温暖化対策目標がパリ協定に合致 SBTが大手エネ事業者で初の認定


【九州電力】

国際機関「SBTイニシアチブ」は、九州電力の温暖化対策目標がパリ協定に合致するものと認定した。

国内大手エネルギー事業者での認定は初めて。トップランナーとして目標実現にまい進する構えだ。

パリ協定の発効から7年が経ち、今年の温暖化国際会議・COP28では、各国政府の温暖化対策の進捗を点検する「グローバル・ストックテイク」を初めて実施する。パリ協定で掲げる産業革命前からの温度上昇を2℃、さらには1.5℃未満に抑える目標と照らし合わせ、政府だけでなく、民間企業も含めて対策の実効性が問われる段階になっている。

民間では、自社が持続可能な企業だとステークホルダーにアピールする手段として、「SBT(サイエンス・ベースド・ターゲット)イニチアチブ」からの認定を目指す動きが広がる。SBTは、UNGC(国連グローバルコンパクト)やWWF(世界自然保護基金)などの団体が共同で設立した国際機関だ。そしてSBT認定は、科学的根拠に基づき、企業の目標設定がパリ協定に合致したものであると示す「国際共通基準」として位置付けられている。

国内では369社(3月1日時点)が取得済みだ。ただ、エネルギー業界においては中小企業の取得実績はあるものの、大手事業者の実績はこれまでなかった。

そうした中、九州電力は3月下旬、国内大手エネルギー事業者第一号となるSBT認定を取得した。

認定された目標のターゲットイヤーは2030年だが、同社は長期的なビジョンとして「50年に自社サプライチェーンの温暖化ガス排出実質ゼロ」、それを超えて社会全体の排出削減に貢献する「カーボンマイナス」を掲げる。同社の江口洋之環境部長は、「野心的なゴールを最終目標とし、対策を積み上げて設定した当社の経営目標が、科学的根拠に基づいて望ましい水準であると実証されたことには大きな価値がある」と強調する。

サプライチェーンで評価 裏付けは非化石比率の高さ

今回認定された目標はどのような内容なのか。

九電グループは30年経営目標として、国内の温暖化ガス排出量を13年度比で65%削減する目標を掲げる。これは、政府のNDC(国別目標、30年度13年度比46%減)を上回る水準だ。同社はこの目標をベースに、SBTが示す温暖化ガス削減経路のうち「WB2℃」(2℃目標を十分下回る経路)に沿った目標を申請し、今回認定を受けた。WB2℃は、一般的には年2.5~4.2%ペースで排出量を減らす経路だが、電力セクターについてはさらに厳しい水準を求めている。

SBTの目標設定イメージ
出所:環境省

危機の時代の国際石油情勢〈前編〉 西側脱露政策とOPEC減産の実情


【識者の視点】小山正篤/石油市場アナリスト

ロシアのウクライナ侵攻などの影響で、石油情勢は国際的な危機を迎えている。

西側諸国の脱露政策やOPEC減産の実情について、米ボストン在住のアナリストが解説する。

日本を含む西側諸国は、ロシアのウクライナ侵略に対抗する中で、国際石油秩序の担い手としての広い視野を回復し、その上で秩序基盤の再構築を図る必要がある。

このような視点に立って昨年の世界石油需給動向および西側の対応を振り返ってみよう。なお本稿は私見を述べるもので、筆者の所属する組織とは無関係である。

世界は露産石油依存が顕著 複雑化する西側の脱露政策

ロシアを除く世界全域における広義の石油需給を、国際エネルギー機関(IEA)統計に基づいて概観すると、昨年平均の需要量・日量約9600万バレルに対し域内生産量は日量8900万バレル。不足量は日量700万バレルを超える。これは日本の石油消費量の2倍以上に相当する規模だ。この不足分を埋めているのが、ロシアの石油輸出であり、昨年の輸出量は原油・日量約500万バレル、軽油など石油製品が日量250万バレル強と推定されている。

一方、世界の実効的な原油生産余力は石油輸出国機構(OPEC)加盟諸国、中でもサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)に集中しているが、昨年12月時点で両国合わせた余力は日量約250万バレル強にすぎない。すなわち、ロシア外の世界は、ロシア産石油を排除するに足るだけの石油生産力を持たないわけだ。

2022年の世界(除ロシア)石油需給

世界はロシア産石油を必要とする―。この簡明な事実は何を意味するか。英国とEUはロシア産石油の海上輸入を、原油は昨年12月、石油製品は今年2月以降、それぞれ禁ずる措置を採った。実際、昨年12月時点でロシアのEU、英国、米国向け石油輸出量は、年初に比べて日量計200万バレル強の大幅減少となった。

一方でインド、中国の2カ国向けは、合わせてほぼ同量の増加を見た。すなわち欧州・西側とロシアの分離に伴い、石油貿易ルートが新たに組み替えられた格好だ。

インド・中国などのロシア産石油輸入増を問題視する向きが多いが、それは自家撞着だ。非ロシア世界の域内石油供給不足という条件下では、ロシア産石油を追加的に引き取るインド、中国のような輸入国があってこそ、欧州・西側の脱ロシア依存が円滑に達せられる。両者は補完関係にあるのだ。

EU・英国はロシア産石油に対する海上保険を制裁対象に加え、これに米国が介入して上限価格(原油1バレル当たり60ドルなど)内であれば不適用とした。同制裁を事実上無効化する措置だが、これもロシア産石油輸出が阻害されれば、世界的な石油危機に直結し得る現実を反映している。本来、海上保険を制裁対象とする必要はなく、インド、中国などがリスクに見合う割引価格でロシア産石油を引き取れば済むことを、わざわざ西側が複雑にしている。西側自身の脱ロシア産石油依存は、ロシアに石油を外交的恫喝の「武器」として使われないように図る防御的措置だ。それをロシア経済に打撃を与える攻撃的措置として表明するので、取り組みが混乱する。

ロシアの石油輸出収入を断つとは、ロシア産石油の国際市場からの排除を意味する。それは、非ロシア世界の域内供給不足の解消と同義だ。大幅な石油増産と消費抑制がそこで並行して起こらなければならない。

