【記者通信/4月19日】太陽光発電の調整力費用 送配電会社の重い負担に


 大手電力の送配電会社(一般送配電事業者)は、天候悪化などによる予測困難な太陽光発電の出力低下に備えて、必要な電源を調達している。一部の送配電会社にとって、この負担額がかなりの高額になり、見直しの動きが進んでいる。

 太陽光の出力が想定以下になった場合を考慮して、送配電会社は2021年4月に発足した需給調整市場から、三次調整力②としてΔ㎾を調達している。太陽光の出力の予想や、出力低下でインバランスが生じた場合に備える費用の負担は、本来ならば、FIT(固定価格買い取り制度)で発電事業を行う事業者が負担すべきものだ。しかしFIT特例制度により、ほとんどのケースで、送配電会社が需給が行われる前日に太陽光の発電計画を作成し、またΔ㎾の調達を行っている。

 21年度、中部電力パワーグリッド(PG)は三次調整力②の調達に約340億円、関西電力送配電は約228億円を費やした。国はFIT交付金として、調達費用の一部を補てんする。だが、その額は中部電PGは19億5000万円、関電送配電は14億9000万円にとどまる。21年度に中部電PGは約320億円、関電送配電は約213億円、それぞれ持ち出しを行ったことになる。

太陽光の発電が想定以下だった場合、送配電会社が調整力を調達する

 

調達費用を大きく下回る国の交付金額

 なぜ、FIT交付金の額は実費を大きく下回るのか――。交付金の額は前年度に決め、21年度分は20年12月の資源エネルギー庁の有識者会合で議論され決まった。まず理由として、初の制度であったため、調整力の確保量を簡易な手法(*)で算出したことがある。

 中部電PGの場合、21年度の調達必要量を29億3000万Δ㎾時と試算。さらに削減に取り組むよう補正処理され、21億9000万Δ㎾時に減らされた(21年度実績は36億4000万Δ㎾時)。調達単価も、予想される卸電力市場の価格と限界費用との差額の逸失利益だけが織り込まれ、㎾時当たり0.89円に抑えられている(同実績は9.34円)。

 交付金額については見直しが行われている。しかし、今年2月の有識者会合で決まった22年度の確保量の考え方は、過去4年間(17~20年度)の最小確保率(Δ㎾÷FIT設備量)を採用するというもの。中部電PGは18年度(3.44%)が適用され、調達必要量は29億9000万Δ㎾時とされた。調達単価は必要費用などが加わり、Δ㎾時当たり6円になったが、調達必要額は181億9000万円にとどまることになる。

 これでは、中部電PGが22年度も21年度と同等の調達費用を負担すると、依然、約160億円の持ち出しとなる。

 国は、送配電会社に調整力の調達量を減らすインセンティブが働く仕組みが必要と考えている。一方、送配電会社は太陽光の出力予測の精度を上げるよう取り組みを行いながら、インセンティブの設定が送配電会社の努力を超えるものになっていないか、その都度、確認が必要と主張している。

 調達費は本来FIT事業者が負担すべきものだ。送配電会社の過大な負担は筋違いであり、制度の見直しが求められている。

*エリア全体の残余需要の予測誤差3σ(σは標準偏差)から、送配電会社が常時確保する電源の残余需要の予測誤差3σを差し引く。

 

【論考/1月21日】EV界で消えゆく「チャデモ」イノベーションで出遅れる日本


欧米から日本の急速充電規格「チャデモ」が急速に姿を消している。EVの走行距離の長距離化、バッテリー搭載量増加に対する高出力化に遅れたことが主な理由。欧州規格のコンボ(CCS)が次々と高出力化する中で、技術的に劣勢に立たされていた。EV本格普及を前に、日本側に残されている時間は少ない。

 2021年12月にトヨタ自動車が16車種の電気自動車(BEV)を一挙にお披露目した。また30年までに30車種のBEVで、年間350万台の販売を目指すとした。発表会では5車種が並んでいたが、幕が開くと後ろに11車種が控えているという演出付きであった。しかし「仮名手本忠臣蔵」のセリフのごとく「遅かりし由良助」とCHAdeMO(チャデモ)の関係者は思ったに違いない。

 最初の量販型EVである三菱i-MiEVが発売されたのが09年7月、そして急速充電規格のフォーラムであるチャデモ協議会が設立されたのが10年3月であった。そして日産リーフが発売されたのが10年12月であり、ここからチャデモ(日本の急速充電規格)が動き出した。しかし12年に欧州規格のCCS(Combined Charging System、通称コンボ)が発表され、公正取引委員会の区別を使えば、チャデモ協議会は、他の企業連合との規格間競争を想定していないフォーラムから、競争を前提とするコンソーシアムになった。

さらにEU議会は「代替エネルギーインフラ整備促進法案」を14年4月に可決し、公共施設の急速充電規格としてCCSの設置を明記した。チャデモの設置は、当初案では19年1月1日までの移行期間までとされたが、当時のBEVといえばリーフであり、結果的にコンボの設置はチャデモとのマルチポート形式が前提となった。

競争で優位に立ったのは

 ここから規格間競争の焦点は、どの規格が市場競争で優位に立つのかというディファクト・スタンダード(De Facto Standard)を争う競争になった。法律によって定められた規格(デジュール・スタンダード:De Jure Standard)が、市場競争にさらされるというのは不思議な気もするが、雌雄はここから数年のEV開発競争にゆだねられた。

 結果は明らかだった。チャデモ協議会が「世界規模の国際規格」とうたっても、チャデモを採用したEVは実質的にリーフのみであった。次々とさまざまなEVが発売され、21年には顧客が選べるEVは50種を超えた。この状況で10年前に発売された一つの車種が、国際規格を背負うのはあまりに荷が重かった。19年のEVの世界年間販売台数は312万台であったが、リーフは5.5万台、1.8%に過ぎなかった。しかもモデルとしては既にピークを過ぎていた。

チャデモを採用したEVは実質的にリーフのみだった。

 21年9月のEV急速充電器の規格別シェアは、欧州全体ではCCS Type2が47%、チャデモが30%、Teslaのスーパーチャージャーが22%であった。最大の市場であるドイツでは、CCS Type2が62%、チャデモが25%とCCSの半数以下に留まった。アメリカでもチャデモは24.2%とTeslaの55.3%、CCS Type1の31.6%の後塵を拝した1。フランスでは、充電ステーションにはチャデモの設置が義務づけられてきたが、21年4月に設置義務が削除された(「電波新聞」21年5月24日)。

 アメリカの充電設備ネットワークの大手Electrifyもチャデモの利用率がわずか5%であること理由に、22年1月からはチャデモを新たに設置しないとした。新たに設置しないとは、順次姿を消すことを意味する。この中で日産は、新型EVアリアの海外向けはチャデモではなく、CCSを採用した。ホンダは既に海外ではCCSを採用している。

