【特集2】「マルヰ会」が全国一斉訓練 予測不能な救援出動に万全の備え


【岩谷産業】

供給設備の点検や復旧を担う災害救援隊が対応力を磨いている。
今後も出動実績を積み上げ、有事のインフラを守り続ける構えだ。

災害の発生時に素早く現場に駆けつけ、ガス機器の点検や漏えいの検査を行う―。岩谷産業のLPガス販売店組織「マルヰ会」はこのほど、そんな役割を担う「災害救援隊」の全国一斉訓練を行った。ガスのエキスパートが有事の対応力を磨く場だ。

今回の一斉訓練は全国73カ所で一斉に取り組んだもので、計約1900人が参加。救援隊員を出動させる側と被災地に受け入れる側がそれぞれ円滑に災害時に対応できるよう、双方の体制や動作を確認した。
関東ブロックの訓練は、「茨城LPGセンター」(茨城県那珂市)などの各拠点で実施。参加者は、点呼や通信の確認を手始めに多彩な訓練に順次臨み、機敏な動きを披露した。

災害救援隊による訓練

防災工具を細かくチェック 非常用発電機の動作確認も重視

参加者は例えば、防災工具のチェックリストに沿って、合計で35に上る工具を一つひとつ点検。ガス漏れの訓練にも臨み、穴の開いた配管をナイロンテープで補修した。テープを引っ張りながら隙間なく漏えい箇所をふさぐことで、ガス漏れを止める。加えて、停電時もLPガスの充てんが行えるようにする非常用発電機の動作確認も行った。

参加者は保安講習も受講。過去のガス事故の分析結果や関連法の改正情報を共有した。関東支社長の和田直樹氏は「自然災害は未然に防ぐことは難しい。いかに迅速に対応できるかが重要だ。定期的な訓練の意義はそこにある」と呼びかけた。

災害救援隊は、災害時に LP ガスの復旧活動を迅速に行う全国規模の防災組織で、約3600人の隊員で構成。現在、約1400の会員販売店から、LPガスの有資格者が登録している。発足したきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災だ。以来、東日本大震災や熊本地震など約30件の事例で出動した。

1月の能登半島地震では、延べ205人の隊員を派遣し、顧客のガス設備の安全点検や修繕に携わった。活動期間は1月8日~4月18日の42日間で、点検・対応数が3681戸に達したという。年1度の頻度で重ねてきた一斉訓練。今後も訓練を重ね、大規模災害などに備えた防災体制の強化につなげたい考えだ。

【特集2】今につながる30年前の経験 関係者が明かす当時の奮闘記


1995年の地震発生直後、都市ガス・LPガス業界は数々の工夫を凝らしながら復旧に向けて奮闘した。
震災から30年の節目が近づく今、この経験から得られた教訓と、その後の取り組みを振り返る。

【大阪ガス】

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被災者から激励を受けることも
写真提供:大阪ガス

「想定していた規模を上回る地震に、受けた訓練の内容では対応できない部分も多かった」。大阪ガスの供給管理部に所属していた中嶋規之氏(41)は、阪神・淡路大震災に直面した経験をこう語る。1995年1月17日、震災発生当日の朝、始発電車で何とか大阪市淀屋橋の本社ビルに出社した中嶋氏は「西に向かい被害状況を確認せよ」との指示を受けた。兵庫県からの連絡が途絶え、被災の全容がつかめない中、携帯電話1台を抱え、車で現地へ向かった。大阪を抜け兵庫に入ると、景色は一変。がれきの山が視界に広がる中、現場に到着すると、ガスの匂いが立ちこめ、想像を絶する光景が目の前にあった。

阪神・淡路大震災では、兵庫県の神戸、西宮、芦屋、宝塚の各市と淡路島で国内観測史上初の震度7を記録。約24万棟の建物が全壊または半壊し、交通網やライフラインが寸断された。
当時、大阪ガスでは地震発生時に復旧担当するエリアを事前に決めており、復旧のめどが立ったエリアの職員から順次、未復旧エリアに応援に向かうというシナリオで訓練を行っていた。しかし、震災はそれが通用しないほどの規模で、特に兵庫および近隣エリアは自らの復旧対応で手一杯の状況だった。


震災発生からわずか6分後には本社対策本部が、当日の正午には今津事務所(西宮市)に現地対策本部が設置された。現地対策本部の役割は、被害状況の把握や具体的な復旧計画の立案に加え、行政機関やマスコミ対応、全国から駆け付けた応援隊を受け入れる組織編成まで多岐にわたった。現地対策本部に配属された中嶋氏は「当初は白紙の状態から組織を立ち上げた」と振り返る。

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導管に侵入した水と泥は復旧作業を妨げた
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被災者が大いに喜んだ仮設浴場設備

延べ21万4000人が集結 立ちはだかる泥と水

ガス供給源である泉北製造所(堺市・大阪府高石市)と姫路製造所(兵庫県姫路市)、ならびに約490kmに及ぶ高圧導管は無事だった。しかし、災害に強いポリエチレン(PE)管の普及が進んでいなかった低圧導管網の破損は深刻で、老朽化したねじ継手が寸断された。最終的に供給を停止したのは約85万7400戸。都市ガス事業始まって以来の規模だった。


供給停止には、被害状況に応じて部分的に停止可能な55の地域ブロックを活用した。停止したブロック内では、顧客3千~4千戸単位でさらに分割し、低圧導管の復旧作業が進められた。現地対策本部長の上林博氏(56)は「75年からの天然ガス転換時にブロックを分割して対応した経験と、当時設置した分割用のバルブがこの復旧作業を円滑に進めた」と語る。
復旧作業は85日間にわたり、大阪ガスの6000人に加え、全国の都市ガス事業者や日本ガス協会から最大時は3700人の応援隊が派遣された。延べ21万4000人が結集し、都市ガス事業者が一丸となって作業に当たった。