これは少なくとも10年単位の射程を持つ中・長期的目標でなければならず、かつ、段階的な達成を順次図るほかない。また昨年時点で非ロシア世界の石油生産の4割はOPECが握っている。今後の増産にはとりわけサウジアラビアを筆頭とする中東OPEC産油諸国の同調が不可欠となる。

サウジアラビアの現実主義 OPEC減産報道の誤りとは

2021年6月から昨年10月までの間、サウジアラビアの原油生産量は日量200万バレル増加。米国の増産量・日量100万バレルをはるかにしのいだ。

同国は「OPECプラス」(OPEC側10カ国、非OPEC側からロシアを含む産油10カ国が参加)が合意した原油生産目標量に従って21年8月以降も継続的に増産し、その生産量はすでに21年12月時点で日量1000万バレルの大台に乗った。

昨年11月、OPECプラスは生産目標総量を削減し、これが「大幅減産」として広く報じられて波紋を呼んだ。削減されたのは名目的な生産目標量であり、基準とした昨年8月時点の日量4400万バレル弱から日量4200万バレル弱へと、確かに日量200万バレルの削減だ。しかし、同じ基準月の生産実績は日量4000万バレル強にとどまっていたため、もし当該の生産枠がそのまま実現すれば、日量約150万バレルの増産となった。

サウジアラビアのように実生産量と生産枠が合致する場合には減産だが、実生産が目標量と乖離して低迷する国々に対しては、反対に増産が求められた。実際、昨年11~12月の、ロシアを除くOPECプラス原油総生産量は、同年8月対比で日量50万バレル弱の減少にとどまり、対前年同期比では逆に日量100万バレルの増大を示した。つまり、かかる生産調整を大幅減産と見たのは誤りだ。

むしろサウジアラビアの動向から伺えるのは、自国の生産量を高位に保ちつつOPECプラスを通じた生産調整によって、国際石油需給の均衡を図る、いわば実務本位の冷めた姿勢だ。同国は緊急時の備えであるべき生産余力も堅持し、また27年を目途に、日量100万バレルの原油生産能力の増強計画を進めている。

このサウジアラビアの現実主義的な姿勢は、対ロシア産石油依存からの脱却と非ロシア世界の域内自給率向上という西側の目標に呼応している。この点はよく理解されなければならない。

※1 本稿での石油需給、貿易および在庫に関する数値はIEA統計(Oil Market Report)による。広義の石油は、NGLやバイオ燃料など、非石油由来の燃料を含む。

※2 ロシアに加えOPECプラスのうち8カ国が今年5月以降の追加減産を決めたが、昨年11月の減産がさほど大きくないと示した形だ。これも現状を供給過剰と見た実務本位の対応と考えてよいだろう。

こやま・まさあつ 1985年東京大学文学部社会学科卒、日本石油入社。ケンブリッジ・エナジー・リサーチ社、サウジアラムコなどを経て、2017年からウッドマッケンジー・ボストン事務所所属。石油市場アナリスト。

MOX燃料「在庫切れ」 プルサーマル一時停止へ


プルサーマル発電を行う国内原発4基のうち、2基がMOX燃料の使用を停止する見通しとなった。玄海原発3号機が11月、伊方原発3号機が来年7月までの運転で、海外に加工を委託したMOX燃料を使い切るためだ。通常のウラン燃料を用いた運転に切り替わる。一方、高浜原発3、4号機はプルサーマルを継続する。国策として各社が取り組むプルサーマルだが、なぜMOX燃料の「在庫切れ」が起きているのか。

日本は英国とフランスに使用済み燃料の再処理とMOX燃料の製造・加工を依頼していたが、2011年に英国の加工工場が閉鎖。現在はフランスのメロックス工場のみで生産されている。昨年12月末時点で、フランスに所有するプルトニウム保有量は九州電力が166㎏、四国電力が96㎏となっており、関西電力の6418㎏と比べるとわずか。九電と四電がMOX燃料に加工可能なプルトニウム量の底をついた格好だ。

プルサーマル発電を一時停止する玄海3号機

事態打開の策はあるのか―。電気事業連合会は昨年2月、「名義交換」という手法を打ち出した。プルサーマルの実施見込みが当分ない事業者の名義(フランス所有分)を四電、九電の英国保有分と交換し、両社のフランス所有分とするのだ。自社の使用済み燃料から造られたプルトニウムは、あくまで自社原発で使用するという原則の中で知恵を絞った。26年度以降の実施を目指す。

わが国は、核兵器製造につながる余剰プルトニウムの削減を国際公約にしている。プルサーマルが実施されなければプルトニウム保有量は削減されず、手つかずの状態が続く。プルサーマルを予定する島根2号機などの原発を稼働させる意義が、ここにもある。

炭素価格付け政策が本格始動 「第二のNEDO」とGX投資の行方


これまで経済界が認めようとしなかったカーボンプライシングの導入が、昨年あっさりと決まった。

個別の制度設計はどうなるのか。そして巨額のGX投資の執行を一手に担う新機構の行方は。

排出量取引(ETS)や炭素賦課金導入、そして新たな国債であるGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債の発行へ―。昨年後半、官邸主導の有識者会議でいつの間にか決定した〝成長志向型カーボンプライシング(CP、炭素価格付け)〟を規定した「GX推進法」が、今国会で成立する見通しだ(4月18日現在)。CPの議論は、欧州連合(EU)の炭素国境調整措置(CBAM)導入に対する貿易措置の面から、また岸田文雄首相お膝元でのG7サミット(主要7カ国首脳会議)成功のため日本の気候変動政策の本気度を示す意味からも、従来のように先送りはできなかった。

新法では、①化石燃料輸入事業者に対して2028年度から炭素賦課金を徴収、②ETSでは発電事業者に対して33年度から一部有償でCO2排出枠を割り当て特定事業者負担金を徴収、③20兆円規模のGX移行債を23年度からの10年間で発行し①や②で償還―と方向性を提示。一方、附則第11条で、CPの詳細な制度設計は法律の施行後2年以内に必要な法制上の措置を行うとした。

