【特集2】どう廃止措置に向き合うか 原子力の「後始末」の課題

2022年8月3日

放射性廃棄物処分の課題 国も一歩前に出て説明を

柳原 最も量が多いL3は、非常に放射能レベルが低いものです。一般的に50年くらい管理すれば、その後は管理の必要がなくなると言われています。ですから、L1のように地下70m以深に埋設処分し、300年以上管理をするものとは違う。

 そのことを、地元の人たちをはじめ多くの人たちに、きちんと説明する必要があります。国も電力業界も、集中的にL3の処分について、L1、L2廃棄物との違いや安全性などをPRすべきです。

紺谷 ご指摘の通りです。やはり問題はL3だと思います。とにかく量が多い。廃止措置を四段階に分けると、第二段階くらいから出てきますから、処分を進めないと廃棄物を置く場所が確保できなくなります。

 問題は処分場の確保です。安全性に大きな問題はないと考えます。ですからサイト内に埋設処分することが理想的です。そのために地元の皆さんの理解を得ることが、廃止措置の実質的な肝だと思います。

佐藤 廃棄物は事業者の責任で全部処分するのが国の方針です。しかし、処分場の立地では、国がもう少し前に出て、電力会社と横並びの姿勢でいていただきたい。

 L3のトレンチ埋設も、地元の意向でサイト内処分が厳しいところがあるかもしれない。その場合、ほかの都道府県に持っていくこともあり得ます。ただ、その時は国にも「日本全体の利益を考えて、ここに埋設させていただきたい」と説明してもらうことが必要になるでしょう。現在のように、各電力会社がそれぞれ地元自治体と話し合うだけでは、なかなかL3の処分は前に進みません。

JPDRでは極低レベルコンクリートを埋設処分している

紺谷 確かに電力会社任せでは済まなくなっている。その点を国がどう考えるかが、非常に大切になっています。

澤田 高レベル放射性廃棄物の立地は、応募開始から20年たってようやく文献調査に応じる自治体が出てきました。70m以深に処分するL1の処分場立地も、高レベル廃棄物と同じ困難さを伴いそうですか。

佐藤 いや、そうは考えません。高レベル放射性廃棄物はアルファ核種が入っていますが、L1にはほとんどありません。放射線の線量は多いのですが、高レベル廃棄物に比べればかなり低くなります。

澤田 するとL1については地上で保管し、放射能レベルが下がるのを待つ方法もある。

柳原 例えばドイツは処分場がありませんから、廃棄物はサイト外に出して保管し、処分場ができるまで中間貯蔵します。私はドイツのように、廃止措置と廃棄物処分を分けて考えてもいいと思います。中間貯蔵施設をつくり、L1、L2を保管すれば、廃止措置を早く終わらせることができる。

佐藤 ただ中間貯蔵施設をどこにつくるかが、また課題になります。使用済み燃料の中間貯蔵施設も立地が難航している。やはり電力業界としては、L1、L2については各社の廃棄物を集中的に埋設する施設をつくりたい気持ちがあります。

クリアランス物の利用 制度の見直しが欠かせず

澤田 私は中学生、高校生と一緒に高レベル放射性廃棄物の処分問題について考える会議に参加しています。福井県のある高校はこの問題に熱心で、校内にクリアランス物でできたベンチを置いている。高校生がどういう対応をするのかなと見ていると、皆、興味深げに代わる代わる座っている。彼らには違和感がないんです。

しかし現実を見ると、有価物、クリアランス物の再利用について、世間の理解が進んでいるとは言い難い。

柳原 一般に原子力発電所の廃止措置で出てくる廃棄物のうち、放射性廃棄物として扱うものは約2%です。廃棄物の大部分はコンクリートですが金属もかなり出て、ほとんどが再利用可能になる。ですから、後は実際にどう使うかだけです。

 クリアランス制度の法律が成立したとき、付帯決議が付きました。クリアランス物を一般の会社に使ってもらうときは、そのことを世間に公表しろというものです。そのくびきがまだ取れていません。それをどう外していくか。福井県では社会的な受容性を上げていく試みを行っています。そういう努力を続けて、地元の人たちなどに理解してもらうしかないと思います。

佐藤 クリアランス物を最も使えそうなのは鉄筋なので、鉄筋をつくる電炉メーカーに依頼しに訪れたことがあります。「クリアランス制度の社会の理解を得るため、当面の方針としてクリアランスされたものは電力業界内などでリサイクルの実績を積み重ねる方針です。対象物が有効に使われていることを社会に知っていただくためなので、プレスリリースします」と説明すると、電炉メーカーの人たちは「まず地元の役所に相談する。場合によっては議会でも説明することになりかねない」という反応です。

 電炉メーカーなどはスクラップなどに医療用などのRI(放射性同位元素)が混じっていたら、はねることができるように、既にゲートモニターで放射線チェックを行っています。ですからメーカーの人たちは、「何でこんな仕組みにするんですか。法令の手順で測定され監督官庁の確認を受けているものならば何の問題もない」と言う。

 今はベンチなどで実績をつくっていますが、量はわずかです。やはり、鉄筋や送電線の鉄塔などに利用できるようにしたい。現状制度に付けている制限を解除すべく、関係者が連携してクリアランスの実績を積んで、本来の制限のないリサイクルを実現していただきたい。

大量の非放射性コンクリート 望ましいサイト内での利用

紺谷 大量に出てくる非放射性のコンクリート廃棄物をどう扱うかが、ゼネコンとしては廃止措置の最終段階に残る大きな課題です。いろいろ検討をしたのですが、サイト内で発生したものは非放射性であっても、サイト外では受け取ってもらいにくいと思います。結局、電力会社がサイト内の工事や将来のリプレースなどに使う以外に利用法がない。ただ、どうしても普通のコンクリートよりもコストアップになってしまいます。

澤田 高レベル放射性廃棄物の処分と同じように、放射能に対する国民のリテラシーを上げていくしかありません。そうしなければクリアランス物や非放射性のコンクリートなどは、いつまでたっても使われることがない。

柳原 そうですね。今、SDGs(持続可能な開発目標)として、循環型社会の形成が唱えられています。廃棄物を少なくして、使えるものは使えるようにしていく社会を目指している。国もそういう観点で廃止措置で発生する有価物や廃棄物を考えてほしい。単にコストが安ければいいわけではありません。

こんたに・おさむ 1985年京都大学大学院建築学教室卒、鹿島建設建築設計本部入社。日本原子力研究所出向、米国ノースウエスタン大学留学などを経て2019年から現職。

さとう・ただみち 原子力デコミッショニング研究会事務局長。1974年北海道大学工学部原子工学科卒、 日本原子力発電入社。発電管理部課長 廃止措置プロジェクト推進部長、取締役(廃止措置担当)など歴任。

やなぎはら・さとし 原子力デコミッショニング研究会会長。1976年北海道大学大学院工学研究科修士課程修了、日本原子力研究所入所。福井大学客員教授・特命教授などを歴任し、現在は福井大学附属国際原子力工学研究所客員教授。

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