱炭素の取り組みに異を唱えるものではないが、足下の対応と将来ビジョンとの整合ではスピード感に自ずと差がでるのは当然だ。まして脱炭素化への道筋はいまだ定まっていない。

今の状況では、期間限定とされているLNG火力の募集こそが本丸と言っていい。将来の脱炭素化へのロードマップを示せとの要求に二の足を踏むのではと危惧されたが、既存のLNG火力の更新(従来型からコンバインドサイクルへ)を軸に各社に動きがあり着実な成果が期待される。

一方、石炭火力の新設は、CO2回収・貯留(CCS)とのセットでも認められていない。議論の途上において、委員から酸素吹きIGCC(石炭ガス化複合発電)+CCSの高い可能性について言及があったにもかかわらず、ガイドライン(案)には「CCSの扱いについては、今後要検討」との注釈があるだけだ。

先行き不透明な場合に様子見をしたくなる気持ちも分かるが、前進するには、より具体的な提案を出す必要がある。発電事業者もメーカーも、今こそが勝負と心得てもらいたい。(N)

デリバティブズのススメ 先物取引は「習うより慣れろ」


【リレーコラム】髙井裕之/EEXグループ 上席アドバイザー日本担当

デリバティブズは派生商品と訳す。では何から派生するのか。金融では派生の元を原資産と呼ぶ。株式や債券、通貨やコモディティなど市場で売買される資産であれば何でも原資産になる。金融の世界では、先物・先渡・スワップ・オプションなどを総称してデリバティブズと呼ぶ。原資産が日経平均株価であれば日経225指数先物、為替であればドル円の先渡(フォワード)、原油であれば原油先物などがデリバティブズ商品である。

デリバティブズの起源は18世紀の大阪堂島の米先物とされる。英国発祥の非鉄金属取引では産地から消費地まで船で運ぶのに数カ月を要したことから、3カ月先渡しをデフォルトにした先物取引が発達した。受け渡しまで時間があるので一度買ったものを売り戻しもできる。同じ現物を複数の異なる人が何度も売買して差金だけ決済もできる。価格変動で差益だけをとりたい人でも簡単に参加できるのが最大の利便性だ。

デリバティブズを使えば原資産の所有権は保持したまま、価格リスクだけを売り手から買い手に移転できる。欧州の電力会社は自社で発電する電力を2~3年先までデリバティブズを使って、価格下落リスクを前もって回避(ヘッジ)している。原資産たる電力は需要家の条件に合わせて随時販売し、都度デリバティブズを反対売買すればいい。ドイツの電力デリバティブズ市場では、世界中から数百社が参加して原資産の何倍もの規模で「金融電力」が売買されている。


高まる日本の電力取引市場

日本でも自由化から7年を経てようやく電力先物が定着してきた。昨年の欧州エネルギー危機で価格変動リスクへの認識が高まったのも一因だろう。今年に入ってからのEEX Japan Powerの出来高は4カ月で6・25‌T‌Wh(テラワット時)となった。昨年の同時期の4倍という驚異的な伸びである。

参加者も50社を超え、電力ガスや新電力大手、総合商社、石油や資源メジャー、金融機関など多彩。その半数が日本の「金融電力」市場に関心ある13カ国籍の海外企業。もはやJapan Powerはグローバルコモディティと呼んでも過言ではない。今後日本が電源の多角化を推進する上でこの市場が活性化しヘッジ機能を果たすことが肝要である。

筆者がデリバティブズの世界に足を踏み入れて今年で40年になる。その間、金融、メタル、エネルギーとこのツールを駆使してマーケットの荒波を乗り越えてきた。「習うより慣れよ」がこの世界の鉄則。先ずは1ロットから始めてみてはいかがか。

たかい・ひろゆき 1980年神戸大学経営学部卒、住友商事入社。理事・執行役員、エネルギー本部長などを歴任。2020年7月から電力取引所EEXグループ日本代表を務める。

