【記者通信/4月21日】KK県民投票条例が否決 花角知事はどう動くか!?


新潟県議会は4月18日、柏崎刈羽原発(KK)の再稼働を巡って市民団体が提出した県民投票条例案を否決した。花角英世知事は自身が再稼働の是非を判断した上で、「県民の信を問う」としている。出直し知事選や県議会での意見集約など、信を問う方法はいくつか存在するが、今回の否決で県民投票の可能性は消滅した。今後の焦点は、花角知事が判断を下す時期へと移る。

再稼働に向けた議論は最終局面に入った

県議会では過半数を握る自民党や公明党などが反対。36対16の反対多数で否決となった。反対した議員からは「二者択一では『条件付き賛成』など多様な意見を拾い切れない」「一般県民が十分な知識を持って判断するのは難しく、県民投票はなじまない」といった意見が挙がった。ある中堅県議は「反対派は『危険だ!』の一言であおれるが、安全性の証明は専門性が高く説明が難しい」と、県民投票になった場合は反対派に有利になるとの見方を示した。

県民の信を問う手法については、出直し知事選か県議会での意見集約に絞られた格好だ。前出の県議は「選挙区の住民の声を聞いた上で、県議が判断すればいい」と県議会での意見集約を訴える。ただ今後、再稼働慎重派は出直し知事選を求める可能性が高い。

「経済的メリット」をもたらす秘策?

花角知事の判断はいつになるのか──。

17日の県議会では「私自身が判断する時期については、ほぼ材料がそろってきたと思うが、議論を進める中で県民の受け止めなり、意見は固まっていくと思う。まさに今、見極めていく段階で、その先に判断を出す時期が来る」との認識を示した。7月の参院選や来年6月の県知事選が予定される中、難しい判断を迫られている。

花角知事が言う「議論の材料」を巡っては、今年2月に県の技術委員会が安全性を巡る報告書を公表。夏前には万が一の事故を想定した「被ばく線量シミュレーション」が作成される見込みだ。判断を下す前には、公聴会や首長との意見交換、県民への意識調査を検討しているという。

県内では「経済的メリット」を求める声が根強い。例えば、原子力立地対策交付金の対象拡充がある。現在は対象が立地自治体の「隣接」までだが、隣々接自治体も避難計画の策定などで負担を負っているからだ。

水面下ではKKでつくられた電気を地元の地域新電力に販売し、県内に安く提供する構想が練られている。需要家にとって脱炭素電源を安く購入できれば御の字だが、独占禁止法上との兼ね合いや東北電力との調整などの課題があり、制度設計は一筋縄ではいかない。また、現在は消費地でカウントする環境価値について、一部を発電地で算定するよう訴える関係者もいる。

地元同意の在り方を再考を

県内には、避難道路の整備などが未定で「再稼働を議論する段階にない」との考えを持つ首長すら存在する。県庁所在地の新潟市に次ぐ人口を抱える長岡市の磯田達伸市長も、慎重な立場だ。

しかし、ここで重要なのは最もリスクを負う立地自治体が再稼働に同意している事実だ。直近では宮城県の村井嘉浩知事が女川原発の再稼働同意を巡って首長と意見交換したが、賛成の意思を示したのは立地市長を含む4人だけだった。100万人超の人口を擁する仙台市の郡和子市長も「再生可能エネルギーに移行すべきだと思うが」との意見を述べた上で、賛否を明確にしなかった。それでも、村井知事は再稼働に同意した。

国策である原発再稼働が、知事の進退を賭けるほどの政治決断でいいのか。前衆議院議員(新潟県選出)の細田健一氏は、県民投票条例の否決後、自身のSNSにこう投稿した。「国が再稼働について判断し、知事の同意を求め、一定の間に拒否がなければ国と事業者の責任で発電するという仕組みの導入が必要ではないか」

新潟県の迷走を他山の石として、地元同意のあり方を再考する時期に来ている。

【時流潮流/4月18日】原子力協定を巡る米国・サウジアラビアの確執


バイデン前政権時代は停滞が続いた米国とサウジアラビアの関係が急速に改善する兆しが出ている。トランプ米大統領は就任後初の外遊先にサウジを選んだ。5月中旬に訪問し、通商問題や原子力協力などの二国間問題に加え、国際情勢を協議する見通しだ。

トランプ氏のサウジ訪問は2017年5月以来、今回が2度目。前回の大統領時代も、初の外遊先はサウジだった。

サウジのムハンマド皇太子は、トランプ氏が米大統領に返り咲いた直後、各国の首脳を差し置いて一番乗りで電話協議に臨んだ。トランプ政権が続く今後4年間に総額6000億ドル(約85兆円)規模の投資や貿易を行う意向を伝えた。両者の親密ぶりが伝わる。

訪問で焦点となるのは、原子力分野の協力だ。サウジは世界有数の産油国でありながら、急速な人口増に伴う電力消費増や、気候変動問題への対応が迫られている。40年までに1200万~1800万㎾の原発建設を目指している。

手はじめにサウジ東部に出力120万~160万㎾の大型原発2基を建設し、その後、小型モジュール炉(SMR)の導入も視野に置く。大型商談を受注しようと、米国のウエスチングハウス社をはじめ、仏中露韓各国のメーカーが競い合っている。

ただ、米国製原発や、米国の技術を使う韓国製の原発を導入する場合は、サウジは米国と原子力協定を結ぶ必要がある。米国は核兵器の拡散を防ぐため、韓国製の原発を導入したUAEと同様、ウラン濃縮や使用済み核燃料の再処理を禁じる条項が入る協定をサウジと結ぼうとしている。

ムハンマド皇太子は18年に「イランが核兵器を持つなら、サウジもただちに取り組む」と発言した経緯もあり、核武装に関心を示している。協定成立には米議会の承認も必要となる。この条項を盛り込んでいない協定が、米議会を通る可能性は低い。

サウジから見れば、ライバルのイランはウラン濃縮活動を続けるのに、なぜ、サウジは濃縮ができないかという不満がある。文句ばかりを言う米国に見切りをつけ、面倒な条件をつけないロシアや中国から原発を導入する手もある。そんな揺さぶりもかける。

トランプ氏の訪問を前に今月13日、露払い役としてクリス・ライト米エネルギー省長官がサウジを訪問した。ライト氏は、サウジにウラン濃縮を認める「道筋」が見えてきたと語り、年内合意を目指す考えを示した。

米国は難しい立場にある。イランが核兵器を取得するのを阻止するため、米国は今月12日からイラン核協議を始めた。ここでも焦点はウラン濃縮の扱いになる。米国は、できればイラン、サウジ双方に濃縮「ゼロ」を強いたい。だが、濃縮「ゼロ」を求めれば、交渉が決裂する可能性が高い。

トランプ政権には、サウジとイスラエルの和平(アブラハム)合意実現で、中東の安定化を図ろうという野望もある。原子力協定はその一里塚となる。米国は野望の実現に近づくことができるのか。今後の駆け引きに注目だ。

国際政治ジャーナリスト 晴山望

【記者通信/4月18日】豪連邦選挙戦は現政権リード 電気料金を巡る応酬続くが…


53日に投開票を迎えるオーストラリアの連邦総選挙は、現首相のアンソニー・アルバニージー氏率いる労働党がリードする展開になっている。食料品や住宅、光熱費の上昇といった生活費の高負担をどう軽減させるかが争点となる中、現政権批判を繰り広げてきた自由党などの野党連合の訴えは有権者にあまり響いていないのが現状だ。自由党のピーター・ダットン党首は、同じ保守系のドナルド・トランプ米大統領に倣った政策を打ち出しているものの、有権者らの反発を招き撤回や謝罪するというドタバタ感が否めない。焦点の一つ、エネルギー政策については電気料金の軽減策をめぐって両党で激しい応酬が続いているが、両者とも歯切れの悪さが目立つ。

