【記者通信/10月4日】石破首相が所信表明 エネコスト上昇に強い社会実現へ


石破茂首相は10月4日、衆参両院本会議で就任後初めてとなる所信表明演説を行った。この中で、経済・財政政策について「デフレ脱却」を最優先に実現するため、「経済あっての財政」との考え方に立った経済・財政運営を行う意向を強調。「コストカット型経済から高付加価値創出型経済へ移行しながら、持続可能なエネルギー政策を確立し、イノベーションとスタートアップ支援を強化」する方針を示した。その上で、直面する物価高対策に言及。低所得者世帯への支援や、地域の実情に応じたきめ細かい対応、構造的な対応としてのエネルギーコスト上昇に強い社会の実現などを通じて「物価高の克服」に取り組むとした。エネルギー政策に関する発言要旨は次の通り。

初の所信表明演説を行う石破首相(首相官邸ウェブサイトより)

「エネルギーの安定的な供給と安全の確保は喫緊の課題。AI時代の電力需要の激増も踏まえつつ、脱炭素化を進めながらエネルギー自給率を抜本的に高めるため、省エネルギーを徹底し、安全を大前提とした原子力発電の利活用、国内資源の探査と実用化と併せ、わが国が高い潜在力を持つ地熱など再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜く。このため、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の取り組みを加速させ、アジア諸国の多様な取り組みを日本の技術力や金融力で支援し、同時に、アジアの成長力を我が国に取り込んでいく」

なぜ「高い潜在力を持つ地熱」に言及?

この演説を聞いた電力業界幹部は、エネルギーフォーラムの取材に対し、「エネルギー自給率を抜本的に高めるための方策として、原子力発電の利活用を第一に掲げた点は大いに評価できるとして、不思議なのは再エネに関して、代表的な太陽光や風力ではなく、あえて地熱に言及したこと。それも『高い潜在力を持つ』という修飾語付きで。これが何を意味するのか、大いに気になるところだ」と感想を述べた。

【記者通信/10月4日】合成燃料で国内初の一貫製造 ENEOSが量産化へ一歩


自動車や航空機などの脱炭素化を促す切り札として有望視される「合成燃料」の生産が国内で始まった。合成燃料は、石油元売り大手のENEOSが横浜市中区の中央技術研究所内に建てた実証プラントで原料から一貫製造する。運転を通じてプラントの大規模化に向けたノウハウを蓄積し、量産化に向けた道を切り開きたい考えだ。

テープカットに臨むENEOSホールディングスの宮田社長(右から5人目)ら関係者

グリーン水素とCO2を原料に

今回の実証プラントは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「グリーンイノベーション基金」の支援を得て建設した。生産能力は日量1バレル(約159ℓ)と限られているが、合成燃料を一貫製造できるプラントは日本で初めてという。

9月28日には、ENEOSが研究所で実証プラントの完成式典を開き、報道陣らに公開した。式典には国会議員も駆け付け、給油や走行を体験。来賓の祝辞で登壇した菅義偉元首相は、「合成燃料は、日本から世界に発信することができる次世代燃料だ。大量生産に向けてステップアップすることを期待したい」とエールを送った。

合成燃料の原料は、工場の排ガスや大気から回収したCO2と再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」。敷地内には、グリーン水素を製造する設備に加えて、空気中のCO2を回収する装置「 DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)」も設けた。

具体的にはまず、その設備で得られたCO2と水素から合成ガスを製造。さらに、CO2を分離した合成ガスを原料に「フィッシャー・トロプシュ(FT)反応」と呼ばれる工程で液体炭化水素(合成粗油)をつくり、最終的な製品に仕上げる。機器や配管が複雑に入り組んだFT反応エリアに入ると、高さ約7mの反応設備が存在感を放っていた。

存在感を放つFT反応設備

「普通のガソリン」がターゲット

実証プラントでは、製造コストの低減に向けて反応工程の性能を高めるとともに、プロセス全体の高効率化を追求する計画だ。ENEOSホールディングス(HD)の宮田知秀社長は式典で、「継続して技術を進展させるとともに、どうやったらリーズナブルなコストでつくれるかを徹底的に追求していきたい」と強調。「普通のガソリン」と変わらない存在をターゲットに実績を積み上げることに意欲を示した。来春開幕する2025年国際博覧会(大阪・関西万博)では、製造した合成燃料で大型車両を走らせるデモンストレーションを予定しているという。

実証プラントの完成式典で合成燃料を給油するENEOSホールディングスの宮田知秀社長(左)と、来賓の甘利明衆議院議員

クリーンな液体燃料である合成燃料は、燃料流通に必要な既存インフラをそのまま活用できるため、運輸部門の脱炭素手段として期待を集めている。ただ、現在の合成燃料の製造コストは1ℓあたり約300〜700円と、市販ガソリンを大きく上回る。グリーン水素の調達コストがかさむことが主因で、普及に向けては相応の時間がかかりそうだ。すでにENEOSHDは、国の方針に歩調を合わせながら合成燃料の導入拡大やコスト低減に取り組み、40年までに商用化するロードマップを描いている。

【記者通信/10月3日】武藤容治氏が経産相就任 エネ政策の考え方や人物像は?


石破茂内閣で新たに就任した武藤容治経済産業相が10月2日午前、初登庁し斎藤健前経産相との引き継ぎ式を行った。経済産業副大臣や自民党の経済産業部会長、総合エネルギー戦略調査会の事務局長を務め、エネルギー政策に精通している武藤氏。午後の就任会見ではGXに伴う脱炭素電源確保の重要性や岸田路線の継承を強調するなど、安定感を感じさせる滑り出しとなった。

斎藤氏から経産相を引き継いだ武藤氏(左)

「私もずっとやってきたが」──。就任会見では記者から質問が飛ぶと、こう前置きした上で答えるシーンが目立った。経済政策に対して深い理解を持つ、という自負の表れだろう。ある自民党議員は武藤氏について、「原子力を含めたエネルギー政策への理解が非常に高い。岸田政権の路線をしっかりと継承してくれるはず」と期待を寄せる。

会見ではエネルギー政策全般について「電力需要の増加する中で、脱炭素電源の確保はわが国の経済成長を左右する重大な要素。この認識は石破総理と共有している」との見方を示した。議論が進む第7次エネルギー基本計画については「再生可能エネルギーもやるが、安全性を前提とした原子力の最大限利用は当然のこと」と力強く語った。さらに原子力の産業政策面での重要性も強調。「次世代革新炉などが出てきた中で、研究者が育ってこないという声も聞いている。日本の大きな産業の一つが衰退してしまい、中国・ロシアにやられてしまう」と危機感をあらわにした。

武藤氏は麻生派の68歳で当選5回。外相や通産相などを歴任した武藤嘉文氏の次男で、祖父の武藤嘉門氏も岐阜県知事を務めた政治家一家の出身だ。今回の総裁選では、麻生派ということもあり、環境相に就いた浅尾慶一郎氏らと共に、河野太郎候補の推薦人となったが、エネルギー政策に対する考え方では河野氏とは明らかに一線を画す。引き継ぎ式では冗談を交えながら終始笑顔。「気さくな性格で人望が厚い」という評判に間違いはなさそうだ。

【メディア論評/10月3日】石破新首相のエネルギー政策を巡る報道を読む


10月1日、石破茂元自民党幹事長が新しい首相に就任した。前回の原稿では、「エネルギー(原子力)政策、複数の候補のスタンス」を紹介したが、今回は改めて石破茂新首相のエネルギー(原子力)政策についての思考をみてみたい。 

◆石破氏の言説についてのメディアの報道

9人が立候補した自民党総裁選では、小泉進次郎、河野太郎の両氏が(3年前の前回総裁選の頃の言動との違いが極端だが)原発容認に転じたこともあって、エネルギー政策(原子力)については大きな議論になったとは言えなかった。

