初の「グリーンスチール」実現へ 技術開発レースに日本も参戦

【業界紙の目】高田 潤/鉄鋼新聞社 編集局鉄鋼部長

「グリーンスチール」の実現を目指し、鉄鋼業界では世界的な技術開発競争が始まった。

日本では「水素還元製鉄」「還元鉄―電気炉」など複数の技術開発に並行して取り組む。

 昨夏、「欧州の鉄鋼メーカーが『水素製鉄』で製造した鋼材を日本市場に投入する」との報道があり、日本の鉄鋼業界に動揺が走った。実用化や日本市場への投入時期について、疑問の声が出たのも当然だ。日本ではこの時、政府の掛け声でGI(グリーンイノベーション)基金を使った革新技術の研究開発プロジェクトが産声を上げたばかり。最大の眼目はまさに「水素」の活用で、政府からは「海外で実用化されたのなら、なぜGI基金を使う必要があるのか」といった声も挙がった。

結局、欧州関連の報道は、水素を使ったパイロットプラントで製造した鋼材の話で、日本市場投入の具体的計画がないことも分かった。そもそも鉄という素材の最大の特徴は、大量生産・供給が可能な点。日本の製鉄所にある大型高炉(炉内容積5000㎥級)では1日、1万tを超える鉄(銑鉄)を生産している。素材の特性(品質)も重要だが、大量生産によって競争力のある価格での供給が可能となる。パイロットプラントでの製造は、業界の常識では「実用化」とは言えないのだ。

とはいえ、ここにきて商業規模での水素活用計画の動きも出てきた。その一つが、スウェーデンのスタートアップ「H2グリーンスチール社」だ。同社は昨年、化石燃料を使わずに製造する鋼材「グリーンスチール」の商業生産を2025年以降に開始すると発表。計画では生産量は年間250万tで、大型高炉の生産規模には届かないが、商業生産には十分な量だ。

同社が計画する生産プロセスはこうだ。鉄鉱石の還元材に水素を使って還元鉄を製造し、これを電気炉で溶融などして最終的に鋼材に仕上げる。還元鉄プラントや電気炉で使う電気は全て「水力由来」。理論上はCO2排出ゼロを実現できる。水力を活用できる地の利を生かして、「世界初のグリーンスチールになるかもしれない」との見方も出ている。

日本の鉄鋼業界が着手した研究開発プロジェクト(GI基金事業)でも、水素利用の還元鉄製造技術は開発テーマの一つとなっている。プロジェクトでは、既存高炉での水素活用技術に加え、水素を還元材にした還元鉄製造技術、さらに還元鉄や鉄スクラップを原料にして大型の電気炉で高級鋼材を製造する技術などの開発を目指す。

注目集める「還元鉄」 製造実績ゼロからの挑戦

鉄鋼業が脱炭素化を目指す中、にわかに注目を集め出したのがこの「直接還元鉄(以下、還元鉄)」だ。酸化鉄である鉄鉱石を天然ガスで直接還元する「直接還元製鉄プロセス」で製造されるのが還元鉄だ。特徴的なのが固体状のまま還元する点で、通常の還元鉄は金属鉄を含む海綿状の固体となる。

還元鉄の生産量は2000年代に入り急拡大してきた。世界の年間生産量は2000年で4000万t強だったが、18年に1億tを突破。19年には1億1000万tまで増加した。生産地は中東や北米、南米、ロシアなど、基本的には天然ガス(パイプラインガス)の供給を受けられる地域に限定され、日本での製造実績はゼロだ。

還元鉄は固体のまま還元するので、不純物が一定程度介在し、鉄分含有量は通常90%程度とされる。そのため電気炉に還元鉄を投入して溶解するケースが一般的だ。この20年で生産量が急増した背景には、新興国の経済成長に伴う建設用鋼材の需要拡大がある。つまり汎用鋼とされる建設用鋼材の需要拡大の中で、原料としての還元鉄が重宝されてきたといえる。

鉄鋼業における水素利用の文脈の中で還元鉄に注目が集まっているのは、天然ガスから水素への置き換えが比較的容易と見られるからだ。天然ガスによる鉄鉱石還元は、高炉プロセスに比べて還元温度が低いのが特徴。水素は負の反応熱を持つため、そのまま炉内に投入すると炉内温度を低下させてしまうが、昇温プロセスを経るなどの工夫で、天然ガス方式の既存プラントを活用できる。つまり、既存の高炉プロセスに水素を投入する「水素還元製鉄」に比べ、還元鉄プロセスでの水素利用は、カーボンニュートラル(CN)実現への近道と言ってもおかしくない。

