【LPガス】安定供給の担い手 業界として矜持を


【業界スクランブル/省エネ】

災害対応で常に最後の砦と呼ばれるように、LPガスは災害対応に強いエネルギー供給源と言われてきた。これは、従前から日本LPガス協会や全国LPガス協会が川上から川下まで進めてきた災害への備えに加えて、50年間にわたって独自の配送システムをつくり上げてきたLPガス業界特有の優位性の視点から、まさに今般のような複合的な災害に十分に対応できる実力を持っている。

今年4月以降、電力、都市ガス、石油に伍してLPガス主要元売各社は、「指定公共機関」に指定されるなど、今後は国・自治体と業界の連携である災害時供給連携計画などでも、実践的な災害対策訓練に参画する礎石ができたといってもよい。もちろん、コロナ禍の中でLPガス供給・販売事業者のみの自助努力では解決できないさまざまな課題も存在しており、行政との連携の中で改善する余地は多分に残されていると考えている。

今後もコロナ禍の中でエネルギー供給・販売事業者としてエッセンシャルワーカーという自負を持つ必要がある。そのためには、例えば電力、都市ガス事業者と同様に感染予防や対策における医療面での優先度向上(ワクチン接種の優先度など)を要求していかなければならない。また、一次基地や二次基地の感染者増加に伴う出荷停止の場合など、円滑かつ速やかな国家備蓄や民間備蓄の運用、さらにはお客さまを含めた感染防止のためのLPガス機器類の検査・交換期限の延長など、業界は期限管理の制度を壊すのではなく要求すべきである。

さらには国、地方自治体などの規制当局に対し、紙と押印ベースによる書類申請しか受け付けないなどの仕組みを行政当局と協議の上、早急に解決していく必要がある。LPガス供給・販売事業はエッセンシャルファシリティであり、それに従事する私たちは当然エッセンシャルワーカーである点を行政当局はきちんと認識するべきであり、われわれ自身も業界に対する矜持を持つべきであろう。(D)

顧客本位のサービスを提供し 電力業界を革新する


【エネルギービジネスのリーダー達】山口浩一/クリーンエナジーコネクト社長 

企業の再エネ調達ニーズに応えるべく、環境エネルギー投資が立ち上げた新会社の社長に就任した。顧客目線のエネルギーシステムによる電力業界革新に意欲を見せる。 

やまぐち・ひろかず 東京電力で経営企画本部次長、国際部長、新成長タスクフォース事務局長などを
歴任した後、2018年に環境エネルギー投資マネージング・ディレクターに就任。20年4月にクリーンエ
ナジーコネクトを立ち上げ代表取締役社長に就任。 

エネルギー・環境分野に特化したベンチャーキャピタル(VC)である環境エネルギー投資が、企業の「RE100」達成を支援するために立ち上げたクリーンエナジーコネクト。社長に就任したのは、東京電力出身で環境エネルギー投資のマネージング・ディレクターを務める山口浩一氏だ。 

新規性の高いソリューション  自ら非FIT電源保有も 

国際的イニシアチブ「RE100」への参加を表明する企業が増え、国内でも事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達しようと模索する動きが加速しつつある。一方で、肝心の再エネ調達の選択肢は多様化・複雑化しており、専門のノウハウを持たない需要家が、自社にとって最適な再エネ調達方法を見つけることが非常に難しくなっているのが実情だ。 

既に、大手電力会社や新電力などの小売り電気事業者が、水力などの再エネを由来とするグリーン電力プランや、FIT電源にトラッキング付非化石証書を組み合わせるプランなどを提供しているものの、FITに依存しない生のグリーン電力となると供給量はまだまだ足りない。 

そこで、新規性の高いソリューションをワンストップで提供し、非FITを含む多様な再エネ調達ニーズに対応できる事業モデルを主導しようと、今年4月に設立されたのがクリーンエナジーコネクトだ。6月に環境エネルギー投資が運用する4号ファンドから全額出資を受け、本格的に事業を開始した。環境エネルギー投資が立ち上げたベンチャー企業としては4社目となる。 

山口社長は、「外資系を中心に、グローバルでRE100を目指す需要家にとっては、再エネを増やすことに貢献し、その結果として化石燃料の消費抑制につなげることが重視される。ところが、日本ではまだまだそういったニーズを踏まえた電力供給ができる事業者が少ないという声は多い。クリーンエナジーコネクトとして、最先端のニーズに対応していきたい」と意気込む。 

そのために、既存のFIT電源や顧客需要家が保有するFIT電源の活用にとどまらず、同社としても非FITの太陽光発電(PV)などに投資し、保有していく方針を掲げる。 

あわせて、そうした電源由来の電気を「自己託送」により顧客企業の自家消費用に供給するのに加え、再エネ電源と需要家が長期間の電力購入契約を直接結ぶことで環境価値を確保した上で、卸電力市場を介して電力供給する「コーポレートPPA」なども駆使していくことになる。 

大手との競争は視野に入れず  生のグリーン電力を需要家に 

現在、一般的なグリーン電力の調達手段となっているグリーン電力証書や非化石証書は、どうしても電気料金を押し上げてしまう。しかし、オンサイト自家消費や自己託送を活用すれば、kW時当たりの電力料金を現行の電気代と同等かそれ以下に抑えながら、生のグリーン電力を利用できるというメリットを需要家に提供できる。 

あえて小売り電気事業者としてのライセンスは取得しておらず、大手電力会社系や新電力などとの競争は視野に入れていない。顧客需要家が電力供給契約を結ぶ供給事業者とも良好な関係を保ちながら、最適な再エネ供給メニューづくりを促していく考えだ。 

最初の案件として、投資ファンドの出資者でもある第一生命へのアドバイザリーを開始している。第一生命は全国で所有している不動産でRE100達成を目指しており、FITPVにも投資している。まずは、こうしたPVで発電した電力とトラッキング付非化石証書を組み合わせることで、RE100達成に向けた取り組みを前進させたいという。 

