電力値上げで需要家が迷走 料金巡る情報格差で大混乱も


燃料費高騰を受け、新電力各社が燃料費調整制度の見直しに踏み切り、家庭の電気代負担増は避けられない様相だ。

料金を巡る情報格差が、需要家の間に混乱を生じさせかねないとの懸念も指摘されている。

 「これでは暗に、ほかの電力会社に移れと言っているようなもの。少し探してみたが、どこも値上げラッシュで状況は似たり寄ったりだ。一体どこを選べばいいのか」

10月上旬、東京都内で妻と2人で暮らす50代の男性会社員は、契約している新電力からの通知を前に途方に暮れていた。

男性が契約しているのは、楽天エナジーが供給する「楽天でんき」。11月以降、燃料調整(燃調)制度の調整単価を現行の燃料価格連動から日本卸電力取引所(JEPX)連動に変更するのに伴い、今よりも電気代の負担が増大する可能性があるというのだ。

ためしに市場価格を反映した8月の電気代をシミュレーションしてみたところ、実際に支払った料金よりも4000円以上高くなったという。電気の使用量が増える冬場にJEPXスポット価格が高騰すれば、それを上回る負担増は避けられない。

逆ザヤ解消へ 燃調見直し相次ぐ

燃調制度は、燃料価格の変動を迅速に料金に反映させるために設けられている。新電力の燃調の設定に制約はないが、楽天に限らずこれまで多くの新電力が、大手電力会社の規制料金メニューに準じる形で急激な燃料価格上昇による家計負担増を防ぐための上限を設けてきた。

ところが、昨今の燃料費の高騰により大手各社の調整単価が軒並み上限に到達。これに伴い新電力各社は、今の料金体系で供給し続けていては赤字の拡大が避けられない状況に陥ってしまった。さらなる燃料費とスポット価格高騰が予想される冬を前に、顧客離れを許容してでも逆ザヤ解消を急がなければ、会社の存続さえ危ぶまれる。このため一斉に、燃調制度の変更に踏み切ったのだ。

その手法は主に、①引き続き大手電力会社の燃調制度に準じつつ上限を撤廃、②JEPX連動に変更、③自社の電源構成に合わせた独自燃調を採用―の三つのパターンに分かれ、今後の家庭の電気料金負担は、契約先の電力会社がどのような燃調を導入しているかで大きく変わることになりそうだ。

例えば東京エリアでは、東京電力エナジーパートナー(東電EP)の規制料金メニュー「従量電灯B」の11月の調整単価は上限の1kW時当たり5・13円、上限撤廃後の調整単価は9・72円で、その差は4・59円。電気代にすると、標準的な使用量(月300KW時)の世帯で約1400円と大きな差が付く。

契約を見直さなければ、冬の電気代が大変なことになる―。冒頭の男性のように、新電力からの通知を見て新たな契約先を探す動きが一部で始まっている。

燃調が電気代を左右 賢い選択肢は

中でも人気なのが燃調上限を維持している新電力で、東電EP系の新電力PinTが供給する「PinTでんき」や、コスモ石油が供給する「コスモでんき」などに申し込みが殺到しているという。とはいえ、上限を設けたまま供給量が増えれば、新電力側の逆ザヤは拡大する一方。そのため今後は、こうした新電力も新規申し込みの受付け停止や燃調の見直しに着手せざるを得なくなる可能性は高い。

燃調見直しで電気代はどうなるのか

新電力から新電力への切り替えに加え、一度は離れた大手電力会社の規制料金に戻ることも一つの選択肢だ。実際、大手電力会社の自由料金メニューや他社から、規制料金に切り替える家庭も徐々に増えていて、現在の燃調上限が維持される限りは最良の選択肢だとも言える。

東電EPでは、電話でのみ規制料金メニューへのスイッチングを受け付けしており、「規制料金メニューには燃料調整単価に上限があること、一方で自由料金には上限はないがさまざまな付帯サービスがあることを説明し選んでいただいている」(広報企画グループ)。需要家保護の観点から選択肢として提示はするものの、逆ザヤの供給になることは間違いなく、規制料金には戻ってほしくはないというのが本音のところだろう。

前出の男性は、東電EPの規制料金メニューに戻ることも考えたが、結局、同社の「アクアエナジー100」への切り替えを決めた。基本料金は高いが、燃調がない分、今回の電気料金高騰の原因となっている燃料価格上昇の影響はないはず」との判断だが、「東電がこれから予定している料金改定で値上げされる可能性も否定できない」と、一抹の不安をぬぐい切れない様子だ。

電力会社の比較サイトを運営するエネチェンジの曽我野達也取締役は、「電気代高騰に備えようと見直しに動いているのは、あくまでも一部の需要家と見ている。多くの人が、新電力の料金体系の変更が、自分が支払う電気代にどう影響するのか、まだ気が付いていないのではないか」と危惧する。

というのも、新電力の燃調の変更は10月、11月分から。このため、電気代に反映されるのは12月以降なのだ。そのタイミングで高額の請求に驚き、新電力に問い合わせが相次ぐことは想像に難くない。そのような混乱を避けるためにも、事業者側がより一層の周知徹底を図るとともに、需要家側も契約時と料金体系が変わっていないか、契約先がどのような燃調制度を導入しているのか、事前に確認しておく必要がある。

電力自由化の狙いは、多様な参入者を呼び込み競争を促進することによる料金の低廉化のみならず、需要家のライフスタイルや価値観に合わせ、電気の売り手やサービスを自由に選べるようにすることにあったはずだ。それが、今回の燃料高騰による規制メニューと自由メニューの価格の逆転により、その狙いは有名無実化してしまったと言って過言ではない。