復旧で最も大きな障害は、ガス管内に入り込んだ水と泥だった。地震による水道管の破損や液状化現象で、大量の水や泥が広範囲にわたりガス管内に流れ込んでいた。現場の修繕状況を基に復旧計画などを作成した復旧隊の森田徹氏(32)は「現地対策本部から西に進むほど水道管の破損が多く、ガス管への水の流入被害が拡大していた」と述べる。
低圧導管の復旧では、各家庭のメーターのガス栓を閉じ、配管や設備を一軒ずつ確認する手順が採られた。内管修繕隊で応援隊の手配を担当した山口睦宏氏(33)は「閉栓依頼は全て紙で対応しており、膨大な顧客リストを参照しながら作業を進めるのに苦労した」と思い返す。兵庫エリアではピーク時に330班の応援隊が集まり、1日当たり300件ほどの閉栓依頼を各班に指示していたという。


そこで、本社対策本部は現場を考慮し、対応方針を変更。顧客リストの管理を取りやめ「目に付くガスメーター全てを閉める」という方針に切り替えた。さらに、閉栓したメーターには閉栓シールを貼る方法も採用し、一目で確認できるようにしたことで効率が飛躍的に向上した。
資機材の調達も一筋縄ではいかなかった。現場では低圧導管の被害が各地で発生し、資材対策隊による導管接続用のソケットの大量発注が相次いだ。資材対策隊の西浦克敏氏(25)は「資材の依頼がFAXで次々と届き、一日中資機材の発注に追われた」と述懐する。入社1年目だった西浦氏は、発注作業をこなしながら部品の役割や名称を覚え、「在庫がない場合は代替品を工夫して使うなど柔軟に対応した」と説明する。


2月下旬には、自治会や町内会を訪問し復旧見通しを説明する「顧客隊」が活動を開始。復旧状況の説明に加え、カセットコンロや仮設風呂・シャワーの設置や利用案内も行うなど、住民の立場に立った企画も進めた。顧客隊で現場スタッフを手配した三浦一郎氏(32)は「長時間待たせたはずの住民から感謝の言葉をもらい、現場に向かった隊員が涙を流して戻ってきた」と回想する。

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緊張感漂う現地対策本部内(兵庫県西宮市)
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現場では臨機応変に対応した

阪神以降の対策が効果発揮 一層の強靭化が進行中


大震災を機に、業界は地震対策を強化した。ガス導管事業を承継した大阪ガスネットワークでは、供給停止する範囲を抑えるためにさらなる供給ブロックの細分化を図り、当時の55ブロックから現在は727ブロックに分割。被害のないブロックは供給を継続するとともに、供給停止ブロックを最小限に抑えることで早期復旧につなげる。
加えて、低圧導管網にはPE管を積極的に導入し、新設低圧管には原則PE管を全数採用。PE管は震災時の約1200kmから約1万8300kmに延長し、耐震性が大幅に向上した。
こうした取り組みが功を奏し、2018年6月、大阪府高槻市などで最大震度6弱を記録した大阪府北部地震では、発災から1週間で完全復旧することができた。
阪神・淡路大震災は都市ガス業界にとって未曾有の大災害であったが、多くの教訓を得ることとなった。30年を経た今、この経験を糧に業界は前進を続け、さらなる強靭化を追求している。

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多くの応援隊が駆け付けた

【特集2】供給エリアの全域をイノベーション 高度な遠隔検針で業務効率アップ


【東京ガスネットワーク】

ガス大手や関連機器各社は有事の暮らしを支える事業を強化している。
地震や気象災害が頻発する中、多様な最新技術の社会実装が全国で進みそうだ。

少子高齢化による労働力不足やインフラ保安対策の強化、検針業務の効率化――。東京ガスネットワークは都市ガスを巡るこうした課題を解決しようと、高機能のスマートメーターを供給エリア全域に広げることを目指している。

同社が普及を狙うスマメは、従来のマイコンメーターに無線機能を付加した都市ガスの次世代型計測器だ。これにより、「遠隔検針」「遠隔操作」「遠隔データ収集」という三つの機能を実現できるようにした。災害時に高度な保安の役割を発揮できるようになる。

スマメの開発は、2010年代から始め、19年3月に一部地域で先行的に導入。その後、徐々に導入範囲を広げてきた。23年12月までに合計で70万台程度を設置した。こうした機器の安定運用に必要な通信環境も、通信会社と連携して整備。台数が増えても運用面で問題ないことを確かめ、エリア全域への導入に踏み切ることにした。

スマートメーター推進部スマートメーター企画グループの青木正博・企画チーム課長は、「現在設置している都市ガスメーターの検定満期の取り換えや新設時のタイミングでスマメを設置し、30年代前半までの導入完了を目指している」と意欲を示している。

警報情報を送信 無線機能が威力発揮

具体的な機能の一つが、一部のスマメに実装する「感震センサー」で、地震の揺れ強度を高精度に検知できるようにした。異常なガス圧力などを検知すると自動的に遮断し、警報情報を送信する。仮に災害の影響でガス供給が停止した場合、復旧に向けて人手を介した操作を進める必要あった。
ユーザー自ら手引き書を片手に復旧操作を進めるほか、東京ガス側が現場に訪れて操作をサポートするケースも見られたという。青木氏は「ガスが停止されると問い合わせがたくさん来る。従来型が抱える課題を解決できると期待している」と説明する。
同社は、スマメの運用で他社との連携にも注力。保安やレジリエンスの強化といった社会課題の解決を一段と後押しする使命感に燃えている。

スマメ運用に期待する青木氏

【特集2】法人車両のドラレコを活用 AIを活用した新保安システム


【岡山ガス】

業務効率の改善に向けて、DXの導入を検討する都市ガス事業者が増えてきた。そうした中、岡山ガスはこのほど、保安業務の向上に寄与する「AI道路工事検知ソリューション」をNTTコミュニケーションズ(コム)と協力して開発した。