つまり今回で大枠は決めるものの、細目を決めるのは25年までと猶予を持たせたわけだ。今後見直しもあり得るということで、特に賦課金の先行きが不透明となっている。環境NGO(非政府組織)関係者は「最悪の場合、33年のETS有償オークション開始まで追加的なCPの負担はゼロという可能性もある。加えてCO21t当たり数百円程度と、石油石炭税に毛が生えた程度にしては意味がない」と懸念を示す。

巨額の新国債を引き受けるのは

政府主導のETSが始動 市場活性化の取り組み進む

詳細設計の議論が始まる気配がない賦課金と対照的に、ETSについては官民で動きが活発化する。

議論が先行する経済産業省主導のGX―ETSは、東京証券取引所での「カーボン・クレジット市場」の実証を経て、まずは今年度に自主参加型で第一フェーズがスタート。ETSが本格稼働する26年度からの第二フェーズでは、目標からの超過削減分(政府目標の30年度46%減以上の削減率が条件)の企業間取引を実施する。そして33年度ごろからの第三フェーズで、いよいよ発電部門の有償化に着手するスケジュールだ。

経産省は市場環境整備に向けた検討を進め、これまでに第一フェーズのルールを公表。さらに3月下旬の有識者会合では、市場活性化策として先物取引の導入案などを示した。先物の導入で、幅広い主体の参加や、価格変動リスク回避などが期待できると説明する。

先物導入の狙いにもあるように、GX―ETSは市場価格安定化を重視。下限価格と上限価格の設定で5年程度の価格帯を示しつつ、上昇させていく構想だ。ある試算によると、こうした措置で第三フェーズの炭素価格はCO21t当たり1万円程度となる見込み。

また、民間でも市場活性化の座組みができてきた。昨年末設立された「ナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム(NCCC)」には現在、47企業・11自治体が参画。政府発行のクレジットも扱うが、欧米中心に取引が急増する民間プロジェクト由来の「ボランタリークレジット」に着目しながら、既存だけでなく独自認証のクレジット創出にも取り組む。

同組織の理事長を務める馬奈木俊介・九州大学主幹教授は「NCCCはGXリーグを補完する市場になる。今後、世界的にクレジット不足となる見通しの中、スピード重視、取扱量の多さを意識し、アジア・太平洋地域のボランタリー市場トップを狙う」と強調。今年度は実証的な取引を始めていく。

電力カルテル処分の波紋 訴訟は合意の有無が争点に


公正取引委員会は3月30日、2017~18年ごろの特別高圧・高圧の電力販売や入札で、関西電力との間で独占禁止法の不当な取引制限の禁止規定に違反するカルテル行為があったとして、中部、中国、九州の電力3社とその子会社に対し、計1010億円超という国内独禁法案件としては過去最高の課徴金の納付を命じた。

これに対抗姿勢を鮮明にしているのが中部電力だ。林欣吾社長は4月7日の記者会見で、「関西電力との間で営業活動を制限するような合意はしていない」と断言。処分取り消しの行政訴訟に踏み切る考えを強調した。

公取委と争う姿勢を鮮明にした林・中部電力社長

もっとも高額の700億円超の課徴金支払いを命じられた中国力電は、瀧本夏彦社長、清水希茂会長がそろって引責辞任することを決めたが、「各命令における事実認定と法解釈に見解の相違がある」として訴訟の検討を視野に入れる。九州電力は訴訟に踏み切る姿勢をちらつかせているものの、27億円という課徴金に対し訴訟に費やす労力が割に合わないと、社内には慎重論もあるようだ。

カルテルを「持ち掛けた」とされる一方、リーニエンシー(課徴金減免制度)によって公取委の処分を免れた関電は、直接関与した前社長の森本孝特別顧問や森望社長ら幹部13人に対する減給などの処分と森本氏の退任を決めた。しかし経済産業省や他電力から厳しい視線が向けられ、これで決着となるのかは不透明だ。

訴訟が起きた場合、争点となるのが「不可侵の合意」の有無だ。公取委は関電の申し出を基に事実認定しているが、その信ぴょう性を疑問視する向きもある。カルテル騒動の波紋は当面収束しそうにない。

電力カルテル騒動の舞台裏事情 公取委「処分強行」で因縁の訴訟劇へ


大手電力4社によるカルテル騒動では、抗戦、引責、様子見、防衛と各社各様の対応が鮮明になっている。

合意の事実が不透明な中で公取委が処分を強行した背景を探ると、ある因縁が浮かび上がってきた。

 「公正取引委員会との間で見解の相違がある。訴訟を通じて具体的な意見を述べて、的確に対応していくことが経営責任だと考えている」「役員級が会合していたのは事実だが、誰が誰といつどこで何を話したかなど具体的な内容は訴訟の場で説明する」―。

中部電力の林欣吾社長は4月7日の会見で、大手電力4社のカルテル認定に対する公取委の処分を受け入れず、行政訴訟で徹底的に争う考えを重ねて強調した。公取委が処分を発表した3月30日も、水野仁副社長がすぐさま会見を行い、取り消し訴訟の提起に言及した同社。問題の2018年当時、専務執行役員販売カンパニー社長として当事者の立場にいた林氏自らが見せる強気の姿勢には、カルテルで合意した事実はないという絶対的な自信が見え隠れする。

その一方で、リーニエンシー(課徴金減免)制度を活用した関西電力の言い分は、真っ向から食い違う。森望社長は3月30日の会見で、「独占禁止法違反に当たると認識した時点で、公取委に対しすみやかに減免申請を行い、その後の調査にも全面協力した」「お互いが接触する場で、われわれの営業活動を縮小するという方針を伝えること自体に違法性があると認識している」などと話した。

一体どういうことなのか。公取委が30日の処分発表会見で述べた見解はこうだ。「通常の談合であれば、特定の会合で情報交換を行って合意が形成されるが、今回は必ずしもそうではない。いろいろな役職が最初は探り合いみたいな情報交換を行い、次第に合意に至るような話をして形成された」(斎藤隆明第三審査長)

3月30日の会見で処分内容を説明する田辺局長(中央)

あいまいな合意形成 勝算は中部電にありか

つまり、この場で談合が行われたという決定的な証拠はなく、情報交換という状況証拠を積み重ねていった結果、カルテルの合意形成を認定したということのようだ。実際、森社長は会見でこう話している。「当時、企画と営業部門での会議が行われ、管外営業活動に関する議論がなされた。結果、管外での営業活動を縮小するという方針を立て、他社に伝達した。一連の行為が全体として違法と認定されたと受け止めている」「他社が(伝達を)どう受け止めたかについてはコメントできない」

