再エネ精密制御に不可欠 パワー半導体の活用追求を

【業界紙の目】津田建二/セミコンダクタポータル 編集長

変動性再生可能エネルギーを電力網に組み込むためには、実は半導体が欠かせない。

半導体で変動をリルタイムで検知、ストレージし、自動で平準化するシステムの構築が必須だ。

再生可能エネルギーではソーラーや風力、水力発電などが使われているが、火力や原子力と比べるとその割合は18%とまだ少ない。環境先進国のドイツは35.3%、英国は33.5%であり、中国でさえ25.5%もある(資源エネルギー庁の「日本のエネルギー2021年度版『エネルギーの今を知る10の質門』」より)。ソーラーや風力は変動が大きいという欠点があるが、燃料コストは無料であり、資源豊富な国の政策に左右される心配はない。

変動の大きさが欠点だとは広く理解されているが、それを精密に制御できるのは半導体であることはあまり知られていない。パワー半導体を使えば、正確な50‌Hzあるいは60‌Hzの電力を作り出せるし、損失の少ない直流送電も容易に実現できる。特に高電圧に強いSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒素ガリウム)は、再エネの精密制御にぴったりのパワー半導体であり、送電の損失減に資する。

既存の日本の送電網では、再エネから50‌Hzあるいは60‌Hzにピタリと合う交流を作り出す必要がある。そうしなければ電力網の6600Ⅴなどの交流架線に戻せないからだ。戻す時にはもちろん、交流と同じタイミングの位相で載せる必要がある。周波数がずれてしまえば大電力の振幅が拡大されてしまい、逆潮流を起こし停電に至る恐れが出てくる。だから50‌Hz/60‌Hzといえども位相のズレを誤差範囲以内まで精密に制御しなければならない。

電圧の精緻な制御の肝 パルス幅を変える技術

電力関係者には釈迦に説法であるが、簡単にパワーエレクトロニクスを使って交流電力を作り出すPWM(パルス幅変調)を紹介しよう。PWMとはパルスの幅を変えることで平均交流電圧を変化させる技術で、パルスの幅が広い時は高い電圧、幅が狭い時は低い電圧を作り出す。より厳密に言うと、パルスのデューティ比(1周期におけるオン/オフの比)を大きくすると高い電圧、小さくすると低い電圧を作り出すことができ、連続的にデューティ比を変えれば、低い電圧と高い電圧を繰り返す正弦波を作ることができる。

パルス幅あるいはデューティ比を変えるのはマイコン(マイクロコントローラ)からの命令である。マイコンはデジタル信号しか出さないが、PWM制御された電力波形を出力するのはパワー半導体である。

では、デジタルのマイコンからの1あるいは0だけのパルス出力でどうやってパルスの幅を変えるのか。そのためにはより細かいパルス幅が必要だ。

例えば1µs(100万分の1秒)の単位パルスを1000個出力すると1ms(1000分の1秒)のパルス幅になり、10個では10‌µsの幅になる。つまりデジタルで細かいパルスを作り出せる回路があれば、マイコンからの命令で出力パルスの幅を変え、精密に制御することができる。

パワー半導体はマイコンからの指令にもついていけるような高速動作が求められる。ここでパワー半導体としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラー半導体)ではなく、SiCやGaNなどを使ったMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果半導体)を使えば、より高速のスイッチングパワーデバイスができる。

蓄電や長距離送電でも 活用場面広がる

再エネから生まれた電力を50‌Hzないし60‌Hzの高電圧交流に変換することで、電力網の架線に電力を送ることができる。電圧が高いところから低いところに電流は流れるため、必ず高電圧に上げる必要がある。これも半導体を使って昇圧する。

電力網の架線に送った電力を平準化するためには、再エネだけでなく、蓄電池からの電力を夜間などに供給し補うことが必要になる。この蓄電池からのグリッドインテグレーションにもパワー半導体やマイコンが必要になる。直流の蓄電池を交流、それも正確な50‌Hzないし60‌Hzの交流に変えなければならないからだ。

半導体は再エネ大量導入時代に欠かせない

今後再エネの柱として洋上風力が期待されているが、送電距離100km以上の長距離電力輸送には直流送電が欠かせない。交流は正負の電力を繰り返すロスが大きいが、直流は一方向に進むだけなので少ない。

例えば国土が広いブラジルでは、北部の水力発電所から南部のサンパウロやリオデジャネイロなどの都会まで数千kmに渡る直流送電が使われている。直流送電は発電された交流電力を直流に変換して電力網へ供給するが、その変換にも半導体が使われる。

大電力の分野では少しのロスも許されず、交流から直流の変換にも半導体を使って効率を高める工夫が求められる。また、送電の終点では再び50‌Hz/60‌Hzの交流に戻さなければならない。交流から直流、直流から交流へのいずれの場合も、パワー半導体を使って変換する必要がある。

ではどのような半導体があるのか。簡単におさらいすると、パワー半導体では小電力用途ならパワーMOSFETで、電動工具や掃除機、冷蔵庫などの白物家電の効率を上げる。中電力となるとIGBTを使い、大電力だとサイリスタが使われている。なお、サイリスタはオン・オフ動作の回路がやや複雑になるが、ここにSiCやGaNなどの化合物半導体を使えば、回路を簡単にできる上に効率をさらに上げることができるようになる。

もちろんパワー半導体だけではなく、マイコンでデジタル制御も可能になってきたため、遠隔地や本社からの制御もリアルタイムで出来るようになる。

再エネの変動性という欠点を半導体が救うことになれば、カーボンニュートラルに向け化石燃料の削減に大きく寄与する。もっと多くの種類、多くの量の半導体の活用で効率を上げ、再エネ主力電源化へとシフトすることは、ハイテクニッポン再生への道にもつながる。脱炭素の原動力はハイテクであり、その中核となる半導体のさらなる活用が今後期待される。

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猛暑で東京は厳しい需給 際立つ太陽光の存在感

梅雨明けの知らせもない7月18日、東京電力パワーグリッド(PG)エリアでは、猛暑による冷房需要の高まりで午後2時台に最大電力が5525万kWとなり、早くも今夏の最大を記録した。

猛暑による厳しい需給は、前週10日から続いていた。東電PGは、11、12、18日に厳気象対応の「電源Ⅰ」(約71万kW)を発動したのをはじめ、11、18日には「電源Ⅱ」による火力発電所の増出力運転、10~19日には夏季の追加公募電源(58万1000kW)の市場供出など、あらゆる需給対策を実施した。特に暑さが厳しかった18日は、夕方から夜にかけて小売り各社が家庭の需要家に向けて節電を要請。需給両面の対策で乗り切った形だ。