来年4月に向け、大手電力会社の規制料金の値上げが検討され始めている。規制部門の赤字を放置するべきではなく、値上げは当然の流れだが、そもそも自由化を阻害するような規制料金を今後も存続させるべきなのか。補助金でお茶を濁さず、これを機に、電気料金制度の在るべき姿を改めて考えるべきだ。

電気ガス負担軽減は燃原調で 需要家の不満避けられず


「前例のない思い切った対策を講じる」。10月3日の臨時国会の所信表明で、岸田文雄首相がぶち上げた電気料金の負担軽減策。経済産業省幹部いわく「方法論を後回しにして政治の思惑先行で浮上した、前例のない愚策」が、紆余曲折を経て燃料費調整額で対応することが決まった。都市ガス料金も電力方式にならい、原料費調整額で対応する方向だ。早ければ来年1月から実施する。

岸田首相の所信表明から「負担軽減騒動」は始まった(10月3日の臨時国会)

西村康稔・経済産業相は10月21日の閣議後会見で、電気料金について「毎月の料金請求の中で直接的かつ実感できる形で負担軽減策を講じていけないか。燃料費調整の欄を利用することも含め方策を詰めている」と言及。都市ガス料金についても「事業構造などを踏まえて、電気とのバランスを勘案し検討を急いでいる」と述べた。またLPガス料金については検討を急いでいるとして、何らかの対策導入をにおわせた。

それにしても、今回の負担軽減策を巡る政府部内のドタバタは異様だった。首相発言以来、資源エネルギー庁の担当課は徹夜体制で方策を検討。「大手電力、新電力も含め、全ての利用者が実感できる形で負担を軽減する」という厳しい条件が付く中で、託送料金を免除する方式、再生可能エネルギー賦課金を凍結する方式、石油石炭税を減免する方式などさまざまな案が浮上した。また一方では、政治家や業界関係者から、「都市ガス料金も対象にすべきだ」「LPガス料金はどうするのか」といった声が急激に高まった。

簡易ガスやプロパンは? 突っ込みどころだらけか

こうした動きを踏まえ、政府の「新しい資本主義実現会議」が17日に取りまとめた総合経済対策の重点事項は、「エネルギー価格高騰への対応と安定供給確保」を筆頭項目に位置付け、次のような書きぶりになった。〈電気と同様に社会経済活動の基盤となるガスについても、ガスの特性も踏まえつつ、ガス料金の高騰に対する対策を講じるなど、電気とのバランスを踏まえた対応を進める〉 

資源エネルギー庁関係者によると、今回の料金対策には大きく二つの狙いがある。一つは、来春に予想される大手電力の規制料金値上げの影響回避。もう一つは、今冬に向けて上昇中の電気・ガス料金の負担軽減だ。いずれも燃・原料費の上昇が主因という実情を踏まえれば、その費用負担への補助は筋が通るのだが……。

「卸電力市場価格連動や再エネ電気の料金メニューを使っている需要家は不満だろう。月額2000円の上限にも補助が少ないという批判が出ている。ガスについては事情がより複雑だ。国産ガスやLPガス原料の都市ガス事業者のほか、簡易ガス事業者やプロパン販売事業者をどうするのか。もし除外すれば、需要家からの批判は避けられない。政治も黙っていないはずだ」(エネルギー業界幹部)

10月24日現在、対策の最終的な着地点は見えていないが、先行した石油燃料の補助金が問題を抱えているだけに、突っ込みどころだらけだろう。出口戦略の不在も今後の混乱に拍車を掛けそうだ。

【マーケット情報/10月28日】原油上昇、品薄感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油を代表するブレント先物は10月28日時点で、それぞれバレルあたり前週比2.85、2.27ドル上昇した。 

OPECプラスによる11月からの減産計画に加え、欧州連合によるロシア産原油に対する制裁措置の強化が近く実施される見通し。さらに前週末に発表された米国の2022年第3四半期の経済成長率が年率換算2.6%に転じたことも価格を持ち上げた。

世界経済の停滞、とりわけ中国政府によるゼロ・コロナ政策が来年まで解除されないとの見通しから、石油需要は伸び悩むとの観測が広がっている。ただ、供給の減少が、需要後退の影響を上回るとの見方が強いようだ。

中東原油を代表するドバイ現物も、需給の引き締まりを映して、前週比で2.35ドル上昇に転じた。

【10月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=87.90ドル(前週比2.85ドル高)、ブレント先物(ICE)=95.77ドル(前週比2.27ドル高)、オマーン先物(DME)=92.25ドル(前週比3.49ドル高)、ドバイ現物(Argus)=92.68ドル(前週比2.35ドル高)

「日本一速い男」が設立 モータースポーツの最前線走る


【carenex TEAM IMPUL】ホシノインパル

 IMPUL(インパル)は、元レーシングドライバーで「日本一速い男」と呼ばれた星野一義氏が立ち上げたブランドだ。1980年に母体となる「ホシノインパル」を立ち上げ、83年にレーシングチームを設立。国内トップフォーミュラ、全日本GT選手権(現SUPER GT)などに参戦し、国内モータースポーツの最前線を約40年走り続けている。

逆転でのタイトル獲得を狙う(提供:TEAM IMPUL)

今年8月に栃木県のモビリティリゾートもてぎで行われた「全日本スーパー・フォーミュラ選手権」第8戦では「これぞTEAM IMPUL」というレースを見せた。所属する2人のドライバー(関口雄飛選手、平川亮選手)がレース中盤で1位、2位に立つも、安全策のチームオーダーを取らず真剣勝負を繰り広げた。担当者は「これまで厳しいレースが続き、特に2人は悔しい思いをしてきたと思う」と話す。最後は関口選手が1位を守り、平川選手が2位。14年ぶりのワン・ツーフィニッシュを果たした。

