「炭素価格付け」が急展開か 交錯する経産・環境省の思惑

首相の指示という政治介入で、カーボンプライシングが再びエネルギー・環境政策の表舞台に引っ張り出された。経済を痛めないよう現実解を探る経産省に対し、炭素税導入が悲願の環境省は、意外にも攻めあぐねている。

長年膠着状態にあったカーボンプライシング(炭素価格付け、CP)の議論が、政治介入で新たな局面を迎えている。昨年末に菅義偉首相が、梶山弘志経済産業相と小泉進次郎環境相に連携してCPを検討するよう指示。年が明け、菅首相が通常国会の施政方針演説で「成長につながるカーボンプライシングに取り組む」と正式表明したのだ。環境省幹部は「環境省単独で審議会を開く状況が長く続いてきたが、ステージが変わった」と強調する。

さらに2月5日の衆院予算委員会で、菅首相が踏み込んだ発言をしたとの一部報道もあった。立憲民主党の岡田克也氏が、地球温暖化対策税(温対税)の税収見込みでは温暖化ガスの削減効果が乏しいと指摘したところ、首相は「数千億円ではなくどんどん増やしていかないといけない」と回答。だが、どうも前後の文脈からすると、首相が「増やさないと」と語ったのはカーボンニュートラル(実質ゼロ)対策全般についてのようだ。「まさにこれから経産省と環境省で議論を始めるというタイミングに、国会で先取りするような発言をするわけがない」(霞が関関係者)。首相の年末の指示以降、官邸からCPの具体的な話は降りてきていない模様だ。

今回、どんな着地点に降り立つのかは議論の行方を見守る必要があるが、経産省の狙いは、昨年末の段階から透けて見えていた。

成長戦略で透けて見えた方針 経産省は時間軸を意識し検討

実質ゼロの実現に向け、経産省を中心に作成された政府の「グリーン成長戦略」のCPに関する記述にそれが表れている。従来は炭素税と並ぶ論点とされてきた排出量取引を、「クレジット取引」の一種と整理した点がポイントだ。課題が多い排出量取引より、非化石証書やJクレジットなど、既存制度の強化や対象の拡充を強調した書きぶりにした。

新たな論点として、炭素価格が低い国からの輸入品に課税する「国境調整措置」も取り上げた。EUで制度設計が進んでいることに加え、米国バイデン政権も公約に掲げており、世界的な動きを意識してのことだ。一方、炭素税は「専門的・技術的な議論が必要」と従来の見解をなぞるだけにした。

経産省は「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」を新設。6月ごろ策定される成長戦略に反映させるため、それまでに中間整理を行う予定だ。2月17日の初会合では、グリーン成長戦略からさらに肉付けする形で、いくつかのポイントが示された。特に強調されたのは、時間軸を意識したポリシーミックスの視点だ。

「CPには炭素税や排出量取引以外にもさまざまな手段がある。企業の行動を変えるには代替手段に導く必要があるが、現時点で選択肢はそれほどなく、いま炭素税などを入れても逃げ場がなくなるだけだ」(経産省幹部)。エネルギー諸税や、証書・クレジット、FIT(固定価格買い取り制度)など既存施策のほか、民間の取り組みも組み合わせ、ダメージを与えず行動変化を促す仕掛けを模索する。

エネルギー諸税などの扱いも整理する必要がある

例えば既存施策の活用は、トランジション(低炭素化への移行)を促す短期的手法としてイメージする。一方、国境調整措置は中長期のイメージだ。導入の是非ではなく、EUなどの仕組みが固まらないうちに、公平な競争条件を確保できるような原則論を日本側から発信したい考え。産業技術環境局だけでなく、通商政策局などとも情報共有しながら進めていく。

こんな見方もできる。「国境調整措置の話では、炭素価格がいくらなのかという話に触れざるを得ない。日本の公式的な価格は温対税のCO2t当たり28

9円だが、相手国に額面だけで低いと見られたら、日本の不利になる」(エネルギー業界関係者)。日本のエネルギー諸税はCO2t当たり約4

000円という水準にあり、FITなどの負担も大きい。だからこそ、これまで炭素価格としての扱いがあいまいだった既存施策もきちんと整理することが重要になる。ただ、「日本の温対税率では不十分だから炭素税が必要、と主張してきた環境省幹部は、この議論を嫌がるだろうけどね」(同)。

方向性見えない環境省 落としどころに悩み

では、1日に「カーボンプライシングの活用に関する小委員会」を1年半ぶりに再開させた環境省は、どんな戦略なのか。検討事項として、①成長に資するCPはどのようなものか、②国境調整措置や排出量取引などに関する世界情勢を踏まえ、日本はどんな対応を取るべきか、③それらを踏まえ具体的にどんな制度設計が考えられるか―を提示。「成長に資するかどうか、さまざまな手法ごとに課題を整理していく。間口を広く、丁寧に議論を重ねていく」(環境省幹部)方針だ。ただ、具体的な論点は示されなかった。

CP導入のチャンス到来かと思いきや、同省は落としどころに悩んでいるように見える。

2019年夏にまとめられた同小委の中間整理は両論併記にとどまり、考えられる炭素価格の水準や、そのCO2削減効果、影響などについて、「今後の定量的な議論が重要」としていた。しかし、「前回よりは具体的に示したいが、税率の目安といった生々しい話は難しい。定量的な議論をするかどうかは要検討だ」(同)。

同省の本命は炭素税のはずだが、コロナ禍で経済が痛んでいる今、「成長に資する」という条件をどうクリアするかは難題。ここで無理な勝負をしかけても、条件に引っ掛かり中途半端な形になりかねないし、経済界も交えて丁寧に積み重ねてきたこれまでの議論をぶち壊すことは望んでいない。

