【記者通信/1月19日】電力不足は「災害級」か 問われる新電力救済の是非


今回の電力需給のひっ迫は災害級なのか否か――。1月19日、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会の会合が開かれ、年初からの電力需給ひっ迫やそれに伴う市場価格の高騰についての検証が始まったが、その深刻度への見解が委員によって大きく食い違っていることが浮き彫りになった。

横山明彦委員(東京大学大学院教授)は、「事業者はkW時600円程度までの高騰はあり得ることを承知している。市場リスクを理解し管理することの大切さが改めて理解できたし、このことで右往左往してはならない」との見方を示した。

一方、松村敏弘委員(東京大学教授)は、「いろいろな影響が複合的に出てきたために起こった事象。原発の全停止とは比較できないかもしれないが、災害に近いことが起こったという発想が必要ではないか」との認識。村松久美子委員(PwCあらた有限責任監査法人ディレクター公認会計士)も、新電力の退出や倒産が相次ぐ恐れを指摘した上で、「新電力は信頼できないという印象を需要家に与えれば、これまでせっかく進めてきた自由化にとっても問題のある結果になる。需要家の不安を取り除くためにも何らかの支援が必要ではないか」との見解を述べた。

オブザーバー参加の川越祐司・エネット社長は、「3週間以上、価格高騰が継続している異常な状況。小売り事業者の経営や競争環境、需要家が支払う料金にも大きな影響がある」として、インバランス精算単価をkW時200円とする措置に加え、LNGの在庫状況に関する情報開示や、調整力コストの精算について一般送配電事業者の実際のコストに基づき算出するなどの追加的な支援を求めた。

新電力が救済措置を受けるには、今回の事象が「災害級」か否かが判断の分かれ目になりそう。ただ、政府はどんなに使用率が高止まりしようと、電気事業法に基づく電気使用制限令を発することに否定的な姿勢を示してきた。「新電力の経営にとっては災害級かもしれないが全国の電力量は足りており、世間一般的に災害級だと認識されるのは難しい」(大手エネルギー会社幹部)ことから、実際に新電力救済に踏み切るか否かは今のところ不透明だ。

【記者通信/1月18日】狙うは190兆円の経済効果 菅首相は施政方針で何を語る ?


1月18日に召集される通常国会で、菅義偉首相が表明する施政方針の骨子(グリーン成長戦略関係)が明らかになった。昨秋の臨時国会の冒頭で宣言した「2050年カーボンニュートラル社会の実現」に向け、地球環境対策の推進が産業構造の大転換と力強い経済成長を生み出すとして、環境投資の重要性を強調。その上で、主に次のような具体策を提示する見通しだ。

①環境投資を促進するため、過去に例のない2兆円の基金を創設し、最大10%の税額控除を行う。次世代太陽光発電、低コスト蓄電池、カーボンリサイクルといった野心的イノベーションに挑戦する企業を支援することで、最先端技術の開発・実用化を加速させる。

②水素や再生可能エネルギーの導入を拡充し、電力供給インフラとなる送電網を増強する。安全確保を最優先に原子力政策を推進し、安定的なエネルギー供給を確立する。2035年までに、新車販売で電動車100%を実現する。

③経済成長につながるカーボンプライシングに取り組んでいく。先行モデルとして脱炭素地域を創出するなど、脱炭素化に向けた取り組みを広げていく。

④240兆円の民間資金、3000兆円の海外投資を呼び込むため金融市場の枠組みをつくる。グリーン成長戦略を実現することで、50年には年190兆円規模の経済効果が見込まれる。

菅政権は、こうした数々の政策的取り組みを通じ、「世界に先駆けて、脱炭素社会を実現していく」姿勢を鮮明に打ち出す構えだ。

【記者通信/1月17日】自民党議連が市場問題調査へ 新電力対策で政治判断も


年初来の電力需給ひっ迫を背景にした日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格暴騰の事態を受け、自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(会長・柴山昌彦衆院議員)が1月20日に開く会合で、みんな電力やエネチェンジなどの新電力事業者を対象に聞き取り調査を行う方針だ。

