【原子力】中間貯蔵問題 信頼の再構築を

【業界スクランブル/原子力】

東京電力と日本原電が立地を進めてきたむつ市の使用済み燃料の中間貯蔵施設。位置付けを変更して電力業界全体で共同利用していこうという構想について、電気事業連合会と国は検討に着手したい意向を2020年12月18日に地元自治体に伝えた。この新しい提案に対し、三村申吾・青森県知事や宮下宗一郎・むつ市長は慎重な姿勢を貫いた。特に、宮下市長は「共同事業化ありきの議論はできない」と強く反発。市長が訴える懸念は、①青森県やむつ市は核のゴミ捨て場ではない、②高レベル放射性廃棄物の最終処分場になりかねない、③中間貯蔵施設の共同利用がむつ市になる必然性がない、④国策に翻弄されてきた歴史への理解が足りない―という4点だ。誘致したむつ市と事業者とのこれまでの議論の成果を「共同利用という新提案」であることを口実に「ちゃぶ台返し」した色彩も感じられるが、その背景には、事業者と地元自治体との信頼関係の空洞化があるのではないか。

地元選出のあるベテラン国会議員は次のように語っている。「中間貯蔵の共同事業化の件については、私に一切根回し・相談がない。電事連は一体何をやっているのか。県・市・地元政界などにもっと丁寧に根回しをするべきだ。マスコミが何度も取材にくるが、何も聞いていないのでコメントのしようがない。宮下市長がへそを曲げているようだが、箱物を造ってしまってその管理費負担が重たくのし掛かっているむつ市としては、経済的支援が喉から手が出るほど欲しいはずだ。そうした実状も踏まえ、業界全体として基金を作るなど知恵を絞り、丁寧に近づけば、宮下市長も耳を傾けるはずだ」。事業者と地元自治体・ステークホルダーとのコミニュケーションが不足した結果、信頼関係が失われ、不信感しか残っていないのではないか。

いま一度、事業者と国は出発点に立ち返り、信頼関係の再構築から始めることが急務だ。今年は「エネルギー基本計画」の改定の年だが、中身のある計画を策定することに加え、地元との信頼関係再構築の元年としてほしい。(Q)

カーボンニュートラルで見直し必要 将来講じるべき省エネ施策は

【多事争論】話題:カーボンニュートラルと省エネ

カーボンニュートラルに向けた議論が盛り上がる一方で、省エネの議論が深まっていない。

将来の社会構造の変化を見据え講じるべき省エネ施策について、専門家の見解を紹介する。

<フォアキャストとバックキャスト 消費者目線に立った両輪が必須>

視点A:岡本洋明/住環境計画研究所主任研究員

カーボンニュートラルでは、エネルギーの脱炭素化についての議論が目立っているが、エネルギー消費量の総量をそのまま非化石燃料で代替することは、非常に困難であり、エネルギー消費量をどこまで削減できるのかを最初に議論する必要がある。この順番で議論しないと適切な政策の決定ができない。そのため省エネは、今後のカーボンニュートラル政策における入口という重要な位置付けを占めるべきであると考えているが、将来の省エネを考えることもまた非常に難しい。合理的なエネルギー使用を考えるためには、社会が人々が、どのような理由でエネルギーを消費しているのかを考える必要があるからだ。

30年後という非常に不確実性の高い将来は、現時点ではほとんどの人が思い付きもしない革新的な技術が当たり前のように存在して、それに適した社会構造になっているものと思われる。そのような時代のカーボンニュートラルなエネルギーの使われ方を現時点で議論する上では、詳細な現況把握に基づいたフォアキャスティングと、将来のあるべき社会の姿からのバックキャスティングの両輪が必要であると考えている。

現実と理想の差を随時見極め 両者を縮める努力を

2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う影響が社会に変化をもたらした。当社が総務省家計調査を分析したところ、わが国の家庭部門における二人以上世帯のエネルギー消費量は、20年4~6月四半期に前年同期間比3・2%、同7~9月四半期に3・7%それぞれ増加となり、その大半は、気温変化の影響では説明できない。

しかし、この増加の要因は、構造的には明確ではない。在宅勤務の増加や外出自粛による在宅時間の増加は、エネルギー消費量増加の理由に含まれているだろうが、その定量的な影響評価は難しい。PCや通信機器などの使用増加のような直接的な要因から、照明や空調などの使用増加のような付随的なもの、さらに調理回数の増加や外出機会減少に伴うストレスケアの増加まで、考え得る要因が多岐にわたる上に、現在のところ在宅勤務が全国一様に拡大したわけではなく、地域や職種などによってその実施状況には大きな差がある。加えて、近年常時接続で使われるようになった通信機器などに伴う電力消費の実態も不明な部分が多い。

このような状況の現在を議論の立脚点とするのであれば、現在のエネルギー消費を精緻に仕分けする議論が必要である。そのためには、世帯属性や機器の使用状況とエネルギー消費の関係を実態調査により経年的に捕捉しつつ、さまざまなビッグデータを活用して細部の分析を実施し、それらを統合する必要があると考える。AIやIoTにより取得されるさまざまな局面のビッグデータを、エネルギー消費構造の詳細把握に活用し、無駄の所在を分析することが求められる。民間による多岐にわたるビッグデータ取得および分析と実態調査を統合するための政策がかみ合うことで、データ体系が整備されれば、正確な現状把握に基づく将来予測が実現するものと期待している。

