【目安箱/10月13日】上関町の反原発の実情 高齢化が消した「政治」の嵐


山口県上関町で、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設調査が始まる。中国電力と関西電力によるもので、西哲夫町長が8月18日に受け入れを表明し、町議会がそれを同日認めた。あまり伝えられない、この地域の原子力反対運動の状況を紹介してみよう。

私の見たところ、外部からの政治集団が入り込み、過激な反対運動をして、町の人が落ち着いて議論ができない状況になっていた。それが、その集団と町全体の高齢化で変わった。このまま地域の人々が、静かに対応を議論できるようになることを期待したい。

外部の政治勢力が入り込む

上関町では、中国電力が1982年から原子力発電所の建設計画を進めた。もともと上関町の住民の大半は原発の建設に賛成している。今年8月に11年ぶりに行われた町長選挙でも投票者の約8割が、原発誘致派の西・現町長に投票した。これまでの町長選挙では誘致派が勝ち、町議会も近年の定数10だが、誘致派が8議席以上を常に占めてきた。

上関原発を巡る報道で、在京のメディアは「分断」「反対派の声を聞かず」と、町内の意見が割れているかのような報道をし続ける。しかし現実は、原発誘致派が圧倒的多数を占めてきた。

そして反対運動が過激化して、状況は混乱した。この町出身であり1970年代の学生運動で、労働運動が活発になった時代に政治団体の幹部になった人がいた。この人が地元に帰ってきた後で反原発運動の中心になり、広島、東京から外部の政治団体、反核団体を引き入れた。こうした外部の政治団体は、地元から遊離し、対話をするという態度がなく、建設阻止以外の意見を認めなかった。

原子力発電所は町内の田ノ浦地区に建設が決まり、2009年から工事が始まった。ところが建設予定地の占拠をするなど、過激な活動があって工事はなかなか進まなかった。それを在京のメディアは擁護した。そして2010年ごろに上関は日本の反原発運動の象徴になってしまった。

対立は街の発展を産まなかった

もちろん原子力発電について、住民がどのような意見を持とうと自由だ。真面目に原子力発電の建設を反対する住民も一定数いて、私はその人々を批判する意図はない。私は、町外の政治勢力を批判する。

私はエネルギー業界の末席にいるが、上関町での対話活動に2010年ごろ少し関わった。中立の有識者の司会で、関係者で合意を進める会議を開こうとした。それでジャーナリストなどの人選をして提案した。ところが、ここでは反対派がそのような取り組みさえ拒否した。

そこで2011年3月に東京電力の福島第一原発事故が起きてしまった。そのまま上関の工事はほぼ止まって10年が経過した。振り上げた拳を下ろす場のなくなった外部の政治活動家は、沖縄や福島での反政府運動に行き、上関町は静かになった。

そして、この対立が町づくりにも影響してしまった。上関町の基幹産業は、漁業と観光だ。しかし原発で対立してしまい漁協、農協、町が一体となった運営ができなくなってしまったという。原子力誘致派も、それ以外の振興策のカードを示せなかった。町の人口は2427人(22年10月1日現在)だ。40年前の3分の1ほどに減り、高齢化率(65歳以上)は約58%と全国的にも高い。町はズルズルと衰退した。

高齢化という問題が混乱を収束させた

原子力を巡る状況は変わった。その一因は関係者の高齢化だ。この町で騒いでいた政治団体や、支援プロジェクトは、2014年を最後にホームページが止まってしまった。前述の地元リーダーをはじめ、高齢化前述の反対運動の中心人物は、80歳前後でほとんど政治活動に動かなくなってしまったという。支援していた過激な政治団体も、機関誌の発刊は2014年に止まり、ホームページを見てもほとんど活動していない。メンバーの高齢化が進み、活動できないのだろう。

ニュース映像に流れていたが、今年8月の上関町の町議会では「反対派」と称する高齢の人たちが、議員や町長が町議会に行こうとしているのを、暴力的に妨害しようとしていた。私のここまでの説明を読めば、この「反対派」がどのような人かは理解できるだろう。しかし、その数は減っている。

上関町の原子力問題で、反対運動が沈静化しつつあるのは良いことだが、その理由がおそらく「高齢化」なのは、日本の今の問題を表しているようで、暗い気持ちになる。

上関町のウェブサイトと地図

地元の人が静かに議論できる状況を

建設が可能となった場合には、地域住民が電力会社と協調して、地元にも、電力会社にも、日本全体にも利益を提供する施設を作ってほしいと思う。関電はこの中間貯蔵施設問題で原子力発電の活用が危ぶまれている。さらに中国電もこの施設がない。引き受ける上関町にも、経済的恩恵があるはずだ。

そのためには、地域住民と電力会社が、「反対のための反対」で困ることなく、静かに話し合いのできる場を作ってほしい。

日本の原子力問題は、このように関係ない部外者が介入して騒ぎになる事例が多数ある。どのような意見も自由だが、「暴力」による少数派の妨害、また政治イデオロギーによる妨害はやめてほしい。地元の人を中心にした利害関係者(ステークホルダー)が静かに、合理的に、合意をまとめる状況を作るべきだ。

【メディア論評/10月5日】「経産省執務室の施錠解除」を巡る報道の背景を読む〈下〉


執務室施錠措置導入の発端を紐解く

〈上〉で述べてきたような形で、経産省執務室の施錠措置がなされて6年、記者クラブの記者もエネルギー企業などの担当者も替わっていき、状況は変わらずにきた。ところで、そもそも他省庁が施錠していない中で、なぜ経産省で施錠が始まり、しかもなかなか解錠措置に至らなかったのか。

前出の毎日新聞8月17日付はこの点につき、次のように述べる。〈施錠ルールを巡っては、導入の2週間前にあった日米首脳会談に関連し、経産省が作成に関わった資料が政府内の調整を前に一部メディアで報道され問題となったため、こうした経緯がルール導入の背景にあったとの見方があり、国民の知る権利と情報管理の在り方を巡り問題になっていた。〉

これについて、筆者の見聞を述べたい。

2017年1月20日、トランプ米国大統領が誕生した。2月10日からの日米首脳会談を控えた2月初め、同会談で提案する経済協力の一つとして、米国のインフラ開発に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の投資資金を活用する方向で調整されている、との報道が出た。

◎日経新聞2月2日付〈公的年金、米インフラに投資、首脳会談で提案へ - 政府、雇用創出へ包括策」

政府が10日にワシントンで開く日米首脳会談で提案する経済協力の原案が明らかになった。 GPIFが米国のインフラ事業に投資することなどを通じ、米国で数十万人の雇用創出につなげる。……インフラ分野では、米国企業などがインフラ整備の資金調達のために発行する債券をGPIFが購入することが柱だ。 GPIFは130兆円規模の資金運用のうち5%まで海外インフラに投資可能。現時点で数百億円にとどまっており、拡大の余地が大きい。〉

この報道については、衆議院予算委員会の質疑で取り上げられた。安倍晋三首相(当時)は、政府から独立して純粋に投資効果を追求するのが原則のGPIFの資金活用について、「考えていない。GPIFは独立して運用している。私がこれをやるな、これをやれ、と言うことはできない」と否定した。この「GPIFの活用」という話が、後述のように趣旨と異なる形でリークされたことについて、政権中枢幹部が激怒したと伝わり、誰がメディアにリークしたのかというのが霞が関界隈では話題となった。上記の政権中枢幹部に近く、当時、自民党内でトランプ政権対策を担っていたある議員は、下記のように述懐する。

「トランプ大統領誕生を受けて、日米の首脳会談等に備えて、自分は政権中枢幹部に次のようなアイデアを提案した。日米両国は公共インフラの老朽化などにより、インフラ投資が必要な時代 となっているが、双方ともそれを公共投資で賄うことは困難であり、民間資金を活用する必要がある。幸い日本でも生保等に長期で運用できる資金が余っている。日米相互に、日本側のマネーが米国のインフラ投資に、米国側のマネーが日本のインフラ投資に活用できるような制度的なプラットフォームを作ってはどうか。   このスキームが成り立つようにすれば、日本では、生保等も、また結果としてGPIFなどもこの枠組みを使って米国へのインフラ投資ができる、という案であった。これに対してその政権中枢幹部も『いいではないか。検討を進めるべし』と言ってくれた。本来は筋のいいテーマとして、今後の日米の経済対話の折、ネタがなくなった時のカードとして使おうとしていた」

「ところが構想をよく理解できない人たちが、GPIFの活用という形に矮小化し、一方でその活用ボリューム感を膨らませてリークした。日経にリークした内容は独り歩きし、国会の質疑にまで取り上げられた。その政権中枢幹部は、“最悪の出方をしたな”とかなり怒っていた。その後、このリークの主として、当時のある経産省幹部に罪がなすりつけられた。(発言ママ)また、経産省では世耕大臣が、記者会見ではGPIF問題との関係性は否定したが、情報管理の徹底のため”執務室の施錠を実施した」

このリークの主とされた経産省幹部は、今も現役の別の幹部によれば、 「あの人は、“守秘義務の権化”のような人」と言われた人物であった。筆者は当時、上記の政権中枢幹部に近い議員が、リークの主とされた経産省幹部と同席した場で、「自分は経緯を理解している」旨の態度を示したことを覚えている。

このようにして実施に至ったとされる施錠問題について、記者クラブは「情報管理への留意の必要性を認めつつ、国民の知る権利を確保することとのバランスへの配慮を求める」という経緯から考えると、ある意味空しい要請を幾度もすることとなった。

毎日新聞の報道後に解錠は進んだのか

それでは、毎日新聞の報道のように解錠は進んだか。毎日新聞の報道後、全国紙はベタ記事あるいは掲載せずという状況であったが、経産省内にも記者が常駐する業界紙の電気新聞が記事を掲載、その後の状況にも触れている。

◎電気新聞8月18日付〈経産省、執務室解錠へ〉〈ただし現実は「閉」多く〉

〈……施錠の有無は各部局、各課に委ねており、電力・ガス取引監視等委員会事務局の場合は個別の企業情報を扱うため施錠を続けている。資源エネルギー庁も8月17日時点ではほとんどのドアが施錠されている。……執務室の施錠は、17年2月に当時の世耕弘成経産相が企業情報や通商交渉に関する機微な情報を扱っていることを理由に始めた。当時、産業界から「官民の関係が希薄化する」などの意見が出ていたが、ルールは変わらずにいた。ルール変更により、中小企業庁や商務・サービスグループなど、一部の部局では施錠は解除された。一方で、経産省別館のエネ庁が入るフロアを歩くと、ドアが施錠された状態はいまだ続いている。今後の施錠についても各部局、各課の判断となるが、経産省広報室は、「ドアの開け閉めに関わらず、外部とのコミュニケーションは引き続き取っていく」としている〉

