【記者通信/12月27日】カナダが使用済み燃料で最終処分地決定の経緯


カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は11月28日、同国の使用済み燃料を処分する深地層処分場の建設地をオンタリオ州北西部のワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)のイグナス地域に決定したと公表した。

NWMOの決定発表文。スワミCEO(左)とボイル副理事長兼主任技師

原子力発電の使用済み核燃料の処分については、どの国でも地中深くに埋める地層処分の方法が採用されている。現時点(24年時点)で、フィンランドで処分施設が稼働、スウェーデン、フランスで地域選定の後で、安全審査中となっている。場所の決定した国にカナダが加わる。

カナダでは、2002年に官民の共同出資によって設立された NWMOが、放射性廃棄物の安全かつ長期的管理を担当し、2010年から使用済み燃料の深地層処分場のサイト選定プロセスを開始した。

当初、22自治体が処分場の受け入れに関心を表明した。そのうち、先住民族が受け入れを認め、地域議会が誘致意思を示したWLONに決まった。

NWMOのスワミCEOは、「本プロジェクトはカナダの環境問題を解決し、気候目標を支援するもの。カナダ人と先住民が主導し、同意に基づく立地プロセスで推進された。これが歴史を作るということだ」と、発表文で述べた。同国のウィルキンソン・エネルギー・天然資源相は、「各コミュニティとサイト選定プロセスに関わった、多くのコミュニティのリーダーシップと積極的な関与に深く感謝し、NWMOの長年にわたる努力を称賛する」と述べた。サイトの地域の決定を受け、今後は規制評価段階に入る。

カナダは、原子力を活発に活用しており、地方自治体、先住民族なども、その利用への理解がある。日本でも北海道2カ所、九州で1カ所の自治体による文献調査が行われている。海外での新しい動きが、日本での処分地選定の議論が進むことに、前向きの影響を与えることを期待したい。

【記者通信/12月25日】建設現場に次世代バイオ燃料 出光興産が1月販売へ


カーボンニュートラル(CN)の実現という潮流が建設業界に広がる中、出光興産は建設現場向け次世代バイオ燃料を市場投入する。それに先立ち11月中旬から大手ゼネコンの大林組が施工する現場で、同燃料で建設機械を稼働させる実証実験を推進中だ。その結果を踏まえて出光は、早ければ2025年1月に販売を始めることを目指す。

バイオ燃料を使用した建設機械

大林組などとプロセス検証

出光が建設現場で使う建機や発電機向けに商品化するのは、植物由来の廃食油などを原料として製造するバイオ燃料「リニューアブルディーゼル(RD)」。具体的には、出光がバイオ燃料に関する「欧州EN規格」に適合したRDを海外から調達し、独自の品質管理で保証した「出光リニューアブルディーゼル(IRD)」として提供する。

実験は来年1月まで実施する予定。IRDを石油製品販売の松林(京都府宮津市)の配送ネットワークを通じて、大林組の建設現場にある油圧ショベルへ給油する。IRDの使用が建機に与える影響を調べるとともに、燃料の調達から供給・運用やメンテナンスまでのプロセスを総合的に検証するという。

将来的には自社製造も視野

出光は28年度から徳山事業所(山口県周南市)で、航空業界の脱炭素化手段として注目を集めるSAF(持続可能な航空燃料)の生産を始める予定。その製造過程で副産物として産出されるのがRDだ。今回の実験では海外からRDを取り寄せるが、RD需要の動向や取り扱い上の課題を把握した上で、「将来的にはRDを活用した自社製造品の流通を検討したい」(販売部企画課の担当者)としている。

建設段階のCO2排出量削減に向けて大林組は、低炭素型燃料を建機などに導入する取り組みに注力している。すでに来年4月開幕の大阪・関西万博の建設工事で、稼働する建機の燃料に100%バイオディーゼル燃料「B100」やRD燃料を用いる実験を行ってきた。同社環境経営統括室の担当者は、低炭素型燃料を巡る展開で出光とスクラムを組む意義を強調。「(低炭素型燃料の利用で)今後一歩、二歩踏み出していくことが非常に重要だ」と意欲を示した。

IRDは燃焼時にCO2が発生するものの、原料となる植物が成長過程でCO2を吸収するため、実質的な排出量をゼロとみなすことができる。RDは既存の流通インフラや内燃機関で使用できるため、運輸業界だけでなく建設業界 への採用も期待されていた。

【論考/12月19日】石油・天然ガス回帰に向かうメジャーの思惑


11月9日、JERAと英石油大手BPは洋上風力発電事業を統合し、折半出資の合弁会社Jera Nex bpを設立すると発表した。BPのオーキンクロスCEOはこれが同社の資本負担抑制の方針(capital-light model)に適うとし、全社的な資本効率向上策の一環であることを示した。

現在BPは事業構成を見直し、高付加価値事業に投資を集中しようとしている。「シンプル、集中、高付加価値」の旗印の下、事業の再構築が行われており、本年9月には米国の陸上風力発電事業からの撤退を発表している。今回の洋上風力発電事業合弁化も、その延長線上にある。

BPは10月にブラジルに於けるバイオ燃料合弁事業で、対等出資者だった穀物メジャー・ブンゲの持分を買い取って単独所有者となっている。したがって、風力発電部門の整理のみをもって、同社が脱炭素化事業全般に対し消極的とは言えない。しかし脱炭素化事業により厳しく資本規律を求め、採算性によって選別する姿勢は鮮明となっている。

石油・天然ガスに投資配分を傾斜へ

一方、7月末にBPはメキシコ湾深海・カスキダ油田開発の最終投資決定を下し、同社の石油事業で中核を為すメキシコ湾での大型投資に積極的な姿勢を示している。全社的な採算性重視が、同社の投資配分を自ずと石油・天然ガスに傾斜させつつある、と見ることができよう。

BPは、ルーニー前CEOの下、2020年に極めて野心的な脱炭素化目標を掲げた。2050年を目途に供給網全体の炭素中立(ネットゼロ)、いわゆるスコープ3の達成を目指し、そのため30年までに自社の石油・天然ガス生産量を19年対比40%削減するとした。23年2月の見直しで、この30年生産量削減目標は25%に緩和されたが、50年炭素中立化の目標は据え置かれている。

この見直しの際、供給安全保障(security)、経済性(affordability)、脱炭素化(low carbon) をエネルギーの三位一体の課題(トリレンマ)としつつ、脱炭素化の加速化と秩序あるエネルギー転換は両立させねばならない、とされている。主力の石油・天然ガスの縮小を伴う「統合エネルギー企業」への転換、という予定調和的なアプローチが現実に合わず、これが25年後の目標を100%炭素中立という建前で縛る一方で、向こう約10年の脱炭素化目標を後追いで下方修正する、ちぐはぐな姿勢となって現れたのではないか。

