【記者通信/10月29日】高レベル廃棄物処分の理解促進へ 実験・見学施設の活用を


北海道電力泊発電所周辺の寿都町と神恵内村で、高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた文献調査が行われる見通しとなった。長く横たわっていた最終処分問題にようやく光が差したが、地元ではまだまだ反対意見が根強くあり前途は多難だ。これについてある電力業界関係者は、「ガラス固化体ではなく放射性廃棄物をそのまま埋めると思い込んでいたり、よく分からないから反対している人も多い」と指摘する。

そんな話を聞いて、2018年3月、エネルギーフォーラム海外視察団の一貫として訪れたスウェーデンの放射性廃棄物の研究施設「エスポ岩盤研究所」を思い出した。ここでは、実際の最終処分地とは別の場所に本物さながらの最深部450m、総延長5㎞ものトンネルが掘られ、放射性廃棄物処分の研究が行われていたのだ。

実験場とは思えない本格的な施設を整備した「エスポ岩盤研究所」

そして、キャニスタと呼ばれる外側が銅製、内側が鋳鉄製の2重構造の容器に封入して地下深く埋設されることや、無人運転で動く作業車両により埋設作業は無人で行うことなどを体感で知ることができた。当時、同施設の担当者が「放射性廃棄物の最終処分を地下深くで行うのは、危険だからではなく処理期間が非常に長期に渡るためだ」と説明してくれたことも印象的だった。

北海道には、幌延深地層研究センターがある。エスポほど大規模なものとはいかないまでも、見学施設など最終処分に関して市民とコミュニケーションを図るための場を全国各地に設け、これを広くPRすることが、住民の理解促進の一助となると考える。

【記者通信/10月27日】温暖化ガス「2050年ゼロ」の盲点 問われる菅首相の本気度


菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の目標を掲げ、脱炭素社会の実現を目指す方針を表明した。わが国では、2012年4月に当時の野田佳彦内閣が「2050年80%削減」を目指す第4次環境基本計画を閣議決定して以来、これが政府目標となってきたが、世界の脱炭素化の潮流に対応すべく、さらに踏み込んだ格好だ。しかも、所信表明演説でぶち上げたことは画期的といえるが、問題はこの困難な目標をどう実現に近づけていくかだ。

演説では、「鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした革新的なイノベーション」と強調。その上で、「規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資のさらなる普及を進める」「脱炭素社会の実現に向けて、国と地方で検討を行う新たな場を創設する」「環境関連分野のデジタル化により効率的、効果的にグリーン化を進めていく」などの方策に言及した。

しかし、わが国はこれまで太陽光発電や風力発電、蓄電池、燃料電池などの新エネルギー技術開発に世界に先駆けて取り組みながらも、ビジネス展開では後手後手に回り、今や欧州勢や中国勢の後塵を拝している。補助金による開発支援をはじめとした従来型の政策手法で周回遅れを挽回するのは極めて難しい状況にある。研究開発した新技術をどうビジネス化し、わが国が主導する形で世界標準を創り上げていくかという視点での検討が不可欠だ。

その一方で、残念なのは、温暖化ガス削減のキーテクノロジーである原子力発電への言及がほとんどなかったことだ。演説には「安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立」するという一言が盛り込まれたのみ。2050年実質ゼロを目指すには、原発の再稼働はもとより、新増設・リプレースが避けて通れないにもかかわらず、これでは国民に対するメッセージとして原発の重要性が伝わることはないだろう。

安倍政権は、国民世論や支持率への影響を重視するあまり、原発政策に及び腰の姿勢に終始した。菅首相も同日のニュース番組での発言を見る限り、積極的な姿勢は感じられない。いま梶山弘志経産相は、ある意味政治生命を掛けるほどの意気込みで、原発政策の立て直しに全力を注いでいる。「最終処分場の文献調査にしても、福島原発処理水の海洋放出にしても、梶山大臣がいるからこそ、長年のこう着状態から事態が前進した。次は、柏崎刈羽や女川、島根などBWR原発の再稼働だ」(経産省関係者)。2050年実質ゼロを宣言した以上、政権挙げて原発の重要性を国民に訴えかけていくことが求められる。

【都市ガス】逆石油ショック 備えはあるか


8月号の特集「コロナ禍の破壊と創造」の中で、スプリント・キャピタル・ジャパンの山田光代表が提唱していた「逆石油ショック」という言葉が頭から離れない。われわれエネルギー供給者にとって安定供給は絶対命題であり、1970〜80年代の石油ショックをはじめ、度々エネルギー調達量が減少する経験をしてきたため、原燃料の安定調達を最優先に取り組んできた。

しかし、今回のコロナ禍では調達量は確保されている半面、需要量が急激に減少するという、今までとは真逆の現象、逆石油ショックが発生した。おそらく、われわれはこのような需要量の急減を近年初めて経験したのではなかろうか。

