【記者通信/8月14日】大企業トップが自己破産!? 中国電首脳を襲った「災難」


 社内に衝撃が走った――。電力販売のカルテル問題で会社に損害を与えたとして、中国電力が8月3日に清水希茂前会長と瀧本夏彦前社長、渡部伸夫元副社長の旧経営陣に損害賠償を求めて広島地裁に提訴すると決めたからだ。公正取引委員会が同社に命じた課徴金は707億円。中国電力は取り消し訴訟を起こす方針だが、仮に減額されても億円単位の課徴金が残る。それを損害賠償として請求されてもサラリーマン経営者が支払える額ではない。元上司のような人物に賠償請求することになり、「まさか本当に提訴するとは・・・」と嘆く社員も多いという。

 事の発端はカルテル問題で会社に損害を与えたとして、一部の株主が6月に現旧取締役22人の責任を追及しろと中国電力の監査等委員会に提起したことだ。そのうち3人は監査等委員を兼務するため取締役会が提訴するかどうかを検討。残り19人の関与度合いを精査するため、監査等委員会は社外の弁護士に関係者の意見聴取や調査を依頼した。

 中電トップ自らが情報交換

 調査の結果、瀧本氏と渡部氏は営業活動方針に関して関電との情報交換を直接行っていた。情報交換したという部下からの報告も受けたが制止せず、むしろ容認していた側面も見られたという。清水氏も同様の報告を受けたものの、是正する行為を取らず容認していたと社外弁護士は結論づけた。

 調査結果を受けて、監査等委員会は8月3日に旧経営陣を提訴するかの議論を行った。4人いる監査等委員のうち3人は社外。上記のやり取りがコンプライアンスに反していたと受け止めたのだろうか。少なくともこの3人が、提訴すべきと主張したとみられる。残り19人の現旧取締役についてはカルテルに関与した形跡がなく、提訴しないと判断した。

 旧経営陣3氏に対する損害賠償額は精査中としている。公正取引委員会から支払い命令を受けた課徴金額に不服があるため、中国電力は取り消し訴訟を起こす方針。裁判の行方によっては減額される可能性もあるため、その結果が出てから損害賠償額を固める考えだ。

中国電力株式会社 本社|〒730-8701 広島県広島市中区小町4−33
経営陣への損害賠償請求で社内に衝撃が走った(中国電力本店)

 現時点では調査にかかった弁護士費用6000万円を損害賠償額に加える。全面勝訴すれば課徴金は消え失せるため、旧経営陣に対する損害賠償も発生しない。ただ減額にとどまる場合、損害賠償額は数億円は下回らないと見られる。

 それでは、裁判の結果で損害賠償を請求することが決定したらどのような流れになるのだろうか。まずは会社として取り立てる義務が生じる。それを怠ると、その時の取締役が代表訴訟の対象となるため、やらざるを得ない。

 銀行口座差し押さえも

 といってもサラリーマン経営者が億円単位の賠償金を支払えるわけもなく、自己破産手続きを行うことになるだろう。支払いに応じない場合は自宅を競売に掛けたり銀行口座を差し押さえたりする。資産として残せそうな物品も手放す必要に駆られるだろう。一方で年金は差し押さえ対象から除外されているので手元に残る。身ぐるみはがされるわけではないとはいえ、あまりにも酷な仕打ちといえよう。

 カルテルを行ったとして課徴金を食らったわけだから、関電と情報交換を行っていたことを止められなかった経営幹部の責任は重い。ただ、中国電力側は関電の見解を聞いていただけで、それに対して意見や回答をしたわけではないという。関電側の言い分を上司に報告しただけであり、この行為が独禁法違反に抵触すると当時は受け止めなかったようだ。

今回の案件は、東芝の粉飾決算事件ほどの悪質性も見られない。それなのに巨額の損害賠償を課せられるのは、その前提となった独禁法違反などの制度にも問題点があるのではないだろうか。

【記者通信/6月13日】中間貯蔵問題に「裏技」 使用済み燃料を海外輸送


 青森県むつ市での共同利用が困難になったため、暗礁に乗り上げていた関西電力の使用済み燃料の中間貯蔵問題に解決の兆しが見えてきた。電気事業連合会は6月12日、仏オラノ社と使用済みMOX燃料再処理の実証研究を行うため、関電の使用済みMOX燃料(約10t)とともに使用済み燃料(約190t)をフランスに輸送する計画を明らかにした。

 関電は使用済み燃料の県外搬出を求める福井県に対して、今年末までに中間貯蔵施設の計画地点を示し、できなければ40年超運転を行う高浜原発1、2号機、美浜原発3号機を運転しないと約束している。電事連の発表に合わせ関電の森望社長は同日、福井県を訪れ杉本達治知事に対して「使用済み燃料が県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と同じ意義がある」と説明、自社の対応策に理解を求めた。杉本知事は「立地市町や県議会などの意見を聞いて判断する」と答えている。

電力業界はフランス、イギリスで再処理を行っていた(ラアーグ再処理工場)

海外再処理を再開

 実質的に使用済み燃料の海外再処理を再開し、中間貯蔵問題の打開を図る関電の対応は「意表を突くもの」(電力業界関係者)だった。電事連は5月19日に使用済みMOX燃料の再処理の仏オラノ社での実証研究を発表し、そこではフランスへの輸送は使用済みMOX燃料と示していたが、今回、合わせて使用済み燃料も搬出するとした。理由として、使用済みMOX燃料と使用済み燃料を混合して再処理することを挙げている。

 課題は多い。電力業界はフランス、イギリスで使用済み燃料の再処理を行っていたが、プルトニウムを含む放射性物質の海上輸送はリスクを伴うことや、六ケ所再処理工場の稼働が予定されていたことなどから、海外再処理を行わない方針を示していた。再開することで、海上輸送ルート付近の国々への対応や、核不拡散上のリスクを懸念する国との調整が必要になる。

 また、関電は福井県に対して「2030年ごろに2000t規模で中間貯蔵施設の操業を始める」と説明している。六ケ所再処理工場が操業を始め使用済み燃料の六ケ所村への搬入が進めばいいが、運転開始の遅延、稼働率の低迷なども考えられる。その場合、改めて中間貯蔵施設を確保する、あるいはフランスへの輸送を継続するなどの対応が必要になりかねない。

【特集1】文献調査の実施地域拡大に全力 政府を挙げて自治体を支援


地層処分事業の最初のステップである文献調査は、できるだけ多くの地点での実施が望ましい。しかし寿都町、神恵内村以外は現れず、文献調査に応じる自治体を増やすことが急務になっている。資源エネルギー庁の下堀友数・放射性廃棄物対策課長に対策などを聞いた。

インタビュー】下堀友数/経済産業省資源エネルギー庁 放射性廃棄物対策課長

―寿都町、神恵内村での文献調査開始から2年が過ぎました。


下堀 寿都町、神恵内村は文献調査を行う初の自治体です。ですから高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分事業について、地元の皆さんに対し、賛成・反対の前に、まず事業について知っていただくことに力を入れてきました。
 これまで、「対話の場」を寿都町では14回、神恵内村では11回開き、説明を行うとともに疑問や視察などの要望に答えています。またNUMOは現地に交流センターを置き、情報提供に加え、交通安全やごみ拾いなど地域の活動に職員が積極的に参加して、地域に溶け込む努力も続けています。


―ほかにはどういった活動を。


下堀 幌延町の深地層研究センターや青森県六ケ所村の再処理施設などへ視察に行っていただいています。当初は参加者が少なかったのですが、だんだんと増え始めました。「まずは見て、どういうものか知ってみよう」と考える人たちが増えたのだと思っています。


