外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】関口博之 /経済ジャーナリスト

 「GX(グリーントランスフォーメーション)を進める上でも、エネルギー政策の遅滞の解消は急務だ」。8月24日、GX実行会議で岸田文雄首相はこう述べ、原子力発電所の新増設・リプレースを検討するよう指示した。東京電力福島第一原発事故以降、原発への国民の不安が拭えていないことを背景に政府が避けてきた論点に、ようやく踏み込む姿勢を見せたが、これは同時に「政策の遅滞」を自ら認めた形でもある。

エネルギー安定供給と脱炭素化の両立には、原発という選択肢は世界的に見ても多分、外せない。日本では60年運転を前提にしても2040年代後半から稼働できる原発は大幅に減る。去年のエネルギー基本計画でも、議論を求める声があったものの、棚上げされてきたのがこの新増設という課題だった。

ただ、今回示されたテーマの中で、抜け落ちているように見えるのが原発の新増設を担う「事業主体」をどう考えるのか、という論点だ。今の大手電力各社をそのまま事業主体に想定するのか。有識者からは各社の原子力事業を切り出して統合し、原子力発電専業会社を新たに作るという案も出されている。さらにこれを官民共同で設けるという発想もあるだろう。

美浜発電所はリプレースの候補地のひとつだ

原発専業会社という考え方にはいくつかの利点がある。第1には事業者への信頼回復という懸案への一つの答えになる。柏崎刈羽原発の再稼働の見通しが立たないのは東京電力に原発を動かす資格(適格性)があるのか、という疑念があるためだ。安全対策上の不祥事も相次いだ。地元をはじめ世論の理解を得るある種のけじめとして、原子力事業は東電から切り離して再出発を、という「荒療治」も必要かもしれない。

二つ目は原発建設には長期にわたるファイナンスが要るという点だ。総括原価主義はもはや認められず、電力自由化が進む中での長期投資になるだけに仮に国が新増設を認めるとしても、そもそも手を挙げる電力会社がいるのかどうか、おぼつかない。国が財政支援にも踏み込む場合、受け皿は特殊法人的な事業体で、というのはあり得る。

第3には人材の維持・育成やノウハウの継承という視点だ。原発の新増設には当然、この目的もある。ただ、原発に関わる人材を各電力会社がこの先もそれぞれに抱えていくことは現実的なのだろうか。人材をプールして確保するため、一つの事業体に集約することは有効だろう。第4は脱炭素電源としての原発の価値だ。安定的なベースロード電源で、かつ再生可能エネルギーとともに脱炭素化を支える原発は、いわば「公益性のある電源」ともいえる。新電力との関係で言っても一部の大手電力のみがその価値を得てよいのか、という視点だ。

振り返れば、福島第一原発事故直後から、「国策民営」方式は行き詰まっている、いっそ国営化などの大ナタを、といった議論はあった。新増設を問うならば原子力政策の原点として誰が原発を作り、動かすのかも俎上に載せるべきだろう。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

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せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

【マーケット情報/10月10日】原油急伸、供給減少の予測が支え


【アーガスメディア=週刊原油概況】

10月3日から10日までの原油価格は、主要指標が軒並み急伸。原油の品薄感が台頭し、価格に上方圧力を加えた。

OPECプラスは、11月、日量200万バレルの大幅減産の計画で合意。インフレ率の上昇にともなう経済の冷え込み、それにともなうエネルギー消費減少の懸念が背景にある。サウジアラビアは、実際の減産は日量100~110万バレルになると見ているようだ。

また、欧州連合は、ロシアによるウクライナ一部地域の併合を受け、ロシア産原油に対する禁輸措置を強化する方針。同製品の、第三国に対する海上輸送に価格上限を設けることを提案した。

一方、アジア太平洋地域の石油企業5社によると、サウジアラムコ社の11月ターム供給は希望通りとなる見込み。また、米国における11月デリバリーのスイート原油の戦略備蓄放出は、計画を15万バレル上回る1,015万バレルとなった。供給不安がある程度和らぐも、価格の弱材料とはならなかった。

【10月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=91.13ドル(前週比7.50ドル高)、ブレント先物(ICE)=96.19ドル(前週比7.33ドル高)、オマーン先物(DME)=96.72ドル(前週比8.51ドル高)、ドバイ現物(Argus)=96.75ドル(前週比8.76ドル高)

系統電力・上下水道から隔絶 八ヶ岳で完全オフグリッド生活


【オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳】

電力需給ひっ迫の解決、社会インフラの転換へ向けた第一歩になるか―。

長野・山梨両県にまたがる真夏の八ヶ岳山麓を訪れ、完全オフグリッド生活の実態に迫った。

 草木が青々と茂る8月の八ヶ岳―。その麓に、異彩を放つ五つの白いテントがある。目立つので地元の人も存在は認識しているが、どういった施設なのかを知る人は少ない。

インスタントハウスとソーラーカーポート

白いテントの正体は、「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」。一般的にオフグリッドとは、送電網に接続されていない状態を指すが、ここは水道管にもつながっていない。〝完全オフグリッド〟の居住環境だ。

「LIFULL」が運営する定額制施設「LivingAnywhere Commons八ヶ岳北杜」の敷地内に2月、建てられた。同社と国際環境経済研究所理事の竹内純子氏らが設立したU3イノベーションズが、完全オフグリッド生活の実証実験を行っている。担当者の川島壮史さんは、自宅のある東京と施設を行き来し、週の約半分をここで過ごす。

人口減少や過疎化によって、地方では社会インフラの維持・管理が大きな課題となっている。インフラ事業者が需要拡大が見込めない過疎地域に投資しても、それを回収することは難しい。水道管の更新にしても、ガソリンスタンドの営業にしても、利用者が少ないために採算が取れない。

そこで注目されるのが、オフグリッドの住環境だ。これまでのインフラのあり方が、規模の経済性から「人口集中」を前提としていたのに対し、オフグリッドはその前提から解放される。LIFULL社長の井上高志氏は、「社会インフラの自律分散型への転換に向けた第一歩」と、実証実験の意義を語る。

夏場は電力枯渇の心配なし クーラー全開で快適な室内

いざ、テントの中へ―。茶室のような狭い入口をくぐると、小洒落たモダンな空間が広がっていた。スタイリッシュなダイニングキッチン、余計な家具を置かずにシンプルさを追求したリビング。プライベートルームは寝室の下にデスクとソファがあるロフト式で、穴蔵感が心地いい。秘密基地のようで、大人もテンションが上がる。

