【記者通信/北極海航路は実現可能か ロシア側がワークショップ開催】


ロスアトムの原子力砕氷船

ヨーロッパからロシアの北極海沿岸を通り東アジアに至る北極海航路。スエズ運河経由よりも欧州・東アジア間の航行距離を約34%、短縮する。地球温暖化による北極海の氷が減少したこと、また海上物流の増大でスエズ運河経由の運行が限界に近付いていることなどから、その実現可能性に関心が高まっている。

一方、日本の海運業界関係者には、現状ではリスクの点から北極海航路に慎重論がある。「気象・海象予報の精度が信頼できない」「大型船に対する緊急対応の体制や航路標識・海図の整備が十分でない」「砕氷船による航行支援の料金が不透明」――などの理由だ。

こういった指摘も踏まえて、ロシア政府から北極海航路の開発を委託された国営原子力企業「ロスアトム」は6月24日、午後3時から都内で航路の将来の見通しや最新の情報をテーマに議論する、オンラインでのワークショップを開催する。ロスアトム側からはモスクワ本社の航路開発の責任者などが参加。日本側からは、鈴木俊一衆議院議員(北極のフロンティアを考える議員連盟会長)、国土交通省の久保麻紀子・総合政策局海洋政策課長が出席する。ロシア側がどういったプランを打ち出すか、注目されそうだ。ワークショップへの参加は下記のURLから登録できる。

https://rosatomwebinars.com/

【記者通信4月21日】40年超原発が運転再開へ 福井県議会が容認の意向


稼働が40年を超える高浜原発1、2号機、美浜3号機が運転を再開する見通しが高まっている。4月21日に開かれた福井県議会の全員協議会で、これまで難色を示していた最大会派の県会自民党が運転を容認する意向を示した。稼働すれば初の40年超運転になる。

福井県の杉本達治知事は、40年超運転の前提とした使用済み核燃料中間貯蔵施設の県外立地について、関西電力が電力業界が共同利用案を表明した青森県むつ市の貯蔵施設を含めて検討を進めるとしたことを評価。2月の県議会定例会で、40年超運転について議論を進めるよう要請していた。

しかし、むつ市の宮下宗一郎市長が共同利用案を認めていないことから、自民党県議の一部が反発。仲倉典克県議(現県会自民党会長)は知事に、「(40年超運転の)前提を満たしことを撤回してほしい」と要求。知事は40年超運転と中間貯蔵を切り離して議論することを求めていたが、2月定例会では結論が出なかった。

実現すれば初の40年超運転となる高浜原発1、2号機

その後、知事は国から地域振興策などの報告を得て、県議会議長に議論の再開を要請。県議会は関電・国の担当者を呼び全員協議会を開き、21日は知事が出席。仲倉県議は知事に対して、原子力政策について国の覚悟を経産相に問いただしてほしいと求め、「(覚悟を聞いた上での)知事の判断を県会自民党は尊重する」と述べた。県の同意が運転再開の最後のステップとなっていたため、県議会が了解することで稼働の障壁はなくなる。

ただ、高浜1・2号機は今年6月9日、美浜3号機は10月25日に特定重大事故等対処施設(特重)の設置期限を迎える。工事がそれまでに終わる見通しはなく、運転再開は早くても夏から秋になるもようだ。

【論考/4月13日】トリチウムは増えているか 海洋放出を巡る誤解


政府は、福島第一原発サイトにたまり続けるトリチウム水を、今後30年ほどかけて海洋放出することを決定した。これに関して、今も発電所ではトリチウムは増え続けていると国民の誤解を招く報道がある。齊藤正樹東工大名誉教授は、「トリチウムは増えておらず、むしろ自然に減っている」と指摘する。

日本の代表的なマスメディアが、2021年4月9日(電子版)、「東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む水の処分方法について、政府は来週13日にも関係閣僚会議を開き、海への放出を決定する方針を固めたことが分かりました」とトリチウム水の海洋放出について報道した。

この記事を読んだ時、筆者は「一般の国民は発電所のトリチウムは、今も増え続けていると思うのでは」と心配した。この報道は誤解を招く恐れがある。発電所のトリチウムは増えていない。

10年前の東日本大震災で核分裂反応が停止した時点から、一個のトリチウム原子すら敷地内で生まれていない。理由は、トリチウムが生まれるには中性子が必要であり、発電所内での中性子は核分裂反応で発生する。地震で原子炉の核分裂反応が自動的に停止した後は、中性子が存在しないためだ。

むしろ、自然崩壊(トリチウムの場合は半減期が約12.3年)で、事故後10年経過している現在では、核分裂反応が停止した時点での発電所内のトリチウムの総量から、約半分近くまで自然に減っている。事故後50年経つと、さらに約数%程度まで自然に減少する。

発電所で増え続けているのは、「水」だ。地下水(雨水が主な由来)が、原子炉建屋内に流入し、燃料デブリを冷却した汚染水の量を増やしている。地下水の建屋への流入を防ぐ種々の対策がされた後は、流入する地下水の量は大幅に減ってはいるが、それでも流入は続いているので汚染水の量は増えている。

