【特集2】ガスタービンで水素30%混焼に成功 アンモニア燃焼システムも開発中


三菱重工業が水素・アンモニア発電用ガスタービンの開発に注力している。次世代ニーズに対応するため近年中の完了を目指す。

【三菱重工業】

三菱重工はカーボンフリー燃料として水素・アンモニアを利用するガスタービンの開発に注力する。水素ガスタービンの早期商用化に向けては同社高砂製作所内に「高砂水素パーク」を整備、水素の製造から発電までにわたる技術を一貫して検証している。

水素ガスタービン開発では昨年11月、実証発電設備で最新鋭の「M501JAC形」ガスタービンによる水素30%混焼運転に成功した。今後、中小型ガスタービンは25年、大型ガスタービンは30年以降の水素専焼での商用化を目指し、新型燃焼器の開発を進めていく。

水素は天然ガスに比べて燃焼速度は7倍と高く、燃焼器で天然ガスと水素を混焼、または専焼すると、天然ガスのみを燃焼した場合よりも火炎位置が上流に移動し、空気と十分混合する前に高い火炎温度で燃えるため、NOXが増加する。また、燃焼器の上流に火炎が遡り、逆火が発生するリスクも高くなる。そうした課題を解消するため、専焼用のマルチクラスタ燃焼器では混焼用燃焼器より、高流速かつ混合距離が短縮可能で、逆火耐性が高いものを目指す。また、火炎を多数に分散することでNOX低減を図る。

アンモニアでは2方式を検討中 安定した火炎保持が課題

一方、アンモニアは天然ガスに比べて発熱量が3分の1、燃焼速度が5分の1と低いため、燃焼が不安定になりやすく、火炎を安定して保持することが難しい。また、窒素分を含んでいるため、燃焼の過程で発生するフューエルNOX(燃焼由来)が生成されるため、NOXを低減する手法が必須だ。そこで同社はアンモニア燃焼システムとして、直接燃焼GTCC(ガスタービン複合発電)と分解GTCCの2方式を検討中。直接燃焼GTCCはNOX排出量を低減するアンモニア用燃焼器と高効率脱硝装置を組み合わせた。同システムは中小型H-25形ガスタービンで開発を進め、25年以降の実機運転、商用化を目指す。分解GTCCは実用化を検討中だ。

長期脱炭素電源オークションに参加するうえで、火力発電の次世代燃料への対応は必須条件となる。こうした発電ニーズに三菱重工はさまざまな開発を進めて応えていく構えだ。

高砂水素パークで混熱運転を進める

【特集2】清掃工場由来のCO2を資源に 佐賀市の循環型社会づくりに貢献


力発電所で磨いた技術を転用し実現した。全国に広がる可能性を秘めた先進事例だ。

【東芝エネルギーシステムズ】

佐賀市の清掃工場で発生する排出ガスからCO2を取り出し、地元の農業に生かす―。そうした仕組みが地域の脱炭素化と資源循環を促す取り組みとして、国内外から熱い視線が注がれている。東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)が火力発電所で磨いたCO2分離・回収技術を転用した事例で、全国各地に広がる可能性を秘めている。

市は「バイオマス産業都市構想」を掲げて廃棄物を資源として循環する街づくりを進めている。その一環で、CO2分離・回収事業を推進中だ。

事業のきっかけとなったのが、東芝グループのシグマパワー有明が運営するバイオマス発電所「三川発電所」(福岡県大牟田市)。同発電所は、火力発電所などの排出ガスから放出されるCO2を分離・回収する技術の開発拠点としての役割も担い、実証運転を重ねてきた。その実績に注目した市が清掃工場に役立てるアイデアをひらめき、排出ガスの新たな活用策を模索。16年に清掃工場向けCO2分離・回収設備を東芝から導入した。

積み重ねた設備改良と工夫 吸収液の高性能化も推進

ただ、火力発電向け技術の清掃工場への応用は一筋縄ではいかなかった。工場の排出ガスに含まれるCO2は濃度の変動が大きい上、金属を腐食させる塩化水素も多く含まれているからだ。東芝ESSは、そうした問題に設備の改良や工夫で対処し実用化。現在、ごみ焼却時に発生する排出ガスの一部から1日で最大10tのCO2を分離・回収している。

この技術は約99.9%という高純度のCO2を取り出せることも特徴だ。低温でCO2を吸収し高温になると放出する化学吸収液「アミン」を排出ガスに接触させてCO2を吸収。その後の工程でアミンを加熱することでCO2を放出させる。今春には、耐久性が高く環境にやさしいCO2吸収液を開発した。

