【特集2】知見を基に公平・中立を維持 鋭い視点を合わせた誌面作成を


木藤俊一/石油連盟会長

このたび、「エネルギーフォーラム」が、創刊70周年を迎えられましたことを心よりお喜び申し上げます。

貴誌の前身である「電力新報」が、創刊25周年を機にエネルギーフォーラムに改題されてから半世紀近くが経ちます。この間、人々の生活に欠かせない石油を含めたエネルギー全般について的確に報じられたことに敬意を表します。

平時・有事問わず安定供給 変わらぬ液体燃料の重要性

奇しくも、私ども石油連盟も、貴誌とともに歩み続け、今年で創立70周年を迎えます。この間、平時・有事を問わず、一貫して消費者の皆様にとって必要とされるエネルギーの安定供給に努めてまいりました。可搬性・貯蔵性に優れ、エネルギー密度が高い液体燃料である石油の重要性・有用性は、今後も変わることはありません。石油業界は、エネルギー供給の担い手として、液体燃料が将来の長きにわたって消費者の皆様に選ばれるよう、既存の製油所を、カーボンニュートラル燃料を製造する拠点に転換していくことなどを目指しています。貴誌には、このような石油業界の取り組みについて繰り返し報道いただき、改めて深謝しております。

今年は、2月に「GX2040ビジョン」「地球温暖化対策計画」「第7次エネルギー基本計画」といったエネルギーの重要政策が閣議決定されました。

エネルギー基本計画にも記載されている通り、無資源国である日本にとっては「S+3E」がエネルギー政策の基本です。第7次計画の策定にあたり、エネルギーのベストミックスなど様々な議論が尽くされました。石油は一次エネルギー供給の3割以上を占めていますが、2040年度においても一定のシェアを維持する見通しが示されました。一方、50年カーボンニュートラル社会の実現に向けては、再生可能エネルギーの多様化、国際的な資源獲得競争、革新的な技術開発など、エネルギー分野に影響を及ぼすさまざまな不確定要素があり、事業者側の投資予見性を高めることや、国民理解を醸成することが必要です。国民にとっての関心も一段と高まることが想定される中、これらを調査・分析し、的確に情報発信する報道機関としての「エネルギーフォーラム」の役割は、より一層強まるものと拝察いたします。

引き続き、エネルギー全般の専門誌の先駆者として、70年にわたり築き上げられた知見を基に、メディアとして公平・中立な報道と、貴誌ならではの鋭い視点がベストミックスされた誌面作成を大いに期待しています。

今後の貴誌のますますのご発展を祈念申し上げますとともに、エネルギー産業のさらなる発展に向けて今後ともご尽力賜りますようお願い申し上げます。

【特集2】戦後から有益な情報提供に尽力 エネ・環境・経済の発展に貢献


田中惠次/日本LPガス協会会長

このたびは、「エネルギーフォーラム」が70周年を迎えられましたこと、心よりお慶び申し上げます。貴誌は戦後から今日まで70年間の長きにわたり、われわれエネルギー業界関係者に有益な情報提供に尽力されてきました。

創刊時の「電力新報」に始まり、今日では、電力、ガス、石油、石炭、火力、新エネ、デジタル、環境、政策までのエネルギー全般の幅広い分野まで網羅されております。わが国の経済成長とエネルギーの変革とともに進化されており、わが国のエネルギー・環境・経済全般の発展に大きく貢献されましたことに改めて敬意を表します。

過去70年を振り返りますと、高度経済成長期に入り急増する電力需要の中、エネルギーの主役は石炭から石油に交代し、二度の石油危機を経て脱石油に向かいました。その後、原子力、LPガスが普及。次に天然ガスが加わり、地球温暖化と電力自由化を迎えました。2011年には東日本大震災による電力の供給危機、再生可能エネルギーという選択肢が登場。エネルギーの転換期に入り社会構造が変化する中、エネルギー業界は技術の進歩、供給体制の変革などにより、わが国の産業、社会、国民生活向上に大きく寄与してきました。

3つの新政策が閣議決定 化石燃料のCN化進行へ

折しも環境問題でいえば、昨年は世界の平均気温15・1℃と観測史上最も高い1年となり、産業革命前の水準より1・6℃も高くなりました。初めて1・5℃を超過し、温暖化対策の一段の強化を求める声が国際的にも広がりつつあります。

そのような中、わが国は、今年2月に「GX2040ビジョン」と「第7次エネルギー基本計画」「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました。

言い換えると、エネルギーの安定供給を行いながら、エネルギーと産業構造を脱炭素型に転換させ、経済成長を目指すものであります。当協会のLPガスを含めた化石燃料(石油・都市ガス・LPガス)のカーボンニュートラル(CN)化に向けた対応を一段のスピード感を持って進めることが喫緊の課題ともなっております。

エネルギー問題は、わが国内外の政治・経済・外交にも直接関係するものでもあります。こうした中、貴誌の長年の経験と蓄積に裏打ちされたさまざまなエネルギー全般に関する広範な報道は、今後さらにエネルギー業界の発展に欠くべからざるものになると思います。貴社におかれましては、今後とも国内外はもとより、エネルギー政策までも含めた誌面の充実を図られ、エネルギー業界全般の発展にますますご尽力いただきますようお願いして、日本LPガス協会の祝辞とさせていただきます。

