【LPガス】SDGs実現へ 方針を策定


【業界スクランブル/LPガス】

日本LPガス協会が、約1年にわたって議論してきた「LPガスが果たす環境・レジリエンスなどへの長期貢献について」を公表した。全17項目の国連SDGs(持続可能な開発目標)は、貧困や飢餓の解消、教育の平等化など社会全体の改革、改善を網羅しているが、エネルギー産業にとってはSDGs実現のためには、再生可能エネルギーへの取り組みが必要不可欠になっている。日本LPガス協会のSDGs対応でも、2025年ビジョン以上に再エネとLPガスとの親和性、関係性に多くの議論を費やしている。

目新しいこととして、バイオマス利用やバイオマスを由来とする水素からのLPガス製造(プロパネーション)といったネットゼロエミッションのための技術革新の必要性に強く言及している。また、再エネと相互補完できるエネルギーとしてのLPガスを強調している。前者のバイオマス利用とLPガスの関係性について、協会は2000年代に入ってから専門小委員会を立ち上げ10年にわたり論議を重ねた。当時は、実現性はあるが採算性に難があるとの結論だった。なかなか実証試験を含めた産学協同のプロジェクトにまで発展することができず、議論は一時終息したと聞く。

後者は再エネの主力電源化に伴う単一エネルギー依存の不安定さを補完する燃料として、LPガスを有効活用しようということだが、分散型エネルギーであるLPガスを非常用発電機を介してマイクログリッドに組み込むことを提言している。これは、新たな技術革新と相互補完両面の意味合いがあり、「技術革新を要する未来志向の動きについては実装につなげる努力が必要である」と記述している。とくに産学官連携の推進を必須要素としている。

LPガス業界は、未来をあまり語らない業界といわれてきた。しかし、技術革新と再エネ推進社会の中での立ち位置を示したことの意義は、これから議論が始まる第6次エネルギー基本計画の策定論議の中でも強固な位置付け獲得に業界全体がまい進すべき重要な道しるべを示したと、大いに評価できる。(D)

トップ交代で難局打開なるか 新社長が語るエネ先物市場の行方


石崎 隆/東京商品取引所社長

コロナ禍真っただ中で、TOCOM社長として登板することになった。
総合エネルギー市場への脱皮を図る上で山積する課題にどう取り組むか、その手腕が注目される。


いしざき・たかし 1990年東京大学法学部卒業、
通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁
電力基盤整備課長、内閣府規制改革推進室参事官など
を経て、2020年6月から現職。

需要減に伴う取引低迷により、2016年3月期から最終赤字が続いていた東京商品取引所(TOCOM)。起死回生を図るべく、19年10月に日本取引所グループ(JPX)の子会社となり、再スタートを切った。7月には、貴金属市場などが大阪取引所に移管され、今後は、総合取引所の枠組みの中で、原油や電力に特化した「総合エネルギー市場」を目指すことになる。

そのかじ取りを担うのが、6月に就任した経済産業省出身の石崎隆社長。「石油、電気、そして現在検討を進めているLNG(液化天然ガス)の先物取引を一括上場することで、エネルギー事業者にとって使いやすいマーケットにしていきたい」と、就任に当たっての意気込みを語る。

電力先物の早期本格上場へ 実現に取引量拡大が課題

着任直前、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済失速の影響で、石油などのエネルギー資源や電力の取引価格は、国内外で史上まれに見る異常な様相を呈していた。

原油は、昨年来の世界的な供給過剰感の高まりにコロナ禍による需要激減が追い打ちをかけ、米WTIの先物が一時ネガティブプライスを付けるなど大暴落。また、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格は、緊急事態宣言下の需要減に伴い、4~5月にシステム上の最低価格であるkW時当たり0・01円を連日付けていたのだ。

こうした価格の乱高下は、先物市場にとっては取引拡大の好機となる。価格のボラティリティに対し、事業者が次善の策を打つ必要性が高まるからだ。実際、原油先物の6月の取組高の残高が史上最高となるなど、TOCOMにとって思わぬ恩恵をもたらした。

一方、昨年9月に3年間の予定で試験上場した電力先物市場は、JEPXの取引量の0・5%をカバーしているに過ぎず、活性化には程遠いのが実情。石崎社長は、「3年という期間にとらわれず、できるだけ早期に本上場を果たしたい」意向だが、その実現には取引量の拡大が絶対条件だ。

