【特集2 ライフライン強靭化】千葉商科大学が防災・エネルギーセンター設立 学生の人材育成に取り組む

キャンパス内の電力を自然エネルギーで賄う千葉商科大学。機関設立で防災とエネルギーへの知見を深める人材育成に動く。

インタビュー/手嶋 進(千葉商科大学人間社会学部教授防災・エネルギーセンター長)

―「自然エネルギー100%大学」を目指し取り組みを進めてきました。


手嶋 消費電力の全量を自然エネルギーで賄う趣旨の下、2017年から国内大学初の試みとして取り組んできました。キャンパス内施設の屋根に540kW程度の太陽光発電(PV)を整備するとともに、全照明のLED化などで消費量を減らした上で、年間消費電力量(350万kW時)の約18%を賄っています。当学野球場跡地にもPVを整備しましたが、FITを活用し売電しているため非化石証書を付けて買い戻しています。不足分を小売事業者から再エネメニュー電気を購入することで、キャンパス内電力の全量を自然エネルギーで賄うことができています。

地元小学校で出前授業 設備の自前運用で知見蓄積

―そうした取り組みを進める中、防災・エネルギーセンターを設立した狙いとは。


手嶋 防災や環境エネルギー分野の知識を持って行動できるような学生を育てる目的で、昨年9月に設立しました。災害時の電力確保や自然エネルギーの活用を体系的に学び、実社会で活躍できる実践的な人材育成を目的としています。例えば、当学の学生が中心となる「SONE」という環境団体があります。行政からいろいろな環境イベントに参加してほしいとの要請を受けますが、そうした活動を支援しています。また、地元市川市や鎌ヶ谷市の小学校へ地球温暖化に関する出前授業をしたりしています。体験型授業活動も活発です。手回し発電機を使ってLEDと白熱灯の照度を比べ「省エネ性に優れるLEDの方が手回しの労力は少ない」と、小学生に体験を通じてエネルギーを身近に知ってもらう取り組みです。現状ではこうした活動はボランタリーなものですが、将来的には学生の単位取得につながるカリキュラムを整備したいです。


―防災向けエネルギー設備はありますか。


手嶋 約2000人の学生が帰宅困難になることを想定し、一晩過ごせる設計で家庭用の蓄電池を設置しています。当学は設備の自前運用が特徴です。17年以降、設備を清掃した方がエネルギー効率が上がるのではないか、壁にフィルムを貼って断熱性を上げるべきではないかといった細かい議題含めて150回以上会議をしてきました。設備運用のノウハウを独自に蓄積しており、結果的にエネルギーに関する発言に説得力を持たせることができ、学生のエネルギーリテラシーが高まっていくと考えています。

てしま・すすむ 1988年慶応義塾大学法学部卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て19年同大准教授。2025年から教授。

【特集2 ライフライン強靭化】防災庁が担う新たな役割 国全体の防災司司令塔に

災害大国の日本において防災力の強化が求められている。新たに設置される防災庁が果たす機能について聞いた。

インタビュー/大山璃久(内閣官房防災庁設置準備室参事官補佐)

―防災庁を設置する背景は何ですか。


大山 現在も内閣府に防災担当部局があり、関係省庁が連携して災害に対応しています。一方で、今後想定される南海トラフ地震、日本海溝地震、首都直下地震、富士山噴火などに備えるには、今まで以上に政府全体の防災体制を強化する必要があります。そこで、防災庁を2026年中にも新たに設置します。防災対策推進における司令塔機能を強化するため、防災大臣が各省庁に対して勧告権を持つ仕組みも導入します。


―主な役割は。


大山 主に三つあります。一点目は、国の防災力を俯瞰的に捉え、中長期的な視点で基本政策や国家戦略を立案すること。二点目が、事前防災の推進です。平時から地域レベルでさまざまな主体が行う防災対策について調整役や支援役を果たします。三点目が、発災時から復旧・復興に至る災害対応の司令塔を担うことです。