東電時代は企画畑が長く、2011年の福島第一原発事故以降は、新成長タスクフォースの事務局長としてイノベーションによる同社の企業価値向上に向け取り組んできた。 

世界で再エネシフトやデジタル化が加速する中で、新しいイノベーションを生み出せなければ先はないとの思いから、社内にベンチャー投資チームを作り外部から人材を招聘。エネルギーイノベーションに向け、海外ベンチャーへの投資を積極的に行った。 

電力業界の旧弊を打ち破ろうと懸命に努めたものの、大きな組織の中では一つのことを実現するにも社内調整に追われるなど難しさを感じることも。2年前に環境エネルギー投資に移ってからは、目に見える成果が求められる大変さがある一方、真に顧客目線のサービスを提供できることにやりがいを感じているという。 

「お客さま本位のサービスを提供できなければベンチャー企業は成長しない」と語る山口社長。これからは、大手電力会社の外で顧客目線の新しいエネルギーシステムを作り上げ、電力業界に革新をもたらしたい考えだ。 

新たな収益源として期待も エフビット社がガス火力買収


エフビット社が買収に踏み切った新中袖発電所

通信系新電力のエフビットコミュニケーションズ(京都市)は8月5日、Fパワーが所有していた新中袖発電所(千葉県袖ヶ浦市、11万kW)の買収を完了した。同社が発電所を保有、運用するのは初めて。小売事業の電源として利用することで、卸電力価格のボラティリティ低減につなげるのに加え、市場メカニズムを活用しながら新たな収益機会を模索していく方針だ。 

新中袖発電所は、ガスタービンの排熱を利用して蒸気タービン発電するコンバインドサイクル方式。燃料は都市ガスで、ガスタービン発電機を2ユニット備えており、市場価格に合わせた柔軟な稼働が可能であることも買収の決め手となったという。 

卸電力価格は低水準が続いているものの、2024年度には発電設備の固定費の一部負担を小売り電気事業者に求める容量拠出金の支払いが始まる。自前の電源を持つことでこの負担軽減を図るだけではなく、需給調整市場への参加で収益を得ることも視野に入れている。 

同社は高圧向けを中心に全国で電力供給事業を展開。現在、契約電力40万kWを獲得しているが、24年には100万kWまで規模を拡大する目標を掲げている。 

【東北電力 樋󠄀口社長】地域とともに スマート社会実現へビジネスモデルを転換


人口減少や少子高齢化が加速し、社会課題が顕在化する中、この4月に社長のバトンを受け継いだ。社会の変化に対応したビジネスモデルへの転換を図り、社会の持続的発展と東北電力グループの成長の両立を目指す。 

ひぐち・こうじろう 
1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。2018年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、
原子力本部副本部長、19年取締役副社長執行役員CSR担当、コンプライアンス推進担当、
原子力本部長代理を経て20年4月から現職。 

志賀 4月1日に社長へ就任されました。いつごろ、どのように打診があったのでしょうか。 

樋口 原田宏哉社長(現特別顧問)から昨年10月初めに社長就任について話があり、大変驚いたというのが正直なところです。咄嗟に「私でよろしいのですか」と問い掛けたものの、すぐに「分かりました」と返事をしたと記憶しています。経営課題が山積しており、「やるしかない」と覚悟を決めました。 

志賀 これまでの電力マン人生で、印象深かったことは何でしょうか。 

樋口 日本のコンバインドサイクル発電の先駆けとなった東新潟火力発電所3号系列の建設工事に携われたことは、とても誇りに思っています。このコンバインドサイクル発電の実用化は、後に、日本産業技術大賞を受賞しています。そして、火力部副部長として電源計画に携わっていた2011年3月に東日本大震災が発生しました。地域に未曾有のダメージを与えましたが、実家の取り壊しや、放射性物質による汚染など、個人的にも大変な状況にありました。そのような中で、震災直後の電力不足の解消のため緊急設置電源の確保に奔走しました。その後、原町火力発電所の所長として復旧工事に従事し、早期復旧を成し遂げられたことは非常に感慨深く思います。 

志賀 原町火力の復旧は、奇跡の復興とも言われましたね。  

樋󠄀口 所長として原町火力に赴任したのは東日本大震災直後の6月末のことでした。18mの津波で壊滅的な被害を受け、太平洋沿岸の火力発電所の中でも最も大きな被害を受けました。港湾内では石炭船が座礁、発電所構内では油タンクが破損し、建物はサービスビルの3階の天井まで壁をぶち抜かれました。石炭を運ぶベルトコンベアも横倒しとなり、巨大な電気集塵機も傾くなど被害は想像を絶するもので、一旦解体して新しく建設し直した方が早いとも思われるほどでした。 

原町火力の復旧は〝奇跡〟と称される

志賀 その困難と思われた復旧工事を、期間を短縮して完了しました。大変なご苦労だったのでは。 

樋󠄀口 当初、3年をかけて全面復旧を目指すことを計画したのですが、1日も早い復旧が当社を救う、そして南相馬の復興のシンボルになると考え、メーカーや工事関係者を含む「チーム原町」が一丸となって、24時間体制で工事に当たりました。その結果、当初の想定より1年早い、2年で復旧することができました。工程を短縮するため、毎日、工事関係者が集まり協議を重ねていたのですが、大手メーカーであっても社長自ら、工場や工事担当箇所に指示を出していただきました。改めて、緊急事態の際は、トップダウンによる指示が必要であり実効性があると身をもって学びました。 

【関西電力 森本社長】新たな関西電力創生へ 業務改善計画に魂入れ完遂する


不祥事の発覚で逆風吹く中、今年3月に社長に就任した。社内外とのコミュニケーションを深め、透明性の高い開かれた企業風土づくりを目指す。 

もりもと・たかし 
1979東京大学経済学部卒、関西電力入社。2015年常務執行役員総合企画本部長代理、
16年取締役副社長執行役員などを経て20年3月取締役社長に就任。6月から取締役代表執行役社長。 