膨大な初期投資を必要とするLNGプロジェクトでは、買主は20〜30年といった長期契約を求められ、また厳しい引き取り義務も生ずる。今回のような需要急減リスクを認識してこなかったわれわれは、安定調達を重視する立場から、こうした契約内容を甘んじて受け入れてきた経緯がある。常温貯蔵ができないLNGの貯蔵量には限界があり、需要が急減した場合に一定の引取調整枠を超えてしまうと、引き取りを延期して支払いのみを行うテイクオアペイや、契約上可能な範囲での市場・他買主への転売などの手立てを即座に講ずる必要がある。しかし、現在のLNG売買契約においては、逆石油ショックに対応できる十分な柔軟性を確保できているとは言い難い。

買主が売主との個別交渉において硬直化した契約内容を見直し、価格水準を抑えながら、契約期間の多様化、引取調整枠・仕向け地の拡大、転売の自由化などを勝ち取ることは至難の業であろう。さらに、LNG需給を調整する卸市場の確立となれば、国を超えた取り組みが必要となる。しかし、半世紀にわたるLNGの歴史を次の半世紀につなげるためには、環境変化に応じて柔軟にLNG取引システムを変えていくことが必須となる。そうでなければ、近い将来、売・買主の両方が逆石油ショックによって大きな痛手を受けることになるだろう。(G)

【記者通信/10月23日】ガス料金規制の経過措置 現行ルール通りに解除か


本誌10月号のフォーラムレポート『ガス料金規制解除で波乱の様相、経産省内で現行ルールに疑問の声』で報じた問題を巡り、電力・ガス取引監視等委員会からは「現行ルールに則って判断し、基準を適正にクリアしていれば、経過措置料金規制を解除していいのではないか」との声が聞こえている。

関西電力との顧客争奪戦が激化している大阪ガスを筆頭に、エリアを超えた競争の進展によって東京ガス、東邦ガスでも顧客離脱が加速。いまや解除基準を満たす状況になっている。規制当局の検証を通じて、その事実が正式に確認されれば、経産省は大手都市ガス会社の小売り料金規制を撤廃しなければならないはずである。

ところが、経産省内でこの解除ルールへの異論が浮上。「大手都市ガス会社の料金規制が外れれば、競合相手の大手電力会社の規制も外さなければならなくなる。大手電力会社に対し、総括原価の査定権限を維持したい経産省としては電力料金規制の撤廃は絶対にしたくない。そのためにも、大手ガス会社の規制解除などとんでもないというのが、経産省の本音だ」(エネルギー関係者)

そもそも、この解除ルールの策定時に、大手の部類に入る西部ガスが対象からはずれたことなどがエネ庁内で問題となり、幹部の間で「こんな変なルールは納得できない」と騒動になった経緯がある。しかし、前回のガス事業法改正時に国会審議まで経て決まったルール。経産省の思惑で勝手に運用を変えるなど許されることではない。

監視等委員会の見方どおり、粛々と手続きを進めていくことが求められる。もし、どうしても解除したくないというのであれば、審議会などであらためてルールの見直しを議論するのが筋だ。でないと、行政への信頼が揺らぐ事態になりかねない。

【記者通信/10月22日】容量市場問題の本質とは 電力制度全体を俯瞰した議論を


容量市場の落札価格が上限価格に近い1万4137円を付けたことが波紋を呼んでいる。市場管理者(日本の場合は電力広域的運営推進機関)は、指標価格(Net Ocone)前後での約定を目指すもの。その1.5倍もの価格が付いたことは、容量負担金を支払う小売り事業者のみならず、市場管理者、発電事業者とっても想定外だったことは想像に難くない。

この結果を受けて、来年度のオークションに向けた検証と制度の見直しが始まったが、エネ庁はあくまでも「制度に瑕疵はない」とのスタンスだ。確かに、「経過措置」と「逆数入札」ばかりが取りざたされるが、これだけが価格高騰を招いたわけではない。むしろ、「特定重大事故等対処施設(特重)」や「非効率石炭火力のフェードアウト」といった容量市場以外の政策により、応札容量が期待量を下回ったことの方が影響は甚大だ。

制度に問題があったからと、その制度だけに焦点を当てて議論すれば本質を見失う。電力を巡る各種政策・制度は相関関係にあり、「これはこれ、それはそれ」などと切り離せるものではないのだ。小売り事業者にもさまざまな考えがあることは承知しているが、一つの事象にとらわれるのではなく、電力制度全体を俯瞰した議論をしていただきたい。

【記者通信/10月13日】日本の電気料金がこの10年間で2割強も上昇したワケ


日本国内の電気料金単価がこの10年間で産業向けで約25%、家庭向けで約22%上昇していることが、経産省が10月13日公表した資料から明らかになった。それによると、2019年度の電力平均単価は産業用が1kW時17.03円、家庭用が同24.76円となり、震災前の2010年度の水準と比べてそれぞれ3.68円、4.39円上昇している。主な要因は、FIT制度に基づく再生可能エネルギーの賦課金だ。これが19年度現在、1kW時当たり2.95円の水準となっており、上昇幅の約7~8割を占めている。そのほかの要因は、原発停止に伴う火力発電向け燃料調達コストの増加とみられる。

2016年4月の電力小売り全面自由化で、新規参入者や大手電力会社同士の競争が劇的に進展したものの、再エネ大量導入と原発停止によるコストの増加によって、電気料金の値下げ効果が相殺されている実態が浮かび上がった格好だ。