そうしたあいまいさがあるからこそ、合意の有無で争う余地が生まれてくる。実は関電側の関係者からも「明確な合意などなかったのではないか」との声が聞こえているのだ。「公取委は確固たる証拠に基づき、関電と他社の主張を綿密に検証した上で合意形成を認定したわけではなさそうだ。そこに落とし穴がある。勝算は中部にありか」。関係者はこう話す。

仮に課徴金納付命令が出された3社が足並みをそろえて提訴した場合、公取委が認定した不可侵の合意の形成を、司法が認めるかどうかが焦点になる。かなりの長期戦になるのは間違いない。

「公取委の一連の対応を見ていると、リーニエンシーを行った関電のメモを証拠の基本線にして、史上最高額の課徴金処分を強行した感は否めない。肉弾戦の訴訟になる可能性もある」(事情通)

G7エネ環境相会合が開催 危機下で「現実解」を模索


4月15~16日、主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境大臣会合が札幌市で開かれた。開会挨拶で、西村康稔経済産業相は「これまでに経験したことのない不安定なエネルギー市場、サプライチェーンの脆弱化などの経済不安といった課題に直面している」と語り、脱炭素とエネルギー安全保障を両立する〝現実解〟の模索がポイントとなった。また脱炭素という共通のゴールに向け、「各国の事情に応じた多様な道筋」でのアプローチも強調された。

G7エネ環境相会合のフォトセッション。2日間にわたり活発な議論が展開された

共同声明では、石炭火力の廃止期限について明示を避けた点が特筆される。原発再稼働が進まない日本にとって、石炭火力の早期放棄は、電気料金のさらなる上昇や供給安定性の低下を引き起こす可能性が高い。一部の国からは日本が作成した共同声明の初期草案段階から、廃止期限の不明記について懸念の声があったとされるが、振り切った格好だ。

原子力については、昨年の共同声明から記述が倍増し、革新炉開発や強靭なサプライチェーンの構築、技術や人材の維持・強化が明記され、力強い内容となっている。

日本として注目すべきは、福島第一原発についての項目が加えられたことだ。今夏に予定されている処理水放出を巡っては、国際原子力機関(IAEA)による独立したレビューが支持された。レビューは夏前に包括報告書が提出される予定で、放出前にG7の支持を得られた意義は大きい。

ガス投資の必要性明記 日本主導で現実路線に

天然ガス・LNGを巡っては、グローバルサウスの国々への配慮と将来のガス不足を防止する観点から、気候目標に反しない形での投資の必要性が明記された。日本が支持を求めたとみられ、現実解の一つとして評価される。

水素・アンモニアについては、電力部門の脱炭素化に資する点を明記。日本はアジア・ゼロエミッション共同体構想を提起し、アンモニア混焼などによるアジアの脱炭素化に取り組んでいる。これらを念頭に、電力部門で水素とその派生物(アンモニアなど)の使用を検討する国にも触れ、まさに「各国の事情に応じた多様な道筋」に配慮した形となった。

自動車分野では、米英などが電気自動車(EV)をはじめとするゼロエミッション車について、市場シェアや販売台数などの数値目標の明記を求めていたとされる。しかし共同声明では、2035年までにCO2排出量00年比50%減の可能性に留意という表現にとどまった。同分野では水素、合成、バイオなど脱炭素燃料についての言及もあり、ハイブリッド車とEVの〝二正面作戦〟を展開する日本にとって追い風となりそうだ。

共同声明ではさまざまな項目で定量目標を設けず、多様な選択肢を追求する姿勢が目立った。これを「玉虫色」「後退」と評する向きもあるが、脱炭素化への急進的な動きを議長国である日本が現実路線に引き戻した結果といえる。

本会合が9月のG20首脳会議、年末の温暖化防止国際会議・COP28にどのような影響を与えるか注目だ。

南豪州で環境配慮型の不動産開発 不動産とエネルギーの融合を目指す


【東京ガス不動産】

東京ガス不動産は初の海外不動産事業を豪州で開始する。今年1月に現地法人「東京ガス不動産オーストラリア」を設立。豪州デベロッパーであるシダー・ウッズ社が手掛ける分譲マンション開発事業「Banksia(バンクシア)プロジェクト」に参画する。

バンクシアは、南豪州の大規模再開発事業「Glenside(グレンサイド)プロジェクト」内のESG型住宅開発の一つだ。同プロジェクトは、州都のアデレードから2kmほどにある病院跡地の再開発事業で、敷地面積は東京ドーム約5個分だという。広大な敷地の中には、複数のヘリテージ(歴史的建造物)を保全するとともに地域の生態系による多くの公開緑地を設け、地域環境の保全や自然と調和した住環境の形成も重視している。住宅ではタウンハウス250戸、マンション12棟の建設を予定。東京ガス不動産オーストラリアが携わるのは12棟のマンションのうち、4棟目となる。

2022年11月から始まった工事は、24年7月の完成に向け順調に進行中だ。想定していたスケジュールよりも早めに進んでいるという。間取りは1LDK~3LDKで、各住戸の面積は日本国内仕様よりも広い。価格帯はおよそ5000万円から1億3000万円ほど。引き合いが強く、すでに9割以上が先行販売済みだ。

自然と調和した住環境を実現する

厳しい評価基準をクリア ESG型不動産開発を展開

豪州の住宅開発では、エネルギー性能について10段階の効率基準「NatHERS(ナザーズ)」を満たす必要がある。複層ガラスやシェードの採用、方角、壁の色などを工夫し、必要なエネルギー量を低減することで、その基準を満たさなければならない。バンクシアは基準の6ポイントに対し、7・9ポイントを取得している。

豪州を初の海外進出先として選択したのは、不動産開発の要件として、生態系やコミュニティー形成、エネルギー効率性などの配慮が必要であり、同社が掲げる環境配慮型の不動産開発「ESG型不動産開発」に通ずるからだ。