株価急上昇の米エクソンモービル

目下BPが進めている事業再編成は、資本規律によって事業投資を再優先化し、企業として進むべき方向性を明確化する努力の一環と捉えられよう。同社の株主からも収益性改善の要求が強まっており、事実、BPの株価は23年前半に20年初の水準にまで回復したが、そこで増勢が止まり、今年春以降は下落傾向にある。

同じ石油大手でも、例えばエクソンモービルの株価は本年11月末時点で20年初対比約7割上昇している。ちなみに同社は12月11日発表の経営計画の中で、30年の石油・天然ガス生産量(原油換算)を19年対比35%増とし、企業収益も年間平均10%の上昇を見込む。シェールオイルで優位に立つ米系メジャーとの競合の上でも、BPは高収益事業に集中する必要があろう。

BPが早晩、脱炭素化目標を再修正し、30年生産削減目標を撤廃するのではないか、という観測も報道されている。そうなれば、BPはBeyond Petroleum 「石油を超えて」からBack to Petroleum 「石油への回帰」に変わった、と評されるかもしれない。

標識の見えない道程の脱炭素化

米国では来年以降、第2次トランプ政権の下で、脱炭素化政策の全般的な撤廃が進められる。欧州諸国で反EUの右派勢力が台頭する中、脱原発・脱炭素化を推進してきたドイツは、国内エネルギー価格の高騰及び基幹産業である自動車他の製造業の不振に陥っている。再生可能エネルギー産業の雄である中国は、同時に世界最大の温暖化ガス排出国であり、また国際海洋秩序を軍事的に圧迫する脅威でもある。欧・露間の対立は長期化し、中東情勢はドミノ倒しのように混迷を深める。

この分断の現実にあって、脱炭素化の全世界的な加速化は、理念としては広く受け入れられても、実現のための基盤が無い。西側先進国が自らの脱炭素化を加速しつつ、新興国を援助するという建前も、現実の基盤を欠く。分断の世界の中では、エネルギー供給秩序の維持を最優先とする多国間協調体制の再構築が不可欠であり、脱炭素化も各国の供給安全保障に寄与する範囲で追求されるべきだが、そのような構想の枠組みすら、いずれの国からも提出されていない。

脱炭素化は、一般原則として支持されるが実体を欠く理念と、それに対する、より現実的だが構想力に乏しい反発との間で揺れている。標識の見えない道程の中で、国際石油企業は資本規律を手掛かりに、少なくとも中期的な方向を探りつつある、と言えるのではなかろうか。脱炭素化に最も積極的なメジャーとして知られるBPの今後の変容は、我が国の企業・政府にも貴重な手掛かりを与えるものとなるだろう。

国際石油アナリスト 小山正篤

【表層深層/12月19日】見えてきたCOPの限界 資金支援などで対立が先鋭化


先進国vs途上国の図式がすっかり定着した地球温暖化防止国際会議(COP)だが、今年のCOP29ほど先進国が途上国に譲歩した結果になったのは珍しい。途上国の資金支援要求に、先進国側が従来の3倍の額を支援することで合意した。パリ協定の目標を後退させたくない先進国の焦りを尻目に、中国、インドなどすでに途上国とは言えない経済規模を持つ国が先進国を弱体化させる楔を打ち込んだようにも見える。米国の条約脱退の憶測が出る中、国内政治ががたついて強気に出られない先進国は、中国、インドの台頭を眺めるしかない状況に陥っている。

「途上国大国」のインドに求心力

COP29は途上国支援のための新たな資金目標として、先進国側が2035年までに年3000億ドル(約45兆円)を出すことで合意した。官民あわせて1兆3000億ドル(約200兆円)の投資拡大を呼びかけることも合意文書に盛り込んだ。

しかしこの結果にいち早く不満を表明したのがインドだ。インドの交渉団は「われわれが直面している打撃を考えれば、COP29で合意した金額は少な過ぎて対処できない」と苦言を呈したという。

途上国側は気候変動対策や異常気象による被害に対応するための支援金の拡大を求めた。アフリカなどは年5000億ドルを要求。途上国全体では年1兆ドルを求めたことで会議は紛糾し、異例ともいえる会期を2日延長することになった。

インド交渉団の苦言はそのまま途上国の不満と捉えることができよう。集中豪雨や干ばつ、大型台風に海面上昇と近年は気候変動の影響と見られる被害が途上国を中心に頻発しているのも、先進国により多くの支援を求める背景だ。

先進国側の交渉団関係者は「合意が危ぶまれたが、なんとかまとまったのは気候変動による悪影響が露見していることに危機感を持っているからだ」との見解を示した。

だが見方を変えれば途上国側が先進国に貸しを作ったと考えることができる。COP29の瓦解を防いで、不満を飲み込んだと言えるからだ。そしてインドという「途上国大国」に、求心力が集まったとも言えよう。

インドは途上国をまとめ、来年以降もより資金支援の増額を求めてくると予想できる。先進国が増額しなければ石炭火力が温存して、パリ協定の形骸化することさえも辞さない強硬論で先進国を攻め立てることがあるだろう。

 資金支援巡り身動き取れない先進国

「資金支援の配分や使い途の透明化などクリアしなければならない問題が山積している」。ある先進国の外交筋はこう本音を吐露する。先進国は資金支援の大幅な増額に頭を悩ませている。

これまで先進国側から拠出した支援は総計で1000億ドルを超えている。再生可能エネルギーの開発資金、橋や堤防の設置と言った気候変動の影響による「適応」対策など様々な形で支援してきた。途上国側は「足りていない」と主張するが、「一体どのぐらいの支援額が必要なのか途上国側が明確にでてきていない。ほぼ言い値に近い形で支援を求めてくる構図が問題だ」(交渉関係者)と指摘する。

実際、先進国から資金支援したものの、気候変動に関係のない使途だったり、本来届くべきところに資金が届いていないケースも散見されるという。日本のある外交筋は「国会で使徒を追及されることもあり、いたずらに増額することには賛成できない」と語る。

先進国側の財政悪化も資金支援を渋る理由の一つだ。新型コロナウイルスの感染拡大に加え、ロシアのウクライナ侵攻という事態が重なり、先進国はインフレが進んだ。そのインフレを抑制するために各国では財政出動を活発化した。そのためドイツのように財政赤字に陥るところも出てきている。欧州では極右政権が相次いで誕生しており、気候変動対策を後回しにする国も出てきている。