チームを支えるパートナーとしては、伊藤忠エネクスが2015年からスポンサー活動を開始。16年にはスーパー・フォーミュラ部門でメインスポンサーに参入した。TEAM IMPULは今年から、ピットの照明などを動かす発電機に、同社の「リニューアブルディーゼル」を導入。廃食油や動物油などを原料としており、レース関連で国内初の試みという。ホシノインパルの冨永正志氏は「伊藤忠エネクスと共にレースを盛り上げ、環境問題への取り組みに賛同してくれるファンを増やしたい」と将来のビジョンを語る。

環境問題に対し積極的に取り組む理由を「モータースポーツと脱炭素は相反すると思われがち」(冨永氏)と話す。これまでモータースポーツは、レースによる脱炭素に関わる技術、安全性などの開発や、市販車へのフィードバックで貢献してきた。さらにチームで直接的な脱炭素への取り組みを行うため「IMPULでんき」の販売を開始した。100%再生可能エネルギー由来の電気を提供し、脱炭素実現に貢献する。「モータースポーツの活性化とは切り離せない環境問題への取り組みとして行う」(冨永氏)とモータースポーツ業界が行う意義を強調した。

現在は鈴鹿サーキットで10月29日、30日に行う第9戦、最終戦に向けて調整を続ける。チームランキングで2位につけるTEAM IMPULは「最終戦までチャンピオンを諦めずに戦う」と逆転でのタイトル獲得へ、これからも突き進む。

ホシノインパル(carenex TEAM IMPUL):1980年、母体となるホシノインパル設立。2016年よりスーパー・フォーミュラ部門で、伊藤忠エネクスがメインスポンサーを務める。22年9月末時点のチームランキングは2位(113ポイント)。

次代を創る学識者/小宮山涼一・東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻教授


数百もの要素からエネルギーシステムの最適解を導く研究がライフワークだ。

足元の危機も踏まえ、脱炭素化シナリオの判断材料となり得る研究を意識する。

 エネルギーをはじめ社会全体の変革が求められるカーボンニュートラル(CN)では、シナリオを誤ると自国経済を傷めかねない。そして目下の〝世界同時エネルギー危機〟はトランジションの難しさを際立たせた。先行きが一層混沌とする時代、小宮山教授の専門はまさに今求められる研究分野の一つと言える。

主題はエネルギーシステムの分析だ。「要素技術だけを見るのではなく、多様なシナリオを展望し、システム全体を最適化する」(小宮山氏)。電気、ガス、石油のあらゆる技術を対象に、CN実現のシステム、その構成技術のベストミックスを分析。開発したツールの一つは300以上もの要素を加味する点が特徴だ。例えば電力では、系統を考慮した上でどんな燃料や電源を活用すべきか。原子力では新増設をするか否か、運転期間はどの程度か。マスタープランに基づく系統増強は再エネ主力化のベストな道なのか。そして電気料金の行方は……。中立的視点で経済合理的なシステムを模索する。

とはいえイノベーションには不確実性がつきものだ。水素・アンモニアやCCUS(CO2回収・利用・貯留)、DAC(CO2直接空気回収)など以前はあまり注目されなかった技術への関心も高まっている。小宮山氏は主題を数理モデル化し最適解を導く「数理計画法」を用いるが、手法の特性上、不確実性の数理的な対処が課題となる。政策面の不確実性も大きい。さらに数値化が難しい雇用状況や産業政策、国民の受容性などの要素を別途検討する必要もある。「政策に役立つ研究を意識し、より実用的で効率的な手法への見直しを進めていく」考えだ。

謙虚さ常に忘れず 理論の理解も重要

文部科学省「原子力システム研究開発事業」に採択され、共同研究として小型モジュール炉(SMR)を活用したシステムの分析も手掛ける。ただ、SMRは話題先行感が否めず、具体的な活用方針は定まっていない。「まずどこに建設するのか。大型炉跡地なら次世代軽水炉の方が現実的だ。米国では石炭火力跡地での小型炉建設が提案されたが、日本でも検討の余地はあるだろう。ただ、SMRの安全規制がなければその判断もできない」。事業化の課題をあらかじめ列挙した上での戦略でなければ、SMRをはじめ次世代炉戦略は絵に描いた餅になりかねない。

修士課程で当時珍しかったエネルギーシステム全体の分析研究に興味を持って以降、一貫してこの分野に従事。最近になって注目度が高まってきたと実感する。モデリング技術だけでなく、活用するモデルにまつわるさまざまな理論を理解することも欠かせない。他方で「モデルはあくまで理論に基づき構築したもの。予期しない結果が出ることもある。この研究では主観を持たず、常に疑問を抱き、謙虚に結果と向き合うことが重要だ」と強調する。

常に自問自答しつつ、引き続きCNの最適解を探る道を歩む。

こみやま・りょういち 2003年東大大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了、博士(工学)。日本エネルギー経済研究所主任研究員、米ローレンスバークレー国立研究所客員研究員、カリフォルニア大バークレー校客員研究員を経て、13年東大大学院工学系研究科准教授。22年より現職。

【メディア放談】GX会議での首相発言 「原発回帰」宣言に期待と諦観


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

首相はGX実行会議で原発再稼働に意欲を見せ、次世代革新炉の検討も要請した。

業界内には期待する声がある一方、実現性を疑問視する向きもある。

 ―岸田文雄首相が8月24日のGX実行会議で、「原発回帰」と受け止められる発言をした。再稼働を国が前面に立って進めるとし、次世代革新炉の新増設・リプレースの検討を要請している。電力業界は「ようやく政府が動いてくれる」と思ったはずだ。

電力 まぁ、ありがたいと思っている。だが、どこまで本気で政権が取り組むかだ。首相が言う冬までの9基の稼働はほぼ確実だった。ただ、来年夏以降に運転開始を目指す7基は分からない。

