【記者通信/8月31日】敦賀原発の審査中断 マスコミ報道に疑問符


原子力規制委員会は8月18日、日本原子力発電の資料書き換え問題で敦賀原発の審査を再び中断した。これを一部のマスコミが取り上げ、朝日新聞は社説(8月29日)で「技術者の教育をはじめ、管理や組織の規律が問われる問題」「存続の是非も含めて会社の今後を改めて検討すべきだ」と、原電が意図的に書き換えを行った可能性に言及し、その体質を厳しく批判している。

しかし、実際はより詳細なデータが得られたので、過去のデータを削除したにすぎず、これらの報道は、書き換え問題について事実に基づいているとは言い難い。原電は規制委側に不備を指摘された業務プロセスの再構築を急ぎ、審査会合の再開を目指している。

 「この状態が改善されるまで審査会合を開ける状況ではない」――。原子力規制委員会の石渡明委員は8月18日の会合で、こう発言した。原電は敦賀原発の敷地内にある断層が地震で動かないことを証明するために掘削調査を行ったのだが、その報告書の一部を書き換えたことに端を発した発言だ。

原子炉建屋真下のD-1断層とK断層

18日の会合で事務局の原子力規制庁は、原電の業務プロセスが適切ではなかったために報告書の書き換えが起きたと指摘。それを受けて規制委は、業務プロセスが信頼性を確保できると確認するまで敦賀原発2号機の審査を行わないと決めた。

敦賀原発の敷地内断層を巡る議論は、規制委が地質などの専門家を集めて開いた有識者会合にさかのぼる。現地調査などを経て、有識者会合は2013年に敦賀敷地内にある「K断層」と呼ばれる断層を「活断層の可能性が否定できない」と指摘。これが地震で動くと、敦賀原発2号機の原子炉建屋真下にあるDー1断層も連動する可能性があるとの見解をまとめた。

原電は2号機原子炉建屋の真下にあるDー1断層とK断層は連動せず、K断層も地震で動かないことを証明するために掘削調査を実施。K断層と原子炉建屋の間に10本の穴を掘って地層の試料を採取した。K断層は「逆断層」と呼ばれる動き方だが、試料を分析すると、K断層と異なる性状を示していた。逆断層の動き方ではなかったのだ。

地層の性状が異なれば地震が起きたときに連動するとは考えられない。そのため原電は、K断層と2号機原子炉建屋の真下にあるD-1断層は関連性がないと結論付けた。

これで規制委側の疑問を払拭できたはずだった。だが、規制委側は審査資料の一つである掘削調査の結果を示した「柱状図」に着目した。20年2月7日の審査会合で、以前に提出された記載内容の一部が書き換えられていたと指摘した。

顕微鏡観察でより詳細なデータを取得

原電が最初に柱状図の資料を規制委側へ提出した際は、掘削時に採取した試料を肉眼で観察し、採取地点ごとの評価結果を記載していた。その後、原電は試料の薄片を顕微鏡でつぶさに観察。性状を分析したところ、より詳細なデータが取れたため、肉眼観察したデータの一部を上書きする形で新たな評価結果を記載した。

掘削調査したところが逆断層でないため、かなり古い年代に形成されたものだろうと判断。「12万年前以降に地震で動いたもの」という活断層の定義から外れる有力な手掛かりを得たことになる。

しかし規制委側は、データの一部を上書きした点を問題視した。同日の審査会合で「記載内容を変更したと知らされていない」と指摘。その主張は「新たな分析結果が分かっても、元データと併記すべき」というものだ。規制委側は原電に、調査会社が作成した元の資料を提出するよう要求。同時に、新聞各紙などマスコミは一斉に原電の「書き換え問題」を報じ始めた。

20年6月4日の審査会合でも、原電は資料の上書きについて説明したが、規制委側の納得は得られなかった。原電側は上書き問題の原因を検討するため、審査に関わっていない社員も加えて総点検作業に着手した。20年10月30日の審査会合には元資料を提出し、点検作業の結果と今後の対応方針も説明。

規制委側は納得して審査の再開を決めたが、柱状図のデータを上書きしたことは原電の業務プロセスに問題があると考えた。そのため、原子力規制庁の検査部門が実施する規制検査で業務プロセスの状況を確認することにした。21年8月18日の会合で規制委は、規制検査で確認する項目を追加。それらの確認が取れてから審査を再開すると決めたのだ。

2号機真下の断層が活動性でないことが明らかになりつつある

  原電に不利な書き換えも

「データを書き換えた」と聞くと、自らの主張に有利となるような記載内容に変更したと思われがちだ。しかし、今回の件で原電が上書きしたのは25箇所のうち、7箇所はどちらかといえば原電に不利となるような変更だった。仮に恣意的な判断が働いたのなら25箇所すべてを自社の主張を裏付けるように書き換えるだろう。原電は、「自分たちに都合のいいような意図的な書き換えはなかった」と繰り返し述べている。

薄片観察で得られたデータの分析結果によると、2号機原子炉建屋の真下にある断層とK断層の関連性がないことが分かる。有識者会合で受けた疑惑も晴れることになる。規制委側に審査を速やかに進める意思があるのなら、記載内容の書き換えにこだわって審査を中断し続けるのは理にかなわない。

8月18日の規制委の審査中断の方針を受けて、原電は、「業務プロセスの構築を確認していただくための準備を早急に進め、早期に審査会合を実施していただけるよう全力で取り組んでいく」とのコメントを発表している。1日も早い審査再開が望まれる。

【記者通信7月30日】原発新増設の記載なし エネ基案に自民議員が反発


経済産業省が7月21日に示したエネルギー基本計画(素案)には、原子力発電所の新増設・リプレースが記載されず、可能な限り原発依存度を低減する方針は引き続き明記された。これに自民党議員の一部が強く反発している。

