自由化は何をもたらしたのか 草創期の第一人者たちが語る電力制度改革の原点と未来

発電小売部門に競争を導入する電力自由化がスタートし四半世紀が経過した。第一人者たちが歴史を振り返るとともに、未来のあるべき姿を提言する。

【座談会】井上雅晴/V-Power顧問、岩井博行/岩井レポート・アドバイス代表、本名 均/イーレックス社長、中井修一/電気新聞元編集局長、西村 陽/大阪大学大学院工学研究科招聘教授

上段左から井上氏、岩井氏、本名氏
下段左から中井氏、西村氏

―まずは、電力自由化四半世紀を振り返って率直な感想をお聞かせください。

井上 自由化以前は、大手電力会社にコスト削減の概念はほとんどなかったと聞いています。それが、競争にさらされ大きく変わりました。当時、電力会社の総売り上げは15兆円ありましたが、最初の5年で年間約2兆円下がったと記憶しています。そういう意味で、5年に限っては自由化の効果があったと思います。

岩井 もっとスピード感を持って改革を進めるべきであり、新規参入者側としてそういう働き掛けをしてこなかったことは大きな反省点です。安定供給への配慮もあり、ゆっくり進めたばかりに体制づくりもゆっくりとしたものになった。それが、「間違った」と思っても後戻りできない状況をつくり出してしまいました。

本名 2000年当時、新電力といえば通信事業者やガス事業者、商社など、資本がしっかりとした大企業が中心でした。供給力をいかに確保するかも含め、大手電力会社に対し不利な競争環境であることを覚悟の上での参入だったのです。当社も自前の供給力を確保しようと、LNG火力発電事業に乗り出しましたが、リーマンショックに伴う原油高につながるタイミングと重なり大失敗に終わりました。このように、自由化後は予想し得ないことが多々起きました。東日本大震災以降は、欧米のシステム改革を追う形でさまざまな制度改革が急速に進められ、あっという間で大変な20年間でした。

中井 取材してきた側から申し上げると、電力業界、中でも東京電力の力が大きくなりすぎたことに問題意識を持った官僚の行動が全ての改革の始まりでした。政治・経済情勢や米国との関係などさまざまなことが起因し、経済産業省は新事業者を参入させる規制緩和にかじを切ったわけです。市場を開放し電気料金を下げることが狙いでしたが、本当に国民経済的に良かったと言えるのか、答えが出るにはもう少し時間がかかりそうです。

西村 新電力の草創記は原油高で、メリットオーダー上、石油が市場価格を決めていたため市場には最も高い玉しか出ませんでした。原油高騰により08年ごろは新電力にとって最も厳しい時代でしたが、それでも電力供給システムを熟知した上で事業展開してくれたおかげで、電力業界はゆっくりと体質を改善することができたのです。12年以降のシステム改革であまりに電気事業について不勉強な市場参加者が増えてしまい、安定供給が崩壊しつつある現状との落差を考えると、最初に参入された皆さんの大きな貢献があらためて思い起こされます。

新たな需要開拓や技術の確立 分離後は導管会社が担い手に

インタビュー:広瀬道明/日本ガス協会会長

大手3社の導管分離を控え、都市ガス事業は歴史的な大転換期を迎えている。業界は、この歴史的な変革にどう向き合い存続を目指そうとしているのか。

ひろせ・みちあき 1974年早大政経学部卒、東京ガス入社。
2006年執行役員企画本部総合企画部長などを経て14年社長執行役員、
18年会長。18年6月に日本ガス協会会長に就任。

――都市ガス小売り自由化の動向をどう見ていますか。

広瀬 これまで市場競争は、首都圏、東海、近畿、九州地方が中心でしたが、北海道電力が参入をしたことでこれに北海道エリアが加わり、電力と同様に全国に広がったと認識しています。

――新型コロナウイルスが事業に与える影響は無視できません。

広瀬 経済活動の自粛により、電力もガスも業務用を中心に需要が激減した上、各社とも営業活動ができずスイッチング(契約切り替え)が停滞しました。特に対面営業を強みとしてきた都市ガス会社は、営業手法に大きな課題を突き付けられることになりました。これを機に、ウェブなどによる営業手法の重要性がより強く認識され広まればと思います。

歴史的大転換をもたらす 導管分離と脱炭素化

――資源エネルギー庁において、「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」が始まりました。 広瀬 都市ガス事業が始まって、再来年で150年となりますが、今、この長い歴史の中で経験したことがないような大きな転換期を迎えています。「レジリエンス(強靭化)」や「デジタル化」といったさまざまな要素がある中で、最も大きな変化の要因は、「導管分離」と「脱炭素化」だと考えています。

 「製造」から「供給」「サービス」までを一体的に運営し、ガス体エネルギーを提供するという事業を150年近く変わらず続けてきましたが、導管(供給)が分離されることになります。また、石炭・石油・LNGと原料は変わってきましたが、時代は脱炭素に向かっています。これらの課題に対し、今後どうしていくべきか、事業者自らも考えていきますが、新規参入者を含め多様な分野の方に在り方研究会に参加いただき、将来のガス産業について幅広い議論をしていただくことで、その成果を、エネルギー基本計画をはじめとした今後の政策議論に反映することができればと思います。

――導管分離はどのような変革をもたらすでしょうか。

広瀬 単に導管部門を別会社化するだけでは意味がありません。これまではガス会社の一部門でしたが、導管分離後は、独立した会社として主体性のある経営が行われるようになります。導管会社は、導管によるガス供給の安定性と効率性の向上に加え、新たな需要開拓や脱炭素化に向けたメタネーション技術の確立、スマートメーターを活用したサービスなど、新しい事業分野に率先して取り組んでいくことになるでしょう。