なお、電気新聞では、同日の紙面で、上記記事が掲載されているその下に「デスク手帳」という常設のコーナーを配置し、その中で〈国会待機の時間にはよく相手をしてもらえた。霞が関随一、オープンな官庁の復活を切に望む〉と懐古している。

ジャーナリスト 阿々渡細門

【メディア論評/10月4日】「経産省執務室の施錠解除」を巡る報道の背景を読む〈上〉


毎日新聞8月17日付は、〈経産省、執務室施錠解除〉〈5年ぶり 機密扱う一部除き〉との見出しで、経産省が機密を扱う一部を除き執務室の施錠を5年ぶりに解除したと報じた。この件の概要を見るため、少し長くなるが引用する。

◎毎日新聞8月17日付

〈情報管理を理由に、2017年から、庁舎内のすべての執務室を施錠する措置を取ってきた経済産業省が8月10日から、機密性の高い情報をやり取りする一部の部署を除き、施錠の解除を認めていたことが明らかになった。同省は「常時施錠しなくても従来通りの情報セキュリティーが維持できる部署については施錠しなくてもよいルールに改めた」と説明している。他省庁は機密情報を扱う部署のみ施錠しているが、経産省は全執務室を施錠していた。〉

〈経産省の施錠ルールは、自民党の世耕弘成参院幹事長が経産相だった2017年2月に導入された。原則として庁舎内の全執務室が電子施錠され、来訪者や記者は廊下やエレベーターホールにある内線電話で職員に連絡し、解錠を依頼する。取材も事前連絡したうえで、執務室ではない別室で行うことが基本となっていた。〉

〈施錠ルールの見直しについて同省は、資料のペーパーレス化が進んだり、執務室の改装などで職員の固定席がないフリーアドレス化が導入されたりして情報管理の仕方が変わったことから、全執務室を常時施錠する必要性があるのかを省内で検討。その結果、常時施錠しなくても従来通りのセキュリティーが維持できる部署については、施錠しなくてもよいルールに改めたという。……新聞社や通信社、テレビ局でつくる経済産業記者会は“情報公開の  流れに逆行する懸念がある”などとし、同省に全室施錠の撤回を求めた申し入れを複数回行ったものの、対応は変わらなかった。〉

記事中では、経産省を取材する際、日頃どのように動くかも説明されている。施錠措置に対するのは、〈来訪者や記者〉とあるように、メディアだけでなく、訪問する民間の企業も同様である。余談だが、地方の大手エネルギー各社は、許認可事項の説明などの関係もあって、東京事務所を置いている。かつては、そこの勤務者はいわゆる“廊下トンビ”をして経産省の関係部署とコミュニケーションを取ろうとしていた。施錠措置がなされて以来、東京事務所の幹部は、秘書が付いていて入り口が解放されている幹部の所を回り、若手はアポを取って事務説明を行うといった行動パターンにシフトしているようだ。

施錠措置に関する記者クラブと経産省のやり取り

もちろん、官庁においても、防衛や経済安保など、近年の社会経済環境の中で情報管理が厳しく求められるようになっているという事情はある。企業においても、情報管理の度合いは進んでおり、執務場所への外部の人間のアクセスはかなり厳重に管理されている。メディアにおいても編集局などの状況は同様といえよう。

そういう中で、記者クラブは、〈通商・安全保障や企業機密など多岐にわたる機微な情報が漏れることによって国民や企業の利益が損なわれる可能性に留意する必要性を認めつつ、国民の知る権利を確保することとのバランスへの配慮を求めてきた。〉 (下記の「記者クラブの施錠撤回の申し入れ書」参照)

しかし、毎日新聞の上記記事が書くように、〈経済産業記者会は、……同省に全室施錠の撤回を求めた申し入れを複数回行ったものの、対応は変わらなかった〉という経緯がある。

例えば19年12月、(世耕大臣から菅原一秀大臣を経て)梶山弘志大臣就任の際に、記者クラブは施錠措置の撤回を求める申し入れ書を提出した。その表題にあるように、申し入れた内容には、「施錠措置の撤回」だけでなく、「取材対応改善」も含まれていた。

◎経済産業記者会「庁舎管理強化に伴う施錠措置の撤回 及び 取材対応改善の申し入れ」(19年12月13日)

〈世耕弘成元経済産業大臣在任時の17年2月27日に始まった庁舎管理の強化について、経済産業記者会からはこれまでに4回、執務室の施錠措置の撤回を求める申し入れを行い、現在まで聞き入れていただいておりません。所属各社記者による取材への支障は大変大きいと実感しており、大臣交代に合わせ、改めて下記の通り申し入れをいたします〉

〈2017年に始まった執務室のセキュリティー強化について、世耕元経済産業大臣はその目的について繰り返し、“適切な情報管理が行政の信頼性を高める”との見解を示されてきました。経済産業省は通商・安全保障や企業機密など多岐にわたる機微な情報を持ち、情報漏れによって国民や企業の利益が損なわれる可能性はあります。経済産業記者会はこれまで、こうした点への留意の必要性を認めつつ、国民の知る権利を確保することとのバランスへの配慮を求めてきました。……現状の施錠措置について、記者会所属各社からは「施錠措置によって取材に支障が生じている」「施錠措置導入後、経産省側が示した『コミュニケーションが後退することがないようにする』という方針は十分に実施されていない」との意見が出ています。記者会としては、①執務室の施錠措置を撤回すること、②施錠措置が部分的にでも続くのであれば、電話・メールを含む取材対応を早急に改善することを求めます。〉

記者クラブは、この申し入れの際、会員各社にアンケートを行い、どういう「支障」が出ているかを列記したものを別紙として添付している。そこに出てくる記者が感じる“支障”とは、経産省側が示した「コミュニケーションが後退することがないようにする」という方針とは相いれないものであった。

◎「ヒアリングで出た記者会メンバーの意見(抜粋)」 ←申し入れ書に添付

〈※施錠により担当者に円滑に取材ができなくなっている。居留守と思われる事案が頻発している。また、担当者が不在と言われたまま、その後、折り返し電話を得られないことが多々ある。経産省は「コミュニケーションが後退することがないようにする」としていたが、それが十分に行われていないと感じている。施錠を続けるならば、取材機会を確実にする努力をしていただきたい〉

〈※担当課長に取材のアポを入れようとしても、「不在」「いつ戻るかわか  らない」という回答しか帰ってこない。こちらの意向を伝えて折り返しの連絡を依頼しても、その後一切連絡が無い。この調子で、挨拶すらできていない担当課長、補佐がたくさんいる。特に電力・ガス事業部で顕著で、なかでも原子力関連部署はほとんどがこうした対応である〉

〈※急ぎの確認が必要な案件でも、「取材への回答は課長に集約している」としか答えず、事実関係の確認すらとれない。その課長がいつ帰ってくるかも答えず、結局確認がとれないことがある〉

〈※経産省にとって都合の良い時だけ話をするという、取材内容による選別が行われている気がする日々の雑談など、現場の職員と相互に信頼関係を作るためのやり取りが不可能になる。〉

ちなみみにこの頃、経産省の今も現役のある幹部は、筆者に「若い課長補佐クラスの中には、施錠されていると仕事がはかどっていい、と言う連中も出てきている」と述べていた。なお、上記の申し入れ書を提出した後日、大臣記者会見でのやり取りは下記のようなものであった。

◎梶山経産相(当時)の閣議後記者会見(19年12月17日)

【記者】世耕元大臣在任時の17年2月に始まった庁内管理の強化について、経済産業記者会は12月13日、執務室の施錠措置の撤回を求める通算5回目の申し入れを行いました。経産省は17年の施錠措置の導入後、コミュニケーションが後退することはないようにすると説明をしていました。しかし、今回の申し入れ書にも明記されておりますが、報道各社からは、頻繁に居留守が使われる、経産省にとって都合のよいときだけ話をする、取材内容により取材を受けるかどうかの選別が行われているなど、コミュニケーションが後退していることを指摘する意見が出ています。 経産省の報道対応が悪化しているという指摘が多くあることについて、ご所見をお伺いします。

【経産相】経済産業省では、企業などからの訪問者も非常に多いんですね。ですから、機微な情報を扱うことから、17年2月に庁舎のセキュリティーを強化したと承知しております。施錠の結果、取材対応を含む外部とのコミュニケーションは後退することがあってはならないと考えております。これまでも取材対応については、取材申し込みに丁寧に対応し、政策の背景や狙いなど、適切な説明を心がけているところであります。ただ今回、この申し入れをいただきました。申し入れに書いてあることもよく読ませていただきましたけれども、皆様からの、その対応は不十分ではないかという内容もあります。

改めて私から事務次官に取材対応を含め、丁寧に外部とのコミュニケーションを行うように指示をして、次官からそれぞれの部局にしっかりともう一度促すようにという対応をさせていただいたということであります。できる限り皆さんの申し入れに応えられるような取材体制をとるということをもう一度心がけてまいりますので、ぜひそれを見ていただければと思います。

以下、〈下〉に続く。

ジャーナリスト 阿々渡細門

【論考/9月28日】サウジ石油戦略の深層(下)「単独主義」が招く危険性


国際石油貿易ルートに歪み 西側は合理的な石油政策欠く

第3に、国際石油貿易ルートに歪みが生じ、それがアジア新興圏で集中的に現れている。

ロシアのウクライナ侵略が国際エネルギー供給上にもたらした最大の変化は、それまで一体的な地域市場を形成していたロシアと欧州の分離である。21年にはロシア石油輸出の45%がEUに向かっていたのが、今年第2四半期はわずか6%に止まる。日量300万バレル弱の激減だが、その代替として、インドおよび中国向け輸出量がほぼ同量増加し、特にインド向けの伸びが際立つ。インドのロシア原油輸入は2021年に日量10万バレル弱であったのが、今年第2四半期には日量約200万バレルと激増している。

