【記者通信/5月12日】関電が「発販分離」検討を表明 小売り競争の健全化対応で


顧客情報の不正閲覧など相次ぐ不祥事に揺れる関西電力は5月12日、電力小売事業の競争健全化に向け、発電事業との分離を検討していることを明らかにした。JERAを設立した東京電力、中部電力の両社に続いて、発電、小売り両事業の分社化が実現することになるのか。将来的に他の大手電力会社に波及する可能性も否定できないことから、関係者は関電の動向に大きな関心を寄せている

役員による多額の金品受領、顧客情報の不正閲覧、そして中部・中国・九州の大手電力3社とのカルテルと不祥事が相次ぐ関電に対し、経済産業省は4月28日、①関電が保有する電源の内外無差別な卸取引を強化し、これを通じた、短期から長期まで多様な期間・相手方との安定的な電力取引関係の構築、②魅力的で安定的な料金、サービスのさらなる選択肢の拡大、③これらの実現するための発電事業・小売電気事業の在り方――について、具体的な検討を行うよう指示していた。

これを受け、関電は5月12日、保坂伸・資源エネルギー庁長官宛てに「小売電気事業の健全な競争を実現するための対応について」と題する文書を提出。この中で、「今後、営業活動における透明性を確保し、多様化するお客さまニーズにスピーディかつ的確にお応えするために、発販分離も含めた、最適な小売電気事業体制の検討を引き続き進めます」と明記したのだ。

森社長「発販分離は選択肢の一つ」

この日会見した森望社長は、記者からの質問に答える形で、「(発販分離は)発電事業、小売事業の機能を明確に分けて仕事をするということ。いわゆる分社化も選択肢の一つだと思うが、現時点で決めているわけではない。公正な競争のために、顧客のために(発電、小売りが)どうあるべきか、ふさわしい体制はどうあるべきか、並行して考えていく」と述べた。

ただ、発販分離が一連の不祥事の再発防止策になるかどうかを巡っては、業界内外に懐疑的な見方も少なくない。「現実問題として、発販分離した中部電力でも、顧客情報の不正閲覧は起きているし、公正取引委員会から電力カルテル問題で課徴金処分も受けている。再発防止に当たっては、形よりも実効性をどう確保するかが重要だ」(エネルギーアナリスト)。果たして、関電は発販分離に踏み切るのか。今後の行方が注目される。

【論考/5月10日】電力ビジネスは脱kWh・価値創造化を急げ


データの不正閲覧、カルテルという電力小売事業をめぐる一部旧一般電気事業者の愚行は、エネルギー危機後進んでいた電力制度・市場の再構築にすっかり水を差す形になってしまった。そして、競争の趣旨に反する行為という一般的観察から、もう少し電力制度・市場の深い知の場所からこの問題を見た場合、実は2011年以降の制度設計時、あるいはその実行時にあった政策側・助言者である学識者・当の事業者の不見識が見てとれる。

「販売電力量をあげる」という不見識が生んだ厄災

まず家庭用市場の場合、世界の電力小売り自由化地域の中で、例えば北米のパワープール地域では家庭用の半分以上のシェアを旧電気事業者のユーティリティが契約する規制約款(タリフ)が持っているが、その各社は決してそのシェアを経営目標にも活動目標にもしていない。タリフはすべて市場調達または大手発電会社間の入札であり、そのシェア拡大は経営的に何のメリットもないからだ。15~16年に北東部を襲った極渦(ポーラー・ボルテックス)の際には新規参入者の大量破綻が起こり、タリフへの回帰が急速に進んだ(バック・トゥー・デフォルト)が、各ユーティリティは州当局と協調して「新規参入者にも切り替え可能ですよ」というスイッチPRにも力を入れている。

また日本が12年に小売り自由化設計のモデルにしたテキサスは、規制約款価格を一度引き上げ、「プライス・トゥー・ビート」(倒すべき価格)として徹底したスイッチ推奨をし、2年あたりで契約数をゼロまで持って行った。このやり方では貧困者保護が著しく困難になる(現在大手小売各社で貧困者用ファンドを持っているが、最終保障約款は標準料金の3~4倍である)し、停電時大手小売会社は一切対応しないが、逆にここまで割り切ればクリアな制度は設計可能といえる。

次にカルテルで問題になった大口・業務用の場合、市場が完全流動化している米国・欧州では自社発電の固定費回収年数を引き延ばして(自社メニューの大幅値下げ)kWh販売を増やせばそれだけ電源の収益が悪化し、経営が傷つくだけなので自由化ごく初期のドイツを除けばそうした判断をした経営者は世界にいなかった。またこうしたことが起こったのは発電の収益力が世界的に類を見ない実質的な可変費での一日前市場投入規制によって歪み、「この市場ルールなら投げ売りした方がましだ」という判断を呼んだとすればその責任は市場当局、あるいは市場調達依存の新電力を放置したルールメーカーにも帰するものだ。

まさかこの程度の電力市場・制度の常識を当時の政策当局・学者者・事業者(経営者)が知らなかったとは思いたくないが、彼らが「kWh販売競争」という23年の電気事業では世界中どこにもないコンセプトに一種の夢をみていたことは否定できない。今や日本中の電力小売り事業者が「顧客を捨てる」ことに必死だ。もし今冬が今年の裏返しの厳冬で、中国のLNG需要が回復すれば、日本の小売り電気事業で余計なkWh販売を持つことは経営破綻に直結するからであり、しかもその状況は予備力が豊潤になるまで当面続く。

価値化の鍵は分散型電力システムへの参画

では、「販売電力量をあげる」ビジネスから脱した電力ビジネスはどこにいくのだろうか。今後は日本の電力市場は「完全流動化+堅牢な容量市場」という北米のパワープールに極めて不完全な形ながら近づいていく。電源の共有化、各種の容量確保市場、それらの小売り負担がその内容であり、旧来型の電気事業(電気を作り、送り、売買する)はそちらに収れんしていく。そこでは旧一電は実質的なデフォルトプレーヤーとして役割を果たし、生き残った新規参入者は得意顧客を集めて対抗していことになる。

その上で、重要なのは顧客にとっての電力ビジネスの価値化であり、鍵がエネマネ、再エネ、蓄電池、EV、機器制御、それらを使ったDR(デマンドレスポンス)といったDER(分散型エネルギー資源)であることは論を待たない。22年11月から始まった資源エネルギー庁の分散型電力システム検討会はDER活用の課題となっていた機器点計量による需給調整市場参入、省エネ法改正に伴うDRのルール、本格普及期に入るEVと電力グリッドの課題整理、活用のために必要なDERプラットホームの送配電事業者・アグリゲータ双方にとっての必要条件について議論し、各課題を電力・ガス小委などに順次送り出している。

英国をはじめ需要側フレキシビリティ活用の先進地に比べて制度は整備途上だが、自動車各社と送配電・EVビジネス関係者が具体検討を始めるEVグリッドWGが立ち上がるなどの取り組み内容は画期的である。一方、国内DERビジネスも、エネルギー危機の進行とともに屋根乗せ太陽光、PPA(電力供給契約)、エネマネツールの開発・普及、蓄電池活用、あるいは系統蓄電池、EV導入など多くの事業者・ベンチャーが参入して活況を呈している。

問題は多くのユーザーを持ち、kWh販売というエネマネや再エネ導入のベースであるビジネスのプラットホームを持つ大手小売り電気事業者が、本当にこのビジネスをkWh販売に変わる主軸として自分の「価値」と考え、行動できるかという点ある。kWh販売に比べるとこのビジネスは安易にマネタイズしにくく、システムやアライアンスの工夫やイノベーションが必要だ。「知恵」なくしては発展しないのである。

多くの電力ユーザーがDERを使った新しい電力システムへの参画を果たせれば、再エネ大量導入時代の大きな課題である再エネバランシングはより容易になり、予備力が乏しい中でも日本の電力システムはより強固になる。今回の不祥事がこうしたより良い電気事業の姿に結びつけば、それだけ犠牲を払った甲斐があったと言えるのかもしれない。 