同省は年内にとりまとめを示すとしているが、夏には22年度税制改正要望のリミットもある。また、小泉氏はCPを今年の最重要課題と位置付けており、選挙のタイミングなども議論の行方に影響しそうだ。CPには税制が絡むだけに、これまでも節目では政治介入があったが、今回はどんな展開が待ち受けるのか。

【マーケット情報/2月26日】原油上昇、需給逼迫の見方が強まる

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需給逼迫の観測が強まり、買いが優勢になった。

寒波による影響で停止していた米国テキサス州の製油所が、徐々に稼働を再開している。3月初旬には概ね復旧する見込みだ。また、新型コロナウイルスに対するワクチンの普及が進んでいることも、経済回復にともなう石油需要増加への期待感を高め、価格に上方圧力を加えた。

他方、OPECの1月減産順守率は103%を達成。12月の99%から上昇し、需給が引き締まるとの予測を強めた。米国のバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ、ゴールドマン・サックス、および英国のバークレイズなど金融機関が、今年の原油価格予測を相次いで上方修正したことも強材料となった。

一方、米国エネルギー情報局が発表する週間在庫統計は、製油所の低稼働と輸出遅延を背景に増加。また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが毎週発表する国内石油ガス採掘リグの稼働数は、悪天候にもかかわらず2020年5月以来の最高を示し、価格の上昇を幾分か抑制した。

【2月26日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=61.50ドル(前週比2.26ドル高)、ブレント先物(ICE)=66.13ドル(前週比3.22ドル高)、オマーン先物(DME)=64.09ドル(前週比3.40ドル高)、ドバイ現物(Argus)=64.14ドル(前週比3.25ドル高)

【省エネ】炭素税の導入 処方箋の一つに

【業界スクランブル/省エネ】

欧州環境機関(EEA)の報告では、欧州の2020年までの気候変動対策主要目標(トリプル20)のうち、「CO2排出量20%以上削減」と「再生可能エネルギー比率20%以上」は達成見込みだが、「エネルギー効率20%以上改善」は達成困難と報告している。エネルギー効率を向上させ、EU全体の最終エネルギー消費量ならびに一次エネルギー消費量を、「07年に想定した20年のエネルギー消費量比」で20%削減する目標だが、気温影響による変動を考慮しても達成が難しい。

これは、再エネ電源増加のための施策は比較的コントロールしやすいが、建築物・運輸・産業の各分野において、多くの個人・事業者の多様な取り組みが必要となる「エネルギー消費量の削減」はコントロールが困難ということでもある。欧州委員会の分析では、建築物部門が増加しており、次いで運輸部門が増加している。一方、産業部門のエネルギー消費量はほとんど増加しておらず、発電部門に至っては再エネシフトにより減少している。

省エネによるエネルギー使用量削減は重要な取り組みだが、地道で継続的な取り組みが必要で、かつ難しい。CO2排出ゼロは、オール電化建物とEVに、再エネ電力メニューの購入を組み合わせて実現可能だが、各家庭や事業者のエネルギー消費量を2割削減(基準値比較ではなく、実消費量を2割削減)するのはとても難しく、地道な省エネ行動の継続も難しい。この努力の継続には金銭支出削減の見える化が一番だが、当然、削減額が小さい省エネ対策は実施され難い。

実際、日本では海外よりエネルギー価格が高いため、省エネが進んでいる面もある。よって、「コロナ対策の政府支出増の穴埋め」と「脱炭素社会への社会変革費用捻出」を目的として、欧州水準を超える炭素税の追加導入(低所得者対策の積み増し、特定業種への控除検討、国境炭素税対応検討などの関連施策とのパッケージが前提)により、エネルギー価格を大幅に上昇させることが、省エネ推進・脱炭素社会実現に向けた処方箋の一つでもある。(T)

【住宅】暖房需要で電力危機 省エネ義務化が急務

【業界スクランブル/住宅】

年末年始にかけて、日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格がかつてないレベルで高騰した。その原因として、LNG火力の燃料制約や、寒波の影響が取り沙汰されているが、電力需要を電力会社の想定よりも押し上げた一つの理由は、リモートワークの普及や換気の徹底などの「コロナファクター」による、家庭での暖房用電力需要の増加があると考えられる。そして、それを助長してしまったのが、日本の住宅の断熱性能の著しいまでの低さだろう。

熱の多くは窓から出入りする。窓の断熱性能は「U値(W/㎡・K)」という指標で比較し、小さいほど熱の出入りが少なく高性能であることを意味する。例えば、日本の既存住宅の8割はU値6.5の「アルミサッシ+単板ガラス」が使われている。また、新築の約7割はU値4.65の「アルミサッシ+ペアガラス」が「高性能窓」として使われている。

実は、この4.65という水準は、経済産業省が定める「省エネ建材等級表示区分」における星1つの最低ランクである。同区分の最高ランクの星4つは、U値2.33の「樹脂とアルミの複合サッシ+ペアガラス」となっている。しかし、この日本の最高基準の窓でさえ、欧米では人が住む家に使われる窓として使用することが禁止されている。つまり、日本の戸建住宅のほとんど全ては、欧米では人間が住んでよい家とは見なされていないということになる。

これ以上の断熱性能の窓となると、U値1.31の「樹脂フレーム+複層ガラス」か、U値0.90の「樹脂フレーム+トリプルガラス」となる。欧米の多くの国では1.3未満の窓の使用が禁止されている。韓国や中国でさえ2.5程度が最低基準になっている。しかし、日本では最低基準自体が存在しない。

世界的な新型コロナウイルスの第3波の到来で、わが国においてもさらなる巣ごもりを余儀なくされ、暖房需要が高まらざるを得ない。今こそ、住宅の省エネ性能を電力需給にも関わる問題として捉え直す好機ではないだろうか。(Y)