都市ガスや電気、通信、上下水道、道路などのインフラ工事では着手前に事業者が相互に情報を共有し、設備の破損事故を防止するよう努めている。岡山ガスではこの情報共有に加え、独自に道路情報を収集するため、社用車でエリア内のパトロールを行ってきた。

河原勲供給部長は「道路情報を精緻に知ることは安定供給を維持するために重要だ。同ソリューションは社用車での巡回作業を減らしながら、道路情報を取得できるため、保安の精度向上と同時に、業務改善、コスト削減、人材不足への対応に寄与する」と説明する。

NTTコムの技術と融合 最新の道路状況が判明

今回のソリューションは、NTTコムのサービス「モビスキャ」を活用する。モビスキャはNTTドコモの5G回線で通信しながら、街中を走行するバスやタクシーなどのドライブレコーダーに収録した映像データを効率的に収集するサービスだ。岡山ガスはモビスキャのデータ活用パートナーとして、企画段階からAIの学習担当を担い、実証試験を重ねるなど検知精度の向上に協力してきた。

同サービスでは、映像データから道路とその近辺での自社以外のインフラ工事をAIが判定し、必要な情報のみを抽出してサーバーに蓄積する。また、AI技術がデータ容量を削減し、個人情報の保護を行った上で有効なデータのみを受領する仕組みになっている。
岡山ガスでは同サービスと既存の「保安管理システム」を連携させ、工事の未知/既知の判定をしながら、工事の危険度レベルを把握することで、より効率的な現場管理を行っている。

モビスキャにおいては、バスやタクシーなどの他に宅配業者や貨物トラック、営業車なども、ドライブレコーダーとカメラを搭載して映像を提供するモビリティパートナーとなり得ると考えている。この採用台数が増えると、より多くの高品質な道路映像データの提供が可能になり、リアルタイム版「グーグルストリートビュー」のようなソリューションが構築できる。これを利用すれば、高齢者の徘徊や子どもの通学路の監視、交通情報の高度化など、インフラ保安にとどまらず、さまざまな用途に活用できると想定する。

同社では、他の点検業務に利用しているドローンにもAIカメラを搭載し、収集する画像を増加することや、工事情報だけでなく、地域の顧客の安全性を向上させるさまざまなサービスなども検討中だ。
「当社は新技術をまず試して見る企業文化がある」(河原供給部長)。今後も、新技術を積極的に利用して新たなサービスやソリューションの創出に取り組んでいく構えだ。

AI道路工事検知ソリューションで監視する

【特集2】LPガスの安全をメーターで維持 集中監視システムも早期に構築


【東洋計器】

第1世代のスマートメーター(スマメ)の設置を終えた電力業界と、スマメ導入を進める都市ガス業界。両業界が検針業務の効率化や災害からの早期復旧の観点でスマメの導入を促す中、LPガス業界も着々とメーターで実績を積み上げてきた。実は同業界はいち早く、通信網を通じて「集中監視」と呼ばれるシステムを構築してきたのだ。

LPガスの消費量、地震によるLPガス容器の揺れ、ガス漏れによる異常検知など、販売や保安に関する細かなデータをメーターから一括して収集するシステム、まさに「スマメの源流」ともいえる仕組みを手掛けてきた。このLPガスメーターの分野でトップシェアを誇るのが、長野県松本市に拠点を置く東洋計器だ。

同社による集中監視の歴史は、昭和にさかのぼる。「固定電話のアナログ回線から始まり、PHS、3G、4G回線と通信技術の発達に伴いシステムを改善し、運用コストを低減してきた」(総合企画部)。
電力や都市ガス業界と大きく異なる点は、メーターメーカーが大きな役割を果たしていること。メーカーが集中監視のインフラを構築し、LPガス事業者・販売店がそのインフラを利用する構図だ。
それぞれのエネルギー事業形態や事業法が異なるため、一概には比較できないが、メーカーの存在感が際立っているのがLPガス業界である。

そんな業界で存在感を発揮する同社は、土田泰秀会長の編著のもと「計量の価値を高めて~東計会41年をふりかえる~」を今年発行した。この内容をひも解くと、大震災のたびに集中監視が保安で威力を発揮してきたという歴史を垣間見ることができる。

東日本大震災や阪神淡路大震災の発生後に実施したアンケートでは、「ガスの元栓を閉めていたことを忘れていた。ガスが使えなくなった理由が分かり安心した」(消費者)、「遮断した顧客に遮断弁を復帰してもらい、出動が1件もなかった」(販売店)、「ガス容器からガス機器までをつなぐ配管の間の漏れを発見して対応できた」(販売店)といった声が寄せられた。

他産業への広がり 都の水道局でも活用

現在主力とする製品が「IoT―R」だ。集中監視システムに対応する最新の通信端末で、18年に販売し、累計で400万台出荷した。KDDIの携帯電話網を活用し、検針値やガス漏れ通報などを同社のマルチセンターに自動通報する。

さらに遠隔での開閉栓も可能だ。最近では都市ガスのほか、灯油や産業ガス、水道といった他のユーティリティーでも利用されている。

「東京都水道局に納入し、検針の合理化や効率的な漏水管理を支援している。全国各地で老朽化に伴う漏水や設備維持に課題を抱える水道事業にとって都の取り組みは参考になると思う」と総合企画部の担当者。保安や災害対応のみならずインフラの維持でも、今後もメーターと通信端末が大きな役割を担っていきそうだ。

主力製品の「IoT―R」

【特集2】給湯器が気象情報と連動 事前にタンクユニットに貯湯


【リンナイ】

リンナイは10月21日、電気ヒートポンプとガス給湯器を組み合わせたハイブリッド給湯器「ECO ONE(エコワン)」に災害対応機能を追加した。

昨今、地球温暖化の影響で、気象災害は頻発化・激甚化の一途をたどっている。ひとたび自然が猛威を振えば、最初に直面する困難の一つは停電だ。家庭用ガス給湯器の多くも、電気が通っていなければお湯を沸かすことができない。そのような停電のリスクに備えて開発されたのが、気象情報と連動し、ハイブリッド給湯器のタンクユニットに自動で湯を沸き上げ貯湯する「気象警報タンク沸き上げ機能」だ。