西村 陽  大阪大学招聘教授

【記者通信/4月28日】2024年の完成なるか!六ヶ所村再処理施設の現状


日本原燃の核燃料サイクル施設(青森県六ヶ所村)の完成が近づいている。同社は2024年上期のできるだけ早くの完工を目指す。これによって核燃料サイクル政策が動き出す。3月末に現地を取材した。

日本原燃の六ケ所工場(日本原燃提供)

◆原子力発電を支える重要施設

「バックエンド施設が一箇所に集まっているのは、世界的にもここ六ヶ所だけです。発電と再処理は原子力における車の両輪。一日も早く稼働させ、地元、そして原子力関係者の期待に応えたい」。施設を案内した幹部はこう話す。

原子力発電のウラン燃料はこのようなペレット状に加工され、金属の容器に入れられる

この六ヶ所村の日本原燃には、核燃料再処理、建設中のMOX燃料製造、低レベル放射性廃棄物の処分、高レベル放射性廃棄物の一時保管、そしてウラン濃縮の5つのカテゴリーの施設が立ち並ぶ。

現地を訪れると敷地の広さ、それぞれの建物の巨大さが印象に残る。その面積は、青森県下北半島の六ヶ所村に約730万㎡。再処理の新規制基準対策工事のピーク時には、約3200人の同社社員に加え、約8000人の協力会社の人が働いていたという。MOX燃料工場(ウラン・プルトニウム混合酸化物)も建設中だった。

「トイレなきマンション」と、原子力反対派は50年前から変わらないスローガンを掲げ批判している。日本の原子力政策では、廃棄物処分の対応がされていないというものだ。しかし実際には、ここで着々と取り組みが進んでいる。

20年以上前に、高レベル、低レベル放射性廃棄物を施設に搬入する際、反対派が全国から押し寄せた。しかし安全な運営を続け事故もなかったために、今ではそのような運動は施設周辺で見られなくなったという。

◆再処理工場稼働で原子力の諸問題が前進

この施設の中核は、核燃料の再処理工場だ。原子力発電で行われる核分裂反応で、ウラン燃料の全てが物質転換するわけではない。大半の成分はそのままで、プルトニウムや核分裂の生成物ができる。その使用済み核燃料を化学反応させて物質を分離させ、使えるウランとプルトニウムを取り出す。

使用済み核燃料6体(約3t)から、ウラン燃料1体、MOX燃料は1体、高レベル放射性廃棄物のガラス固化体(約500kg)3本が作られる。燃料は再利用ができ、処分しなければならない廃棄物の体積が4分の1に減り、プルトニウムもMOX燃料で消費できる。年約800tの使用済み燃料を処理できる。

仮に使用済み核燃料を直接処分した場合、放射線量が天然ウラン並みに低下するのは10万年必要だ。これに対し、燃料を再処理することによって同じ程度に低下する期間は8000年程度で済む。

つまり再処理をすることで、燃料再利用、放射性廃棄物の減容、有害度低減というメリットがある。そして余剰プルトニウムを持たない国策の実現という意味がある。日本は無資源国だ。この核燃料サイクルによって、核燃料をできる限り使い続け、エネルギーの海外依存度を減らそうと1950年代から構想されてきた。それが今、実現しようとしている。

再処理工場の建設費は当初計画の4倍の3兆1000億円になり、建設開始から40年ごろまでの総事業費のめどは14兆4000億円になる。確かに巨額であり、その予定外の出費の是非は検証されなければならない。しかし現在の電力市場の規模は22年で15兆1000億円と巨大なもので、核燃料サイクル事業費はそれよりはるかに小さい。核燃料サイクルの多くのメリットを考えれば、コストは決して高いものではなくなる。

◆なぜ審査は遅れたのか

ただし再処理工場の竣工は遅れている。日本原燃は、1992年に建設を始めたが、昨年9月に26回目の工事完成の延期を発表した。同社は「24年度上半期のできるだけ早く」と期限を設定した。ところが、今年3月末の原子力規制庁との審査会合では原燃が提出した申請書6万ページのうち約3000ページに、誤記や記載漏れがあったことが明らかになった。

繰り返される延期には原燃のマネジメント体制の問題がある。しかし11年以降の原子力の新しい規制体制にも問題があると思える。

東日本大震災の後に、これまでの許認可を棚上げし、原子力規制で建設の認可が全ての原子力施設やり直しになった。これは無駄なことだし、法律上の根拠はなかった。

日本原燃は14年1月に事業変更許可申請を出し、それが20年7月にようやく認められた。現在、設計と工事計画の認可を求め、並行して認可前でも施工可能な場所は安全対策工事を行なっている。

再処理施設は国内でここしかない。そこには他の原子炉の6倍程度の多くの設備がある。国内で審査の先行事例がないため、規制庁も、原燃も審査に試行錯誤を繰り返している。この事情を考えた対応を規制庁もするべきだった。

◆過剰規制が工事を遅らせた

また素人の記者の判断であるが、装備を過剰につける形で安全対策の規制が行われていた。それが合理的であるか疑わしかった。

新規制基準では、航空機衝突、天災による冷却機能の喪失などの重大事故への対応が行われている。再処理施設は高熱を管理する必要のある原子力発電所ではなく、化学プラントだ。アクシデントが起きても、その事故の進行度が全く違う原子力発電所と同じような規制を課している。

例えば、ここでは主要設備に竜巻対策が取られていた。他の原子力発電所と同じように、国内の気象観測で最大級の風速毎秒100m以上の竜巻対策を規制庁は求めた。そのために施設の冷却に必要な冷却塔、排気・換気ダクト、重要な配管に、竜巻での飛来物から設備を守る、鋼鉄製の防護網や板が設置されていた。また火災対策として、これまであった消火設備の地下化などが行われていた。ここでは過去、大規模な竜巻は観測されていない。ここまでの対策は必要なのか。

冷却塔に加わった防護ネット(日本原燃提供)
再処理工場の遠景(日本原燃提供)

原子力施設が安全になることは良いことだ。しかし対応で高まる安全性と、経費や建設の手間に釣り合いは取れているのか。日本原燃の経費は電力の利用者が最終的に負担し、遅れは利用者に負担を強いる。

◆24年完工を目指し、努力は続く

再処理工場の完工の遅れに対し、電力業界も支援を続けている。審査対応などで日本原燃に電力各社から多数の社員を派遣している。日本原燃の増田尚宏社長は24年度上期のできるだけ早くに完工させるという目標は変えていない。そしてMOX燃料工場も同時期に完工の予定だ。

19年に社長に就任した増田氏は、エネルギー業界では「英雄」として知られる。東日本大震災の時に、津波に襲われた東京電力福島第二原発の所長として、対応を行い、プラントを安全に冷温停止させた。その実績が高く評価されている。その熱意は社長に転じた日本原燃にも活力を注ぎ込んでいるとされる。

同社は、21年12月から体育館に関連企業、社員を集め、コロナ対策をしながらそこで400人ほどが机を並べて働いている。審査対応を、一緒に練る場所を作り、連携を強めるためだ。竣工を目指し、関係者が一丸になって取り組んでいる。

工期の遅れは、再処理事業を受け入れ、それによる経済の発展を期待してきた青森県の人々を失望させることにもなる。

1日も早く完成させ、核燃料サイクルを形にしてほしい。再処理施設の完成は核燃料サイクル政策を動かし、原子力を巡る諸問題を解決へ前進させることになる。

【目安箱/4月26日】原産年次大会で実感 原子力を巡る前向きの変化と期待


「第56回原産年次大会」が4月18、19両日、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で開かれた。国内外から630人が参加し(オンライン参加を含む)、「エネルギー・セキュリティの確保と原子力の最大限活用-原子力利用の深化にむけて」を基調テーマに議論した。

外国から原子力界で著名な人を招くこの会合。業界関係者が一同に会するため、筆者も傍聴者として参加してきた。コロナ禍の後で出席者が増え、参加者が「原子力に前向きの変化があった」と口をそろえて歓迎していたことが印象に残った。