敦賀2号機の審査中断 原電は意地を見せるか

日本原子力発電敦賀発電所2号機の審査会合が再び中断している。審査は2021年に一度、審査資料の「書き換え」が問題になり中断。その後、故意に行ったものではないことが分かり、資料作成のプロセスを改善して審査会合を再開していた。

しかし昨年10月の再開後、2号機建屋の真下を通る破砕帯と活断層の疑いがある断層との連続性を調べるボーリング調査で、取り出した薄片資料の一部が最新の活動面を示していなかったことが判明。これに原子力規制委員会は態度を硬化し、8月31日までに原子炉設置変更許可の一部補正を求める行政指導を行った。山中伸介委員長は、補正書に不備などがあれば、再稼働を許可しない可能性も示唆している。

審査会合などに提出する資料の誤りは、原電に限らず他の電力会社でも見つかっている。例えば日本原燃は六ケ所再処理工場の審査で、申請書3100頁に記載漏れなどがあった。だが中断は2回目ということもあり、マスコミの原電に対する見方はひときわ厳しく、事実関係を正確、公平に伝える記事はまず見ない。ミスのない補正書をつくる―。原電には意地を見せてもらいたい。

【コラム/5月9日】米国共和党の反ESG運動 次期大統領候補がけん引

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

ESG(環境・社会・統治)は、米国の存立基盤である経済と自由を脅かす。だからフロリダでは死産とする(dead on arrival)。

何と強烈な言葉だろうか。そして、これを述べたのは誰かと言えば、いま最も米国で注目を浴びている政治家であるフロリダ州知事ロン・デサンティスである。トランプに次ぐ人気を誇る、共和党の有力な大統領候補だ。4月24日には来日して岸田首相と会談した。日本政府としても、次期大統領になる可能性があるとして、早期の関係構築に動いた形だ。

そのデサンティスが強力に反ESG運動を率いている。これまで日本では、ESGは今後「世界の潮流」になると宣伝されてきた。だが、果たして本当にそうなるのか。

経済と自由の損失 共和党の州知事が連盟で声明

国民の年金を運用する基金などの運用においては、普通は、お金を預ける国民の利益を第一に考える。

これに対してESGとは、要は「良い」会社や事業に投資しましょうということなのだが、その「良い」とはいったい何か、それを誰が決めるのか、といった問題が生じる。

バイデン政権は、投資アドバイザー、投資ファンド、年金基金、金融機関などに対し、投資に際してESGの視点を織り込むよう、ルールを整えてきた。例えば労働省は、年金の運用に際し、ESGを考慮するよう関係機関に求めるようになった。

これに対し、デサンティスは3月16日に18の州知事とともに、「バイデンのESG金融詐欺と闘う」という連名での声明を発表した。名を連ねたのはいずれも共和党の州知事たちである。いわゆる米国のレッド・ステートだ。

声明のポイントは二つだ。第一は経済的なもので、運用の在り方がESGによってゆがめられ、環境などの目的が優先される結果、国民の利益を損なうことだ。第二は自由に関わるもので、選挙された訳でもない高級官僚や金融機関が、自分達エリート好みの特定の価値観に沿った投資を強制するのはおかしい、ということだ。

「覚醒した資本主義」に反発 党派的分断深まる

米国ではここ数年、民主党政権の下、LGBT(性的少数者)、人種・移民問題、銃規制、そして環境などのさまざまな問題について、左翼リベラル的な価値が相次いで制度化されてきた。その対象は投資や融資などの経済活動にも及んだ。ESGはまさにそれを最前線で具現するものだった。

だが、かかる動きは「覚醒した資本主義(ウオーク・キャピタリズム)」と揶揄されるようになり、これではまるで社会主義だとして、反対が巻き起こった。伝統的な価値を重んじる保守層とあちこちで軋轢を起こし、党派的な分断が深まった。

デサンティス知事はフロリダ州において、州政府のみならず民間企業の業務からも徹底的にESGを排除するよう、あらゆる禁止を規定した法案を提出している。

上述の19州の共同声明については、今のところ法的な意味は全くない。だがこのフロリダ州の法案が成立すれば、他の18州も類似の法律を制定していくと見られ、影響は大きくなるだろう。

ESGへの反対にはもう一つの側面がある。それは州民のお金を預かったり、州内で事業をしたりしておきながら、ESGを理由に州内の産業に投資をしないことは不適切だ、ということだ。

これまでも実際にESGを理由に、石炭、石油、天然ガスの採掘や、それを燃料にして事業を営む企業が、投資や融資を受けられなくなったり、事業の売却を余儀なくされたりといった圧力を受けてきた。