27日に開かれた電力安定供給議員連盟(会長・細田博之衆議院議員)の会合では、次のように批判が噴出した。

「話にならない。一部の反原発論者に遠慮して、全てのエネルギー計画があいまいになっている。新増設・リプレースに(基本計画で)触れないで、どこで触れるというのか。責任あるエネルギー政策として、勇気を出して打ち出していかなければならない」(大西英男衆院議員)。

「可能な限り原発依存度低減といいながら、2050年を見て『原子力は必要な規模を持続的に活用していく』という。一体どっちなんだとなる。持続的に活用するには、リプレースも含めてしっかり進めなければならない」(宮下一郎衆院議員)。

一方、28日に行われた総合資源エネルギー戦略調査会(会長・額賀福志郎衆院議員)の会合では、福井県など原発立地地域選出議員からエネ基素案に異論が相次いだが、再生可能エネルギーの拡充を唱える議員もおり、素案の扱いについては会長一任となっている。

原発立地地域の議員からは異論が相次いだ

原子力推進の立場の議員からは、エネ基素案について、「2000年代の初頭に太陽光発電は日本製が5割以上あったが、今はゼロ。風力も同じで、テクノロジーはあるが(事業として)成立できない。太陽光や風力を伸ばそうとしているが、おそらく両方とも中国製になる。中国製に頼っていいのか、経済安全保障上の問題になる」(藤末健三参議院議員)との指摘も出ている。エネ基は素案がそのまま認められる見通しだが、エネルギー政策だけでなく産業・外交政策も巻き込んで、党内に長く論争の火種を残しそうだ。

【論考/7月9日】石油需要と排出ネットゼロ IEA2報告の交点はどこに


国際エネルギー機関(IEA)による「50年排出ネットゼロに向けた工程表」が、化石燃料需要が減少していく脱炭素化への道筋を示したと注目されている。一方、IEAは石油需要は2022年までにコロナ禍以前の水準に回復するとも報告している。IEAも、将来のエネルギー需給の姿について、正しい見解を持ち合わせていないようだ。

石油輸出国機構(OPEC)とロシアを中心とする主要産油国でつくる「OPECプラス」は6月1日の閣僚協議で、協調減産規模を7月まで段階的に縮小する既定方針を再確認した。イラン核合意を巡る協議の帰趨が不確定であるが、昨年の大幅需要減の反動で何よりも米中の石油需要が順調に回復していることを受けて、足元の原油相場(WTI)は、2018年8月以来、6月8日に70ドルを超え、7月2日の時点で75ドルを窺っている。

OPECプラスは7月減産量をサウジアラビアの独自減産量を含め日量576万バレルとすることとしており、減産態勢が維持されれば、原油相場は当面堅調で推移するとみられる。

(需要は22年末までに回復)

そうした中で、国際エネルギー機関(IEA)は6月11日に発表した石油市場月報で、今後の石油需要に関し、「世界の需要は22年末までに新型コロナウイルス流行前の水準を回復する」との予測を示した。同報告は21年の世界需要量は前年比日量540万バレル増の9640万バレルと見通されるとした。さらに、22年平均の予測は同310万バレル増の9950万バレル、ただし、四半期別には22年第3四半期に1億バレルの大台に回復するとした。

さて、IEAが5月に発表した「50年排出ネットゼロに向けた工程表」は、さまざまなメディアで大きく取り上げられたが、同レポートの手法はバックキャスティング(あり得べき未来を想定して今何を行うべきかを逆算)であり、その内容は見通しではなく、また実現される可能性は誰も保証するものでない。

国際社会における脱炭素の潮流が既定のものになったにせよ、足元の現状分析はこれまで通り重要である。IEAが3月にまとめた「石油2021」(Oil 2021)は、足元の実勢の積み上げによる分析であり、「2026年に向けた分析と見通し」の副題が付されている。本稿では、「石油2021」における26年までの見通しが「50年までの脱炭素工程表」とどこで交点を持つかを考えてみよう。

報告書は、まず、「世界経済と石油市場は20年に広まった新型コロナウイルスにより引き起こされた石油需要の崩壊から回復しようとしている」とした。次いで「20年に積み増された石油在庫は戦略備蓄を除いてコロナ前の水準に戻りつつあるが、コロナが収束しても石油市場はもはや従来の平常に戻ることはないだろう」としている。その理由は、「コロナ禍は人々に、リモートワークとビジネスと余暇のための移動の減少に代表される行動変容をもたらしたことである。また政策的には脱炭素の勢いを加速させたことも重要である」とした。「石油2021」の主要論点を要約する。

(行動変容がピーク決める

①当局の厳格な政策と国民の行動変容が石油ピークの時期を決める。石油ピークがこれから数年間のうちに到来するためには、強い政治主導と行動変容が推進されねばならない。

②そのような政策と行動変容の一つが、輸送部門における燃料効率改善の加速である。燃料効率の改善が毎年もたらされるならば、26年の需要量は基準ケースを日量90万バレル下回るだろう。

③政府は、リモートワークを増やして自動車の使用減を奨励する。OECD加盟国で週に3日と非加盟国の2日間のリモートワークを導入すれば、世界全体のガソリンとディーゼル消費量は年間日量80万バレル節約することができる。

④それらに加えて、仮に企業がコロナ禍前のレベルから航空機による出張を2分の1に減らすことに決め、そうした風潮が航空機利用者の行動全般で見られるなら、ジェット燃料油の消費量は26年までに日量100万バレル減少され得る。