こうした中、太陽光発電の存在感はますます増している。18日の需要ピークだった午後2時台には1040万kWの太陽光が稼働し、供給力の19%を賄っていたという。夏の需給については、多くの電力業界関係者が楽観視するのもうなずける。

供給力不足の影響がより深刻に出るのは、需要ピークに太陽光が頼みにならない冬。電力危機を繰り返さないための抜本的な供給力対策が急がれる。

LP輸入価格の下落続く 家庭用は相変わらず上昇へ

LPガス輸入価格の下落が続いている。指標となるサウジアラビアのCP(契約価格)は7月分がプロパン400ドルと、今年最高値の2月分(プロパン790ドル)から約半分にまで下がった。3年前の2020年度の水準である。

「北半球の不需要期に加え、米国産カーゴの堅調な輸出、サウジでの石化プラントのトラブルによる輸出増(原料リスク減少)により、供給過多の環境となったことが下押し要因となり相場を押し下げた」。元売り最大手のアストモスエネルギーは、こう分析する。

調達価格の下落傾向にもかかわらず上昇を続けているのが、LPガスの末端価格だ。石油情報センターの調べによると、家庭用10㎥のモニター価格は8936円と前年同月比364円高。円安要因はあるにせよ、卸売10㎥モニター価格の同45円高に比べると、上げ幅の大きさが目立つ。

「エネルギーや食品などあらゆる価格が値上げ傾向の中で、あえて値下げする理由がない」(四国地方の販売業者)。上がっても下がらないLPガス価格の特性はいつになったら変わるのか。

間近に迫る処理水の海洋放出 国際的な「情報戦」に備えよ

【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 論説副委員長

処理水の海洋放出の実行には、国際社会からの理解の獲得が欠かせない。

国際原子力機関(IAEA)の報告書を踏まえ、国内外に対する「情報戦」を展開すべきだ。

岸田文雄首相は7月初旬、IAEAのグロッシ事務局長と会談し、処理水の海洋放出計画に対する評価を盛り込んだ包括報告書を受け取った。IAEAは報告書で「海洋放出は国際的な安全基準に合致している。環境への影響は無視できる水準だ」と結論付け、放出の妥当性を認めた。

グロッシ事務局長との会談後、岸田首相は「科学的根拠に基づき、高い透明性を持って国内外に丁寧に説明していきたい」と語った。日本政府としては報告書の内容を国内外に発信して安全性を説明しながら、当初予定通りに今夏にも放出を開始する方針だ。

処理水とは汚染水を多核種除去装置(ALPS=アルプス)で浄化処理し、トリチウム(三重水素)以外の放射性物質を取り除いた水のことだ。東電の計画によると、その処理水を大量の海水で100倍以上に薄め、トリチウム濃度を国の排出基準の40分の1未満とした上で、沖合1kmの海底トンネルの先から放出し、さらに海で希釈廃棄する。

IAEAが今回の報告書で特に重視したのが、海洋放出設備の事故防止対策の評価だった。東電が建設したこの設備は、基準値を超える濃度の処理水が海洋に放出されないようにするため、異常を検知したら10秒以内に放出を自動的に中止する緊急遮断弁を2カ所に設置したほか、希釈用の海水ポンプを3基置いたりするなど、多重の防護体制としたのが特徴だ。大地震などが発生した場合でも、想定外の海洋放出が起きないような対策を講じたものだ。

しかし、処理水の海洋放出に対する安全性の評価は担保されても、国際社会の理解を獲得するための活動はこれからがスタートである。グロッシ事務局長は記者会見で「包括的、中立的、科学的な評価をすることが我々の使命であり、その評価はできたと確信している」と強調したが、そうした安全性の評価を国際社会に広げていくのは、日本政府に課せられた重い役割である。これを実現することが、地元の漁連などが懸念する風評を払拭することにもつながると銘記すべきだ。

ALPS処理水の貯蔵タンクは1000基を超える

外交問題化する恐れも 韓国のデマには即対応

実際、中国は今回のIAEA報告書に「放出を正当化するものではない」と異議を唱えている。同国外務省は「報告書は評価に関わった専門家すべての意見を反映しておらず、結論も専門家が一致して認めたものではない」との報道官談話を公表した。中国は海洋放出だけでなく、大気放出や地層注入などさまざまな方法も検討すべきだとする立場だ。

その上で「日本が放出を強行するなら、すべての結果を受け入れなければならない」とも指摘し、日本産食品への禁輸措置を強めるなどの対抗手段に出ることを示唆した。中国はこれまでも「太平洋は日本が核汚染水を垂れ流す下水道ではない」などと強い調子で海洋放出に反対する姿勢を示しており、海洋放出が外交問題に発展する恐れもある。

韓国も複雑な立場だ。日本との関係改善を進める尹錫悦政権は「IAEAの報告書を尊重する」としているが、野党は海洋放出を容認する尹政権への批判を強めているからだ。韓国内では「処理水の放出で海水を原料とする塩が汚染される」との出所不明の情報が出回り、スーパーなどで塩を買い占める動きも起きた。店頭での塩不足に対応するため、韓国政府が備蓄した塩を市場に放出する騒動に発展するなど、大きな混乱が生じている。

さらに韓国では、一部のインターネットメディアが「日本はIAEAに100万ユーロ(約1億5000万円)以上を献金し、安全性を評価する報告書を書かせた」とのデマも流した。これに対し、日本の外務省は「事実無根で無責任な偽情報に強く抗議する」との声明を発表した。韓国で広がったデマに対し、日本政府がただちに「偽情報」と断じて抗議したのは評価したい。

政治利用される廃炉作業 「伝わる」情報発信を

日本としては、今後も国際的な緊張状態が続くことを想定しておくべきだ。そのためにも外交を通じた「情報戦」を仕掛けることも不可欠だ。例えば福島第一原発のトリチウムの年間排出量は、事故前の管理目標と同じ22兆ベクレル未満を予定している。これは海外の原発と比較しても低い水準にある。経済産業省によると、中国では秦山第三原発が年間約143兆ベクレルと福島第一原発の6.5倍、陽江原発は5倍、紅沿河原発で4倍の排出量がある。また、韓国でも月城原発が3.2倍、古里原発で2.2倍のトリチウムを排出している。こうした事実を分かりやすく発信し、健康被害がないことを訴える取り組みが重要だ。

トリチウムは技術的に除去が難しいが、体内で蓄積されることなく、排出される仕組みとなっている。東京電力はヒラメをトリチウム水で飼育し、その影響を調査するなどしており、そうした情報も積極的に提供してほしい。何よりも海洋放出は基準値以下に大幅に薄めたトリチウム水を、さらに海で薄めることにしているが、意外にそうした2段階希釈などもあまり知られていない。「伝える」のではなく、「伝わる」情報発信を考えるべきだ。