【太陽光】市場拡大への課題 電気使用で情報不足

【業界スクランブル/太陽光】

30年前、太陽電池の担当部門には太陽電池を使った電卓や時計などが所狭しと並んでいた。将来は住宅用太陽光発電が大きな市場に成長するとの予想もあったが、小型電子機器の稼働しかできない太陽電池が住宅向け設備に利用できるか懐疑的だった。しかし、太陽光を発展させようとする企業努力の結果、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)導入の後押しもあり2019年には太陽光発電は日本の電源構成の6.7%を占めるまでに成長した。既に18年の第5次エネルギー基本計画における30年度想定の電源構成比7%に限りなく近づいており、30年までにはその想定を大きく超えていることが予想される。

20年から太陽光発電は新しいステージに入ってきた。FIT開始当初の太陽光発電業界は、FITにて買い取りされる太陽光発電の電気を作ることが事業目的となっていたが、ここにきてRE100やRE Actionに参加している企業、太陽光発電で作られた再エネ電気を使う企業、自治体が増加している。さらに菅義偉首相の50年カーボンニュートラル宣言以降、日本社会において再エネの大きな柱である太陽光発電の利用拡大を目指す動きが一層加速してきている。

一方、太陽光発電の電気を作ることから使うことへ変化する中、使うための課題も見えてきている。太陽光発電の導入を検討している企業が必要な情報の入手ルートが少ないため導入に時間がかかっている例が散見される。また、供給側も誰が太陽光発電の電気を使いたいのか潜在顧客情報の収集手段が少ないなど、お互いの必要情報をマッチングさせることができていないことが再エネ導入の大きな課題になっている。もう一つは制度上の問題だ。企業間で再エネ電気を直接売り買いすることができず、小売事業者を通す必要がある。また、離れた自社設備から太陽光発電の電気を託送するために余分な費用が掛かることが、自家消費を目的としたオフサイトでの太陽光導入の阻害要因になっている。太陽光発電市場拡大のため、これらの課題解決に道筋をつける努力が求められている。(T)

【再エネ】効果大の省エネ 脱炭素で熱利用

【業界スクランブル/再エネ】

再生可能エネルギー熱は創エネか、省エネか。そして、再エネ熱は供給側のエネルギーか、需要側のエネルギーか。これらの質問にどう答えればよいだろう。

再エネ熱は多くの場合、自家消費されるので電気やガスのように供給事業者がいない。需要側で利用されるエネルギーは、通常は料金の発生する電気・ガスの世界であり、再エネ熱は木質バイオマスのように料金が発生するものもあるが、それ以外は太陽熱や地中熱のように利用料金を必要としない環境資源である。

利用者の意識はどうか。家庭やオフィスで空調や給湯に再エネ熱を使うと電気やガスの使用量が減るので、省エネと思ってしまう。省エネ法は化石燃料を規制の対象にしているので、再エネ熱の利用は省エネになる。だが、省エネという言葉の中に再エネ熱が包み込まれると、自然界からエネルギーを採り出している創エネとしての再エネ熱が見えなくなってしまう。

再エネ熱は創エネ、つまり供給側のエネルギーとして把握できる場合もある。地域熱供給や地点熱供給の事業者により再エネ熱は需要家に供給されている。ここで供給される熱には、電気と同様に計量法にのっとった取引が成立しており、需給構造が分かりやすい。地域熱供給は現在、全国に134カ所あり、うち22カ所で太陽熱・地中熱(地下水を含む)、バイオマス熱、下水熱(中水を含む)、河川熱、海水熱、雪氷熱が供給されている。2018年の年間熱供給量は2394テラジュール(原油換算6.2万㎘)である。

供給側として見た再エネ熱は、熱量を把握できている点で存在感があるが、年間利用実績で見ると、太陽熱とバイオマスがそれぞれ36 万 ㎘、258 万㎘(15年)で、大局的には需要側のエネルギーと見た方がよさそうである。再エネ熱の使用により、利用者にとってはガス代や電気代が安くなる。さらに、極めて効果の大きい省エネ手段である側面に着目するなら、脱炭素を実現する政策では、民生・産業部門のエネルギー需給構造の中で再エネ熱をしっかりと捉えておく必要があるだろう。(S)

【メディア放談】電力需給の報道 電力危機は国民に伝わったか

<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

今冬、電力需給は危機的な状況に陥ったが、マスコミは大きく報道せず国民の関心は薄かった。経産省と電力業界の対応も一枚岩でなく、今後に禍根を残しそうだ。

―年明けから電気の需給がひっ迫して、電力供給は綱渡り状態が続いた。しかし、マスコミはあまり注目しなかった。

電力 東日本も西日本も危機的な状況が続いた。国が節電要請を出してもおかしくなく、マスコミはもっと異常な状態であることを伝えるべきだった。もっとも、新型コロナの東京の感染者が1月7日から急激に増えて、マスコミにとってはコロナの報道が優先。大きく紙面を割いた。電力危機は後回しにされた。13日ごろから各紙が報じ始めたが、「もう少し早くから伝えてくれれば」と思っている。

ガス さすがに電気新聞は年明けからスポット市場の高騰を書き始めて、その後も継続的に需給の問題を追っていた。電力会社と近い関係にあるだけに、現場の人たちの切実な危機感を伝えていた。その後に日経が書き始めたが、ほかの一般紙は出遅れている。

石油 ただ、朝日、毎日、東京をはじめ、産経を除く各紙の電力需給の記事は歯切れが悪かった。今回は、LNG、石油などの燃料不足が大きな要因だ。原発は3基しか稼働していなかったが、多く動いていればこんな事態は起きなかった。燃料輸入が停止しても安定的に電力供給をする原発の役割について、原子力嫌いの大手紙は書こうとしない。しかも、再エネを盛り立てたいから、調整力として欠かせない火力発電の重要性にもあまり触れない。それで、結局何が言いたいのか分からない記事や論説ばかりとなった。