市は回収したCO2を、光合成に必要な有価物としてパイプラインで近隣農家などに供給。野菜や微細藻類の育成に生かすことも狙う。東芝ESSパワーシステム事業部の斎藤聡・炭素利活用技師長は「地域で資源循環も促せるシステムの導入事例を増やし、CO2回収コストの低減につなげたい」と述べた。

脱炭素に有効なCO2分離・回収設備

【特集2】存在感を放つ燃焼技術の先駆者 アンモニア燃料転換を下支え


長年にわたりアンモニア利用技術を追求してきた。碧南火力の実証用バーナー開発に知見を生かす。

【IHI】

IHIは、約10年にわたり磨いてきたアンモニアの燃焼技術を生かし、火力発電の脱炭素化を後押ししている。アンモニアを燃料として活用することで、発電設備から排出されるCO2の削減に貢献したい考えだ。

IHIは持続的な高成長に向けて2023年度に打ち出した「グループ経営方針2023」で、クリーンエネルギー分野を「育成事業」と位置付けた。この方針に沿って、アンモニアの製造から貯蔵・輸送・利用にいたる「バリューチェーン(価値連鎖)」の構築事業に積極的に参画。下流では、「電力」「船舶」「産業」という三つの用途を視野にアンモニア燃料の利用技術開発に力を入れている。

試験でバーナーの実力証明 大気汚染物質の排出抑制

存在感を発揮した舞台の一つが、JERAが運営する碧南火力発電所(愛知県碧南市)4号機だ。両社は燃料である石炭の20%をアンモニア燃料に置き換えて発電する大規模な実証試験を4月から6月にかけて進めてきた。

実証で使うバーナー(燃焼装置)を開発したのがIHIだ。5号機で22年に進めたアンモニア燃料の小規模利用試験で得られた知見を、実証用バーナーの開発に役立てた。実証では、ボイラーに差し込まれた石炭焚きバーナー48本をアンモニア混焼用に改造して実施。同発電所に受け入れた液化アンモニア燃料をガス化した後にボイラーに送り込み、バーナーで石炭と同時に燃焼させる仕組みだ。

実証を通じて,燃焼により発生する窒素酸化物(NOX)や未燃分などの燃焼特性に加えて、硫黄酸化物(SoX)やCO2などの環境特性も確認。アンモニア混焼の有効性を実証したという。

アンモニア転換の量をさらに引き上げると、こうした環境特性と燃焼の安定化を両立するハードルが高まる。IHIは引き続き燃焼技術の高度化を追求し、転換率50%以上の達成に貢献。将来的には、アンモニアのみで燃焼するバーナーを開発し、アンモニアのバリューチェーンづくりに弾みをつける。資源・エネルギー・環境事業領域カーボンソリューションSBUの難波裕二次長は「日本で先行的に磨いたアンモニアの利用技術を周知し、アジアにも広げていきたい」と意欲を示した。