大きな節目を迎えた海洋放出だが、それは福島第一原発の長い廃炉過程の一歩にすぎない。海洋放出にお墨付きを与えたIAEAは現地に事務所を設置し、数十年にわたってモニタリングを継続するが、さらに今後は溶融燃料(デブリ)の取り出しという難関作業が控える。大量のデブリをどのように取り出し、どこに廃棄するのかという根本的な問題も先送りされたままだ。

海洋放出を巡る問題で明白になったのは、こうした廃炉に向けた動きを政治的に利用しようとする勢力がある現実だ。それは国内外に存在する。そうした動きに対抗するためにも正しい情報発信が必須だが、発信する東電や政府に対する信頼醸成も求められていることを忘れてはならない。

カルテルで業務改善命令 「不服」にじむ中部の反応

大手電力会社が法人向けの電力販売でカルテルを結んでいた問題を巡り、経産省は7月14日、関西電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジーの5社に対し「業務改善命令」を出した。

処分内容を見ると、とりわけ関西の行為について「悪質性」を認定したのが特徴だ。具体的には、中部、中国、九州が「かかる行為の不健全性、故意性、組織性・反復継続性も認められる」とされた中で、関西に対しては「かかる行為の悪質性、故意性、組織性・計画性が認められる」と明記。これまでも、原発立地地域からの多額の金品受領問題や顧客情報の不正閲覧問題で業務改善命令を受けており、これで三度目になる。

競争健全化へ厳しい姿勢で対処する経産省

興味深いのは中部の反応だ。関西、中国、九州が「全社一丸となって、再発防止策の徹底と組織風土改革に全力で取り組む」「多大なご心配・ご迷惑をお掛けしましたことを深くおわび」などと反省の弁を述べる中で、中部だけが「業務改善命令の内容を精査し、適切に対応」と実に簡素なコメント。公正取引委員会によるカルテル処分を巡って裁判で争う構えを見せていることから、カルテル認定を不服とする同社のスタンスがにじみ出ている。

【覆面ホンネ座談会】経産・環境両省の人事考察 政策協調路線の継続焦点に

テーマ:経産省・環境省の幹部人事

エネルギーを巡るさまざまな課題が噴出した中、昨夏の人事では経済産業省の手堅い守りの陣、そして経産省と環境省の協調路線へのシフトが際立った。それから1年。今夏の人事はどう読み解けばよいのか。

〈出席者〉 A 経済産業省OB B 霞が関事情通 C マスコミ

―また今年も霞が関人事の季節到来。7月上旬に発令があった。まず経産省に関する感想から聞きたい。

A 概ね予想通りだった。経産人事を予想する上でポイントは三つ。①資源エネルギー庁と通商政策局には経験者を多く配置、②「動」より「静」の人を上のポストに置く守りのシフト、③官邸ポストを見据えて内閣府などのポストをどう取るか―。補足すると①について、エネルギーでは特に原子力で不用意な対応を防ぐため。通商政策では経験豊富な重要国を相手に交渉できる人材が必要という理由だ。②は、最近の経産省はアイデアマン・アグレッシブな人より調整型・慎重な人を重視しており、特に足元の不祥事続きではなおさらだ。ポイントを押さえてパズルを組み合わせれば、答えは見えてくる。また、経産省は年次の逆転も気にしない。

B 岸田政権下では政治の影響が少ないことも特徴だ。安倍、菅政権では官邸が人事をひっくり返すことがあったが、現在は各省庁の考えが基本的にはそのまま実現している。

C 西村康稔経産相が6月27日の会見で人事の要点を説明したが、分かりやすかった。政策面で「通商政策、GX(グリーントランスフォーメーション)推進法の制度設計、半導体、蓄電池戦略といったさまざまな重要施策の継続性」、さらには「大阪・関西万博の開催準備、先般成立した知財関連法案、そして経済安保法の非公開特許などに万全を期す」と幅広く課題を掲げて、留任や登用の説明をしていた。経産省OBで、同年次の幹部の顔が見えている故といえる。

経験者を手堅く配置 岸田政権で政策踏襲へ

―飯田祐二氏(1988年)が次官、保坂伸氏(87年)が経済産業審議官となった。

A 飯田氏の後任の次官は、87年組ではなく、同期で官房長の藤木俊光氏(88年)が定説。その次が経済産業政策局長の山下隆一氏(89年)といったラインだ。

B 他方、省内では今回、保坂次官を予想する声も多かったと思う。

C 保坂氏は資源エネルギー庁長官として原子力の立て直しを図り、官邸などとの調整にも汗をかきGX関連法成立につなげた。功績が評価され、次官級ポストの審議官に格上げとなった。

A 藤木氏は次官待ちポストにいるが、エネ庁の経験が豊富というわけではない。そこで内閣府に出向していた村瀬佳史氏(90年)をエネ庁長官として戻した。村瀬氏は電力・ガス事業部政策課長、電ガ部長の経験がある。

B 私は村瀬氏が引き続き内閣府に残るかと思ったが、本人の希望も含めてエネ庁に戻したのではないかな。内閣府の経済財政諮問会議に関わるポストをどう取るか、などの事情との兼ね合いもあっただろう。

C 電ガ部長からエネ庁次長となった松山泰浩氏(92年)も経験豊富だ。またエネ庁長官、次官候補で産業技術環境局長の畠山陽二郎氏(92年)は今回ステイだった。

A 今回の布陣を見ても、政策変更の動きがあまりないことが分かる。岸田政権としても、今の路線を踏襲するということだ。

B 他方、剛腕な南亮氏(90年)が総括審議官に上がったことは印象的だ。

A 資源のスペシャリストとしての処遇だと思う。総括審議官は官房長とペアで仕事をする。総括審議官は政策検討を、官房長は政策の取りまとめなど調整役で、藤木氏とのコンビでうまく回ると考えたのでは。

C 南氏の後任の政策立案総括審議官は龍崎孝嗣氏(93年)。小泉進次郎氏が環境相時代、温暖化ガスのNDC(国別目標)議論などで暴れた際、抑え役として活躍した。

次官以下トップが動き組織改編も行った経産省。片や次官留任の環境省との関係は……

大掛かりなエネ庁組織改編 部署名から化石燃料カラー消える

A LGBT(性的少数者)関係の不適切発言で首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏(91年)は通商政策局担当審議官で復活。いろいろ言われると思うが、西村経産相の判断だと説明している。