【特集2】総合専門誌として多角的に分析 今後も一層深い掘り下げに期待


山田耕司/全国LPガス協会会長

創刊70周年を迎えられたことを心よりお喜び申し上げます。当協会も前身組織の設立から70周年で感慨深く思います。貴誌は日本のエネルギー・環境分野の総合専門誌としてエネルギーに関する最新情報、多角的な視点からの分析を提供し続け、業界の発展に大きく貢献されてきたことに心より敬意を表します。

分散性・可搬性のLPガスは家庭業務用のみならず産業用や自動車燃料用としても利用され、わが国の経済社会の発展と国民生活の向上に極めて重要な役割を果たしています。また、近年は自然災害が多発している中、災害にも強いLPガスの重要性は高まっており、エネルギー基本計画(2025年2月)では、LPガスはエネルギー供給の「最後の砦」と記述され、また、国土強靭化基本計画(23年7月)では、「各家庭や被災時に避難所となる公共施設、学校、災害拠点病院等の重要な施設における自家発電設備の導入、LPガス燃料の備蓄等を促進等する」と明記され、LPガスに対し大きな評価を頂いています。こうした中、当協会では以下の活動を重点的に展開しています。

液石法の省令改正に対応 選ばれるエネルギー目指す

需要拡大については、50年カーボンニュートラルの実現、S+3Eの達成の一環としてCO2削減に有効な高効率機器のエネファーム・エコジョーズ・ハイブリッド給湯器・GHPなどの販売を推進しています。

また、避難所となる公立小中学校の体育館などへ停電時にも稼働可能なLPガスによるGHPエアコン(冷暖房)の普及や公的避難所・医療施設・福祉施設といった防災拠点などに常設・常用を推進しています。

加えて取引の適正化については、国において液石法省令改正が実施され、昨年7月より過大な営業行為の制限と賃貸住宅への入居希望者に対するLPガス料金の事前情報提供制度が施行されました。今年4月には三部料金制の徹底とともに、賃貸住宅の料金には、消費設備料金の計上が禁止されました。こうした変化を踏まえ、取引適正化・料金透明化への取り組みをさらに推進し、選ばれるエネルギーとなるよう目指していきます。

保安に関しては全国目標の年平均で死亡事故1件未満及び人身事故25件未満の達成に向け、自主保安運動「LPガス安心サポート推進運動」を推進し、LPガスを安全・安心に使ってもらえるよう一層努めていきます。

貴誌は、これまでもLPガスに関するさまざまな情報を発信していますが、これからもLPガスの可能性、そしてエネルギーミックスにおける役割について、一層深く掘り下げた情報発信を期待しています。

最後に、貴社の今後ますますのご発展を祈念し、お祝いの言葉とさせていただきます。

【特集2まとめ】おかげさまで本誌創刊70年 松永安左エ門翁生誕150周年、昭和100年、戦後80年


国民の福祉の増進―。この理念の下、1955年5月に前身の「電力新報」が創刊した。

高度成長、公害問題、オイルショック、自由化、東日本大震災、脱炭素化と、戦後から現在までエネルギー産業を巡る課題は大きく変わってきた。

今号は創刊70年を迎えるに当たりエネルギーフォーラムの足跡を振り返ると同時に、

山地憲治・RITE理事長によるエネルギー政策の変遷と将来像についての寄稿、エネルギー業界6団体からのメッセージを掲載する特別編とした。

不偏不党の編集方針を堅持 「国益と福祉の増進」のため報道(志賀正利/エネルギーフォーラム取締役社長)

【寄稿】激動の歴史をたどった電力政策 戦後80年の変遷を振り返る(山地憲治/地球環境産業技術研究機構理事長)

【寄稿】正面からエネ問題に向き合う 国民一人ひとりの理解を醸成(林欣吾/電気事業連合会会長)

【寄稿】知見を基に公平・中立を維持 鋭い視点を合わせた誌面作成を(木藤俊一/石油連盟会長)

【寄稿】長期的視点での主張と問題提起 識見の高い編集姿勢を貫く(内田高史/日本ガス協会会長)

【寄稿】戦後から有益な情報提供に尽力 エネ・環境・経済の発展に貢献(田中惠次/日本LPガス協会会長)

【寄稿】総合専門誌として多角的に分析 今後も一層深い掘り下げに期待(山田耕司/全国LPガス協会会長)

【寄稿】国内外の情勢・動向発信に功績 さらに進化したオピニオン誌へ(森 洋/全国石油業共済協同組合連合会会長)

【特集2】激動の歴史をたどった電力政策 戦後80年の変遷を振り返る


高い見地から日本の電力政策議論に深く関わってきた山地憲治氏。その変遷を振り返り、将来の電力の在るべき姿について提言を寄せた。

山地憲治/地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長

エネルギーフォーラムと私の関わりは長い。私が「電力新報」(月刊エネルギーフォーラムの前身)に初めて寄稿したのは1978年8月号で、題目は「核燃料サイクルからみた炉型戦略:シミュレーション分析にみる長期展望」だった。