 チャデモの普及の制約要因として、コネクタが二つあることからデザイン的に制約があるとか、欧米人にはこの名称は発音しにくいなどとされてきたが、最大の問題は技術にあった。EVの走行距離の長距離化、バッテリー搭載量増加に対する高出力化に遅れ、CCSが次々と高出力化する中で技術的に劣勢に立たされてきた。しかも高出力化などの技術開発も足踏みが続いた。今後チャデモは中国と共同開発するChaojiに置き換わっていくであろうが、これにはまだまだ時間が掛かる。

 コンセントは世界には大まかな区分でも6~8種類もある。統一できれば便利だが、コンセントは各国が独自に進めてきたのだから、ことさら気にすることはないという声もある。

 必要なのは自ら進める覚悟

 しかしイノベーションに対するマインドは、全く別だ。ここで終わらない。

 テスラ社のイーロン・マスク氏は、急速充電器が不足しているなら自ら設置しようとスーパーチャージャーのネットワークを自ら作り始めた。マスク氏には「鶏が先か卵が先か」など自動車産業の領域的な発想はない、必要なら作る。パワートレインの転換期に必要なものは、結局、自ら進める覚悟があるかどうかだ。

 HVがもたらすイノベーションのジレンマか、チャデモのガラパゴス化か、それとも規制と既得権益に縛られてバハマ化(キューバのバハマがレトロなアメ車の博物館になっている状況)するか。

 チャデモはもともとCHArge de Move、「動きにチャージ」という意味だが、同時に「(充電時間に)茶でも」という意味も込めたと聞く。もうそんな時間は残されていないようだ。

注1.欧州の数字は、ChargeMapの統計を使用して欧州上位18か国の急速充電のコネクタ数から算出。米国は、米国DOEのAlternative Fuels Data Centerから算出したもの。

小嶌正稔 桃山学院大学 経営学部教授

1982年中央大学商学部卒、共同石油(当時)入社。93年青森公立大学助教授、2001年東洋大学経営学部教授、19年から現職。専門は中小企業経営論、石油流通など。

【特集1】激戦で問われた原発・再エネ 業界注目選挙区の現地事情


コロナ禍収束の兆しが見える一方、原油・石炭・天然ガスの高騰が生活や産業を脅かしている。その中で原子力と再エネはどう争われたか。激戦区を訪れた記者が報告する。

【北海道4区】
廃棄物処分と原発再稼働
エネルギーで二つの課題

 公示直前の10月13日、立憲民主党と共産党、社民党、れいわ新選組の野党4党は、北海道内12選挙区のうち9選挙区の候補者を一本化することで合意。「核のごみ」問題で揺れる後志地方を擁する4区もその一つで、共産が候補者を取り下げ、自民党現職の中村裕之氏と立憲新人の大築紅葉氏の一騎打ちの構図となった。

 中村氏は当選すれば4期連続。支持層は盤石に見えるが、複数候補が立ち、野党票が割れた前回とは状況が大きく変わった。自民会派所属の村田憲俊道議会議員は、「岸田内閣で農林水産副大臣に就任し、後志地方の発展にも欠かせない人物。何が何でも当選させなければならない」と、背水の陣で選挙戦に臨む姿勢を見せていた。

 対する大築氏の選挙対策委員会は、慌ただしい動きを見せていた。前議員の本多平直氏が不用意発言によって辞職したのに伴い、出馬表明したのは8月のこと。それからわずか2か月足らずでの選挙戦突入となった。山谷一夫事務局長は、「当初は11月7日投開票を想定していたが、1週間前倒しとなったことは大きい。短期決戦で名前や人柄を周知するのは難しい」と、新人候補にとって厳しい選挙戦になると表情を引き締めた。

 実は、衆議院選挙に先駆けて、4区内ではもう一つの選挙が注目を集めていた。高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定の第一段階に当たる文献調査継続の可否が、争点の一つとされた寿都町長選だ。6期目を目指す現職の片岡春雄氏に、調査の即時撤回を訴える新人の越前谷由樹氏が挑んだ格好だ。一地方の首長を選ぶ選挙だが、その結果は、国が進めようとしている処分地選定の行方を左右しかねない。

 選挙戦の中で中村氏は、「(文献調査について)賛成反対を申し上げる立場にない」と明言を避けた一方、大築氏は「核のゴミは受け入れない」「原発に頼らない電力の確保」と、原発政策そのものに反対の姿勢を明確にした。

 寿都町の文献調査、泊原発の再稼働という二つのエネルギー関連問題を抱える4区。ただ、両陣営とも「一部マスコミが執拗にあおっているが、ほかにも多くの地域課題を抱えている中で、寿都にしても泊にしても、今回の選挙で、それぞれ単体で投票行動を決定づけるものではない」と見ていた。

 自民道連の松浦宗信政務調査会長は、「これまでも、政策集で『ゼロカーボン北海道』を掲げてきたが、他党も同様で政策として大きな違いを出すのは難しい。寿都や泊原発の是非についても有権者に問うほど、議論が進んでいるわけではない」と、争点になり得ない理由を語った。

 一方、立憲にとっても、原発があることで生活が成り立っている人がいる事実からは目を背けられない。面野大輔小樽市議は、「エネルギーや雇用の代替案として、有権者に理解してもらえる政策を用意していかなければならない」と、長期戦の構えを見せた。

 放射性物質の廃棄、原発の再稼働―。4区の有権者による選択の時はまだ先のようだ。

衆院選前の寿都町長選が注目された

【論考/11月1日】原油市場の不安定性高まる 性急な脱炭素に多くの異論   


COP26が始まり、ジョンソン英国首相をはじめ欧州首脳は各国に気候変動対策の強化を求めている。しかし産油国、また国際石油会社は、エネルギー移行の重要性を認識しながらも、性急な移行には違和感を感じている。わが国でも自動車工業会の豊田章男会長が欧州のEV一辺倒の政策に異論を唱えており、各国首脳はそれらの声に耳を傾ける必要がある。

 ガソリン国内価格(レギュラー)は10月18日、7年ぶりに1リットル当たり162円を超えた。価格は6週続けて上昇、歯止めが掛かる様子は見られない。ガソリン価格の値上がりを受けて政府は18日、関係閣僚会議を開き、産油国に増産を働きかけることなどを決めた。

 主要産油国で構成するOPEC(石油輸出国機構)プラスは、10月4日の会合で追加増産を見送っている。11月4日には12月の対応を決めるべく再度会合を持つが、OPECプラスの措置に日本政府の働きかけが効果を持つかは疑問だ。今日エネルギー産品で起きている価格高騰は、コロナ禍の収束に伴う需要増と2010年代後半以後の開発投資の大幅縮小に伴う供給能力増の未達によるところが大きく、産油国の短期対応の実効性は覚束ない。