とりわけ再エネについては、2020年度のFIT買い取り費用総額が約3.8兆円、賦課金総額が2.4兆円にも達している。経産省は「今後、賦課金総額を抑制・減少させていくためには、早期の価格引き下げ、自立化が重要」と提起。産業用から家庭用まで幅広い需要家に、料金面での自由化効果を実感してもらう意味でも、電気料金の負担感軽減に向けた対策が求められそうだ。

仙台市ガス公募で4社が最終調整 割高な最低譲渡価格に懸念


仙台市ガス局の民営化を巡り、市による事業継承者の公募受付が9月2日に始まった。これを受け、東北電力、石油資源開発(JAPEX)、東京ガス、カメイの4社連合が入札する方向で最終調整を行っているもようだ。関係筋の話で分かった。東北、J社、東ガスの3社は大方の予想通りだが、そこにENEOS系特約店のカメイが加わってきたのが興味深い。

「大手電力会社、大手パイプライン会社、最大手都市ガス会社に、地元の有力石油・LPガス販売会社という最強の連合体。対抗馬が出たところで負けることはないだろう」(市ガス事情通)

問題は400億円に設定された最低譲渡価格の割高さだ。「300億円にはなると思っていたが、100億円も上積みされるとは」。前出企業の関係者はこう話す。市ガスには330億円近くの企業債残高があるため、市側は譲渡収益でその借金を一括償還したい考えなのだ。しかも400億円は最低価格。入札状況次第では価格が跳ね上がる可能性もあり、それを避ける意味でも「競合は絶対出てほしくない」(前出関係者)という。

市は10月29日に応募を締め切り、提案内容の審査を経て来年5月に優先交渉権者を決定。再来年度内の事業譲渡を目指す。

【記者通信/10月8日】千葉市とTNクロスの意外な関係 レジリエンス対策に注目


「NTTの澤田純社長は、サラリーマンの時の直属の上司」。こう話すのは千葉市の熊谷俊人市長。市は東京電力ホールディングスとNTTの共同出資会社であるTNクロスと契約し、市内の避難所182カ所に再生可能エネルギー設備を導入する。具体的には、太陽光発電設備、蓄電池、付帯設備を設置することで、CO2排出削減と災害時のエネルギー確保を同時に実現するものだ。導入は2020年度から2022年度までの3年間。運転の開始日から最長20年間を予定する。

台風15号で打撃を受けた千葉市。東電のライバルの東京ガスも、市側にエネルギーレジリエンス対策を提案していたもようだが、現時点では東電側に軍配が上がる。NTTの澤田社長は京都大学工学部卒で、土木を専攻。関係者によると、洞道などのインフラ分野に知見が深いという。その薫陶を受けた熊谷市長は、レジリエンスに再エネをどう活用していくのか、注目される。

【覆面座談会】原発を封印した安倍政権 業界から菅首相への注文


テーマ:新旧政権のエネルギー政策

安倍晋三前首相による突然の辞意表明を受け、2012年12月以来、7年9カ月に及ぶ長期政権が幕を閉じた。この間、電力・ガスシステム改革やFIT制度導入などでエネルギー政策は大きく動いたが、支持率に影響する原子力ではほとんど手付かずのまま。9月16日に誕生した菅義偉内閣に対し、エネルギー業界関係者は何を期待するのか。

〈出席者〉 A電力関係者  Bガス関係者  C石油関係者  D報道関係者

7年9カ月ぶりに主が交代した首相官邸

―菅内閣の顔ぶれを見ると、エネルギー政策に関係する梶山弘志経産相、小泉進次郎環境相はいずれも再任となった。大手メディアの世論調査では、支持率が7割前後に達し好調な滑り出しといえる。まずは、率直な感想から聞きたい。

A 菅さん本人が「仕事をする内閣」と言っているように、閣僚の顔ぶれを見ると、何よりも安定感や堅実さを感じる。支持率の高さの裏には、安倍政権があまりにも長く続きすぎたため、菅政権が新鮮に見えていることもあるのだろう。期待値の表れだ。

D 同感で、仕事師をそろえてきたなという印象だ。うわさされていた橋下徹さんは入閣しなかったし(笑)、○○チルドレンといった人気だけの若手も登用せず、無理に世間受けを狙っていないところは好感が持てる。それが逆に支持率を高めているのかな。女性の入閣が上川陽子法相の一人にとどまったのは、個人的には残念だ。

B 全体的に安定感、経験を重んじた体制になっているという点は、私も同じ。具体的には、梶山さん、小泉さんのほか、麻生太郎財務相、茂木敏充外務相、西村康稔経済財政・コロナ担当が留任したことや、田村憲久厚生労働相、上川法相、平井卓也デジタル改革担当相が復活してきたことに注目している。