―電力業界関係者からは、国の節電要請を求める声も出ていた。

電力 経済産業省は需給ひっ迫を深刻に受け止めていなかった。梶山弘志経産相は会見で「電気を効率的に使ってほしい」と話したが節電には触れていない。それどころか、「暖房の利用などは普段通りに」と言っていた。記者も、大臣が「効率的に」と同じことしか言わないことが分かっているから、それ以上、踏み込んだ質問をしなかった。

マスコミ 経産大臣が効率的な使用しか言わないのは、官邸からクギを刺されているから。新型コロナ対策で7日に緊急事態宣言を出して、「とにかく家にいてください」と言っている。すると例年にない寒さだから、エアコン暖房の人たちは室温を上げる。それを「温度を下げてください」と言ったら、ただでさえ支持率が低下気味なのに、一気に政権批判が高まってしまう。

ガス 電気事業連合会は10日から節電の要請を始めたが、「節電」という言葉を使うか、経産省と電事連との間でかなり激しいやり取りがあったようだ。経産省の要請が「効率利用」で、電力業界が「節電」では国民は戸惑う。結果として需給ひっ迫は乗り切れそうだが、大停電を引き起こす可能性があった。今冬、経産省と電力業界が一枚岩になれなかったことは、今後に禍根を残したと思う。

ピンチに電力間で温度差 関電は頭を下げて燃料調達

―電力業界は停電阻止に懸命だったと思うが。

電力 いや、そうとは言えない。福島第一原発事故の前は、電力会社はとにかく安定供給が至上命題。予備率が5%を切ると「大変だ」と、社内は雰囲気が一変して、社員の顔色が変わった。ところがいまは、例えば東京電力の場合、どこか緊張感が足りない。経産省の支配下になって、供給義務もなく責任感が薄れて、「停電が起きてもエネ庁の責任。おれたちが悪いわけじゃない」という雰囲気を感じる。

マスコミ 会社によって温度差がある。例えば、発電と小売りが一体の関西電力は、停電阻止に会社が一丸となった。LNGを分けてもらうために、幹部が大阪ガスに頭を下げたと聞く。停電や台風などに使う高圧発電機車も出動させている。こんなことは、大阪北部地震でもなかったらしい。「できることは、全てやった」と社員が言っていた。ところが、持株会社の下に3社に分けた東電は、責任感、義務感もバラバラになった気がする。

激変するエネルギー業界 原発否定では解決せず

―需給ひっ迫で再エネは役に立たず、火力発電は石油火力まで動員して危機に対応した。それでも、原子力に否定的なマスコミの風潮は変わっていない。

石油 カーボンニュートラル宣言をしたこともあり、日本のエネルギー全体を取り巻く状況が大きく変わろうとしている。それをマスコミは直視しようとしていない。3月11日の福島第一原発事故10年に向けて、原子力に批判的な記事が出始めている。まだ避難している人たちが多くいることを考えると、仕方がない。だけど原発を否定するだけでは、日本が抱える課題は何も解決しない。

マスコミ 朝日が東日本大震災10年の連載で、原子力規制委員会誕生の経緯と現状を取り上げていた(1月17日)。福島事故の後、当時野党だった自民・公明党が規制機関を「3条委員会」にすることを求めたことなど、なかなか読み応えがある内容だった。ただ、再稼働が遅れている理由を、「(電力会社の)基準を満たす最低ラインを探るような姿勢」とするのは首をかしげた。遅れているのは主に、活断層の審査が進まないせい。個人の主観で判断がコロコロ変わるような内容の規制にしたため、一部の専門家などが「(活断層の)可能性は否定できない」と主張して止まっている。世の中に「可能性を否定」できるものはない。朝日には、そこまで突っ込んでほしかった。

―それを朝日に期待するのは無理だと思う。

【石炭】火力技術の英知 福島発IGCC

【業界スクランブル/石炭】

石炭エネルギーの世界で新たなイノベーションが結実した。福島・勿来IGCCパワー54万kW商用機が、2020年7月19日に100%の負荷に到達した。今後、米国炭(亜瀝青炭パウダーリバー・スプリングクリーク炭)を利用し、21年9月の商業運開を目指すという。

日本人は建国以来、“工夫するDNA”が育まれ数多くのイノベーションを生み出してきた。近年最も代表的なイノベーションとしてコンビニが挙げられるだろうか。これはデパートの機能を身近な商品に絞り込み、身近な場所に店舗を置くという“ちょっとした工夫”から生まれたイノベーションだ。一方、IGCC(石炭ガス化複合発電)は発電関連技術の総力を結集したイノベーションである。

IGCCの開発をさかのぼると1983年の1日当たり2tの小型ガス火炉開発にたどり着く。その後同200t規模のパイロットプラント、さらに同1700t、出力25万kWのIGCC実証機を経て、関係者の血と汗の結晶が54万kWのIGCC商用機として結実した。この場を利用してあらためて関係した皆さんの努力を称賛したい。そして、引き続き広野IGCCパワー54万kW商用機も並行して21年に運開を目指し工事が進捗しているようだ。

このIGCCは従来型石炭火力と比べ、発電効率の向上、CO2排出量原単位削減などが大きな特徴だ。ただ、幅広い炭種を利用できるメリットを生かし、廉価な亜瀝青炭を主燃料として運用することで運用費が低減できることも忘れてはいけない。海外に目を向けると、発電事業者の多くは廉価な亜瀝青炭の利用計画が多く、IGCCの誕生を見て、そのニーズが増すのではないか。