――インフラ強化やレジリエンスの確保に向けた取り組みについてはどうお考えですか。

広瀬 大規模自然災害が頻発する中で、レジリエンスの観点から送電網、導管網の拡充・広域化の必要性は高まっています。ガスでは、太平洋側と日本海側を横断するようなパイプラインの整備について、具体的に検討していくべきではないでしょうか。

システムの分散化と強靭化に活路 地方ガスの新たな役割とは

インタビュー:山内弘隆/一橋大学大学院経営管理研究科特任教授

脱炭素社会に向けた世界の潮流は、都市ガス会社も到底避けて通れない。むしろ、新時代のエネルギーシステム構築の担い手となることが期待される。

やまうち・ひろたか 1955年千葉県生まれ。慶大大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。98年から2019年まで一橋大商学部教授。現在、一橋大名誉教授、同大大学院特任教授を務める。

――「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」では、どのような議論がされるのでしょうか。

山内 脱炭素化の実現に向け、電源の非化石化を前提とした電化が進められようとしている中で、炭素エネルギーであるガスを扱う都市ガス会社が、どのようなポジションで存続していくべきかが大きな課題となっています。エネルギー転換・脱炭素化を実現するまでの過渡期のエネルギーとして、また、地域のレジリエンス強化に資するエネルギーとしてまだまだガスの役割は大きい。

 一方で、50年に向けては国の政策や社会構造の変化、水素やメタネーションといった技術革新がどのようなロードマップで実現できるかなど、不確実な面が多く、それらを踏まえながらさまざまなシナリオを考えていかなければなりません。

――在り方研の議論は、次期エネルギー基本計画の策定にどう反映されるのでしょうか。

山内 エネルギーミックス(電源構成)は、原子力や石炭政策がまず前提にあり、ガスの存在はあいまいなものになりがちです。前回までのエネ基の議論では、熱利用や水素関連技術も含め十分な議論がなされたとは言えません。ガス市場整備室としてはもっと早くに在り方研の議論を始めたかったと聞いていますが、エネ基としっかり連携させることができるギリギリのタイミングで始められたことは、良かったと思います。

――人口減によって地方ガスの経営は一層厳しいものになりそうです。ガス会社の地域社会における役割についてどうお考えですか。

山内 地方のエネルギー供給システムの分散化が進む中で、それをどう担っていくかに、一つの地方ガスの生き残りの道があるのではないでしょうか。

 大手電力会社よりも地域に密着した事業を展開していることを強みに、地方自治体によるレジリエンスや脱炭素化の取り組みに主体的にかかわり、熱利用を含めた地域分散型のエネルギー供給システムを構築する―。そのためには、自社だけでは技術や資本面で賄えない部分もあるでしょう。そこに、大手ガス会社やIoT企業など他業種とのいろいろな連携が生まれると思います。

デジタル技術を活用した 新サービス創出に期待

――デジタル技術を活用した新たなサービスモデルの創出も、経営基盤の強化に欠かせません。

山内 ほかの産業と同様、エネルギーの分野でもデジタル技術の活用は、業務効率化や新サービスの創出など次の事業展開を考える上で大きな要素となります。例えば、ガスのスマートメーター化が実現すれば、そこから得られるデータを基にした新たなサービスが生まれるでしょう。また、新型コロナウイルス禍を契機に生活様式が変わり、エネルギーの使われ方が変わる可能性があります。そうした変化に向けてどのような手を打ち出すのか、各社の取り組みに期待しています。

10代で通信機器販売会社を創業 企業が成長し続ける秘訣

【私の経営論(1)】吉本幸男/エフビットコミュニケーションズ社長


よしもと・ゆきお 1944年高知県生まれ。62年11月に京都市で通信機器販売店を創業、64年8月にエフビットコミュニケーションズの前身である近畿電話を設立し代表取締役社長に就任した。2017年6月代表取締役会長を経て18年4月から現職。

通信機器販売会社として1964年に発足した当社は、インターネット接続サービス(ISP)やビジネスホテルのビデオ・オンデマンド(VOD)などの情報通信サービスなどで業容を拡大し、成長してきました。

昨今では、エネルギー小売り全面自由化に合わせて、電気と都市ガス販売にも乗り出しています。本稿では、大手資本の後ろ盾のない当社が、厳しい競争環境の中でいかに新規事業を開拓し、成長し続けてきたかについてお話していこうと思います。

私は、遠洋マグロ漁業が盛んな高知県室戸岬で生まれました。振り返ってみると、高度経済成長期だった当時は、中学校を卒業すれば「金の卵」と呼ばれ、人材が重宝された時代でした。中学校卒業後は、マグロ漁船の船長を目指し水産高等学校に入学しましたが、父親とけんかし家出する形で大阪に出ました。

創業当時のメンバー

縁があって通信事業の世界に飛び込んだのは17歳の時です。先輩が京都で会社を立ち上げるからと誘われたのですが、その先輩が行方不明になってしまい、会社を引き継いだのです。いずれ会社を起こしてやろうという野心はありましたが、そんなに早くチャンスが巡ってくるとは思っていませんでした。当初の従業員数は6人。全員年上でした。

新電力プラットフォームを拡充 手厚いサポートで販売量増に貢献

【エネルギービジネスのリーダー達】深見典弘/ダイヤモンドパワー社長

創立20周年を迎えた新電力のパイオニアであるダイヤモンドパワーの社長に就任した深見典弘氏。パートナー企業の販売電力量拡大に貢献することで、さらなる飛躍に意欲を見せる。

ふかみ・のりひろ 1988年静岡大学人文学部経済学科卒、中部電力入社。2013年10月ダイヤモンドパワー取締役事務統括、16年4月三重支店営業部長、18年4月静岡支店副支店長兼電力ネットワークカンパニー静岡支社副支社長などを経て20年4月から現職。

電力の特別高圧・高圧分野の部分自由化に伴い、2000年3月に設立された新電力のパイオニア、ダイヤモンドパワー。創業当初は三菱商事の100%子会社だったが、13年10月に中部電力が株式の8割を取得すると、大手電力会社による初の新電力ビジネス、営業区域外への進出の足掛かりとなるなど、今日に至る電力自由化を象徴する一社だ。