一方で、現況把握を基にした将来予測だけでは、不確実性の高い30年後の社会に到達するのは難しい。しかし30年後も、エネルギー消費自体が目的なのではなく、機器などから効能を得るための手段であり、生活者はその効能によって少しでも快適な生活を得ることを求めている、ということは同じなのではないだろうか。

将来のエネルギー消費の変化を考える上では、生活者の目線に立って理想的な生活とは何か、それを阻害する現代社会の課題は何か、という観点が必要であると考えている。その上で、課題解決の可能性を秘めた社会的・技術的変化の兆しを見いだし、そこに省エネルギーの文脈をいち早く絡めた議論をし、今何が求められるのかを判断することが重要になるだろう。そのためには、工学や理学、経済学の視点だけでエネルギーの議論をするのではなく、文化人類学、社会学、心理学などの視点からも盛大に議論を深めるべきではないだろうか。

フォアキャスティングだけでは手堅い議論に終始してしまう恐れがある一方、バックキャスティングだけでは理想論となってしまう恐れもある。30年後という決して近くない将来に対しては、両輪の議論により理想と現実の距離を何度も測り、それを縮める努力が求められる。そしてカーボンニュートラルの入口としての省エネを議論するためのその両輪は、生活者を見つめることから始まる。

おかもと・ひろあき 2010年東大大学院新領域創成科学研究科博士課程単位取得退学。博士。15年住環境計画研究所入社。主に家庭部門のCO2排出実態調査、自治体の温室効果ガス排出量算定支援などに従事。

【LPガス】公表率が低迷 料金問題いつまで

【業界スクランブル/LPガス】

LPガスの諸問題について、消費者や事業者団体、行政関係者らが意見交換を行う場として、エルピーガス振興センター主催で全国各ブロックで開催する恒例のLPガス懇談会が、2020年末の九州・沖縄地方で20年度分を終了した。新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、各地区とも初のウェブ会議形式となった。

今年度は「料金透明化・取引適正化」「新型コロナウイルスへの対応」「災害対応関連」の三つのテーマを挙げたが、各地区とも料金問題に多くの時間を割いた。料金公表については、ガイドライン制定時には5割程度であった公表率が、19年の調査では92%と報告された。だが、神奈川県消費者団体の独自調査では、「回答できない」、「取引がないと教えられない」などのケースが多数あり、公表率は48.2%といまだ半数を切っていることが明らかとなっている。

取引適正化では、賃貸型集合住宅における設備などの費用を「負担したことがある」事業者は57.1%を占める。その内容は、「給湯器」が97.6%と最も多く、次いで「エアコン」や「ドアチャイム」などのLPガス使用量増も望めないガス機器以外の設備が続き、費用がLPガス料金に転嫁されているケースが多い。競合エネルギーや同業者間での競争激化を背景に、オーナーらからの要求を受け入れざるを得ない状況が、LPガス料金への不信感につながっているとされ、消費者団体からは三部料金制導入の声が上がる。行政担当者は、「設備負担の商慣習は是正すべき時期に来ている」と強調。「国交省、公正取引委員会とも相談しているが、現下の法律では規制することはできない。高い料金を取られた消費者は嫌な思いしかしない。自由競争の中、営業行為として始まったものであり、LPガス、不動産の両業界がすり寄りを止めるしかない」と指摘する。

少子高齢化、人手不足、需要量減少、さらにはカーボンニュートラルなど、課題は山積みだ。料金問題が消費者懇談会の主テーマにならぬよう、業界のさらなる取り組みに期待したいところだ。(F)

大幅下落した電力の株価指数 まず稼ぐ力の向上が不可欠

【羅針盤】荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券・シニアアナリスト

過去10年間、東証株価指数(TOPIX)が上昇したのに対して、電力セクターの株価指数は54%下落した。

株式市場が電力業界への評価を大幅に下げたためで、今後、改善が求められる経営課題を挙げる。

過去10年間(2010年末~20年末)の電力セクターの株価指数は54%下落した(図1と2を参照)。同期間のTOPIXは約2倍に上昇しており、株式市場での電力業界への評価が大幅に低下したことが分かる。本稿では、東日本大震災後の電力業界の過去10年間の株価とファンダメンタルズを振り返り、今後の中長期的な経営課題を述べる。

過去10年間の電力セクターの株価指数の推移は、次の三つの時期に大別される。

第1期(11~12年)の株価指数は下落した(TOPIXも低下)。株価指数が下落した主な要因は、11年3月の東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故後に、原子力発電所が再稼働できず(火力発電量が増加し、コスト増加)、業績が悪化したことだったと弊社では考える。

第2期(12~15年)の株価指数は上昇した(TOPIXも上昇)。株価指数が上昇した主な要因は、電気料金の改定値上げや原子力発電所の再稼働により、業績が部分的に回復したことと考える。

全面自由化で競争激化 ROE・ROAが低下

第3期(15~20年)の株価指数は下落した(TOPIXは上昇)。この時期は、今後の経営課題を考える上で、もっとも注目すべきである。株価指数の主な下落要因は、次の2点と考える。

第1の要因は、電力会社の稼ぐ力が低下したことである。

株式市場では、企業の財務で最も重要なKPI(重要業績評価指標)として、ROE(=純利益÷自己資本)が注目される。この指標は、会社が株主から預かっている資金を使って、どのくらい稼いでいるかを示している。数値が高い方が稼いでいることになる。