バンクシアプロジェクトで得たノウハウを基に、今後はアデレードだけでなく、豪州の他エリアへの展開も構想中。また、豪州で新たに市場が形成されつつある賃貸マンション事業への展開も考えているという。 東京ガス不動産オーストラリアの柴﨑裕之社長は「当面は豪州に絞って、年間で複数の開発案件に携わっていきたい。まずは、水や廃棄物、コミュニティー形成などを加味した豪州のESG型開発のノウハウを習得する。また、豪州で普及が急速に進んでいる分散型電源を活用し、不動産とエネルギーを融合させたビジネスモデルの構築も目指していく」と、意気込みを語った。

【マーケット情報/4月28日】原油続落、需要低迷の観測強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の主要指標は、軒並み続落。需給を引き締める材料はあったものの、景気後退の見方が一段と強まったことで、需要の低迷が続くとの観測が台頭。市場は、総体的に売りが優勢となった。

米国では、マクロ経済の鈍化を示す統計が発表され、景気の冷え込みに対する懸念が広がった。

第1四半期のGDP成長率は1.1%と、市場予測を大きく下回ったことに加えて、消費者心理の悪化が顕著になった。さらに、連邦準備制度理事会(FRB)による追加の利上げが確実視されていることから、景気と原油需要の後退に対する見方が一段と強まった。また、カナダでも今年の北米工業の見通しに対して悲観的な見方が示されたことからも、売りが優勢となった。

なお、米国の週間在庫は減少に転じたものの、油価への影響は限定的だった。

他方、中国では、国内消費の拡大から需要増が続いている。国内製油所での生産量と製品輸入を合わせた石油需要は、3月に記録的な高さとなって以降、4月も高い需要が続いていた。だが、油価の上昇圧力には至らなかった。 また、北海油田においては、一部で48時間におよぶ労働争議が発生した。加えて、定修による大幅な減産が予測されたことから供給量に対する懸念が生じたものの、強材料にはならなかった。

【4月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.78ドル(前週比1.09ドル安)、ブレント先物(ICE)=79.54ドル(前週比2.12ドル安)、オマーン先物(DME)=77.81ドル(前週比3.20ドル安)、ドバイ現物(Argus)=79.26ドル(前週比1.64ドル安)

次代を創る学識者/稲垣有弥 山梨大学水素・燃料電池技術支援室特任助教


水素・燃料電池分野で山梨大学と県、民間が連携し、産業集積に力を注ぐ。

山梨大では産官学連携の専門部署をつくり、地域振興への貢献を目指す。

水素活用に注力する自治体の中で、山梨県は一歩抜きん出た存在だ。パワーtoガス(P2G)でのグリーン水素製造の共同実証など、先駆的な取り組みが進む。その背景として、山梨大学が1960年代から燃料電池研究にいそしみ、世界的パイオニアとして知見を蓄積してきたことが寄与する。

そんな実績ある山梨大で特任助教を務める稲垣有弥氏は、山梨の「水素・燃料電池バレー」を目指し、大学のシーズを生かした地域活性化の研究に取り組む。経済産業省が昨年末、2050年カーボンニュートラル(CN)に向けた政策議論をけん引するメンバー発掘のために立ち上げた「若手有識者研究会」委員にも名を連ねる。

研究者としては、やや異色の経歴を持つ。大学時代、美しい山並みに代表される山梨の地域資源に惹かれたことがきっかけで県庁に入庁。産業振興に携わりたいと考え、特に分散型エネルギーでの地域活性化に興味を抱いた。そうした中、資源エネルギー庁水素・燃料電池戦略室への出向を打診され、2年間国策に従事するように。予算づくりや水素基本戦略の策定、水素閣僚会議を立ち上げから担当するなど、中身の濃い期間を過ごした。稲垣氏は「エネ庁時代に予算折衝に備えて水素・燃料電池の技術的知識を深めることができ、かつ公的資金の仕組みや政策の勘所を押さえられるようになった。この経験が今のキャリアに役立っている」と振り返る。

研究成果の実装を重視 国と地方目線のギャップも

現在所属する山梨大の水素・燃料電池技術支援室は、関連産業の集積と育成を目指し15年に発足した産官学の「水素・燃料電池ネットワーク協議会」の中で大学側の窓口を担う部署だ。研究成果を実装までつなげることがテーマで、県内企業と新技術のマッチングや、新規事業立ち上げ支援などを行う。21年度までは文部科学省事業で、大学のシーズを活用して県内3企業が関連製品を製造。その後は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業で引き続き技術開発を進めている。「ネットワーク協議会内では、県企業局がP2Gでの水素燃料製造を行うのと同時に、大学と県内企業で水素を使うデバイスを開発している。地域で水素を身近な存在にするためのインフラ整備をどう進めるかがポイントになる」(稲垣氏)

ただ、政府と地方の目線は異なる。国策では大規模かつ効率的なインフラ整備を志向するが、地域レベルでは小型ボンベなどを使ったサプライチェーンの必要性も感じている。「小型インフラでも各地に広まればCO2削減効果などがチリツモ的に大きくなる。こうした意義を広く説明して官民の協力を得ながら、地方目線の取り組みを産業振興にうまくつなげていきたい」(同)

GX(グリーントランスフォーメーション)戦略も動き始める中、政府と地方、そして地域内のステークホルダーをつなぐ要諦を、今後も担う考えだ。

いながき・ゆうや 2013年青山学院大学経済学部卒、山梨県庁入庁。17年経済産業省の水素・燃料電池戦略室に出向。19年山梨県庁新事業・経営革新支援課、20年同庁成長産業推進課、21年4月から現職。経産省「50年カーボンニュートラルに向けた若手有識者研究会」委員も務める。

【メディア放談】電力不祥事の余波 エネルギー問題「一斉開花」


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

大手電力の不正閲覧で、内閣府の再エネタスクフォースが所有権分離を主張している。

ところが、エネルギー業界には他にも課題が山積し、分離の議論どころではなさそうだ。

―カルテル、不正閲覧と電力会社の不祥事が続いたが、新聞各紙を見ると報道は落ち着いている感がある。「嵐の前の静けさ」かもしれないが。

ガス 一連の電力不祥事については東京で新聞を読んでいるだけだと、ことの重大さを見間違う。不正閲覧を営業に使っていた関電は、関西地方ではメディアの強烈なバッシングを受けている。特に読売と産経は厳しい。