首都キャンベラにあるオーストラリア連邦の国会議事堂

「ふさわしい首相」はアルバニージー氏に軍配

豪州の世論調査を担うニュースポールは4月7日~10日にかけて1271人を対象に情勢調査を実施した。議会の二大勢力に絞った支持率は、労働党が52%、自由党を中心とする野党連合は48%となり、現政権が4ポイント差でリードした。この2週間前に実施した調査では勢力の差が2ポイントだったが、1週間前では4ポイントに差が広がり今回でもその差が縮まらなかった。労働党が4ポイント差をつけたのは昨年5月以来となった。

一方、「好ましいリーダー」の項目では、アルバニージー氏は49%と前回調査より1ポイント改善し、逆にダットン氏は2ポイント下げ38%となった。選挙戦が進むにつれ両者の差が開いてきている。

アルバニージー氏は経験値の高さと重要課題に理解があるという点でダットン氏よりも評価を高め、ダットン氏は「決定力と力強さがある」と評価されている。

両者は豪州全土をくまなく遊説しているが、アルバニージー氏はポロシャツ姿で地域のイベントに参加するなど親しみやすさを売りにしている。ダットン氏は常にジャケットに襟付きのシャツを装っているためか、世論調査では「思いやりがある」「感じがいい」「傲慢(ごうまん)さが少ない」など人柄の評価では、アルバニージー氏に軍配が上がっている。

野党のダットン氏はトランプ効果が裏目

政権奪還を目指すダットン氏率いる野党連合は、政治的信条が近いトランプ氏に倣った政策を打ち出している。しかし彼らの思惑通りにいかず、有権者らの反発が強まり支持率低下の原因になっている。

その典型が政府職員のテレワーク廃止公約だ。野党連合は「テレワークが労働の非効率を招いている」とし、政府職員を対象に廃止する方針を打ち出した。トランプ氏が政府の効率化を図る目的で省庁を削減するなどの手に打って出ているが、スケールは小さいものの約37万人いるとされる政府職員を約4万人削減するという公約と併せ、「非効率」を悪とする似た政策だった。

だが国家公務員の職員組合が一斉に反発した。「労働者の実態に合っていない」「デジタル社会に反する」などという声が日増しに強まり、ついには労働党が民間企業への波及に懸念を表明し、有権者の野党連合への不信感が増幅した。

今月7日、ダットン氏は「われわれは過ちを犯した」と謝罪し、テレワーク廃止方針を撤回することになった。職員削減も採用抑制などで対応するといい、一気にトーンダウンする形に追い込まれた。

豪州政治に詳しいある専門家は「トランプ効果を狙ったが、悪評が目立つトランプ大統領になぞらえる有権者が多く存在していることに気づくのが遅かったのが支持低下の一因だといえる。世論の動向を見て謝罪や公約撤回でドタバタするダットン氏を見た有権者は、彼に求めていた強いリーダーシップに疑問を持ち始めている」と評する。

【SNS世論/4月10日】三菱商事の洋上風力損失問題で考える SNS時代の広報戦略


「火のないところに煙は立たぬ」と、ことわざにいう。これは今でも当てはまる。情報の「火元」、つまり発信源の数を減らし、出す情報を少なくし、管理すると、爆発的な拡散力を持つSNSの上でも、ある問題の情報が広がらないことがある。今の時代でも発信源、第一報は、多くの場合にメディアの発信するニュースだ。ところが、そのメディアが、エネルギー問題での報道量を減らしている。メディア業界が新聞などの活字媒体からテレビまで、不況に直面している。そのために記者の担当が多すぎて、深掘りの取材、報道ができない。さらに記者の質も低下している印象がある。エネルギー業界内では注目されている三菱商事の洋上風力発電の巨額損失が、SNSであまり広がらない。そこから考えたことを記してみたい。筆者はエネルギー業界の片隅にいるが、そこから見たSNSとエネルギー問題の関係の考察が、この連載のテーマだ。いろいろ試作の材料を提供してくれる事件だ。

三菱商事の巨額損失、話題にならず

日本初の大規模洋上発電事業を、三菱商事を中心とした企業グループが、国内3箇所で準備している。ところが同社は2024年度連結決算で、この事業で522億円の損失を出してしまった。

これは国の規制緩和による公有海面の開放と入札による大規模洋上風力発電の最初の案件だった。事業者を入札したところ、三菱商事が21年に、安い価格を示して三つの海域での事業を総取りした。ところが損失が出てしまった。国は支援を検討しているが、最近の再エネへの世論の厳しさ、負担を嫌がる民意を反映した国民民主党などの再エネ批判で、事業の先行きは見えないし、その情報もない。

当然、エネルギー関係者はこの問題に関心を向ける。ところがネットでは、Yahooの株掲示板以外、この問題でそれほど盛り上がっていない。

情報を絞り、沈静化に成功?

2月の決算記者会見には中西勝也三菱商事社長が自ら出席した。事業から逃げない姿勢を示したと見られる。しかし、会見では「円安」「建設価格の上昇」「不可抗力」と言う理由の説明を繰り返すだけだった。記者の質問に中西社長はいらだつ姿勢も見せ、あまり適切な説明ではなかった。

この決算発表後に、同社の株は下がり、SNSでも同社の説明姿勢への評判は悪かった。しかし同社は別部門が好調で、株価は持ち直した。そして問題の追加情報を4月になっても三菱商事は発表していない。

エネルギー部門の三菱商事社員と話したが、「この問題では全社に取材に応じるなという箝口令(かんこうれい)が出ている。直接の担当ではないので知らない」と、拒否されてしまった。「人の噂も75日」という。2ヶ月半経過した4月、SNSでこの問題は話題にならなくなった。三菱商事側の情報統制が成功している面がある。

【記者通信/4月3日】「問答無用で再稼働反対」 新潟日報の主張はもう限界か


「日報」──。新潟県民の間でこう呼ばれるのが、県内で絶大なシェアを誇る地元紙・新潟日報だ。柏崎刈羽原発(KK)を巡っては、3月26日に国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長が視察するなど、再稼働を求める声が高まっている。「日報は問答無用で再稼働に反対しているとしか思えない報道がままある」(地元関係者)。国内外の情勢が激変する中で、その主張は限界を迎えつつある。

ビロル事務局長は視察後、「日本が経済力を維持し、安全保障を担保したいならば、原子力発電の割合はかなり大きなものであるべきだ。その点で柏崎刈羽原発は大きく貢献できる」と語った。その後、石破茂首相や武藤容治経済産業相との面会時にも再稼働の重要性を強調した。

経済界の要人の視察も相次いでいる。昨年11月に経団連の十倉雅和会長、3月22日に経済同友会の新浪剛史代表がKKを訪問。4月9日には東京商工会議所の小林健会頭の視察が予定されており、実現すれば経済3団体のトップ全てが視察したことになる。県内には電力の供給先である首都圏からの再稼働要請を求める意見があり、「一番利益を受けるのは私たち首都圏だ。もっと新潟県に感謝の気持ちを持たないといけない」(新浪氏)との発言は、こうした声を意識したものとみられる。

反原発というより反東電

こうした中、依然として再稼働に慎重なのが新潟日報だ。3月にはオンライン版に過去の連載企画を再掲。同紙は「反原発というより反東電」といわれるが、その主張が顕著になったのは2002年に発覚したKKのトラブル記録の改ざん・隠ぺい事件からだ。この頃から、東電の信頼性を問うことが大きなテーゼとなった。07年の中越沖地震での変圧器火災、11年の福島第一原発事故を受け、その流れは加速。その後の欧州の再エネ偏重路線やドイツの脱原発は、新潟日報の主張に説得力を持たせた。だが、ウクライナ侵攻や生成AIの登場で国内外のエネルギー政策が大きく変わったことで、その主張は筋が通りにくくなっている。

