【コラム】EUのエネルギー脱ロシアに関する規則とその限界
矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー
欧州委員会は、2025年5月6日、ロシアから輸入する天然ガスや石油などのエネルギーをEU市場から段階的に排除する政策文書REPowerEUロードマップを公表した。これを踏まえ、2026年1月26日、閣僚理事会は規則2026/261を正式に採択した。同規則は主として天然ガスの輸入禁止および迂回輸入防止措置を規定したものである。一方で石油に関しては、規則833/2014に輸入禁止措置がすでに規定されている。本稿では、これら規則の内容を検討するとともに、脱ロシアについての規則の制定が遅れている原子燃料分野におけるロシア依存の現状と今後の展望について論じる。
規則2026/261のポイントは以下の通りである。
1. ロシア産天然ガスの恒久的輸入禁止
同規則により、ロシア産パイプラインガスおよびLNGの輸入を段階的にゼロにすることが法的義務となった。段階的廃止のスケジュールは契約の種類と時期によって異なるが、長期契約に関しては、LNGは2027年1月1日から禁止され、パイプラインガスは原則2027年9月30日から禁止される。
2. 天然ガス輸入の事前認可制度
迂回輸入を防ぐために、移行期間の対象となる契約について、事前認可制度を確立する。契約について、契約情報や原産地証明などを提出し事前認可を受ける必要がある。また、ロシア産かどうか不明な場合も、事前認可が必要となる。
3. 国家多角化計画の提出
2026年3月1日までに、各国はロシア産ガス・石油の輸入停止に向けた国家計画を欧州委員会に提出しなくてはらない。計画には、代替供給源、代替供給ルート、再エネ拡大などに関する措置を含む。
天然ガスや石油に関しては、第三国を通じてのEUへの迂回輸入が問題となるが、同規則による契約情報や原産地証明の提示さらには監視の強化で天然ガスの迂回輸入は難しくなると思われる。一方石油については、規則2026/261では、2027年末までの輸入停止に向けた国家多角化計画の提出義務を課すにとどまっている。石油のEUへの迂回輸入については、2025年7月18日閣僚理事会で採択された規則833/2014第3条maにより、2026年1月21日以降、ロシア産原油が第三国で精製され、石油製品という形でEU市場に間接的に流入するいわゆる「精製に関する抜け穴」を塞ぐことにした。
これによると、ロシア産原油を第三国で精製した石油製品のEUへの輸入を禁止するとともに、EU域内の輸入者に対し、当該製品がロシア産原油由来ではないことを立証する義務を課している。このため、輸入者は輸出者や製油所に対して、原油の原産国や製造工程に関する証拠書類の提出を求めることとなる。また、ロシア産・非ロシア産原油を同一設備で処理する場合には、当該製品がロシア産原油由来ではないことをより厳格な調査・確認プロセスに基づき立証しなければならない。これにより、従来の「精製抜け穴」は大幅に縮小し、EUへのロシア産原油由来製品の流入は大きく減少した。
最大の課題は、ロードマップでは、原子燃料に関しても脱ロシアの方針を示していたが、その後に採択された規則では、これに関する規定が設けられていないことである。現在、ロシア製原子炉(VVER)を運転するEU諸国では、ロシア産原子燃料への依存低減を目的として、他国製燃料への切り替えが進められている。Westinghouse製燃料など、すでに実運用が始まっている代替燃料も存在する一方、欧州独自の新たな燃料(Framatome等によるVVER向け燃料)は開発が続いており、実装には時間を要している。また、HALEU燃料(5〜20%濃縮のウラン燃料)は小型モジュール炉(SMR)などの次世代原子力技術に不可欠である一方、EU域内での商業生産は、必要となる設備投資の採算性や将来的な需要に関する見通しに大きく左右される。しかし現状では、これらの見通しの不確実性が高く、EU内での生産体制の確立を難しくしている。そのため、結果として EU は HALEU の唯一の商業供給元であるロスアトムへ依存せざるをえない可能性がある。
EUでは、今後原子力発電を拡大させる動きがある。そのため、転換や濃縮などの原子燃料サイクル設備の拡大が求められる。一方、ロシアは国営企業ロスアトムを通じて、原子燃料サプライチェーンの中核工程を担っており、世界のウラン濃縮能力の約46%、転換能力の約4割をロシアが占めている。国際市場のロシアへの依存度は極めて高い。EUがロシアに依存することなくこれらのサービスを確保するためには、G7との協力など国際協調のほか、EU域内での投資を促進していく必要がある。EUは、未だに原子力分野での脱ロシアには期限を設定していないが、この不確実性が域内投資の判断を難しくしている可能性がある。