激変する競争環境 成長の軸にアライアンス

20周年を迎えた今年、社長に就任した中部電力出身の深見典弘氏は、13年に初めての中部電力からダイヤモンドパワーへの出向者として赴任していた一人。プロパー社員とともに新電力ビジネスに携わった経験を、「状況に応じて臨機応変に計画や目標を変えながら、ライバルと競争して成果を出すという少数精鋭の営業スタイルに大きなやりがいを感じていた」と、感慨深く振り返る。

当時、新電力の競争相手は大手電力会社であり、同社としても三菱商事と中部電力とのシナジー効果で、公共入札を中心に東京エリアにおける直接販売をいかに増やすかが戦略の要となっていた。

一方で、電源調達、需給管理におけるインバランスの抑制にも腐心した。「需要と発電の誤差が3%を超えると大きな経済損失が生じてしまう。30分同時同量をいかに達成するか、プロパー社員の技術力とモチベーションの高さが印象に残っている」(深見社長)

4月からは社長としてダイヤモンドパワーの事業に再び携わることになったわけだが、小売り全面自由化を経て、新電力側から見える電力市場は大きく様変わりしたと実感しているという。

相次ぐ新規参入による東京エリアでの競争激化、安価な卸価格により取引市場調達に頼る新電力有利となりがちな状況は、調達手段が限られる中で独自電源の確保を不可欠としていた4年前までとは大きな違いだ。

競争環境が変化する中で、同社の今後の成長戦略を描くために欠かせないのが、16年に立ち上げた託送制度の代表契約者制度を活用した新電力プラットフォーム事業。プラットフォームに参画するパートナー企業の電源調達や需給管理などを同社が請け負い、必要な電力を供給するとともに、電源価格の上昇やインバランスなどのリスクも引き受ける仕組みだ。

パートナー企業にとっては、販売活動に専念でき安定した利益を得られるとあって、現在までに北関東の都市ガス会社など約50社が参画している。目標は、これを近い将来、倍増させること。そのためには、プラットフォームに参画、または参画が見込まれるパートナー企業のニーズに耳を傾け、より有効なサービスを提供していかなければならない。

既に、新電力立ち上げ支援や、目まぐるしく変わる電気事業制度についての情報提供、さらには、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度終了に伴う太陽光余剰電力の買い取りスキームなど、電力販売量拡大を後押しするサービスに力を注いでいるが、今後はさらに一歩進んだプラットフォーム事業を展開していくための新スキームにも積極的に乗り出していく方針だ。

「ローカルグリッドや電力の地産地消の実現に向けた支援、自己所有電源を活用した需要家PPS(特定規模電気事業者)事業、VPPやデマンド・レスポンス(DR)への対応はもちろんのこと、パートナー企業の家庭用のお客さまの暮らしを豊かにするようなサービスも充実させていきたい」と深見社長。

今年開設された容量市場をはじめ、新たな制度が今後も相次いで立ち上がり、事業を取り巻く環境は今後も大きく変わっていく可能性は高い。これをいかに正確に読み適切に対応していくかが、今後ますます重要な経営課題となると見ている。

新型コロナウイルス禍の影響で、3月に予定していた20周年記念式典の開催は見送らざるを得なくなり、4月以降も思うような営業活動はできていない。既存のパートナー企業とはリモートシステムを介してやり取りできるものの、新規開拓となるとどうしても対面する必要があり難しいのが実情だ。だが、「新規開拓に向け新たなアプローチの手法を模索中だ」といい、秘策はあるようだ。

培った信頼を生かし 着実な成長を目指す

自由化当初から参入し、同時同量制御の実施など困難に直面しながらも、バランスの良い電源調達と適格な需給運用体制を実現することで顧客企業との信頼関係を築き上げてきたという社員の自負は、中部電力傘下になった今も変わっていない。

「20年かけて培ってきた信頼を生かし、足元の状況だけに捉われることなく、将来を見据えた適切な電源ポートフォリオを形成し、パートナー企業とともに着実に成長していきたい」と今後の事業拡大に意欲を示した。

電力のゲームチェンジャーなるか 通信大手3社の次の一手に迫る

百花繚乱の電力市場で、IoT技術を武器に一歩リードしはじめた通信事業者。イノベーションを促し電力ビジネスを根底から変革させる起爆剤となるか。

2000年以降、段階的に自由化が進められてきた電力小売り市場。16年4月の全面自由化以降は、600社以上の新規事業者が参入し、4年半が経過してもなお、需要争奪戦は激しさを増す一方だ。

通信業界からは、NTTを筆頭にKDDIやソフトバンクといった大手3社も参戦。早くに自由化を経験した通信業界の雄とあって、当初は、大手電力会社と双璧をなす勢力となり、電力業界に大変革をもたらすだろうとの期待はあったものの、これまでほかの新電力の戦略との目立った違いは浮き彫りにならなかった。

ところがここにきて、状況は変わりつつある。各社が自社の通信ビジネスの強みを生かした新たな手を打ち出し始め、三社三様の電力市場攻略の筋書きが垣間見え始めたのだ。通信会社が、不毛な料金競争からいち早く抜け出し、電力事業のイノベーションによる価値創造のけん引役となっていくのではないか―との期待が高まっている。

電力インフラに巨額投資 東電とスマエネ実証も

通信大手3社の中で、最も早く電力事業に参入したのはNTTグループだ。高・特高圧市場が自由化された同じ年、NTTファシリティーズと東京ガス、大阪ガスの共同出資によるエネットを設立し、電力販売とエネルギーサービス事業に乗り出した。

NTTが東電と取り組むスマートエネルギー実証のイメージ

ただ、NTT側は当時から、電力小売りビジネスの拡大にはあまり関心がなく、自社の基地局などの設備に安い電気を供給し、自社グループの電力コストを削減することが参画の最大の狙いだと言われていた。

