将来の社会を担う人材の創出へ STEAM教育で学びを革新


【学びのイノベーション・プラットフォーム】

女子高校生に将来のありたい自分の姿を考えるきっかけにしてもらおうと、「女子高校生のための女性活躍応援イベント~企業におけるロールモデル」が5月13日に都内で開催された。

東京電力ホールディングスや三菱商事など、日本を代表する企業で活躍する7人の若手女性社員が、学生時代の過ごし方や就職活動、入社してからの経験、ターニングポイントでの決断などについて語り、女子高生らの職業観の形成につなげようという試みだ。

同イベントを主催したのは、「STEAM教育」の普及促進を目的に2021年に発足した一般社団法人「学びのイノベーション・プラットフォーム(PLIJ)」。STEAM教育とは、五つの領域「科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「芸術/教養(Liberal Arts)」「数学(Mathematics)」を分野横断的に学ぶことで、これまでの知識偏重教育から脱却し、問題発見、課題解決、俯瞰的なものの見方を育む教育をいう。

女子高校生を対象に開催されたイベント

国の競争力強化のためには、科学技術の推進やイノベーションの促進が不可欠であり、重要なのが、それを担う人材の育成だ。STEAM教育には、中学・高校といった早い段階から科学技術開発で重要とされる分野に触れることで、新しい技術に興味を抱き、次世代の担い手として成長する可能性を広げる狙いがある。

PLIJは、「教材のライブラリー」や「リアル体験」「人材ネットワークの整備」の三つの事業を通じて、産学官や地方自治体とも連携し学びのイノベーションを促進し、子供たちの学びを支援している。これまでに、正会員として34の企業が参加し、学校や教育委員会、博物館・科学館などが特別会員として名を連ねる。

探求型の学びの場を提供 ウェブシステムの運用開始

今年4月には、大学、研究機関、企業にある多彩な素材をSTEAM教育や探求型の学びに資する「コンテンツ」や「リアル体験機会」として提供するウエブシステム「PLIJ STEAM Learning Community(https://community.plij.or.jp/)」の運用を開始した。

「サイエンス」や「エンジニアリングとテクノロジー」など、六つの分野別に計750件のコンテンツが登録されており、今後さらに拡大、充実させていく計画だ。

浦嶋将年理事長は、「世界は、国の競争力の根幹である将来を担う子供たちの教育革新に懸命に取り組んでいる。日本は周回遅れの状態で、国際的な競争力がさらに劣後しかねない」と、STEAM教育推進の必要性を訴える。

日本の競争力回復に向け、産業界、教育機関、研究機関などと連携しながら将来社会を担う人材育成にしっかりと取り組んでいく考えだ。

揺らぐ「水素先進国」の地位 基本戦略改定で巻き返しなるか


【論説室の窓】宮崎 誠/読売新聞 論説委員

2050年のカーボンニュートラル(CN)の実現に向け、水素活用を巡る国際競争が激化している。

日本が後れを取れば、CNの達成が遠のくだけではなく、経済力の低下を招きかねない。

「再エネ・水素分野の激しい国際競争に対応しつつ、国内の脱炭素化を進める」

岸田文雄首相は4月、政府の「水素基本戦略」を6年ぶりに改定する狙いを語った。さらに、「関係大臣は、縦割りを廃し、相互に連携して、取り組みを具体化してもらいたい」とげきを飛ばした。

政府が、世界に先駆けて17年に策定した戦略を改定するのは、「水素先進国」の地位が揺らいでいるためだ。

日本は、09年に家庭用の燃料電池コジェネレーションシステムを世界で初めて市販し、14年には、トヨタ自動車が燃料電池車(FCV)の「MIRAI」を投入した。長年、水素の利活用で世界の先頭を走っているとみられてきたが、政府内では、「すでに米欧に追い抜かれている」との危機感が広がっている。

欧州は、ロシアによるウクライナ侵略を機に、水素の活用に向けたギアを急速に上げた。欧州連合(EU)は、ロシア産の天然ガスなどからの脱却計画である「リパワーEU」を決定し、その中で、再生可能エネルギーから製造する「グリーン水素」の導入量を、30年に計2000万tまで増やす目標を示している。

インフラ整備については、30年までに約2万8000㎞の水素パイプラインを形成するほか、幹線道路において、200㎞ごとに水素ステーションの設置を義務付ける方針だ。

さらに、水素製造業者への資金供給の仲介役を担う「欧州水素銀行」が、今秋から稼働を開始する予定となっている。民間企業の動きも活発で、昨秋以降、大型の水素関連プロジェクトが相次いで公表された。

ドイツとオランダ、デンマーク、スペイン、イギリスでは、すでに国家目標を超える規模に達したという。

EUは3月、エンジン車の新車販売を35年から禁止するとしていた方針を転換し、水素を使った「合成燃料」の使用を条件に販売継続を認めることで合意した。これにより、水素の利用に弾みがつく可能性がある。

日本は6年ぶりに水素基本戦略を改定する

米国は大規模減税を実施 中国も発展計画を策定

米バイデン政権も、水素の生産コストを低減させる施策を講じ、「水素大国」としての地位を固めようとしている。

昨年8月に成立したインフレ抑制法(IRA)では、再エネの普及策などとともに、水素の製造と投資に対する大規模な減税策を打ち出した。設備稼働から10年間、水素1㎏当たり最大3ドルの税額控除か、投資額の最大30%の税額控除のいずれかを選択できる制度だ。このほか、生産拠点の整備に80億ドル以上を投じるという。