「電力は足りている」というが……

エネルギー政策は、安全保障、環境問題、経済への影響、技術革新、事業者への信頼性など、さまざまな論点が複雑に絡み合う。こうした中、新潟日報の主張はその一つをピックアップし、原発が必要ではない理由を、無理やりこねくり回している感が否めない。

例えば、昨年5月28日付の「[誰のための原発か]かすむ常識編<2>―『電気が足りない』は本当か?<下>国が用いる二つの数字、『危機感あおる』と批判も」との記事。ここでは電力広域的運営推進機関の試算から、東京エリアの予備率見通しは今後10年間、十分な余裕があると書かれている。この見通しを根拠に「原発が動いていなくても電力は足りている。再稼働が必要だとする国の主張は正しくない」との論を展開するのだ。一見もっともらしいが、予備率が老朽火力によって支えられていることには触れていない。原発の再稼働なしにどうやって脱炭素に対応するのか……。こんな疑問を抱いた読者は少なくないだろう。

「首都圏の電力供給を支えていることが新潟県の誇りというスタンスで書いてくれるといいのだが……」。県内の自民党関係者は不満を漏らす。7号機の特定重大事故等対処施設の完成時期延期についても、「以前から想定されていた話で、それが公表されただけ。ささいなことを、まるで大問題かのように書く傾向がある」と落胆する。

そもそも、「反東電」と「反原発」は必ずしもイコールではない。再稼働が求められる今こそ、東電には信頼回復に向けたいっそうの努力が求められる──といった論調も成り立つのだが、「日報」で目にする機会はなさそうだ。

【時流潮流/4月2日】原発はアフリカを目指す トランプ米政権と南ア対立の影響は?


新興国・途上国で原発ブームが起きている。中でも注目株はアフリカ諸国だ。昨年9月、ウィーンの国際原子力機関(IAEA)本部であった年次総会で、40近いアフリカ諸国代表が原発の早期導入を相次いで表明、会場にはどよめきの声があがった。

アフリカには現在、世界の4分の1に当たる約15億人が住む。経済成長が続き、アフリカ連合(AU、加盟55カ国・地域)は、電力消費量が2040年には今の3倍に増えると予想する。

急激なエネルギー需要増にどう対応するか。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)とIAEAは、21年からアフリカ向けマスタープランの作成を始めた。

アフリカでは現在、1980年代半にアフリカ初の原発を導入した南アフリカで2基(各94万kW)の原発が稼働しているほか、エジプト北部エルダバアで原発4基(各120万kW)の建設が進む。運開は30年予定で、ロシアのロスアトムが受注し、資金調達も手がけている。総工費は約300億ドル(約4兆5000億円)で、エジプトはその85%をロシアからの融資でまかなう。

多くのアフリカ諸国にとって、最大のネックは資金手当てとなる。エジプト並みの規模の原発導入には、国内総生産(GDP)を上回る額の投資が必要となる。実現は不可能で、小型モジュール炉(SMR)導入を視野に据える国が多い。専門家は「アフリカ諸国の原発導入まであと20年~30年はかかる」と見ている。

アフリカの巨大原発市場は、米仏や韓国企業にとっても魅力の的だ。だが、原発建設から、核燃料提供、使用済み核燃料回収、さらには融資スキームなど「一気通貫体制」とも言える手厚いサービスを築いているロシアが有利な戦いを展開しつつある。

二番手は中国だ。親密なパキスタンでの原発建設を手はじめに、タイ、カンボジアなどの東南アジアで足場を築き、その次にアフリカを見据える。一帯一路などインフラ整備などでも中国はアフリカ諸国との関係を深めており、ビジネスチャンスをうかがう。

一方、西側先進国とアフリカが対立する事件が今年2月、勃発した。トランプ米大統領は2月上旬、南アフリカに対し、事実上の経済制裁である支援大幅削減を決めた。南アで開かれる主要20カ国・地域(G20)の会議を米閣僚が欠席するなど関係悪化が目立つ。

制裁実施は、南アが米国の同盟国であるイスラエルに厳しい姿勢をとり続けていることにある。南アは23年12月、パレスチナ自治区ガザ地区に対するイスラエルの行為は「ジェノサイド(集団虐殺)」にあたると国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)に提訴した。これが尾を引いている。 とばっちりを受けたのが、マイクロソフトのビル・ゲーツ氏が率いる米国のテラパワー社だ。昨年10月、米西部に建設を始めたナトリウム冷却炉用のHALEU核燃料を南アのASP社に発注した。だが、米国と南アの対立により、この実現が危うい情勢となっている。トランプ米政権の誕生が、アフリカとの原発ビジネスにも影響を与え始めている。

国際政治ジャーナリスト 晴山望

【目安箱/3月31日】原子力に冷静な世論 次の一手をどうするか?


エネルギー問題で、それに関係するエネルギー、電力、関連産業、さらに消費者は、福島事故以来、「民意」という曖昧な存在に振り回された。その民意が、原子力に対して冷静になりつつある。その状況を利用して、どのような広報をすればいいのかを考えたい。

◆原子力のイメージは改善

日本原子力文化財団は3月に、「原子力に対する世論調査」の2024年版を発表した。結果を要約すると、原子力への否定的なイメージを持つ人は相変わらず全体の7割程度いる。一方で利用に肯定的な意見は過半数を超え、この増加傾向は2018年から続いている。また「わからない」とした意見は全世代で増加した。

この調査は07年から行われ、現在で18回目だ。発表された調査は24年の10月に、15歳から79歳までの個人に全国1200人に行った。原子力に関する世論の動向や情報の受け手の意識を正確に把握することを目的として実施している。同財団は、10年度以降の報告書データを全て公開している。

この調査で「原子力に対するイメージ」について複数回答で聞いた。「必要」は26.8%、「役にたつ」は24.8%となった。いずれも24年では対前年比では微減した。18年から肯定的イメージは緩やかに増加してきた。それが少し足踏みしたようだ。一方で「危険」は55.4%、「不安」は47.1%と割合は高いが、18年から緩やかに減少している。(図表1)

(図表1)原子力に対するイメージ。同調査より

また「今後の原子力利用に対する考え」を聞いた。「原子力発電を増やしていくべきだ」または「東日本大震災以前の原子力発電の状況を維持していくべきだ」と回答した割合は合わせて18.3%となった。一方、「しばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ」との回答が39.8%となった。両者を合わせると現時点で原子力の利用に肯定的な意見は過半数(58.1%)になっている。「即時廃止」の意見の減少は続き、同年で4.9%だった。原子力発電を現状利用すべき発電方法と考える人は増えている。

一方で原子力の利用について「わからない」と回答した割合が過去最大の33.1%に達し、14年の調査から12.5ポイントも増加した。そのように回答した理由を複数回答で問うたところ、「どの情報を信じてよいかわからない」が33.5%、「情報が多すぎるので決められない」が27.0%、「情報が足りないので決められない」が25.9%、「考えるのが難しい、面倒くさい、考えたくない」が20.9%となっている。この「わからない」と回答した割合はすべての年代で増加しているが、特に若年世代(24歳以下)の間で増加傾向が高かった。

◆情報源、若年層は学校とSNS

同調査は、「ふだんの原子力やエネルギー、放射線に関する情報源」についても調査をした。複数回答だった。「テレビ(ニュース)」が全世代で75.7%とトップ。「新聞」は44.3%と2位だ。しかし新聞から情報を得る割合は、65歳以上が71.6%である一方で、24歳以下は17.9%に過ぎなかった。

若年世代(24歳以下)は「学校」(27.2%)を主な情報源として挙げており、また、SNSを通じて情報を得る割合が、「X」で24.5%、「TikTok」で16.6%と多かった。

また青年世代(25~44歳)は検索サイトとSNS、壮年世代(44~64歳)は検索サイトとテレビの影響力が大きかった。

◆ホリエモンの提言―若年層に「刺さる」コンテンツを

この調査を受け止める人の捉え方はさまざまであろう。私は原子力を活用し、日本のエネルギーを安く、安定供給をさせたいという立場だ。その視点を入れると、「感情的な原子力への批判は薄らいだ。福島原発事故で壊れた信頼は取り戻せず、壊れたまま、人々の関心が薄れ始めた」とこれらの結果を分析している。