JERA碧南火力発電所の実証用バーナー

【特集1まとめ】省エネ合戦の変貌 電力vsガス競合を変えた三大要因


1980年代~2010年代前半、電力業界とガス業界は熾烈なエネルギー間競合を繰り広げた。

この競合こそがエネルギーの高効率利用を柱とする技術開発を進展させてきたのだ。

ところが2010年代後半に入ると、両業界を巡る情勢は大きく変化していく。

システム改革を通じた大手エネルギー事業者の分割や相互参入の加速。

再生可能エネルギー大量導入に伴う新たな需給システムの導入。

そうした中で押し寄せてくる世界的なDX・GXの大波。

かつての省エネ合戦は、これらの要因によってどんな変貌を遂げていくのか。

電力vsガス技術競合の変遷をたどりながら、直面する課題や今後の行方に迫った。

【アウトライン】自由化・再エネ・DXで新局面に 利用技術開発競争の往古来今

【レポート】効率HPの技術開発に黄信号 再エネと自由化の影響を読む

【レポート】コージェネを巡る環境変化の深層 時代に即した技術開発が必要に

【対談】変遷から課題までを徹底討論 国内産業の成長に資するか 目指すべき開発の方向性とは

【特集2まとめ】ベースロード再エネの実力 「お天気任せ」解消の切り札に


カーボンニュートラルの切り札として期待が集まる再生可能エネルギー。

話題の太陽光・風力発電は発電量が天候などの自然条件に左右されるため、

制御が難しく、電力システムのあらゆる箇所に与える影響が大きい。

その裏側で開発が進むのが地熱や流れ込み式の小水力、バイオマスなどだ。

基幹電源として稼働しやすく、事業者は安定した発電計画が立てられる。

お天気任せを解消する「ベースロード再エネ」の優位性に注目した。

【アウトライン】 地域主体で電力と利益を回す 事例広がるも課題が顕在化

【レポート】バイナリー発電で町おこしに力 高齢化進む温泉町の期待を背負う

【レポート】水力発電の知見を全国展開 地元自治体と連携して立ち上げ

【レポート】ごみ発電更新へ市政最大の投資 資源循環社会構築の原動力に

【レポート】国産森林資源で地域振興に貢献 熱電併給で持続可能社会を形成支援

【レポート】コメ産地でもみ殻をエネルギー転換 ホテルや温浴施設への熱供給にトライ

【特集2】ごみ発電更新へ市政最大の投資 資源循環社会構築の原動力に


【市川市クリーンセンター】

一般廃棄物(ごみ)の焼却時に発生する熱を使ってタービンを回して発電するのが、バイオマス発電の一つ「ごみ発電」だ。天候に左右されることなく安定的に発電できることに加えて、化石資源を燃やさないクリーンな発電方式である。発電所から排出される熱を温浴施設などに生かすことも可能で、未利用エネルギーの有効活用を進める発電手法として各地の自治体を中心に古くから利用されている。

そんなごみ発電に取り組んできた自治体の一つが、資源循環型の都市づくりを進める千葉県市川市だ。市内で唯一のごみ焼却施設「市川市クリーンセンター」で、人口49万人、25万世帯数ほどの市の全量の廃棄物処理を一手に担っている。

クリーンセンターは1994年に運営を開始以来、すでに30年近く稼働している古株の施設でもある。3つの焼却炉(焼却能力は1日当たり1基200t)、蒸気タービン(7300kW×1基)などで構成されており、その規模は千葉県内でもトップクラスを誇っている。

「合計三つの焼却炉をローテーションさせ、常時二つの炉を運用しながら安定的に発電させている。発電した電気は施設内で自家消費するほか、隣接する市の温浴施設へ供給しており、余った電気は毎年入札にかけて電力会社に売電している。熱の一部は同様に温浴施設へ供給しており、施設から生み出されるエネルギーを無駄なく活用している」と、市川市環境部の品川貴範次長は説明する。年間の発電量は4000万kW時ほどで、数億円規模の発電収入が市川市の財源を支えているそうだ。

老朽化に伴いリプレース 新たな環境価値創出へ

そうした実績を土台にクリーンセンターは、資源循環型を志向しながらカーボンニュートラルを目指す市の方針のもと、新たな「再生計画」を打ち出す。

計画によると、施設の老朽化に伴い、2031年の運転開始を目指して完全リプレースを実施する。環境負荷の少ない効率的で安定したごみ処理体制の構築に向けて、従来よりも少ないごみの量で発電出力をアップさせる設備を導入する。

具体的には、クリーンセンターを構成する焼却炉やタービンの数は変えずに、焼却炉を1日当たり1基141tへとスケールダウンさせる一方、発電出力を1万1000kWへ引き上げる。メーカーによる技術力の向上に伴い、効率的な設備導入が可能になる。20年間の運転も含め、750億円程度を投資する予定で、市政始まって以来、最大の投資額だという。

市によると、「新施設では、これまでのようにただ余剰電力を売電するのではなく、発電した電気の環境性を最大限に活用していく方針だ。そのため、ごみ発電による環境価値を市内で循環させるようなスキームを構築することを考えている」(品川氏)という。

次期クリーンセンターの詳細計画については、近く公表する予定。発電できるごみ処理施設が生み出す新たな価値に期待がかかる。

更新予定の市川市クリーンセンター

【特集2】地域主体で電力と利益を回す 事例広がるも課題が顕在化


地域資源を生かす多様なベースロード再エネが津々浦々に広がっている。

一段の導入拡大に向けて開発コスト低減など数々の壁も立ちはだかる。

天候などの自然条件に左右されにくく安定的に発電できる―。そんな「ベースロード(基幹)電源」の役割を担える多様な再生可能エネルギーへの期待感が、全国各地で高まっている。脱炭素化にとどまらず、発電設備の建設や運用などを通じて導入地域に経済効果をもたらす可能性を秘めているからだ。一方で導入拡大に向けた課題も抱えており、関係者には持続可能な事業モデルづくりで創意工夫する力量が試されている。

30年度導入目標が目前に バイオマスが存在感を発揮

ベースロード再エネの一つが、森林由来の間伐材をはじめとする生物由来の未利用資源を燃焼する際の熱を用いて電気を起こす「バイオマス発電」。発電した後の排熱は、周辺地域の暖房や給湯向けに役立てられる。

資源エネルギー庁によると、バイオマス発電は2012年に固定価格買い取り制度(FIT)が開始されて以降、着々と導入量が拡大し、3月末に約7・5GWに(1GW=100万kW)到達。30年度の導入⽬標8・0GWに近い水準を実現した。