確かに、ロシアから欧州への石油供給が双方から遮断されるのは、両者の深刻な敵対関係からして不可避。その結果として欧州・西側が非ロシア世界からの石油輸入を増し、これによって押し出されたインド、中国他の需要が、供給側で同様に押し出されたロシア石油に向かうことも、当然の帰結。またロシア石油供給には、ウクライナ侵略戦争に伴う広範な不確実性が伴うから、インド、中国ほかの買手が、そのリスクに見合う割引価格を求めるのも、理に叶う。

むしろ問題は、西側が一方的に課す上限価格(原油はバレル当たり60ドル)によって、その割引幅が極端に大きくなり、ロシア産石油を他の追随を許さぬ安値とし得ることだ。ロシア産ウラル原油は、21年には北海ブレント原油価格に対してバレル当たり約2ドルの割引で販売されていた。しかし上限が課せられた後は、ブレント原油が80ドルになれば、この割引幅はその10倍の20ドルに広がる。

実際、今年第2四半期にロシア産はインド原油輸入総量の4割を占め、その単価はサウジ産に比してバレル当たり20ドル弱も安かった。一方、サウジ産の数量は前年並みにとどまり、占有率が昨年4月の19%から今年6月には13%へと低落した。

以上、要約すれば、サウジは自国が国際石油市場に与える影響力に関し、自信を強めている。一方で、西側が合理的な石油政策を欠き、国際石油秩序維持の責任を負うとしない身勝手さに、おそらくは不満を募らせている。さらには、アラビア海を隔てた隣国であり、最重要市場の一つであるインドにロシア産原油が異常な廉価で流入し、サウジ産を締め出す現状は長く座視できない。インド市場ではイラク、アラブ首長国連邦等、他の中東湾岸産油国とも競合関係にある。

サウジが単独追加減産を行いつつ、ロシアに石油輸出抑制を求めるのは、この自信と苛立ちの表明と捉えてよかろう。ロシアとは「連携」しているのでなく、むしろロシアを牽制して、中東産油国の「縄張り」であるインド、中国等アジア成長市場へのこれ以上の浸透を許さぬ構え、と見るべきだろう。そして次回11月のOPECプラス閣僚級会議に向けて、実効的な生産抑制の負担が自国のみに掛からず、特に「グループA」内で均等化するよう、サウジは強い姿勢で臨んでくるだろう。

サウジ「単独主義」の陥穽 供給途絶の危険性高まる

国際原油価格は、サウジアラビアの単独追加原産と期を一にして今年7月以降上昇局面に転じ、9月にはブレント原油もバレル当たり90ドル台に乗った。また、同国の追加減産の年内継続はそれ自体で世界的な石油供給逼迫を招くほどの規模ではない。サウジの単独行動は功を奏したかに見える。

しかしサウジが単独主義への傾斜を強めるほどに、産油国集団としてのOPECプラスは凝集力を弱めるだろう。既に「グループB」各国の生産枠は形骸化し、「グループA」内でもサウジに対する比率としての生産枠の割当基準が不明瞭となる。ロシアに至っては追加削減対象を生産量から輸出量へと変え、かつその基準も対象(原油のみか、石油製品も含むのか)も曖昧である。OPECプラスを忍耐強く束ねる指導力を、サウジは保ち続けるだろうか。

サウジは、通常は市場志向の現実的な姿勢を保つが、これが時に政府首脳部による衝動的・硬直的な方針に置き換わることがある。14年11月のOPEC総会を減産見送りに追い込み、これを引き金とした原油価格の暴落・低迷にかかわらず、以後2年にわたり自国原油生産量を日量1000万バレル超の記録的高水準に据え置いたのは、その一例である。また20年4月、移動制限の広がりで世界石油需要が激減する中で、減産に応じぬロシアを不満として、日量1200万バレルの原油生産能力を全稼働させてしまい、結果として米国WTI原油価格をマイナス38ドルという異常値にまで下落させたのも、類似の事例だ。

ウクライナ危機の続く現在、サウジが市場と対話する本来の姿勢を忘れることがあれば、国際石油秩序は大きな支柱を失う。事実、ロシアは9月21日以降、軽油・ガソリン輸出を一時停止しているが、数量の大きさから見て、これは既定の石油輸出削減の一環ではなく、長引く戦争の影響で、ロシア国内向け供給が制約されている兆候と解すべきだろう。またリビアは国家分裂状態の中で甚大な洪水被害に見舞われ、同国の石油生産・輸出能力に対する懸念も再燃している。

本格的な石油供給途絶の危険性は、高まっている。従って、西側とサウジが、国際石油秩序維持を共通目的として協働する必要性も高まっている。日本を含む西側が石油政策を現実的に立て直しつつ、サウジの生産行動が機動性を保つよう働きかけることが重要である。サウジが過度に単独減産に拘泥し、これがロシアと共謀して石油価格を吊り上げる行為と誤認され、西側諸国とサウジとの協働が困難になるような事態は、避けねばならない。

小山正篤 石油市場アナリスト

【論考/9月27日】サウジ石油戦略の深層 (上)ウクライナ危機で強まった主導権


前稿(7月13日・論考「サウジアラビア悪玉論の的外れ」)で論じたとおり、昨年11月および今年5月のOPECプラス原油減産は、基本的に市場志向的な動きであり、昨年の供給過剰を解消して世界需給の均衡回復を図るものと理解できる。いわば動くストライクゾーン目掛けて球を投げ込むようなもので、昨年11月に「ど真ん中」と思って投げ込んでみたら、(世界需要増の減速で)ストライクゾーンが下がりそうなので、今年5月には低めの球でストライクを取りに来た。

ところが予想を裏切って、原油先物・スポット市場の反応は鈍かった。5、6月と続けてブレント原油価格はバレル当たり約75ドルと、昨年来で最低水準を記録。低めのストライクのはずが、高めのボールと判定されたようなものだ。

これに反発するように、サウジラビアは7月以降、単独で追加減産(日量約100万バレル)を始めた。他のOPECプラス参加国(特に前稿で「グループA」とした中核集団)が同調しなかったのは、やがて生産調整が価格に反映されると見たからだろう。サウジアラビア石油相による「投機家」に対する攻撃的な発言も伝えられ、この単独減産に関しては短兵急に自力を頼む衝動性が感じられる。

なぜサウジの主導権が強まったのか

ところで、サウジにとって、ロシアの対ウクライナ侵略戦争開始後の国際石油情勢は、何を意味しているだろうか。

まず第1に、産油国・サウジの主導権が強まった。

日量1000万バレル以上の原油生産能力を有するのは、世界にサウジ、米国、ロシアしかない。この「ビッグ3」のうち、(IEAによる9月時点の見通しによれば)米国の原油増産量は22~23年平均で日量70万バレル弱と決して小さくないが、来年はこの半分程度に減速と目されており、もはや生産量を倍増以上させた10年代当時の勢いはない。そして今、有事のロシアに生産能力増強の見通しは立たない。

OPECがロシアを筆頭とする非OPEC・10ヵ国を巻き込み、OPECプラスとして原油生産調整を開始したのは2017年初頭だが、これは油価低迷期の当時、OPEC・非OPEC参加国双方に、互いの生産量を縛る誘因が強く働いたためだ。平たく言えば、OPECプラスは競合する産油諸国が互いの生産抑制を図る「足の引っ張り合い」の集団である。ロシアがウクライナ侵略の暴挙に出て自ら招いた生産制約は、サウジの立場を強めた。

産油国間競争から脱落したのはロシアばかりではない。前稿で、OPECプラスのうち生産量が目標量に及ばない11ヵ国をまとめて「グループB」としたが、これも脱落組である。

OPECプラスは20年5月に、コロナ禍による未曽有の需要収縮に対応して日量約1000万バレルの大減産を行ったが、その際に基準としたのが18年10月時点の生産実績(日量4400万バレル弱)だった。21年7月までに日量3800万バレルへと回復させた後、OPECプラスは生産枠を毎月、日量約40万バレルずつ引き上げていき、遂に22年8月の目標量を当初の基準量にまで戻した。しかし投資不足に苦しむグループBの実生産量は基準量(すなわち約4年前の実績)に遠く届かず、これら産油諸国の落伍は明白となった。

さらに、イランの石油輸出は米国の課す経済制裁下に長く低迷し、「失敗国家」化したベネズエラにも顕著な増産の見通しは立たない。一国また一国と、他の有力産油国が生産停滞に陥る中、サウジアラビアの影響力が強まる。ちなみみに「グループA」の原油生産量の4割以上を同国が占めている。

混乱する西側の対応 結果的にサウジを利する

第2に、協調すべき西側の石油政策が、独善的で混乱している。

サウジにとっては、原油価格の暴落も暴騰も、共に望ましくない。石油危機の事態は各消費国を脱石油に走らせ、不可逆的な需要の喪失を招くからである。ロシアをOPECプラスにとどめ、意思疎通を図る意義は、そこにもある。実際、サウジは昨年を通じて常に日量100万バレルを超える原油生産余力を堅持したが、これは国際石油市場の暴走を防ぐ上で適切な措置だった。しかし国際石油秩序の維持はサウジ単独で担い得るものではなく、特にこれまで共同の担い手であった米国をはじめ西側の同調が必要である。

しかし西側の対応は一貫性を欠き、混乱していた。実体的な石油供給途絶がないにもかかわらず、昨年に西側は米国主導下に国家石油備蓄を大量(日量約100万バレル)放出し、石油価格抑制をその目的として公然と掲げた。いわば防火水槽に貯めた水を、火事も起こらぬうちに勝手に転用して放出したようなもので、明らかに規範に反していた。さらに非ロシア世界全体が致命的にロシア産石油輸入に依存する中で、西側は自らの輸入源をロシア外(北・中南米、中東、アフリカなど)に振り替えておきながら、ロシア石油の海上輸送保険には制裁を課して他国の石油確保を脅かした。妥協策としてロシア石油海上輸出価格に上限を設定したが、制裁回避のための「影の船団」がぞく生して石油輸送を不必要な危険にさらした。

西側には「脱石油」政策はあっても有効な石油政策がない。5月のG7広島サミット首脳コミュニケに「石油」という単語が一度も使われなかったことは、これを象徴している。この石油政策の不在の中で、西側が次々に打ち出す方策(目的外の大量備蓄放出、対ロシア海上石油輸送制裁と上限価格、および日本の巨額の国内石油価格補助)は、いずれも石油供給逼迫時における対応能力を削ぐものばかりだ。