電力先物市場の参加者は、試験上場当初の10社程度から、夏や冬の価格高騰リスクを回避したい新電力を中心に40社まで増えた。さらに数十社が口座開設を準備、もしくは検討中といい、参加者の裾野は着実に拡大しつつある。

そして、取引拡大の鍵を握るのが、国内の供給力の大半を占める大手電力会社だ。これまで取引参加には慎重な姿勢を見せていたものの、スポット価格の動向や容量市場の動向次第では、取引参加に踏み切る可能性がある。

石崎社長は、「大手電力会社が取引に参加するに当たっての最大の懸念材料となっていたのが清算機関の信用力だった」とした上で、「TOCOMの子会社である日本商品清算機構(JCCH)が担う清算(クリアリング)機能が、国内最大のクリアリングハウスである日本証券クリアリング機構(JSCC)に統合されたことで、懸念は払しょくできる」と、JPXへの統合のメリットを強調する。

最新住宅設備を月額定額料金で利用 東ガス発ベンチャーが新サービス開始


【スミレナ】

住宅の新築やリフォーム時には、工事に関わる費用に加え、キッチンやバルスームといった住宅設備の購入も大きな負担になりがち。この常識を覆し、ライフスタイルに合わせて変わる理想の住み方を後押ししようと、東京ガス発ベンチャーとして昨年12月に発足したスミレナが6月、新たなサービスの提供を開始した。

新サービスは、「暮らしの月額定額制サービス」。持ち家の消費者が対象で、ノーリツ、リンナイ、LIXIL、TOTOといった住宅設備メーカー4社の給湯機やコンロなどのガス機器、トイレやバスルームなど水回り設備の最新モデルを、初期費用なし、月々定額料金を支払うことで利用できるようにするものだ。

スミレナの事業モデルイメージ

サービス開始当初の商品ラインアップと月額料金は、「追いだき機能つきエコジョーズ給湯器(ノーリツ)」が1800円、「アレスタお掃除手間なしキッチン(LIXIL)」が9000円、「サザナあったかバスルーム(TOTO)」が7550円など(いずれも10年、120回払いを選択した場合)。リンナイのスマートコンロ「リッセ」は1900円(6年、72回支払い)だ。

高い安心感と割安感 専用の電気料金プランも

料金には、標準工事費用や、不具合時の駆けつけ、修理費用などが含まれており、契約期間終了後は、設備を返却することなくそのまま使い続けることが可能。金利や手数料などを負担する必要がないため、リース契約や割賦購入よりも高い安心感と割安感が得られそうだ。

併せて、同社と同じ東ガス発ベンチャーのヒナタオエナジーが、同サービス専用の電気料金プラン「スミレナプラン」を用意。同プランを契約することで、水回り、玄関の鍵、窓ガラス、電気設備といった暮らしまわりの駆けつけサービス「住まいプレミアサポート」を、追加費用なく利用できる。都市ガスについては、準備が整い次第、専用プランを追加する計画だという。

サービスエリアは、当初は市場に関する知見が蓄積されており需要も大きい関東圏に限るが、ウェブサイトを通じたサービス提供という事業形態の強みを生かし、将来はエリアを限定せずに展開していきたい考えだ。

サービス開始に先立ち、記者会見した酒井陽平社長は、「会社発足時に、契約数50万件、売り上げ400億円という目標を掲げた。その目標達成に向けた具体的な取り組みの第一歩にしたい」と意気込みを語った。

中立・独立性に疑問符 監視委など2組織見直しへ


梶山弘志経済産業相が、非効率な石炭火力の休廃止と合わせて強い意欲を見せているのが、「電力・ガス取引監視等委員会」「電力広域的運営推進機関」の体制見直しだ。

監視等委員会については、関西電力への業務改善命令を巡り資源エネルギー庁職員が不適切な手続きを行ったことをきっかけに、規制監視組織としての独立性への疑念が噴出。より独立性を高めるため、現行の八条委員会から三条委員会への移行が求められることになりそうだ。

一方の広域機関は、当初の設立目的である電力事業の広域的運営の推進にとどまらず、電力制度の詳細設計や市場管理者としての役割を担うなど、その業務は増加、高度化し続けている。それにもかかわらず、職員の大半を大手電力会社からの出向者が占めていることが疑問視されている。

