原発推進にかじ切った参院選 自民圧勝で再稼働に弾みか


 安倍晋三元首相が凶弾に倒れた2日後の7月10日、第26回参議院選挙の投開票が行われ、自民党が圧勝した。全国32の1人区で28勝4敗。125議席のうち過半数の63議席を単独で確保し、改選55議席を大幅に上回った。

自民党本部の開票センターでインタビューに答える岸田首相

「安倍氏が残したさまざまな功績の上にさらなる取り組みを進め、日本をより明るく元気なものとして、次の世代に引き継いでいかなければならない。自民党は覚悟を新たに一致結束し、日本の繁栄と安心を確保していく」。岸田文雄首相は11日、党本部で開いた記者会見で、参院選後の政権運営について、こう意気込みを見せた。

ウクライナ戦争を背景にした世界的なエネルギー危機の最中に行われた今回の参院選。特筆されるのは、2011年3月の東日本大震災以降、「脱原発」に傾いていた世論が推進側にかじを切ってきたことだ。原発立地地域の選挙動向を見ると、立憲民主党の田名部匡代氏が再選を果たした青森県を除き、宮城県(当選=桜井充氏)、福島県(星北斗氏)、新潟県(小林一大氏)、石川県(岡田直樹氏)、福井県(山崎正昭氏)、鳥取・島根県(青木一彦氏)、愛媛県(山本順三氏)、佐賀県(福岡資麿氏)、鹿児島県(野村哲郎氏)と九つの1人区で自民党が勝利。複数人区の北海道(長谷川岳氏、船橋利実氏)、茨城県(加藤明良氏)、静岡県(若林洋平氏)でもそれぞれ議席を獲得した。

うち北海道の船橋氏や茨城の加藤氏、静岡の若林氏らは選挙期間中、長期停止状態の地元の原発について再稼働の必要性に言及。一方で、脱原発派で知られる新潟の森ゆうこ氏(立憲)は落選した。

「再稼働賛成」が増加 東日本ゼロ解消なるか

有権者の意識の変化を浮かび上がらせたのが、メディアによる独自調査だ。新潟県では地元紙の出口調査で、東京電力柏崎刈羽の再稼働に「賛成」「どちらかといえば賛成」が34・5%となり、今年5月の知事選時の調査と比べ9・2ポイント増える結果に。依然として「反対」「どちらかといえば反対」が44・5%と上回っているものの、前回調査時からは減少しており、この2カ月間で再稼働肯定派が急拡大している様子がうかがえる。

またNHKが行った出口調整では、日本原子力発電東海第二について「再稼働賛成」が53%と過半数に。北國新聞の参院選世論調査でも、北陸電力志賀について「再稼働すべきだ」が53・4%に達し「すべきでない」13・0%を大幅に上回った。無所属会派の福島伸享・衆院議員が言う。

「政治家が考えているほど、国民は原発にアレルギーを持っているわけではない。日本のエネルギー政策において、なぜ原子力が必要なのか。政治家にそれを説明する信念も覚悟もないから、国民は不信感を持っているだけだろう」

岸田首相は14日の会見で、今冬に原発9基を稼働させる方針を表明した。しかし、これは既定路線。深刻な電力不足が予想される東日本地域で、原発ゼロ解消への道筋を描くことができるのか。参院選圧勝の底力が試される。

【マーケット情報/7月29日】原油上昇、品薄感が支え


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。特に、北海原油の指標となるブレント先物は前週比6.81ドル高の急伸となった。供給不足感が、経済減速にともなう需要後退の見込みを上回った。

OPECプラスの6月生産は、目標を日量284万バレル下回ったとの情報。経済制裁を受けてのロシア産減少に加え、過少投資やインフラ問題などが原因で一部加盟国の増産が追い付いておらず、目標が未達となった。3日に、9月の生産計画を話し合う予定となっているが、現時点では、欧米の要請に応えてさらなる増産を図るかは不透明だ。

米国では、原油の週間在庫が減少。ガソリン在庫も、需要回復を背景に減少している。また、同国における5月の産油量は前月比で減少し、2月以来の最低を記録した。

一方、米国の連邦準備制度理事会は、金利をさらに引き上げ。 同国の経済が一段と冷え込むとの見方が広がった。また、国際通貨基金は今年の経済成長予測を下方修正。ロシアのウクライナ侵攻と物価の高騰で、欧米の経済がさらに減速するとの見通しを示した。石油需要後退の予想が強まるも、価格上昇を抑制するには至らなかった。

【7月29日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=98.62ドル(前週比3.92ドル高)、ブレント先物(ICE)=110.01ドル(前週比6.81ドル高)、オマーン先物(DME)=104.96ドル(前週比2.10ドル高)、ドバイ現物(Argus)=106.24ドル(前週比3.44ドル高)

次代を創る学識者/太田 豊・大阪大学大学院工学研究科モビリティシステム共同研究講座特任教授


EV(電気自動車)を核とするスマートシティ構築に取り組む。

利便性と環境性に優れた持続可能な街づくりに貢献していく。

 EV(電気自動車)を核に、利便性・環境性・持続可能性を追求するスマートコミュニティーの構築に向け、融合が進む電力業界と自動車産業。両者の懸け橋となり、新たな社会システムを具現化するべく研究開発に取り組んでいるのが、大阪大学大学院工学研究科の太田豊特任教授だ。

2020年4月に同大に設置された「モビリティシステム共同研究講座」の運営責任者を務め、EV導入地域における移動の利便性向上や再生可能エネルギーの有効活用、そして充電インフラの最適設計といったスマートシティの基盤モデルづくりの陣頭指揮を執る。

名古屋工業大学在学中は、電気情報工学を専攻し、電力系統の監視システムや発電機の同期安定性など電力供給システムの基礎を学んだ。そして、「電力分野のR&D(研究開発)に取り組みたい」と、研究者を目指し博士課程に進むことを決めた。

研究の道に進んだ当時、再エネなど分散型電源の普及拡大にかじを切っていた欧州と、大規模集中型で安定供給を確保していた日本の電力事情は大きく違った。工学系の大学教授らが、海外の知見を生かしながら研究活動を展開しているのを目の当たりにし、自らも「国際的な視野を持って電力業界の変革に貢献していきたい」という思いを強くしたという。