―2021年10月に寿都町長選があり、文献調査に応募した片岡春雄町長が再選しました。


下堀 片岡町長が再選されたことで、寿都町政全体について信任が得られたと思っています。しかし、文献調査に反対を掲げられた対立候補の方も相当数の得票がありました。不安に思われる方々がまだ多くいるので、今後も丁寧な説明を続けなればなりません。


寿都・神恵内が投じた一石 「できることは全て行う」


―寿都・神恵内以外に文献調査に応募する自治体が現れません。


下堀 寿都町の片岡町長、神恵内村の高橋昌幸村長は「自分たちはエネルギーの重大な問題に一石を投じるために文献調査に応募、受け入れた。全国で受け入れる動きがないと、その意味がない」と言われています。お二人の言葉をしっかり受け止めなければなりません。また調査地点が北海道だけに限られると、「北海道に押しつけるのか」との誤解を道民の皆さんに与えてしまいます。

文献調査を受け入れた首長はプレッシャーを受ける(神恵内村)


―文献調査の地点を増やすことにどう取り組みますか。


下堀 首長にとって受け入れはものすごいプレッシャーになります。それを取り除くことなど、「国としてできることは全て行う」方針で取り組みます。昨年12月にメンバーを拡充して関係閣僚会議を開催し対応を検討しました。


―具体的には。


下堀 まず国、NUMO、事業者で体制を強化し自治体の掘り起こしに取り組みます。また自治体の調査受け入れの前段階から、地域の経済団体、議会などに対し、国からさまざまなレベルで段階的に理解活動の実施や調査の検討などを申し入れます。さらに受け入れ自治体や関心を持つ自治体に対して、政府一丸となった支援体制を構築することなどを行っていきます。

 加えて関心や問題意識を有する自治体の首長などとの協議の場を設置し、最終処分をはじめ原子力を巡る課題と対応について国と地域でともに議論、検討します。

下堀友数 しもほり・ともかず 2001年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻修了、経済産業省入省。地球環境連携室長、地方創生担当大臣秘書官、ガス市場整備室長などを経て、21年から現職。

【特集1】プロセスの公正性について検討を 寿都・神恵内で見えた課題


 寿都町、神恵内村での文献調査では、調査のプロセスでの公正さの点で課題が明らかになっている。必要な手当てを行い正当性が認められれば、ステークホルダーの共考・協働を得て対処することができるだろう。

 2023年は日本の高レベル放射性廃棄物(HLW)政策・事業にとって節目の年となるであろう。まず、北海道寿都町ならびに神恵内村での文献調査の結果が示されることが見込まれる。地域の判断もなされていくことになるだろう。

  22年夏以降、政府の原子力政策見直しの中で、HLW処分についても取り組みの強化がうたわれてきた。23年1月には岸田文雄首相自ら、政府からの申し入れをより積極的に行って、ほかの地域での調査受け入れを目指す旨の国会答弁を行っている。

 3・11複合災害後の一連の政策見直しの動きを経た「基本方針」の改定(15年5月)からまもなく8年となる。この間には前述の通り、北海道の二つの自治体での文献調査入りという大きな政策・事業上の動きがあった。

 他方で総合資源エネルギー調査会の放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)は19年11月から22年4月までの2年半、開催されなかった。独立の立場から政策・事業をチェックするべく現行の基本方針に基づいて設けられた、原子力委員会の放射性廃棄物専門部会も16年9月以来、開かれていない。

コロナ禍という特別な事情はあったにせよ、こうした会議体も活用して、継続的に政策・事業の見直しを行うべきではなかったか。

 筆者としては、寿都、神恵内両自治体でのこれまでの経過からしても、候補地選定プロセスの公正さに関わる課題を洗い出し、必要な手当てをすることが必須だと考えていた。HLW処分政策・事業の正当性は、今後、さらに複数地域での話し合いを進めるにはなお不十分だからだ。


 事業の正当性は十分か課題を洗い出し手当を


 調査受け入れの際の手続き、「対話の場」の在り方や進め方、交付金に関わる仕組みなどが真っ先に検討対象として挙げられる。いずれも公正さを欠くと見なされれば、たちまち政策・事業の遂行を困難にするし、逆に信頼を得て政策や事業の正当性が高まれば、ステークホルダーの共考・協働による対処を促進する事柄である。

そうした中、本稿執筆中(2月3日)に政府が基本方針の改定を決めたとの報道に接した。前回の改定では放射性廃棄物WGでの約2年に及ぶ議論を経たが、政府は今春にも閣議決定するという。

  広く関係者や有識者、何より当事者となった両自治体の方々からのフィードバックを丁寧に反映するプロセスを欠いたまま基本方針が改定されるなら非常に残念だ。
後世において23年の動きがどのような節目として評価されるか。肯定的な歴史として記憶されることを願いたいものである。

じゅうらく・こうた  2003年東京大学文学部行動文化学科社会学専修課程修了。08年東京大学学際情報学府博士単位取得満期退学(博士)。東京大学大学院工学系研究科特任助教などを経て、18年から東京電機大学大学院工学研究科教授。

【記者通信/1月27日】中部電も情報閲覧が発覚 不正の連鎖とまらず


 大手電力において不正行為の連鎖が続いている。27日、関西電力、東北電力などに続いて、中部電力でも送配電部門が持つ新電力などの情報を小売り部門が閲覧していたことが明らかになった。送配電部門が中立性、公平性を維持することは電力小売り自由化の「根幹」であり、各社は「タブー」を犯したことになる。今後行われるシステム改革の再検討の中で、現在の法的分離を見直す声が高まるのは避けられないもようだ。

        ID・パスワードの不正使用も

 電力・ガス取引監視等委員会は27日に会見を開き、大手電力に対して情報漏えいの有無について調査依頼をした結果、中部電力ミライズ(小売り部門)の社員など延べ893人が、昨年12月4日から10日の間に中部電力パワーグリッド(送配電部門)が持つ新電力の需要家の情報が表示された画面にアクセスし、約3600件の社名、契約電力量、連絡先、問い合わせ情報などを見ていたことが判明したと述べた。

監視委は営業に使った可能性も調査するという(中部電力本社)

 中には、送配電部門の知人のIDとパスワードを借り、システムにログインして情報を得たこともあったという。監視委は電気事業法に基づき、中電力ミライズ・パワーグリッドに対して報告徴収を実施。中部電側は「営業に使った認識はない」としているが、監視委は「予断を持たずに調査を行う」と話している。

 また同日、中国電力でも送配電部門の情報システムに社員がアクセスし、新電力と契約中の需要家の情報を得ていたことが明らかになっている。

 昨年12月に関電で発覚した送配電部門の情報の不正閲覧。各社にも広まったことで、新電力の間では一般送配電事業者に対してかつてないほどの不信感が渦巻いている。西村康稔経産相が「極めて遺憾」と述べるなど、経産省も重く受け止めており、システム改革の方向性に影響を与えることは避けられないもようだ。

【記者通信/11月1日】電力カルテル問題の「核心」を探る


特別高圧と高圧分野の電力販売でカルテルを結んだ疑いがあるとして、公正取引委員会は2021年4月に中部電力と関西電力、中国電力などに立ち入り検査を行った。独占禁止法に違反しているかを近く判断するとみられている。各社は神経をとがらせているが、関係者に取材をするとカルテルを結んだと断言できる話は聞かれない。公取が立ち入り検査までしておきながら証拠はなかったと引き下がるのか、あるいは明確な証拠を突きつけて独占禁止法違反として課徴金納付命令などを出すのか――。業界関係者の話を基に判断を占った。