ゆったりとくつろげるリビング

一般住宅と違うのは、壁だ。ゴツゴツとしていて、触ると発泡スチロールのように少し柔らかい。実はこの建物、テント生地と断熱材だけで造られた「インスタントハウス」。テント生地を風船のように空気を入れて膨らませ、内側に発砲ウレタンの断熱材を吹きつける。それが固まれば完成だ。昨年の12月27日に着工、翌日の夕方には完成という早さ。名古屋工業大学大学院教授・北川啓介氏が開発・設計を行い、LIFULLが製品化した。

この日、外の気温は32度だが、室内は涼しく、快適な温度を保っている。24時間、クーラー全開でも、電力が枯渇する心配はない。電気が作られるのは、屋根が太陽光パネルになっている駐車場「ソーラーカーポート」だ。5・1kWの発電容量を持つソーラーカーポートを2棟導入。電気自動車(EV)にも直接に充電できるから、近くの買い物ならこれで事足りる。

排水はろ過して循環 ビジネス展開目指す

白いテントの一つ「インフラ整備室」には、リチウムイオン電池がズラリと並ぶ。ソーラーカーポートで作られた電気は、ここに蓄電される。容量は32・26‌kW時で、一般家庭の電気使用量の約3日分に相当する量だ。

実は今年3月、ピンチに追い込まれたことがある。雪が降り続いた21日、午後9時の電池残量は約40%、翌22日朝には約20%となり、停電の危機を迎えていた。カーポート上には15㎝程度の雪が積もっていたが、両面受光の太陽光パネルによって停電は回避した。川島さんはこの時、発電量と蓄電池の残量を確認できるモニターと睨めっこ。節電を余儀なくされた。

インフラ設備室には蓄電池がズラリ

水はどうしているのか―。その答えは、インフラ設備室にある。シャワーや調理などで使われた排水は、インフラ設備室内のタンクに貯められ、3種類のフィルターでろ過。その後、塩素を注入して再利用する。一連の水処理設備は、3時間の稼働で300ℓの生活水を生み出す。1人が1日に使う水の量は100~150ℓとされるから、2~3人で暮らすには十分な量だ。蒸発や皮膚などに付着して外に流出した分を保給するため、数カ月に1度、雨水を供給する。今後は飲料水にも挑戦するという。

壁が断熱材だけなので、外の音がよく聞こえる。朝は鳥の鳴き声で目が覚めるという。これだけなら、どこの田舎でも味わえるが、

異なるのはエネルギーを太陽から直接もらっていることだ。「都会で暮らしていると、電気は遠くで作られたものとの認識だが、ここにいると自然につながっている感覚が得られる」と川島さん。この感覚が、やみつきになるのだとか。

LIFULLとU3イノベーションズは、実証実験を通じてビジネスへの展開を目指す。リゾートや住宅サービス事業者には、レジャーとして。地方にはサステナブル・ビレッジなど、新たなインフラとして―。どのような場所でも、水や電気、暑さや寒さを凌げる環境を「オフグリッド・インフラボックス」(仮称)として提案したい考えだ。

オングリッドか、オフグリッドか―。近い未来、住居のインフラ環境を選択する時代がやってくるのかもしれない。

岸田首相は原子力政策を転換したか GX会議発言に見る「検討使」ぶり


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 8月24日のGX実行会議での岸田文雄首相の原子力に関する発言に、脱原発派は反発し、原発推進派は歓迎している。しかし、役人が作成した原稿を読んでいるであろう岸田首相の発言をなぞってみると、やはり「検討使」で何も言っていないのに等しい。まさに、「万犬虚に吠える」という状況だ。

〈原子力発電所については、再稼働済み10機の稼働確保に加え、設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を採ってまいります。〉

と言っているが、単に原子力規制委員会での規制の審査状況を示しているのにすぎず、「国が前面に立って」というのもこれまでの常套句だ。具体的に規制の在り方を見直すとか、各自治体が苦戦している避難計画の策定のために具体的な予算措置を講じるとか、そうしたことをするつもりはないだろう。今、国がやっていることに何か新たな政策が加わるわけではない。

原子力は「急がば回れ」 今こそ政策再構築の議論を

〈原子力についても、再稼働に向けた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など、既設原発の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目が示された。これらを将来にわたる選択肢として強化するための制度的な枠組み、国民理解をさらに深めるための関係者の尽力の在り方など、あらゆる方策について年末に具体的な結論を出せるよう、与党や専門家の意見も踏まえ、検討を加速してください。〉

「次世代革新炉の開発・建設」と言っても、その開発に具体的な見通しがあるわけでなく、それがどこかで建設に着手されるようなことは現時点では想定できない。ここで言われている「制度的な枠組み」や「関係者の尽力の在り方」というものには注目したいが、単に脱炭素化や供給力を埋めるための数字合わせとして惰性で原子力を推進しても、これまでの原子力政策は失敗を繰り返すだけだろう。「専門家」と称する人たちが、「国策」とか「純国産エネルギー」とかお題目を唱えながら、結局精神論ばかりで進めてきたことが、日本の原子力政策の失敗の歴史だからだ。

今政府が行うべきは、官民のどの主体がどのような役割分担と責任を負うのか、国際的な動向を見極めながら技術開発の方向性を誰がどのように決めていくのか、科学的で合理的な安全規制の在り方は何か、といった本質的な論点を議論して、原子力政策の再構築を行うことである。まさに「急がば回れ」だ。が、「年末に具体的な結論を出す」という今の動きを見る限り、それは期待できそうもない。

国葬問題やカルト宗教との関係などによって岸田政権の支持率が急落する中、末期の政権に国民に不人気な決断を押し付けてしまおうというやっつけ仕事ではいけない。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

JFEが大型電炉導入へ 原発の重要性が浮き彫りに


国内鉄鋼2位のJFEスチールが、岡山県倉敷地区の高炉1基を大型電炉に切り替える方針を示した。鉄鋼大手3社で初の試みだ。

電炉は高炉に比べてCO2排出量を4分の1に抑えられるが、生産性が低い。JFEは2024年から「グリーンイノベーション基金」で採択された高効率・大型電炉の開発を行い、倉敷地区の高炉が改修タイミングを迎える27~30年に電炉への切り替えを目指す。

電炉は自動車用鉄板など製造できない高級鋼材が多い。だが、天然ガスで還元された還元鉄を活用すれば製造できる鋼材もある。そこでJFEは新たに伊藤忠商事とともにアラブ首長国連邦(UAE)鉄鋼最大手のエミレーツ・スチールと合弁会社を設立、25年度から還元鉄の生産を始める。高炉で製造していた高級鋼材の一部を電炉で製造できるとなれば画期的だ。