梶山大臣は7月3日の会見で、「両組織のこれまでの活動について評価、総括を行い、その結果を踏まえて必要な取り組みを進めていく」と述べた。2015年の発足から5年。両組織は、大きな転換点を迎えようとしている。

「美辞麗句」で惑わす経産省 石炭フェードアウトの真相


梶山弘志経済産業相の〝鶴の一声〟に端を発した、経産省による非効率な石炭火力発電所のフェードアウト議論。脱炭素化への大きな一歩と評価する声が上がる一方、その実現性を疑問視する見方も広まり始めた。

3.11を契機とする原子力発電所の停止後、日本の電力安定供給を支えてきた石炭火力発電だが、地球温暖化進展への懸念から世論の風当たりは強まる一方だ。そうした中、非効率な石炭火力フェードアウトに向けた議論が政府の有識者会議でスタートし、エネルギー業界に大きな波紋を呼んでいる。

経済産業省は7月13日、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会(委員長=山内弘隆・一橋大学大学院特任教授)で、超臨界圧(SC)以下の石炭火力発電所の市場退出を誘導するための新たな規制的措置の導入検討に着手した。対象となるのは、国内140基のうち114基。年内にも、具体的な仕組みについての大枠を取りまとめる方針だ。

現行の第5次エネルギー基本計画では、2030年度のエネルギーミックス(電源構成比率)における石炭火力のシェアを26%としている。計画には、「非効率石炭のフェードアウトに取り組む」ことが明記されてはいるものの、これまで具体的な手法までは検討されてこなかった。

電力会社にとって低コストで安定的に供給できる減価償却済みの石炭火力は供給力と利益の源泉。18年度には石炭比率は32%に達し、電力広域的運営推進機関が取りまとめた供給計画によれば、ミックス前年の29年度には37%と、目標を大幅に超過してしまう見通しだ。足元では天然ガス価格が大暴落し、石炭とガスの発電コストは逆転しているとはいえ、未来永劫これが続く保証はない。

経産省としては、このまま非効率な石炭火力が居座れば、計画中の高効率石炭の建設・稼働が困難になり、電源の新陳代謝が進まないことを問題視。その上、先の通常国会において、与野党議員から「容量市場は石炭火力への補助」「再生可能エネルギーFIT法改正は再エネいじめだ」といった指摘が相次いだことも、新たな規制に踏み切る判断への引き金になったと見られる。

規制とインセンティブ 避けられない国民負担増

今後の議論の焦点は、省エネ法に基づく規制強化の一方で、いかに経済的インセンティブを設計するか―だ。

実は、大手電力各社の総発電電力量に占める非効率石炭火力の割合は、北海道38.8%、東北26.1%、JERA(東京・中部)7.4%、北陸24.6%、関西0%、中国27.4%、四国12.8%、九州15.4%、沖縄55.1%、Jパワー36.8%ーとまちまち。

このため、大手電力関係者の一人は「JERAと関西はもともと非効率石炭の依存度が低い。北海道、沖縄は安定供給を名目に例外となる可能性があるし、一見依存度が高い中国は、22年に三隅火力の稼働が控えている。低コストの安定供給電源を失い、経営に大打撃を受けるのは東北、北陸、Jパワーだ」と分析する。

大手電力だけではない。自由化以降、新電力をはじめとする事業者が相次いで建設した中小規模の石炭火力は、すべて亜臨界(SUB-C)でフェードアウト検討の対象。バランシンググループ(BG)制度の下、自ら発電所を持つことで競争力の高い電力ビジネスを展開するという、これら事業者の戦略は覆りかねない。

さらに、共同火力やIPP(独立系発電事業者)、自家発電なども含めればあまりにも利害関係者は多く、いずれの事業者にも公正で納得感のある制度にしようとすれば、より緻密な議論と調整が求められることになる。


リプレースによる石炭火力の高効率化が進んでいるが…… 

これについて、「発電事業は既に規制下になく、自由市場に移行した中で非効率石炭を休廃止させる法的根拠を作ることは、非常に難しい議論になる」と語るのは、エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事。「炭素税や未回収の固定費の補償など、新たな国民負担につながる追加的措置を実施しない限り、発電コストが安い石炭火力を市場から退出させることは現実的ではない」と、その実現性を懐疑的に見る。