※次回はエナジーグリッド社長の城﨑洋平さんです。

【原子力】GX法案の問題点 原子力の将来絵図なく


【業界スクランブル/原子力】

わが国のGX・脱炭素電源法案が4月27日に衆院を通過した。原発を再稼働させることでエネルギー自給率を上げるという政府方針を示した点などで、評価できる意義のあるものだ。ついては、その優位点を早期に生かす必要があるが、今回の法案はあくまで既存の原発を対象にした内容で、欧州や米国のように先を見据えた原発新設の観点が抜けており、踏み込み不足感は否めない。

今後各国が脱炭素化を進めていく上での主要エネルギーは、燃焼時にCO2を排出しない水素を見込むことが必須で、欧米各国は水を電気分解して水素を抽出するための電力の多くを原発で賄う方針を示している。しかしわが国の同法案は、残念ながら新設による将来的な原発活用を想定していない。例えば将来的な水素供給の視点まで法案に盛り込むとなると、原発の新設についても触れざるを得ない。政治的な配慮もあって、岸田政権としては過激な言及を避けざるを得なかったのだろう。

もう一つ、同法案の問題点を指摘したい。原子力の平和利用の視点の中で、現実的に高速増殖炉が抜け落ちている点だ。資源小国であるわが国では、その視点が欠かせない。高速増殖炉が、ナトリウム炉、ガス炉のどちらになるかは今後の開発次第だが、プルトニウムを最大限に利用する必要がある。アストリッドのように他国に頼りすぎると失敗を繰り返すことに。自国の技術活用を覚悟することが必要であり、それがエネルギー自立の道には欠かせないことを覚悟することが求められる。

岸田政権の下で、原子力の在り方が大きくリセットされる傾向がある中で、高速増殖炉の在り方について改めて新しい絵を描き、核融合炉についても新しい将来が開かれることを期待したい。(S)

【石油】チャットGPTは使えるか 燃料補助金制度は


【業界スクランブル/石油】

最近はやりのチャットGPTに「4月後半に入って、ガソリン小売価格がわずかに下がっているのはなぜですか?」と聞いてみた。「ガソリン価格が下がっているのは、原油価格が下がっているからです」との回答。ウーン。昨年1月以前、補助金支給前、ガソリン卸価格が原油価格に連動していた時期であれば、正解だ。どうやら、補助金支給で、原油価格と製品小売価格が切断されていることを「学習」していないらしい。

基本的に、補助金は原油価格が上がると増額、下がると減額され、ガソリン小売価格が1ℓ当たり168円に落ち着くように、支給額は毎週調整される。ただ、4月後半は原油価格の値下がり幅が補助金額の値下がり幅より小さかったため、石油元売りの補助金込みの実質卸価格の値下がりが続いたことで、小売価格もわずかに値下がったのである。

ところで、この補助金については、6月から段階的に縮減される予定である。既に1月から、支給限度額の削減は始まっているが、5月の限度額は1ℓ当たり25円、5月第1週の補助金は16・8円であるため、今後1バレル10ドル近く原油価格が上がっても影響は出ない。しかし6月からは、補助金額が直接月5円ずつ減額される予定となっている。

この補助金の話題は、意外に消費者・需要家に知られていない。補助金制度が学習されてないのは、AIだけではないらしい。9月末の補助金廃止に向けて、混乱が懸念される。これから先、原油価格の動向が小売価格に反映されることになるので、GPTに「今後の原油価格の予想はどうか?」と聞いた。「原油価格はさまざまの要因で決まるので、予想できません」との回答。これは絶対に正解だ。(H)

【ガス】迫る「2024年問題」 プロパン配送にも影響大


【業界スクランブル/ガス】

2024年3月に、運送業のドライバーの時間外労働時間に対する制限の猶予が終了し、上限規制が適用される。いわゆる「2024年問題」が迫っており、LPガス業界においても直接、間接的にさまざまな影響が予想される。地方では中小LPガス企業が多く、経営者の高齢化に伴う後継者問題や人手不足による廃業も増加。販売事業者からは、「従業員は高齢化しているが新規採用もなかなか難しい」「採用しても1、2年で辞めてしまう」との声も聞かれる。

