【記者通信/5月21日】50Hz地域の原発再稼働は本当に可能か 停電回避こそ最大の安全・安心対策


来冬の東京電力管内で深刻な電力不足が懸念される中、計画停電などの回避に向け、50Hz地域での原子力発電の再稼働を期待する声が高まっている。「50Hz地域では、原発稼働ゼロの状態が長期化しているが、東北電力女川2号機や東京電力柏崎刈羽6、7号機など、情勢次第で稼働可能な原発はあるのでは。安全・安心が最優先との政府方針に異論はないが、太陽光発電が停止するような真冬の厳寒期・悪天候時に停電を余儀なくされるリスクを考えると、やはり、より優先されるのは電力の安定供給だろう。岸田首相の英断に期待したい」。大手エネルギー会社の幹部はこう話す。

政府がロシア・サハリン産LNGの禁輸に踏み切れば、停止中の原発を動かさざるを得ない状況になる

確かに、50Hz地域では、女川2号機と、柏崎刈羽6、7号機が国の新規制基準に合格し設置変更許可を受けている。うち、女川については、地元了解も得られており、再稼働の実現可能性が高い状況にある一方、2023年11月までは対策工事が続く。「もし冬までに動すのであれば、工事をいったん中断し、再稼働の準備に入らなくてはならない。少なくとも数カ月の期間は必要だが、岸田政権が高度な政治判断をすれば、稼働できないことはない」(東北電力関係者)

一方、柏崎刈羽については、テロ対策の不備が相次いで発覚した問題を受け、原子力規制委員会から核燃料の移動禁止を命じられている。東電が再発防止策を報告してから7カ月がたった4月27日、規制委は追加検査の中間取りまとめを公表した。それによると、テロ対策不備が柏崎刈羽原発の「固有の問題」であり、東電全体の問題ではないとの認識が示されたことで、一部の関係者からは年内の禁止解除に期待する向きも出ている。しかし一方で、地元を中心に、保安規定に盛り込まれた「適格性」を問うべきだとの意見も出ており、再稼働への道筋は以前不透明なままだ。

「ウクライナ危機の深刻化で、G7が今後、ロシア産ガスの禁輸を日本に求めてきたら、おそらく岸田政権は応じる決断を下すだろう。もし、そうなればわが国の電力不足は、より一層大変な状況になるのは間違いない。その時、岸田首相、国会、規制委が一部の野党やメディア、脱原発派の批判を覚悟の上で、電力安定供給を最優先するとの立場から、女川や柏崎刈羽の再稼働を決断できるのだろうか。個人的には、2012年の野田佳彦政権のように、そんな英断ができる政権であってほしいと思う」(エネルギーアナリスト)

原発再稼働で停電を回避することこそが、わが国の経済活動・国民生活にとって最大の「安全・安心」対策ではないかと考えられるが、どうか。

【記者通信/5月21日】政府が20兆円の「GX債」発行へ 今夏の実行会議で行程表


岸田文雄首相は、5月19日に開かれた「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会で、脱炭素化社会に向けた経済産業構造の変換「グリーントランスフォーメーション(GX)」を実現するため、政府として20兆円規模の新たな国債「GX経済移行債(仮称)」の発行を検討すると表明した。この資金を呼び水に、今後10年間で官民合わせて150兆円を超える脱炭素分野の投資に結びつける。また今夏をめどに「GX実行会議」を設置、萩生田経済産業大臣を中心に関係省庁を横断して、GX経済移行債の詳細や10年間のロードマップを作成する方針を打ち出した。

GX推進へ「支援資金を先行調達」脱炭素電源で新たな枠組み

150兆円超の投資額は13日、経産省のクリーンエネルギー(CE)戦略に関する中間整理が必要性を示し、国債発行についても経団連や日商が政府の財源確保を提言。今回の「GX経済移行債」はそれらを受けた形だ。岸田首相は「従来の本予算・補正予算を毎年繰り返すのではなく、脱炭素に向けた民間の長期巨額投資の呼び水とするため、可及的速やかにGX促進のための支援資金を先行して調達し、民間セクターや市場に、政府としてのコミットメントを明確にする」と、GX経済移行債発行の意図を説明した。経産省からは「財政規律の中で(GXを)やっていくのが当然だが、今回の総理発言はかなりの覚悟を持ったもの。相当気を引き締めないと」との声も出ており、GX実行会議で具体的な取り組みを進める。

懇談会では、脱炭素実現へ取り組む企業の資金調達を支える「トランジション・ファイナンス」などの金融手法も提示。エネルギー戦略については「省エネ法などの規制対応、水素・アンモニアなどの新たなエネルギーや脱炭素電源の導入拡大に向け、新たなスキームを具体化させる」(岸田首相)と述べる一方、CE戦略の中間整理で「最大限の活用」と記載され、注目が集まる原子力に関して岸田首相からの言及はなかった。「政府関係者からは『原子力はバックエンドなど内包する問題を解決できなければ進められない』という意見が出ていた」(出席者)と、政府は原子力の扱いに慎重な姿勢を崩していない。

世界では、先行投資者優位で市場ルール作成などの競争がすでに始まっている。「ここで出遅れたらGX分野で負けてしまう。世界は投資で市場をいいようにルールメイクしてくる。じっくり構えてやる余裕は日本にない」(経産省)。岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の柱として、GXで世界に打って出る仕組みをどう作っていくか。20兆円規模の国債をどのような対象に活用していくのか、注目だ。

【目安箱/5月14日】上海電力騒動、本当の問題は橋下徹氏ではなく…


元大阪市長の橋下徹氏を巡る再生可能エネルギーの「疑惑」話が騒ぎになっている。橋下氏が大阪市長時代に、中国企業の上海電力の大阪でのメガソーラー発電所の建設に便宜を図ったという批判だ。ただ、その批判の内容を調べると政治スキャンダルなどに発展する可能性はなさそうで、橋下氏の強い否定と新たな情報がないために収束しつつある。それよりも、これをきっかけに再エネ導入政策をめぐり、議論が深まれば良いと、筆者は期待している。

◆疑惑は法的問題にならなさそう

疑惑とされるものは、中国の上海電力の日本法人が日本企業と共同出資で運営し、2014年に運営を始めた大阪市南港咲洲メガソーラー発電所を、大阪市長時代の橋下氏が支援したというものだ。同社は中国の「一帯一路」政策の成功例とPRしているために、橋下氏が中国に協力したと批判されている。また当初に大阪市から土地を借りた事業者は上海電力ではなかったらしく、事業主体が変わって契約が不透明であり、ここに橋下氏がかかわったとの批判がある。

再エネ問題を知る人は、この程度の情報では、違法性はなさそうだと思うはずだ。12年に始まった再エネの振興策であるFIT(固定価格買取制度)は、再エネ賦課金を電気料金に上乗せし、再エネで発電された電気を買い取る仕組みだ。日本のFITでは、日本と外国の再エネ事業者に差別的な待遇をせず、また買い取り料金が当初は高かったため外資が大量に参入した。正確な統計はないが、業界推定で日本の太陽光発電は15%程度が外国系の企業で運営されている。内外の企業に差別的な対応をしないことを求めるWTO(世界貿易機関)ルールがあり、日本政府はどの制度でもそれを律儀に守っている。FITでも外資参入を阻止しなかった。

またFITの買い取り価格を毎年、経済産業省は引き下げている。そのために買い取り価格の高い条件の良い権利は売買され、事業者は頻繁に変わる。この南港咲洲メガソーラーでも、その状況があったようだが、それを問題にすることは難しい。またFITは事業者が配電設備を持つ地域電力会社と契約を結び、国の運営する制度で、事業者は利益を得ている。大阪市の同発電所への関与は「土地を貸した」という部分に限定される。もしかしたら隠れた情報が今後出てくるかもしれないが、橋下氏が市長の権限を使って、上海電力に優遇して利益を与えた証拠は現時点ではない。

◆発電所は「関電いじめ」の結果だった

保守系メディアが5月9日ごろにこの問題を伝え騒ぎになった。しかし橋下氏が疑惑を強く否定し、続報もないため騒ぎは収束しそうな状況だ。もちろん橋下氏に説明責任はあるだろうが、法的な責任を問えそうにない。