 価格対策の鍵は、あまりに性急に設定された脱炭素を実現するための時間軸の再設定にあるとすれば、当該議論はOPECプラスでなく、10月31日から英国グラスゴーで開催されたCOP26のアジェンダにふさわしい。

 ジョンソン英国首相は9月22日、国連総会の一般討論演説でCOP26は、「人類にとっての転機になる」と語り、議長国として各国・地域に気候変動対策の強化を求めた。また10月19日、「2050年排出ネットゼロ」実現に向けて、368頁からなる新国家戦略を発表した。

 英国は、昨年11月に30年までにハイブリッド車を含む内燃機関自動車の販売禁止を打ち出した。世界のEVシフトを巡る動きをみると、欧州と中国が先行している。欧州委員会は7月14日、電源構成に占める再エネの割合を30年に65%に引き上げる目標を打ち出し、同時に発表したガソリン車の販売禁止や電気自動車(EV)関連インフラ整備拡大、輸入車を対象とする炭素国境調整措置と合わせ、世界の温暖化政策の先導を目指す。

豊田章男社長は「敵は炭素で内燃機関ではない」と強調する  提供:時事
 


 産業界から挙がる異論

 9月9日の日本自動車工業会記者会見で、豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、欧州などによる内燃機関車を禁止する方針に対して「敵は炭素であり、内燃機関ではない」と反論、「EV一辺倒の潮流にEV以外の選択肢を広げるべきである」と訴えた。会長の発言は、雇用確保の要素もあるが、本質的にはカーボンニュートラル実現にはあらゆる選択肢を残すことが重要であるという訴えである。

 この議論は、産業界では広く共有されるように思う。表明されている産業各界の意見は、最大限の選択肢の確保とエネルギー移行に十分なリードタイムを置く必要があることに集約される。トヨタのフルラインナップ戦略は前者の例であるが、後者の例には、米国エネルギー専門誌が主催したエネルギーインテリジェンスフォーラム(10月4、5日)で表明されたリードタイムの設定に対する意見が挙げられる。

 フォーラムで参加者は、投資不足リスクの増大を認識し、石油・ガス産業への投資継続の必要性を指摘した。参加者は、供給が需要に追い付いていないため、供給不足基調は継続し、市場の不安定性は高まるとの認識を共有した。足元の原油価格は上昇しているが、産油国には将来的に石油・ガスの需要が減少するという懸念があり開発投資を控えざるを得ない。

拙速な移行は投資不足を招く

 フォーラムのパネ参加者は、産油国国営石油会社(NOC)の幹部であれ、国際石油会社(IOC)の幹部であれ、エネルギー産業の当業者である以上、総論としてはエネルギー移行の重要性を認識しつつも、エネルギー移行の速度にはさまざまな違和感を表明した。

 その中で一番の違いは企業グループの幹部は、自社の保有資産の減耗に対応するには一定の開発投資が必要と考えていることである。株主対策からそれを声高に訴えることはできないとしてもだ。

 産業の切り口では、NOCもその一翼を担う。NOCからの参加者の中で、サウジアラムコ最高経営責任者(CEO)のナセル氏は、石油需要が近々ピークを迎え、早晩減少するとの見方を否定し、27年までに同国の産油能力を日量1300万バレルに増強すると発言した。また、イラクは27年までに同800万バレルの生産を実現するとした。アジアのNOC幹部は移行期のエネルギーとして、石炭のガス化を含め、天然ガスとLNGの役割を重視し、現行投資計画を紹介した。

 概して石油産業界の中でNOCはエネルギー移行に消極的で、IOCはより現実的に対応しようとしているという違いはある。だが、当業者がこうした声を挙げ続けることは重要である。

 トヨタ会長が放った欧米自動車産業に対する宣戦布告は、化石燃料の座礁資産化の議論が始まった16年、サウジアラビアの元石油相が言明した「非難されるべきはCO2であり、化石燃料ではない」との言葉と反響し合う。仮に、こうした声を挙げた企業、あるいは産業界がCOP26で化石賞を授与されることがあるとしても、餅屋は餅屋、対応の可能性を当業者に委ねる選択肢は残されるべきである。 


 
須藤繁

帝京平成大学 客員教授

1973年中央大学法学部法律学科卒。石油連盟、三菱総合研究所、国際開発センタ―を経て2011年から帝京平成大学教授。専門は石油産業論

【論考/9月21日】エネルギー転換での幻想 問われるグリーンジョブの量と質


政府は「グリーン成長戦略」において、2030年に870万人がグリーンジョブに従事する見通しを明らかにしている。しかし、根拠は示されておらず、その楽観的な数字は、政策策定の情報基盤を構築する機能が歪まされた印象を抱かせる。脱炭素社会に向けたエネルギー転換で問われるのは、量ではなく質の高い雇用への転換だろう。

内閣官房と9府省庁の連名で「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が6月に示された。その雇用誘発は「新製品・サービスの創出によって生じ得るマイナス影響を考慮」したネットの効果として、2030年に870万人、50年には1800万人とされる。一般に50年の就業者数は5千万人ほどと推計されるため、実に就業者の3分の1がグリーンジョブに従事すると解されるほどに膨大である。

雇用の質の検討に進む英国

雇用転換は世界でも検討が進んでいる。昨年11月、英国政府は「グリーン産業革命のための10カ条計画」として、30年に25万人の雇用創出という計画を示した。英政府は同時期に、200万人の高スキルなグリーンジョブ創出というはるかに野心的な目標も掲げている。「10カ条計画」において算定されたグロスの雇用誘発25万人は、200万人目標の明確化へと向けた第一ステップとして位置付けられる。

政府とは独立した検討のため、英国では、産業界、アカデミア、労働組合、技能教育部門からなるグリーンジョブ・タスクフォースが設置され、本年7月にはその報告書(「Green Jobs Taskforce-Report to Government, Industry and the Skills Sector」)が出版された。

それは英政府の抱く野心的プランの方向性に沿いながらも、具体性を欠く政府目標の残り(175万人の量)をいたずらに積み上げるようなものではなく、質の高いグリーンジョブ創出という雇用転換に向けて求められる15の提言を論じている。

同報告書は、労働時間、給与、雇用契約などの諸条件からみて、現状のグリーンジョブの全てがグッドジョブではないと冷静に分析する。創出される雇用が高い質のジョブとなるためには、産業、就業者、また技能教育部門による人材育成に向けた長期投資が欠かせない。そのための相互の信頼形成とともに、政府にはエネルギー転換の具体的な道筋を提示するように求めている。実現の可否を問うにはだいぶ早いが、英国では建設的な議論が展開され始めている。