【NTTアノードエナジー】毎年1000億円の設備投資 持続可能な街づくりに貢献

自在アセットを活用した直流給電システムの構築を打ち出したNTTグループ。電力インフラの整備に乗り出す真意を聞いた。

【インタビュー】谷口直行/NTTアノードエナジー取締役スマートエネルギー事業本部長

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―新型コロナウィルス禍を機に、通信・エネルギービジネスにどのような変化がもたらされると見ていますか。

谷口 コロナの感染拡大によって、通信・エネルギーインフラのレジリエンス対策の在り方は大きく変わると考えています。これまでは、避難者は体育館など一カ所に集まり、インフラ事業者はそこに向けて通信・エネルギーサービスを提供すれば良かった。ですが、これからは避難所の「分散化」「多様化」が求められます。レジリエンス上サポートすべき形が変わっていくということになります。

―NTTグループとして災害時のBCP対応も念頭に、自営線を通じた直流電力供給の構想を打ち出しています。その方向性にも影響があるということでしょうか。

谷口 まず、配電“網”を構築することは考えていません。われわれはNTTのアセットである通信ビルなどに設置する蓄電池を活用し、自営線敷設による直流給電を行うことでよりレジリエンス性の高いサービスなどを展開するといった構想です。その意味では大きな方向性が変わることはありませんが、さらなる分散化のニーズにどう向き合っていくかは、これからの大きなテーマになると思います。自治体が設置した避難所に対してサービスを提供するというよりも、エネルギーと通信のレジリエンスの観点で自治体が持つ災害時の避難の在り方や、地域への企業誘致などの課題に対してどのようにサービスを展開していくべきか、自治体の構想段階から関与していく必要があると考えています。

 今年から2025年まで、毎年1000億円を投入し再エネや蓄電池、直流配電による自営線を整備してオフィスや病院に電力供給していく計画ですが、再エネや蓄電池を設置するNTTの電話局に近い施設でなければ、経済性を含めて実効力がある事業とはなり得ません。レジリエンス対策と事業性が両立するような領域を見出し、全国展開していきたいと考えています。

オフィス分散化に 地方活性化のチャンス

―通信インフラ事業を手掛けているからこその取り組みですね。

谷口 このビジネスでターゲットにしているのは、大都市ではなく人口減少が加速し持続可能なエネルギーや通信インフラの維持が難しくなっている地方都市です。地方活性化策などに伴う開発段階から参画してインフラを整備していきます。外出自粛期間を通じてオフィスの分散化が可能であると分かったことは、地方に企業誘致の大きなチャンスを生みました。その際には、安心して企業活動できるための基盤を、エネルギーと通信の両面で当社が担っていきたいですね。

―通信とエネルギーはより密接な関係になりそうです。

谷口 ローカル5Gなど新技術による通信サービスの仕組みを導入していく上で、通信事業者にとってエネルギーは切っても切り離せないものになっています。通信事業者が通信サービスだけを手掛ける時代は既に終わっていて、エネルギーをセットで販売することはもちろんのこと、シェアリングエコノミーを追求しながらさまざまなサービスを提供するとともに、コストの最適化を図っていかなければなりません。

 そのためには、送配電網を管理する電力会社との協調はより重要になります。設備の共有化や情報共有を加えることで、さらに効率化を図っていくとともに強靭なインフラの仕組みを構築できると考えています。

【ソフトバンク】エネルギー分野で新たな価値創造 電力マーケットの拡大目指す

家庭向け電力販売に注力するソフトバンク。電力データを活用した新サービスでリードしようとしている。

【インタビュー】中野明彦/ソフトバンクエナジー事業推進本部本部長

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―現在の電力市場競争についてどう分析していますか。

中野 スイッチング率は伸びてはいるものの、新電力の販売量の伸びは鈍化しつつあり、踊り場に差し掛かっていると見ています。2016年の全面自由化からの言わば第一ラウンドが終了し、第二ラウンドに入ったと言っていいと思います。価格訴求で顧客を獲得するだけでは単なるパイの奪い合いであり、おのずと限界がある上、小売りのマーケット全体もシュリンクしてしまいます。事業者の創意工夫で電力ビジネスに新しい価値を付加し、マーケット自体を広げていかなければいけません。

―コロナ禍で市場価格の低迷が続き、取引所調達の小売り事業者が存在感を増しているのも事実です。

中野 一時的に安くなった市場価格をもとに、今年はお客さまを獲得できたとしても、この先の市場価格は誰にも見通せませんし、そのお客さまが来年も契約してくださるか分かりません。中長期的な視点で事業をとらえないと、電力ビジネスを継続することは難しく、最終的にはお客さまにご迷惑をおかけすることにもなりかねません。

―2020年は御社の電力ビジネスにとって大きな転機になりそうですか。

中野 他社よりも1年以上遅れて(低圧の)小売市場に参入したこともあり、まだまだ事業として発展途上な段階ではあります。ただ、ここにきてようやく新しいことに挑戦できる環境が整いつつあります。顧客基盤や収益基盤が不安定なままでは、新しいことにはなかなか取り組めませんから、最初の数年は基礎体力を付けることに注力しました。お客さまの数も順調に増やすことができ、電力の需給運用面のノウハウや電力データなどが徐々に蓄積されていることから、それらを活用した新しいサービスを検討できるようになってきました。ソフトバンクグループの強みを最大限生かし、新しい価値をエネルギー分野から創出できるかがわれわれの挑戦となります。

――御社の強みとは具体的に何でしょうか。

中野 当社の本業は、通信・インターネットサービスであり、スマートフォンを中心にさまざまなサービスを提供しています。自前の技術でアプリや関連サービスを開発できることは、これからの電力ビジネスを進める上でも大きな強みになると考えています。最新のスマートフォンサービス・コンテンツやAIによるビッグデータ分析技術を電力小売り事業に活用することで、エネルギー分野から新たな価値創造を発信していくことが当社の役割であると自任しています。