1.総裁選・社説でのエネルギー政策の取り扱い

エネルギー政策が社説で取り上げられたのも総裁選後半からであった。

日経新聞9月21日付〈原発も活用し安定供給と脱炭素の両立を〉〈混迷する地政学情勢や「地球沸騰化」のなかで、エネルギー政策の重要性は一段と増している。次の政権は原子力発電所の再稼働を進め、安価で安定的なエネルギー供給と脱炭素の両立を図るべきだ。2011年の東京電力福島第1原発事故以降の「脱原発」を、岸田文雄政権は再推進へ反転させた。再生可能エネルギーの導入拡大と併せ、準国産エネルギーで運転中に温暖化ガスを出さない原発も、安全最優先での利用が欠かせない。人口減で漸減とみられていた電力需要が、デジタル技術の普及で一転急増する可能性が高まったことも、原発活用へ背中を押す。……石破茂元幹事長は再生エネの導入加速で「結果として原発のウエートを下げる」としながらも、安定電源としての重要性は認めている。……十分な電力供給がないと、データセンターや半導体などの成長産業が海外へ逃げてしまう。(各候補者で)濃淡はあっても、原発活用という現実解に向き合う姿勢は評価できる。当面の試金石は東電柏崎刈羽原発の再稼働だ。岸田首相は新潟県が求める避難路整備などの対応を関係省庁に指示し、優先課題として引き継ぐ姿勢を明確にした。同原発は首都圏の電力需給逼迫の解消に重要な役割を担う。立地住民の理解を得るため、次期首相には先頭に立つ覚悟を求めたい。ただし原発は万能薬ではない。現政権は既存原発の運転延長や建て替えに道を開いたが、新増設に向けたハードルは高く、核燃料サイクルや使用済み燃料の最終処分の行方も不透明なままだ。福島第1原発の廃炉や地域復興も着実に進めねばならない。次期政権は原発に対する国民の信頼回復に努力しつつ、再生エネの発電量変動を補うための蓄電池や送電網の増強、火力発電の脱炭素技術の実用化など、全方位の取り組みを続ける必要がある。指針となる次のエネルギー基本計画や脱炭素社会に向けた新たな国家戦略は、年内策定を目指して議論が進む。次期政権はそれらを決定し、実行する責務がある。〉

読売新聞9月23日付〈経済成長を主導する構想示せ〉〈国際的な存在感を再び高めるため、日本経済をどうやって本格的な成長軌道に乗せるか。自民党総裁選の各候補は、大きな構想を示すべきだ。……エネルギー政策も主要なテーマとなる。脱炭素を進める一方で、経済成長を続けるためには安価で安定した電源が不可欠だ。……ほとんどの候補は原子力発電の活用に積極的だ。一方、石破氏は、再生可能エネルギーの推進によって、結果として原発の比率が下がっていくとの考えを明らかにした。だが、それで電力の安定供給が図れるのか。説得力のある将来の展望を提示してもらいたい。〉

2.出馬表明以降の石破氏の言説についてのメディアの認識

出馬表明以降の石破氏の言説については、当初(8月24日の鳥取での出馬表明時)に「原発はゼロに近づけていく努力は最大限にいたします」と述べ、その後(8月26日ぶら下がり)に「私は原発反対と言ったことは一度もありません」といったことなどで軌道修正をしたととらえるメディアもあった

各紙の記事内容

〇毎日新聞9月14日付〈……石破氏は、東京電力福島第一原発事故で「原子力災害はいかに恐ろしいかを思い知った」と指摘。地熱などの活用で「結果として原発のウエートを下げることになっていくが、そのこと自体が目的ではない。原発の安全性を最大限に高め、引き出せる可能性は最大限に引き出す」とした。〉

〇産経新聞9月19日付〈……石破氏は、出馬会見で「原発をゼロに近づける努力を最大限する」と他候補と一線を画す姿勢を表明したが。9月14の討論会では「安全性を最大限に高め、引き出せる可能性は最大限に引き出すのは当然だ」とトーンダウンしている。〉

〇読売新聞9月23日付〈……「(原発を)ゼロに近づける努力を最大限にする」としていた石破茂元幹事長も9月21日、記者団に「必要な原発の稼働は進めていかねばならない」と述べた。……(共同)〉

確かに、「原発はゼロに近づけていく努力は最大限に」と述べ、その後「原発反対と言ったことは一度もない」と述べているが、ただ、いずれの場合もその言葉の前後で言っていることは大きく変わらない。

●当初(8月24日の鳥取での出馬表明)

〈原発はゼロに近づけていく努力は最大限にいたします。再生可能エネルギー、太陽光であり風力、小水力、そして地熱、こういう可能性を最大限引き出していくことによって、原発のウエートは減らしていくことができると思っている。私は単に原発減らせということを叫ぶだけでなく、そのための方途を最大限に活用することによって実現するものだと考えております。〉

●8月26日ぶら下がりオン

防衛の仕事をしていたときに、原子力発電所に戦闘機が突っ込んだらどうする、ミサイルが飛んできたらどうする、中身は申し上げないが、決して万全とは私は思っていません。その脆弱性をきちんと克服する努力は絶対に必要です。そして、地熱であり小水力、そういうものに対するウエートは上げる努力を最大限にしていくべきものだ。AIの発展で電力がものすごくかかるということは十分承知をいたしております。(一方、)電力消費を半分ぐらいにする半導体の生産、そういうものが今着々と進んでいる。いかにして使う電力、エネルギーを抑えていくか、いかにして原発を持っている脆弱性を克服するか、そして再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に生かすかということの解として、原発がどれだけなのかということが出てくるのだと私は思っています原発の安定的なエネルギーとしての優位性は百も万も知っています。私どもの近くにも島根原発があります。私は原発反対と言ったことは一度もありません。原発の安全性を最大限まで高めるという努力は決して怠ってはならない。そして、いかにして電力を使わない社会を作ることができるか。そのような組み合わせで解が得られるものであって、スローガン的に原発ゼロとか、そういうことを申し上げるつもりは私はございません。〉

◆自民党原子力リプレース議連調査に関する回答

「自民党脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」(稲田朋美会長衆参議員約70人で構成)は、脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース(建て替え=廃炉+新増設)、そして「原子力立地に寄り添う」政策の推進に向けた活動を行っている。同議連は、前回の総裁選でも行ったように、立候補予定者に原子力に関連する公開アンケートを行い、その結果も公開した。

~自民党脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟 各総裁選候補者へのエネルギー政策調査~滝波宏文事務局長フェイスブックより

●政策に前向きな順に◎・〇・△ 

●石破氏は個別でなくまとめて回答(後掲参照)

1.わが国におけるエネルギーの現状を踏まえた、原子力を含む現実的かつ責任あるエネルギー政策の推進

・石破氏の回答への評価:〇←「安全を大前提とした原発の利活用」

2.脱炭素社会実現と国力維持・向上のために必要な、わが国の原子力技術・人材・立地を保つ、最新型原子力炉によるリプレース実現

・石破氏の回答への評価:(〇)←「新増設を含めあらゆる選択肢を排除せず」

3.次期(第7次)エネルギー基本計画には、(サイトごとではなく)事業者ごとのリプレースの解禁、「可能な限り低減」の削除などを含めた、原子力を実効的に最大限活用する内容を盛り込む

・石破氏の回答への評価:(△)←「検討の途中段階であり、現時点では予断を持って申し上げる段階にない」

4.核燃料サイクルを堅持し、民主党政権の二の舞を避ける

・石破氏の回答への評価:回答で言及なし

5.リスクを負って安定安価な電力を供給してきた、「原子力立地地域に寄り添う」諸政策の強力な推進(原子力避難道の整備、最終処分地の確保、立地地域の振興など)

・石破氏の回答への評価:回答で言及なし

6.リプレースに向けた最新型原子力炉の建設に必要な規制基準の迅速な設定とそのための事前審査など、適正手続(デュープロセス)などを踏まえた原子力規制委員会の規制行政の改善。及び、政府のエネルギー政策との整合性確保に向けた原子力規制員会の改革

・石破氏の回答への評価:回答で言及なし 

●石破茂氏回答←個別ではなくまとめて回答

〈まず、今回の総裁選で提示した政策集では、持続可能なエネルギー政策として、「AI時代の電力需要の激増も踏まえつつ、エネルギー自給率を抜本的に上げるため、安全を大前提とした原発の利活用、国内資源の探査・実用化、地熱など採算性のある再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜きます」と記載しています。そのうえで、当面は、徹底した省エネに加え、再エネの最大限の導入や安全性確保を大前提にした原子力の活用(新増設を含む)のほか、非効率な石炭火力のフェードアウトに加え、水素やアンモニアなどを活用した火力の脱炭素化、さらには脱炭素電源への転換など、あらゆる選択肢を排除することなく、使える技術はすべて使いながら、エネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素、この三つを実現していく方針で確実に取り組んでいくことが重要と考えています。なお、次期エネルギー基本計画の策定については、未だ検討の途中段階であり、現時点では予断を持って申し上げる段階にないが、エネルギーの安全保障の確立や安定供給の確保に資する計画となるよう注視しつつ、わが国の国益や国民生活、企業活動をしっかり守る観点から取り組んでいきたい。〉