こうしたさまざまな取り組みにより、コスト高が障壁となっていた水素業界に「革新的な変化」がもたらされるだろうと、米金融大手ゴールドマン・サックスは評価した。

米エネルギー省は、水素の価格が十分に低下した場合、30年に1000万t、50年には5000万tにまで需要が積み上がると試算している。

民間企業では、エクソンモービルがテキサス州での大規模な水素製造施設の建設計画を進めている。産業ガス事業などを手掛けるリンデとBPも、テキサス州においてブルー水素製造で連携する方針を発表した。水素活用を大きなビジネスチャンスと捉え、一段と投資が活発化している。

中国の動きも見逃せない。昨年3月に中央政府として水素産業の発展計画を初めて公表した。25年までにFCVの保有台数を5万台、グリーン水素の製造で年間10~20万tとの目標を盛り込んでいる。すでに北京や上海などで、水素産業のサプライチェーンを構築する動きも出ているという。

中国は現在、年間3300万tを使用する世界最大の水素需要国だ。世界需要の3割を占めているが、そのほとんどは化石燃料から製造されている。ただ、今後は中国国内での再エネによるグリーン水素の製造拡大が見込まれており、国際エネルギー機関(IEA)は、中国の水素製造量は、60年に約9000万tに達すると予測している。

日本の産業競争力を左右 官民の実行力が問われる

こうした海外勢の動きに対して、日本はどのように対抗していくのか―。

政府は、水素の国内供給量を現在の200万tから、40年に6倍の1200万t程度まで拡大することを目指すという。今後15年間で官民合わせて計15兆円を投資する計画も示している。数値目標を提示することで、水素関連産業への民間企業の参入を促す狙いがあるのだろう。

具体策としては、石炭や天然ガスの市場価格との差額を補助する制度を創設し、水素価格を現在の3分の1程度に引き下げたい考えだ。水素コンビナートなどの整備も検討しているという。

政府がこれまでに示した施策の方向性は妥当だといえるが、気掛かりな点もある。

水素製造において、海外に比べ、大規模プロジェクトの組成が遅れていることだ。水素は水を電気分解して取り出せる。日本は福島県内などで、10MW級の水電解装置の実証実験を行ってきたが、海外では、数百MW級以上の大規模な水電解プロジェクトが進行中だという。

それでも、日本勢は次世代の水電解装置や革新的な部材の開発などで、優位性を保っているとされる。だが、それに安心せず、日本勢が持つ強みを統合する形で、野心的なプロジェクトを進めてもらいたい。

水素の普及は、CN実現への手段にとどまらない。世界に先駆けて水素社会を実現できれば、資源のない日本にとってはエネルギー安全保障の強化につながる。さらに、成長が見込まれる水素関連市場で主導権を握り、日本の産業競争力を大きく向上させることにもなるだろう。

日本の官民を挙げた実行力が問われている。

巨額のGPI買収劇 再エネバブルの様相呈す


NTTアノードエナジーとJERAが、グリーンパワーインベストメント(GPI)などの株式を保有する米企業との間で売買契約を結び、国内再生可能エネルギー事業を共同取得する。5月18日に発表した。買収額は3000億円規模とみられ、NTTアノードが8割、JERAが2割出資。ENEOSによるジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)の買収額約1900億円を超え、国内再エネ関係では最大規模となる。

買収額についてNTTアノードは「適正な価格で取得できた」(伊藤浩司副社長)と強調。だが、主力の陸上風力資産約186万kWのうち150万kWが開発中案件であり、「JREと同様、決して安い買い物ではない。バブル的な様相を呈している」(再エネ関係者)。

NTTアノードは、洋上風力公募第一段で三菱商事グループが3地点を総取りした際の協力企業の1社。今後の公募への影響が気になるところだが、「NTTは洋上風力では引き続き三菱商事との連携を軸にし、これをもってJERAと組む形になるとは考えにくい」(同)との見方が出ている。

一酸化炭素の危険性を周知 警報器の大切さを体感するラボ開設


【新コスモス電機】

家庭用ガス警報器でトップシェアを獲得する新コスモス電機はこのほど、火災実験室「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を兵庫県三木市に開設した。

5月にオープンしたプラシオラボ

2006年に全ての住宅への火災警報器の設置が義務化されて以降、火災による死者数は減少傾向にある。それでも年間900人が命を落としているという。22年版の消防白書によると、建物火災による死因の4割は一酸化炭素(CO)中毒による窒息死だ。COは血液中のヘモグロビンと結びつきやすく、ごくわずかな量でも吸引し続けると中毒を引き起こすなど非常に毒性が強い。しかも無色・無臭で気づきにくく、1分1秒でも早くCOの存在に気づくことが生死を分けることになる。

新コスモス電機は06年の警報器設置義務化と同時期に「一酸化炭素検知機能付き火災警報器」を発売、改良を重ねて新製品を発売してきた。同警報器の決定版ともいえるべき製品が、昨年9月に発売したCO検知機能付き火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」だ。同製品は、100ppmのCOを検知すると、音声で注意報を知らせるとともに、自動的にセンサー感度を通常の約2倍に引き上げて、煙センサーのみの火災警報器より早く発報する。

また、販売チャンネルをガス事業者経由の販売に加え、全国の家電量販店やホームセンターに拡大した。こうした取り組みが功を奏し、発売から半年で累計販売台数が2万台を突破するなど好調だ。

ラボで火災実験を実施 一般消費者にもアピール

同社ではCOの危険性と合わせて、プラシオの有効性を広く知ってもらうため、同ラボを開設した。

寝室と台所を想定した実験スペースで、布団くん焼火災実験、天ぷら火災実験などを実施する。実際に布団や天ぷら油に火を付け熱して、どの程度の時間で火災が発生し、警報器が検知して発報するかを体験できる。髙橋良典社長は「これまで火災実験室は本社に設置しており、主にガス事業者や消防関係者に見学してもらってきた。同ラボに移転したのを機に、地域住民や学生など、エンドユーザーにも火災について、警報器の大切さを体感してもらいたい」とラボ開設の背景を話す。

