インタビュー:市村健/エナジープールジャパン代表取締役社長兼CEO
エネルギー基本計画の策定は、2002年に制定された「エネルギー政策基本法」によって規定されている。基本法制定に尽力した故加納時男参議院議員(当時)の秘書だった市村健氏に、その経緯を振り返ってもらった。
―加納氏がエネルギー政策基本法制定に尽力した背景には、何があったのでしょうか。
市村 佐藤信二通商産業相(1997年当時)の指導の下、電力自由化の議論が進む中、米エンロンなどの外資系の参入が見込まれていました。加納氏は東京電力時代に経団連地球環境部会長として97年のCOP3(地球温暖化防止京都会議)に参加していたこともあり、エネルギーの安定供給と環境適合性を大前提に据えた立法措置が必要だという強い考えをお持ちで、結果的にそれが基本法の立法化につながりました。
98年に初当選した翌年の9月に東海村JCO臨界事故が発生し、原子力に対する強い風当たりからエネルギー政策、特にセキュリティーが脆弱化するリスクが顕在化しました。そこで、政策を個別法制で検討するのではなく、基本に返って議論しなければならないとの思いを強くしたようです。
―基本というのは。
市村 水力、火力、原子力そして再エネといった各電源の光と影を検証し、電源の長所を生かしながら短所を補完しなければならないということです。大切なことは、安定供給と地球温暖化対策を前提としつつ、日本の国是や国情に合ったエネルギー政策の根幹を法制化すること。それがエネルギー政策基本法の本質だといえます。
わが国では電力システムとして国際連系線がなく、周波数が東西で分かれており、その上、自然災害が多く地下資源がない。こんなハンディキャップを負う国は日本だけです。ゆえに、セキュリティーを大前提に据えなければ国家体制を維持することが難しくなる。どの政策をいかなる順に遂行していくか、客観的かつ定量的に考えなければなりません。
―基本法制定までにどのような紆余曲折がありましたか。
市村 基本法は14条しかない短い法律です。しかし、与党内や野党、行政府である経済産業省などとの調整に時間を要しました。私はその調整を任されたのですが、三つの原則を守るように指示を受けました。一つ目は、基本法なのでいわゆる「数字合わせ」はしないこと、二つ目は立法趣旨に沿うのであれば要望は極力盛り込むこと、そして三つ目が一番大事なのですが、第二条の「信頼性および安定性の確保」、第四条の「安定供給と環境適合性を満たした上での市場原理の活用」については絶対に譲るなということです。
―そうした経緯を踏まえて、今のエネルギー政策議論をどう見ていますか。
市村 鋼の決意が求められます。2030年度温暖化ガス46%削減の目標は、これまでの延長線上で達成できるものではなく、非連続改革、創造的破壊がなくては実現できません。しかしながら、達成できるわけがないと厭世的な雰囲気がまん延していることが心配です。ゼロエミとエネルギー自給率を向上させるには、一次エネルギーとしての再エネを主軸に原子力を活用することです。日本の地政学的現実を見据えながら、政策を描いていくべきだと思っています。