中部地区という土地柄もあり、自動車業界との共同研究を通じて強い刺激を受けるように。そして04~05年ごろには、自動車側から電力供給システムを変革する研究へとシフトした。「日本には、自動車と電力系統運用で世界に冠たる技術があった。それらを組み合わせることで、より良い社会システムが構築できると考えた」のだ。

ただ、欧州では既に分散型電源として再エネを活用し、EVに搭載した電池を需給調整に率先して活用するスマートグリッドが普通に議論されている中で、日本では需要家側の機器を使って需給調整を行うことは、ラストリゾートのように考えられていた。「海外との違いを肌で感じつつ日本でもスマートグリッドに取り組まなければならないという強い思いにかき立てられ、これまで研究を続けてきた」と振り返る。

行動変容をどう促すか 大学は最適な実験場

スマートコミュニティーはようやく現実のものになろうとしているが、まだまだ課題は多く、電力、自動車、不動産、自治体といった、ステークホルダーの調和を醸し出すオーケストレーターとしての自身の役割を強く意識している。

また、スマートコミュニティーを技術的に確立するのみならず消費者の行動変容も欠かせない。大学キャンパスでの実証では、将来社会の中心を担う学生らのユニークな発想に感化されることも多い。「教職員、学生、その他多様な人々がコミュニティーを形成しており、先進的な取り組みにも協力的な大学は最適な実験場だ」と言い、若者の価値観を反映して研究をブラッシュアップしていく考えだ。

おおた・ゆたか
1975年長野県生まれ。名古屋工業大学電気情報工学専攻博士前期課程および後期課程修了。博士(工学)。同大助教、東京大学大学院工学系研究科特任助教、東京都市大学工学部電気電子通信工学科准教授などを経て2020年4月から現職。

地域に根差したクラブ設立 スポーツ振興活動支える


大阪ガスネットワーク】朝原 宣治

 同志社大学在学中の1993年、100mで当時の日本記録である10秒19を記録。それ以来「世界での活躍を見据えて、海外トレーニングができる企業へ就職を希望していた」という。当時の大阪ガス陸上競技部は、五輪を目指すアスリートを採用していなかったが、同志社大出身の先輩社員の働きかけもあり、陸上アスリート第一号として大阪ガス入社。入社後はドイツ・シュツットガルトへ陸上留学して研さんを積んだ。

五輪には走り幅跳びと100mで出場。100mでは96年アトランタ五輪から4大会連続出場するなど、日本の短距離陸上競技界をけん引し続けた。07年の世界陸上大阪大会では、大阪ガスの大応援団の後押しを受け100m準決勝進出を果たしたほか、08年の北京五輪4×100mリレーでは、日本男子史上初となるトラック種目でのメダルを獲得した。「会社にはずっと応援してもらった。北京五輪では『これが最後だ』と全力を出し切ることができた」と当時を振り返る。

日常的に人々がスポーツを楽しむ仕組みを作りたい

現役引退後はスポーツ振興活動に取り組み、10年4月に陸上クラブ「NOBY T&F CLUB」を立ち上げた。地域に根差したクラブづくりの中核には、ドイツでの陸上留学時代に受けた感銘がある。「部活動の無いドイツでは、大きなクラブに所属しながら老若男女問わず、地域の人が日常的にスポーツを楽しんでいる。この仕組みを日本にも導入したいと思った」。トップアスリート育成だけでなく、体を動かすことを楽しみに来ている子供や大人まで、幅広く対応できるプログラムを用意。多くの人が運動を通じてつながる現状に手応えを感じている。

「クラブ活動は自治体や企業の支援、協力がないと成り立たない。会社には、チームの運営事務から施設の提供など、人と場所のサポートをしてもらっている」と語る。地域に根差す企業として足元から活動を広げ、地元で愛されるクラブづくりを目指していく。

今後はスポーツ振興活動のほか、トップアスリートとしての経験を生かし、健康や食の大切さについての啓発活動も行いたいという。「25年の大阪万博とも連動して、競技スポーツだけでなく、スポーツ産業の発展につながるような活動を続けたい」。100mで日本記録を3度更新し、日本の陸上界を支え続けてきた鉄人は、これからもスポーツとDaigasグループを盛り上げていく。

あさはら・のぶはる 1972年兵庫県出身。同志社大学を経て95年大阪ガス入社。北京五輪男子陸上4×100mリレー銀メダリスト。オリンピック4大会連続出場。世界陸上6回出場。陸上競技クラブ「NOBY T&F CLUB」主宰。

【メディア放談】新聞のエネルギー報道 日経新聞を何とかしてくれ


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

エネルギー価格の高騰や電力不足が国民生活、産業活動を脅かそうとしている。

原発の再稼働など対策はあるが、日経新聞でさえ正しい情報を伝えようとしない。

 ―いよいよ本格的な夏を迎える。電力不足は解消されてなく、経済産業省は電力ひっ迫注意報を出しそうだ。

石油 いまだに「太陽光が発電しているのに、なぜ出力制御をするのか」「なぜ電気料金が上がるんだ」という記事を見かける。

 太陽光発電ばかりに頼ると、太陽が沈み始めた夕刻、供給力が足りなくなるのは小学生でも分かる。太陽光発電の普及は火力発電とセットで考えなければいけないが、火力の燃料が高騰している。そのことをマスコミはきちんと説明しなければいけない。

電力 その通りだが、再エネに過度に肩入れする新聞はそうは書かない。例えば朝日は電力不足に関して、家電の上手な使い方とか、どう節電でしのぐかに紙面を割いている。送配電会社にだけ重い負担が掛かる最終保障供給の仕組みなどの記事は、まず見掛けない。電力が足りないことに対して危機感が伝わってこない。

マスコミ 確かに節電は大切だろう。だが、もっと本質的な問題がある。なぜ電気が足りなくなるのか。小売り自由化、原発停止、再エネの過度な普及と火力の廃止、制度・市場の機能不全―などが複雑に入り組んで今の状況になっている。それらを分かりやすく読者に説明するのが、本来のマスコミの役割だ。

ガス それは一般紙には難しいだろうね。経産省の役人でさえ、乱立している審議会の議論にどう整合性を取るか頭を痛めている。あえて言うと電気新聞だけは、例えばBWR(沸騰水型軽水炉)の再稼働までにかかる時間とか、ネットワーク利用の検討状況とか、分かりやすく説明する記事を継続して掲載している。それらを読んでいくと、問題の全体像が分かっていくような気がする。

