【業界紙の目】高田 潤/鉄鋼新聞社 編集局鉄鋼部長
「グリーンスチール」の実現を目指し、鉄鋼業界では世界的な技術開発競争が始まった。
日本では「水素還元製鉄」「還元鉄―電気炉」など複数の技術開発に並行して取り組む。
昨夏、「欧州の鉄鋼メーカーが『水素製鉄』で製造した鋼材を日本市場に投入する」との報道があり、日本の鉄鋼業界に動揺が走った。実用化や日本市場への投入時期について、疑問の声が出たのも当然だ。日本ではこの時、政府の掛け声でGI(グリーンイノベーション)基金を使った革新技術の研究開発プロジェクトが産声を上げたばかり。最大の眼目はまさに「水素」の活用で、政府からは「海外で実用化されたのなら、なぜGI基金を使う必要があるのか」といった声も挙がった。
結局、欧州関連の報道は、水素を使ったパイロットプラントで製造した鋼材の話で、日本市場投入の具体的計画がないことも分かった。そもそも鉄という素材の最大の特徴は、大量生産・供給が可能な点。日本の製鉄所にある大型高炉(炉内容積5000㎥級)では1日、1万tを超える鉄(銑鉄)を生産している。素材の特性(品質)も重要だが、大量生産によって競争力のある価格での供給が可能となる。パイロットプラントでの製造は、業界の常識では「実用化」とは言えないのだ。
とはいえ、ここにきて商業規模での水素活用計画の動きも出てきた。その一つが、スウェーデンのスタートアップ「H2グリーンスチール社」だ。同社は昨年、化石燃料を使わずに製造する鋼材「グリーンスチール」の商業生産を2025年以降に開始すると発表。計画では生産量は年間250万tで、大型高炉の生産規模には届かないが、商業生産には十分な量だ。
同社が計画する生産プロセスはこうだ。鉄鉱石の還元材に水素を使って還元鉄を製造し、これを電気炉で溶融などして最終的に鋼材に仕上げる。還元鉄プラントや電気炉で使う電気は全て「水力由来」。理論上はCO2排出ゼロを実現できる。水力を活用できる地の利を生かして、「世界初のグリーンスチールになるかもしれない」との見方も出ている。
日本の鉄鋼業界が着手した研究開発プロジェクト(GI基金事業)でも、水素利用の還元鉄製造技術は開発テーマの一つとなっている。プロジェクトでは、既存高炉での水素活用技術に加え、水素を還元材にした還元鉄製造技術、さらに還元鉄や鉄スクラップを原料にして大型の電気炉で高級鋼材を製造する技術などの開発を目指す。
注目集める「還元鉄」 製造実績ゼロからの挑戦
鉄鋼業が脱炭素化を目指す中、にわかに注目を集め出したのがこの「直接還元鉄(以下、還元鉄)」だ。酸化鉄である鉄鉱石を天然ガスで直接還元する「直接還元製鉄プロセス」で製造されるのが還元鉄だ。特徴的なのが固体状のまま還元する点で、通常の還元鉄は金属鉄を含む海綿状の固体となる。
還元鉄の生産量は2000年代に入り急拡大してきた。世界の年間生産量は2000年で4000万t強だったが、18年に1億tを突破。19年には1億1000万tまで増加した。生産地は中東や北米、南米、ロシアなど、基本的には天然ガス(パイプラインガス)の供給を受けられる地域に限定され、日本での製造実績はゼロだ。
還元鉄は固体のまま還元するので、不純物が一定程度介在し、鉄分含有量は通常90%程度とされる。そのため電気炉に還元鉄を投入して溶解するケースが一般的だ。この20年で生産量が急増した背景には、新興国の経済成長に伴う建設用鋼材の需要拡大がある。つまり汎用鋼とされる建設用鋼材の需要拡大の中で、原料としての還元鉄が重宝されてきたといえる。
鉄鋼業における水素利用の文脈の中で還元鉄に注目が集まっているのは、天然ガスから水素への置き換えが比較的容易と見られるからだ。天然ガスによる鉄鉱石還元は、高炉プロセスに比べて還元温度が低いのが特徴。水素は負の反応熱を持つため、そのまま炉内に投入すると炉内温度を低下させてしまうが、昇温プロセスを経るなどの工夫で、天然ガス方式の既存プラントを活用できる。つまり、既存の高炉プロセスに水素を投入する「水素還元製鉄」に比べ、還元鉄プロセスでの水素利用は、カーボンニュートラル(CN)実現への近道と言ってもおかしくない。