◆政策変更を歓迎、進展を期待―今井敬会長

開会セッションの冒頭、原子力産業協会の今井敬会長があいさつ。最近の日本における政府方針・法案決定の動きに関し「原子力利用の価値を明確にした」として、「わが国の原子力政策は大きく前進しようとしている」「世界で原子力へ回帰する動きが出ている」との認識を示した。今井氏が述べたように、日本の原子力を巡る政策が大きく変わったことが、関係者に希望を抱かせている。ただし、この変化を「着実に進展することを強く期待」と、実行の必要性を強調した。

経団連会長、新日鉄会長を務めた今井氏は93歳だ。その見識の高さで知られ、まだ「財界」に権威のあった時代の企業人だ。しかし、その頭脳の明晰さと声のはりは全く衰えず、スピーチ後も各セッションを最前列で傍聴し、有識者の発言から学ぼうとしていた。その姿勢に、筆者は感銘を受けた。

続いてあいさつした経済産業省の保坂伸・資源エネルギー庁長官は「原子力活用がG X(グリーントランスフォーメーション)の柱になった」と政策変更を強調。「わが国の原子力産業は今や大きな危機に直面している。原子力産業を盛り上げていくことの重要性は今や世界的な共通認識となっている」と述べ、原子力のサプライチェーン、技術基盤・人材確保の維持・強化に努める政策を説明した。

筆者は、エネ庁の政策の甘さとそれがもたらした混乱が、原子力・電力産業の苦境を招いた一因と思っている。頭脳明晰とされる保坂氏もそれはわかっているだろうし反省の言葉はほしかった。しかし、現役の官僚にそれを求めるのは酷かもしれない。

◆世界も日本の原子力に注目

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシー事務局長からはビデオメッセージが寄せられた。IAEAが2022年7月に新たなイニシアチブ「Nuclear Harmonization Standard Initiative」(NHSI)を開始したことを紹介。NHSIでは、小型モジュール炉(SMR)を始めとする先進的原子炉の設計標準化、規制活動の調整、情報交換を行うが、「日本の活躍に期待」と述べた。また。「次世代のプロを着実に育てていく必要がある」と強調。男性に原子力研究者が多い現状を是正する目標を掲げ、日本に対し理解・協力を求めた。

さらにジャーナリストで国家基本問題研究所理事長の櫻井よしこ氏が「原子力発電を日本の元気の基にしよう」と題して特別講演。規制政策の合理化を訴えた。「日本の原子力技術は非常に優れている。現場の人たちの努力を形にすることは国の責任だ」と桜井氏は訴えた。

セッションは1日目「揺れ動く国際情勢と各国のエネルギー情勢」「再評価される原子力-原子力産業活性化と世界的課題への貢献」。2日目は、「福島復興の未来」「原子力の最大限活用とその進化-2050年を見据えて」が行われた。

◆雰囲気の変化を形にしよう

原子力では、関係者の内輪の会合でも、昨年(22年)まで「意気消沈」という印象を与えるものが多かった。2011年の東日本大震災とそれによる東京電力福島第一原発事故で、さまざまな立場の人から原子力関係者は批判を受けた。関係者も必ず反省を語った。仕方のないことにしても、後ろ向きの印象を抱き、暗くなりがちだった。

ところが今回の会合は変わった。世界的な原子力再評価が気候変動問題で起こり、2022年にウクライナ戦争でのエネルギー危機でそれが加速した。さらに、その機会に合わせ、岸田文雄政権が原子力活用に政策を転換した。社会の雰囲気は変わっているし、政府の決断を評価したい。

原産協会の大会で会った旧知のメーカーの技術者が話していた。「業界が前向きの雰囲気になった。電力会社の不祥事が続いていて、原子力の再生の機会を逃さないか心配だ」。また知人の電力会社幹部は「原子力を巡る雰囲気が変わり、セッションや講演でも前向きの話ばかりだった。あとは新型炉を開発してほしい」と述べていた。後は、この機運をバネに、原発の再稼働、新増設・リプレースなど、具体的な形や成果に結びつけることが必要だ。

【記者通信/4月18日】電力カルテル会見を徹底検証 「合意の有無」巡る対立の深層


公正取引委員会から過去最高の課徴金納付命令が出た電力カルテル問題を巡り、当事者の大手電力4社(中部、関西、中国、九州)の間で「カルテル合意があったのか否か」に世間の関心が集まっている。今後、中部電力などが処分の取り消しを求める訴訟を起こせば、法廷闘争における重要な争点になるのは確実。公取委・関西電力対他3社という異色の構図となる可能性もあり、業界関係者の視線を集めている。

九州電力、合意はないが提訴は未定

4月14日に行われた電気事業連合会の定例会見。池辺和弘会長はいつになく饒舌だった。「(九州電力社長の立場として)カルテルに関しては、全く聞いていなかったと明確に申し上げることができる。当社では、カルテルが行われていなかったので、CEO(最高経営責任者)である私に相談がなかったと考えるのが、当然の結論ではないか」。記者から「公取委との間で一部見解の相違があるとのことだが、どこに相違があるのか」と問われると、池辺氏は「カルテルの合意があったことだ」と言い切った。

その一方で、取り消し訴訟の可能性については「まだ社としては決めていない」とお茶を濁した。記者からは「九電としてカルテルはなかったと言っているようにしか聞こえないが…」との声が上がったが、池辺氏は「(役員・社員らが)CEOに相談を行わないままに、カルテルを結んでいた可能性は残っている。私が知る限りの証拠に基づけば、カルテルはなかったと思うが、現時点でカルテルはなかったと言い切っているわけではない」との考えを示した。察するに、現時点で「九電としてカルテルはなかった」と断言できるほどの材料はないのだろう。そこに池辺氏の苦しい立場が読み取れる。

中部電力、行政訴訟で徹底的に争う構え

その点、中部電力の林欣吾社長は公取委との対決姿勢を鮮明に打ち出している。「各命令に関しては関電との間で営業活動を停止するよう合意しておらず、取り消し訴訟の準備を進めている」「公取委との間で見解の相違がある。訴訟を通じて具体的な意見を述べて、的確に対応していくことが大切な経営責任だと考えている」「役員級が会合していたのは事実だが、誰が誰といつどこで何を話したかなど具体的な内容は訴訟の場で説明する」――。

林氏は4月7日の会見で、大手電力4社のカルテル認定に対する公取委の処分を受け入れず、行政訴訟で徹底的に争う考えを繰り返し強調した。去る3月30日も、公取委が処分を発表した直後に、水野仁副社長が名古屋の本店で会見を行い、取り消し訴訟の提起を発表。2018年当時、専務執行役員販売カンパニー社長として当事者の立場にいた林氏自らの強気の姿勢には、カルテルで合意した事実はないという自信が垣間見える。

「中部電は2018年以降も引き続き関電管内での顧客を増やしているが、おそらくはその事実にとどまらず、カルテルを否定できるだけの十分な証拠を持っているのではないか。例えばICレコーダーの音声データとか。そうでもない限り、林さんのあの自信は説明がつかない」(大手電力関係者)

【記者通信/4月19日】G7エネ環境相会合 「現実路線」に軌道修正


主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境大臣会合が4月15、16両日、札幌市で開かれた。脱炭素とエネルギー安全保障を両立させる「現実的なエネルギー移行」が焦点となる中、西村康稔経済産業相は会合後の共同会見で、①多様な道筋の下で共同のゴールを目指す、②グローバルサウス(途上国)との連携、③地政学リスクに対応――の三点について合意できたと語った。共同声明では、さまざまな分野で「現実路線」への軌道修正が図られた。項目別に解説する。

石炭火力の廃止期限は明示せず 処理水放出への理解は?