気象予報精度に定評のあるウェザーニュース社と連携した専用アプリに、あらかじめ自分の居住地域のほか、警報や注意報などを登録しておく。すると、その警報や注意報が発令された時に、自動的に湯を沸き上げ、タンクユニットに貯湯しておくことができる。エコワン最大のタンクユニットは160ℓ。量の面で不安を感じる場合には、浴槽に自動で湯はりする「気象警報湯はり機能」も設定可能だ。4人家族に必要な1日の生活用水は約400ℓといわれており、タンクユニットに160ℓ、浴槽に200ℓ、合計360ℓの湯を確保することができれば、不安はかなり払拭されるに違いない。

併せて、タンクユニットから直接湯水を取り出せることも災害時には心強い。取水口のバルブをひねって簡単に取り出せるだけでなく、内径12 mmまたは15 mmの市販のホースを接続すれば、タンク内の湯を他の場所で使うことも可能になる。被災地では、特に冬場にお湯が使えれば、人々はほんの一瞬でも心の緊張を解くことができ、活力も与えてくれる。

故障を予兆する機能も追加 進化は次のステージへ

今回、機器からデータを取得し、故障を予兆して伝える機能も追加した。熱源機の稼働状態をリンナイクラウドサーバーへ自動連携し、リアルタイムでデータを蓄積。独自のアルゴリズムで熱源機の状況を複合的に分析した上で経年劣化を伝える。

これまで一般的には、給湯器は突然故障し、「壊れるまで使うモノ」、そして壊れたら「勧められた通りにすぐ交換するモノ」だった。しかし、ユーザーは製品寿命の可能性を事前に知ることで、冷蔵庫や掃除機のような家電と同じように、「自分で調べてから自分が納得して購入するモノ」に変わっていくことになるであろう。補助金15万円も追い風となり、給湯器は「どれも同じ」から、機能や効率を比較した上で自分で選択するという次のステージへと進化していく。

同社営業本部の柴田毅氏は、「エコワンは、今まさに時代に求められている省エネと災害対応もカバーできるようになり、レジリエンスがさらに強化した。今後は災害時にも人々の生活に安心・快適さを届け、『熱』と『暮らし』というリンナイが創業以来取り組んでいるテーマを中心に社会貢献を続けていきたい」と語る。

気象情報を受け取る「リンナイアプリ」

【特集2】認知が足りないCO中毒事故 火災対策と一体での取り組み必要


【新コスモス電機】

一般家庭で地震による震災対策に加えて欠かせない取り組みが火災対策だが、これに伴い発生する可能性のある事故が一酸化炭素(CO)中毒事故だ。COは不完全燃焼によって発生し、無色無臭で人間には気付けない。高濃度のCOを短時間でも吸い込むと数分で死に至る恐れがある。微量でも長時間吸引すると血液の酸素運搬能力が低下し、頭痛や吐き気、さらには昏睡状態に陥る可能性がある。

この中毒事故について新コスモス電機の十河泉・広報部長は次のように解説する。「総務省の公表資料によると建物火災の死因で一番多いのはやけどによるものではなく、CO中毒によるもの。さらに、データ上はやけどとひとくくりにされて認識されていても、CO中毒で運動機能を失い被災現場から逃げ遅れて焼け死ぬケースがあるとも言われている」

普段から換気していれば事故を防げるが、災害はいつ襲ってくるか分からない。また昨今の住宅は気密性を高めている。省エネ性能を高めるには有効だが、CO中毒対策では裏目に出る。気密性の高い住宅内で換気をせずにストーブを使い続ければ酸素濃度が減り、不完全燃焼を起こす恐れがある。

ルート開拓にも注力 電池切れ時期に周知活動

「日本では住宅用火災警報器の設置が10年以上前に義務付けられたが、住宅火災の死者数はそれほど減っていない。少しでも多くの人にCO中毒の怖さを知ってほしい」(同)。そうした中、新コスモス電機は2022年に、従来機の機能を向上させた住宅用火災警報器をリリースした。CO検知機能を付けた火災警報器「プラシオ」だ。従来機と同様、火災に伴う煙とCO検知のハイブリッド式だが、プラシオでは性能が高まった。

最大の特徴は微量のCOを検知すると煙センサーの感度が2倍になる設計にしたこと。「煙よりも先にCOが発生するケースがある」という独自の実験結果を踏まえ開発したもので、これにより火災の発生をより早く知らせ、それに伴う事故を少しでも減らす工夫だ。この機能は、総務大臣より特例基準(CO反応式)として認められている。

同社では、CO中毒について一般ユーザーの認知を深めようと販売ルートの開拓にも注力している。これまで同社の家庭用警報器はBtoBビジネスが中心で、ガス事業者向けルートが主流だったが、プラシオについては、量販店などを通じたルートを新たに開拓した。一方、「これまでのようにより多くのガス事業者さまにも採用してもらえるように働きかけている。エンドユーザーと接点機会のあるガス事業者さまは、火災警報器の販売でも提案力を持っていると感じている」(同)

火災警報器は電池駆動で寿命は約10年。設置が義務化され導入されたものが、電池切れのタイミングを迎える際、消防や業界は電池を交換するのではなく機器ごと交換するよう周知活動をしているそうだ。交換の機会に、より安心で命を守るCO検知機能が付いた火災警報器の存在を知らしめてほしい。

CO検知で煙感度を高める

【特集2】燃料供給の拠点を支える立役者 多彩な展開で事業継続力の強化担う


非常用発電機から防災ボックスまで製品をそろえる。
学校や病院などSS以外の需要にも応える構えだ。

【タツノ】

サービスステーション(SS)向けガソリン計量機を手掛けるタツノは、災害に伴う停電時にも車両のバッテリーで駆動する可搬式計量機など、事業継続計画(BCP)対策を支援する製品を拡充している。製品開発のきっかけは阪神・淡路大震災だ。