そして先進国最大の排出国である米国の出方が見えないのも先進国内の疑心暗鬼を生んでいる。気候変動に懐疑的なドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲き、パリ協定の離脱どころか、気候変動枠組み条約からの脱退が現実味を帯びてきた。米国が抜ければ少なくとも4年間は支援の実現が危ぶまれる事態になる。

仮に米国抜きで資金支援を継続したとしても拠出の配分を巡り、先進国側の内部対立に発展することも否めない。

今回、資金支援の主体を日米欧と言ったG7の負担から、中国、インドなどの新興国に振り分ける交渉もしたものの、中国、インドは「我々は途上国」との立場を崩さず、任意での支援という拘束力のない提言にとどまった。途上国大国を前に先進国側が譲歩せざるを得なかったのが実情なのだ。

【記者通信/12月18日】食用油活用の「イルミ」 目黒川で今年も開催中


今年で14年目を迎えた「目黒川みんなのイルミネーション」が、2025年1月13日まで行われている。100%自家発電でイルミネーションを点灯する日本初の取り組みとして、国内外で注目を集めている。イルミネーションの電力エネルギーには、開催地域周辺の飲食店などで回収した使用済みの食用油を活用。地域の人々が使用済み食用油を持ち込むことができる回収拠点も用意されるなど、取り組みの輪は年々広がりを見せている。

精製したバイオディーゼル燃料を注ぐ

「目黒川みんなのイルミネーション」は2010年から始まり、今年で14年目。去る11月15日、五反田ふれあい水辺広場で点灯イベントが開催された。「目黒川みんなのイルミネーション」実行委員会の川端晴幸委員長と、森澤恭子品川区長によるあいさつがあり、しながわ観光大使´見習い´「ハタチの龍馬」と「大崎一番太郎」も登場。点灯式終了後には、しながわ学院エンタ部によるダンスパフォーマンスも行われた。

左から、ハタチの龍馬、大崎一番太郎、森澤恭子区長、川端晴幸委員長

使用済み食用油を回収する「みんなのアップサイクルスポット」

目黒川の両岸を彩るイルミネーションは、絶好の「映えスポット」。この時期ならではの素敵な光景に、寒さを忘れて撮影に夢中になる人々の姿が目立つ。

【記者通信/12月16日】原発導入で44%コスト低減も 豪野党連合が試算公表


【記者通信/11月20日】で既報の通り、オーストラリアの野党連合(自由党、国民党)がこのほど、原発を導入した際の費用試算を公表した。現政権の与党労働党が示す再生可能エネルギーを軸にした電源構成に比べ、44%コストを低減できると主張した。与党側は再エネのコスト安を強調する戦略に出るなど、原発導入をめぐる与野党の論争の火蓋が切って落とされた格好だ。原発か、再エネか。どちらが安上がりな電源であるかをいかに国民に浸透できるかが勝負の分かれ目となる。

豪州の国会でどんなエネルギー政策論争が巻き起こるのか(キャンベラ)

50年の電源「原発38%」

野党連合のコスト試算は、豪州大手コンサルタントのフロンティア・エコノミクスが作成した。次期総選挙に公約として掲げている豪州内7カ所に計1400万キロワットの原発を新設し、かつ2050年までに稼働させた場合、発電コストは3310億豪ドルになるとした。

13日に記者会見した野党連合を率いるピーター・ダットン党首は、現政権が掲げる再エネを軸に50年にカーボンニュートラルを達成する計画に比べ、「国民は2630億豪ドルもの電力コストを節約できる」と語った。野党連合は再エネの導入を促進する現政権のエネルギー政策を「誤った判断」と批判した。「石炭火力などの廃炉により、ベースロード電源が34年までに約9割失われる。供給不安や停電に見舞われる」と指摘した。

野党連合は休廃止する石炭火力の跡地に原発を導入する計画で、50年の電源構成に占める原発の割合を38%とするとしている。再エネは53%、残りはガス火力にCCS(二酸化炭素の回収・貯留)を組み合わせてカーボンニュートラルを実現していく青写真だ。

原発は「経済的狂気」

だが野党連合が発表したコスト試算に早くも疑義が生じている。

オーストラリア連邦科学研究機構(CSIRO)が野党連合の試算公表の2日前に、「原発の発電コストはメガソーラーと比べて約2倍かかる」との結果を示した。現政権側はCSIROの試算と、エネルギー市場運営機関 (AEMO)による独立報告書を引用して、再エネの優位性をアピールした。

さらに現政権は再エネを軸とした電源構成を達成するためには、1220億豪ドルの費用がかかるとし、「野党連合が比較している金額のベースが大きくかけ離れている。原発が再エネに比べて44%コストを低減できるというのは単なる『空想』だ」と激しく批判している。

地元メディアによると、クリス・ボーエン気候変動・エネルギー相は野党連合の試算は「間違いだらけだ」と指摘し、ジム・チャルマーズ財務相は、原子力計画は「経済的狂気」だと述べた。アンソニー・アルバニージー首相も「悪夢の政策だ」と吐き捨てた。

現政権の激しい応酬にダットン党首はCSIROの数値は誤解を招きやすく政治的なものだと主張するが、 地元メディアの報道によると、CSIROも「我々は独立した厳密な調査を、恐れや好意なしに行っている」と反論した。早くも与野党の小競り合いが始まった形だ。

豪州政治に詳しい専門家は「この論争が5月の選挙に向けて激しさを増していくだろう。両者とも(自分たちの政策に)に都合の良いモデルを設定して試算しているので、どちらが正しいかを判断するのは難しい。今後政党のアピール力が国民にどれだけ浸透できるかが、試算の正当性に影響を与えることになるのではないか」と分析する。

原発稼働には高い障壁

ダットン党首は最初の原発稼働を2035年と明言している。しかし彼らが導入する炉は小型モジュール炉(SMR)が中心だ。まだ世界で1基も商用化されていない。あと10年前後で技術的な課題をクリアできるか未知数だ。

さらに豪州は二つの連邦法で原発の商用利用を禁じている。法改正には相当な時間がかかる上、野党連合が議会での大多数の議席を獲得しないと簡単にはできない。州独自に原発稼働を禁じる法を定めているところも多く、州法の改正も厳しいハードルだ。

次期総選挙は来年5月にも実施されるとの見方が強い。残り時間が迫る中、原発は「低コスト」だという世論が醸成できるか。はたまた政権政党の強みで労働党の巧みな戦略により、再エネの優位性が浸透するのか。激しい応酬から目が離せない展開になった。

【目安箱/12月4日】世界のメディアが原子力再評価 取り残される日本


日本のメディアを見ると、世界の流れに取り残されているのではないかと思うことが頻繁にある。エネルギーでもそうだ。世界のメディアのエネルギーを巡る論調は、日本とドイツ以外は原子力の復権だ。