採算性はエネルギーコスト次第だが、西日本では原発が稼働している。倉敷地区の電炉転換は、さらなる原発の再稼働で産業用電力の経済性改善を期待しての判断とみられる。ここにも脱炭素に原発が欠かせない現実がある。

市場連動型への移行を把握せず 起こり得る混乱と大量のクレーム


【論点】最終保障供給約款の変更/千島亨太 エネチェンジ 執行役員 法人ビジネス事業部 事業部長

電力調達を新電力などから最終保障供給に切り替えた需要家は約3万5000件に達した。

最終保障供給は市場連動型へ移行したが、送配電事業者も需要家もその重要性に気付いていない。

 電力切り替え支援サービスを提供する当社には、2022年9月までに最終保障供給になった(またはなる予定の)需要家を中心に、月に数百件の新規見積り依頼がきている。当社の事業として考えると本来であれば喜ばしいことだが、この問い合わせの内容を掘り下げると、とても喜べる状況にないことが分かる。本稿では需要家側の課題と一般送配電事業者の課題の2点に絞って伝えたい。

①需要家の課題

当社が認識している課題をまとめると、周知の問題と選択できる電気料金メニューが限定的であることの2点になる。最終保障供給約款の制度変更の注意、そして単価の見直しによる市場価格調整単価の影響の通知や注意喚起など、需要家にとって難解で複雑な変更点を丁寧に説明するメールマガジンの配信を行っている(図1参照)。

図1 ●●電力エリアで試算した市場価格調整額を加えた値上げ額

受信した需要家からは、「こんな制度変更とは理解していなかった」「燃料調整費の変更の延長くらいの認識だった」などの声が多く寄せられている。そのことから、現状の需要家への周知方法は十分ではないことが分かる。

22年8月15日、電力・ガス取引監視等委員会が公表した8月1日付の最終保障供給契約数は約3万5000件。そのことからすると、当社が発信できる需要家数はその15%程度にとどまる。依然、最終保障供給約款の変更の重要性を把握していない需要家が多く存在していることを懸念している。

二つ目は、選択できる電気料金メニューが限定的であることだ。当社では、数十社の小売り事業者と連携するなか、一部の小売り事業者とは市場連動の料金メニュー開発を行うなど、最終保障契約より割安で提供できるメニューの開発支援を行っている。

全国規模で、事業者の提案状況や内容の調査も行っているが、安定的かつ継続的に標準料金型メニューを提供している事業者は存在しない。そのため需要家は、自社の電力使用パターンに合った市場連動型メニューから比較・検討している状況になっている。

図2 需要家が選択できる料金メニュー

認識が足りず周知不足 需要家は変更を見過ごしも

②一般送配電事業者の課題

一般送配電事業者の対応には次の2点の懸念が考えられる。一つ目は、電気料金への影響が大きい重要な通知だという認識の欠如からくる周知不足である。最終保障の料金変更の通知は各社書面、メールなどで通知を実施しているものの、料金変更の説明は市場価格調整単価が追加される変更図および、補正項が追加されることとその式の説明にとどまっている。

具体的に自社の電気料金単価に反映される料金がいくらになるのかが、確認しづらいものとなっているのだ。需要家の一部は燃料費調整程度の変更だと見過ごしてしまう懸念が考えられる。そのため変更の重要性を看過し、他社料金プランの検討をしない需要家が発生している懸念が考えられる。

二つ目が、周知不足によるクレームが発生する可能性への懸念だ。各送配電事業者が書面、メールなどで通知とホームページ上の掲載を実施したとはいえ、卸取引市場により日々変動するリスク性のあるメニューへの変更であり、より丁寧な説明が求められる。

さもなければ初回請求が行われる10月以降に、需要家からの変更に関する周知不足と電気料金の上昇への問い合わせやクレームが多数発生する懸念がある。

当社からの通知や、報道で制度の変更を知った需要家からの問い合わせが現在も続いている。情報提供の強化と周知を徹底するためには、各送配電事業者からも当初の通知やホームページ掲載だけでなく、方法を問わず具体的な市場価格調整単価を明示し、電気料金へのインパクトを丁寧に伝える必要があると考えている。

セット料金を提案 周知徹底でクレーム抑制を

当社と当社提携先の小売り電気事業者では、最終保障契約の変更による単価の影響を通知した上で、見積もりを希望する需要家に対して最終保障変更後の想定電力料金と各社の市場連動メニュー料金を比較・提案している。

検討時の丁寧な説明と供給開始後の電力市場の定期的な情報提供により、電力料金に対する問い合わせはあるが、クレームといわれる問い合わせは発生していない。単価変更と料金見込みの周知を徹底することで、10月以降の各送配電事業者への問い合わせやクレームの発生を抑制しながら、最終保障契約からの離脱を促すことが可能になるのではと考えている。

今回の最終保障供給約款の変更の最大の目的は、最終保障供給からの需要家を通常契約に戻し、将来的な託送料金の負担を低減させることであった。そのための対策が早急に求められている。

※電力・ガス取引監視等委員会による「22年8月1日時点における最終保障供給契約件数」より(22年8月15日付)

ちしま・こうた  大学卒業後、2006年三井住友銀行(当時)入行。16年に大手新電力へ移り小売り、電源調達、卸電力取引などの各種取引に従事。19年9月に法人ビジネス事業部の執行役員事業部長としてエネチェンジに参画。22年7月からは政策渉外を担当。

メジャー不在のサハリン2 楽観論は時期尚早


ロシアの「サハリン2」の運営主体変更に伴う騒動の顛末は、いまだ楽観視できない状況だ。露政府が8月5日に設立した新会社に対し、三井物産は12・5%、三菱商事は10%と従来比率での継続出資を決定した。露政府は8月末に両社の参画を承認。加えて露ノバテクが新たに参画し、撤退を表明した英シェルの出資を引き継ぐと見られている。

新体制はひとまず整いつつあるものの、供給途絶リスクは消えていない。問題は液化プロセスを含めてオペレーターを担える事業者、つまり欧米資源メジャーの不在だ。実際、露政府は新会社への参画は年400万t超のLNGプラント操業経験者に限るとしたが、ノバテクがシェルの役目をそっくり引き継げるわけではない。

「資源開発系の関係者ほど悲観的な見方だ。何かトラブルがあればガスが搬出できない可能性がある。本件では広島ガスが注目されがちだが、購入比率より、供給途絶の際にはスポットをどれだけ確保する必要があるかというボリュームの問題が大きい。JERAなどへの影響が懸念される」(ガス業界関係者)。電力ひっ迫の正念場の冬が迫る中、ロシアリスクはくすぶったままだ。