志賀 一連の不祥事を経て、今年3月に社長に就任し新たなスタートを切られました。 

森本 金品の受け取り問題をはじめ、一連の不祥事によってお客さまや社会からいただいていた信頼を失墜させてしまったことについて、大変申し訳なく、改めてお詫び申し上げます。今年3月、さまざまな課題が山積する中で、いかなる困難にも立ち向かい、再発防止と信頼回復を果たす決意で社長に就任しました。そして、直ちに経営刷新本部を立ち上げ、「業務改善計画」を策定するとともに「指名委員会等設置会社」への移行をはじめ、数々の再発防止対策の実行に取り組んでまいりました。6月の株主総会を経て改革の枠組みは整いましたが、今後は、これにしっかりと魂を入れ実効性を高めていかなければなりません。 

物事を決めていくプロセスの透明性や客観性を担保していくため、「コンプライアンス委員会」や「調達等審査委員会」を新たに設置し、経験・知見豊かな多数の社外委員の皆さまに参画いただき、客観的な視点から貴重なご意見を多数頂戴しています。また、新体制下で初めて開かれた取締役会においても、社外取締役の皆さまから早速、「新たな関西電力の創生」に向けた数々の指摘をいただき、大変心強く、また、ありがたく感じています。 

社員との相互理解深め 全社一丸で信頼回復 

志賀 社員の皆さんも相当不安を感じておられたのではないでしょうか。経営改革を通じて関西電力をどのような企業に育てていくのか。社員へのメッセージを含めて、抱負をお聞かせください。 

森本 昨年来、社員にはお客さまや社会の皆さまからの厳しい声を受け止めながら、それぞれの持ち場で懸命に業務に取り組んでもらっており、改めて感謝の気持ちを伝えたいと思います。今後、改革を実りあるものにしていくために、多くの従業員とコミュニケーションを重ね改革に反映していく所存です。既に、経営層と社員とのコミュニケーションである「創生コミ」や私宛てに直接メールを発信してもらう「直通メッセージ箱」の取り組みを通じて、率直な意見を出してもらっています。経営層に対する厳しい意見が多いですが、回を重ねるごとに前向きな声や改革に期待する声も増えてきており、手応えを感じています。 

こうした声こそが、改革の原動力となりますし、自分の意見を率直に発言できる雰囲気や互いの意見を謙虚に聞く姿勢が、透明性の高い開かれた企業風土をつくる礎になると考えています。より良い道が開かれるよう、これからも経営層と社員とのコミュニケーションを大切に継続し、全社一丸となって信頼回復に取り組みます。電気事業者として誇りを持って仕事に取り組んでいると、社会の皆さまに確信していただけるように、もう一度、全員の力で信頼を築きあげていく――。そのために絶えず努力してまいります。 

志賀 一連の不祥事は、原子力政策の根の深い、さまざまな問題が重なって起きた事案だと思います。これを機に、3・11以降の原子力行政の停滞や規制行政の紆余曲折を検証し、東電問題を含めた原子力政策の在り方、事業者の取り組み方や姿勢が問い直されているのではないでしょうか。 

森本 今回の不祥事の当事者として、そして原子力発電事業を担う一員として、自ら過去の反省を踏まえ取り組まなければならないことがたくさんあります。そういう意味でも、今回策定した業務改善計画をしっかりとやり遂げ、皆さまの信頼を再び賜ることで事業を継続していきたいと考えています。 

グループの再エネ電源を活用し 環境価値のニーズに応えていく


【エネルギービジネスのリーダー達】山本毅嗣/丸紅新電力社長

国内外の発電所建設・運営に長く携わり、電力事業者として安定供給への使命感を強く持つ。群雄が割拠する中で、環境価値、分散型供給を強化し次の成長を目指す。

やまもと・たけし 1967年京都市生まれ。
90年大阪大学経済学部卒、丸紅入社。
英国シージャックス会長、国内電力プロ
ジェクト部副部長、丸紅火力社長などを経て
19年10月から現職。16年11月からは
バイオマス発電事業者協会代表理事を務める。 

昨年10月、丸紅の電力小売り子会社である丸紅新電力社長に就任した山本毅嗣氏。小売り全面自由化から4年が経過し、新電力の優勝劣敗が鮮明化しつつある中、「お客さま、販売代理店や取引先の信頼に応えながら、成長し続けられるようしっかりと取り組んでいく」と勝ち残りに意欲を見せる。

電力小売りで20年の経験 調達や運用に1日の長

丸紅新電力として電力小売り事業に乗り出したのは16年4月だが、グループとしてはそれより以前、2000年に電力小売りを手掛けるようになった。長野県伊那市にて三峰川電力を譲り受け、その電気を中部電力エリアで供給し始めたのが始まりだ。この20年間で蓄積した電力調達や需給運用などのノウハウがあり、それが丸紅新電力の強みにもなっている。

もう一つ、今後の競争力の源泉として期待しているのが、丸紅グループが保有・運営している太陽光や水力発電所など、再生可能エネルギー由来の電力を潤沢に調達できることだ。FIT電源と非化石証書を組み合わせ、CO2フリーの電気として販売することはもちろんのこと、新潟、長野両県で保有する公営水力と小売り契約を紐づけることで、グリーン電力のニーズにも応えることができる。

昨年12月には、特別高圧、高圧の需要家向けに「CO2削減メニュー」と、「再エネ電力メニュー」の提供を開始した。「再エネ由来の電力を調達したい」「CO2排出量を削減したい」という企業からの引き合いは多く、既に成約に至った案件もあるといい手応えを感じている。

背景には、ここ1年ほどで企業の再エネに対する意識が大きく変わったことがある。以前は、契約切り替えの大きな決め手はコスト削減にどこまで寄与できるかだったが、脱炭素化への機運が高まるにつれ、今では「料金が多少高くなったとしても再エネを購入したい」という企業が徐々に増えていることを実感するようになった。