橋下氏は政敵を攻撃的にやり込め、自分への支持を集める。そのために敵も多い。この疑惑騒動も、そうした彼の行為への反感がもたらしたものだろう。また彼が作って今は離れた日本維新の会は最近、国政で議席を増やしている。政治的に同党の勢力をそごうと、騒ぎが広がった面がある。

この咲洲メガソーラー発電所は、エネルギー関係者の間では橋下氏の「関電いじめ」の事例の一つとして、知られている。橋下氏の攻撃の矛先は12年から13年にかけて、電力会社と原子力発電に向いていた。中国のために作ったのではない。しかし多くの人は忘れている。

当時は、11年の福島原発事故の直後で、政治的立場を問わずに反原発、電力会社批判が広がっていた。橋下氏は、原発を抱えて経営に苦しんでいた関西電力を批判し、多くの人の喝采を浴びていた。彼は「原発の代替策の再エネ」「関電以外の電力会社」を訴えていた。そうしたパフォーマンス政策の一環で、大阪南港に大規模な再エネプラントを誘致し、この太陽光発電所ができた。彼の政策が今になって批判されているわけだ。

◆問題は橋下氏ではなく、F I Tの「仕組み」

ただしこの騒動を、無意味なものにする必要はない。せっかく、FITの問題に、多くの人の関心が向いたのだから、それを改善するきっかけになってほしい。

この騒動では、2つの点が問題になった。外国系企業が日本国民や企業の支払う電気料金で利益を得ること。また電力という重要なインフラを担う事業者が、権利を転売するなど、かなりいいかげんな動きをする無責任さだ。これら2つはFIT制度上で規制されなかったもので、当初からおかしいと指摘されてきた問題だ。

この制度を政治主導で導入した菅直人元首相ら民主党の政治家の責任は重い。しかしそれを放置した自民党政権、経産省の当局者も当然、批判されるべきであろう。

最近は電力が頻繁に停電危機に直面するなど質の面も低下して、事業者の供給責任が問われている。こうした状況にも、この騒動で浮き彫りになった問題は関係している。今回の騒動では右派、保守の人からの批判が目立った。自分のお金が中国の利益になっていることに怒っていた。その批判、違和感には正しい面がある。

この騒動を橋下氏批判という属人的な問題に矮小化するのはおかしい。ただし、再エネへの批判に結び付けるのもよくない。問題なのは「仕組み」である。もう少し大きな視点で問題を考え、再エネ振興策の検証と是正に結びつけるようにしたい。

【記者通信/5月12日】ニチガスが経営陣刷新 「成功体験との決別」 の狙いとは


エネルギー大手の日本瓦斯(ニチガス)が現在直面するエネルギー危機を乗り切り、来るべきカーボンニュートラル社会、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代への対応を視野に、経営陣の刷新に踏み切った。5月2日付で、和田眞治社長が代表権のない取締役会長執行役員に退き、後任社長には柏谷邦彦・代表取締役専務執行役員コーポレート本部長が就任した。また、元東京電力出身の吉田恵一・専務執行役員エネルギー事業本部長が代表取締役に昇格。これにより、渡辺大乗・代表取締役専務執行役員を加えた3人が代表権を持つことになった。

和田会長と柏谷社長は6日、記者会見を行い、DXを機軸に地域社会のスマートエネルギー供給を担う新たなビジネス展開に向けた意気込みを表明するとともに、新体制下での経営方針に言及した。会見の具体的な内容は次の通り。

会見する柏谷社長(左)と和田会長

柏谷 カーボンニュートラルや災害の激甚化、そしてコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻等などによって、今までのように上流から下流まで一貫してエネルギーが安定的に流れてくるという前提が、当然のものではなくなった。大きく変化する経営環境の中でこれからの地域社会に最も必要なのは、再生可能エネルギーやEVの利用を前提としながら、災害時でもエネルギーを強靭に、あるいは自立的に供給できるようなレジリエントな分散型エネルギーシステムを構築していくことだと考えている。この課題に対して、当社グループでは従来のガスや電気を仕入れて販売するという事業モデルから脱却し、電気とガスをセットでお客さまに提供することを前提に、太陽光や蓄電池、EV、ハイブリッド給湯器など分散型エネルギーの設備を供給する。各家庭のスマートハウス化、そして大きなスケールではスマートシティー化に向けて、当社自身が地域社会に対し最適なエネルギーを供給できるようなエネルギーソリューション事業へと進化し、新たな挑戦を進めていくステージにある。

今、この局面においては私が適任と判断をされたと理解している。この会社にはいろんな特定の分野において私より優秀な人がたくさんいる。私の経験が不足している、あるいは知見が足りないところは、しっかりした現場のリーダーたちがいるので、その人たちと協力をして、さらに新しい発展、成長のために、前を向いて全力で疾走していく。和田会長は代表権を返上して、次のリーダーシップの体制に全面的にサポートする。取締役会には残るが、新しい代表取締役3人体制で思い切って前に行くようにというメッセージをいただいている。

和田会長「これ以上のタイミングはない決断」

和田 長年、社長職をどう引き継いでいくかということを考えてきた中で、状況、環境、それから人的リソースの体制も含めて、これ以上のタイミングはないということで決断した。柏谷から話がありましたけれども、日本瓦斯67年間の「成功体験との決別」という意味だ。LPガス業界では、プライベートカンパニーの創業家がずっと経営をやってこられるという体制が主流。それに伴ってトップがなかなか辞めないというケースがあって、和田がこのままずっといくんじゃないかと思う関係者が多かったようだが、老害といわれる前に辞めようというのはずっと考えていた。おそらく、このタイミングでは私が率いた時代の成功体験が新しい挑戦の足かせになるんだろうなと。代表権も返上しないと、また院政とかいわれてしまうので、代表権を返上して名実ともに新たな代表取締役3人体制に当社は移るということの表明だ。

5月号のエネルギーフォーラムで、さいたま市がエネルギー事業版のスマートシティーを目指して、第1歩が出ているという記事が出ていたが、私どもまさにそこへ向かって新たなソリューション事業を展開していく。エネルギー事業者がさまざまなシェアリングエコノミーによって地域社会に新たな貢献の形を目指していくところまできた。このタイミングでの引き継ぎのタイミングは、自分なりによかったなと、あとは静かに横からサポートしていこうと思っている。

――LPガスの需要は今後、どうなっていくと考えているか。

柏谷 脱炭素という観点では、化石燃料全体がこれからマーケットとしては縮小、減少するということは、ここは避けられないと考えている。ただ、この2050年にカーボンフリーになっていく社会の中で、LPガスが果たす役割は非常に大きい。地域分散型エネルギーには非常に適した事業形態で、LPガスの容器は標準家庭であれば2カ月ほどのエネルギーのストックになる。ここに、今後、蓄電池やEV、そして太陽光発電などが加わることで、LPガスのインフラとしての役割は重要だ。今後も都市ガスエリアの外部ではLPガスが主力のインフラになると考えている。

和田 結論をいえば、LPガスはなくならない。ただ、これからは地域社会の変化にわれわれ事業者サイドが飲み込まれる時代なので、業態変更しないと生き残れないと思っている。

メタバース、仮想空間で新しい経済圏が動くと言われているのに、今までと同じでいいわけがない。ある意味で言うとチャンス。この3年ぐらいで、業界はかなり動くと思う。そのキーポイントはやはりDXだ。いよいよ勝負どころにきたと思っている。

柏谷社長「東京電力との強固な提携で乗り切る」

ーー足元を見ると、とりわけ電力事業は非常に厳しい局面に立たされている。ここをどう乗り切っていくのか。過去の成功体験との決別といった話があったが、社名変更などを視野に入れているのか。

柏谷 短期的な電力の需給のひっ迫等に関しては、東京電力との強固な提携によって乗り切っていきたい。中長期に関しても、東京電力との提携を継続しながら、急速に普及するであろう蓄電池、最終的にはコミュニティーの中でエネルギーを融通し合えるようなエネルギーシステムの構築、特にデータ面からの構築というものを急いで進めていきたいと考えている。

和田 日本瓦斯の社名がどうなるのかだが、例えば富士フイルムはフイルムが主力事業ではなくなって富士フイルムっていう社名は残っている。ただ、私は日本瓦斯といえども、単独でこの先、生き残れるとは思っていないので、最終的には柏谷が決断することになるだろう。