ウクライナ戦争以降、国際エネルギー情勢の不透明感が続く。AI(人工知能)の利用拡大、ICT(情報通信技術)の深まりで、全世界で電力需要の拡大が見込まれる。新興国は経済成長のために電力を欲しがる。一方で気候変動も深刻だ。福島事故の後遺症はあるが、脱炭素の電源であり、巨大な量の電力を生む手段として、原子力発電が期待されている。

「かつて敬遠された原子力は今や気候変動の新たな星」(Nuclear Power Was Once Shunned at Climate Talks. Now, It’s a Rising Star.。米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は15日、アゼルバイジャンの首都バクーで開かれた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)を取材した記者の記事を伝えた。

気候変動交渉での原子力への期待が以前より強まっており、首脳らの演説や会議に関連して行われるセミナーなどでも積極的に取り上げられるようになったという。以前は、環境活動家が原子力活用の主張を締め出そうとしていた。今もそうした感情的な反対をする人たちはCOPの会場に来ていた。しかし各国首脳が原子力への期待を語り、さまざまな専門家のセッションが行われ、雰囲気が変わっていたという。

◆世界の変化に遅れる日本のメディア

NYタイムズは米国で影響力があるメディアで、リベラル色が強い。原子力を否定はしていないが、再エネを推していた。しかし、この1年は論調が変化している。世界の原子力再評価の流れを感じ取っているのだろう。

日本の民意も敏感だ。10月27日に行われた衆議院議員選挙ではエネルギー問題が特に争点になはならなかった。そして原子力の活用を主張し、再エネの過剰支援に疑問を示す、国民民主党が議席を増やし、新興政党の日本保守党、参政党が議席を確保した。これらの政党は若い世代が推していた。産経新聞は10月20日に「衆院選とエネ政策 原発で日本回復を目指せ 国民生活とAI立国のために」との社説を出した。これは前述の世界の流れに沿った考えの内容だ。

◆日本のメディアの再エネ推しは消えず

ところが、いつもの通り、日本のメディアの論調はずれている。「原発は悪」という一種の思想にとらわれ続ける新聞・メディアもある。COP29を伝えた朝日新聞の社説「気候変動会議 世界の結束に力尽くせ」(11月13日)では、NYタイムズと同じ会議を論評したのに、原子力は他電源と並べ「議論も注視する必要」との言及のみだ。

「再エネへの期待が大きすぎる」(電力会社幹部)と批判される日本経済新聞も「再エネ投資で地方活性化 石破政権初のGX会議」(1日)という記事で、岸田政権のGX(グリーントランスフォーメーション)政策が継承されることを歓迎した。しかし、同紙には再エネのコストの冷静な検証の視点はない。他の記事にも少ない。

それどころか原子力への敵意をむき出しにする日本のメディアの報道は消えない。原子力規制委員会は、日本原子力発電の敦賀2号機の下に活断層がある可能性があるとして、11月13日に新規制基準に基づき不合格とした。同日の東京新聞は「敦賀原発2号機「不適合」が覆る可能性は? 日本原電に「反省」求めた山中伸介・原子力規制委員長」と、その判断に批判的な見方もある規制委の言い分をそのまま掲載した。

規制委の廃炉の決定については、おかしな報道が多かった。原電側に非があるかのような論調の記事ばかりだった。しかし、世界で進行している原子力再評価の視点はそこになかった。

◆第7次エネ基での議論深化を期待したいが…

東京電力福島第1原発事故の後で、日本の新聞は反原発を主張しすぎた。そのために原子力を巡る世界の変化を知っても、論調を変えられないのかもしれない。原子力問題に「思想」を持ち込まず、公平な視点で、合理性に基づいて見てほしい。

第7次エネルギー基本計画の原案づくりが今、経産省・資源エネルギー庁の審議会で議論されている。論点の一つが原子力の扱いだ。「可能な限り低減」という2020年に作られた第6次エネ基の文言が消えて、原子力活用に舵を切るかどうかが、注目される論点だ。しかも石破茂首相は、最近は封印しているが、持論は再エネ振興と原子力の可能な限り低減がエネルギーの基本的な考えだ。

国民的な議論の深まりが望まれる。しかしそのきっかけになるメディアの論点が、世界の流れから外れて、原発の賛成、反対という単純な議論のままでは、その構想の深まり、そして効率的なエネルギーシステムづくりにも悪影響を与えてしまうだろう。

このままでは、日本の経済記事も、それに影響を受けるエネルギー政策、供給体制作りも、世界の流れからますますずれてしまう。

【記者通信/11月28日】ガソリン減税議論が本格化 地方税収巡り相次ぐ懸念


10月の衆院選で国民民主党が訴えたガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の凍結解除(発動)を巡り、慎重な議論を求める声が相次いでいる。発動は消費者の負担軽減につながる可能性が見込まれる一方、地方税収の減額が懸念されているからだ。2025年度の税制改正に向けた議論が本格化する中、トリガー条項を含めたガソリン減税を巡る議論の行方に注目が集まりそうだ。

自動車ユーザーはガソリン減税の行方に注目している

政府・与党内にトリガー条項発動への慎重論

現在のガソリン税は1ℓ当たり53.8円。このうち25.1円が「当分の間税率」として本来の税額(28.7円)に上乗せされ、一般財源として活用されている。トリガー条項はこの税負担を一時的に軽くする制度で、レギュラーガソリンの全国平均小売価格が160円を3カ月連続で超えた場合、上乗せ分を停止。逆に3カ月連続で130円を下回ると発動が解除され、上乗せ分が復活する。この仕組みは11年に発生した東日本大震災の復興財源を確保するため凍結してきたが、原油高や円安を背景に高止まりするガソリン価格を踏まえて国民民主が22年に凍結解除を提起し、自公と断続的な協議を続けてきた。ただ、政府・与党内の慎重論が根強く、凍結実現には至っていない。

政府・与党が問題視するのは、トリガー条項が発動された場合に及ぼす影響だ。村上誠一郎総務相は11月上旬の閣議後記者会見で、「軽油引取税と地方揮発油譲与税の合計で年間5000億円程度の減収が見込まれる」と懸念。全国知事会もトリガー条項の凍結解除に慎重な立場で、「地方の担う行政サービスに支障を来たすことがないよう、その基盤となる地方税財政への影響を考慮すべきである」との声明を発表した。

石油業界は現場混乱を危惧 上乗せ税廃止なら可

石油業界は、トリガー条項には反対の立場。発動と停止時に価格が大きく変動することで販売や流通の現場が混乱する可能性がある上、ガソリンスタンドなどの事務負担が増すことが懸念されるからだ。石油連盟の木藤俊一会長(出光興産社長)は22日の定例会見で、「ガソリン税の本則税率上乗せ分の廃止は、税制改正において長年にわたり要望している。今後、財源を含めた検討が行われると思うが、税調での議論に注目していく」と説明。トリガー条項の発動ではなく、上乗せ税自体の廃止であれば受け入れるという意向を表明した。