中でも未利用木材を燃やしてタービンを回し発電する「木質バイオマス発電」に目を向けると、国産材を燃料に生かす機運が高まっている。国土の約3分の2が森林に覆われた日本の林業を振興するなど、雇用を含め地域を活性化する効果が見込めるからだ。

これまで外国産の木材を利用した発電施設が増えてきたが、風向きが変わりつつある。背景には、世界最大の木質ペレット製造業者で知られる米エンビバが3月に破産を宣言した動きがあり、輸入材の安定調達が揺らぎ始めている。政府も国産材の活用促進に意欲を示しており、国産材へのシフトが進む可能性がありそうだ。

木質バイオマス発電向け未利用木材 提供:三洋貿易

バイオマス発電の導入促進に向けては、コストの大半を占める燃料費の低減が鍵を握る。さらに燃料需給がひっ迫する傾向にもある中で政府は、燃料安定調達の観点から成長の早い早生樹などを生かす実証事業を後押しする。

一方、河川や農業用水、上下水道などに流れる水のエネルギーで水車を回して発電する「中小水力発電」も各地で存在感を発揮。導入量はバイオマスと同様、直近で30年度の目標10・4GWに迫る10・0GWに達した。

ただ、有望な開発地点から優先的に開発した結果、適地が減少。残された開発可能地点の多くは奥地にあり、開発が長期にわたりコストがかさむという課題に直面している。このため、開発時のコストとリスクの双方を低減しながら地域と共生できる導入スキームを実現する対応が求められている。

地中深くから取り出した蒸気でタービンを回し発電する地熱発電もベースロード再エネの一翼を担う電源で、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の支援制度を活用した事例が積み上がっている。3月には、JOGMECの開発資金債務保証を活用し、三菱マテリアルと三菱ガス化学、電源開発(Jパワー)が共同出資する「安比地熱」(岩手県八幡平市)の発電所が営業運転を開始。JOGMECは先導的な資源量調査も行っており、20~23年度に全国で延べ約80件を実施したという。

運転を始めた安比地熱発電所 提供:安比地熱

とはいえ足元の導⼊状況を見ると、0・6GWにとどまっているのが現状。地元調整などを含む事業開発に長期間を要すると想定される中、30年度⽬標1・5GWとの間に大きな開きがある。目標達成に向けて政府は水力発電と同様、リスクとコスト面を考慮した地域共生型の導入を促そうとしている。

イノベーションにも熱視線 地熱発電技術が進化へ

地熱発電を巡るイノベーション(技術革新)の行方にも熱い視線が注がれている。政府は、世界有数の地熱資源量を誇る日本で「開発可能な資源量」を増やそうと次世代の地熱発電技術の開発に取り組む方針を、現行の第6次エネルギー基本計画に盛り込んだ。

この中で「高温岩体地熱発電」や「超臨界地熱発電」といった次世代技術にも触れ、「世界に先駆けて技術開発から社会実装、そして世界展開へとつなげていくことで、50年のカーボンニュートラルに貢献していく」と明示した。超臨界地熱発電は、マグマに近い深部にある400〜600℃の熱水を生かして発電する仕組みだ。

地熱発電を利用する可能性を広げる動きは世界規模で活発化し、消費電力が多いデータセンター(DC)の需要増加に対応する切り札としても注目される。米グーグルはスタートアップと組み、ネバダ州のDCにつながる地域送電網へ電力の供給を始めた。「脱炭素化と安定供給の観点から多様なオプションをバランスよく見極めたい」とエネ庁新エネルギー課。日本の電源構成で10%超を占めるベースロード再エネの最前線に迫った。

【特集2】水力発電の知見を全国展開 地元自治体と連携して立ち上げ


【三峰川電力】

大手商社・丸紅の100%子会社である三峰川電力は小水力発電事業を中心に手掛ける発電事業者だ。同社は1960年に「三峰川総合開発事業」の一環として、長野県伊那市長谷で水力発電所を稼働させたことに始まる。設立当初から小水力発電の原型になる流れ込み式発電に注力してきた。ダムを使わず、環境負荷の少ない再生可能エネルギーである点が特長だ。

同社が手掛ける発電所は開発中を含めて全国に30カ所以上点在する。水力発電は自然の力を利用して発電するため、開発においては地元自治体や住民との関係づくりが欠かせない。「当社のような民間事業者が導入地域の機運醸成、合意形成を円滑に図ることは容易ではない。一方、自治体は発電事業を手がけてみたものの、需要計画や管理運営などが障壁となる。協業することでウィンウィンの関係が構築できる」。指本喜範事業開発部副部長はこう話す。