各地域の災害リスク評価に注力 スマメによる早期復旧に期待

―注力していくことは何でしょうか。


大山 二点目の事前防災に関連する、地域ごとの災害リスク評価です。今後、大規模な地震も想定されていますが、それに限らず、各地でどういう災害リスクがあり、どのような対策が効果的なのか、科学的な知見やシミュレーション技術を使って評価していきます。例えば、地震が起きた場合、山間部には土砂崩れ、沿岸部には津波のリスクがあります。地域ごとに災害に対する弱点をクリアにして、それを踏まえた対策の漏れや進行具合をフォローアップしていきます。また、被災者に寄り添った支援体制の構築も重要です。避難所の生活環境をより良くするために「TKB」、つまりトイレ、キッチン、ベッド・バスといった各種資機材を確保していくために、自治体とも連携しながら整備したいと考えています。


―エネルギー業界に期待することは。


大山 ライフラインを担っていただく業界です。災害が起きたとしても、できるだけエネルギーを供給し続けられるようにインフラの強靭化を図っていただきたいです。それから電力会社やガス会社は現在、スマートメーターを整備しています。早期復旧には被災状況をいかに早く正確に把握するかが非常に重要です。普段使いしているスマートメーターが有事でもシームレスにそうした役割を果たせることを期待しています。

おおやま・りく 2015年国土交通省入省。河川・ダムに関する事業計画立案や災害対応などに従事。防災庁設置準備室の発足から防災庁の役割などの検討に従事。


【特集2 ライフライン強靭化】事前防災でインフラを守る デジタル技術で強靭化へ

災害の激甚化・複雑化で、事前防災への転換が急務となっている。
防災庁の機能、エネルギー業界の動きから防災の在り方を考える。

今回の保安・防災特集の取材を進める最中、7月28日に発生した令和8年熊本地震、そして8月14日の千葉豪雨といった、尊い人命を奪う甚大な自然災害が相次いで発生した。道路や交通インフラの損壊、水道やガスなどライフラインの寸断、山間部の送電設備の深刻な崩壊や変電所の浸水による長時間の停電―。エネルギーインフラが抱える複合的なリスクが改めて浮き彫りとなった。


さらに、南海トラフ地震をはじめとする巨大地震発生の切迫性が高まっている。過去の災害データを基準にした従来の事後対応型の防災に対する考え方では、これから想定される災害リスクに到底対応しきれない現実が顕在化している。

徹夜で作業に当たる西部ガスの災害復旧隊

国家主導の防災体制へ 発災前の備えを強化する

こうした背景から、災害対応の司令塔を一元化し、重要インフラのレジリエンス強化を国家主導で迅速に進めるための新組織として「防災庁」が発足する。従来の内閣府担当部局による管轄から、防災大臣が各省庁に対して必要な措置を求める「勧告権」を持つようになる。
防災庁が担う大きな役割の一つに、事前防災の推進が挙げられる。事前防災とは、災害が発生する前に被害を最小限に抑えるための計画や対策を講じることだ。従来の災害対応は、発災後の救助や復旧に重きを置く「事後対応型」が中心だった。しかし、激甚化する気候変動や巨大地震のリスクに対しては、事後対応だけでは国民の生命や経済活動を守りきれない。そこで、災害による致命的な被害をあらかじめ回避・軽減する事前防災へのパラダイムシフトが求められてきた。


具体的な取り組みとしては、ハザードマップの高度化による危険地域の特定や重要インフラの耐震化・防水化といった物理的な強靭化が挙げられる。さらに、エネルギー供給網の多重化や、サプライチェーンの分散化といった組織的な備えも不可欠だ。最悪の事態を想定して社会全体のレジリエンスを事前に高めておくことこそが、これからのインフラ防衛の核心となる。