当時は原子力への期待が極めて大きく、シミュレーションで想定した2000年のわが国の原子力発電規模は7000万~1・5億kW、25年については1億~3・5億kWだった。炉型は軽水炉から高速増殖炉(FBR)への移行が基本で、21世紀はFBRの時代になると想定されていた。当時の炉型戦略の課題は軽水炉からFBRへつなぐ原子炉型の選択で、軽水炉でプルトニウムを使うプルサーマル、国産重水炉(沸騰軽水冷却)ATR、そして天然ウランを燃料とするカナダの重水炉CANDUが候補だった。私の年代の人には懐かしい話だが、結果を見届けた今では夢の痕跡である。

ところで、今年は昭和100年、戦後80年、そして私自身にとっても後期高齢者となる75歳を迎えた区切りの年である。私の誕生年は電気事業にとっては、発電から送配電・販売まで一貫して行う戦後体制が決まった年(発足は翌年5月)である。この機会に電力を中心に戦後80年のエネルギー政策を振り返ってみたい。

高度成長を支えた電気事業 原子力は独自政策で展開

戦後と言っても52年4月に独立するまでの日本は占領下にあり、電力体制整備は占領下で行われた。50年の電気事業再編成令と公益事業令(いずれも国会議決のない占領下におけるポツダム政令)によって、電気事業は地域独占を認められた公益事業となり、発送電と配電を一貫して行う9電力体制が51年に発足した。

その後、曲折はあったが、戦後のわが国の電気事業は軌道に乗り、高度経済成長を支えた。電気料金は原価に適正利潤を加えた規制の下で形成されたので電気事業経営は安定した。原子力発電の導入、大気汚染対策として始まった液化天然ガス(LNG)火力の導入などは、安定した電気事業制度が存在したからこそ可能であったと言える。

70年代には2度にわたって石油危機が発生し、第一次危機の時には石油火力に75%を依存していた電気事業は値上げを余儀なくされた。だが、原子力やLNG、そして輸入石炭によって石油代替を図り電力の安定供給は維持された。その後は、原子力、LNG、石炭が発電の主力を担うようになり、石油火力の比率は急減し、安定供給を担う電源の多様化が実現した。

電力に限らず、高度経済成長が本格的に始まるまでのエネルギー政策は産業政策の一部であった。エネルギー政策を担う審議会(総合エネルギー調査会)が設置されたのは65年である。総合エネルギー調査会(現在の総合資源エネルギー調査会)の起源は、産業構造調査会(現在の産業構造審議会)の下にあった総合エネルギー部会である。第一次石油危機を経てエネルギー政策の重要性は増大し、70年代からは長期エネルギー需給見通しが公表されるようになった。今世紀に入りエネルギー政策基本法が成立すると、エネルギー政策はエネルギー基本計画に集約され、今日に至っている。

なお、原子力については、基盤となる科学技術開発から始める必要があったことと核兵器との関係があったため、独自の政策が進められた。54年に最初の原子力予算が計上され、56年には原子力委員会と科学技術庁が設置された。原子力委員会は、ほぼ5年ごとに原子力開発利用長期計画を策定し、わが国の原子力開発の基本政策を定めた。総合資源エネルギー調査会によるエネルギー政策の策定においても、原子力開発利用長期計画が尊重された。05年には「原子力政策大綱」と名称を変えたが、福島事故発生時まで、基本的にはこの政策決定プロセスは維持された。

温暖化対策と自由化が加速 電力ビジネスモデルが変容

90年代に入ると地球温暖化対策がエネルギー政策の重要課題として浮上してきた。また、分散型電源の意義も強調されるようになり、英国から始まった電力自由化の動きも勢いを増してきた。戦後の電力再編成以来、長く安定していたわが国の電気事業制度にも見直しの機運が高まりつつあった。このような時代の変化に対して、電気事業者は保守的で機動性に欠いていたと言わざるを得ない。少なくとも社会との対話が乏しかったことは確かである。現実には、住宅の太陽電池の余剰電力を家庭料金の水準で買い取るなど、再生可能エネルギー導入推進にも対応していた。だが、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の事故対応や六ヶ所再処理推進など原子力の課題対応に追われ、受け身の対応が目立った。

21世紀に入ると、化石燃料を大量消費する電気事業への風当たりが強まった。一方、11年の福島事故によって原子力推進には急ブレーキがかかり、再エネによる発電に大きな期待が寄せられた。そのため固定価格買い取り制度(FIT)が導入され、今や再エネ発電が電力供給量の22%となり、水力以外の再エネ発電が水力を上回るようになった。太陽光や風力のような自然変動電源を電力系統に統合するために需給調整や電力貯蔵、電力系統整備に多大なコストがかかるようになってきた。

電力システム改革は電気事業のビジネスモデルに大きな変容を要求することになるが、この背景にはエネルギー関連技術の大きなイノベーションがある。太陽光発電や風力発電、燃料電池などは熱の動力への変換を実現した動力革命とは無縁である。熱機関では規模の経済が働くが、太陽光などの分散型電源は小規模・大量生産によって経済競争力を持ち始めている。ならば、需要を束ねて大規模中央発電所から供給する方式で成長してきた電気事業の形態も変わらざるを得ない。