そして、「丸紅グループが国内にて保有する再エネ電源は約300MW。今後も、グループとしてバイオマスや小水力、洋上風力開発にも力を入れていくことになっており、環境価値へのニーズに十分に対応できる」と、この分野での成長に自信を見せる。

一方で、新型コロナウイルス禍で課題も見えてきた。それは、グループのネットワークを活用することでBtoBの営業に強いのとは裏腹に、一般家庭向けの訴求力が弱いということだ。非常事態宣言中は、特別高圧・高圧の需要が減少したのに対し、在宅時間が増えたことで家庭の消費量は増加。いかに顧客をバランスよく持つことが重要であるかを痛感した。

家庭向け強化策の一環として、6月に関東エリアから販売を始めたのが、オール電化や屋根置き太陽光設備、EV(電気自動車)を所有する家庭向けの「ナイトおトクプラン」。地域の大手電力会社の新オール電化メニューよりも、安く夜間電力を使用できるといい、「ウエブを通じた広告展開で、一定の成果が得られることは確認しており、コロナ終息後も家庭向けの営業ツールとして最大限活用、拡販していく」方針だ。

「大きなプロジェクトを手掛けたい」と丸紅に入社した山本社長。電力事業に携わるようになって18年、主に国内外の発電所の建設・運営事業を手掛けてきた。

この間、強く印象に残っているのが12年から2年間、会長として赴任した英シージャックスでの経験だ。英東部ノーフォーク州の港町、グレート・ヤーマスを拠点とする洋上風力発電の据え付けを手掛ける会社で、「当時、ほとんどの日本企業が関心を持っていなかった洋上風力に早くから携わることができたことは、非常に良い経験になった」と振り返る。

同社は、SEP船と呼ばれる洋上風力建設に欠かせない多目的起重機船を5隻保有。このうちの1隻「ザラタン号」が、丸紅が筆頭株主である秋田洋上風力発電が、秋田・能代港沖で建設を進める洋上風力発電事業(14万kW)の据付工事に導入される予定で、来年の入港を心待ちにしている。

分散型の電力供給に注力 地域課題解決への寄与も

電力事業に長く携わってきただけに、「電力事業は社会インフラ。どんな状況下でも安定して電気をお届けするという役割は変わらない」との使命感は強い。そんな山本社長が環境価値と並んで、これから注力しようとしているのが地域に密着した分散型のエネルギー供給だ。

丸紅は、伊那市、中部電力とともに「丸紅伊那みらいでんき」を立ち上げている。ここで目指しているのは、単なるエネルギー供給ではなく、より深く地域に関わり、地域の課題解決に資するサービスを提供していくこと。

同市でのノウハウを生かし、他エリアでの展開も視野に入れており、電力小売りに止まらない、新たなビジネスの可能性を切り開こうとしている。

JEPXスポット価格0.01円の衝撃 事業者はリスクにどう向き合うべきか


【多事争論】話題:低水準続く卸電力価格

コロナ禍の経済活動の低迷に伴い、4〜5月の電力スポット市場は連日最低価格を付けた。
顕在化した課題やリスクに、事業者はいかに向き合うべきか。

<kW時価値の低下はパンデミック後も リスクへの対処が電気事業の要諦>
視点A:穴山悌三/長野県立大学教授

市場では価格がシグナルとなって需給が調整される。市場機構が円滑に機能する時、最も経済効率的で社会的に望ましい状態が実現できるが、往々にして市場は失敗する。競争が不完全であったり、情報格差が存在したりすると、市場本来の成果は十分に達成されない。それでも市場は市場。原油などの資源価格が急落し、WTIの先物価格がマイナスになったことには、パンデミックの影響が及ぶ足元の実需の動きに加えて、需給の先行きに関する見通しや設備制約などのストーリー、取引参加者の思惑に基づくマネーゲームなどの理由があるし、これらを反映した売りと買いが交錯するのも、やはり市場の姿である。

JEPXのスポット市場で、価格がシステム上の最低価格kW時当たり0.01円を付けていることに何ら不思議はない。わが国の電力産業について市場機構を一層活用する方向へ改革すると決めた時から、価格が大きく変化することも、リスク管理が必要なことも当然のことであって、15年も前に出版した拙著(『電力産業の経済学』)でも指摘している。今年2月23日、3連休の中日の午前10時30分から午後3時30分に初めてスポット市場のシステムプライスが0.01円を付けたが、これは規制当局の認識としても「ようやく」との思いがあるのではないか。

その後、スポット市場のシステムプライスの最低価格は、今年3月の3連休中に6時間あり、4、5月の61日中26日で発生した。この2カ月の2928商品中の約6%、178商品で最低価格をつけている。

現在の仕組みでは0円近傍での約定が下限となるが、市場機能への期待という点では、マイナス価格が付くことも自然な姿である。欧米では既にネガティブプライスが認められ、需要が少ない状況でも続く再エネの供給や、停止・起動に費用がかかる大型電源が発電を継続する行動などから、電気の価格がマイナス、すなわち「電気を使えば収入が得られる」という状態は決して珍しいものとは言えなくなっている。例えばドイツでは、昨年のネガティブプライスの発生は211時間あったといわれ、全時間帯の2.4%に相当する。

電気という財の特質から、卸電力市場で取引される電力量(kW時価値)以外の、発電能力(kW価値)や品質確保に必要な短期間での需給調整力(ΔkW価値)についても一体的に制度設計する必要がある。このうち需給調整力は電気事業の根幹ともいえるエッセンシャルな部分であるが、自然独占性を有すると解される一般送配電事業者が規制下で解決すべき問題としてとりあえずおいて考えると、卸電力市場が限界費用に基づいて0円近傍、ないしは将来的にわが国でもネガティブプライスが認められるようになった場合に、中長期的なkW価値をいかに適当・妥当に認識・評価して、いかに適切に取引し、そしてその取引結果がいかに確実に履行されるかが、国民生活にとって重要な安定供給上、きわめてクリティカルな問題となる。