先端技術が変える保安現場 分散型エネの機動力生かす

こうした業界全体の課題に対し、エネルギー企業の一部ではすでに最先端のデジタル技術を投入し、一歩進んだ保安・防災の取り組みを実践している。例えば、関西電力送配電は兵庫県の離島において、ドローンを用いて配電設備を遠隔で自動点検する実証を行っている。本土の営業所から指示を出すことで、ドローンが自動で目視外飛行をして設備を空撮し、リアルタイムで映像を共有する仕組みだ。これにより、発災時にも人が近づけない場所の迅速な被害把握が可能となる。
また、西部ガスでは、緊急通報時に顧客のスマートフォンと保安指令室をビデオ通話でつなぐシステムを導入している。アプリ不要で現場の映像をリアルタイムに指令室へ送信できるため、ガス漏れなどの状況を正確かつ迅速に捉え、事後対応の初動を劇的に早めることに成功している。このように、先進的な企業が培う現場発のイノベーションと、新設される防災庁の強力な司令塔機能が有機的に結び付くことで、日本のインフラ防衛はさらなる進化を遂げることが期待されている。


メディアではあまり報道されていないが、熊本の被災地では、寸断されたライフラインを補うように、避難所での炊き出しや暖房、給湯の確保などに、LPガスが大きく貢献している。新設される防災庁には、この分散型エネルギーが持つ機動力を国全体の避難所改革の一環として統合・加速させる役割が欠かせない。自治体との連携強化や災害対応型バルクシステムの設置拡大を推し進め、国の災害レジリエンスを一段と高めていくことが求められる。

インフォメーション

KPMG


SBTi企業ネットゼロ新基準イベント開催

 KPMGジャパンは7月6日、「SBTi企業ネットゼロ基準Ver.2 日本ローンチイベント」を開催した。SBTiは温室効果ガス排出削減目標の設定を支援・認定する国際イニシアチブで、現在、日本ではコミットまたは認定済みの企業を含め2500社以上が参加している。Ver.2における最大の変更点は、目標設定と認定をゴールとするモデルから、定期的な進捗報告を通じて目標を更新していく仕組みへの移行だ。イベントでは、SBTiのデイビッド・ケネディCEOが登壇。「今後も目標設定や申請準備を進める企業にとって、新基準への理解と実務への落とし込みが急務となっている」と語った。

田中貴金属工業

国内最大級の500kWの純水素型燃料電池を導入

 産業用貴金属加工・販売を手掛ける田中貴金属工業は、自社の神奈川県平塚市内の研究施設に国内最大級となる純水素型燃料電池設備(500kW)を導入し、7月に運転を開始した。発電効率50%を有する東芝製の設備でブラックアウト時でも運転可能な仕様となっている。燃料には液体水素を活用、敷地内に専用タンクを設置しオンサイトで利用する。「現状では発電利用のみで、熱の利用は模索中」(担当者)だ。これまで同社は燃料電池向け触媒に利用する貴金属をメーカーに供給してきた。今後は、水素を利用する立場として自らが燃料電池を運用し知見を収集していく。

ソラコム

IoTとAIを組み合わせた新技術や製品を披露

ソラコムは7月、自社展示会「SORACOM Discovery 2026」を開催した。同社は通信モジュールやカメラなどを用いて収集したデータをIoTに特化したマルチキャリア対応の通信SIMによってクラウドに転送。データとITを組み合わせた新たな価値を提供してきた。日本瓦斯のガスメーター用IoT端末「スペース蛍」や大崎電気工業のスマートメーター「らくらく検針」をはじめ、エネルギー業界でも採用が拡大している。基調講演では自然言語でのやり取りでIoTの仕様を設計できる「SORACOM Agent」や人が目視で行っていた作業をAIで代替できる「ソラカメPro」などの新技術や製品を発表した。