この西側の思考の混乱振りは、国際石油秩序維持を図る上で、事実上サウジへの依存を深めたことを意味する。ここでも同国の主導権が増した。

小山正篤 石油市場アナリスト

【目安箱/9月26日】米国が狙うか?水素の対日輸出 実用化の難しさを考える


やや旧聞になるが、NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)が8月末に講演会を行なった。その中で、所長の山本隆三氏が水素とエネルギー問題の分析をした。日本では水素への期待が先行しているが、講演聞きながら、実用化までの難しさを改めて考えた。

講演する山本隆三・国際環境経済研究所所長

EUは温暖化と脱化石燃料を探る中で、ロシアの天然ガスに依存しながら再エネの拡大を進めた。全EUで見ると2020️年に、天然ガスの46.8%はロシアからのものだ。

そうした状況で2022年2月にウクライナ戦争が始まった。化石燃料のロシアへの依存度を高めた欧州では、今は逆にロシアから離れるために、大変な苦悩をしている。

そして世界のエネルギー供給を見ると、エネルギー多角化を進めても、21年に世界の8割は今でも化石燃料で、その完全な転換は難しい。一方で、気候変動対策で50年にCO2の排出を、実質ゼロにする目標を主要国は掲げている。おそらく不可能だが、その実行性も課題になっている。

◆化石燃料後を考える米国の産業界

脱炭素のためのエネルギー源で、世界が注目するのは水素だ。「ただし現時点ではエネルギー効率、価格の面で水素の利用は課題があり、その採用が合理的な選択とは思えない」というのが、山本氏の考えだ。水素はその製造段階で膨大なエネルギーを使う。山本氏は、今年4月に米国を訪問し、研究者、業界団体、当局者と意見交換をした。2023年6月に米国は、「国家クリーン水素戦略」を発表している(JETRO記事)。

米国が水素の利用拡大に注力する背景には、米中の経済覇権争いがあると、山本氏は指摘した。再エネでは太陽光、風力の製造設備で、中国がトップシェアを占める。水素の利用はこれからインフラが世界各国で作られる状況だ。米国政府、そしてエネルギー産業は、水素によって中国に対して世界のエネルギーシステムづくりで巻き返しを図ること、そして化石燃料の後のエネルギーシステムのことを考え、水素に注目しているという。

水素1tを化石燃料から製造する場合には、石炭では約20tのCO2、天然ガスでは8~9tが出る。出たものをCCS(地下駐留)と組み合わせる構想がある。また水の電気分解による製造には大量の電力が必要で、その点で原子力発電が期待されそうだ。化石燃料から出る燃料を含めて「クリーン水素」と米国は前述のリポートで名付けた。このネーミングには現実をごまかす作為があるが、国の重要な目標と米国政府と産業界が位置付けているのは間違いない。

米政府は、水素の生産量を2050年に5000万tと想定しているが、米国の石油ガス業界は、もう少し大きな数量を想定し、そのうち9割を天然ガスから作りたいとする。ただし、山本氏は効率性の観点からそれが実現するかは難しいとの考えだ。「米国のエネルギー関係者たちは、官民共に、化石燃料の少ない東アジア、特に日本と韓国に天然ガスの代替物として水素を売り込むことを考え、その需要を広げたがっているようだ」という。

水素が足りない日本、先が見えず

それでは、日本の水素の利用は今後どうなるのか。日本政府は23年6月に「水素基本戦略」を定め、水素を次世代の重要なエネルギー源としている。そして、50年に2000万tの需要を産むことを目指し、それに応じた供給体制も作ることを予定している。しかし現在の生産量は年間数十万tで、かなり非現実的な目標だ。

例えば、製鉄業は今、CO2を少量しか出さない水素を使った製鉄法を検討している。日本のJFEがその採用をめぐる試算を出したが、日本の高炉製鉄が必要とする全エネルギーを水素とすると、年間2000万tの水素が必要になるそうだ。水の電気分解で製造すると必要な電力量は、日本の今の発電量と同じだ。山本氏はそれを紹介し、「水素に期待はあるが、現時点でそれがエネルギーの中心になるか見極めは難しい面がある」と指摘した。

欧州発のエネルギー危機を受け、同盟国内でのエネルギーと資源の確保が重要になっている環境下、米国からの水素輸入は、考えられる選択肢ではある。しかし、これまで述べたコストの問題があり現時点では採算性は非常に難しい。さらにその輸入は専用船が必要で、さらにコストがかかるだろう。

日本は稼げる産業を「失われた30年」といわれる直近に作り出すことができず、また産業構造の転換もできなかった。新しい産業の創出を模索し続けなければいけないが、それをしやすくするためには製造などのコストを下げることを常に考えるべきだと、山本氏は指摘する。そして「水素の採用もそれに基づいて判断するべきだ」とまとめた。

◆米国に引きずられず、日本のためになる水素の活用を

岸田政権は経産省主導でGX(グリーントランスフォーメーション)を国の重要な政策にしている。ただし、人の意見を聞きすぎる岸田首相の政権らしく、注力する24業種を掲げて総花的だ。そして水素はその中に埋没しまった。そして水素に関しては、山本氏の指摘した製造、需要面の課題も未決定のままだ。日本も本腰を入れるべきであろう。

コストと効果を見極めた、日本での水素の適切な活用が期待される。まだ水素は世界的にエネルギーへの利用が始まったばかり。経済が衰えたとは言っても、日本の産業界、エネルギー業界は、その水素利用のシステム作りに関わる技術力をまだ持っている。しかし、米国からの外圧によって水素の利用を拡大する、もしくは先行しても中国に主導権を取られるという、この30年、産業政策で繰り返した展開は見たくない。

【目安箱/9月22日】処理水放出で関係者の動きを考察 残念な日本学術会議の沈黙


福島第1原発の処理水は8月24日から海洋放出された。この問題で、それぞれの関係者の行動を「よく働き、自らの責任を果たしているか」という観点から、査定してみた。その中で分かったのは、日本の学会、科学者の動きが鈍いことだ。

TBS NEWS DIG Powered by JNN より

◆予想外に頑張る経産省と西村大臣

今回の汚染水の放出で、当事者の東電は、長い期間、処理水をめぐる広報を丁寧に行ってきた。専門サイトを立ち上げ、大変詳細で、わかりやすい内容だった。この努力は評価されるべきであろう。

予想外の頑張りが目立ったのは日本の政治と行政だ。西村康稔経済産業大臣は、自らSNSでの発信、メディアへの露出を繰り返した。経産省、外務省、環境省は積極的に各種のSNSに情報を提供し「#STOP風評被害」と言う言葉を広めた。問題に直結する水産業を所管する農水省は目立たなかったように思える。

SNSのXで熱心に広報を続けた西村経産相

日本のメディアは、産経が「処理水問題は情報戦」と主張し、国内外の異様な報道や意見を強く批判した。その他のメディアは、処理水放出の意義について積極的に語らなかった。そそして懸念などマイナス面ばかりを述べ、消極的に批判していた。政府を批判する漁師が少ないために、どのメディアも、福島の同じ漁師を取材していたのは滑稽だった。特に東京新聞は、反対派の主張を詳しく報じた。同紙を一般の人々が「風評加害」と強く批判している。

◆海外からの批判は一服

処理水放出を批判する人は国益、そして福島、さらには自分の利益を考えてほしい。その放出は福島事故の処理を先に進め、それは福島の早期復興と国民負担の軽減につながる。

日本人の大勢はそのことをよくわかっていた。処理水放出に大きな批判はなかった。各種世論調査でも放出を認める意見は6割を超えた。ネット上では、放出を騒ぐ人々を強く批判する意見が目立った。しかし、それでも日本共産党、れいわ新選組などの政治勢力は処理水を「汚染水」と言い続け、政府批判に使った。日本の大半の人々から批判される一方なのに、理解に苦しむ行為だ。

韓国では野党や左派勢力が「汚染水」と騒いだ。しかし韓国政府は、原子力学会、企業が一体になって、科学的事実を伝え、「デマは韓国の水産業、飲食業に悪影響を与える」と批判した。

中国政府の攻撃は「日本の水産物の輸入禁止」など放出直後は強いものだった。また一般民衆が怒って日本に電話することが広がるなど、異様な行為も行われた。しかし9月になると中国政府の批判、嫌がらせは一服している。中国政府はいつものように、共産党の一党独裁政権での庶民の日常生活での不満を解消するため、日本を批判するように仕向けたように思える。

◆沈黙をした日本の科学者

処理水問題の関係者の中で残念なのは、日本の原子力に関わる科学者の動きが鈍かったことだ。メディアは処理水放出を認める科学者の意見を積極的に出さなかったが、それでも科学者の発信は少なかった。

日本学術会議は、日本の科学者を代表する機関で、政府に科学的知見を提供し、また政府からの諮問に答える役割がある。年間約10億円の国の税金が投入されて運営されている。しかし、政治的な動きが強いと世論から批判を受け、今、その運営の在り方が議論されている。

そんな状況にある日本学術会議は、今回の処理水問題で、声明や科学的分析を全く出さなかった。同会議のウェブサイトにある提言と広報一覧で確認できる。処理水問題は、その安全性の科学的評価が論点になっている。福島事故で出た放射性物質の危険性が外国や国内の一部勢力から批判されている。しかし、同会議はそれに沈黙している。

残念ながら日本原子力学会も問題に積極的にコメントしていない。

◆福島問題で日本学術会議は動かず

日本学術会議では、年間20−30の社会問題に対する提言を出すが、これまで福島事故と、放射能問題について、積極的に議論をしなかった。事故直後に同団体は2011年6月に政府の諮問に応じて、会長談話「放射線防護の対策を正しく理解するために」を公表した。そこで健康被害はないことを断言しなかった。そして2016年ごろに社会が落ち着いてから、健康被害の可能性は少ないと、いくつかの報告書を出した。

福島の放射能問題は、実際に健康被害は起きるものではなかったのに、「危険だ」という感情論で状況が混乱してしまった。その是正に学術会議は関わらなかった。

日本学術会議の会員は210人いて、任期6年で入れ替わる。福島事故前後に会員だった原子力関係者に、「なぜ福島の問題に取り組まなかったのか」と聞いた。同会議内部では、積極的に関与すべきという声はあったという。しかし2014年ごろまで反原発の動きは感情的で過激だった。学者の多くは、そうした罵倒や攻撃的な批判に慣れておらず、騒動に巻き込まれることを恐れた。そして事務局の役人も面倒を嫌がり、動かなかったという。「その一方で、文系の学者主導で反原発を主張する動きが常にある」と、その関係者は苦々しげに語った。