同社ではプラシオラボを通じて、少しでも住宅火災やガス事故を減少するよう今後も注力していく。

ラボ内でのデモ風景

【覆面ホンネ座談会】電力カルテル処分の波紋 薄れる監視委の存在感


テーマ:電力不祥事の影響

明暗分かれた公正取引委員会による電力カルテル処分が、業界の分断を呼び込んでいる。処分内容の明暗が分かれた各社の行く末には何が待つのか。他方で電力・ガス取引監視等委員会の存在意義を問う声も高まる。(内容は5月22日時点の情報に基づく)

〈出席者〉 A評論家  B有識者  Cジャーナリスト

―公取委が電力カルテルに関する排除措置命令・課徴金納付命令を3月30日に行って以降、業界の混乱は深まるばかりだ。規制料金の値上げや各社の決算にも影響が出ている。課徴金を課された中部電力や中国電力、九州電力に対し、リーニエンシー(課徴金減免制度)を使った関西電力、それぞれの状況をどう見る?

A 九電以外の3社は処分発表当日の会見で今後の対応方針に言及している。中部電が公取委の記者会見の2時間後に、取り消し訴訟提起を表明したことには驚いた。また、中国電は会長、社長の引責辞任を表明した。大阪での記者会見と比較して、ある記者は「瀧本夏彦社長がカルテルの初期段階に関与したと、会見で自らの非を正直に認めたことに驚いた」と語っていた。

―現時点では、中部電と中国電が取り消し訴訟の意向を示している。ただ、その方針には温度差がある。

B 今後の取り消し訴訟のやり方には違いが出てくる。中部電は独占禁止法に抵触していないとして、ゼロか100かの争いに挑む。他方、中国電は約707億円もの課徴金の額を巡る条件闘争を目指しているようだ。なお、4月3日付の電気新聞記事が有識者のコメントとして、地裁判決までが3年間、最高裁までいくと4~5年程度かかると紹介している。特に中部電が最後まで争う姿勢を崩さなければ、結論が出る前にトップの任期が来てしまうことになる。

公取委のカルテル処分に対する取消訴訟の行方はどうなるのか

電力たたきに燃える公取委 課徴金命令の3社それぞれの道は

C 中部電側の弁護士は調査段階から事あるごとに公取委に対して意見書を提出しており、公取委は中部電の動きを織り込み済みだ。処分の発表がのびのびになったのも裁判で負けないための証拠固めに時間をかけたから。そして訴訟では、どんなやり取りで合意したと判断されるかが争点になる。とにかく公取委は「電力業界はカルテルの塊」で自由競争に消極的な古い体質だとみなしており、できるだけ強く世論に訴えかける形を意識している。

A 公取委の事前レクでは、メディアの理解を高めてもらうためか、かなり丁寧に答えていたようだ。

B 一方、中国電の経営はかなり厳しい状況に追い込まれている。3メガバンクの支店長が瀧本社長への面会を求め、経営計画を提出するよう迫ったと聞く。中国電は訴訟に敗れれば課徴金の額はさらに上乗せになるが、自信があるのか、それとも破れかぶれなのか。事業者が公取委との訴訟で勝つのは10回に1回あるかないからしいね。

―ただ、公取委は処分発表会見で「通常であれば特定の会合で情報交換し合意形成するが、今回は必ずしもそうではない」と説明。状況証拠を積み重ねた結果の判断とされている。

B 確かに、公取委がそこまで強い証拠をつかんでいるのかというと実は微妙だ。通常のカルテルでは、公取委が検察と一緒に動いて刑事告訴を目指す。リニア中央新幹線工事を巡る談合の例などがそうだ。しかし今回、初めから刑事罰をあきらめたということは、証拠が弱い可能性がある。

プロパン無償慣行に歯止め 料金への設備費上乗せ禁止へ


プロパン業界の不透明な料金体系や商慣行を是正できるか―。

プロパンガスの料金透明化と取引適正化について検討する総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)液化石油ガス流通ワーキンググループの5月11日の会合において、資源エネルギー庁事務局は、「貸付配管」や「無償貸与」などの商慣行見直しに向けた方向性を示した。

プロパン業界の商慣行は是正されるか

プロパン業界の商慣行のうち、消費者団体などが特に問題視してきたのが、事業者が賃貸住宅のガス供給契約を獲得するため、ガス機器のみならず、エアコンやテレビといったさまざまな設備をオーナーや建設業者に無償提供し、その費用を入居者に転嫁する無償貸与だ。

これを制限するためにエネ庁は、設備費用のガス料金への計上を禁止する制度改正案を提示し、消費者代表、事業者を含む全委員がこの方向性に同意した。
これにより、事業者の選択肢がない入居者に対する一方的な不利益の押し付けに、ようやく終止符が打たれるとの期待が高まる。

一方で、その実効性や継続性を危惧する声も。

この日の会合でも委員からは、監視・通報体制の機能の整備や、罰則規定の必要性を訴える声が相次いだ。

【イニシャルニュース 】内閣府の有識者会合 恣意的な人選に疑問符


内閣府の有識者会合 恣意的な人選に疑問符

電力大手7社の家庭向け規制料金値上げを巡り、厳しい姿勢で経済産業省との協議に臨んだ消費者庁。カルテルや情報漏えいといった不祥事による値上げへの影響を焦点に対立したものの、高コスト体制の是正など抜本的な改革を前提に、結局は値上げを容認した。