制度対応が競争力に 事業者として責務果たす

―度重なる制度変更が、新電力ビジネスにとってリスクにもなっています。

中野 新電力にとって次々にスタートする新たな制度はリスクでもありますが、逆にチャンスになり得ると考えています。制度の変化をいち早くとらえ、深く理解し、それらに対応できるかが、今後の新電力間の競争で大きな差を生むことになるでしょう。

 電力ビジネスは参入するのは比較的容易ですが、オペレーションはそう簡単にはいきません。さらにここに新しい制度がどんどん加わります。ある日突然、経営が立ち行かなくなることも起こり得ます。

 われわれはそうした新たな流れの中であっても、事業者としての責務を果たし、お客さまにご満足いただけるエネルギーサービスをお届けすることに愚直に取り組んでいきます。

【LPガス】安定供給の担い手 業界として矜持を

【業界スクランブル/省エネ】

災害対応で常に最後の砦と呼ばれるように、LPガスは災害対応に強いエネルギー供給源と言われてきた。これは、従前から日本LPガス協会や全国LPガス協会が川上から川下まで進めてきた災害への備えに加えて、50年間にわたって独自の配送システムをつくり上げてきたLPガス業界特有の優位性の視点から、まさに今般のような複合的な災害に十分に対応できる実力を持っている。

今年4月以降、電力、都市ガス、石油に伍してLPガス主要元売各社は、「指定公共機関」に指定されるなど、今後は国・自治体と業界の連携である災害時供給連携計画などでも、実践的な災害対策訓練に参画する礎石ができたといってもよい。もちろん、コロナ禍の中でLPガス供給・販売事業者のみの自助努力では解決できないさまざまな課題も存在しており、行政との連携の中で改善する余地は多分に残されていると考えている。

今後もコロナ禍の中でエネルギー供給・販売事業者としてエッセンシャルワーカーという自負を持つ必要がある。そのためには、例えば電力、都市ガス事業者と同様に感染予防や対策における医療面での優先度向上(ワクチン接種の優先度など)を要求していかなければならない。また、一次基地や二次基地の感染者増加に伴う出荷停止の場合など、円滑かつ速やかな国家備蓄や民間備蓄の運用、さらにはお客さまを含めた感染防止のためのLPガス機器類の検査・交換期限の延長など、業界は期限管理の制度を壊すのではなく要求すべきである。

さらには国、地方自治体などの規制当局に対し、紙と押印ベースによる書類申請しか受け付けないなどの仕組みを行政当局と協議の上、早急に解決していく必要がある。LPガス供給・販売事業はエッセンシャルファシリティであり、それに従事する私たちは当然エッセンシャルワーカーである点を行政当局はきちんと認識するべきであり、われわれ自身も業界に対する矜持を持つべきであろう。(D)

顧客本位のサービスを提供し 電力業界を革新する

【エネルギービジネスのリーダー達】山口浩一/クリーンエナジーコネクト社長 

企業の再エネ調達ニーズに応えるべく、環境エネルギー投資が立ち上げた新会社の社長に就任した。顧客目線のエネルギーシステムによる電力業界革新に意欲を見せる。 

やまぐち・ひろかず 東京電力で経営企画本部次長、国際部長、新成長タスクフォース事務局長などを
歴任した後、2018年に環境エネルギー投資マネージング・ディレクターに就任。20年4月にクリーンエ
ナジーコネクトを立ち上げ代表取締役社長に就任。 

エネルギー・環境分野に特化したベンチャーキャピタル(VC)である環境エネルギー投資が、企業の「RE100」達成を支援するために立ち上げたクリーンエナジーコネクト。社長に就任したのは、東京電力出身で環境エネルギー投資のマネージング・ディレクターを務める山口浩一氏だ。 

新規性の高いソリューション  自ら非FIT電源保有も 

国際的イニシアチブ「RE100」への参加を表明する企業が増え、国内でも事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達しようと模索する動きが加速しつつある。一方で、肝心の再エネ調達の選択肢は多様化・複雑化しており、専門のノウハウを持たない需要家が、自社にとって最適な再エネ調達方法を見つけることが非常に難しくなっているのが実情だ。 

既に、大手電力会社や新電力などの小売り電気事業者が、水力などの再エネを由来とするグリーン電力プランや、FIT電源にトラッキング付非化石証書を組み合わせるプランなどを提供しているものの、FITに依存しない生のグリーン電力となると供給量はまだまだ足りない。 

そこで、新規性の高いソリューションをワンストップで提供し、非FITを含む多様な再エネ調達ニーズに対応できる事業モデルを主導しようと、今年4月に設立されたのがクリーンエナジーコネクトだ。6月に環境エネルギー投資が運用する4号ファンドから全額出資を受け、本格的に事業を開始した。環境エネルギー投資が立ち上げたベンチャー企業としては4社目となる。 

山口社長は、「外資系を中心に、グローバルでRE100を目指す需要家にとっては、再エネを増やすことに貢献し、その結果として化石燃料の消費抑制につなげることが重視される。ところが、日本ではまだまだそういったニーズを踏まえた電力供給ができる事業者が少ないという声は多い。クリーンエナジーコネクトとして、最先端のニーズに対応していきたい」と意気込む。 

そのために、既存のFIT電源や顧客需要家が保有するFIT電源の活用にとどまらず、同社としても非FITの太陽光発電(PV)などに投資し、保有していく方針を掲げる。 

あわせて、そうした電源由来の電気を「自己託送」により顧客企業の自家消費用に供給するのに加え、再エネ電源と需要家が長期間の電力購入契約を直接結ぶことで環境価値を確保した上で、卸電力市場を介して電力供給する「コーポレートPPA」なども駆使していくことになる。 