それでは、この状況で、原子力広報をどのようにすれば良いだろうか。ヒントになるかもしれない意見をかつて聞いた。エネルギーフォーラムのコラムでもかつて一部を紹介したが堀江貴文さん、通称ホリエモンと、原子力広報を巡って5年ほど前にあるシンポジウムで質問をしたことがある。次の提言は、今の状況での原子力広報に役立つだろう。彼はこんなことを述べていた。

「原子力のPRでビクビクする必要は全然なくて、『いいことをやっている』『世界のためになる』『Save the world!』と堂々と、事実を伝えればいい。相手の主張に弁解をするのではなく、自分でアジェンダ(論点)を設定するべきだ」

「メディアが原発を敵視し続けるなら、もう説得は諦めた方がいい。また反対派を無理に説得する必要はない。その説得にエネルギーを使うのは時間の無駄」

「過去は変えられないが、情報を上書きしていくことはできる。かっこいい情報を上書きしていく。例えば、原子力の新技術や新型炉だ。これによって社会が進歩して、みんなが幸せになったという成功例だ。反対派以外の、何も決めていない人に訴えていけばいい」

「P Rでは、理屈で攻めるよりも、まず素晴らしい具体的なモノ、それがなければワクワクする未来を見せる方がよい。何が刺さる(注目されるという意味)か、わからない。P Rのための題材は、お金と余裕のある限り、いろいろ試した方がいい。当たったらそれを掘り下げていく。真面目路線で世の中は変わらない」

実際に堀江さんは、自分のブランディングでこのように活動している。それだから、自分が証券取引法で有罪になった後で社会的に復活を遂げたのだろう。

◆「わからない」中立の立場の人に情報を届ける

原子力への不安や反感はなかなか消えない。関係者が真面目に原子力に向き合い、安全性の向上や諸問題を解決することは必要だ。そうした取り組みの上で、広報をする必要がある。

原子力への否定的な感情を社会から完全になくすことは無理のようだ。しかし冷静に受け止めている人、そして次の世代に広報を集中し、理解と味方を増やすのが、今後考えるべき原子力広報の方向だと思う。

原子力の反感が薄れ、「わからない」と考える人が増えた今こそ、面白い、前向きの情報を提供することで局面が変わるかもしれない。福島事故の反省は必要だが、そればかりに広報がとらわれる状況は、変わりつつある。

【記者通信/3月28日】原発再稼働「先送りは日本の責任果たさず」 IEA事務局長が強調


日本エネルギー経済研究所は3月27日、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長を招き、シンポジウムを開催した。ビロル氏は世界でのエネルギー需給動向などについて見解を述べる中で、日本の原子力発電所の再稼働に向け、「(原子力利用に関する)全ての懸念を理解する必要はあるが、プロセスを先送りすることは責任を果たしていないともいえる」「日本が原子力を扱わないことが許容されるという選択肢はない」と強調。再稼働の加速への強い期待を示した。

ビロル氏は前日、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を視察。柏崎刈羽が「無駄になる可能性があるという理由を知りたかった」という同氏の希望で実現し、安全対策などの状況を確認し、運転員らと直接話をしたという。

講演でビロル氏は、世界で原子力の復権がみられる状況について説明。IEAの分析では25年、原子力由来の発電量が過去最大になるとの見通しや、現在、過去30年間で最高水準となる70GW程度の原発が世界で建設されているといった情報を紹介した。

また、原子力復権の流れをけん引するのはAIやデータセンターなどを運営するテクノロジー企業で、特に小型モジュール炉(SMR)への資金投資に積極的だと強調した。

ただ、ここ数年で大型炉の新設が進んだのは中国とロシアくらいであり、先進国では建設計画が大幅に遅延する、予想の半分程度しか出資されていないといった状況がみられる。

原子力を巡るさまざまな課題の中でも特に大きいのはファイナンスの問題だと指摘。「何らかのファイナンススキームがないと、迅速な拡大は難しく、政府の支援が必要だ」(ビロル氏)と、自由化された市場に任せたままでは限界があると警鐘を鳴らした。

第7次エネ基を評価 「バランス取れた計画」

またビロル氏は、2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画の内容について「バランスが取れた計画だ」と評価した。そのポイントとして、再生可能エネルギーの重要性はもとより、原子力が重要な役割を果たすと述べていること、かつ長期的なLNG契約の重要性にも触れた点を挙げた。「多くのLNG契約が終わるが、次の波が来る。皆さんが正しい選択を選ぶ機会になる」と語った。

講演後には、ビロル氏に代わってIEAの貞森恵祐エネルギー市場・安全保障局長、佐藤裕紀・中部電力専務執行役員グローバル事業本部長、竹内純子・国際環境経済研究所理事、飯田香織・NHK解説副委員長が登壇し、エネルギーの不確実性などをテーマにパネルディスカッションを行った。

【記者通信/3月27日】東ガス・大ガス社長が同日会見 洋上風力やアラスカLNGへの見解は?


東京ガスの笹山晋一社長と大阪ガスの藤原正隆社長が3月26日、それぞれ都内で記者会見(大阪は懇談会形式)を行った。笹山氏は「持続的な企業価値向上に向けた取組方針」について説明し、資本効率改善に向けて自己資本利益率(ROE)8%のコミットメントと、2030年頃に10%以上を目指すことを改めて示した。藤原氏は2月に策定した「エネルギートランジョン2050」について動画を交えて紹介。偶然、同日に行われた会見で東西大手の共通課題や個社の課題に言及した。

企業価値向上への取り組みについて話す東京ガスの笹山社長
大阪ガスの藤原社長は記者懇談会でLNG転換の重要性を強調

両者に共通するのは、洋上風力やe-メタンなど再生可能エネルギーや新技術分野で厳しい投資環境に置かれていることだ。米国のe-メタン製造プロジェクトは「30年度1%の導管注入」を目指し、25年度に最終投資決定(FID)が求められる。両社は「単体ではLNGより高くなるのはやむを得ない。米国のインフレ抑制法や日本国内の支援策を見極めた上で投資決定することになる」(笹山氏)、「詳細設計をしっかりと行い、遅れてしまう可能性もあるが、30年に導管注入できるように最大限努力する」(藤原氏)と展望を語った。

大阪ガスは洋上風力の公募ラウンド2で、RWEなどと新潟県村上市、胎内市沖を落札した。ただ藤原氏は「コスト高に悩んでいる。2倍どころではなく、3倍になった見積り項目もある。事業継続のため、国への働きかけや顧客の獲得に向けて最大限の努力を行っている」と現状を説明。経済産業省のワーキンググループでは、三菱商事が総取りしたラウンド1など、すでに落札済みの事業で固定価格買い取り(FIT)制度から市場連動価格買い取り(FIP)制度への移行を認める方針が示された。同氏は「どうなんでしょうね」と疑義を呈した上で、「R2、R3のメンバーにも事業性を保てるような施策を官民で考えていくステージにある」と指摘。一方、東京ガスはラウンド3で英BPなどと山形県遊佐町沖を落札した。笹山社長は「長い目で見れば、日本にとってポテンシャルが高い事業。このマーケットが長期的に成長していくために必要な支援策が何かを議論しているところだ。政府の支援はありがたいが、われわれが努力すべき部分はしっかりとやらなければならない」との見解を示した。

一長一短のアラスカLNG 「物言う株主」にどう対応?