電力8社(北海道・東北・中部・北陸・関西・中国・四国・九州電力)の平均ROEは15年度9・9%から19年度7・8%に低下した。

競争激化で1kW時当たりの粗利が減少した

この期間に電力8社の平均ROEが低下した主な要因は、ROA(=経常利益÷総資産)が低下したこと(15年度2・5%→19年度2%)と自己資本比率が上昇したこと(15年度17・7%→19年度20・2%)である。自己資本比率(=自己資本÷総資産)の上昇は、財務体質の改善を意味しており、弊社では電力業界にとって良いことと考える。

問題は、ROAが低下したことである。ROAは、会社の総資産に対する稼ぐ力を示しており、民間企業としての経営成果を示す重要なKPIと考えている。

電力業界のROAが低下した主な要因は、次の3点と弊社では考える。

①全面自由化などによる競争激化を背景に、販売電力量1kW時当たりの粗利益(スプレッド、利幅)が悪化していること

②エネルギーレジリエンス強化のための費用増加

③都市ガス事業や海外事業などの新規事業の収益性の低さ

第3期に株価指数が下落した第二の要因は、株式市場で気候変動問題への関心が高まったことである。第3期が始まった15年は、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)でパリ協定が、国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択された年である。

国内では、GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)が、国連が提唱したPRI(責任投資原則)に署名した年であり、国内機関投資家がESG投資を本格化し始めた時期である。

【都市ガス】地域密着を強みに 地方ガスの真価

【業界スクランブル/都市ガス】

2020年10月26日、菅義偉首相の所信表明演説において、50年脱炭素社会の実現を目指すことが宣言された。その方策としては、革新的イノベーション、規制改革、グリーン投資の普及とともに、「国と地方で検討を行う新たな場を創設する」ことが挙げられた。これを受け、国・地方脱炭素実現会議が12月25日にスタートした。会議では、国と地方が協力して、脱炭素、かつ持続可能で強靭な活力ある地域社会を実現するための「地域脱炭素ロードマップ」を策定する。

会議で提示された環境省の資料では、このロードマップが対象とする地域の取り組みと国民のライフスタイルに関わる八つの主要分野が提示され、第一の項目として「地域のエネルギーや資源の地産地消」が掲げられている。それは、「地域企業や自治体等が主体となり、地元の自然資源を活用して地域・環境と共生した再生可能エネルギー電気や熱、水素などをつくり、利用。収益は地域内に循環させ、地域の見守り・防災・インフラ更新などの課題解決に活用。地域間でも再エネを融通」とイメージされている。

環境省はもともと脱炭素社会、循環経済、分散型社会への移行を目指して、地域への働き掛けを行ってきた。環境省幹部は、地域経済圏形成の核として「自治体、商工会議所、地域金融、地方ガス事業者に期待している」と指摘。ガス事業者の中には、地元の商工会議所の会頭を務めている事業者も少なくない。

50年脱炭素社会に向けての都市ガス業界の工程は、50年前に天然ガス導入を大手ガス事業者から開始して全事業者に拡大していった以上の困難を伴うだろう。この試練を克服していく道筋としては、「地域のエネルギーや資源の地産地消」に限定せず、ほかの主要分野として掲げられている「住まい」「街づくり・地域交通」「公共施設等の建築物・設備」「生活衛生インフラ」などにおいても、自社の経営資源などを生かして参画していくことが必要となろう。既に小田原ガスなどの先行事例も存在する。地域密着を強みとするガス事業者の真価が問われる。(G)

十字架背負った宮古島実証 非利益主義と社会貢献目指す

【私の経営論】比嘉直人/ネクステムズ社長

「会社辞めます……すみません」今から5年前の2016年1月、20年間勤めてきた沖縄電力グループの沖縄エネテックを退職する決心をした時の風景が蘇る。

当時、私は同社エネルギー開発部のグループ長で火力発電、内燃力発電、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、水力発電、海外事業など数多くのプロジェクトのほとんどを牽引していたので、光栄にも社内外から遺留する声も多かった。当時の社長は怒り心頭。部下は不安そうな面持ちだった。私がポジティブな理由で退職することを説明すると、安心した表情で少し首をかしげながら「頑張って。応援している」と一様に半信半疑な様子。あらかじめ分かっていた反応だった。だから退職の道を選ばなければならなかった。

選んだ新天地は宮古島市島嶼型スマートコミュニティ実証事業を担うベンチャー企業。需要設備を直接制御することは当時の電力業界では全く理解を得ていなかったが、私はいずれ必要となると考えていた。

増エネと進まぬ省エネ 不確実なDRで五里霧中

11年度から開始した沖縄県予算の実証事業の委託先は宮古島市。島内の住宅200世帯、事業所25カ所、農業ポンプ場19カ所の全てをリアルタイムに電力計測して、エネルギーの見える化を行い、省エネやデマンドレスポンス(DR)の有効性を検証する事業だった。エネルギーマネジメントシステム(EMS)の実現を目指すもので、監視している需要は島内2割程度に匹敵する。当時、同様の実証事業は全国で実施され、いわば流行だった。大きな違いは、県予算を活用する見返りとして必ず事業化すること。そして、それは実証事業に関わる全員が重い十字架を背負うことを意味していた。

運開直後は意気揚々と完成したEMSの性能を楽しんでいたが、月日を重ねるごとに省エネが全く進まない状態に陥った。実態調査の結果、家庭ではモニターを見ておらず、事業所でも観光客がもたらす売り上げ増で省エネを優先してくれない。ピークカットのアラートも煩わしいとの理由で停止され、DRは毎回1割程度が関の山。逆に増エネになる場合や急に3割が反応する場合もあり、その不確実性があらわになっていた。この状況での収入見込みは年間500万円。必要経費は人件費を含まず年間1億円という評価結果。いかにして事業化ができるか、暗く長いトンネルだった。