 発端は関電の営業攻勢

カルテル問題の発端は17年11~12月ごろにさかのぼる。近隣エリアに営業攻勢を仕掛けると関電が中部電と中国電に伝えたのだ。翌春に新規契約を結んでもらうため、12月までに愛知・岡山・広島県に数十人規模の事務所を設置。首都圏に続き、エリア外への進出を果たすのが目的だ。

それまで3社共通の「敵」は東京電力子会社のテプコカスタマーサービス(TCS)だった。TCSが西日本で低価格攻勢を仕掛けて顧客を奪い、全面自由化が始まってから販売電力量を大きく伸ばしていたからだ。TCSとの競争が激しさを増す中、関電から「宣戦布告」を受けたことは中部電と中国電にとって青天(せいてん)霹靂(へきれき)だったという。

その関電の営業手法について、関係者は「やり方に首を傾げた」と話す。関電は当時、近隣エリアに攻勢を掛けるため営業部門を増員していた。社内で公募を行い、火力部門などから続々と営業へ移っていった。そのため「営業系の社員なら普通はやらないことをやっていた」と振り返る。

 異常な価格値引き

どんな手法をだったのか。関係者によると次のような手法だ。関電の営業社員が近隣エリアの大口顧客を訪問し、現在の契約料金よりも安い価格を提示。すると関電社員は「契約中の電力会社(中部電や中国電)は、さらに安い価格で交渉するでしょう。そうしたらわれわれは、それよりもさらに価格を引き下げて再提示します」と顧客に持ちかけていたという。なぜその手法だと分かったのかと関係者に尋ねると、「お客さまが教えてくれた」と明かした。

一部メディアでは「狙った客には白紙の見積書を渡した」と報じられた。関係者は「実際に見たわけではないが、お客さまから聞いたことがある」と言う。それだけ関電の安値攻勢は尋常(じんじょう)ではなかったのだろう。当時の電力市場価格は1㎾時当たり10~20円前後で推移していた。関電は新規顧客との交渉で6円を提示したこともあるという。

関電はエリアへの新電力の進出に頭を痛めていた

 新電力の草刈り場に

関電にも事情があった。東日本大震災後に原発が停止したことで、2度の値上げを行った。それを機に関電エリアが新電力の草刈り場となったのだ。販売電力量は減少が続き、17年度上期は20年近く前の水準まで落ち込んでいた。大飯発電所3 、4号機の運転再開も見込んでいたため発電量に余力がある。「火力発電を稼働させるためにも固定費は上乗せせず、燃料代だけでも回収できればよいと考えていたようだ」と関係者は話す。

だが、18年夏に転換点が訪れた。ある程度の顧客を獲得できたため、関電側から「エリア外で新規獲得に向けた営業活動はやめる」と伝えてきたという。それまでは中部圏や中国圏の大口顧客に営業攻勢を仕掛け、次に小規模な顧客も狙うと宣言していた、にもかかわらずだ。理由は、中部電と中国電も値下げや関電エリア進出などで対抗したため、収支が厳しくなってきたためという。

 発言をどう受け止めるか

突然の関電側からの営業活動の停止宣言。この発言をどのように受け取るかが、独禁法違反に該当するかのポイントとなる。公取は、関電が顧客獲得をやめると分かったので、ほかの2社が営業攻勢を緩めたのではないかと疑いを掛けた。関電からの通告を機に、相互のエリア進出を中断するための「手打ち」を行ったと見ているのだ。

しかし、関係者は「自分たちから新規獲得をやめるとは一言も(関電に)伝えていないし、実際にやめなかった」と強調する。関電が攻め込んできて、満足できるだけの成果が出たから勝手に引き上げていっただけ――。これが事実ならば、相互に意思を通わせたといえず、公取が疑う違反に該当はしないだろう。しかし、もし3社が「手打ち」を行っていたのなら違反に問われかねない。

どういう理由で公取は違反との嫌疑を掛けたのか、そしてどういう理由を示して電力3 社を違反だと断じるのか、あるいは別の判断を下すのか――。公取が下す判断を関係者は固唾を飲んで見つめている。

【論考/6月23日】初の電力需給ひっ迫警報 大騒ぎしすぎではないか


東京・東北電力管内で3月22日に火力発電所の停止などで電力供給が不足し、初の需給ひっ迫警報が出された。しかし、季節外れの寒波など想定外の事象が三つも重なる稀なことであり、常にこのような事態に備えるならば、電気料金の上昇は歯止めがかからなくなる。需給ひっ迫自体が電力システムの深刻な問題を示しているのではなく、むしろ容量市場の整備など、東日本大震災後の電力システム改革は安定供給に貢献する。

本年3月22日に初めての電力需給ひっ迫ひっ迫警報が東京・東北電力管内で出された。多くの需要家の節電への多大な協力と、電力事業者、広域機関、政府などの奮闘により停電を回避した。これに関して、大停電寸前だった、供給力確保量が足りなかった、果ては電力システム改革の深刻な問題を露呈したと騒ぐ者すら現れた。

しかし、何が起こったのかを冷静に考えるべきだ。まず3月16日に発生した福島県沖地震によって多くの発電所が停止し、その後、地震と無関係なトラブルで東京電力管内の大規模発電所が停止した。さらに3月22日は季節外れの寒波・降雪に見舞われ、暖房需要が急増した。電気のプロが契約しているkW対応の契約の多くが、3月は対象外だったことからも分かるように、この気象は予想外の異例の事態だった。既に繰り返し指摘しているように、暖房需要を増加させる荒天時には太陽光発電の出力低下も起こりがちで、需給はより厳しくなる。

今回の事象はそれぞれ一定の確率で起こる大きなトラブルが三つも重なる稀な事象であった。大きなトラブルが複数重なる事態でも、需要家が好きなだけ電気を消費できる体制を整えようとしたら、電気代はどこまででも高くなる。このような事態で、需要家に何らかの対応を求めるのは合理的で、これ自体が電力システムの深刻な問題を示しているのではないし、これが発生すること自体を安易に危機と捉えるべきではない。

問われる事前の準備不足

稀頻度とはいえ、もっと深刻な事態は今後も起こり得る。そのための事前の準備が十分だったか、という観点からは、確かに多くの問題があった。

分かりやすいのは警報のタイミングだ。必要に応じてより迅速に対応するための制度・運用の改善は、既に進んでいる。

金銭的な誘因に基づく効率的な節電、DR(デマンド・レスポンス)を促すための制度、インフラ整備が不十分だった点は、既にさまざまな観点から議論されている。一朝一夕には進まない難しい問題だが、安定供給以外の文脈でも重要で、今後も検討を進めるべきだ。

これと関連して、停電よりはましな供給制限の準備は大きく遅れた。10年以上前に本欄で論じたように、スマートメータを使えば、停電よりスマートな供給制限が技術的には可能だ。節電が進まないと停電になる事態より、アンペア制限をする事態の方がより効率的なはずだ。しかし送配電事業者は、指摘を繰り返し黙殺し、対策は次世代のスマートメータの更新時まで先送りされた。10年を空費した不作為の罪は重く、今回を契機にこれが強化されることを期待している。