2月の日米首脳会談で言及があった米アラスカLNG事業について、藤原氏は「30年代半ば以降にも長期契約があり、急に『買え』と言われても受け入れるところはないのではないか」と指摘。また自社への影響に関しては「米国産の安いLNGが入ってくるとすれば、国内ビジネス的にはいい話だ。しかし、自社の米シェールガスプロジェクトでは、米国内LNG生産量が増えると価格が下がり、収益性が落ちる」と一長一短とがあるとの認識を示した。一方、笹山氏は「LNGの位置付けを高める意味合いがあると思っているが、今の段階では詳細設計や価格や条件がはっきりしていない」として言及を避けた。

東京ガスは昨年末、米ヘッジファンドのエリオット・インベストメント・マネジメントが株式の5%超を保有し、不動産資産の売却を迫ったことが明らかになった。こうした「物言う株主」について笹山氏は、特定株主への言及は避けながらも「長期の成長は1番重視しているが、短期的な経済性も一定程度追求しなければ、企業としてさまざまなステークホルダーの期待に応えられない」として、これまで以上に資本効率を重視する考えを強調した。

【記者通信/3月26日】一進一退のLPガス商慣行是正 官学民が不正排除へ白熱議論


4月2日に液化石油ガス法改正省令の第二弾として「三部料金の徹底」が施行される。それを前に、学識者や行政、事業者らが一堂に会しLPガス業界の現状と問題解決策について語る「LPガス問題シンポジウム」が3月26日、札幌市内で開催された。主催はLPガス料金の透明化・適正化を求め、北海道消費者協会・北海道生活協同組合連合会などが中心となって結成した「LPガス問題を考える会」。シンポジウムの模様はオンラインで配信され、全国の事業者など158人が視聴した。

LPガス問題シンポジウムで講演するエネ庁の日置室長

基調講演した橘川武郎・国際大学副学長は、「形式的に三部料金制をクリアすることよりも、いかに過大な営業行為を実質的に取り締まることができるかが商慣行是正の焦点となる」と指摘。「資源エネルギー庁が過大な営業行為の基準について、他の事業分野の事例に照らして正常な商慣習に相当するかどうかと踏み込んだ解釈を示したことは、非常に大きな前進だ」と評価した。

4月2日以降結ぶ新たな契約については、ガス料金に設備費用を計上することが禁じられる。一方で既契約については、設備費用を外出し表示することで引き続きガス料金への上乗せが可能な状態が続く。これについて資源エネルギー庁燃料流通政策室の日置純子室長は、「しばらくの間は二つの世界が併存することになるが、投資回収はいずれ終わる以上、事業者にはどのように新しい料金体系に移行していくのか考えていただく」と述べ、集合住宅の入居者が入れ替わらずとも、投資回収後は当然、新たな料金体系に切り替わるはずだとの認識をにじませた。

全国の事業者からは、さまざまな現場のリアルが寄せられた。関東地方の事業者は、「無償貸与が過大な営業行為に代わり、1件5.5万円だった謝礼・紹介料が8万、10万円とエスカレートし無法状態だ」と報告。北海道の事業者は、「本州の大手事業者が進出し、M&Aや廃業が増えている。中小事業者は将来展望が見えない」と訴えた。

相次ぐブローカーによるトラブル 解決の糸口はあるのか

ブローカー関係者が特定商取引法違反で逮捕されるなど、問題を起こすことも多い。商慣行を歪める要因の一つだとして、「事業者に属していないとはいえ、ブローカーが暗躍している実態に目を向け規制の対象にするべく踏み込んだ対応が必要だ」(橘川氏)、「ブローカー自体を規制することは難しいが、特商法、景表法(景品表示法)といった関連法規で規制していくことになる」(松山正一弁護士)などと、その在り方についてもさまざまな意見が交わされた。これに対し、日置氏は「電気事業法やガス事業法に照らし、液石法の説明責任について見なおす必要がある。とはいえ、それだけでブローカーの問題が解決するわけではなく、こうしたビジネスが成立している根本的な理由を知る必要がある」と語った。

【記者通信/3月26日】燃料油補助延長に批判相次ぐ 「完全に止め時見失った」※修正版


開いた口がふさがらない。今度こそ止めると思われていた燃料油補助金が、またもや延長される方向になったことだ。これで一体何度目の延長だろうか。政府は3月24日の経済財政諮問会議で、物価高対策としてガソリンなど燃料油への補助金を4月以降も当面継続する方針を打ち出した。同日の資料には「全国平均で185円/ℓとなるよう支援を継続」「今後の原油価格の状況を丁寧に見定めながら適切に対応」とある。この問題を巡って聞こえてくる関係者の声を紹介する。

「誤解を恐れず言えば、燃料油市場では国家公認のカルテルが行われている。この愚策を、原油価格が安定している現状でも続けていくなど、政治の無能ぶりをさらけ出しているようなものだ。実際には、185円よりも安く販売できるにもかかわらず、ターゲット価格が提示されているため、あえて値下げしないSS(サービスステーション)も少なからずあるようだ。いつ止めるの?今でしょ!というタイミングはこれまでに何度もあったが、専門家による検証作業も行われないまま、ことごとく政治側の勝手な都合で延長に次ぐ延長が行われている。原油価格がどこまで下がれば補助金をやめるのか。何兆円もの税金を投じてきた政策だけに、その指針を示すのが国の責任だが、『状況を丁寧に見定めながら適切に対応』という言葉で逃げ回っている。出口戦略は完全に見失われた」(石油アナリスト)

「国が燃料油の価格指標を示し、そこをターゲットに補助金を投入する。いまや多くのSSが同じような水準の値付けを行っており、SS間の価格競争はほぼ起きていないに等しい。円安傾向は相変わらず続いているが、原油価格はWTIで70ドルを割り込んでおり、とても高騰とは言えない状況。おかげで、石油元売り会社や特約店の収益はかつてに比べ安定している。本来なら、SS間の価格競争によって小売り相場が形成されるところ、市場の価格決定メカニズムはもはや崩壊したと言っていい」(大手石油元売り会社OB)

「そもそもの問題は、燃料油補助の直接的な恩恵が車保有者に限られることだ。そこに何兆円もの補助金を投入したところで、全国民的な物価高騰対策にはならない。まだ、国民の大半が利用している電気・ガス代への補助の方が生活安定面での効果はあると思う」(大手電力会社幹部)

「補助金継続の一方で、ガソリン税の暫定税率廃止問題が議論されている。立憲民主党と国民民主党はすでに4月から暫定税率を廃止する法案を提出したし、同様の法案を独自提出した日本維新の会も自民党や公明党と来年4月の廃止を視野に協議体で議論を深める方向だ。各党は、国民の生活安定のために暫定税率を廃止すべきというが、実質的には『ガソリン車に乗っている一部の国民の生活安定のために』と正確に主張すべきだ。少なくとも大手マスコミは、こうした問題点をもっと掘り下げて報じる必要がある」(エネルギージャーナリスト)

「カーボンニュートラル政策の観点から見て、燃料油代を国の補助金で安くする政策は、化石燃料価格を引き上げることで消費を抑制しCO2削減につなげるカーボンプライシングの政策目的と完全に逆行する。これは暫定税率の廃止も同様。石油特約店の人に話を聞いたら、補助金が燃料油販売を下支えしているのは間違いなく、EVシフトにも歯止めを掛けているのではないかという。国は脱炭素化に向けて、アクセル、ブレーキどちらを踏みたいのか、全く分からない」(環境NPO関係者)

永田町筋によれば、石破首相による商品券配布問題が予想以上に政権に打撃を与えており、今後の都議選や参院選への影響を懸念する声が与党内で高まっている。燃料油補助延長の裏には、支持率対策という隠れた狙いも見え隠れする。いずれにしても、止め時を完全に見失った燃料油補助はいつまで続くのか、また今の国際市況に基づく適正な燃料油価格は一体いくらなのか、もはや誰にも分からない。税金だけがひたすらだらだらと注ぎ込まれ、負担は後世に付け回されることになる。