ーー柏谷社長は自身の強みについて、どう考えているか、また和田会長はどうのような理由から次期社長に柏谷氏を指名したのか。

柏谷 私は日本の大学を卒業して、そのまま日本の会社に入ってサラリーマンをスタートしたわけではなくて、米国に留学して米国で、それこそニューヨークで世界中の人がいるグローバルファーム、コンサルファームで自分のキャリアを積み重ねてきた。振り返ってみると、当社の重要な分野で営業の現場の人たちだったり、あるいは保安の人たち、物流、ITといったそれぞれのチームの人たちと連携したり協力したからできたということがほとんど。自分にそんな大して誇れるほどの知識や強みや秀でたものがあるとは思わないが、一つ言えるのは環境の変化に向けて新しいチームを組成したり、新しい考え方をつなげて物事を実行していくことが、自分なりの役割を果たせる分野と考えています。

和田 日本瓦斯に足りないのはCFOだと。よく考えると日本企業の多くはCFOが足りない。だから、CFO的な仕事のできる人材をということで、当社に柏谷を連れてきた。これが今後10年の資本政策につながっていく。DXによって、やらなくてもいい仕事をやめて、効率化をして、地域社会に還元するということをできない限りは、集約化のされる側に回ると思う。柏谷のような外部の人たちが入って、今までの日本瓦斯の価値、そういうものに対してクエスチョンマークを付けてくれたということがわれわれの改革のスタート地点だった。そういう意味で言うと、私が大きなげきを飛ばさなくても新しいところに挑戦できる体制になった。

新体制に執行権限は全て移行

ーー会長職の復活ということで、二人の責任範囲とか役割分担を改めて教えてほしい。

柏谷 会長職はもともと設けていて、会長が空席だったということなので、ここに関して規定等の変更をしたわけではない。新しい体制での執行の責任、あるいは分担範囲については、基本的には新体制に執行の権限は全て移行する。ただ、新体制ではなかなか判断がつかなかったりすることに関しては、適宜、和田に相談する。和田とは情報の共有はするけれども、新しい体制で責任を持って経営を行っていく。そういう意味では、責任も役割も明確にわれわれの中では認識を共有しております。

和田 私に限らず、ニチガスは全体に情報共有をするという意味ではオープンな会社だ、それゆえにここまで改革が進んできたと思っている。会長職を見ながら仕事をするような引き継ぎだったら、やってない。今の日本企業を見ると、改革を標ぼうしながらアクセルのつもりでブレーキ踏んでるのは、ベテランの知見のある人たち。ブレーキ踏んでるから大きな事故にはならないが、1歩も前に進まないというのが、今の日本の企業社会だ。

ーー新時代への成長戦略におけるスマートシティー構想について、具体的に。

和田 われわれが準備してるのはコミュニティーガス、いわゆる簡易ガス団地の中で、エネルギー版スマートシティーをDXで統治して運用しようということだ。今、某地点では打ち合わせをしながら、もう地域配電の許可も取っている。われわれだけではできないので、連携先、ベンチャー、そういう所との関係も含めて、いろいろ通信も含めて協議を行っているところだ。

【お詫びと訂正】本文冒頭のリード文と2段落目の文の2か所におきまして、柏谷邦彦氏の姓の表記に誤りがありましたため、訂正させていただきました。関係者の皆様にご迷惑をお掛けしましたことを、深くお詫びいたします(編集部)。

【記者通信/5月10日】原子力世論を変える秘策 気鋭コンサルに学ぶ「議論法」


社会問題を巡る論争が世の中では騒がしい。しかし、こうした論争の大半は罵り合いや争いを生むだけだ。後で振り返ると問題を解決して、みんなが幸せになるという良い結末をなかなか生み出していない。日本におけるエネルギー問題は、政治的な激しい論争となった後で混乱している。2011年の東京電力の福島第1原子力発電所事故の後で、電力業界への批判や反原発運動が広がった。それを背景にしてエネルギー自由化の動きが拙速に決まり、全エネルギー業界と全国民が巻き込まれた。しかし、それは成功したと言えるのだろうか。今の日本では、電力供給の不安定化、原子力発電所の長期停止による電力会社の経営悪化、そしてエネルギー価格の上昇という問題が生じている。そして解決の見通しは見えない。

現状を変えるには、どうすればよいのか。

「論争は何も産まない。対話で相手の意見を受け止め、意見をすり合わせて、目指すゴールにたどり着こう」

当たり前だが、なかなか実現しない、このような活動を呼びかける経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造さんの著書『日本人のための議論と対話の教科書 「ベタ正義感」より「メタ正義感」で立ち向かえ』(ワニブックス)が話題になっている。

倉本さんは、京都大学経済学部を卒業した後、世界的なコンサルティング会社のマッキンゼーに勤め、日本のコンサル会社である船井総研でも働いた。肉体労働現場やホストクラブ、カルト宗教団体にまで潜入して働いた経験もある。現在、独立コンサルとして働きながら、アルファブロガーとしても活躍中だ。

「日本の混乱したエネルギー問題で、多くの人が納得する方向に変えるにはどうすればいいのでしょうか」。倉本さんに聞いてみた。

◆「やっつける」ことを目指しても、現実は動かない

ーー議論で対立相手をやっつけることではなく、問題を解決する発想を考えるようになった背景を教えてください。

プロフィールから分かるように、私は「外国製のキラキラした経営論」と「日本企業の現場」との、あまりに文化が違う2つの世界のギャップを乗り越える仕事をし、方法論を作ろうとアレコレと実地で苦労してきました。その環境では「どちらからだけの意見を押し切る」では良い成果が出ません。いかに両者の良い点を引き出せるかを考え、実行することが必要です。

具体的には、理想と現実を擦り合わせ、改革を少しずつ進める漸進的な統合策を丁寧に進めるのが有効ですし、それしか道はないのです。「お前のせいだ」なんて争い始めたら、その時点で大変なことになり、会社がつぶれてしまいますからね。問題が起きるはるか手前で、抵抗勢力になりそうな人と対話を重ね、その人たちが納得し「自分ごと」「われわれ感」を持ってもらい、水が高いところから低いところに流れるような自然な状況を整えて、改革を進めるのです。

そこでの対話で重要なのが、より高い次元から問題を見て、正しさを考えようという視点です。私はこれを分かりやすいように「メタ正義感」と名付けています。

あるお手伝いした企業では、丁寧な改革を10年間少しずつやって、気づいたら社員の年収が自然と平均で150万円アップしていました。その会社の経営者の方は敵を作らず、丁寧に味方を増やしていました。提案した私の方が学ばせていただいたのです。

ーーけれども、丁寧なやり方だと時間がかかります。日本はあらゆる面で、ぐずぐずと問題が決まらない面が多いように思えます。

逆に「日本は、あらゆる面でぐずぐずと過ごしていたから、できることがある」と前向きにとらえられると思います。過去20~30年のネオリベ型の市場原理主義的グローバリズムにどっぷり浸かっていた国は、確かに日本以上に経済成長できた例が多いですが、一握りのエリート層とそれ以外の分断が大変深刻になっており、「同じ目線で一緒に問題を解決するムード」を立ち上げることが難しくなってしまっています。

大きな視点で言えば、現場と理想論の対立が続き、人類社会全体が二分されていくという、とんでもない事が世界中で進行しているわけです。アメリカでのエリートの理想論に庶民が反感を抱くトランプ現象や、プーチンの個人の理想が肥大化・暴走してウクライナを侵略してしまったロシアの状況なども、そうした対立の一環として捉えられるかもしれません。

「派手に誰かを糾弾してみせるけれども、実際の地道な改善にはつながらないようなムーブメント」は、世界中を席巻しています。そういう派手な騒ぎ方でないと「連帯」を生み出せない焦りのようなものがあるように思います。

日本で私たちがグローバリズムと土着の文化の2つに橋をかける実地の方法を提示していくことは、大げさなようですが、人類全体の「第三次世界大戦すらありえる分断」を超えるための希望の旗印にもなると思います。幻想であるかもしれませんが、日本はまだ社会全体にギリギリのところで「みんないっしょ」感が残って、ほんの少し余力があります。それをベースに物事を動かして、経済の発展と問題の解決を目指せる実例を日本のあちこちで示せると思うのです。