⑤基準ケースでは、世界全体の電気自動車フリートは26年までに6千万台に達する。政府と民間部門からより充電インフラの改善を含め強い誘導があれば、電気自動車フリートは同年までに9千万台に50%増大する。全体として、ガソリンおよびディーゼル消費量は26年までに日量160万バレル減少させ得る。

⑥しかし、石油需要にピークを打たせるには、それ以上の行動が必要とされる。これには、プラスチックの需要の減少と発電部門における燃料消費を一層削減させる厳しい措置が含まれる。 また燃料税の増額と助成金の撤去は、石油消費の減少の一助となる。

(答えは読者の判断に)

結論的には、「石油2021」は、こうした措置の組み合わせは日量250万バレルの節約をもたらし、これらの政策が全て既定の政策に代替されると、世界の石油消費は日量560万バレル減少し、需要量が19年の水準に戻ることを防ぐことになる、との視点を提示する。

ならば、IEAの中期石油市場見通しの積み上げとバックキャスティングの工程表は、どこで交点を持つのか。IEAのスタンスは、その答えは読者の判断に委ねているように見える。

須藤繁 帝京平成大学 客員教授

1973年中央大学法学部法律学科卒。石油連盟、三菱総合研究所、国際開発センターを経て2011年帝京平成大学教授。専門は石油産業論。

【記者通信/7月2日】日本側関係者も強い関心 北極海航路で日ロ対話


ロシア国営原子力企業「ロスアトム」が主催する北極海航路についてのセミナーが6月24日、都内でオンライン、オフラインの2形式で開催された。

地球温暖化による北極海の氷減少、北極海で産出される石油・天然ガスなどの輸送、また大型原子力砕氷船の就航などロシア側の注力により、欧州から東アジアに至る輸送ルートとして北極海航路に関心が高まっている。

セミナーは、ロシア側が航路開発の展望などについて説明し、日ロ間の対話促進を目的とするもの。ロスアトム北極開発特別代表のウラジミール・パノフ氏、ロスアトムカーゴ代表のアレクサンドル・ネクリュードフ氏など、航路開発に関わる幹部が講演を行った。日本側からは、商船会社、商社、また国土交通省、経済産業省などの関係者約200人が参加。ロシア側の説明の後、質疑応答が行われ、日本側関係者の強い関心がうかがわれた。

モスクワ本社から参加するロスアトム幹部ら

ロシア側は、北極海航路の貨物輸送量は2020年末の約3300万tから24年に8000万tにまで増加すると予測している。ロスアトム副社長・北極海航路局長のヴャチェスラフ・ルクシャ氏は「新しい輸送幹線の創設は、私たちのさまざまな共同プロジェクトに追加的なチャンスを与えてくれるだろう」と、航路の開発・利用での日ロ間協力への期待を語っている。スエズ運河を通過する南回り航路の代替ルートとして、今後、日本企業がどう対応していくか注目されそうだ。

【論考/7月1日】再エネと原子力の共存共栄 ハイブリッドシステムで可能に


2050年カーボンニュートラルを実現するには、再生可能エネルギーと原子力がそれぞれの長所を最大限に発揮する必要がある。再エネと原子力の共存共栄を図るハイブリッドシステムは、カーボンニュートル実現に最も有力かつ現実的な方策になり得る

今年5月20日に国際原子力機関(IAEA)は、原子力と再生可能エネルギーといういわば〝異種〟を組み合わせたハイブリッドエネルギーシステムの開発を促進するための、共同研究プロジェクトを始めることを発表した。

原子力と再エネはいずれも既に実績のある低炭素エネルギー源であり、カーボンニュートラル(ネットゼロ)を目指していく上ではどちらも欠かせないオプションである。現実問題として、わが国のみならず原子力発電を利用している国々では、広域に見れば原子力と再エネの共存状態にある。

しかし、両者の特長をさらに生かして、「いびつな運用」を緩和できないかという願望がある。いびつな運用とは、例えば太陽光発電の広域な出力制御である。また、小型モジュラー原子炉(SMR)を地産地消のエネルギーを実現するためのマイクログリッドに組み込む道も開ける。

異種交配(ハイブリッド)による原子力と再エネの共存共栄のアイデアは2014年頃までには新しい潮流として姿を表している 。原子力–再エネハイブリッドシステム(Nuclear-Renewable Hybrid Energy System: N-RHES)と呼ばれる このシステムでは、次の三つのケースが考えられる。①原子力と再エネが強く結合され熱電併給(コジェネレーション)などの多目的利用システム、②熱的に結合されたシステム、③給電に関してのみ弱く結合されたシステム。

本稿ではケース①について紹介しよう。

(原子力排熱を水素製造に利用)

原子力と風力・太陽光発電が結合された発電・水素製造システム(図参照)には、主に次のようなメリットがある。

①再エネの変動性を吸収でき、全体として低コストになる。

②再エネ電気も含めて給電指令に応えられる(再エネ単独では給電指令に応えられない)。

③産業部門における温室効果ガス(GHG)、硫黄酸化物、窒素酸化物、粒子状物質の排出量を削減する。

④現状は原子炉で発生する熱の約60%を捨てているが、その廃熱を熱を必要とする他の産業分野に供給できる。

⑤余剰の熱や電気を利用して飲料水や水素も製造可能も可能になり、新たな市場価値が発生し高い収益性がある――。

 電気供給システムとしては、変動する再エネ電源を単独で電源として利用するよりもN-RHESがより優れた安定的な電気供給システムになることは明らかである。

図は共存共栄システムにより、電気と水素を安定的に供給するシステムの例であるが、同様に発電と熱利用の協働システムを構築することも可能である。つまり、単なる発電システムから、熱利用や水素製造のような多目的利用(Power to X)という技術革新をもたらす。