だが、米国には化石燃料に関連する産業で潤っている州は多い。米国は世界一の石油生産量、天然ガス生産量を誇る。石炭の埋蔵量も世界一である。

このため共和党はバイデン政権の進めるグリーンディール(日本で言う脱炭素)や、その推進手段であるESGの強化には強固に反対してきた。

のみならず、民主党の議員であっても、ウェストバージニア州選出のマンチン上院議員などを筆頭に、化石燃料産業への抑圧には反発がある。

その民主党から造反者が出たため、3月の初めには、米国連邦議会において上下両院とも、「労働省の年金基金運用はESGを考慮する」という規則を否定する決議が通ってしまった。結局これにはバイデン大統領が拒否権を行使したので無効になったが、米国ではいかにESGが不人気なのかよく分かる。

それでは気候変動はどうなるのか、と読者は思われるかもしれない。実は米国共和党は、気候危機説は誇張が過ぎ、極端な脱炭素は不適切だと認識している。トランプだけが例外なのではなく、デサンティスも含めて、共和党の重鎮はみな同じだ。デサンティスが2月に出版した著書「自由という勇気(The Courage to Be Free)」でも地球温暖化は一度しか言及されておらず、しかも危機を扇動している(alarmism)として取り上げられているだけだ。

いま米国ではインフレ抑制法(IRA)の成立でグリーン産業への巨額の補助金が出ており、折からの欧州のエネルギー危機を受けて、米国への産業立地がブームになっている。だがこの立地のほとんどは、エネルギーが安価な共和党の州(レッド・ステート)向けになっている。そのレッド・ステートがESGに叛旗を翻すとなると、いったい何が起きるのだろうか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志」での情報発信にも力を入れる。

電力システム改革に制度疲労 競争と安定供給の両立へ検証を

【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞 論説副委員長

国が2010年代から推進してきた電力システム改革の制度疲労が鮮明になっている。

需給ひっ迫や電気代高騰、新電力の撤退、大手電力の不正など問題が噴出しており、検証が必要だ。

政府は2013年春に「電力システムに関する改革方針」を閣議決定した。11年3月の福島第一原発事故で日本の電力システムの問題点があらわになったことを受けたもので、改革は①安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家(利用者)の選択肢や事業者の事業機会の拡大―を三本柱とした。これを実現すべく、小売りの全面自由化や、送配電部門の中立性の確保に向けた大手電力の発送電分離、各種の取引市場の整備などの措置が矢継ぎ早に講じられてきた。

最大の目玉とされたのが、競争を通じて大手電力の地域独占を崩し、料金引き下げやサービスの多様化など消費者メリットにつなげることだった。実際、16年の小売り全面自由化に伴い、家庭向け電力販売には700社を超える新電力が参入。競争促進効果で、海外に比べて割高と指摘されていた電気料金は一定程度低減した。ガスや携帯電話とのセット割引などサービスの多様化も進んだ。

一方でこの10年間に深刻な課題も浮き彫りになった。まず改革の大前提とされた安定供給の確保が大きく揺らいだことだ。近年は想定外の寒暖に見舞われたり、火力発電所のトラブルが起きたりした途端、首都圏を中心に需給ひっ迫が繰り返されている。

競争と設備余力確保 表面化したジレンマ

背景には、自由化による競争にさらされた大手電力が、再生可能エネルギーの大量導入も相まって採算性が悪化した火力発電所の休廃止を加速させたことがある。経営効率化の観点から余分な設備を持てないのは道理だが、それによって需給ひっ迫時に必要な設備の余裕がなくなるジレンマに直面している。政府は従来、競争促進を最優先にしてきたが、市場原理に任せていては慢性的な電力不足に対処し切れないことが明らかになった。

足元では「安価な電力」という自由化の旗印も色あせている。ロシアによるウクライナ侵攻などに伴う資源価格高騰により電気代が急騰しているからだ。電力調達コストの上昇は新電力の経営を直撃し、事業停止や経営破綻に追い込まれる企業が続出している。本来、小売り事業者には需要家のニーズに対応した供給力の確保が義務付けられているはずだが、その仕組みが機能しなくなっている。

システム改革には、地球温暖化問題の深刻化に対応して、再エネ導入を拡大し、脱炭素化を進める狙いもある。だが、十分な成果が上がっているとは言い難い。もともと太陽光発電など再エネには曇雨天時に出力が大きく下がる弱点がある上、威力を発揮するはずの好天時も電力の広域ネットワーク整備の遅れを主因に出力制御を余儀なくされ、フル活用には程遠い状況だからだ。