欠かせない深いつながり 体験学習など交流活発

この取り組みの一つが、山梨県北杜市にある「村山六ヶ村堰ウォーターファーム」だ。元々、同地の水力事業は農業用水路を使った発電設備を自治体が所有していたことに始まる。設備が稼働し始めた2007年当時は、まだ再エネの固定価格買い取り(FIT)制度が開始となる前で、事業採算性の確保が困難だった。そこで、北杜市が行政許認可協議や地域住民との合意を、三峰川電力が発電事業の運営を担うことによって課題を克服した。同発電所にとどまらず、北杜市には現在三つの小水力発電所が稼働し、合計出力970kW規模まで拡大している。

北杜市では4カ所立ち上げた

もう一つが福島県下郷町の「花の郷水力発電所」だ。下郷町の当初の目標は「小水力発電で村全体の電力を賄うこと」であり、三峰川電力と提携した。これにより、花の郷発電所をはじめ、合計3カ所の発電所を設けた。現在では町全体の5分の1程度の電気を賄うまでに拡大した。このつながりによって、地元で体験学習や見学会を実施したり、下郷町の特産品を丸紅本社で販売するなどさまざまな交流も活発に行っている。

下郷町全体の5分の1の電気を賄う

三峰川電力では、今後も全国において有望地点を探し新たな発電所開発を進めていく構えだ。「水力発電開発は地点探しに始まり、地元の交渉、許認可申請、建設工事など稼働開始まで長い道のりだ。ただ、急峻な日本の地形には有望な地点がまだたくさんある。当社の拠点となる長野県を中心に、進出していない四国や九州にも展開していきたい」と指本氏は展望する。

自然負荷の少ない小水力発電は脱炭素化を目指す地域や企業からもニーズが高い。今後さらに注目されるのは間違いない。

【特集2】バイナリー発電で町おこしに力 高齢化進む温泉町の期待を背負う


【元気アップつちゆ】

沸点が低い媒体を気化し、その蒸気でタービンを回すバイナリー発電。福島市土湯温泉町にある「元気アップつちゆ」は、東日本大震災を機にこの発電に着手し、地域貢献している。

同社が手掛ける「土湯温泉16号源泉バイナリー発電事業」は、出力400kW、年間300万kW時。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で売電し、年間1億2000万円の収入を得ている。この一部は2015年の運転開始以来、地元住民に還元。例えば、高校生の通学定期券代、小学生の教科書代は、対象者の申請があれば全額補助する。

背景には、「土湯温泉に残りたい」と考える地元の若者を一人でも増やしたいという思いがある。従来この地は雪深く、冬になると麓の親戚の家から通学する学生が多い。高齢化率は56%に達しており、温泉町から若者流出を食い止めたいという強い願いもある。

誘客手段として位置付け 新たな魅力を創出し発信

同社の佐久間富雄エリアマネージャーは「発電所の役割は、土湯温泉に人のにぎわいを取り戻すこと」と語る。同社はまちづくりを支援する会社であり、発電事業オーナー、維持管理会社でもあるため、利益の追求は必至。観光の目玉として、理想的なワーケーションの地として、発電所には土湯温泉の誘客としての役割を期待しているという。

発電所は東京から新幹線で1時間半に位置し、首都圏居住者が観光の途中に立ち寄れる。新しい企画にも意欲的で、メディアを通じて常に話題を提供。例えば、廃業や高齢化で空き家となった建物を有効活用するため、売電収益により自社で土地建物を所有し、地域の活性化となる場所を創出している。

空き家活用の事例としては、発電時に排出される温水となった冷却水を二次利用してエビを養殖し、エビ釣りカフェを設置。さらに、土湯温泉観光協会や地元温泉組合と連携し、温泉熱を活用し発酵させる納豆ラボを完成させるなど、地域の資源を有効活用し、社会に新たな価値を提供している。今後も地域を活気づけていきたい考えだ。

土湯温泉16号源泉バイナリー発電所

【特集2】国産森林資源で地域振興に貢献 熱電併給で持続可能社会を形成支援


【三洋貿易】

地域の森林から生み出された間伐材などの未利用木材「木質バイオマス」を燃料として活用し電力と熱を供給する―。そうした熱電併給システム事業に力を入れているのが、専門商社の三洋貿易(東京都千代田区)だ。脱炭素化を後押しするとともに、地域の循環型社会づくりにも貢献したい考えだ。

同社は、ドイツの熱電併給装置メーカー、Burkhardt(ブルクハルト)の装置を日本市場で取り扱う総代理店。2014年に同社製装置の扱いを始め、約40基をバイオマス発電所に提供してきた。