大手との競争は視野に入れず  生のグリーン電力を需要家に 

現在、一般的なグリーン電力の調達手段となっているグリーン電力証書や非化石証書は、どうしても電気料金を押し上げてしまう。しかし、オンサイト自家消費や自己託送を活用すれば、kW時当たりの電力料金を現行の電気代と同等かそれ以下に抑えながら、生のグリーン電力を利用できるというメリットを需要家に提供できる。 

あえて小売り電気事業者としてのライセンスは取得しておらず、大手電力会社系や新電力などとの競争は視野に入れていない。顧客需要家が電力供給契約を結ぶ供給事業者とも良好な関係を保ちながら、最適な再エネ供給メニューづくりを促していく考えだ。 

最初の案件として、投資ファンドの出資者でもある第一生命へのアドバイザリーを開始している。第一生命は全国で所有している不動産でRE100達成を目指しており、FITPVにも投資している。まずは、こうしたPVで発電した電力とトラッキング付非化石証書を組み合わせることで、RE100達成に向けた取り組みを前進させたいという。 

東電時代は企画畑が長く、2011年の福島第一原発事故以降は、新成長タスクフォースの事務局長としてイノベーションによる同社の企業価値向上に向け取り組んできた。 

世界で再エネシフトやデジタル化が加速する中で、新しいイノベーションを生み出せなければ先はないとの思いから、社内にベンチャー投資チームを作り外部から人材を招聘。エネルギーイノベーションに向け、海外ベンチャーへの投資を積極的に行った。 

電力業界の旧弊を打ち破ろうと懸命に努めたものの、大きな組織の中では一つのことを実現するにも社内調整に追われるなど難しさを感じることも。2年前に環境エネルギー投資に移ってからは、目に見える成果が求められる大変さがある一方、真に顧客目線のサービスを提供できることにやりがいを感じているという。 

「お客さま本位のサービスを提供できなければベンチャー企業は成長しない」と語る山口社長。これからは、大手電力会社の外で顧客目線の新しいエネルギーシステムを作り上げ、電力業界に革新をもたらしたい考えだ。 

新たな収益源として期待も エフビット社がガス火力買収

エフビット社が買収に踏み切った新中袖発電所

通信系新電力のエフビットコミュニケーションズ(京都市)は8月5日、Fパワーが所有していた新中袖発電所(千葉県袖ヶ浦市、11万kW)の買収を完了した。同社が発電所を保有、運用するのは初めて。小売事業の電源として利用することで、卸電力価格のボラティリティ低減につなげるのに加え、市場メカニズムを活用しながら新たな収益機会を模索していく方針だ。 

新中袖発電所は、ガスタービンの排熱を利用して蒸気タービン発電するコンバインドサイクル方式。燃料は都市ガスで、ガスタービン発電機を2ユニット備えており、市場価格に合わせた柔軟な稼働が可能であることも買収の決め手となったという。 

卸電力価格は低水準が続いているものの、2024年度には発電設備の固定費の一部負担を小売り電気事業者に求める容量拠出金の支払いが始まる。自前の電源を持つことでこの負担軽減を図るだけではなく、需給調整市場への参加で収益を得ることも視野に入れている。 

同社は高圧向けを中心に全国で電力供給事業を展開。現在、契約電力40万kWを獲得しているが、24年には100万kWまで規模を拡大する目標を掲げている。 

【東北電力 樋󠄀口社長】地域とともに スマート社会実現へビジネスモデルを転換

人口減少や少子高齢化が加速し、社会課題が顕在化する中、この4月に社長のバトンを受け継いだ。社会の変化に対応したビジネスモデルへの転換を図り、社会の持続的発展と東北電力グループの成長の両立を目指す。 

ひぐち・こうじろう 
1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。2018年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、
原子力本部副本部長、19年取締役副社長執行役員CSR担当、コンプライアンス推進担当、
原子力本部長代理を経て20年4月から現職。 

志賀 4月1日に社長へ就任されました。いつごろ、どのように打診があったのでしょうか。 

樋口 原田宏哉社長(現特別顧問)から昨年10月初めに社長就任について話があり、大変驚いたというのが正直なところです。咄嗟に「私でよろしいのですか」と問い掛けたものの、すぐに「分かりました」と返事をしたと記憶しています。経営課題が山積しており、「やるしかない」と覚悟を決めました。 

志賀 これまでの電力マン人生で、印象深かったことは何でしょうか。 

樋口 日本のコンバインドサイクル発電の先駆けとなった東新潟火力発電所3号系列の建設工事に携われたことは、とても誇りに思っています。このコンバインドサイクル発電の実用化は、後に、日本産業技術大賞を受賞しています。そして、火力部副部長として電源計画に携わっていた2011年3月に東日本大震災が発生しました。地域に未曾有のダメージを与えましたが、実家の取り壊しや、放射性物質による汚染など、個人的にも大変な状況にありました。そのような中で、震災直後の電力不足の解消のため緊急設置電源の確保に奔走しました。その後、原町火力発電所の所長として復旧工事に従事し、早期復旧を成し遂げられたことは非常に感慨深く思います。 

志賀 原町火力の復旧は、奇跡の復興とも言われましたね。  

樋󠄀口 所長として原町火力に赴任したのは東日本大震災直後の6月末のことでした。18mの津波で壊滅的な被害を受け、太平洋沿岸の火力発電所の中でも最も大きな被害を受けました。港湾内では石炭船が座礁、発電所構内では油タンクが破損し、建物はサービスビルの3階の天井まで壁をぶち抜かれました。石炭を運ぶベルトコンベアも横倒しとなり、巨大な電気集塵機も傾くなど被害は想像を絶するもので、一旦解体して新しく建設し直した方が早いとも思われるほどでした。 