沖縄エネテックの社員として、このEMSの有効性評価に携わっていたが、これ以上は無理に感じて市職員に進言した。「人々は快適性や暮らしの豊かさを求めているので省エネは優先されない。特に光熱費に困っているものでもない。事業所は売上増が優先される。つまり、コミュニティーが優先的に望むものではない機能の商売では無理がある」「事業化はできないが、ほかの事業者が同じ状態に陥らないように反省点を全国に発信して、それを成果としよう」。市職員はジッと考えて「それはそれで良いけど、宮古島の未来がない」と呟き長い沈黙が続く。

これまで多難を乗り越えてきた自負もあるが着地点が見えない。「島の未来のために覚悟があるのであれば、ステージとギアを上げる必要があります。予算を獲得して事業を延長することはできますか?」。市職員は「すぐに調整に入りたい。どのような内容にするか」と即答。「確実性がないのが問題なので需要設備を直接遠隔で監視制御できる技術を実現する必要があります。しかし、これは大きな挑戦になります」。気付けば大きな苦労を拾ってしまった。

その後、市職員の熱意で予算化はトントン拍子に進み、新たな事業コンセプトが必要となった。

離島の赤字額は数十億円 需給設備を面的制御

この頃、私は初めて「グリッドパリティー」という言葉を知った。再生可能エネルギー、とりわけ太陽光の発電単価が電気料金と同等以下になること。信じがたかった。「リアルタイムプライシング」という言葉も知った。この二つが重なると夕方のダックカーブ発生時に電気料金がマイナスになる現象が予測されていることも知った。従来の再エネ導入手法を見直さなければ、きっと誰も幸せになれない。そのように感じていた。

a ネクステムズが考えている将来望まれる供給モデルのコンセプト

一方、宮古島を含む沖縄離島の電気料金はユニバーサル制度で守られているため、実は供給赤字であり、赤字額は年間数十億円になる。電力自由化で制度が危ぶまれることになれば、離島での暮らしは危機に晒される。

このような背景があったことから、事業コンセプトは「社会コスト低減」「需要家メリット最大化」「電力供給コスト低減」「再エネ主力電源化」の四つに決まった。その内容は今後の再エネ大量普及を見据えて、遠隔から監視制御可能な需要設備(可制御負荷)を大量に普及させ、それを地域で面的に群制御することとした。しかし、これは大きな社会変革を与えることになり、痛みも伴う業界も出る。そのため、利益主義に走らず、社会貢献を貫く、責任ある事業会社の設立がやはり必要であった。

新たな事業計画を携え、実証事業を見守る有識者の先生方に説明している際に「これは比嘉さんがやるしかないでしょう」と言われ、普段は即答で「ないない」と答えてきたが、提案者としての重責を感じ無言となっていた。帰り道で市職員が「比嘉さん、先ほど断らなかったですね」ときたので「実は考えています」と答えた。

その日、「宮古島のために会社を辞めて、新会社をつくろうかと思うけど」と打ち明けられた妻は間髪入れずに「ん? いつ引っ越すの?」と笑顔で言った。

こうして新たなベンチャー企業は小さな船で荒波の中に出航した。

1995年琉球大工卒。沖縄電力グループの沖縄エネテックに入社。宮古島メガソーラーの導入を手掛ける。宮古島スマートコミュニティ実証に奔走しながら、現在は、ネクステムズや宮古島未来エネルギーの代表を務める。

【新電力】市場価格の高騰 資金繰りを直撃

【業界スクランブル/新電力】

電力スポット市場が揺れている。日本卸電力取引所(JEPX)の前日スポット価格は1月8日渡しシステムプライスで24時間1kW時当たり99.9円、9日渡しの午後6時~7時半の3コマで121円と過去最高の価格を付けた。2020年12月中旬から急激に価格が上昇し、年末年始もシステムプライスが50円、60円台を付けており、まさしく「異常事態」である。

背景には、既に各方面で報道されている通りだが、世界的なLNG不足がある。スポット価格が高騰した12月中旬から、LNGスポット市場のJKM(日本・韓国への持ち届け価格)も急激に価格が上昇し、100万BTU当たり17.25ドルを付けている。筆者も新電力の経営に関わっているが、ここまで厳しい経営環境に置かれた経験はない。前代未聞の市場環境といえよう。一方で、22年より開始される新インバランス制度では、停電コストを踏まえて上限価格は600円(23年までは200円)とされている。理論上は200円、600円まで上昇してもおかしくない。

スポット価格の高騰は、当然新電力の資金繰りを直撃する。調達を卸電力市場に頼る小売事業者の場合、毎日キャッシュアウトが発生するにもかかわらず、電気料金回収までの時間が非常に長い。スポット市場価格高騰局面では、中小規模新電力では財務が急激に悪化し、破産も秒読みとなっている可能性が高い。

現在はインバランスによって当面の事業運転資金を確保しているのだろうが、4月頭にはインバランスを含めた託送料金を支払う必要があり、破産を選択する事業者が多数発生することが予想される。撤退する事業者には需要家保護の責任を伴うものの、経営の選択肢が非常に限られている中で、どこまで需要家保護・社会的責任を果たすことができるのか、大変難しい判断を迫られることになるだろう。