石炭火力

最も注目を集めたのが石炭火力の廃止期限を巡る問題だったが、昨年同様に明示を避け、排出削減対策が講じられていない石炭火力のフェーズアウトを再確認する形に収まっている。原発再稼働が進まない日本にとって、石炭火力の早期放棄は電気料金のさらなる上昇や供給安定性の低下につながる可能性が高い。一部の国からは、日本が作成した共同声明の初期草案段階から廃止期限の不明示について懸念の声があったとされるが、振り切った格好だ。2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化することへの関与も再確認した。

原子力

昨年の共同声明から記述量が倍増した。革新炉開発や強靭なサプライチェーンの構築、技術や人材の維持・強化が明記され、力強い内容となっている。しかし会合の数日前、「脱原発」を完了したドイツの影響もあり、共同声明の主語が「われわれ(We)」ではなく、「原子力エネルギーの使用を選択する国々(Those countries that opt to use nuclear energy)」となっている点は要注目だ。同会合に合わせて国際原子力フォーラムも開かれ、G7閣僚からは西村経産相のほかに米国、英国、フランス、カナダの担当閣僚が参加。ウランをはじめとする「原子燃料分野のロシア依存低減」などが合意され、G7共同声明にも盛り込まれた。

福島第一原発

「福島第一原発の事後対応」についての項目が加えられた。今夏以降に予定する処理水放出を巡っては、国際原子力機関(IAEA)による独立したレビューが支持された。レビューは夏前に包括報告書が提出される予定で、放出前にG7の支持を得られた意義は大きい。廃炉作業については、科学的根拠に基づいて日本の透明性のある取り組みを歓迎するとした。日独伊の閣僚が参加した会合後の共同記者会見では、こんな一幕があった。西村経産相が「“処理水の海洋放出を含む”廃炉の着実な進展、科学的根拠に基づくわが国の透明性のある取り組みが歓迎される」と説明した後、ドイツのレムケ環境相が「処理水の放出は歓迎できない」と反発したのだ。日本の取り組みが歓迎されたのは、あくまで「廃炉作業」であり、処理水放出についてはIAEAレビューを支持したという趣旨だったようだ。西村経産相は会見後、記者団に対して「言い間違い」を認めたが、ヒヤッとする場面だった。

「現実路線」でガス投資の必要性明記 合成燃料にも言及

天然ガス・LNG

エネルギー価格の高騰とインフレが特にグローバルサウスへの悪影響を及ぼしていることに触れ、将来のガス不足を防止する観点から、気候目標に反しない形での投資の必要性が明記された。石炭火力の休廃止が進む中で、化石燃料の中でCO2排出量が最も少ないLNGは「トランジション・エネルギー」としても重要だ。日本が支持を求めたとみられ、現実解の一つといえる。

水素・アンモニア

電力部門の脱炭素化に資する点が明記された。日本は昨年、アジア各国の脱炭素化を推進する理念を共有し、協力する「アジア・ゼロエミッション共同体構想(AZEC)」を提唱。水素サプライチェーンの共同開発や水素・アンモニア混焼などによる低炭素化に貢献する。共同声明ではこれらを念頭に、電力部門で水素とその派生物(アンモニアなど)の使用を検討する国についても触れた。水素・アンモニア混焼など日本のGX戦略は“石炭火力の延命策”との批判もあるが、「現実的なエネルギー移行」として推し進めていく。

自動車

米英などが電気自動車(EV)をはじめとするゼロエミッション車について、市場シェアや販売台数などの数値目標の明記を求めていた。しかし共同声明では、35年までにCO2排出量50%削減(2000年比)の可能性に留意という表現でとどめた。同分野では水素、合成、バイオなど脱炭素燃料についての言及もあり、合成燃料で走るエンジン車に限り35年以降も新車販売を認める欧州連合(EU)の方針と歩調を合わせた格好だ。ハイブリッド車(HV)とEVの“二正面作戦”を展開する日本にとって追い風となりそうだ。

再生可能エネルギー

30年までに洋上風力の容量を15GW、太陽光発電の容量を1TW以上増加させる数値目標を盛り込み、再エネ導入拡大とコスト引き下げに貢献することを明記。ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力、波力発電など革新的技術の開発を推進するほか、系統増強や蓄電池運用の近代化、需要側のマネジメントなどシステムの柔軟性を着実に向上させていくとした。

急進的な脱炭素化に歯止め 国情に応じた取り組みに理解

共同声明ではさまざまな項目で定量目標を設けず、多様な選択肢を追求する姿勢が目立った。開会挨拶で西村経産相が「これまでに経験したことのない不安定なエネルギー市場、サプライチェーンの脆弱化といった課題に直面している」と語ったように、厳しい現実を前にして脱炭素化への急進的な動きに歯止めがかけられたといえる。また脱炭素という「ゴール」は共通だが、「アプローチ」は各国の国情に応じて多様であると強調された点も意義がある。本会合が9月のG20首脳会議、年末の温暖化防止国際会議・COP28にどのような影響を与えるか注目だ。

【目安箱/4月18日】Jパワー大間原発の今 国策を揺るがす規制委審査の遅れ


建設中の電源開発(Jパワー)大間原発(青森県大間町)を3月末に見学した。この原子力発電所は核物質プルトニウムを消費し、最近は不足しがちな電力供給を改善する重要な役割を持つ。にもかかわらず、原子力規制委員会の審査が長引き工事が遅れている。稼働は2030年度になりそうだ。建設の進まない巨大プラントを前に、原子力政策、規制政策がこれでいいのかと疑問を抱いた。

工事中の大間原発の原子炉部分。覆いがかけられている

青森県下北半島の最北端に本州最北端の大間崎がある。そこから4kmほど南に、大間原発がある。訪問した日は快晴だったが、凄まじい風が吹いていた。津軽海峡に面したこの地域は、年間120日以上も風速毎秒15m以上の強風が観測されるという。原発の主要部分には、風を避けるための覆いがかけられていた。工事の大変さを思った。(写真)

大間原発の原子炉は1基で発電能力は国内最大級の138万3000キロワット(k W)だ。現在の日本では原子力発電所の稼働が遅れ、電力が不足しがちだ。大間原発の完成と、そこからの電力の大量供給は、状況を変えるだろう。

そしてこの原発はウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使って発電できる。プルトニウムは核爆弾の材料になりかねないために、国際的にその保管や利用を監視されている。日本は余剰プルトニウムを持たず、それを平和利用する国際公約をしている。この物質を消費する大間原発は、その国策に貢献する発電所だ。

◆停滞する工事、審査が長引く

ところが工事は進んでいなかった。工事現場は広大だった。ただし建設作業員らの姿は、主要部の原子炉の周辺ではまばらで、周辺の道路や地盤整備、関連建造物の建設が行われていた。

建設は2008年に建設認可を経産省から受けて始まった。ところが2011年3月11日の東日本大震災で状況が変わった。原子力規制体制が見直しになり、大間原発の建設の許認可もやり直しになってしまう。今度は経産省から、独立した行政機関である原子力規制委員会、規制庁が担当することになった。Jパワーは2014年に同委員会に適合性審査を申請した。ところが、この地域の津波や地震に関する審査が続き、その基準地震動が今も定まらない。そのため発電所主要部の原子炉の工事が行えない。

多くの原発で、一度震災前に建設をめぐる許可は出ている。それを新しい制度で急にやり直させるのは問題だし、規制委員会のその指示に法律上の根拠はない。そして申請から8年経過しても結論が出ないのは、原子力規制委員会・規制庁の審査に問題がある。行政手続法では、どのような行政組織も2年以内に審査を終えることが行政側に義務付けられている。

Jパワーは建設当初は2014年に予定した運転開始を2030年度に延期した。建設費用は東日本大震災前に見込みで4690億円、震災後の追加安全対策で1300億円の予定で、合計5990億円という巨額だ。この投資は財務的に優良企業である同社にとっても大きな負担である。早急に完成、稼働させなければならない。民間企業の収益機会が、行政によって制限されているのは問題だ。

◆地元は稼働による経済効果を熱望

さらに津軽海峡を隔てた北海道函館市が、2014年4月に大間原発の建設中止を求めて国とJパワーを提訴している。同市は避難計画の策定が必要な半径30キロ圏内に一部が入る。大間原発の恩恵が少ないのに、リスクを引き受けることに、函館市の人が不快感を抱くことは理解できる。しかし同市はふるさと納税で訴訟支援への献金を促すなど、中立であるべき行政の立場なのに、全国の反原発派を集めて紛争を大きくしようとしている。この行動は問題だ。