処理水は増えているが、事故発生時からトリチウム自体は増えていない

この汚染水は、多核種除去設備(ALPS)などにより放射性物質を除去した処理水(除去が困難なトリチウムを含むため通称「トリチウム水」といわれている)として、発電所内のタンクに貯めているが、増え続けている。保管するタンクを増設するため、土地の造成やタンクの並べ方の工夫などがおこなわれているが、2022年夏頃にはタンクが満杯になる見通しである。そのため、政府は海に放出することを決定する方針を固めたのだ。

「トリチウムは増えている」と一般の国民が誤解することは、海洋放出を行う際、風評被害を拡大させかねない。マスメディアには常に科学的根拠に基づいて、国民の誤解を招かない情報発信を行うことを希望したい。

齊藤正樹

さいとう・まさき 1972年大阪大学工学部卒。2008年東工大グローバル原子力安全・セキュリティ教育院院長。内閣府原子力安全委員会専門委員、内閣官房参与など多くの公職を歴任。

【記者通信/3月26日】柏崎刈羽原発の不祥事 語られることのない原因


東京電力HDの経営再建に不可欠な柏崎刈羽原発の再稼働。中央制御室への不正入室、核物質防護の不備と相次いで不祥事が発覚し、原子力規制委員会による処分を踏まえて、小早川智明社長は花角英世新潟県知事に謝罪した。県側の不信感は強く、再稼働は見通しが立っていない。福島第一原発事故の猛省から意識・業務改革を進めながら、なぜ――。

ある原子力専門家は、増加した業務量と、求められる業務に東電が対応しきれなかったことが、不祥事の背景にあるのではと指摘する。

規制委による新規制基準により、新たにシビアアクシデント・テロ対策が求められるなど、再稼働に向けて現場の業務量は著しく増加した。一方、多くの経験豊富な社員が退社。それらを補う採用活動を続けているが、東電ブランドの低下で優秀な人材が集まらず、また人材育成にはかなりの時間がかかる。再稼働に不可欠な業務をこなすのに十分な体制だったのか、専門家は疑問視する。

再稼働を最優先の経営課題にする中、シビアアクシデント対策には最大限、力を入れてきた。一方、想定を越える津波が念頭にありながら、福島では対策を打たなかったように、核物質防護については、その緩みがどんな結果を招きかねないか、想像力の欠如と意識の甘さがあったといえる。それも、かつてのように発電所のあらゆる部門に精通し、注意を欠かさないベテラン職員が揃っていれば防げただろう。

専門家は東電の現状をこう例える。「十分な高度で飛びたい飛行機の推力が低下。同時に今まで平地の上や海上を飛んでいたが、地形が不明な山脈の上を飛ばなければならない状況」。

東電に限らず、福島事故後、原子力業界に優秀な学生などが集まらなくなったことが深刻な課題となっている。原子力業界にとって、柏崎刈羽は他人事ではないかもしれない。

東電ブランドの低下で優秀な人材が集まらなくなった(柏崎刈羽原発)

【論考/3月22日】バイデン政権の中東政策 サウジへの対応に二面性


中東の地政学に変化の兆しが出ている。UAEとバーレーンがイスラエルと国交を結ぶ中、米バイデン政権はイランとの関係修復を模索。帝京平成大学の須藤繁教授は、サウジアラビアとイスラエルとの関係も要注目だと指摘する。

政権発足から1カ月半、米バイデン政権の外交政策が動き出した。就任直後の演説は、同盟国との関係再構築を重視し、前政権の米国第一主義からの転換を鮮明に打ち出すものであった。

外交政策の基本方針が、2月下旬から徐々に具体的に展開され、3月2日には初めて対ロ制裁に踏み切り、人権問題の重視と欧州との連携を明らかにした。翌3日には中国に対する当面の外交、安全保障分野の基本戦略を公表したが、新政権の対中国政策は、トランプ政権と同様厳しいものになることを窺わせる。

政策の軸はイラン包囲網強化

こうした外交基本政策の中で対中東政策の要素を、対イラン、対サウジアラビア政策の点からみていくと、イランに対しては2018年5月にトランプ政権が離脱した核合意への復帰が軸となる。米国の離脱後、19年5月イランは核合意を破る核兵器開発に着手し、本年1月には短期間で核兵器に必要な濃縮度90%レペルに引き上げられる20%レベルへの核濃縮を始めた。

バイデン政権はEUを仲介させる条件でイランとの対話を用意することを表明した。米国は6月のイラン大統領選挙で保守強硬派の勝利を阻止したい考えであり、その点では対イラン経済制裁を解除してビジネス関係を再開したいEU諸国と思惑は一致している。

サウジに関しては、2月26日、18年10月にトルコで起きたカショギ記者殺害事件に関し、米国家情報長官室が、「同事件をムハンマド皇太子(MBS)が承認した」と結論づけた調査報告書を公表した。同事件の報告書のこの時期の発表は、バイデン政権の発足に関連すると考えるのが自然である。