電源開発/東京電力ホールディングス/中部電力ほか

国産の次世代浮体式洋上風力の実証を開始

電源開発や東京電力ホールディングス、中部電力など6社で構成するFAWTコンソーシアムは7月、長崎県壱岐市沖で国産の次世代浮体式洋上風力「浮遊軸型風車(FAWT)」の小型実験機での海上実証を開始した。実証期間は1年間で、最大出力20kWの垂直軸型風車を用い、技術成立性や耐久性を検証、将来的なメガワット級実証機の開発と商用化を目指す。

日本郵船/ヤンマーパワーソリューション/ENEOS

レストランシップに水素燃料電池システムを採用

日本郵船は6月、ヤンマーパワーソリューション、ENEOSと共同で来春に就航予定の新レストランシップ「AMANE(海音)」に水素燃料電池システムを採用することを公表した。トヨタ製水素貯蔵モジュールを活用し、ENEOSが水素供給を担う。船舶分野での水素利活用の社会実装を進め、海運業界の脱炭素化と上質なクルーズ体験の両立を目指す考えだ。

大阪ガス/大阪ガスマーケティング

エネマネサービス「スマイ電池EX」の実現へ

大阪ガスと大阪ガスマーケティングは7月1日、京セラ製の家庭用蓄電システム「Enerezza PlusⅡ」の販売を始めた。新築の太陽光発電住宅を対象に、同蓄電池を遠隔制御し、需給調整市場や容量市場へ電力を供出するエネマネサービス「スマイ電池EX」の実現を目指す。収益の一部を利用者に還元し、光熱費低減や再エネ活用、需給安定化を後押しする考えだ。

【特集2まとめ】動き出した柏崎刈羽 発電所と地元経済の今

柏崎刈羽原子力発電所の6号機が今年4月に本格的な運転を再開した。紆余曲折を経て100万kW以上のベースロード電源が動き出した意義は大きい。CO2排出係数の観点や低い発電コストのみならず系統の安定化への寄与が期待される。同時に、今後の地元経済への貢献も求められている。発電所長や商工会議所へのインタビューを通じて地元の今を伝える。

【アウトライン】厳しい安全対策基準をクリア 地元理解得て基幹電源に

【ディスカッション】再稼働の先を見据えて 次世代に描く将来像

【インタビュー】柏崎市民にようやく笑顔戻る 信頼回復に向けた努力を評価

【特集2 動き出した柏崎刈羽】厳しい安全対策基準をクリア 地元理解得て基幹電源に

産業活性化の原動力に期待が高まる発電所の再稼働。
電力安定供給や脱炭素戦略などさまざまな波及効果が見込まれる。

国内最大級の発電出力を持つ東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原子力発電所(全7基、総出力821万2000kW)。福島第一原子力発電所の事故以降、発電所の運用が順次停止し、2012年に6号機の定期検査により、全号機が停止した。


以降、東電は原子力に関する新しい規制基準をクリアするための取り組みに注力。5号機から7号機の地震の想定を450ガル(編注:地震動の加速度)から1200ガル以上へ引き上げた。津波に対しては3・3mから6・8mへと想定を引き上げて防潮堤を整備するなど、対策を重ねてきた。こうして新規制基準に適合した安全基準を達成したことで、原子力規制委員会から認可を取得。地元の理解も得て今年4月、14年ぶりに本格的な営業運転を再開した。

5号機から7号機の全景


動き出したのは6号機だ。海水温度によって多少変化するが、出力は135・6万kW。100万kWを超える電源が動き出した意義は大きい。


中東危機に見舞われる中、資源に乏しい日本にとって、国内全体では約7割、東日本エリアに限れば8割近くを火力発電に頼っている。そうした中、火力依存度が高い東日本における再稼働は、エネルギー自給率の向上に寄与する。

防潮堤も整備した

脱炭素社会の推進を後押し 電気料金の低減に寄与

カーボンニュートラルの推進や電気料金低減への期待も大きい。CO2排出係数ゼロの電気がベースロードとして利用できるようになったことで、脱炭素に向けた戦略が前進していく。さらには、原子力の稼働が進む西日本に比べて東日本の電気料金が割高傾向にある中、とりわけ料金低減への要望を口にしてきた産業界にとっては追い風となる。