近年、多くのSSに非常用発電機が置かれている。こうした「住民拠点SS」は1万400
0カ所以上あり、そのほとんどに同社の製品が納入されている。ただ、年初に発生した能登半島地震の際は、発電機がないSSが数多く存在し、整備の必要性が再認識された。「SSは阪神・淡路大震災で堅牢性が証明されており、避難所として利用できることを多くの人に知ってもらいたい。発電機を稼働させ、支援の緊急車両に給油できるほか、電気と水が使える場合もある」と、エネルギーソリューション事業部の岸上高尚部長は話す。

房総半島台風の教訓から開発 地下タンクの高性能化にも力

同社は、学校や病院などの需要にも応え、品ぞろえを強化している。2019年に上陸した房総半島台風の際には、最長1カ月ほど電気が通らず、携帯電話の充電のために住民が公共施設に長時間並ぶ姿が見られた。そうした状況を踏まえて開発したのが、アンカージャパン製のポータブル電源搭載の防災ボックス「レスキューチャージャー」だ。最新の「レスキューチャージャーⅢ」には自動体外式除細動器(AED)も収納できる。加えて停電時でも充電できるよう、折り畳み式のソーラーパネルを搭載したという。

BCP対策を支援する一環で、燃料を貯蔵する高性能な地下タンク「プレミアムタンク」の展開にも力を注ぐ。タンク内部を全てコーティングし、鉄のさびなどの余剰物(スラッジ)から守ることが特徴の一つ。災害時にもスラッジの影響で計量機のストレーナーの目詰まりが起こらないようにした。

こうした特徴を売りにタツノは、既にパン製造大手の自家用給油所や高速道路の給油所などに提供。液状化で埋設したタンクが浮上しないよう防ぐ独自工法や、30年という長期保証も評価されているという。
今後もこれまでに培った強みを生かしながら、社会インフラを守る事業に力を注いでいく意向だ。

AEDや救急箱も収容できる最新の防災ボックス

【特集2まとめ】阪神・淡路大震災の記憶つなぐ ガス復旧に見る保安・防災の進化


1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生した。
震度7に達する地震は交通インフラを破壊しただけでなく、
大規模な火災を引き起こし、エネルギ―インフラの復旧に長い時間を要した。
この復旧活動からの教訓が現代の防災・保安に生かされている。
30年前の当事者の対応を振り返りながら、最新の防災、保安対策への
取り組みや製品、ソリューションなど、ソフトとハード両面で最前線に迫った

【大阪ガス・伊丹産業】今につながる30年前の経験 関係者が明かす当時の奮闘記

東京ガスネットワーク】次代を見据え進化する有事対策 先進的事業で安心な社会づくり

【岡山ガス】法人車両のドラレコを活用 AIを活用した新保安システム

【東洋計器】LPガスの安全をメーターで維持 集中監視システムも早期に構築

【I・T・O】自治体やエネルギー事業者が注目 生活用水が確保できる新設備

【リンナイ】給湯器が気象情報と連動 事前にタンクユニットに貯湯

【新コスモス電機】認知が足りないCO中毒事故 火災対策と一体での取り組み必要

【東京電力PG】スマメ活用で早期に停電範囲を把握 次世代品ではさらに高度な運用へ

【岩谷産業】「マルヰ会」が全国一斉訓練 予測不能な救援出動に万全の備え

【タツノ】燃料供給の拠点を支える立役者 多彩な展開で事業継続力の強化担う

【特集1】上流から下流に襲い掛かる多角的リスク CNでも堅調な需要にどう対応するか


石油業界は足元で供給網維持、中長期では成長事業育成という難題を抱えている。
エネルギー調達の不確実性も増す中、政府は二つの命題を解決へ導けるか。

長野県の南端に位置する売木村に、村内唯一の給油所(サービスステーション=SS)がある。「うるぎ600道の駅前PS(ポータブルステーション)」で、人口が500人にすら満たない村の命綱として機能。車への燃料補給だけでなく、氷点下まで冷え込む冬場には暖房用の灯油を供給している。

地上に燃料タンクを備えたSSは2020年の開所以来、赤字経営を余儀なくされている。立地的な影響で売り上げが見込めない上、燃料の輸送費がかさみ仕入れ額が高い傾向も収益を圧迫している。

売木村で唯一の給油所
提供:コモタ

それでも村は、住民の生命線を担う生活インフラを何とか存続させようと、毎年200万円ほどの赤字補填を行ってきた。松村尚英副村長は「給油所は地域の生活インフラを支える重要な施設だ。存続の要望は住民からも強かった」と、支援の狙いを強調する。

背景には、SSの維持を求める住民の声がある。全戸を対象とした18年の村内アンケートでは、6割が「村内に給油所を維持すべき」と回答した。そうした期待を背に給油所長の後藤文登氏は、「村のために、たとえ不採算でも給油所は存続させなければならない」という使命感を胸に前を向く。

赤字経営続くSS過疎地 後継者不足もネックに

全国の過疎地でも、同様の動きが広がっている。資源エネルギー庁によると、23年度末の国内SS数は2万7414カ所で、この10年で約7200カ所減少。SSが同一市町村内に3カ所以下しかない「SS過疎地」も増え続けて、372カ所に達した(図1)。

    図1 SS過疎地の推移
    出所:資源エネルギー庁

EVやカーシェアリングなどが浸透する中、SS利用者の来店頻度が減る傾向がある。後継者の不足もSSの減少に拍車をかけている状況だ。全国石油商業組合連合会副会長・専務理事の加藤庸之氏は「SS事業者が消費者の理解を得ながら適切なマージンを得られるようにすることが課題。さらに事業の多角化なども促し、将来への希望を見い出せるようにしたい」と、打開に意欲を示す。