C 順当な人事で、国会対応を想定した陣容と言ってもいい。いずれも答弁能力のある大臣ばかりだ。野党第一党の立憲民主党は苦労するだろう。

エネ政策に思い入れ強い梶山経産相 小泉環境相は原子力に理解を

―派閥への配分を考えた人事と報じられているが。

B そういう人選ではないと思う。例えば石破派の田村さんのように、経験重視で人選したら、結果として石破派からの登用という形にもなったという側面もある。

D 派閥よりも即戦力だよ。そこは菅さんが強調する「コロナ・経済最優先」の方向性が色濃く表れている。

C まあ、梶山さんの再任は、経産省としては大歓迎だろうね。エネルギー政策見直しについても本腰を入れて進めてほしい。

D 政権交代に当たって、梶山さんはエネルギー政策見直しを引き続き主導していきたいということで、経産相の続投を申し入れていたらしい。経産省の幹部異動があった際の定例会見でも、資源エネルギー庁の人事に関して異例の言及をしていたし。旧動力炉・核燃料開発事業団(現原子力研究開発機構)の出身ということもあって、エネルギーへの思い入れは人一倍強いようだね。

A その意気込みを、ぜひ全国の原子力発電所の再稼働に生かしてもらいたい。これは電力業界の総意だと思う。梶山さんには実務的な課題を押さえながら地に足のついた政策展開を期待したい。

―一方で、小泉環境相は交代確実と見られいたが、再任された。

D 環境省の官僚は大半が退任と思っていたし、小泉さん自身も8月ごろから「心ここにあらず」で、次は防衛大臣かなと冗談交じりに漏らしていたらしい(笑)。

B 環境副大臣経験のある井上信治氏の大臣就任を期待する向きが多かったけど、ふたを開けてみれば万博担当。省内では「あれ? なんで?」という声が聞こえていたね。

C 小泉さんの再任のあいさつは自画自賛が多くて、調子に乗り過ぎていた感じだった。もう少し謙虚になって、周囲に気を配れるといいんだけど。

A 小泉さんの政治スタイルを見ると、梶山さんとは対照的だが、環境省のスタッフが以前に比べて現実路線を重視してきていることは歓迎したい。脱炭素化への思いは業界も同じなので、原子力への理解をいかに深めてもらうかがカギになるだろう。

―今回は7年9カ月ぶりの政権交代ということで、官邸周辺の官僚人事でも動きがあった。官僚トップの杉田和博官房副長官、菅首相側近の和泉洋人首相補佐官が再任される一方、安倍晋三前首相を長きにわたって支えてきた今井尚哉首相補佐官兼秘書官は内閣官房参与になった。

A 今井さんが外れたことで、経産省色が薄まる感じも受けるが、業界にとってはむしろそれがプラスに作用する可能性もある。

B 経産内閣という形ではなくなったとすれば、原発政策に臆病だった前政権とは違う踏み出し方をする可能性があるのではないか。

D いろんな意味で今井さんは、エネルギー政策にもちょっかいを出してきたからね。特命担当内閣参与の飯島勲さんが週刊誌の連載で痛烈に批判していたのは興味深かった。

C 経産省関係では、佐伯耕三首相秘書官が大臣官房参事官に異動。その後任に門松貴内閣官房長官秘書官が就き、門松さんの後に曳野潔大臣官房参事官が就いた。曳野さんは電力システム改革に長年携わってきただけに、これからの動きに注目したい。

A それと、エネルギー政策に熱心に取り組んできた阿達雅史内閣府大臣政務官が首相補佐官になったことは大歓迎だ。

D 経産内閣は終わったという話だけど、実際はどうかなと見る向きもある。私の記憶だと、実は菅さんは1990年代後半の駆け出し議員の頃、師匠である故・梶山清六さんの指示を受けて、経産省の若手官僚と一緒に朝食勉強会をやっていた。彼らが今の局長級になっているので、つながりは深いはず。その意味でも菅政権誕生を喜んでいて、関係の再構築に向けて活発に動いているよ。

【記者通信/10月6日】東電「新々総特」の評価は年内か EP買収騒動のてん末


経産省の人事異動や政権交代などの影響もあってか、このところすっかり表舞台に登場しなくなった東京電力の経営再建問題。今年度は、第三次中期経営計画「新々・総合特別事業計画(新々総特)」の最終年度に当たるためレビューを行うことになっているが、聞こえてくるのはエネルギー基本計画見直し絡みの話題や、再生可能エネルギー大量導入に向けての制度設計関係、容量市場の上限価格落札問題など。資源エネルギー庁担当官のメンバーもがらりと入れ替わったことで、方針に変更はないのだろうか。ただ関係者によれば、水面下での検討は着々と進められており、年内にも評価の取りまとめが行われる見通しだという。

そうした中、東京電力エナジーパートナー(EP)を巡って、大手商社が昨年来、買収などの検討を行ってきたが、結局断念したもようだとの情報が寄せられた。有力関係筋によると、理由は「費用対効果に難あり」。東電EPのM&Aに関しては、商社を通じて複数の大手エネルギー会社に内々に話が持ち込まれたものの、想定譲渡価格の高さなどから折り合わなかったのではないかとみられている。今後は、第三者割当増資などを活用した資本提携の道を探る可能性も。東電再建の難しさを浮き彫りにしている。