一方で、地元の青森県、大間町は大間原発の早期の完成と稼働を求めている。大間町への原子力発電所の誘致は1984年の町議会の決議から始まった。そして稼働した場合には固定資産税、電源立地交付金などさまざまな収入を、県や町は得られる。

現在の建設工事で、Jパワーグループは地元で約100人を雇用し、地元企業への発注もある。完成の場合には、同社社員や関連会社で約500人が常駐する見込みだ。大間町の人口は4865人(2023年2月末)で過疎に悩む。この原発の竣工と稼働は、地域経済に大きな貢献をするだろう。

案内をしたJパワー幹部は「この原発は日本のエネルギー、原子力の未来に、重要な意味を持ち、責任を感じている。地元の皆様との約束もあり一日も早く稼働させたい。安全性を高めた原子力発電所を作りたい」と、抱負を話した。

◆大間原発の意義を考え、早期の竣工を期待

福島事故から時間が経過し、原子力についても冷静に議論ができるようになっている。その活用を求める声も増えている。政府もこれまでの曖昧な態度から活用へと原子力政策を昨年から転換した。ところが政府の原子力規制政策が矛盾している。規制当局が、原子力を使わせないようにしているように見える。

原子力規制委員会、規制庁の行動については、過剰な設備を求める規制、審査の遅れがこれまで批判されてきた。筆者は安全性を確認せずに原子力発電所の稼働を進めろと主張するつもりはない。しかし審査があまりにも遅い。特に遅れの目立つ大間原発で、基準地震動の審査では多様な解釈ができる過去の地層の動きの議論を延々としている。

そのような原子力規制が、青森県、大間町の住民、そしてJパワー、全国の電力利用者というあまりにも多くの人や団体に悪影響を与えてしまっている。

核燃料サイクルを動かし、電力供給を増やし、地域振興に役立つ大間原発の重要な意味を、関係する人は認識してほしい。重要なプラントである大間原発の建設を一行政機関が妨げている今の日本の原子力規制のあり方についても、考えるべきであろう。

大間原発の早急な完成と稼働により多くの人が利益を享受することを、エネルギーに関わる者として期待したい。

【記者通信/4月11日】自民党PTが資源自律経済を提言 西村環境相「新たな経済成長に」


自民党経済産業部会(会長・岩田和親衆議院議員)と、同部会内の資源自律経済プロジェクトチーム(PT:座長・関芳弘衆議院議員)は4月11日、西村明宏環境相に対し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)へのさらなる取り組みを求める「世界最先端の資源自律経済の実現に向けた成長戦略への提言」を申し入れた。出席した岩田和親経産部会長は「昨年末からこのPTを立ち上げ、精力的に取りまとめた。循環型経済を成長戦略として位置付けたい」と話している。

西村環境相(右から2人目)に提言を手渡す関座長(左から2人目)

提言では、資源自律経済の確立に向け、①経済安全保障への貢献、②気候変動対策への貢献、③情報流通プラットフォームの早期構築、④製品・サービスの循環配慮設計の徹底、⑤製品の長期利用を促進する「REコマース」産業の育成⑥企業による情報開示とファイナンス、⑦国際連携の抜本的強化――の7点を示し、政府に循環型経済を国の成長戦略として位置付けるよう求めた。PTの関芳弘座長は「リユース・リデュース・リサイクルの3Rをクリアした商品が市場に回る環境になっている」と現状を説明。中国などを念頭に置く資源調達リスクを踏まえた経済安全保障の観点からも、速やかな循環型経済への移行が必要だと強調した。

西村環境相は「経済成長と環境がウィンウィンの関係を築くことが必要。循環型経済を新たな経済成長に結び付けないといけない」と述べ、提言に理解を示した。また、この日から第5次循環型社会形成推進基本計画の策定に環境省として取り組んでいることを明かし、今回の提言をベースに策定の調整を進めていく考えを示した。

【目安箱/4月4日】世界的な中国企業排除 エネルギー業界の対応は万全か?


欧米で中国系企業への重要産業からの排除の動きが広がっている。各国のエネルギー産業ではそれが特に進む。これまで重電や原子力プラントの輸出などが問題になってきた。最近では、太陽光、監視カメラ、EV、TikTokなど、エネルギー周辺に関係する個別の製品やサービスも警戒されるようになっている。欧米に比べて、この問題の反応に鈍かった日本政府と産業界も、ようやく動き始めた。エネルギー業界の準備は大丈夫か。

TikTok批判のきっかけは設備情報の映り込み

「TikTokから情報が中国に漏れている可能性がある」「米国でビジネスをするなら米国企業に売却するべきだ」――。3月23日に行われた、米連邦議会下院の情報通信委員会公聴会で、動画配信アプリTikTokを運営する中国企業バイトダンスの周受資CEOに議員たちが発言した。周氏は情報漏洩も米国企業への売却も否定。「企業活動の侵害である」「情報セキュリティが当社より適切に行われていない米国企業も多い」などと反論した。

対立した状況だが、意外な方向に転がる可能性がある。同委員会は、TikTokの米国内での活動を禁止する法案を超党派の賛成多数で2月に可決している。すでに米国は公的機関での使用を禁止しているが、法律での全面禁止など、さらなる規制がこの公聴会をきっかけに同社の活動に加わってしまうかもしれない。

TikTokは全世界で10億人、米国で1億人以上のユーザーがいる動画投稿アプリだ。若者を中心に人気がある。利用者の情報漏洩の可能性が指摘され、共和党保守派の批判だけではなく、民主党のバイデン政権も規制を進めている。2018年ごろに問題になったきっかけは、米軍の若い兵士たちが、映像を投稿し、それに軍の設備や部隊が映り込んで、当時のトランプ大統領や共和党保守派が懸念したことだ。

これはインフラ産業が警戒すべきことだ。社員や訪問者の何気ない投稿が、重要情報を拡散してしまうかもしれない。

中国企業の警戒へ 米国の雰囲気変わる

2023年の今、米英のメディアを見たり読んだりすると、中国の政府、企業に対する警戒感が5年前とは全く違っている。かつても政治家や有識者からの中国企業の懸念をメディアは報じていた。それでも「中国との貿易は利益になる」「中国と対立はするべきではない」と、中立性を保つ意見が記事で併記される例が多かった。

ところが今は中国政府と、同国企業の活動への警戒が一色だ。米国の東部や英国のリベラルメディア、両国のテレビが、英語を通じて国際世論を引っ張る。しかし、そこからは中国との友好の情報は消えている。政治家も中国への批判を繰り返している。

最近は、基幹産業だけではなく、個別の製品、企業で、中国企業の動きを警戒する記事が増えている。特に、エネルギー関連では、監視カメラ、太陽光発電、EVなどが目にとまった。

中国は6億台以上の監視カメラが国内にちらばる異様な社会だ。監視カメラの世界シェア1位は中国企業のハイクビジョン、2位は同ダーファ・テクノロジーだ。2社は中国政府に協力し、その監視システムを作り上げてきた。両社は海外での販売活動を行なっている

太陽光発電システムの原料のシリコンの世界の生産1位は、中国新疆ウイグル自治区の軍事組織「新疆生産建設兵団」だ。ウイグル人の強制労働などをしている疑いがある。米国は同組織が人権侵害に加担しているとして、中国製太陽光パネルの輸入を昨年夏から止めている。EVの世界4位の生産量を持つのは中国のBYDだ。同社は価格ダンピング批判や環境基準に抵触する生産を米政府に調査されている。

こうした企業は、日本のエネルギー産業に関係する。そして欧米から締め出されつつあることが影響してか、昨年ごろから日本での販売促進活動を活発に行なっている。

日本で変化の兆し 平和ボケも根強い

人権や安全保障に敏感に反応する欧米の政府や企業と違い、日本の官民の動きは鈍かった。ようやく変化の兆しがある。

日本では経済安全保障推進法が2022年に施行され、内閣府に担当大臣も置かれるようになった。その法で定められた「基幹インフラ事前審査制度」が23年以降に施行される予定だ。この法律と制度では、電力やガスなど重要な産業について、経済安保上の脅威となる外国製品の導入、外国企業の介入を防ぐように政府が指導できる。特定の国、企業を念頭に置いたものではないと繰り返されるが、実際には中国企業への対抗措置となろう。

