フレイル検知のAI開発 自治体向けにサービス提供
【中部電力】
中部電力は電力使用実績データを活用し自治体にフレイル検知サービスを提供している。
全国自治体で導入数が伸びる中、エネルギーの枠を超えた新しい価値提供を目指す。
中部電力は2023年4月に電力使用実績データ(電力データ)とAIを活用した国内初となる自治体向けフレイル検知サービス「eフレイルナビ」の提供を開始した。具体的には、電気使用量から得られた情報をもとにAIが個人のフレイルリスクを検知し、その結果を自治体に提供し、自治体はフレイルの可能性がある人に支援をする。
フレイルとは、加齢により心身が衰え、要介護に陥るリスクが高まった状態のことを指す。14年、日本老年医学会により「虚弱」に代わる学術用語として提唱された比較的新しい単語だ。東京都健康長寿医療センターが20年に実施した、日本全国の65歳以上2206人を対象とした初のフレイル調査では、8・7%がフレイルと発表された。フレイルの代表的な五つの症状は、①体重減少②筋力低下③疲労感④歩行速度低下⑤身体活動性低下―で、早期に適切な対策を講じることで元の健康な状態に回復できる可能性があるという。
24年の日本の高齢化率は29・3%で、世界第1位。医療費や介護給付金が増え続けていることが社会全体の課題となっている。各地方自治体では、限られたマンパワーで効率的かつ早期にフレイルを発見し、適切に介入することが求められている。

電気使用量の変動に着目 実証実験で成果を確認
同社は、20年に三重県東員町で電力データからフレイルを検知するAIの開発実証を進め、22年には長野県松本市でフレイル検知サービスの実証実験を行った。これにより、フレイルリスクの高い人を早期に発見することができ、自治体の介護予防事業における有効性も確認できたことから、23年4月に自治体向けフレイル検知サービスの提供を三重県東員町と長野県松本市の2自治体で開始した。
フレイル検知AIの開発実証では、JDSC、ネコリコとの共働により、電力スマートメーターから収集できる各月の電力データを分析するAIを開発した。健康な人は、外出や家事により電気の使い方にメリハリがある。それに対しフレイルの人は、家に閉じこもりがちで活動量が少ないため、電気の使用量の変動も乏しいという傾向がある。AIの開発では、健康状態と、電気の使用データから、外出時間や外出回数、起床時間や就寝時間、一日の活動量の最大時間と最小時間など複数の特徴量を抽出して、フレイルの人と健康な人のそれぞれの生活パターンをAIが大量に学習した。
実証実験では、フレイルリスクがあると判定された人に自治体職員が声掛けすることで、大きな改善が見られた。
長野県松本市で行われた実証実験では、93人中フレイルリスクが高いと判定されたのは31人。そのうち87%に当たる27人が健康を回復した。また、三重県東員町においては、フレイル対象者11人のうち73%にあたる8人が健康を回復した。
この実証では、高齢者自身が自主的に予防・改善を始めていることを確認し、客観的な分析結果と専門職による働きかけにより、本人の自覚や行動変容を促すことに成功した。
全国で導入自治体が増加 新たな価値提供へ挑戦
23年度は、前年度実証に参加した松本市、東員町の他、三重県鳥羽市が同サービスを導入した。24年度からは、これら3自治体に加え、中部エリア外を含む10自治体が加わり合計13自治体で採用されている。25年度も、複数の自治体で新たに採用される予定だ。中部地区に限定せず、全国の自治体を対象にこれからも導入拡大を目指して活動していくという。
サービス提供開始で明らかになったのは、フレイル予備軍はいわゆる「通いの場」に参加していない人が多いということだ。
「通いの場」とは、地域の高齢者が他者と一緒にさまざまな活動を通じ、介護予防やフレイル予防に資する活動を行う機会のことだ。厚生労働省は高齢者に月1回以上の「通いの場」に参加することを推奨している。eフレイルナビのサービス開始により、社会参加に積極的ではない高齢者に対して、継続的な接点を持てるようになったことが大きな成果だという。
事業創造本部ヘルシーエイジングユニットの山本卓明ユニット長は「今後は電力データだけでなく、医療データなども活用できれば、さらにきめ細かなサービス提供が可能になる」と話す。また、現在は1人暮らしの高齢者をサービス提供の対象者としているが、今後はより多くの高齢者を包含するようなサービスの在り方も考えていきたいという。
同社は経営ビジョンの達成に向けて、足元の基盤領域での安定した利益獲得に加え、成長分野への積極的投資により「新たな価値の提供」「利益創出」の実現を目指している。
これからも地域社会が求める新たな価値を提供するために、ビジネスモデルの変革にも果敢に挑戦し、エネルギー分野だけにとどまらず、社会課題の解決や地域社会のニーズに応えるサービスの提供を進めていく考えだ。既存の枠にとらわれず歩みを進める中部電力の進化に目が離せない。