驚異的な読み取りスピード 現場の作業効率向上に寄与


【キーエンス】

キーエンスは1974年設立。FA(ファクトリー・オートメーション)用センサーを中心に測定器や画像処理機器の企画・設計・開発・生産を行い、日本のモノづくりを長年支えてきた。常に生産現場の声に耳を傾け、付加価値の高い商品を発表し続けており、今も新製品のうち70〜80%が世界初となる革新的なものが占める。

そんな同社がエネルギー業界向けに拡販しているのが、画像処理技術を応用したハンディターミナルDXシリーズ。

ハンディターミナルDXシリーズ

製造、物流、小売りなどBtoB分野で多くの実績を持つ製品で、読み取り対象のバーコードや文字列が汚れていても、反射していても、ゆがんでいても、条件を選ばず高速かつ正確に読み取りできるのが特長だ。

具体的な採用実績は、LPガスのシリンダー管理、エネルギープラントの資材管理など。LPガス用途では、シリンダーが家庭の軒先に設置されるため、読み取りに適した状態でバーコードが維持できるとは限らない。そうした状態でも正確に読み取ることができる。

さらに、アプリを立ち上げて読み取るまでのスピードが非常に速く、業務効率向上に寄与する。スマートフォンを応用した一般的な製品はアプリの立ち上げから読み取りまで時間がかかり、何世代前の機種になるとさらに遅くなる。

これに対し、DXシリーズは読み取り用途で開発された専用機であり、アプリの立ち上げから読み取りまでの作業が数秒で終わる。

「一般的な製品はピントを合わせて照度を調節するなどして読み取り作業に入ります。DXシリーズに搭載するアルゴリズムはピントや照度が合ってなくても読み取ります。これにより高速読み取りを実現し、生産性を追求するお客さまに大変好評です」。自動認識事業部販売促進グループの担当マネージャーはそう話す。

このほか、堅牢性にも優れている。高さ2・7mからの耐落下試験、水没試験、冷熱衝撃試験、低音落下試験などもクリアしており、過酷な業務環境にも耐え得る。操作性も重視しており、基本は片手で操作できるようになっている。

エネルギー業界のDX促進 検針業務など需要開拓

今後は、電気やガス、水道などの検針業務向けなどにも拡販していく。「エネルギー業界でもDXの取り組みが始まっています。ハンディターミナルのリプレース需要に訴求していきたい」とマネージャーは語る。

現場作業の業務効率向上に寄与するDXシリーズ―。特に読み取りスピードは実際に体感しないと伝わらない面がある。是非一度、デモを試してもらいたい。

経産省が政策検証して自己批判 首相が原発新増設の検討指示


【論説室の窓】井伊 重之/産経新聞 論説副委員長

岸田文雄政権が原発政策を大きく転換し、新増設や建て替えに向けて動き始めた。

そこで経産省がこれまでのエネルギー政策を検証し、自己批判したことに驚いた。

 「電力需給ひっ迫という足元の危機克服のため、今年の冬のみならず、今後数年間を見据えてあらゆる施策を総動員し、不測の事態にも備えて万全を期す」

岸田文雄首相は8月、首相官邸で開かれた「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」にオンライン参加し、現下の供給力不足を解消するため、次世代原発の開発・建設に加え、既存原発の再稼働も政府が主導する方針を初めて表明した。

この会議で岸田首相は「原発の新増設や建て替え(リプレース)は想定していない」と繰り返してきた従来の政府の原発方針を大きく転換し、次世代原発の実用化に向けて新規建設の検討を指示した。その上で年末までに具体的な結論を出すように求めた。

さらに政府の原子力規制委員会の安全審査に合格しながら、再稼働していない7基の原発について、来夏以降の再稼働を目指す方針も示した。この中には東京電力の柏崎刈羽原発6・7号機(新潟県)や日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)も含まれている。

これまで政府・与党は「エネルギー基本計画」に盛り込んだ表現を踏襲し、原発の活用には慎重な姿勢に終始してきた。だが、ロシアによるウクライナ侵略で世界のエネルギーを取り巻く環境は大きく変わり、各国ともエネルギー安全保障の見直しを余儀なくされている。特にわが国の場合、電力自由化と脱炭素の影響で火力発電の供給力が急低下し、電力不足が深刻化している。そうした電力危機を打開するため、既存原発の再稼働に向けて舵を切った。

原発政策の転換をめぐり、岸田政権は周到に手を打ってきた。ロシアがウクライナに侵略して以降、本来は脱炭素戦略を描くための「クリーンエネルギー戦略」で電力の安定供給を打ち出し、原発の活用を強調した。3月に東日本で初めて発令された電力需給ひっ迫警報を受け、首相は4月の記者会見で「原発を最大限活用する」と表明した。そこでは「原発を1基稼働させれば、液化天然ガス(LNG)を年100万トン節約できる」とも訴えた。

GX実行会議の第2回会合で発言する岸田首相
提供:首相官邸ウェブサイト

参院選公約に明記 国民の意識にも変化が

「原発の最大限の活用」は、政府が6月にまとめた経済財政運営の指針(骨太の方針)や自民党の参院選公約にも明記され、政府・自民党の正式な方針に位置付けられた。この間にはマスコミ各社の世論調査でも「原発の活用」を求める意見が過半数を上回るなど、エネルギー価格の高騰や電力不足の深刻化に伴い、国民の意識も変化していった。

一方、経産省では4月に専門家を集めたワーキンググループを設置し、世界で開発が進む小型モジュール炉(SMR)や高速炉、それに実用化が本格化する革新軽水炉について、「最優先で取り組む」とする工程表を策定。技術的に現実的な革新軽水炉を「30年代に運転開始する」と打ち出した。

その総仕上げが、首相が創設を主導したGX実行会議だった。7月の初回会合で首相は「原発の再稼働とその先の展開策などの具体的な方策について、政治の決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」と指示し、政治決断が必要な具体的な項目を挙げるように求めた。

この首相発言について、マスコミはあまり注目しなかったが、首相は会議の中で「1973年の石油危機以来のエネルギー危機が危惧される極めて緊迫した状況だ」と現下の情勢に強い危機感を示した上で、「この危機の克服なくして2030年、2050年に向けたGXの実行はあり得ない」とまで言明している。この時までに原発の政策転換の布石を打ち終え、8月下旬の第2回会合で政策転換を正式決定した。