新型コロナウイルスの感染が世界中に広がり、海外渡航が自由にならない現在だが、この規制が解除されれば、勿来、広野のIGCCの見学を希望する海外からの発電事業者が増えるだろう。近い将来IGCCが海外でも利用される時代が到来することを期待したい。(Z)

危機的な状況の引き金に これぐらいは大丈夫の積み重ね

【リレーコラム】柴田善朗/日本エネルギー経済研究所 研究主幹

世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。医療関係者の多くは、人の移動・旅行・外食が主な原因と指摘する。百年に一度の世界的危機ともいわれるが、街行く人々にそんな悲壮感は見られない。政治家の会食は危機感への麻痺を通り越し、危機・窮状を訴える医療従事者への冒涜にも映る。

脱炭素化は聖域に踏み込むことが必要か

社会・経済のマクロな動きはミクロな行動の積み重ねで形成されている。個々人の行動が世界を変え得る。エネルギー・環境分野でも同じ。茅方程式が示す通り、CO2排出削減には、経済成長の維持を前提とするならば、エネルギーの炭素強度を弱めエネルギー消費原単位を削減するしかないが、これまで人間の行動は聖域と見られてきた。つまり、人間は必要なときに必要な量の効用を得るための行動を取る主体として、その行動を所与とし、エネルギーの炭素強度の低下・エネルギー消費原単位の削減により低炭素化を図るというものである。しかしながら、近年、人間の行動変容を方策に取り入れることの重要性も指摘されている。聖域にも踏み込まなければ、脱炭素化の達成は厳しいのかもしれない。

今までの在り方に変化を求めることは制約であり部分的な自由の剥奪でもある。だが、制約条件があって、知恵・工夫が生まれ、新たな産業も生まれる。歴史上、産業の興廃は不可避で、世の流れで衰退・消滅した産業は数多い。雇用はほかの産業や新たな産業が受け皿になるしかない。外食・旅行産業を死守して、その裏で医療崩壊が起これば本末転倒だ。同様に、脱炭素化を目指すなら化石燃料関連産業は衰退せざるを得ないので、新たな産業へのシフトが求められる。

気候変動科学分野では、ある擾乱がTipping Pointと呼ばれる一定水準を超えると、地球システムに対して不可逆的な変化を加速させる可能性が指摘されている。新型コロナウイルスも、これぐらいは大丈夫との判断の下、これまでの活動を継続していると、その積み重ねで医療崩壊を引き起こし、取り返しのつかないことになるかもしれない。

気候変動も新型コロナウイルスも、人間の行動や産業構造の大きな変化に向けた心構えや覚悟を持つことを人類に求めている。両事象とも、将来起こるかもしれない全世界的危機の度合いが即座に実感しにくいので、個人の行動をどう変えていくべきか、は非常に難しい問いである。しかし、医療崩壊を回避する行動の在り方は、スーパーコンピューターで飛沫拡散状況のシミュレーション結果を示されなくても、容易に分かることである。

しばた・よしあき 1994年東大大学院工学系研究科修士課程修了、東芝入社。住環境計画研究所を経て、2010年日本エネルギー経済研究所入所。15年4月から現職。

次回は住環境計画研究所長の鶴崎敬大さんです。

【石油】550万人の雇用 自工会が政府に反発

【業界スクランブル/石油】

新春、箱根駅伝の中継を見ていたら、日本自動車工業会の自動車関連産業従事者にエールを送るイメージ広告が流れていた。部品を作る人、組み立てる人、整備する人、燃料を入れる人、自動車を運転する人と自動車関連産業で働く人々の姿が次々と映し出され、最後に「自動車を走らせる550万人」とテロップが流れる、感動的なCMであった。

同時に、筆者には、十分な国民的議論がなく決まった、菅義偉政権の2050年CO2排出ネットゼロ、30年代半ば新車電動化方針に対する自工会の反論・反発に聞こえた。わが国の雇用人口の1割弱に相当する550万人は、エンジン自動車を前提としており、電動化で部品点数は半減し、550万人の雇用を維持できなくなる。

さらに、自工会HPを見ると、このCMとともに豊田章男会長のメッセージがあり、政府のネットゼロ方針を「大英断」と評価しつつも、火力依存の電源構成に懸念を示し、自動車関連業界の納税額15兆円、自動車の経済波及効果を2.5倍と紹介している。

政府は、昨年末にグリーン成長戦略を策定したが、電動化や再生可能エネルギーの推進には、大きな経済波及効果は期待できないし、税収とは逆に大量の補助金が必要になる。北欧各国では電動車の使い勝手の悪さを補助金でカバーしている。また、中国では補助金の削減で電動車の販売台数が減少した。コロナ禍で大規模な財政出動が行われる中、ガソリン税収の減少とグリーン成長のための補助金拡大が許されるのであろうか。

おそらく、温暖化対策をイメージで語れる時代は終わった。脱炭素化は納税者の負担や有権者の雇用に大きな影響を与える時代に入った。脱炭素による失業者発生や脱炭素のための大幅な負担増加など、コスト負担も考えておく必要があろう。

それを忘れると、フランスのイエローベストや米国のトランプ支持者のような有権者・納税者の反乱が起こりかねない。(H)

【櫻井雅浩新潟県柏崎市長】原発には国家的な意義がある

教師の職を辞し故郷・柏崎市に戻り、原発推進・反対両派の支持を得て市長に就任した。柏崎刈羽原発の再稼働に意義を認め、集中立地のリスクを解消して共存の道を選ぶ。

さくらい・まさひろ 1981年柏崎高校卒、86年早大教育学部国語国文学科卒、女子美術大付属中・高校教諭。91年柏崎市議、学習塾(SEA桜井教育研究所)を創業。2016年柏崎市長。