自民党再エネ議連の動きは、官邸にも波及するのか

同議連事務局長の秋元真利・衆院議員は15~16日、自身のツイッターで次のように投稿した。「今回の電力逼迫で考えさせられるのは、電力自由化後の市場のルール形成が歪すぎる事。来週の議連に、みんな電力とエネチェンジに来て頂いて、さまざまな観点から議論をすることにした。それまでに、しっかりと情報収集をして備えるつもり」、「エネ庁が卸電力市場価格の高騰に対する対応を発表した。評価はするけれど、まだまだこれだけでは不十分なので、来週の議連で追加で必要な対策について議論する。そもそも自由化後の市場設計に瑕疵があるので、この機会に旧一電の責務のあり方について再考したい」、「日経も触れているように今のシステムは新電力に不利な面が多いのは否めない。菅政権の掲げる2050年カーボンニュートラル実現の支障になりかねない。来週の議連でしっかり議論する」――。

経済産業省は15日、スポット価格暴騰に対応するため、インバランス等料金単価の上限を需給ひっ迫時に限りkW時200円とする措置を、2022年4月の導入に先駆けて17日から適用すると発表した。梶山弘志・経産相は同日の会見で、「支払価格の上限を決めることで、新電力だとか、市場連動型の契約をしている消費者に、どう手を差し伸べていくか」だと述べたが、新電力関係者からは「上限200円では水準が高過ぎて、苦しい経営状況は何も改善されない」との声が聞こえている。

【記者通信/1月17日】カーボンゼロ方策に言及か 菅首相が18日召集の国会で


菅義偉首相が1月18日に召集される通常国会の所信表明演説で、昨秋の臨時国会で表明した「2050年カーボンニュートラル目標」の実現に向けての方策に言及するとの観測が浮上している。関係筋が明らかにした。

それによると、主な柱は、①温暖化ガスのNDC(国別削減目標)の引き上げに意欲的に取り組む、②炭素税や排出量取引などカーボンプライシングの導入に取り組む、③2035年までに新車販売の全てを電動化する――の3点とみられる。特に炭素税については、新型コロナ禍対策で国の財源が不足していることもあり、早期実現に向けて今夏の税制改正要望に盛り込むべく、検討を加速させる可能性がある。

【記者通信/1月15日】梶山経産相「 手を差し伸べる」本当に新電力救済なのか


これは本当に電力小売り事業者の救済になるのか――。経済産業省は1月15日、日本卸電力取引所(JEPX)におけるスポット価格の暴騰に対応するため、インバランス等料金単価の上限を需給ひっ迫時に限りkW時200円とする措置を、2022年4月の導入に先駆けて17日から適用すると発表した。

梶山弘志・経産相はこの日の会見で、「市場の中で価格が決定される中で、消費者であったり、新電力あったり、そうしたところに対するセーフティーネット的な制度をつくらなくてはという思いを持っており、今回の措置になった」と説明。その上で、「200円を超えるような急騰を許容しないという立場なのか」との質問に対し、「市場を許容しないということはあり得ない。支払価格の上限を決めることで、新電力だとか、市場連動型の契約をしている消費者に、どう手を差し伸べていくか」だと述べた。

市場原理を歪ませるような新電力救済措置には、反対論も聞こえている

梶山大臣の発言を見る限りは、ギリギリのところで判断した救済措置と言えるが、エネルギー関係者の中には「現実的に考えると、上限200円の水準で、新電力の救済はかなり難しい。市場崩壊を食い止めるのが真の狙いでは」と見る向きも少なくない。