固定費が回収できていない休止火力への手当て、災害時の供給力確保のため、ドイツで採用されている「戦略的予備力」のような制度が検討の俎上に上がる可能性がある。再エネ導入増に伴う既設火力の退出防止を図る仕組みではあるが、その場合、「広域電源入札」「容量市場」「戦略的予備力」という、本来並立しないはずの仕組みが三つも重複して作られることになってしまう。「電力制度設計はますます複雑化していく」(前出の大手電力関係者)のは避けられないだろう。

石炭火力のフェードアウトと再エネ導入拡大に向け、送電線利用の先着優先ルールの見直しも進められる。限界コストが安い順に供給する「メリットオーダー」を徹底することにより、送電線混雑時に再エネが出力制御を受けないようにするのが狙いだ。

代わりに、送配電事業者の指令で既設火力が出力抑制を受けることになる。学識者の一人は、「メリットオーダーで先着優先の権利がない仕組みは、パワープール制そのもの」と語り、当面、対象となるのはほぼ千葉エリアのみとはいえ、再エネがさらに拡大した暁には、本格的にBG制という日本の電力システムの前提を変えてしまう可能性があることを示唆する。そして、「ますます火力発電所建設の不確実性が高まり、新規投資は望めなくなるだろう」という。

原発再稼働への布石か 求められる節度ある議論

ある新電力の幹部は、「減価償却が終わった石炭火力を手放すようなことになれば、電力コストは上がり産業力の衰退にもつながる。いよいよ、原発再稼働へ背水の陣を敷いたのではないか」と、梶山経産相の真意を推し量る。

いずれにしても、再エネとガス火力だけで電力安定供給を維持できるはずがない。前のめりに事を進めるのではなく、全体を俯瞰し地に足の着いたロードマップを描いた上で、節度を持って非効率石炭フェードアウトと関連施策を進めていくことが求められる。

「需要家が主役」の時代へ 事業者が描く新ビジネス戦略


新型コロナウイルス禍は、エネルギービジネスの現場にも課題を突き付けた。各社がこの難局をどう乗り切り、新たな時代に向けてどのような営業戦略を描くのかを探った。

新型コロナウイルスの感染拡大は、エネルギー小売りビジネスにも大きな変革をもたらそうとしている。他人との接触機会を減らすことが求められる中、対面を基本とする営業は自粛モードに。ウエブやSNS(ソーシャル・メディア・ネットワーク)、テレビ会議システムの活用がより重視されるようになり、オンライン化が急速に進んだ。

また、経済失速でエネルギー需要全体は激減したものの、在宅時間が増えたことで家庭における消費量は大幅に増加。もともと価格競争が激しかった大口をメインとし、コロナ禍でさらなる打撃を受けた事業者の中には、家庭向け販売に一層力を入れていこうとする動きが出始めている。

つまり今後は、家庭分野でも大口と同様の厳しい競争が勃発する可能性があるということだ。利益度外視の価格競争に陥れば、エネルギー会社は共倒れするしかない。それを回避し生き残れるかどうかは、いかに「ウィズコロナ社会」と呼ばれる新しい時代に対応し、新たな顧客との接点機会や独自サービスを確立できるかにかかっている。

非常時こそ顧客目線 デジタル技術の活用も

全国に先駆けて、2月28日に独自の緊急事態宣言を発出した北海道。人々の動きが止まり、経済活動が縮小する中で北海道ガスが苦慮したのは、顧客との接点機会をどう維持するかだ。顧客とコンタクトを取るために、電話、ウエブ会議、Eメール、ダイレクトメール(DM)、チラシなど、あらゆるツールを総動員したという。

家庭用、業務用双方の顧客にメリットのあるキャンペーンにも力を入れた。6月には、家庭用の顧客向けに発行している「北ガスポイント」を通常よりもお得に交換できるようにした上で、業務用の顧客であり、売り上げ減にさいなまれていたレストランや居酒屋といった「北ガスグルメパートナー」の店舗で利用できるクーポン券を交換品に追加したのだ。