また、かつて本欄でも提案した容量市場の経過措置が採用されず、老朽化した電源の休廃止の誘因を高める制度となるなど、総括原価と地域独占で守られた時代に造られた電源の安直な休廃止を抑制する対策が後手に回ったことも、供給力不足の一因となっている。既に議論が進んでいる新設投資促進のための新たな市場設計とあわせて、今後は休廃止対策も進めなければならない。

容量市場は安定供給に重要な役割

後手に回った部分が多くあったとはいえ、東日本大震災後の電力システム改革は安定供給の観点からも威力を発揮する。2024年度からの受け渡しで、今回には間に合わなかったし、制度設計にミクロ経済学のイロハも踏まえない不適切な部分があったとはいえ、今後、容量市場は安定供給にも重要な役割を果たす。また軽負荷期にも問題が起こり得ることも既に以前に指摘した通りで、夏冬の需要期以外の目配りも重要だが、だからこそ、24年度以降の供給力評価は、粗雑な夏冬のピンポイント評価から、全てのコマをにらんだEUE(確率論的必要予備力算定)評価に切り替わる。

国の電力システム改革は安定供給に貢献している

震災前には、旧一般電気事業者の反対で、東西を結ぶFCの容量はわずか120万kWに抑えられ、しかも中部電力管内の投資の遅れによりその能力も上限まで使うことは出来なかった。震災後の増強も90万kWの増強をさらに90万kW積み増す案には最後まで事業者が懸念を示す中で、増強が決定された。今回は300万kWまでの増強は間に合わなかったが、震災後に抵抗されなかった一部の増強は間に合った。震災後の改革を批判する者は、連系線の容量が120万kWだったらどれだけ状況が悪化したかも考えるべきだ。

電力システム改革で生まれた広域機関が果たした役割と、エリアのエゴが衝突して全体最適にほど遠かった震災前の状況を比べれば、改革が安定供給に果たした役割も理解できるはずだ。

市場メカニズムを使ったDRによる供給力創出はまだ途上だが、3月22日も無視できない量の経済DRが発動され、停電回避に大きな役割を果たした。足下でも、2025年度向けの容量市場入札では、DRを中心とした発動指令電源の応札量が上限に達し、ゼロ円入札したDRすら落札できないほどにDRは発達してきた。

需要側の資源も活用しながら

電力システム改革の目的は安定供給を犠牲にして電気料金を下げることではなく、電力村の硬直的な常識にとらわれない多様な知恵を集め、需要側の資源も有効に利用しながら、より効率的に安定供給も維持することだ。

ゼロエミッション社会実現に向けて変動再エネが増加していく中で、需給逼迫が起こる度に危機とあおり立て、古い電力村の発想に基づく制度への揺り戻しが起これば、ただでさえ高い電力コストはどこまで高くなるかわからないし、既にその兆候が現れていると懸念している。

まつむら・としひろ 東京大学社会科学研究所教授 1965年生まれ。88年東京大学経済学部卒。東京工業大学社会理工学研究科助教授を経て現職。専門は産業組織、公共経済。

【記者通信/4月19日】太陽光発電の調整力費用 送配電会社の重い負担に


 大手電力の送配電会社(一般送配電事業者)は、天候悪化などによる予測困難な太陽光発電の出力低下に備えて、必要な電源を調達している。一部の送配電会社にとって、この負担額がかなりの高額になり、見直しの動きが進んでいる。

 太陽光の出力が想定以下になった場合を考慮して、送配電会社は2021年4月に発足した需給調整市場から、三次調整力②としてΔ㎾を調達している。太陽光の出力の予想や、出力低下でインバランスが生じた場合に備える費用の負担は、本来ならば、FIT(固定価格買い取り制度)で発電事業を行う事業者が負担すべきものだ。しかしFIT特例制度により、ほとんどのケースで、送配電会社が需給が行われる前日に太陽光の発電計画を作成し、またΔ㎾の調達を行っている。

 21年度、中部電力パワーグリッド(PG)は三次調整力②の調達に約340億円、関西電力送配電は約228億円を費やした。国はFIT交付金として、調達費用の一部を補てんする。だが、その額は中部電PGは19億5000万円、関電送配電は14億9000万円にとどまる。21年度に中部電PGは約320億円、関電送配電は約213億円、それぞれ持ち出しを行ったことになる。

太陽光の発電が想定以下だった場合、送配電会社が調整力を調達する

 

調達費用を大きく下回る国の交付金額

 なぜ、FIT交付金の額は実費を大きく下回るのか――。交付金の額は前年度に決め、21年度分は20年12月の資源エネルギー庁の有識者会合で議論され決まった。まず理由として、初の制度であったため、調整力の確保量を簡易な手法(*)で算出したことがある。

 中部電PGの場合、21年度の調達必要量を29億3000万Δ㎾時と試算。さらに削減に取り組むよう補正処理され、21億9000万Δ㎾時に減らされた(21年度実績は36億4000万Δ㎾時)。調達単価も、予想される卸電力市場の価格と限界費用との差額の逸失利益だけが織り込まれ、㎾時当たり0.89円に抑えられている(同実績は9.34円)。

 交付金額については見直しが行われている。しかし、今年2月の有識者会合で決まった22年度の確保量の考え方は、過去4年間(17~20年度)の最小確保率(Δ㎾÷FIT設備量)を採用するというもの。中部電PGは18年度(3.44%)が適用され、調達必要量は29億9000万Δ㎾時とされた。調達単価は必要費用などが加わり、Δ㎾時当たり6円になったが、調達必要額は181億9000万円にとどまることになる。

 これでは、中部電PGが22年度も21年度と同等の調達費用を負担すると、依然、約160億円の持ち出しとなる。

 国は、送配電会社に調整力の調達量を減らすインセンティブが働く仕組みが必要と考えている。一方、送配電会社は太陽光の出力予測の精度を上げるよう取り組みを行いながら、インセンティブの設定が送配電会社の努力を超えるものになっていないか、その都度、確認が必要と主張している。

 調達費は本来FIT事業者が負担すべきものだ。送配電会社の過大な負担は筋違いであり、制度の見直しが求められている。

*エリア全体の残余需要の予測誤差3σ(σは標準偏差)から、送配電会社が常時確保する電源の残余需要の予測誤差3σを差し引く。

 

【論考/1月21日】EV界で消えゆく「チャデモ」イノベーションで出遅れる日本


欧米から日本の急速充電規格「チャデモ」が急速に姿を消している。EVの走行距離の長距離化、バッテリー搭載量増加に対する高出力化に遅れたことが主な理由。欧州規格のコンボ(CCS)が次々と高出力化する中で、技術的に劣勢に立たされていた。EV本格普及を前に、日本側に残されている時間は少ない。

 2021年12月にトヨタ自動車が16車種の電気自動車(BEV)を一挙にお披露目した。また30年までに30車種のBEVで、年間350万台の販売を目指すとした。発表会では5車種が並んでいたが、幕が開くと後ろに11車種が控えているという演出付きであった。しかし「仮名手本忠臣蔵」のセリフのごとく「遅かりし由良助」とCHAdeMO(チャデモ)の関係者は思ったに違いない。

 最初の量販型EVである三菱i-MiEVが発売されたのが09年7月、そして急速充電規格のフォーラムであるチャデモ協議会が設立されたのが10年3月であった。そして日産リーフが発売されたのが10年12月であり、ここからチャデモ(日本の急速充電規格)が動き出した。しかし12年に欧州規格のCCS(Combined Charging System、通称コンボ)が発表され、公正取引委員会の区別を使えば、チャデモ協議会は、他の企業連合との規格間競争を想定していないフォーラムから、競争を前提とするコンソーシアムになった。