 特に柏崎刈羽6、7号機と東海第二は、地元同意のハードルが高い。首相が現地を訪れて、地元の人たちに再稼働の必要性を訴えるしかないと思っている。

―次世代炉についても首相発言で関心が高まった。

電力 新増設・リプレースもSMR(小型モジュール炉)や高温ガス炉に期待する声が強まりそうだ。経済産業省も原子力小委員会を開いて革新型炉の開発を打ち出している。だが、役所と業界の本音はABWR(改良型沸騰水型炉)、APWR(改良型加圧水型炉)を改良した大型次世代軽水炉の開発を加速させて、国内に建設することだ。

マスコミ SMRが海外で建設されるようになれば、製造に参加している日本メーカーも潤う。それは歓迎だろう。しかし、原子力産業の将来を考えると、屋台骨の三菱重工、東芝、日立とそれらの傘下企業が生き残ることを考えなければいけない。

 そのためには実績があるABWRと、美浜1・2号のリプレース、敦賀3・4号増設に計画があるAPWRを軸にした原子炉の建設を優先すべきだ。経産省の判断は間違っていない。政策的な支援も当然、考えているはずだ。

―朝日、毎日などは新増設・リプレースなどに反発しているが、国際大学教授の橘川武郎さんもプレジデントオンライン(9月11日)で「どれも雲をつかむような話ばかり」と批判していた。

石油 大分反響があったようだ。橘川さんは、革新炉について「誰が何をどこで造るか決まっていない」と指摘している。確かにその通りだ。言いたいことをいう性格だから、思っていることを書いたのだろう。ただ、電力さんの言う通りならば、業界、メーカーが国内に造るのはABWRとAPWRの改良型になる。

マスコミ 影響力のある人の主張だけにインパクトがあった。「『次世代革新炉の開発・建設』を本気で行うのであれば、『既設原発の運転延長』を行う必要はなく、両者を同時に掲げるのは論理矛盾」と指摘している。これには首を傾げた。本気でカーボンニュートラルを目指すならば開発・建設と延長を同時に進めないと、とても間に合わないと思うよ。

毎日の目立った記事 首相発言の舞台裏を暴露

―首相発言についての記事はほかにもあった。

ガス 一連の記事で際立ったのは、毎日の「原発こそ新しい資本主義、首相の原発回帰宣言、舞台裏と打算」(9月6日)だ。首相発言を聞いて、これは経産省のいつもの文章と書きぶりが違う気がした。

そう思っていたら、首相が自ら「『政治決断が求められる項目を明確に(私に)示してもらいたい』と指示。原発を所管する経産省幹部さえ『寝耳に水』のサプライズだった」と書いてあった。それで合点がいった。

マスコミ 複数の記者が政府関係者に突っ込んだ取材をしている。「気候変動対策とは資本主義の在り方自体を見直すこと。政権中枢には早くからこうした問題意識が共有されている」との経産省幹部の話しは、是非は別にして参考になった。

―政府と歩調を合わせたのか、日経新聞が編集方針を見直したようだ。社説「エネ・環境戦略を問う」(8月18日)で、「原発新増設へ明確な方針打ち出せ」と主張している。

ガス 日経新聞のトップは連日のように財界幹部と顔を合わせている。その場で、「(再エネ偏重の)最近の紙面はなんだ」と言われることが多いらしい。それで、トップダウンで原発について方針の見直しを指示したようだ。

石油 編集・論説委員クラスも「最近、『脱炭素新聞』とやゆされる」とこぼしていた。ただ編集の現場のマインドは、そう簡単には変わらないと思うよ。

―日経は社説の後、連載「原子力政策転換の行方」(9月6日)を始めている。

マスコミ よく取材して原子力政策を巡る課題をまとめていると思う。ただ、「基本的なスタンスは前と変わってないな」と思うところもある。

日経の連載に違和感 基本的立場変わらず

―例えば。

マスコミ 「政府・与党内には規制を緩めれば、再稼働を早められる原発はあるとの見方もある」と書いている。特重(特定重大事故等対処施設)の完成が原子力規制委員会が定めた5年間の猶予期間に間に合わず、そのために止まっている原発を動かすことだ。

 テロや自然災害などに対応する特重は、万一の場合に備えるもので原発の安全運転に不可欠ではない。工事の現場での不可抗力に近い理由で工期が遅れる場合に、稼働させることは、決して「規制を緩める」ことではない。

電力 原子力に理解のある与党議員や電力業界は、規制委に審査の効率化を求めるが、「規制を緩めてほしい」とは絶対に言わない。そんなことを言えば、世間から袋叩きになることは分かっている。ただ、マスコミに書かれたら仕方がない。

―結局、電力業界は泣く子とマスコミにはかなわないんだよ。

食品廃棄物をリサイクル バイオマスプラントで課題解決へ


【リレーコラム】熊谷智孝/ビオストック代表取締役社長

 食農分野における脱炭素(カーボンニュートラル)や循環経済(サーキュラーエコノミー)を実現していくにあたり、日々大量に発生している食品廃棄物を有効に活用することは重要なテーマの一つである。食品廃棄物を単純に焼却処理するのではなく、資源として利活用することは、資源の有効活用という観点に加えて廃棄物処理に関わる社会コストの削減という観点でも効果的である。

これまで食品廃棄物のリサイクル手法としては、「飼料化」「肥料化」の二つの手法が一般的であったが、昨今どちらの手法も事業環境は厳しい状況にあり、近年注目を集めているのが「メタン化(バイオガス)」である。

メタン化は、有機物をメタン菌の作用により発酵・分解し、その過程において創出されるメタンを主成分とするバイオガスを回収する技術である。回収したバイオガスは、専用の給湯器・ボイラーにて燃焼し温水として熱利用できるほか、発電機を通じて電気としても利用できることから、リサイクル後の製品需要に困ることがないことが最大の特徴である。FITにおける優遇や、カーボンニュートラルに向けた官民の取り組み強化の追い風を受け、昨今急速に活用が進みつつある。