何より驚いたのが、GX実行推進担当相を兼務する西村康稔経産相が第2回会合に提出した資料だ。そこでは「エネルギー政策の遅滞」とのタイトルで、これまでの経産省の政策を批判しているからだ。電力自由化をめぐっては「供給力不足に備えた事業環境整備や原発再稼働の遅れが相まって電力需給がひっ迫した」と批判。そして再生可能エネルギーの大量導入についても「系統整備や調整力の確保は道半ば」と総括した。

電力システム全体を再点検 政府主導で早期の再稼働を

「省内でも『遅滞』という文言をめぐって議論が白熱した」と同省幹部は苦笑する。中には「失敗」という言葉を使うべきではないかとの意見もあった。現下のエネルギー危機の克服を考えるには、これまでの政策を検証した上で、これから取り組むべき課題を洗い出す必要があると判断したという。そこでは遅滞解消のための政治決断として、「電力の安定供給に向けて電力システムの制度全体の再点検」も盛り込まれた。これまでの経産省のエネルギー政策を検証する内容となった。

目下の最重要課題は、規制委の安全審査に合格した原発の早期再稼働だ。地元同意を獲得するために政府がどのような対応を見せるのか。これまでのように電力会社に丸投げするのではなく、政府が主体的に動くべきだ。政府・与党が将来にわたり、責任を持って原発を活用する姿勢を明示することで立地自治体やその周辺地域の理解を深めてもらいたい。

さらに今後の課題として浮上しているのは、40年とされている原発の運転期間のうち、規制委の審査期間を除外する案だ。原発の新増設がなければ、国内の原発は2060年段階で3基、20年の運転延長が認められても60年には8基しか残らない。政府は新増設に向けて動き出したが、既存原発の安全審査期間を運転期間から除外できれば、より多くの原発の運転期間が確保できる。

審査期間の除外について、規制委は「これは安全規制ではなく、利用規制なので原子力等規制法の対象ではない」との立場だ。そうなると新たな法律が必要となるため、経産省は原子力委員会と共同で議論を始める方針だ。これも原発の最大限の活用だ。具体化を急いでほしい。

エネ基改訂後ガス火力で初 アセスで「袖ケ浦」の評価は


紆余曲折を経て東京ガスの単独計画となった「千葉袖ケ浦天然ガス発電所」の環境アセスメントを巡り、まもなく環境大臣意見が示される見通しだ。今年2月、事業主体の千葉袖ケ浦パワーが準備書を公表していた。2050年カーボンニュ―トラル(CN)と30年46%減目標を踏まえた第六次エネルギー基本計画が昨年策定されて以降、LNG火力への環境大臣意見は初となるだけに、行方が注目されている。

石炭火力計画が乱立した時期、「是認できない」とする環境大臣意見が相次いだ。直近の火力への意見は21年末、電源開発が石炭ガス化複合発電にリプレースする「GENESIS松島計画」に対するものだ。環境省は19年3月、石炭火力へのアセス厳格化の方針を発表。本件ではそれを踏まえ、30年、50年に向けた排出削減の道筋が描けなければ「事業実施を再検討することを含め、あらゆる選択肢を勘案」するよう求めた。

今度の袖ケ浦発電所も、CNへの道筋をどの程度明確化できるかが焦点だ。一連のアセスの動向が、今後のLNG火力の位置付けを示す試金石となる。

【覆面ホンネ座談会】エネルギー有事下の予算 危機克服の「本気度」見えず


テーマ:経産省・環境省の概算要求

 エネルギー特別会計を巡る2023年度予算の概算要求がまとまった。エネルギー安全保障に寄与するとともに、脱炭素効果の高い電源の活用を促す中身となっている。

〈出席者〉A政治家 Bエネルギーアナリスト Cエネルギー業界関係者

―エネルギー危機下の概算要求をどう見ているか。

A 予算額は膨らませてあるが、政策に目新しさはない。ロシアによるウクライナ侵攻を経て、エネルギー価格は高騰し、円安が進行。国際的なLNG調達環境は大きく変わったが、概算要求からはいかに対応していくかという変革への意識が見えてこない。

B 本当に必要なものに資金が振り分けられているのか疑問だ。喫緊の課題はLNGや石炭の安定供給だが、例えば「系統用蓄電池や水電解装置等の導入支援による電力網の強化」に新しく100億円が充てられている。不必要とは言わないが、化石燃料をいかに確保していくか、という視点が欠落している。

 LNGの貯蔵量は、ガス会社が約1カ月分、電力会社はわずか2~3週間分しかない。少なくとも、それを倍増させる必要があるだろう。そのための設備費を負担する仕組みを考えなければならない。

A リスクにさらされた時のために、戦略的に国内の備蓄基地を構築したり、各社のパイプラインを接続したりしないと意味がない。国が何をやるのかが、何も見えない。

C 大手ガス会社などのLNG基地は、各社の需要想定の中で目一杯に使っている。ただ、一部には稼働率が悪いところもあると聞く。効率はよくないが、そこで貯蔵する方法も考えられなくはない。

A 概算要求ではJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)への出資金を増額させた。数年に一度、法改正を行って業務を拡充しているが、権益確保につながっているのか。無秩序な投資を行った前身の石油公団に逆戻りしていないか、検証する必要がある。

C かつて経産省はあらゆる手段を使って石油の確保に努めたが、LNGにはさほど関与してこなかった。しかし、今はLNG確保のため、カタールやオマーンに赴いている。サハリン2の運営会社を再編する大統領令が出された時、当時の萩生田光一経産相と保坂伸資源エネルギー庁長官はかなり慌てていたという話も聞く。経産省はとにかくロシアを刺激しないことを最優先にしているようだ。

A 三井物産と三菱商事が新たな運営会社から参画を認められ、JERA、東京ガス、広島ガス、東邦ガスもこれまでと同じ内容で購入契約を結んだ。目先ではうまく対応できているように見えるが、中長期的な視点で見た場合、外交的な負債になりかねない。

 来年5月、皮肉にもLNGの半分をサハリン2から調達する広島ガスの本拠地、広島でG7サミットが開催される。各国首脳がロシア制裁について議論する最中に、ロシアから「空調が効いた涼しい部屋で会議ができるのは、ロシアのガスのおかげだ」と言われたらどうするのかな。

B LNGのスポット価格が世界的に高騰する中で中東や東南アジア、オーストラリアなどのLNGは今後、これまでと同じ条件で契約更改できなくなる。となれば、依存度を減らしていくしか方策はなく、原発の活用が重要になってくる。運用中の原発33基を全て稼働させると、LNG2000万t分に相当する量を削減できるが、これは日本の全LNG輸入量の約4分の1に相当する量だ。