最近ではデータセンター(DC)向け電力需要も上昇中。「DCの種類にもよるが、365日、一定の電力需要があるDCとベースロードの原子力とは好相性」(業界関係者)というように、「原子力とDCとの近隣一体整備」戦略もアイデアとして検討されるなど、新たな産業創出にも期待が高まる。


また、安定供給に向けた実務面にも効果がある。東電管内ではこれまで、太平洋側の電源が中心となって関東エリアの電力供給を担っていたが、今後は日本海側からのベースロードが加わることになる。レジリエンス機能が高まると同時に、他の電源の定期検査の工程や送電網のメンテナンスなど、安定供給を支える上で、さまざまな運用面での柔軟性の向上にもつながる。

東日本大震災以降の発電所における主な出来事

特重施設整備で安全対策 技術者が活躍できる場へ

今後は7号機の再稼働に向けた安全対策を進める。東電によると、航空機衝突のような極端な事態などに対応する「特定重大事故等対処施設(特重施設)」への対応と既存設備とのつなぎ込みを29年8月までに終わらせる予定だという。

災害を想定した訓練


地元では複数号機の運用を望む声が高まっている。「全号機が停止していた時は、定期検査を担っていた地元の人材は、他のエリアに出向きながら事業を続け技術を維持してきた。6号機が動き出したことで今後、地元の技術者が定期検査やメンテナンスに対応できる。さらに数年後、複数の号機が動けば、定期検査と稼働するプラントの交互運用ができ、それぞれの業務を分散させられる」(地元企業関係者)


地元に活力を生み出そうと東電は今年7月、自治体や地元企業とともに「柏崎刈羽地域共創イニシアティブ」を立ち上げた。「国ではなく地元が主導していく、地域を活性化させるための協議体。若い世代の人たちが『自分たちの発言で街が動く』ことを実感してもらいたい」。柏崎商工会議所の西川正男会頭は言う。14年ぶりに実現した再稼働を契機に、地元では新たな動きが広がり始めている。

【特集2】沿線開発の活況を追い風に 流山市主軸の販売拡大に弾み

【京和ガス】

千葉県流山市のほぼ全域と柏市の一部で都市ガスを供給する京和ガス。東京都千代田区の秋葉原駅と茨城県つくば市のつくば駅を結ぶ「つくばエクスプレス」の開通により、沿線を巡る開発が行われ、事業環境が変わった。流山市の人口は、この10年間で約4万2000人増え、21万人に到達。市内の新築住宅獲得数は増加を続け、近年は2000件程度で推移している。同社はこうした追い風をガス販売の拡大につなげている。

注力するのは、地域密着型の営業だ。安藤靖展営業部長は「地元に根付いたガス事業者であることを一般家庭の人々に認知してもらうかがカギを握る」と意欲を示す。例えば、地元の総合公園「セントラルパーク」にある野球場のネーミングライツ(命名権)を獲得した。営業面でも、「ローラー作戦」を推進。営業エリアを分割し、各担当者が各地の日々の様子を確認している。

仮に宅地開発や水道・通信工事の計画を入手した場合、導管を敷設できないかを確かめ、その情報を迅速に社内で共有している。こうした戦略などで、年間100件近くLPガスから都市ガスへ転換。市内のごみ焼却施設では、脱炭素化を目的に2基の焼却炉で使用する灯油を都市ガスへ置き換えた。2025度中には、3基目も都市ガス化する予定だ。