さらにEU議会は「代替エネルギーインフラ整備促進法案」を14年4月に可決し、公共施設の急速充電規格としてCCSの設置を明記した。チャデモの設置は、当初案では19年1月1日までの移行期間までとされたが、当時のBEVといえばリーフであり、結果的にコンボの設置はチャデモとのマルチポート形式が前提となった。

競争で優位に立ったのは

 ここから規格間競争の焦点は、どの規格が市場競争で優位に立つのかというディファクト・スタンダード(De Facto Standard)を争う競争になった。法律によって定められた規格(デジュール・スタンダード:De Jure Standard)が、市場競争にさらされるというのは不思議な気もするが、雌雄はここから数年のEV開発競争にゆだねられた。

 結果は明らかだった。チャデモ協議会が「世界規模の国際規格」とうたっても、チャデモを採用したEVは実質的にリーフのみであった。次々とさまざまなEVが発売され、21年には顧客が選べるEVは50種を超えた。この状況で10年前に発売された一つの車種が、国際規格を背負うのはあまりに荷が重かった。19年のEVの世界年間販売台数は312万台であったが、リーフは5.5万台、1.8%に過ぎなかった。しかもモデルとしては既にピークを過ぎていた。

チャデモを採用したEVは実質的にリーフのみだった。

 21年9月のEV急速充電器の規格別シェアは、欧州全体ではCCS Type2が47%、チャデモが30%、Teslaのスーパーチャージャーが22%であった。最大の市場であるドイツでは、CCS Type2が62%、チャデモが25%とCCSの半数以下に留まった。アメリカでもチャデモは24.2%とTeslaの55.3%、CCS Type1の31.6%の後塵を拝した1。フランスでは、充電ステーションにはチャデモの設置が義務づけられてきたが、21年4月に設置義務が削除された(「電波新聞」21年5月24日)。

 アメリカの充電設備ネットワークの大手Electrifyもチャデモの利用率がわずか5%であること理由に、22年1月からはチャデモを新たに設置しないとした。新たに設置しないとは、順次姿を消すことを意味する。この中で日産は、新型EVアリアの海外向けはチャデモではなく、CCSを採用した。ホンダは既に海外ではCCSを採用している。

 チャデモの普及の制約要因として、コネクタが二つあることからデザイン的に制約があるとか、欧米人にはこの名称は発音しにくいなどとされてきたが、最大の問題は技術にあった。EVの走行距離の長距離化、バッテリー搭載量増加に対する高出力化に遅れ、CCSが次々と高出力化する中で技術的に劣勢に立たされてきた。しかも高出力化などの技術開発も足踏みが続いた。今後チャデモは中国と共同開発するChaojiに置き換わっていくであろうが、これにはまだまだ時間が掛かる。

 コンセントは世界には大まかな区分でも6~8種類もある。統一できれば便利だが、コンセントは各国が独自に進めてきたのだから、ことさら気にすることはないという声もある。

 必要なのは自ら進める覚悟

 しかしイノベーションに対するマインドは、全く別だ。ここで終わらない。

 テスラ社のイーロン・マスク氏は、急速充電器が不足しているなら自ら設置しようとスーパーチャージャーのネットワークを自ら作り始めた。マスク氏には「鶏が先か卵が先か」など自動車産業の領域的な発想はない、必要なら作る。パワートレインの転換期に必要なものは、結局、自ら進める覚悟があるかどうかだ。

 HVがもたらすイノベーションのジレンマか、チャデモのガラパゴス化か、それとも規制と既得権益に縛られてバハマ化(キューバのバハマがレトロなアメ車の博物館になっている状況)するか。

 チャデモはもともとCHArge de Move、「動きにチャージ」という意味だが、同時に「(充電時間に)茶でも」という意味も込めたと聞く。もうそんな時間は残されていないようだ。

注1.欧州の数字は、ChargeMapの統計を使用して欧州上位18か国の急速充電のコネクタ数から算出。米国は、米国DOEのAlternative Fuels Data Centerから算出したもの。

小嶌正稔 桃山学院大学 経営学部教授

1982年中央大学商学部卒、共同石油(当時)入社。93年青森公立大学助教授、2001年東洋大学経営学部教授、19年から現職。専門は中小企業経営論、石油流通など。

【特集1】激戦で問われた原発・再エネ 業界注目選挙区の現地事情


コロナ禍収束の兆しが見える一方、原油・石炭・天然ガスの高騰が生活や産業を脅かしている。その中で原子力と再エネはどう争われたか。激戦区を訪れた記者が報告する。

【北海道4区】
廃棄物処分と原発再稼働
エネルギーで二つの課題

 公示直前の10月13日、立憲民主党と共産党、社民党、れいわ新選組の野党4党は、北海道内12選挙区のうち9選挙区の候補者を一本化することで合意。「核のごみ」問題で揺れる後志地方を擁する4区もその一つで、共産が候補者を取り下げ、自民党現職の中村裕之氏と立憲新人の大築紅葉氏の一騎打ちの構図となった。

 中村氏は当選すれば4期連続。支持層は盤石に見えるが、複数候補が立ち、野党票が割れた前回とは状況が大きく変わった。自民会派所属の村田憲俊道議会議員は、「岸田内閣で農林水産副大臣に就任し、後志地方の発展にも欠かせない人物。何が何でも当選させなければならない」と、背水の陣で選挙戦に臨む姿勢を見せていた。

 対する大築氏の選挙対策委員会は、慌ただしい動きを見せていた。前議員の本多平直氏が不用意発言によって辞職したのに伴い、出馬表明したのは8月のこと。それからわずか2か月足らずでの選挙戦突入となった。山谷一夫事務局長は、「当初は11月7日投開票を想定していたが、1週間前倒しとなったことは大きい。短期決戦で名前や人柄を周知するのは難しい」と、新人候補にとって厳しい選挙戦になると表情を引き締めた。

 実は、衆議院選挙に先駆けて、4区内ではもう一つの選挙が注目を集めていた。高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定の第一段階に当たる文献調査継続の可否が、争点の一つとされた寿都町長選だ。6期目を目指す現職の片岡春雄氏に、調査の即時撤回を訴える新人の越前谷由樹氏が挑んだ格好だ。一地方の首長を選ぶ選挙だが、その結果は、国が進めようとしている処分地選定の行方を左右しかねない。

 選挙戦の中で中村氏は、「(文献調査について)賛成反対を申し上げる立場にない」と明言を避けた一方、大築氏は「核のゴミは受け入れない」「原発に頼らない電力の確保」と、原発政策そのものに反対の姿勢を明確にした。

 寿都町の文献調査、泊原発の再稼働という二つのエネルギー関連問題を抱える4区。ただ、両陣営とも「一部マスコミが執拗にあおっているが、ほかにも多くの地域課題を抱えている中で、寿都にしても泊にしても、今回の選挙で、それぞれ単体で投票行動を決定づけるものではない」と見ていた。

 自民道連の松浦宗信政務調査会長は、「これまでも、政策集で『ゼロカーボン北海道』を掲げてきたが、他党も同様で政策として大きな違いを出すのは難しい。寿都や泊原発の是非についても有権者に問うほど、議論が進んでいるわけではない」と、争点になり得ない理由を語った。

 一方、立憲にとっても、原発があることで生活が成り立っている人がいる事実からは目を背けられない。面野大輔小樽市議は、「エネルギーや雇用の代替案として、有権者に理解してもらえる政策を用意していかなければならない」と、長期戦の構えを見せた。