【イニシャルニュース】地内系統巡る勉強会 疑問視される人選


1.地内系統巡る勉強会 疑問視される人選

経済産業省が送電線利用の先着優先ルール見直しの方向性を打ち出したのに合わせ、電力広域的運営推進機関に「地内系統の混雑管理に関する勉強会」が立ち上がった。

7月27日に初会合が行われ、年内にも課題の洗い出しと議論の方向性をまとめる方針だが、発電事業者のX氏が「一体どういう人選なのか」と首を傾げるのは、勉強会に参加する委員の顔ぶれについてだ。

というのも、系統利用を巡っては、既に地域間連系線に「間接オークション」の仕組みを導入しメリットオーダーに応じたルールに移行している。この制度設計に当たっては最終的に10年間の経過措置を設けるなど紆余曲折の議論があったのだが、この時の検討会の委員で今回の勉強会に参加しているのは座長のM教授のみ。他は、間接オークションの議論の経緯を知らないメンバーばかりだからだ。

M教授といえば、メリットオーダー導入を強く主張してきた一人。そのM教授を議論の取りまとめ役である座長に抜擢したことも含め、発電事業者としては委員選出の裏の意図に不安を隠せない「間接オークションを議論していた当時、広域機関幹部だったS氏らは、地内系統へのメリットオーダーの導入に強くこだわっていた。あとは後任のT氏がどこまで敢行できるかだ」とX氏は語る。

地内系統へのメリットオーダーの導入は、制度を信頼し投資判断に踏み切った発電事業者にとって、地域間連系線以上に事業の行方を左右しかねない重大事。それだけに、経過措置期間を何年にするかなどが今後の議論で注視されることになるだろう。

議論の展開次第では、行政訴訟も辞さないという話になってもおかしくない。国民負担低減と安定供給を両立させるために、変動電源と安定供給電源をいかにバランスさせるか―。メリハリのある制度設計が求められる。

2.評価割れる経産省参与 エネ基見直しに影響は

水野氏は石炭嫌いで知られている

今年5月に経済産業省参与に就任した前GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)理事の水野弘道氏。水野氏といえば、日本でのESG(環境・社会・ガバナンス)投資推進の第一人者で、小泉進次郎環境相との親密な関係が有名だ。昨年のCOP25に水野氏が同行した際は、役人を差し置いて、小泉氏の真横でステートメント発表直前までアドバイスをしていた姿が目立っていた。

水野氏の経産省参与就任は、閣僚経験者のS国会議員が言い出したことだという。さらに経産省としても、水野氏の人脈に期待する部分があった。日産とルノーの統合話が問題となった際、水野氏のフランスの金融関係者との人脈が一役買ったそうだ。

ただ、資源エネルギー庁からすれば、気候変動問題で欧州の主張に近い問題意識を持ち、石炭嫌いの水野氏の参与就任は、歓迎されるものではない。石炭火力輸出問題は厳格化で幕引きとなったが、現在進行中の石炭火力フェードアウトなど、エネルギー基本計画見直しの議論まで口を出されてはたまらないだろう。エネ庁ばかりでなく、金融庁などほかの省庁からも厄介な存在とみる向きが強い。

一方、水野氏とタッグを組んできた小泉氏は大方の予想を覆し環境相留任となった。水野氏の発言力は引き続き継続されるだろうか。

3.ガス販売に電力提携 包囲網で活気付く北電

「泊原発の停止や一昨年のブラックアウトの影響などで経営の苦境が続いているが、ここにきてにわかに社内が活気付き始めた」。北電関係者S氏がこう話すように、ライバルの北海道ガスに責められる一方だった北電が反転攻勢を強めているようだ。

背景にあるのが、10月1日からスタートする「ほくでんガス」の販売だ。北ガスの供給区域のうち札幌、小樽、石狩、北広島、千歳、恵庭の6市を対象に、都市ガスを提供。これに合わせ、テレビCMも大々的に展開する。

折しも、北ガスと共同運用する石狩LNG基地に、念願の4号タンク(24万㎘)が10月に完成。既存の3号タンクと合わせ、北電は計48万㎘のLNG貯蔵能力を保有することになる。対岸にある北電石狩湾新港火力発電所(発電出力57万kW)向けの燃料として活用する一方、都市ガス原料にも転用していく構えだ。

一方、電気の販売では他エネルギー事業者とのアライアンスを積極的に推進。北海道エア・ウォーターが7月1日から北電の電気を調達し、LPガスや灯油とセットで割安になる「エア・ウォーターでんき」の販売を始めたのに続き、ENEOS系特約店の北海道エネルギーと業務提携し、電気の販売を含めた生活サービスの提供を始める。

「北海道のエネルギー間競合の構図はある意味、北ガス包囲網と言っていい。これは、東京電力がニチガスやENEOS、大阪ガスと連携し、東京ガス包囲網を築いているのと似ている感じがする」(都市ガス関係者B氏)

ただ大量のエネルギー需要が集積する首都圏と違って、北海道では札幌など都市の一部を除き、過疎化や人口減少が年々加速している。「限られた需要を奪い合う消耗戦に陥る可能性が極めて高く、できれば北電、北ガスの両者は共存共栄でやっていくのが望ましい」(前出B氏)