政府が同日に閣議決定した総合経済対策では、「自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を得る」と明記する一方、年内を終了期限としていたガソリン補助金の規模を12月から段階的に縮小して延長する方針が示された。22年1月にガソリン価格高騰対策として始まったガソリン補助金は時限的な措置とはいえ、これまでに6兆円超もの巨費を投じてきた。にもかかわらずトリガー条項発動による税収減を危惧する政府・与党の理屈を疑問視する声もあり、ガソリンに関する政策の議論は難航しそうだ。

硬直的な仕組みを見直し創意工夫を

桃山学院大学経営学部の小嶌正稔教授は、「トリガー条項の凍結解除は時代遅れ。法律でガソリンが1ℓ160円を超えたら25.1円引き下げると決まっている硬直的な仕組みだ」と指摘。その上で、「金額は今の情勢を踏まえておらず、金額を変えるたびに毎月法律を変えることも現実的でない。必要なのは事実上の減税ではなく、物価と連動させた激変緩和の仕組みだ。じわじわ価格が上がる分には問題はない」との考えを示した。続けて小嶌氏はガソリン補助金にも言及し、「日本のようにただ補助金を出し続けている国はどこにもない。補助金を自然になくし、止めるための仕組みを織り込むことが必要だ」と提言。暫定的に補助金を出す場合には、海外のように競争を活性化する仕組みを組み合わせる必要性を説いた。

また今回の議論を機に、道路整備費用を利用者が負担するという「受益者負担」の考え方に改めて焦点が当っている。日本では、ガソリン車ユーザーなどは道路利用に伴う負担としてガソリン税などが課せられるが、同じ道路を走るEVなどの次世代車利用者には道路利用に応じた負担がなく、「公平性を欠いている」(関係筋)という不満がくすぶっていた。すでに欧米には、道路利用者の公平性を確保する観点から走行課税制度などを導入・検討する地域がある。政府・与党には、脱炭素などを含む国際潮流や財源確保を勘案しながら最適な落としどころを探る難しい判断が迫られそうだ。

【記者通信/11月27日】「水素は高価。日本などが購入も」豪エネ市場機関幹部が見解


豪エネルギー市場管理機関「AEMO」(ビクトリア州メルボルン)の主席アナリストは11月20日、エネルギーフォーラム視察団(団長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長)との懇談の場で、再生可能エネルギーのキャリアとしての水素利用について、「(蓄電池などに比べて)水素は高すぎるの一言。日本や韓国に買ってもらうことはあるかもしれないが、豪州で活用するイメージはない。最大規模の電解装置も1.5MW程度に過ぎず、関連投資も減速していっているとの認識だ。世界では水素に関していろいろなことが起きているが、ますます投資が減っている。燃料源としての水素の長期的な見通しには大きな疑問符が付く」との個人的見解を示した。参加者からの質問に答えた。

メルボルン市内にあるAEMO

豪政府は2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、太陽光や風力など再生可能エネルギーと蓄電池を大量導入し、23年現在約4割の再エネ比率を30年までに82%へと大幅に引き上げる一方で、石炭火力については40年までにほぼ廃止する計画だ。「端的に言えば、自国では再エネ+蓄電池をフル活用することでネットゼロを目指しながら、脱炭素化に貢献しない化石資源は輸出に回して外貨を稼ぐ方向だ。豪州は石炭と天然ガスでは、いずれも世界第2位の輸出国であり、その地位を最大限活用しながら国益を追求する戦略が見て取れる。自然や天候、資源に恵まれた国だからこそ実現できるエネルギー政策といえ、日本とはエネルギーを巡る国情が大きくことなることに注意する必要がある」(豪州在住エネルギー関係者)

50年までに水素1500万t 業界関係者は冷ややか

そうした中で、連邦政府は9月に発表した「2024年国家水素戦略」の中で、50年までに年1500万tの水素を生産する目標を提示するとともに、30年までに年20万tの再エネ由来グリーン水素を輸出する計画を掲げた。同戦略では、「クリーンで革新的、かつ安全で競争力のある水素産業の創出をビジョンとして打ち出し、水素産業が地域社会や経済に恩恵をもたらす」としているが、エネルギー関係者の実際の受け止め方は冷ややかと言えよう。

一方、来年の総選挙で政権返り咲きを狙う野党連合は、脱炭素化と電力安定供給確保を両立させる観点からSMR(小型モジュール炉)や新型軽水炉などの原子力の導入を国家主導で推進していく構えだ(「記者通信/11月20日」)。選挙の結果次第では、米国ほどではないにしても、現行エネルギー政策を転換を迫られる公算が大きい。水素エネルギーの行方がどうなるか。豪州とのパートナーシップに力を入れる、わが国エネルギー関係者は注意深く見守る必要がありそうだ。

【記者通信/11月16日】環境族議員が軒並み落選 政策失速も?省内に動揺


総選挙は裏金問題が影響し、自公政権が少数与党に転落する予想外の結末になった。この結果は有力議員(族議員)との接点を持つ霞ヶ関にも波及した。中でも大臣経験者3人、現職副大臣を失った環境省にとって、政策実現のための応援団を軒並み失った形で、省内では動揺が広がった。

キーパーソンを失う痛手

「しばらく政策が止まる」。環境省関係者は選挙結果を見てこう呟いた。規制官庁という性格から「閣内野党」と揶揄されていた環境省にとって、族議員づくりは政策実現のための重要な仕事だった。

ここ数年、財務省や経済産業省のように、関係した与党議員に担当職員を貼り付けて応援団づくりを着々と進めていただけに「1度にこんなに失うのは予想外だった」(前出の関係者)と肩を落とした。

丸川珠代氏は参院議員ながらも、故・安倍晋三元首相と近い関係で自民党内でも顔の広い議員だった。現職大臣時には当時険悪だった経産省との関係をうまく取り持ち、石炭火力の抑制を両省が納得いく形でまとめた実績がある。大臣退任後も熱中症対策推進の法律の成立に中心的な役割を果たしただけに、失ったのは大きい。

西村明宏氏は地味ではあるが、清和会の番頭格として最大派閥をまとめる影響力のある人物の一人だった。表だってアピールすることはないものの、最大派閥の動向や意向をつぶさにキャッチできるキーパーソンだった。