河野太郎消費者相は、「当初、経産省はカルテルや情報漏えいは規制料金には影響ないとしていたが、3回の協議の中でそうした姿勢が変わり、不正事案の影響が検証されることになった」と成果をアピールする。だが、電力業界関係者からは、協議の場に召集された「専門家」の面々に「活動家のような人までいて、あまりにも恣意的な人選」(新電力幹部のX氏)と疑問視する声が続出している。

中でもO氏とT教授は、脱原発と再エネ推進を訴え活動するS財団のメンバーであり、河野氏肝いりの再エネタスクフォースメンバーでもある。本人はすっかり反原発色をひそめているものの、こうした人選からは河野氏の脱原発、大手電力会社憎しの本音が垣間見えてくる。有識者のY氏は、「同庁の会合が特定勢力の活動の場になっていることをおかしいとは思わないのか」と有識者会合の在り方に再考を促す。

今回、原発が稼働中の関西、九州の電力大手2社は値上げを申請していない。北海道電力など7社の値上げが実施されれば、原発稼働、未稼働地域間の料金格差はますます広がることになるだろう。反原発を主張しながら消費者を盾に値上げには厳しく当たるという姿勢は、業界関係者にとっても消費者にとっても到底容認できるものではない。

消費者庁は特定勢力の活動の場に?

LP商慣行の是正議論 異例の方針転換が波紋

プロパンガス料金の透明化・取引適正化に向けた議論が難航している。

資源エネルギー庁は、3月2日に液化石油ガス流通ワーキンググループを再開し、今夏までの計3回で制度改正の方向性を取りまとめる予定だったが、長年にわたる商慣行の是正は一筋縄ではいかず。5月11日の会合では前回から方向転換し、議論を賃貸集合住宅の問題に絞り、「過大な顧客獲得費用の是正」「賃貸向け料金での消費設備費の計上禁止」などの新たな論点を出し直したのだ。

エネルギー業界関係者からは、「なぜ途中で論点を変更したのか。当初3回で終わらせるとした議論がなぜロングランの見込みとなったのか。こうした点について、11日の会合の資料にはその説明がなかった。霞が関の常識からして、内外周知が不十分と言わざるを得ない」といった指摘が挙がる。

制度改正を巡っては、実にさまざまな意見が噴出しており、エネ庁は調整に苦慮しているもようだ。例えば、「やり方を間違えればカルテルになりかねない」といった視点がある。実際、関東を拠点とするT社の販売店会でエネ庁担当者が講演した際には、「一歩間違うと、カルテルになってしまう。ギリギリのラインをどう設定するかが重要だ」などと説明していた。

「営業行為について、ガイドラインでがちがちに縛るようなことがあれば、販売規制に端を発するカルテルと見られかねないということ。大手電力のカルテルが大問題となる中、エネ庁がグレーな対応を避けたかったのではないか」(プロパン業界関係者)

いずれにせよ、消費者にとって望ましい方向に進めば良いのだが……。

電力7社が家庭向け値上げ 問われる規制の存在意義


経済産業省は5月19日、電力大手7社の家庭向け規制料金の値上げ申請を認可した。これを受け、4月改定を目指していた先行5社(東北、北陸、中国、四国、沖縄)と後続2社(北海道、東京)が、6月1日付けで一斉値上げに踏み切る。申請時の値上げ率は標準的な家庭で28~48%だったが、燃料費などの査定を経て原価を圧縮。実際の値上げ率は14~42%にとどまることになった。

値上げについて会見する東北電力の樋口康二郎社長

政府の物価対策に巻き込まれる形で値上げ幅が圧縮されたのみならず、5社は実施が2カ月遅れることに。同日会見した電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は、「値上げの遅れにより規制分野では利益が出ない水準になっているのではないか」と、一連の審査が収支に与えるマイナスの影響に懸念を示した。

実際、値上げの主因は化石燃料価格の高騰と歴史的な円安が追い打ちをかけたことによるコストの増大であり、そういう意味でも河野太郎消費者担当相の「電力会社は高コスト体質」との指摘は的外れと言わざるを得ない。

新電力関係者からは、競争を阻害する規制料金の廃止を望む声も出始めている。全面自由化から7年。料金規制の在り方を抜本的に見直すタイミングが来ている。

危機の時代の国際石油情勢 〈後編〉 西側諸国は市場本位の供給体制維持を


【識者の視点】小山正篤/石油市場アナリスト

国際的に石油備蓄の重要性が増す中、西側諸国の対応は市場本位の供給体制を弱体化させてしまった。

日本の石油補助金の疑問を含めた政策課題について、前号に続き米ボストン在住のアナリストが解説する。

国際秩序が激しく動揺する中、大規模な石油供給途絶の危険性が高まり、国家石油備蓄の重要性は増した。国際石油価格はこの緊張を反映して高水準を保つべきであり、それが西側・非ロシア世界全体における自給率向上を促す。したがって供給途絶のいまだ生じぬ時点での価格抑制を目的とした政府介入は、原則として避けねばならない。この観点からすれば、西側は明らかな過ちを犯した。

備蓄取り崩しで供給過剰 西側の対応力が弱体化

昨年を通じて国際エネルギー機関(IEA)加盟国は全体として約3億バレル(日量80万バレル強)の石油備蓄を市場に放出した。そのうち2億2000万バレルを米国が占める。その異例の規模にもかかわらず、米国主導の備蓄放出が過誤である根本的な理由は、それが実体的な供給途絶を伴わぬ状況下で、強行されたことだ。