メガソーラー、大型風力、バイオマス、地熱・温泉発電といった再生可能エネルギー電源の急増も加わり、道内の電力供給過剰は必至。北の大地のガチンコ競争は遠からず終焉を迎えるのか。

【記者通信/10月5日】笠間メガソーラー乱開発問題の現地動画


エネルギーフォーラム10月号の「フォーカス」「調査報道」で取り上げた茨城県笠間市のメガソーラー乱開発を巡る問題。本誌取材班は9月上旬の現地取材で、ドローンによる空撮を行いました。その動画バージョンをYouTubeにアップしています。現場がいかにひどい状況になっているかが一目瞭然です。

太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーは、これからの低炭素社会実現に向けて欠かせないものです。しかし、法制度上問題ないからといって、やたらめったら開発していいわけではありません。

国民生活・経済活動を支えるエネルギーインフラ設備である限り、開発・運営事業者には相応の責任が伴います。地域の住民や自然環境と長きにわたって共生してこそ、真のSDGs(持続可能な開発目標)ではないでしょうか。

問題提起の意味を込めて、ぜひ貴重なドローン映像をご視聴ください。

都市ガス・火力・再エネの共存目指す エネミックスで果たす安定供給事情


【北海道ガス】

北海道ガスが運営する石狩LNG基地は2012年の運転開始以来、道内の天然ガス供給を一手に担ってきた。10月には北海道電力が所有する4号タンクが完成。再生可能エネルギーとの共存も視野に入れながら安定供給を支える。

石狩なくして、北海道に真の天然ガス時代は到来せず――。そう言っても過言ではないほど、今や道内エネルギー供給の一大重要拠点となっている北海道ガスの石狩LNG基地。10月完成の4号タンク(23万㎘、川崎重工業製、北海道電力所有)を含めると、合計貯蔵能力は84万㎘で、一般家庭約150万世帯分の年間ガス使用量に相当する規模だ。

道内一帯に天然ガスを供給 日頃の訓練生きた胆振地震

計4基のタンクのうち、北ガスは1号(18万㎘、川重製)、2号(20万㎘、IHI製)を所有。石狩と苫小牧を結ぶ高圧パイプラインを通じ札幌・小樽・千歳地区に供給するほか、LNGローリー車で旭川、室蘭、帯広、北見地区へ、また内航船で函館、釧路地区などにも供給し、まさに全道一帯をカバーしている。

原料のLNGはロシア・サハリン産の輸入を中心に、最近はスポット玉も調達し多様化を図っている。19年度実績(北ガス分)で外航船11隻を受け入れている。

ガスエンジンの排熱でLNGを気化する設備

一方、LNGの出荷実績(同)を見ると、19年度はローリー車7285台(約9万7000t)、内航船62隻(約7万7000t)。冬場の需要期には、10レーンあるローリー車の出荷設備が1日・1レーン当たり6~7回転し、「休む暇もないのほどのフル操業」(澁谷聡・石狩LNG基地所長)だ。厳しい暴風雪や地震などの災害も想定し、万全の体制を敷いて安定供給を日々遂行している。

「日頃の訓練、対策が生きたのが、18年9月に発生した北海道胆振東部地震です。最大震度7の大地震の影響でブラックアウト(全域停電)が発生しましたが、ガスの供給に支障はありませんでした。さらに北海道の電力供給力確保のために、基地内の北ガス石狩発電所から北電さんに電力を緊急融通しました」。同社取締役常務執行役員の前谷浩樹・生産供給本部長はこう話す。

11月にGEの増設完了 風力発電の調整力も想定

その石狩発電所では現在、ガスエンジン(GE)2機の増設工事が佳境を迎え、11月に完成する予定(総出力9万3600kW)。ユニークなのは、出力7800kW(川重製)のGEを並列させていることだ。その理由の一つに、基地周辺に林立する風力発電への対応がある。

石狩発電所内で稼働する高効率ガスエンジン

「風力の系統接続時に出力安定化が求められており、当社の発電所はその調整力としての役割を担うべく検討を進めています。GEが12台あれば、ガスタービン1台よりも柔軟に負荷を調整できる。起動時間が10分程度と早いうえ、発電効率50%というGEの高性能を余すところなく発揮できるメリットもあります。設計時から再生可能エネルギーの調整力を想定しているガス発電所は、全国でも珍しいのでは」(前谷氏)

この空き地に北ガスの風力発電が建設される

北電が所有する3、4号タンクは同社の石狩湾新港発電所(57万kW)向けに燃料のLNGを供給する。30年までに2、3号機が順次建設され、全機完成時には総出力171万kWの大規模火力となる計画だ。また石狩湾新港沖では、計300万kW相当もの洋上風力計画が持ち上がっている。

都市ガス、火力、再エネ――。多様なエネルギーが集積する石狩湾新港で、北海道全域のエネルギーの安定供給を担う石狩LNG基地の役割は大きい。

【覆面座談会】経産・環境省人事を深読み 政策大転換の背後に官邸の影


テーマ:経産・環境省の幹部人事

エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画が見直しの時期を迎え、わが国のエネルギー環境政策は大きな転機に突入した。7月中旬に発令された経済産業省と環境省の幹部人事を読み解きながら、政策の行方を占う。