いずれにせよ、今回のスポット価格高騰は日本の電力システムの脆弱さを示し、小売事業者を直撃したものと考えられる。今後の新電力の動向、電力システム改革の方向性については注視したい。(M)

再エネとEVの掛け合わせ 移動限界費用ゼロ社会を創造

【エネルギービジネスのリーダー達】渡部健/REXEV社長

東日本大震災以降の電力不足からエネマネ事業が必要になると見抜くなど、鋭い先見性を持つ。

現在は、再エネとEVを利用し、全国のエネルギーと交通、二つの課題を一挙に解消することを目指す。

わたなべ・けん 2000年早大大学院理工学研究科修了、住友商事入社。海外電力事業を経て、子会社サミットエナジーで発電所の開発業務、電力需給管理業務や小売り営業など幅広く担当。09年エナリスへ入社、常務取締役として、経営企画や新規事業開発などを手掛ける。19年1月REXEVを設立。

太陽光や風力など再生可能エネルギーの最適な運用には蓄電池が必要であり、電気自動車(EV)には再エネの電気が求められている。この二つを掛け合わせたら、スマートシティー実現や分散型エネルギー構築における一つの解になるのでは―。そんなアイデアから設立したのがREXEVだ。

低い自動車の稼働率 動く蓄電池として利用

蓄電池のコスト削減がなかなか進まない中、定置型蓄電池を利用したVPP(仮想発電所)では費用対効果のめどが立たない。そこで、EVの蓄電池に目を付けた。「一般消費者が利用する自動車の稼働率は平均で5〜10%、カーシェアでも20〜30%程度。残りの稼働していない時間帯は搭載する蓄電池を束ねて、VPPの調整用電源に利用すれば良い」と考えた。

さらに今後、再エネが普及すれば、発電コストは限りなくゼロに近づく。その電力を用いてEVでの移動に利用すれば、この限界費用もゼロに近づく。これがREXEVの事業コンセプトだ。

渡部社長がエネルギーに関心を持ったのは大学時代。電力システム工学の研究室に所属し授業を受けて関心を持った。研究室では、電力自由化をテーマに託送制度や安定供給について研究。さらに、大学院でも電力自由化に加え、風力発電の安定化などをテーマに研究に取り組んだ。

就職先は多くの友人や先輩、後輩が大手電力を志望する中、「安定供給を守る側より自由化の下、新たなビジネスを創出し事業化する攻める側に回りたい」と商社を選んだ。そこで、海外の電力事業を経て、自由化開始直後に電力小売り事業に携わり、発電所の運用、営業、需給管理など事業に関連する一通りの業務を経験した。ただ、当時の自由化はまだ大手電力にビジネスで伍していくような環境になく、競争原理を働かせて事業運営したいという理想と現実のギャップに苦しんだ日々だったという。

2009年にエナリスに入社してからは新規事業の立ち上げを担当した。スマートシティーや需要家PPS、自治体新電力の立ち上げのサポート、電力事業のコンサルティング、需給管理の代行などを手掛けた。自由化した市場で競争原理を働かせるには、たくさんの仲間をつくり、実現できることを増やしていく。地道な努力が必要との考えからだった。

そうした中、11年に東日本大震災が発生した。計画停電が実施され、地域全てが停電し病院などへの供給が止まった。初めて電気が足りなくなる事態を目の当たりにした。「これは業界にとって大きなターニングポイントになる。市場全体の電気が不足しコスト高になり、少ない電気を有効活用するビジネスモデルが求められる」。そのようにとっさに思いついたという。

そして震災発生の翌日、当時エナリスの役員であった渡部社長は、自ら手掛けていたPPS事業を即終了し、限られた電力を有効活用するデマンドレスポンス(DR)やVPP、需要家のエネルギーマネジメント事業といったビジネスにかじを切る決断をした。「そのスピード感は今も大きな経験になっている」と振り返る。

EVシェアとエネマネを開始 全国にノウハウ普及拡大へ

現在、REXEVが手掛ける事業は、①神奈川県小田原市を中心としたEVのシェアリング事業、エネルギーマネジメント事業、②自治体や環境志向の高い法人向けにEVのマネジメントプラットフォーム提供事業、③将来的にEVと自動運転を掛け合わせた新たな地域サービス創出―、などだ。

小田原市では20年6月からEVカーシェアサービス「eemo」を開始した。今年度47台のEVを導入し、今後100台の導入を目指す。同サービスでは、カーシェアとエネマネを両立、SOC(充電状態)予測やカーシェア需要予測を行い、EVの電力を有効活用し、BCP対策、電気代削減、CO2削減など、移動手段以外の価値も提供する。「開発が終わり、今後は広くお客さまにサービスを知ってもらう広報活動やマーケティングを行うフェーズに入ってきた」とのことだ。さらに、小田原市で得た構築ノウハウを地方にも広めていき、EVの移動手段とエネルギーリソース(動く蓄電池)としての価値を最大化することでエネルギーと交通の課題を一挙に解決していく日本版ドイツ・シュタットベルケモデルを目指していく。

渡部社長は、新規性のある事業を数多く立ち上げてきた。このことについて「こうしたら世の中が良くなる。そんなアイデアを想像し、実際に創造する。事業立ち上げには両方が欠かせません。二つの『そうぞう』を好んで使っています」と語る。

座右の銘は、吉田松陰の名言「至誠にして動かざるものは、未だこれあらざるなり」。電力システム改革、モビリティーシフト、新型コロナウイルスの感染拡大など、目まぐるしく変わる世の中に、その精神で立ち向かう。