熱電併給装置は無人運転で、木質ペレットを炭化する際に発生するガスを利用してエンジンを回転させて発電する。ガス化する際に得られた熱は、温水として役立てることが可能だ。

こうした仕組みで地域貢献しようと、三洋貿易と木質バイオマスによる地方創生に取り組む大日本ダイヤコンサルタント(東京都千代田区)は、6月に下川運輸(北海道下川町)が道内に設立した「北の森グリーンエナジー」へ出資した。

北の森グリーンエナジーは、三井物産と北海道電力が共同出資する北海道バイオマスエネルギーの木質バイオマス発電事業を引き継ぎ立ち上げた新会社で、資本金は8050万円。三洋貿易と下川運輸に加えて、大日本ダイヤコンサルタントも出資した。今後の事業では、下川運輸は現場で運営に携わり、大日本ダイヤコンサルタントが経営管理を担う。

ペレットに加工し燃料化 余剰熱の有効活用にも意欲

新会社が3万9254㎡に及ぶ下川町内の広大な敷地に集める木材は、年間で約1万t。それを同敷地内のペレット工場で加工し、燃料として熱電併給装置に供給する。そこで発電した電気は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度「FIT」を活用して売電し、同時に生じる熱の利用も促す。出力の規模は1996・5kWだ。

木質バイオマスの地産地消で鍵を握るのは、地域との間に持続的な協力関係を構築して木材を安定調達する取り組み。木質資源を集める担い手の確保も重要な課題となる。

新会社社長で三洋貿易グリーンテクノロジー事業部の事業部長補佐も務める大藪吉郁氏は、「国産の木質バイオマスを有効活用することで、脱炭素化のみならず、周辺市町村の雇用創出や林業の活性化にも貢献していきたい」と強調する。

また、熱電併給装置で発生する熱はペレット工場で木材を乾燥する際に使われる。余った熱は今後、地域に供給したい考えだ。大藪氏は「地域貢献につながるビジネスを育てていきたい」と力を込める。

三洋貿易は、秋田県産木材を燃料として用いる木質バイオマス発電所の建設計画にも参加。東北電力などが共同出資する会社が運営する発電所で、三洋貿易も出資している。地域活性化の観点から国産材による木質バイオマス発電事業を促す機運が官民の間で高まる中、三洋貿易の挑戦の舞台が広がりそうだ。

熱電併給向けペレット製造装置

【特集2】コメ産地でもみ殻をエネルギー転換 ホテルや温浴施設への熱供給にトライ


【オーリス】

秋田県大潟村で国内初のプラントが稼働を始めた。

「自然エネ100%の村」づくりに弾みをつける。

日本有数のコメ産地で知られる秋田県大潟村で、稲の実の外皮「もみ殻」を燃料にバイオマス熱を地域に供給するプラントが完成した。同村が県内企業と設立した地域エネルギー会社のオーリスが試運転を8月1日に始めた。もみ殻を生かす熱供給事業は国内初で、今秋の商業運転開始を目指す。

CO2排出量削減にもつなげる 副産物は農業資材の用途に

村内では、もみ殻が年間に約1万4000t発生している。このうち約8000tを使用し、バイオマス地域熱供給プラントのボイラーで90℃の温水に転換。この熱エネルギーを地中に埋設された3.5㎞の熱導管を通じてホテルや温泉施設、小中学校など五つの施設に届ける仕組みだ。プラントの熱出力は合計で700kWだという。

各施設の暖房や給湯に使っていた化石燃料からもみ殻に置き換えることで、地域の脱炭素化を後押しする。もみ殻を役立てることで化石燃料の使用量を削減し、年間約1550tものCO2排出量を低減する見込み。

さらに、もみ殻の燃焼時に副産物として得られる燻炭を土壌改良剤などの農業資材として農家に販売。国がCO2排出量の排出削減効果を認証する「J―クレジット」制度も生かしたい考えだ。

再生可能エネルギー由来の熱供給は、国内で進んでいないのが現状だ。設備の導入コストが高いことに加えて、熱の需給バランスが取りづらいことが主因。こうした中で未利用資源を燃料に熱供給する今回の試みは、画期的な取り組みとして注目を集めそうだ。同村は「自然エネルギー100%の村づくりへの挑戦!」という目標を掲げている。

