欧州のエネルギー危機を契機に、天然ガス・LNGを取り巻くさまざまな課題が浮き彫りになった。脱炭素化とエネルギー安定供給、セキュリティーの同時達成へ、日本は世界のルールメイクをリードできるか。
「プーチン大統領の一言で欧州の天然ガススポット価格が乱高下し、それにつられてLNGスポットも変動してしまう。これほどまでに世界の天然ガス・LNG市場の不確実性、不透明性が高まったことがあっただろうか」
エネルギー業界関係者がこう語る通り、世界の天然ガス・LNG市場は、需給と価格の両面で、かつてないボラティリティにさらされている。そこには、脱炭素化と再生可能エネルギーシフト、LNG需要国としての中国の台頭、欧米とロシアの関係悪化―など、さまざまな要素が複雑に絡み合っている。
海外からのLNG輸入に依存する日本の電力・ガス会社は、エネルギー自由化や再エネ拡大によって、長期・短期の需要を把握しづらくなりつつある中、こうした新たなボラティリティに直面し、調達戦略を描くための予見可能性は低下する一方。難しいマネジメントを迫られているのが実情だ。
年末年始もTTFが乱高下 一時はJKMを超える
そもそも今起きている市場の混乱は、天然ガスの最大の市場であり、脱炭素化に急進的に取り組んできた欧州に端を発している。昨冬、厳しい寒さの影響で地下貯蔵量が激減したところに、風力発電の出力低下でガスの消費がさらに進み、需要の4割を占めるロシアのパイプラインガスの供給減も相まって、十分に在庫を回復しきれないまま今冬を迎えた。2021年末の地下貯蔵量は、20年末の75%に対し56%とかなり低く、このままでは今春にも10%を切り、最悪の場合、枯渇もあり得るとさえ言われている。
LNGの大半を長期契約で調達している日本とは異なり、欧州では7~8割をスポット市場で調達している。このため、昨秋からのガスをはじめとする化石エネルギー価格の高騰は、電気やガス料金の上昇という形で企業や家庭の収支を直撃。各国とも、さまざまな対策を講じなければならなくなるほどの混乱をきたしている。
欧州の天然ガス指標価格であるオランダ「TTF」は、低い在庫状況を背景に、年末年始も市場が日々のニュースに反応。価格が乱高下を繰り返した。
12月第2週から急上昇し、寒波に見舞われたロシアが国内供給を優先したことで欧州向けのヤマルパイプラインによる供給量がゼロになった21日には、100万BTU(英国熱量単位)当たり60ドルと、過去最高値を記録。通常、北東アジアのLNG価格の指標「JKM」を上回ることはないが、この間は大幅に超えていた。
それからわずか3日後の24日には、暖冬予想が発表されたことや米国発の北東アジア向けLNG船が転売され欧州に向かったことなどから急落。ところが、1月1日にインドネシア政府が同月中の石炭輸出禁止を発表すると再び上昇し、それ以降はウクライナ情勢の緊迫化などが影響し、1月中旬時点で30ドルを超える水準を維持したままだ。