大統領は報告書の発表に際し、「人権侵害について責任を問う」と発言し、米政府も事件に関与したサウジの元高官らを制裁対象に指定した。

報告書公表後、ブリンケン米国務長官は、国外の反政府活動に対する深刻な妨害行動に直接関与した者に渡航制限を課し、さらに米財務省は、MBSの側近で事件に関わった元情報機関高官や王室警備隊の精鋭部隊などを、資産凍結を含む制裁対象に指定した。こうした一連の動きの中で、報告書の発表を行う前に、25日バイデン大統領とサルマーン国王が電話で十分な協議を行ったという報道は重要である。

この数年、外交の表舞台に立ってきたMBSでなく、国王本人を協議したことは、新政権としてサウジとの関係を維持しつつも、同国の人権侵害を非難し責任を取らせるとの公約を実現しなければならないからである。新政権は、人権侵害の懸念から同国への武器売買を中止するほか、将来的な武器供与を防衛的な武器に限定することなどを検討せねばならない。

イスラエルの意中の国

ところで、昨年9月15日、UAEとバハレーンとイスラエルはホワイトハウスで国交を正常化させる合意文書に署名した。イスラエルは国内の先端企業への湾岸諸国の潤沢なオイルマネーの流入を期待しているが、その中で、意中の湾岸産油国はサウジであろう。同国との経済面の連携はイラン抑止という安全保障上の共通利益をさらに強固にする。

イスラエル政府が数年前から取り組んでいる平和鉄道は、イスラエル北西部ハイファからヨルダン、サウジの首都リヤドを経由して、オマーンのマスカットを結ぶ計画である。また、イスラエルには湾岸産油国から原油パイプラインを敷設する計画もある。

昨年三国の国交正常化を受け、サウジを含む他の湾岸諸国がどのような動きを見せるかは予断を許さないが、大きな枠組みとしては、大方の湾岸諸国とイスラエルは、いずれもイランと対立しており、一連の国交正常化は安全保障面で中東地域に新たな地政学の要素を与えている。


バイデン大統領はサルマーン国王と電話会談を行った
AFP=時事

一方、サウジ、UAE、バハレーン、エジプトは、1月5日GCC首脳会議の場でカタールとの断交を解消した。本措置は湾岸諸国を再度結束させてイラン包囲網を強めたい米国の意向を反映する。

これらの要素を踏まえると、サウジとイスラエルの国交樹立に関しては、米国がそれを期待するならば、鍵を握るのはサウジ側の対応になるだろう。その中で、サウジの動きには、サルマーン国王の指導力がキーポイントを握ると考える。

1935年生まれで、既に85歳になったサルマーン国王と1985年生まれの二世代若いMBSの治世を考えた場合、MBSにイスラエルとの国交樹立という難題を残さず、現国王の裁量で新たな路線を確立する方が、王国の安定性は大きく高まると評価される。

MBSは、17年6月サルマーン国王の勅命による前皇太子の解任を受けて皇太子に昇格し、王位継承者となった経緯がある。MBSに安定路線を継承させるという判断をサウジの長老が行うとすれば、中東地政学の枠組みは根底から変化し、域内の安定性を大きく高めることになるのだが。

帝京平成大学 教授 須藤繁

1973年中大法学部卒法律学科卒、石油連盟、三菱総合研究所、国際開発センターを経て、2011年から現職。専門は石油産業論。

【論考/3月11日】今冬の電力危機 停電なら責任は誰に⁉


今冬、日本の電力市場を襲った需給ひっ迫。旧一般電気事業者の「善意」によって何とか安定供給を維持できたものの、もう旧一電が安定供給を担う法的な責任はない」と穴山教授は指摘する

2021年初の電力需給逼迫(ひっぱく)と市場価格高騰は、各種メディアで盛んに取り上げられた。需給逼迫の要因として、厳冬による想定以上の需要発生、悪天候による太陽光発電の出力減、国際的な市況や運航遅延などに起因するLNG在庫不足、火力発電の計画外停止の発生、原子力稼働停滞の継続などが指摘されている。

昔から「電気は天気商売」ともいわれるように、電力需要は天候・気温の影響を大きく受ける。1月8日に全国10エリアのうち7エリアで厳寒想定需要を上回っていることからも、安定供給達成のための最善の努力が全国的に必要であった状況がうかがえる。変動性電源である太陽光発電の割合が増えていることは昨日今日の現象ではないから、国内外で各種のトラブルなどが重なって生じていたことなどが遠因となって今回の事象を招いた、すなわち自然災害などと同様の偶発的事象だとする見方にも一理ある。

今般の事象の検証や対処については、たとえば2月17日に電力・ガス基本政策小委員会で資源エネルギー庁が提示した方向性(kWh確保体制構築、広域的運用、供給力確保の在り方、電源ポートフォリオ)が出されている。また2月3日の内閣府「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」に4氏連名の提言などが出されており、電気という財の性質から生じる市場の不完全性に対して、各種市場の活用を含めていかに対処していくべきかが改めて問われる状況にある。2月8日付の日本経済新聞社説にも、サーキットブレーカーのような仕組みを含めて価格急騰時の電力市場の整備を急ぐべきとの主張がある。