 放射性物質の廃棄、原発の再稼働―。4区の有権者による選択の時はまだ先のようだ。

衆院選前の寿都町長選が注目された

【論考/11月1日】原油市場の不安定性高まる 性急な脱炭素に多くの異論   


COP26が始まり、ジョンソン英国首相をはじめ欧州首脳は各国に気候変動対策の強化を求めている。しかし産油国、また国際石油会社は、エネルギー移行の重要性を認識しながらも、性急な移行には違和感を感じている。わが国でも自動車工業会の豊田章男会長が欧州のEV一辺倒の政策に異論を唱えており、各国首脳はそれらの声に耳を傾ける必要がある。

 ガソリン国内価格(レギュラー)は10月18日、7年ぶりに1リットル当たり162円を超えた。価格は6週続けて上昇、歯止めが掛かる様子は見られない。ガソリン価格の値上がりを受けて政府は18日、関係閣僚会議を開き、産油国に増産を働きかけることなどを決めた。

 主要産油国で構成するOPEC(石油輸出国機構)プラスは、10月4日の会合で追加増産を見送っている。11月4日には12月の対応を決めるべく再度会合を持つが、OPECプラスの措置に日本政府の働きかけが効果を持つかは疑問だ。今日エネルギー産品で起きている価格高騰は、コロナ禍の収束に伴う需要増と2010年代後半以後の開発投資の大幅縮小に伴う供給能力増の未達によるところが大きく、産油国の短期対応の実効性は覚束ない。

 価格対策の鍵は、あまりに性急に設定された脱炭素を実現するための時間軸の再設定にあるとすれば、当該議論はOPECプラスでなく、10月31日から英国グラスゴーで開催されたCOP26のアジェンダにふさわしい。

 ジョンソン英国首相は9月22日、国連総会の一般討論演説でCOP26は、「人類にとっての転機になる」と語り、議長国として各国・地域に気候変動対策の強化を求めた。また10月19日、「2050年排出ネットゼロ」実現に向けて、368頁からなる新国家戦略を発表した。

 英国は、昨年11月に30年までにハイブリッド車を含む内燃機関自動車の販売禁止を打ち出した。世界のEVシフトを巡る動きをみると、欧州と中国が先行している。欧州委員会は7月14日、電源構成に占める再エネの割合を30年に65%に引き上げる目標を打ち出し、同時に発表したガソリン車の販売禁止や電気自動車(EV)関連インフラ整備拡大、輸入車を対象とする炭素国境調整措置と合わせ、世界の温暖化政策の先導を目指す。

豊田章男社長は「敵は炭素で内燃機関ではない」と強調する  提供:時事
 


 産業界から挙がる異論

 9月9日の日本自動車工業会記者会見で、豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、欧州などによる内燃機関車を禁止する方針に対して「敵は炭素であり、内燃機関ではない」と反論、「EV一辺倒の潮流にEV以外の選択肢を広げるべきである」と訴えた。会長の発言は、雇用確保の要素もあるが、本質的にはカーボンニュートラル実現にはあらゆる選択肢を残すことが重要であるという訴えである。

 この議論は、産業界では広く共有されるように思う。表明されている産業各界の意見は、最大限の選択肢の確保とエネルギー移行に十分なリードタイムを置く必要があることに集約される。トヨタのフルラインナップ戦略は前者の例であるが、後者の例には、米国エネルギー専門誌が主催したエネルギーインテリジェンスフォーラム(10月4、5日)で表明されたリードタイムの設定に対する意見が挙げられる。

 フォーラムで参加者は、投資不足リスクの増大を認識し、石油・ガス産業への投資継続の必要性を指摘した。参加者は、供給が需要に追い付いていないため、供給不足基調は継続し、市場の不安定性は高まるとの認識を共有した。足元の原油価格は上昇しているが、産油国には将来的に石油・ガスの需要が減少するという懸念があり開発投資を控えざるを得ない。

拙速な移行は投資不足を招く

 フォーラムのパネ参加者は、産油国国営石油会社(NOC)の幹部であれ、国際石油会社(IOC)の幹部であれ、エネルギー産業の当業者である以上、総論としてはエネルギー移行の重要性を認識しつつも、エネルギー移行の速度にはさまざまな違和感を表明した。

 その中で一番の違いは企業グループの幹部は、自社の保有資産の減耗に対応するには一定の開発投資が必要と考えていることである。株主対策からそれを声高に訴えることはできないとしてもだ。

 産業の切り口では、NOCもその一翼を担う。NOCからの参加者の中で、サウジアラムコ最高経営責任者(CEO)のナセル氏は、石油需要が近々ピークを迎え、早晩減少するとの見方を否定し、27年までに同国の産油能力を日量1300万バレルに増強すると発言した。また、イラクは27年までに同800万バレルの生産を実現するとした。アジアのNOC幹部は移行期のエネルギーとして、石炭のガス化を含め、天然ガスとLNGの役割を重視し、現行投資計画を紹介した。

 概して石油産業界の中でNOCはエネルギー移行に消極的で、IOCはより現実的に対応しようとしているという違いはある。だが、当業者がこうした声を挙げ続けることは重要である。

 トヨタ会長が放った欧米自動車産業に対する宣戦布告は、化石燃料の座礁資産化の議論が始まった16年、サウジアラビアの元石油相が言明した「非難されるべきはCO2であり、化石燃料ではない」との言葉と反響し合う。仮に、こうした声を挙げた企業、あるいは産業界がCOP26で化石賞を授与されることがあるとしても、餅屋は餅屋、対応の可能性を当業者に委ねる選択肢は残されるべきである。 


 
須藤繁

帝京平成大学 客員教授

1973年中央大学法学部法律学科卒。石油連盟、三菱総合研究所、国際開発センタ―を経て2011年から帝京平成大学教授。専門は石油産業論

【論考/9月21日】エネルギー転換での幻想 問われるグリーンジョブの量と質


政府は「グリーン成長戦略」において、2030年に870万人がグリーンジョブに従事する見通しを明らかにしている。しかし、根拠は示されておらず、その楽観的な数字は、政策策定の情報基盤を構築する機能が歪まされた印象を抱かせる。脱炭素社会に向けたエネルギー転換で問われるのは、量ではなく質の高い雇用への転換だろう。

内閣官房と9府省庁の連名で「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が6月に示された。その雇用誘発は「新製品・サービスの創出によって生じ得るマイナス影響を考慮」したネットの効果として、2030年に870万人、50年には1800万人とされる。一般に50年の就業者数は5千万人ほどと推計されるため、実に就業者の3分の1がグリーンジョブに従事すると解されるほどに膨大である。

雇用の質の検討に進む英国

雇用転換は世界でも検討が進んでいる。昨年11月、英国政府は「グリーン産業革命のための10カ条計画」として、30年に25万人の雇用創出という計画を示した。英政府は同時期に、200万人の高スキルなグリーンジョブ創出というはるかに野心的な目標も掲げている。「10カ条計画」において算定されたグロスの雇用誘発25万人は、200万人目標の明確化へと向けた第一ステップとして位置付けられる。

政府とは独立した検討のため、英国では、産業界、アカデミア、労働組合、技能教育部門からなるグリーンジョブ・タスクフォースが設置され、本年7月にはその報告書(「Green Jobs Taskforce-Report to Government, Industry and the Skills Sector」)が出版された。

それは英政府の抱く野心的プランの方向性に沿いながらも、具体性を欠く政府目標の残り(175万人の量)をいたずらに積み上げるようなものではなく、質の高いグリーンジョブ創出という雇用転換に向けて求められる15の提言を論じている。