石油の供給網を川に例えると、最下流のSSを整えるだけでは水は絶え間なく流れない。調達した原油の輸送・備蓄や精製から、資源の探鉱や開発を含む上流まで目を向ける必要があるが、いずれも盤石とは言い難い。

下流では、石油業界の規制緩和や自由競争下の業界再編、過疎化などの影響で、製油所の数や原油処理能力も縮小。80年に全国で約50カ所あった製油所は現在、太平洋側を中心に19カ所に集約した。こうした動きにとどまらず、製品輸送を支える内航船員やタンクローリー運転手の不足も深刻化し、急激な需要変動に柔軟に対応しづらくなっているのだ。

インバウンド(訪日外国人)需要の急回復で国際線の需要が高まる中、今夏には航空機の燃料が足りず増便や新規就航を断念する事例が地方空港を中心に表面化。これを機に製油所から空港へ燃料を運ぶ体制を見直す課題などが突き付けられた。

さらに、大規模災害に備える観点からも議論を深める必要がありそうだ。石油連盟の奥田真弥専務理事は「首都直下地震や南海トラフ巨大地震などのリスクがある太平洋側に製油所が集中する現状を踏まえ、有事の事業継続という観点から供給網の在り方を考えていきたい」と課題を投げかける。

【特集1】新市場に挑戦し成長軌道へ 業界を政策側から後押し


安定供給の使命と脱炭素化で揺れるエネルギー業界。

石油産業を巡る政策の今後の方向性は。和久田肇資源・燃料部長に話を聞いた。

【インタビュー:和久田 肇/資源エネルギー庁資源・燃料部長

―脱炭素社会を目指す中で、エネルギーとしての石油に求められる役割とは。


和久田 脱炭素化とは言っても、あくまでも排出されるCO2をいかに削減するかが鍵であり、安定供給の観点から石油が引き続き重要なエネルギー源であることに変わりはありません。例えば自然災害の際には、機動性、可搬性などに優れる石油がなければ、復旧の現場や避難所へのエネルギー供給に支障をきたしてしまいます。運輸部門では、脱炭素燃料を導入しながら既存のエンジン車を活用していく選択肢が重要になってきます。さまざまな脱炭素技術の中で、今、直ちにどの技術が優れているかを決めることはできません。過渡期においても必要なエネルギーがきちんと供給されるよう、脱炭素化の努力をしつつ、石油の供給体制を適切に維持していかなければなりません。


―世界的にも、石油をはじめ化石燃料に対する風向きが変わりつつあるようです。

和久田 確かに、各国がカーボンニュートラル(CN)を宣言した2020年ごろは、各国政府、企業ともに3E(安定性、経済性、環境性)のうち「環境」に重きを置く傾向にありましたが、最近はバランスを取る政策、事業戦略に転換する動きが目立ってきました。3Eのバランスの重要性は日本政府がかねてから主張してきたことであり、ようやく世界が歩調を合わせてきたと実感しています。

高止まりの中東依存度 調達の多角化が課題

―調達における中東依存度の高止まりが課題です。

和久田 なるべく多様な調達のポートフォリオを構築することは、エネルギー安全保障上、大きな意味があります。こうした観点から、中東に過度に依存している現状は、必ずしも強じんな調達構造であるとは言えません。1970年代のオイルショック以降、アジア地域やロシア、米州などからの調達を増やすなど、さまざまな形で多角化を目指してきましたが、経済発展によりアジア地域が輸入国に転じたこと、最近ではロシア・ウクライナ戦争などが影響し、理想通りに中東依存度を下げることができていないのが実情です。一方で足元では、OPEC(石油輸出国機構)の協調減産を緩めれば、日量550万~600万バレルの供給余力があると言われています。幸いにも、需給に余裕があり、ファンダメンタルズ面では価格が大きく上昇するような状況には陥っていませんが、高い地政学的なリスクにさらされていることは間違いなく、引き続き緊張感を持って中東情勢を注視していきます。

―長期的な需要の不確実性が高まっています。自主開発比率の目標設定についてはどう考えますか。


和久田 どのような状況下においても、日本企業が上流開発に参画する重要性は変わりありません。単なる調達に依存してしまえば、処分権を持つことができず、価格決定に関与することもできないからです。第6次エネルギー基本計画では、そのための重要な指標として自主開発目標を見直し、30年度に50%以上、40年度に60%以上という目標を明記しました。その方向性は変わることなく、第7次エネ基においても、自主開発目標の在り方を議論していくことになると考えています。

石油政策の行方は……

【特集1/座談会】2050年も経済・生活の根幹担う 資源戦略議論がエネ基の要


世界で地政学リスクが高まる中、エネルギー安保の生命線が岐路に立たされている。
国が難局打開に向けて直視すべき課題や施策を識者3人が語り合った。

【出席者】
大場紀章(ポスト石油戦略研究所代表)
平野 創(成城大学経済学部教授)
久谷一朗(日本エネルギー経済研究所研究理事)

左から順に、大場氏、平野氏、久谷氏

――中長期的な視点で今後の石油情勢をどのように見ていますか。


久谷 各国が掲げる温室効果ガス排出量の削減目標「NDC」や脱炭素政策を織り込んで世界のエネルギー情勢を予測すると、石油の需要は残り続けるでしょう。そうした見通しを、2050年を視野に日本エネルギー経済研究所(IEEJ)がまとめた年次報告「 IEEJアウトルック 」で示しました。国際エネルギー機関(IEA)のシナリオも、同じような予測結果です。50年のカーボンニュートラル(CN)実現に向けて中国のEV市場が大きく伸びているとはいえ、それ以外の各国のCN化の足どりは遅い状況です。その歩みを劇的に変えるためのハードルが高いことを踏まえると、引き続き石油は一定の役割を担い続けるのではないでしょうか。