B 荒井氏の報道があって早々に、首相秘書官の嶋田隆氏(82年)が更迭を決定したと聞く。同じ経産官僚として厳しく対処した。

C 荒井氏はこれまで通商政策の経験は少ないし、前のポストより格は落ちる。だが、能力があり、指示されたことに一生懸命取り組む姿勢が買われたのだろう。

―そして注目はエネ庁の組織改編。GXを実行に移す上で、省エネルギー・新エネルギー部、資源・燃料部の課室体制を大きく見直した。

B こちらも西村経産相が会見で趣旨を説明していた。続けて、自身が85年にエネ庁石油部計画課に配属されたことに触れ、「石油も天然ガスも石炭という名前も、エネ庁、経産省からは課の名前としてはなくなる。時代の大きな変化を感じている」と感慨を持って語っていた。外部から長年エネルギー政策を見てきた人にとっても、同じような感慨があったのではないか。

A かつての鉄鋼課や繊維課同様、化石燃料を冠した課が消えるのも時代の必然。西村経産相も役人出身だけあって、思い入れを持って語っていたね。

―新生省新部、資燃部の印象は?

A 特に資燃部の変更が大きく、資源開発課、燃料供給基盤整備課、燃料環境適合利用推進課などさまざまなポストを新設。省新部にも水素・アンモニア課を作った。期待されるメンバーを各所から集めたのではないか。

B なお、資燃部長の定光裕樹氏(92年)は動かなかった。総入れ替えはリスク管理の面で望ましくないからね。ロシア・ウクライナ有事も経験した定光氏の存在感は大きい。

C 電力の不正閲覧問題や、電力システム改革で見えてきた課題の解決という重要局面での電ガ部長に久米孝氏(94年)というのも納得の人選。課長以下も経験者が多い。

顧客とガスメーターのデータを融合 LPガス業界向けに業務改善支える

【愛知時計電機/アイネット】

ガスメーターメーカーの愛知時計電機と、ITによる販売管理を手掛けるアイネットがシステム分野で連携し、LPガス業界向けに、主に閉開栓の業務を効率化する新たなサービスが誕生し、注目されている。

愛知時計電機はガスデータの配信サービス「アイチクラウド」を、アイネットは「プロパネット」と呼ぶLPガス販売・顧客管理システムを、それぞれ展開している。このたび、両社のシステムをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)によって結び付け、ガス事業者が抱える課題を解決していく。

サービスのイメージ図

これまでも、アイチクラウドを通じ遠隔で閉開栓する作業は可能だった。ただアイチクラウドには「個人情報」といった属性の情報がなく、閉開栓の作業の際はエンドユーザーを特定するための確認作業が必要だった。一方、販売管理システムであるプロパネットは、顧客情報・属性がひもづいている。

ではこの連携によって、どのような業務が可能になるのか。

「(エンドユーザーの)名前、住所に基づいた情報で予約登録した日時に自動で閉開栓する業務が可能になる。例えば春の引っ越しシーズンで、あらかじめ退去の日時が分かっていれば、閉栓予約を登録するだけで退去時の立ち合いも不要だ」(愛知時計電機営業本部IoT推進部の渡辺真司副部長)。

料金不払い時に関わる閉開栓の業務も軽減できる。

事業者の悩みを解決 集中監視とは違うサービス

アイネットは、データセンターを自社で運用している会社で、「LPガス向けの販売管理システムをクラウド型で構築した日本で最初の企業。また、請求書などのプリント業務や加工業務の機能も保有しており、(請求書の)発行作業などワンストップで手掛けていることが当社の特徴」(アイネットSS本部第1SS事業部ホームライフエネルギーサービス部の村田栄一部長)。小規模からの導入も可能で、自動検針の導入で「検針票の送付方法」や人員不足などで「業務効率化」に頭を悩ませている事業者にとってはありがたいサービスとなりそうだ。

このサービスは、一見すると、LPガス業界の保安業務を高度化する「集中監視」にも似ているが、保安に資する機能ではないことに留意が必要で、保安には別のシステムをAPI連携する必要があるという。

【マーケット情報/8月4日】原油上昇、需給逼迫感強まる

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減と需要増の観測が広がったことで、買いが優勢となった。

サウジアラビアが9月も、日量100万バレルの自主的追加減産を継続すると発表。また、必要に応じて減産を拡大すると示唆した。加えて、OPECプラスの合同閣僚監視委員会(JMMC)は、現行の減産計画を維持することを推奨した。

米国の原油在庫は、輸出増で、1月以来の最低水準を記録。さらに、下落幅は過去最高となった。

需要面では、米ゴールドマンサックスが、米国およびインドにおける消費増加を背景に、今年の石油需要予測に上昇修正を加えた。また、今年後半は、需要に対して供給が一段と不足すると指摘した。

一方、ロシアは減産縮小の見通し。ただ、油価の下方圧力にはならなかった。


【8月4日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=82.82ドル(前週比2.24ドル高)、ブレント先物(ICE)=86.24ドル(前週比1.25ドル高)、オマーン先物(DME)=87.13ドル(前週比1.87ドル高)、ドバイ現物(Argus)=86.87ドル(前週比1.90ドル高)

【イニシャルニュース 】燃料油とLPが稼ぎ頭 地域新電力は危機に

燃料油とLPが稼ぎ頭  地域新電力は危機に

海沿いの某地方都市で、燃料油やLPガスなどエネルギー販売事業を手掛けるK社。2016年の電力小売り全面自由化を受け、カーボンニュートラルを目指す地元自治体と共同で地域新電力X社を発足させた。太陽光や水力など地域の再エネ資源を活用した自前電源をベースに、日本卸電力取引所(JEPX)からも調達。事業開始から数年を経て、経営が軌道に乗り始めた矢先、JEPXのスポット高騰に見舞われた。

「ご多分に漏れず、X社も大赤字に転落し、存続の危機に立たされた」。こう話すのは、K社代表のZ氏。「一時は、大手エネルギー事業者系に売却する案も出たが、自治体側が地域新電力を何とか存続させたいと考えており、当社も支援を強化する形で何とか踏ん張っている」

幸い、K社では現在燃料油、LPガスの両事業が好調。新型コロナ禍の収束や、燃料油高騰に対する政府の激変緩和措置も奏功し、販売量、収益ともに安定した状態が続いているという。

「X社を立ち上げた当時の見立てでは、脱炭素社会の実現に向けて燃料油やLPガス販売は次第に縮小し、いずれはX社が地域のエネ供給で主役の座を担っていくと考えていた。ところが、現状では燃料油とLPガスのもうけで新電力を支える構図になっている。しかもX社の先行きは依然暗雲。脱炭素とは真逆の方向なので、これでいいのかという思いは正直ある」(Z氏)