原町火力の復旧は〝奇跡〟と称される

志賀 その困難と思われた復旧工事を、期間を短縮して完了しました。大変なご苦労だったのでは。 

樋󠄀口 当初、3年をかけて全面復旧を目指すことを計画したのですが、1日も早い復旧が当社を救う、そして南相馬の復興のシンボルになると考え、メーカーや工事関係者を含む「チーム原町」が一丸となって、24時間体制で工事に当たりました。その結果、当初の想定より1年早い、2年で復旧することができました。工程を短縮するため、毎日、工事関係者が集まり協議を重ねていたのですが、大手メーカーであっても社長自ら、工場や工事担当箇所に指示を出していただきました。改めて、緊急事態の際は、トップダウンによる指示が必要であり実効性があると身をもって学びました。 

【関西電力 森本社長】新たな関西電力創生へ 業務改善計画に魂入れ完遂する

不祥事の発覚で逆風吹く中、今年3月に社長に就任した。社内外とのコミュニケーションを深め、透明性の高い開かれた企業風土づくりを目指す。 

もりもと・たかし 
1979東京大学経済学部卒、関西電力入社。2015年常務執行役員総合企画本部長代理、
16年取締役副社長執行役員などを経て20年3月取締役社長に就任。6月から取締役代表執行役社長。 

志賀 一連の不祥事を経て、今年3月に社長に就任し新たなスタートを切られました。 

森本 金品の受け取り問題をはじめ、一連の不祥事によってお客さまや社会からいただいていた信頼を失墜させてしまったことについて、大変申し訳なく、改めてお詫び申し上げます。今年3月、さまざまな課題が山積する中で、いかなる困難にも立ち向かい、再発防止と信頼回復を果たす決意で社長に就任しました。そして、直ちに経営刷新本部を立ち上げ、「業務改善計画」を策定するとともに「指名委員会等設置会社」への移行をはじめ、数々の再発防止対策の実行に取り組んでまいりました。6月の株主総会を経て改革の枠組みは整いましたが、今後は、これにしっかりと魂を入れ実効性を高めていかなければなりません。 

物事を決めていくプロセスの透明性や客観性を担保していくため、「コンプライアンス委員会」や「調達等審査委員会」を新たに設置し、経験・知見豊かな多数の社外委員の皆さまに参画いただき、客観的な視点から貴重なご意見を多数頂戴しています。また、新体制下で初めて開かれた取締役会においても、社外取締役の皆さまから早速、「新たな関西電力の創生」に向けた数々の指摘をいただき、大変心強く、また、ありがたく感じています。 

社員との相互理解深め 全社一丸で信頼回復 

志賀 社員の皆さんも相当不安を感じておられたのではないでしょうか。経営改革を通じて関西電力をどのような企業に育てていくのか。社員へのメッセージを含めて、抱負をお聞かせください。 

森本 昨年来、社員にはお客さまや社会の皆さまからの厳しい声を受け止めながら、それぞれの持ち場で懸命に業務に取り組んでもらっており、改めて感謝の気持ちを伝えたいと思います。今後、改革を実りあるものにしていくために、多くの従業員とコミュニケーションを重ね改革に反映していく所存です。既に、経営層と社員とのコミュニケーションである「創生コミ」や私宛てに直接メールを発信してもらう「直通メッセージ箱」の取り組みを通じて、率直な意見を出してもらっています。経営層に対する厳しい意見が多いですが、回を重ねるごとに前向きな声や改革に期待する声も増えてきており、手応えを感じています。 

こうした声こそが、改革の原動力となりますし、自分の意見を率直に発言できる雰囲気や互いの意見を謙虚に聞く姿勢が、透明性の高い開かれた企業風土をつくる礎になると考えています。より良い道が開かれるよう、これからも経営層と社員とのコミュニケーションを大切に継続し、全社一丸となって信頼回復に取り組みます。電気事業者として誇りを持って仕事に取り組んでいると、社会の皆さまに確信していただけるように、もう一度、全員の力で信頼を築きあげていく――。そのために絶えず努力してまいります。 

志賀 一連の不祥事は、原子力政策の根の深い、さまざまな問題が重なって起きた事案だと思います。これを機に、3・11以降の原子力行政の停滞や規制行政の紆余曲折を検証し、東電問題を含めた原子力政策の在り方、事業者の取り組み方や姿勢が問い直されているのではないでしょうか。 

森本 今回の不祥事の当事者として、そして原子力発電事業を担う一員として、自ら過去の反省を踏まえ取り組まなければならないことがたくさんあります。そういう意味でも、今回策定した業務改善計画をしっかりとやり遂げ、皆さまの信頼を再び賜ることで事業を継続していきたいと考えています。 

グループの再エネ電源を活用し 環境価値のニーズに応えていく

【エネルギービジネスのリーダー達】山本毅嗣/丸紅新電力社長

国内外の発電所建設・運営に長く携わり、電力事業者として安定供給への使命感を強く持つ。群雄が割拠する中で、環境価値、分散型供給を強化し次の成長を目指す。

やまもと・たけし 1967年京都市生まれ。
90年大阪大学経済学部卒、丸紅入社。
英国シージャックス会長、国内電力プロ
ジェクト部副部長、丸紅火力社長などを経て
19年10月から現職。16年11月からは
バイオマス発電事業者協会代表理事を務める。 

昨年10月、丸紅の電力小売り子会社である丸紅新電力社長に就任した山本毅嗣氏。小売り全面自由化から4年が経過し、新電力の優勝劣敗が鮮明化しつつある中、「お客さま、販売代理店や取引先の信頼に応えながら、成長し続けられるようしっかりと取り組んでいく」と勝ち残りに意欲を見せる。

電力小売りで20年の経験 調達や運用に1日の長

丸紅新電力として電力小売り事業に乗り出したのは16年4月だが、グループとしてはそれより以前、2000年に電力小売りを手掛けるようになった。長野県伊那市にて三峰川電力を譲り受け、その電気を中部電力エリアで供給し始めたのが始まりだ。この20年間で蓄積した電力調達や需給運用などのノウハウがあり、それが丸紅新電力の強みにもなっている。