―読売、産経は原発には理解がある。志賀原発の「活断層疑惑」が晴れた時は、大きく紙面を割いて内容を伝えていた。

ガス ところがカルテル問題では、1面と社会面の両方で関電を批判している。不正閲覧では、大阪ガスの藤原正隆社長の記者会見での発言から「大ガス社長、重大な事案と批判」と報じた。それはこの2紙だけだ。

マスコミ 大ガスも導管部門を法的分離している。それで重大事案とは言ったが、批判はしていない。大ガスにも過去に不祥事があった。普通に考えて、ガス会社の社長が関電を批判するわけがない。

経産省は立腹だが…… 再エネTFは強硬意見

―各社が電力料金の値上げを申請した時だったから、タイミングも悪かった。

電力 不正閲覧には経産省もかなり立腹していたが、さすがに所有権分離まで発展するのはまずいと考えたようだ。だが、内閣府の再エネ規制タスクフォース(TF)がこの問題に首を突っ込んできて、所有権分離を提言した。それでややこしくなった。

TFの委員には電力ガス取引等監視委の委員長だった八田達夫さんや、エネ庁公益事業部の業務課長だった川本明さんがいる。彼らは電気事業をよく分かっているだけに、TFの会合では痛いところを突かれた。

ガス 会合に経産省からは課長補佐クラスが出ていたが、明らかに準備不足。経産省はTFを甘く見ていたね。

石油 東京新聞デジタル版がTF委員の高橋洋さんの取材記事を掲載して、「所有権分離が絶対必要」と主張していた。しかし、他にこの問題でパンチのある主張はあまり見当たらなかった。

―国会でも議論されているはずだが、あまり伝わってこない。 

ガス 電力会社は放送法の解釈を巡る問題に救われている。テレビ局は自分たちのことだから、ワイドショーもこの問題を優先して取り上げている。

マスコミ 放送法といえば、安倍晋三元首相の国葬での「電通が演出」発言で謹慎したテレビ朝日の玉川徹さんを久しぶりに見た。朝のワイドショーで電気料金の高騰に絡めてこの問題を熱っぽく話していた。

―電力の問題は玉川さんの「十八番」だから。どんなことを言っていた?

マスコミ まともに聞くとイライラするから、あくまで番組を盛り上げる「ショー」の一環だと思って聞いていた。けれど、テレ朝やTBSの番組に疑問を抱いた元首相補佐官の礒崎陽輔さんの肩を持つわけではないが、報道の自由とか言う前に、この人は電力については明らかに「色眼鏡」を通した発言しかしない。「電力会社がバラバラだから、東日本で困っても西日本から電気を送れない」と平気な顔をして言っている。

―東と西とで周波数が違うことを知らないのか。知っていてとぼけているのか。

電力 知らないわけはない。自分たちに都合の悪いことは無視する。それが玉川さんとテレ朝のやり口なんだよ。

統一地方選で政治の季節到来  日経が台湾記事でチョンボ

―4月に統一地方選があり、これから「政治の季節」に入っていく。エネルギー政策も影響を受けそうだ。

マスコミ 日刊ゲンダイに辛口の記事があった。電力・都市ガス料金の負担軽減策は「総合経済対策」として行われる。だが、LPGは地方創生交付金での自治体による支援だけにしていた。

ところが3月に入り、公明党が「2200万世帯が利用しているのにおかしい。負担を軽減すべきだ」と言い出した。統一地方選対策は明らか。日刊ゲンダイは「選挙でようやく重い腰を上げた。公明党はLPG支援を主導したと訴えるはずだ」とやゆしている。

石油 実は、記事の背景には、自治体の多くが地方創生交付金を使ってしまって、LPG支援に回すお金がなくなったという事情がある。それで業界が与党に泣きついて、公明党が「渡りに船」と選挙対策に使いだしたようだ。

電力 そうやってまた、バラマキをするわけだ。

―ところで、日経新聞(3月7日)の「お知らせ」を見て「何のことか」と思った。2月28日からの連載「迫真」で、台湾軍の腐敗を伝えた記事のことだった。

マスコミ 軍OBの話として「軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る。軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化している」「いまだに中国に協力するスパイが軍に多いことが台湾最大の問題」などと伝えている。台湾では激怒した人が日経の台北支局に放尿している。

ガス 自民党の親台派の関係者が怒り心頭だったようだ。日経は国際報道でチョンボが多い。ギリシャでタンカーが原油を移し替えている写真でも、「ロシア産」とする誤報があった。

マスコミ 明らかに知識・取材不足。お知らせでは「混乱を招いて遺憾」と述べているが、それで済む話かな。外交関係もないからと、記者もデスクもたかをくくったんじゃないか。

―クオリティペーパーなんだから、しっかりしてくれよ。

【コラム/4月27日】赤字国債麻痺の膨張予算を考える~歳出は大胆、負担先送り、公債残高増の行く末


飯倉 穣/エコノミスト

1,予算成立ながら、尾を引く本質的な問題

国会の予算審議が終了した。23年度は巨額予算である。そして予備費使用の決定もあった。報道は伝える。「過去最大114兆円予算成立 防衛費、破格の1.4兆円増」「物価高対策2.2兆円 予備費の支出決定」(朝日23年3月29日)、「最大の114兆円予算成立 23年度 首相人への投資、経済再生」(日経同日)。

少し経済知識や家計をかじっていれば、財源に首を傾げ財政事情を心配するが、その声は大きくならない。電力会社の料金値上げにも通じる。事業会社が赤字でも存続すると警戒感を持たない政治、国民、報道がある。同じ日に少子化対策のたたき台の公表もあった。児童手当、出産費等の経済支援に冷めた目は少なく、財源の議論も始まる。
現在の財政事情と公債残高の行方を、古書の指摘を思い出しながら考える。

2,23年度予算の姿は引き続き諦観と不安混じり

23年度予算は、全体予算114兆円(前年度比6%強増)である。増加科目は、防衛費10兆円(同89%増:除強化資金繰入26%増)、国債費25兆円(同4%増)、社会保障費37兆円(同2%増)、そして予備費5兆円強(同額)である。 
歳入内訳は、強気の経済見通しで租税69兆円(6%増)、特会等のやり繰りでその他収入9兆円(71%増)と大幅増を見込みながら、公債は36兆円(3%減、うち建設国債7兆円、特例公債29兆円)と桁外れが続く。