環境省にとって大きな借りがある形なのは伊藤信太郎氏だ。大臣在任中に水俣病問題を引き起こし、伊藤氏が現地で謝罪する負のイメージを植え付けてしまった。しかし被害者遺族の自宅に訪問し、仏壇の前で土下座するまでした伊藤氏の誠意ある対応は評価されており、今後も環境省のために汗をかいてくれる可能性はあった。

有力族議員は小泉進次郎なのか

大臣経験者を軒並み失った環境省にとって頼るべき有力族議員は誰になるのか。大臣経験者は数少ない。石破政権が続くと仮定すれば、総裁選で石破首相を支援して党の要職を務めた小泉進次郎氏が有力族議員になる可能性もある。

大臣時には気候変動対策で何かと引っ掻き回した人物だが、石破政権でのパイプを考えると頼らざるを得ない側面がある。ただ省内では積極的に接点を持つ動きは今のところない。一部では「政権がいつまで続くかわからない中でわざわざ劇薬に近づくことはないだろう」という声もある。

もっとも、進次郎氏自体が環境政策に興味を失っていると指摘する向きもある。機を見るに敏な性向から「環境に肩入れしてもプラスにならないと踏んでいるのではないか」(永田町関係者)。

省内から期待されているのは井上信治氏だ。長年環境省とはパイプがあり、副大臣を経験し、党政調で環境部会長も務めている。麻生派でも次世代のホープと目されており、高い立案能力と調整能力、幅広い人脈から頼りになる議員だ。石破政権では反支流派の扱いを受けるが「少数与党だけに非支流派を外すほど余裕がない。政策面で何かと頼りになる」(前出の永田町関係者)と分析する。

不透明な環境政策

自公政権の少数与党転落、米国のトランプ大統領再選と政策の先行きが読めない現状だ。来年2月にも国連に提出する温室効果ガスの国別削減目標(NDC)も、一時は60%削減など大胆な目標が出るとの憶測があった。

だが石破政権の環境政策へのスタンスがわからない上に、対米追従の日本には米国の動きが影響を与える。トランプ政権は気候変動枠組み条約自体からの脱退もありうるだけに、パリ協定の実効性が失われることを想定しなければならない。

さらにエネルギー基本計画との相関関係もある。再生可能エネルギーの割合を増やせるのか。原発の再稼働、新増設は可能なのか。石破政権には「エネルギー政策が伝わりにくくなっている」(霞ヶ関筋)との話もある。

族議員を相次ぎ失った環境省にとって、先行き不透明な状況もあいまってやはり「政策が止まって」しまうのかもしれない。

【記者通信/11月14日】東電の豪州風力事業容認 連邦裁判が所管大臣の判断覆す


オーストラリアの風力発電事業を巡り、日本の東京電力ホールディングス傘下の英国企業による事業化調査(FS)のライセンス申請が政府に却下されていた問題で、豪州連邦裁判所は判断の見直しを求める判決を出した。連邦裁は申請を却下したクリス・ボーエン気候変動・エネルギー相の判断について「誤った法解釈」と断じた。再生可能エネルギー事業を豪州で展開したい東電HDにとってこの判決の持つ意味は大きく、今後、豪州での再生可能エネルギー事業の促進につながりそうだ。

今回対象となった事業は、ビクトリア州ギプスランド沖の洋上風力発電プロジェクト「シードラゴン」だ。豪州の洋上風力発電プロジェクトの中でも、2番目に進捗しているとされており、競争が激しい事業でもある。東電HD傘下の浮体式洋上風力発電を手掛ける英国の事業者が、事業化にあたって沖合で調査する権利(ライセンス)の取得を申請していた。

だがボーエン氏はスペインの大手エネルギー会社、イベルドローラーと調査区域が重複することを理由に、調査する権利を認めない判断を下した。ボーエン氏は東電とイベルド社をふるいにかけた結果、再エネ事業を積極的に行っている後者を重用したというわけだ。この政府決定を不服として、東電側は決定を覆すための訴訟を起こしていた。

イベルド社を優先したボーエン大臣の判断を問題視

豪州の地元メディアによると、判決は区域の重複がわずかで両者は境界の調整に入るはずだったにもかかわらず、ボーエン氏がイベルド社を優先した判断が問題視された。東電側はボーエン氏が開発区域の調整をできる立場にあると主張。一方のボーエン氏側は法規制そのものが事業者間での申請区域の調整を認めていないと反論していた。連邦裁はボーエン氏側が主張する法解釈が誤りだとの認識を示した。

豪州の再エネ事情に詳しい関係者は「再エネ好きで原発嫌いのボーエン氏からしてみれば東電よりイベルド社に肩入れしたくなったのだろう。こうした独断と偏見に対して連邦裁はNOといった意味は大きい」と指摘する。

判決を受けてボーエン氏は判決を精査し再評価を実施する意向を示している。来年にも実施される総選挙では原発導入を訴える野党連合が急激に支持を伸ばしている。原発に対してネガティブな論戦を張るボーエン氏にとって、原発に関係するところはことごとく排除したかったのだろうが、とんだ勇み足だったといえそうだ。

【記者通信/11月14日】規制委が敦賀2号不許可を決定 原電は再審査申請へ


原子力規制委員会は11月13日、日本原子力発電の敦賀発電所2号機について、原子炉直下に活断層にあることが否定できないとして、新規制基準に適合しないとする審査書を決定した。これまで再稼働に向けた審査を規制委に申請した原発は27基あり、このうち17基が新規制基準に適合すると認められている。一度稼働した原子炉が不許可となるのは、日本の原子力の歴史の中で敦賀原発2号機が初めて。原電は同日にコメントを発表し、「大変残念」と判定を受け止めた上で、同原子炉の2号機の設置変更許可の「再申請、稼働に向けて取り組む。申請に必要な追加調査の内容について、社外の専門家の意見も踏まえながら具体化していく」としている

不許可が決まった日本原電敦賀発電所2号機(原電提供)

長期化した審査「可能性を否定できない」

敦賀2号機は1987年に営業運転を開始した。東京電力の福島第一原発事故の反省を受けて、原子力規制委員会は2012年に発足し13年に新規制基準ができた。そこでは活断層の上に原子炉の重要施設を建ててはならないとする。また約12万~13万年前以降に活動した可能性が否定できない断層を活断層とみなすとしている。

敦賀2号機では運転開始の後に、その近くに活断層が発見され、そこから派生した破砕帯が活断層として原子炉の下までつながっているかが問題視されてきた。原電は、敷地内で行った活断層調査などから「活断層ではない」と主張。だが規制委は原電のデータは「科学的根拠が乏しい」とし、活断層の可能性は「否定できない」と判断した。