「細い道を行きます」。2016年11月、柏崎市長に初当選すると、周囲にこう話した。三度目の挑戦で勝ち取った市長の職。二度の落選(04年、08年)で11年に政治団体を解散し、政治活動に終止符を打っていた。

「もう一度、市長選に出てみないか」。声を掛けたのは、原発推進・反対派それぞれのリーダー的立場の市会議員。思いもかけない人たちだった。1991年に柏崎市議に当選して以来、柏崎刈羽原発の必要性に理解を示す一方で、「再生可能エネルギーを将来の柏崎の産業の大きな柱に」と、太陽光や風力発電などの重要性を訴えていた。その姿を、多くの市議や市民が見ていた。

推進・反対両派の支持を得ての市長職。柏崎刈羽の再稼働が政策課題として浮上してくる中、「真ん中の細い道を進むしかない」と覚悟を決めた。だが、原発の在り方について、市民を対象に行ったアンケートの結果を見て、自らの考えが「細い道ではなく、ブロードウェイだった」と気付く。

推進派は「全ての原子炉を稼働すべきだ」と主張する。反対派は「再稼働を認めず、原子炉7基全てを廃炉に」と訴える。しかし、この両極端の人たちの数は限られていた。将来的に原発に依存しない、再エネを中心とした街づくりを望みながらも、約8割の市民が再稼働を容認、あるいは否定しないという立場だった。

「再稼働は認めるが、集中立地のリスクは減らしたい」―。市長として、東京電力に対して6、7号機の運転再開を容認しながらも、1基以上の廃炉計画を明確化することを要請。東電の小早川智明社長も理解を示した。20年11月の市長選では、反原発色の濃い対立候補に大差をつけて再選を果たす。「自分の考え方を、市民が現実的な選択肢として認めてくれた」。自らの判断に確かな手応えを感じた。

転機をもたらしたネパールの青年 柏崎で再エネ普及に力を注ぐ

大学卒業後、都内の女子中・高校で国語教師として教壇に立つ。夏・冬などの長期休暇になると、ヒマラヤ山脈をはじめ世界中の名峰を訪れ、趣味のトレッキングを満喫。柏崎市に戻り市政に参加することは、考えていなかった。

しかし、ネパール・カトマンズのゲストハウスで知り合った青年の発言が、「故郷に戻り何かをしたい」という思いを呼び起こす。90年、イラクがクウェートに侵攻し、湾岸戦争が始まる。開戦を伝える新聞を手にした青年が、「クウェートを助けるためにネパールはグルカ兵を送る。大量の原油を買っている日本は何をするんだ」と詰め寄ってきた。「ネパールのような貧しい国の若者でさえ、自国にプライドを持ち、国の在り方を考えている」。青年の言葉が脳裏から離れず、郷里に戻り市議選への出馬を決意する。28歳の時だった。

日本で最初に石油精製が行われ、世界最大級の出力を持つ原発サイトがあるエネルギーの街、柏崎市。市議となり、石油、原子力に次ぐエネルギーとして再エネの将来性に注目し、環境問題にも取り組んできた。市長としても、脱炭素社会を視野に入れ、「エネルギーの街3・0」の構想を掲げている。地域エネルギー会社を中核企業として、再エネの電気を地域、また将来的には首都圏の需要家に届けたいというものだ。

一方、依然逆風が強く吹く原子力。「日本経済を支えている低廉・安定的な電源であり、温室効果ガスを出さない環境エネルギー。運転には国家的な意義がある」と、原発について重要性の認識は変わらない。中でも柏崎刈羽の稼働については、その必要性を独自の視点で語る。

「福島第一原発事故の一義的な責任者は国であり、国を構成する国民一人ひとりに責任がある。本来ならば国民が福島の復興、賠償の費用を税、電気料金の値上げという形で負担するべきだ。しかし、そこには限界がある。誠に皮肉だが原発の再稼働により、東電が得る利益を復興、賠償に充てるしかない」

福島事故により、今も新潟県には原子力に対して否定的な考えを持つ人たちが少なくない。柏崎刈羽の再稼働では、民意をどう捉えるかが課題になる。困難な判断を迫られるが、「日本は代表民主制を取る。議会での議論を重視して、民意は議会を通して得ていく」。18年の県知事選での公約で〝県民の信を問う〟とした花角英世知事にも、「県議会を通した民意の把握をしていただきたい」と望んでいる。

幼少期からの趣味である登山では、アフリカ・キリマンジャロの山頂に立ったこともある。今も休日には、柏崎市周辺の山々でのトレッキングを楽しむ。フランスの哲学者、アランの著作を愛読。「雨の日に笑え」を座右の銘とする。

【火力】異例の需給ひっ迫 ツケは送配電に

【業界スクランブル/火力】

今年の正月はコロナ禍第3波の勢いが衰えず、1都3県に再度緊急事態宣言が発出される状況となった。全国的にも年末年始の帰省ラッシュが見られず、初詣も分散参拝となるなど例年とは様変わりだった。そんな影響なのか、電力需給も例年にはない珍しい状況となっている。昨年末から需給がタイトな状況が続いており、1月3、4日には東京エリアへ最大100万kWの電力融通を広域的運営推進機関が指示した。広域的な電力融通の促進は、電力システム改革の柱の一つであるので有効に活用されるのは良いことなのだが、正月休み中に緊急融通を受けるという状況は筆者の記憶では初めてだ。

正月休みは、ゴールデンウィークと並んで1年の中でも最も需要が低くなる時期で、供給力そのものが不足するとは考えにくく、実際足りなくなったのは燃料のLNGらしい。報道によると年末から続く寒波に加えコロナ禍による巣ごもりが消費を押し上げており、東京エリアでの電力量は例年の1割増しとのことだが、この程度の需要は過去に例がなかったわけではない。それでは、どうして今回のような燃料不足を招いてしまったのであろうか。