もみ殻を貯蔵・搬送するハウス

【特集1まとめ】再エネ主力化の正念場 自治体規制や開発実態を独自調査


第5次エネルギー基本計画で初めて打ち出された「再生可能エネルギー主力電源化」方針。

旗は掲げられ続け、電源構成での再エネ比率は21.7%(2022年度)まで拡大した。

しかし太陽光などにまつわるトラブルは依然多くの地域が抱える課題であり、

自治体は規制強化と、適切な再エネ拡大のバランスに悩みながら策を講じている。

一方、今後導入量積み上げの主軸を担うであろう洋上風力。地域への経済波及効果や、

産業政策の面からも期待が高まるが、開発が進む地域の実情はどうなのか――。

第7次エネ基の検討が進む今、正念場を迎えた再エネ主力化の実情を探った。

【アウトライン】特措法改正で段階的に規律強化も 再エネ規制へ自治体の温度差鮮明に

【インタビュー】一層の拡大は地域共生が大前提 需給面でFIP活用が重要に

【レポート】洋上風力は地域経済を再生できるか 秋田・能代と石狩の現場をレポート

【座談会】脱炭素の追い風も行く手には難路 持続的な成長に必要な視座

【レポート】川崎で自治体最大規模の事業始動 廃棄物発電に期待される役割

【特集2まとめ】分散型ミックス時代の潮流 コージェネ~再エネを最大活用へ


火力発電を中心とした大規模電源によって、これまで電力の需給バランスの安定化が図られていた。しかし、火力事業の見通しが立ちにくくなるなか、分散型電源の重要性がクローズアップされている。コージェネ、再エネ、蓄電池、VPP―。DXの進展が分散型ミックスを後押しする。多様なリソースの最適運用を目指す取り組みを追った。

【アウトライン】多彩な地域エネ資源で脱炭素化 防災力向上と経済振興にも貢献

【座談会】期待高まる分散型エネ資源 重要視される市場の制度設計

【レポート】地域熱供給でロードマップ策定3本柱で新たな街づくりに挑む

【レポート】天神中心地の新ランドマークへ 大型複合ビルにコージェネを導入

【レポート】ごみ発電で地産地消電力を拡大 全国の循環型社会づくりを後押し

【レポート】廿日市市へ特定送配で電力供給 LNG基地の設備運用を改善

【レポート】空気の力で電力需給ニーズに対応 LNG冷熱利用で効率化目指す

【レポート】日立製作所と巧みな連携プレー実現 複数事業所のエネ共同利用を最適化

【レポート】脱炭素化に向けてエネ全体を最適化 コージェネなどの設備をAI制御

【レポート】分散する蓄電所をデジタルで制御 再エネ支える電力インフラに育成

【特集2】太陽光発電の戦略を深掘り グローバル企業の脱炭素化を支援


東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

グループ全体で再生可能エネルギー導入量の拡大・運用を目指している東京ガス。とりわけ、ここ数年の太陽光発電を巡る動きは活発だ。「太陽光発電設備のAI活用」「メガソーラーの設計施工」「エネルギーサービスにおける再エネ運用」―の三つの取り組みを紹介する。

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は2022年9月、東京センチュリー、京セラコミュニケーションシステムと共に、太陽光発電事業に関わる新会社、A&Tm社を立ち上げた。FIT制度がなくなり、再エネの導入にブレーキが掛かる懸念がある。その中で、太陽光発電設備をいかに効率良く運用して、再エネ導入の拡大につなげていくか―。

そんな問題意識から、太陽光発電設備のアセットマネジメントや、テクニカルマネジメントの提供によって太陽光発電事業者の収益性を高めることを目的に新会社を立ち上げた。まずは各グループ会社の設備を中心に運用を担っている。

A&Tm社の澤井創一社長は「新会社発足から1年ほど経過したが、順調に成果を出している」と手応えを口にする。現在、同社が運用に関わっている太陽光発電の設備容量は約69万kW。毎日、発電量などの運用状況のデータを収集し、最近は異常検知にAIも活用して運用している。このAI活用は、通常のアラームでは発報されないエラーを見つけ出しており、その効果は早速現れている。

例えば同じ発電サイトであるにもかかわらず、パネルの発電量のパフォーマンスにわずかな差が生じるケースがあった。調べてみると、雑草の生え具合によって影の生じ方が異なっており、エリアにより10%程度の発電量のロスを検出したため、除草シートなどで対応することを提案した。

また、このAIではパワコンの人為的な設定ミスを回避できるという。定期検査で実際の現場で人が作業する際、ミスは起こり得ること。複数台のパワコンのうち1台でも挙動が異なれば、すぐにそれを自動検知する。

このAIのアルゴリズムは既に完成しているそうで、今後、さらに改良を進めて効率化を図った運用システムとして展開していく方針だ。「その際、新たな異常を検知するケースがあると思うので、改善してパフォーマンスを向上させたい。1件当たりの異常値はわずかな数値だが、積み重ねれば大きな効果につながっていくはずだ」(澤井社長)