「エネルギー有事下」で経産省の危機意識が問われている

―岸田文雄首相は8月24日、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議の第2回会合で、原発再稼働や新増設に言及した。原子力政策に進展はあるのか。

岸田発言は単なる現状追認 今こそ原子力政策の再構築を

C 本来、原子力は国家の中長期エネルギー戦略の要の一つと位置付けるタイミングだ。しかし、経産省は再稼働と新増設が必要な理由として、「足元の危機」を利用しているようにも見える。GX実行会議で経産省が示した資料は、「エネルギー政策の遅滞」として、系統整備や原発再稼働などの遅れを指摘した。そして、需給ひっ迫など足元の危機を克服するために、原発再稼働や次世代革新炉の開発・建設などが必要だと唱えている。

B 需給ひっ迫を再稼働の理由にしていては、状況が打開されたとき「原発は必要ナシ」と言われてしまう。早急な再稼働と、中長期的な計画の策定は分けて行うべきだろう。

A 原子力政策は「急がば回れ」だ。いま破綻している原子力政策を、根本から再構築する必要がある。最終処分地や核燃料サイクル、国と事業者の役割分担、規制のあり方、技術開発の方向性、そのスケジュール……。政府はその大枠を提示すべきだ。今のままでは、有権者から「最終処分地はどうするのか」と聞かれたとき、政治家はハッキリと答えられない。最近の世論調査では、再稼働に半数以上が賛成している。国民の理解を得られる土壌ができ上がった今こそ、原子力政策を立て直す好機だ。

B すぐに取り掛かってほしい。稼働を停止して10年が経ち、現場での実務経験がない人が増えている。残された時間は長くない。規制委改革も待ったなしだ。三条委員会で政治が直接に指揮・命令できないが、業務監視は求められている。3・11以後、なぜ日本だけが原発を停止しながら審査を行っているのか、なぜ10年もかかっているのか、委員の選任は適切だったのか―。

A 規制委といえども、原子炉等規制法(炉規法)に基づいての規制しかできない。審査自体には政策的な関与はできなくても、そもそもの審査方法の枠組みや規制体系の見直しは、炉規法を改正できる立法府の役割だ。例えば、不服がある場合は第三者に申し出られる仕組みの導入など、改善できる点は多い。

新規制基準は、紋切り型のように「世界で最も厳しい」といわれるが、その厳しさは「質」ではなく「量」だ。「世界一厳しい規制をやっている」という政治家の言い訳のために、電力会社が苦しめられている側面もある。

B 裁判で例えれば、規制委は裁判官と検事、弁護人までを兼ねているようなものだ。被告のように扱われる電力会社は、炉が止められ、拘置所に入れられた挙句、無実を証明するまで出られない。

C 2年前、自民党政調の原子力規制に関する特別委員会で、規制庁は40年運転制限ルールは立法政策の問題と改めて確認した。また今年の同委員会では、安全審査が行政手続法上の標準処理期間である2年を遥かに超えて遅滞していることを指摘した。GX実行会議でも「運転期間延長」いう言葉が入った。今後、事態がどう進むかだ。

東電EPを襲う債務超過 狂い始めた総特シナリオ


東京電力エナジーパートナー(EP)の経営問題がついに火を噴いた。4~6月期に908億円の赤字、6月末時点で67億円の債務超過に陥り、EPが行う2000億円の増資を東電ホールディングス(HD)が引き受ける。これで10月末には債務超過を脱するものの、これほどの増資を要した背景として「今年度通期のEPの赤字は4ケタ億円後半に達する公算」(政府関係者)との見立てもあり、事態は深刻だ。

HDがEPを手助けするしか道はなかったが……

そもそも競争がし烈な東京エリアで発・販・送を3分割すればEPの経営が傾くのは自明だった。「その展開が思ったより早かった。一時はEPの特高や高圧の部分売却などの案も浮上したが、それでも規模が大きく、現状では買い手がつかない。HDがてこ入れするしかなかった」(新電力関係者)

しかし東電の使命は福島への責任の貫徹にあり、負担すべき費用は約16兆円に上る。「それなのにEPがグループ内で救済されている。これで関係者の理解が得られるのか。総合特別事業計画から一番乖離している部分だ。時間をかけてでも自ら身を切って一層の経営合理化に努める必要がある」(同)。当初から指摘される再建シナリオの破綻が、EP問題という形で表面化し始めている。

【コラム/10月7日】地域における再生可能エネルギー導入の理想と現実


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長

 日本における主力電源としての再生可能エネルギーを長期安定的な電源として普及促進することを目的として設立されたリアスプ(再生可能エネルギー長期安定電源推進協会)には、5つの委員会(①長期電源開発委員会②コスト削減委員会③電源活用委員会④電源安定化委員会⑤洋上風力委員会)がある。私は今年の6月よりその中の電源活用委員会の委員長を務めさせていただいている。この委員会の大きなテーマの1つに再生可能エネルギーの地域における普及、地産地消、地域マイクログリッドというテーマがある。月に一度の頻度で委員会を開催し、約2時間のうち最初の1時間で自治体や学識経験者、事業者の方々からこれらのテーマで現場の声を会員企業の皆様にお届けすべくご講演していただいている。これらの数か月間の委員会活動を通じて地域マイクログリッドにおける現実や課題等をお伝えしたいと思う。

 脱炭素社会の実現において、地域における再生可能エネルギーの導入というのは総論として多くの方は異論がないと思う。ではどのように実現していくのかと各論の話となると色々な課題というかハードルが見えてくる気がしている。

まず、再生可能エネルギーの地域における導入、地産地消、マイクログリッドは、誰が何のためにやるのか?という所をきちんと整理する必要があるのではと思う。大企業の場合は、SDGsという観点で年々ステークホルダー等から脱炭素社会の実現に向けた取り組みを求められていることや、資金力、人材、情報といった点においてもある程度主体的に取り組むことができると思われる。
 一方、地域ということになると「誰が」は、1次的には自治体であり、2次的には当然ながら地域住民の方々になると思う。自治体の方々(市町村首長、議会、市町村職員)及び地域住民の方々が再生可能エネルギーの導入、地産地消、マイクログリッド等の必要性を感じるという点において、現場の方々の声を聴くと、情報がなかなか取れない、人材がいない等の声が聞こえてくるのが現実だ。

更に、地域に再生可能エネルギーを導入するとエネルギーの観点単独で議論するのでなく、過疎化&高齢化の進行、産業の育成、災害に強いまちづくりといった地域が抱える課題とセットで考えることが重要だという意見が多い。
 また、取り組みを進めている方々からは、地域に再生可能エネルギーの発電所を設置する際、やはり系統の問題は避けて通れないという声もあった。