【論考/3月21日】「米国第一」を日本の主体性回復の機会に


第2次トランプ・米政権は「米国第一」を掲げて登場した。自国優先の主張は、裏返せば国力の限界に対する強い感覚の表明である。国際秩序維持への米国の関与に優先順位を付け直し、それに応じて同盟・友好国に応分の責任分担を求め、共通の脅威に対する備えを再構築することが、その基底にある考え方であろう。換言すれば、他の同盟諸国が積極的により大きな役割を担わなければ、「米国第一」は成り立たない。この意味で、本来「米国第一」の成否は、新たな国際秩序に向けて、同盟・友好諸国とより率直で緊密な協調関係を築くことに掛かっている。自国の国力の限界、という認識から始める以上、多国間協調の重要性がむしろ強まるのが、当然なのだ。同盟諸国にとっても、これは本来、過剰な対米依存を脱して、自国・地域の主体性を回復する機会である。米国の負担軽減に合わせ、自国の役割と影響力を強化し得る。

乱脈な米外交政策

しかし、目下のところトランプ政権は、理不尽な施策を傍若無人に、とりわけ同盟・友好諸国に対して次々に押し付けている。国力の限界を前提とする「米国第一(America First)」を、「米国最強(America as No.1)」と言わんばかりの姿勢で追求する自己矛盾に陥っている。

パナマ運河奪還、グリーンランド買収、ガザ地区の「所有」とパレスチナ住民の追放などの無軌道なトランプ大統領発言。中国に加え、自国の自由貿易協定国であるはずのカナダ、メキシコに対する高関税。さらには各国一律に鉄鋼・アルミ製品関税を発動、4月には自動車、相互関税も課す動きにある。

対中国追加関税は既に2次に及び、対カナダ、メキシコ関税は期日直前に1カ月延期。結局3月4日に実行に移すと、その2日後には自動車を含む米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)適合品目全般を4月2日まで除外、と方針が二転三転する。

ロシアのウクライナ侵略に関しては、2月中旬にウクライナ及び欧州の頭越しにロシアと停戦交渉に入り、国連ではロシアによる全面侵略を明記しウクライナの主権・領土保全をうたった総会決議を棄権。代わりに安保理で紛争の早期終結のみを求める、実質的にロシア寄りの決議案を提出、可決させた。トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領を公然と「独裁者」と呼び、ウクライナの重要鉱物資源の権益譲渡を支援の見返りとして要求。2月末の両者による首脳会談が報道陣の眼前で決裂した数日後には、ウクライナへの武器・軍事機密情報供与を中断。これは3月11日にウクライナが米提案の停戦案を受諾して再開されたが、この間にロシア軍は同国西部・クルスク州での軍事的優位を一気に強めたと報じられている。

同盟諸国に広がる対米不信と危機感

同盟諸国は米国への不信・警戒を強め、対抗・対応措置を取りつつある。カナダは段階的な対米報復関税を発動。オンタリオ州政府も独自で米向け電力料金の上乗せを決め、これはその翌日に米側の再報復措置ともども回避されたが、同州からの対米電力供給遮断にまで発展する危険もあった。トルドー元首相はトランプ大統領が本気でカナダ併合を狙っているとまで発言。カナダが米国を脅威として身構える、異常事態である。EUも段階的な対米報復関税を発動。今やカナダとEUは、中国と同様に対米報復に立ち上がる側にいる。

トランプ政権の目論見がどうであれ、米国が課す広範な関税は国内物価を押し上げ、また各国の報復関税は当該品の輸出を阻害して米国の生産者に打撃を与える。それが顕在化するのは時間の問題であり、不満が政権支持層にまで広がれば、稀代のポピュリスト政治家トランプ氏であるだけに、高関税政策を一気に取り下げる展開も十分あり得よう。しかしそれまでの間、米国と同盟諸国との間の相互不信は一層深まる。

ウクライナを巡り、トランプ政権はロシアによるクリミア併合を既成事実として容認する姿勢を取る。米露間の協議も、大筋でロシア側の要求する東部4州併合の容認、ウクライナの中立化及び非武装化の方向で、進められると観測される。事実、3月18日の米露首脳電話会談でも、停戦合意は対エネルギー施設に限られ、交渉の主導権がロシア側にあることを伺わせた。いわばウクライナが米国に公然と見捨てられつつあり、欧州の受ける衝撃は大きい。

3月6日、欧州理事会(EU首脳会議)はフォンデアライエン欧州委員長による「欧州再軍備計画」を概ね承認。これはEU財政ルールの特例を発動してまで約8000億ユーロの防衛費確保を図るもので、声明では「変動する環境下に於ける、ロシアによるウクライナ侵略戦争とその欧州および世界の安全に対する影響」をEUの存亡に関わる問題と規定している。これに符合して、3月18日にはドイツ連邦議会が防衛費の大幅増額を目的に、「債務ブレーキ」を緩和する憲法改正案を可決。次期首相就任が確実視されるメルツ・CDU党首も、欧州の「米国からの独立」を漸次目指すとしている。

【目安箱/3月19日】洋上風力つまずき打開の鍵を握るのは?


三菱商事を中心にした洋上風力事業が2月に巨額の損失を発表した。これを救済するのは公的支援の充実だが、それを左右する民意が再エネに冷たくなっている。再エネビジネス全体の環境も厳しい。状況を打開できるのだろうか。

◆三菱商事が巨額特損を発表

政府は2021年12月に3カ所の海面、170万k Wの設備容量での洋上風力事業者の入札結果を発表した。最初の政府管理の海面での風力事業を許可した案件だ。ラウンド1(R1)案件と言われる。三菱商事を中心とした企業コンソーシアムが3カ所を総取りし、注目を集めた。

ところが今年2月6日に三菱商事は第3四半期決算を公表し、この事業で522億円もの特別損失を計上すると明らかにした。グループ企業が加わる中部電力も3日、洋上風力関連で179億円の特別損失を計上した。

三菱商事の中西勝也社長が、この決算発表の記者会見に自ら出席した。同社長が役員時代から育てた同社のエネルギーグループの最重要案件であり、会社として取り組むメッセージの意味を持たせるために自分で説明しようとしたのだろう。しかし会見で中西社長は「インフレ、コスト増加が押し寄せてしまった」と不可抗力を理由にし、「事業性を再評価」と繰り返した。その結果、この会見で事業の先行きの不透明さが目立ってしまった。記者やアナリストは同社の対応に批判的だった。しかし同社は業績全体が悪くないことから、何とか株価は持ち直している。

◆逆風が吹く再エネ、支援策は遅れ気味

政府は再エネを脱炭素の電源として重視している。2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、現在の電源構成で約2割を占める再エネを、2040年度に4〜5割まで増やす目標を掲げた。その時の再エネのうち半分強が洋上風力になることを期待している。今は少量の洋上風力を、30年10 GW(1GW=100万kW)、40年には浮体式を含め30~45 GWの案件形成を図るとの数値目標も出た。

ところが、再エネに逆風が吹いている。欧米先進国を中心に、インフラ産業、重要産業において太陽光・風力・蓄電池の製造を担う中国外しの動きが広がる。その影響で、風力をはじめ、再エネのサプライチェーンが混乱し、各国で機器の値段の上昇や納期遅れなどの問題が生じているのだ。トランプ米大統領とその政権は、洋上風力の開発の見直しを指示するなど、風力や再エネに冷たい。

中西社長の歯切れが悪かったのは、R1事業の再建策が政府の意向次第であるためのようだ。洋上風力の最初の大規模案件であるため、政府は失敗させたくない。この事業の収益の方法は固定価格買い取り制度(FIT)に基づくものだ。報道によると、政府はそれを市場販売の際の補助金を受け取るFIP(市場連動価格買い取り制度)方式への変更を検討している。また売電価格で物価変動を考慮する方法も考えている。しかし与党の政治家らの反応は鈍く、まだ3月初頭時点で方向は定まらない。