市場での設備費用回収は困難に 容量市場は狙い通り機能するか

主力電源化がうたわれる再生可能エネルギーがその存在を増していくことは当然のことであるが、エネルギーセキュリティという観点からは多様な電源のオプションを有しておくことには価値があり、この価値を社会的に維持していくためには、電源のタイプに応じた費用構造・特性などをふまえた対処が必要になる。

卸電力市場で取引されるkW時価値がほぼゼロないしマイナスになり得るという今回の経験は、仮にパンデミックが落ち着いたとしても消えることはない。今後も限界費用を反映したkW時価値が取引されるとなれば、価格上昇時を通じてもなお設備費用を回収できないプラントは苦境に陥る。

これらを意識した上で設計された今後の容量市場が初期の狙いを十分に果たせるかどうかは、卸電力市場の価格変動ほどには世間の注目を集めないかもしれないが、今後ますます成熟化を迎える電気事業にとっては特に重要なポイントである。

最近の卸電力市場価格の低下によって、経営上危機にあった一部のプレイヤーが一息ついたと聞く。山あれば谷あり、谷あれば山あり。市場の動きは川の流れのようなもので、掉さして流れに乗ることは良いとしても、扱う電気という商品は複数の価値が一体となってはじめて意味を持つ。kW時価値の低下は必ずしも全体の価値の低下を意味しない。短期的にも、中長期的にも、いかにリスクに対処していくかということこそが電気事業の要諦ではないだろうか。

あなやま ていぞう 東大大学院経済学研究科修士課程修了、2005年年博士号取得(経済学、東洋大学)。東京電力などを経て2019年から現職。専門は、公益事業論、規制の経済学、エネルギー経済、産業組織論。

【電力】温暖化対策の裏側 省庁間争いでゆがみ


【業界スクランブル/電力】

梶山弘志経済産業相は7月3日、超臨界以下のいわゆる低効率石炭火力を2030年までに休廃止させる方針を発表した。報道によれば、日本にある約140基の石炭火力のうち、100基余りが対象になりそうとのことだが、非効率石炭火力は小規模なプラントが多いので、発電電力量でのインパクトは半分程度のようだ。

現行の長期エネルギー需給見通し、いわゆるエネミでは、30年度の石炭火力のシェアは26%、足元で既に大きく上振れしている上に、新設計画もあって乖離はさらに広がりそうだ。かつてのエネミは、社会の関心は決して高くはなく、極論すれば内輪の議論で達成したかが厳しく問われるようなものではなかったと思うが、外野からいろいろ指摘されるようになったのは、温暖化問題がクローズアップされてからだろうか。

そもそも、自由化の時代にエネミとは何か、という根源的な問いはある。とはいえ、エネルギー基本計画の形で閣議決定までしながら、実績と計画の乖離をみすみす放置するのでは、外野からの指摘に耐えられないだろうことは想像できる(同じことは原子力でも言えるが)。

本件、いざ実行に移すとすると、やり方はいくつかありそうだ。非効率石炭火力の発電量あるいはCO2排出量に枠を設定し、これを30年度に向けて徐々に減らしていく。枠以上に発電の希望があるなら、発電の権利を競売にかける。競売から得られた収入は例えばFIT賦課金の減額に充てる――などである。ただ、ここまで行くと、低効率石炭火力限定で炭素価格を導入したことと変わらない。

温暖化対策であるならば、政府が特定の技術を狙い撃ちにするのではなく、わが国がコミットしたCO2排出の制約と整合した炭素価格がエネルギー価格に付加され、市場価格のシグナルを基に民間側で設備の存廃を判断するのが本来は正着だ。ところが、わが国では、炭素価格の議論は省庁間の縄張り争いが前面に出たおかげで、大きく歪んでしまっている。これは不幸なことであり、正常化を強く望む。(T)

【新電力】インバランスリスク ヘッジ策はあるか


【業界スクランブル/新電力】

2022年以降、災害時などに電力使用制限や計画停電が実施された際のインバランス価格が、それぞれkW時当たり100円、200円となることになった。これまで新電力は、災害時において公益事業を担う者としての役割が小さいと批判されてきた。今回の制度改正は、新電力にも公益事業の一端を担う責任が生じる点で評価したい。

さて、今回導入されたインバランス制度は英国の制度と酷似している。今回は英国のインバランス制度について簡単に説明したい。英国の送電託送料金はTNUoS(送電系統利用料金)とBSUoS(バランシングシステム利用料金)、接続料金に分けられ、調整力コストはBSUoSと、インバランスを発生させた者が負担するSBP/SSPから回収される。

15年11月に改正されたBSC Modification P305において、供給力不足局面でSTOR(短期起動予備力)の起動指令を行う際には、供給不足確率と予備力不足価格を用いて算出される価格がインバランス価格となり、価格スパイクが発生しやすくなった。今年3月4日には、需要増と風力発電の出力減により、インバランス価格がMW(1MW=1000kW)時当たり2242.31ポンド(約302626.44円)を付けた。これは過去15年間で最高値である。

英国におけるインバランス価格の上限はMW時当たり6000ポンド(約809771.45円)であり、価格スパイク頻度、上限価格ともに日本は英国に比べて相当抑えられている。英国では1618年までスポット・インバランス価格上昇により多くの小売り事業者が撤退した。これにより消費者に対して悪影響を及ぼしたとして、Ofgemは今冬から小規模小売り事業者に対して財務健全性チェックなどのストレステストを課すことになった。日本でも大手電力会社の卸取引における内外無差別の議論が起きているが、新電力が大手電力会社のバランシンググループ(BG)に入り、大手電力会社が代表契約者としてリスクを取るプラットフォームが広がる可能性がある。(M)

