【時流潮流/1月8日】トランプ政権がAUKUS加速へ 原潜供与と対中監視体制を強化

トランプ米政権が米英豪の安全保障の枠組み「AUKUS」を加速する方針を打ち出した。バイデン前政権が手がけた政策の見直しを含め検討していたが、トランプ氏は改めてゴーサインを出した。従来以上にアクセルを踏み込む方針だ。

2023年3月に米サンディエゴで開かれたAUKUS首脳会議に出席した米英豪の首脳
提供:米防総省

AUKUSは米英豪の3カ国が2021年に結んだ枠組みで、二本立てで構成される。一本目の柱は、米英両国が手始めに豪州に原子力潜水艦を提供し、将来、豪州自身も原潜を建造する点にある。この原潜は「攻撃原潜」と呼ばれ、通常時は敵の原潜や艦船を監視する。有事の際は敵地や敵艦を攻撃する役割を担う。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの核兵器は搭載しない。

二本目は、量子技術や極超音速技術兵器などの共同研究に取り組むことにある。まずは、米国で就役中のバージニア級原潜を豪州に供与することから始める。次に、豪州は英国と協働してAUKUS級原潜を開発し、自国での建造を目指す。

AUKUSの狙いは中国の抑止にある。中国はすでに米国を抜き世界一の艦隊を擁している。南シナ海に人工島を築くなど、他国の艦船や潜水艦を寄せ付けない接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略を進め、南シナ海をSLBMを積む戦略原潜の「砦」にしたい考えだ。米国は中国の野望を阻もうと、攻撃原潜を南シナ海などに派遣して監視活動を実施している。豪州も加え、監視強化を図ろうとしていた。

そうした中、米国で問題が発生した。新型コロナ禍をきっかけとしたサプライチェーンの混乱で、原潜の建造が目標の年2隻ペースを維持できない状況に陥った。そうした中で、最大では5隻もの原潜を豪州に提供するAUKUSをそのまま実施しても大丈夫なのか。米国の安全保障政策にマイナスが生じる可能性はないかという懸念が高まった。

米国第一主義を掲げるトランプ政権発足を受けて、コルビー米国防次官(政策担当)が主導して見直し議論が始まった。10月下旬、AUKUSの存続が決まり、計画を加速する方針がまとまった。

AUKUS加速を決めた三つの理由とは

米国がAUKUS加速を決めたのは、三つの理由があると見られる。一つは、潜水艦要員の確保の問題だ。豪州海軍はすでに50人以上の士官が米国での研修を終え、今後は米原潜での乗船研修も本格化する。これが今後10年間は続く予定で、人手不足に悩む米海軍にとっては貴重な人材確保策となる。

二つ目は、豪州をAUKUSに加えれば、米英両国は貴重な原潜補修基地を豪州西岸に確保できる。グアムや横須賀などに加え、新たな補修施設が加われば、潜水艦の運用に柔軟性が増す。

三つ目は、対中監視網の強化が「待ったなし」の状況にあることだ。米国は現在、攻撃原潜49隻を保有し、約6割を太平洋側、約4割を大西洋側に配備している。将来は66隻体制にする計画だが、実現は約30年先の54年となる見込みだ。

一方、中国はすでにディーゼル潜水艦も含めて55隻の攻撃潜水艦を保有している。10年後の35年には80隻にまで増える見込みで、戦力のアンバランスが拡大しかねない状況にある。中国を強くライバル視するトランプ政権は、AUKUS加速を決定した直後、韓国にも原潜保有を認める決定を下した。中国の「前に出る」を覚悟を示したとも言えそうだ。

豪州西岸のスターリング軍港に入港した米攻撃原潜「アッシュビル」
提供:米防総省

【特集1】脱炭素偏重の弊害顕在化で揺り戻し 「適応」が気候変動対策の主軸になるか

電気料金高騰をはじめとした脱炭素偏重政策の弊害が顕在化し、各国で揺り戻しが起きている。
世界の気候変動対策は「緩和(脱炭素)」から「適応」へと軸足を移す時期を迎えているようだ。

「気候変動問題は、史上最大の詐欺だ」――。

米国のトランプ大統領が2025年9月23日、国連総会の一般討論演説で放ったこの一言は、気候変動対策を真っ向から否定する姿勢を改めて世界に示す象徴的な場面となった。