風力。太陽光発電だけではその変動性がグリッドの不安定要因になり、停電という最悪事態を引き起こす。しかし、このような協働システムにすることで、その変動する不安定性が吸収されグリッドへの悪影響をなくすことができる。変動する不安定電源である再エネにとっても福音になるのである。

出力の小さい原子炉(例えばSMR)と再エネのハイブリッドシステムは、質が高い高温熱源もふんだんに供給できるし安定的な水素製造も可能になる。トヨタの提唱する〝Woven City 〟などの未来型地産地消都市のマイクログリッドにも最適のシステムになるのではないか。

N-RHESでは、需要と供給のバランスを常に維持しなければ停電に陥るので、発電、蓄電池、熱供給、水素製造などの各コンポーネントと需要側の各コンポーネント(送電網につながる需要家、処理プラントなど)から時々刻々発生する信号を統合的に処理するシステム開発は必須である。その問題は最近革新が著しい高速処理のコンピュータやA Iが切り拓いていく可能性が高い。サイバーテロに対する強靭性も当然求められる。

 (カーボンニュートラルの近道)

わが国では原子力派と再エネ派の間には、再エネvs.原子力という大きな壁があるが、私は再エネ派の論客にも、ことあるごとに「再エネと原子力は共存共栄の道を探り、実現すべきではないか」と訴え続けてきている。

いまだに根強くある偏狭で硬直した対立構造は利するところが何もない。再エネと原子力の共存共栄の道を関係者が協働して開いていくことが、カーボンニュートラルの実現のための近道になるのではないだろうか。

東京工業大学 助教 澤田哲生

さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒。三菱総合研究所、ドイツ・カールスル―エ研究所客員研究員などを経て2000年から現職。専門は原子核工学。

【記者通信/6月23日】 規制委が島根2号機に「合格」 文書管理不備で異論も


原子力規制委員会は6月23日、島根原子力発電所2号機(82万㎾)の審査書案を了承した。新規制基準への適合を事実上、認めたことになる。中国電力は再稼働時期を明らかにしていないが、2012年1月から停止していた島根2号機は運転再開に向けて大きく前進した。

島根原発2号機(左)

一方、23日の規制委の会合では、中国電力の文書管理体制の不備から、委員の間から同日の了承を見送るべきだとの意見も出た。原子力規制庁は特重(特定重大事故等対処施設)について電力会社に対して非公開のガイドを貸し出し、規制庁は各社と秘密保持の契約を結び、厳重な管理を求めている。しかし、中国電力から21日、規制庁に「貸し出された文書の一部を誤って廃棄した」との連絡があり、会合で山中伸介委員がこの件を取り上げた。

「誤って廃棄というが、本当にそうなのか気になる。そもそも文書管理(の体制)ができていなかった」(伴信彦委員)、「もう少し事実を知りたい」(石渡明委員)との意見があり、審査書案の審議での取り扱いが議論に。更田豊志委員長は①審議を中断し、文書管理の状況が明らかになってから開始する、②このまま審議を続ける――の2案を提示。採決を取ることになり、石渡・山中委員が①、更田・伴・田中知委員が②に挙手。審議を続け、審査書案を了承することになった。

 電力会社の規制関連の文書管理では、日本原電が敦賀2号機の断層関連の資料を「書き換え」たことを規制委が問題視。規制委が原電の説明を了解するまで、審査が遅れることになった。結果として23日の会合では審議は進んだが、改めて電力会社に文書管理に最大限の配慮が必要なことを認識させている。

【記者通信/6月22日】 北極海航路は実現可能か ロシア側がワークショップ開催


ロスアトムの原子力砕氷船

ヨーロッパからロシアの北極海沿岸を通り東アジアに至る北極海航路。スエズ運河経由よりも欧州・東アジア間の航行距離を約34%、短縮する。地球温暖化による北極海の氷が減少したこと、また海上物流の増大でスエズ運河経由の運行が限界に近付いていることなどから、その実現可能性に関心が高まっている。

一方、日本の海運業界関係者には、現状ではリスクの点から北極海航路に慎重論がある。「気象・海象予報の精度が信頼できない」「大型船に対する緊急対応の体制や航路標識・海図の整備が十分でない」「砕氷船による航行支援の料金が不透明」――などの理由だ。

こういった指摘も踏まえて、ロシア政府から北極海航路の開発を委託された国営原子力企業「ロスアトム」は6月24日、午後3時から都内で航路の将来の見通しや最新の情報をテーマに議論する、オンラインでのワークショップを開催する。ロスアトム側からはモスクワ本社の航路開発の責任者などが参加。日本側からは、鈴木俊一衆議院議員(北極のフロンティアを考える議員連盟会長)、国土交通省の久保麻紀子・総合政策局海洋政策課長が出席する。ロシア側がどういったプランを打ち出すか、注目されそうだ。ワークショップへの参加は下記のURLから登録できる。

https://rosatomwebinars.com/

【記者通信4月21日】40年超原発が運転再開へ 福井県議会が容認の意向


稼働が40年を超える高浜原発1、2号機、美浜3号機が運転を再開する見通しが高まっている。4月21日に開かれた福井県議会の全員協議会で、これまで難色を示していた最大会派の県会自民党が運転を容認する意向を示した。稼働すれば初の40年超運転になる。

福井県の杉本達治知事は、40年超運転の前提とした使用済み核燃料中間貯蔵施設の県外立地について、関西電力が電力業界が共同利用案を表明した青森県むつ市の貯蔵施設を含めて検討を進めるとしたことを評価。2月の県議会定例会で、40年超運転について議論を進めるよう要請していた。