【目安箱/5月3日】原発は戦争では壊れない 報じられない攻撃リスクの実情


ウクライナ戦争で、日本では「原子力発電所は戦争で大丈夫なのか」という不安が出ている。そして危険を強調する人たちがいる。本当にそうなのだろうか。筆者は安全であるとは断言しないが、仮に日本が戦争に巻き込まれても、原子炉が破壊され、放射性物質が拡散する可能性は極端に低いと思う。それより目の前にある停電やエネルギー価格高騰に備えた方がよい。

◆ウクライナ戦争で原子力発電所は壊れなかった

ウクライナ戦争で、原子力発電所はどうなったのか。ウクライナは電力供給の約6割が原子力だ。同国はエネルギー資源に恵まれず、ロシアがエネルギーで締め上げたため、原子力発電への依存が高まった。同国には4ヶ所の原子力発電所がある。また1984年のソ連時代に大事故を起こしたチョルノービル(チェルノブイリ)原子力発電所は廃炉作業中だ。

この戦争では南部のサポリージャ原子力発電所を3月4日にロシア軍が占領した。ここは100万kWの原子炉6基があり、欧州最大の発電能力だ。占領の際に戦闘が起こり、火災が発生した。しかし原子炉の破損はなかった。国際原子力機関(IAEA)によると、現時点(4月24日)ではロシア軍が占領しているが2基の原子炉が動いており、構内の原子炉に電気を供給して、さらに一部を外部に送電しているという。またチェルノブイリ原子力発電所は、2月24日にロシア軍が占領し、3月31日に撤退した。その際に、放射性物質の一部を持ち去ったというが、施設の破壊はなかった。

その他3つの原子力発電所へは攻撃の報告はない。IAEAによると、原子炉は4月24日時点で、4原発の17基の原発のうち7基が稼働している。稼働率は低下しているようだ。

これらの報告を見ると、ロシアはウクライナの原子力施設の組織的な破壊をしていない。ロシアはチェルノブイリ原発事故で、大変な苦しみと混乱を受けた。それを破壊し、戦争に用いると言う発想はなさそうだ。国際法を調べると、1977年の「ジュネーブ条約に追加される国際武力紛争の犠牲者の保護に関する議定書」によって、攻撃は軍事目標と敵の戦闘員に限定され、原発の攻撃禁止も明示されている。もちろん戦時に守られる保障はないものの、攻撃抑止の理由の一つになっているだろう。

◆原子炉の構造と日本の事前対策

原発の重要部分の圧力容器の大きさは、事故を起こした東京電力福島第一原発第1号炉(1971年運転開始)で、高さ約15m、直径4.7mだ。大きいものではない。中国とロシアは保有している。その圧力容器が格納容器で覆われ、さらに建屋の中にある。圧力容器は厚さ2m程度の鉄筋コンクリートで作られている。外部からの攻撃でこれらの何重にも作られた壁を壊すことは難しい。大型飛行機の突入や単発のミサイル、砲撃程度なら、破損の可能性は少ない。

日本の原子力規制委員会は2013年に定めた新規制基準で、航空機が突入した場合の対応を求めている。またテロリストが突入した場合に、それの侵入を阻止して運転員が逃げこめて、原子力発電所を制御できる「特別重要施設」の建設を求めている。現在、特重施設は、各原発で建設中だ。

日本の行政も対策をしている。海上保安庁が原子力発電所を海から巡視船で警戒している。原発の立地する自治体警察には機動隊の中に小隊規模(数十名)の原子力関連施設警戒隊が置かれ、隊員は短機関銃MP5を持つ重武装をしている。日本には、自衛隊の中央即応集団、また警察のSAT、海上保安庁SSTなど、重武装の犯罪者、テロなどに対応する特殊部隊がある。各原発はそれと連携している。

核兵器で日本攻撃を狙う侵略国もあるかもしれない。しかし日本では都市から離れた場所に原発は立地する。核兵器は大量殺戮を狙いとする兵器であるために、大都市を狙うだろう。

こうした状況を見ると、ロシアがそうであったように、日本を侵略する国も、積極的に原子炉を破壊しないと思われる。

◆広報とリスク認識 繰り返される原子力の問題

それよりも、原子力発電所が戦争で危険と強調する人の姿を見て、日本のエネルギー談義で必ず現れる2つの問題がまた出てきたことを、筆者は残念に思う。政府広報とリスク認識の問題だ。

原子力は今、その実行の責任が曖昧になっている。安倍政権以来、「安全の確認された原子力発電所を再稼動する」という発言を、政府は繰り返すのみだ。政治家も政府も積極的に原子力の必要性を広報しないし、その活用には消極的だ。いわば原子力の政府関係者は、原子力の安全の確認を担当する原子力規制委員会に、責任を丸投げし自らは逃げている。

そして、責任を委ねられた規制委員会も広報下手だ。更田豊志規制委員長は、国会答弁や会見で、戦争でのリスクを問われ「規制では戦争は想定していない」と、繰り返し答えた。事実の上では間違いではないが、広報の点では落第点だ。この発言は、国民の不安を煽り、原子力反対派に言質を取られるだけだ。

原発問題をPRしづらい現状は理解できるが、「安全対策はしており、原子力発電所の安全性は高まっている。戦争で壊れる可能性は少ない」と、政府は明確にメッセージを示すべきであろう。残念ながら、それは行われていない。

もう一つの問題はリスク認識の問題だ。リスクとは、「事象の発生確率」と「災害の程度」で認識される。(「環境リスク学−不安の海の羅針盤」(中西準子著、日本評論社))その数値化は難しいが、「日本が戦争に巻き込まれ、原子力発電所が破壊されて放射性物質が撒き散らされる」という事象が起こる確率は、現時点では極端に小さい。一方で、今の日本では「電力不足による供給の不安定化」が常態化しており、それによる停電の可能性が高まっている。またウクライナ戦争などの影響によって化石燃料の価格が上昇している。

前者と後者の確率の大きな差は明らかだ。戦争を考えるより、目先の停電とエネルギー価格抑制のリスクの差を考え、後者の対応をするのが合理的だ。原子力を活用すれば、後者は解決する。

しかし反対派は戦争リスクを過剰に騒ぎ、分かっている人も批判を恐れて沈黙してしまう。反原発を唱える政治団体や政党は、エネルギー問題で「原発再稼働」の機運が高まっているために、意図的に「戦争と原発」を強調しているように思える。

原子力の戦争リスクを考えるよりも、今の日本は、「原子力を使わないリスク」を考えるべきではないか。

【記者通信/4月22日】革新炉開発で初の有識者会合 夏に方向性示しCE戦略へ反映


経済産業省は4月20日、小型モジュール炉(SMR)や高速炉、高温ガス炉など革新炉の開発、導入に向けた有識者会合「革新炉ワーキンググループ(WG)」の初会合をオンラインで開催した。2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向け、革新炉開発を進めるにあたっての安全性担保、水素製造技術推進などの評価分析のほか、非化石エネルギーとしての社会的役割に原子力がどう貢献できるかなどを巡り、活発な議論が行われた。「東日本大震災以降の失われた10年」(原子力関係者)によって、今や日本の原子力技術は、欧米どころか、中国にも水をあけられた感がある。崖っぷちからの復活なるか。今後の展開に、エネルギー関係者の期待が掛かる。

このWGは、萩生田光一経産相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会・原子力小委員会の下に設置。この日は原子力分野の専門家など14人の委員が出席した。事務局からは、原子力小委員会での革新炉に関する議論概要や、革新炉の可能性と求められる価値について説明が行われた。続いて日本原子力研究開発機構、三菱重工業、日立製作所、東芝エネルギーシステムの関係者が、それぞれ革新炉開発の取り組みを説明すると、その後の質疑応答では、各委員から革新炉の開発計画や安全の担保に関して意見が相次いだ。

革新炉開発に「民間企業による経済価値の創出が大前提」

慶応大学の遠藤典子特任教授は、革新炉の社会的価値について「民間企業が経済価値を創出することが大前提」として、民間の事業予見性を確保するための制度設定が大きな課題だと述べた。中国・ロシアによる原発輸出ビジネスの対抗策に、革新炉を利用することについては「日本が民間サポートするなら、何のために必要なのか明確な提起が必要」と、政府による安全性担保で、民間企業が社会的コストを軽減できる仕組みが必要だと呼びかけた。今後の課題として、規制当局との連携を挙げ「適合審査の長期化や地元合意を考えれば、国内のリプレース(建て替え)は早期には難しい。海外でまず実績を上げられるよう民間の活力に期待したい」と話した。