ただし、太陽光や風力のエネルギー源は国産であるものの、需給調整に必要な蓄電池を含む電力設備は輸入に頼る部分が多く、特にリチウムやコバルトなどの重要鉱物は供給国が偏っている。電力の安定供給には、従来のような燃料確保だけではなく、視野を広げて対応する必要がある。

FIT の導入で再エネが急増した

【特集2】 不偏不党の編集方針を堅持 「国益と福祉の増進」のため報道


志賀正利/エネルギーフォーラム取締役社長編集人兼発行人

本誌「エネルギーフォーラム」の前身である「電力新報」の創刊は、9電力体制が発足して4年後の原子力基本法が公布された1955(昭和30)年です。今年で70周年を迎えますが、ちょうど今年は電気事業再編成を主導した電力の鬼・松永安左エ門翁の生誕150年であり、昭和100年、戦後80年という節目にも当たります。

「日本の復興は電力から」 議連の理念を引き継ぎ創刊

創業者・酒井節雄は、創刊に当たり著した電力新報創刊趣意書で「電力は国民生活や全ての産業活動に直結しており、その電力を供給する電気事業の健全な発展を通じて国民の福祉の増進に寄与することを目的とする」と述べています。

酒井は戦後、自由党所属の国会議員秘書となり、「日本の復興は電力から」をモットーとして発足した電源開発議員連盟の事務局を担いました。ところが、佐藤栄作自由党幹事長が会長を務める海運議員連盟に絡んだ造船疑獄事件が起き、同議連は解散となり、そのあおりで電源開発議員連盟も活動を停止しました。しかし、「日本の復興は電力から」という電源開発議員連盟の理念を引き継ぐ形の専門誌の発刊を強く勧められたことから、電力新報の発刊を決意したものです。

戦後間もない創業当初は経営難が続く中にあって、当時の東京電力常務の木川田一隆氏、関西電力副社長の芦原義重氏、中部電力副社長の横山通夫氏などからご支援をいただき、経営を軌道に乗せることができたと述懐しています。

創刊から25年を経た80年には誌名を電力新報から「エネルギーフォーラム」に改題し、電力のほか石油、ガスなどを包含したエネルギーベストミックス時代に相応しいわが国唯一の総合エネルギー専門誌として生まれ変わりましたが、創業以来の編集方針である「本誌の報道を通じて国益と国民の福祉の増進にいささかでも寄与したい」という思いは、今も変わりはありません。「フォーラム」の言葉に込めた思いは、エネルギー政策には国民的合意形成が欠かせないものであり、そのためには国民の情報の共有と総合的な論争の展開を図ることが必要というものです。従って本誌は創刊以来、不偏不党の編集方針を堅持しており、その姿勢が誌面での幅広い自由なエネルギー政策論議を可能にしているものと確信しております。

また、エネルギー政策論争の活性化のために創業25周年を記念してエネルギー政策の合意形成や積極的政策提言に資する著作を顕彰する目的で1980年には「エネルギーフォーラム賞」を創設し、今年で45回目を迎えております。歴代の受賞作は斯界の権威から新進気鋭の若手による優れた政策提言など充実したものとなっております。

さらに創立60周年記念として2015年にエネルギー政策の合意形成の一助を目的とした『エネルギー小説賞』を創設しました。これは「エネルギー・環境(エコ)・科学」に関わる未発表のフィクション・ノンフィクションの優れて面白い著作を顕彰・出版するものです。

創業者 酒井節雄

厳しさを増すエネ情勢 初心に帰り真剣な議論を

ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、エネルギーを巡る情勢は再び激動の時代に突入しました。国際燃料価格の乱高下を招く地政学リスクへの警戒感が高まる中、資源・燃料の全てを輸入に頼る日本としていかに安定供給を堅持するのか。データセンターや半導体といった様変わりの電力需要の拡大に対応する供給力の維持・確保の在り方も含めて、初心に帰り真剣に議論する時が来ています。本誌は「国民の福祉の増進」という編集方針を些かも変えることなく情報発信していく所存です。

戦後の激動のエネルギー政策につきましては、RITE理事長の山地憲治先生に寄稿いただいておりますのでご一読賜りますようお願い申し上げます。

最後にこうした本誌の70年の歩みは多くの読者の皆さまの支えがあって成し遂げられたものであり、ここに深甚よりお礼申し上げます。

【特集2】正面からエネ問題に向き合う 国民一人ひとりの理解を醸成


林 欣吾/電気事業連合会会長

このたび、エネルギーフォーラム社が本年5月をもって、創立70周年を迎えられたことに、心よりお慶び申し上げます。

これまで、貴誌はエネルギー産業のオピニオンリーダーとして、電力・ガス・石油をはじめとするエネルギー問題について、価値ある情報収集と深い分析に基づき、70年の長きにわたり、充実した報道を続けられてきたことに深く敬意を表します。

現在、わが国は国内投資が伸び悩み、世界における経済的地位も残念ながら後退しております。こうした状況を打破し、高い付加価値を生み出す産業構造を構築するためには、その基盤となる強靭なエネルギー供給の整備を、早期に実現していくことが必要です。

また、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、世界規模での資源争奪戦や燃料価格の高騰が起こり、エネルギーを取り巻く状況は一変しました。