全国的な寒波が去ったこともあって、JEPXの16日受け渡しのスポット価格は、時間帯別のピーク時でkW時100.01円(午後5時~7時)、24時間平均で同48.51円となった。12日から15日の受け渡しにかけて200円超えが続いていた異常事態からは、やや落ち着きを取り戻した格好だ。それでも平時と比べれば、10倍近い高値が付いている状況に変わりはない。天候や需給次第で、再び暴騰する可能性もある。今後、資金繰りに行き詰まる小売り事業者が続出する事態は避けられそうもない。

【記者通信/1月15日】大飯4号機が原子炉起動 住民側は設置許可停止を申し立て


関西電力は14日、昨年11月から定期検査を行っていた大飯原子力発電所4号機(出力118万kW)が15日に原子炉を起動し、翌16日に臨界に達する予定と発表した。その後の調整運転が順調に進めば、2月中旬にも本格運転を再開する。これにより、昨年暮れから続いてた関電エリアの電力需給ひっ迫は解消される見通しだ。

ところが驚いたことに、福井県などの住民は同日、大阪地裁が原子炉設置許可の取り消しを命じた大飯原発3、4号機について、控訴審の判決が出るまでの期間、設置許可の効力を停止するよう大阪高裁に申し立てたのだ。一部報道などによると、住民側は「関電の想定を超える地震が起きれば、原子炉事故により重大な被害を受ける可能性がある」との理由から、「運転できないようにする緊急の必要性がある」と主張している。

これについて、エネルギー業界の幹部は「大飯を稼働させないことの方が、大規模停電などで(需要家が)重大な被害を受ける可能性がある。運転させる緊急の必要性があるのは明らかだ」と指摘する。大地震と大停電のどちらが発生リスクが高いかと言えば、現状ではどう考えても後者だ。原告の住民側は、現在の電力需給が綱渡りの状況にあることを全く知らないか、もしくは大飯原発を動かすぐらいなら大停電リスクもやむを得ないと考えているとしか思えない。大阪高裁には冷静な司法判断が望まれる。

【記者通信/1月14日】節電?効率的使用? 電力業界と経産省でひと悶着


年初来の電力需給ひっ迫下で、「節電」「効率的な電気の使用」のどちらを使うかで電力業界と経産省の間でひと悶着あったようだ。関係筋が明らかにした。

昨年暮れから全国の電力会社がLNG在庫の不足によりLNG火力の出力低下を余儀なくされる中、年明け早々に日本海側を猛烈な寒波が襲ったことで全国的な電力不足が発生。大規模停電などのトラブルを避けるため、電力業界と経産省の間で断続的な協議が行われた。その際、電力側が節電の必要性を訴えたのに対し、経産省側は新型コロナ対策で1都3県に緊急事態宣言が発令されることなどから、市民生活に影響を及ぼす「節電要請」には難色を示した。

記者通信でも既報の通り、梶山弘志・経産相は8日と12日の閣議後会見で、「今は供給側で対応しているので、節電要請は現時点では行われていない」「いざという時にはあるかもしれないが、現時点では想定していない」「節電要請ということではない。例えば使っていない部屋の電気を消していただくとか、効率的な電気の使用をお願いしている」「効率的な電気の利用をしていただければ、どうにか対応できる状況にある。節電要請にまでは至ってない」などと、節電要請の発出を繰り返し否定した。

暖房はこれまで通り使って大丈夫だが、節電要請が出るとそうはいかない?

その意味するところは、「暖房などは通常通りに使ってもらって大丈夫。日常生活に支障のない範囲で、無駄な電気を小まめに消すよう心掛けてほしい」(資源エネルギー庁関係者)ということだ。

これに対し、大手電力会社の関係者の多くは「安全サイドに立つなら、それだけでは不十分。全体的な節電が必要」(送配電部門関係者)との見解だ。経産省とすったもんだの調整の末、業界側は「効率的な使用」で妥協したという。しかし、電気事業連合会や大手電力各社が10日発表したプレスリリースのタイトルは『電力の需給状況と節電へのご協力のお願い』。やはり譲れない部分があったのだ。。