処理水問題での学術会議での沈黙の理由を筆者は調べていないが、同じ事情があるのかもしれない。

韓国では原子力の学会、関係者が処理水は安全だと政府と学会、科学者が一体になって、おかしな国内のデマに反論していた。当事者の日本の科学者が動かなかったのとは対照的だ。

◆不作為が、原子力・エネルギーの発展を妨げる

福島原発事故は、事故を起こしたことも問題だが、一方で事故後の混乱にも多くの問題があった。その混乱の理由の一つは、科学的知見が政策に反映されず、社会に広がらなかったことだ。そして科学的事実を活用せず、感情で物事が動いてしまった。

科学が感情に負けた。理由の一つは、原子力関係の科学者たちが、問題に積極的に向き合わず、積極的に社会とコミュニケーションを取らなかったことにあるだろう。前述のように、福島問題から逃げ出したように見える日本学術会議がその典型だ。

原発事故から12年経過しても、日本の科学者の多くが厄介な問題から逃げ出す傾向は変わらないようだ。そのことが一因になって、原子力やエネルギー問題の正確な情報が今も広がらない。その結果、社会からそれらへの支持が福島事故以来少ないままだ。原子力・エネルギーの学者、関係者の大半の不作為によって、発展が阻害されている。自分で自分の首を絞めているように見える。

今回の処理水問題でも同じ状況が繰り返される。科学者とエネルギーなど社会問題の関係は、このままでいいのだろうか。

【メディア論評/9月21日】エネルギー価格抑制策延長を巡る政策・報道の変遷〈下〉


ところで、今般のガソリン価格高騰とはどういうものだったか。日経新聞はその点について触れている。

日経新聞8月31日付〈出口なき政策 偏る効果〉〈補助、主要国は日英のみ〉

〈ガソリン価格を抑える補助金政策の出口が見えない。根強い物価上昇やインフレ懸念に応じた政府の支援策は欠かせないが、今回の高騰の主な要因とされるのは為替の円安だ。補助金頼みで価格を抑え込む手法は根本的な原因からずれている。米欧の主要国でなお延長しているのは日本と英国だけだ。一時的なものであるべき緊急策が長期化することに伴う副作用の懸念も増す。2022年当初からのガソリン価格上昇分に占める影響度合いを見ると円安要因が8割を占め、原油高要因を上回る。(←日本エネルギー経済研究所試算)〉

〈日銀が金融緩和を続ける限り、円安基調が続く可能性は高く、政府が価格統制しても効果は限定的になる恐れがある。・・・・・・SMBC日興証券シニアエコノミストは、・・・・・・米欧は賃金と物価の相関性が高いと指摘した上で「日本も補助金頼みを脱し、金融政策を正常化していく中で賃金上昇のサイクルを強めていくのが本筋だ」と強調する。日本は一度決めた支援策の出口をなかなか描けない緊急策が長期化するほど次の戦略分野への資源配分は遅れる〉

「出口のない延長」全国各紙の社説は厳しめの論調に

こうした状況下、全国紙各紙の社説は、下記の見出しのとおり、「出口のない延長」について厳しめの論調となった。

産経新聞8月27日付〈ガソリン補助継続 明確な「出口戦略」を示せ〉

日経新聞8月31日付〈ガソリン補助金の出口なき延長はやめよ〉

朝日新聞8月31日付〈ガソリン補助 その場しのぎいつまで〉

読売新聞9月3日付〈一時的措置をいつまで続ける〉

その中で、日経社説では、激変緩和策を維持することの問題点、課題について挙げているので内容を紹介しておく。

〈政府は2022年1月から石油元売り会社に補助金を配り、卸値に反映させて店頭価格を抑えてきた。当初は3カ月間の予定だったが、ロシアによるウクライナ侵攻で原油高が加速すると補助額を積み増し、期限も4度延長した。ピーク時の補助額は1リットル40円に達した。その後、原油価格がいったん下落に転じたため、今年6月から補助額を段階的に縮小し、直近は10円程度に減っていた。ところが産油国の減産や足元の急激な円安の影響で、原油輸入価格は再び騰勢が強まっている。燃料高が家計や企業活動に与える影響は大きい。だが国が補助金で市場の価格決定に介入するのは、本来は禁じ手だ。財政支出は今後の延長でいまの4兆円から6兆円超へ膨らむ可能性がある〉

〈補助の長期化が燃料消費の増加を招いているのも見過ごせない。政府は2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げるが、2022年のガソリンの国内販売量は7年ぶりに増加に転じ、脱炭素に逆行する状況する状況を生んでいる〉

〈当初の狙いが激変緩和にある以上、単純延長はおかしい。消費抑制や移動手段の見直しで対処する余地があるはずだ。低所得世帯や零細企業、農漁業従事者や物流事業者、バスやタクシーなどの公共交通機関など、とりわけ燃料高の打撃が大きい対象もある。支援策はそうした層に的を絞るべきだ。次の期限とする年末に原油高や円安が落ち着く保証はない。出口戦略のないまま補助を引き延ばせば、歯止めが利かなくなる。終了への道筋を明示することが必須だ。持続的な賃上げなどを通じ、日本経済の体質を強くする取り込みにもっと力を入れるべきだ〉

持続的な賃上げが重要なポイント 価格転嫁で原資を稼ぐ

ところで、上記の社説の最後にある〈持続的な賃上げなどを通じ、日本経済の体質を強くする〉という点は、今後の経済対策、税制改正等でも重要なポイントとなる。

日経新聞8月30日付は、経産省が29日に下請け振興法に基づき、取引先の中小企業との価格交渉と価格転嫁に後ろ向きな企業を公表したとして、一部の企業名を掲載した。

経産省のある幹部によると、「価格転嫁で賃上げの原資を稼ぐというのは、政権の重視している部分。しかし一方で、調査はあくまで下請けへのアンケート評価を集計したものであることもあって、公表された大企業に行っているOBからお𠮟りを受けることもある」ようだ。

激変緩和策の延長という中で、経産省がこうした情報を公開し、日経新聞もまたそれを報じたことは意味のあることといえよう。

ジャーナリスト 阿々渡細門

【ニュースの深層/9月19日】なぜ大手電力ばかり悪者に? 「東北値上げへの公開質問」に大きな疑問


宮城県内の学生らでつくる気候変動問題や食糧支援などに取り組む2団体が9月14日、電気料金を値上げした東北電力に対し公開質問状を提出したというニュースが報じられた。それによると、質問状では、電気料金の値上げによって生活困窮者が増えていると指摘。その上で、今年度に過去最高となる2000億円程度の経常利益が見込まれる中で、電気料金の値下げを検討しない理由や、女川2号機の再稼働に向け巨額の費用を投じている理由など7項目で回答を求めている。質問状を受け取った東北電力は「内容を精査して回答する」方針だ。

利用者に豊富な選択肢 全面自由化の理解進まず!?

この報道を見て、正直あ然とすると同時に、何だか悲しい気持ちになった。日々の生活費に困る苦学生がかわいそうだからではない。2016年の電力小売りの全面自由化から7年以上もたつのに、その現実が全く理解されていないように思えたからだ。

「電気料金をねん出するために食事を削ったり家賃を払えなくなったりという相談がすごく増えてきている。貧困が広がっている深刻な状況について(東北電は)分かっていないのではないか」。質問状を提出した学生は、ニュースの中でこう話していた。

だが、今や全面自由化によって規制料金以外の選択肢は豊富にある。まず東北電の中でも多様な料金メニューが用意されているし、もし東北電が気に入らなければ、比較サイトなどで他の新電力の料金を調べてみて現時点で最も安そうなメニューにスイッチングすればいい。そのメニューが自分の希望に沿わなければ、また別のものを選べばいいのだ。切り替える機会は、常に提供されている(平均的な料金水準は概ね市場動向に左右されるので、その点は仕方ない)。そうした自由化の現実を、逆にこの学生は分かっていないのではないか。

だいたい、電気、ガス、水道、電話、インターネット、交通、家賃、食料品といった必需品の支払い中で、値上がっているのは電気代だけではないのだ。むしろ、生活困窮者として公開質問状を突き付けるべきは、物価高の主因である円安の加速に有効な手立てを打てない政府といえよう。

大胆に値下げすれば困るのは新電力 大手電力独占に戻る可能性も

いずれにしても、規制料金の値上げで過去最高の利益を上げている東北電はけしからん、と思わせるような、メディアの報じ方だった。メディア自身、大手電力が自由市場ではなく、いまだに地域独占・総括原価制度の下に置かれていると考えているのではないか。そして、燃料費の変動が料金に反映されるまでのタイムラグや燃調上限など料金制度の仕組みが収益に大きく影響し、21、22両年度の連続大幅赤字から今年度の大幅黒字予想への転換が起きているという実情も理解していないのではないか。

何よりも、生活困窮者を救えるレベルにまで規制料金を大胆に引き下げる(月額数百円どころではない値下げになる)と、電源の内外無差別に抵触しかねないうえ、大半の新電力が太刀打ちできない水準となり、結果として大手電力回帰の現象を引き起こしてしまう可能性があることを、分かっているのだろうか。必然的に、競合する新電力から「規制料金は不当廉売ではないか」との批判が高まるのは、想像に難くない。

もしそこまでやるなら、いっそ自由化前の完全地域独占時代に戻した方が、利用者的にもすっきりしよう。そんなのできるわけがない、というのであれば、「再エネ賦課金の停止」という禁じ手を解禁する裏技も考えられる。ともあれ、現在の局面下での規制料金の大幅値下げというのは、さほどに『無理が通れば道理引っ込む』ような話なのだ。

自由化に合わない経過措置の撤廃を 都市ガスは大半がすでに廃止

「大手電力の収益改善を巡ってこうしたミスリードの報道が後を絶たない。利益が期ズレ差益によるものであること、そもそも規制料金の比率が減少していること、大手電力が嫌なら電力会社を切り替えられることなど。全面自由化したことが、すっかり忘れ去られているようだ」「学生の気持ちはわかるが、一連の値上げが、燃料費高騰という外部要因であることや電力システム改革の影響であることを、大手メディアはしっかりと利用者が理解できるように報道する必要がある。そもそも新聞代だって値上げしているわけだから」――。