同制度は現在、細則づくりが進んでいる。ただしエネルギー産業はこれまで、他産業と比べて、保安や事業の維持、情報管理の面では関心を持ち、対策をしてきた業界だ。21年に同制度が審議中のときにある大手電力幹部は、「すでに重要設備で外国製品は、原則として使っていない。制度が作られても、それを深掘りするだけだ」と、話していた。

建前はそうだが、実態は大丈夫だろうか。新しい技術や製品は次々と誕生し、使われる。例えば、今ではエネルギープラントの設備管理と監視にドローンが使われている。この分野では中国製品もあるし、日本製でも中国製部品を使っているものもある。外国製品を簡単に排除できない面がある。

また社会の雰囲気も「平和ボケ」が続く。例えば、デジタル庁は、昨秋、マイナンバーの広報のためにTikTokに広報動画を流した。メディアも積極的にPR映像を流している。知人に在京テレビの制作部署に勤める社員がいる。その人と2月に話したら、海外のTikTok規制の動きをほとんど知らず、「機密情報を扱っていないから大丈夫ですよ」と無警戒だった。これが日本の平均像だろう。エネルギー業界も、こうした社会の大勢に引っ張られ、隙ができてしまうかもしれない。

是々非々で中国企業に向き合う

米国は、その覇権を脅かそうとする国を、政府、産業界が一体になって叩く傾向がある。かつてのソ連、日本がそうだったし、今は中国なのだろう。そうした思惑に単純に同調する必要はない。

個人的には、中国企業の製品やサービスを排除することは是々非々であるべきだ、と考える。安く良い製品を使うのは消費者の権利だ。さらに中国企業の排除は、中国人との関係悪化、敵意の醸成という悪い方向につながりかねない。

しかし、日本の政府から企業までのあらゆる場面で、警戒感がなかったことは確かだ。そして世界的な中国企業排除の流れの中で、一個人、一企業が別行動するのは、大変な労力がいる。そして中国企業の場合は、政府による人権侵害への加担、情報漏洩などをしている可能性がある。

欧米発の異様な中国敵視の動きに同調し過ぎることはない。しかし中国企業とどっぷり関係を持つ必要もない。日本のエネルギー業界の各社はすでにやっていることであろうが、日本政府のつくる経済安全保障の仕組みを注視しながら、これまでに増して、自らの利益になる形で外国企業との関係を慎重に作る必要がありそうだ。

【記者通信/4月3日】Jパワー新社長に菅野氏 CN達成へ「複数企業と連携」


Jパワー(電源開発)は3月31日の取締役会で、菅野等副社長が社長に昇格する人事を内定した。6月の株主総会後の取締役会で正式に決定する。渡部肇史社長は代表権を持つ会長、村山均会長は特別顧問にそれぞれ就任する。Jパワーのトップ交代は2016年以来7年ぶり。渡部社長はこの日の会見で、菅野副社長の次期社長内定について「公平性を大事にし、実行力がある。思慮深さとのバランスも優れており、スピードを求められる時代に合った資質だ」と評価した。

3月31日の会見で握手する渡部社長(左)と菅野副社長

菅野副社長は、Jパワーが21年2月に策定したカーボンニュートラル(CN)と水素社会実現に向けた取り組み「J-POWER“BLUE MISSION2050”」の策定を主導。昨年4月の副社長昇格後は、コーポレート総括、エネルギー営業本部長、原子力事業本部長を担当した。会見では、「何よりも電力の安定供給を果たしながら、CNへの道筋をきちんと歩んでいきたい」と、火力発電事業の脱炭素化に積極的に取り組む考えを表明。また、同社が掲げる50年CO2排出量実質ゼロという目標達成に向けて、「Jパワー単独ではなく、複数の企業と協力して脱炭素戦略を連携していきたい」と述べた。

一方で、これまで印象に残ったこととして、青森県大間原子力発電所での勤務を挙げ「大間の地域の方々と非常に親しく交流させていただいた。しかしまだ発電所が出来上がっていない。この点に忸怩(じくじ)たる思いがある」として、大間の稼働実現に力を傾注する意向を示した。

【プロフィール】

渡部肇史(わたなべ・としふみ) 1977年東大法卒。同年電源開発入社。2002年企画部長、06年取締役、09年常務、13年副社長などを経て、16年6月代表取締役社長就任。23年6月より代表取締役会長、全社コンプライアンス総括。

菅野等(かんの・ひとし) 1984年筑波大比較文化卒。同年電源開発入社。2011年設備企画部長、17年常務、22年4月取締役副社長などを経て、23年4月代表取締役副社長、ESG総括、コーポレート総括、エネルギー営業本部長、原子力事業本部副部長。23年6月より代表取締役社長、ESG総括。

【記者通信/3月31日】関電はカルテル主導せず!? 公取委会見の一問一答


関西電力など電力大手4社が相互の電力販売を制限するカルテルを結んでいた問題で、公正取引委員会は3月30日、排除措置命令および課徴金納付命令などについての記者会見を行った。詳しいやり取りは次の通り。

会見を行う田辺治審査局長(左から2人目)

田辺治審査局長 公正取引委員会は、旧一般電気事業者らによる独占禁止法違反について審査を行ってきたが、中部電力、関西電力、中国電力、九州電力ら6社が、独占禁止法で禁じられている不当な取引制限に該当する行為を行っていたと認められた。本日関係各社に対し、排除措置命令など行政処分を行うとともに、電気事業連合会に対し申し入れを行い、また電力ガス取引監視等委員会に対し情報提供を行った。

詳細説明の前に、私の方から3点ほど本件について申し上げたい。

1点目。本件は地域を代表する企業である旧一般電気事業者により、長年にわたり推進されてきた電気の小売供給分野の自由化の目的、理念である「電気料金を最大限抑制すること」「需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大すること」こうした理念をないがしろにする違反行為であるということ。

2点目。本件では、旧一般電気事業者間の協調関係を背景として、社によっては代表者を含む役員など、幅広い層が関与して違反行為が行われたということ。

3点目。本件違反行為は、相手方の供給区域の顧客を競争で奪わないようにするという二者間の市場分割で、自社の供給区域における競争を制限するものに他ならない。そのため自社の供給区域における売り上げを算定基礎として課徴金を課すこととなった。

その結果、本件の課徴金額は4社総額で1000億円超となり、中国電力単独で700億円超。1件あたり、1事業所あたりの課徴金額としては、いずれも過去最高額である。公正取引委員会としては、本件のように自由化が進む分野も含めて、独占禁止法違反行為があれば厳正に引き続き対処していく所存だ。

【記者質問】

記者 国民生活への影響の大きさについて、どのように評価しているか。

田辺氏 対象の違反行為の対象商品は、国民生活に重要なインフラである電力だ。最終的な電力の消費者である一般国民に対する影響は、大きなものであると考えている。

記者 カルテルのどこの部分に、特に悪質性があると考えているか。

田辺氏 今回は「不可侵相互不可侵協定」のような形での違反行為だった。情報交換の積み重ねで合意が成立したということ。情報交換が社によっては代表者を含む幅広い層で、いろんなレベルで情報交換が行われ、違反行為が行われていたのは一つの大きな問題だ。

記者 電力市場や電力料金への影響は?

斎藤隆明第三審査長 平成29年(2017年)末頃から、旧一般電気事業者(旧一電)間による競争が生じたことで、電気料金の水準が低下。しかし本件違反行為により、その競争がなくなってしまった。元々の契約価格についてはそのまま維持され、競争により下がるはずの価格は値上げ状態になってしまったと考えられる。

記者 合意により電気料金水準が維持されたという認識か。

斎藤氏 そう考えている。

記者 業界の地域特性など、特殊性からくる背景事情の認識は?

