脱炭素化のあおりを受けて、安定供給に資する火力発電の立ち位置は揺れている。
資源エネルギー庁、電力広域的運営推進機関の担当者に火力の課題と展望を聞いた。
【インタビュー:和久田 肇/資源エネルギー庁 資源・燃料部長】
新たな供給源確保は一層重要に 環境整備進め調達リスク低減図る
―燃料調達の課題について、どのように捉えていますか。
和久田 火力燃料のうち天然ガスについては、第7次エネルギー基本計画の複数シナリオの一つ「技術進展シナリオ」で2040年度の需要が約7400万tに達すると見込んでいます。昨年度の輸入実績(約6600万t)を上回る水準であり、既存の上流権益の減退や契約の満了を踏まえると、新たな供給源の確保が一層重要になります。その際には、供給国における政策変更などのカントリーリスクに備えるため、供給源の多角化を進めるとともに、仕向地条項の有無や複数のシーレーン確保といった契約条件や輸送ルートの多様化により、調達リスクの低減を図る必要があります。政府としは、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)による出資や債務保証といったファイナンス支援を通じ、事業者が新規契約やプロジェクト参画に踏み出しやすくなるよう環境整備を進めていきます。
―今後、LNGは供給過剰の局面に向かうのでしょうか。
和久田 30年に向けては、各国で多くのLNGプロジェクトがFID(最終投資決定)済み、FID取得を目前に控えており、需要を上回る供給量が確保されることが見込まれます。一方で、全てのプロジェクトが計画通り進むとは限らずカントリーリスクをはじめとするさまざまなリスクがあり、想定される程十分な供給が得られるかは不透明です。また30年以降需要が増加すれば、将来的には供給不足になる可能性があります。
―LNGの供給拡大を見越して、スポット市場に傾斜した調達にシフトしようとする動きも出てくるのではないでしょうか。
和久田 その点は極めて慎重に判断すべきです。現在計画中のLNGプロジェクトが全て予定通り立ち上がる保証はありませんし、需要動向も依然として不確実です。IEA(国際エネルギー機関)は、公表政策シナリオで当面は需要が横ばいになると予測していますが、さまざまな要因により、需要が上振れする可能性に言及しています。スポット市場に過度に頼るのではなく、上流権益への参画や、長期契約による調達を基本とし、安定的な確保を志向すべきです。
―石炭はどう見ていますか。
和久田 現時点では安定供給性や経済性に優れた重要なエネルギー源の一つです。課題はCO2排出への対応ですが、CCS(CO2回収・貯留)などの技術が進展すれば、それをマネージすることは可能です。そうした中、ダイベストメントの動きがあることは懸念しています。
ダイベストメント広がる 資金の確保が課題
―需要減を上回るスピードで供給が先細る可能性は。
和久田 現時点で直ちにそうした問題が顕在化しているわけではありませんが、今後のマーケット動向については注意深く見ていく必要があります。現在の懸念の一つがファイナンスの問題です。ダイベストメントの動きが広がる中、必要な資金をどう確保していくかが課題です。環境負荷の低減を図りつつ、需要があるところには確実に供給が届くよう、金融面を含めた環境整備を進めていきます。
非効率な石炭火力を中心にkW時を減らしていく方針ですが、石炭の安定供給は引き続き重要として、石炭の自主開発比率については、40年に60%を維持することを掲げています。一般炭の調達環境の変化に伴い、自主開発比率は低下傾向にありますが、比較的長期の複数年ターム契約は安定的な調達に資すると考えており、今後は自主開発比率に加え、複数年ターム契約の比率を、安定供給のための補完的な指標として捉え、必要な施策を検討していく方針です。
その一環として、JOGMECの支援制度を見直しています。具体的には、海外企業をジョイントベンチャー(JV)の相手として共同探鉱を行う「JV調査」を導入しました。従来は、日本企業が探鉱の後に権益を取得することが前提でしたが、JV調査の制度改正を行い、探鉱段階でJOGMECが複数年タームの生産物引取権を確保し、それを日本企業に引き継ぐ形を構築しています。これにより、上流権益に加え、生産物の調達を複数年ターム契約で支援対象とする新たなやり方へと移行しました。石炭の開発やファイナンスの在り方が大きく変化する中でJOGMECの支援も柔軟に対応していく必要があります。契約の多様化が進む中、そうした変化に対応できる支援体制の構築も進めているところです。
わくだ・はじめ 1992年通商産業省(現経済産業省)入省。2018年資源エネルギー庁資源・燃料部政策課長、20年石油天然ガス・金属鉱物資源機構(現JOGMEC)副理事長などを経て24年6月から現職。