【特集2 産業用ヒートポンプ】脱炭素の先の電化策 産業用途を再設計
海外で高まる需要 欧州は価格政策で後押し
―海外の状況はどうですか。
江原 弊社は茨城県の守谷工場に加え、メキシコでヒートポンプの心臓部に当たるコンプレッサーを開発しています。「MYCOM」というブランド名で数十年にわたって海外展開を果たしていますが、経験則からいうと、海外では圧倒的に欧州での利用が進んでいます。地球温暖化への影響が大きいフッ素系ガス(HFCなど)の使用量を段階的に削減し、GWP値(地球温暖化係数)を低くする冷媒規制への対応として、例えばアンモニアといった自然冷媒(GWP値が1未満)を使った大型設備の開発が進んでいますね。最近では、東南アジアや韓国、中国でもヒートポンプの需要が高まっていると感じています。
以前は冷凍冷蔵技術によるコールドチェーン分野(食品や医薬品などを一定の低温で届ける物流・流通システム)の確立が最重要課題でしたが、最近ではCO2排出量削減に向けた課題も同時に解決する方法が求められています。検討が始まると、海外の方が単位機器の能力が大きく、省エネの全体的な効果も大きくなる傾向にありますね。
甲斐田 欧州は活発だと思います。高温ヒートポンプの技術開発や実証が進み、産業用ヒートポンプの技術的ポテンシャルは確実に上がっています。この背景の一つとして、先ほど触れた電力とガスの価格比が挙げられます。日本では今、熱量ベースで見た電気と都市ガスの価格を比べると、電気の方が3倍ぐらい高い。ざっくりと言えば、ヒートポンプのCOP(成績係数)が3以上必要となります。
一方、ヨーロッパは国によって差があり、北欧だと価格比は1で、EU平均だと2・5から3弱です。つまり日本よりも低いので、ヒートポンプ利用が経済的に成り立つわけです。北欧では、電気ヒーターでも勝負できる水準です。ヒートポンプで高温までくみ上げても経済的に成立するわけですから、自ずとヒートポンプの高温化の技術開発も進んでいます。
冒頭で触れましたが、欧州では7月に電化行動計画が発表され、電化推進と同時に、電気とガスの価格比を抑えることが一丁目一番地の取り組みとして明記されました。具体的には、電気とガスの価格比をEU平均で産業向けは2以下、家庭向けは2・5以下に抑えます。こうした状況になれば、ヒートポンプの市場競争力が一気に高まっていくかと思います。

―もう少し詳しく電化行動計画を解説していただけますか。
甲斐田 過去10年間、電化率が23%で推移していたところ、40年の電化率を46%とする指標的な目標が提示され、電力とガスの価格比目標も定められました。価格比抑制については電化行動計画と同時に「電力市場規則改正案」も発表されました。
そこでは、①系統電力料金について、需要応答や時間帯別料金などを促し、既存の送配電網をより効率的に活用する料金設計への転換を図ること、②産業電化等に伴う追加的な電力系統コストの一部を公的資金で負担し、利用者の系統電力料金を引き下げることを可能とすること、③電力への課税をガスより低く設定できるようにすることなどが挙げられています。日本でいうと、再エネ賦課金が電力のみに課せられている状況を改善し、電力とガスの価格比を抑えようとする考えです。
実際、ドイツでは22年に再エネ賦課金をやめて、電気料金に上乗せするのではなく、税収や排出量取引による収益などを財源として国庫から支出されることになりました。つまり税金です。実質的な国民負担はあまり変わらないかもしれませんが、電化が進みやすくなったと言えるでしょう。
―現在の技術開発などの取り組みを教えてください。
江原 まずは、温度域150℃以下の電化とヒートポンプ化が重要だと思います。その中でも、排熱の考え方が重要です。排熱というと、30℃、40℃程度の中途半端な温度と思われがちですが、マイナス温度でも排熱ですし、空調の暑熱対策の温度も排熱になる場合があります。冷凍機は冷たくするための熱と温かくするための熱が同時に出てくるので、どちらの熱も有効に使うことが最も重要だと思います。
例えば、日本で工場を建設する際、ゼネコン、サブコン、生産設備業者といった形で、縦割りの組織になりがちです。生産設備の排熱を空調に使えば大きな省エネになるのに、組織の構造上、設備間で熱を融通すると、性能や不具合に対する責任の所在が曖昧になるため、ほとんど行われません。これまでの工場の常識を根底から変えないと、本当の意味で省エネとCO2削減ができる工場は作れないと考えています。