LPガスは個別供給による分散型エネルギーのため、配送員は事業の根幹であり、保安も担う。需要が増加する冬場は特に容器配送ドライバーが不足。また、約90㎏の容器の運搬は重労働である上に、設備保安点検に関する資格や、配送・バルク供給に関する資格などが必要なことも、人材不足となる要因だ。

日本ロジスティクスシステム協会の調査(22年度)によると、労働不足対応のためのDXなどの推進に対して、未対応と回答した企業の割合は44・9%、対応できたと回答した企業は10・2%となっており、まだまだ進んでいない。

LPガス業界では、LPWA(省電力広域無線通信技術)を活用した集中監視システム導入によって、配送合理化や充てん所の統廃合が進められているが、人手不足は深刻だ。LPガスは都市部から山間部、離島まで日本国内全域に供給可能なので、面積比では都市ガスの供給エリアを圧倒している。しかし、将来は人材不足によるLPガス空白地域が生じる可能性もある。エネルギー間競争や料金問題など課題が山積しているが、新たな従事者を育てられなければ、「2024年問題」はLPガス業界にとって致命傷となるかもしれない。(F)

【マーケット情報/6月16日】原油上昇、中国需要の回復に期待


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。中国政府による景気刺激策や原油輸入を増やす方針を好感した買いが優勢となった。

中国では、低迷する消費活動にテコ入れするため、政府が大規模な景気刺激計画を発表。また、33の製油所に対して新たな原油輸入割当を発給するなど、需要増加の見通しが広がった。クウェート国営石油会社(KPC)のトップが、中国市場での需要は堅持されるとの楽観的な見方を示したことも、市場を後押しした。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が、昨年3月の利上げ開始以降、初めて利上げの見送りを発表。年内に追加で2度の利上げを想定しているものの、景気と需要回復への期待が高まった。核開発合意をめぐるイランと米国の交渉再開をめぐる観測がくすぶっていることもあり、買いが先行した。

一方、米大手銀行は、原油の生産増と需要減の見通しから、今年と来年の油価予測を下方修正した。最新の米原油在庫統計で、WTI原油の受け渡し地点となるクッシングの在庫が増加。国全体の在庫も増加を示しており、週半ばまでは供給増加の見通しが強かったが、最終的には価格を下押す材料にはならなかった。

なお、サウジアラビアは、7月から独自の追加減産予定しているものの、太平洋州向けの7月供給量は、買い手の希望通りとなる見込み。


【6月16日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.78ドル(前週比1.61ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.61ドル(前週比1.82ドル高)、オマーン先物(DME)=75.36ドル(前週比0.16ドル高)、ドバイ現物(Argus)=75.34ドル(前週比0.06ドル高)

“ディスパッチャブル”な電源を確保せよ!


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

最近、海外の業界誌で“ディスパッチャブル(dispatchable)”という言葉をよく見かける。給電指令に応じ、起動・停止・出力調整などが可能(な電源)だ。ここぞという場面で頼りにしたい電源だが、昨今、指令に応じられない事例が多発し、改めて注目されている。米国のテキサスやPJMエリアでは寒波によるガス導管凍結、豪州の電力市場では電力価格への上限発動による逆ザヤの発生、日本では冬季の需要急増に対する燃料の不足という理由で、火力の運転停止や出力抑制が起きている。

PJMは、指令に応じなかった発電事業者に対し、容量市場の義務違反として罰金を科す一方、より確実な供給力確保に向けた容量市場改革に乗り出した。簡単に言うと、「冬季のリスクモデルの見直し」、「供給信頼度に応じた支払い」、「燃料確保などで事業者が負ったリスクへの十分な支払い」である。