一連の備蓄放出は、ウクライナ危機勃発前の2011年11月、米国が5カ月内・計5000万バレルの放出を、石油価格抑制を目的として決めたことから始まる。ロシアによる侵略開始後、昨年3月初めにIEA加盟国が総量6000万バレルの放出で合意。同月末には米国が向こう6カ月間にわたる日量100万バレルの備蓄放出を「プーチンによるガソリン価格高騰」への対応として発表。他のIEA加盟国は直ちに総量6000万バレルを加えたが、このときも価格変動の激しさが問題の第一として挙げられた。

昨年初めにIEA加盟国が保有していた国家原油備蓄は計12億バレル弱だが、これは世界全体の原油処理量の2週間分に過ぎない。世界需給の関数である原油価格に持続的影響を与えるには、備蓄は過少であり、不適なのだ。

本来備蓄は、実体的な供給途絶に対して短期集中的に放出し、有力産油国(特にサウジアラビア)が生産余力稼働で引き継いでこそ効果がある。

しかし昨年の放出は、ロシア産石油輸出が継続したにもかかわらず、国際石油価格抑制を公然たる目的として行われた。その結果、昨年第2、第3四半期に世界の石油生産量はおおむね需要量に釣り合っていたのが、市場外から備蓄放出分が加わって供給過剰となった。昨年11月サウジアラビア主導下に行われた石油輸出国機構(OPEC)プラスの生産調整は、この超過供給を解消し市場における需給均衡の回復を図ったものと解釈できる。

IEA加盟国は昨年、国家原油備蓄の2割以上を無意味に放出し、実体的な供給途絶の危険性に対する西側全体の対応力を弱体化させてしまった。

「政府の石油大安売り」 日本の石油補助金に疑問

さらに西側の過誤として指摘せねばならないのは、日本の価格補助金だ。昨年1月末からの燃料油価格補助金は、昨年末までに総額約3兆2千億円に達した。これは昨年2月から12月までの、日本の原油輸入総額の4分の1に相当する。事実上、日本政府が自国の輸入原油の4分の1を国際価格で産油国から買い入れ、3月以降の円安がもたらした費用増分も負担、無料で国内石油企業に卸したのと同然である。政府による石油の大安売りだ。

補助金がなく、原油輸入価格の増分がそのまま反映されていれば、日本のレギュラー・ガソリン価格は昨年平均で1ℓ当たり200円弱、対前年比25%強の上昇だった。実際、欧州各国のガソリン価格は対前年比でおおむね2割から3割上昇しており、日本の燃料油価格も主要石油消費各国と同期して変動。需要側からの応答が強く促されたはずだ。

しかし補助金投入により国内燃料油価格は国際市場の現実から遊離し、一種の仮想現実と化して低位安定した。これは日本の省・脱石油に対する誘因を削ぎ、取り組みを鈍化させたと考えられる。

2022年6月のガソリン小売価格
〈図注釈〉 多くの国でガソリン価格が最高値を付けた昨年6月時点の比較。縦軸は1ドル133.8円で換算。欧州およびインドの価格データはIEA Energy Prices、ほかは各国統計による。

対照的に、例えば中国は石油の国際価格と国内価格の連動を保ち、原油高価格下に電気自動車普及を格段に加速させた。昨年、中国乗用車市場において、プラグインハイブリッド車を含む電気自動車販売が倍増して年間約650万台に達し、全販売台数の3割弱を占めた。巨額の補助金を国内石油価格の事実上の凍結につぎ込み、陸上輸送に新機軸を起こす機運の乏しかった日本と、石油消費国としてどちらが原油高価格への耐性を強化したかは、論をまたない。

価格補助金は国内石油需要を喚起して原油高価格を支え、消費国の抵抗力を自ら弱める。本来、石油需要抑制を主導すべき日本が、かかる政策の下で原油高価格自体に取り組む変革の努力を怠れば、それは西側全体の損失なのだ。

以上、西側自体の脱・ロシア産石油依存とロシア産石油の国際市場からの排除を、異なる目標として区別すること。供給途絶を伴わぬ状況下では、備蓄放出や価格補助は行わないこと。サウジアラビアが実際に果たす役割の重要性を冷静に評価すべきことを説明した。

加えて、国際市場における供給確保の観点から、米国をはじめ西側全体として、原則として自国の原油・石油製品輸出を制限しない旨を合意形成すべきだ。さらに安全保障面では、中東湾岸地域の安定およびインド・太平洋をはじめとする海洋秩序の維持が特に重要であり、ウクライナ危機が他地域の不安定化に連動せぬよう、西側の協調が不可欠だ。

いま、市場本位の開放的な石油供給体制、すなわち国際石油秩序の維持に向け、日本を含む西側が構えを立て直すべき時だ。

こやま・まさあつ 1985年東京大学文学部社会学科卒、日本石油入社。ケンブリッジ・エナジー・リサーチ社、サウジアラムコなどを経て、2017年よりウッドマッケンジー・ボストン事務所所属。石油市場アナリスト。

・危機の時代の国際石油情勢〈前編〉 西側脱露政策とOPEC減産の実情

「今までの延長線上にない事業へ」 再エネ・合成燃料で脱炭素社会に対応


【コスモエネルギーHD】

原油価格下落で苦しい立場にいる石油元売り業界。脱炭素社会に向け方針転換待ったなしの状況だ。

コスモHDは4月に新社長に就任した山田茂氏の指揮の下、再エネ事業強化で生き残りを図る。

コスモエネルギーホールディングス(HD)の山田茂社長は4月27日、都内で報道各社の合同インタビューに応じた。山田社長は「石油だけではなく、今までの延長線上の先にない事業に取り組まなければならない」と、再生可能エネルギー事業を強化する考えを示した。2025年度までに風力発電事業に830億円を投じ、30年度までに風力を含めた再エネの発電能力を200万kWまで引き上げる方針だ。