かねてトランプ氏は気候変動を「いかさま」と主張してきたが、こうした潮流はいまや米国に限らない。世界各国を見渡せば、脱炭素推進の歩みが停滞しているのは明らかだ。気候変動対策を進めることで生じる経済的な「痛み」が現実となり、国民生活に負担を強いるとの認識が広がり、退潮傾向に拍車をかけている。

脱ネットゼロ政党に注目 不満持つ国民の支持広がる

豪州はその典型例だ。野党保守連合(自由党・国民党)は「野心的な脱炭素政策が電気料金の高止まりを招いた」として、再生可能エネルギー拡大を進めてきたアルバニージー現政権を批判。50年ネットゼロ目標を破棄し、経済重視へと方針転換した。政府・与党は25年春の総選挙で「再エネの拡大は将来的に国民生活の負担軽減につながる」と強調し、国民に理解を求めた。だが、ふたを開けてみれば、豪政府統計局(ABS)によると、電気料金は前年同期比23・6%上昇し、消費者物価指数の中で最も高い伸びを示した。送電インフラのコストの増加が主要因とされ、国民の不満は高まっている。

欧州でも同様に「脱ネットゼロ」の潮流が見られる。英国では、不法移民問題や、生活費高騰への反発が強まり、ネットゼロ廃止を公約に掲げた右派ポピュリスト政党「リフォームUK」が急速に支持を拡大した。25年5月の地方選挙では大幅に躍進し、24年の総選挙で政権を奪還した労働党や最大野党の保守党をしのぐ議席を獲得した。次回の総選挙は29年とまだ先だが、この勢いが続けば政権奪取も視野に入る。

環境先進国とされてきたドイツでさえ、再エネ政策の見直しに着手した。再エネ関連の補助金を段階的に廃止し、ガス火力発電所の新設を進める方針だ。背景には、ショルツ前政権が掲げた「脱原子力・脱石炭路線」の失敗がある。

前政権は30年までの脱石炭・褐炭を目標に掲げ、再エネの拡大を積極的に進めてきた。その結果、蓄電容量の不足や送電インフラ整備の遅れといった課題が顕在化した。こうした政策の失敗を受け、メルツ政権は連立の政策協定の中で、エネルギー転換の現状を分析するモニタリングの実施を明記。9月15日のモニタリング報告書の発表直前には、ドイツ連邦経済エネルギー省のライヒェ大臣が「ドイツのエネルギー転換は成功か失敗かの分岐点にある」と述べ、政策修正を発表した。

そして決定的だったのが、25年11月にブラジル北部ベレンで開催された地球温暖化防止国際会議・COP30だ。各国が提出すべき35年のNDC(国別目標)の4割が未提出にとどまり、「化石燃料からのフェードアウト」でも合意に至らなかった。近年の地政学リスクの高まりや物価高騰によって、各国が温暖化対策から距離を置きつつある現状が浮き彫りとなった。

もちろん、主要排出国は依然として脱炭素への歩み寄りを見せていない。世界最大の排出国である中国は、24年だけで1億kW規模の新規石炭火力発電所建設を最終投資決定(FID)しており、これは過去10年で最大の規模となる。第2位の米国はパリ協定からの離脱を決断し、化石燃料利用を国家戦略の柱に据えた。第3位のインドも急速な経済成長を背景に、ロシアからの石油輸入を続けながら石炭火力の新設を進めている。24年に1500万kWの新規石炭火力発電所をFIDしており、これも過去10年で最大規模となった。ロシアは国益を最優先し、ウクライナへの軍事行動を継続。脱炭素などどこ吹く風で、戦争を通じ大量のCO2を排出しまくっている。

国連の一般討論で演説するトランプ大統領
提供:EPA=時事

【特集1/座談会】R1完全撤退の教訓どう生かす? 洋上風力の展望を徹底討論

R1撤退でサプライチェーン形成の第一段階でつまずく形となり、立て直しが急務だ。
これまでの評価制度の振り返りや今後の支援策の在り方などについて、識者3人が議論した。

【出席者】
秋元圭吾(地球環境産業技術研究機構「RITE」主席研究員)
諸富 徹(京都大学公共政策大学院 教授)
山田正人(JERA Nex bp Japan CEO)