 もっとも、それらを丹念に記者に教えていくのがエネルギー会社の広報の役割だ。ただ、最終保障供給などは、30年前に議論した話。もう社内でも説明できる社員がいない。

日経が「危機」を認識 記事内容は相変わらず

―日経新聞が6月に「エネルギー危機 日本の選択」の連載を始めた。

電力 ようやく「危機」と認識し始めたと思った。その点は評価している。ただ、内容は相変わらずだ。「脱炭素は安定供給があってこそ」と書く。その通りだ。幻滅したのは、その後だ。「自由化で先行した英国は原発の新設に加え、運営にかかる費用を確実に回収できる事実上の総括原価主義すら復活させようとしている。日本の動きは鈍い」と続けている。

 その総括原価主義や原発新設に難癖をつけて批判してきたのは誰だ。朝日、毎日、東京だけじゃない。日経もじゃないか。新聞社は記事や論説に責任を負え、とは言わない。基本的に無責任なものだと思っている。ただ、もう少し矜持らしきものを持ってもいいんじゃないか。

―この座談会の皆さんは日経に厳しい。

石油 それは、日経がビジネスの現場にいる人間が読む新聞だからだ。朝日、読売、毎日は主婦や年配者、学生などが主な購読層。だから、世の中の潮流に合わせた編集方針を取る。記者もその方針で記事を書く。それはそれでいい。

 だけど、日経はそれぞれの分野のプロが読んでいる。当然、専門的な知識や豊富な取材を経た記事を求める。しかし現実は、この座談会でさんざん批判してきたように、kWとkW時の区別がついているのか分からない記事を掲載する。残念なのは、じゃあ日経以外に読む経済紙があるかというと、ないことだ。

―確かにフジサンケイビジネスアイは休刊したし、日刊工業新聞は読者層が限られているようだ。

電力 日経の「経済教室」は時々、エネルギー問題を取り上げる。5月に「検証 電力システム改革」のテーマで、東大の大橋弘教授と都留文科大のT教授を登場させていた。

 大橋さんの論文はオーソドックスなものだった。ただ内閣府の再エネタスクフォースなどで、再エネの推進に執着しているTさんの主張は、この人は本当に電気事業を正確に理解しているのか、首をかしげる内容だった。

マスコミ 結局、自分たちの意向に沿った学識者しか登場させない。エネルギー危機の連載も「英国では」とか「ドイツでは」とか、他の国の積極的な例を取り上げているが、同じことを日本が進めると

「まだ国民的議論が足りない」で締めくくる。よっぽど自虐的に「日本はだめだ」と言いたいらしい。この新聞の編集者は皆、マゾヒストなのかと思うよ。

原子力はチャンスの年 「40年ルール」見直しも

―やはり原子力はマスコミの「応援」を期待できないようだ。

電力 もう応援などとは言っていられない。実は、今年は原子力が進展するチャンスの年だ。関係者は着々と布石を打っている。

―具体的には。

電力 原子力委員会は今年、原子力の利用について「基本的な考え方」をまとめる。これは閣議決定もして、政府はその内容を尊重する。関係者はここにエネルギー安全保障、カーボンニュートラルの観点から、原子力の活用を最大限盛り込むよう、根回しを進めている。秋に閣議決定されたら、「40年ルール」の見直しなど、一気に原子炉等規制法の改正にまで踏み切るとみている。

マスコミ 与党が参院選に勝利したら、「黄金の3年間」を迎える。その期間に、必要なことをどんどん進めてほしい。

―まさに岸田政権の姿勢が問われる、あっ、日経と同じ書きぶりにしてしまった。

サステナビリティを追求 異次元の付加価値を創造へ


【リレーコラム】光山 昌浩/サステイナブルエネルギー開発CEO

 当社は東日本大震災を契機に、ゴミなどか らオンサイトで地産地消エネルギーを生成す る技術の開発を進めてきた。その過程で、持続可能性への取り組みは収益にマイナスという考え方を示されてケースも多い。本稿では単純な数学モデルを提示して、収益とは別次元の価値を提供できる可能性を考察した。

ここで経済が 「g 」 という成長率で成長し、環境が「-g 」という減衰率で劣化する単純な世界を想定すると、経済Yと環境Nは次のように表される。

 Y=K×egt(eは自然対数、tは時間、Kは定数)

これまでの経済成長モデルでは、環境劣化 は「外部不経済」という認識をしているため、それらが顕在化するまでは両者は別物で経済成長には影響しないという課題がある。

そこで、この両者を統合する経済モデルを 考える。成長率と減衰率を両者の積の平方根である 「±ig 」 (iは虚数単位)を用いることで両者を統合する。

すると経済と環境は次のように表現される。   

Y=K×eigt   N=K×e-igt

オイラーの公式から eiθ=cosθ+i sinθが導かれるため、前式を変形すれば、

  Y=K×[cos(gt) + isin(gt)]

  N=K×[cos(-gt)+ isin(-gt)]

 となる。この2式は実軸と虚軸からなる複素平面で表現でき、経済は時間の経過とともに反時計回りに単位円上を「gt 」方向に回転し、環境は時計回りに単位円上を「-gt 」方向に回転していく。すると、経済も環境も時間の経過とともに循環的に推移することがイメージできる。しかも、YもNも複素平面上で表現されるため、基準年との「量的比較」は意味をなさない。つまりある時点での経済が基準年と比較してどれだけ成長したか、という分析はこのモデルでは無意味である。

産業革命以降一貫して重視されてきたのは、「Y=K×egt 」 と表現される「常に増殖する」という経済であった半面、「N=K×e-gt 」と表される環境の減衰には無関心であった。

サステナブル投資で新たな価値も

大規模気候変動が意識され、SDGsなどの重要性が広く認識されるようになった昨今でも、その取り組みには「実数軸」の範囲内で対応する企業が多い。

しかしながら、収益とは別の「価値軸」を内生変数とすることによって、時間経過に伴う経済および環境の態様は「循環型」になることが幾何的にイメージでき、企業活動におけるサステナビリティの追求は異次元の付加価値の創造に結び付くことが示唆された。