〈出席者〉 A元官僚  B有識者  C霞が関関係者  D業界関係者

脱炭素人事を明言した梶山大臣(右から2人目)の真意は原子力シフトか

エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画が見直しの時期を迎え、わが国のエネルギー環境政策は大きな転機に突入した。7月中旬に発令された経済産業省と環境省の幹部人事を読み解きながら、政策の行方を占う。

―まずは、経産省人事の評価から聞いていきたい。

A 梶山弘志大臣が今回の人事を発表するに当たって、「エネルギー政策を思い切った脱炭素に転換していくために、保坂(伸・前貿易経済協力局長、1987年入省)さんを資源エネルギー庁長官に登用する」と言及したのは、極めて異例のことだ。梶山大臣自身はもともと旧動力炉・核燃料開発事業団の出身でエネルギー問題に造詣はあるとはいえ、官僚の人事に口を出すようなタイプの政治家ではない。何か別の力が働いた上で誰かが大臣に振り付けをしたと思っている。

D 経産省は、持続化給付金問題などでみそを付けてしまった。新しく生まれ変わる一つの柱がエネルギー政策になっていくという、省全体の決意の表れではないかな。

B エネルギー政策の実務に詳しい人がトップになってほしいという意味で、髙橋(泰三・前エネ庁長官、85年)さんを事務次官にと思う業界関係者は多かった。しかし経産省としてはさまざまな理由から、今までの延長線上でエネルギー政策見直しのストーリーを描くことが難しくなっている。梶山大臣が会見で政策転換を強調したように、根本的なところから政策の組み換えが起きる可能性が高い。そこをにらんだのが今回の人事だろう。

想定外だった髙橋、西山両氏退任 「脱炭素」の裏で原子力シフト

A 誰がこの人事を行ったのかはだいたい想像がつく。一部の週刊誌には「原案作成=安藤(久佳・事務次官、83年)、監修=今井(尚哉・首相政務秘書官兼補佐官、82年)」と書いてあったが、ここまで経産省の人事が話題になることも異例だろう。

C 週刊誌の報道はおおむね当たっていると思う。次官候補の呼び声もあった85年組の髙橋さんと西山(圭太・前商務情報政策局長)さんの2人が去って、84年組の新原(浩朗・経済産業政策局長)さんと糟谷(敏秀・特許庁長官)さんが残った。省内の若手や中堅からすると、よろしくない人事だよ。

A 同感だな。安藤さんの次は、多田(明弘・官房長、86年)さんが有力視されているが、新原さんの芽も消えたわけじゃない。

C 新原次官だけは勘弁してほしいね。

B それは皆そう思っている。残念なのはやはり髙橋さん、西山さんの退任だ。2人ほど実務を分かっている人はいない。

―電力関係者の間では直前まで、髙橋さんの留任に期待する向きが多かった。

B そう聞いている。2人とも切られることは想定していなかっただろうね。

A ただ『エネルギーフォーラム』が8月号で書いていたように、髙橋さんは面倒な事案で泥をかぶらないタイプ。私から見ると、少しきれい過ぎる。そのような評価は確かにあった。それにしても、西山さんまで切ることはなかった。

―官邸側の狙いは何か。

D 次の政権交代、総選挙を視野に入れながら、国民ウケする「脱炭素」政策を強力に推進していくことだろう。そのために、保坂さんをエネ庁長官にした上で、飯田(祐二・前産業技術環境局長、88年)さんをエネ庁次長兼首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官に、小澤(典明・前技術総括保安審議官、89年)さんを政策立案総括審議官兼首席エネルギー・地域政策統括調整官にそれぞれ据え、脇を固める体制を敷いた。

C 脱炭素を経産省的に翻訳すると、原子力シフトになる。今回の梶山大臣の記者会見では、原子力という言葉は1回も出てこなかったが、完全に原子力シフトだよ。

エネ庁に3人の局長級を配置 来年のCOP26がターゲットに

―「思い切った脱炭素転換」の真意が、原子力なのか。

C そう考えて間違いない。

A 脱炭素イコール原子力、とはおおっぴらには言えないからな。

C 石炭火力発電を廃止していくと、ベースロード電源を担うのは原子力発電しかない。関係者なら周知の事実だよ。

B 今回の再生可能エネルギー特別措置法の改正によって、新原さんが主導した、再エネ固定価格買い取り制度(FIT)でねじ曲げられていた再エネ政策はそれなりに正常化される。これからは、まともな再エネしか入らなくなるので、今までのような流れとは違ってくる。つまり原子力を動かさない限り、環境目標の達成は不可能な状況になるわけだ。

A わが国のエネルギー政策を前進させていていくには、いつかは原発問題に手を付けなければいけない。安倍政権の7年間でずっと塩漬けされていたツケを、いつかどこかで払う必要がある。梶山大臣はもともと原子力企業の出身なので、政権は彼にババを引かせようとしているのだと感じたよ。