田辺氏 業界の特殊性という意味では、かつては地域ごとに独占供給をする電力会社があった。平成12年(2000年)の特別高圧から自由化が進められ、越境競争が導入された。当初は相互乗り入れのような競争が少なかったが、平成29年から30年(18年)にかけて競争が活発になってきた。その中で行われた違反行為という認識だ。それまで独占だった分野において、競争が導入された中での違反行為。これは他の業界とは違う面があると考えている。

記者 電力業界について今後求めることは?

田辺氏 再発防止について、各社経営陣が筆頭となり、各役職員・従業員に対して独禁法の遵守を周知徹底する姿勢が大事。一番重要なのは、2社間での相互営業活動において、自社の営業活動の情報交換をしてはならないということだ。

記者 課徴金減免制度の意義とは。減免申請なければ関電の課徴金はどの規模になるのか

田辺氏 制度に沿って協力を得て実態解明が進んだということで、それを評価して免除または減免率を決定した。減免申請しなかった場合の仮にという話は、この場で申し上げることは差し控えたい。

【記者通信/3月31日】公取委が電力カルテル認定 四者四様の対応で業界分断か


公正取引委員会は3月30日、中部電力と中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九州電力みらいエナジーに対し、高圧以上の電力販売や官公庁向けの電力入札おいて、独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反するカルテル行為があったとして、計1010億3399万円の課徴金納付と排除措置命令を出した。課徴金額は、国内独禁法案件として過去最高額となる。

公取委の田辺局長から申し入れを受ける電事連の池辺会長

公取委は、関西電力と各社との間で2018年10~11月ごろ、役員や部長、担当者といったさまざまな層で会合を重ねた結果、相手の管轄区域で営業しないよう相互不可侵の協定に合意し、実行したことが独禁法違反に当たると認定した。17年末に関電が中部、中国、九州エリアに進出したことを契機に高圧分野の競争が激化し料金水準が低下。自社の利益を確保するために安値競争を避ける目的があったという。

田辺治審査局長は同日の記者会見で、「電気料金の最大限の抑制や事業者の事業機会を拡大するという、自由化の理念をないがしろにする違反行為だ」と厳しく断罪。再発防止に向け、各役職、従業員に独禁法の順守を徹底するとともに、2社間で相互に自社の営業活動についての情報交換を行うことがないようを求めた。

また公取委は、カルテルのきっかけが電気事業連合会を通じた情報交換にあったとして、池辺和弘会長(九州電力社長)に対し違反につながる情報交換が行われることがないよう、会員企業や役職者に周知徹底するよう申し入れた。

トップ引責辞任の中国電 周辺から同情の声も

全ての案件に関与し、一連の違反を「主導した」とも見られていた関電は、違反を最初に申告したために課徴金減免(リーニエンシー)制度に基づき課徴金を全額免除された。とはいえ、処罰の公正性の観点から、電力業界のみならず経済界全体から厳しい声が寄せられているのも事実だ。だが、公取委の評価は真逆で、「関電が違反行為を主導したという事実は認められなかった。むしろ競争を仕掛けたことは良いこと」と、ある意味で同社の肩を持つような発言も。そうした事情が背景にあるためか、同日夕方に会見した森望社長は、カルテルに関与したのは当時の岩根茂樹社長ら既に退任済みの役員であることを強調した上で、現経営陣の下、コンプライアンスの徹底と組織風土の改革に注力する意向を示した。

一方、700億円超と過去最大の課徴金を課せられることになった中国電力は30日、清水希茂会長、瀧本夏彦社長が6月の株主総会をもって引責辞任する考えを表明した。処分対象3社の中で唯一、規制料金の値上げを申請しており、「企業再生に向けた捨て身の覚悟が垣間見える」(エネルギー関係者)。そうした潔さもあってか、関電とは対照的に、業界内外から同情的な声も多い。瀧本社長は会見で、「私自身も含め一部に不適切なものがあった。独禁法への抵触を疑われてもやむを得ない面があった」と認めた上で、「各命令における事実認定と法解釈に対し公取との間で見解の相違がある」とし、取消訴訟の検討も視野に入れていることを明らかにした。

最も強気の姿勢を見せるのは中部電力。同社の水谷仁副社長は30日の会見で、「独禁法違反になる合意はなかった。関西エリアでの営業活動の制限をしていないことは事実で示せる」「公取委とはまさに見解が違うため争う」などと述べ、司法による公正な判断を求める考えを強調した。これはとりもなおさず、合意の認否を軸に関電とも争っていく覚悟を示したものともいえる。

注目は、事後リーニエンシーにより課徴金を30%減免された九州電力の動向だが、30日は会見を行わず、プレスリリースを通じて現段階では「慎重に検討する」と述べるにとどめた。今後予定される経済産業省による報告徴収で各社はどのような対応を図るのか、業界内外の関心が高まっている。

低かった独禁法への意識 「護送船団」は崩壊へ

振り返ってみれば17~18年ごろ、大手電力会社の域外進出が加速し高圧分野の顧客獲得競争は消耗戦の様相を呈していた。そして、新旧問わず電力業界のそこかしこで「安値競争とは決別し、適正な料金で競争をしなければならない」といった会話が交わされていたと記憶している。そうした会話の積み重ねが営業活動に関する意見交換や合意の形成につながり、公取委が「談合」と判断したという点で、独禁法への意識が著しく低かったという批判は免れないだろう。

いずれにしても、今回のカルテル処分を通じて「関西VS.中部・中国」という構図が形成されてきた印象はぬぐえない。そんな「分断」に公取委側の狙いがあるのかどうかはともかく、「かつての地域独占時代に鉄壁を誇った電力業界の『護送船団』は、音を立てて崩壊し始めたといっても過言ではない」(大手電力会社幹部)。その象徴である電気事業連合会も今回、公取委からカルテルに絡んで厳重注意を受けた。顧客情報の不正閲覧問題への対応も迫られる中、大手電力は試練の時を迎えている

【記者通信/3月24日】「地域のCNと親和性高い」環境次官が都市ガスに期待


環境省の和田篤也事務次官が3月中旬、地方都市ガス会社有志の勉強会で、地域の将来像とカーボンニュートラル(CN)対策について講演した。和田氏は、環境省が注力する地域のCN化を支援する政策で、都市ガス業界が重要な役割を果たせると強調。また、CNへの「ジャストトランジション」(地域経済や雇用などの公正な移行)の好例として期待できる分野として、ガス業界のメタネーション(合成メタン=e-メタン)を挙げた。

地域のCN化について講演する和田・環境事務次官

和田氏は、CNやサーキュラーエコノミー(循環経済)、ネイチャーポジティブ(自然再興)といった切り口で、世界的に経済社会の再設計が進む中、日本でも従来型のビジネスモデルの変革が迫られていると説明。今後は企業側の思惑よりも「ニーズオリエンテッド(最優先)」、かつ地域にマーケットの主体が移っていくとの見方を示し、「市民目線のニーズを把握する市町村をバックアップし、そのソリューションツールがCNになる」と解説した。

こうした潮流を踏まえ同省では、国連のSDGs(持続可能な開発目標)を地域経済の仕組みに落とし込む「地域循環共生圏」構想や、2030年度までに100カ所で民生部門の電力CN化などを目指す「脱炭素先行地域」といった施策を展開。ここで、産業界の一員であり、かつ地方のステークホルダーとしての横顔を持つ都市ガス会社の知見が重要になると訴えた。

実際、脱炭素先行地域に選定された取り組みの中で、ガス会社が関わるものもいくつか散見される。

既存インフラが使える「e-メタン」の取り組みを評価

和田氏は、ガス業界自体のCNの取り組みにも期待を寄せた。大手ガス会社を中心に、水素を用いてCO2をリサイクルして都市ガス原料をつくる「e-メタン」の実装化が始まっている。水素社会の実現に向けてさまざまな業界でアクションが起きているが、都市ガスのe-メタンは既存インフラを活用できる点が強みだ。和田氏はこの点を高く評価し、「今のビジネスモデルを大変革せずに済む業界はそれほどない。しかしガス業界はメタンにフックをかけると、ジャストトランジションとして注目される取り組みとなる」と強調。業界全体でこの動きが加速することに期待を寄せた。