経産大臣命令も実効性は不明

今後これらの検証・検討が進むだろうが、本稿では今回のような需給逼迫に係る責任の所在について述べてみたい。

小売事業者には、自社需要の的確な想定や供給能力の確保、金銭面では取引事業者の信用リスクや価格変動リスクなどへの備えなどが求められるが、規制・ルールを遵守する責任は問えても、一義的には私企業として収益を上げるなどの経営責任以上の社会的責任は負いきれない。例えば電気事業法第2条の12に需要応諾に必要な供給能力確保等の措置を経済産業大臣が命令できる規定があるが、絶対的な供給力不足時にどこまで実効性を持ち得るかは定かではない。

発電事業者も、やはり経済的動機に基づく経営責任が基本となり、予め規定された制度・ルールの範囲でその責務を完遂する責任(例えば同27条の28の供給約束分の発電義務など)はあるものの、本来は規制・ルールや契約締結上求められている義務の遂行以上に問われる責任はなく、「緊急時には、経済的負担も顧みず、考え得る対策は全て打て」などと言われるべき筋もない。事業者は、電気通信事業における「ベストエフォート」と同様、トラブルなどの発生時には対処可能な範囲で最善努力を尽くすのみである。

一般送配電事業者は、その供給区域の託送供給、電力量調整供給、最終保証供給などを正当な理由がなければ拒んではならない(同第17条各項)。しかしこれらの供給応諾義務の遂行の前提として、電気の品質維持が達成されている必要がある。このため、電圧及び周波数の値を一定の値に維持する義務を負う(同第26条)のだが、垂直一貫体制で各種の手段を自ら持ち得た旧一般電気事業者の送配電部門とは異なり、その遂行には別途制度的な担保や契約行為などが必要となる。

震災・事故後の一連の規制改革で規制当局の役人が事務局長を務めるようになった広域的運営推進機関は、需給の監視や需給改善のための指示(同第28条の40、44)ができるが、今般のように全国的に厳しい状況にある中では対処策も限られ、万が一の供給支障発生時には、あれこれ机上で指示するだけでは本質的な責任までは負いきれまい。

他方、主管官庁の経済産業省(大臣)、エネ庁は、市場・制度の整備に権限を有するが、行政の無謬性の慣例からも、また実際問題として生じた事象との因果性が検証困難であることからも、制度設計の責任は論じられないだろう。ただし経産大臣には、電気事業者の供給計画への変更勧告や命令(同第29条5、6)や、災害対応時の供給命令等(同第31条各項)の権限がある。もし今般の事象で大規模な停電などが発生していた場合は、不作為の責が問われたかもしれない。

善意に頼ることはできない

縷々(るる)述べてきたように、現行制度の下では、偶発的な外的事象が生じた際に、各プレイヤーに対して、それぞれに課された規制・ルール以上の責任を問うわけにはいかないし、また善意に頼った努力を期待することも適当ではない。旧一般電気事業者が担っていたような特定の事業者が一切の安定供給責任を負うという仕組みはもはやないのだから。

仮に今後、こうした需給逼迫が大規模な供給支障につながることがあったとしても、電気事業者の経営陣がフラッシュの前で頭を下げ、果ては責任を取って辞任するという構図は過去のものとなっていよう。その際、世間は果たしてどう溜飲を下げればよいだろうか。無理やり犯人捜しをしてみても詮無いことである。

穴山悌三 長野県立大学 グローバルマネジメント学部 教授

1987年東大経済学部卒、東京電力入社。96年東大大学院経済学研究科修士課程修了。2019年から現職。専門は公益事業論、規制の経済学、エネルギー経済、産業組織論。

『鬼滅の刃』も焼け石に水 苦境「朝日」がコロナで混乱


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

漫画『鬼滅の刃』(集英社)の人気がすさまじい。菅義偉首相も国会で、「全集中の呼吸で答弁させていただく」と登場人物のセリフを口にしたほどだ。


読売12月5日「『鬼滅』最終巻、無限の感動」は、前日に発売された最終23巻について「全国各地の書店で多くのファンが列を作った」と伝えている。漫画にあやかって、4日の新聞も売れたらしい。記事に「集英社は読売、朝日、毎日、産経、日経の全国紙5紙の4日朝刊にそれぞれ違う主要人物の全面広告を掲載。東京都内のコンビニでは、5紙をまとめ買いする客や売り切れる店も目立った」とある。


広告は各紙とも計4ページ。夕刊がない産経を除く4紙は3日夕刊にも全面広告1ページが載った。大盤振る舞いである。部数と広告の減少で新聞の経営は厳しい。臨時広告収入は「干天の慈雨」といえよう。


新聞の苦境を伝えるのが、同1日朝日「朝日新聞社中間決算、9年ぶり赤字」である。「売上高が前年同期比22.5%減の1390億9000万円」だったという。翌2日共同「朝日新聞社300人希望退職検討」も残念な事態だ。