先日、ある有識者の方とお話させていただいた時には、やはり自治体によってかなり温度差があるのが現実で、本気で取り組もうとしているのはざっくり3割くらいではないかということであった。仮に事業者がある地域において自治体と連携して取り組もうと考えた場合、本気度のある自治体を探すということが重要になってくる。

そして、実際取り組みを前に進めようとすると当然、事業者が何らかの形で関わることになるが、事業者としてはやはり、採算が合うのかということになる。実際、実証実験として取り組んでいる事業者の声を聴くと補助金等の支援はあるものの、採算性に関しては大きな課題だと感じているということだった。

繰り返しにはなるが、地域における再生可能エネルギー導入は、地域課題の解決、地域ビジョンの実現の一つの手段として地産地消があり、更にその中の解決手段の一つとしてマイクログリッドがあるということになろうかと思う。

総論では賛成でも各論ではまだまだ実現に向けた課題は多々あるのが現実だ。しかしながら、時間をかけて、様々なステークホルダーの方々がそれぞれの立場で色んな意見を出し合い、また、いくつかの地域(特に人口1万5千人とか数千人とか少ない地域)で成功事例を生み出すことができれば、自分達にもできるという気持ちを持ってもらうことができると思う。少しずつ地道に積み上げていくことが大切である。

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

対話を重ね多くの住民と向き合う 地域と共に歩む東海第二発電所


【日本原子力発電】

原電は東海第二発電所の再稼働に向け、さまざまな方法で地域住民の理解の醸成に力を注ぐ。

小規模な会合を繰り返し、住民の疑問や意見に耳を傾け、地域に根差した発電所を目指す。

 東海第二発電所の再稼働を目指す日本原子力発電は、地域との対話活動や情報発信に力を注ぐ。立地自治体である東海村をはじめ、周辺自治体と呼ばれる発電所から30㎞圏内の14自治体と小美玉市を対象に、東海第二の状況説明会を開催。住民との対話に取り組む。

今年7月からは、周辺自治体の住民とこれまで以上に顔を合わせさらに深く話す機会を増やすため、大規模ホールなどで開催していた状況説明会を小規模な会場に変更。参加者が原電への率直な思いなどを伝えやすいよう、対話型の状況説明会を始めた。

1会場の定員数を最大30人とし、東海第二の安全性向上対策や工事状況をVR(バーチャルリアリティー)動画も用いて解説する。その後、少人数のグループに分かれ、質疑応答を行う。発言をためらう人には声をかけ、発言しやすい雰囲気作りに気を配る。

参加者からは「今までは壇上と客席に距離があったが、今回は参加者からの意見をきちんと聴いてくれて、分からないことにも丁寧に答えてくれた。参加してよかった」などの感想が多く寄せられている。関心が高いのは、東海第二の安全性向上対策工事や広域避難計画、高レベル放射性廃棄物の最終処分について。脱炭素や電気料金の高騰、電力需給ひっ迫の状況を踏まえ、原子力発電の在り方についての意見交換もある。

状況説明会では原電社員と参加者が車座になって対話する

出張イベントで接点を多く 安全対策工事へ理解深める

東海第二から30㎞圏内は、国の原子力災害対策指針で原子力災害対策重点区域に定められている。

状況説明会へ足が向きにくい地域の若い世代やファミリー層には、スポーツイベントやショッピングセンターなどに出展する出張イベントで接点を持つ。出展するブースでは、気軽に楽しめるよう大型モニターを使った選択式のクイズなど、参加型のイベントを企画して集客を図り、クイズを通して万が一の避難行動などの正しい知識を持ってもらう。

地域共生部コミュニケーショングループの合田憲司GMは、なぜその答えになるのか、考えてもらうことが大切なのだと説く。「例えば、万が一原子力発電所で事故が起き放射性物質が放出された場合、家の中でどこにいるのが一番安全かというクイズがあります。

正解は家の中心部分。なぜかというと、『放出された放射性物質が住宅の屋根や庭に積もり、目に見えない放射線が屋根や壁、窓を通り抜け、家に入り込む恐れがあります。だから屋根や壁に近い空間や窓などに近づかないことが基本。家の中心部分が安心です』と説明します。そうすると皆さん納得し、記憶に残りやすいのです」

この出張イベントが好評で、昨年度は約8000人の人々が参加し対話することができた。

商業施設で原電のクイズに参加する親子

合田GMは状況説明会や出張イベントに加え、著名人を招いた講演会やセミナー、広報誌「テラchannel」の発行など、さまざまな活動を掛け合わせることで、幅広い年齢層の人々との双方向コミュニケーションを図る機会が増えてきたと手応えを感じている。

「東海第二の安全性向上対策工事、原子力発電の必要性や、万が一の避難行動などを正しく理解し判断してもらえるよう活動を進めることで、原電は信頼できる企業だと思ってもらえる関係を築いていきたい」

原電はこれからも、地域の人たちとの信頼関係づくりを一歩一歩地道に進めていく。

防潮堤の設置が進む原電の東海第二発電所

【イニシャルニュース 】「自由化よりも安定を」 経産省が狙う政策転換


「自由化よりも安定を」 経産省が狙う政策転換

 「今冬に懸念される電力の需給ひっ迫と価格高騰。深刻化の一途をたどるエネルギー危機を背景に、経産省では電力システム改革を改革する議論に着手しようとしている」

電力業界の関係者がこう話すように、自由競争促進を旗印に突き進んできた電力システム改革が大きな曲がり角を迎えているようだ。最近、経産官僚のZ氏が某会合の場で次のような主旨の発言を行い、参加者の関心を引いた。

「(エネルギー事業ではこれまで)安定供給がないがしろにされてきたのではないか。その揺り戻しが起きている。自由競争よりも安定という課題が浮上しており、そこに政策の手を打っていく局面を迎えている」

「公的支援がないと、電力の安定供給が確保できなくなる状況にきている。火力の退出に歯止めを掛け、安定した供給力を確保するため、火力部門は総括原価の世界に戻す。電気料金の上昇は覚悟の上で、安定供給上必要な火力に対して資金を付ける。もはや自由化ではない」

別の関係者によれば、電気事業法改正案やJOGMEC法改正案など、近年主流のエネルギー束ね法案を来年の通常国会に提出する動きが水面下で進んでいるという。もちろん、キーワードはエネルギー危機対応だ。