同報告書は、労働時間、給与、雇用契約などの諸条件からみて、現状のグリーンジョブの全てがグッドジョブではないと冷静に分析する。創出される雇用が高い質のジョブとなるためには、産業、就業者、また技能教育部門による人材育成に向けた長期投資が欠かせない。そのための相互の信頼形成とともに、政府にはエネルギー転換の具体的な道筋を提示するように求めている。実現の可否を問うにはだいぶ早いが、英国では建設的な議論が展開され始めている。

英国はグリーンジョブを冷静に分析している

日本政府の「グリーン成長戦略」における雇用誘発量はあまりにも膨大である。細部に関する文書の所在を経済産業省(カーボンニュートラル実行計画企画推進室)へ問い合わせたところ、「公表しないことが決まっている」という。ヒアリングなどに基づく個別企業の情報を出せないことは理解されるが、前提や方法論を非公表とすることの根拠を問えば、「公表する予定はない」と変わった。言い切る素っ気無い対応には疲労の色が感じられた。

グリーンジョブの単純な数量比較では、日本の30年目標値は英国の4.4倍である。IMF(その延長推計値)では同年の実質GDP規模は英国を6割ほど上回ると推計されるから、GDP比でのグリーン雇用創出率では日本は2.7倍大きいと解される。

しかし、実のところこうした日英比較は基準がずれている。英国の計数はグロスであり、ネットでははるかに小さい。日本政府の掲げる870万人というネットの雇用創出は、野心的であることを通り越して、政策策定の情報基盤を構築する機能が大きく歪まされてきた印象すら抱かせる。

異なる条件下の思考実験を

脱炭素へと向けて世界的なエネルギー転換が必要となれば、日本にも応分の負担が要請されよう。国内外の転換に伴う需要創出の一部は日本経済の成長機会となるとしても、広範な産業の競争力への影響を評価し、質の高い雇用転換の実現可能性が問われる。

その分析評価では、いたずらに雇用の量を積み上げる演出ではなく、今の日本経済の構造を把握し、その転換の道筋における諸課題をあぶり出すための問題発見的な役割が期待される。

成長戦略会議の議事要旨には、グリーンとデジタルで設備投資を喚起し、生産性を高め、労働分配率を上昇させるべきとの指摘もされる。しかしグリーン投資によってなぜ生産性が高まるのか、その論理は見えない。

雇用転換では雇用の質が問われるように、資本構造の転換では資本の質が問われる。同量のアウトプット(発電量や鉄鋼生産量など)の生産において、グリーン投資は従来よりも多くの資本を必要とする。それは労働生産性に対して中立的であったとしても、全体的な効率指標である全要素生産性をほぼ確実に毀損させる。競争相手国も同様な転換を迫られない限り、競争力を失う日本産業の労働者が生み出す価値は低下せざるをえない。

質の高いグリーンジョブ創出の成否は、そのジョブが生み出す価値(価値限界生産性)に依存している。グリーンに生産されることの価値が市場で直接・間接に反映されるには、国際的に調和のとれた明示的な炭素排出費用の内部化が求められよう。

依然として実現の難しい国際協調は、質の高い持続的な雇用転換への最大の障害となる。政府に求められることは、「断固たる意思を持って実行」することではなく、異なる条件下での柔軟な思考実験である。今後も条件は変化し、転換の成否はその変化に依存している。

野村浩二

慶應義塾大学産業研究所 教授

1998年慶大院卒。博士(慶大・商学)、96年産研助手、2003年同准教授、17年から現職。ハーバード大ケネディスクールフェロー、日本政策投資銀行設備投資研究所・客員主任研究員、内閣府経済社会総合研究所・客員主任研究官などを歴任。専門は計量経済学・経済統計。

【記者通信/9月18日】「河野首相」に懸念深まる 核燃サイクルに最大の危機


自民党総裁選は、河野太郎規制改革担当相と岸田文雄前政調会長が一歩リードする形で進んでいる。河野氏は脱原発が持論であり、核燃料サイクルを明確に否定。河野氏が選ばれれば、青森県六ケ所村での再処理事業は最大の危機を迎え、それは原発の稼働にも影響を与える。業界関係者は、総裁選の行方を息をひそめて見つめている。

河野氏は9月10日に公表した政策パンフレットで、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」と述べている。もともと確信的な脱原発派であり、総裁選を制して次期首相に就任したら「次期エネルギー基本計画で原発に関する記述が後退しないだろうか」との懸念は電力業界から聞こえていた。

しかし、10日に開いた記者会見では、カーボンニュートラルを達成するために原発の再稼働を容認している。新増設は「現時点で現実的ではない」との考えを示したものの、安全が確認された原発は再稼働することが「現実的だ」と指摘。原発そのものの必要性は示した。

ただ、新増設しなければ原発は「いずれゼロになる」とも述べている。この発言が河野氏の本心を示していそうだ。というのも、翌11日には記者団に対し、核燃料サイクルについて「なるべく早く手じまいすべき」と発言したからだ。

青森県は使用済み燃料の保管を拒否

使用済み核燃料の再処理を止めると、原子力政策は立ちゆかなくなる。青森県は核燃サイクルを続けているからこそ、六ヶ所村に保管してある使用済み燃料を「一時保管」と受け止めているためだ。再処理事業から撤退すると使用済み燃料は「ごみ」と見なされ、県は電力各社に引き取るように迫る。

すると使用済み燃料の保管場所が足りなくなり、原発の運転に大きな支障が出る。ある自民党議員は「ここまで見据えて『いずれゼロになる』と発言しているのだろう」と断言する。

六ヶ所工場は廃炉を余儀なくされるかもしれない

再処理中止で使用済み燃料は「ごみ」に

原発を容認したと受け取れる河野発言を業界はどのように受け止めているのだろうか。大手電力の関係者は「日和見だ」と反発する。もともと脱原発の姿勢を見せていながら、総裁の椅子が見えてくると手のひら返しする河野氏に対し、「主義主張が変わったのなら理由を説明するべき。それもないのに政治家として信頼できるのか」と疑問を呈する。

そもそも、日本は再処理を英仏に委託している。核燃サイクルを推進するのを前提として、両国は使用済み燃料を受け入れてくれるのだ。日本が再処理を止めると宣言すると、引き受けた使用済み燃料は単なる「ごみ」になる。英仏は直ちに引き取るよう日本政府に迫るだろう。

引き受けても日本国内に置き場はない。政府は苦境に立たされる。引き取りを拒否したら外交問題にも発展する。河野氏は外務大臣を経験しているが、それらを理解しているのだろうか。

「大物」幹部を中心に激しい反発も

河野氏のエネルギー政策については自民党内でも懸念の声が上がっている。脱原発を掲げてきたため「河野ではだめだ」との声が聞かれるという。党内には原発リプレース推進の議員連盟などがある。これらの幹部には甘利明氏や細田博之氏といった「大物」が顔を並べる。脱原発を掲げてきた河野氏への幹部らの反発もあり、支援する議員は限られるという見方もある。

また、原発産業は裾野が広く、工事や部品メーカーまで含めた従事者は多い。これらの関係者から反発を招けば「選挙に影響が出てくる」と懸念する国会議員もいる。

衆院選が近いだけに、人気の高い河野氏の支援が広がるかどうかは微妙なところだ。大手メディアが9月9~11日に行った世論調査でが、27%の有権者が次期総裁にふさわしい人物として河野氏を挙げ、岸田氏(14%)や高市早苗氏(7%)を大きく引き離している。自民党関係者が総裁選でどの候補に投じるのか――。業界関係者は疑心暗鬼に駆られている。