英国はグリーンジョブを冷静に分析している

日本政府の「グリーン成長戦略」における雇用誘発量はあまりにも膨大である。細部に関する文書の所在を経済産業省(カーボンニュートラル実行計画企画推進室)へ問い合わせたところ、「公表しないことが決まっている」という。ヒアリングなどに基づく個別企業の情報を出せないことは理解されるが、前提や方法論を非公表とすることの根拠を問えば、「公表する予定はない」と変わった。言い切る素っ気無い対応には疲労の色が感じられた。

グリーンジョブの単純な数量比較では、日本の30年目標値は英国の4.4倍である。IMF(その延長推計値)では同年の実質GDP規模は英国を6割ほど上回ると推計されるから、GDP比でのグリーン雇用創出率では日本は2.7倍大きいと解される。

しかし、実のところこうした日英比較は基準がずれている。英国の計数はグロスであり、ネットでははるかに小さい。日本政府の掲げる870万人というネットの雇用創出は、野心的であることを通り越して、政策策定の情報基盤を構築する機能が大きく歪まされてきた印象すら抱かせる。

異なる条件下の思考実験を

脱炭素へと向けて世界的なエネルギー転換が必要となれば、日本にも応分の負担が要請されよう。国内外の転換に伴う需要創出の一部は日本経済の成長機会となるとしても、広範な産業の競争力への影響を評価し、質の高い雇用転換の実現可能性が問われる。

その分析評価では、いたずらに雇用の量を積み上げる演出ではなく、今の日本経済の構造を把握し、その転換の道筋における諸課題をあぶり出すための問題発見的な役割が期待される。

成長戦略会議の議事要旨には、グリーンとデジタルで設備投資を喚起し、生産性を高め、労働分配率を上昇させるべきとの指摘もされる。しかしグリーン投資によってなぜ生産性が高まるのか、その論理は見えない。

雇用転換では雇用の質が問われるように、資本構造の転換では資本の質が問われる。同量のアウトプット(発電量や鉄鋼生産量など)の生産において、グリーン投資は従来よりも多くの資本を必要とする。それは労働生産性に対して中立的であったとしても、全体的な効率指標である全要素生産性をほぼ確実に毀損させる。競争相手国も同様な転換を迫られない限り、競争力を失う日本産業の労働者が生み出す価値は低下せざるをえない。

質の高いグリーンジョブ創出の成否は、そのジョブが生み出す価値(価値限界生産性)に依存している。グリーンに生産されることの価値が市場で直接・間接に反映されるには、国際的に調和のとれた明示的な炭素排出費用の内部化が求められよう。

依然として実現の難しい国際協調は、質の高い持続的な雇用転換への最大の障害となる。政府に求められることは、「断固たる意思を持って実行」することではなく、異なる条件下での柔軟な思考実験である。今後も条件は変化し、転換の成否はその変化に依存している。

野村浩二

慶應義塾大学産業研究所 教授

1998年慶大院卒。博士(慶大・商学)、96年産研助手、2003年同准教授、17年から現職。ハーバード大ケネディスクールフェロー、日本政策投資銀行設備投資研究所・客員主任研究員、内閣府経済社会総合研究所・客員主任研究官などを歴任。専門は計量経済学・経済統計。

【記者通信/9月18日】「河野首相」に懸念深まる 核燃サイクルに最大の危機


自民党総裁選は、河野太郎規制改革担当相と岸田文雄前政調会長が一歩リードする形で進んでいる。河野氏は脱原発が持論であり、核燃料サイクルを明確に否定。河野氏が選ばれれば、青森県六ケ所村での再処理事業は最大の危機を迎え、それは原発の稼働にも影響を与える。業界関係者は、総裁選の行方を息をひそめて見つめている。

河野氏は9月10日に公表した政策パンフレットで、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」と述べている。もともと確信的な脱原発派であり、総裁選を制して次期首相に就任したら「次期エネルギー基本計画で原発に関する記述が後退しないだろうか」との懸念は電力業界から聞こえていた。

しかし、10日に開いた記者会見では、カーボンニュートラルを達成するために原発の再稼働を容認している。新増設は「現時点で現実的ではない」との考えを示したものの、安全が確認された原発は再稼働することが「現実的だ」と指摘。原発そのものの必要性は示した。

ただ、新増設しなければ原発は「いずれゼロになる」とも述べている。この発言が河野氏の本心を示していそうだ。というのも、翌11日には記者団に対し、核燃料サイクルについて「なるべく早く手じまいすべき」と発言したからだ。

青森県は使用済み燃料の保管を拒否

使用済み核燃料の再処理を止めると、原子力政策は立ちゆかなくなる。青森県は核燃サイクルを続けているからこそ、六ヶ所村に保管してある使用済み燃料を「一時保管」と受け止めているためだ。再処理事業から撤退すると使用済み燃料は「ごみ」と見なされ、県は電力各社に引き取るように迫る。

すると使用済み燃料の保管場所が足りなくなり、原発の運転に大きな支障が出る。ある自民党議員は「ここまで見据えて『いずれゼロになる』と発言しているのだろう」と断言する。

六ヶ所工場は廃炉を余儀なくされるかもしれない

再処理中止で使用済み燃料は「ごみ」に

原発を容認したと受け取れる河野発言を業界はどのように受け止めているのだろうか。大手電力の関係者は「日和見だ」と反発する。もともと脱原発の姿勢を見せていながら、総裁の椅子が見えてくると手のひら返しする河野氏に対し、「主義主張が変わったのなら理由を説明するべき。それもないのに政治家として信頼できるのか」と疑問を呈する。

そもそも、日本は再処理を英仏に委託している。核燃サイクルを推進するのを前提として、両国は使用済み燃料を受け入れてくれるのだ。日本が再処理を止めると宣言すると、引き受けた使用済み燃料は単なる「ごみ」になる。英仏は直ちに引き取るよう日本政府に迫るだろう。

引き受けても日本国内に置き場はない。政府は苦境に立たされる。引き取りを拒否したら外交問題にも発展する。河野氏は外務大臣を経験しているが、それらを理解しているのだろうか。

「大物」幹部を中心に激しい反発も

河野氏のエネルギー政策については自民党内でも懸念の声が上がっている。脱原発を掲げてきたため「河野ではだめだ」との声が聞かれるという。党内には原発リプレース推進の議員連盟などがある。これらの幹部には甘利明氏や細田博之氏といった「大物」が顔を並べる。脱原発を掲げてきた河野氏への幹部らの反発もあり、支援する議員は限られるという見方もある。