【LPガス】SDGs実現へ 方針を策定


【業界スクランブル/LPガス】

日本LPガス協会が、約1年にわたって議論してきた「LPガスが果たす環境・レジリエンスなどへの長期貢献について」を公表した。全17項目の国連SDGs(持続可能な開発目標)は、貧困や飢餓の解消、教育の平等化など社会全体の改革、改善を網羅しているが、エネルギー産業にとってはSDGs実現のためには、再生可能エネルギーへの取り組みが必要不可欠になっている。日本LPガス協会のSDGs対応でも、2025年ビジョン以上に再エネとLPガスとの親和性、関係性に多くの議論を費やしている。

目新しいこととして、バイオマス利用やバイオマスを由来とする水素からのLPガス製造(プロパネーション)といったネットゼロエミッションのための技術革新の必要性に強く言及している。また、再エネと相互補完できるエネルギーとしてのLPガスを強調している。前者のバイオマス利用とLPガスの関係性について、協会は2000年代に入ってから専門小委員会を立ち上げ10年にわたり論議を重ねた。当時は、実現性はあるが採算性に難があるとの結論だった。なかなか実証試験を含めた産学協同のプロジェクトにまで発展することができず、議論は一時終息したと聞く。

後者は再エネの主力電源化に伴う単一エネルギー依存の不安定さを補完する燃料として、LPガスを有効活用しようということだが、分散型エネルギーであるLPガスを非常用発電機を介してマイクログリッドに組み込むことを提言している。これは、新たな技術革新と相互補完両面の意味合いがあり、「技術革新を要する未来志向の動きについては実装につなげる努力が必要である」と記述している。とくに産学官連携の推進を必須要素としている。

LPガス業界は、未来をあまり語らない業界といわれてきた。しかし、技術革新と再エネ推進社会の中での立ち位置を示したことの意義は、これから議論が始まる第6次エネルギー基本計画の策定論議の中でも強固な位置付け獲得に業界全体がまい進すべき重要な道しるべを示したと、大いに評価できる。(D)

トップ交代で難局打開なるか 新社長が語るエネ先物市場の行方


石崎 隆/東京商品取引所社長

コロナ禍真っただ中で、TOCOM社長として登板することになった。
総合エネルギー市場への脱皮を図る上で山積する課題にどう取り組むか、その手腕が注目される。


いしざき・たかし 1990年東京大学法学部卒業、
通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁
電力基盤整備課長、内閣府規制改革推進室参事官など
を経て、2020年6月から現職。

需要減に伴う取引低迷により、2016年3月期から最終赤字が続いていた東京商品取引所(TOCOM)。起死回生を図るべく、19年10月に日本取引所グループ(JPX)の子会社となり、再スタートを切った。7月には、貴金属市場などが大阪取引所に移管され、今後は、総合取引所の枠組みの中で、原油や電力に特化した「総合エネルギー市場」を目指すことになる。

そのかじ取りを担うのが、6月に就任した経済産業省出身の石崎隆社長。「石油、電気、そして現在検討を進めているLNG(液化天然ガス)の先物取引を一括上場することで、エネルギー事業者にとって使いやすいマーケットにしていきたい」と、就任に当たっての意気込みを語る。

電力先物の早期本格上場へ 実現に取引量拡大が課題

着任直前、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済失速の影響で、石油などのエネルギー資源や電力の取引価格は、国内外で史上まれに見る異常な様相を呈していた。

原油は、昨年来の世界的な供給過剰感の高まりにコロナ禍による需要激減が追い打ちをかけ、米WTIの先物が一時ネガティブプライスを付けるなど大暴落。また、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格は、緊急事態宣言下の需要減に伴い、4~5月にシステム上の最低価格であるkW時当たり0・01円を連日付けていたのだ。

こうした価格の乱高下は、先物市場にとっては取引拡大の好機となる。価格のボラティリティに対し、事業者が次善の策を打つ必要性が高まるからだ。実際、原油先物の6月の取組高の残高が史上最高となるなど、TOCOMにとって思わぬ恩恵をもたらした。

一方、昨年9月に3年間の予定で試験上場した電力先物市場は、JEPXの取引量の0・5%をカバーしているに過ぎず、活性化には程遠いのが実情。石崎社長は、「3年という期間にとらわれず、できるだけ早期に本上場を果たしたい」意向だが、その実現には取引量の拡大が絶対条件だ。

電力先物市場の参加者は、試験上場当初の10社程度から、夏や冬の価格高騰リスクを回避したい新電力を中心に40社まで増えた。さらに数十社が口座開設を準備、もしくは検討中といい、参加者の裾野は着実に拡大しつつある。

そして、取引拡大の鍵を握るのが、国内の供給力の大半を占める大手電力会社だ。これまで取引参加には慎重な姿勢を見せていたものの、スポット価格の動向や容量市場の動向次第では、取引参加に踏み切る可能性がある。

石崎社長は、「大手電力会社が取引に参加するに当たっての最大の懸念材料となっていたのが清算機関の信用力だった」とした上で、「TOCOMの子会社である日本商品清算機構(JCCH)が担う清算(クリアリング)機能が、国内最大のクリアリングハウスである日本証券クリアリング機構(JSCC)に統合されたことで、懸念は払しょくできる」と、JPXへの統合のメリットを強調する。

最新住宅設備を月額定額料金で利用 東ガス発ベンチャーが新サービス開始


【スミレナ】

住宅の新築やリフォーム時には、工事に関わる費用に加え、キッチンやバルスームといった住宅設備の購入も大きな負担になりがち。この常識を覆し、ライフスタイルに合わせて変わる理想の住み方を後押ししようと、東京ガス発ベンチャーとして昨年12月に発足したスミレナが6月、新たなサービスの提供を開始した。

新サービスは、「暮らしの月額定額制サービス」。持ち家の消費者が対象で、ノーリツ、リンナイ、LIXIL、TOTOといった住宅設備メーカー4社の給湯機やコンロなどのガス機器、トイレやバスルームなど水回り設備の最新モデルを、初期費用なし、月々定額料金を支払うことで利用できるようにするものだ。