発電事業者は、小売事業者の需要想定に基づき燃料を調達している。年末の需給ひっ迫が起こるまでは、卸電力取引所のスポット価格は安値で安定しており、余剰のLNGを調達しなかったのは当然の行動だ。一方小売りにとっても、今回のようなことがなければ、需要を高めに見積もるのは経営を圧迫するだけなので、できるだけ避けたいと考える。このように発電事業者にも小売事業者にも供給余力を持つインセンティブが働かず、結果として送配電事業者にツケが回ることになる。

停電という重大事項は起きていないが、今回の件は発送販分離によるインシデントとして受け止めるべきではないか。責任を押し付けあうのではなく、競争下でも協力し合える仕組みを作り上げることが結果として需要家のメリットにもつながる。(Z)

【マーケット情報/2月19日】欧州、ドバイ現物、供給不調を映して上昇

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物と、中東原油を代表するドバイ現物が、供給不調を映して上昇。一方、米国原油の指標となるWTI先物は、前週比で下落した。

米国テキサス州で発生した寒波と、それに伴う停電で、同地域における日量200万~300万バレル程度の原油生産が停止。また、米国の週間在庫統計は更なる減少を示し、需給逼迫観を強めた。

加えて、英国、ドイツ、フランスは共同で、イランのウラン濃縮に対する警告を発信。制裁解除によるイラン産原油の市場復帰見通しが一段と不透明となり、ブレント先物と中東原油を支えた。

一方、寒波はWTI先物に対して弱材料となった。停電により、テキサス州の一部製油所が稼働を停止。さらに、悪天候を背景に移動が大幅に減少したことで、燃料用需要が後退。WTI先物が前週の価格を下回る要因となった。

【2月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=59.24ドル(前週比0.23ドル安)、ブレント先物(ICE)=62.91ドル(前週比0.48ドル高)、オマーン先物(DME)=60.69ドル(前週比0.83ドル高)、ドバイ現物(Argus)=60.89ドル(前週比0.39ドル高)

【コラム/2月22日】官製卸電力市場を考える~技術革新なき自由化がもたらす官権肥大

飯倉 穣/エコノミスト

年末から1月にかけて電力需給逼迫で卸電力所のスポット価格が200円を超える事態となった。担当官庁は、消費者に注意喚起し、卸市場調達の新電力向けに優遇策を要請した。今回の市場介入の姿で電力システム改革の実態が垣間見えた。1990年代以降の電力自由化という政策は、日米経済摩擦対応の構造改革の一環として遂行された。小売り自由化・卸電力市場等創設・発送配電分離で2020年一段落し、国家管理貫徹となった。官権強化策で、先行きも電力供給不安定が見込まれ、日本に必要な一次エネ開発力・海外調達力という企業力も疲弊させている。規制緩和政策(電力改革)は、経済的には不要で、無益なところに官の力を投入した。電力業は、抑々国と関係なく、純粋民間ベンチャーを嚆矢とする。且つ、現在も準公共財的なら公益事業的な扱いが適当であろう。

1,年末から今年1月にかけて、ピーク時予備率1%接近地域もあり、日本卸電力取引所のスポット市場取引価格(東京エリアプライス円/kWh)が跳ね上がった。14日240円台に達し、その後乱高下した。この過程で、識者の中に政府が電力緊急事態宣言を発出すべきという声もあった(11日)。報道もあった。「大手電力 節電呼びかけ 家庭や企業に 寒波で需給逼迫」(日経11日)、「電事連 節電呼びかけ 電力不足懸念 経産省と温度差も」(朝日同13日)。

2,経産省は、遅まきながら市場連動型料金契約の消費者に注意喚起し、一般送配電事業者に対し精算金単価上限を200円/kWhとする新電力保護の措置、等々を要請した(29日)。この役所の対応に電力システム改革への疑念が再浮上する。今回事態を垣間見て、改めて電力自由化という管理強化政策を考える。

3,需給逼迫・スポット価格のボラタイル(不安定)は、商品(私的財)市場なので、米国流なら、自由化進展となる。売電業者で資金難があっても、消費者に多少不便があっても特に問題視することもない。

4,15年以降の卸電力市場(スポット価格10円前後)の安値・安定は何故継続したか。取引量拡大のため、担当官庁は、旧一般電気事業者(9電力)の余剰電力の全量市場供出を求めた。旧事業者に余剰電力の全量を、原則限界費用ベース(≒燃料費)で投入させた(13年)。且つ取引量の低迷を受けて17年以降自社需要の0~1%以上の予備力を超える電源の市場投入も要求した。市場支配力を強調し、旧事業者を雁字搦めにして、売電等への新規参入を煽り、自由化成功・効率化達成と喧伝したい官庁の恣意が見え隠れする。

5,電力卸市場のスポット価格が限界費用(≒燃料費)期待であることが、抑々市場として不可思議である。また強制売電措置もありえない。市場信奉者フリードマンの価格が導く「鉛筆1本」の自然発生的な市場経済の姿と異なる。卸市場は、市場原理無視の国家管理型である。市場という名前がまず間違いで、「強制的卸電力売買統制機関」である。政府関与なしが市場である。安全基準以外の法規制を直ちに廃止すべきである。

6,安い卸電力市場を背景に小売電気事業者が増加した(21年2月702社)。その販売電力の8割は卸電力市場調達である。人の褌で相撲をとる便乗商法が流行している。新規参入小売業の燃料調達力疑問、電源建設意欲疑問、送配電利用の小売商売のみという姿に、エネルギーの安定供給が図れるかという疑問が残る。補完策として電力容量市場やΔkWh人為市場を作った。国内小売競争より、当面は非CO2一次エネ確保・海外調達力こそ重要に思える。