資源に乏しいわが国において、エネルギーセキュリティーを確保しつつ、50年カーボンニュートラルを実現していくことが求められる中で、「S+3E」、すなわち、「エネルギーの安定供給」、「経済効率性」、「環境への適合」を同時に達成していくことが必要です。

50年は「すぐ先の未来」 実効性ある施策を速やかに

このような課題認識の下で、今年、「第7次エネルギー基本計画」が成立しました。安定供給が第一であることが示され、さらにエネルギー安全保障の概念が明確化されました。将来の脱炭素化も見据え、特定の電源や燃料に依存するのではなく、再生可能エネルギーと原子力を、共に最大限活用していく方向性が示された点は大変意義のあるものと考えております。

一方で、エネルギーインフラの更新に必要なリードタイムを考慮すると、50年は「すぐ先の未来」です。残された時間は極めて少ない状況にあり、今回の方針が実効あるものとなるよう、速やかに具体的な施策として落とし込んでいかなければなりません。

貴誌は、激変するエネルギーの問題に正面から向き合い、国民一人ひとりの理解醸成に向けて、長きにわたり取り組まれてこられました。これからの重要局面においても、国民の暮らしと産業を守るエネルギー政策の実現に向けて、貴誌の役割は、ますます重要さを増していくものと思います。

貴誌のさらなるご発展を祈念するとともに、大いなる期待を込めて、お祝いの言葉とさせていただきます。

【特集2】長期的視点での主張と問題提起 識見の高い編集姿勢を貫く


内田高史/日本ガス協会会長

このたび、「エネルギーフォーラム」が創刊70周年を迎えられましたことを、心からお祝い申し上げます。

貴誌は、70年の長きにわたり、総合エネルギー専門誌として、わが国のエネルギー産業の在り方について多面的に論じてこられました。長期的展望に立ち主張や問題提起を行う識見の高い編集姿勢を貫き、価値ある情報発信を継続されてきたことにより、今日までのエネルギー産業の健全な発展に多大なる貢献を果たされました。関係者の皆さまのたゆまぬご努力に深く敬意を表したいと存じます。

社会情勢に応じた燃料転換 産業・社会の発展に貢献

この70年を振り返りますと、わが国は社会構造の変革を繰り返し、成長・発展を遂げてきました。われわれ都市ガス業界も、都市ガス需要の急増、深刻化する公害問題、激甚化する自然災害などを背景に、当初原料としていた石炭・石油から熱量が高く大気汚染の少ない天然ガスへの転換という変革を進めてまいりました。

安全で安定した供給体制を構築するとともに、天然ガスの高度利用や省エネに資する技術を磨き商品を開発することを通じて、お客さまの暮らしやわが国の産業・社会の発展に貢献することができたと考えます。

本年2月には、「第7次エネルギー基本計画」が策定され、バランスのとれたS+3Eの実現を基本的視点に据えつつ、40年のNDC(温室効果ガス削減の国別目標)達成と50年のカーボンニュートラル社会実現を目指す方針が示されました。その中で天然ガスは、トランジション期だけではなくカーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー源であり、脱炭素化された電源による電化と合わせて天然ガスへの燃料転換もカーボンニュートラル化の手段として位置づけられ、その重要性はこれまで以上に増すと考えます。

都市ガス業界では、まず足元の対策として、即効性があり確実なCO2削減につながる天然ガスへの燃料転換や高効率ガスシステムの導入促進などによりNDC達成に貢献するとともに、50年に向けては、社会コストを抑えたe―メタンへのシームレスな移行を中心に、多様な道筋でガスのカーボンニュートラル化の実現を目指す取り組みを、業界一丸となって加速してまいります。

貴誌には、こうした都市ガス業界の取り組みを広く社会に伝えていただくとともに、エネルギー産業を取り巻く情勢や課題について多角的に分析し卓越した提言を続けていただくことを期待したいと存じます。

最後に、「エネルギーフォーラム」の創刊70周年を機に、貴社のますますのご発展を心から祈念申し上げ、お祝いといたします。

【特集2】ゼロカーボン電力を万博会場に供給 エネルギーの未来像を映し出す


【関西電力】

関西電力は、4月13日~10月13日に大阪市夢洲地区で開催する「EXPO2025大阪・関西万博」で、「Beyond 2025」と題し、七つのエネルギープロジェクトに取り組む。

開催に先立ち関電は昨年9月、同博覧会向けにゼロカーボンの電力を供給する契約を2025年日本国際博覧会協会と締結した。契約電力は、4万5000kWで25年4月から26年3月末まで、パビリオンを含む会場全体に供給する。ゼロカーボンの電源としては、再生可能エネルギーや原子力発電に加えて、水素の活用も予定する。

万博・IRプロジェクトチームの前林ダニエル慎吾マネジャーは「1970年の大阪万博では、日本初の商用PWRである美浜発電所(福井県)で発電した原子力の電力を会場まで届けた。今回の万博ではゼロカーボンの各種発電方式を組み合わせて供給し、未来社会の『あたりまえ』を万博会場で先行して実現したい」と説明する。