経団連資源・エネルギー対策委員会企画部の小野透会長代行は、革新炉の開発には安全性の確保が最も重要とした上で、「廃炉や核燃料サイクルの最終過程(バックエンド)を含んだ対応も、地味ではあるが日本においては優先度が高い」と述べた。また、「このままでは将来の電力需要を賄えるとは思えない。再エネの拡大余地はあるが、安定電源の火力、原子力は相当規模なければならない」と強調。水素製造なども含めた原子力技術革新に言及し、革新炉の早期実装を呼びかけた。

「革新炉がCNにどういう役割果たすか疑問」

一方で、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は、「30年の温室効果ガス削減目標、50年CNに、革新炉がどういう役割を果たすのか疑問だ」と主張。「諸外国を見ても30年の目標に革新炉は貢献しない。小型炉も50年に何基建設できるか不明で、高速炉の実用化も50年以降。高温ガス炉の水素製造能力は2万t以下で、将来的に2000万t必要な状況下ではあまりに微量」と指摘した。「技術的にできるということと、社会的なインパクトは別物だと考えるべき。『CNのためにあらゆる選択肢を』というが、わずかな貢献度のために高額な補助を与えることは、合理的な政策とは言えない」と、革新炉開発を推進する政策の在り方に疑問を投げた。

その他、委員からはウクライナ侵攻に伴う原発防衛の必要性のほか、人材確保や産業基盤の維持のために革新炉開発が重要とする発言や、各革新炉の炉型ごとの比較や状況を踏まえた検討が必要とする意見が出た。次回以降の会合では系統の安定化、廃棄物の問題や安全保障などの視点から議論を重ねていくとしている。事務局によると、今後は開発に必要な予算やサプライチェーン、制度の整備などを取りまとめて夏ごろまでに方向性を示し、政府が検討しているクリーンエネルギー戦略に反映させたいとしている。

【記者通信/4月22日】再エネ乱開発防止へ 中央4省庁が重い腰


全国的な問題となっているメガソーラーの乱開発防止など再生可能エネルギーの適正化に向け、中央省庁がようやく重い腰を上げた。経済産業省、農林水産省、国土交通省、環境省の4省による共同事務局は4月21日、太陽光発電設備など適正な導入や管理についての第1回検討会をオンラインで開催した。検討会には有識者や各自治体の実務者ら14人が委員として参加。太陽光パネル設置による災害リスクや2030年代にピークを迎える太陽光パネル廃棄問題について意見が交わされた。

検討会では、30年度温室効果ガス削減目標の達成に向けては、再エネ導入の拡大が重要だとする一方、①地域とのコミュニケーション不足、②森林伐採や土地開発による災害や環境への影響、③再エネ設備の廃棄問題――などの懸念を指摘。再エネ設備導入から廃棄までの各段階で適正な規制対応を取ることが重要との認識を示している。

金融機関の融資契約がトラブルの抑止力に

約2時間半の議論の中で、事務局は冒頭、各省庁での取り組みを説明。これを受け、委員から省庁への意見や要望が相次いだ。

早稲田大学大学院・法務研究科の大塚直教授は、「行儀のよくない事業者が過去に認定を受け、みなさんその対応に追われている。一方で中長期的な課題として再エネは促進する必要があり、過去の問題と中長期的な視点は分ける必要がある」と規制議論に前向きな姿勢を見せた。また、今後拡大が見込まれる固定買い取り制度(FIT)対象外の事業に触れ「非FITを促進する必要はあるが、逆説的に言えば規制を行うことで地域住民に安心感与えることにもなる」と非FIT事業の規制についても提案した。

みずほ銀行の池田周平氏はプロジェクトファイナンスの視点から再エネの地域共生策に言及し、「(事業者と地元とのトラブルが少ない)一因として銀行の融資契約が抑止力になっている」と話した。「融資契約はさまざまな取り決めが厳密で、これがけん制機能を果たしている。規制に違反すると即座に融資打ち切り、返済となり事業計画が狂うため、(事業者が)しっかりと約束を守ることにつながる」(池田氏)と融資が事業者の自浄作用を促していると意見を述べた。

内閣府の再エネTFは解散か?の声

山梨県からは環境・エネルギー部の雨宮俊彦課長が出席。昨年施行した、設置規制区域への太陽光発電施設の新設禁止条例について「正しい形で設置することが重要。将来にわたり再エネが持続できるよう整えたい」と意図を説明した。また、栃木県那須塩原市気候変動対策局の黄木伸一局長は、太陽光パネル設置による地元への恩恵が少ないことを指摘した上で、「再エネが地域経済に貢献できるものであってほしい。安全安心があるだけでは地元にとっては何のメリットもない」と注文を付けた。

検討会ではそのほか、努力義務としている土地開発前段階の地域住民との説明会の重要性や、再エネ促進区域設定に関する各省庁の連携の問題点、太陽光パネル大量廃棄・リユースの責任の所在など、幅広い規制対象について話し合いが行われた。「この検討会が進めば、再エネ規制緩和に積極的だった内閣府タスクフォースは廃止されるだろう」(政府関係者)。政府は夏ごろに対策案をまとめ、今後の法整備につなげたい考えだ。

悪徳事業者による太陽光パネル乱開発問題や、昨年7月に起きた熱海市の土石流災害を受け、再エネ規制にようやく本腰を入れた政府が、どのような対策案を講じるか注目だ。

なお、再エネ開発・運用の適正化を巡る検討の舞台が今回の4省庁合同検討会となったことを受け、業界からは「内閣府の再エネ規制総点検タスクフォースの役目を終えたと思う。そろそろ解散では」との声が聞こえている。

【記者通信/4月20日】東ガスが主導する脱炭素広域連携 首都圏7地域と協定


東京ガスによる地域脱炭素連携の取り組みが加速している。卸先ガス事業者、自治体を交えた3者による「カーボンニュートラル(CN)のまちづくりに向けた包括連携協定」を結び、脱炭素社会の実現、防災機能の強化、地域共創などの幅広い分野で連携を強化していく。同社は4月20日までに、神奈川県秦野市・秦野ガス、埼玉県三芳町・大東ガス、同所沢市・武州ガス、同日高市・日高都市ガス、同狭山市・武州ガス、茨城県守谷市・東部ガス、同土浦市・東部ガスと、計7つの協定を結んだ。いずれの自治体も2050年までにCO₂排出量を実質ゼロにすることを目指すゼロカーボンシティ宣言を行っている。

東京ガス、狭山市、武州ガスの3社による連携協定締結式

東ガスでは経営ビジョン「Compass2030」の中でCO₂ネットゼロへ取り組む方針を打ち出しており、地域の自治体、ガス事業者との包括連携はその一環だ。内容を見ると、脱炭素分野では、学校への太陽光発電設置、公用車の電気自動車(EV)への置き換えなどを推進。レジエンス分野では、自治体向けにガスコージェネレーションシステムや蓄電池といった自立電源の設置や防災情報の提供を行っていく。地域共創分野では、学校などにおける環境教育、食育に関するイベントやワークショップの開催を通じた啓発活動を行う。詳細については、各自治体などとの今後の協議を通じて詰めていく方針だ。

東ガスは今回の包括連携協定について、カーボンニュートラルシティ推進部の職員5人で専門チームを編成。自治体への提案力や再エネ導入のノウハウなど、それぞれの職員が持つ強みを生かし、地域が抱える課題解決などに取り組んでいく。同社によると、秦野市では既に同市中学校への太陽光導入に向けた検証結果がまとまっており、早ければ22年度内には導入が決定する見通しだ。

東ガス、卸先ガス会社、自治体に〝三方一両得〟の効果

包括連携協定が広がる背景には、政府が進める「地域脱炭素ロードマップ」の存在がある。これは2030年までを集中期間として、地域の脱炭素化を加速させる取り組みだが、自治体は何から手を付けるべきか苦慮している。そうした中、東ガスや卸先ガス事業者が有する先進技術やノウハウを活用し、取り組みを前進させたい考えだ。地域でのネットワークを有する卸先ガス事業者も東ガスの技術力を借りることで、自治体への幅広い提案が可能となる。東ガスにとっては、連携地域を拡大させ首都圏での存在感を高める効果も期待できる。いわば、〝三方一両得〟の格好だ。