そうした社内の混乱が影響しているのかどうか、新型コロナウイルスを巡る同3日朝日「ワクチン無料、改正法成立、接種は『努力義務』」は、いただけない。「努力義務」に重要な前提条件があることが書かれていない。


同日毎日「改正予防接種法成立、ワクチン費用、国が負担」は対照的だ。「(ワクチンの)有効性や安全性が十分に明らかでなければ接種義務を適用しない」と改正法にある条件を明記している。「開発が先行するワクチンは人工遺伝子を使うなど新技術を活用しており、予期せぬ安全性の問題が生じる懸念」があるからだという。


同日読売「ワクチン接種、国が全額負担、関連法成立」も、「ワクチンの有効性や安全性が十分確認できる場合には、国民には原則として、接種する努力義務が生じる」と丁寧に説明している。


同日朝日は、関連記事「英、ワクチン承認、ファイザー製、来週から接種」で、「(英政府は)接種は義務化しない方針」と強調する。両方を読むと、日本政府は強権的と誤認されかねない。


同じ朝日の子宮頸がんワクチンを巡る報道を思い出す。

子宮頸がんは30歳代後半の女性に多い。日本では毎年、約1万人が罹患し、約3000人が亡くなる。ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が主要因とされ、欧米先進国を中心に、HPV感染を防ぐワクチンの接種が男性にまで拡大した。日本では接種率が極度に低い状態にとどまっている。


深刻な副作用があるワクチンとの印象が広がったためだ。
帝京大の研究グループが一連の新聞報道を検証して原因を探り、2016年、米感染症学会の専門誌に論文を発表した。


契機は13年3月8日の朝日記事だったという。「ワクチンを接種した少女に歩行障害や計算障害が生じている」と報じ、その後も類似する報道が続いた。政府は約3カ月後、このワクチンの積極的勧奨の中止に追い込まれた。


脳には多様な機能がある。計算機能に特異的な副作用は起き得るのか。ほかのワクチンで例はなく、接種との因果関係は疑問視されている。そのほかの副作用報道も医学的には裏付けられていない。


この間も、ウイルスは跋扈し命が失われている。新型コロナで同じ轍を踏む事態は避けたい。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

使用済み燃料の貯蔵問題 業界挙げてへ戦略転換


電事連が共同利用を検討する中間貯蔵施設

関西電力が頭を痛めている使用済み核燃料の中間貯蔵問題。電気事業連合会が打開策を打ち出した。

2020年12月17日、池辺和広電事連会長は梶山弘志経済産業相と面談。青森県むつ市の中間貯蔵施設「リサイクル備蓄センター」を電力各社が共同利用する検討を行う考えを報告した。梶山経産相も協力の意向を述べ、翌18日に清水成信電事連副会長と共に小澤典明首席エネルギー・地域政策統括調整官が青森県、むつ市を訪れ、市では宮下宗一郎市長に説明を行った。


福井県は関電に対して、西川一誠前知事の時から中間貯蔵施設の県外立地を主張。候補地を示すよう要請していた。19年に就任した杉本達治知事も西川氏の方針を継承。運転開始から40年を超える関電の原発の再稼働の条件として、20年内に県外候補地を提示するよう求めた。
関電は候補として以前からむつ市の備蓄センターに注目。だが18年に計画案が浮上すると宮下市長が強く反発、断念した経緯がある。18日の面談でも清水副会長らに対して、市長は「むつ市は核のゴミ捨て場ではない」と不快感をあらわにした。


共同利用は、関電以外の電力会社にもメリットがある。県・市への案の提示について、業界は「国の介在を求めた」(業界関係者)という。備蓄センター運営会社に出資する東京電力、日本原電以外の使用済み燃料搬入に難色を示す宮下市長だが、以前、「国策への協力はやぶさかではない」と述べたこともある。国が再処理事業など核燃料サイクルの実施を約束することで、「時間はかかるが、市が受け入れる可能性は高い」(同)との見方がある。

【記者通信/12月18日】関電がカーボンニュートラル宣言 中間貯蔵は「地元理解が前提」


関西電力の森本孝社長が18日、電気事業連合会で記者会見を行った。記者の質問は、前日に明らかになった中間貯蔵施設(青森県むつ市)の共同利用案に集中。森本氏は「あくまで(むつ市の)地元の理解が前提」と繰り返し、時間をかけ理解を求めていく考えを明らかにした。年内に県外候補地の提示を40年超原発再稼働の条件とする福井県には、共同利用案の検討を始めたことを説明し、理解を求めるもよう。また会見で森本氏は、2050年までに温室効果ガス排出をなくす方針を表明した。電事連も同日、電力各社の社長を委員とする「50年カーボンニュートラル実現推進委員会」を設置。業界を挙げてカーボンニュートラルを目指す方針を決めている。