スミレナの事業モデルイメージ

サービス開始当初の商品ラインアップと月額料金は、「追いだき機能つきエコジョーズ給湯器(ノーリツ)」が1800円、「アレスタお掃除手間なしキッチン(LIXIL)」が9000円、「サザナあったかバスルーム(TOTO)」が7550円など(いずれも10年、120回払いを選択した場合)。リンナイのスマートコンロ「リッセ」は1900円(6年、72回支払い)だ。

高い安心感と割安感 専用の電気料金プランも

料金には、標準工事費用や、不具合時の駆けつけ、修理費用などが含まれており、契約期間終了後は、設備を返却することなくそのまま使い続けることが可能。金利や手数料などを負担する必要がないため、リース契約や割賦購入よりも高い安心感と割安感が得られそうだ。

併せて、同社と同じ東ガス発ベンチャーのヒナタオエナジーが、同サービス専用の電気料金プラン「スミレナプラン」を用意。同プランを契約することで、水回り、玄関の鍵、窓ガラス、電気設備といった暮らしまわりの駆けつけサービス「住まいプレミアサポート」を、追加費用なく利用できる。都市ガスについては、準備が整い次第、専用プランを追加する計画だという。

サービスエリアは、当初は市場に関する知見が蓄積されており需要も大きい関東圏に限るが、ウェブサイトを通じたサービス提供という事業形態の強みを生かし、将来はエリアを限定せずに展開していきたい考えだ。

サービス開始に先立ち、記者会見した酒井陽平社長は、「会社発足時に、契約数50万件、売り上げ400億円という目標を掲げた。その目標達成に向けた具体的な取り組みの第一歩にしたい」と意気込みを語った。

中立・独立性に疑問符 監視委など2組織見直しへ


梶山弘志経済産業相が、非効率な石炭火力の休廃止と合わせて強い意欲を見せているのが、「電力・ガス取引監視等委員会」「電力広域的運営推進機関」の体制見直しだ。

監視等委員会については、関西電力への業務改善命令を巡り資源エネルギー庁職員が不適切な手続きを行ったことをきっかけに、規制監視組織としての独立性への疑念が噴出。より独立性を高めるため、現行の八条委員会から三条委員会への移行が求められることになりそうだ。

一方の広域機関は、当初の設立目的である電力事業の広域的運営の推進にとどまらず、電力制度の詳細設計や市場管理者としての役割を担うなど、その業務は増加、高度化し続けている。それにもかかわらず、職員の大半を大手電力会社からの出向者が占めていることが疑問視されている。

梶山大臣は7月3日の会見で、「両組織のこれまでの活動について評価、総括を行い、その結果を踏まえて必要な取り組みを進めていく」と述べた。2015年の発足から5年。両組織は、大きな転換点を迎えようとしている。

「美辞麗句」で惑わす経産省 石炭フェードアウトの真相


梶山弘志経済産業相の〝鶴の一声〟に端を発した、経産省による非効率な石炭火力発電所のフェードアウト議論。脱炭素化への大きな一歩と評価する声が上がる一方、その実現性を疑問視する見方も広まり始めた。

3.11を契機とする原子力発電所の停止後、日本の電力安定供給を支えてきた石炭火力発電だが、地球温暖化進展への懸念から世論の風当たりは強まる一方だ。そうした中、非効率な石炭火力フェードアウトに向けた議論が政府の有識者会議でスタートし、エネルギー業界に大きな波紋を呼んでいる。

経済産業省は7月13日、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会(委員長=山内弘隆・一橋大学大学院特任教授)で、超臨界圧(SC)以下の石炭火力発電所の市場退出を誘導するための新たな規制的措置の導入検討に着手した。対象となるのは、国内140基のうち114基。年内にも、具体的な仕組みについての大枠を取りまとめる方針だ。

現行の第5次エネルギー基本計画では、2030年度のエネルギーミックス(電源構成比率)における石炭火力のシェアを26%としている。計画には、「非効率石炭のフェードアウトに取り組む」ことが明記されてはいるものの、これまで具体的な手法までは検討されてこなかった。

電力会社にとって低コストで安定的に供給できる減価償却済みの石炭火力は供給力と利益の源泉。18年度には石炭比率は32%に達し、電力広域的運営推進機関が取りまとめた供給計画によれば、ミックス前年の29年度には37%と、目標を大幅に超過してしまう見通しだ。足元では天然ガス価格が大暴落し、石炭とガスの発電コストは逆転しているとはいえ、未来永劫これが続く保証はない。

経産省としては、このまま非効率な石炭火力が居座れば、計画中の高効率石炭の建設・稼働が困難になり、電源の新陳代謝が進まないことを問題視。その上、先の通常国会において、与野党議員から「容量市場は石炭火力への補助」「再生可能エネルギーFIT法改正は再エネいじめだ」といった指摘が相次いだことも、新たな規制に踏み切る判断への引き金になったと見られる。

規制とインセンティブ 避けられない国民負担増

今後の議論の焦点は、省エネ法に基づく規制強化の一方で、いかに経済的インセンティブを設計するか―だ。

実は、大手電力各社の総発電電力量に占める非効率石炭火力の割合は、北海道38.8%、東北26.1%、JERA(東京・中部)7.4%、北陸24.6%、関西0%、中国27.4%、四国12.8%、九州15.4%、沖縄55.1%、Jパワー36.8%ーとまちまち。

このため、大手電力関係者の一人は「JERAと関西はもともと非効率石炭の依存度が低い。北海道、沖縄は安定供給を名目に例外となる可能性があるし、一見依存度が高い中国は、22年に三隅火力の稼働が控えている。低コストの安定供給電源を失い、経営に大打撃を受けるのは東北、北陸、Jパワーだ」と分析する。

大手電力だけではない。自由化以降、新電力をはじめとする事業者が相次いで建設した中小規模の石炭火力は、すべて亜臨界(SUB-C)でフェードアウト検討の対象。バランシンググループ(BG)制度の下、自ら発電所を持つことで競争力の高い電力ビジネスを展開するという、これら事業者の戦略は覆りかねない。