極め付きは大手電力が起こした過去最大規模のカルテルや、新電力の顧客情報の不正閲覧など不祥事だろう。電気事業法で中立的な立場を義務付けられている大手電力の送配電部門が持つ顧客データを、営業部門が日常的にのぞき見していた問題だ。新電力から顧客を奪い返す営業活動にも使われていたという。カルテルも含め、自由化の理念を踏みにじるような行為の横行は、国民のシステム改革に対する信頼も棄損した。

電力システムの強靭化が求められている

政府はこれらさまざまな問題への対応策を講じているが、対処療法にとどまっているように見える。安定供給の確保に向けては「ベースロード電源でかつ脱炭素電源」(経済産業省幹部)と喧伝し、既存原発の運転期間延長や建て替えを打ち出した。だが、古い設計の原発の寿命を延ばす措置は安全面から不安が根強く、再稼働に不可欠な地元の同意を得るのは容易ではない。建て替えは長期の建設期間を要するため、需給ひっ迫解消の即効薬にはなり得ない。安全対策費の膨張で巨額の先行投資が必要なことから大手電力の多くは消極的との見方もある。使用済み核燃料の処理という未解決の大問題も抱える原発に、システムを再起動させる「魔法のつえ」を期待するのは無理がある。

設備不足への対応では、将来の発電能力を取引する「容量市場」に加え、新たに「長期脱炭素電源オークション」を導入する方針だ。低炭素化技術を取り入れた火力も含め大規模な電源新設を対象に20年間固定で電力の買取契約を結び、投資を誘発するという。ただ、専門家は「海外の事例を見れば、建設中や運転開始後に追加投資が想定以上に膨らむ可能性があり、相当のリスクプレミアムが要求される」と指摘する。そうなれば、長期で固定化する買取価格が割高になり、経済性の面で難点が生じかねない。

「接ぎ木対応」を重ねる国 国民の不信を増幅するだけ

大手電力の不祥事に絡んでは、政府内で新電力との競争の公平性を確保する観点から発送電分離の徹底を求める声も出ている。送配電部門が別会社化されたとはいえ、大手電力との資本関係が残る現状の「法的分離」を見直し、資本関係も解消させる「所有権分離」に移行させる案だ。ただし「小売部門などと連携が必要な災害時の復旧対応が困難になる」(経産省幹部)との懸念があり、一筋縄には行きそうない。

このほか、蓄電池の技術革新などで再エネが安定電源化するまでの移行期間中は、中東などの資源国から化石燃料を安定的に調達できる体制づくりも不可欠だ。また再エネを最大限有効活用するためには、太陽光の出力が増加する晴天の昼間帯に電気料金を安くして需要を高めるなど、デジタル技術を活用した柔軟な需給調整システムの採用も必須となる。 エネルギー政策の要諦は「S(安全性)+3E(安定供給、経済性、環境性)」とされる。政府が今なすべきなのは、これまでの改革の成果と課題を丁寧に検証し、競争原理を生かせる部分と政府の介入で市場の失敗を正す部分をきちんと切り分け、電力システムを強靭化することだ。問題が起きるたびに個別に接ぎ木するような対応を重ねていては、システム改革への国民の不信は膨らむばかりである。

最大7兆円の系統増強投資 マスタープランまとまる

電力広域的運営推進機関が3月29日に取りまとめた、2050年カーボンニュートラル(CN)の実現を見据えた広域系統長期方針「広域連系系統のマスタープラン」では、最大7兆円規模のネットワーク投資を行っても、それを上回る費用対効果を確保できる可能性があることが示された。

特に投資規模が大きいのは、北海道や東北の再生可能エネルギーを東京に送るための海底直流送電(HVDC)の新設に約2・5兆~3・4兆円と、北海道の地内系統増強のための約1・1兆円―。費用便益評価を行った三つのシナリオのうち、ベースシナリオの年間コストは約5500億~6400億円で、燃料費やCO2対策費の低減などにより、4200億~7300億円の便益が得られると評価された。

ただ、業界関係者からは、「将来の電源立地や蓄電池の導入、水素インフラの実現性など、不確実性が高い前提に寄った評価になっている」との指摘も。コストは託送料金などを通じて国民が負担することになるだけに、「自動車が走らない高速道路」にならないよう冷静に評価する視点も必要だ。

【マーケット情報/5月5日】原油続落、需要低迷に加えて供給過剰の見方が台頭

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の主要指標は、軒並み続落。マクロ経済の成長鈍化が顕著となるなかで、供給過剰の見方が広がったことから、市場では売りが優勢となった。