大場 私も基本的に同じ見方です。ただ、従来の石油情勢とは異なり、需要に影響をもたらす変動要因が増えています。例えば、中国の自動車市場では、電動化が進む一方でLNGを燃料とするトラックの販売も伸びていて、輸送用ディーゼルの需要を脅かすほどになっています。EVが広がる東南アジアの動きも変動要因の一つで、従来よりも石油情勢が読みづらくなっています。


平野 石油製品の用途をみると、約半分が自動車などの「動力源」です。さらに4分の1がプラスチックなどの「石油化学製品の原料」として、残りの4分の1は家庭や工場の「熱源」などとして使われています。特に原料の需要は底堅く、将来的に残り続けるでしょう。ライフサイクル全体のCO2排出量でEVと内燃機関車を比べると、走行距離が11 kmを超えない限り、内燃機関車の方が排出量は少ない状況です。動力用途をみても、石油が優位性を発揮し続けると推測しています。

新潟県の岩船沖油ガス田。国産資源も供給を支える
提供:石油資源開発

命運を握る備蓄体制の維持 災害時の機動力も再認識

―ロシアによるウクライナ侵攻などの地政学リスクが高まる中、エネルギー確保を含めた経済安全保障の重要性が増しています。こうした視点からも認識をお聞かせください。


久谷 地政学リスクの高まりや災害に備えてエネルギーをいかに安定確保するかについて考えると、石油の備蓄機能を維持することが重要となってきます。石油は軍事的にも必要な資源で、戦闘機や軍艦などの動力源として欠かせません。まさに国家の安保を強化するためにも石油を残す必要があるでしょう。


大場 原油輸入の中東依存度は95%前後に達しています。これだけみると日本のエネルギー安保は脆弱なようにみえますが、昔と違い石油は最も堅牢なエネルギー源の一つです。緊迫したウクライナ情勢や中東紛争でエネルギー調達の不確実性が高まっているといわれますが、現実はむしろ石油の安定供給能力を示しています。例えば、ウクライナへの侵攻を続けるロシアへの経済制裁としてEU(欧州連合)がロシア産石油の輸入を禁止しましたが、市場は大きな混乱もなく流通が切り替わりました。また、仮に原油供給の大動脈「ホルムズ海峡」が完全封鎖され、他地域での増産がないとしても、代替の輸送ルートと世界の石油備蓄で約200日間はしのげます。


平野 超越した動乱が起きない限り、石油備蓄体制で経済安保上の役目は十分に果たせると思います。ただ、備蓄だけでは万全ではありません。製油所とのつながりに問題があり、備蓄する石油の払い出しが機動的に行えない備蓄基地もあるようです。軍事的な動乱や災害も想定し、有事に素早く動けるような手当てを考える必要があると思います。

―石油の国内需要減少が避けられない中、サービスステーション(SS)を含むサプライチェーン(供給網)全体の劣化が懸念されています。


平野 SSの維持は、国策として考えないといけないと思います。1月に発生した能登半島地震では、SSが防災拠点として機能し保管する製品在庫が役に立ちました。全国にくまなくあるSSは固定電話のように「ユニバーサルサービス」と位置付け、宅配や郵便などのサービスと一体化してワンストップで提供するという構想も考えられます。会員制スーパーの米コストコ・ホールセールが周辺SSの経営を圧迫する問題のほか、中東産原油を処理するよう設計された製油所を柔軟に切り替える課題にも目を向ける必要があります。多様な問題に細かく向き合うべきです。


大場 SSが過疎化して地域生活の利便性が落ちる問題に対しては、SSの維持や充電インフラ設置などの政策的な措置が必要になるでしょう。また、インバウンド(訪日外国人)需要が拡大する中で今夏、ジェット燃料の供給不足が顕在化し、これを機に燃料の流通経路を支える人材や設備を巡る問題が浮き彫りになりました。国際線の増便に伴う燃料需要増に対応するため、空港側が燃料輸入港を整備するのか、石油会社側が供給を強化するのか、方針はまだ定まっていません。


久谷 皆さんの問題提起を踏まえると、石油元売りには、ガソリンが減りジェット燃料が増えるという需要の変化に応じて適切に生産調整する対応が求められることになるでしょう。縮小する石油需要を見据え、どこまで製油所を維持するのかといった課題も無視できません。これまで消費地に近い場所に生産拠点を構えてきたわけですが、経営的に国内維持が難しいという元売りが出てくることを危惧しています。国は、そうした供給網をどこまで維持するのかという政策的な判断が迫られるでしょう。

【特集1】分断時代の国際情勢を読み解く 供給安全保障こそ政策の主眼に


米大統領選でトランプ氏が勝利し、米国は「ドリル・ベイビー・ドリル」の時代を迎える。
石油政策を巡る国際情勢が混迷を深める中、日本の取るべき針路を国際石油アナリストが解説する。

日本のあるべき石油・エネルギー政策を考える場合、その出発点は世界が深刻な分断の時代にあるという最も基本的な現状認識でなければならない。

ロシアのウクライナ侵略は西側・ロシア関係を決裂させ、中東ではイスラエルの酷薄なガザ侵攻がハマス、ヒズボラ、フーシ派など反イスラエル武装勢力、さらにはその背後にいるイランとの直接的交戦へと拡大しつつある。中国は南シナ海における不法な軍事拠点化と実効支配を続け、10月には台湾包囲の大規模軍事演習までも公然と行い、軍事力を誇示している。

一方、欧州では反EUの右派勢力が伸長し、また米国ではトランプ前大統領が再選され、政治・社会的分裂を背景に、内政・外交政策が流動する不安定さを改めて示した。日本は激しい内部対立を免れてはいるが、その見かけの安定は政府債務の異常な膨張に支えられており、近年の内外金利差の拡大と一段の円安がもたらす国内物価高は、慢性的な財政規律の喪失と引き換えの安定がもはや限界に達しつつあると示唆している。