【記者通信/10月1日】柏崎刈羽原発の最新事情 ここまで進化した安全対策の全容※修正版


エネルギーフォーラム取材班は9月20日、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を訪れた。ここは七つの原子炉がある世界最大級の原子力発電所だ。その中の7号機について再稼働を目指した安全対策の工事がほぼ完了した。現場の取り組みと努力を、一般の人が知る機会は極めて少ない。現在の最新事情を紹介し、再稼働を考える材料にしたい。

多重化された安全の仕組み

福島第一原発事故で何が起きたかを、簡単に振り返ろう。2011年の東日本大震災では地震直後に稼働中の同原発の1号機、2号機、3号機の三つの炉は緊急停止した。ところが、その直後に襲った津波で発電機が壊れ、電源が完全に喪失。その結果、冷却できなくなった核燃料が過熱してしまい、溶融することで水素が発生、1~3号機さらに停止中だった4号機でも水素爆発が起きてしまった。これにより建屋が破損してしまい、放射性物質が外部に漏れてしまった。

この事故の反省に基づき、柏崎刈羽原子力発電所の7号機では、さまざまな工夫が行われていた。地震・津波などの災害に備えて原子炉を「止める」。次に「冷やす」。そして放射性物質を「閉じ込める」という3段階の取り組みを強化。方法を多重にしている。

まず「止める」対策での追加対策を示してみよう。「写真1」は同発電所7号機の外観だ。水密性を高め、津波が来ても、台風、竜巻があっても、建物内の水没の可能性はほぼなくなった。「写真2」は7号機の発電機だ。この巨大な設備に、原子炉の熱で発生した蒸気を送り込み発電する。この原子炉の発電能力は135.6万kWと国内最大級だ。

【写真1】柏崎刈羽原子力発電所7号機の外観
【写真2】7号機のタービン・発電機

「写真3」は防潮堤だ。柏崎刈羽原発の同発電所の想定される津波の高さは、7~8mだが、それよりも高い海抜15mの高さにして、安全性を高めた。敷地内へ海水が入らないように、堤より内側にも壁などを置き、重要エリアも水密扉を置いている。

【写真3】1~4号機の海側にある高さ15mの防潮堤

「写真4」は7号機の原子炉建屋にある制御棒駆動用の水圧制御ユニットだ。福島原発事故前からの設備が強化され、稼働中でも数秒で棒が差し込まれて、原子炉の核分裂反応が止まる。

【写真4】緊急時に制御棒を駆動する水圧制御ユニット(7号機)

原子炉内では手動で重要な弁を開閉できるように手動による設備が設置されていた。福島原発事故を描いた映画「Fukushima 50」(フクシマフィフティ)では、東電の運転員たちが暗闇の中で、命の危険に直面しながら、手動でバルブを開けようと悪戦苦闘をする場面がある。そうした危険の可能性はこの設備でなくなった。事故を参考に、こうした仕組みを作った。「写真5」は、非常用ガス処理系のバルブ。福島原発事故を踏まえた対策の一つとして、事故時に弁操作用の駆動源を失い、現場で手動操作する必要があるバルブについては、事故によって高線量のためバルブに近づくことができない場合を想定し、安全な場所から手動遠隔操作が行えるよう改造を施してある。

【写真5】非常用ガス処理系のバルブ

柏崎刈羽原子力発電所では、こうした止める仕組みが多重に設置されている。福島原発事故のように全電源喪失で重大な事故に至る可能性は大きく減った。

【記者通信/9月27日】台湾で最大規模のエネ展示会が10月初旬に開催


中華民国対外貿易発展協会(TAITRA)と、国際半導体産業協会(SEMI)傘下のグリーンエネルギー・サステナビリティ・アライアンス(GESA)が共催する「台湾国際エネルギー見本市(Energy Taiwan)」および「台湾国際ネットゼロ見本市(Net Zero Taiwan)」が、10月2日~4日の3日間、台湾・台北市の台北南港第1展示ホールで開催される。これはエネルギーに関する台湾最大の展示会で、今年は世界20か国から関連企業470社、1625のブースが出展し、昨年比30%増という過去最大の規模で実施される。日本からは、アスエネ、日本太陽光発電検査技術協会、ラスコジャパン、トーネジの4社が出展する。再生可能エネルギーとネットゼロへのソリューションという、台湾が総力をあげて取り組む二つをメインテーマに、展示エリアはPV Taiwan(太陽光発電)、Wind Energy(風力発電)、Smart Storage Taiwan(蓄電池)、Emerging Power Taiwan(新興電力)の4つに分かれ、「台湾国際ネットゼロ見本市」も同時開催される。

大勢の関係者が詰めかけた前回の展示会の模様

グリーンエネ調達のワンストップ・プラットフォーム構築へ

今回の見本市で紹介されるのは、太陽光や風力発電、スマートグリッド、エネルギー貯蔵アプリケーション、バッテリーシステム、充電インフラ、水素や海洋エネルギーなどに関する多様な最先端ソリューションだ。産官学連携の下、グリーンエネルギーへの包括的でスムーズな移行を加速させ、グリーンエネルギー・ソリューションのワンストップ・プラットフォーム構築に寄与することを目指している。

世界ではネットゼロを見据えた動きが強まり、各国はエネルギー転換の目標を達成するため、再生可能エネルギーの開発を加速させている。同時に、AI技術の発展により電力需要が急増している中、台湾においても、半導体産業や投資の増加、電化政策などの推進もあり、2024年から28年は年平均2.5%増で推移すると経済部は予測している。世界に目を向ければ、企業は自らが事業で使用する電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ「RE100」基準への準拠を目的に、再エネ調達は最優先事項になっている。需要が供給を上回る中、エネルギー効率を維持しつつ、再エネ比率を高めていくための最先端ソリューションを知ることができるこの展示会に注目が集まっている。

【表層深層/9月25日】敦2問題で規制委を批判しないメディアのおかしさ


日本原子力発電の敦賀2号機(福井県敦賀市)の敷地内断層を巡り、原子力規制委員会は「活動性を否定しきれない」との見解を示し、8月に規制基準に適合しないとの決定を出した。規制委の判断は多くの問題があるが、それを論じるのは別の機会にしよう。理解に苦しむのが規制委の主張を無批判に伝える新聞・メディアの論調だ。

問題点をしっかり論じているのは産経新聞のみだ。8月7日社説「<主張>規制委の偏向審査 強引な幕引きは許されぬ 原電は敦賀稼働へ再申請を」では、「活断層がある可能性を否定しきれない」と繰り返し、原電側に活断層否定の立証を迫る規制委を「悪魔の証明」をさせていると批判した。

ところが、他のメディアは、規制委の行動と決定を無批判に伝える。公権力による人権侵害を常に強く批判する東京新聞は、「<社説>敦賀原発2号機 廃炉にするしかない」(7月27日)などと規制委を支持する論説もある。そしてこの問題ある決定に関与した規制委員会委員を讃えるような<原発「60年超運転」に反対を貫いた思いを振り返る 原子力規制委員・石渡明氏が退任>(9月18日)との記事を掲載している。権力と一緒に日本原電をいじめているように見える。

判断前にも、新聞の報道はおかしかった。「11年に及ぶ議論決着へ 規制委調査団 原電主張に疑問の声も」(毎日新聞、6月27日)など、不適合を煽る報道が目立った。

新聞の好きなテーマ「公権力の権利侵害」なのに…

敦賀2号機の問題は次の論点がある。①規制ルールがおかしい、②審査の経緯がおかしい、③「否定しきれない」という論理の判定内容がおかしい、④企業財産権の国による侵害である、⑤エネルギー供給や地元経済などへの影響が大きすぎる決定――だ。

ところがこれらを取り上げたのは産経新聞程度だ。多くのメディアはいずれの論点も取り上げていない。活断層の「疑い」という規制委の主張を一方的に垂れ流す。ここまでメディアが、規制委員会を支援し、一つの意見に傾くことは妥当なのか。

2011年の東京電力の福島第1原発事故を受け、原子力の安全審査体制が見直された。規制委が発足して新規制基準が13年7月に施行された。そこでは原子力プラントの主要設備が「活断層の上にあってはならない」と規定されている。「活断層」とは約12万~13万年前以降に活動、つまり地震を起こした断層をいう。

12万年前とは、現生人類が誕生し、アフリカから世界に広がり始めたほどの遠い昔だ。その時代の地震の有無を示す証拠は乏しく、推理の要素が大きくなる。敦賀2号機の断層を巡る議論は12年から続いてきた。その間、原電と規制委の見解が対立し、審査の中断もあった。断層の活動性に関する規制委の「否定しきれない」という見解に反論することは、そもそも証明が不可能に近い「悪魔の証明」ではないか。