山田社長は1988年コスモ石油(現コスモエネルギーHD)入社。供給部門で石油精製事業全体を統括し、原油調達や生産計画の立案、在庫管理や製品輸送まで行う運用実務を長年担ってきた。東日本大震災で被災した千葉製油所の再稼働にも尽力した。

経営企画部門に移ってからは、洋上風力プロジェクトなど大規模な投資案件を担当してきた。再エネ事業を推進するコスモエネルギーHDで、これまでの実務経験を生かす。

合同インタビューに応じる山田茂社長

風力発電・蓄電事業に注力 次世代エネ戦略を推進

脱炭素の潮流に加え、原油・石油の需要減が進む状況で、石油元売り各社はさまざまな手段で生き残りを図る。中でもコスモエネルギーHDは他の大手元売りにない独自色を打ち出している。

コスモエネルギーグループの第7次連結中期経営計画「ビジョン2030」によると、「グリーン電力サプライチェーン強化」を柱として、30年までに3000億円の戦略投資を進める。とりわけ洋上風力には、そのうち1300億円を振り分ける。稼働中の陸上風力30万kWに加え、陸上風力・洋上風力それぞれ60万kWの開発を推進し、風力発電の容量を150万kWまで高めたい考えだ。

一方で課題となる再エネ事業の安定化については、「再エネが世の中で普及するに従って、電力価格や需要の変動が大きくなる。その点で、蓄電の重要さは今後ますます高まっていくだろう」と蓄電ビジネスの重要性を指摘。製油所の遊休地に蓄電池を設置するなど、23年度からビジネス実証をスタートする。

次世代エネルギー分野では、持続可能な航空燃料(SAF)に活路を求めている。22年11月に廃食用油を原料とした国産SAF製造供給を行う新会社「SAFFAIRE SKY ENERGY」の設立を発表。商用規模で国内初となる年間約3万klの生産・供給を予定する。25年運転開始を目指して、16日には起工式を行った。

山田社長は記者からの質問で国内SAF事業の実現性を問われると、「航空業界からは相当量必要だという声が上がる中、需給バランスの面で見ると圧倒的に供給が足りない。コストをかけず量産する必要があるが、収益性は決して悪くないとみている」と話す。自社単体での水素・合成燃料製造や炭素貯留には、コストの問題もあり「あくまで全方位に進める」と述べるにとどめているが、CCUS(CO2回収・利用・貯留)技術を含めて「形には見えていないかもしれないが、準備万端で遅れは取らない」と脱炭素時代に向けた事業拡大に自信を見せた。

競合他社には国内の製油所の統廃合を進める動きもある。これについて、山田社長は「(統廃合は)当面考えていない」と明言。今後の需要ペースと自社製油所の稼働率の高さから十分な採算が確保できるとした。「石油はしばらく社会を支える。再エネとの『二刀流』で脱炭素に取り組む必要がある」。石油事業を重要な柱とする方針に変わりはない考えを示した。

一方で、既存ビジネスからの脱却と脱炭素への転換を促したい投資家は、コスモエネルギーHDにさらなる対応を迫る。コスモHD株の20%超を保有する大株主の一人は、風力事業を手掛けるコスモエコパワーの上場を求めており、6月の株主総会で社外取締役の選任を求める株主提案を行う予定だ。この問題について、山田社長は「風力事業をグリーンサプライチェーンとして成長させていくことが、企業価値向上につながる」と説明。上場による短期的な収益向上には慎重な姿勢を見せた。

22年度決算は増収減益 再エネ事業で難局突破

5月11日には、コスモエネルギーHDが22年度通期決算を発表した。売上高は2兆7919億円と、原油高を背景にした価格上昇などで対前年比14.4%の増収となったものの、為替の影響による備蓄原油評価額の縮小もあり、純利益は逆に51.1%マイナスの679億円と減少に転じた。

決算資料の中で「グリーン電力ならびに次世代エネルギーへの取り組み」と題して、①風力発電所のFIT(固定価格買い取り)制度に頼らない電力供給協業を開始、②国産SAF製造へ、スシローなどを傘下に置く「FOOD&LIFECOMPANIES」と廃食用油供給で提携、③脱炭素分野でタイ大手エネルギー企業バンチャックと覚書締結―などを記載。グループ全体で再エネ事業を盛り上げていく方針を打ち出している。

山田社長は4月の社長就任の際、社員に向けて「社員相互で理解し合い、エネルギーを生み出してほしい」とげきを飛ばした。

脱炭素社会に向け目の敵にされやすい石油元売りだが、「誇りに思える会社にしたい」との思いで難局を乗り越えていく。

一部株主による再エネ事業分離提案について質問が及んだ

G7広島サミットが閉幕 対露制裁・脱炭素を同時追求


主要7カ国首脳会議(G7サミット)が5月19~21日、広島市で開かれた。ウクライナのゼレンスキー大統領による緊急来日や各国首脳の原爆資料館訪問など、外交・安全保障一色となったが、エネルギー関係はどうか。

共同声明では、世界が「気候変動」「生物多様性の損失」「汚染」という三つの危機に直面しており、「勝負の10年」に行動を拡大しパリ協定へのコミットメントを堅持するとした。またロシアによるウクライナ侵攻の影響はあるが、「2050年までにネットゼロを達成する目標は揺るがない」と強調。石炭火力の廃止時期を明示しなかったことやガス部門への投資の必要性など、4月のG7気候・エネルギー・環境相会合で合意した〝現実解〟は踏襲された。