米国では、金融政策や経済統計の発表を受けて、景気の冷え込みと需要後退の見方が広がった。連邦準備制度理事会(FRB)は、新たな銀行破綻を受けて金融不安が増すなか、追加の利上げを発表。次回会合での利上げ停止を示唆したものの、強材料にはならなかった。また、第一四半期のGDP成長率は、個人消費などで回復が見られたものの、民間在庫投資が足かせとなり市場予測を下回った。

中国では、製造業・非製造業とも、購買担当者景気指数(PMI)の悪化が顕著になった。特に製造業のPMIは昨年12月以来の低水準となったことから、経済回復の鈍化と需要後退の見方が強まった。

一方、供給面では、米石油メジャーのConocoPhillipsが、今年の石油ガス生産見通しを上方修正した。また、米Morgan Stanley銀は、ロシア原油の減産が見られないことなどを理由に、第二四半期のブレント価格見通しを下方修正するなど、供給過剰の見方が台頭。油価の下方圧力となった。

【5月5日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.34ドル(前週比5.44ドル安)、ブレント先物(ICE)=75.30ドル(前週比4.24ドル安)、オマーン先物(DME)=73.24ドル(前週比4.57ドル安)、ドバイ現物(Argus)=72.97ドル(前週比6.29ドル安)

コモディティ市場への理解を促進 第一線の実務家らが東京大学で講義

【東京大学】

東京大学経済学部の3・4年生の学生らを対象に、エネルギービジネスの最前線で活躍する実務家が、エネルギーやコモディティ市場について解説する「産業事情」の講義が始まった。

産業事情は、各産業界の現状、課題などを学ぶため、毎年度、各界の実務家を講師に招き行われている。2023~24年度は、「エネルギー/コモディティ市場」をテーマに、著しく価格が変動するエネルギー市場(電力、LNG、石油、排出権など)について、実践的な経験に基づいた講義を実施することになった。

東京商品取引所の石崎隆社長をはじめ、宮本慎次・三井物産商品市場部室長、安永崇伸・イーレックス常務らなどエネルギー企業幹部、総合商社の経営者、トレーディング責任者ら12人が、オムニバス形式で担当する。エネルギー/コモディティ市場の実務家らが、寄付講座ではなく一般講義として、大学生を対象に本格的に教えるのは初めての試みだという。講義は上期13コマを使って行われ、200人以上の学生が受講する予定だ。

初回は東商取の石崎隆社長が講師を務めた

取引市場の役割 石崎・東証取社長が概説

昨今、エネルギーや食料品の価格高騰が経済に大きな影響を及ぼしているが、これらの一次商品価格の多くは商品取引所を中心とするコモディティ市場で形成されている。講義では、商品ごとの生産、流通構造を踏まえたコモディティ市場の役割と、価格発見、リスクヘッジ、投資などの各機能について概説する。

経済の基本であるコモディティ市場は、本来は身近なものであるにもかかわらず、マーケットや価格メカニズムは経済学部生にとってさえ遠い存在になりがちだ。本講義は、学生のうちからマーケットの素養を培い社会に出てもらいたいと、東証取の石崎社長が同大の大橋弘副学長に働き掛けたことをきっかけに開講に至った。 4月5日の初回の講義では、その石崎社長が「コモディティ市場と先物取引」をテーマに教壇に立ち、「既存の出来上がった理論を勉強するというよりも、実際のビジネスを踏まえてのコモディティ市場の価格形成のメカニズムについて一緒に考えてもらいたい」と、本講義の狙いを語るとともに、「日本の技術力、ものづくりの力は世界でも最高レベルにあるが、市場取引については個別に優秀な人材がいても層が薄く、十分ではない。さまざまな分野で日本の経済を担っていく皆さんに、エネルギー・コモディティ市場に親しんでもらいたい」と訴えかけた。

【覆面ホンネ座談会】大手電力・ガス人事を読む カルテル騒動で大波乱も

テーマ:電力・ガス業界の人事と評価

電力業界の不祥事は、人事にも大きな影響を及ぼしている。潔くトップが辞任した会社があれば、辞任のタイミングを見計らったり、社長の首を守ろうとする会社も。騒動が過ぎ去った後の人事予想まで語り尽くした。

〈出席者〉 Aアナリスト  Bエネルギー関係者  Cジャーナリスト

―まずは電力業界から。電気事業連合会は池辺和弘会長(九州電力社長)が続投。これで4年目に突入し、八木誠氏(当時、関西電力社長)に次ぐ在任期間に。候補には東北電力の樋口康二郎社長の名前も挙がっていた。