また、原発産業は裾野が広く、工事や部品メーカーまで含めた従事者は多い。これらの関係者から反発を招けば「選挙に影響が出てくる」と懸念する国会議員もいる。

衆院選が近いだけに、人気の高い河野氏の支援が広がるかどうかは微妙なところだ。大手メディアが9月9~11日に行った世論調査でが、27%の有権者が次期総裁にふさわしい人物として河野氏を挙げ、岸田氏(14%)や高市早苗氏(7%)を大きく引き離している。自民党関係者が総裁選でどの候補に投じるのか――。業界関係者は疑心暗鬼に駆られている。

【記者通信/8月31日】敦賀原発の審査中断 マスコミ報道に疑問符


原子力規制委員会は8月18日、日本原子力発電の資料書き換え問題で敦賀原発の審査を再び中断した。これを一部のマスコミが取り上げ、朝日新聞は社説(8月29日)で「技術者の教育をはじめ、管理や組織の規律が問われる問題」「存続の是非も含めて会社の今後を改めて検討すべきだ」と、原電が意図的に書き換えを行った可能性に言及し、その体質を厳しく批判している。

しかし、実際はより詳細なデータが得られたので、過去のデータを削除したにすぎず、これらの報道は、書き換え問題について事実に基づいているとは言い難い。原電は規制委側に不備を指摘された業務プロセスの再構築を急ぎ、審査会合の再開を目指している。

 「この状態が改善されるまで審査会合を開ける状況ではない」――。原子力規制委員会の石渡明委員は8月18日の会合で、こう発言した。原電は敦賀原発の敷地内にある断層が地震で動かないことを証明するために掘削調査を行ったのだが、その報告書の一部を書き換えたことに端を発した発言だ。

原子炉建屋真下のD-1断層とK断層

18日の会合で事務局の原子力規制庁は、原電の業務プロセスが適切ではなかったために報告書の書き換えが起きたと指摘。それを受けて規制委は、業務プロセスが信頼性を確保できると確認するまで敦賀原発2号機の審査を行わないと決めた。

敦賀原発の敷地内断層を巡る議論は、規制委が地質などの専門家を集めて開いた有識者会合にさかのぼる。現地調査などを経て、有識者会合は2013年に敦賀敷地内にある「K断層」と呼ばれる断層を「活断層の可能性が否定できない」と指摘。これが地震で動くと、敦賀原発2号機の原子炉建屋真下にあるDー1断層も連動する可能性があるとの見解をまとめた。

原電は2号機原子炉建屋の真下にあるDー1断層とK断層は連動せず、K断層も地震で動かないことを証明するために掘削調査を実施。K断層と原子炉建屋の間に10本の穴を掘って地層の試料を採取した。K断層は「逆断層」と呼ばれる動き方だが、試料を分析すると、K断層と異なる性状を示していた。逆断層の動き方ではなかったのだ。

地層の性状が異なれば地震が起きたときに連動するとは考えられない。そのため原電は、K断層と2号機原子炉建屋の真下にあるD-1断層は関連性がないと結論付けた。

これで規制委側の疑問を払拭できたはずだった。だが、規制委側は審査資料の一つである掘削調査の結果を示した「柱状図」に着目した。20年2月7日の審査会合で、以前に提出された記載内容の一部が書き換えられていたと指摘した。

顕微鏡観察でより詳細なデータを取得

原電が最初に柱状図の資料を規制委側へ提出した際は、掘削時に採取した試料を肉眼で観察し、採取地点ごとの評価結果を記載していた。その後、原電は試料の薄片を顕微鏡でつぶさに観察。性状を分析したところ、より詳細なデータが取れたため、肉眼観察したデータの一部を上書きする形で新たな評価結果を記載した。

掘削調査したところが逆断層でないため、かなり古い年代に形成されたものだろうと判断。「12万年前以降に地震で動いたもの」という活断層の定義から外れる有力な手掛かりを得たことになる。

しかし規制委側は、データの一部を上書きした点を問題視した。同日の審査会合で「記載内容を変更したと知らされていない」と指摘。その主張は「新たな分析結果が分かっても、元データと併記すべき」というものだ。規制委側は原電に、調査会社が作成した元の資料を提出するよう要求。同時に、新聞各紙などマスコミは一斉に原電の「書き換え問題」を報じ始めた。

20年6月4日の審査会合でも、原電は資料の上書きについて説明したが、規制委側の納得は得られなかった。原電側は上書き問題の原因を検討するため、審査に関わっていない社員も加えて総点検作業に着手した。20年10月30日の審査会合には元資料を提出し、点検作業の結果と今後の対応方針も説明。

規制委側は納得して審査の再開を決めたが、柱状図のデータを上書きしたことは原電の業務プロセスに問題があると考えた。そのため、原子力規制庁の検査部門が実施する規制検査で業務プロセスの状況を確認することにした。21年8月18日の会合で規制委は、規制検査で確認する項目を追加。それらの確認が取れてから審査を再開すると決めたのだ。

2号機真下の断層が活動性でないことが明らかになりつつある

  原電に不利な書き換えも

「データを書き換えた」と聞くと、自らの主張に有利となるような記載内容に変更したと思われがちだ。しかし、今回の件で原電が上書きしたのは25箇所のうち、7箇所はどちらかといえば原電に不利となるような変更だった。仮に恣意的な判断が働いたのなら25箇所すべてを自社の主張を裏付けるように書き換えるだろう。原電は、「自分たちに都合のいいような意図的な書き換えはなかった」と繰り返し述べている。

薄片観察で得られたデータの分析結果によると、2号機原子炉建屋の真下にある断層とK断層の関連性がないことが分かる。有識者会合で受けた疑惑も晴れることになる。規制委側に審査を速やかに進める意思があるのなら、記載内容の書き換えにこだわって審査を中断し続けるのは理にかなわない。

8月18日の規制委の審査中断の方針を受けて、原電は、「業務プロセスの構築を確認していただくための準備を早急に進め、早期に審査会合を実施していただけるよう全力で取り組んでいく」とのコメントを発表している。1日も早い審査再開が望まれる。

【記者通信7月30日】原発新増設の記載なし エネ基案に自民議員が反発


経済産業省が7月21日に示したエネルギー基本計画(素案)には、原子力発電所の新増設・リプレースが記載されず、可能な限り原発依存度を低減する方針は引き続き明記された。これに自民党議員の一部が強く反発している。

27日に開かれた電力安定供給議員連盟(会長・細田博之衆議院議員)の会合では、次のように批判が噴出した。

「話にならない。一部の反原発論者に遠慮して、全てのエネルギー計画があいまいになっている。新増設・リプレースに(基本計画で)触れないで、どこで触れるというのか。責任あるエネルギー政策として、勇気を出して打ち出していかなければならない」(大西英男衆院議員)。

