脱炭素化社会を目指す理想の下で、現実の課題は山積している。電力ビジネスの最前線で活躍する関係者が、本音の意見を交わし合った。
〈出席者〉 A大手電力関係者 B発電事業関係者 Cメーカー関係者 Dコンサルタント
―脱炭素化など、電力システムを取り巻く環境が大きく変わっている。まずは現状の課題認識からお聞きしたい。
A 欧米は必ずしも環境問題の解決のためにストイックに再エネに取り組んでいるわけではなく、既に経済的に優位な電源となっているからこそ導入が加速している。そして欧米の事業者は再エネという新しい産業を武器にグローバルで戦っていく戦略を描いている。
日本はFIT制度の後押しで再エネが大量に入りつつあるとはいえ、設備は海外製ばかり。主力電源化を目指す上で、本当にそれでよいのかという問題意識を持っている。また再エネが入ったとしても、それと合わせて需要側設備の電化が進まなければ、とてもゼロエミッションの達成はできない。今後は、再エネ導入と需要側設備の電化を両輪で進められるよう、政策で後押ししていく必要がある。
B さまざまな制度改革が実行に移されているが、失敗であれば迅速に見直す必要があるにもかかわらず、経産官僚が過去の失敗を認めないが故に軌道修正に時間がかかりすぎている感が否めない。例えば、小売り電気事業者や発電事業者が事前に提出した需要量や発電量の計画と、当日の実績を30分単位で一致させる「計画値同時同量」を採用しているが、再エネがこれだけ入ってきたからには「強制プール」を導入した上で「実同時同量」へ移行すべきだ。「計画値同時同量」の「バランシンググループ(BG)」では、コストが無駄にかかる。
需給変動はローカルで調整 求められるマーケット
D 2030~50年のエネルギー社会の長期ビジョンを政治家も官僚も描けておらず、どこを目指すべきかという羅針盤がないのが問題だ。再エネ大量導入やゼロエミッションの実現には、供給側だけではなく需要側の産業構造を変革させなければならないが、そこまで考えが及んでいないのでは。
C メーカーは石炭火力の建設が難しくなり、これから何を売っていけばよいのか、深刻な問題に直面している。個人的には設備を売るよりも、ソリューションビジネスやマーケット運営などにかじを切る必要があると考えている。例えば、これまで自社のエネルギーを賄うためだけに導入していた自家発電源を、調整力のマーケットに出せるようになれば顧客企業の資産価値を上げることに貢献できるのではないか。これを実現するためには、ローカルで調整力を取引する「ローカル・フレキシビリティー・マーケット(LFM)」の創設が前提になる。