【電力】コストに無知 環境相の不見識

【業界スクランブル/電力】

2020年12月15日の環境大臣定例記者会見でおおむね次のような質疑があった。

記者「再エネ倍増計画は結構ですが、国民負担がついて回ることの仕組みとか環境整備についてきちっとセットで考える必要があると思うのですが」

大臣「まさにコストを度外視はできませんよね。そのコストを下げていくという前に、再エネ、イコール高いという思い込みを変えていきたいと思います。今、100%再エネ導入に進んでいる中で、現実に調達をすると今よりも安くなるケースもあるわけです。私も自宅の契約を100%、(再エネに)変えました。電力料金は下がるんです。いろんな方と話していて、それすら知られていないということに今気づきますね」

大臣の自宅で消費されている電気はおそらく固定価格買い取り制度(FIT)電気に非化石証書を組み合わせたものであろう。FIT電気は火力発電の燃料費相当の回避可能費用で調達できるが、これはFIT電気1kW時当たり15~35円を国民全体に広く薄く付け回しをした結果である。加えて、非化石証書を購入するメリットは、今は「意識高いと褒められる」以上のものはないので、最低価格の1 kW当たり1.3円でほぼ購入できる。

大臣が答えにならない答えをするのは今さら驚かないが、これはいささか深刻だ。FIT電気が比較的安価で調達できるのは、まさに記者が質問した「国民負担が付いて回る」ことの典型例である。付け回しの結果で安く見えるだけであるのに、そのことに全く触れずに聞こえが良い「再エネは安い」だけを強調するのは、知っていて発言しているのであれば不誠実であるし、本心からそう信じているのであれば、勉強不足を指摘せざるを得ない。

世界的に再エネの建設コストは下がっているが、残念ながら日本の再エネは高いままだ。カーボンニュートラル推進を自分のミッションと考えるのであれば、この再エネ建設コストの内外価格差を解消するために何をするのかを語ってほしいところだ。(T)

中国IT大手がEV事業に参入

【ワールドワイド/コラム】

ノルウェーでは新車販売台数の半数を電気自動車(EV)が占め、米テスラの年間生産台数が約50万台まで伸長するなど、世界各国でEVシフトが進み始めている。そうした中、中国のIT大手企業・バイドゥ(百度)は1月11日、EV事業に参入すると発表した。

同社は中国最大手のネット検索エンジンを運営するIT企業。これまでは自動運転技術の開発に乗り出していたが、中国大手の自動車メーカー・浙江吉利控股集団と提携し、次世代のスマートカーを作り上げると宣言している。

中国IT企業のEV参入はこれが一例目ではない。米国にGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)と呼ばれるIT業界の巨人がいるように、中国にもBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)と呼ばれる大手企業がある。そのうち、EC大手のアリババ、SNS大手のテンセントは新興EV企業に多額の出資を行うほか、通信機器大手のファーウェイはEV向けの基幹部品を多数提供している。米テスラの成功を追いかけようと、BATH各社は躍起になってEV投資を推し進めている。

とはいえ、自動車団体の発表によると、2019年の新車販売台数は約2577万台に上るが、そのうち純EVの販売台数は約97万台(対前年比1.2%減)にとどまる。過熱する企業をよそに、市場はEVにそこまでの関心を寄せていないようだ。

そうした中、中国政府も60年までのカーボンニュートラルを宣言するなど、脱炭素政策にこれまで以上に注力していくと予想される。さらなる政府の後援を受けながら巨人たちは低調な中国EV市場を喚起できるのか。注目が集まる。

菅首相50年CN宣言に歓迎の声 洋上風力のコスト減には課題

【ワールドワイド/環境】

昨年10月の菅義偉首相による2050年カーボンニュートラル(CN)目標の表明を受け、経済産業省は12月末に「2050年CNに伴うグリーン成長戦略」を発表した。

50年CNに向けて成長が期待される洋上風力、燃料アンモニア、水素、原子力、自動車・蓄電池、カーボンリサイクルなど14産業分野について、工程表に基づく高い目標(導入量、性能、コスト、CO2削減量など)を設定し、予算、税、金融、規制改革・標準化、国際連携などの政策ツールを総動員して支援するというものである。

本戦略の特色の一つは、50年CNを実現するためのエネルギー政策および、エネルギー需給の見通しを参考値として示した点だ。50年の発電量に占める再生可能エネルギー割合50~60%、洋上風力の30年1000万kW、40年3000~4500kW、30年代半ばの乗用車新車販売の電動車率100%などの数値が提示されている。

EUは50年CNを、中国は60年CNを表明し、1月に誕生したバイデン政権も50年CNを打ち出している。21年には先進7カ国にインド・韓国・豪州を加えたD10(英国)、主要20カ国・地域(G20・イタリア)、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26・英国)と気候変動が主要テーマとなる国際会議が目白押しだ。

バイデン政権も政権発足後100日以内に気候サミットを主催するとしており、菅首相のCN目標はこうした動きを念頭に置いたものだろう。グテーレス国連事務総長は日本の表明を歓迎しているが、50年目標表明だけでは事は済まない。欧米諸国は「日本の50年CN目標を多とするが、それと整合した30年目標の引き上げが必要だ」と迫ってくるだろう。