みつやま・まさひろ 慶応大学経済学部卒。邦銀、英国系投資銀行を経て、監査法人にて法定監査業務を経験。自治体と三セクを立ち上げ、下水汚泥から石炭補完燃料を生成する事業を実施。2014年にサステイナブルエネルギー開発を設立。

※次回はトゥルーバグループホールディングス社長の小野隆一さんです。

【マーケット情報/7月22日】欧州、中東原油が上昇、品薄感が背景


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物、および中東原油を代表するドバイ現物が上昇。供給不足感が価格を押し上げた。

米国とイランの核合意復帰をめぐる会談は停滞。これにより、米国の対イラン経済制裁解除、それにともなうイラン産原油の供給増加は、当分見込めないとの予測が強まった。また、トランスカナダ社が、カナダ西部・アルバータ州と米国南部・テキサス州を結ぶ日量59万バレルのキーストーン・パイプラインのフォースマジュールを宣言。停電を受け、稼働率を低減させて操業しており、品薄感を強めた。

一方、米国原油WTI先物は、前週から下落。需要後退の見通しで、売りが優勢となった。欧州中央銀行が、インフレ対策のため、11年ぶりに金利を引き上げ。また、欧州の7月景気指標は低下。経済減速および石油需要後退の予測が広がった。さらに、米国では需要期にも関わらず、価格の高騰でガソリン消費が弱い。WTI先物に対する重荷となった。

【7月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=94.70ドル(前週比2.89ドル安)、ブレント先物(ICE)=103.20ドル(前週比2.04ドル高)、オマーン先物(DME)=102.86ドル(前週比4.42ドル高)、ドバイ現物(Argus)=102.80ドル(前週比5.33ドル高)

【需要家】都の太陽光設置義務 メリット・デメリットは


【業界スクランブル/需要家】

 東京都は5月24日に開いた都環境審議会において、一部の住宅供給事業者に対し、供給住戸へ一定割合の太陽光発電導入を義務付ける条例を提案した。脱炭素の点では重要な施策と考えられるが、一方で電力事業者の役割であった「発電設備の導入・管理」を消費者に強制的に課すことになるため、多くの議論が生じるものと想定される。ここでは需要家の目線に立って、太陽光発電導入義務化に伴う需要家のメリット・デメリットについて考察したい。

設備導入において何よりも気になるのは初期費用である。FIT制度の発電電力買い取りにより長期的に見れば投資回収は可能かもしれないが、足元でのkW当たりのシステム導入費用は28万円程度であり、依然として大きな費用負担である。

都は初期費用の負担軽減策として補助金に加えリース、PPA(第三者所有モデル)などの利用に言及しているが、例えばPPAは太陽光発電の所有権が事業者にあるため、自家消費分の電力を事業者から購入することになり、光熱費削減というメリットが享受できなくなる。こうした特徴について、需要家によく周知すべきである。

太陽光発電は停電時に電力使用が可能になるため、災害レジリエンス性の高い設備といえる。一方で事業用太陽光発電では強風によるパネルの飛散・破損などの事例が報告されており、安全性についても需要家の十分な理解が必要である。製品評価技術基盤機構の製品事故情報によると、家庭用太陽光発電についてもパワコン、接続ケーブル火災などの事例が1998年以降200件近く報告されている。太陽光発電は「設置さえすればよい」設備ではなく、導入後の維持管理の重要性を含めて、自治体からの政策に関わるアナウンスが必要だろう。(O)

【小野泰輔 日本維新の会 衆議院議員】「改革マインドで既得権益にメス」


おの・たいすけ
1999年東京大学法学部卒。2008年熊本県政策調整参与を経て、12年熊本県副知事就任。20年都知事選出馬。
21年衆院初当選(比例東京ブロック)。

熊本県副知事から都知事選に挑戦し、昨年衆院初当選。文書費問題を追及し話題となった。
エネルギー政策、憲法9条改正にまい進する根幹に、自分の直感を信じぶれない行動力がある。

 子どものころから伝記や歴史についての本が好きだった。「戦乱や平和は、政治家の決定に大きく左右される。リーダーの決断は非常に重い」。国を隆盛させ、時に滅亡に導くこともある政治の重さに興味を持ち、東京大学で政治学を学んだ。大学卒業後は民間会社に就職していたが、東大時代、ゼミに所属していた蒲島郁夫氏の熊本県知事選に協力。2008年に蒲島氏が当選を果たすと、自身も政策参与を務め、県政に携わることになった。

12年には副知事に就任。最年少の副知事(当時)として、熊本県ご当地ゆるキャラ「くまモン」の著作権フリー化、イラスト無料化実現などに尽力した。16年熊本地震といった災害対応も経験し、20年に任期満了直前に退職。「次に自分に何ができるかと考えたとき、東京都知事選の論戦が行われない現状を見て、(都知事選に)出ようと直感で決めた」。当時は小池百合子都知事が「一強」。盛り上がりに欠ける選挙戦へ「一石を投じたい」と出馬を決断した。最初は泡沫候補と言われたが、高校の同級生で、東京維新の会代表の柳ヶ瀬裕文参議院議員から「維新で応援するから一緒にやろう」と支援を受けた。結果、約61万票を獲得すると、21年の衆院選では、東京1区から日本維新の会公認候補として出馬し、比例復活で初当選を果たした。

当選直後、在任1日にもかかわらず国会議員に月額分の100万円が支給された「文書通信交通滞在費」について、自身のブログで指摘。この問題提起は大きな反響を呼び、政府は後に制度改正の方針を示した。「1年生議員が率直に思ったこと、おかしいと思っていることを提言できた。日本維新の会の『問題をオープンにして議論する』というスタンスを、議員になってすぐ体現できたのは良かった」。現在は7月の参院選に向けて、エネルギー政策のほか憲法9条改正、緊急事態条項の設置など、日本維新の会が掲げるマニフェストや条文案作成に取り組む日々だ。

エネルギー政策で政府と論戦 安定供給・安全保障の重要性指摘

国会議員としては、経済産業委員会の理事と憲法審査会の委員に名を連ねる。今年4月の衆議院本会議では「原子力発電所の特定重大事故等対処施設(特重)の設置期限」を巡り、萩生田光一経産相や更田豊志原子力規制委員長とエネルギー政策で論戦を重ねてきた。「ウクライナ侵攻問題を踏まえ、エネルギーの安定供給、安全保障の重要性が高まっている。エネルギー政策の基本はS(安全性)+3