しかし、むつ市の宮下宗一郎市長が共同利用案を認めていないことから、自民党県議の一部が反発。仲倉典克県議(現県会自民党会長)は知事に、「(40年超運転の)前提を満たしことを撤回してほしい」と要求。知事は40年超運転と中間貯蔵を切り離して議論することを求めていたが、2月定例会では結論が出なかった。

実現すれば初の40年超運転となる高浜原発1、2号機

その後、知事は国から地域振興策などの報告を得て、県議会議長に議論の再開を要請。県議会は関電・国の担当者を呼び全員協議会を開き、21日は知事が出席。仲倉県議は知事に対して、原子力政策について国の覚悟を経産相に問いただしてほしいと求め、「(覚悟を聞いた上での)知事の判断を県会自民党は尊重する」と述べた。県の同意が運転再開の最後のステップとなっていたため、県議会が了解することで稼働の障壁はなくなる。

ただ、高浜1・2号機は今年6月9日、美浜3号機は10月25日に特定重大事故等対処施設(特重)の設置期限を迎える。工事がそれまでに終わる見通しはなく、運転再開は早くても夏から秋になるもようだ。

【論考/4月13日】トリチウムは増えているか 海洋放出を巡る誤解


政府は、福島第一原発サイトにたまり続けるトリチウム水を、今後30年ほどかけて海洋放出することを決定した。これに関して、今も発電所ではトリチウムは増え続けていると国民の誤解を招く報道がある。齊藤正樹東工大名誉教授は、「トリチウムは増えておらず、むしろ自然に減っている」と指摘する。

日本の代表的なマスメディアが、2021年4月9日(電子版)、「東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む水の処分方法について、政府は来週13日にも関係閣僚会議を開き、海への放出を決定する方針を固めたことが分かりました」とトリチウム水の海洋放出について報道した。

この記事を読んだ時、筆者は「一般の国民は発電所のトリチウムは、今も増え続けていると思うのでは」と心配した。この報道は誤解を招く恐れがある。発電所のトリチウムは増えていない。

10年前の東日本大震災で核分裂反応が停止した時点から、一個のトリチウム原子すら敷地内で生まれていない。理由は、トリチウムが生まれるには中性子が必要であり、発電所内での中性子は核分裂反応で発生する。地震で原子炉の核分裂反応が自動的に停止した後は、中性子が存在しないためだ。

むしろ、自然崩壊(トリチウムの場合は半減期が約12.3年)で、事故後10年経過している現在では、核分裂反応が停止した時点での発電所内のトリチウムの総量から、約半分近くまで自然に減っている。事故後50年経つと、さらに約数%程度まで自然に減少する。

発電所で増え続けているのは、「水」だ。地下水(雨水が主な由来)が、原子炉建屋内に流入し、燃料デブリを冷却した汚染水の量を増やしている。地下水の建屋への流入を防ぐ種々の対策がされた後は、流入する地下水の量は大幅に減ってはいるが、それでも流入は続いているので汚染水の量は増えている。

処理水は増えているが、事故発生時からトリチウム自体は増えていない

この汚染水は、多核種除去設備(ALPS)などにより放射性物質を除去した処理水(除去が困難なトリチウムを含むため通称「トリチウム水」といわれている)として、発電所内のタンクに貯めているが、増え続けている。保管するタンクを増設するため、土地の造成やタンクの並べ方の工夫などがおこなわれているが、2022年夏頃にはタンクが満杯になる見通しである。そのため、政府は海に放出することを決定する方針を固めたのだ。

「トリチウムは増えている」と一般の国民が誤解することは、海洋放出を行う際、風評被害を拡大させかねない。マスメディアには常に科学的根拠に基づいて、国民の誤解を招かない情報発信を行うことを希望したい。

齊藤正樹

さいとう・まさき 1972年大阪大学工学部卒。2008年東工大グローバル原子力安全・セキュリティ教育院院長。内閣府原子力安全委員会専門委員、内閣官房参与など多くの公職を歴任。

【記者通信/3月26日】柏崎刈羽原発の不祥事 語られることのない原因


東京電力HDの経営再建に不可欠な柏崎刈羽原発の再稼働。中央制御室への不正入室、核物質防護の不備と相次いで不祥事が発覚し、原子力規制委員会による処分を踏まえて、小早川智明社長は花角英世新潟県知事に謝罪した。県側の不信感は強く、再稼働は見通しが立っていない。福島第一原発事故の猛省から意識・業務改革を進めながら、なぜ――。

ある原子力専門家は、増加した業務量と、求められる業務に東電が対応しきれなかったことが、不祥事の背景にあるのではと指摘する。

規制委による新規制基準により、新たにシビアアクシデント・テロ対策が求められるなど、再稼働に向けて現場の業務量は著しく増加した。一方、多くの経験豊富な社員が退社。それらを補う採用活動を続けているが、東電ブランドの低下で優秀な人材が集まらず、また人材育成にはかなりの時間がかかる。再稼働に不可欠な業務をこなすのに十分な体制だったのか、専門家は疑問視する。

再稼働を最優先の経営課題にする中、シビアアクシデント対策には最大限、力を入れてきた。一方、想定を越える津波が念頭にありながら、福島では対策を打たなかったように、核物質防護については、その緩みがどんな結果を招きかねないか、想像力の欠如と意識の甘さがあったといえる。それも、かつてのように発電所のあらゆる部門に精通し、注意を欠かさないベテラン職員が揃っていれば防げただろう。

専門家は東電の現状をこう例える。「十分な高度で飛びたい飛行機の推力が低下。同時に今まで平地の上や海上を飛んでいたが、地形が不明な山脈の上を飛ばなければならない状況」。