X(旧ツイッター)にこうポストしたら、いつになく「いいね」がたくさん付いた。世間の誤解に対しては、電力業界も遠慮せずもっと積極的に物申したほうがいい。政府にしても、全面自由化してから相当な時間がたっているわけだから、制度の主旨に合わない「経過措置規制料金」を早急に廃止すべきだ(解除基準は設定されているが、その基準自体が実態に即していないことに大きな問題がある)。一方、生活困窮者対策については、税制措置など電力事業とは別の領域で行うのが筋。政治的配慮からか、規制料金を無理やり存続させていることで、世間のいらぬ誤解を招くことになるのだ。

そもそも、都市ガス料金については、大手の東京ガスや大阪ガスをはじめ、今や大半の旧一般ガス事業者で規制料金が撤廃されている。制度上の解除基準を満たしたためだが、新規参入者が事実上存在しないエリアの事業者であっても撤廃されていることから、基準そのものがおかしいことは明らかだ。

「大手電力会社は全国の利用者への影響が大きいなど、政治的理由で規制料金を外せない」「規制料金を撤廃してしまうと、大手電力へのグリップが効かなくなる」――。そんな時代錯誤の理屈から、経産省は一日も早く脱却することが求められる。

【メディア論評/9月12日】エネルギー価格抑制策延長を巡る政策・報道の変遷〈上〉


9月末に期限を迎える燃料油価格、電気・都市ガス料金の価格抑制策(激変緩和措置)が、年末まで延長の方向となった。メディアが報じるように、〈岸田文雄首相が自民党に価格抑制策の検討を指示して1週間あまり、・・・・・・政府はスピード決断した。〉(毎日新聞8月31日付)というわけだ。1年前の激変緩和措置の導入時と比べて、今回の延長を巡る政治判断はどうだったのか。メディア報道をベースに検証する。

〈岸田首相は8月22日、ガソリン価格が翌23日にも史上最高値を更新する可能性が生じたことを受け、自民党の萩生田光一政調会長を首相官邸に呼び、与党内で月内に対策案を講じるよう指示した。その後、記者団に「燃料油価格対策に緊急に取り組む必要があると判断した」と述べた。・・・・・・首相周辺は“首相の意向が大きかった”と指摘する。30日の延長表明も、自民、公明両党から補助の継続を求める提言を手渡された直後だった。提言を受けた当日に政府方針を打ち出すのは異例だ。〉(毎日新聞8月31日付)

上記にあるように、8月30日、自民党、公明党の政務調査会がそれぞれ燃料油、電気・都市ガス料金の価格対策に向けた緊急提言を提出した。

◎自民党政務調査会「燃料油価格対策の策定に向けた緊急提言」。

〈・・・・・長期化するウクライナ情勢に加え、本年夏からの産油国の自主減産、為替動向等も相まって、足元のガソリンの全国平均小売価格は過去最高の185円を超える見込みとなり、国民生活・経済活動へのより一層の悪影響が懸念される。このような状況を踏まえ、政府に対し、激変緩和のための更なる対策を講じるよう、以下の通り緊急提言する。・・・・・・〉

〈本年9月までとなっている激変緩和措置を年末まで延長するとともに、補助率等の見直しにより、ガソリン価格が現在の水準から国民が負担減の効果を実感できる水準となるよう必要な措置を講じる。また、その後も、原油価格の動向等も踏まえ、機動的な対応を行う。〉

〈軽油、灯油、重油、航空機燃料について、これまで同様、ガソリンと同等の支援対象として措置を講ずる。〉

〈なお、岸田総理が表明された物価高に対応する経済対策においては、エネルギーを巡る情勢を踏まえつつ、家計や価格転嫁の困難な企業等の負担が過重なものとならないよう、必要な措置をとること。また、経済対策が実施されるまでの間、電気・都市ガス料金の激変緩和措置についても、9月末まで行うこととしている支援を継続すること。〉

◎公明党政務調査会「燃料油及び電気・ガス負担軽減策の緊急提言」。

〈・・・・・・食料品など生活必需品の値上げも相次いでいる中、エネルギー関連の支出は相変わらず家計に重い負担感を与え続けている。 とりわけ、中小企業においては、10月の最低賃金引上げや、来春の賃上げに向けた原資確保等にも頭を悩ませているのが実状である。公明党は、国民生活の現場から寄せられた悲痛な声を受けて、燃料油価格や電気・ガス代を中心に、下記の通り緊急措置すべき追加対策をとりまとめた。・・・・・・〉

〈高騰が続いている足元の原油価格の動向を踏まえ、9月末までとなっている燃料油価格激変緩和対策事業について、年末まで延長するとともに、消費者や事業者が負担減の効果を実感できる水準となるよう、補助額等を見直すなど、必要な措置を講じること。なお、軽油、灯油、重油、航空機燃料、タクシー事業者用のLPガスについてもこれまで同様、支援の対象とすること。また、今後とも、エネルギー価格の動向等を見極めながら、必要に応じて機動的な対策を実行すること。〉

〈今後のエネルギー価格の動向を見極めた上で、9月使用分までとなっている電気・都市ガス料金の負担軽減策の延長も含め、機動的速やかに追加の対策を講じること。その際、電気・都市ガス料金の負担軽減策が必ずしも行き届いていない地域や中小企業などの事情を踏まえ、LPガスを利用されている方の負担を軽減するためLPガスの小売価格の調査公表を続け、小売価格低減に資する支援策の継続を検討すること。〉

■延長を巡る全国各紙の記事見出しはこうなった

8月30、31両日の全国各紙の記事もこうした流れを受けた内容となっている。内容が想起できるので、見出しを紹介する。

朝日新聞8月30日付 〈やめられぬ「激変緩和」〉〈ガソリン補助延長1週間で決着〉〈支持率下落 与党から圧力〉〈1リットル170円台まで抑制案〉〈「この数年は打撃」 消費者歓迎〉〈「市場原理ゆがめる」識者警鐘〉〈電気・ガス補助延長へ  政府・与党調整、年末まで〉

産経新聞8月30日付〈ガソリン補助「緊急的に」〉〈首相表明 自民、年内延長を了承〉〈解散布石 視線は補正〉〈支持率続落警戒 家計へ支援策〉。8月31日付〈ガソリン最高値 185円60銭 15年ぶり更新〉〈来月7日から新支援策」〉〈遠のく「出口」 脱炭素に逆行〉

読売新聞8月31日付〈首相、補助延長表明〉〈ガソリン175円に抑制 185.6円最高値」 。8月30日付〈電気・ガス負担減 継続へ 政府・与党調整 9月分までを延長へ〉

毎日新聞8月31日付〈ガソリン補助継続・拡充 増す負担感 スピード決断〉〈「脱炭素に逆行」批判も」〈政権浮揚「劇薬」頼み〉。8月30日付〈電気・ガス代 緩和延長 10月以降も 政府調整〉

こうした動きは、当然、政権支持率低下と結び付けられて語られる。それは、もちろんだが、筆者はかつて岸田首相を長く見てきた岸田派のベテラン秘書が、「岸田さんは“こ”」の人。“個の人”であり“孤の人”でもある。最後は自分で決める人。」と述べていたのを思い出す

■今回の措置延長に見る政策・議論の変容ぶり

朝日新聞8月30日付は、ほんの1カ月前、経済財政諮問会議での議論からの変わりぶりを指摘した。〈・・・・・・政府が7月に開いた経済財政諮問会議では、経団連の十倉雅和会長・・・・・・ら民間議員4人が補助金を段階的に縮小・廃止するよう提案。賃上げや輸入物価が下落傾向にあることを理由に、低所得者らに対象を絞るべきだとした。〉

◎経済財政諮問会議(7月20日)<有識者提出資料>

〈・・・・・・今後、春季労使交渉の結果が各企業の賃上げに反映されるとともに、輸入物価の下落等を背景に物価上昇はプラス幅が縮小し、実質賃金はプラスとなることが期待される。今後は、経済・物価動向を見極めつつ、激変緩和対策を段階的に縮小・廃止するとともに、物価高の影響を強く受ける低所得・地域等に、重点を絞ってきめ細かく支援すべき。・・・・・・〉

昨年秋、ガソリン価格に続き、電気・都市ガス料金の激変緩和が議論の俎上にあがった。この時、官邸は当初電気のみのイメージであり、電気・ガスのセットを主張する公明党とうまく擦り合わなかった。公明党幹部は後日、筆者に、「公明党は当初から電気・ガスとセットで言ってきた。生活者からみれば電気・ガスはセットのものだ」と振り返っていた。今回の「スピード決定」では、既にあるものとしてセットで議論された。昨年の電気・ガス料金激変緩和に関する議論の経緯を振り返る。

9月28 公明党が総合経済対策に盛り込むべき柱に関する提言。電気・ガス料金高騰対策求める。

10月3 岸田首相の所信表明演説。「これから来年春にかけての大きな課題は、急激な値上がりのリスクがある電力料金です。家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じます」

10月4 政府与党連絡会で公明党の山口那津男代表が発言。「総合経済対策については、更なる高騰が懸念される電気・ガス料金への対応や円安のメリットを活かした取り組みを急ぐなど、国民負担の軽減を図る切れ目のない対策を迅速に講ずることが重要」

10月5 自民党経産部会。複数議員からガス料金の対策を行うよう発言。

10月6 臨時国会で世耕弘成参議院幹事長が代表質問。「経済対策は、大胆な対策が必要。家庭用・中小事業者のエネルギー負担の軽減については、電気・ガスの高騰に対する措置を講ずるべき」→岸田首相の回答ではガスについての言及なし。

10月7 臨時国会代表質問で山口公明党代表。電力・ガス料金・食料品の高騰対策について質問。→岸田総理の回答抜粋。「電気・ガス料金・食料品価格については家計の負担軽減のため、先月には追加策をとりまとめ、電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金の創設や、特に家計への影響が大きい低所得世帯向け給付金の創設など、緊急の支援策を講じた。これに加え、電力料金の急激な値上がりリスクに対応すべく、家計・企業の電力料金の負担増加を直接的に緩和する前例のない思い切った策を講じ、まずは全ての家計・企業が直面する電力高騰対策に全力を挙げる。ガスについては、ほとんどが長期契約で調達され、比較的調達価格の安定性が高いこと、ガスには電気におけるFIT制度などの賦課金制度がないこと、諸般の事情を総合的に勘案し、今後の家計・企業の負担状況を見ながら、対応してまいる」