そして原電だけに非があるかのような報道が目立つ。原電の小さなミスをあげつらう。しかしそれは規制委の情報コントロールにメディアが乗っているように見える。他の社会問題ならば新聞・メディアは政府を批判する意見を探し出してくる。ところが、今回は規制委の主張を垂れ流す一方だ。

「原発憎し」の風潮が、報道を歪める

東電の福島第1原発事故以降、「原発憎し」の風潮が強まった。そのために、原子力について、マイナスの事柄をメディアは促進しようとしているのかもしれない。しかし、そうした感情から離れて行政機関の行動を是々非々で議論をするべきであろう。権力監視と国民への情報提供は新聞の重要な役割なのに、原子力行政に関してはそれを行っていない。

原発を活用する上で安全性の確認は当然だ。しかし、それ以外にも重要な論点はある。原発は二酸化炭素を排出せず、気候変動に立ち向かう有効な手段だ。そして巨大な電気を生み電気料金を抑える。経済、安全保障など多様な観点から原発を巡る問題を考える必要がある。そうした論点も、今回の問題で、メディアは提供していない。

発電能力116万kWの敦賀2号機は、1kW当たり10円で売電し、フル稼働すれば1年で約1000億円以上の売り上げを出せる。さらに同程度の火力発電の使う1000億円程度の天然ガスを削減できる。原子力発電所一つは数千人の雇用を生む。そうした影響を、メディアは全く考えていない。

メディアは世の中に先んじて、問題を世の中に知らせるということだ。そして権力を監視することだ。最近のメディアは、必要ないことを騒ぎ、必要のあることを騒がない不思議な傾向がある。今回の敦賀2号機の問題では、その奇妙な傾向が、報道で現れている。

メディアは、このまま、この規制委員会の異様な決定の「共犯」になるのだろうか。その規制委員会の行動のおかしさを検証して、国民に提示してほしい。

【メディア論評/9月12日】報道に見る自民党総裁選とエネルギー政策<下>


◆エネルギー(原発)政策、有力候補のスタンスについての報道

岸田文雄首相の自民党総裁選不出馬表明を受けて、今回の総裁選(9月12日告示、9月27日投票)は史上最多の候補者によって争われることとなった。

○候補者(出馬表明順)

8月19日 小林鷹之前経済安全保障相

8月24日 石破茂元幹事長

8月26日 河野太郎デジタル相

9月3日 林芳正官房長官

9月4日 茂木敏充幹事長(元経産相)

9月6日 小泉進次郎元環境相

9月9日 高市早苗経済安全保障相(元経産副大臣)  

9月10日 加藤勝信元官房長官

9月11日 上川陽子外相

新しい政権は政治とカネ問題、憲法改正、財政問題、経済成長、安全保障問題と外交、社会福祉、労働市場改革、脱炭素化とエネルギー需給など、多くの課題に対処していくことになる。エネルギー(原発)政策については、3年前の総裁戦時には原発にネガティブな姿勢を示していた河野太郎氏、小泉進次郎氏が容認論に転換したとされる。一方、石破茂氏については、(後述のように、それは一部を切り取ったきらいがあると考えるが)「ゼロへ最大限努力」という立場と紹介される。

8月27日段階の日経新聞は〈原発、自民総裁選対立軸に〉という見出しでそうした状況を説明する。

◎日経新聞8月27日付〈原発、自民総裁選対立軸に〉〈比重増す党員票、エネ政策重視〉〈河野氏・小泉氏容認論に転換〉〈石破氏「ゼロへ最大限努力」〉〈9月の自民党総裁選でエネルギー政策が対立軸に浮上してきた。26日に出馬を表明した河野太郎デジタル相、立候補の準備を進める小泉進次郎元環境相原子力発電所を認める立場への転換を鮮明にしている。石破茂元幹事長は「原発ゼロ」に向け最大限努力する考えを示す。河野氏は26日の記者会見で「電力の供給を最大限するためにあらゆる技術に張っておかなければいけない」と述べた。発電手段を多く確保する重要性を強調し、原発のリプレース(建て替え)にも踏み込んだ。従来は「脱原発」を持論にしていた。需要が拡大するデータセンターや生成AI(人工知能)に使う電力をまかなうため、原発の必要性を認識したことが軌道修正につながった。投資が国外に逃げては「経済に影響が出る」と指摘した。小泉氏も脱原発の持論を転換した。9日のラジオNIKKEIの……番組で、原発を稼働させなければ電力が足りなくなるとの認識を示した。……小林鷹之前経済安全保障相は同じ……番組で現行計画を「もう少しリアリティを踏まえて作るべきだった」と批判した。原発を容認しつつ火力や再エネなどとバランスをとる必要性を訴えた。……茂木敏充幹事長は7月に新潟県長岡市の講演で「原発も含めてCO2を出さない電源の確保が極めて重要だ」と発言した。高市早苗経済安保相は小型モジュール炉(SMR)の活用や核融合炉の実現を提唱する。立ち位置が異なるのは石破氏だ。24日の出馬表明で原発について「ゼロに近づける努力は最大限する」と明言した。「太陽光、風力、小水力、地熱の可能性を最大限引き出すことで原発のウエートを減らすことができる」との見通しを示した。石破氏は26日のラジオ番組で、安全性への懸念を挙げた。他の候補も安全性を稼働の前提に置く。石破氏は「原発は可能な限りウエートを下げるべきだが、安定した電源は必要だ」と強調した。安全性を確保したうえで「原発は活用していきたい」と説明した。……エネルギー政策で石破氏が独自の立ち位置を貫けば、総裁選での論戦が活発になる可能性がある。〉

一方、同じ日経新聞の電子版の解説はやや趣を異にする。「エネルギー政策は選択肢があまりない」ため、「現段階で明らかになっている候補者の主張をみると、エネルギー分野は争点になりにくそうだ」とする。

◎日経電子版8月26日付底流:争点乏しきエネルギー政策 暗示する日本の限られた道〉〈「実際のところ、影響はあまりないだろう」。岸田文雄首相が9月の自民党総裁選に出馬しないと表明した。岸田政権のエネルギー政策を支えてきた経済産業省の幹部にその影響を聞いたところ、帰ってきたのは予想外にあっさりした答えだった。岸田政権は東京電力の福島第一原子力発電所の事故以来「可能な限り依存度を低減する」としてきた政府の原発政策を、脱炭素効果の高い電源として「最大限活用する」と180度転換した。エネルギー基本計画の見直しにも着手し、年末にまとめる2040年に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)の国家戦略では原発や再生可能エネルギーなど脱炭素電源の活用拡大を盛り込む考えだった。そんな岸田首相が退陣すればエネルギー政策停滞への心配が生まれそうなものだが、先の幹部は「エネルギー政策は選択肢があまりない」と淡々と話す。実際に現段階で明らかになっている候補者の主張をみると、エネルギー分野は争点になりにくそうだ。「原発は安全性を担保したうえで再稼働を進め、今後、リプレース(建て替え)や新増設を検討していくべきだ」。出馬を表明した小林鷹之氏の原発政策は、岸田政権と大きく重なる。3年前の総裁選では河野太郎氏が当面の再稼働は容認しつつも、新増設や建て替えには否定的な立場を取った。原発は争点の一つだった。ところが今回、河野氏は「電力需要の急増に対応するために原発の再稼働を含めて、様々な技術を活用する必要がある」と軌道修正した。小泉進次郎氏も最近は「ここ(原発)を動かしていかなければ日本の経済、国民生活にとって必要な電力を供給できない」と語る。……経産省幹部は「人工知能(AI)普及で電力需要が増える中にあって、脱炭素エネルギーの供給が経済のパフォーマンスを左右する度合いが強まっている。誰もそれに目をつぶれなくなったということだ」と現下の政治情勢を分析する。ただ大方針が争点化しないからといって、原発活用がすんなり進む保証はない。……与野党の代表候補がエネルギーの安定供給の必要性では一致しても、コスト負担を国民に説明して理解を求める覚悟まで持っているかは定かではない。だがそれは次に選ばれるリーダーに間違いなく課される宿題となるはずだ。〉