ワーキングランチに臨むG7首脳ら

原子力では「原子力エネルギーの使用を選択した国」による技術・人材の維持、強化のほか、「ロシアへの依存を減らすため、志を同じくするパートナーと協働する」との一文が入った。日本はエネ環境相会合の開催に合わせて開かれた国際原子力フォーラムで、米英仏加と連携強化を確認。5月に入ってからは、フランスとの協力関係を深化させる共同声明に署名し、仏オラノ社と使用済みMOX燃料の再処理に向けた実証実験を始めると公表している。

共同声明以外では、「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」を発表。クリーン・エネルギーへの移行コストを下げるため、投資ギャップを埋める必要性などを明記した。

今後、議論の舞台は主要20カ国首脳会議(G20サミット)、温暖化国際会議・COP28に移る。中でもG20の議長国はインドであり、交渉は難航するとみられる。

【マーケット情報/6月2日】原油反落、需要減少の見通し広がる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落に転じた。米中経済の先行き懸念から、需要減少の見通しが広がった。

米国では、雇用情勢が引き続き逼迫していることを示す労働統計を受けて、連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げの観測が広がり、油価の下方圧力となった。製造業では、活動縮小を示す統計が出たことから利上げ停止の見方も浮上。油価の上昇圧力になりえたものの、相対的には利上げ継続の見通しが強く、強材料にはならなかった。

また、原油在庫が、昨年11月以来の水準で減少した先々週から増加に転じたことも、材料視された。一方、米議会は、懸案だった債務上限引上げ法案を可決。債務不履行(デフォルト)回避の見通しが立ったことを受けて市場が経済安定化を好感し、油価の下落はある程度抑制された。

中国では、経済回復の停滞を示す動きが顕著だった。製造業における5月の購買担当者景気指数(PMI)は2カ月連続の悪化となり、非製造業のPMIも減少に転じた。また、国内の石油需要が市場予測を下回っていることなどを受けて、大手製油所の稼働率が低下した。ただ、季節要因からガソリンとディーゼル油の需要は上昇に転ずるとの見方が出ている。

日本では、定修と技術的トラブルから、複数の製油所が稼働を停止した。

なお、週末に行われたOPECプラスでの会合で、サウジアラビアは7月から日量100万バレルの追加的な自主減産を行うと発表した。


【6月2日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.74ドル(前週比0.93ドル安)、ブレント先物(ICE)=76.13ドル(前週比0.82ドル安)、オマーン先物(DME)=73.73ドル(前週比1.49ドル安)、ドバイ現物(Argus)=71.62ドル(前週比3.85ドル安)

*シンガポール休場のため、ドバイ現物のみ1日との比較

日本の主張は認められたのか G7共同声明の深層を読み解く


G7気候エネ環境相会合の共同声明を巡っては、日本の現実的な主張が認められたと安堵の声が聞こえる。

しかし、実際には「1・5℃目標」の厳守を堅持し、具体的な行動を求める厳しい内容となっている。

4月に札幌市で開催された主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合の共同声明の評価が定まらない。定量的な目標を設けず、「各国の事情に応じた多様な道筋」という文言を盛り込み、解釈に幅を持たせたためだ。日本の政策決定文書によく見られる言い回しが多かったことから、〝霞が関文学〟が世界に広がったと皮肉に似た声も聞かれた。

しかし共同声明には、パリ協定が目指す「1・5℃目標」を厳守する強いメッセージが込められている。多様な選択肢を容認した形に見えるものの、1・5℃目標を実現するには多くの選択肢がないことを意味する。日本を含め先進国には、温室効果ガスのより厳しい排出削減策が課されたと言っていいだろう。

あるエネルギー企業のトップは共同声明を読んで、「日本がかねて主張してきたトランジションが世界に認められた」と喜んだという。確かに共同声明には、石炭火力を含めて化石燃料の廃止期限は盛り込まれなかった。「各国の事情に応じた多様な道筋」を素直に解釈すれば、水素やアンモニア混焼を認めたようにも読める。

前出のエネルギー企業の関係者は「トップは自信を深めたようだ。欧州のダイベストメント(投資撤退)は間違いで、混焼を含めたトランジションが合理的な手法だと対外的に発信していく意向を持ち始めている」と明かす。しかし混焼を含めた石炭火力の温存は、1・5℃目標には足かせ以外の何物でもない。ある有識者は「ぬか喜びしてはいけない」と、間違った解釈に警鐘を鳴らす。

「猶予期間はない」 求められる具体的行動

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第六次報告書は、1・5℃目標を達成するためには、2035年の温室効果ガスの排出を「19年比60‌%減」にする必要があるとする。G7の共同声明にもIPCC報告書と同じ記載があり、廃止期限を示さなくても早期に廃止しなければならないと分かる。有識者は「目標を達成するためには、中間点として30年や35年にどのぐらい排出削減をしなければならないかが自明だ。共同声明は厳しい水準での排出削減を続けることを表明したということだ」と説明する。

G7気候エネ環境相会合の共同記者会見

G7共同声明は、事業資金の出し手である金融機関や投資家にも影響を及ぼす。企業が取り組む脱炭素の移行戦略に、1・5℃目標との整合性が求められることになるという。金融機関や投資家は国際的な動きに敏感で、有識者は「猶予期間があるわけではないと認識した方がいい」と忠告する。

1・5℃目標の達成は果てしなく遠い。実際に国際エネルギー機関(IEA)が3月に公表した報告書によると、22年のエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量は、前年から0・9%増加し、史上最高値を記録した。日本国内を見ても、21年度は8年ぶりに増加に転じた。ロシアのウクライナ侵攻を契機にエネルギー不足が襲い、化石燃料を活用せざるを得なくなったのが要因だ。