「可能な限り原発依存度低減といいながら、2050年を見て『原子力は必要な規模を持続的に活用していく』という。一体どっちなんだとなる。持続的に活用するには、リプレースも含めてしっかり進めなければならない」(宮下一郎衆院議員)。

一方、28日に行われた総合資源エネルギー戦略調査会(会長・額賀福志郎衆院議員)の会合では、福井県など原発立地地域選出議員からエネ基素案に異論が相次いだが、再生可能エネルギーの拡充を唱える議員もおり、素案の扱いについては会長一任となっている。

原発立地地域の議員からは異論が相次いだ

原子力推進の立場の議員からは、エネ基素案について、「2000年代の初頭に太陽光発電は日本製が5割以上あったが、今はゼロ。風力も同じで、テクノロジーはあるが(事業として)成立できない。太陽光や風力を伸ばそうとしているが、おそらく両方とも中国製になる。中国製に頼っていいのか、経済安全保障上の問題になる」(藤末健三参議院議員)との指摘も出ている。エネ基は素案がそのまま認められる見通しだが、エネルギー政策だけでなく産業・外交政策も巻き込んで、党内に長く論争の火種を残しそうだ。

【論考/7月9日】石油需要と排出ネットゼロ IEA2報告の交点はどこに


国際エネルギー機関(IEA)による「50年排出ネットゼロに向けた工程表」が、化石燃料需要が減少していく脱炭素化への道筋を示したと注目されている。一方、IEAは石油需要は2022年までにコロナ禍以前の水準に回復するとも報告している。IEAも、将来のエネルギー需給の姿について、正しい見解を持ち合わせていないようだ。

石油輸出国機構(OPEC)とロシアを中心とする主要産油国でつくる「OPECプラス」は6月1日の閣僚協議で、協調減産規模を7月まで段階的に縮小する既定方針を再確認した。イラン核合意を巡る協議の帰趨が不確定であるが、昨年の大幅需要減の反動で何よりも米中の石油需要が順調に回復していることを受けて、足元の原油相場(WTI)は、2018年8月以来、6月8日に70ドルを超え、7月2日の時点で75ドルを窺っている。

OPECプラスは7月減産量をサウジアラビアの独自減産量を含め日量576万バレルとすることとしており、減産態勢が維持されれば、原油相場は当面堅調で推移するとみられる。

(需要は22年末までに回復)

そうした中で、国際エネルギー機関(IEA)は6月11日に発表した石油市場月報で、今後の石油需要に関し、「世界の需要は22年末までに新型コロナウイルス流行前の水準を回復する」との予測を示した。同報告は21年の世界需要量は前年比日量540万バレル増の9640万バレルと見通されるとした。さらに、22年平均の予測は同310万バレル増の9950万バレル、ただし、四半期別には22年第3四半期に1億バレルの大台に回復するとした。

さて、IEAが5月に発表した「50年排出ネットゼロに向けた工程表」は、さまざまなメディアで大きく取り上げられたが、同レポートの手法はバックキャスティング(あり得べき未来を想定して今何を行うべきかを逆算)であり、その内容は見通しではなく、また実現される可能性は誰も保証するものでない。

国際社会における脱炭素の潮流が既定のものになったにせよ、足元の現状分析はこれまで通り重要である。IEAが3月にまとめた「石油2021」(Oil 2021)は、足元の実勢の積み上げによる分析であり、「2026年に向けた分析と見通し」の副題が付されている。本稿では、「石油2021」における26年までの見通しが「50年までの脱炭素工程表」とどこで交点を持つかを考えてみよう。

報告書は、まず、「世界経済と石油市場は20年に広まった新型コロナウイルスにより引き起こされた石油需要の崩壊から回復しようとしている」とした。次いで「20年に積み増された石油在庫は戦略備蓄を除いてコロナ前の水準に戻りつつあるが、コロナが収束しても石油市場はもはや従来の平常に戻ることはないだろう」としている。その理由は、「コロナ禍は人々に、リモートワークとビジネスと余暇のための移動の減少に代表される行動変容をもたらしたことである。また政策的には脱炭素の勢いを加速させたことも重要である」とした。「石油2021」の主要論点を要約する。

(行動変容がピーク決める

①当局の厳格な政策と国民の行動変容が石油ピークの時期を決める。石油ピークがこれから数年間のうちに到来するためには、強い政治主導と行動変容が推進されねばならない。

②そのような政策と行動変容の一つが、輸送部門における燃料効率改善の加速である。燃料効率の改善が毎年もたらされるならば、26年の需要量は基準ケースを日量90万バレル下回るだろう。

③政府は、リモートワークを増やして自動車の使用減を奨励する。OECD加盟国で週に3日と非加盟国の2日間のリモートワークを導入すれば、世界全体のガソリンとディーゼル消費量は年間日量80万バレル節約することができる。

④それらに加えて、仮に企業がコロナ禍前のレベルから航空機による出張を2分の1に減らすことに決め、そうした風潮が航空機利用者の行動全般で見られるなら、ジェット燃料油の消費量は26年までに日量100万バレル減少され得る。

⑤基準ケースでは、世界全体の電気自動車フリートは26年までに6千万台に達する。政府と民間部門からより充電インフラの改善を含め強い誘導があれば、電気自動車フリートは同年までに9千万台に50%増大する。全体として、ガソリンおよびディーゼル消費量は26年までに日量160万バレル減少させ得る。

⑥しかし、石油需要にピークを打たせるには、それ以上の行動が必要とされる。これには、プラスチックの需要の減少と発電部門における燃料消費を一層削減させる厳しい措置が含まれる。 また燃料税の増額と助成金の撤去は、石油消費の減少の一助となる。

(答えは読者の判断に)

結論的には、「石油2021」は、こうした措置の組み合わせは日量250万バレルの節約をもたらし、これらの政策が全て既定の政策に代替されると、世界の石油消費は日量560万バレル減少し、需要量が19年の水準に戻ることを防ぐことになる、との視点を提示する。

ならば、IEAの中期石油市場見通しの積み上げとバックキャスティングの工程表は、どこで交点を持つのか。IEAのスタンスは、その答えは読者の判断に委ねているように見える。

須藤繁 帝京平成大学 客員教授

1973年中央大学法学部法律学科卒。石油連盟、三菱総合研究所、国際開発センターを経て2011年帝京平成大学教授。専門は石油産業論。

【記者通信/7月2日】日本側関係者も強い関心 北極海航路で日ロ対話


ロシア国営原子力企業「ロスアトム」が主催する北極海航路についてのセミナーが6月24日、都内でオンライン、オフラインの2形式で開催された。

地球温暖化による北極海の氷減少、北極海で産出される石油・天然ガスなどの輸送、また大型原子力砕氷船の就航などロシア側の注力により、欧州から東アジアに至る輸送ルートとして北極海航路に関心が高まっている。