以下、今回の総裁選において、エネルギー政策(原発)に対する見解を確認しておくべき複数の候補の実際の言動などを確認していく。

【メディア論評/9月12日】報道に見る自民党総裁選とエネルギー政策<中>


◆2021年9月29日 自民党総裁選 戦況の振り返り

21826日 岸田文雄前政調会長 総裁選出馬表明

2193日 自民党臨時役員会 菅首相 総裁選不出馬表明

2198日 高市早苗元総務相 総裁選出馬表明

21910日 河野太郎ワクチン担当相 総裁選出馬表明

21915日 石破茂元幹事長 総裁選不出馬表明

21916日 野田聖子幹事長代行 総裁選出馬表明 

21917日 総裁選告示

21929日 総裁選

21年10月4日 首班指名、組閣

1.21年8月26日 岸田文雄前政調会長 総裁選出馬表明

◎岸田選対本部の陣容 21年9月17日

顧問 甘利明(麻生派 新政権で自民党幹事長)、鈴木俊一(麻生派 新政権で財務相)、石原伸晃(石原派)、中谷元(谷垣G)、塩谷立(細田派)

選対本部長 遠藤利明(谷垣G 新政権で自民党選対本部長

事務総長  根本匠(岸田派)

事務局長  木原誠二(岸田派 新政権で首相補佐官

推薦人 

〇歴代宏池会幹部の親族

鈴木俊一(麻生派←新政権で財務相

堀内詔子(岸田派←新政権でワクチン担当相

加藤鮎子(谷垣G新政権で国土交通政務官

〇エネルギー基本計画における原発議論で苦杯を喫した人たち

山際大志郎(麻生派)自民党総合エネルギー戦略調査会(額賀委員会)事務局長 新政権で経済財政相

高木毅(細田派)自民党電力安定供給議連(細田議連)事務局長新政権で自民党国会対策委員長

梶山 弘志 経産相(無派閥←新政権で自民党幹事長代行)も推薦人に

(1) 甘利明自民党税調会長(麻生派←新政権で自民党幹事長 

21年9月6日 BS日テレ「深層NEWS」での岸田支持表明
出馬表明した岸田文雄前政調会長について「事情が許せば応援してあげたいという気持ちは、正直なところだ」と支持表明。

(2) 梶山弘志経産相 岸田氏の推薦人になった理由

総裁選告示日となった21年9月17、閣議後大臣記者会見で、岸田候補の推薦人になったことを表明し、その理由を次のように述べた。

○21年9月17、梶山経産相閣議後大臣記者会見

〈私はこの2年間、経済産業大臣として、中小企業を含む産業政策、そしてエネルギー政策というものも担当してまいりました。そこに重点を置いてこの総裁選を見てみたいと思っております。その前提となるのが、去年、菅 総理が宣言をされた2050年のカーボンニュートラル、ネットゼロ、そして4月にそれに関連してお話しされましたNDCの46%削減というものがあるわけであります。これにより、大きなエネルギーの転換や産業の転換というものが生じてまいります。場合によっては雇用への影響、個人でいえば所得への影響、支出への影響というものは必ず出てくるものだと思っております。……各産業との対話、労働組合も含めた産業との対話というのは非常に重要になってくると思っております。……そういった対話を重ねる姿勢が見える方を私は応援をしたいという点で、岸田候補の推薦者になったということであります。〉

2.21年9月8日 高市早苗元総務相 総裁選出馬表明

◎高市選対本部 21年9月17日

選対本部長 古屋圭司(無派閥)

事務総長 城内実(無派閥)

事務局長 木原稔(竹下派)  

推薦人 ※保守系がズラリ 衛藤 晟一、山谷 えり子、山田 宏、青山 繁晴

参考=古屋圭司元国家公安委員長 21年11月 

~自民党総裁選 高市早苗陣営 選対本部長~

〈高市早苗が総裁選に出るという話が出てきたので、本人に電話をして「本当に出るのか」と聞くと、「出る」と言うので、「じゃあ応援しよう」となった。すぐに安倍元首相に電話をすると「応援する」という。自分が選対本部長になり、いろいろな人に電話をすると、勝ち馬ではないのに、意外に食いつきがよかった。世の中の2割が右巻き、2割が左巻きという中で、安倍さんの時はその右巻きの9割を押さえていたが、菅さんになって7割しか取れていない状況だった。これを元に戻したいという思いだったが、高市はSNS上の反応も良く、結果的にこれを戻した。……岸田さんは、前回の総裁選で一度失敗して、1年間じっくり考えてきたのであろう、選挙戦へのスタートも早く、見事に乗り切った。〉

3.21年9月10日 河野太郎ワクチン担当相 総裁選出馬表明

◎河野選対本部

選対本部長 伊藤達也(無派閥)

選対本部長代行 岩屋毅 (麻生派)

事務総長 坂本哲志(石原派) 孤独・孤立対策担当相、

事務局長 井上信治(麻生派)科学技術相

推薦人 ※早々に河野支持を打ち出し、石破不出馬の流れを作った石破派議員 古川禎久(←新政権で法相)、平将明

(1)自民党保守派の河野評

 ある保守派の参院議員は次のように語る。21年9月談

〈河野が首相になったらエネルギー業界も困るだろう。河野を絶対に勝たせてはいけない。エネルギー業界も勝たせないよう頑張ってほしい。〉

また別の参議院議員は、かつて次のように語っていた。20年10月談

~菅政権発足時にあった河野官房長官説について~  

〈菅内閣発足に際し、河野太郎官房長官説があったが、自分は最初からそれはないと思っていた。ご承知のように、河野防衛相は秋田と萩で予定していたイージス・アショア計画を突然止めた。自分は、萩の地元対応を担当していたが、秋田のような地元対応の不手際等もなく、秋田ほど反対が強くなかった。それなのに連絡もなく止めるとなった。そして、河野は責任も取らずに防衛相を替わっていった。〉

4.21年9月15日 石破茂元幹事長 総裁選不出馬表明

21年9月15日。立候補を見送り、河野氏を支持する考えを明らかにした。

~石破氏に近い元官僚の話~

自分は退官後も折に触れ、種々のレクや相談に応じてきたが、石破さんはあまり役所に親しい人がおらず、防衛大臣もしていたが、その時の秘書官もほとんど来ない。「小石河連合」は、第二次世界大戦の「日独伊三国同盟」みたいなもので、3人が全然連携していなかった。石破さんは河野さんに、「総裁選の経験は豊富だから、聞いてくれたらいろいろアドバイスできますよ」と言っていたようだが、河野さんは石破さんの所に2回しか来ず、しかも挨拶程度。結局、一度も聞かれなかった。 河野氏と進次郎氏もそんなに会っていなかった。「小石河連合」は、第二次世界大戦のドイツはドイツ、日本は日本で戦っていた「日独伊三国同盟」のようなもの。石破さんにそう言うと、「じゃあ河野さんと私がドイツか日本で、イタリアは決まりですね。なんの役にも立っていなかった」とすごく喜んでいた。5.総裁選 結果

(1)事前の調査

党員データを持つ共同通信読売新聞党員票調査結果を報じた。

共同 河野48.6% 岸田18.5% 高市15.7 91718日調査)

読売 河野41%   岸田22%   高市20 91819日調査)

・「小石河」の連合効果不発 過半数超えず

・高市が追い上げ

議員票の動向 (←河野の議員票は100票を超えていた)

ex) 毎日新聞 議員票 924日調査   ( )内の数字は本人確認分

河野105103  岸田135120 高市8275 野田2121

(2)選挙結果

一回目投票

岸田 議員票 146票  党員票 110票 計 256

河野 議員票 86  党員票 169票 計 255

高市 議員票 114票  党員票 74票 計 188

野田 議員票 34票  党員票 29票 計   63

決選投票

岸田 議員票 249票  党員票 8票 計 257

河野 議員票 131票  党員票 39票 計 170

◎自民党総裁選 岸田派の戦い

宮沢洋一自民党税制調査会長・元経産相  21年11月談

〈われわれは総裁選への取組が早かったので、業界団体等にお願いに行けた霞が関の役人もそうだが、業界団体のほとんどは、河野だけはイヤだと言っていた。党員調査で表向き出ている数字より良い数字が出ると踏んだ。それに加えて、河野は準備不足だった。勉強不足が表れた。原発についてもそうだし、年金のアイデアは相当古くて、20年前に勉強したものというレベルで、すぐにボロが出てきた。〉

【メディア論評/9月12日】報道に見る自民党総裁選とエネルギー政策<上>


自民党総裁選(9月12日告示、9月27日投票)が近づいてきた。本稿は、<上>編にて前回の総裁選前後のエネルギー政策に関する動向を振り返り、<中>編にて原発政策などについて今回総裁選の有力候補とされる議員が当時どのような言動をしたか、そして<下>編にて今回はどういうスタンスに立つか、を見るものである。

