社内に衝撃が走った――。電力販売のカルテル問題で会社に損害を与えたとして、中国電力が8月3日に清水希茂前会長と瀧本夏彦前社長、渡部伸夫元副社長の旧経営陣に損害賠償を求めて広島地裁に提訴すると決めたからだ。公正取引委員会が同社に命じた課徴金は707億円。中国電力は取り消し訴訟を起こす方針だが、仮に減額されても億円単位の課徴金が残る。それを損害賠償として請求されてもサラリーマン経営者が支払える額ではない。元上司のような人物に賠償請求することになり、「まさか本当に提訴するとは・・・」と嘆く社員も多いという。
事の発端はカルテル問題で会社に損害を与えたとして、一部の株主が6月に現旧取締役22人の責任を追及しろと中国電力の監査等委員会に提起したことだ。そのうち3人は監査等委員を兼務するため取締役会が提訴するかどうかを検討。残り19人の関与度合いを精査するため、監査等委員会は社外の弁護士に関係者の意見聴取や調査を依頼した。
中電トップ自らが情報交換
調査の結果、瀧本氏と渡部氏は営業活動方針に関して関電との情報交換を直接行っていた。情報交換したという部下からの報告も受けたが制止せず、むしろ容認していた側面も見られたという。清水氏も同様の報告を受けたものの、是正する行為を取らず容認していたと社外弁護士は結論づけた。
調査結果を受けて、監査等委員会は8月3日に旧経営陣を提訴するかの議論を行った。4人いる監査等委員のうち3人は社外。上記のやり取りがコンプライアンスに反していたと受け止めたのだろうか。少なくともこの3人が、提訴すべきと主張したとみられる。残り19人の現旧取締役についてはカルテルに関与した形跡がなく、提訴しないと判断した。
旧経営陣3氏に対する損害賠償額は精査中としている。公正取引委員会から支払い命令を受けた課徴金額に不服があるため、中国電力は取り消し訴訟を起こす方針。裁判の行方によっては減額される可能性もあるため、その結果が出てから損害賠償額を固める考えだ。
現時点では調査にかかった弁護士費用6000万円を損害賠償額に加える。全面勝訴すれば課徴金は消え失せるため、旧経営陣に対する損害賠償も発生しない。ただ減額にとどまる場合、損害賠償額は数億円は下回らないと見られる。
それでは、裁判の結果で損害賠償を請求することが決定したらどのような流れになるのだろうか。まずは会社として取り立てる義務が生じる。それを怠ると、その時の取締役が代表訴訟の対象となるため、やらざるを得ない。
銀行口座差し押さえも
といってもサラリーマン経営者が億円単位の賠償金を支払えるわけもなく、自己破産手続きを行うことになるだろう。支払いに応じない場合は自宅を競売に掛けたり銀行口座を差し押さえたりする。資産として残せそうな物品も手放す必要に駆られるだろう。一方で年金は差し押さえ対象から除外されているので手元に残る。身ぐるみはがされるわけではないとはいえ、あまりにも酷な仕打ちといえよう。
カルテルを行ったとして課徴金を食らったわけだから、関電と情報交換を行っていたことを止められなかった経営幹部の責任は重い。ただ、中国電力側は関電の見解を聞いていただけで、それに対して意見や回答をしたわけではないという。関電側の言い分を上司に報告しただけであり、この行為が独禁法違反に抵触すると当時は受け止めなかったようだ。
今回の案件は、東芝の粉飾決算事件ほどの悪質性も見られない。それなのに巨額の損害賠償を課せられるのは、その前提となった独禁法違反などの制度にも問題点があるのではないだろうか。