超小型プラントで廃棄物を資源に

ビオストックは、ヴァイオスと共同で、超小型バイオガスプラントを開発した。この超小型バイオガスプラントは、①コンテナ格納で取り回しが容易である上、②遠隔監視システムが備え付けられており無人運転が可能であるという二つの特徴があり、食品廃棄物排出量が1日当たり1tから対応可能である。

食品工場などでは、1工場当たりの食品廃棄物排出量が1~5t程度であることが多く、従来は原料や設置スペースの確保の観点から、工場内にオンサイトでバイオガスプラントを設置することは困難であったが、本プラントであれば可能である。

従来外部へ委託していた廃棄物処理を工場内で完結することで、食品リサイクル率を向上させながら廃棄物処理コストを削減できる上、再生エネルギーも回収できることで、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献をPRすることも可能である。

また、廃棄物処理施設や下水・し尿処理場の維持運営費増加に悩む自治体においても、本プラントは有効なソリューションになると考えている。超小型バイオガスプラントは、再エネ創出・リサイクル・廃棄物処理の分散化(廃棄物輸送削減)の観点から、まさに時流に即したソリューションであり、今回の実証を契機に、全国への普及拡大に努めていく。

※次回はフォレストエナジー執行役員の勝山猛さんです。

【需要家】既築住宅の省エネ化 設備の技術開発支援を


【業界スクランブル/需要家】

 4月に建築物省エネ法の改正案が可決され、2025年から全ての新築住宅に省エネ基準の適合が義務付けられることとなり、それ以降は断熱水準の乏しい住宅は新築市場から退場することとなった。

一度建てた住宅は何十年もストックとして残るため、性能の乏しい住宅を将来に残さないためには、このような政策の効果は意味があると考える。しかし同時に、性能の乏しい既築住宅にも目を向ける必要がある。

21年に開催された「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」の資料を基に計算すると、13年時点で省エネ基準以上の断熱性能を有する住宅がストックに占める割合は戸建に2・4%、集合住宅3・7%、そこから対策を講じ、30年には戸建に28・5%、集合住宅30・7%と見込む。

見方を変えると30年時点でも70%程度の住宅は断熱水準が低いままということになるが、断熱改修は費用の観点から実施は容易ではない。住宅側だけでなく、設備側も既築対策は容易ではない。特に既築集合住宅での設備更新はスペースなどに制約が多く、ヒートポンプ給湯機は設置のハードルが極めて高い。こうしたところには新たな設備開発が求められる。

先日ニューヨーク市住宅局は、公営住宅向けに低コストで設置が簡単な新型ヒートポンプの技術開発と3万台の供給を行うメーカーをコンペで選定し、集中投資を行うと発表した。

この方法であれば初期需要が確保されるため、メーカーの開発リスクを小さくできる。同市は過去にもこの方法で集合住宅用冷蔵庫も調達した。困難はあるだろうが、わが国でも既築住宅向け設備の技術開発のための政策が必要だろう。その際にこのような事例は参考になるのではないか。(O)

【中野洋昌 公明党 衆議院議員】「エネルギー安定供給、災害時も」


なかの・ひろまさ 2001年東京大学教養学部卒。同年国土交通省入省。米コロンビア大学国際公共政策大学院修了。12年衆議院議員初当選(兵庫8区)。19年~20年経済産業大臣政務官。当選4回。

防災・災害対応を専門に新潟県中越沖地震や東日本大震災など、現場の最前線を走り続けた。

経産大臣政務官として電事法改正に携わり、災害とエネルギー安定供給で存在感を示している。

 東京大学卒業後の2001年、中央省庁再編で誕生した国土交通省に1期生として入省した。「国交省は生活に身近なインフラや街づくり、地域に密着した政策が多く、魅力を感じた」と入省の決め手を話す。省内のチームワークや省庁再編後の風通しの良さも後押しし、国交省でインフラ政策のほか防災、災害対応で活躍。世界初の地震予報「緊急地震速報」の導入などに携わった。

政治家を志すようになったきっかけは、国交省在籍時代に国交相を務めていた冬柴鉄三氏との出会いだ。「東日本大震災後の政治の混乱を役所の中で感じていた。そのタイミングで縁があり、冬柴先生に声をかけていただいた」。冬柴氏の後継として出馬し、12年に34歳の若さで初当選を果たした。以来、専門分野の防災、災害対応だけでなく大学生などへの給付型奨学金創設など、若者を対象にした政策も進めている。自身も大学時代に肉体労働のアルバイトと勉学との両立に苦労した過去があり「教育や若い世代向けの政策は、日本の未来のために必要だ」と語る。

地域活性化の活動にも尽力し、選挙区のある兵庫県尼崎市では中小企業の支援、商店街の空き店舗対策などに奔走。尼崎市内の各種団体と意見交換を行い、地域との共生に取り組んできた。「政治家として、応援をしていただいた皆さんのためになる仕事をしたい」。経済安全保障や税制度改革など、与党内で意見が分かれ、決断力が問われる政策にもしっかりと声を上げる。

電力自由化に伴う旧火力発電廃止 大手電力会社の予備率低下を危惧

現在は衆議院の経済産業委員会や原子力問題調査特別委員会の理事を務める。エネルギー分野に関しては「脱炭素社会の構築と日本の経済成長、エネルギーの安定供給を両立させるのは政治家の仕事」と話す。東日本大震災ではガソリンなど燃料を輸送、被災地に届けるなど、防災の専門家としてエネルギー安定供給の重要性を熟知。電力自由化で、大手電力会社が経営合理化を図り、古い火力発電などを休廃止し、それに伴う予備率低下を危惧する。岸田文雄首相による今冬までの最大9基の原発再稼働については、「エネルギーの安定供給という意味では、当面の手として(再稼働を)しっかりやるしかないと思う」と理解を示している。