【前回自民党総裁選(2021年9月29日)前後のエネルギー政策議論】21月9月29日、前回の自民党総裁選が行われた。その1年前に発足した菅義偉政権では、発足時の所信表明演説(20年10月26日)での「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」に始まり、21年4月には気候変動サミット前の地球温暖化対策推進本部(21年4月22日)で「2030年度温室効果ガス削減目標46%減表明」があった。以降、エネルギー政策は、より明確な形で脱炭素化に向けて舵が切られた。そのための方途として、再生可能エネルギー拡大、火力の脱炭素化、次世代燃料技術など、多岐にわたる課題への対応が掲げられたが、その中で自民党内において議論が分かれたのが原発政策であった。原発については、従来のエネルギー基本計画では「可能な限り依存度を低減」とされてきた。20年秋から3年にかけては、第6次エネルギー基本計画の策定に向けての議論が進んでいたが、それは「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」を踏まえつつ、21年4月22日に表明された「2030年度温室効果ガス削減目標46%減」に対処するものとなった。21年前半には自民党内で、カーボンニュートラルに貢献するものとして、原発の位置づけ、政策の方向性を変えていこうという動きが盛り上がり、新増設・リプレースなど、「原子力発電の最大限活用」に向けて提言などが活発化した。しかし21年5月の大型連休後、エネルギー基本計画策定作業はいったん止まり、21年7月21日の「素案」の提示では、原発に関する記載は大きくは「可能な限り依存度を低減」という第5次エネルギー基本計画レベルに「巻き戻し」された。21年9月29日の自民党総裁選後、10月4日に発足した岸田政権は、10月22日、第6次エネルギー基本計画を上記の「巻き戻し」の動きを反映した形で閣議決定した。しかしその後、岸田政権は、国際的な脱炭素化の進展や、ロシアのウクライナ侵攻などによるエネルギー安全保障の懸念などを受けて、22年12月22日、「GX実現に向けた基本方針」で原発政策などについて大きな転換を表明した。 

 

◆20年10月26日、菅首相所信表明演説「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」

20年10月26日、菅義偉新首相の国会での所信表明演説では、「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」が表明された。

参考=20年8月28日に安倍退陣表明、9月14日に菅新総裁誕生、9月16日に首班指名、組閣

◎20年10月26日、菅首相所信表明演説 

「グリーン社会の実現」の部分 

〈菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。わが国は、50年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち50年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。……省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。〉

◆21年4月22日、気候変動サミット前の地球温暖化対策推進本部で温室効果ガス削減目標46%減表明 

〇21年4月16日の日米首脳会談共同声明で「世界の気温上昇を1.5度までに制限する努力」と表明              

〇21年4月22日の気候変動サミット前の地球温暖化対策推進本部で温室効果ガス削減目標46%減表明 

【記者通信/9月10日】自民総裁選候補の有力3氏 原子力政策で対応割れる


候補者の乱立で過去に例を見ない盛り上がりを見せている自民党総裁選挙の告示まで1週間を切った。これまでに立候補表明しているのは、青山繁晴参院議員、小林鷹之前経済安保相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相、林芳正官房長官、茂木敏充幹事長、小泉進次郎元環境相、高市早苗経済安保相、加藤勝信元官房長の9人だ。これに上川陽子外相、斎藤健経済産業相、野田聖子元総務会長が出馬を模索している。本命不在の混戦模様だが永田町や霞が関周辺によると、最終的に石破氏、小泉氏、高市氏の3人に絞られるとの見方が浮上している。この3氏を軸に現時点での情勢分析とエネルギー政策への対応を整理してみた。

選挙の顔」は誰だ?

今回の総裁選は年内にもあるとされる衆議院の解散・総選挙で、誰が「選挙の顔」になり得るかが最大のポイントだ。そもそも岸田文雄首相が辞任に追い込まれたのは国民の支持が低迷し、選挙のシンボルになり得ないということが背景にある。有権者の支持が盤石ではない党内の当選4回以下の若手議員、多くの党員らを抱える地方議員らの危機感は強く、「多くの国民から支持を得られる人が総裁になるべきだ」(東日本のある県議会議員)という声が挙がる。

その観点からいうと国民的人気が高い石破氏、小泉氏に支持が集まるのは至極当然と言える。日本テレビが9月上旬に実施した党員・党友調査によると、石破氏を支持すると答えた党員・党友が28%でトップ。次いで小泉氏が18%と続いた。ある選挙コンサルタントの分析でも「党員・党友票で石破氏が3割を獲得する」との見方だ。

こうした党員・党友の意向は選挙が近ければ近いほど重みを増し、議員の投票行動にも多大な影響を与える。今回は総選挙が視野に入るだけに、国会議員も党員・党友の意向を無視するわけにはいかず「流れは石破氏や小泉氏に有利に働く」(自民党関係者)との見方だ。

知名度や刷新感というのもポイントだ。自民党は政治資金の裏金問題でダーティーなイメージを持たれてしまった。今回の総裁選では「刷新感」というキーワードが盛んに出てきた。これまでの自民党のように長老やベテラン男性議員が出てきては刷新のイメージはない。女性の高市氏、若手の小泉氏が浮上する背景には従来の知名度に加えて、刷新感を国民に強調できるところがある。

前出の日本テレビの党員・党友の調査では、高市氏が17%と石破、小泉氏に次いで支持されている。保守派の支持に加え、女性というイメージが支持の高さを裏打ちしているとも言えよう。ちなみに数字の上では3氏に大きく離されているが高市氏の次は上川氏を支持する割合が多い。

石破氏「依存度下げる」 高市氏「最も理解」 小泉氏「歯切れ悪い」

さてエネルギー政策についてだが、今回の総裁選では今のところエネルギー政策が大きな争点になる様子は見られない。ただ岸田政権は年内に第7次エネルギー基本政策を取りまとめ、年度内には閣議決定する方針を示しており、新総裁も否応なく政策対応を余儀なくされる。

エネルギーの中で3氏の考えが割れているのが原子力発電への対応だ。最も踏み込んだのがエネルギー政策では存在感がなかった石破氏だ。8月24日の立候補表明の記者会見で突如、「原発をゼロに近づけていく努力は最大限行う」と原発ゼロについて言及した。しかし9月6日の外国人特派員協会での記者会見では、地熱発電などを掘り起こすことで「結果的に原発の依存度を下げる。原発ゼロとは考えていない」と軌道修正した。

当初は原発ゼロを明言することでエネルギー政策での他候補との違いを鮮明にする狙いだったのかもしれない。霞が関のある官僚は「原発ゼロ発言は勇み足でしたね。エネルギー政策への素人感が出てしまったのでしょう。総裁になれば現実的な選択をとっていくのではないか」と分析する。

原発に最も理解があるのは高市氏だ。かねて関西電力などが開発する革新炉や小型モジュール炉(SMR)には期待している向きの発言をしている。前回総裁選でも公約で電力需要が増えることを懸念し、電力の安定供給のために「SMRの地下立地などクリーンエネルギーへの投資を後押しする」と公言した。2050年カーボンニュートラルを達成するために「原発のリプレースは必要だ」とも発言しており、岸田政権並みに原発政策を推進していくと考えられる。

最も歯切れが悪いのは小泉氏だ。6日の立候補会見では自らエネルギー政策に言及することはなく、記者からの質問でようやく口を開いた。小泉氏は「原発については電力需要が増えて電力が足りなくなる。使える電源は使っていく。脱炭素と強調して、化石での富の流出を減らす」と語った。

当たり障りのない発言ともとれるが、霞が関筋は「会見では農水、厚労、環境と自分がこれまで携わってきたところの政策が打ち出せていない。突っ込まれて中身がないボロが出るのを防いだのでしょう」と指摘する。またある有識者は「彼自身に明確な政策ポリシーがあるわけでない。小泉氏が仮に総裁になって総理になっても脇を固める閣僚が重量級になる。彼はその重量級に抑え込まれてリーダーシップを発揮できないのではないか」と見通す。

逆に言えば小泉氏の場合、コントロールしやすいわけで現実路線に引き込むことは容易といえる。その一方で環境相時代のように一部の活動家などに取り込まれてしまえばおかしな方向に行くようなことも考えられるだけに、ギャンブル的な要素が強い候補者だと言える。

傀儡政権か、挙党体制か

石破、小泉、高市の3氏のいずれかが新総裁になった場合、石破、高市氏の場合は挙党体制になるとみられる。両氏とも支持基盤が薄く、旧派閥の顔色を伺いながらの政権運営にならざるを得ないだろう。閣僚人事も旧派閥均衡になりやすく、2人の色が出にくいことになりそうだ。エネルギー政策については岸田政権同様、経産省の路線を継続していく可能性が大きいとみる。

一方の小泉氏は菅義偉前首相の傀儡政権的な色合いが濃い。菅氏も支持を明確にし、横浜市の街頭では2人で並んで見せた。党内では菅氏が暗躍して、小泉総裁誕生にねじを巻いているという。小泉氏に期待する刷新感とは程遠くなり、長老の院政という国民が最も嫌う政権が誕生することになりそうだ。

【目安箱/9月9日】自民総裁選候補6人はエネ政策をどう考えるか!?