グループ初の大型太陽光 地元との関係構築に注力

2023年6月、東京ガスグループが設計から建設まで携わった国内初の大規模ソーラーが稼働した。栃木県の市貝発電所(2・19万kW)だ。この発電所は東京ガス100%子会社であるプロミネットパワーが開発したもので、TGESが設計・エンジニアリング・施工管理を担った。

グループ初の挑戦には、さまざまな苦労があった。本件は、ゴルフ場跡地に太陽光発電所を建設するもので、ゴルフ場という性質上、起伏に富んでいる。例えば1ホール目と18ホール目では設計や工法は異なるし、一つのホール内でも中身は違うものだ。TGESでは、地形測量や日射量測定を徹底的に行った。造成による環境負荷を最小限に抑えつつ、土地の起伏に対応した太陽光発電パネルの配置検討を行うことで発電量最大化を追求した。

TGESが労力を割いたのは、設計や施工の面だけではない。TGESエンジニアリング本部副本部長の中島秀明・執行役員は「地元の住民の方々とのコミュニケーションも積極的に行った。地元の住民の方々からすれば『一体どんな工事をするのだろうか』と不安を抱くもの。施工管理を担う会社として、工事の内容について丁寧に説明してきた。そのかいがあったからなのか、住民の方々から新鮮野菜を頂戴することもしばしば(笑)」と振り返る。

最近、トラブルが多発する再エネ開発。オーナーの目線に立ったサービスで、地域に受け入れられる再エネビジネスに力を注ぐ。

TGESの事業展開は、巨大な熱源プラントを扱う地域冷暖房の運用に始まり、コージェネを軸にしたエネルギーサービスへと発展させてきた。脱炭素時代に向かう中、再エネ商材を扱うケースが増えている。岡本和久・取締役常務執行役員は「再エネ設備も加えながら、総合ユーティリティー事業として、あらゆる商材を扱いながらお客さまの脱炭素を支援していくステージに入ってきている」と話す。

ゴルフ場跡地に建設した市貝発電所

【特集2】北海道内の再エネ普及へ インフラを担い社会貢献


【トドック電力】

自社電源を保有し電力市場で存在感を発揮している伊藤忠エネクス。再生可能エネルギーの領域では、とりわけ北海道での取り組みが注目されている。

エネクスは2015年、王子グループと連携し「王子・伊藤忠エネクス電力販売」を設立。北海道を中心にFIT電源を含めた太陽光、水力、バイオマスなど全国7カ所の電源を整備・運用している。そのうち北海道には四つの発電所がある。

一方、北海道の生活協同組合、コープさっぽろとは15年に電力小売会社である「トドック電力」を設立した。エネクスはもともと既存事業である灯油・LPガス事業において、コープさっぽろグループでエネルギー事業を手掛けるエネコープ社と取引をしてきたこともあり、電力事業でも連携を深めることとなった。

トドック電力について、尾﨑信介社長は「再エネや環境価値の高い電気を道民に届けることを基本理念とし、設立当初はコープさっぽろの店舗向け高圧電力を中心に供給を開始した。16年の全面自由化とともに、家庭向け(低圧)電力を組合員向けに供給を拡大した」と話す。

道内人口510万人のうち、組合員は約200万人に上る。道内では約247万の世帯数であることをかんがみると、会員が占める世帯数割合は8割を超えており、トドックにとってこのマーケットは大きい。現状では世帯数の1割程度に、「再生可能エネルギー100%メニュー」として販売しているそうだ。中心となる再エネ電源は、江別市のバイオマス専焼電源である。道内の木材チップを中心に地産地消の電力を供給しており、さらに非化石証書を購入することで「再エネ電源」の提供を実現している。

道内の地産地消推進へ 生活インフラを支える

ただ、尾﨑社長は「われわれが目指す事業モデルは、地産地消によって環境価値の高い電気を地元に普及させ、道内の脱炭素化に貢献すること。単に非化石証書を購入するだけでは、地域における再エネ拡大に貢献するとは言い難い」と話す。

そうした中、伊藤忠エネクスとコープさっぽろは、新たな一手を打つことになった。道内の最大200地点にエネクス側が太陽光発電パネルを整備し、コープさっぽろが所有する。そして、自己託送制度を利用しながらコープさっぽろ店舗に電力を供給する。

その際、肝となる電力の需給調整システムはエネクスのノウハウを活用する。まさに、完全無欠となる地産地消型のCO2フリー電気である。

「北海道におけるコープさっぽろの役割は非常に大きい。食品の宅配などを通じて、生活インフラを担っているといっても過言ではない。過疎化が進む中、その存在感はますます高まっていくと思う。コープとエネクスの連携を通じて、インフラ企業としてさまざまな社会貢献を果たしていきたい」と尾﨑社長は強調する。

エネクスとコープさっぽろは自己託送を進める