【記者通信/1月13日】電力各社「極限の緊張状態」それでも動かない経産省


関東での降雪予報などで全国的な電力不足が懸念されていた1月12日を何とか乗り切った電力業界。電気事業連合会のまとめによると、北海道から九州まで大手電力9社の「でんき予報」では、いずれも同日の使用率が95%を上回る異常事態となっていた。具体的には、北海道95%、東北97%、東京95%、中部95%、北陸96%、関西98%、中国96%、四国97%、九州96%。「もはや95%という、通常なら危険水域の数字を聞いても、驚かなくなった感じがする。そんな状況が恐ろし過ぎる」。エネルギー業界の幹部はこう話す。

言うまでもなく、需給調整に当たる電力会社の現場は大変な状況だ。連日の24時間体制で不眠不休の状況が続いている。「当社は一番危なかった12日を何とか乗り切ったが、引き続き西日本への最大限の応援も必要で、(電力各社とも)極限の緊張の中での運用を続けている」(東京電力パワーグリッド幹部)

全国的な悪天候はひとまず収まっているが、寒波・降雪はこれからが本番だ

こうした非常事態にもかかわらず、電力事業を所管する経済産業省の我関せずの姿勢には大いに疑問を感じざるを得ない。梶山弘志経産相は12日の閣議後会見でも、「全国的に電力需給が厳しい状況が続いている」との認識を示しながらも、節電要請の発出に関してはなぜか否定を繰り返した。記者とのやり取りは次の通り。

記者「電力需給の件で国としても効率的な使用を要請したが、それは節電要請なのか」

梶山「節電要請ではない。例えば使ってない部屋の電気を消していただくとか、効率的な電気の使用をしていただきたいということで、どうにか調整、融通ができている状況だ」

記者「電力需要がひっ迫する中、節電要請を出されない理由を改めて教えてほしい」

梶山「今の時点では、効率的な電気の利用をすれば、どうにか対応できるという状況にあるので、節電要請までに至ってないことをご理解いただきたい」

【記者通信/1月11日】電力スポットがついに210円台 今週中に資金難の新電力も


全国的な電力需給ひっ迫が続く中、関東一円での降雪が予想される1月12日を前に、日本卸電力取引所(JEPX)の12日受け渡しのスポット価格がまたも史上最高値を大きく更新した。時間帯別のシステムプライスを見ると、午後5時半~午後7時半のコマで同210.02円という異常な高値を記録。24時間平均でも同150.25円の最高値だ。東京電力パワーグリッドのでんき予報では、同日夕方のピーク時で95%の使用率を想定している。関係者によると、JEPXにおいて、買い手側は取引日の2営業日後に決済する必要があるため、早ければ今週中にも資金繰りに行き詰まる電力小売り事業者が現れる可能性があるという。

JEPXの12日受け渡しのスポット価格

「噂で言われている通り、中小新電力の多くは、今冬の難局を乗り越えられそうもない。今後、電力小売り事業から撤退する事業者が続出するだろう。また、市場連動価格のメニューを契約している需要家は1月分の電気代がとんでもない高額になるため、取り扱い事業者にはクレームが殺到しているようだ。いずれにしても、今回の件でJEPX依存リスクの怖さが顕在化した。電力不足が落ち着いた段階で、相対調達や自社電源開発にシフトする電力事業者が相次ぐとみられ、JEPX離れが加速する可能性も否定できない」(大手エネルギー会社関係者)

2016年から始まった電力小売り全面自由化は、LNG在庫不足に端を発する電力需給ひっ迫という思わぬ形で、一大転機に突入した形だ。

【記者通信/1月11日】電事連・東電が節電のお願い 問われる政府の対応


3連休明けの1月12日に東京電力管内で電力需給がひっ迫する可能性が高まっている。燃料在庫の不足により火力発電が軒並み出力低下を余儀なくされるなど供給力不足が続く中、首都圏が大寒波に見舞われる予報となっているからだ。低気温に降雪となれば、日中も太陽光発電の稼働が期待できない状況下で電力需要が急増、場合によっては予備率が危険水域の3%を割り込みかねない。