地域独占・垂直統合時代の電力会社にとって、安定供給は絶対的使命であった。震災後、原子力が停止するなか、採算度外視で短期間に休止火力を立ち上げたのは象徴的である。ところが、競争下においては、容量市場からの収入以上に設備費用をかけたり、需要急増に対して逆ザヤでも燃料を調達したりするのは躊躇われるということではないか。

今後、太陽光や風力の大量導入が進めば、火力電源は稼働が減る一方、ますます厳しい局面での出番が求められるはずである。ところが、再エネへの支出に比べ、古い火力設備やその燃料供給に報酬を払うのは政治的に見栄えが悪い。第1回容量オークション後のヒステリックな騒ぎは記憶に新しい。当時、真に“ディスパッチャブル”な電源確保という視点からの議論は十分であったか。市場設計の見直しが進められる中、改めて考えてほしいものだ。

【新電力】適正な競争環境確保 忖度なく毅然と対応を


【業界スクランブル/新電力】

3月末に公正取引委員会から、「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」の発表があった。従前より報道などで話題になっていた電力カルテルに対する排除措置命令に加えて、電気の小売供給市場における競争の適正化を図るための電力・ガス取引監視等委員会に対する情報提供がなされ、営業活動における旧一電内部の情報共有だけでなく、市場価格の操作の企図・グループ内供給に対する条件優遇などが挙げられた。

これらは、新電力の事業活動を行っている中で数年以上前からその可能性が指摘され続けてきたことであり、このタイミングで大きく取り上げられていることに業界内からは疑問の声が上がっている。全面自由化以降、電取委によって行われていた監視行為の実効性に疑義が生じていることにほかならず、その体制の強化が求められている。

このところ、旧一電の競争環境を毀損する活動が取り上げられる場面が増えた。不祥事が取り上げられても、どことなく再発防止が徹底される空気感を現時点ではあまり感じないほど、こういった問題が散見されるようになった印象を受ける。

だが、電取委は電気事業法上での対応しかできない。公取委も独占禁止法上の対応しかできない。競争環境を整え、消費者の便益を高めるためには、個別の法律論を超えて、忖度なく毅然とした対応が求められるのではないか。

一方、送配電部門の所有権分離を求める声も上がっている。電力市場はまだ全面自由化して数年であり、一足飛びの議論は逆に安定供給を危ぶませる可能性もある。多様なプレイヤーが成熟し、競争環境の透明性と安定供給のバランスを取った建設的な議論が求められると考えられる。(K)

太陽光パネルを垂直設置 世界初の発電方式が誕生


【エア・ウォーター】

主力電源化を目指し、国策として再生可能エネルギーの導入拡大議論が進む一方、その適地は年々減ってきている。特に太陽光発電はその傾向が顕著である中、北海道エリアでLPガス事業を手掛けるエア・ウォーターが、設置場所の制限の課題を克服するユニークな太陽光発電システムを開発し、5月に販売を始めた。

同社が開発したのは、設置スペースが限られる場所や、これまで導入が難しかった豪雪地帯でも設置可能な垂直型の太陽光発電システム「VERPA(ヴァルパ)」で、「駐車場など他の用途と併用できるものとしては世界で初めての製品だ」(広報・IR推進室)という。

エア・ウォーターが開発した垂直型ソーラー

垂直に設置するパネルは、発電効率が劣ると思われがちだが、ヴァルパはパネル両面で受光発電できるため、平置き型・傾斜型と比較しても年間発電量に大きな差がないばかりか、地面からの反射光によっては、より優れた発電量を期待できる。豪雪地帯であっても雪がパネルに積もりにくく、豪雪地帯での設置にも向いている。

導入先は多様な場所が想定される。例えば駐車場だ。従来の平置きや傾斜型の設置では駐車場利用とパネル導入の併用は難しかったが、垂直式のヴァルパであれば、既存の駐車場の収納台数を減らす必要はない。「地表からモジュール下部までの高さを2m以上とすることで、ドライバーや歩行者の視線を遮ることがない。また、建築物ではなく工作物となるため、市街化調整区域の駐車場にも設置できる」(同)