次の首相を事実上決める上で関心を集める自民党総裁選挙で、エネルギー政策を巡る各候補の考えはどうなのだろうか。その立候補表明会見、過去の発言からその考えを整理してみよう。

◆小泉、河野、石破3氏は政策転換を主張

9日までに出馬を明らかにした、6人の候補についてまとめてみる。出馬表明順に小林鷹之氏、石破茂氏、河野太郎氏、林芳正氏、茂木敏充氏、小泉進次郎氏だ。このほか、青山繁晴氏(参院議員)、高市早苗氏(現国務大臣)が出馬を表明しているほか、加藤勝信氏(元官房長官)、斉藤健氏(現経済産業大臣)、上川陽子氏(現外相)が出馬を模索中だが、9月9日時点で推薦人20人の確保がまだ未定のようで、出馬宣言はしていない。

現在の岸田政権の「GX」の是正、またこれまでの「エネルギー自由化」の是正は全員が政策にしていない。岸田政権の政策から、エネルギー面では、小林、林、茂木氏は大きく変わらなさそうだ。石破、河野、小泉の3氏は、再エネ、脱原発の方に舵を切りそうな状況だ。

これまでエネルギーフォーラムの報道を見ると、高市氏の原子力、特に新型炉への異様な関心、また河野太郎氏の原子力への反感、経産省と既存電力への敵意、小泉進次郎氏の奇妙な行動が出ている。それに加えた情報を述べてみよう。

◆石破氏はリベラル色強め 原発に消極的

小林氏は財務官僚出身。財務省色を消すためか「経済が財政に優先」と出馬会見で述べ、新しい産業を産む「シン・ニッポン創造計画」を打ち出す。エネルギーは「自給戦略」を唱え、あらゆるエネルギー源を開発し、エネルギー産業を強化する姿勢を打ち出した。

石破氏は総裁選常連の候補だ。ただ、最近はリベラル色、弱者救済色を強め過ぎている。物価を上回る賃金の実現、金融所得課税強化(のち見直し)、異次元緩和批判をしている。原発については以前から「限りなくゼロに近づける」というスタンスで変えていない。

河野氏は、エネルギー関係では、これまで脱原発を鮮明にしてきたが、今回はその言及を積極的にしていない。「私は反原発ではない」と7月に強調した。経済政策では財政規律の回復、そして小さな政府志向だ。ただし仮に首相になったら、どのような行動をするかは不明だ。

◆小泉氏、エネルギー政策で具体策を避ける

林氏は、現職の官房長官でもあり、岸田文雄首相の批判はせず、原子力の安全性確保とその上での活用、さらにGX政策の継続を掲げている。

茂木氏は、自民党幹事長であるが、出馬表明の時に増税批判をして岸田首相が不快感を示したという。彼も原子力の活用だが、新増設について言及している。

小泉氏は、環境大臣の時の温室効果ガス削減の高めの数値目標にこだわった。エネルギーについては「あらゆる選択肢を追求」として、明確な言及を避けた。

◆エネルギー問題が主要争点から消える?

各候補の主張を見ると、エネルギー問題はすでに主要な議論ではなくなっているようだ。日本の選挙報道にありがちな、「イメージ」ばかりが伝えられ、さらに政策論も安全保障、そして増税の是非が議論になっている。

エネルギー業界は、東京電力の福島第一原発事故の後で、電力だけではなく、ガス、石油、LPガスの各業界は、世論と政治が影響した「エネルギーシステム改革」に振り回された。政治に過度に関わる必要はないが、それが与える影響、また政治家に影響を与える世論の動向は関心を持ちながら向き合う必要がある。

【記者通信/9月9日】原子力閣僚会議でKK再稼働の対応確認 花角知事の判断材料に


政府は9月6日、原子力関係閣僚会議を開き、岸田文雄首相が柏崎刈羽原子力発電所(KK)の再稼働に向けた対応について確認した。新潟県が6月、自民党新潟県連が7月に防災対策などの要望を政府に提出していたが、今回打ち出した対応方針はおおむね両者の要望に沿う形となった。だが新潟県の花角英世知事が再稼働を容認するかは依然不透明だ。

原子力閣僚会議で柏崎刈羽再稼働の重要性に言及した岸田首相(9月6日)

特定の発電所の再稼働を巡って閣僚会議が開かれるのは初めて。参加者も官房長官や経済産業相など従来のメンバーに加えて、首相や避難道路の整備を担当する国土交通相などが出席した。岸田首相は柏崎刈羽原発の再稼働の重要性について、「東日本の電力供給構造のぜい弱性、電気料金の東西の格差、今後の産業競争力や経済成長を左右する脱炭素電源確保などの観点から高まっている」と説明。その上で、地元の不安の声や地域振興も含めた要望を踏まえ、再稼働への理解が進むよう政府を挙げてさらなる具体的な対応を行うよう指示した。

避難道路の整備については、経産省・内閣府・国交省で整備促進に向けた「協議の枠組み」を新たに立ち上げる。地元が求めていた6方向へ放射状に避難する経路は、関係府省庁で整備する。国が前面に立った取り組みとしては、政府が厳しいエネルギー情勢や再稼働の必要性について、新潟県内のみならず電力消費地である首都圏での広報活動を展開する。また発電所のガバナンス強化のため、海外の専門家やほかの事業者など「外部の目」による気づきを改善につなげる新体制を構築すべく指導・監督するとした。

県民の意思が固まるまで2年?

再稼働に向けては新潟県の同意が最終ハードルとなっている。花角知事は8月、再稼働の是非を判断する時期について「遅くとも2026年6月の2期目満了に伴う県知事選まで」と一部首長に伝えたとされる。この発言の真意について、8月29日の定例会見では「あと2年弱ぐらいの間には県民の意思が固まるのではないかという趣旨」と説明した。花角知事の発言を受け、すでに再稼働を容認している柏崎市の櫻井雅浩市長は9月4日、「スピード感に隔たりはあるが、いたずらに早く物事を決めたいとは考えていない」との発言。しかし過去には「いたずらに時間を積み重ねることだけが安全に資するとは考えていない」(3月21日)と語っており、トーンダウンした感は否めない。

今後焦点となり得るのは、①「経済的メリットを感じられる取り組み」の実施、②避難計画の実効性──の二点か。①については閣僚会議では取り上げられなかったが、地元が要望している。立地自治体とその隣接自治体に限られる電源立地地域対策交付金の対象拡大などを念頭に検討が進む見込みだが、ほかの立地地域との公平性の観点で課題が残る。②を巡っては能登半島地震を受けて、原子力規制庁が屋内退避の運用の再検討を行っている。規制庁は今年度中の取りまとめを予定しており、「避難計画にも影響を及ぼすので議論の材料」(花角知事)となる。

県議会で過半数を占める自民党には、再稼働に否定的な見方をする議員も少なくない。また反対姿勢を示す首長も一定数いることが、花角知事の消極姿勢につながっているとの指摘もある。解散総選挙や参院選の足音も近づいており、再稼働がどのように位置づけられるのか、期待と不安が交錯している。

【書評/9月5日】『間違いだらけの電力問題』 複雑なエネ問題の全体像を読み解く


「ようやく落ち着いた」――。こんな感想を電力関係者からこの1年、電力問題についてのメディアや世論の動きで聞いてきた。東京電力の福島第一原発事故の後で、反原発の意見が広がり、政治やメディア、世論の中での電力をめぐる議論は混乱した。それがようやく静かになったという感想だ。岸田政権が22年末にGX(グリーン・トランスフォーメーション)で、原子力の活用を打ち出した時に、確かにおかしな反発は起きなかった。

ところが原子力規制委員会はこのほど、日本原子力発電敦賀2号機を事実上廃炉にする判断をしてしまった。その地下の断層が活動する「疑いがある」という曖昧な理由によってだ。これに対して、「おかしい」「電力供給に悪影響を与える」「行政の横暴だ」という、私から考えると「当たり前」の反応はなかった。エネルギー・電力を巡る問題の理解は、政治家、メディア、一般の人の間で、深まっていたわけではなかった。飽きられ、忘れられただけで、実は薄っぺらいままだったのだ。