本年度予算の姿を整理すれば、公債依存度31%、名目GDP比公債比率6%(同赤字国債比率5%)である。96年度以降28年間連続公債依存度20%超(99年度以降25年間30%超)である。また28年連続赤字国債発行(22年連続赤字国債発行20兆円超)となる。公的債務残高は23年度末1068兆円(名目GDP比187%)を見積もる。
毎年借金で30兆円を経済に投入する状況が継続している。長期にわたる公債依存度は、緊急対策、不況対策の位置づけを越える。

3,その経緯を振り返れば

97・8年の金融危機対応、2001年以降の小泉政権の増税忌避、08年リーマンショック対策、11年東日本大震災対策があった。13年以降意味薄弱なアベノミクスの機動的な財政出動(毎年補正予算措置)、20年以降コロナ対応、23年度のエネ価格高騰・物価対策・防衛費増となる。
10年代に消費税増税(税率5%引上げ)もあったが、財政均衡軽視、歳出膨張・国債日銀買取りで、公債依存引下げの展望も見えない。借金による花見酒経済の浮かれが続く。

4,何故こうなるのか 

財政運営では、経済論は方便で政治的思惑が優先する。経済論的には、景気変動を緩和する視点で、循環的な景気後退期でも財政出動を是とする経済思想の蔓延、財政支出で需要牽引・経済成長可能という強弁等がある。政権好みの論である。経済の流れを考えれば適切か否か疑念がある。経済は、経済均衡に至る方向に(需給と価格調整で)動くと考えれば、大きな流れを財政・金融政策で変えるには限界がある。

又財政の切回しは、経済論より政治事情が優先する。その意味で財政学は政治学である。時に経済の実態と関係なく、政治サイドの事情が財政均衡を破壊する。情緒的な国民世論や選挙が背景にある。各政党の主張や国会の議論を見聞すると歳出増に熱心だが、何時も国民負担は先送りである。この国では、中選挙区制と小選挙区制で政治家の対応が異なる印象を持つ。万人向けの主張が必要な小選挙区制度は、正論より投票である。官邸主導の選挙向け政策、金融・国債頼りで国民負担先送りの経済対策、そして近時のMMT論(現代貨幣理論)への傾斜等に馴染み易い。

原価はいくらですか? 市場価格はいくらですか?


【リレーコラム】和泉 高宏/東北電力エナジートレーディング電力・燃料トレーディング部長

当社のHPには「From Rate To Price」を会社の目指す姿として記載させていただいている。これまでの総括原価に基づいた「料金」という考え方から、市場で取引される「価格」へと電力価格の決定プロセスを変化させていくことを目標としている。

2021年の暮れに電力相場見通しを他社に聞かれた際に、22年度に小売り低圧規制料金と市場価格が逆転するリスクもしくは特高・高圧自由料金メニューが売り切れるリスクがあるのではないか? と個人としての見通しをお話しさせていただいていた。

当時は、そんなことは起こり得ない、すなわち燃調上限を超えることや標準小売りメニューが提供されないなんてことはあり得ないでしょうという反応が大半であったように記憶している。

近代経済学においては、財の価格を決定するのは需要曲線と供給曲線であり、原価は供給曲線上の一要素にしかすぎない。だが、日本の電力業界で最も注目を集めているのは残念ながらJEPX(日本卸電力取引所)価格でも先物価格でもなく、原価で構成された小売り標準メニューがいくらなのか? である。

暴挙でさらされた原価モデルの弱点

しかしながら、今回のロシアによる暴挙によって原価モデルの弱点がさらされてしまった。旧一般電気事業者による特高・高圧標準メニューの戻り需要受入停止とそれに伴う最終保障供給契約の急増である。市場経済が需給の変化に合わせてその交点を柔軟に変え、価格の変化が供給増加や需要減を促していく一方で、計画経済は柔軟性を欠き、リスクイベントへの対応が遅れ、需給ギャップを生み出していく。

今回の世界的ガス供給不安に対して欧州のガス先物市場はとてつもない高値に高騰したわけであるが、結果としてこの高値が世界中からLNGを欧州に向かわせ、ノルウェーなどのガス供給国は生産をフルに増強し、意思決定にいつも最低3年はかかるといわれたドイツに、わずか数週間でFSRU(浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備)4隻の導入を決定させた。また節電、節ガスも大幅に進み、暖冬の恩恵もあるにせよ、1年足らずでロシアの侵攻前のレベルまでガス価格を押し戻すという結果につながっている。

われわれは今、大きなエネルギー移行期間の真っただ中にいる上、デフレからインフレへと世界経済も転換しつつある。そんな中、電力の安定供給のために求められるのは、自由市場取引がもたらす価格の柔軟性とタイムリーな価格発見機能であると確信している。

いずみ・たかひろ 大阪大学経済学部卒。住友商事、欧州住友商事、BASFを経て、2017年5月東北電力入社。同年12月より東北電力エナジートレーディングにてトレーディング事業に従事。

※次回はRWEサプライ&トレーディングのフランク・クレプツィヒさんです。

【穂坂 泰 自民党 衆議院議員】「地域課題解決に脱炭素を」


ほさか・やすし 1974年生まれ。埼玉県志木市出身。青山学院大学理工学部卒業後、会計事務所入社。特別養護老人ホーム、リハビリ病院、専門学校などに勤務。2016年志木市議会議員。17年10月衆議院初当選(埼玉4区)。21年環境大臣政務官兼内閣府大臣政務官を経て現職。