A 池辺さんの続投は、あくまで暫定的だ。中部電力と関電はカルテル、不正閲覧問題で引き受けられる状況ではない。一方で東北電にとっては、このタイミングで初めての会長職は荷が重すぎる。ただ池辺さんも一連の不祥事が一段落すれば退任する可能性もある。

C そんな状況でも、会長職へ触手を伸ばしたのが関電だ。カルテル問題は、関電自らがタネを撒いて刈り取ったようなもので業界内の評判は最悪だというのに。

B 一連の問題で逃げ切れたとしても、金品受領問題以降、経済産業省から連続して業務改善命令を食らう会社が電事連会長というのは、業界的に受け入れられない。カルテルの後で不正閲覧問題が明るみになり、ようやく会長職は無理だと悟ったようだ。

A 関電は他業種からの信頼も失った。一部の会社は安定供給を維持するために不正閲覧を行ったが、関電は営業に利用していたので極めて悪質。電事連会長などあり得ないのは明白なんだが……。業界の次男坊として自由奔放にやってきて、周囲の目など気にしない経営体質が表れている。

B 関電は昨年、森望社長の就任会見で、森本孝前社長の退任理由について「カルテルとは無関係」とした。退任理由をしつこく問われた森本さんは、質問した記者に「あなたの言っている意味が分からない」とまで口走った。森さんは今回の不祥事を巡って3月30日に記者会見し、岩根茂樹元社長や森本さんの関与に触れたが、改めて森本さんの退任理由は経営陣の若返りの趣旨だと言った。

ただ4月12日の社長会見では、森さんら幹部13人を減給などにする処分を発表、特別顧問の森本さんは結局辞任した。いま関電はとにかく森さんの首を守ることが至上命題になっている。一方で3年前、外部から招聘された榊原定征会長の今後も注目される。

A 森本さんは当時、営業担当の副社長でカルテルのレポートライン(指揮命令系統)にいたが、森さんはいない。しかし、森本さんがギリギリまで引責辞任という形を取らなかったことで、全ての責任が森さんに覆い被さってしまった格好だ。

C 金品受領問題以降、執行役員で残っているのは稲田浩二副社長だけ。もし森さんの首が飛べば、次は稲田さんか。

A いや、稲田さんもレポートラインにいるので、社外取締役が納得しないのではないか。取締役の中でカルテル問題と無関係なのは杉本康さんだけだが、年次を考えると難しい。関電は一気に執行役員クラスに若返りするかもしれない。

会見で辞任を表明した中国電力の瀧本夏彦社長(中央)
提供:朝日新聞社

福島1号機の損傷激しく 現実味帯びる「石棺化」

東京電力は4月4日、福島第一原発1号機の原子炉格納容器の内部を調査し、撮影した動画を公開した。調査の結果、圧力容器を支える土台「ペデスタル」内側の壁が、全周にわたり損傷した可能性があるという認識を明らかにしている。

調査は3月28日から3日間にかけて遠隔操作の水中ロボットを使い実施した。撮影部分では、崩れた壁から内部にある鉄筋が露出していることも確認できたという。東京電力は「過去行われた耐震性評価では、土台が一部欠損していても重大なリスクはないと確認しているが、今後も調査を継続する」として、廃炉に向けた中長期ロードマップの第3期にあたる「燃料デブリ取り出しと施設解体」に取り組む意向を改めて示した。

原子炉内部を映像で公開

とはいえ、1号機の燃料デブリは2号機、3号機に比べ堆積量が多く、散らばった範囲も広いため、取り出し作業の難航は必至だ。14日の原子力規制委員会会合では委員から、土台の崩壊による放射性物質漏えいリスクの指摘を受けた。専門家の中には「事故発生から30~40年での廃炉完了はすでに現実的ではない。今回の調査結果を受け、うわさされている石棺化がまた一歩現実に近づいた」と指摘する声もある。

【イニシャルニュース 】NFT推進派のK議員 原発反対で起きる矛盾

NFT推進派のK議員 原発反対で起きる矛盾

「最近、楽天の三木谷浩史会長が自民党の大物K議員と会合を行ったようだ。デジタル資産関連で協力を仰ぎたいのだろう」

こう話すのは在京キー局の記者。楽天はNFT(非代替性トークン)やデジタル給与などの電子マネー事業に本腰を入れており、自民党きってのデジタル通であるK議員を味方につけたい考えだという。「K議員は常々『政治資金調達にNFTを利用することはできないか』と話している。

三木谷会長とは数年前からその手の話題で盛り上がっている」(キー局記者)