さらに、共同火力やIPP(独立系発電事業者)、自家発電なども含めればあまりにも利害関係者は多く、いずれの事業者にも公正で納得感のある制度にしようとすれば、より緻密な議論と調整が求められることになる。


リプレースによる石炭火力の高効率化が進んでいるが…… 

これについて、「発電事業は既に規制下になく、自由市場に移行した中で非効率石炭を休廃止させる法的根拠を作ることは、非常に難しい議論になる」と語るのは、エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事。「炭素税や未回収の固定費の補償など、新たな国民負担につながる追加的措置を実施しない限り、発電コストが安い石炭火力を市場から退出させることは現実的ではない」と、その実現性を懐疑的に見る。

固定費が回収できていない休止火力への手当て、災害時の供給力確保のため、ドイツで採用されている「戦略的予備力」のような制度が検討の俎上に上がる可能性がある。再エネ導入増に伴う既設火力の退出防止を図る仕組みではあるが、その場合、「広域電源入札」「容量市場」「戦略的予備力」という、本来並立しないはずの仕組みが三つも重複して作られることになってしまう。「電力制度設計はますます複雑化していく」(前出の大手電力関係者)のは避けられないだろう。

石炭火力のフェードアウトと再エネ導入拡大に向け、送電線利用の先着優先ルールの見直しも進められる。限界コストが安い順に供給する「メリットオーダー」を徹底することにより、送電線混雑時に再エネが出力制御を受けないようにするのが狙いだ。

代わりに、送配電事業者の指令で既設火力が出力抑制を受けることになる。学識者の一人は、「メリットオーダーで先着優先の権利がない仕組みは、パワープール制そのもの」と語り、当面、対象となるのはほぼ千葉エリアのみとはいえ、再エネがさらに拡大した暁には、本格的にBG制という日本の電力システムの前提を変えてしまう可能性があることを示唆する。そして、「ますます火力発電所建設の不確実性が高まり、新規投資は望めなくなるだろう」という。

原発再稼働への布石か 求められる節度ある議論

ある新電力の幹部は、「減価償却が終わった石炭火力を手放すようなことになれば、電力コストは上がり産業力の衰退にもつながる。いよいよ、原発再稼働へ背水の陣を敷いたのではないか」と、梶山経産相の真意を推し量る。

いずれにしても、再エネとガス火力だけで電力安定供給を維持できるはずがない。前のめりに事を進めるのではなく、全体を俯瞰し地に足の着いたロードマップを描いた上で、節度を持って非効率石炭フェードアウトと関連施策を進めていくことが求められる。

「需要家が主役」の時代へ 事業者が描く新ビジネス戦略


新型コロナウイルス禍は、エネルギービジネスの現場にも課題を突き付けた。各社がこの難局をどう乗り切り、新たな時代に向けてどのような営業戦略を描くのかを探った。

新型コロナウイルスの感染拡大は、エネルギー小売りビジネスにも大きな変革をもたらそうとしている。他人との接触機会を減らすことが求められる中、対面を基本とする営業は自粛モードに。ウエブやSNS(ソーシャル・メディア・ネットワーク)、テレビ会議システムの活用がより重視されるようになり、オンライン化が急速に進んだ。

また、経済失速でエネルギー需要全体は激減したものの、在宅時間が増えたことで家庭における消費量は大幅に増加。もともと価格競争が激しかった大口をメインとし、コロナ禍でさらなる打撃を受けた事業者の中には、家庭向け販売に一層力を入れていこうとする動きが出始めている。

つまり今後は、家庭分野でも大口と同様の厳しい競争が勃発する可能性があるということだ。利益度外視の価格競争に陥れば、エネルギー会社は共倒れするしかない。それを回避し生き残れるかどうかは、いかに「ウィズコロナ社会」と呼ばれる新しい時代に対応し、新たな顧客との接点機会や独自サービスを確立できるかにかかっている。

非常時こそ顧客目線 デジタル技術の活用も

全国に先駆けて、2月28日に独自の緊急事態宣言を発出した北海道。人々の動きが止まり、経済活動が縮小する中で北海道ガスが苦慮したのは、顧客との接点機会をどう維持するかだ。顧客とコンタクトを取るために、電話、ウエブ会議、Eメール、ダイレクトメール(DM)、チラシなど、あらゆるツールを総動員したという。

家庭用、業務用双方の顧客にメリットのあるキャンペーンにも力を入れた。6月には、家庭用の顧客向けに発行している「北ガスポイント」を通常よりもお得に交換できるようにした上で、業務用の顧客であり、売り上げ減にさいなまれていたレストランや居酒屋といった「北ガスグルメパートナー」の店舗で利用できるクーポン券を交換品に追加したのだ。

さらに「北ガスグルメパートナー」支援のため、自社の社員食堂を特設会場にして、毎週金曜日の夕方にテイクアウトの惣菜メニューを持ち込んでもらい、社員向けに販売した。金沢明法エネルギーサービス事業本部長は、「レストランや居酒屋の経営者には、『こういう企画は北ガスだけだね』と喜んでいただけた。社員の家族も、在宅時間が増え自炊が大変だった中で『助かった』と好評だった」と、手ごたえを語る。

北ガス社員向けにテイクアウトメニューを販売

こうした非常時の丁寧な対応が、社会が平常に戻った際にも顧客をつなぎとめることにつながる。同社の業務用と家庭用の販売量の比率は2対1。コロナ禍で業務用は2~3割減少した一方、家庭用は2割増えた。金沢本部長は「家庭用は災害など有事や景気に左右されず安定している。2030年までに、札幌市内を中心とする都市ガス未普及地域に330㎞の導管を敷設する計画で、需要拡大に向け、コロナ禍で得た知見を生かしサービスをより進化させていきたい」と意気込む。