【記者通信/12月18日】6選の品田刈羽村長「動かすな」の理屈が分からない


新潟県刈羽村の村長選で6期目の当選を果たした品田宏夫氏。自治体首長として、柏崎刈羽原発を間近に見続けて20年。「エネルギー安定供給に原発は欠かせない」との信念に変わりはない。2050年カーボンニュートラルに向けて、「主力電源」としてもてはやされる再エネには、「十分な技術が今はないし、今後、できるかも分からない」と眉に唾をつける。一方、柏崎刈羽原発の再稼働については、地元同意がハードルになるが、「国が安全性を確認して、民間企業が保有する設備を(住民投票などで)『動かすな』という理屈が分からない」。原発立地自治体の首長として、「エネルギー供給は自らが努力して行うもの。他力本願ではいけない」と準国産エネルギーである原子力の重要性を説き続けている。それは、「自助」の精神を忘れつつある日本人への警鐘でもある。

【記者通信/12月8日】大飯原発の許可取り消し 電力会社に増す疑心暗鬼


日本では、憲法で裁判官は「良心にしたがい独立してその職権」を行うことができる。したがって、もし裁判官が「原発事故は二度と起こしてはならず、それには全ての原発をとめなければならない」と確信していれば、規制を都合よく解釈することなどで、運転を止めることができる。大飯原発の設置許可を取り消した判決は、明らかに無理があり、おそらく上級審で覆されるだろう。しかし、「いつ司法判断で止まるか分からない」という不信感を、事業者は今後も持ち続けなければならないことを再認識させられた。「本音では、原発の運営から手を引きたい」。電力会社からは、こんな声が増えてくるだろう。それがこの国の将来にとって良いことか――。裁判官はどこまで考えているのだろうか。

エネルギー産業が持続可能な開発に果たす役割は 国際会議で専門家が議論


エネルギー産業が持続可能な開発に果たす役割は――。12月1日から2日にかけて、ロシア国営企業のロスアトム、ロシア国立研究大学経済高等学院、フォーブス誌などの主催により、オンラインによる「グローバルインパクト会議」が開かれる。テーマを「安定的な経済成長に向けた人間を中心にした方策」とし、2日間で60人以上のさまざまな分野の著名な専門家らが議論を行う。生活用品の世界的企業「ユニリーバ―」の前CEO、ポールマン氏がキーノートースピーカーを務め、経済協力開発機構/原子力局(OECD/NEA)のマグウッド事務局長らが講演を行う。下記のHRで参加登録ができる(無料)。 https://impactconference.global/.

英政界に広がる「嫌中国」 原発計画に大きく影響か


日立製作所は9月16日、英国での原発の建設からの撤退を決めた。採算のめどが立たないことから既に昨年、計画凍結を発表していたが、「もう少し頑張れなかったか」との指摘が出ている。

というのも英国で今後、建設される原発に中国企業が出資などで大きく関わっており、先行きが危ぶまれているためだ。香港での強権発動や新疆ウイグル自治区での弾圧などを背景に、「エネルギー政策が、圧政をいとわない中国に支配される」との懸念を多くの英政治家が抱くようになった。スミス元保守党首は、「中国への依存について、徹底的な見直しを行うべきだ」と訴えている。

中国広核集団(CGN)は、EDFによるサイズウエルC(EPR2基)、ヒンクリーポイントC(EPR2基)、ブラッドウエルBのプロジェクトに出資。このうちブラッドウエルBは、中国製の第3世代原子炉、華龍1号を採用する予定だ。

仮にCGNが出資の抑制、あるいは退出を余儀なくされた場合、EDFは新たなパートナーが必要になる。すると、日本企業の出番となりそうなのだが。

【メディア放談】目立つ誤報道 日経に業界人がブーイング


【メディア報道座談会】出席者:電力・ガス・石油業界関係者3人

日本経済新聞のエネルギー・環境報道に、間違いや取材不足の記事が目立つ。産業界を中心に日経の影響力は大きいだけに、業界関係者は頭を痛めている。

――六ヶ所再処理工場が原子力規制委員会の審査に事実上「合格」した。関係者の感慨はひとしおだと思うけど、マスコミの論調は厳しかった。

マスコミ 「核燃料サイクルは既に破たん」と断じるメディアが多かった。確かに、再稼働した原発は9基だけで、これから何基動くか分からない。すると、どれだけプルトニウムを消費できるかも分からない。プルトニウムは国内外に既に47tもある。メディアが「これ以上つくってどうするんだ」と考えるのは、当然といえば当然のこと。

電力 もし10年前だったら、「サイクルは意味がない」と書かれたら、電力業界は強く反発していた。だけど、いまは「破たん」と書かれても、「こんなもんかな」くらいにしか思わない。もちろん、メディアにはきちんと説明はする。しかし、批判は批判として受け止めて、六ヶ所工場はまだ膨大な作業が残っているから、とりえず事業を前に進めることに専念するしかない。

――新型コロナ感染拡大の経済失速もあって、石油もガスも市場に溢れている。でも10~20年先、世界のエネルギー需給がどうなっているかは分からない。

マスコミ そう。現にロシアも中国も高速炉開発、核燃サイクルに力を入れている。最近、10年、20年先を見据えた記事をほとんど見ない。温暖化防止がもっと強い潮流になって先進国の火力は全廃かもしれないし、再エネもコストの問題を解決できないかもしれない。やみくもに原子力推進を唱える必要はない。だけど、「保険」として一定の役割を維持するべきだと思う。

