【論考】米イラン「イスラマバード覚書」 ペルシャ湾は「イランの海」に⁉ ※期間限定無料公開

2026年6月26日

戦略的思考の回復を迫られる日本

今回の覚書合意は、あくまで暫定的であり、当面60日間以内とされる期間内に最終合意に至らなければ、解消される。したがって、ホルムズ海峡の持続的開放につながるかは、いまだ見通し得ない。

覚書・第1項は、レバノンを含む全戦線での即時・恒久的停戦、およびレバノンの領土保全・主権の確保を宣言しており、その履行は最終合意に向けた交渉の前提条件の一つとされている。イスラエルは覚書合意自体を拒否してレバノン南部の占領を継続しており、一方イランは、当合意を盾に、イスラエル軍の完全撤退を要求している。この対立に決着がつかなければ、今回の合意は破綻する。事実、早くも6月20日にイランはイスラエルによるレバノン攻撃を理由に、ホルムズ海峡の「再封鎖」を宣言した。

日本を含む石油輸入諸国は、当面、ホルムズ海峡封鎖の継続、その先にある未曾有の石油危機の顕在化への警戒を怠ることはできない。

3月以降、世界の石油生産不足は、在庫の取り崩しによって補われている。国際エネルギー機関(IEA)の推定によれば、昨年から今年2月までの供給過剰によって、世界石油在庫は5億バレル以上の積み増しとなった。それが3月以降は一転して大幅な在庫減となり、5月までの間に約3.5億バレルが取り崩されている。IEAは第2四半期・世界石油需要の対前年比減少率を5%弱(日量500万バレル)とかなり高く見ており、この在庫減の推定も堅めと言える。ホルムズ海峡封鎖が続いて世界石油生産が第2四半期並みで停滞すれば、たとえ世界消費がこの楽観的推定に沿った高率で減少しても、7月末には開戦前までの在庫積み増し分は取り崩され、世界石油在庫は8月末にも2021年来の最低水準を割り込む計算になる。すなわち、ここまでは昨年の過剰供給分の取り崩しの局面であり、ホルムズ海峡封鎖が続けば、夏以降に在庫水準の低落に伴って供給不足が本格的に顕在化し、一段の価格上昇と需要抑制を不可避とする新たな局面を迎えるだろう。

さらに、特に日本をはじめとするアジア・太平洋の自由主義・親米諸国は、今後中国の支配力がイランを通じてペルシャ湾に及ぶことへの、対抗策を講じる必要がある。これまで国際石油供給は、まがりなりにも米国・サウジアラビア・西側諸国が主導する開放的な秩序に置かれていたが、今後は中国・イラン・ロシア同盟による覇権的な国益追求に組み込まれていくだろう。金属資源開発・精錬から電気自動車、太陽光パネル等の生産に至るまで、代替エネルギー産業における中国の支配力は強い。これに加えて、中国の影響力がペルシャ湾の石油・天然ガス供給にまで伸びてくる。中国が随時、イランに対してペルシャ湾からの対日石油・LNG供給の制約を働きかける事態も、十分に想定し得よう。

日本は、まず何より、石油への戦略的思考の回復(あるいは石油政策の正常化)を急ぐ必要がある。まず目前の対処として、燃料油補助金を用いた政府による国内価格操作を中止し、国際市場との連動性を回復した上で、石油緊急時体制へ順次に移行し得る構えを取るべきだ。さらにその先には、資源・産業上の対中依存を回避しながらの省・脱石油技術の開発・普及、また紅海岸、オマーン湾岸を含む代替ルート・供給先による石油供給の「脱・ペルシャ湾」、米国・サウジアラビア・西側諸国との協働による石油供給秩序再建の努力、等のより困難な課題が待ち受けている。

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