東ガス広域エネルギー事業部の馬場敏事業部長は「脱炭素化は、われわれにとって大きなチャレンジ。道は険しいが、当社の経営資源をフル活用しながら。地域を活性化させていくことが目標だ」と意気込む。新たなビジネス領域へとシフトするCN。東ガスの地域脱炭素連携を通じた広域戦略が今後どんな展開を見せていくか、要注目だ。

【記者通信/4月17日】CE戦略会合で原発推進論が続出 消費者委員も再稼働に理解


「可能な限りの依存度低減」から「最大限の活用」へ――。わが国の原子力政策が大きな転換点を迎えている。それを象徴するのが、4月15日に開かれた経済産業省のクリーンエネルギー戦略検討合同会合(座長=白石隆・熊本県立大学理事長)だ。

資源エネルギー庁事務局は配布資料の中で、「ウクライナ危機・電力の需給ひっ迫を踏まえた、政策の方向性の再確認」と題する論点メモを提示。その締めくくりにおいて、岸田文雄首相が4月8日の会見で「再エネ、原子力などエネルギー安保および脱炭素の効果の高い電源の最大限の活用」と言及した部分を引用しながら、「エネルギー安定供給確保に万全を期し、その上で脱炭素の取り組みを加速」と提起した。これに対し、複数の委員やオブザーバーから、原発の早期再稼働など原子力政策の推進を求める意見が相次いで表明されたのだ。これまでタブーとみられていた原発の新増設・リプレースの必要性を指摘する声も聞かれ、潮目の変化を浮かび上がらせた。

4月15日のCE戦略会合で所感を述べる保坂伸・資源エネルギー庁長官

注目は何と言っても、消費者を代表する河野康子委員(日本消費者協会理事)の発言である。「原子力を選択肢として射程に入れるとしたとき、国民が抱いている大きな危惧に対して、正面から向き合うところから始めないとうまくいかない。ベネフィットや課題を整理し、テクノロジーアセスメントの考え方でしっかりと進めていただきたい」。安全性確保と国民理解が大前提という慎重な姿勢ながらも、条件付きの原発再稼働へ理解を示した格好だ。消費者団体といえば、これまでもことあるごとに脱原発・再エネ推進を訴えてきたが、わが国で深刻化する電力の需給ひっ迫・価格高騰リスク回避のためには、国内の原発再稼働もやむなしと判断したようだ。

これを受け、長谷川雅巳委員(経団連環境エネルギー本部長)は「河野委員が言われたように、(原子力の利活用には)国民の理解が極めて重要。政府は前面に立って国民の理解醸成を図りながら再稼働、新増設、リプレースを進めていただきたい」と要望した。

「国が前面に立って、原発の早期再稼働の推進を」

このほか、原発再稼働に関する主な意見は次の通り。

「原発をできるだけ早く再稼働させていく。エネルギーの海外依存を続けていいのか。再エネもあるが、安定的な電源が必ず必要になる。企業の生産性が落ちていくと、国のためにもならない」(伊藤麻美委員=日本電鍍工業代表取締役)

「安全性を確保した上での原子力の再稼働。その必要性と安全性について、国が前面に立って国民にしっかりと説明していく必要がある」(大下英和オブザーバー=日本商工会議所産業政策第二部部長)

「原子力の再稼働を急ぎながら、長期的には新増設・リプレースの議論をしっかりと行っていく。そもそも日本が(資源調達で)ハンディキャップを追っている中で、電力価格を上昇させていくと(国内の)産業全体に影響してくる」(秋元圭吾委員=地球環境産業技術研究機構主席研究員)

「原子力は避けて通れない議論。社会的情勢も含めて、やらざるを得ない。人が途絶えると、二度と復活できない。今やらないのであれば、二度とやらないという決断になるのではないか」(白坂成功委員=慶応大学大学院教授)

CE戦略会合を巡っては、昨秋の発足当初から、原子力推進に向けた政策の再構築を主要な論点として指摘する声が聞こえていたが、夏の参院選を控えた政治的事情などからこれまで表立って議論されることはなかった。そうした中、ウクライナ危機に伴うロシアへの経済制裁や去る3月22日の電力危機などを背景に、原子力推進へと世論が変わり始めた。これが、エネ庁事務局や委員・オブザーバーの姿勢に大きな影響を与えているようだ。その声、国の原子力規制委員会にも届くか。

【記者通信/4月12日】野田元首相「俺一人でやる」 原発再稼働表明の舞台裏


元民主党の経済産業大臣政務官で、現在は無所属会派「有志の会」の北神圭朗衆議院議員(京都4区)が4月12日、エネルギーフォーラムが主催するオンライン番組「そこが知りたい!石川和男の白熱エネルギートーク」にゲスト出演した。2012年6月8日、当時の野田佳彦首相が会見で、夏場の電力不足対応として関西電力大飯原子力発電3、4号機の再稼働を表明。世間を驚かせた「政治決断」の舞台裏を明かした。

2012年当時の野田政権事情を語る北神議員

11年3月の東日本大震災以降で初となる原発再稼働の決定を下した野田氏。番組司会の石川和男・社会保障経済研究所長が「野田首相が再稼働を決めた12年6月当時は、原子力規制委員会もなく、経産省が推進も規制もやっていた状況下で、当時の枝野幸男経産大臣ではなく野田首相が決断したのは、なぜか」と質問した。

これに対し、北神氏は「あの状況下では経産相も結局決められなかった。枝野氏のほか、当時は野田氏や細野豪志環境相(当時)、古川元久国家戦略担当相(当時)、仙谷由人元官房長官ら幹部で体制を作っていた」とした上で、「実際は(6月8日に)幹部揃っての共同記者会見が予定されていたのだが、会見間際になって、野田総理以外全員がドタキャンした。私は(経産大臣政務官として)あの場にいたので(知っていた)」「野田総理は『誰も来ないな』と淡々としていた。普通なら会見延期しようか、今日は止めようかとなるはずが、野田氏は『時間がきたから、俺一人でやるよ』と単独で会見をした」と、舞台裏を明かした。

信念を貫いた野田氏 問われる岸田首相の政治判断

この会見で、野田氏は「国民生活を守るため、再稼働すべきだというのが私の判断だ」「今原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」と述べ、広く国民に対し原発再稼働の理解を求めたのだ。これについて、北神氏は「政治家は選挙があるから(原発問題を避けたい)気持ちはわかるが、エネルギーは国家の安全保障。自分の信念を貫かないといけなかった」と指摘。その後の野田氏に関しては「自宅が反原発活動家に占領され、家族も自宅に数年間戻れなかったはず。当時の反原発の圧力にも淡々としていたのは凄いこと」だと英断をたたえた。

2012年当時は、11年3月の東京電力福島第一原発事故から1年を経たばかりで、脱原発を求める世論の声は現在とは比較にならないほど大きかった。国民的な批判を覚悟の上での政治決断表明は、国益を最重視したからこそ成しえたのだろう。

あれから10年。今、わが国の電力需給はまさに綱渡りの状態にある。脱炭素政策を背景にした不安定な再エネの大量導入、大型火力発電の相次ぐ休廃止に加え、ウクライナ危機に伴う「脱ロシア」の影響で化石資源の安定調達に黄信号が灯る。本来であれば、今こそ停止中原発の再稼働が求められる時だ。「有事」認識の欠落する原子力規制委員会に物申せるのは、岸田首相をおいてほかにない。「国民生活を守るため、再稼働すべきだ」。この一言を、国民に向かって発することができるか。

自民党の電力安定供給議員連盟、日本維新の会、国民民主党など与野党から今後の電力需給ひっ迫・価格高騰対策として原発緊急再稼働を求める声が高まる中、北神議員はオンライン番組で、有志の会としてもこの問題を議論していく考えに言及した。岸田首相の政治決断が問われている。

【目安箱/4月12日】急務の原発再稼動 なぜ岸田首相は動かないのか?