その判定の文言の曖昧さや、結論を急ぎ原電の弁明を認めない規制委の態度に、「敦賀原発2号機 初の不適合は理に合わぬ 規制委は審査の継続に道開け」(産経新聞、7月27日社説)などの批判が出ている。

規制委は8月末に、新規制基準に適合しないとする審査書案を了承。30日間のパブリックコメントを集め、この日に正式に不許可の決定をした。

政治に原電の再申請支援の動き

しかし廃炉の手続きは法的に整備されていない。今回の決定による政府の責任、そして原電の損害や経営への政府の責任も不透明だ。さらに116万k Wの原子炉を一行政機関が廃炉することの正当性も疑問だ。社会、経済の影響が大きすぎる。

滝波宏文自民党参議院議員は、エネルギーフォーラムの取材に「原電の再申請を応援していく」(福井県選出)と述べ、この決定の妥当性は政治の場などで、今後も議論されそうだ。

原子力規制委員会は制度上、独立行政委員会としてその決定に他の行政機関が介入しづらい。しかしこの敦賀2号機の審査では、政治や世論により再申請が認められ、合理的で公平な視点に立った安全審査が行われることを期待したい。

【記者通信/11月8日】米エタノール業界が日本SAF市場に熱い視線


航空業界の脱炭素化を促す手段として有望視されている「持続可能な航空燃料(SAF)」。その原料の一つ「バイオエタノール」の生産大国で知られる米国が、日本に熱い視線を注いでいる。SAF原料を受け入れる日本市場が拡大する可能性を秘めているからだ。米農務省とアメリカ穀物協会が10月に東京都内のホテルで共催した「アジア サステナブル航空燃料とバイオエタノール サミット 2024」を取材すると、米国産トウモロコシ由来エタノールの関係者が対日輸出増に強い期待をにじませていた。

活発な質疑応答が繰り広げられたプレスセミナー 

日米首脳が需要倍増で合意

「G7(主要7カ国)加盟国としてバイオエタノールに注目する日本は、航空用燃料の分野でも極めて重要な役割を果たしていくことになる」。同月23日に開いたサミットに開会あいさつで登壇した駐日米国大使のラーム・エマニュエル氏は、運輸部門の温室効果ガス排出量削減で果たす日本の役割に期待感を示した。

日米がバイオエタノールで協力関係を深める発端は、22年5月に行った 岸田文雄前首相とバイデン米大統領の首脳会談だ。両首脳は会談の成果として共同声明を発出。この中に、日本のバイオエタノール需要を30 年までに倍増させる方針を盛り込んだ。

エマニュエル氏の期待に応えるように、資源エネルギー庁資源・燃料部長の和久田肇氏は「国際連携を強化し、バイオエタノールのサプライチェーンを構築しなければならない」と表明。さらに日米首脳共同声明にも触れ、「バイオエタノール由来を含めたSAFを推進していくことの証しだ」と力を込めた。米バイオ燃料業界団体グロース・エナジーでCEOを務めるエミリー・スコー氏も基調講演で、共同声明に沿ってエタノールからSAF を製造する「ATJ」の取り組みを促す必要性を強調。その実現に向けて「国境を越えて多くの官民がパートナーシップを結び、日米の対話をもっと奨励してほしい」との考えを示した。

基調講演するグロース・エナジーのエミリー・スコーCEO

需要開拓の背景に潤沢な生産体制

米国には、バイオエタノールのプラントが約200カ所あり、年間でトウモロコシから約6000万klものエタノールを生産。同国とブラジルの両国で世界のエタノール生産量の約8割を占めている。米国がSAF需要の拡大も見据えてエタノールの需要開拓に意欲を示す背景には、拡大する輸送用燃料需要に安定的に応えられる供給体制がある。

サミット翌日のプレスセミナーでは、農務省チーフエコノミストのセス・マイヤー氏が、生産性向上に向けた農家の努力でトウモロコシの平均収量が右肩上がりで推移している状況について説明した上で、「農地を拡大することなく生産量を高めることができたことが重要なポイントだ」と力説。加えて自国の農家を代弁し、「日本との貿易関係を重要視している」とメッセージを送った。

プレスセミナーに臨む米農務省チーフエコノミストのセス・マイヤー氏

スコー氏もセミナーに登壇し、SAFの原料となるバイオエタノールの優位性について説明。「バイオエタノールは十分な量を確保できることに加えて、炭素強度(一定のエネルギー供給量当たりのCO2排出量)を抑える効果も見込まれる。さらに、世界の経済に大きな貢献を行うことができる」と述べた。穀物協会理事長兼CEOのライアン・ルグラン氏も「バイオエタノールには互換性があり、既存のインフラに変更を加えることなく利用できる」と利点を強調した。

一方、イリノイ大学シカゴ校主席エコノミストのステフェン・ミューラー氏は「エネルギー安全保障を担保するためには、低炭素の燃料が大容量に必要になることを理解しなければならない」とした上で、「米国は森林の伐採や緑地の削減につながらないよう持続可能な形でバイオエタノールを生産できる」とアピールした。

大統領選後のエネルギー政策を注視

SAFの社会実装に向けては、原料の安定確保に加えて、既存ジェット燃料を大幅に上回る製造コストを引き下げるというハードルも立ちはだかる。質疑応答でスコー氏はこうした課題にも触れ、「政府が初期段階から支援することでコストを下げる。それによって供給量が増えると、最終利用者に転嫁する価格も下がるだろう」との見方を示した。

スコー氏は記者の質問に答える形で、米大統領選の結果がエネルギー政策に与える影響にも言及。「民主党、共和党ともに、経済発展やエネルギー安全保障の観点からバイオエタノールを成長させるという考え方を持っている。どちらが大統領になろうとも、(米連邦議会の)上下両院の状況がどうなろうとも、われわれが効果的に協力できるパートナーを手にすることができる」と語った。

国際民間航空機関(ICAO)は23年11月、SAFにより30年までに温室効果ガス排出量を5%削減するという目標を採択した。経済産業省は国際的な目標を踏まえながら、一定量のSAF供給を義務付ける規制を整え、利用の拡大に弾みをつけたい考えだ。SAF用途のエタノールを巡る日米協力の展開から、今後とも目が離せない。

【記者通信/11月7日】函南太陽光計画が中止へ 長年の反対運動が実を結ぶ


エネルギーフォーラムが繰り返し報じてきた、静岡県函南町軽井沢地区を舞台にした大規模メガソーラー(総出力2万9800kW)の開発計画が中止されることになった。開発事業者のブルーキャピタルマネジメントは10月31日、同メガソーラー事業計画を廃止する旨の通知書を静岡県に提出した。県は、計画地の確認などを行い、中止による支障がないことを確認した上で、申請を受理する見通しだ。今後の焦点は、経済産業省資源エネルギー庁が同事業のFIT認定IDを取り消すかどうかに移る。