エネルギーの安定供給と自身の専門である防災との関わりについて、18年9月に襲来した台風21号による大規模停電が印象深いと話す。関西電力によると、当時は管内で延べ約220万件が停電。自身も被災した中で「実際に停電や被災しなければ分からないことがあった」という。電力会社の停電情報システムでは、高圧線が復旧し停電解消と表示されても、高圧線から個別需要家をつなぐ低圧線や引込線が破損した場合、認識できず隠れ停電が発生することを目の当たりにした。解決にはスマートメーター導入など個人情報を含むデータの活用が必要だが、当時の電気事業法では「情報の目的外利用の禁止」が定められていた。経産大臣政務官として電気事業法改正に携わり、20年6月にデータを有効活用する制度を整備する改正案が成立。「エネルギーの安定供給は災害時でも重要。有効な対策のブラッシュアップをしなければならない」と話す。

再生可能エネルギー導入については「太陽光発電は国土の狭さから、既に面積当たりで世界1位になっている」と無秩序な再エネ乱開発に警鐘を鳴らす。地域と再エネの付き合い方についても、当初はうまくいっていたが、現在は事業者と開発に反対する地元との軋轢が生まれていると指摘。環境省とも協力して「いかに地域で再エネを受け入れてもらうか、新しいフェーズに入っている」と、再エネ促進のためには地域社会との共生が不可欠との認識を示した。また、燃料価格高騰を原因とする電力のスポット価格の高値推移により、新電力の経営が圧迫されていることにも触れ「エネルギー価格は非常事態だ。電力自由化の在り方も含めて、今の状況を変えていくのは政治の力だ」と訴える。

電力ひっ迫問題に対しても、まず今冬の電力危機を乗り切るために、火力発電の重要性を改めて提唱。追加供給公募による火力発電稼働と予備率の確保、ロシア産石油・天然ガス輸入の対策を臨時国会で議論を進めるとしている。一方で中長期的な視点では「革新炉の開発、原発新増設・リプレースなど、原子力政策の在り方は非常に大事になる。エネルギー政策全体の議論として、経済産業委員会でも話し合っていく」とエネルギー問題の解決に意気込む。

座右の銘は「基本は力、持続は力」。災害現場の最前線で、国民の幸せに尽くす信念を貫き通してきた。これからも国民の安心安全、国土を守るため走り続ける。

【マーケット情報/10月21日】米国、中東原油が続落、需給緩和感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物、および中東原油の指標となるドバイ現物が続落。米国の供給増加、中国の経済減速見通しで、需給がさらに緩んだ。

米国は、エネルギー価格低減のため、さらに1,500万バレルの戦略備蓄放出を計画。また、米エネルギー情報局は、主なシェール層からの11月産油量が、前月比で増加すると予測した。また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表する先週の原油リグ稼働数は、前週から2基増加で612基となり、WTI先物、ドバイ現物を下押した。そんななか、中国政府が、7~9月GDPの発表を延期。同国経済の先行き不透明感と、石油需要減少の懸念が一段と強まった。

一方、北海原油の指標となるブレント先物は上昇。足元の需要回復見通しが上方圧力となった。フランスでは、一部製油所でストライキが終了し、原油精製が再開する見込み。また、中国では、10月の海上原油輸入が前月比で増加。ブレント先物の支えとなった。

【10月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=85.05ドル(前週比0.56ドル安)、ブレント先物(ICE)=93.50ドル(前週比1.87ドル高)、オマーン先物(DME)=88.76ドル(前週比3.30ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.33ドル(前週比1.43ドル安)

【再エネ】洋上風力公募の変更 欧州企業が事業見直し


【業界スクランブル/再エネ】

 ロシアのウクライナ侵攻により、石油やガス供給をロシアに依存し、サプライチェーンを有する国々が、燃料費、輸送費の高止まりで多大な影響を受けつつある。

また、サプライチェーンの9割近くを中国に依存する大部分の欧州風車メーカーは、セキュリティーの関係から中国国内の工場閉鎖やサプライチェーンの見直しを進める事を決定し、その結果、風車販売価格、販売方針への影響が予想されている。

一方、昨年末の第一回洋上風力発電占有公募3海域は、商社1社の独占になった結果を受けて、業界関係者を中心に、公募条件の見直し、審査状況公表などの要望が出た。その結果、国の洋上風力促進ワーキンググループでは、運開時期の評価、事業者の規模要件などの評価基準変更を進めている。主要欧州洋上風車メーカーはそれによる規模縮小を理由に、国内に計画していた工場建設の中止、あるいは日本での事業見直しを進める状況になった。

また、主要二大風車メーカーは米国特許訴訟を繰り広げており、バイデン政権の対応方針が注目されているが、総じて国内向け洋上風力発電設備の供給に影を落としつつある。

2030年までに陸上約15‌GW(1GW=100万kW)+洋上約5GW、50年には陸上約30‌GW+洋上約60‌GWの導入を見込む日本は厳しい状況ではあるが、国内メーカーの再立ち上げや欧州メーカーとのアライアンスなどを通して、安定的に風車供給形態を確保することを期待したい。

併せて、風力発電の導入拡大と発電コスト低減を進めるために、政府には陸上の許認可(風車認証、土地利用、環境アセスなど)、洋上の占有海域規制などの一層の規制緩和策(沿岸域での建設など)の対応を期待したい。(S)