京和ガスベースボ-ルパーク

【特集2】熱需要のCN化が重要なポイント 普及を後押しする施策が重要に

再生可能エネルギー源である大気熱を利用するヒートポンプ機器。
需要側でこの機器を駆使する取り組みや技術革新が欠かせない。

 日本における熱需要は、エネルギー消費量の約6割を占めており、政府が目指すカーボンニュートラル(CN)の実現に向けた鍵を握っている。
 熱エネルギーを供給するガスについて、第6次エネルギー基本計画では、2030年には既存インフラへ合成メタンを1%注入し、その他の手段と合わせてガスの5%をカーボンニュートラル化することを目指すと明示されている。
 そこで、現在、都市ガスについては、国の審議会などにおいて、合成メタンに対する支援ルールなど、さまざまな施策について検討が進められている状況である。

普及への対策強化も必要 高い効率でエネルギー回収

 他方、熱需要を脱炭素化するためには、供給側のみならず、需要側の対策も重要である。そのためには、ヒートポンプ(HP)などの省エネルギー機器の普及の促進が欠かせない。
 HPとは、大気、河川水、地中などの熱を冷媒に取り込み、冷媒を圧縮または膨張することによって、空調や給湯などに利用するものである。すなわち、気体は圧縮すると温度が上昇し、膨張させると温度が下がるという性質を有するが、HPは、この性質を利用して、熱を移動させるものである。
 従来、例えば、化石燃料を燃焼し、熱を得ていた。そうした燃焼機器は、化石燃料が持つ熱エネルギーを取り出して活用するため、燃料が持つ発熱量以上の熱エネルギーを取り出すことはできない。
 しかし、HPは、自然界の熱エネルギーを使用するものであって、投入する電気のエネルギー以上の熱エネルギーを得ることが可能であり、従来型の燃焼機器と比べて、省エネ性が高くなる。例えば、最新のHPエアコンにおいては、「1」の投入エネルギーで「7」の熱エネルギーを得ることができるとされている。
 そして、エネルギー供給構造高度化法上、地熱や太陽熱に加え、「大気中の熱その他の自然界に存する熱」も再エネ源とされており(高度化法第2条第3項、高度化法施行令第4条第4~6号)、「電」源のみならず、「熱」源も再エネである。HPは、再エネである「大気熱」を電気で利用する技術であって、再エネ電気を使えば、まさに脱炭素の「熱」を生み出すことができることになる。
 したがって、需要側においては、HPにより大気熱を有効活用することが、熱需要の脱炭素化のための一つのポイントになると考えられる。そのため、HPの普及を促すための施策が重要となる。
 まずHPは、再エネ源を利用する熱供給の一手段であるものの、現状、例えば、太陽光発電や風力発電などの再エネ電源のように、その技術の意味が必ずしも広くに認知されているとは言い難いようにも思われる。
 そのため、まずは国の政策などにおいて、HPの位置付けを明確化し、その導入拡大に向けた動き出しが重要と思われる。

削減効果の証書化を推進 売却で経済的な利益も

 次に、欧州においては、特に「ウクライナショック」以降、各国で強力な支援制度が導入されたこともあり、急激にHPの導入拡大が進んでいる。特にHPは、導入のためのイニシャルコストが高いことが指摘されている。そこで日本においても、HPの導入に対する支援をさらに拡大していくことが、こうした機器の普及に向けた鍵となるように思われる。
 また、HPの導入により削減したエネルギーの証書・クレジット化を推進することが考えられる。証書・クレジット化することができれば、HPを設置することによる省エネのメリットを受けられるのみならず、証書・クレジットを売却することによって、経済的な利益を得ることができる。
 もっとも現在、熱に関して、電気における「非化石証書」のような熱特有の証書・クレジット制度はなく、HPの導入による省エネ部分については、「Jクレジット」制度に基づき、Jクレジット化することが現実的な選択肢となる。
 ただし、電気事業に関して言えば、Jクレジットは環境表示価値はないと考えられており、Jクレジットによりオフセットした電気について、「再エネ」や「クリーン」といった表示を行って、環境価値を訴求することができないことは留意が必要である(CO2削減量については法的に認められている)。
 さらに、HPにおいては、電力は熱を運ぶ動力として使用されるところ、HPで使用される電力は「デマンドレスポンス(DR)」のリソースとなる。
 近ごろ、太陽光発電などの自然変動電源の普及により、日中の電力需要を調整するニーズが高まっており、HPの電力需要を束ねることができれば、そうしたニーズに応えることも可能となる。そのためには、遠隔制御や自動制御といったDRの高度化やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携などの種々のルール化が必要となるが、仮にそうしたことが実現すれば、HPを設置する需要家において、DRに応じることによる経済的なメリットを得られる可能性がある。
 以上のとおり、日本全体のカーボンニュートラルの実現にあたっては、熱需要の脱炭素は不可欠であり、HPを含む省エネルギー機器が一定の重要な役割を果たすものと考えられる。今後、HPの一層の技術革新が期待されるとともに、その普及を後押しする施策の実現が重要であると考えられる。