E(安定供給性・経済性・環境性)だが、安全性は当然として、3Eの中でも安定供給・安全保障を前面に出すよう、国の政策見直しを求めたい」と訴える。原発再稼働については、日本維新の会の政策である「既設原発は市場原理の下で存続が難しいものについてはフェードアウトを目指す」方針を支持。一方で短期的、中期的には「稼働できる原発を生かし、エネルギーの安定供給を図る必要がある。再稼働をスムーズに進めるための施策は、政府が力を入れなければならない」と話す。

行き過ぎた再生可能エネルギーへの偏重にも「脱炭素のためにやるべきだが、一辺倒ではいけない。安定供給に資する形で再エネも行うべき」と警鐘を鳴らす。また、太陽光パネルにおける中国産製品の依存度の高さを指摘し「エネルギー供給の一部を海外に握られる仕組みは、必ず弊害が生じる。安全保障の担保ができなくなる」と戦略の見直しを訴えた。カーボンニュートラル実現では、蓄電池の国産化と積極的な活用を提言。さらにバイオディーゼル燃料(BDF)の利用促進についても、熊本県・阿蘇くまもと空港での実証実験を踏まえ、推進を呼び掛けている。

今後の目標は、日本維新の会が野党第一党となり、改革の実績を作っていくことだという。「大阪での維新は、首長によるリーダーシップもあり、改革が進んだと住民から支持を受けた。全国でも『維新が改革を進めてくれる』という状況にしたい」としている。「維新は一言でいうなら『ベンチャー政党』。改革マインドを持ち、古いしがらみにとらわれず、既得権益にメスを入れていく必要がある」。自身も参院選や統一地方選で尽力して、最終的には保守派の改革勢力を結集、政界再編の枠組みに携わりたいと話す。

好きな歴史上の人物は、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥス。カエサルの後継として敵味方をまとめ上げ、後のローマ帝国の礎を築いた。「徳川家康もだが、当時の政治の骨格を作った人、持続的な仕組みを作った手腕を持つ人に憧れる」という。座右の銘は「しあわせは いつもじぶんのこころがきめる」(相田みつを)。熊本県知事選の応援も、都知事選の出馬も、国会議員になってからの文書費問題の指摘も、自分の心に従い、直感を大事に行動してきた。これからもぶれずに自分を信じ政治活動にまい進する。

福島廃炉にどう臨むべきか 密閉管理方式の検討も必要


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.16】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島第一の格納容器内部は半減期の長い放射性物質で高いレベルで汚染されている。

廃炉は線量が減るのを待つべきで、早急な作業は「急いては事を仕損じる」ことになりかねない。

 これまで世界で起きた原子炉事故の原因と経緯、その破壊状況と現状を述べてきた。このうち廃炉を達成したのは第3回で述べたSL-1だけであり、そのほかは工事を休止している。廃炉を阻む問題には、廃棄物処分と、作業での被ばく線量の不確かさに伴う費用がある。今回は連載最終回。問題の本質を述べた後、40年での福島廃炉の可能性を論じる。

廃棄物の輸送や埋設に反対する人は世界に少なくないが、その理由は、放射能と廃棄物の両者に対する嫌悪感情だ。解決には、実体を見て理性で納得してもらう以外に方法はないが、使用済み燃料の処分場のない日本の廃棄物問題の前途は険しい。この問題での役所のリーダーシップは大きい。

処分場がなければ福島の廃炉工事は開始できない。このことは明確に述べておく。廃棄物の行き先がなければ、工事を強行しても現場は廃棄物でふん詰まりとなり、工事は中断する。日本には原子力船「むつ」が寄港を拒否され彷徨した前例がある。普天間・辺野古のように、訴訟による工事の中断も起き得よう。福島の人たちはこのような状態を望むであろうか。以上が廃炉を阻む問題点の結論だ。

事故炉の廃炉を妨げる最大の問題は、廃炉作業での作業員被ばくだ。福島の溶融炉心は、ロボットや遠隔操作機器を使えば技術的には撤去可能であろう。これにより炉心の放射能は激減するが、被ばく源である作業場の汚染状況は変化しないから、被ばくは減少しない。ここが廃炉工事の泣き所だ。

例えば遠隔操作機器の搬入、据え付け、調整は、汚染環境の下での作業だ。また廃炉の最終工程である室内の除染は、人手による作業だ。これら作業の被ばく量が不確かなため、廃炉費用が定まらず、廃炉工事は休止している。

その具体例がTMIで、1000億円をかけて溶融炉心を取り出したが、その後の作業は中断している。英国のウインズケール炉は事故の後六十余年がたつが、溶融炉心には手が付けられていない。事故炉は、炉心溶融による建屋汚染の重篤度が廃炉実施の可否を決める。

福島第一の高い汚染レベル アメリシウムの長い半減期

昨年10月、久しぶりに福島第一を見学した。格納容器内部の放射線量を尋ねたところ、1号機6・5グレイ、2号機7グレイ、3号機10グレイ以上との返答であった。僕の予想よりはるかに大きい。6・5グレイといえば1時間で致死量だ。作業どころか入域すらはばかられる。

ところが、TMIやチェルノブイリは、事故後の10年には炉心解体や溶融燃料の採取を行っている。その線量データは持たないが、生身の人間が行った作業だから、福島より相当低い線量であることに間違いない。

なぜ、福島は高いのか? 恐らくTMIの場合は、炉心溶融ガスが加圧器の水槽を通って除染された後に格納容器に流入していること(第15回参照)、チ炉では10日間にわたる火災と燃料溶融によって、沸点の低い放射能が気化して、燃料棒から抜け出たことにあろう。逆に福島の汚染レベルが高いのは、溶融炉心から出た放射能が、直接格納容器に流入したことによろう。格納容器が小さいことも影響していよう。

いま福島に残る放射能は半減期約30年のセシウム(Cs)137が多いから、線量を10分の1に減らすには約100年を要する。さらにセシウムが減少するとアメリシウム(Am)241の寄与が相対的に大きくなるので、線量が1000分の1に下るのは500年後と専門家は言う(図参照)。この汚染環境を溶融炉心解体に先だって改善する方法を、僕は知らないし、考えつかない。

