家庭向け電力販売に注力するソフトバンク。電力データを活用した新サービスでリードしようとしている。
【インタビュー】中野明彦/ソフトバンクエナジー事業推進本部本部長

―現在の電力市場競争についてどう分析していますか。
中野 スイッチング率は伸びてはいるものの、新電力の販売量の伸びは鈍化しつつあり、踊り場に差し掛かっていると見ています。2016年の全面自由化からの言わば第一ラウンドが終了し、第二ラウンドに入ったと言っていいと思います。価格訴求で顧客を獲得するだけでは単なるパイの奪い合いであり、おのずと限界がある上、小売りのマーケット全体もシュリンクしてしまいます。事業者の創意工夫で電力ビジネスに新しい価値を付加し、マーケット自体を広げていかなければいけません。
―コロナ禍で市場価格の低迷が続き、取引所調達の小売り事業者が存在感を増しているのも事実です。
中野 一時的に安くなった市場価格をもとに、今年はお客さまを獲得できたとしても、この先の市場価格は誰にも見通せませんし、そのお客さまが来年も契約してくださるか分かりません。中長期的な視点で事業をとらえないと、電力ビジネスを継続することは難しく、最終的にはお客さまにご迷惑をおかけすることにもなりかねません。
―2020年は御社の電力ビジネスにとって大きな転機になりそうですか。
中野 他社よりも1年以上遅れて(低圧の)小売市場に参入したこともあり、まだまだ事業として発展途上な段階ではあります。ただ、ここにきてようやく新しいことに挑戦できる環境が整いつつあります。顧客基盤や収益基盤が不安定なままでは、新しいことにはなかなか取り組めませんから、最初の数年は基礎体力を付けることに注力しました。お客さまの数も順調に増やすことができ、電力の需給運用面のノウハウや電力データなどが徐々に蓄積されていることから、それらを活用した新しいサービスを検討できるようになってきました。ソフトバンクグループの強みを最大限生かし、新しい価値をエネルギー分野から創出できるかがわれわれの挑戦となります。
――御社の強みとは具体的に何でしょうか。
中野 当社の本業は、通信・インターネットサービスであり、スマートフォンを中心にさまざまなサービスを提供しています。自前の技術でアプリや関連サービスを開発できることは、これからの電力ビジネスを進める上でも大きな強みになると考えています。最新のスマートフォンサービス・コンテンツやAIによるビッグデータ分析技術を電力小売り事業に活用することで、エネルギー分野から新たな価値創造を発信していくことが当社の役割であると自任しています。
制度対応が競争力に 事業者として責務果たす
―度重なる制度変更が、新電力ビジネスにとってリスクにもなっています。
中野 新電力にとって次々にスタートする新たな制度はリスクでもありますが、逆にチャンスになり得ると考えています。制度の変化をいち早くとらえ、深く理解し、それらに対応できるかが、今後の新電力間の競争で大きな差を生むことになるでしょう。
電力ビジネスは参入するのは比較的容易ですが、オペレーションはそう簡単にはいきません。さらにここに新しい制度がどんどん加わります。ある日突然、経営が立ち行かなくなることも起こり得ます。
われわれはそうした新たな流れの中であっても、事業者としての責務を果たし、お客さまにご満足いただけるエネルギーサービスをお届けすることに愚直に取り組んでいきます。