新潟県議会は4月18日、柏崎刈羽原発(KK)の再稼働を巡って市民団体が提出した県民投票条例案を否決した。花角英世知事は自身が再稼働の是非を判断した上で、「県民の信を問う」としている。出直し知事選や県議会での意見集約など、信を問う方法はいくつか存在するが、今回の否決で県民投票の可能性は消滅した。今後の焦点は、花角知事が判断を下す時期へと移る。

県議会では過半数を握る自民党や公明党などが反対。36対16の反対多数で否決となった。反対した議員からは「二者択一では『条件付き賛成』など多様な意見を拾い切れない」「一般県民が十分な知識を持って判断するのは難しく、県民投票はなじまない」といった意見が挙がった。ある中堅県議は「反対派は『危険だ!』の一言であおれるが、安全性の証明は専門性が高く説明が難しい」と、県民投票になった場合は反対派に有利になるとの見方を示した。
県民の信を問う手法については、出直し知事選か県議会での意見集約に絞られた格好だ。前出の県議は「選挙区の住民の声を聞いた上で、県議が判断すればいい」と県議会での意見集約を訴える。ただ今後、再稼働慎重派は出直し知事選を求める可能性が高い。
「経済的メリット」をもたらす秘策?
花角知事の判断はいつになるのか──。
17日の県議会では「私自身が判断する時期については、ほぼ材料がそろってきたと思うが、議論を進める中で県民の受け止めなり、意見は固まっていくと思う。まさに今、見極めていく段階で、その先に判断を出す時期が来る」との認識を示した。7月の参院選や来年6月の県知事選が予定される中、難しい判断を迫られている。
花角知事が言う「議論の材料」を巡っては、今年2月に県の技術委員会が安全性を巡る報告書を公表。夏前には万が一の事故を想定した「被ばく線量シミュレーション」が作成される見込みだ。判断を下す前には、公聴会や首長との意見交換、県民への意識調査を検討しているという。
県内では「経済的メリット」を求める声が根強い。例えば、原子力立地対策交付金の対象拡充がある。現在は対象が立地自治体の「隣接」までだが、隣々接自治体も避難計画の策定などで負担を負っているからだ。
水面下ではKKでつくられた電気を地元の地域新電力に販売し、県内に安く提供する構想が練られている。需要家にとって脱炭素電源を安く購入できれば御の字だが、独占禁止法上との兼ね合いや東北電力との調整などの課題があり、制度設計は一筋縄ではいかない。また、現在は消費地でカウントする環境価値について、一部を発電地で算定するよう訴える関係者もいる。
地元同意の在り方を再考を
県内には、避難道路の整備などが未定で「再稼働を議論する段階にない」との考えを持つ首長すら存在する。県庁所在地の新潟市に次ぐ人口を抱える長岡市の磯田達伸市長も、慎重な立場だ。
しかし、ここで重要なのは最もリスクを負う立地自治体が再稼働に同意している事実だ。直近では宮城県の村井嘉浩知事が女川原発の再稼働同意を巡って首長と意見交換したが、賛成の意思を示したのは立地市長を含む4人だけだった。100万人超の人口を擁する仙台市の郡和子市長も「再生可能エネルギーに移行すべきだと思うが」との意見を述べた上で、賛否を明確にしなかった。それでも、村井知事は再稼働に同意した。
国策である原発再稼働が、知事の進退を賭けるほどの政治決断でいいのか。前衆議院議員(新潟県選出)の細田健一氏は、県民投票条例の否決後、自身のSNSにこう投稿した。「国が再稼働について判断し、知事の同意を求め、一定の間に拒否がなければ国と事業者の責任で発電するという仕組みの導入が必要ではないか」
新潟県の迷走を他山の石として、地元同意のあり方を再考する時期に来ている。