エネルギー問題は奥深い。ビジネスの規模が大きく、関わる人が多いために、多様な論点を考えることが必要になる。残念ながら、そうした情報を総合的に学べる機会は少ない。

奥深いエネルギー問題を簡潔にまとめる

国際環境経済研究所(IEEI)所長の山本隆三氏が今夏にこの新著を発売した。エネルギー問題で、そうした深い議論のできる論客として、私は注目している。山本氏は商社マンとしてエネルギー問題の実務経験が長い。加えて経済学・会計、技術の知識、外国での仕事や生活の経験がある。問題を語る際に、立体的、総合的にエネルギー問題を分析する。

『間違いだらけの電力問題』(発行元:ウェッジ、定価:1650円=税込み)

この本でもその手法が貫かれ、問題が簡潔にまとめられ、現代の日本を取り巻くエネルギーの状況を俯瞰できる。エネルギー問題は奥深い。20年の商社マンの経験で、山本氏も「「そんなことがあるの?」と驚くことがしばしばあった」(本の「はじめに」)と言う。この奥深さが、時々、問題をめぐる分析や議論を混乱させる。

エネルギーでは一つの問題だけを考えても、その問題は解決しないことだらけだ。日本では、原発の是非とか、再エネの導入を増やせと、単体の問題を声高に叫ぶ人たちがいる。しかし、それらの問題は、簡単な解決策などない。他のエネルギーとの比較、エネルギーの原料調達から供給法などの物流など、問題を深く、幅広く考えなければ、政策においても、企業活動においても、消費者としての購買活動でも、適切な答えは導けない。

この本の「はじめに」に書かれていた例だが、エネルギーと車の関係を考えてきた自動車会社の経営者が、日本では現在石炭火力を使っていることを知らないこともあったという。深く、幅広い視点で問題を分析する山本氏の視点は貴重なのだ。

世界と日本の問題は、「足りない」電力

本書はエネルギーの歴史から解き起こし(第1章「エジソンの時代から変わらない発電方式」)、世界情勢を概観する(第2章「世界と日本の発電事情」)。その上で現状の問題を4テーマ、第3章「増える電力需要、上がり続ける電気料金」、第4章「少子化にも影響を与える電気料金」、第5章「停電危機はなぜ起きる」、第6章「脱炭素時代のエネルギーと電気」に分けて、複雑な問題を簡潔に解説する。

本を読んで、印象に残ったのは、世界と日本のエネルギーと電力の状況が、ここ5年で大きく変わったことだ。

エネルギー・電力の需要面で、わずか数年前は日本では少子高齢化、産業空洞化で、電力は長期的に減り始めると予想されていた。ところが需要は長期的に増加する可能性が高まっている。他の先進国と同じように水素の製造、EV(電気自動車)、AI(人工知能)とデータセンターの拡充などで、電力が必要になった。

「日本が目標とする2050年2000万トンの水素を電気分解で製造すると、必要な電力需要量は、今の発電量とほぼ同じになる」(3章)。2050年の電力需要について電力中央研究所は、低成長の場合は現状の横ばいの8280億kW時だが、高成長の場合には1兆750億kW時 と予想している(3章)。

ピントのズレた議論を続ける日本

一方でウクライナ戦争の後で資源国ロシアと自由陣営の関係が縮小し、世界の天然ガス・原油の供給体制は不透明になった。その上に日本では、電力自由化、原発の稼働の遅れ、また脱炭素政策が同時進行し、電力供給が不安定になっている。特に政府の行う再エネ振興策は「自由化市場のなかで進めれば安定供給は遠のく」(5章)。この事実を山本氏は論証しているが、なかなか一般にも広がらず、政治的な議論にならない。

日本の主要政党やメディアは、2011年の東日本大震災と東京電力の福島第一原発を引きずって、脱原発の是非、再エネの振興をいまだに中心の議論にする。日本も世界も変化している。その中で原発を無くすなど、あまりにもおかしな議論だし、世界の趨勢から遅れている。

そしてエネルギーシステムの設計の失敗は、日本人の給料を抑制し、少子化の進行や経済成長の低下に影響を与えてしまうかもしれない(3章)。山本氏の結論は、「日本が引き続き、欧米諸国と国際競争を行うエネルギー・電力価格を追求するのであれば、現在の電力価格の見直しが必要だ」というものだ(6章)

イメージ先行で脱炭素などの空論が語られ、経済的損失を生んでいる今のエネルギー・原子力政策を不思議に思っていたので、この主張には共感した。エネルギーをめぐる議論は、重要論点その英語の頭文字をとり「3E 」、「経済性」「安定供給」「環境性能」で論じることが欠かせない(はじめに)。

浅い議論が産む、日本のエネルギー政策やビジネスの問題

実際に総合的な視点を提供できる議論は少ない。全体像での考察がとぼしいゆえに、日本のエネルギーでは、政策でも、ビジネスでも、問題が後から次々とわき上がり、仕組みがつぎはぎだらけになったり、行き詰まったりしてしまう。

著者のような、複眼的な、そして奥の深いビジネス感覚が中心となり、エネルギーが語られるようになってほしい。そのためにこの本「間違いだらけの電力問題」を読むことを勧めたい。

【記者通信/8月30日】来年度予算の概算要求 GX事業で1兆2500億円計上


エネルギー・環境分野の2025年度予算の概算要求が出そろった。

経済産業省は合計で2兆3596億円(24年度当初予算比24%増)を計上した。うち、エネルギー対策特別会計は7818億円、GX(グリーントランスフォーメーション)推進対策費が9818億円となった。事業のうち特に規模の大きさが目立つのがGX・脱炭素エネルギー関係だ。1兆2487億円と、24年度当初予算より3000億円弱増額。GX関連には国庫債務負担行為を活用し複数年度(3~5年間)にわたる事業があり、これらの設備投資が増えるステージに入ったことなどから、額が積みあがった形だ。

省エネ投資などに注力 引き続き全方位の取り組み推進

GX2040ビジョンやエネルギーー基本計画の改定が進む中、エネルギー価格上昇や供給途絶リスクに対応するための取り組みを引き続き展開する。GX・省エネ投資、再生可能エネルギー・原子力などの供給拡大、産業分野の燃料転換支援、火力の脱炭素化・CCUS(CO2回収・利用・貯留)、低炭素水素等の実装、資源・燃料の安定供給確保などに資する取り組みを進める。

中でも額が大きいのが省エネ関係だ。「省エネルギー投資促進・需給構造転換支援事業費」に1743億円、「省エネ設備への更新を促進するための補助金」に350億円、「高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金」に580億円などを計上し、足元の省エネの着実な推進を促す。

このほか同省は、①産業競争力強化・経済成長・排出出削減の効果が高いGXの促進、②AI・半導体分野の重点的投資支援、③物価高騰の中で中小企業・小規模事業者の成長の下支え、④福島復興――などの六つの重点分野については事項要求を行う。

環境省は8700億円計上 地域脱炭素など拡充

環境省は、8704億円(24年度当初予算比49%増)+事項要求とした。5月に閣議決定された第6次環境基本計画を踏まえ、炭素中立、循環経済、自然再興などの政策を横断的に実施するための重点施策を提示。また、8月に閣議決定された第5次循環型社会形成推進基本計画に基づき、循環経済への移行を国家戦略と位置づけ取り組む方針だ。

同省がここ数年注力する「地域脱炭素推進交付金」は、エネ特+GX推進対策費で762億円と、24年度当初+23年度補正に対して200億円ほど増額した。これは、100カ所での実施を目指す「脱炭素先行地域」や、脱炭素の基盤となる「重点対策加速化事業」が進み、実施主体の増加やそれぞれ事業の執行が進んでいることを踏まえたためだという。

また、同省もGX推進対策費を活用した事業を引き続き展開。特に規模が大きいのが「断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業」で1300億円とした。このほか、「業務用建築物の脱炭素改修加速化事業」で266億円、「商用車の電動化促進事業」で444億円を計上している。

エネ特関係では、「民間企業等による再エネの導入及び地域共生加速化事業」(119億円・新規)、「Scope3削減のための企業間連携を含む省CO2設備投資支援」(69億円・新規)、「地域における再エネ等由来水素利活用促進事業」(41億円・新規)、「住宅のZEH・省CO2化促進」(115億円)などがある。