水素関連プロジェクトの一つが水素発電実証。経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) が進めるグリーンイノベーション基金の助成を受けて、万博の期間中、水素混焼発電実証を行う。姫路第二発電所(兵庫県姫路市)のガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電1基(約49万kW)を使い、最大30 vol%まで水素混焼を行い、信頼性・安全性などを確認する。この電気を万博会場まで送り届ける計画だ。水素事業戦略室技術開発グループの松下吉文チーフマネージャーは「水素は燃焼速度が速く、従来のGTCCをそのまま使うことはできない。GTCCの燃焼器などを改良し対応した。このほか、周辺設備も拡充した。この設備をゼロカーボン水素で稼働する」と話す。

さらに水素燃料電池船では、岩谷産業が船舶建造・運航と船舶用水素ステーションの設置を、関電はエネルギーマネジメントと船舶用充電設備の建設を担当する。水素燃料電池船「まほろば」は燃料電池と蓄電池で稼働するため、水素と電気の二つの制御が必要だ。そこで関電は、南港発電所(大阪市住之江区)に水素充填と電気充電の設備を設置。水素事業戦略室事業開発グループの辻慎太郎マネジャーは「水素はフル充填に2時間、電気はフル充電に7~8時間かかる。水素充填は相当のエネルギーが必要で、充電と同時に行うと系統に負荷がかかる。エネルギーの平準化、コスト、時間に制約がある中で、どう供給するかなどを実証する」と語る。

原子力由来も燃料の一部 プロジェクトの拠点へ供給

これらのプロジェクトでは、福井県おおい町と県、ふくい水素エネルギー協議会が供給する原子力由来の水素も燃料の一部として使用。水素製造では、関電の原子力発電所から電力供給を受けて、おおい町の水電解装置を用いる。製造した水素は、姫路第二発電所と南港発電所に陸路で運搬するという。関電は「未来社会の実験場」となる万博を舞台に、エネルギーの未来像を映し出したい考えだ。

水素混焼発電を行う姫路第二火力発電所

【特集2】既存エンジンを応用して開発 500kW級専焼エンジンの実証開始


【三菱重工エンジン&ターボチャージャ】

国内有数の内陸型工業都市として栄えてきた相模原市で、各種エンジンの製品開発に取り組んできたのが三菱重工エンジン&ターボチャージャだ。三菱重工グループとしてCO2排出ゼロを掲げ、現在はディーゼルやガスエンジンを母体とした水素エンジンの製品化に乗り出している。

具体的には、昨年5月に6気筒の500kWクラス水素専燃エンジンの実証設備および供給設備を相模原工場内に設置し、実証試験を開始した。水素は、可燃範囲が広く燃焼性が高いという特性があるため、逆火やノッキングなどの異常燃焼が発生しやすい。一連の実証試験を通じて、これらの特徴を考慮しながらエンジンの燃焼安定性などを検証する。製品化は、2026年度以降になる見込みだ。

需要家の多様なニーズに応えるべく、混焼にも力を入れている。21年8月には、東邦ガスと共同で、コージェネ用の45

0kW級ガスエンジンを用いた試験運転を実施。体積比で35%の混焼に成功した。さらに23年11月には、5.75MW(1MW=1000kW)ガスエンジンの単筒試験機での実証を行い、混焼率50%(体積比)までの安定燃焼を確認した。同社は専燃と混焼のどちらの要望にも応えるべく、これからも製品開発を強化していく構えだ。

500kWクラス水素専燃エンジン

【特集2】トータルソリューションに注力 高純度水素製造からCO2回収まで


三菱化工機】

都市ガスやLPガスから水素を製造する装置「HyGeia(ハイジェイア)」を製造・販売している三菱化工機。同社が主力とする技術の一つが、水蒸気改質(スチームリフォーミング)法によって高純度(99・999%)の水素をオンサイトで製造することだ。燃料電池自動車向けの水素ステーションをはじめ、化学・鉄鋼産業や工業ガスとして水素を利用するユーザー向けなどに、これまで60年近くにわたって200基程の導入実績を重ねてきている。

同社は現在、CO2回収技術の開発に力を注ぎ始めている。その経緯を水素・エネルギー営業部の山口修水素・エネルギー営業課長はこう説明する。「当社が手掛ける装置は化石資源から水素を製造する技術であるため、CO2を排出してしまう。お客さまの脱炭素ニーズに応えるためにも、CO2回収技術をラインアップしておくことは避けて通れない課題だと認識している」

CO2回収技術に注力 PSAと膜技術で脱炭素

そうした中で二つの技術開発に取り組んでいる。一つ目がPSA(圧力スイング吸着)だ。この技術では圧縮したガスを吸着塔に送り、吸着剤によってガスを吸着させ、圧力変化を繰り返しながら目的となるガスを高純度に精製・回収する。昨年6月に、川崎市の自社工場内に回収設備を設置。水素製造時に発生する排ガスから95%を超える濃度のCO2回収の実証に取り組んでいる。ハイジェイアだけではなく、各種燃焼設備との組み合わせを想定した回収技術の開発に注力している。