もう一つ、今後の競争力の源泉として期待しているのが、丸紅グループが保有・運営している太陽光や水力発電所など、再生可能エネルギー由来の電力を潤沢に調達できることだ。FIT電源と非化石証書を組み合わせ、CO2フリーの電気として販売することはもちろんのこと、新潟、長野両県で保有する公営水力と小売り契約を紐づけることで、グリーン電力のニーズにも応えることができる。

昨年12月には、特別高圧、高圧の需要家向けに「CO2削減メニュー」と、「再エネ電力メニュー」の提供を開始した。「再エネ由来の電力を調達したい」「CO2排出量を削減したい」という企業からの引き合いは多く、既に成約に至った案件もあるといい手応えを感じている。

背景には、ここ1年ほどで企業の再エネに対する意識が大きく変わったことがある。以前は、契約切り替えの大きな決め手はコスト削減にどこまで寄与できるかだったが、脱炭素化への機運が高まるにつれ、今では「料金が多少高くなったとしても再エネを購入したい」という企業が徐々に増えていることを実感するようになった。

そして、「丸紅グループが国内にて保有する再エネ電源は約300MW。今後も、グループとしてバイオマスや小水力、洋上風力開発にも力を入れていくことになっており、環境価値へのニーズに十分に対応できる」と、この分野での成長に自信を見せる。

一方で、新型コロナウイルス禍で課題も見えてきた。それは、グループのネットワークを活用することでBtoBの営業に強いのとは裏腹に、一般家庭向けの訴求力が弱いということだ。非常事態宣言中は、特別高圧・高圧の需要が減少したのに対し、在宅時間が増えたことで家庭の消費量は増加。いかに顧客をバランスよく持つことが重要であるかを痛感した。

家庭向け強化策の一環として、6月に関東エリアから販売を始めたのが、オール電化や屋根置き太陽光設備、EV(電気自動車)を所有する家庭向けの「ナイトおトクプラン」。地域の大手電力会社の新オール電化メニューよりも、安く夜間電力を使用できるといい、「ウエブを通じた広告展開で、一定の成果が得られることは確認しており、コロナ終息後も家庭向けの営業ツールとして最大限活用、拡販していく」方針だ。

「大きなプロジェクトを手掛けたい」と丸紅に入社した山本社長。電力事業に携わるようになって18年、主に国内外の発電所の建設・運営事業を手掛けてきた。

この間、強く印象に残っているのが12年から2年間、会長として赴任した英シージャックスでの経験だ。英東部ノーフォーク州の港町、グレート・ヤーマスを拠点とする洋上風力発電の据え付けを手掛ける会社で、「当時、ほとんどの日本企業が関心を持っていなかった洋上風力に早くから携わることができたことは、非常に良い経験になった」と振り返る。

同社は、SEP船と呼ばれる洋上風力建設に欠かせない多目的起重機船を5隻保有。このうちの1隻「ザラタン号」が、丸紅が筆頭株主である秋田洋上風力発電が、秋田・能代港沖で建設を進める洋上風力発電事業(14万kW)の据付工事に導入される予定で、来年の入港を心待ちにしている。

分散型の電力供給に注力 地域課題解決への寄与も

電力事業に長く携わってきただけに、「電力事業は社会インフラ。どんな状況下でも安定して電気をお届けするという役割は変わらない」との使命感は強い。そんな山本社長が環境価値と並んで、これから注力しようとしているのが地域に密着した分散型のエネルギー供給だ。

丸紅は、伊那市、中部電力とともに「丸紅伊那みらいでんき」を立ち上げている。ここで目指しているのは、単なるエネルギー供給ではなく、より深く地域に関わり、地域の課題解決に資するサービスを提供していくこと。

同市でのノウハウを生かし、他エリアでの展開も視野に入れており、電力小売りに止まらない、新たなビジネスの可能性を切り開こうとしている。

【新電力】インバランスリスク ヘッジ策はあるか

【業界スクランブル/新電力】

2022年以降、災害時などに電力使用制限や計画停電が実施された際のインバランス価格が、それぞれkW時当たり100円、200円となることになった。これまで新電力は、災害時において公益事業を担う者としての役割が小さいと批判されてきた。今回の制度改正は、新電力にも公益事業の一端を担う責任が生じる点で評価したい。

さて、今回導入されたインバランス制度は英国の制度と酷似している。今回は英国のインバランス制度について簡単に説明したい。英国の送電託送料金はTNUoS(送電系統利用料金)とBSUoS(バランシングシステム利用料金)、接続料金に分けられ、調整力コストはBSUoSと、インバランスを発生させた者が負担するSBP/SSPから回収される。

15年11月に改正されたBSC Modification P305において、供給力不足局面でSTOR(短期起動予備力)の起動指令を行う際には、供給不足確率と予備力不足価格を用いて算出される価格がインバランス価格となり、価格スパイクが発生しやすくなった。今年3月4日には、需要増と風力発電の出力減により、インバランス価格がMW(1MW=1000kW)時当たり2242.31ポンド(約302626.44円)を付けた。これは過去15年間で最高値である。

英国におけるインバランス価格の上限はMW時当たり6000ポンド(約809771.45円)であり、価格スパイク頻度、上限価格ともに日本は英国に比べて相当抑えられている。英国では1618年までスポット・インバランス価格上昇により多くの小売り事業者が撤退した。これにより消費者に対して悪影響を及ぼしたとして、Ofgemは今冬から小規模小売り事業者に対して財務健全性チェックなどのストレステストを課すことになった。日本でも大手電力会社の卸取引における内外無差別の議論が起きているが、新電力が大手電力会社のバランシンググループ(BG)に入り、大手電力会社が代表契約者としてリスクを取るプラットフォームが広がる可能性がある。(M)