こうした構図は他のエリアでも見られており、地域の再エネ資源を活用しながら、脱炭素化や経済活性化に結び付けていく事業の難しさが浮き彫りになっている。

燃料油販売は今や安定収益に⁉

北電の内外無差別絶賛  ネット媒体Nへの違和感

大手電力会社による内外無差別な卸取引を巡る議論が過熱する中、大手経済紙系のネット媒体「N」が「北電の群を抜く内外無差別対応、卸電力取引を社内外問わずブローカーに一本化」―のタイトルで配信した記事が、業界人の間で物議を醸している。

電力・ガス取引監視等委員会は、公平な電力市場競争環境を担保するために、電源の大部分を保有する大手電力各社に対し、自社の発電部門と小売部門間の取引と、社外の新電力などとの取引を公平に扱うよう求めている。

これに対応するため、各社は相対入札を実施するなど各様の取り組みで対応しているが、取引の透明性を確保するため第三者であるブローカーを介した卸売りの手法を選択したのが北電だ。

実際、6月27日に開催された電取委の制度設計専門会合でも、北電と沖縄電力の2社だけが23年度の相対契約について、「内外無差別な卸売りが担保されている」との評価を受けている。

だが、この記事に対し、電力市場に詳しいX氏は「まるで内外無差別であればあとはどうでもいいと言わんばかりだ」と厳しく批判する。記事の通り発電収益が最大化されているのであれば、それは発電部門が事業支配力を行使していることを意味し、独占禁止法抵触の可能性を指摘されてもおかしくないという。

北電社員の中からは、同記事中の「小売事業のことは小売部門が考える」との発言について、身内の小売部門を突き放すようなことを、胸を張って社外に言う必要があるのかと批判的な声も聞こえる。

「自社の小売りの競争力を削ぐような取り組みがまかり通るのであれば、いっそ発販分離してしまった方がいい」(X氏)。内外無差別への対応から、発販分離が一気に進んでもおかしくない。

話題の洋上公募第2戦  大手電力系が火花

再エネ海域利用法に基づき政府が実施する洋上風力公募が6月末に締め切られた。今回は応札企業に対し「かん口令」が敷かれているが、各海域を巡る情勢が少しずつ見えてきた。第一ラウンドを総取りした三菱商事以外の商社勢や外資の参加が目立つ中、注目されるのは大手電力系のR社とJ社の争いだ。両陣営とも、対象の4地点(秋田県八峰町・能代市沖、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖、新潟県村上市・胎内市沖、長崎県西海市江島沖)のうち複数地点に応札しており、2地点ではバッティングしている。両社の親会社には同じ企業が名を連ねるが、応札に際して調整した様子はなく、激しい火花を散らしている。

自社ポートフォリオの脱炭素化に洋上風力が欠かせないとして、M&Aなどさまざまな手段を講じているJ社。今回は4地点中3地点に応札したとみられ、前回の辛苦をばねに悲願の落札に意欲を見せる。また、J社の大本命は次回以降のI地点とも言われている。公募では「国内実績」が必須。本命地点の権利獲得の確率をさらに高める意味でも、第2ラウンドの結果は重要な意味を持つ。

他方、R社は再エネ専業であり、最大30年占有できる促進区域への参入は必須だ。ある海域では自社軍より可能性が高い陣営に相乗りしたともみられ、第2ラウンドにかける意気込みが感じられる。

どちらの陣営に軍配が上がるのか。それとも勝者はまた別のグループとなるのか。引き続き業界の話題の的となりそうだ。

活況を呈す洋上風力ビジネス

船頭多くしてどこへ?  混迷する都のエネ政策

東京都のエネルギー政策にちぐはぐ感が否めない。都は二つの有識者会議を発足させた。一つは元首相補佐官の今井尚哉氏らによる「エネルギー問題アドバイザリーボード」。水素に光を当て、火力発電を供給力不足への対応策と位置付け、積極活用に都民の理解を得る方策なども論点に上げた。ある都政関係者は「地に足のついた議論が期待できる」と評価する。

もう一つは「再エネ実装専門家ボード」。コアメンバーには脱原発と再エネ推進を掲げるS財団のL理事らが参加している。初会合でL理事は、火力の調整力を認めない典型的な再エネ万能論をぶち上げた。「再エネに前のめりだった菅政権と、現実解を模索する岸田政権の良いとこ取りをしたいのだろう。政界風見鶏の小池知事らしい。でも方向性が定まるわけがない。船頭多くして何とやらだよ」(都政関係者)。迷走の末、エネ政策はどこにいくのか。

メタハイに暗雲も  引くに引けない事情

次世代のエネルギーとして注目されるメタンハイドレート。「2027年度までの商業化」を国は目指すが、状況は厳しい。調査と試掘が進むものの、深海から採取されるためにコストがかかるなど、いまだに商業生産の見通しは立っていない。しかし「政治主導で決まったプロジェクトのため引くに引けない状況」(経産省OB)という。

メタハイの調査は1990年代から始まり、それまで年数億円程度の調査費だった。それが、15年にいきなり100億円規模に拡大した。テコ入れが本格化したのは「安倍晋三元首相が関心を持ったため」(同)。当時は3.11の影響で全国の原発が停止中。さらに中国の経済成長に伴うエネルギーの爆食が大きな問題となり、自前資源の開発が叫ばれていた。

安倍氏に近いシンクタンク経営者で論客のA氏がメディアでメタハイの可能性を盛んに強調し、彼の支持層、保守派評論家が追随した。そして安倍氏の側近だった元経産相のS氏も関心を寄せた。「首相案件なら多額の予算が付くとみて、経産省は調査事業を拡大した」(同)という。

A氏はその後16年に、自民党から参議院議員に当選。彼に近しいK参議院議員、T衆議院議員とそれに近い河野太郎氏がメタハイ予算をバックアップし、政治の応援団の規模が増えるに連れて予算も膨らんだ。22年度に太平洋側の試掘が始まり、予算は約272億円になっている。

A氏は自らが調査した日本海側にもあると主張し、花角英世新潟県知事も、産業振興から関心を寄せている。経産省は6月に日本海側のメタハイ調査も始めると西村康稔経産相が表明。東電柏崎刈羽原発の再稼働のために新潟県に送る「お土産」に見える。

しかし、産出試験の結果は芳しくない。そもそも脱炭素・脱化石の世界的な潮流の中で、「メタハイ開発自体の意義が問われている」(大手電力関係者)と見る向きも。これまでに投じられた巨額の国家資金が海の藻屑と化さないことを祈るばかりだ。