障がい者や高齢者が幸せに生きる地域づくりを目指し福祉事業から政治の世界へ。

脱炭素戦略は福祉政策や環境問題の解決に大きく貢献すると語る。

父は埼玉県志木市長を務めた穂坂邦夫氏。政治が身近にある環境だったが、幼少時は政治に興味はなく「幼い自分から見た父は、いつも不在で普段何をしているのか、よく分からない人だった」という。大学卒業後は会計事務所に勤務。医療法人の老人保健施設や医療系予備校などの立ち上げにも携わった。障がいのある人や高齢者が生きる幸せを感じられる社会のために奔走し、社会の仕組みを変えるには政治の力が必要だと実感する。父の偉大さを知ったのはその時だ。「福祉の行き届いた地域づくりを進める中で『君の親父さんには助けてもらった、世話になった』と感謝する人の声を多く聞いた」。人々の苦しみの声に答え、幸福のために動く父に、改めて尊敬の念を覚えた。政治家が身近にいる以上、理念を引き継ぐ社会的使命があると政治家を志し、2016年に志木市議会選挙でトップ当選を果たした。

市議会議員として地域に根差した活動をしていた矢先、自民党埼玉県連から17年の衆院選への出馬を打診された。当初は「ここで国政に転身すれば、地域の民意をないがしろにしてしまうのではないか」と固辞。後援会や地元支持者からの推薦を受けて出馬を決意するものの、選挙区には無所属で出馬した元自民党所属の候補がいて、党内からの積極的な支援は難しい。その中で、いの一番に応援演説に駆け付けたのが、菅義偉前首相だったという。「安倍政権下の官房長官として多忙の中でも来てくれた。一本筋の通った方で、本当にありがたかった」。衆院初当選後、20年に菅氏が総理大臣に就任してからも交流は続き、今も薫陶を受ける。

21年には岸田文雄首相の下で環境大臣政務官兼内閣府大臣政務官に就任。第208回通常国会内での環境省関係法案の成立に貢献した。福祉事業での経験を生かして、障がいの有無にかかわらず多様性が尊重された環境で学ぶ「インクルーシブ教育システム」の活用や障がい者雇用対策を進めている。政府のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進には「DXが進めば、障がいがある人の労働や勉学の可能性が広がる」と期待を寄せる。

エネルギー地産地消方針を支持  省エネ住宅支援策にも注目

エネルギー政策については需要側の整備に力を入れる。環境大臣政務官時代から、政府の脱炭素政策によるエネルギーの地産地消の方針を支持。持続可能な街づくりを目指す自治体の電気自動車(EV)カーシェアが、高齢者の移動問題にも貢献する考えを示すなど、地域の課題解決には脱炭素戦略が重要だと話す。「環境大臣政務官として各地の再生可能エネルギー戦略を視察してきた。地域に合った地産地消エネルギーの活用を推進するべきだ」と訴える。

また、注目しているエネルギー施策に「省エネ住宅支援」を挙げる。国土交通省、経済産業省、環境省の3省連携で補助金を導入し、住宅の断熱性の向上や高効率給湯器の導入など、住宅省エネ化を支援する制度で、断熱性や気密性の高い家は、電気代の節約だけでなく、子供のぜんそく率減少や入浴事故リスク、といった健康面、経済面で良い影響を与えるという。「この政策は脱炭素だけでなく福祉の充実につながる。住宅リフォームで地元産業にも大きな経済効果も期待できる」として、制度の活用を呼び掛けている。

脱炭素戦略の今後の課題については「気候変動対策における適応策への予算、資金が足りていない」と指摘する。50年カーボンニュートラル(CN)実現には、温室効果ガスを減らす緩和策と、気候変動影響に備える適応策の両輪で進める必要がある。緩和策はCO2排出量削減に向けた取り組みがスタートしているが、適応策は議論の途上だと話す。「この課題解決には、NECの森田隆之社長らが提案する『潜在カーボンクレジット』が新しいアプローチになる」。防災、災害軽減による将来のCO2抑制量を予想・算出してクレジット(金融商品)化することで民間の資金調達を促す手法で、脱炭素に向けたESG(環境・社会・統治)投資と防災・減災対策を目的とした投資活性化につながるという。一方で、CN社会の実現には民間投資だけでなく国民意識の問題も挙げる。「環境問題を解決するには脱炭素のほか、資源循環と自然再生という三つの軸が重要。リサイクル推進など国民の意識を高める活動を行いたい」と展望を語った。

現在は国会での質疑だけでなく、地元埼玉県で子供たちに向けた啓発にも積極的に取り組み、若者の政治参加の架け橋も担う。座右の銘は「まず、やってみる」。議論で作り上げた政策は、実行してこそ意味があると話す。政界の恩師である菅前首相の、迅速に政策を決断する実行力を手本にして、党内で汗を流し、現場を走り続ける。

【需要家】EV化法案に待った 行き詰まるEUの政策


【業界スクランブル/需要家】

EUの急進的な気候変動対策の中でも物議をかもしているのが、2035年までに内燃機関を持つ自動車の販売を禁止するという法律案である。昨年来、欧州議会、欧州委員会の承認を経て最終的な法案が成立する寸前なのだが、ここにきて異論が噴出している。

2月27日にスウェーデン・ストックホルムで開かれたEUエネルギー運輸大臣会合の場でドイツのトイラー運輸大臣が、内燃機関の禁止は行き過ぎで、e―フューエルを使うエンジン車も認められるべきだとして、EVしか認められない法案に反旗を翻した。続いてイタリアのサルビーニ運輸大臣も、ガソリン車の禁止はEUの経済的な自殺行為で、中国に利益をもたらし、欧州の自動車産業に損害を与える「イデオロギー的原理主義」だと批判した。イタリアはドイツ、ポーランドなどと共闘してこの法律のペースを遅らせるよう働きかけるとしている。

これに先立つ2月16日、ドイツではショルツ首相が国内最大の自動車会社・フォルクスワーゲンのウォルフスバーグ本社工場を訪問し、経営陣、労働組合幹部と数時間にわたって懇談している。何が話し合われたかは明らかにされていないが、EUが新法で行おうとしているエンジン搭載車の禁止により、エンジン関連の部品企業を含めて多くの従業員が職を失い、自動車大国ドイツの地位が、今や世界一になっている中国のEV産業に奪われる懸念について議論されたことは想像に難くない。

この内燃機関車の禁止法は、EUの「Fit for 55(30年CO2 55%削減)」政策の目玉の一つだが、そうした野心的な取り組みが、域内産業界の反発によって土壇場で暗礁に乗り上げている。EUの気候変動対策も一筋縄ではいかない現実に直面している。(T)