セミナーは、ロシア側が航路開発の展望などについて説明し、日ロ間の対話促進を目的とするもの。ロスアトム北極開発特別代表のウラジミール・パノフ氏、ロスアトムカーゴ代表のアレクサンドル・ネクリュードフ氏など、航路開発に関わる幹部が講演を行った。日本側からは、商船会社、商社、また国土交通省、経済産業省などの関係者約200人が参加。ロシア側の説明の後、質疑応答が行われ、日本側関係者の強い関心がうかがわれた。

モスクワ本社から参加するロスアトム幹部ら

ロシア側は、北極海航路の貨物輸送量は2020年末の約3300万tから24年に8000万tにまで増加すると予測している。ロスアトム副社長・北極海航路局長のヴャチェスラフ・ルクシャ氏は「新しい輸送幹線の創設は、私たちのさまざまな共同プロジェクトに追加的なチャンスを与えてくれるだろう」と、航路の開発・利用での日ロ間協力への期待を語っている。スエズ運河を通過する南回り航路の代替ルートとして、今後、日本企業がどう対応していくか注目されそうだ。

【論考/7月1日】再エネと原子力の共存共栄 ハイブリッドシステムで可能に


2050年カーボンニュートラルを実現するには、再生可能エネルギーと原子力がそれぞれの長所を最大限に発揮する必要がある。再エネと原子力の共存共栄を図るハイブリッドシステムは、カーボンニュートル実現に最も有力かつ現実的な方策になり得る

今年5月20日に国際原子力機関(IAEA)は、原子力と再生可能エネルギーといういわば〝異種〟を組み合わせたハイブリッドエネルギーシステムの開発を促進するための、共同研究プロジェクトを始めることを発表した。

原子力と再エネはいずれも既に実績のある低炭素エネルギー源であり、カーボンニュートラル(ネットゼロ)を目指していく上ではどちらも欠かせないオプションである。現実問題として、わが国のみならず原子力発電を利用している国々では、広域に見れば原子力と再エネの共存状態にある。

しかし、両者の特長をさらに生かして、「いびつな運用」を緩和できないかという願望がある。いびつな運用とは、例えば太陽光発電の広域な出力制御である。また、小型モジュラー原子炉(SMR)を地産地消のエネルギーを実現するためのマイクログリッドに組み込む道も開ける。

異種交配(ハイブリッド)による原子力と再エネの共存共栄のアイデアは2014年頃までには新しい潮流として姿を表している 。原子力–再エネハイブリッドシステム(Nuclear-Renewable Hybrid Energy System: N-RHES)と呼ばれる このシステムでは、次の三つのケースが考えられる。①原子力と再エネが強く結合され熱電併給(コジェネレーション)などの多目的利用システム、②熱的に結合されたシステム、③給電に関してのみ弱く結合されたシステム。

本稿ではケース①について紹介しよう。

(原子力排熱を水素製造に利用)

原子力と風力・太陽光発電が結合された発電・水素製造システム(図参照)には、主に次のようなメリットがある。

①再エネの変動性を吸収でき、全体として低コストになる。

②再エネ電気も含めて給電指令に応えられる(再エネ単独では給電指令に応えられない)。

③産業部門における温室効果ガス(GHG)、硫黄酸化物、窒素酸化物、粒子状物質の排出量を削減する。

④現状は原子炉で発生する熱の約60%を捨てているが、その廃熱を熱を必要とする他の産業分野に供給できる。

⑤余剰の熱や電気を利用して飲料水や水素も製造可能も可能になり、新たな市場価値が発生し高い収益性がある――。

 電気供給システムとしては、変動する再エネ電源を単独で電源として利用するよりもN-RHESがより優れた安定的な電気供給システムになることは明らかである。

図は共存共栄システムにより、電気と水素を安定的に供給するシステムの例であるが、同様に発電と熱利用の協働システムを構築することも可能である。つまり、単なる発電システムから、熱利用や水素製造のような多目的利用(Power to X)という技術革新をもたらす。

風力。太陽光発電だけではその変動性がグリッドの不安定要因になり、停電という最悪事態を引き起こす。しかし、このような協働システムにすることで、その変動する不安定性が吸収されグリッドへの悪影響をなくすことができる。変動する不安定電源である再エネにとっても福音になるのである。

出力の小さい原子炉(例えばSMR)と再エネのハイブリッドシステムは、質が高い高温熱源もふんだんに供給できるし安定的な水素製造も可能になる。トヨタの提唱する〝Woven City 〟などの未来型地産地消都市のマイクログリッドにも最適のシステムになるのではないか。

N-RHESでは、需要と供給のバランスを常に維持しなければ停電に陥るので、発電、蓄電池、熱供給、水素製造などの各コンポーネントと需要側の各コンポーネント(送電網につながる需要家、処理プラントなど)から時々刻々発生する信号を統合的に処理するシステム開発は必須である。その問題は最近革新が著しい高速処理のコンピュータやA Iが切り拓いていく可能性が高い。サイバーテロに対する強靭性も当然求められる。

 (カーボンニュートラルの近道)

わが国では原子力派と再エネ派の間には、再エネvs.原子力という大きな壁があるが、私は再エネ派の論客にも、ことあるごとに「再エネと原子力は共存共栄の道を探り、実現すべきではないか」と訴え続けてきている。

いまだに根強くある偏狭で硬直した対立構造は利するところが何もない。再エネと原子力の共存共栄の道を関係者が協働して開いていくことが、カーボンニュートラルの実現のための近道になるのではないだろうか。

東京工業大学 助教 澤田哲生

さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒。三菱総合研究所、ドイツ・カールスル―エ研究所客員研究員などを経て2000年から現職。専門は原子核工学。

【記者通信/6月23日】 規制委が島根2号機に「合格」 文書管理不備で異論も


原子力規制委員会は6月23日、島根原子力発電所2号機(82万㎾)の審査書案を了承した。新規制基準への適合を事実上、認めたことになる。中国電力は再稼働時期を明らかにしていないが、2012年1月から停止していた島根2号機は運転再開に向けて大きく前進した。

島根原発2号機(左)

一方、23日の規制委の会合では、中国電力の文書管理体制の不備から、委員の間から同日の了承を見送るべきだとの意見も出た。原子力規制庁は特重(特定重大事故等対処施設)について電力会社に対して非公開のガイドを貸し出し、規制庁は各社と秘密保持の契約を結び、厳重な管理を求めている。しかし、中国電力から21日、規制庁に「貸し出された文書の一部を誤って廃棄した」との連絡があり、会合で山中伸介委員がこの件を取り上げた。