東電に限らず、福島事故後、原子力業界に優秀な学生などが集まらなくなったことが深刻な課題となっている。原子力業界にとって、柏崎刈羽は他人事ではないかもしれない。

東電ブランドの低下で優秀な人材が集まらなくなった(柏崎刈羽原発)

【論考/3月22日】バイデン政権の中東政策 サウジへの対応に二面性


中東の地政学に変化の兆しが出ている。UAEとバーレーンがイスラエルと国交を結ぶ中、米バイデン政権はイランとの関係修復を模索。帝京平成大学の須藤繁教授は、サウジアラビアとイスラエルとの関係も要注目だと指摘する。

政権発足から1カ月半、米バイデン政権の外交政策が動き出した。就任直後の演説は、同盟国との関係再構築を重視し、前政権の米国第一主義からの転換を鮮明に打ち出すものであった。

外交政策の基本方針が、2月下旬から徐々に具体的に展開され、3月2日には初めて対ロ制裁に踏み切り、人権問題の重視と欧州との連携を明らかにした。翌3日には中国に対する当面の外交、安全保障分野の基本戦略を公表したが、新政権の対中国政策は、トランプ政権と同様厳しいものになることを窺わせる。

政策の軸はイラン包囲網強化

こうした外交基本政策の中で対中東政策の要素を、対イラン、対サウジアラビア政策の点からみていくと、イランに対しては2018年5月にトランプ政権が離脱した核合意への復帰が軸となる。米国の離脱後、19年5月イランは核合意を破る核兵器開発に着手し、本年1月には短期間で核兵器に必要な濃縮度90%レペルに引き上げられる20%レベルへの核濃縮を始めた。

バイデン政権はEUを仲介させる条件でイランとの対話を用意することを表明した。米国は6月のイラン大統領選挙で保守強硬派の勝利を阻止したい考えであり、その点では対イラン経済制裁を解除してビジネス関係を再開したいEU諸国と思惑は一致している。

サウジに関しては、2月26日、18年10月にトルコで起きたカショギ記者殺害事件に関し、米国家情報長官室が、「同事件をムハンマド皇太子(MBS)が承認した」と結論づけた調査報告書を公表した。同事件の報告書のこの時期の発表は、バイデン政権の発足に関連すると考えるのが自然である。

大統領は報告書の発表に際し、「人権侵害について責任を問う」と発言し、米政府も事件に関与したサウジの元高官らを制裁対象に指定した。

報告書公表後、ブリンケン米国務長官は、国外の反政府活動に対する深刻な妨害行動に直接関与した者に渡航制限を課し、さらに米財務省は、MBSの側近で事件に関わった元情報機関高官や王室警備隊の精鋭部隊などを、資産凍結を含む制裁対象に指定した。こうした一連の動きの中で、報告書の発表を行う前に、25日バイデン大統領とサルマーン国王が電話で十分な協議を行ったという報道は重要である。

この数年、外交の表舞台に立ってきたMBSでなく、国王本人を協議したことは、新政権としてサウジとの関係を維持しつつも、同国の人権侵害を非難し責任を取らせるとの公約を実現しなければならないからである。新政権は、人権侵害の懸念から同国への武器売買を中止するほか、将来的な武器供与を防衛的な武器に限定することなどを検討せねばならない。

イスラエルの意中の国

ところで、昨年9月15日、UAEとバハレーンとイスラエルはホワイトハウスで国交を正常化させる合意文書に署名した。イスラエルは国内の先端企業への湾岸諸国の潤沢なオイルマネーの流入を期待しているが、その中で、意中の湾岸産油国はサウジであろう。同国との経済面の連携はイラン抑止という安全保障上の共通利益をさらに強固にする。

イスラエル政府が数年前から取り組んでいる平和鉄道は、イスラエル北西部ハイファからヨルダン、サウジの首都リヤドを経由して、オマーンのマスカットを結ぶ計画である。また、イスラエルには湾岸産油国から原油パイプラインを敷設する計画もある。

昨年三国の国交正常化を受け、サウジを含む他の湾岸諸国がどのような動きを見せるかは予断を許さないが、大きな枠組みとしては、大方の湾岸諸国とイスラエルは、いずれもイランと対立しており、一連の国交正常化は安全保障面で中東地域に新たな地政学の要素を与えている。


バイデン大統領はサルマーン国王と電話会談を行った
AFP=時事

一方、サウジ、UAE、バハレーン、エジプトは、1月5日GCC首脳会議の場でカタールとの断交を解消した。本措置は湾岸諸国を再度結束させてイラン包囲網を強めたい米国の意向を反映する。

これらの要素を踏まえると、サウジとイスラエルの国交樹立に関しては、米国がそれを期待するならば、鍵を握るのはサウジ側の対応になるだろう。その中で、サウジの動きには、サルマーン国王の指導力がキーポイントを握ると考える。

1935年生まれで、既に85歳になったサルマーン国王と1985年生まれの二世代若いMBSの治世を考えた場合、MBSにイスラエルとの国交樹立という難題を残さず、現国王の裁量で新たな路線を確立する方が、王国の安定性は大きく高まると評価される。

MBSは、17年6月サルマーン国王の勅命による前皇太子の解任を受けて皇太子に昇格し、王位継承者となった経緯がある。MBSに安定路線を継承させるという判断をサウジの長老が行うとすれば、中東地政学の枠組みは根底から変化し、域内の安定性を大きく高めることになるのだが。

帝京平成大学 教授 須藤繁

1973年中大法学部卒法律学科卒、石油連盟、三菱総合研究所、国際開発センターを経て、2011年から現職。専門は石油産業論。

【論考/3月11日】今冬の電力危機 停電なら責任は誰に⁉


今冬、日本の電力市場を襲った需給ひっ迫。旧一般電気事業者の「善意」によって何とか安定供給を維持できたものの、もう旧一電が安定供給を担う法的な責任はない」と穴山教授は指摘する