このほか、牧草地や農道脇に設置した場合でも、大型農業機械の作業を遮ることはなく、農家にとって、売電による「副業収益」にも期待が持てる。

台風対応の設計施工 日本向けに独社と共同開発

台風対策はどうか。2本支柱の場合、鋼管杭やH鋼杭を打ち込んで風圧に対応する施工としている。現状では、基準風圧34ミリ/秒以下の地域を対象に設置を進める。

エア・ウォーターは、このヴァルパをドイツの両面受光型太陽電池モジュールメーカーであるルクサーソーラー社と共同開発した。垂直型は既に欧州で導入されているが、欧州よりも積雪量が多く台風などの強風リスクが高い日本市場向けにカスタマイズしたことが、この世界初の太陽光発電システムの開発ポイントだ。

エア・ウォーター北海道の加藤保宣社長は「ソーラーエネルギー関連事業を、バイオガス、木質バイオマス、CO2回収利用に続く、地球環境ビジネスの第四の成長分野に成長させていく」と話す。

G7エネ環境相会合 議長国日本の「現実路線」


【ワールドワイド/環境】

4月15~16日のG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、欧米諸国が環境原理主義的傾向を強める中、議長国日本が現実的な路線をよく守った。

欧州諸国は2030年までに排出削減対策を講じていない石炭火力を段階的に廃止することを強く主張していたが、昨年のG7サミット同様、石炭火力の段階的廃止に年限を設けることはなかった。

天然ガス投資の重要性も盛り込まれた。昨年来、日本はガスの需給ひっ迫が途上国に経済的苦境をもたらすなどの理由で天然ガス全体の投資の重要性を指摘してきた。欧州諸国は自らの天然ガス調達のためにLNG受け入れターミナルを建設しながら、ガス全体の投資の重要性について否定的であったが、これを抑え込んだ形だ。

道路部門の脱炭素化については米国がZEV(ゼロエミッション車)の比率を30年までに50%にする数値目標を主張したが、G7全体で35年までにCO2を半減する技術中立的な文言で決着した。

原子力に関し「原子力エネルギーの使用を選択した国々は」という形で主語を限定しつつ、エネルギー安全保障、脱炭素化、ベースロード電源、系統の柔軟性の源泉としての原子力の重要性についてしっかり書き込み、既存炉の最大限の活用、革新的原子炉の開発、建設の重要性が指摘された。

再エネはG7全体で洋上風力1億5千万kW、太陽光10億kWという数値目標が盛り込まれたが、クリーンエネルギーのサプライチェーンにおける人権、労働基準遵守の確保、(特定国・地域への)過度の依存の問題点、重要鉱物の脆弱なサプライチェーン、独占、サプライヤーの多様性欠如による経済上、安全保障上のリスクについても指摘された。

他方、温暖化目標の面では「25年全球ピークアウト」や新興国を念頭に「1・5℃目標と整合性を保つべく、30年目標を見直し、50年カーボンニュートラルをコミットすることを求める」などが盛り込まれたが、中国が30年ピークアウト、インドが30年以降も排出増を見込んでいる中で、インド主催のG20にこうした文言が盛り込まれる可能性は皆無だ。「35年60%減という数値目標を書き込んだ」と報道されたが、そうした数字を含むIPCC報告書の指摘の緊急性をハイライトするというものであり、G7の35年目標をプレジャッジするものではない。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】安易な改革だけ先行 資本食いつぶす大手電力


【業界スクランブル/電力】

2012年12月に自民党が政権に復帰した時、民主党政権が進めてきた電力システム改革が修正されることを期待した向きは少なからずあったように思う。しかし、結果は前政権の原発ゼロ政策は非現実的として撤回したものの、電力システム改革は踏襲された。当時、日経新聞が報じた「あれだけの事故を起こしても安倍政権は安全な原発を再稼働する。電力が何もしない(=電力システム改革をしない)のはあり得ない」という言葉をよく覚えている。