これまで事故が起きた2011年から30~40年後の廃炉完了を目指して論じてきたが福島は格納容器内面の汚染が濃く、作業員被ばくの面からいって、早急な解体撤去の実施は、残念ながら無理に思える。

だが廃炉は、これまで検討してきた解体撤去だけではない。密閉管理と隔離埋設を合わせて3方式あることは本連載の最初に述べた。解体撤去が無理なら、廃炉方式を改めて密閉管理とし、放射能の研究施設として活用すればよい。

今後の放射能の時間変化
出典:JAEA-data/Code 2012-018 福島第一原子力発電所の燃料組成評価から作成

放射能の実験場に好適 幅広く国際的な研究所に

溶融炉心ほど濃い放射能のある所は少ないから、福島のサイトは好適な放射能実験場となり得る。例えば、アオコはなぜ高放射線下で繁殖できるのか、トリチウムは生物に害を与えるのか等々、われわれが知らない放射能の謎を実験で解明していけばよい。

いや、それ以上に、放射能と名が付くことなら文学川柳に至るまで幅広く取り扱う、遊び心のある国際研究所にするのがよい。

年間100億円の研究予算を使えば、魅力的な国際研究所が生まれよう。廃炉に予定していた8兆円を使えば800年間の研究ができるが、そこまでは不要だろう。成果が出れば、研究者は世界中から集まり、サイト周辺は国際都市となろう。風評被害などは雲散霧消だ。必要なのは、やる気と、自由度と、度量だ。政府のご一考を願う。

解体撤去の調査研究は、研究所の一部門として東京電力が行えばよく、TMIなどの廃炉が実施されれば、研究成果を携えて協力すればよい。東電がなすべきことは、ロボットによる汚染実態の調査と線量の推計から、施設全体の放射能分布の時間変化を予測し、廃炉対策を練ることだ。

40年後の廃炉完了を強行するか、廃炉方式を変更するか、政府が決断する日は来ている。「40年後の廃炉だから、まだ30年ある」と棚上げを図るのは役所の通弊だが、今回は無用に願いたい。なぜなら処理水の放出後、東電は予定に従って解体撤去に向かわねばならぬからだ。政府の決断が遅れれば、解体撤去プロジェクトが無理を承知で動きだす。これによる国費の支出は莫大となる。

最終回は厳しい話になった。本連載を通じて事故炉の廃炉について知るところは全て率直に述べたが、僕はいま88歳。日本の将来についての責任は負えないので、世上流布されている技術的な誤りと疑問点の指摘を除いては、個人的な見解は差し控えた。

これにて連載を終える。長い間のご愛読ありがとうございました。

いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1 https://energy-forum.co.jp/online-content/4693/

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【再エネ】FIP再点検待ったなし 持続可能性に疑問符


【業界スクランブル/再エネ】

4月からFIP(フィード・イン・プレミアム)の運用が静かに始まり、風力業界からは熱い視線が注がれている。
従来、風力業界は洋上風力へのFIP適用に慎重姿勢であった。ところが昨年度の調達価格等算定委員会で驚くほどあっさりと適用が決まった。洋上風力は1件当たり10億kW時規模の発電量で、インバランス発生量も他の再生可能エネルギーとは桁違いだ。大量のインバランスをコスト効率的に処理できる事業者は限られており、公募における公平性の観点には留意が必要だ。また、およそ10年後の事業について、足元の市場が存在しないFIPを前提とした公募提案や評価を行うことは容易ではない。こうした論点について、丁寧に整理する必要があるのではないか。
他方で電源によらないFIPの構造的な課題も浮き彫りになっている。FIPでは、非化石価値のマネタイズは事業者に委ねられており、非FIT非化石証書(再エネ指定あり)の約定単価相当がプレミアムから控除される。一見すると、収入の安定性を確保しつつインセンティブを持たせた設計とも読み取れるが、ここに大きな問題がある。
最新の非FIT非化石証書(再エネ指定あり)の約定量は、35億kW時と過去最低で、売入札量に対する約定率はわずか0.2%にとどまる。つまりFIPにおいて、市場を通じたマネタイズがほとんどできないにもかかわらず、その市場の約定単価相当がプレミアムから控除されてしまうのだ。当然、市場取引よりも良い条件を相対取引で引き出すことは難しく、事実上、FIP基準価格に対して非化石価値分が恒常的にマイナスになることが想定される。
始まったばかりのFIPだが、早くも制度の再点検が必要になりそうだ。(C)

脱炭素政策で資源不足に陥る恐れ 供給源多角化など長期的視点から対策を


【多事争論】話題:レアメタルの調達・確保

ウクライナ危機で供給懸念が高まり、ニッケルなどの価格が過去最高値を記録している。

今後も一部非鉄金属資源の需要拡大が見込まれ、資源安全保障の強化が求められている。

〈 ハイテク産業に欠かせない物質 所要量急増で需給を懸念 〉

視点A:所 千晴 早稲田大学理工学術院教授

レアメタルとは、希少な存在である(資源的制約)か、技術的に良い製錬法がなく分離精製が困難である(技術的制約)か、その開発において環境負荷が高い(環境的制約)か、これら一つ以上の事情を有するために「希少」である金属資源を指し、貴金属やレアアースも含まれる。2010年に尖閣諸島中国漁船衝突事件に端を発して中国がレアアースの輸出を止めた際には、日本の一部製造業が一時的に大きな混乱に陥り、レアアースをはじめとするレアメタルがハイテク産業に欠かせない物質であることが広く周知された。

レアメタルは「強度を増す」「さびにくくする」「発光させる」など、数えきれない素材の機能を発現させるために使用される。添加剤的に使用されることも多いため、金属のビタミンといった言われ方をする場合もある。特殊鋼にはニッケル、タングステン、ニオブなど、電子部品にはタンタルなど、希土類磁石にはネオジム、プラセオジウム、ディスプロシウムといったレアアース、リチウムイオン電池にはリチウム、コバルト、ニッケルなど、排ガス触媒にはプラチナ、ロジウム、パラジウムといった白金族―といった具合に、高機能材料にはレアメタルが欠かせない。

昨今はSDGsやカーボンニュートラルなど、経済活動と資源消費や環境負荷とのデカップリングが強く求められる時代である。ところが資源消費と環境負荷の双方の低減は両立し得ないことが懸念されている。