二つ目は「膜」だ。CO2分離用分子ゲート膜と組み合わせた水素製造装置の開発を進めている。同社と次世代型膜モジュール技術研究(MGM)組合(京都)が共同で提案した技術で新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「二酸化炭素分離膜システム実用化研究開発」の助成事業として取り組む。これまでIGCC(石炭ガス化複合発電)などの高圧ガス源のプラント向けを想定して開発を進めてきたMGM組合の膜技術を、中圧の水素製造システムへと適用できるようにカスタマイズする。三菱化工機は水素製造装置にこの膜を組み込み、高純度の水素を製造すると同時にCO2を回収する。両者は分離回収コスト、低炭素水素の製造コストの経済評価を進めていく予定だ。

23年6月に策定された「カーボンリサイクルロードマップ」では、膜分離法が明記されており、CO2分離・回収技術のコスト低減に向けた技術領域の一つに掲げられている。同社はハイジェイアの「単品メーカー」としてだけではなく、CO2回収までを含めた脱炭素へのトータルソリューションを支える取り組みを加速させていく。

CO2回収装置を組み合わせて実証している

【特集2】CNニーズに応える事業を拡大 供給基盤構築と需要創出を推進


【東邦ガス】

製造業が盛んな東海地域では、カーボンニュートラル(CN)への対応を検討する企業が増えている。同地域のエネルギー事業をけん引する東邦ガスの元には、そうした企業からの相談が数多く寄せられる。同社はこうした要望に応えるべく、都市ガスへの燃料転換、CCUS(CO2回収・利用・貯蔵)やe―メタンなどの技術開発を着々と進めてきた。需要家の低・脱炭素化に資する取り組みを継続しつつ、近年、同社が注力しているのが水素供給基盤の構築だ。

水素製造プラントを新設 幅広い水素需要に対応

同社は、その一環として知多緑浜工場(愛知県知多市)の「水素供給拠点化」を進めている。同工場敷地内に水素製造プラントを建設し、昨年6月に運転を開始した。これまでも、オンサイト型水素ステーションなどを通じて水素の製造・供給を行っており、同プラントの建設を足掛かりに、早期に水素サプライヤーとしての地位を確立する狙いだ。

知多緑浜工場に新設された水素プラント

カーボンニュートラル開発部カーボンニュートラル開発第二グループの青山高幸課長は「天然ガスと水蒸気を反応させて水素を製造する。製造能力は1日当たり1・7tで、これは燃料電池車(FCⅤ)約340台分に相当。FCⅤのほか、熱分野での代替エネルギーや工業用原料としての活用が可能で、幅広い水素需要に対応できる」と同プラントの意義を語った。

水素製造時に発生するCO2は、顧客のニーズに応じて当面はクレジットの活用で相殺しつつ、将来的にはCO2の回収・利用も検討する。具体的な例の一つとして大成建設、アイシンと共同で、コンクリートにCO2を固定化するプロジェクトを推進中だ。

さらに、水素供給をはじめとしたあらゆる産業ガスの供給に強みを持つ大陽日酸とアライアンスを構築。これにより、年に1度行われるプラントの点検期間の際にも滞りなく供給できるほか、有事の際にはバックアップ供給を受けることが可能となった。

同工場の敷地内には拡充用のスペースを確保しており、水素製造工程におけるCO2の回収・利用や、需要拡大に応じて製造能力の増強を検討する。

【特集2】既存技術の利点を集めた製造装置 再エネの出力変動への追従が可能


【三國機械工業】

三國機械工業(東京都墨田区)は、工場やプラントで使用するための産業機械を販売するエンジニアリング商社。現在、同社が水素製造向けに扱うのがAEM(アニオン交換膜)方式水電解装置だ。独Enapter社が2017年に販売を開始したもので、日本では新技術として紹介されているが、すでに世界52カ国、約5000台の導入実績がある。三田逸郎プラント営業部長はその特徴について「AEM水電解方式はアルカリ水電解方式とPEM(固体高分子膜)水電解方式の利点を兼ね備えている。アルカリ水電解方式の弱点である生成水素の純度や再生可能エネルギーの負荷変動に対応する応答性、負荷・間欠運転の制限を克服しながら、PEM水電解方式のようにプラチナやイリジウムといった希少金属触媒を使用しない」と説明する。

希少金属なしで低コスト化 弱点克服する技術を採用

同装置は、99・999%の高純度の水素を3・5MPaGの高圧で生成する。電極反応はアルカリ水電解方式と同じだが、アルカリ水電解では水酸化カリウム(KOH)を約30%含有した水溶液を使うため腐食性が高い。これに対し、AEM水電解方式は約1%の薄い水溶液を利用するため、そうした心配が少ない。また、PEM水電解方式と同じ膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)構造で、高速応答性や広い運転範囲、間欠運転を許容するなどの特性を持ち、再生エネの出力変動にも追従する。

PEM水電解方式の製造プロセスはProton(H)をキャリアとするため酸性環境となり、電極触媒やガス拡散層に希少金属を使う必要がある。これに対してAEM水電解方式は水酸化イオン(OH)をキャリアとした弱アルカリ環境のため貴金属を使う必要がなく、低コストで装置ができる。また陰極から排出される水量が少なく、水の回収プロセスが不要なためシステムを簡素化できる。

Enapter社の装置はAEMスタックを必要な製造規模に合わせて拡張する仕組みを採用している。このため、スタック単体の能力は小さく、2・4kWの電力で毎時0・5N㎥の水素が生成できる。同社ではスタックを一つ載せたシングルコアと複数搭載したマルチコアの二つのモジュールを用意しており、使用環境の規模に応じた装置を構成することが可能。MWクラスで毎時210N㎥以上の大規模水素生成も実現できる。