12日は東京都内でも降雪の予報

こうした事態を受け、電気事業連合会や東京電力は10日、「電力の需給状況と節電へのご協力のお願い」を発表した。「お客さまをはじめ、広く社会の皆さまには、新型コロナウイルス感染症の拡大により外出自粛が求められる中、大変ご迷惑とご心配をお掛けし誠に申し訳ありませんが、寒波の中での暖房等のご使用はこれまで通り継続いただきながら、日常生活に支障のない範囲で、照明やその他電気機器のご使用を控えるなど電気の効率的な使用にご協力いただきますようお願いいたします」(東電ホールディングス・東電パワーグリッド)

問題は、肝心の政府が節電要請に及び腰なことだ。梶山弘志・経済産業相は3連休前の8日の閣議後会見で、節電要請の検討を問う記者に対し、こんな見解を示した。

【記者通信/1月10日】JEPXが最高値更新 梶山経産相は市場健全化に言及


日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格がまたも最高値を更新だ。1月11日の受け渡し価格はkW時当117.39円。時間帯別のシステムプライスを見ると、太陽光発電が止まり需要が増える午後5時半から午後8時半のコマでは、同170.20円という異常な高値を記録している。

緊迫の3連休に入る前の8日、梶山弘史・経済産業相は閣議後の記者会見で、「(JEPXの)価格が高騰し、新電力への影響を懸念する声が出ている」との質問に答える形で、現状を踏まえた電力市場の健全化の必要性に言及した。発言要旨は次の通り。

「電力自由化が行われて、さまざまな仕組みが導入された。卸市場についてもそうだし、電力全体のバランスを取るための容量市場もそうだ。また、どのような形で再生可能エネルギーを導入していくのか、さらに(電源構成を)バランスの取れたものにしていくのかは、常に考えているが、それぞれの場面、場面の状況を勘案しながら、その市場をどう改善していくかという話が出てくると思う」

「(現在発生している電力需給ひっ迫という)一つの場面だけ捉えて、こうだというのは難しいが、自由化になって、再エネも入ってきた。従来は一般電気事業者のみだったのが、発電、小売りを含めると、千数百社が対応している。そうした中で、どう健全な市場をつくっていくかということは、しっかりと現状を見ながら、考えていかなければならない」

日本列島を襲っている大寒波は今週前半も続く見通しで、12日は日本海側に加え、関東の太平洋側でも降雪など悪天候の予報。綱渡りの電力需給状況が続くため、市況の沈静化は当面期待できそうもない。大手電力関係者によれば、調達価格の高騰で経営難に陥る新電力が続出する可能性もある。ただ、業界内では「こうした乱高下が起きるのが自由化市場だ」として安易な新電力救済には批判的な声が多い。需要家保護の観点も踏まえ、経産省は難しいかじ取りを迫られそうだ。

【記者通信/1月8日】電力安定供給に黄信号 節電要請なぜ出ない?


日本海側を中心に記録的な寒波・大雪に見舞われる中、日本列島が電力不足の危機に見舞われている。LNGやC重油の在庫不足、設備トラブルに起因する火力発電の出力低下・停止のほか、悪天候による太陽光発電の未稼働などが原因だ。8日も、北陸、関西、中国、九州の4電力管内で需給がひっ迫。中でも、降雪の影響によって太陽光発電がほとんど稼働していなかった北陸管内では、正午から午後1時までの間に使用率が99%に達した。