NFTとは、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のこと。 暗号資産(仮想通貨)と同じく、ブロックチェーン上で発行・取引される。

2021年には米ミネソタ州知事選の共和党候補者が、初めてNFTによる資金調達を行ったこともあり、自民党内でもデジタル資産に対する関心は高い。党青年局では、昨年5月に会議出席の証明や記念にNFTを発行。コンテスト表彰者に送るNFT「岸田トークン」は一時ネットで話題になった。

一点ものデータを証明付き資産として運用できるNFTの特性上、ネット知名度が高いK議員にとっては、「新たな政治資金獲得手段」とも言える。

一方で、NFTを商取引する際に大量の電力を消費するとして、電力需給や環境への影響を指摘する声もある。党の関係者は「電力の大量消費は一部の暗号資産だけとはいえ、脱原発を主張するK議員がNFTに傾倒するのは世間体が悪い」と嘆息する。

電力を使うNFTを推進するのであれば、原発など多様な電力供給先の確保は必要なのだが……。

三木谷・楽天会長が会う大物議員は

革新炉に傾注の高市氏 原子力の「先生」は誰?

ポスト岸田の有力候補の一人だが、総務省の行政文書問題などで渦中の人である高市早苗内閣府特命担当大臣が、原子力開発について並々ならぬ関心を寄せている。誰の影響を受けているのか聞くと、「いろいろな方から学んでいます」と話をそらすという。

高市氏は大臣として科学技術振興も担当しており、有識者会議「核融合戦略」を自らが主導して昨年9月に立ち上げた。ただし、高市氏の関心は原子力の中でも「革新炉に傾きすぎ」(原子力業界関係者)と言われている。「ちょっとバランスが悪い。今の原子力政策で優先すべき課題は既存の原発再稼働だろう」(同)と関係者は首をかしげる。

高市氏が革新炉に固執する理由は何か。ある原子力関係者によると、関西にある核融合ベンチャーのK社とその周辺が同氏に情報を提供しているという。この分野の第一人者で同社を支援するK大K教授は有識者会議のメンバーだ。ただし同社関係者は「情報提供を行い、あいさつをする程度の仲」と、高市氏との親密な関係を否定している。

また業界関係者は、高市氏の夫で前衆議院議員の山本拓氏が高市氏に影響を与えていると見ている。山本氏は福井県選出の自民党国会議員だったが、70歳という年齢の制限があり候補者調整で選挙区から出馬できず、21年の衆院選では比例区に移ったが落選。しかし、まだ意欲は衰えず、中央政界への復帰を目指しているという。

山本氏は原発や高速増殖炉「もんじゅ」の開発を支援し、革新炉にも以前から関心を寄せていた。一方、「原子力支援の見返りに、行政や電力会社に地元への貢献をしっかり求めていた」(業界関係者)ともいわれる。

高市氏は初の女性首相になる可能性もある。山本氏が高市氏の指南役ならば、原子力政策はどんな展開をみせるだろうか。

小野寺・宮下が一騎打ち 保守分裂の青森知事選

青森県知事選が6月4日に行われる。有力候補は青森市長の小野寺晃彦氏と前むつ市長の宮下宗一郎氏。共に元中央省庁官僚の保守系候補で、自民党は推薦を決められず自主投票としている。

電力業界で知名度が高いのは宮下氏だ。2020年12月、むつ市に建設中の中間貯蔵施設を電力業界が共同で利用するよう、電気事業連合会と資源エネルギー庁の幹部がむつ市を訪問した。しかし、当時市長の宮下氏は「核のゴミ捨て場ではない」と一蹴。その強気の姿勢が業界内に知れ渡った。

原子力施設が集中立地する(六ケ所再処理工場)

三村申吾知事に近い小野寺氏は、三村県政の継承を掲げる。5期20年にわたり知事を務める三村氏は電力業界との関係が長く、原子力政策への理解も深い。電力会社は中立の立場だが、ある幹部は「三村県政を引き継ぐ小野寺氏になってほしい」と漏らす。

宮下氏は4月の県議選むつ市区(3人)で支援する候補を当選させ、下北地方で支持の厚さを見せつけた。一方、小野寺氏は自民党関係者に支持者が多く、今はほぼ互角の戦いと見られている。