経産・環境省人事で新体制 政策継続と新陳代謝図る

7月上旬、霞が関の人事が発令された。西村康稔経済産業相は今回の人事について「政策の継続性と新陳代謝の両立を図っていきたい」と説明。GX推進法総括責任者だった飯田祐二氏が経産次官、多様な問題が噴出したこの2年間、資源エネルギー庁長官を務めた保坂伸氏が経済産業審議官、そして保坂氏の後任のエネ庁長官には村瀬佳史氏が就任した。

人事が了承された6月27日の閣議に向かう西村大臣

安定供給と脱炭素の両立に向けた組織改編もあり、エネ庁資源・燃料部では石油・天然ガス課が「資源開発課」、石油精製備蓄課と石油流通課が「燃料供給基盤整備課」に、石炭課が「鉱物資源課」に統合されるなど、課の名称から化石燃料カラーを一掃。省エネルギー・新エネルギー部でも「水素・アンモニア課」を新設した。

他方、環境省では和田篤也次官が留任し、地球環境審議官に松澤裕氏、官房長に上田康治氏、総合環境政策統括官に鑓水洋氏といった体制に。会見で松澤氏は、欧州と異なり、火力も活用しつつ着実なトランジションを目指す日本のGXについて、「同じような事情の国を仲間につけ、こうしたアプローチもあると多くの国々に理解してもらうことが大事だ」とし、国際会議などの場で発信する必要性を強調した。(32頁に関連記事)

わが国原子力が直面する次の課題 EU方針踏まえ講じるべき策は

【識者の視点】奈須野 太/内閣府知的財産戦略推進事務局長

GX電源法が成立し原発運転期間に関する規制などが見直されたが、原子力を巡る課題は残存する。

同法成立に携わった内閣府幹部による、日本の原子力政策が取り組むべき課題への私見を紹介する。

今年の第211国会で「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX電源法)が成立した。筆者が担当した原子力基本法部分では、原子力委員会が6年ぶりに改定した「基本的考え方」を踏まえ、①国および原子力事業者が安全神話に陥り、東電福島事故を防止できなかったことを真摯に反省した上で、原子力事故の発生を常に想定し、その防止に向けて最大限努力すること、②国は、電力の安定供給の確保、カーボンニュートラル(CN)の実現、エネルギー供給の自律性向上に資するよう必要な措置を講ずる―などとした。福島事故の反省や2050年CNを踏まえた上で、原子力利用に係る原則が法律上も明確化され、気候変動と原子力政策がつながったのである。

また、原子炉等規制法に規定されていた原子炉の運転期間の規定が電気事業法に移管され、経済産業大臣の認可を受けた場合に限り、原子力利用政策の観点から最長60年までの延長を認め、事業者が予見しがたい事由による停止期間に限りカウントから除外することとした。代わりに、高経年化した原子炉が30年超運転する場合、安全上の観点から10年ごとに原子力規制委員会の認可を受ける制度を、炉規法に設けた。これにより、立法趣旨につき議論のあった運転期間の規定の問題が解決をみて、安全確保を大前提に再稼働を進めていく環境が整備された。

タクソノミーの適格条件 最終処分のプロセス加速を

原子力政策の次なる課題の第一は、高レベル放射性廃棄物の最終処分のプロセス加速化である。

政府は、昨年末のGX実行会議および最終処分関係閣僚会議を踏まえ、最終処分の取り組み強化につき検討を重ねてきた。そして2月の最終処分関係閣僚会議で構成員の拡充を行い、一連の検討結果を取りまとめ、最終処分法の基本方針の改定案とした。その内容は、関係府省のメンバーを拡充した連携体制の構築、国から首長への直接的働きかけの強化、関心地域への国からの理解活動の実施や調査の検討の段階的申し入れからなる。

これに対し欧州では、持続可能な経済活動への投資をより確実なものにするため、何が持続可能な経済活動と呼べるのか、分類と基準・条件を法的文書として示す「タクソノミー」の取り組みを進めてきた。タクソノミーを参照して金融機関や投資家は投融資先を決定し、市場では財・サービスが選択される。市場はグローバルだから、わが国も無縁ではない。

原子力発電は、発電時における温室効果ガスの排出がほぼゼロであることから、一定の条件を満たすことで気候変動の緩和に貢献するとして、持続的な経済活動と認めることが22年に決定された。しかし持続的と認めるには、その活動が気候変動対策として有効であるだけでなく、汚染防止など他の環境目的を阻害しないものでなければならない。そこでタクソノミーでは原子力発電について、50年までの高レベル放射性廃棄物処分場の操業に向けた詳細かつ文書化された計画があることなどを適格条件とする。

日欧を比較すると、わが国では、政府側の取り組み強化に主眼が置かれている。欧州では、CNの目標年次から全体のロードマップを確定させるとともに、金融資本市場の後押しを受けつつ、資金の出し手であり、かつ財・サービスの購入者である国民を巻き込む工夫が凝らされている。

最終処分のプロセス加速化について、政府側の対応だけでは限界がある。気候変動と原子力政策、そしてグローバルな金融資本市場と財・サービス市場を俯瞰する欧州の例は参考とすべきだろう。

そして課題の第二は、事故耐性燃料の開発と実装である。

事故耐性燃料の開発・実装へ 金融・国民の理解不可欠

東電福島事故では、冷却機能を喪失した炉心内の高温の燃料被覆管と、ベントで炉心内圧が下がり急激に流入した水蒸気との反応で水素が大量発生し、爆発に至った。

原子炉の燃料集合体は、ジルコニウム合金の被覆管内に二酸化ウランの焼結体ペレットを装荷した多数の燃料棒により構成される。ジルコニウム合金は耐腐食性と併せ、熱中性子吸収が少ないため効率的な核分裂反応に寄与する特性を有するが、高温状態で水と反応し、熱と水素を発生させる。

福島事故の炉心溶融の主因は、核燃料の崩壊熱よりも、このジルコニウム・水反応とする見方もある。ジルコニウム合金表面にクロムコーティングした被覆管や炭化ケイ素複合材への置換など、事故時に水素が発生しにくい事故耐性燃料の開発と実装が急がれる。

福島の教訓から事故耐性燃料の導入が望ましい(出典:東京電力ホームページ、爆発後の1号機)

しかし事業者に事故耐性燃料の導入意欲を喚起することは難しく、技術成熟度も考えると法令での義務付けは時期尚早である。まずは関係者でロードマップを共有しつつ、研究開発と実装を促すことが必要ではないか。