そういった状況でもG7会合では、1・5℃目標の達成に向けて揺るぎない方向性を示した。さらに共通認識として確認されたのは、これまでの気候変動対策に付き物だったルールや目標を決めることだけではなく、行動を進めることだ。政府関係者は「ルール&ターゲットからアクションに軸足が移った。もちろん、その大前提は1・5℃目標だ」と解説する。

共同声明には30年までに洋上風力発電を150GW、太陽光発電を1TW以上に増加させると盛り込まれた。数字自体はIEAや国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が出しているものを踏襲したに過ぎないが、具体的なアクションにつながる指標を示した形だ。「エネルギー転換をより大量に進めるという宣言で、産業界に対してビジネスチャンスが転がっているというヒントを込めた」(前出の政府関係者)

こうして見ていくと、共同声明は1・5℃目標を後押しする性格を帯びている。付属書を含めて数百ページに及ぶ文書は、目標達成のためにどう行動につなげるかを記し、民間の脱炭素移行を支援するための政策的な方向付けをしたといえよう。

能登地方で地震が多発 志賀原発は大丈夫か


5月5日に石川県能登地方でマグニチュード6・5の地震が発生し、同県珠洲市で震度6強の揺れを観測した。太平洋側のプレートが動いたことで、能登半島の地下深部にある水も移動。それが地震を引き起こしたと考えられている。

この地域は2018年ごろから地震が増え、20年末から群発地震が多発。その度に深さ20~30㎞に存在した水が徐々に上昇し、震源も浅くなっているとの見解を政府の地震調査委員会は公表していた。今回の地震は、その見解を裏付けるものといえる。

能登半島の群発地震は当分続くといわれている。そのため、半島に位置する志賀原発への影響を懸念する声が高まりそうだ。だが、珠洲市から志賀原発までは70~80㎞ほどの距離がある。5月5日の地震で志賀町で記録したのは震度4。一連の群発地震は今回の震源地から半径15㎞範囲で発生している。地下深部の水が移動して震源が変わっているとの指摘もあるが、70㎞以上も離れた志賀町まで震源が移動するとは考えにくい。

志賀原発は最大の地震動を1000ガルに引き上げている

5月5日に珠洲市で観測された最大加速度は729ガル。北陸電力は志賀原発の耐震性を高め、想定できる最大の地震動を1000ガルに引き上げ、重要設備を補強。仮に震源が志賀町まで移動し、同規模の地震が起きたとしても安全性に影響を与えるものではない。 また珠洲市で観測された最大加速度は地上で計測したもの。地震は地層が軟らかいほど揺れが大きくなる。原発は地表を取り除いた硬い岩盤に建てられている。それだけ最大加速度は弱まる。その点からも、一連の能登半島地震によって志賀原発の安全性が脅かされることはないといえる。

大手電力各社が再発防止策 関西は「発販分離」が焦点に


 大手電力会社間のカルテルや顧客情報の不正閲覧など相次ぐ不祥事で大揺れの関西電力を巡って、発電事業と電力小売り事業の分離が現実味を帯びつつある。電力小売り競争の健全化に向けた方策の一つとして、経済産業省から宿題を課せられたもので、関電は継続的な検討を行っているもようだ。実現すれば、2015年4月にJERAを設立した東京電力、中部電力の両社に続き、発販分離が行われることになる。

大型連休明けの5月12日は、不祥事に見舞われた電力業界にとって、一つの節目となった。送配電事業者の保有する顧客情報が不正に閲覧されていた問題などで、経産省・電力ガス取引監視等委員会から業務改善命令や勧告、指導を受けた東北、中部、関西、中国、四国、九州、沖縄の電力7社が、託送情報システムの物理的分離や内部統制の抜本強化など再発防止策を盛り込んだ業務改善計画をまとめ、経産省に提出したのだ。同様の問題で業務改善要請を受けた北海道、東京、北陸の電力3社も、経産省に報告書を提出した。

10社のうち、とりわけ業界内外の関心を集めたのが、役職員による多額の金品受領に始まり、カルテル、不正閲覧と、不祥事が多発した関電だ。経産省は4月28日、同社小売事業の競争健全化に向け、①関電が保有する電源の内外無差別な卸取引を強化し、これを通じた、短期から長期まで多様な期間・相手方との安定的な電力取引関係の構築、②魅力的で安定的な料金、サービスのさらなる選択肢の拡大、③これらの実現するための発電事業・小売電気事業の在り方―について、具体的な検討を行うよう指示していた。

森社長「選択肢の一つ」 他電力にも波及するか

これを受け、関電は12日、保坂伸・資源エネルギー庁長官宛てに「小売電気事業の健全な競争を実現するための対応について」と題する文書を提出。この中で、「営業活動における透明性を確保し、多様化するお客さまニーズにスピーディかつ的確にお応えするために、発販分離も含めた、最適な小売電気事業体制の検討」を進めると明記したのだ。

この日会見した森望社長は、記者からの質問に答える形で「(発販分離は)発電事業、小売事業の機能を明確に分けて仕事をするということだ。分社化も選択肢の一つだが、現時点で決めているわけではない」と述べた。

5月12日の会見で謝罪する関西電力の森望社長(中央)

ただ、発販分離が一連の不祥事の再発防止策になるかを巡っては、業界内外に懐疑的な見方も少なくない。「発販分離した中部電力でも、顧客情報の不正閲覧は起きているし、公正取引委員会から電力カルテル問題で課徴金処分も受けている。再発防止に当たっては、形よりも実効性をどう確保するかが重要だ」(アナリスト)

ある大手電力関係者は「関電が発販分離すれば、ほかの大手電力に波及する可能性も。第二のJERAをつくることが、経産省の狙いの一つにありそうだ」と予想する。果たして、関電は発販分離に踏み切るのか。そしてJERAに続く火力連合は誕生するのか。