【記者通信/8月31日】敦賀原発の審査中断 マスコミ報道に疑問符


原子力規制委員会は8月18日、日本原子力発電の資料書き換え問題で敦賀原発の審査を再び中断した。これを一部のマスコミが取り上げ、朝日新聞は社説(8月29日)で「技術者の教育をはじめ、管理や組織の規律が問われる問題」「存続の是非も含めて会社の今後を改めて検討すべきだ」と、原電が意図的に書き換えを行った可能性に言及し、その体質を厳しく批判している。

しかし、実際はより詳細なデータが得られたので、過去のデータを削除したにすぎず、これらの報道は、書き換え問題について事実に基づいているとは言い難い。原電は規制委側に不備を指摘された業務プロセスの再構築を急ぎ、審査会合の再開を目指している。

 「この状態が改善されるまで審査会合を開ける状況ではない」――。原子力規制委員会の石渡明委員は8月18日の会合で、こう発言した。原電は敦賀原発の敷地内にある断層が地震で動かないことを証明するために掘削調査を行ったのだが、その報告書の一部を書き換えたことに端を発した発言だ。

原子炉建屋真下のD-1断層とK断層

18日の会合で事務局の原子力規制庁は、原電の業務プロセスが適切ではなかったために報告書の書き換えが起きたと指摘。それを受けて規制委は、業務プロセスが信頼性を確保できると確認するまで敦賀原発2号機の審査を行わないと決めた。

敦賀原発の敷地内断層を巡る議論は、規制委が地質などの専門家を集めて開いた有識者会合にさかのぼる。現地調査などを経て、有識者会合は2013年に敦賀敷地内にある「K断層」と呼ばれる断層を「活断層の可能性が否定できない」と指摘。これが地震で動くと、敦賀原発2号機の原子炉建屋真下にあるDー1断層も連動する可能性があるとの見解をまとめた。

原電は2号機原子炉建屋の真下にあるDー1断層とK断層は連動せず、K断層も地震で動かないことを証明するために掘削調査を実施。K断層と原子炉建屋の間に10本の穴を掘って地層の試料を採取した。K断層は「逆断層」と呼ばれる動き方だが、試料を分析すると、K断層と異なる性状を示していた。逆断層の動き方ではなかったのだ。

地層の性状が異なれば地震が起きたときに連動するとは考えられない。そのため原電は、K断層と2号機原子炉建屋の真下にあるD-1断層は関連性がないと結論付けた。

これで規制委側の疑問を払拭できたはずだった。だが、規制委側は審査資料の一つである掘削調査の結果を示した「柱状図」に着目した。20年2月7日の審査会合で、以前に提出された記載内容の一部が書き換えられていたと指摘した。

顕微鏡観察でより詳細なデータを取得

原電が最初に柱状図の資料を規制委側へ提出した際は、掘削時に採取した試料を肉眼で観察し、採取地点ごとの評価結果を記載していた。その後、原電は試料の薄片を顕微鏡でつぶさに観察。性状を分析したところ、より詳細なデータが取れたため、肉眼観察したデータの一部を上書きする形で新たな評価結果を記載した。

掘削調査したところが逆断層でないため、かなり古い年代に形成されたものだろうと判断。「12万年前以降に地震で動いたもの」という活断層の定義から外れる有力な手掛かりを得たことになる。

しかし規制委側は、データの一部を上書きした点を問題視した。同日の審査会合で「記載内容を変更したと知らされていない」と指摘。その主張は「新たな分析結果が分かっても、元データと併記すべき」というものだ。規制委側は原電に、調査会社が作成した元の資料を提出するよう要求。同時に、新聞各紙などマスコミは一斉に原電の「書き換え問題」を報じ始めた。

20年6月4日の審査会合でも、原電は資料の上書きについて説明したが、規制委側の納得は得られなかった。原電側は上書き問題の原因を検討するため、審査に関わっていない社員も加えて総点検作業に着手した。20年10月30日の審査会合には元資料を提出し、点検作業の結果と今後の対応方針も説明。

規制委側は納得して審査の再開を決めたが、柱状図のデータを上書きしたことは原電の業務プロセスに問題があると考えた。そのため、原子力規制庁の検査部門が実施する規制検査で業務プロセスの状況を確認することにした。21年8月18日の会合で規制委は、規制検査で確認する項目を追加。それらの確認が取れてから審査を再開すると決めたのだ。

2号機真下の断層が活動性でないことが明らかになりつつある

  原電に不利な書き換えも

「データを書き換えた」と聞くと、自らの主張に有利となるような記載内容に変更したと思われがちだ。しかし、今回の件で原電が上書きしたのは25箇所のうち、7箇所はどちらかといえば原電に不利となるような変更だった。仮に恣意的な判断が働いたのなら25箇所すべてを自社の主張を裏付けるように書き換えるだろう。原電は、「自分たちに都合のいいような意図的な書き換えはなかった」と繰り返し述べている。

薄片観察で得られたデータの分析結果によると、2号機原子炉建屋の真下にある断層とK断層の関連性がないことが分かる。有識者会合で受けた疑惑も晴れることになる。規制委側に審査を速やかに進める意思があるのなら、記載内容の書き換えにこだわって審査を中断し続けるのは理にかなわない。

8月18日の規制委の審査中断の方針を受けて、原電は、「業務プロセスの構築を確認していただくための準備を早急に進め、早期に審査会合を実施していただけるよう全力で取り組んでいく」とのコメントを発表している。1日も早い審査再開が望まれる。

【記者通信7月30日】原発新増設の記載なし エネ基案に自民議員が反発


経済産業省が7月21日に示したエネルギー基本計画(素案)には、原子力発電所の新増設・リプレースが記載されず、可能な限り原発依存度を低減する方針は引き続き明記された。これに自民党議員の一部が強く反発している。

27日に開かれた電力安定供給議員連盟(会長・細田博之衆議院議員)の会合では、次のように批判が噴出した。

「話にならない。一部の反原発論者に遠慮して、全てのエネルギー計画があいまいになっている。新増設・リプレースに(基本計画で)触れないで、どこで触れるというのか。責任あるエネルギー政策として、勇気を出して打ち出していかなければならない」(大西英男衆院議員)。

「可能な限り原発依存度低減といいながら、2050年を見て『原子力は必要な規模を持続的に活用していく』という。一体どっちなんだとなる。持続的に活用するには、リプレースも含めてしっかり進めなければならない」(宮下一郎衆院議員)。

一方、28日に行われた総合資源エネルギー戦略調査会(会長・額賀福志郎衆院議員)の会合では、福井県など原発立地地域選出議員からエネ基素案に異論が相次いだが、再生可能エネルギーの拡充を唱える議員もおり、素案の扱いについては会長一任となっている。

原発立地地域の議員からは異論が相次いだ

原子力推進の立場の議員からは、エネ基素案について、「2000年代の初頭に太陽光発電は日本製が5割以上あったが、今はゼロ。風力も同じで、テクノロジーはあるが(事業として)成立できない。太陽光や風力を伸ばそうとしているが、おそらく両方とも中国製になる。中国製に頼っていいのか、経済安全保障上の問題になる」(藤末健三参議院議員)との指摘も出ている。エネ基は素案がそのまま認められる見通しだが、エネルギー政策だけでなく産業・外交政策も巻き込んで、党内に長く論争の火種を残しそうだ。