2021年初の電力需給逼迫(ひっぱく)と市場価格高騰は、各種メディアで盛んに取り上げられた。需給逼迫の要因として、厳冬による想定以上の需要発生、悪天候による太陽光発電の出力減、国際的な市況や運航遅延などに起因するLNG在庫不足、火力発電の計画外停止の発生、原子力稼働停滞の継続などが指摘されている。

昔から「電気は天気商売」ともいわれるように、電力需要は天候・気温の影響を大きく受ける。1月8日に全国10エリアのうち7エリアで厳寒想定需要を上回っていることからも、安定供給達成のための最善の努力が全国的に必要であった状況がうかがえる。変動性電源である太陽光発電の割合が増えていることは昨日今日の現象ではないから、国内外で各種のトラブルなどが重なって生じていたことなどが遠因となって今回の事象を招いた、すなわち自然災害などと同様の偶発的事象だとする見方にも一理ある。

今般の事象の検証や対処については、たとえば2月17日に電力・ガス基本政策小委員会で資源エネルギー庁が提示した方向性(kWh確保体制構築、広域的運用、供給力確保の在り方、電源ポートフォリオ)が出されている。また2月3日の内閣府「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」に4氏連名の提言などが出されており、電気という財の性質から生じる市場の不完全性に対して、各種市場の活用を含めていかに対処していくべきかが改めて問われる状況にある。2月8日付の日本経済新聞社説にも、サーキットブレーカーのような仕組みを含めて価格急騰時の電力市場の整備を急ぐべきとの主張がある。

経産大臣命令も実効性は不明

今後これらの検証・検討が進むだろうが、本稿では今回のような需給逼迫に係る責任の所在について述べてみたい。

小売事業者には、自社需要の的確な想定や供給能力の確保、金銭面では取引事業者の信用リスクや価格変動リスクなどへの備えなどが求められるが、規制・ルールを遵守する責任は問えても、一義的には私企業として収益を上げるなどの経営責任以上の社会的責任は負いきれない。例えば電気事業法第2条の12に需要応諾に必要な供給能力確保等の措置を経済産業大臣が命令できる規定があるが、絶対的な供給力不足時にどこまで実効性を持ち得るかは定かではない。

発電事業者も、やはり経済的動機に基づく経営責任が基本となり、予め規定された制度・ルールの範囲でその責務を完遂する責任(例えば同27条の28の供給約束分の発電義務など)はあるものの、本来は規制・ルールや契約締結上求められている義務の遂行以上に問われる責任はなく、「緊急時には、経済的負担も顧みず、考え得る対策は全て打て」などと言われるべき筋もない。事業者は、電気通信事業における「ベストエフォート」と同様、トラブルなどの発生時には対処可能な範囲で最善努力を尽くすのみである。

一般送配電事業者は、その供給区域の託送供給、電力量調整供給、最終保証供給などを正当な理由がなければ拒んではならない(同第17条各項)。しかしこれらの供給応諾義務の遂行の前提として、電気の品質維持が達成されている必要がある。このため、電圧及び周波数の値を一定の値に維持する義務を負う(同第26条)のだが、垂直一貫体制で各種の手段を自ら持ち得た旧一般電気事業者の送配電部門とは異なり、その遂行には別途制度的な担保や契約行為などが必要となる。

震災・事故後の一連の規制改革で規制当局の役人が事務局長を務めるようになった広域的運営推進機関は、需給の監視や需給改善のための指示(同第28条の40、44)ができるが、今般のように全国的に厳しい状況にある中では対処策も限られ、万が一の供給支障発生時には、あれこれ机上で指示するだけでは本質的な責任までは負いきれまい。

他方、主管官庁の経済産業省(大臣)、エネ庁は、市場・制度の整備に権限を有するが、行政の無謬性の慣例からも、また実際問題として生じた事象との因果性が検証困難であることからも、制度設計の責任は論じられないだろう。ただし経産大臣には、電気事業者の供給計画への変更勧告や命令(同第29条5、6)や、災害対応時の供給命令等(同第31条各項)の権限がある。もし今般の事象で大規模な停電などが発生していた場合は、不作為の責が問われたかもしれない。

善意に頼ることはできない

縷々(るる)述べてきたように、現行制度の下では、偶発的な外的事象が生じた際に、各プレイヤーに対して、それぞれに課された規制・ルール以上の責任を問うわけにはいかないし、また善意に頼った努力を期待することも適当ではない。旧一般電気事業者が担っていたような特定の事業者が一切の安定供給責任を負うという仕組みはもはやないのだから。

仮に今後、こうした需給逼迫が大規模な供給支障につながることがあったとしても、電気事業者の経営陣がフラッシュの前で頭を下げ、果ては責任を取って辞任するという構図は過去のものとなっていよう。その際、世間は果たしてどう溜飲を下げればよいだろうか。無理やり犯人捜しをしてみても詮無いことである。

穴山悌三 長野県立大学 グローバルマネジメント学部 教授

1987年東大経済学部卒、東京電力入社。96年東大大学院経済学研究科修士課程修了。2019年から現職。専門は公益事業論、規制の経済学、エネルギー経済、産業組織論。