欧州ではここでもタクソノミーにおいて、既設および新設の発電用原子炉に対し、規制当局からの認可済み事故耐性燃料の25年までの導入を適格条件とする。期限に間に合わずとも直ちに運転を禁止されるものではないが、課題と期限が共有され、金融資本市場を通じて後押しされる。

研究開発を進めても、関係者にロードマップが共有され、これに金融資本市場、そして国民の理解と協力が得られなければ実装は困難だ。全ての者に原子力を「自分ごと」として捉えてもらう仕掛け作りが欠かせない。ここでも欧州を参考とすべきところがある。

なお、欧州における最終処分の取り組みおよび事故耐性燃料の記述は、今年7月下旬に原子力委員会から公表される「令和4年度版原子力白書」に依拠した。文中の意見は個人のものであり、政府または原子力委員会の見解ではない。

なすの・ふとし 1990年東京大学教養学科卒、通商産業省入省(当時)。エネ庁核燃料サイクル産業課、原子力損害賠償支援機構執行役員、経産省産業技術環境局長、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局統括官(原子力政策室長)などを経て現職。

豊富な風資源を最大活用へ 北海道北部送電が本格稼働

風況が良く風力発電の適地として期待される北海道北部地域。現在も大型の陸上風力建設が急ピッチで進むが、系統規模が小さく接続量に限界があるのが悩みの種だ。この地域で今年4月、風力専用の送変電設備が商業運転を開始した。

設備は、稚内市から北海道電力ネットワークが中川町に建設した西中川変電所までの約80㎞の送電線とそれをつなぐ269基の鉄塔、北豊富変電所・開閉所、出力変動を緩和・調整するための蓄電池システム(72万kW時)で構成。その整備・運営を担うのが、風力発電大手のユーラスエナジーホールディングスやコスモエコパワーなどが出資する北海道北部風力送電だ。

北海道北部風力送電の北豊富変電所

同社は13年に経済産業省が公募した「風力発電のための送電網等の実証事業」の事業者として採択され、16年に大手電力会社以外の民間企業として初めて、送電事業のライセンスを取得、18年に建設工事に着手した。総事業費は約1050億円。そのうち4割を補助金で賄う。

25年3月末までに9カ所計54万kWが接続される予定だが、北電系統への連系容量は30万kWに過ぎない。同社は9カ所まとめて風力発電の出力変動を調整するとともに、発電総量が30万kWを超える場合は公平に抑制をかける。系統制約という一朝一夕には解決できない課題がある中で、資源を最大限活用するための一つの解決策として注目される。

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エネルギーフォーラムは、脱炭素化の先進的な取り組みを調査するため、6月末に視察ツアーを敢行。北海道北部風力送電のほか、道内各地のエネルギー施設を巡った。92頁からその模様を紹介する。

日本の技術で途上国に電気を届ける エネルギー研修を大学で実施

【JICA/早稲田大学】

「ナイジェリアでは経済成長が著しい。地下には天然ガス資源が埋蔵されているものの、発電設備が足りずに電力の需要が追い付かない状況だ。日本の事情や技術を学びたい」「電力系統の安定化のために、日本にはどのような技術があるのか。そして、どのような技術をサモアに持ち帰ることができるのか知りたい」―。

国際協力機構(JICA)と早稲田大学が連携し、主に発展途上国の電力供給の実務を担当している人材を対象とした、日本の技術を学ぶ研修会。6月に行われた研修の場で、ナイジェリアのツンデさん、サモアのビクターさんがそれぞれ来日した動機を話した。

この研修会は、「再エネ拡大に向けたスマートグリッドと分散型エネルギー資源の管理」をテーマに3年前からJICAが主体となって開催している。過去2年はコロナ禍の影響もあり、オンライン研修だったが、3回目となる今回は、研修生の来日が初めて実現。会場となる早稲田大学で研修生たちは日本の技術を学んだ。

途上国の研修生が日本の技術を学んだ

8カ国の研修生が学ぶ DRの仕組みに期待を抱く

研修会に参加した国はメキシコ、インドネシア、マレーシア、フィジー、サモア、ナイジェリア、ケニア、モロッコの8カ国だ。

ナイジェリアのツンデさん、サモアのビクターさんはともに公務員として国内のエネルギー供給を支えている立場の人だ。両国は、人口も再エネ導入量も増えており、いろいろな課題を抱えている。「今回の研修でデマンドレスポンス(DR)を学んだ。系統の安定化に対応するにはバッテリー導入が対策の一つだがコストが掛かる。でも、DRの仕組みであればコストを掛けずに対応できる」「日本にはいろいろな技術があることが分かった。自分たちが課題を解決しようとするときに、ゼロから準備しなくてもよいことが分かった」。いろいろと研修の手応えを感じているようだった。

早稲田大学にはエネルギー需給を管理するシミュレーション設備があるほか、エコーネットライトに対応した家電設備群が備えられた模擬住宅も存在する。エコーネットライトとは、家電同士の「会話」を支える通信規格のことだ。こうした規格によって、家電設備などを制御するDRをスムーズに行うことができる。

研修業務を担う早稲田大学の石井英雄・スマート社会技術融合研究機構研究院教授は「研修会の場は発展途上国の人たちが日本の技術を知ってもらう機会になる。こうした機会が、今後日本のメーカーが海外に展開するときの一助になれば」と話す。

どうなる!? 函南町メガソーラー計画 トーエネックの提訴で新局面に

函南町軽井沢地区のメガソーラー計画撤退を発表したトーエネックが、関係事業者を相手取り提訴した。

訴訟に踏み切った背景は何か。計画の行方はどうなるのか。静岡県や経産省の対応に、住民側の関心が集まる。

「事業性を評価した結果、事業の開始が困難と判断した」―。

静岡県函南町軽井沢地区で計画されてきたメガソーラー事業。土砂災害を懸念する地元住民らが反対運動を起こし、中部電力子会社のトーエネックが撤退を発表したのが今年1月のこと。あれから約半年。事態は思わぬ方向へと向かっている。

去る6月2日に「既払い金の返還等を求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起した」と発表したのは撤退を表明したトーエネックだった。なぜ提訴したのか、まずは事業内容を簡単に振り返ろう。

トーエネックは2017年、約65‌haの土地に約10万枚の太陽光パネル(総出力2万9800kW)を敷き詰める事業計画を立てた。再生可能エネルギー事業を手掛ける東京産業の斡旋で、ブルーキャピタルマネジメントが18年4月にFIT認定IDを取得。ブルー社がパネル設置工事までを受託し、トーエネックがその後の事業を引き継いだ。事業開始を25年10月としていたが、計画が災害リスクを誘発するとして地元住民が猛反対。函南町長も計画への不同意を示したことで、トーエネックは計画を断念し、昨年10月の段階で114億9000万円の特別損失を計上。1月に撤退を発表した。