「誤って廃棄というが、本当にそうなのか気になる。そもそも文書管理(の体制)ができていなかった」(伴信彦委員)、「もう少し事実を知りたい」(石渡明委員)との意見があり、審査書案の審議での取り扱いが議論に。更田豊志委員長は①審議を中断し、文書管理の状況が明らかになってから開始する、②このまま審議を続ける――の2案を提示。採決を取ることになり、石渡・山中委員が①、更田・伴・田中知委員が②に挙手。審議を続け、審査書案を了承することになった。

 電力会社の規制関連の文書管理では、日本原電が敦賀2号機の断層関連の資料を「書き換え」たことを規制委が問題視。規制委が原電の説明を了解するまで、審査が遅れることになった。結果として23日の会合では審議は進んだが、改めて電力会社に文書管理に最大限の配慮が必要なことを認識させている。

【記者通信/6月22日】 北極海航路は実現可能か ロシア側がワークショップ開催


ロスアトムの原子力砕氷船

ヨーロッパからロシアの北極海沿岸を通り東アジアに至る北極海航路。スエズ運河経由よりも欧州・東アジア間の航行距離を約34%、短縮する。地球温暖化による北極海の氷が減少したこと、また海上物流の増大でスエズ運河経由の運行が限界に近付いていることなどから、その実現可能性に関心が高まっている。

一方、日本の海運業界関係者には、現状ではリスクの点から北極海航路に慎重論がある。「気象・海象予報の精度が信頼できない」「大型船に対する緊急対応の体制や航路標識・海図の整備が十分でない」「砕氷船による航行支援の料金が不透明」――などの理由だ。

こういった指摘も踏まえて、ロシア政府から北極海航路の開発を委託された国営原子力企業「ロスアトム」は6月24日、午後3時から都内で航路の将来の見通しや最新の情報をテーマに議論する、オンラインでのワークショップを開催する。ロスアトム側からはモスクワ本社の航路開発の責任者などが参加。日本側からは、鈴木俊一衆議院議員(北極のフロンティアを考える議員連盟会長)、国土交通省の久保麻紀子・総合政策局海洋政策課長が出席する。ロシア側がどういったプランを打ち出すか、注目されそうだ。ワークショップへの参加は下記のURLから登録できる。

https://rosatomwebinars.com/

【記者通信4月21日】40年超原発が運転再開へ 福井県議会が容認の意向


稼働が40年を超える高浜原発1、2号機、美浜3号機が運転を再開する見通しが高まっている。4月21日に開かれた福井県議会の全員協議会で、これまで難色を示していた最大会派の県会自民党が運転を容認する意向を示した。稼働すれば初の40年超運転になる。

福井県の杉本達治知事は、40年超運転の前提とした使用済み核燃料中間貯蔵施設の県外立地について、関西電力が電力業界が共同利用案を表明した青森県むつ市の貯蔵施設を含めて検討を進めるとしたことを評価。2月の県議会定例会で、40年超運転について議論を進めるよう要請していた。

しかし、むつ市の宮下宗一郎市長が共同利用案を認めていないことから、自民党県議の一部が反発。仲倉典克県議(現県会自民党会長)は知事に、「(40年超運転の)前提を満たしことを撤回してほしい」と要求。知事は40年超運転と中間貯蔵を切り離して議論することを求めていたが、2月定例会では結論が出なかった。

実現すれば初の40年超運転となる高浜原発1、2号機

その後、知事は国から地域振興策などの報告を得て、県議会議長に議論の再開を要請。県議会は関電・国の担当者を呼び全員協議会を開き、21日は知事が出席。仲倉県議は知事に対して、原子力政策について国の覚悟を経産相に問いただしてほしいと求め、「(覚悟を聞いた上での)知事の判断を県会自民党は尊重する」と述べた。県の同意が運転再開の最後のステップとなっていたため、県議会が了解することで稼働の障壁はなくなる。

ただ、高浜1・2号機は今年6月9日、美浜3号機は10月25日に特定重大事故等対処施設(特重)の設置期限を迎える。工事がそれまでに終わる見通しはなく、運転再開は早くても夏から秋になるもようだ。

【論考/4月13日】トリチウムは増えているか 海洋放出を巡る誤解


政府は、福島第一原発サイトにたまり続けるトリチウム水を、今後30年ほどかけて海洋放出することを決定した。これに関して、今も発電所ではトリチウムは増え続けていると国民の誤解を招く報道がある。齊藤正樹東工大名誉教授は、「トリチウムは増えておらず、むしろ自然に減っている」と指摘する。

日本の代表的なマスメディアが、2021年4月9日(電子版)、「東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む水の処分方法について、政府は来週13日にも関係閣僚会議を開き、海への放出を決定する方針を固めたことが分かりました」とトリチウム水の海洋放出について報道した。

この記事を読んだ時、筆者は「一般の国民は発電所のトリチウムは、今も増え続けていると思うのでは」と心配した。この報道は誤解を招く恐れがある。発電所のトリチウムは増えていない。

10年前の東日本大震災で核分裂反応が停止した時点から、一個のトリチウム原子すら敷地内で生まれていない。理由は、トリチウムが生まれるには中性子が必要であり、発電所内での中性子は核分裂反応で発生する。地震で原子炉の核分裂反応が自動的に停止した後は、中性子が存在しないためだ。

むしろ、自然崩壊(トリチウムの場合は半減期が約12.3年)で、事故後10年経過している現在では、核分裂反応が停止した時点での発電所内のトリチウムの総量から、約半分近くまで自然に減っている。事故後50年経つと、さらに約数%程度まで自然に減少する。

発電所で増え続けているのは、「水」だ。地下水(雨水が主な由来)が、原子炉建屋内に流入し、燃料デブリを冷却した汚染水の量を増やしている。地下水の建屋への流入を防ぐ種々の対策がされた後は、流入する地下水の量は大幅に減ってはいるが、それでも流入は続いているので汚染水の量は増えている。

処理水は増えているが、事故発生時からトリチウム自体は増えていない

この汚染水は、多核種除去設備(ALPS)などにより放射性物質を除去した処理水(除去が困難なトリチウムを含むため通称「トリチウム水」といわれている)として、発電所内のタンクに貯めているが、増え続けている。保管するタンクを増設するため、土地の造成やタンクの並べ方の工夫などがおこなわれているが、2022年夏頃にはタンクが満杯になる見通しである。そのため、政府は海に放出することを決定する方針を固めたのだ。

「トリチウムは増えている」と一般の国民が誤解することは、海洋放出を行う際、風評被害を拡大させかねない。マスメディアには常に科学的根拠に基づいて、国民の誤解を招かない情報発信を行うことを希望したい。

齊藤正樹

さいとう・まさき 1972年大阪大学工学部卒。2008年東工大グローバル原子力安全・セキュリティ教育院院長。内閣府原子力安全委員会専門委員、内閣官房参与など多くの公職を歴任。