30年目標の再検討に当たって、成長戦略にある導入量目標が独り歩きすることは危険だ。再エネの中で特筆大書されている洋上風力は高コストで、35年にkW時8~9円というコスト目標があるものの、日本の洋上風力が、風況に恵まれた欧州並みの設備利用率、コスト実現は非常に難しい。コスト減なしに導入量目標のみ実現すれば、電力コストの高騰につながる。

戦略では30年で年額90兆円、50年で190兆円の経済効果が強調されているが、30年に向け家庭用、産業用のエネルギー価格がどの程度上昇するのか、足元の「値札」が明示される必要がある。

有馬 純/東京大学公共政策大学院教授

【コラム/2月15日】電気事業のデジタル化とカスタマーセントリック思考

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

電気事業のデジタル化への対応は、プロダクトやプロセスのみならず、組織、イノベーションマネジメント、価値創造ネットワーク、マネジメント改革、協調の文化、およびカスタマーセントリック思考の様々な観点から論じられなくてはならない。組織、イノベーションマネジメント、価値創造ネットワーク、マネジメント改革と協調の文化については、それぞれ以前のコラム(2018/07/09、2020/10/05、2020/11/09、2020/12/14)で触れたので、今回は、カスタマーセントリック思考について述べてみたい。

電気事業のデジタル化への対応として、カスタマーセントリックの考え方を強化することが、とりわけ重要な課題と考えられる。エネルギー市場自由化による競争激化や電力生産の分散化は、顧客の意識や行動および電力会社との関係を変える。また、デジタル化はこの傾向に拍車をかけている。デジタル取引に慣れた顧客は、顧客体験の期待の高まりから、既存事業者へのロイヤルティは減少していく。電力会社は、顧客の要求に最も相応しい提案を行わなければ選択されない。そのため、企業経営において、カスタマーセントリックの考え方が中心に据えられなくてはならない。

カスタマーセントリック経営では、顧客に感動体験を提供することを重視する。顧客が感動体験を得るプロダクトに関しての企業とのコンタクトポイントは、プロダクトの購入決定前と決定後に分けられる。購入決定前の段階では、コンタクトポイトは、デジタル化により大幅に増やすことができる。伝統的なコミュニケーションのチャネルは、店頭、新聞雑誌、ダイレクトマーケッティング、スポンサリングなどであるが、近年、ウェブサイト、オンラインマーケッティング、ソーシャルネットワークなどのデジタルチャネルも増大している。とくに、潜在顧客に対しては、ますますデジタルチャネルを通じてコンタクトされるようになってきている。とりわけ、コンテンツマーケッティングやレコメンデーションは非常に重要な意味を持つようになってきている。コンタクトポイントの数が増えるにつれて、コミュニケーションの内容の一貫性は大変重要となる。また、顧客の情報行動も変化している。顧客は、購入決定前に、選好するデジタルチャネル(カスタマーレビュー、比較ポータルなど)を通じてより良い情報が入手可能となっている。購入決定前のマーケティングに関しては、プル戦略とプッシュ戦略の組み合わせが重要と考えられている。

購入決定後は、なによりも、プロダクトの約束および顧客の購入前の期待が満たされなくてはならないが、長期的に顧客を繋ぎとめ、その満足度を維持するためには、顧客との持続的で積極的なインタラクションと顧客サポートや保守などのサービスの質が重要である。満足している顧客は、当該プロダクトを推薦し、レビューサイトでの評価を通じて、企業にフィードバックを行うインセンティブを有する。企業は、デジタルチャネルを通じて、顧客に新たなデジタルプロダクトを提案することが可能である。例えば、セルフサービスによる請求書のデータに基づく簡単なゲーミフィケ―ションにより、電力会社は顧客に対してスマートホームソリューションの長所を示すことが可能である。

また、電力会社は、顧客についての知識を継続的に拡大していかなくてはならない。電力会社は、ソーシャルネットワークでなどで、顧客についての知識を深めるほど、その顧客に特化した対応が可能になる。さらに、電力会社は、顧客行動分析を通じて、早期にどの顧客が他社にスイッチングしそうか把握でき、早めに対応を図ることが可能である。デジタル戦略における顧客とのインターフェイスは、一貫性のある、顧客に固有なコミュニケーションや情報、サービス品質、ユーザビリティなどに関して、最適化されなくてはならない。

本コラムでは、ドイツを事例に、電気事業のデジタル化への対応を多面的に述べてきた(2018/07/09、2020/10/05、2020/11/09、2020/12/14、2021/02/15)。これまで紹介してきたドイツにおける電気事業のデジタル化への対応や議論は、わが国における今後の経営を考える上で重要な情報を提供しているといえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

10カ年目標を更新したフランス 原発と再エネのバランスが鍵

【ワールドワイド/経営】

脱炭素化が世界的な潮流となっている昨今、フランスでも気候変動対策が一層強化されている。2019年6月には、それまでの50年目標だった「温室効果ガス(GHG)排出量を1990年比で75%削減」が、「カーボンニュートラル達成」へと引き上げられた。7割を超える原子力発電比率を35年までに50%に低減し、再生可能エネルギーを拡大する方針も示されている。

このような長期目標実現を視野に入れた10年間のエネルギー計画が「エネルギー多年度計画」(PPE)である。20年4月には、19~23年および24~28年を対象とした改訂版が発表された。