さらに「北ガスグルメパートナー」支援のため、自社の社員食堂を特設会場にして、毎週金曜日の夕方にテイクアウトの惣菜メニューを持ち込んでもらい、社員向けに販売した。金沢明法エネルギーサービス事業本部長は、「レストランや居酒屋の経営者には、『こういう企画は北ガスだけだね』と喜んでいただけた。社員の家族も、在宅時間が増え自炊が大変だった中で『助かった』と好評だった」と、手ごたえを語る。

北ガス社員向けにテイクアウトメニューを販売

こうした非常時の丁寧な対応が、社会が平常に戻った際にも顧客をつなぎとめることにつながる。同社の業務用と家庭用の販売量の比率は2対1。コロナ禍で業務用は2~3割減少した一方、家庭用は2割増えた。金沢本部長は「家庭用は災害など有事や景気に左右されず安定している。2030年までに、札幌市内を中心とする都市ガス未普及地域に330㎞の導管を敷設する計画で、需要拡大に向け、コロナ禍で得た知見を生かしサービスをより進化させていきたい」と意気込む。

ウィズコロナでどう変わるか 新たな時代のエネルギー社会とは


座談会:江田健二/エネルギー情報センター理事
    巽直樹/KPMGコンサルティング プリンシパル
    塩将一/積水化学工業 住宅カンパニー広報・渉外部技術渉外グループグループ長
    中西勇太/トヨタ自動車新事業企画部担当部長

コロナ禍の終息が一向に見えない中、「アフターコロナ」ではなく「ウィズコロナ」がキーワードとして取りざたされるようになった。社会やエネルギーの在り方はどう変わるか。

――新型コロナウイルス感染拡大に伴う社会の変化から、どのような課題が見えてきたでしょうか。

 3・11後の放射線デマを彷彿とさせるような情報リテラシーの欠如が、今回も浮き彫りになったように思います。当時とは違い、オープンソースの時代ですし、3月には感染症に関する多角的なデータにアクセスできるようになり、情報ポータルが充実してきました。それにもかかわらず、3か月が経過した今もメディアは感染者数のみを取り上げ、国民の不安をあおるような報道が多く、それに扇動される形で世論がミスリードされていることは否めません。

 感染症に関してゼロリスクを求めることは不可能ですから、その中で感染対策と経済活動のバランスをどう取るのか。少なくとも、世の中をリードする人たちは、科学的なリテラシーが必要だと痛感しました。

江田 行政サービスにおけるデジタル化の遅れが、さまざまな手続きをスピーディーに実施する上での足かせになっていることが浮き彫りになりましたね。デジタル技術を活用できていれば、10万円の給付金や事業者への持続化給付金の支給など、より早く必要な人に届けられたはずです。


江田健二

 一方で、こうした課題が見えたことで、デジタル対応を加速化していかなければならないという意識を持ったことは、新型コロナ騒動の経験を踏まえ社会を良い方向へ変化させるチャンスです。デジタル化を一層進めると同時に、企業や行政はなんとなく続けてきたけど意味がない慣習を整理し、業務の在り方を見直す必要があると思います。

中西 確かに、緊急事態宣言下の在宅勤務を通して、いかにITツールへの対応が遅れていたか実感させられました。これまでもウエブ会議システムはありましたが、実際に使ってみると通信速度の課題があったり、電子印鑑の仕組みがなく、オンラインで業務を完結させることができなかったりといった問題が明らかになりました。社内でも業務の要・不要の整理が始まっていて、これを機に本質的に取り組むべきことに、より注力できるようになると大いに期待しています。

 企業が一斉に在宅勤務に切り替え、業務の生産性が向上することが分かったことで、一部では恒常的に在宅勤務を採用しようという動きが生まれたことも大きな変化の一つです。今回、在宅時間が増えたことで、家庭のエネルギー消費にどのような影響を与えたのだろうかと調べてみました。

 一般家庭約3万2000軒分の電力データを分析したところ、5月は家庭の電力消費が8%加し、特に昼間だけ見ると14%増えていました。これは、在宅時間の増加によるものと見られ、感染が再び拡大し冷房需要が大きい8月に第二弾の緊急事態宣言ともなれば、この傾向がさらに顕著になるのは間違いありません。昼間の電力消費量の増加は、自宅の太陽光発電から自家消費で対応するのがベスト。ウィズコロナ社会は、家庭内での電力供給の在り方がより重視されることになると考えています。