例えば国際エネルギー機関(IEA)は、各国のカーボンニュートラル政策に基づいて再生可能エネルギーや電気自動車(EV)を導入した場合の将来的な金属資源の鉱物所要量を試算している。その報告によれば、40年の鉱物所要量は20年度比で約2~4倍に増加する。特に、鉱物所要量の増加に対するリチウムイオン電池などの車載用蓄電池導入の影響は大きく、リチウムは約13~42倍、コバルトは約6~21倍、ニッケルは約6~19倍と見積もられている。カーボンニュートラルを世界中の国々で推進した場合、多くの研究者が、近い将来に各種資源、特に一部レアメタルの供給と需要のバランスが崩れ資源不足に陥ることを懸念している。

ロシア軍のウクライナ侵攻に伴って供給への懸念がさらに高まったことから、ニッケルやアルミニウムの価格は過去最高値を記録した。現状は異常事態であるが、このように、長期的な視点からもレアメタルをはじめとする一部非鉄金属資源の需要拡大が見込まれ、供給不足による価格上昇の傾向は変わらないとの見方もあり、日本は長期的な視点に立った資源安全保障政策に対する強化が求められている。

リサイクルも安全保障上重要な役割 環境負荷低減と経済の両立が肝心

レアメタルを含む鉱物資源政策の方向性は、経済産業省総合資源エネルギー調査会の資源・燃料分科会で議論されているが、以上のような背景のもとに、供給元の多角化や非常時に備えた備蓄、省資源化や代替材料の開発について、国際協力や人材育成といったソフト面での取り組みも含めて、これまで以上に長期的な視点に立った強化が求められる。

また、レアメタル資源の多くを海外に依存する日本としては、リサイクル戦略も安全保障に対して重要な役割を有している。日本では銅、鉛、亜鉛の製錬が互いにネットワークを組んで金属リサイクルのための分離精製を担っており、多様なレアメタルを回収している。例えば銅製錬では、電解精製のプロセスで得られた電解スラッジから貴金属などが回収されている。一方、レアアースの分離精製のためには、製錬前での処理を強化する必要がある。それらの強化のためJOGMEC法が改正され、レアメタルなどの金属鉱物の選鉱・製錬などの事業への出資・債務保証事業に新たに取り組むことが可能となった。

レアメタルといえば、賦存量や可採量が少ないという資源的な制約を浮かべる人が多いようであるが、実際は分離精製に対する技術的制約や分離精製に伴う環境的制約も大きな要因となっていることを正確に理解する必要がある。リサイクルも同様で、少なからずエネルギーを要する回収・運搬を含む分離精製プロセスや、それに伴う環境負荷低減を全て考慮した上で経済的に成り立つ必要がある。

昨今では15年にEUが発表したサーキュラーエコノミー政策も浸透しつつあるが、少なからずエネルギーやコストを要する資源循環を経済的にも成り立たせるための付加価値とは何かと改めて考えた時、環境負荷削減、資源消費削減といったプラネタリーバウンダリーへの意識やフェアトレード、人権デューデリジェンスといった考え方に加えて、資源安全保障への備えも重要である。

ところ・ちはる
早稲田大学理工学部資源工学科卒、東京大学大学院工学系研究科地球システム工学専攻修士課程および博士課程修了。博士(工学)。2015年から現職。

【火力】需給ひっ迫の緊急対応策 既設火力の更新を


【業界スクランブル/火力】

 電力需給が厳しい状況に歯止めがかからない。今年の夏季は、東京エリアなどで厳しい状況となり、さらに冬季には全国的にこの10年で最も厳しい需給状況となる見通しだ。政府から、休止火力の再稼働や需給ひっ迫注意報の新設などの対策が示されているが、いずれも当面の危機を乗り切るための一時しのぎにすぎない。

構造的対策については、エネ庁の分科会で電源新規投資の在り方について検討が進められていて、新しい制度案では、安定供給を持続的なものにしていくという目的に加え、発電事業者の予見性確保にもかなり配慮した内容を目指している。具体的には、事前の予測が難しい他市場収益については制度側で見積もり、事後に補填または還付により調整するとのこと。事業者リスクが配慮されるのはありがたいことだが、予測が困難なことを制度の作り込みで後から対応しようという議論は、まるで雲をつかむような話で、残念ながら一体どのような発電設備を求めているのか具体的なイメージがさっぱり見えてこない。

現在求められているのは、持続的な供給力・調整力となる安価な「安定電源」であり、その電源は、将来的に脱炭素化の可能性を持っていることが必要となる。量の問題も含めこの条件を今すぐクリアできるのは火力発電しかない。その場合、20~30年後のこと考えると既設火力の延命化ではなく、脱炭素化への転換も視野に高性能な新規電源を安く作ることが必要となる。では、どうすればよいのか。単純な話として、土地や港湾、燃料設備などのインフラが整備されている既設地点へのリプレースが優位なのは明らかだ。他の方策を否定するものでは一切ないが、有力な具体案から考え始めなければ、絵に描いた餅にすらならない。(N)

【原子力】スタートアップ支援 アプローチに難あり


【業界スクランブル/原子力】

 岸田政権が図るスタートアップ支援の発想の原点は、今のわが国は先進国でありながら半導体などの製造業が空洞化しており、いま一度モノづくりや気候変動対策、医療などの先端技術産業を再構築することにある。失われた20年、30年の「病巣」を徹底的に改めようという発想は的確といえよう。

ただ、そのアプローチに問題がある。新しい産業を一から起こそうとしており、そのための起業・チャレンジ・ベンチャーの環境づくり、育成を進めようと躍起だ。しかし、ベンチャーに大きな期待を寄せることは、一本も飛ばず、一本も的に当たらなかったアベノミクスの三本目の矢にむなしく期待することになるのではないか。むしろ、日本が得意とする「モノづくり」を根本から世界に冠たる姿に磨き上げ、産業競争力を旺盛にすることが急務だ。

産業のコメといわれた電力について、いまや日本の産業用電力料金は主要国中、最も高い。国策? である再生可能エネルギーのさらなる開発拡大による電力コストの増大は、製造業の国際競争力や雇用に大きく影響する。基幹産業である自動車産業ですら、いまやその座は危うい。「モノづくり」の将来についてボヤボヤしている暇はない。