7,電力自由化は、日米経済摩擦を背景としたバブル形成以降の一連の構造改革の一環である。繰り言だが、経済的には不要な政策であった。今回の現象は、その欠陥改革の象徴である。電力改革は、当初内外価格差是正、高コスト構造是正を目的とした。その後、市場に電力需給を委ね、競争で電気事業全体の効率化を図り、電気事業の発展を図るという保守的電力業打破・官庁主導権確保が狙いとなった。卸・小売りで疑似市場を作り、一般電気事業を発電、送配電、小売りの3事業に分割し国家管理貫徹で一段落した。

8,過去30年に亘る電力自由化をどう考えるべきか。電気事業も、技術革新があり、電気の価格が大きく低減となれば、当然革新者が、規制の戸を叩き、新規参入可能である。通信の場合、技術革新で通信単価が、数百万分の1になったという。エネルギー・電力の世界では、未だ安価・安定・大量供給可能な技術革新は到来していない。競争で実現できることは、他産業の規制緩和と同様、リストラ効果的なものである。革新的技術を生むとも考えにくい。

電力自由化で、一般国民に電源を選びたい声は響かなかった。お役所主導の電気事業の仕事の細分化・再配分だった。国内市場の波乱は、海外交渉力低下となる。電力改革は、無益なところに官の力を投入し企業力を疲弊させた。

9,今後どうなるか。自由化(という国家管理)が進めば、電気事業者の体力消耗戦で、新規投資・予備力確保は困難になる。電力容量市場やΔkWh市場で国関与が益々強くなる。自由化という名の電力の国家管理強化である。日本の民力・国力低下でもある。準公共財の視点を重視すれば、現在でも公益事業としての管理が適当である。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

左翼運動としてのグリーン運動 再エネ推進にこだわる理由

【気候危機の真相 Vol.11】掛谷英紀/筑波大学システム情報系准教授

左翼運動家は地球環境問題に熱心だが、自由主義国だけに矛先を向ける、といった矛盾がある。

「気候危機」の熱が高まっている今こそ、科学的に正しい情報をいかに発信していくかが問われている。

筆者は環境問題の専門家ではない。VR(仮想現実)や人工知能を主な専門としているが、後者の研究テーマの一つとして、機械学習を用いた政治や社会問題に関する言説の分析を行っている。その中で、左翼運動の言説について注目するようになった。

左翼運動は、表向きは人権、平和、寛容、多様性など美辞麗句を看板に掲げる。地球環境問題もその一つである。しかし、その運動の矛先は極めて恣意的に選ばれている。日本の場合、左翼の人権運動は北朝鮮による拉致被害者の人権をしばしば無視する。平和運動でも、中国や北朝鮮の核開発や軍拡に抗議をしない。反原発運動も、中国や韓国の原発には反対しない。これらに共通するのは、周辺諸国が日本を侵略しやすい状態を作り出す方向に運動が向いていることである。

欧米の左翼にとっての最大の敵は、キリスト教的価値観に基づく西洋文明だ。であるから、イスラム教などの異文化に対するトレランス(寛容)を主張しつつ、キリスト教的価値観を弾圧する。例えば、米国の大学ではキリスト教徒のサークルを解散させたり、欧米のフェミニストは女性の権利を主張する一方で、イスラム系移民の性犯罪の被害を受けた女性に対しては口封じしたりすることがある。

自由主義国の弱体化が狙い 温暖化でも中国は批判せず

世界の左翼運動に共通するのは、自らが属する社会を憎み、その破壊を目指すことである(図参照)。だから、反核運動も自由主義国だけ狙い撃ちする。2017年にノーベル平和賞を受賞した後、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)メンバーがBBCの番組「ハード・トーク」に出演したが、なぜ北朝鮮の核を批判しないのか、との質問にまともに答えられなかった。ICANは日本が核兵器禁止条約を批准しないのを厳しく批判するが、核兵器を持たない日本に核攻撃の照準を合わせている中国や北朝鮮は批判しない。

左翼運動の究極の目的は、自由主義国の軍事力や産業基盤を弱め、共産主義革命の実現であると考えると、一見矛盾する彼らの行動の全てに説明がつく。左翼が主導する自然エネルギー推進もその一環と考えられる。代表例が、米国下院議員のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス(民主党)が現在主導しているグリーンニューディールである。彼女は原発を使わずに化石燃料の使用を全廃する、飛行機も廃止するという極端な主張を続けている。科学的に考えて、どれも近い将来に実現可能な政策であるとは到底思われない。

これに対して、同じく米国下院議員のダン・クレンショー(共和党)は「グリーンニューディールがカーボンフリーの新型核エネルギーも放棄していることは、CO2排出削減が彼らの本当の目的ではないことを示唆する。本当の目的はわれわれの経済を破壊して社会主義を実現することだ。彼らが正直に過激思想をあらわにしている点だけは称賛に値する」と述べている。

左翼環境活動家が、温暖化ガス排出削減を真の意図としていないことは、彼らが世界最大のCO2排出国である中国をほとんど批判しない点に見てとれる。米国の論客ベン・シャピーロは、温暖化が人類存亡の喫緊の危機だとあおる左翼に対し、米国だけ排出を減らしても問題は解決しないので、CO2排出が多い中国とインドの石炭火力発電所を爆撃する必要があるのではないか、と皮肉っている。

自由主義・民主主義国は批判し、全体主義の独裁国家は批判しないことは、ほぼ全ての環境活動家に共通する。国連のスピーチで注目されたグレタ・トゥーンベリも、中国は全く批判しない。彼女を支える環境団体は、中国政府の代理人である疑いも浮上している。