◆再エネに冷たい国民、選挙前に逃げる政治家

関係筋によると、このR1では政治の支援の動き、特にこれまで再エネを支援してきた自民党の動きが鈍い。このR1の入札後に賄賂をもらって制度変更の工作をしたとして秋本真利衆議院議員(当時)が逮捕され、現在、受託収賄で起訴されて公判中だ。

さらに再エネ振興に熱心だった衆議院議員の河野太郎、小泉進次郎両氏の国民的人気が陰り気味だ。一議員の時は再エネ振興と脱原発を唱えた石破茂首相も、エネルギー政策で自発的に動かなくなった。

この洋上風力を支える原資は電力料金に加え、料金から徴収される再エネ賦課金だ。ここ数年のエネルギー価格の上昇を背景に、高い電力料金を嫌がる声が、負担する電力利用者である国民や企業に広がっている。2024年度の再エネ賦課金の総額は約2兆6897億円と巨額だ。国民民主党や新興勢力の日本保守党、参政党がその巨大な負担を問題視している。25年夏には参議院選挙もある。政治の動きが鈍くなったのは、再エネに冷たくなった民意が影響していそうだ。

◆「お客様に救われた」、あるネット証券元幹部

あるネット証券の経営者の知人がいる。この人はネット証券大手の番頭格だった人で、カリスマ社長の下で1990年代のネット証券の草創期から関わった人だ。ビジネスを今は引退している。母がR1で沖合に洋上風力の作られる銚子出身で、同地に親族が多いという。

ネット証券業界も、この会社も、何度も危機に直面した。しかし、この人は「お客さまに救われた」という。当初はネット証券に証券業界が敵意を持って妨害し、大蔵省(当時)など規制当局も冷たかった。ところが顧客がネット証券の安さ、手軽さを支持した。すると取引の低迷に悩んでいた証券業界も当局も意見を聞き、協力するようになったという。

「洋上風力に、状況を動かし、応援してくれる『お客さま』がいるだろうか」とその人は指摘した。これは政府の意向次第のビジネスだ。「地元銚子も、補償金のもらえる漁協と一部の建設会社以外、洋上風力への歓迎は弱い。お金が地元に落ちないからだ」という。「再エネは補助金が絡む一種の官公庁ビジネス。問題が起きても機動的に動けない」と心配する。

確かに、この洋上風力ビジネスには「お客さま」と言える、このビジネスで利益を得て費用を負担する多くの受益者の存在が見当たらない。さらなる負担や制度の事後的変更を、原資を出す有権者でもある電力ユーザーが納得するだろうか。エネルギー業界は消費者と長年向き合い、特に電力は原子力問題で世論からこの10数年厳しい批判を集めた。そのために民意との向き合い方、そのビジネスへの影響の怖さを知っている。しかし企業向けのビジネスの多い三菱商事、また原子力と違って批判がなかった経産省、国土交通省の再エネ部門は、この事業が暗転するまで、その民意を考える機会が少なかっただろう。今から、この事業や洋上風力の必要性を国民全体に説得するのは大変だし、政治家や有権者に好意を持ってもらえるだろうか。

◆受益者の声を聞いて制度と事業の再構築を

再エネの中で、洋上風力は日本で伸びしろのある領域だ。しかし目先の事業環境は厳しい。どうしても再エネや洋上風力を増やさなければならないという発想を離れ、これら社会での受け入れられ方を、関係者で考えることが必要ではないだろうか。そこでの問題解決の鍵は、電気を使う消費者の意向をどのようにビジネスと制度に組み込むかだろう。

再エネを整理し、無理に拡大しないという方向が現時点で、社会状況、合理性、そして民意に沿った結論であると、私は考えている。民意の支えのない国の事業には限界がある。そして三菱商事と国のこの事業の再設計も、その方向の中で解決の道が見つかるのではないかと思う。迂遠に見えるかもしれないが、「急がば回れ」だ。

【SNS世論/3月18日】第7次エネ基を巡る反対キャンペーンの失敗


日本政府は、エネルギー政策の方針を示す第7次エネルギー基本計画を2月18日に閣議決定した。これに活動家、環境派は反対キャンペーンを熱心に行った。しかし、それは大きな力にはならず、政府の方針を覆せなかった。SNSを観察すると、この結末は予想できた。

◆現実的になったエネ基

第7次エネ基では、原子力発電の活用、経済安全保障などへの配慮が増えた。さらに、2021年に策定された第6次計画まで記載された「(原子力の)依存度を可能な限り逓減」という文言が消えた。また温室効果ガスでは、2035年度に2013年度比で60%、40年度に同73%削減して、50年度にカーボンニュートラルを目指すとしている。

SNSを観察すると昨年12月にエネ基の原案が出てから、賛成、反対の世論は盛り上がらなかった。世論を「リベラル」「保守」と2分類で単純化すると、X、LINE、Facebook、インスタグラムなど、日本で流行するSNSでは、やや保守寄りの言説の量が多いように思える。日本では既存メディアがリベラルに傾いており、その反発のためだろうか。日本の保守の傾向は、エネルギーでは原子力活用で、エネルギー自由化と再エネ、そして過度な気候変動への対策には否定的だ。当然、このエネ基の方針転換を歓迎した。

それよりも大多数の国民にとって、エネルギー・電力価格の高騰で、現実にダメージを受けている。そして政治的な側面からのエネルギー問題には中立だ「あるサラリーマン」とXのプロフィールに書いていた人は、そこでエネ基の原案発表直後に「原子力を使い、電気料金が下がればいい」と感想を述べていた。「石破内閣支持41%、5ポイント低下 原発活用「賛成」55%-日経世論調査」(2024年12月22日)など、世論に原発への感情的な拒否は近年なくなっている。だからこそ政府も政策を切り替えたのだろう。

◆反原発、気候正義、双方からの批判

ところが、この計画は反原発の立場の人、「気候正義」論を振りかざし強い温室効果ガスの排出規制を唱える環境運動家には不評だった。

反原発運動の「老舗」である原子力資料情報室は批判する図表をSNSで流し続け、彼ら主催のセミナーやデモに呼び込もうとした。また海外NGOの支部のFoEJapanは、若い大学生の短い映像を、XやTikTokで流し続けた。この2つのSNSを見ると、反原発運動や環境運動で、活動家の中心世代が変わっているようで興味深い。

2つの団体はSNSでの発信を、YouTubeのコンテンツに誘導し、パブリックコメントの提出やデモの参加を呼びかけていた。しかし彼らのXの閲覧数を見ると、多くて1000程度。YouTubeの視聴回数もその程度だった。SNSやネットコンテンツでは、それほど多いとは言えない数だ。

今回のエネ基では、パブリックコメントの数は4万1000を超え、過去最高という。反原発を掲げる朝日新聞は、それを根拠に「エネ計画、原発回帰鮮明」(25年2月19日)という記事で国民の批判が多いと強調した。

しかし興味深い報道もある。毎日新聞の同20日の記事「パブコメ、46人が3940件 エネ基 AI利用か 全体1割」によると、少数者が大量に意見を提出し、1人が457件を投稿する例もあった。民意の実態は怪しい。活動家が組織的に動いた疑いがある。このSNSの活動と連動していたのであろう。

しかし、それらは無理に作られたもので、国民全体の世論のうねりとはならなかった。

◆世論の関心は価格、政治主張は好まれず

東京電力福島第1原発事故の後で、世論は原発に懐疑的になった。しかし近年はウクライナ戦争、中東の動乱など国際情勢やエネルギー供給の先行きが不透明になった。米国では気候変動対策や米民主党の「グリーン・ニューディール」を否定するトランプ政権が誕生した。

賢明な日本人の多くは、脱原発よりバランスの取れたエネルギー供給体制の構築が今は必要と気づいている。また気候変動への対策は必要と理解しながら、非合理的な負担を馬鹿馬鹿しいと考えている。

前述のSNSのように、エネルギー問題で一般の人には「価格」が重要な論点だ。政治主張にはあまり関心がない。それなのに、活動家やメディアが、反原発や気候変動に固執する。これでは人々の共感は得られない。