さまざまなタイプが優劣競う 選択される革新炉に必要なことは


【多事争論】話題:革新炉の開発

カーボンニュートラル実現の切り札として、高温ガス炉やSMRなどの開発が進んでいる。

それぞれ一長一短があり、予算制約がある中、安全性に加え費用対効果なども問われる。

〈 高温ガス炉・高速炉に優れた利点 再エネとの統合システム構築に貢献 〉

視点A:大島宏之 日本原子力研究開発機構理事 高速炉・新型炉研究開発部門長

高温ガス炉や高速炉のような次世代革新炉(革新炉)は、その優れた特性からカーボンニュートラル(CN)達成への貢献が期待されており、導入に向けての検討が進められている。7月の総合資源エネルギー調査会第4回革新炉ワーキンググループでは革新炉の開発工程を示す技術ロードマップ案が提示され、8月のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議の会合では、岸田文雄首相から革新炉の開発・建設などに関し年末までに具体的な結論を出せるように検討が指示されている。

革新炉は、持続可能性、安全性・信頼性、経済性、核不拡散性・核物質防護について従来よりも高い要件を満たす第4世代原子炉である。このような新しい原子炉の開発には国際協力が不可欠として、第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)がその研究開発を開発国間で協力・推進することを目的に2001年7月に発足した。現在、日、米、仏、EUなど13カ国1機関が参加している。

GIFでは、第4世代炉として、高温ガス炉やナトリウム冷却高速炉など六つの炉型を選定し、研究開発協力を進めている。中でも第4世代炉に適用する安全基準の確立は重要な課題の一つであり、原子力機構はこれまでの経験を基にナトリウム冷却高速炉の安全設計を行う際の基準となる安全設計要件と、それを満足するための具体的な手順を示す安全設計ガイドラインの構築を提唱し、開発をリードしている。これら安全設計要件とガイドラインは、経済開発協力機構原子力機関(OECD/NEA)や国際原子力機関(IAEA)、各国規制機関によるレビューを経て公開され、GIFの枠を超えて活用されている。また高温ガス炉など、他の炉型についても同様の取り組みを進めている。

高温ガス炉は、化学的に安定なヘリウムガス冷却材や耐熱性の高いセラミック被覆粒子燃料、黒鉛構造物を用いることにより、固有の安全性を有する原子炉で、高温熱を用いた高効率発電のみならず、水素製造、高温蒸気供給など、発電以外のさまざまな分野での熱利用が期待されている。原子力機構では、高温ガス炉の試験研究炉である高温工学試験研究炉(HTTR、熱出力3万kW)を大洗研究所に設置し、高温ガス炉の基盤技術の確立と安全性の実証試験を進めてきた。

HTTRでは東日本大震災までに、原子炉出口ヘリウムガス温度950℃での連続50日運転を通じて安定的に高温熱を供給できることを確認するとともに、出力30%から炉心の冷却材流量を停止する炉心流量喪失試験(OECD/NEAの国際共同プロジェクト)などを実施し、高温ガス炉の優れた性能と安全性を実証してきた。東日本大震災後、HTTRは新規制基準への対応を進め、設置変更許可取得に係る審査において、設計基準を超えるような事故を想定した場合でも、被覆粒子燃料の優れた高温耐性や大量の黒鉛構造物の熱容量による温度上昇の緩和などにより事故の進展に伴う燃料破損(炉心溶融)が生じないことが確認された。その結果、施設の大幅な変更なしに21年7月に運転を再開した。22年1月には炉心冷却喪失試験を再開し、冷却材流量停止に加えて、圧力容器外側からの冷却を停止しても安全性を保つことを示した。

原子力の熱利用実現の第一歩として、高温ガス炉の熱を利用した水素製造実現のためには、高温ガス炉と水素製造施設の接続に係る安全性を確認する必要がある。そのため21年6月の「50年CNに伴うグリーン成長戦略」に沿って、HTTRに水素製造施設を接続して30年までに水素製造を実証するHTTR-熱利用試験を開始した。高速炉もまた、運転温度が既存の軽水炉より高く、蓄熱を含む熱利用のポテンシャルを有している。

再エネの時間的変動を補完 システム全体の最適化を図る

CNの実現には統合的なエネルギーシステムを検討するアプローチにより、エネルギーシステム全体としての最適化を図ることが重要である。原子力、再生可能エネルギーといった個々のエネルギー技術を組み合わせ、電力、熱、水素といったエネルギーの需要に応じて効率的・持続的に供給していく統合システムの観点が重要となる。革新炉には、安定的な電力供給と出力調整が可能な点、電力のみならず熱、水素製造での利用可能性を有する点などにおいて、再エネの時間的変動を補完する役割が期待されている。原子力機構は、高速中性子を利用することでウランの利用効率が高く、高レベル放射性廃棄物の減容化にも寄与できる高速炉、熱利用の幅広い可能性を持つ高温ガス炉と再エネを組み合わせ、エネルギーの持続的かつ安定供給に向けたシステムの検討にも着手している。

おおしま・ひろゆき 東京大学工学部卒。2021年4月原子力機構理事。高速炉・新型炉研究開発部門など大洗拠点に関する業務を統括。

【火力】kW・kW時・⊿kW 電気の価値どう測る?