さらに、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)政策として、GX経済移行債の発行で20兆円を先行調達するとともに、その償還財源として炭素賦課金や排出量取引制度と言ったカーボンプライシング(CP)施策を導入する。これらを盛り込んだ「GX推進法案」の審議が国会で進んでいる。法案の狙いについて和田氏は、CPを入れる前に、まず政府がGX移行債の発行で企業の取り組みをバックアップするが、「いつまでもやる気を出さない企業には後からCPが課されるようになる」と解説した。

都市ガス業界の勉強会で同省トップが講演するのは異例のことだ。

【記者通信/3月24日】ガス協会が万博出展の概要発表 CN実現へコンセプトを説明


日本ガス協会は3月23日、2025年の大阪・関西万博に出展するパビリオンの概要を発表した。「化けろ、未来!」をコンセプトに、子どもたちがお化けと一緒に体験しながら、50年カーボンニュートラル(CN)実現に必要な内容を学ぶアトラクションを計画する。会見には関西万博のイメージキャラクター「ミャクミャク」も登場し、日本ガス協会のパビリオン出展をアピールした。

「ミャクミャク」との記念撮影に応じる本荘会長

日本ガス協会の本荘武宏会長は「ガス業界はこれまでLNG転換や省エネ技術開発で低炭素化に貢献してきた。50年CN実現に向けてさらなる進化、つまり『化ける』ことが必要」と説明。子供たちの記憶に残るようなパビリオンの出展に意欲を示した。高さ約20mの建物は、全体を放射冷却素材の膜材で覆う建築デザインで、空調負荷軽減に取り組むという。着工は今年秋ごろを予定し、24年12月完成を目指す。

【噂の深層/3月24日】ノルド爆破は米国のしわざ? 犯人探しと教訓


ドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプラインの「ノルドストリーム」の爆破を巡って、3月に世界中が大騒ぎになった。米国の関与説、親ウクライナ組織の関与説が報道されたためだ。その後の続報がないために、3月下旬に入って騒動は下火になったが、真相は謎のままだ。日本ではあまり報道されていないが、この事件はエネルギービジネスと、戦争の難しい関係を示している。

◆爆破事件の概要

ノルドストリームの爆破事件を簡単に振り返ろう。

2022年9月、バルト海を通り、ロシアからドイツに天然ガスを輸送するパイプライン「ノルドストリーム」が構成する導管2本の両方、ほぼ完成した「ノルドストリーム2」の導管2本のうち1本が破壊され、使用不能になった。

ノルドストリームは、ロシアのガス会社ガスプロムやドイツのエネルギー企業などが出資し2011年から稼働した。しかし2022年2月からのウクライナ戦争の後に、定期点検を名目に同年8月にロシアはガス供給を停止した。そして、この事業によるガスの購入が批判されていた。爆破事件の後で、供給は再開されていない。また同社サイトを見ると、パプラインの復旧状況を含めて、現状は広報されていない。

ほぼ完成に近かった、もう一つの近くを通るロシアからドイツまでのパイプラインのノルドストリーム2は、ドイツのショルツ政権が、ウクライナ戦争直後に事業の認可をせず、そのままになっている。ノルドストリーム1は、2021年にはドイツの輸入天然ガスの3割を供給し、同国のロシアへのガス依存を強めていた。

爆破事件の犯人3説 ロシア、米国、親ウクライナ勢力

爆破事件では、当初、現場海域近くのデンマーク、スウェーデンと当事国のドイツの捜査機関が関わったが、途中からスウェーデンが理由を示さずに捜査から抜けたことが発表された。ロシアは捜査関与を両国から拒否された。

当初は、西側からロシアの犯行との見方が示された。特にウクライナがそれを主張した。

今年2月になって、米ジャーナリストのシーモア・ハーシュ氏が自分のサイトで、この事件は米国が行い、ノルウェーも支援したと発表した。バイデン大統領の決定によるものだという。22年夏のNATO軍のバルト海での演習の際に爆弾を設置し、3カ月後に爆破させたそうだ。ロシア政府はこの情報に反応し、国連安全保障理事会の会議などでも追及したがアメリカは否定した。

そして米ニューヨークタイムズが3月7日に、親ウクライナ勢力説を伝えた。米国当局者の話として、ウクライナを支援するグループが行ったようだが、ウクライナ政府が関与している証拠はないとしている。ただし続報はない。またウクライナ政府は関与を否定している。

どの犯人説にも決め手なし

一連の報道や各国政府、ノルドストリーム社の広報を見ると、犯人はわからないとしか言いようがない。

普通に考えて、ロシアがノルドストリームを破壊する利益は乏しいように思える。ドイツにガスを供給していた方が金銭的利益は出るし、それによってドイツに影響力を及ぼせるからだ。プーチン大統領は2月のロシアのテレビインタビューで、親ウクライナの勢力が実行した可能性があるとする報道については「全くのナンセンスだ」と指摘。「素人がこうした行為を行うことはできない。このテロ行為は極めて明確に国家レベルで行われた」と主張し、米、ウ国政府の関与があると考えているとほのめかした。

ウクライナにとっては、ドイツ・E Uとロシアのエネルギー面での関係を断つため、破壊する意味がある。しかし、本国から離れたバルト海で、こうした破壊活動を隠れて行うことは難しい。またドイツはゆっくりではあるがエネルギー資源の購入をロシアから減らしている。そうした中で、ドイツ企業の資産であるノルドストリームを破壊したら、有力な支援国であるドイツとの関係は悪化するだろう。

米国はどうだろうか。前出のハーシュ氏は独露関係の悪化を米国が狙ったとされる。しかし、そのために米国が、爆破をするかは疑問だ。ハーシュ氏はスクープ記者として知られるが、飛ばし記事も多い。また一連の情報を、自分の有料ブログと米英で「極左」と認識されるメディアで情報を公開しており、その発する情報は少し偏向している。エネルギー的な観点でみれば、むしろウクライナ南東部にある大規模なシェールガス田開発との関連を疑ったほうが自然かもしれない。

戦争まで含めて「まさか」を考える必要性

真相は結局、しばらく分からないままだろう。しかし、この事件は、日本のエネルギー産業に、さまざまな教訓を与える。

ここから得られる教訓はなんだろうか。E Uとロシアのエネルギー面での結びつきが、政治面だけでなく、物理的な面でも減ったということだ。地政学的側面では、ロシアが世界経済で日本も属する自由主義陣営から切り離され、それが長期化しそうな気配だ。エネルギー面でも、中露とそれ以外の二極化を考え、ビジネスを組み立てるべきことになる。

またエネルギービジネスと政治の関係の難しさも明らかになった。今回のウクライナ戦争では、このノルドストリームだけではなく、エネルギーインフラが狙われている。ノルドストリーム社は事業が停止し、今後が危ぶまれている。また原子力発電所が攻撃されている。本格的な破壊は行われていないが、ロシアは恐怖を与えるために、脅しで攻撃しているようだ。また昨秋にロシアがエネルギーインフラを攻撃して破壊し、今年の冬はウクライナ各地で、同国民は電力不足に苦しんだ。

戦争において、エネルギー産業は、敵対国の軍に狙われる。それは民間企業で対応できるものではない。しかし、それでもできること、リスクを少なくする方法を考えるべきであろう。東日本大震災の後で、自然災害などで「事業継続力」が話題となった。この面で、日本のエネルギー産業はこれまで準備とノウハウを蓄積していた。今までの対応をより深めるだけで良かった。しかし「戦争」、もしくはそこに至らないまでも「テロ」「外国勢力の武力行使」という次元の違うことにも、準備を始めたほうがいいだろう。

原発では、自衛隊や警察との連携などの動きが出始めている。しかし、その他のインフラの防衛、警備は手付かずだ。東アジアの国際情勢の緊張が増す中で、ノルドストリームと同じように、謎の破壊工作に直面していく可能性がある。また、現時点では可能性は低いものの、東アジアの「有事」の際には、攻撃され会社の設備が破壊される可能性がある。

エネルギー産業の中の人にとっては、そこまで考えろというのは酷な要求かもしれないが、それほどの産業が社会の中で重要かということでもある。