『鬼滅の刃』も焼け石に水 苦境「朝日」がコロナで混乱


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

漫画『鬼滅の刃』(集英社)の人気がすさまじい。菅義偉首相も国会で、「全集中の呼吸で答弁させていただく」と登場人物のセリフを口にしたほどだ。


読売12月5日「『鬼滅』最終巻、無限の感動」は、前日に発売された最終23巻について「全国各地の書店で多くのファンが列を作った」と伝えている。漫画にあやかって、4日の新聞も売れたらしい。記事に「集英社は読売、朝日、毎日、産経、日経の全国紙5紙の4日朝刊にそれぞれ違う主要人物の全面広告を掲載。東京都内のコンビニでは、5紙をまとめ買いする客や売り切れる店も目立った」とある。


広告は各紙とも計4ページ。夕刊がない産経を除く4紙は3日夕刊にも全面広告1ページが載った。大盤振る舞いである。部数と広告の減少で新聞の経営は厳しい。臨時広告収入は「干天の慈雨」といえよう。


新聞の苦境を伝えるのが、同1日朝日「朝日新聞社中間決算、9年ぶり赤字」である。「売上高が前年同期比22.5%減の1390億9000万円」だったという。翌2日共同「朝日新聞社300人希望退職検討」も残念な事態だ。


そうした社内の混乱が影響しているのかどうか、新型コロナウイルスを巡る同3日朝日「ワクチン無料、改正法成立、接種は『努力義務』」は、いただけない。「努力義務」に重要な前提条件があることが書かれていない。


同日毎日「改正予防接種法成立、ワクチン費用、国が負担」は対照的だ。「(ワクチンの)有効性や安全性が十分に明らかでなければ接種義務を適用しない」と改正法にある条件を明記している。「開発が先行するワクチンは人工遺伝子を使うなど新技術を活用しており、予期せぬ安全性の問題が生じる懸念」があるからだという。


同日読売「ワクチン接種、国が全額負担、関連法成立」も、「ワクチンの有効性や安全性が十分確認できる場合には、国民には原則として、接種する努力義務が生じる」と丁寧に説明している。


同日朝日は、関連記事「英、ワクチン承認、ファイザー製、来週から接種」で、「(英政府は)接種は義務化しない方針」と強調する。両方を読むと、日本政府は強権的と誤認されかねない。


同じ朝日の子宮頸がんワクチンを巡る報道を思い出す。

子宮頸がんは30歳代後半の女性に多い。日本では毎年、約1万人が罹患し、約3000人が亡くなる。ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が主要因とされ、欧米先進国を中心に、HPV感染を防ぐワクチンの接種が男性にまで拡大した。日本では接種率が極度に低い状態にとどまっている。


深刻な副作用があるワクチンとの印象が広がったためだ。
帝京大の研究グループが一連の新聞報道を検証して原因を探り、2016年、米感染症学会の専門誌に論文を発表した。


契機は13年3月8日の朝日記事だったという。「ワクチンを接種した少女に歩行障害や計算障害が生じている」と報じ、その後も類似する報道が続いた。政府は約3カ月後、このワクチンの積極的勧奨の中止に追い込まれた。


脳には多様な機能がある。計算機能に特異的な副作用は起き得るのか。ほかのワクチンで例はなく、接種との因果関係は疑問視されている。そのほかの副作用報道も医学的には裏付けられていない。


この間も、ウイルスは跋扈し命が失われている。新型コロナで同じ轍を踏む事態は避けたい。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

使用済み燃料の貯蔵問題 業界挙げてへ戦略転換


電事連が共同利用を検討する中間貯蔵施設

関西電力が頭を痛めている使用済み核燃料の中間貯蔵問題。電気事業連合会が打開策を打ち出した。

2020年12月17日、池辺和広電事連会長は梶山弘志経済産業相と面談。青森県むつ市の中間貯蔵施設「リサイクル備蓄センター」を電力各社が共同利用する検討を行う考えを報告した。梶山経産相も協力の意向を述べ、翌18日に清水成信電事連副会長と共に小澤典明首席エネルギー・地域政策統括調整官が青森県、むつ市を訪れ、市では宮下宗一郎市長に説明を行った。


福井県は関電に対して、西川一誠前知事の時から中間貯蔵施設の県外立地を主張。候補地を示すよう要請していた。19年に就任した杉本達治知事も西川氏の方針を継承。運転開始から40年を超える関電の原発の再稼働の条件として、20年内に県外候補地を提示するよう求めた。
関電は候補として以前からむつ市の備蓄センターに注目。だが18年に計画案が浮上すると宮下市長が強く反発、断念した経緯がある。18日の面談でも清水副会長らに対して、市長は「むつ市は核のゴミ捨て場ではない」と不快感をあらわにした。


共同利用は、関電以外の電力会社にもメリットがある。県・市への案の提示について、業界は「国の介在を求めた」(業界関係者)という。備蓄センター運営会社に出資する東京電力、日本原電以外の使用済み燃料搬入に難色を示す宮下市長だが、以前、「国策への協力はやぶさかではない」と述べたこともある。国が再処理事業など核燃料サイクルの実施を約束することで、「時間はかかるが、市が受け入れる可能性は高い」(同)との見方がある。

【記者通信/12月18日】関電がカーボンニュートラル宣言 中間貯蔵は「地元理解が前提」


関西電力の森本孝社長が18日、電気事業連合会で記者会見を行った。記者の質問は、前日に明らかになった中間貯蔵施設(青森県むつ市)の共同利用案に集中。森本氏は「あくまで(むつ市の)地元の理解が前提」と繰り返し、時間をかけ理解を求めていく考えを明らかにした。年内に県外候補地の提示を40年超原発再稼働の条件とする福井県には、共同利用案の検討を始めたことを説明し、理解を求めるもよう。また会見で森本氏は、2050年までに温室効果ガス排出をなくす方針を表明した。電事連も同日、電力各社の社長を委員とする「50年カーボンニュートラル実現推進委員会」を設置。業界を挙げてカーボンニュートラルを目指す方針を決めている。