技術革新に期待がかかる

木山二郎(森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士)
きやま・じろう 2010年、森・濱田松本法律事務所に入所。14年から電力広域的運営推進機関(OCCTO)に出向。多数のエネルギー関連企業に対してアドバイスする。21年パートナー就任。

【特集2】熱を賢く利用する視点が重要 電力ガス業界はCNで競争を

業界全体でエネルギーリテラシーを高めるべきだと指摘する。
エネルギー利用の現状や脱炭素に必要なことなどを聞いた。

【インタビュー】小野田弘士/早稲田大学理工学術院大学院環境・エネルギー研究科教授

おのだ・ひろし 2006年3月早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。早大環境総合研究センター講師、同准教授などを経て、17年4月から現職。

―現場におけるエネルギー利用の現状をどのように考えていますか。

小野田 これまで「電力vsガス」の構図でヒートポンプ(HP)やガスコージェネレーションシステムが導入されてきました。ホテルや病院、大きな工場など一定規模の熱を使う現場でのコージェネ導入は合理的です。過去に民生・業務施設で、コージェネ導入の実態を調査しましたが、排熱を有効活用していないケースがありました。その事例では、熱用途によってはHP導入の方が合理的です。
 一方で地域や需要家側のニーズなど事情はさまざまです。寒冷地なのか、ガスインフラは整備されているのか、光熱水費はどうなのか。ユーザーは電力とガスを併用したBCP(事業継続計画)を求めているのか。それぞれの事情を勘案し、事業者が最適なソリューションを提供するべきです。

―そうした取り組みで大切なことは。

小野田 特にまちづくりや再開発、工場誘致といった大規模な事例を手掛ける時、電気利用の最適化のみを考えることが多いですが、電気以外のユーティリティーである熱利用にも注目すべきです。HPの話題が出る時に「電化」という言葉を耳にします。そうではなく「熱を賢く使う」という視点が大切です。そのツールとしてHPは重要です。ただ、ガス会社が手掛けてきた燃焼技術や燃焼機器、エネファームなどを否定しているわけではありません。電力とガスの両業界が互いの揚げ足を取るような議論は生産性があるとはいえません。お互いカーボンニュートラル(CN)に向けハイレベルな競争を進めることを期待しており、将来のエネルギーインフラの在り方を示してほしいと思っています。

―CNを見据えた家庭用の取り組みで必要なことについても教えてください。

小野田 「オール電化住宅にすれば実現できる」と言う方が多いと感じています。言いたいことはわかりますが、消費者が必ず電化を選択するとは限りません。戦略的にオール電化を手掛ける住宅デベロッパーも存在しますが、ガス併用にするか電化にするかは、基本的には消費者に選択権があります。消費者が住宅を選ぶ時、家賃や駅からの距離、買い物がしやすいかで選びます。エネルギーコストはまだしも、CO2排出量の多寡による優先順位は高いとは限りません。不動産や工務店などの住宅に関係する人々とエネルギーリテラシーに関する共通認識を醸成する必要があり、それらを通じて消費者もエネルギーに関心を持つようになると思います。