【特集2 産業用ヒートポンプ】脱炭素の先の電化策 産業用途を再設計

2026年10月3日

脱炭素化や競争力強化などの観点で電化の重要性が高まる。
エネルギー転換による新たな価値創出の可能性を探った。

江原 誠(前川製作所 ソリューション事業本部 産業熱エネルギー部門執行役員)

甲斐田 武延(電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門上席研究員)

―中東情勢の緊迫化によって、エネルギー業界への影響が続いています。電化やヒートポンプへのニーズに変化は見られるのでしょうか。


江原 これまでA重油を使用していたボイラー用燃料では、関東近辺で都市ガスへのシフトが進んでいます。ガスは、価格が上がっても入手困難になることは少ないように感じます。一方、都市部以外では、A重油の入手に不安を感じ、ヒートポンプ化を検討する動きもあるようです。化石燃料の価格が上がるたびにヒートポンプへのニーズは高まりますが電気代も上昇しているため、省エネによるメリットが縮小されているのが現状です。


甲斐田 日本では、社会全体のニーズに大きな変化はなく、脱炭素化のための電化にとどまっているように感じます。しかし、欧州では、エネルギー安全保障の観点から電化の必要性が高まっています。2022年のウクライナ戦争を契機に、ロシア産化石燃料依存からの脱却を進め、26年のイラン戦争を受けて、その動きがさらに加速した印象です。EUでは、域内の再生可能エネルギーや原子力などのクリーン電源で電力の約7割を賄っており、エネルギー安全保障のための電化にも説得力があります。原子力7割、再エネ2割とクリーン電源比率が高いフランス政府は今年4月に電化計画を、欧州委員会は7月に電化行動計画を発表しました。
 また、産業競争力強化の面でも、電化の重要性が増しています。太陽光発電、蓄電池、電気自動車などのクリーンテックでは、中国企業の存在感が高まる一方、22年に成立した米国インフレ抑制法(IRA)による巨額の税額控除で、米国への投資や工場の流出も懸念されています。こうした中、特に欧州や日本が競争力を持つヒートポンプについても、産業競争力の観点から重要な技術として期待されています。

冷熱と温熱をつなぐ発想 電気代「実質ゼロ」戦略

―日本の産業用におけるエネルギー事情やヒートポンプ事情はどのような状況でしょうか。


江原 絞った雑巾と言われ続けていますが、機器本体の省エネの場合に限られています。ポンプやボイラーを効率化させる、照明をLED化させるなど、単体の効率化はかなり進みました。
一方でさまざまな機器を組み合わせた全体のエネルギー利用を効率化する取り組みにはならず、改善の余地は大きいと考えています。例えば、ある生産現場で冷熱と温熱の両方の温度帯の熱を使う工程があるとします。現状では電力で冷熱を作る一方、温熱となるお湯や蒸気は化石燃料を燃やして作っている実態が数多く見受けられます。この二つをつなげて全体の効率化を図ろうという発想が、実はほとんど見られません。


 仮に温熱と冷熱の両方をヒートポンプで生み出せば、二つの機能を同時に使えて、エネルギー効率も半分ほどにできます。このように全体を見渡したエネルギー利用の横のつながりを生かせていないことが問題だと思います。確かに現場サイドの立場に立てば、温熱と冷熱をそれぞれ分けていた方が生産管理は圧倒的に楽だと思います。ですが、全体のエネルギー利用の効率化を目指すのであれば改善の余地はあると思います。


甲斐田 省エネ投資よりも工場ラインの自動化やIoT、AI導入など生産性を向上させる非エネルギー型投資に向かっているように思います。ヒートポンプは、基本的に省エネによるエネルギーコスト削減といったエネルギー便益が大きい一方、生産性向上などの非エネルギー便益には強くない技術です。そのため、導入時にはエネルギーコストの削減分だけで設備投資を回収するという考え方で判断されてきたと思います。


 鍵を握る考え方が「二次エネルギー価格比」、つまり電力と燃料の価格比です。エネルギー便益だけで考えると、現在の日本では、電力価格がガスなどの燃料価格に比べて高い水準にあるため、ヒートポンプ導入が限られてしまいます。価格比については後ほど触れますが、仮にヒートポンプによって、エネルギー便益以外の面で考慮できるソリューションがあれば、状況も変わるのかなと思います。


 例えば、前川製作所さんでは、昨今の猛暑を鑑みた工場内における暑熱対策として、ヒートポンプを活用する提案を進めていますよね。これは非エネルギー便益の一つとして面白いアプローチだと思います。


江原 暑熱環境下での労働環境の対策強化を目的に、25年6月に「改正労働安全衛生規則」が施行されました。その対策として「ゼロクール」と呼ぶソリューションの提供を始めています。 ヒートポンプで冷房する一方、この排熱を温水用の一部に活用します。これにより、温水を作るために使っていた給湯用ボイラーの燃料の一部を削減します。化石資源の使用量を減らして冷房にかかる電気代を抑え、条件によっては「実質ゼロ」を目指すのがコンセプトです。

ゼロクールで猛暑対策を進める

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