PPEでは、減原子力・再エネ拡大の方向性が明確に見て取れる。発電電力量に占める原子力および再エネのシェアは、23年がそれぞれ67%および27%、28年がそれぞれ59~61%および33~36%に増加する方針。再エネ出力は19年末時点の約5360万kWから、23年に7350万kW、28年に1億100万~1億1300万kWと、10年以内でほぼ倍増を見込んでいる。中でも大きな期待が寄せられるのは洋上風力で、進行中の7件のプロジェクトの大半は、反対派による訴訟で運開が遅れているが、23年に240万kW、28年に520万~620万kWの出力を目指している。

原子力については、35年までに58基中14基を閉鎖する方針が示された。これに基づき、20年2月と6月にはフェッセンハイム原子力発電所の2基が閉鎖され、その後は25~26年および27~28年に2基ずつ、そして29~35年に8基が閉鎖予定となっている。さらにこれまで触れていなかった新設についても言及があり、欧州加圧水型炉(EPR)の新設について、建設中のフラマンビル原子力発電所3号機の運開に合わせ、21年中ごろに決定するとされた。

しかし、フランスにおける新設の状況は順調とは言えず、同機は度重なる運開遅延に見舞われており、PPE発表後にもさらなる遅延が決定。新設決定も23年へと見送られ、原子力産業の先行きが見通せない状況が当分続く。  また、将来的な原子力発電比率維持のために必要とされるのが、事業者であるフランス電力(EDF)の財務体質改善だ。再エネ重視のPPEと呼応するように、EDFの組織再編計画の交渉が、欧州委員会とフランス政府の間で行われている(21年1月現在)。再エネ導入拡大と原子力産業維持とのバランスをいかに図るか、引き続き注目される。

西島恵美/海外電力調査会調査第一部

【マーケット情報/2月12日】原油続伸、需給逼迫観さらに強まる

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場は、主要指標が軒並み続伸。需給逼迫観がさらに強まり、価格に上方圧力を加えた。

米国の週間原油在庫統計は、製油所の稼働率上昇を背景に前週から日量660万バレル減少。4週連続の減少を示した。また、米エネルギー省(EIA)は、今年の国内産油量予測を下方修正。加えて、来年中も生産量がパンデミック前の水準に戻ることはないとの見方を示した。

米新政権は、イランに対する経済制裁を直ちに解除することはないと表明。イラン産原油の市場復帰は依然見通しが立たない状況だ。供給が引き続き逼迫するとの予測が買いを強めた。

一方、米国では新型コロナウイルスのワクチン調達を急いでおり、7月にはほぼ全人口である3億人にワクチン供給が行き渡る見込み。また、OECDの景気先行指数(CLI)で主な加盟国である米国、日本、ドイツやフランスなどの欧州諸国で景気の回復がみられ、経済回復にともなう石油需要の強まりへ、期待感が高まった。

【2月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=59.47ドル(前週比2.62ドル高)、ブレント先物(ICE)=62.43ドル(前週比3.09ドル安)、オマーン先物(DME)=59.86ドル(前週比0.90ドル高)、ドバイ現物(Argus)=60.50ドル(前週比1.68ドル高)

上流開発を推進するノルウェー フロンティア探鉱に強い期待

【ワールドワイド/コラム】

欧州では上流開発に逆風が吹いており、デンマーク、フランスなどが新規探鉱を規制する措置を発表した。一方、西欧最大の石油・天然ガス生産国であるノルウェーは2020年11月、第25次ライセンスラウンドの実施を発表した。公開された136鉱区のうち、125鉱区は北極に面したバレンツ海にあり、同国のフロンティア探鉱への意欲が読み取れる。

ノルウェー政府は、新型コロナウイルスの流行と油価の下落により、新規プロジェクトへの投資が落ち込んだことを受けて20年6月に、設備投資の一部について特別税からの控除を認めるなどの税制優遇策を行った。この税控除の対象は22年末までに政府が受領した開発・操業計画になるため、同年には駆け込みで最大30件弱の最終投資決定(FID)がなされるという見方もある。

 またこうした政策に加え、ノルウェーには他国と比較して探鉱開発の強みが三つ挙げられる。

一つ目は探鉱ポテンシャルの高い点だ。同国石油管理局(NPD)によると、ノルウェー大陸棚にある回収可能な資源のうち、半分以上はまだ生産されていない。未開発資源の多くは、今回のライセンスラウンドの中心となったバレンツ海にあるとみられている。

二つ目は、温室効果ガス排出量に配慮した開発が比較的容易な環境である点だ。ノルウェーでは風力発電やCCS(CO2回収・貯留)と組み合わせた資源開発も盛んで、北海のスノーレ油田ではプラットフォームに電力を供給する世界初の浮体式洋上風力発電所が建設中で、生産現場での電化も進んでいる。23年には生産量の約半分を「オール電化」のプロジェクトが占めるとみられている。さらにCCSのポテンシャルも高く、20年12月に同国政府は大規模CCSプロジェクトに142億クローネ(約16・8億米ドル)の支援を正式に決定した。

三つ目は、生産コストが低く価格競争力がある点だ。現在生産中の油ガス田の多くは、ブレント価格が1バレル当たり20ドルを下回っても操業可能といわれている。

 しかし、バレンツ海開発には課題も多い。まず同海域における探鉱はこれまで厳しい結果が続いている。さらに自然環境が厳しく既存インフラも少ないため、成熟地域と比べると開発・生産コストやカーボンフットプリントの面で劣ると想定されるのが最大の理由だ。とはいえ洋上風力やCCSを組み合わせたノルウェーの持続可能な開発事例は、他国にも参考となり得る。今後の展望が注目される。

川田眞子/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部