電力 大手紙にそんな記事が載ればいいんだけど、期待はしていないよ。

「悪役」扱いの石炭 日経の的外れな記事

――最近、原子力以上に「悪役」扱いされているのが石炭だ。政府は石炭火力の輸出厳格化を決め、梶山弘志経産相は、「非効率なものはフェードアウトさせる」と宣言した。マスコミも大きく取り上げている。

ガス 石炭火力の輸出厳格化は、新聞によって見出しが違っていた。日経は「石炭火力輸出、支援せず」(7月9日朝刊)と見出しを付けた。これは正確じゃない。相手国との協議次第で、最新鋭の超々臨界圧(USC)は輸出する。読売や電気新聞はその点をきちんと見出しで伝えている。日経の的外れぶりが目立った。

石油 日経は最近、おかしな記事が多いね。新型コロナウイルスで政府の無策を追求する連載記事でも、わざわざ「再エネの普及が遅れたため、CO2排出削減でも後れを取っている」との一文を入れる。政府を批判したいのは分かるが、コロナの感染防止とエネルギー政策は関係ないだろ。

マスコミ どうも、原発が動かない分を、再エネで埋めるべきだと本気で考えている気がする。そうだとしたら、経済紙としては、とんでもないとんちんかんだね。

電力 まだある。「NTT、再生エネ本格参入」(6月30日朝刊)もあきらかに取材不足。あたかもNTTが送電線も整備するように読めるが、これは間違い。ポイントは蓄電池の活用と直流送電だけど、それも分かっていない。この記事にはNTT関係者も困惑しているらしい。

マスコミ 経産省は政策を動かすとき、日経と読売の論説クラスを呼んで説明をする。それくらい、この2紙を重視している。ところが最近の日経は記事になると、どこかピントがずれる。経産省も「何でこうなるんだ」と思っているらしく、もっぱら読売に頼っているようだ。

ガス 日経を読んでいると、松尾博文・編集委員の署名記事をよく見るようになった。松尾さんはエネルギー事情をよく理解している。それで間違った内容が掲載された時は、後始末のような記事を書かざるを得なくなっている。

石油 日経のエネルギー・環境の報道で、信頼できるのは松尾さんくらいになったと思うよ。

敦賀の審査で偏った記事 毎日の調査報道に軍配

――ビジネスマンは「日経しか読んでいない」という人が多い。影響力は大きいから、間違った内容の記事が載ると業界としても頭が痛い。

電力 原発関連だと、「敦賀原発、 データ無断修正」(6月29日朝刊)にも首をかしげた。あたかも日本原電が意図的に、自分たちに都合のいいように記述を書き換えたように伝えている。だけど、もし本当にそんなことをしたら、大変な問題になることは普通なら分かる。「原電は信頼できないから、もう審査を打ち切るべきだ」と言わんばかりの内容だった。

マスコミ 敦賀2号機の下の断層について、「専門家である有識者の判断を超える結論が出せるか不透明」と書いていた。しかし、原子力に猛烈な逆風が吹く中、原子力規制委員会ができて、当時の田中俊一委員長らが独断で実績のある学者を排除して「有識者」を集め、法律上の位置付けもあいまいな会合をつくった経緯などには一切触れていない。

電力 同じ敦賀2号機の記事でも毎日の「原発審査、活断層の壁」(7月9日朝刊)はわずかだけど原電の言い分を載せて、中立的な学者のコメントも掲載していた。もちろん原電には厳しい内容だったけれど、しっかり取材していることが分かる記事だった。

ガス 毎日の記者はとにかく忙しいから、自分で調べられないことはよく詳しい人に聞いている。調査報道の記事は日経よりもしっかりしていると思う。

――一度、日経と毎日で記者を交換してみたらいいかもしれない。

原発運転延長「あいまい戦術」が奏功 鹿児島県知事が背負う重い課題


現職、元職らが立候補し混戦となった鹿児島県知事選で、元経済産業省官僚の塩田康一氏が当選した。塩田氏は選挙期間中、川内原子力発電所の運転延長については触れず、判断によっては電力需給への影響もあり得る。

当選しインタビューを受ける塩田氏

7月12日に投開票された鹿児島県知事選挙では、元経済産業省官僚の塩田康一氏が、2期目を目指した現職の三反園訓氏らを下し、初当選した。事前の情勢調査で劣勢が伝えられていた塩田氏が逆転した背景には、原発政策をはじめ、足腰が定まらなかった三反園県政への不信と、自民党内の分裂があった。ただ、塩田氏は選挙戦で原発政策について「あいまい戦術」に終始。川内原発を抱える九州電力にとっては、「一難去ってまた一難」となりかねない。

「すべての責任は私にある」

12日夜、三反園氏は憔悴しきった表情でこう述べ、深々と頭を下げた。それは、4年前の前回知事選で初当選を決めた直後と、あまりに対照的な姿だった。

「安全性が確保されていない原発を動かすわけにはいかない」

2016年7月、三反園氏は支持者を前にこう声を張り上げていた。この時、三反園氏は地元の反原発団体と川内原発の廃炉に「可能な限り取り組む」などとした合意文書を交わし、候補者を自身に一本化。「鹿児島をチェンジ」とのワンフレーズを武器に、自公推薦の現職で4期目を目指した伊藤祐一郎氏を下していた。