ウクライナ戦争を契機として、化石燃料の入手が困難化し、需給不安定化とともに高コスト化している今日、原子力の再稼働・新規開発は世界の潮流となっている。再エネに比べて、原子力の費用対効果ははるかに大きい。わが国も核燃サイクル・高速炉の開発・高レベル廃棄物処分に国が中心になって取り組み、世界一安い電力の実現を達成し、日本のモノづくりの再生を早く実現すべきである。

一度も当たったことのない三本目の矢ばかりにさらに期待するのは、愚の骨頂である。(S)

大手電力会社の信用力の変遷 高い「格付け」を支えた規制環境


【羅針盤(第1回)】廣瀬和貞/アジアエネルギー研究所代表

全面自由化などによる事業環境の変化が資金調達の難易にどのように影響するのか。

この連載では、電力会社の資金調達を左右する信用力の変化を「格付け」を手掛かりに見通してみたい。

第二次世界大戦後の復興期から、経済の高度成長期・安定成長期を経て現在に至るまで、日本の大手電力会社(旧一般電気事業者)各社が事業資金の調達に窮したことはない。その結果として、目覚ましい経済発展が続いた時期にあっても、国内の電力需要の急伸に後れることなく設備投資は行われ、電力供給が経済成長の制約となることはなかった。
事業資金は株式または負債によって調達される。旧一電各社の資金調達の特徴は、その信用力の高さによって社債や銀行借入といった負債を中心に多額の設備資金を賄ってきたことである。一般には、負債を多く抱えれば倒産する危険が増すため、貸し手が慎重になり、無制限に負債を増大することはできない。旧一電が多額の負債を抱えることができたのは、それでも倒産することはないと見られるだけの信用力の高さがあったからである。信用力の程度を示す指標として、格付け会社が公表する「格付け」がある。第1回では、格付けの考え方を説明し、旧一電各社の信用力がどうして高いと見られてきたのかを明らかにする。

定量評価は低い半面 極端に高い定性評価

信用力の評価は、財務指標などの数値の分析による定量評価と、それ以外のさまざまな要因を考慮する定性評価の組み合わせで行われる。自由化以前の旧一電の信用力は高く評価されていたが、定量評価は低く、定性評価が極端に高いという際立った特徴があった。
企業の活動を記録した財務諸表は、損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書の三つに大別されるが、これらの数値を分析し、対象企業の収益力や財務体力を評価するのが定量分析である。旧一電各社のような上場企業であれば、有価証券報告書により全ての財務諸表は公開されている。電力自由化が本格化する以前の時期の各社の姿を見るため、2009年度(10年3月期)の財務数値を材料に、基本的な定量分析を行ってみよう。図表を見てほしい。
企業は事業活動によって資金(キャッシュ)を稼得し、そのキャッシュにより負債を返済していく。従って、キャッシュを生み出す力が、返済すべき負債の額に対して相対的に大きいことが、信用力の高さに直結する。ここでは、有価証券報告書から簡単に得られる数値として営業キャッシュ・フローを用いて、負債(金融債務)がその何倍あるのかを示している(指標A)。もう一つ、社債投資家や銀行といった債権者から見て、債務者である企業が危機に陥った際のバッファーとなる資本勘定(自己資本)の厚さを示す自己資本比率も記載した(指標B)。
信用力の高さを示す結論としての格付けを見ると、当時の旧一電各社は日系の格付け会社R&Iの格付けでAA+、米国系のムーディーズでAa2となっていた。格付け符号は21種類あるが、前者は上から二つめ、後者は三つめと、極めて高い水準であった。しかし、同水準の高い格付けを持つ他の産業の企業と比較すると、定量分析の指標A、Bともに、数値自体は極めて悪い。
指標Aを見ると、電力以外の業種の各社が事業により返済すべき金融債務は、事業が生むキャッシュ・フローの半年分(0・5)にも満たないことが分かる。さらに言えば、トヨタ以外の4社はそもそも実質的な債務がないため、この指標がマイナスの値である。一方、旧一電各社は年間の営業キャッシュ・フローの約5年分から7年分もの金融債務を抱えており、他の業種との差が大きい。
指標Bも見てみよう。自己資本は設立以来の利益の蓄積を示すが、旧一電は業歴は長いが資本は薄い。図表中の10社のうち、下位5社は全て旧一電である。

他産業と全く異なる 電力事業の安定性

このように、財務指標を用いた定量分析では、旧一電の格付けの高さは説明できない。定性分析の評価が定量評価の低さを補って余りあるほど高かったということである。その要諦は、旧一電の生むキャッシュ・フローが極めて安定していたという評価である。
総括原価主義に基づく料金規制により、電気事業のコストだけでなく、設備投資に必要な資金調達コストも、確実に回収が期待できた。一方で、必要以上に収益を上げることは許容されていなかった。しかし、安定して返済が見込める場合、収益力が低いことと、その結果として金融債務が多く財務体力が弱いことは、信用力上問題とされない。旧一電を取り巻く規制環境の確かさが、高い格付けを支える定性評価の高さの最大の要因であった。規制内容は各社の規模や財務状態の違いにかかわらず共通である。だからこそ、全ての旧一電に全く同一水準の格付けが付与されていたのである。
これらの特徴がもたらす電力事業の安定性は、国内外の経済状況や消費者の動向に業績が大きく左右される製造業や小売業とは全く異なる。事業が生むキャッシュ・フローの不安定さを補って、製造業や小売業の企業が高い格付けを得るためには、平時における収益力の高さと財務体力の強さが求められていた、と言ってもよい。
しかし、旧一電の高い信用力を支えていた料金規制に代表される規制環境は、電力システム改革の進展により大きく姿を変えていくことになった。次回は、特に11年3月の東日本大震災の後、現在に至るまで、事業環境が大きく変化した中で、旧一電各社の信用力がどのように変化しつつあるのかを解説する。

ひろせ・かずさだ  東京大学法学部卒。米デューク大学経営学修士。日本興業銀行、ムーディーズを経て現職。総合資源エネルギー調査会委員。日本信用格付学会常任理事。日本証券アナリスト協会検定会員。近著に『アートとしての信用格付け その技法と現実』(金融財政事情研究会)。