【論考】米イラン「イスラマバード覚書」 ペルシャ湾は「イランの海」に⁉ ※期間限定無料公開
米国およびイスラエルが、イランの現体制打倒、あるいは「無条件降伏」という空想的な戦争目的に沿って開始した無謀な戦争の結果、米国はペルシャ湾における覇権を失い、今後ホルムズ海峡・ペルシャ湾はイランの勢力下に置かれることになりそうだ。というのも、6月17日に米・イラン両国首脳によって署名、即時発効した14項目から成る両国間の戦闘終結の覚書(イスラマバード覚書)が、この覇権の交代を事実上認めているためだ。

覚書はその第5項で「ホルムズ海峡における将来の管理および海事サービスを定義する」主体を、事実上、イランと認めている。オマーンとの対話、ペルシャ湾岸諸国との協議、また国際法遵守という制約は加えられているが、この「対話・協議」から米国は除かれている。イランはオマーンおよび湾岸諸国のみを相手に、同項で言及された「ホルムズ海峡沿岸国(すなわちイラン、オマーン)の主権的権利」を根拠に、軍事的優位を背景として自国本位に海峡管理を「定義」し得る。イランはホルムズ海峡の無償航行を当面60日間認めるが、その後はこの「定義」次第となる。
4月末にイラン最高指導者モジタバ・ハメネイ師は、ホルムズ海峡に「新たな管理」を導入すると声明。イラン政権は5月に「ペルシャ湾海峡庁(PGSA)」を、海峡通航を管理する「法的機関・代表当局」として設け、覚書合意成立後も、通航する商船に対してPGSAへの事前申請および、一方的にイラン領海内に設定した航路での通航を要求している(国際海事機関(IMO)が定める従来の分離航路はオマーン領海を通っていたが、今回の開戦後イランは当海域に機雷を敷設し、北側の自国領海通過を商船に強要してきた)。また60日間の無償航行に関して、PGSAは安全・環境等の「サービス」及び関連の「保険」料金の一時免除、と説明しており、将来これらの名目で事実上の通航料を課す意図を隠さない。
5月20日にPGSAが公表した「管轄区域」は、フジャイラ等のUAE沿岸をも含んでいる。直後のIMO会合において、UAE、サウジアラビア、クウェート、カタールおよびバーレーンは共同声明を出し、PGSAという機構自体を拒絶。5月27日に米財務省もPGSAを制裁対象に加えていた。しかし今回の覚書により、イランはその海峡管理を強く正当化できる。海峡航路、「サービス・保険」料その他の通航方式、管轄区域等をめぐりイランと湾岸諸国は鋭く対立するが、米国が航行自由確保に最終的に関与しない以上、湾岸諸国の抵抗も何らかの妥協を探る「条件闘争」に止まろう。既に6月23日にオマーンはイランとの間で「通航管理・サービス」費用に関する共同作業部会の立ち上げを合意している。