イランおよび北朝鮮は軍事的支援を通じてロシアとの関係を緊密化させ、経済的盟主である中国を加えた4カ国が共に西側と軍事・経済的に対抗する構図が一層鮮明化している。欧州正面、中東および極東・東アジアにおける紛争が連動する可能性が高まっている。また西側・ロシア間の石油禁輸、中国が意に沿わぬ特定国を対象に随時発動する懲罰的な貿易管理、米国を先頭に戦略産業を中心とする対中・高関税などが示すように、政治的亀裂は一連の経済的分断を伴って進行している。

市場の秩序を維持・強化 サウジと連携で再構築へ

この分断の時代にあって、石油・エネルギー政策は、まず供給安全保障を主眼としなければならない。ここでエネルギー安全保障というのは、供給秩序の維持・強化を指し、必ずしも自給率の向上それ自体を目的視しない。政府の主たる役割は不測の供給ひっ迫時における市場機能の健全性の維持であり、その下で生産・消費双方の側での行動変容・技術革新を通じた、自律的・創造的な難局打開を導くことにある。本来的にエネルギー安全保障は市場を包摂してこそ成立する。

日本の石油供給に関し、しばしば中東依存度の高さが問題視されるが、より本質的に重要なのは、その中東からの石油供給が置かれている秩序、あるいは体制の在り方だ。現在の国際石油供給の在り方は、1985年末サウジアラビアによるスポット市場連動価格制への転換を起源とし、90~91年、実力での石油支配を目指したイラクのクウェート侵略を米国主導の外交・軍事力によって退けたことで、体制として確立した。これを市場本位の開かれた国際石油供給体制と呼ぶことができる。

米国の提供する安全保障の傘の下、石油備蓄の保有・放出を中心とする消費国による協調的緊急時対応、およびサウジによる生産余力の機動的稼働によって、不測の供給ひっ迫時における市場への即時追加供給能力を消費・産油国の協働で確保し、市場の暴走を未然に防いでその機能の健全性を守る構えである。

今世紀に入り米国の、とりわけ中東地域における外交・軍事政策は混乱し、また西側消費国が相対的影響力を低下させる中で、石油供給秩序の基盤は次第に脆弱化していたが、世界の分断化はこれをさらに動揺させている。この流れに抗し、2010年代シェール革命によって世界最大の産油国として台頭した米国を軸に、西側全体の協調をより強固にした上で、サウジとの連携を進めて秩序を再構築していくことを、日本の石油供給安全保障の第一義的な目標とせねばならない。

【特集1まとめ】見えぬ石油政策 「脱炭素」で揺らぐ安定供給網


脱炭素化が加速する中、エネルギー政策上の影が薄くなっている石油産業。
ただ石油の役割は根強く、需要は2050年時点でも底堅いと予想されている。
輸送用燃料や化学製品原料として、暮らしの隅々に浸透しているからだ。
地震など災害時に対応するエネルギーとしても、その重要性は見過ごせない。
世界的には産油国を巡る地政学リスクが高まり、国内では人口減少・過疎化が進む。
調達から精製、配送まで安定供給網をどう維持・強化していくかは喫緊の課題なのだ。
にもかかわらずエネルギー基本計画見直しでも、国家戦略の議論は見えてこない。
わが国の経済成長力にも直結する石油政策の課題と方向性を探った。

【アウトライン】上流から下流に襲い掛かる多角的リスク CNでも堅調な需要にどう対応するか

【インタビュー】新市場に挑戦し成長軌道へ 業界を政策側から後押し

【座談会】2050年も経済・生活の根幹担う 資源戦略議論がエネ基の要

【レポート】分断時代の国際情勢を読み解く 供給安全保障こそ政策の主眼に

【特集2】下水道施設からの革新の風 再生水と消化ガスを利用


【東京ガス】

「CO2ネット・ゼロへの挑戦」―。そんな経営ビジョンを掲げる東京ガスが横浜市と連携し、メタネーションの社会実装に向けた取り組みを着々と進めている。今夏には両者が、下水道施設からの「再生水」とバイオガスの一種「消化ガス」を原料に、e―メタンの製造実証を始めた。

共同実証は、両者が2022年1月に結んだ連携協定に基づく展開だ。すでに東ガスは23年7月から、同市資源循環局鶴見工場の排ガスから分離・回収したCO2をメタネーション原料に活用するCCU(CO2の分離・回収と利用)実証を進めてきた。これを弾みに両者は、連携をさらに深めていく。
具体的には同市北部下水道センター(鶴見区)で、下水処理した水をろ過した再生水と下水汚泥を処理する工程で発生する消化ガスを回収し、近隣にある東ガスの技術開発拠点「横浜テクノステーション」内の実証設備へ輸送。そこでe―メタンをつくるという流れだ。

下水道センターから受け入れた再生水

消化ガスの組成は、メタンが約60%、CO2が約40%という割合となっているが、一定ではない。メタンを生成するメタン菌の活性具合が季節によって変動するからだ。今回の実証では、CO2を分離させずに、組成の比率が安定していない消化ガスをそのまま使う。

東ガス水素・カーボンマネジメント技術戦略部の三浦隆弘氏は、「タンクに詰め込んだガス成分を気体の分析手法であるガスクロマトグラフで分析する。組成が変動するためガス密度が変わるが、流量計の計測値を補正するためにCO2の量を把握する」と説明する。
CO2量を計測した後、メタネーション反応に必要な適正な水素量を投入しe―メタンを作る。季節によってどれほど組成割合が変わるのか、年間を通じた実証が必要だという。

組成まで踏み込んで検証 環境価値の移転にも力

4月に始まった「クリーンガス証書」の活用も視野に入れている。e―メタンやバイオガスによる環境価値を証書にして取引する制度だ。東ガスは消化ガス由来で作ったe―メタンの価値創出にも意欲を示す。
技術開発面だけでなく、環境価値の訴求にも力を入れる東ガス。いよいよCN社会を見据えて次世代燃料技術を磨く挑戦が熱を帯びてきた。

消化ガスのタンク