日中に活躍する太陽光発電も、これでは役に立たない

電力広域的運営推進機関は8日、東京電力パワーグリッド、中部電力パワーグリッド(9日の発表で削除)、北陸電力送配電、関西電力送配電、中国電力ネットワーク、九州電力送配電の6エリアで、需給バランスを保つ調整力電源の供給力不足が継続的に発生しているとして、沖縄を除く9電力管内にある全ての発電設備の最大出力運転と余剰電力の市場投入を指示した。期間は8日から15日までの1週間。「少なくとも今月中は、ギリギリの状態が続くことを覚悟しなくては」。大手エネルギー会社の幹部は、ため息交じりにこう話す。

東京電力管内では8日、JERAの常陸那珂共同火力1号機(超々臨界圧、出力65万kW)が前倒しで営業運転を開始した。「これで少し余裕ができた。週末の3連休を使って揚水発電所をスタンバイさせ、来週前半に予想される太平洋側の悪天候に備える」(JERA関係者)

【記者通信/1月7日】JEPX高値続く見通し 新電力の救済はあるのか


電力の需給ひっ迫に起因する卸市場価格の高値局面は、しばらく続きそうな情勢だ。経産省や電力会社など複数の関係筋が明らかにした。「LNG火力の出力低下を引き起こしている燃料在庫の不足は、今後徐々に改善されていく。2月初旬には落ち着くだろう」。大手電力会社の関係者はこう話す。

しかし、足元の状況は極めて厳しい。大手電力会社は昨年LNGの余剰在庫を抱え、転売損失を出した反省から在庫を絞っていたところ、想定外の寒波襲来で対策が裏目に出た。問題はLNGだけでない。ピーク対応用の石油火力も、燃料となるC重油の不足で半分近くが止まったまま。現在、化石燃料の調達に商社が奔走している状況だ。

日本卸電力取引所(JEPX)のシステムプライス(下図参照)を見ると、1月8日の夕方から夜にかけてのコマではkW時120円という異常な高値を付けている。全国的な寒波は週末のみならず、来週前半にも到来する予報であり、予断の許さない電力需給状況が続く。このため、さらなる高値も予想される。

「JEPXの高値水準があと1か月も続けば、間違いなく新電力の多くが経営危機に陥る。本来であればインバランス料金の先送りなど、ファイナンス面で何らかの救済措置が必要な状況だが、果たして経産省はどう対応するか。あえて何もしないことで、600社以上も存在する新電力の整理を狙うかもしれない」(大手新電力幹部)

新型コロナ禍による緊急事態宣言に、燃料不足と価格高騰。年明け早々から、電力業界は東日本大震災以来の大きな試練に見舞われている。

【記者通信/1月7日】電源ミックス議論は「3E+S」で 脱炭素偏重の落とし穴


「全国の原子力発電が順調に稼働していた東日本大震災以前の日本であれば、少なくとも供給安定性の面では今のような事態にはならなかった。それは断言できる」。大手電力会社の幹部は、需給ひっ迫の危機にさらされている電力供給の現状について、こう言い切った。

しかし、かつて安定供給の主役を担っていた原発は、この最大需要期にもかかわらず稼働していない。しかも、現在は「司法リスク」という、得体の知れないリスクにさらされている。巨額の安全対策費を投じ、国の原子力規制委員会による安全審査を正式にパスしていても、一地方裁判所の判断一つで突然の稼働停止を余儀なくされてしまうのだ。そんな状況が続く限り、いくら実際の安全性が確保されていても、長期安定電源にはなり得ないだろう。

原子力、石炭、LNG、石油、水力、太陽光、風力、バイオマス――。それぞれの電源には、いずれも一長一短がある。各電源が抱えるリスクを的確に検証・分析した上で、供給安定性、経済性、環境性、そして安全性という「3E+S」の評価軸で、わが国の電源ポートフォリオを多面的に組み立てていく検討が、今まさに求められているのだ。2030年然り、50年然り。カーボンニュートラル宣言の影響もあり、エネルギーミックスの議論では「脱炭素」の視点ばかりがクローズアップされているが、そこには大きな落とし穴が隠されている。エネルギー事業の原点は、国民生活・経済活動を支える「ライフライン」であることを忘れてはならない。