【業界スクランブル/火力】

 今夏の東京では猛暑日の日数が過去最高の14回を記録した。過去をひも解くと1995年と2010年に13回だったとのことで、こうして見ると10年に一度程度の厳気象を考慮するというのは経験則としては妥当であると思える。だが、来年さらなる猛暑にならないとの保証があるわけではなく、需要想定を元に適正な供給力を導き出すのは容易なことではない。

電力の安定供給には、kW、kW時、⊿kWのそれぞれを確保する必要があるという点は、世間にも広く知られるようになってきたが、具体的な中身になるといまだ曖昧な理解のままだ。

kWは発電設備量の問題、kW時は一次エネルギーの量、主に燃料確保の問題という理解は概ね合っているが、揚水発電や二次電池でkW確保を考える場合には注意が必要だ。これらは短時間の需給調整にも有効な設備ではあるが、事前にためておいた電力分しか使えない。燃料さえあれば、持続的に出力調整が自由自在な火力発電とはおのずから使い勝手に違いがある。このことは、電気自動車が航続距離や充電時間の問題で現状ではエンジン車に及ばないことに類似している。また、充電元を何に求めるのかとの観点で、kW時不足の懸念に拍車をかける恐れがあることも考慮する必要がある。

一方、需給調整力の扱いは、系統側あるいは市場側のニーズから細分化される方向で検討されているが、電源側の視点としてそれでよいのだろうか。火力発電は、あらゆる周期の時間軸に対し一つの設備で対応でき、刻々と変化する系統側のニーズに随時対応することで貢献している。市場の細分化は、その利便性をスポイルしないだろうか。火力発電は、短期限界費用というkW時の価値を表す物差しだけでは測りきれない点を忘れないでもらいたい。(G)

【原子力】六ヶ所工場の稼働 延期を気にせずに


【業界スクランブル/原子力】

日本原燃は六ヶ所再処理工場の完工時期について、これまで2022年度上期としてきた。だが、新規制基準に工場を適合させるための追加工事や、工事に必要な詳細設計の認可(設工認)の審査、原燃自らが行う使用前検査など各種手続きに予想以上に時間がかかり、進んでいないために予定通りの完工を断念した。

原燃は原子力規制庁から工程の変更を示すように求められているが、完工に向けた手続きには十万点以上といわれる機器・設備を対象とする規制側の設工認の審査をはじめとして、事業者側では期間を見定められないことも少なくない。そこで完工時期について「未定」とした上で、設工認の認可の目途がついた段階、すなわち規制庁へ設工認の「補正」を提出できた時点で、新しい完工時期を見通して、それを織り込んだ新しい工程を公表することになる。

結果として26回目の工程の延期となり、今後は延期の幅がどのくらいになるかが話題の焦点になってくる。しかし、この際、少々期間が余計にかかってもいいという割り切りが必要ではないか。少々の遅れを防止するよりも、むしろしっかりと安全性の高い、地元をはじめ国民の期待に応えられる工場を造り、完成してもらいたい。その上で、操業に向けて、地元自治体との間で、きちんと説明義務を果たし、住民との間でウィンウィンの関係を築いてもらいたい。

再処理工場が完成すれば、イランのアザデガン油田程度の小さな油田を国内に有することに相当する意味がある。ウクライナ戦争で、エネルギー安全保障の重要性が高まる中、再処理工場がS+3Eというエネルギーの要諦を確保する上で大きな意義を発揮することを期待したい。日本にとっては、それは夢の実現になるはずだ。(S)

【特別寄稿】追悼:故 領木新一郎氏を偲んで~阪神・淡路大震災で見せた胆力 卓越した手腕でガス業界をけん引~


大阪ガスのトップを務めた領木新一郎氏が8月1日に死去した。

阪神・淡路大震災では社長として、約86万戸のガス供給停止を決断した。

 領木さんは、大阪生まれの大阪育ち、昔の良き時代の大阪人の雰囲気を漂わせた人でした。はにかんだ笑顔が印象的で、怒った顔を見たことがありません。どこかつかみどころがない雰囲気はありましたが、エネルギー業界での業績たるや素晴らしいものでした。

日本ガス協会会長として、エネルギー分野での自由化議論が始まった中で、大ロガス事業分野の参入規制の緩和、接続供給制度の導入、料金引き下げ時の届出制度への移行、選択供給約款制度の導入、兼業規制の廃止など、業界が一変するような重要な課題に解決の道筋をつけられました。

また、地方ガス事業者の天然ガスを同一の天然ガス種へと集約することにも尽力され、ガスの市場規模の拡大、生産コストの低減とサービス水準の向上を図るとともに、一酸化炭素を含まない天然ガスヘの転換により保安水準の向上を図る「IGF21計画」を推進されました。

ガス業界が大手から中小まで多種多様な事業者で構成される中で、協会としてまとまって活動することができたのも、領木さんの卓越した手腕と人間性の賜物です。

大阪工業会の会長としては、大阪商工会議所との統合を主導され、経済界の効率化を成し遂げた大阪を代表する財界人でした。

大阪ガスの経営者としての業績も数え切れません。大阪ガスの歴代社長は在任中に一つ大きな決断を迫られると言われていましたが、領木さんの場合は、まさにあの阪神・淡路大震災時のガス供給停止の決断でした。被害が甚大な阪神地区を中心に約86万戸のガス供給を停止しましたが、その一方で大阪市内のガス供給は止めないという判断、これが大正解でした。この判断のおかげで、大阪市や隣接する尼崎市が被災地のガス復旧に向けた支援基地となり、また大阪経済の活力にブレーキをかけずに済んだのです。

ガスの完全復旧まで3カ月を要しましたが、その間、危機に動じない胆力のある領木社長の下、社員は一丸となって復旧活動に励むことができました。

地震後にあらためて領木社長のお姿を見ると、すっかり痩せておられ、やはり並大抵のご苦労ではなかったのだと思い知りました。以降、雲上に蒼天あり―「そのときは苦境であっても、努力して困難を乗り越えれば、素晴らしい世界が待っている」という信念を周囲に語っておられました。

社長、会長を退かれた後も、現役時代と変わらぬ、ゆったりとしたお人柄に接することができたのは、私にとっても、社員にとっても大変幸せなことです。

これからは、どうかゆっくりとお休みください。ご冥福を心からお祈りいたします。

文/岩井博行 (岩井レポート・アドバイス代表元大阪ガス理事・本社支配人)