国の第7次エネルギー基本計画の策定に向けた議論が本格化するのを前に、エネルギー問題の研究者であり、エネルギーフォーラムにも寄稿する杉山大志氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)ら民間人有志が2月24日に「エネルギードミナンス:強く豊かな日本のためのエネルギー政策(非政府の有志による第 7次エネルギー基本計画)」を発表した。

筆者は現実に則し、今参考にするべき内容と思う。今年はエネルギー基本計画の年内の見直しが予定されている。見直しは第7次になる。それをめぐる議論で、この提言をぜひ取り入れてほしい。
日本の政策決定の問題は、政府が計画や提言、社会コンセプトづくりを主導し、民間や政党に対案がないことだ。こうした提言が出され、現実の政策に議論によって影響を与えることが必要である。政府だけに頼ってはいられない。
◆意欲的な11提言を評価
この提言ではエネルギー政策として、「エネルギードミナンス(優勢)」を提唱した。日本語で作った概念にしてもよかっただろう。
エネルギードミナンスとは、米国共和党で用いられている考えだ。豊富で、安定し、安価なエネルギーを供給することを指す。それによって、日本が経済発展をし、防衛力を高め、自由、民主といった普遍的価値を守り発展させることを目標にする。
提言ではエネルギードミナンスを確立するために、以下の11項目を掲げている。
1・光熱費を低減する。電気料金は東日本大震災前の水準を数値目標とする。エネルギーへの税や賦課金等は撤廃ないし削減する。
2・原子力を最大限活用する。全電源に占める比率50%を長期的な数値目標とする。
3・化石燃料の安定利用をCO2規制で阻害しない。
4・太陽光発電の大量導入を停止する。
5・拙速なEV推進により日本の自動車産業振興を妨げない。
6・再エネなどの化石燃料代替技術は、性急な導入拡大をせず、コスト低減を優先する。
7・過剰な省エネ規制を廃止する。
8・電気事業制度を垂直統合型に戻す。
9・エネルギーの備蓄およびインフラ防衛を強化する。
10・CO2排出総量の目標を置かず、部門別の排出量の割当てをしない。
11・パリ協定を代替するエネルギードミナンス協定を構築する。
◆混乱したこの10年のエネルギー政策
これらの提言を私は正論と思う。しかし、現状の日本では修正することが難しい点がある。東日本大震災による東京電力の福島第一原子力発電所事故以来、電力・エネルギー政策の見直しが行われた。政府・経産省が民意からの批判を避けるため、おかしな政策を受け入れ、迷走した。エネルギー業界も、特に電力は、原子力事故の悪影響で沈黙してしまった。
エネルギー政策では、自民党政権に変わって名目的になったが「脱原発」、「再エネ拡大」、「脱炭素」、そして「エネルギー自由化」が進んだ。エネ基は18年7月に第5次、20年10月に第6次の改訂が行われている。
いずれの目標でも、現実はうまくいっていない、それどころか弊害が出ていることはエネルギー関係者の共通の認識だ。エネルギードミナンスの目指す「豊富で、安定し、安価なエネルギーを供給する」という目標から真逆の、エネルギー不足、供給不安定化、価格上昇という現象が起きている。
成功だったと弁解しているのは、経産省の役人だけで、政治家でさえ修正を公言するようになった。これは外部環境の変化も影響しているが、制度設計、政策の面が大きい。

◆国際情勢はエネルギー安全保障強化へ
そして今や内外の情勢は、動き続けている。
安全保障状況は、ウクライナ、中東、台湾などを巡り切迫している。世界各国はエネルギーの安全保障の強化に舵を切っている。
低炭素・脱炭素政策の弊害を省みることなく、政府は合理的な根拠もエビデンスを示すこともない。それなのに、岸田政権は21年末に打ち出した、GX(グリーントランスフォーメーション)によって脱炭素政策をさらに強化しようとしている。
慣性のついてしまった行政府は、巨大な船のように方向転換が効かない。
それについて、対案となる考えが出た。世論も落ち着き、福島原発事故直後のような感情的な意見は減って、存在感がなくなっている。
◆当事者の参加する現実的なエネルギーシステムの議論を
電力自由化、再エネの発電設備の建設など、現実が動いてしまい、時間の針を戻すことは困難である問題もある。しかし、上記11の項目を軸に、政策と企業のあり方を議論したい。
現実に即さず、事業者、消費者の意見を取り入れない仕組みは弊害の方が大きくなる。残念ながら、この10年、エネルギー政策は、そうした弊害が大きくなってしまった。この提言だけではなく、民間、事業者、消費者それぞれが積極的にエネルギーのあり方を議論し、今のままではないより良いエネルギーシステムを作っていきたい。そのきっかけの一つになるこの提言を歓迎する。