さらに、一つのスタックに不具合が生じても稼働を継続できるのも大きな強みだ。導入する工場の製造ラインを止める必要がなく、修理・交換は必要な箇所のみ実施して対応可能だ。

カーボンニュートラル実現に向けては、水素製造においても再エネの利用は避けて通れない。しかもコスト低減が求められる。そうした状況に既存技術の良いとこ取りのAEM水電解方式は、今後国内で大きな関心を集めていきそうだ。

MWクラス装置「AEM Nexus 1000」

【特集2】製造装置の信頼性が顧客に好評 e‐メタン利用も武器に市場開拓


【大阪ガス】

水素は次世代エネルギーとして期待が高まる一方で、産業用ガスとして利用する歴史が長い。同用途向けに大阪ガスが2003年度に発表したのがコンパクト水素製造装置「HYSERVE」シリーズだ。エンジニアリング部の池田耕一郎課長は「プラント型の大型設備と比較して価格とスペース設置を従来の半分にしながら、運用面ではボタン一つで起動・停止が可能、遠隔監視による無人運転もできる製品に仕上げた」と話す。

低コストと省スペースの実現に寄与したのが独自の触媒などの技術だ。水素製造では、まず、13A都市ガスやLPガスから付臭剤を除去。これには「超高次脱硫剤」を使用する。ガスの改質工程では、「水蒸気改質触媒」でH2を主成分とする合成ガスに改質する。さらに、この合成ガス中のCOをH2に転化。同工程に「CO変成触媒」を用いる。最後に、水素PSA工程で不純ガスを除去し高純度のH2だけを送出するなど、各工程で貢献する。

23年9月には、同シリーズで最大能力を持つ「HYSERVE―300X」を発売。従来機を改良し、さらなるコストダウンと設置面積縮小を図った。水素製造では300N㎥時の能力を維持しながら、原料から水素を生み出す改質効率は最高レベルを実現。99・999%の高純度で水素を製造する。装置の縮小化では、製造フローを見直し、構成機器の削減を図りコストを低減しつつ、従来機より設置面積を約40%縮小した。

ものづくりの現場で採用 ライセンスで海外にも展開

国内で同装置を導入するのは、ものづくり分野の顧客がメインだ。累計で約40台販売実績がある。産業用ガス向けに販売やエンジニアリングを手掛ける大阪ガスリキッド水素ソリューション部の杉田雅紀部長は「当社の安心手間いらずのサービスが、製品の製造工程で水素供給を止められない、24時間連続で使用する企業など、高い信頼性を求めるお客さまに支持されている。水素ステーション(ST)用途でも導入実績がある」と語る。

海外にも展開中だ。韓国ヒュンダイモーターグループに同装置の韓国国内での製造と日本以外への販売に関するライセンス供与を行っており、韓国はもとよりアジア圏もターゲットにしている。Daigasガスアンドパワーソリューション海外営業チームの徳田氏忠士マネジャーは「韓国で燃料電池車(FCV)は約2万台販売され、FCバスも定期運行する。水素ST向けの同装置の稼働率は日本国内の装置と比較にならないレベルで高い」と話す。また、アジアでは台湾などがカーボンニュートラルに向けて水素利用の検討を進めており、同装置の導入も候補に上がっている。

同装置は、都市ガスやプロパンのほか、バイオガス由来のメタンガスやe―メタンを使用することもできる。クリーンな水素製造が可能だ。今後、活躍の場をさらに広げていく。

コスト低減と設置面積縮小を図った

【特集2】燃焼と蒸気供給技術を融合 専焼・混焼の両モードを実現


【川重冷熱工業】

業界に先駆けて1970年代から水素を燃料とするボイラーを開発・製造してきた川重冷熱工業は、その知見を生かし、水素焚の貫流ボイラーの開発に注力している。

2021年には、小型貫流ボイラー「WILLHEAT(ウィルヒート)」に水素専燃バーナーを搭載した製品を開発・発売した。同製品は98%の定格ボイラー効率を誇るウィルヒートに、NOx(窒素酸化物)排出量を世界最小に抑えた「ドライ式低NOx水素専焼バーナ」を組み込んだものだ。

従来は、蒸気噴霧や排ガスの再循環などで水素燃焼によるNOx排出量を抑えていたが、これには熱損失を伴う。独自の水素と空気の混合方式を用いるドライ式バーナーで、熱効率を維持したまま低NOxを実現した。

23年12月には、大型貫流ボイラー「Ifrit(イフリート)」に水素専燃・混焼機能を追加。培ってきた各種ボイラーでの水素燃焼技術とイフリートの蒸気供給プロセスを組み合わせた。水素と天然ガスの混焼モードと2つの燃料を個々に燃焼する専燃モードを切り替えることで、「水素専焼」・「水素混焼」・「天然ガス専焼」の3つのモードを実現した。混焼時は水素を熱量比で0~30%まで調整可能。同社は今後も水素関連の技術開発を進め、顧客の需要に応えていく。

ウィルヒート(左)とイフリート