10月14日 自民党経産部会「総合経済対策における重点事項(案)」。〈・・・・・・燃料油の高騰対策に加え、社会全体が影響を受ける電力料金負担の増加を直接的に緩和する思い切った対策を行う。電気と同様に社会経済活動の基盤となるガスについても、ガスの特性も踏まえつつ、ガス料金の高騰に対する対策を講じるなど、電気とのバランスを踏まえた対応を進める。・・・・・・〉

10月15日 公明党の山口代表が、ある会合で言及。「私は(岸田文雄首相の所信表明演説に対する)代表質問のなかで、電気代のみならず、ガス代についても負担軽減策をとるべきだと質問した。返ってきた答弁のなかでは、電気代については決意が述べられていたが、ガス代については触れられていなかった。そこで10月11日、党首懇談の機会があったので、『電気代は焦眉の急であるが、ガス代も併せてやらないと公平性が保たれない。ぜひこれも含めて対策をとってください』と訴えた。岸田首相に『そうですね』と受けてもらい、昨日、党首会談が行われ、電気代に加えてガス代についても対策をとることで合意した」(←与党合意)。

10月21日 電気事業連合会の池辺和弘会長が定例会見でコメント。「ガスだけで生活している人は少ない。電気だけ(支援する)というのは筋が通る」(電気新聞10月24日付)

10月26日 自民党政調全体会議「新たな総合経済対策(案)」。〈・・・・・・都市ガスについては、値上がりの動向、事業構造などを踏まえ、電気とのバランスを勘案した適切な措置を講ずる。具体的には、家庭及び企業に対して、都市ガス料金の上昇による負担の増加に対応する額を支援する。LPガスについては、価格上昇抑制に資する配送合理化等の措置を講ずる。・・・・・・〉

こうして経緯を振り返ると、激変緩和措置延長を巡って公明党が果たした役割の大きさが改めて垣間見えてくる。

<下>に続く。

ジャーナリスト 阿々渡細門

【記者通信/9月12日】柏崎刈羽で「適格性」検査 地元の声はどうなのか!?


原子力規制委員会は9月11日、東京電力に柏崎刈羽原発(新潟県)を運転する「適格性」があるかどうかを再確認する現地検査に着手した。判断が出るまで3カ月程度は掛かる見通しであり、年内の再稼働は絶望的とみられている。これに先立ち、エネルギーフォーラムではオンライン番組「そこが知りたい!石川和男の白熱エネルギートーク」で、新潟県刈羽村の品田宏夫村長、柏崎市の品田庄一・品田商会社長(柏崎商工会議所副会頭)をゲストに招き、MCの石川和男・社会保障経済研究所代表を交えて柏崎刈羽の再稼働問題をテーマに白熱した議論を行った。果たして、現地の生の声はどうだったか。

柏崎刈羽原発は現在、テロ対策の不備で原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受けている。規制委は9月11日から「東電の運転適格性」を巡る現地調査を行っているが、今後適格性があると判断され、運転禁止命令が解除されても、広域避難計画の策定や新潟県独自の「三つの検証委員会」の検証、花角英世知事の判断、県民の意思確認といったハードルが待ち構える。

知事の同意は必要なのか 地元企業が求めるクリーン電力

番組では「地元同意のあり方」に話題が及んだ。再稼働には基礎自治体(柏崎市・刈羽村)が再稼働に賛成していても、県知事の了承を求める「紳士協定」が存在する。石川氏は「県の了承が基礎自治体を優越するのはどうか」と疑問を提起。知事が反原発を掲げれば再稼働は極めて困難となることから、品田社長は「違和感を覚える」と素直な感情を吐露した。

東電と地元(新潟県、柏崎市、刈羽村)が結ぶ安全協定の中には「事前了解事項」が存在し、設置変更許可申請などの際に地元了解が必要となる。また2002年のトラブル隠し事件や07年の中越沖地震の際は、新潟県知事、柏崎市長、刈羽村長の3者で再稼働前に了解を得るよう東電に申し入れた。しかし品田村長は、震災後の再稼働を巡って当時のような申し入れはしていないことを念頭に、「(紳士協定は)根拠がなく、世間の空気が作り上げた実体のない約束事」と喝破した。

石川氏は再稼働した際、「東北電力管内の新潟県に東電の電気を融通したらどうか」と提案。品田社長はクリーンな電力を求める地元企業の声を紹介し、「原子力のクリーンな電力が使えるのなら、企業にとっては電気料金の値下げ以上に良いこと」と、地域産業振興の観点から原子力電気の活用に前向きな見方を示した。

【記者通信/9月6日】経産・環境両省の概算要求 GXで経産省主導が鮮明に


GX(グリーントランスフォーメーション)政策の本格始動を受け、経済産業省の2024年度概算要求額は過去最大規模に膨れ上がった。23年度当初予算額を大幅に上回り、要求額は約46%増の2兆4615億円に上った。GX経済移行債を活用する「GX推進対策費」単独で1兆985億円を、さらに別途、エネルギー対策特別会計でも7820億円を計上した。一方、環境省も前年度予算比約19%増の7875億円を要求しているが、うちGX対策費は経産省を大きく下回る1571億円にとどまった。GX政策が経産省主導で展開される方向性が、予算要求上も鮮明化した格好だ。

GX予算は複数年度で総額2兆円超 事項要求も組み合わせ

GX関連予算は、通常の単年度予算だけでなく、国庫債務負担行為を活用することで複数年度にわたる措置も可能とし、総額で2兆円超(24年度分は1.2兆円超)とする方針だ。さらに事項要求も組み合わせ、政府は〝戦略的で予見可能性のある予算要求〟を行い、民間投資を引き出したい考えだ。そして、その主翼を経産省が担うことになる。

柱はエネルギー関連だ。GX実現とエネルギーの安定供給に向けた事業の関連予算の要求額は、GX推進対策費とエネ特を合わせて1兆6241億円(23年度当初予算から5165億円増)となった。省エネから再エネ、系統整備、蓄電池、原子力、水素・アンモニア、CCS(CO2回収・貯留)、EV・FCVと、さまざまな分野で事業を新設・拡充している。

中でも蓄電池関連が目立つ。系統用蓄電池の導入拡大に向け、新規の「グリーン社会に不可欠な蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業」には単年度で4958億円を計上する。さらに系統用以外も含めると、これも新規の「蓄電池等の製品の持続可能性向上に向けた基盤整備・実証事業」を17億円としている。

このほか、ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力、水素・アンモニア、水電解装置などの国内製造基盤強化に向けた「GXサプライチェーン構築支援事業」も1171億円(新規、国庫債務負担行為は5年間で5785億円)もの額を計上している。

環境省は断熱窓改修で1170億円 地域脱炭素交付金はほぼ倍増

環境省については、「統合的アプローチ」による課題解決というコンセプトを重点施策の一つに掲げた。最多要求額となった事業は「断熱窓への改修促進」で、エネ特会とGX対策費を合わせて1170億円に上る。地球温暖化対策課では、「断熱窓改修は、メーカーや工場の競争力向上、ひいては日本の産業競争力の強化につながる。経済成長とCO2排出削減の双方に資する施策」と位置づけており、22年度予算の100億円からすると破格の扱いだ。このほか同省肝いりの事業である「脱炭素先行地域」の交付金では、22年度の350億円からほぼ倍増の660億円を計上した。

いずれにしても、「GXバブル」の始まりを感じさせる24年度予算だが、真のナショナルセキュリティー確保、そして日本経済の長期低迷を打破するきっかけとなるのか。数年後、その先行きが問われることになる。

【記者通信/8月29日】燃料油補助の延長に異議あり!円安続く限り国費で価格操作か?


ガソリンなど燃料油価格の高騰を抑制する激変緩和措置が延長される見通しだ。岸田文雄首相は8月29日の党役員会で「まず過去最高水準となるガソリンなど燃料油価格対策に緊急的に取り組む」と表明。同日開かれた政務調査会全体会議で、燃料油価格対策の策定に向けた緊急提言案を提示し、萩生田光一政調会長に一任した。報道などによると、政府・与党は9月から燃料油への補助を拡充し、レギュラーガソリンの小売価格を年末まで全国平均で1リットル当たり170円台に抑える方向だ。「燃料油価格の高騰に悩む需要家を今後も継続的に支援する」(永田町関係者)といえば聞こえはいいが、そこには複数の重大な問題点が隠されている。

燃料油対策を議論した自民党の政調全体会議(自民党ウェブサイトより)

国による小売価格操作が常態化 取引の健全性が失われる!?

まずは、本来、市場原理で決まるはずの小売価格決定メカニズムに政府が介入し、「170円台」水準をターゲットにした事実上の価格操作が常態化しつつあるという問題だ。外資系石油会社出身のエネルギーアナリストは、「政府が元売りを通じて小売価格に影響を与える施策を長期間行うことは、市場メカニズムを破壊する行為。元売りが小売価格をコントロールできることが前提と受け取られかねず、取引の健全性が失われたことを、関係者は認識すべきだ」と指摘する。実際、燃料油販売業者の幹部は、「大手元売りが再編・集約され、以前のような価格競争がなくなったことで、収益は安定している。その上で、燃料油補助が拡充されれば、販売量も想定以上に落ち込むことはないだろう」と打ち明ける。輸入価格の変動調整に、事業者が経営努力で対応するのではなく、国が介入するような市場が、健全といえるのかどうか。

国がガソリンの適正価格を「170円台」とする根拠は何なのか?