美しい景色が広がる静岡県函南町

関係者などによると、同計画は2017年、中部電力子会社のトーエネックが立案。再生可能エネルギー事業を手掛ける東京産業の斡旋で、ブルー社が18年4月にFIT認定IDを取得した。ブルー社がパネル設置工事までを受託し、トーエネックが施主として事業を引き継いだ。これに対し、土砂災害などを懸念する地元住民が「計画は関係法令に抵触する」などとして猛反対。21年6月30日、住民らは静岡県庁を訪れ、同計画の見直しなどを求める要望書を手渡した。そして、そのわずか4日後、軽井沢地区から東へ数kmの場所にある熱海市伊豆山で大規模な土石流災害が発生し、災害関連死1人を含む28人が死亡する大惨事となったのだ。これが反対運動に拍車を掛けた。

伊豆山の土石流発生の現場付近(毎日新聞ウェブサイトより抜粋)
土石流発生現場付近にある太陽光発電所(朝日新聞ウェブサイトより抜粋)
発電所の建設予定地は災害危険エリアに(函南町)
建設予定地の山のふもとには丹那小学校が・・・

その後、函南町長が計画への不同意を示したことなどから、トーエネックは計画を断念し、22年10月の中間決算で114億9000万円の特別損失を計上、翌23年1月に撤退を発表した。これに伴い、ブルー社、東京産業との契約を解除。事業にかかった費用の返還などを求める協議を続けてきたが、「交渉による解決は困難と判断」(トーエネック担当者)し、6月2日、既払い金の返還などを求める訴訟を名古屋地裁に起こした。これに対し、ブルー社は「本件訴訟は一方的な内容かつ契約解除の理由がない」などとコメント。東京産業も「(トーエネックが)主張する本件地位譲渡契約解除は理由がないと考えている」として、裁判を通じて契約の正当性を争う構えを見せていた。

こうした中で、ブルー社は事業の中止を判断した格好だ。県に提出した事業中止通知書の中で、廃止の理由について〈施主が施主の都合で当方の反対を押し切り、解除を宣言し、履行不能に陥った為〉と記載している。

「経産省はFIT認定IDの取り消しを」

長年にわたって反対運動をけん引してきた全国再エネ問題連絡会共同代表(元大阪府警警視)の山口雅之氏は、エネルギーフォーラムの取材に対し、こう心境を語った。

「このたび、事業者が函南町でのメガソーラー計画を廃止することを知り、感無量です。人生で初めて地元の方々と反対運動に関わり約5年半、言葉では言い尽くせないほどの苦難があった。誹謗中傷にさらされ、心が折れそうになることもたびたびあったが、熱海土石流被害が二度とあってはならないとの思いから、仲間と励まし合いながら取り組んできた。仁科喜世志・函南町長をはじめ町議や静岡県の県議、与野党の国会議員、エネルギー業界の有識者、メディア関係者など、さまざまな方々が住民の命と暮らしを守るためお力添えくださったお陰だ。経産省は適切な判断の下で、この事業のFIT認定IDを取り消していただきたい。今も、メガソーラーやメガ風力の開発計画で困っている地域は全国に多数ある。函南町の事例を参考にしていただければ幸いです」

【記者通信/11月5日】石破政権で初のGX実行会議 従来の方向性踏襲し年末に案


石破政権で初となるGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議が10月31日に開かれ、「GX2040ビジョン」の策定に向けて議論を深めた。石破茂首相は、地熱や中小水力の開発など、GX加速への当座の取り組みを具体的施策としてまとめ、経済対策に盛り込むよう求めた。また、GX2040ビジョン、エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画の3つの案を年内にまとめること、来年の通常国会に向け、カーボンプライシングの詳細設計を定める改正GX推進法案の検討を進めることを、改めて指示した。若干の「石破カラー」を出しつつも、基本路線は岸田政権下での議論を踏襲する方針だ。

来年の通常国会に向け、カーボンプライシングの詳細設計の検討を求めた石破首相

石破首相は会議のあいさつで、「地域の森林資源の活用などにも効果的な脱炭素先行地域の拡大や、地熱、中小水力の開発は、地域経済にGXの恩恵をもたらす」などと強調した。

当日、武藤容治GX実行推進担当相が提出した資料でも、GX加速に向けた当座の取り組みのイメージで、地域経済の成長に資するものとして、①地域脱炭素の推進、②再エネ拡大、③省エネや国内投資促進――を挙げた。特に再エネではまず「地域が高いポテンシャルを持つ地熱や中小水力の開発加速」を、次いで「太陽電池や洋上風力などの研究開発・社会実装加速」を掲げた。

このほか、生活環境の向上につながる取り組みとしては、断熱窓や給湯機などの住宅、電動車、建築物関係を挙げた。

地熱好きの石破首相 今後の政策議論でどこまで強調?

石破首相は、再エネでは地熱や中小水力にこだわりがあるようだ。例えば10月4日の所信表明演説では、再エネ政策の文脈で「わが国が高い潜在力を持つ地熱」と強調している。

また、ある有識者は、今年初めのとある研究会で、地球温暖化問題や原子力の重要性などを講演した際、個人的に参加していた当時無役の石破氏から「地熱と中小水力で賄えないのか」といった質問を受けた。「これを聞いて、石破さんは個人的に地熱などが好きなのだと感じた。ただ、原子力をやめて再エネへ、という強い思いまでは感じなかった」と振り返る。

なお、エネ基を議論する基本政策分科会でも、10月23日の会合の事務局資料で再エネに関する世界の動向として、次世代地熱に関する各国やIEA(国際エネルギー機関)の動きをまず取り上げていた。このあたりがエネ基の取りまとめでどの程度反映されるのか、気になるポイントだ。

構成員「これまでと一貫した議論を」 事務局も路線継続強調

話をGX実行会議に戻すと、構成員からは「日本の産業競争力強化に資するGX実現に向けて、引き続き過去12回と一貫性のある議論を継続し、年内のビジョン策定に取り組んでほしい」といった意見が出た。

事務局は、「地域経済の成長に資する再エネや省エネは、総理の経済対策の指示の中でもフォーカスされている。ただ、その他のLNGの確保や原子力などが不要ということではない。本日も何人かの委員が言ったように、施策の継続性が重要ということは変わらない」と説明。原子力などについてもこれまでと同様に検討を進めていく方針を強調した。

GXビジョンやエネ基の案を年末までに示すのであれば、時間的猶予はあまりない。特にエネ基はこれまでヒアリングがメインで、本格的な中身の提示はこれからだ。後数回の会合で、どのような絵姿がいつ示されるのか、注目される。