日本のエネルギー政策の目標は、岸田文雄首相が機会あるごとに繰り返す「脱炭素社会の実現」「GX(グリーントランスフォーメーション)による成長」であるはずだ。ところが、再エネ拡大を止める制度や政策が増えて、投資意欲が減っているようだ。推進と抑制が同時に行われる異様な状況を、一度立ち止まって修正した方がよい。

自治体主導で規制条例の制定が続く
「災害の発生が危惧され、誇りである景観が損なわれるような産地への大規模太陽光発電施設の設置をこれ以上望まないことをここに宣言します」。今年8月に、福島市の木幡浩市長は、「ノーモアメガソーラー宣言」を行なった。

福島市には建設中を含めると20を超えるメガソーラー事業がある。「生活の安全安心を守り、ふるさとの景観を地域の宝として次世代へ守り継いでいかなければならない」と、木幡市長は会見で語った。そして山の斜面や森林でのパネル設置などを行政として取りやめさせるという。しかし規制条例は作らずに「地域共生型の再エネは推進する」としている。(福島市の宣言ページ)
地方自治研究機構の10月19日付の調査「太陽光発電設備の規制に関する条例」(リポート)によると、太陽光規制を入れた地方自治体は258になる。県では8例だ。中でも山梨県の場合は、私有地でも、森林や土砂災害警戒区域などに太陽光発電施設の新設を原則禁止する厳しい内容になっている。
自治体による再エネ課税が始まる
再エネへの課税の動きも出ている。宮城県議会では7月、森林開発を伴う再エネ発電設備の所有者に課税する全国初の条例が成立した。宮城県の村井嘉浩知事は「税収を目的としない新税、乱開発の規制が目的で、一番うまくいったら税収がゼロになる」と会見で述べた。ただし、再エネの促進区域での建設は奨励する。
青森県も検討の意向だ。青森県の宮下宗一郎知事も9月に、再エネ事業者に対する新税の検討に言及した。宮下知事は「都会の電力のために青森県の自然が搾取されている」と、敵を作る彼の政治スタイルらしく、再エネを敵視するような発言をしている。
一連の規制策は、再エネ立地地域で不信が広がっている現れだ。不適切な再エネビジネスを、住民とその意向を反映した自治体が拒絶している。太陽光発電設備について、国レベルでの環境配慮ための法律は作られていない。自治体が民意を反映して規制に動くのも当然といえよう。
投資家に聞く「もう太陽光は儲からない」
個人で太陽光を西日本に5カ所持っている人に話を聞いた。持つ設備数と投資金額は公表しないが、2015年前後の価格(1kWあたり20円超)で、利回り(投資額に対する収益)12%前後の売電収入になっている。設備は当時値段がやや高かったが国産メーカーを買い、設備の大規模な破損は少ないが、パネルではなく、インバーターなどは修理の必要が出ている。
ただ、昨年から太陽光発電の出力調整が九州で増えて、昨年度は利回りで1%以上低下した。九州電力管内で原子力発電所が稼働しているためだ。今後、四国、中国電力管内でも出力調整が行われることを警戒している。19年前後の15円前後の買取価格で収益は利回り10%、入札枠に応じる22年からのFIPでは利回り6~7%しか見込めず、「別の投資をした方がいい。他の金融商品との比較で、投資を決める」と、追加投資をやめた。個人的には再エネを過剰優遇する政策には疑問だが、利益が出るので投資をした。「再エネを増やしたいのならば、太陽光で儲けた金を再投資させる仕組みを作ればいい。それなのに太陽光の投資家に、梯子を外そうとしているかのように冷たい」と不満を述べた。
メガソーラー事業から逃げるプロ投資家
再エネビジネスをやっている元商社マンに話を聞いた。この会社は、メガソーラーを持っていたが、それを売ってしまい、今は再エネの建設コンサルティングや仲介にシフトした。メディアなどで話題になっている中国系企業にも、物件を売った。
「日本は政策がコロコロ変わるので、設備を持つのは危険だ。15年ごろ再エネ設備建設に対して市民の反発が起きる事業が出始めた。そして『出力調整問題』がやがて起き、収益が不安定になると思った。そのために売り逃げた。予想通りのことが起きている。固定価格買い取り制度そのものも、民意に右往左往する日本政府だから、国民の批判が強まればなくしてしまうかもしれない」という。洋上風力に乗り出そうとしたら、秋本事件に遭遇した。そして憤慨している。
「日本の政策は、どこに進んでいるのか、方向が分からない。落ち着いて投資もできないし、リスクも取れない。さらに、まるで失敗国家のように、金目当ての政治家が再エネ周りをウロウロしている。これではビジネスはできない。まずい形で日本の再エネは動いている」と、この人は話した。
矛盾した政策を検証すべき時
政府は脱炭素を推進するため、再エネの主力電源化を目指している。21年に決まった第6次エネルギー基本計画では、現在は20%程度の再エネの発電の比率を、30年度に36~38%へ増やす目標を掲げる。
しかし、その目標を達成するのはこのままでは難しそうだ。地方自治体での規制、ビジネスの利益での有利さが低下している。問題を解決するために、経産省・資源エネルギー庁は、洋上風力に期待を寄せたようだ。ところが、期待した洋上の浮遊式風力の商業化は足踏み。固定式も秋本真利議員の汚職事件で足踏みだ。再エネにマイナスの方向への状況変化がある。つまり政府は再エネで、エンジンとブレーキを同時にかける、奇妙な行動をしている。
再エネを巡っては関係者全員が一度立ち止まり、拡大はどのような形で行うか、民間の投資をどのように呼び込むか、どのようにみんなが豊かになるかなどを考え直す必要があるのではないだろうか。
このままでは、再エネの拡大目標が達成できないばかりか、国民の不信感の中で再エネを巡るトラブルが広がる一方だ。