二つ目の問題は、CO2を排出する石油製品の需要を下支えし、脱炭素政策に逆行するような政策が展開されていることである。「本来、燃料油価格が上がれば、自ずと消費が抑えられ、省エネ・省CO2に貢献するほか、EVや再生可能エネルギーなどへのシフトを後押しすることになる。まさにそれこそが、炭素税などカーボンプライシング(CP)政策の狙いの一つだったはずだ。しかし今回の激変緩和措置では、そうしたメリットは無視されている。CPの効果を政府自らが否定したようなものだ」。環境団体の関係者は、手厳しい批判を投げ掛ける。

原油価格はむしろ安定 本来必要なのは「総合円安対策」

そして、何よりも忘れてはならないのは、現在の燃料油価格の上昇が原油価格の高騰ではなく、過度な円安によってもたらされているという現実だ。昨年12月以降、国際原油市況は比較的安定しており、米WTIの価格は85ドル以下での推移が続いている。29日午後現在は、1バレル=80ドルを割り込む水準だ。一方で、為替レートは29日のロンドン市場で1ドル=147円台と昨年11月以来の水準にまで下落。歴史的な円安に歯止めが掛かる気配は、今のところない。これが何を意味するかと言えば、わが国では石油だけはなく、素材や食品などありとあらゆる輸入価格が上昇しているということだ。もちろん円安が続く中では、原油価格が劇的に下落でもしない限り、国内のガソリン価格の高止まりが解消されることはない。つまり、政府が緊急的に手を打つべきは、「総合円安対策」なのだ。

WTIの原油先物価格の推移。ガソリン価格の高騰は、原油価格の高騰が主要因ではない

「円安対策として最も効果的なのは早期の金利引き上げだが、借金まみれの日本経済の現状を踏まえれば、かなり困難。そこで、岸田政権は国民ウケの良い燃料油、さらには電気・ガス代の激変緩和措置の延長でお茶を濁そうとしているのではないか」(金融関係者)

石油、電気、ガスをひっくるめて激変緩和措置の名の下で、これまでに一体どれほどの国費が投入されてきたことか。「トータルで、二ケタ兆円に達するのではないか」(エネルギー関係者)。しかしそこまで注ぎ込んでも、現在の円安下においてエネルギー価格が下がる可能性は極めて低く、年末に補助延長が終わった時点で利用者の負担はまた元に戻る。

「激変緩和措置はある種、麻薬みたいなもの。本当は原油価格が落ち着いている今こそ予定通り終了し、価格決定メカニズムを市場に戻すべきなのに、国民経済面での費用対効果の検証も一切なく、完全に政治判断で延長された。年末までというが、本当にそこで終了できるのか。いずれにしても、その膨大な国費投入のツケは、回りまわって増税という形で国民に回されてくる」(一般紙記者)。止め時を見失った燃料油補助延長に、異議ありだ。

【記者通信/8月29日】中国の理不尽な禁輸・嫌がらせ 「戦略的対抗」のススメ


国民は毅然とした対応を求めている――。福島第一原発からのALPS処理水の海洋放出後、中国から相次ぐ大量の迷惑電話や、日本大使館、日本人学校への投石など日本へ対する「嫌がらせ」。岸田文雄首相は28日夜、「遺憾なことだと言わざるを得ない」と批判し、8月29日の党役員会では「水産物の消費拡大に向けて国民的取り組みを進める」と述べ、日本産水産物の禁輸措置への対応に万全を期す姿勢を示した。

中国と北朝鮮が反対姿勢 他国は概ね静観の構え

これまでに、政府が公式に反対姿勢を示しているのは中国と北朝鮮の2カ国だけだ。意外と話題になっていない北朝鮮側の対応については、25日の国連・安全保障理事会の緊急会合で、「明らかに生態学的環境を破壊し、人類の存在への脅威となる犯罪行為である」と非難した。

東南アジア・オセアニア地域の反応はどうか。シンガポール、ベトナム、マレーシアはリアルタイムで放射能レベルの上昇を確認するシステムを導入。オーストラリアとニュージーランドは国際原子力機関(IAEA)による包括報告書の評価を支持している。一方、太平洋諸島フォーラム(PIF)の議長国であるクック諸島のブラウン首相は23日、「国際的な安全基準に合致していると認識しているが、全ての太平洋島しょ国が同じ立場にあるわけではなく、PIFとしての見解が一致しない可能性がある」とし、包括報告書に関しては「留意する」と述べるにとどめた。

こうした国々の対応と比較すると、中国による日本産海産物の禁輸、嫌がらせ行為は極めて異常だ。中国は反政府デモの主催者の逮捕やネット上の書き込みの削除など、習近平体制に都合の悪い行為は強権的に取り締まる。嫌がらせ行為を放置する責任が中国政府にあることは言うまでもない。

日本が対中輸出を停止へ 外交カードを無力化 

日本の2022年の水産物輸出は、中国・香港・マカオで約1647億円と全体の4割を超え、水産関係者へ与える影響は少なくない。このため、「非科学的な対応は受け入れられない」として禁輸措置の撤廃を求める政府の対応は当然だろう。だが“遺憾砲”だけでなく、もう一歩踏み込んだ対応が必要なのではないか。例えば、「日本の水産物が科学的に安全であることは数々の検査などによって証明されているが、どうしても禁輸措置を取るのであれば致し方ない。わが国は今後、中国への輸出を全面停止し、他国への販路拡大や国内需要を増やすことで生産量の維持にしっかりと対応する」、「当然ながら、中国が日本近海は汚染されていると言っている以上、日本のEEZ(排他的経済水域)内での中国漁船による違法操業には断固たる措置を取る」といった具合に、禁輸措置の撤廃にこだわるのではなく、戦略的な対抗措置に打って出たらどうなのか。もちろん、嫌がらせ問題に対しては毅然と抗議を続ける。

日本近海で違法操業する中国の漁船はいなくなるのか

関係筋によれば、中国は日米韓の連携強化などを念頭に、禁輸措置の外交カードとして処理水問題の利用を狙っている。日本が禁輸措置の撤廃を求めている以上は外交カードとしての価値があるが、日本がある意味開き直ってハシゴを外してしまえば、外交カードとしては意味をなさなくなる。もちろん、日本政府としてこうした対応を取るのが難しい状況は十分理解するが、理不尽な措置に対し毅然とした対応を求める国民も少なくないはずだ。

威圧に屈しなかった豪州 対中強硬の政権を国民は支持

中国の経済的威圧への対応には、豪州政府の例が一つのヒントになる。豪中関係は2018年、豪州が中国に対して新型コロナウイルスの発生源の調査を迫ったことなどから、中国が豪州産ワインや大麦に高関税をかけ、石炭を禁輸した。だが、豪州は屈しなかった。当時のモリソン政権(自由党)による対中強硬政策は国民からの支持を受け、中国との対話を再開したい意向を示しながらも、中国の威圧に屈しないという姿勢を堅持したのだ。日米豪印戦略対話(QUAD)や米英豪軍事パートナーシップ(AUKUS)にも参加。石炭については、中国への輸出量が一時ほぼゼロになったものの、他国への輸出拡大に力を入れたことで影響を最小限に食いとどめた。そうでありながら今年1月、中国はコロナ後の経済活動の再開など需要増に対応するため、禁輸措置を解除している。

日本に対する禁輸措置も中国国内で安全性への理解が広まったり、日本産禁輸による経済や生活への悪影響が出たり、禁輸措置継続で中国の国際的立場が危うくなったりすれば、相応の理由を付けて解除に踏み切る可能性は十分考えられよう。

日本産のおいしい魚介類が中国の食卓から消えると・・・

日中関係は10月23日に日中平和友好条約発効45周年を迎える。また政府は9月11日からの東南諸国連合(ASEAN)関連首脳会議で岸田首相と李強首相との会談、11月中旬にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)での習近平国家主席との首脳会談を模索しているという。しかし関係修復を急ぐあまり、禁輸措置の撤廃のために譲歩するようなことは絶対にあってはならない。

【記者通信/8月28日】汚職疑惑で窮地に陥る秋本氏 「トカゲのしっぽ切り」か


「自民党一の『脱原発』男」が窮地に陥っている――。洋上風力発電事業を巡る汚職疑惑で東京地検特捜部による捜査の渦中にある秋本真利氏は、外務政務官の辞任、自民党離党と、政治的な暴風雨に吹きさらされる。周辺から聞こえてくるのは、秋本氏を巡る厳しい評判だ。

自民党再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(再エネ議連)の事務局長として、新興再エネ企業の〝代弁者〟のごとく国のエネルギー政策に容喙する秋本氏の姿勢には、かねて疑惑の目が注がれていた。事件を受け、再エネ議連や秋本氏の後見人的な存在だった河野太郎・内閣府デジタル相氏にまで火の粉が降りかかりかねない中、急速に「トカゲのしっぽ切り」(永田町関係者)が進む。

河野氏は、秋本氏にとって国政進出を決意させた人物だ。秋本氏は、千葉県富里市議を務める傍らで通学していた法政大学院で、河野氏の知己を得た。講義の特別講師だった河野氏が核燃料サイクルを話題にし、自身がそれに応じて評価されたエピソードは、事あるごとに吹聴している。このとき、「国会議員になって仕事しないか」と背中を押された秋本氏は以後、河野氏を「政界の兄貴分」と仰いできた。

しかし事件発覚後、複数の河野氏周辺は「ただの腰巾着だよ。総裁選でも側近のように振る舞っていたが、実際は蚊帳の外だった」「決してかわいがられていたわけではない」などと冷淡に突き放している。「以前から、河野氏の威を借りる形で、自分は党内で最もエネルギー政策に明るい政治家だと周囲に吹聴していた。再エネを否定するような政治家や学者、メディアに対しては『世界の流れを分かっていない』などとこき下ろしていたから、その世界の人たちからの評判はとにかく良くなかった」(エネルギージャーナリスト)。

地元の議員と関係悪化 2年前には茨城県連といざこざも

地元・千葉でも擁護論は聞こえてこない。ある後援会幹部は「党支部の幹部への挨拶もほとんどない。タイミングよく国会議員になれただけ。地に足がついてなかった」と漏らす。

県政界に強い影響力を持つ参院議員との関係も破綻している。同議員は市議時代から秋本氏に目をかけ、小選挙区の支部長公募でも後押しするなど、「親分・子分のような関係」(県政関係者)だった。公認問題で世話を受けた秋本氏が、同議員が所属する派閥に入会することは政界の不文律だったが、秋本氏は河野氏らに接近し、法政大学の先輩にあたる菅義偉・前首相を中心とするグループの会に参加したのだ。「近ごろの若手は行儀がなってないな」。ある県政関係者は、物静かな風貌の同議員が怒気を込めて秋本氏をこう評する姿に戦慄したという。

2021年3月には、秋本氏が茨城県水戸市で「脱原発」をテーマに講演することを巡って、党茨城県連所属の県議が反発。当時の二階俊博幹事長らに、秋本氏の講演辞退を要望し、従わない場合は処分を検討するよう申し入れた。結局、秋本氏は講演で脱原発に触れず、再エネ推進について語ったのだが、党内のエネルギー族議員からは「秋本の原発嫌いには、ほとほと手を焼いている」との声が聞こえていた。

風見鶏的に有力者の間を立ち回り、再エネ政策で良くも悪くも存在感を示していた秋本氏だが、今回の事件は、築き上げてきた〝実績〟が一吹きで崩れるような砂上の楼閣でしかなかったことを露呈させた。