これは、経産省幹部が当時の大臣の心中を推し量っての言とのことで、大臣が本当にこう思っていたか実は定かでないのだが、結果的に改革は進められたが原発再稼働は進まず、昨今の電力需給逼迫の一因となった。

震災後のシステム改革を振り返るに、本来同時に行うべきことが、やりやすいものだけが先行し、やりにくいものが後回しになった結果、旧一般電気事業者が資本を食いつぶしてそのギャップを埋めることの繰り返しだったのではないか。大きく言えば、前述の電力システム改革と原発再稼働であり、よりミクロに言えば、限界費用玉出しから10年近く遅れた容量市場導入もそうだ。

今、電力・ガス取引監視等委員会が推進している卸電力の内外無差別化も、規制料金・供給義務の撤廃とセットとするのが本来だろう。クリームスキミングができる新電力と供給義務に縛られる旧一電の構図を温存したままで卸が内外無差別になれば、新電力が勝つに決まっている。これはむしろ逆差別と呼ぶべきものだ。

しかし、今般の料金改定申請を巡る動向を見るに、規制撤廃が追い付くのは一体いつの日か。またやりやすいことだけ進められて、旧一電は資本を食いつぶすのか。(V)

深刻化する熟練労働者不足 解決へ移民受け入れを促進


【ワールドワイド/経営】

ドイツでは熟練労働者不足が問題視されている。1955~70年生まれのベビーブーム世代が労働市場から退き、労働力人口が減少すると想定されていることに加え、若年層の高学歴志向により、熟練労働者を目指す職業訓練生の人数も減少している。2023年1月にドイツ商工会議所が実施した調査によると、国内企業2万2000社のうち半数以上が熟練労働者の不足で人員を補充できていないという。

21年末に発足したショルツ政権は、再エネ拡大を最優先の課題として、30年の再エネ導入目標を65%から80%に引き上げた。電源別目標導入量は、太陽光、陸上・洋上風力ともに現在の倍以上となる。もちろんこのエネルギー移行を遂行するには、太陽光パネルや風力発電設備の設置、系統拡張、省エネ改修などでさまざまな労働需要が発生する。ドイツ経済研究所によると、太陽光・風力の拡大には熟練労働者約21万6000人が追加的に必要となる。つまり、労働人口問題と再エネ目標の引き上げが重なり、熟練労働者不足を増大させている。

政府は22年10月にこの問題に対処するため「熟練労働者戦略」を発表し、この中で基本方針の一つとして移民受け入れ促進を示し、23年3月には高技能移民法案を閣議決定した。同法案ではEU域外からの受け入れを促進するため、高資格労働者の居住許可証であるEUブルーカードの発行要件を緩和するほか、カナダの制度にならいポイント制度を導入する。学位や資格、語学力などを判断基準にポイントを付与し、一定点数を超えれば滞在資格が与えられる。

また、今夏から洋上風力入札において新たな試みが始まる。二つある入札方式のうちの一つ(政府調査方式)で、落札選定基準100点中10点分を「熟練労働者養成への寄与」という項目に配分する。ドイツではデュアルシステムと呼ばれる特有の職業訓練制度が確立されており、熟練労働者を目指す者は職業訓練校に通いながら、工場や第一線職場など、現場における実践的な職業訓練を週の3、4日受ける。職業訓練生の受け入れ数の割合が入札で評価される。

熟練労働者の不足はドイツのみならず隣接する欧州諸国も直面する問題であり、移民受け入れによる労働者確保にも国際競争が伴う。改正高技能移民法がどれほど効果を発揮するか。野心的な再エネ目標達成に向けて、政府や国内企業が労働力獲得競争にどのような魅力ある制度・条件を打ち出し対処していくのかが焦点になる。

(藤原 茉里加/海外電力調査会・調査第一部)