原子力をめぐる雰囲気が変化している。感情的な原子力の反発は少なくなり、SNSなどでは原子力の活用を主張する声が強まり、政治家も原子力発電所の再稼動を語るようになった。昨年からのエネルギー価格の上昇に加えて、ウクライナ戦争による国際市場の混乱、福島沖地震をきっかけにした東日本における大規模な停電危機が「自分事」として人々の考えを変えたようだ。しかし、その声に応えるべき岸田首相の動きは鈍い。

◆政府に見られない「反省」

「107%」。これは3月22日に記録した電力の使用率だ。供給率に対する需要の割合が100%を超えた。他社融通、揚水発電、そして自家発電からの供給が増え、ぎりぎりで供給が間に合った状況だ。16日の福島沖地震で、太平洋沿岸の火力発電所が軒並み被災。22日の寒波と悪天候でエネルギー不足が顕在化した。

政府は初めて、「電力需給ひっ迫警報」を発令。萩生田光一経済産業相は22日午後、緊急の会見を開き、広く国民に節電をお願いする事態になった。S N Sでは「この結果はエネルギー政策の失敗を示している。それを棚上げにして国民に負担をお願いは筋違いだ」という趣旨の批判が相次いだ。しかし、経産相と同省から、その種の発言は出てこない。政府が失政を認めることはない。

このエネルギー危機は、事業者の失敗だけではない。政策の失敗が影響したのは明らかだ。ところが、それを推進した政治やメディア、経産省・資源エネルギー庁は、その理由を明確に述べない。失敗の背景になった自らの行動を否定してしまうためだろう。エネルギー危機をもたらしている背景を、改めて確認してみよう。

◆エネルギー・電力危機の背景

第1の背景は、最近の脱炭素の流れの中で、火力発電が抑制されたことだ。2020年9月に菅政権が行い、岸田政権でも踏襲している50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとするカーボンニュートラル宣言が影響している。JERAは19年までに、16年ごろまで稼動していた自社の石油火力(発電能力約200万kw程度)を閉鎖。老朽化していたこともあり、LNGへの移行を試み、常陸那珂共同火力のプラントなどを増設した。ただ、ここまでひっ迫するのであれば、もう少し遅らせてもよかったかもしれない。政策が、大手電力会社の火力発電所増設の動きを抑制させた面はあろう。

第2の背景は、再エネの過剰な優遇だ。12年からの再エネ振興策によって、東電管内には1000万kW相当の発電能力がある太陽光発電システムが設置されている。ところが、電力危機が顕著になった3月22日に東日本は悪天候でほとんど発電がなく、天候に左右される再エネの問題が改めて浮き彫りになった。もちろん、再エネの普及はある程度必要だが、その弱点を考えず普及させることは疑問だ。いったい何のために巨額の支援をしているのか、理解できない。

第3の背景が、原発再稼働の遅れだ。2011年の福島第1原発事故後、日本の原発で営業運転を再開したのは33基中10基にとどまる(3月22日時点)。しかも、特別重要施設と呼ばれるテロ対策施設の工事の遅れを理由に、関西電力管内では一度新規制基準に合格した原発3基が、再稼動できない状況にある。

3月16日の福島沖の地震の前に、自民党の電力安定推進議員連盟、日本維新の会、国民民主党が、特重施設の設置を一時凍結して再稼動を認めるように経産省に申し入れをした。しかし、政府は規制委員会に申し入れず、同委員会もそうした取り組みをしない。原子力規制委員会は、独立行政委員会として、その運営では行政の統制を受けない。しかし経済や電力安定供給に問題があるのに、安全だけを追求する姿は異様だ。その施設がなかったからといって、原発は安全に動かせるはずだ。

これらの3つの背景は、相互につながっている。背景の1と2によって、電力供給が大幅に減りかねないのに、対策である原子力の活用が行われていないという構図である。

◆先例、野田首相の介入による再稼動

エネ庁は22日夜、同日から23日未明にかけての停電は「回避される見通し」と発表した。しかし来冬も厳冬期に、関東は100万kwの電力が不足すると見込まれる。昨冬も電力危機が発生した。日本の電力需給は脆弱になり、それが恒常化している。さらに、ウクライナ戦争を背景に国際的なエネルギー供給の混乱、価格の上昇が長期化する影響もある。原発再稼動は現状の問題を最も早くできる解決策だろう。

 自民党政権は、原子力に懐疑的な公明党と連立を組み、また選挙を常に意識している。11年3月の東京電力福島第一原発事故の影響から、これに反発する人、政治的に問題にする人がいる。そのために原発再稼働について、「触らぬ神に祟りなし」として、動かないのだろう。あまりにも無責任ではないだろうか。

国民民主党の玉木雄一郎代表は20日夜、ツイッターで「当面、国民の皆さんには節電をお願いせざるを得ませんが、本来なら国が責任を持って安全基準を満たした原発は動かすべきなのに、批判を恐れ誰も電力の安定供給に責任を持とうとしない現状こそ危険です」と、私見を述べた。こうしたまともな意見が、野党からも出るようになっている。

原発にはさまざまな意見があることは認めるが、電力が足りず、経済・社会活動に支障を来している現実の危機に、多くの国民が不安を感じている。旧民主党の野田佳彦首相(当時)は、関西地域の電力不足が明確になった12年春に、自ら再稼動を規制委員会に求め、それを実現させた。再稼動問題はこじれ「首相案件」という大事になっているが、首相が動けば状況を変えることはできるのだ。

なぜ岸田文雄首相が、現実の危機を直視し、エネルギーの安定供給のために、原子力再稼動に動き出さないのか。とても不思議だ。

【記者通信/4月9日】岸田首相「ロシア産石炭輸入を禁止」 大手電力は「代替策など検討中」


ウクライナ各地で発覚したロシア軍による民間人虐殺疑惑を受け、日本政府がロシアへの経済制裁を強化する姿勢を鮮明に打ち出した。岸田文雄首相は4月8日夜の記者会見で、「ロシア軍による残虐行為を最も強い言葉で非難する」とした上で、「ロシアからの石炭の輸入を禁止する」と明言。早急に代替策を確保しながら、段階的に輸入を削減することでエネルギー分野でのロシア依存を低減させる方針を打ち出した。代替策については、「夏や冬の電力需給逼迫(ひっぱく)を回避するため、再エネ、原子力などエネルギー安全保障、および脱炭素の効果の高い電源を最大限の活用する」として、特重施設工事などで停止中の原発について早期再稼働を進める方向性を示唆した格好だ。

これに先立ち、萩生田光一経済産業相は同日の閣議後会見で、主要7カ国(G7)の首脳宣言にロシア産石炭の輸入禁止などが盛り込まれたことに触れ、「日本も段階的に減らしていく。最終的には輸入しないことを目指す」と述べた。経産省によると、ロシア産石炭は世界輸出量の2割に当たる約2.1億tを占めており、日本は石炭輸入量のおよそ13%(一般炭)をロシア産に依存している。このため、即時の石炭輸入禁止などには「各国事情が違う」と慎重な姿勢だ。ロシア産石炭を輸入ゼロにする目標時期などはまだ決まっていないが、萩生田氏は「できるだけ産業に迷惑をかけない方向で制裁に協力していきたい」と理解を求めた。

石炭から石油、LNGへ波及の懸念 国内経済に甚大な影響

こうした情勢の中、大手電力各社は対応に追われている。Jパワー(電源開発)は「ロシアとの取引をどう見直していくか、代替国からの輸入含めて検討している」(広報部)とした上で、「わが社の直近のロシア産石炭比率は一桁%台と高くない。石炭は備蓄ができることもあり、しばらくは(価格、運転に)影響なく対応できるだろう」と冷静な対応を図る構え。またJERAは「わが社のロシア産石炭の割合は1割強」「シンガポールの子会社を通じ、現時点で調達に関しての影響がないことを確認している」などと強調。他国からの調達で対応できるとしているが、「禁輸で石炭の需給ひっ迫状況が続くと、価格高騰にも影響する」と今後の情勢を見極める構えを示している。

「これまでロシア産エネルギー資源の調達問題について、政府はエネルギー安全保障の観点から輸入量削減に慎重な姿勢を示してきた。しかし、ウクライナ・ブチャなどで起きた民間人の大量虐殺で完全に潮目が変わった。今後の国際動向次第では、石炭だけでなく、石油、そしてLNGへと禁輸の動きが段階的に波及する可能性もある」(政府関係者)。そうなれば、エネルギーにおける需給ひっ迫のみならず、価格上昇のリスクも高まることになり、国内経済・国民生活への甚大な影響が懸念される。影響回避の切り札となる「原発早期再稼働」を求める声は一段と強まりそうだ。