B もちろん、安倍政権では原子力の話を声高に言えない。矢面に立つのは、経産省であり、資源エネルギー庁だ。ババかどうかはともかく、誰かがやらなければならない。

C いずれにしても今回の人事では、冒頭にもあったように、官邸筋、つまり今井さんの意志が働いている。髙橋さんが長官を務めていながら、原発政策が前進しないのはやはり不満だったんだろう。その打開策として、今井さんと師弟関係にある保坂さんをエネ庁長官に持ってきたのはうなずける。

―エネ庁次長級の人事をどう見ているか。

D 例えば、前事務次官の嶋田(隆・富士フイルムホールディングス社外取締役、82年)さんは今回の人事について、周囲に「2人のエネ庁次長」と言っているし、「3人の局長」という見方も少なくない。要するに、首席は局長扱いということだ。

A つまり降格ではないと。

D そう。で、2人の次長だけど、飯田さんはエネルギー基本計画とエネルギーミックス。小澤さんは地域性で、これは原子力発電。その両輪で政策を動かすことになる。さらに言えば、地球温暖化対策計画の見直しも含め、重要なエネルギー政策議論が相次いでスタートしていく。ターゲットは来年のCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)だ。そこを目掛けてさまざまな物事が動き出す中で、保坂さん、飯田さん、小澤さんの3人がヘッドとなり、エネルギー政策の大転換を図っていくわけだ。

【イニシャルニュース】沈黙の資源燃料政策 昭和から戦略変わらず


1.沈黙の資源燃料政策 昭和から戦略変わらず

エネルギー政策の「脱炭素」転換方針を受け、大幅な人事異動が行われた資源エネルギー庁。長官、次長、審議官、電力ガス事業部長、省エネルギー新エネルギー部長が続々と交代する中で、唯一続投になったのが、南亮・資源燃料部長だ。

梶山弘志経産相が定例会見などで言及しているのは、再生可能エネルギーや石炭火力フェードアウトなど「脱炭素」関係ばかりで、資源燃料政策はおおむねスルー。そもそも記者側から質問が出てこないといった事情もあるが、先の通常国会で石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)法が改正されていることから「新国際資源戦略の展開も含めて、なぜもっと積極的に新政策を打ち出さないのか」(石油開発会社関係者)と見る向きも少なくない。

梶山経産相の関心は主に脱炭素だ

これについて、経産省OBのX氏はこう話す。

「わが国の資源戦略は昭和の石油公団時代から、基本的に変わっていない。つまり、資源はないけどGDP世界第二位の圧倒的な経済大国なので、石油ガス安定調達に向けて自主開発を拡大していくというものだ。しかし、その大前提はもはや崩壊しつつある。再エネ・省エネ分野の技術革新などでエネルギー需給のパラダイムシフトが進み、化石資源の供給過剰が鮮明化。また少子高齢化により、世界経済の中でのプレゼンスも年々低下している」

さらに続ける。

「米国、ロシア、中東諸国、中国を中心に国際情勢が激変している状況も踏まえて、資源調達戦略の抜本的な見直しが急務になっているにもかかわらず、今春発表された新国際資源戦略は『昭和時代』の発想を引きずったまま。JOGMEC法改正にお墨付きを与えるための対策にしか見えない」

現役官僚のZ氏も今の資源燃料政策に疑問を投げる。

「石油公団時代からの伝統がなぜ変わらないかといえば、おそらく資源開発分野にいる有力OBが旧来の発想のままイケイケの姿勢を見せているためだろう。世界のオイルメジャーの戦略は拡大からリスク管理へとシフトしている。しかし、経産省では新戦略や今回の人事を見ても、そうした大転換を行う状況にはなっていない。だから問題意識を持っている人たちも、沈黙せざるを得ないのでは」

資源エネルギー庁の「一丁目一番地」の仕事は、脱炭素というよりも資源戦略にあるはず。そこをなおざりにしてはならない。

2.J社のガス火力計画 荒唐無稽の指摘も

地方紙N新聞が8月、発電プラントの開発、建設、運営などを手掛けるJ社が九州のI市で2万kWのLNG火力発電所建設計画を進めていると報じた。

報道によると、建設予定地は造船所跡地で、海外からのLNGの受け入れ施設と発電所を建設。同地で受け入れたLNGをほかの火力発電所に供給する事業も実施するという。早ければ、2023年度にも、商業運転を開始する予定とのことだ。

ガス発電は、石炭や石油に比べれば環境負荷が低く、世界各地で産出されるため安定した調達も期待できる。しかし、同プロジェクトについて新電力のS氏は、「少し荒唐無稽な計画のように見える」と語る。

というのも、再生可能エネルギーの大量導入が進む九州エリアでは、既存の火力発電所でさえ稼働率が相当低く抑えられているのが実情。新たに建設したところで、コスト的に見合わない可能性が高いのだ。

電力小売り全面自由化後、過疎化が進む地方都市では、再エネの地産地消をはじめ、電力事業で地域活性化を目指す取り組みが加速している。約30人の雇用を見込んでいるという同プロジェクトも、地域経済への貢献が期待されるだろう。

ただ、I市ではかつて、バイオマス発電所の建設計画が持ち上がったものの、その後プロジェクトを主導した新電力R社の破たんで頓挫したことがある。リスクの高い発電事業での地域活性化は、不確実性が伴いそうだ。