そんな三反園氏は、就任直後、川内原発に厳しい姿勢で臨んだ。

九電に対し8月下旬から9月初旬にかけ2度、川内原発の停止や再点検などを「強く要請」した。新規制基準をクリアした原発を都道府県知事が停止させる法的根拠はない。無理筋のパフォーマンスだが合意を交わした手前、何も行動しないという選択肢はなかった。

三反園氏の「変節」 反原発団体と距離

ただ、このような三反園氏の姿勢は、県議会が開会すると、途端にフェードアウトし始める。

原発停止に伴う電源確保策について三反園氏は「(再生可能エネルギー導入を)少しずつ少しずつ進めることによって…(中略)…原発に頼らない県を作る」などと答弁、急進的な反原発姿勢からは距離を置いた。さらに、自民県議団執行部との非公開会合では「再エネを導入し、少しずつ原発依存度を減らす。自民党と方向性は同じだと思います」と語ったという。

この〝変節〟についてある県政関係者は「民間出身で県庁に基盤を持たない知事が、議会と対立したら何もできない。政治記者だった三反園氏は、それを分かっていた」と振り返る。

その後も、三反園氏は県議会最大勢力の自民県議団への傾斜を強める。一方で、反原発団体からの面会要請に応じないなど距離を置いていった。19年12月に「(政策合意)文書の趣旨、目的は既に達成した」と県議会で答弁し、完全に突き放した。

首長選のセオリーでは、2期目を狙う現職は最強とされる。知事選2連敗は避けたい自民県連内は、ベテランを中心に三反園氏を推薦する意見が強まった。「政策を丸のみする御しやすい知事だ」(関係者)との評価も後押しとなった。

ただ、前回知事選で戦った三反園氏を推すことへの反発は、県連内部に根強かった。関係にヒビが入ったとはいえ反原発派と結託していた過去や、県庁職員への強圧的な態度などを理由に、一部は巻き返しを図ったが、最終的には押し切られた。公明党も「原発を止めてほしいと思う支持者は多い」(同党参院議員)という事情は抱えながらも、自民と歩調を合わせ、福祉政策などの進展を理由に、創価学会の説得に動いた。

自民県連では、公示に先立って反主流派の動きを封じようと、三反園陣営への後援会名簿提出を迫るなど、締め付けを強めた。ただ、結果的に逆効果で、執行部への遠心力を強めるだけだった。

追い打ちをかけるように公示直前の6月21日、地元紙、南日本新聞が、三反園氏について県事業への便宜を示唆し県内首長に集票を依頼していたとの特ダネを放つ。民間団体などが主催した複数の事前公開討論会を「多忙」を理由にことごとく欠席していた態度も相まって、不信感はこの4年間でピークに達した。対する伊藤氏も3期12年の県政に対する批判がついて回った。両氏の県政との決別を訴える塩田氏への追い風は強まっていった。

住民投票実施の可能性 「悪しき前例」にも

選挙戦の主要争点は、新型コロナウイルス感染拡大への対応や経済対策だった。各陣営は原発について、公約には記すものの、街頭演説などでは、ほとんど触れることがなかった。三反園氏の出陣式で、ある財界幹部が自身を脱原発派だと強調した上で「(川内原発1号機が運転期限を迎える)3年後に民意を問えばいい」と語ったことは例外的だったが、その後にマイクを握った三反園氏自身が原発政策に言及することはなかった。

伊藤氏の公約では、川内原発の運転延長容認を明確に掲げたが、なぜか選挙戦中盤、立憲民主党県連から推薦を受けた。同党は18年、原発の即時停廃止をうたう「原発ゼロ基本法案」の提出を主導し、県連会長の川内博史衆院議員も立案に尽力した。こと原発に関しては、この推薦劇はちぐはぐさが目立つ対応だった。

当選した塩田氏も、「延長を認めるとも、認めないとも言っていない」と、どっちつかずの発言に終始する。公約では川内原発の安全性を検証する専門委員会のメンバー見直しや、運転延長に関する県民投票の可能性に触れる。陣営幹部は「幅広い支持を集める上で、原発政策はあいまいにする方がよい」と打ち明ける。ある業界関係者は塩田氏の姿勢について、「運転期限問題は分かりきっていた話で、選挙で堂々と主張すればよかった。非常に無責任だ。住民投票では鹿児島が沖縄のように二分されかねない」と批判する。

そもそも、再稼働済み原発の運転延長は「一般論として地元の理解は必要」(資源エネルギー庁幹部)だが、九電と県などが結ぶ安全協定上、明文規定はない。石炭火力の休廃止が見込まれる中、川内原発延長問題で塩田氏がハンドリングを誤れば、九州の電力需給への負の影響はもちろん、全国的な「悪しき前例」になりかねない。