【記者通信/4月7日】特重規制見直しで国会質疑 地元自治体は規制委批判


第六次エネルギー基本計画などを踏まえ、エネルギー関連法案をまとめた「束ね法案」が5日、衆議院本会議で審議入りした。本会議ではエネルギー政策に関して幅広く議論され、萩生田光一経産相が趣旨を説明。各党からの質疑応答が行われた。注目は日本維新の会、小野泰輔議員による「原子力発電所の特定重大事故等対処施設(特重)の設置期限」に関する質疑だ。

小野議員は「特重の設置期限は設計・工事計画認可取得から5年以内」とする規定により、再稼働できない施設の現状を指摘。原子力規制委員会の安全審査の遅れが、特重施設工事の進ちょくに影響を与えているとの見方を示した上で、更田豊志・規制委員長に対し「(特重の設置期限について)硬直的な規定を見直すべき」だと訴えた。

これに対し、更田氏は「特重施設がないことが直ちに危険に結びつくとは考えていない」としながらも、テロ対策などの信頼性向上のために特重施設改善は重要として「約束した改善が果たせないような事態は避けるべきだ」と規定見直しには否定的な考えを示した。

規制委審査は「後出しじゃんけん」 山中・新体制への注文

この更田発言の数時間後、自民党本部では原子力規制に関する有識者ヒアリングが行われた。中部電力浜岡原発のある静岡・御前崎市の柳澤重夫市長と関西電力高浜原発を抱える福井・高浜町の野瀬豊町長が、自民党議員や関係者を前に、地元の現状を説明した。

4月5日に自民党本部で開かれた原子力規制の有識者ヒアリング

野瀬町長は「根本は国のエネルギー政策への不信感だ。国は『(原発推進は)ウケが悪いから』と政策課題の議論に消極的だ」「(工事業者などの)地元企業にとってみれば『国策に協力する』というのもモチベーションなのに」などと、積極的に関与しない国の姿勢に疑問を呈した。柳澤市長が「規制委とずっとやり取りしているが、どうしたら良いのか教えてくれない。規制委が望む通りやっても(審査が)進まない」と規制委の対応に苦慮していることを明かすと、野瀬町長も「審査員個人の心情で内容がころころ変わるし、今までの審査をひっくり返されることも多い」と続けた。今後については「CN達成スケジュールとの整合性が取れていない。政府には規制委と連携を取ってもらいたい、独立性を棄損するものではないはず」(野瀬町長)だとした。

出席した宮澤博行議員は「規制委の審査は『後出しじゃんけん』だ。審査の効率化を進めるべき。事業者は何をしなければいけないのか、やろうとしている方向が違うなら規制委は教えるべき」だと規制委の問題点を指摘した。しかし衆院本会議での更田発言を聞く限り、今後も規制委の姿勢に変化は見られそうもない。9月には、更田氏から山中伸介氏に委員長が交代する。特重施設の設置期限問題や原発運転期間の延長問題が提起されるかどうかが今後の焦点だ。

【緊急インタビュー】資源小国・日本が直面する国難 「台湾有事」も視野に自給率向上を


インタビュー:高市早苗/自民党政務調査会長

聞き手:井関晶/本誌

エネルギー資源大国のロシアがウクライナに侵略したことで、世界のエネルギー情勢が緊迫化の様相だ。資源小国のわが国は、この局面にどう立ち向かうのか。自民党の高市早苗・政務調査会長を直撃した。

たかいち・さなえ 1961年生まれ。神戸大学経営学部卒。経産副大臣や総務相などを歴任。2021年秋の衆院選(奈良2区)で9選し、現在は自民党政務調査会長。

―ウクライナ危機を踏まえ、日本のエネルギー政策の課題について、どうお考えですか。
高市 ウクライナ危機で改めて痛感したことは、国連安保理で拒否権を持つ国が「外交」を支配し、核兵器を持つ国が「軍事」を支配し、資源を持つ国が「経済」を支配するという、世界の現実です。
そのいずれも持たないわが国が、どのように生き残りを図るか。これが今、コロナ禍、ウクライナ危機、エネルギー価格高騰という、三つの国難に直面する日本に突き付けられた、重大かつ深刻な課題になっています。
 まずは世界の現実を直視した上で、従来の「平時」を前提とする発想から脱却し、常に最悪の事態を想定しつつ、リスクを最小化するための備えを講じていく。とりわけエネルギーを巡る課題は、国内でも現在進行形で進んでおり、喫緊の対応が求められます。
 今回のロシアによるウクライナ侵略への各国の対応と、欧州のエネルギー情勢を踏まえれば、エネルギーの安定供給の確保に向け、あらゆる選択肢を活用可能な状態にしておくべきことは、論を俟ちません。四方を海に囲まれ、自然エネルギーを活用する条件が諸外国と異なるわが国においては、なおさらのことと考えます。
 今後、あらゆる化石燃料の調達について、資源外交などを通じ、権益の確保や調達先の多角化を一層推進することが必要です。中でも、台湾南部のバシー海峡を通過する割合は、原油で9割、LNGで6割に達しており、仮に台湾有事が発生した場合、ロシアからの輸入の比にならない量の燃料供給が途絶することになります。従って、再生可能エネルギーの導入や、原子力発電の再稼働などによるエネルギー自給率の向上に取り組むことが重要です。


安全性最優先で原発再稼働 SMR開発に大きな期待

―エネルギー政策では脱炭素化に加え、安全保障の重要性が一段と高まっています。
高市 再エネはエネルギー自給率の向上に寄与するので、系統整備などを推進し最大限の導入を目指していきますが、発電が自然条件に左右されることから、蓄電池や他の電源との組み合わせが不可欠です。その点、原子力は数年にわたって国内保有燃料だけで発電が維持でき、かつ脱炭素のベースロード電源であることを踏まえれば、重要な電源として活用していくべきだと考えています。こうした観点から、地元の理解を得ながら、安全性を最優先に原発再稼働を進めていくことが必要です。
 今後、わが党においては火力発電も含め、あらゆる選択肢を追求してエネルギー安定供給の確保を実現すべく、私が本部長を務める経済安全保障対策本部や、総合エネルギー戦略調査会(額賀福志郎会長)などを中心に政策議論を深めていきます。

実用化への期待が高まるSMR(米ニュースケール社)

―現在「クリーンエネルギー戦略」の議論が官邸主導で進んでいます。その柱の一つに原子力の技術開発が位置付けられています。
高市 原子力技術開発では、国際連携を活用した高速炉開発の着実な推進、小型モジュール炉(SMR)技術の国際連携による実証、高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立について検討を進めているところです。
 SMRを巡っては、「小さな炉心を生かし、自然循環を利用したシンプルな安全システムを採用しており、ヒューマンエラーや危機故障を回避できること」「モジュール生産による品質管理の容易化と工期短縮によって、初期投資コストが小さいこと」など、大きなメリットが期待されています。
 IHI、日揮グローバル、日立GE、三菱重工業などの日本企業が開発に携わっており、国産技術としての期待も高い。世界の革新炉開発の潮流に乗り遅れることなく、国際プロジェクトに日本企業が効果的に参入できるようにしていくべきだと考えています。

再エネは法令順守が大前提 不適切事案を未然に防ぐ

―一方で再エネは、山間部などにおける乱開発が全国的な問題となっています。
高市 再エネ事業についても、他のエネルギー事業と同様、法令を順守して適正に事業を行うことが、地域での信頼を獲得し、長期安定的に事業を実施するための大前提になると考えます。電気事業法では、設備の安全性を担保する基準と自治体が定めた条例を含む関係法令を順守することが、事業者に求められています。違反があった案件については、指導や命令を行い、改善が見られない場合は罰金や認定を取り消すといった、厳格な対処を行わなければならない。既存のルールで対応できない不適切な事例があれば、ルールや審査を厳格化し、次なる不適切事案を未然に防いでいくことも必要です。
 私の地元・奈良県においても、太陽光発電設備の設置計画に対する反対運動が、複数地域で起きています。太陽光発電のためにみだりに森林伐採が進めば、自然環境や景観への影響、土砂流出による濁水の発生、CO2吸収源としての機能を含めた森林の多面的機能への影響が懸念されます。環境に適正に配慮し、地域における合意形成を丁寧に進めることで、適切な再エネの導入を進めていくことが不可欠です。
 2050年カーボンニュートラル社会の実現を目指す中で、今後はこうした課題に真摯に向き合い、導入に適した場所の確保、自治体との連携を強化した事業規律の確保、コスト低減に向けた研究開発に取り組んでいく必要があると考えています。