世論の指示がない政策づくりは、民主主義国では難しい。今回、活動家界隈のキャンペーンは成功とはならなかった。それはSNSがすでに伝えていた。そして一時的なSNSの発信だけでは民意は作れなかった。

◆世論の雰囲気を示すSNSをしたたかに活用

一般国民に、新聞・メディアへの不信が強まっている。兵庫県知事選、ジャニーズ問題などでは、報道と逆の方向に民意は動いた。SNSだけが、物事を決められるわけでも、世論を作るわけではない。しかし、そうした世論の動向を探る有効なツールである。

既存メディアや政治家は、敵意を持ってSNSを攻撃する。確かにSNSに流れる情報は危うさがある。しかし、それをしたたかに活用するのが、エネルギー関係者がするべきことだろう。

この10年、福島原発事故以降、エネルギー業界は、世論と一部の人が唱える怪しげなものに振り回され続けた。それを観察する手段としてSNSを活用するべきだ。エネ基をめぐりSNSは、活動家の作り出そうとした混乱が失敗するであろうことを事前に教えていた。

【目安箱/3月18日】エネルギーでもう一歩踏み込んでよかった日米首脳会談


石破茂首相が米国を訪問し、2月7日にトランプ米大統領と会談した。首相自ら、そして政府・自民党関係者は成功と繰り返す。ところが通訳を入れた会談時間は30分と報道され、あまり深い話し合いはできなかったようだ。そしてトランプ大統領が関心を示したエネルギー問題について、もう少し日本側は積極的に話し合ってもよかったのではないか。

公開されている「日米首脳共同声明」では米国から日本への液化天然ガス(LNG)の輸出が強調されていた。また原子力での提携も言及した。以下がその部分だ。

「両首脳は、米国の低廉で信頼できるエネルギー及び天然資源を解き放ち、双方に利のある形で、米国から日本への液化天然ガス輸出を増加することにより、エネルギー安全保障を強化する意図を発表した」

「先進的な小型モジュール炉及びその他の革新炉に係る技術の開発及び導入に関する協力の取組を歓迎した」

ただし両者の関心が少し違う。トランプ大統領は、天然ガスだけではなく石油もあり、アラスカの石油・ガスを開発すれば米国はサウジアラビアに匹敵する生産量になる、と言及した。

石破首相は、石油に特に触れず、天然ガスに加えて、アンモニアとエタノールの輸入があると言及した。これに対してトランプ大統領は、エタノールはアイオワ州の農家などが供給できると述べたが、アンモニアについては触れなかった。

また両首脳は、記者会見、共同声明で気候変動問題には触れなかった。米国は第二次トランプ政権になって気候変動対策の対策を各国に定めるパリ協定を脱退しているが、両国の政策が違うので、あえて触れなかったのだろう。

日本は米国に1兆ドルの投資をするとも石破首相は会見で述べた。もちろんこれは日本の民間を中心にする投資でどこまでできるか不透明だが、トランプ政権が化石燃料の採掘エネルギーシフトを鮮明にしている以上、エネルギーインフラ作りに使われるだろう。

◆日本の「成功した」との自称は本当か?

首脳会談ではトランプ大統領の石破首相へのよそよそしさが目立った。安倍晋三元首相とトランプ大統領は深い交際で知られた。それとは対照的だった。一般の人々の意見を映すネットの書き込みでは、そのために「うまくいかなかった」との評価もある。しかし日本側に大きな失点はなかったようにも思える。

ただしトランプ大統領が「エネルギー輸出に関心を持っているので、その話を盛り上げた方が良かった」と、筆者の周りのエネルギー関係者は残念がる。安倍政権から岸田政権まで、エネルギーに詳しい政治家や経産省関係者が政権の中心にいた。しかし石破政権にはそのような人が見つからない。そして石破首相は個人的に、エネルギー問題にそれほど関心ないようだ。

トランプ大統領は1月の大統領就任演説で、「エネルギー非常事態宣言」を行い、インフレを止めるために化石燃料の活用、さらに化石燃料を「地下に眠る黄金」と呼び、その採掘と活用、輸出による米国と米企業の利益確保を呼びかけた。それほどまでエネルギーにトランプ氏の関心があるのだから、石破首相は応じた対応をしてもよかった。

日本は今、政治的に不安定な中東にエネルギー輸入が偏在している。さらにその輸入は、日本と政治的に対立する中国が軍事的存在感を増す南シナ海、東シナ海を通る。もちろんエネルギーの輸入の増加は簡単にできるものではない。しかしこの問題で、将来の布石として、現在の米政権や米国民との関係強化の提案を行えたのではないか。米国からのエネルギー輸入を実現する調査や、また米国が増産に努める植物由来のエタノールの輸入や日本でのエネルギーへの導入などを話すべきだったと思う。

◆脱炭素か、米国産化石燃料の使用か

そして、ここで問題がある。日本のこれまでの脱炭素政策と、日本が米国産の化石燃料を利用する政策は明らかに矛盾を生じる。日本政府は第7次エネルギー基本計画を2月に閣議決定した。同案では2013年比で2035年にCO2を60%減、50年にCO2ゼロという脱炭素目標が書きこまれている。バイデン政権の時には、米国も2050年CO2ゼロと宣言していた。しかし、トランプ政権がその目標をなくしたため、日米は全く違う方向になっている。

ここで、日本は脱炭素・気候変動対策と、米国の化石燃料の使用という二つの政策の間の優先順位を決めなければならない。

実は答えもこの共同文書に事実上書き込まれている。今回の日米共同声明では、「自由で開かれたアジア太平洋」を護るための協力を深化することに、もっとも言及量を割いてあった。これは対中国への安全保障政策を、米国と日本は協調して進めるということだ。安倍晋三政権と第一次トランプ政権の方針を、石破政権も継承した、ということである。

当然、エネルギー政策も、その大きな戦略の中の一環になる。米国からの資源調達は、その同盟と協力関係を深めることになる。また米国からのエネルギー調達を増やせれば、日本の海上交通線の敵国からの攻撃リスクを減らすことになる。

その大きな決断をしたことを、石破首相と官僚たちは分かっているのだろうか。曖昧というのは賢明な態度と思っているのかもしれない。しかしそれは国策に将来矛盾になるかもしれない。

◆今すぐ、政策の矛盾を洗い出せ

イタリアのルネサンス期の思想家ニコロ・マキャベリは次のように中立政策を批判する。

「断言してもよいが、中立を保つことは、あまり有効な選択ではないと思う。中立でいると、勝者にとっては敵になるだけでなく、敗者にとっても助けてくれなかったということで敵視されるのがオチなのだ」

(「君主論」から、「マキャベリ語録」新潮社、塩野七生訳)

日本と米国は同盟という関係だが、その中のエネルギー問題への姿勢は「中立」といえるように曖昧さを残す。そのような態度は、米国からも、気候変動政策を強く進めるEU(の中の一部の国)とも、おかしな関係を生んでしまう可能性がある。

いうまでもないが、日本の今喫緊の課題は米国との協調によって、日本周辺の東アジアでの中国、その関係国であるロシアや北朝鮮の暴発を止めることである。そしてそれは日本国民の安全を確保し、大多数の国民から支持をされる政策だ。その中の一部としてのエネルギー政策を活用してほしい。日本に対してだけではなく、米国が世界中の同盟国・友好国に対してエネルギーを供給することは、中国に対抗する重要な手段となる。その値段が安く、安定供給されれば、日米共に利益になる。

石破政権はこの会談の結果について、「成功」と怪しげなPRをすることよりも、もっとするべきことがある。脱炭素政策と、米国のエネルギーを活用する政策の衝突点を洗い出し、安全保障の目的に則して政策を修正することだ。

そして米国の信頼を繋ぐために、日本の利益のために、もう一歩踏み込んだエネルギーの提案をするべきだった。今からでも新提案はできる。