左から順に、秋元氏、諸富氏、山田氏

―ラウンド1(R1)では三菱商事が3海域を総取りしましたが、その後いずれも撤退という結果に。計画の実現可能性については当初から疑問の声が上がっていました。

諸富 R1では、入札上限価格はIRR(内部収益率)10%を前提に1kW時当たり29円に設定されていました。三菱商事グループはこれに対し、11・99~16・99円という4~5割程度の価格で落札したわけで、業界としても衝撃的な価格でした。29円という数字は、欧州の動向を参考にしつつ、LCOE(均等化発電原価)に資本費を含めた平均的なコストを積み上げて算出したものです。その半分程度の価格で事業を成立させるのは、相当画期的なビジネスモデルがない限り、現実的ではないという指摘は当時からありました。業界内では、「日本に進出している重大テック企業のGAFAMなどのデータセンター(DC)向けに、コーポレートPPA(電力販売契約)で売電することを織り込んでいるのではないか」といった予測が取り沙汰されました。これに対し三菱商事は、コストを精査し積み上げた結果だと説明していましたが、結果をみれば、そうした前提は実現しなかったことになります。8月の会見で中西勝也社長はインフレの影響を強調しましたが、当時の落札価格は資本費すらカバーできない水準で、そもそものコスト構造に問題があったと言わざるを得ません。その問題がインフレによって一気に顕在化した、というのが実態でしょう。

山田 当時、私はMHIべスタスジャパンの社長として風車サプライヤーの立場にいましたので、事業者側の詳細なコスト構造までは把握していませんが、一般論として、なぜあのような低価格が成り立つのかという疑問はありました。三菱商事は、「建設費は入札時の2倍以上に膨れ上がっている」と説明しましたが、インフレの影響は世界共通で、どの国も洋上風力事業は厳しい局面を迎えています。その中で、日本は欧州と比べて25年以上の遅れがあり、元々のコストが欧州より高くなることは自明でした。ですから、こうした構造的なコスト要因とインフレなどのマクロな外部要因をきちんと分けて考える必要があります。

秋元 諸富さんのお話にもありましたが、調達価格等算定委員会では上限価格を29円と、比較的高い水準に設定していました。この水準に近い価格であれば、実際に継続できたかどうかは別としても、その後のインフレ対応など、一定のやりようはあったはずです。 
日本で大量に再生可能エネルギーを導入するとなると、選択肢は限られており、洋上風力はまさにその代表的な手段です。こうした背景から、国としても洋上風力を強く後押してきたわけですが、産業が十分に習熟する前にあまりに低い価格で落札されたことで事業環境が歪められてしまったという印象です。

山田 FIT(固定価格買い取り)の反省から、資源エネルギー庁としても、国民負担の抑制に大きくかじを切っていた面があります。三菱商事の落札価格は、その期待にある意味、過剰に応えた形になってしまったと言えるでしょう。

【記者通信/10月7日】武藤経産相「脱炭素電源への投資拡大へ」 次期エネ基は岸田前政権の路線踏襲

「脱炭素エネルギーへの投資拡大に向けた事業環境整備に取り組んでいく必要がある」――。
石破茂内閣で経済産業相に就任した武藤容治氏は10月3日、専門紙の合同インタビューに応じ、次期エネルギー基本計画の策定を巡り、岸田前政権の路線を踏襲する意向を示した。グリーントランスフォーメーション(GX)やデジタル化の進展に伴い、電力需要の増加が見込まれることを強調し、国内外の情勢変化をつぶさに捉えて議論を進めていく姿勢を見せた。

専門紙の合同インタビューに挑む武藤経産相(10月3日)

2021年10月に策定された第6次エネ基から「日本を取り巻くエネルギー情勢は大きく変化した」と指摘した。ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の深刻化などで地政学リスクは高まり、エネルギー価格の高騰や供給面の不安定化につながった。
こうした中、岸田政権下では「エネルギーの安定供給や、脱炭素に向けたエネルギー構造の転換を経済成長につなげるための産業政策が強化されてきた」と説明。海外動向については「各国がカーボンニュートラルに向けた野心的な目標を維持しつつも、多様かつ現実的なアプローチを拡大している」と分析した。
こうした変化を踏まえつつ、24年度中に策定を目指す第7次エネ基について、「引き続きぶれずに議論を進めていく」と述べた。石破政権が「現実的なトランジション」をどうエネ基に落とし込むのかが注目される。