トーエネックによると、事業撤退に伴い、ブルー、東京産業の両社とこれまでの契約を解除。事業にかかった費用の返還などを求める協議を続けてきたが、「交渉による解決は困難と判断」(トーエネック担当者)。今回の訴訟に踏み切った格好だ。

訴訟を受けた2社は反発 「契約解除の理由がない」

トーエネックから訴訟を起こされた2社はいずれも反発している。ブルー社は「本件訴訟は一方的な内容かつ契約解除の理由がない」などとするコメントを発表。東京産業も「(トーエネックが)主張する本件地位譲渡契約解除は理由がないと考えている」としている。両社とも裁判を通じて契約の正当性を争う構えだ。

実は、トーエネック、ブルー両社を巡っては、山梨県甲斐市菖蒲沢地区のメガソーラー開発事業でミソを付けた苦い経験がある。2年ほど前、ブルー社が林地開発許可を受けて工事を行ってきたメガソーラーの運営権利(FIT認定ID)を、トーエネックが取得。その後、調整池や水路、太陽光パネルの設置などで不正や欠陥が相次いで判明し、地元から不安の声が高まった。

山梨県の長崎幸太郎知事はトーエネックの幹部を県庁に呼び、設備の工事と維持管理に万全を期すよう要請。しかし同社が適切な措置を講じる前に、ブルー社に事業を売却してしまったことで激怒。メディアなどを通じて、「社会的な責任感が欠如している。極めて不誠実な行為で、強い憤りを禁じ得ない」「場合によっては人の命が関わる問題を放擲して逃げ去るのは、あまりにも無責任」などと痛烈に批判し、当時の幹部が謝罪する事態に追い込まれた。

「トーエネックからすれば、メンツをつぶされたようなもの。軽井沢案件で同じ轍を踏むことはできず、ブルー社にも責任の一端があると周知する狙いもあって、訴訟に踏み切ったのではないか」。事情通はこう話す。

ともあれ、住民側の最大の関心は、軽井沢計画のFIT認定IDの行方がどうなるか、だ。この点について、トーエネック側は「お答えできない」との立場だが、住民団体の幹部によれば「軽井沢計画は砂防指定地や土石流危険区域などに抵触していて、法令違反は明らか。静岡県は林地開発許可を取り消し、経産省も事業認定を取り消すべきだ」という。

実際、昨年12月には函南町議会が、林地開発許可の取り消しを求める請願を全会一致で可決。取り消し要望書を県に提出した。しかし関係者によれば、川勝平太・静岡県知事が林地開発許可取り消しに動く様子は今のところない。川勝氏の消極姿勢を巡っては、「再エネ推進派との関係性から、太陽光開発を否定する施策は打ち出しにくい」(地元関係者)とする見方や、「リニア問題の対応や自身のスキャンダルもあり、火種を抱えたくないのでは」(大手キー局記者)と勘繰る向きもある。

この問題に対し静岡県の動きは鈍い

認定IDの失効は回避か 川勝知事に重い責任

林地開発許可が取り消されない限り、経産省側も事業認定の取り消しには動きづらい。昨年4月施行の再エネ特措法に基づき、一定の期限までに運転開始に向けた進捗がない案件については認定を取り消す制度が導入され、今年3月末時点で約5万件が失効期限を迎えた。が、林地開発許可などを取得し系統連系工事着工申し込みが受領されている場合は、失効が猶予されるのだ。

FIT認定情報照会サイトで軽井沢計画を検索したところ、「23年4月1日以降、失効期限日を超過している可能性があり、認定状態を確認中」とのこと。ただ失効している場合は「認定が無効」と表示されるため、現時点では失効していない可能性が高い。

「トーエネックの撤退という大きな計画変更があり、認定の前提が崩れたことで、IDや訴訟の行方を注視していく。ブルー社が権利を引き続き、工事を強行するような展開だけは何としても避けなければならない」。前出の住民団体幹部は不安を募らせる。

今夏も、全国各地で豪雨による土砂崩れなどの被害が相次いでいる。メガソーラーの乱開発が土地に影響を与え、災害を引き起こす事例も年々増加傾向だ。21年7月には、静岡県熱海市の伊豆山で盛り土崩落による大規模土石流が発生し、28人もの犠牲者を出した。あのような悲惨な災害を回避すべく、国や自治体は住民の生命・財産を守るため最大限の措置を講じることが求められよう。

その意味で土石流災害を経験した県、とりわけ川勝知事の責任は重い。問題の軽井沢地区は、災害発生現場の伊豆山とは背中合わせの位置にあり、その距離はわずか4㎞と近接していることを、今一度思い返す必要がある。

秒読み段階の処理水放出 「国際情報戦」対応が重要に

「情報戦」は始まったばかりだ。福島第一原発の処理水放出を巡り岸田文雄首相は7日4日、来日した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長から海洋放出の安全性評価を含む包括報告書を受け取った。翌日、グロッシ氏は太田房江経済産業副大臣らと現地を視察。東京電力の小早川智明社長から説明を受けたグロッシ氏は「完璧だ」と評価した。

福島第一原発で東電の小早川社長から説明を受けるグロッシ事務局長と太田経済産業副大臣
提供:EPA=時事

日本政府は一部の国を除いた各国の理解を取り付けている。「反日」が根強い韓国でさえ、政府が国費をつぎ込み、海洋放出は危険ではないというユーチューブ広告を流すほどだ。IAEAのお墨付けを得て「科学か、非科学か」という次元で理解を求めた戦略的勝利といえよう。

一方で非科学的な反発を続けるのが、中国と韓国左派、北朝鮮だ。中国政府は処理水を「核汚染水」と表現し、日本の水産物規制を強化。韓国ではデモ隊が空港の貴賓室の前に座り込み、グロッシ氏への「物理的攻撃」に出た。

日本にも非科学的な姿勢を示した人物が一人。公明党の山口那津男代表だ。海洋放出の時期について、「海水浴シーズンは避けた方がいい」と発言。風評を広げる発言に批判が集まった。

原子力を巡る情報戦は「まだ序の口」と見る向きもある。というのも、六ヶ所再処理工場が稼働すれば海洋へのトリチウム放出量(管理目標値)は年間1京8000兆ベクレル。「京」という単位で明らかなように、福島第一原発だけでなく、中国や韓国の原発から出るトリチウム量をもしのぐ。

情報戦は、今後も日本の原子力政策と隣り合わせだ。だからこそ、今回の海洋放出を着実に実施する必要がある。