最大の懸念は、エネルギー政策の転換を議論する審議会の委員が従来と同じ顔触れでは、従来政策の延長線上の議論に陥る可能性があること。「システム改革を改革するのなら、審議会メンバーの総入れ替えが不可欠」(前出の電力関係者)。果たして、経産省にその覚悟はあるのか。

東京五輪の贈収賄事件 業界に広がる不快感

東京五輪・パラリンピック組織委員会の元理事への贈収賄事件で、エネルギー業界にさざ波が広がっている。業界内の東京五輪のスポンサー企業が、この贈収賄事件に関わったかのような無責任な憶測にさらされ、業界内にはそれに憤る見方がある。 

E社グループ会長S氏が8月に突然辞任し、公職も全て退いた。豪放磊落な人柄で、エネルギー業界の政治問題の窓口にもなり、評判の良かった同氏の動きを巡って驚きが広がった。その直後に、東京地検は組織委員会の理事と紳士服大手のAOKI首脳を逮捕した。

東京五輪にはE社も深く関わった

E社グループは東京五輪に熱心に取り組んでいたためS氏の辞任との関係の憶測を生み、経済誌Sでも報道された。ところが二つの出来事は全く関係ない。「S氏は健康上の理由で『他人に迷惑をかけられない』と自ら身を引いた。変な憶測だ」と、業界関係者は憤慨する。

スポンサーになったT社でも、東京五輪と同社の関係が社内調査され、何も法的な問題がないことを確認したという。五輪支援に取り組んだ同社幹部は「都からの要請で支援企業に加わった。真面目に取り組んだのに、イメージを下げかねないことに巻き込まれて迷惑している」と、組織委員会に怒りを向ける。

資金力のある大手エネルギー事業者は大掛かりな公的イベントで、協力してほしいという声がかかりやすい。2025年開催予定の大阪万博でも電力、ガス、石油各業界はパビリオンの出展を計画する。

「新型コロナ禍の影響もあって、東京五輪の広告効果はそれほどではなかった。お金をばらまいてまで率先してお祭りに参加するほどの経営の余裕はないのに、おかしなことに巻き込まれたくない」(前出幹部)。こうした憶測は、エネルギー業界と公的イベントの関わりを見直すきっかけになってしまうのか。

LPガス企画官が消滅 政策の行方に黄信号

今年7月に発表された資源エネルギー庁人事。その一覧を見たLPガス業界関係者に衝撃が走った。石油流通課内にあったLPガス企画官のポストがなくなったのだ。新たに石油精製備蓄課内に「石油・液化石油ガス備蓄政策担当企画官」が設置され、LPガスを担当する役職は残ったが、石油と兼務の備蓄政策が担当。LPガス事業を専門に担当する役職はエネ庁から事実上消滅した形だ。今後は、これまで企画官が担当した業務を石油流通課長が兼務する。

この発表に先立って行われた、全国LPガス協会の全国会議である事件が起こった。東京都代表O氏が経産省OBの着任ポストである専務理事の給与額について批判したのだ。その後、専務理事は自ら辞任を申し出たという。都内のLPガス会社社長は「この一件で、企画官のポストがなくなったとのうわさが広がった」という。

LPガス関係者の不安は尽きない

元業界団体幹部B氏は「この件は氷山の一角。他にも二人の間で齟齬が生じていたと聞く。企画官ポストの消滅問題はもっと根深い。『無償配管・貸与などによる料金不透明に関する問題』が代表するように、この数十年間、エネ庁が打ち出した政策に熱心に取り組まず、LPガス業界が成し遂げたことは何一つない。これでは見切りをつけられて当然だ」と嘆く。

石油とLPガスの産業規模を比較すると、石油のほうが圧倒的に大きい。石油流通課長が兼務するにしても、石油政策を優先的に進めるだろう。LPガス政策の行く末に黄色信号が灯る。

鉄鋼業界で初 元環境次官が天下り

鉄鋼業界で初となる天下り人事が話題騒然だ。N社は9月1日、環境次官経験者のN氏が顧問に就任したと発表した。N氏は次官任期中になんとか炭素税導入の目途をつけようと奔走した人物。政府関係者からは「政府が志向するGX(グリーントランスフォーメーション)移行債で炭素税議論に火が付いたことを踏まえ、産業界が『総大将』を人質に取ったとしか思えない」(X氏)といった声が挙がる。

また、N社では経済産業省OBで元産業技術環境局長S氏が常務を退いたものの、6月からは常任顧問となり社に残った。しかもN社への経産省OBの天下りは、以前の審議官クラスから局長経験者へとレベルアップしたようだ。「ここにN氏が加われば二枚看板になる。N氏は現在顧問だが、来年あたりには役員になるのだろう」(別の政府関係者Y氏)

N氏の人事を巡っては別の見方も。N社は現在、K市の製鉄所でのシアン流出問題に揺れている。今回の問題は事故ではなく記録改ざん的な内容であり、あまり大きく報じられてはいないものの、その責任問題はおいおいかなりの大事になりそうだ。

「過去の同様の例では製鉄所長や環境担当の責任者が更迭されている。N社は県と政府との間で責任の所在の落としどころを探ることになるが、N氏が社にいることで、環境省の公害対策部署との接点を持つという意味合いもあるのではないか」(先述のY氏)

異色の人事に関係者の目が注がれている。

電力債発行に影響も 日銀総裁に早期退任説

大手電力会社の社債発行ラッシュが続いている。天然ガス・石炭などの価格高騰により財務状況が急速に悪化、資金調達を急ぐ必要があるためだが、来年4月の黒田東彦日本銀行総裁の任期切れを見越してのことでもある。

8月に145円に迫った円ドルの為替レートは、年末には160円を予想する声も出ている。主な原因は日米の金利差。米国では連邦準備委員会(FRB)が政策金利を0・5~0・75ポイントずつ上げ、22年末には3・5~4%になるもよう。一方、デフレ脱却を最優先とする黒田氏の在任中、日銀はゼロ金利政策を続けるが、退任後、円安是正のために金利を上げる可能性がある。電力会社としては、「社債を出すなら黒田氏の在任中」と、来春まで有利な条件を探れる。

だが、「黒田氏が任期を待たず早ければ年内、遅くとも来年3月までに退任するかもしれない」(政治評論家K氏)。インフレが進む中、円安進行で物価の上昇に拍車がかかる懸念がある。統一教会問題で国民から強い批判を受けた政府・自民党にとって、物価上昇を放置することは政権維持に致命傷になりかねない。K氏は「岸田政権は既に黒田氏を辞任に追い込む腹を固めた」と見る。

電力会社はまだまだ資金調達が必要。担当者は対応を急いだ方がいいかもしれない。