【特集2 ライフライン強靭化】事前防災でインフラを守る デジタル技術で強靭化へ

2026年9月3日

災害の激甚化・複雑化で、事前防災への転換が急務となっている。
防災庁の機能、エネルギー業界の動きから防災の在り方を考える。

今回の保安・防災特集の取材を進める最中、7月28日に発生した令和8年熊本地震、そして8月14日の千葉豪雨といった、尊い人命を奪う甚大な自然災害が相次いで発生した。道路や交通インフラの損壊、水道やガスなどライフラインの寸断、山間部の送電設備の深刻な崩壊や変電所の浸水による長時間の停電―。エネルギーインフラが抱える複合的なリスクが改めて浮き彫りとなった。


さらに、南海トラフ地震をはじめとする巨大地震発生の切迫性が高まっている。過去の災害データを基準にした従来の事後対応型の防災に対する考え方では、これから想定される災害リスクに到底対応しきれない現実が顕在化している。

徹夜で作業に当たる西部ガスの災害復旧隊

国家主導の防災体制へ 発災前の備えを強化する

こうした背景から、災害対応の司令塔を一元化し、重要インフラのレジリエンス強化を国家主導で迅速に進めるための新組織として「防災庁」が発足する。従来の内閣府担当部局による管轄から、防災大臣が各省庁に対して必要な措置を求める「勧告権」を持つようになる。
防災庁が担う大きな役割の一つに、事前防災の推進が挙げられる。事前防災とは、災害が発生する前に被害を最小限に抑えるための計画や対策を講じることだ。従来の災害対応は、発災後の救助や復旧に重きを置く「事後対応型」が中心だった。しかし、激甚化する気候変動や巨大地震のリスクに対しては、事後対応だけでは国民の生命や経済活動を守りきれない。そこで、災害による致命的な被害をあらかじめ回避・軽減する事前防災へのパラダイムシフトが求められてきた。


具体的な取り組みとしては、ハザードマップの高度化による危険地域の特定や重要インフラの耐震化・防水化といった物理的な強靭化が挙げられる。さらに、エネルギー供給網の多重化や、サプライチェーンの分散化といった組織的な備えも不可欠だ。最悪の事態を想定して社会全体のレジリエンスを事前に高めておくことこそが、これからのインフラ防衛の核心となる。

先端技術が変える保安現場 分散型エネの機動力生かす

こうした業界全体の課題に対し、エネルギー企業の一部ではすでに最先端のデジタル技術を投入し、一歩進んだ保安・防災の取り組みを実践している。例えば、関西電力送配電は兵庫県の離島において、ドローンを用いて配電設備を遠隔で自動点検する実証を行っている。本土の営業所から指示を出すことで、ドローンが自動で目視外飛行をして設備を空撮し、リアルタイムで映像を共有する仕組みだ。これにより、発災時にも人が近づけない場所の迅速な被害把握が可能となる。
また、西部ガスでは、緊急通報時に顧客のスマートフォンと保安指令室をビデオ通話でつなぐシステムを導入している。アプリ不要で現場の映像をリアルタイムに指令室へ送信できるため、ガス漏れなどの状況を正確かつ迅速に捉え、事後対応の初動を劇的に早めることに成功している。このように、先進的な企業が培う現場発のイノベーションと、新設される防災庁の強力な司令塔機能が有機的に結び付くことで、日本のインフラ防衛はさらなる進化を遂げることが期待されている。


メディアではあまり報道されていないが、熊本の被災地では、寸断されたライフラインを補うように、避難所での炊き出しや暖房、給湯の確保などに、LPガスが大きく貢献している。新設される防災庁には、この分散型エネルギーが持つ機動力を国全体の避難所改革の一環として統合・加速させる役割が欠かせない。自治体との連携強化や災害対応型バルクシステムの設置拡大を推し進め、国の災害レジリエンスを一段と高めていくことが求められる。