電力業界にとって、原子力施設が集中立地する青森県の保守分裂は好ましくない。ある電力関係者は「どちらが当選しても、しこりは残る」と顔を曇らせる。

温暖化対策目標がパリ協定に合致 SBTが大手エネ事業者で初の認定

【九州電力】

国際機関「SBTイニシアチブ」は、九州電力の温暖化対策目標がパリ協定に合致するものと認定した。

国内大手エネルギー事業者での認定は初めて。トップランナーとして目標実現にまい進する構えだ。

パリ協定の発効から7年が経ち、今年の温暖化国際会議・COP28では、各国政府の温暖化対策の進捗を点検する「グローバル・ストックテイク」を初めて実施する。パリ協定で掲げる産業革命前からの温度上昇を2℃、さらには1.5℃未満に抑える目標と照らし合わせ、政府だけでなく、民間企業も含めて対策の実効性が問われる段階になっている。

民間では、自社が持続可能な企業だとステークホルダーにアピールする手段として、「SBT(サイエンス・ベースド・ターゲット)イニチアチブ」からの認定を目指す動きが広がる。SBTは、UNGC(国連グローバルコンパクト)やWWF(世界自然保護基金)などの団体が共同で設立した国際機関だ。そしてSBT認定は、科学的根拠に基づき、企業の目標設定がパリ協定に合致したものであると示す「国際共通基準」として位置付けられている。

国内では369社(3月1日時点)が取得済みだ。ただ、エネルギー業界においては中小企業の取得実績はあるものの、大手事業者の実績はこれまでなかった。

そうした中、九州電力は3月下旬、国内大手エネルギー事業者第一号となるSBT認定を取得した。

認定された目標のターゲットイヤーは2030年だが、同社は長期的なビジョンとして「50年に自社サプライチェーンの温暖化ガス排出実質ゼロ」、それを超えて社会全体の排出削減に貢献する「カーボンマイナス」を掲げる。同社の江口洋之環境部長は、「野心的なゴールを最終目標とし、対策を積み上げて設定した当社の経営目標が、科学的根拠に基づいて望ましい水準であると実証されたことには大きな価値がある」と強調する。

サプライチェーンで評価 裏付けは非化石比率の高さ

今回認定された目標はどのような内容なのか。

九電グループは30年経営目標として、国内の温暖化ガス排出量を13年度比で65%削減する目標を掲げる。これは、政府のNDC(国別目標、30年度13年度比46%減)を上回る水準だ。同社はこの目標をベースに、SBTが示す温暖化ガス削減経路のうち「WB2℃」(2℃目標を十分下回る経路)に沿った目標を申請し、今回認定を受けた。WB2℃は、一般的には年2.5~4.2%ペースで排出量を減らす経路だが、電力セクターについてはさらに厳しい水準を求めている。

SBTの目標設定イメージ
出所:環境省

危機の時代の国際石油情勢〈前編〉 西側脱露政策とOPEC減産の実情

【識者の視点】小山正篤/石油市場アナリスト

ロシアのウクライナ侵攻などの影響で、石油情勢は国際的な危機を迎えている。

西側諸国の脱露政策やOPEC減産の実情について、米ボストン在住のアナリストが解説する。

日本を含む西側諸国は、ロシアのウクライナ侵略に対抗する中で、国際石油秩序の担い手としての広い視野を回復し、その上で秩序基盤の再構築を図る必要がある。

このような視点に立って昨年の世界石油需給動向および西側の対応を振り返ってみよう。なお本稿は私見を述べるもので、筆者の所属する組織とは無関係である。

世界は露産石油依存が顕著 複雑化する西側の脱露政策

ロシアを除く世界全域における広義の石油需給を、国際エネルギー機関(IEA)統計に基づいて概観すると、昨年平均の需要量・日量約9600万バレルに対し域内生産量は日量8900万バレル。不足量は日量700万バレルを超える。これは日本の石油消費量の2倍以上に相当する規模だ。この不足分を埋めているのが、ロシアの石油輸出であり、昨年の輸出量は原油・日量約500万バレル、軽油など石油製品が日量250万バレル強と推定されている。

一方、世界の実効的な原油生産余力は石油輸出国機構(OPEC)加盟諸国、中でもサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)に集中しているが、昨年12月時点で両国合わせた余力は日量約250万バレル強にすぎない。すなわち、ロシア外の世界は、ロシア産石油を排除するに足るだけの石油生産力を持たないわけだ。

2022年の世界(除ロシア)石油需給

世界はロシア産石油を必要とする―。この簡明な事実は何を意味するか。英国とEUはロシア産石油の海上輸入を、原油は昨年12月、石油製品は今年2月以降、それぞれ禁ずる措置を採った。実際、昨年12月時点でロシアのEU、英国、米国向け石油輸出量は、年初に比べて日量計200万バレル強の大幅減少となった。

一方でインド、中国の2カ国向けは、合わせてほぼ同量の増加を見た。すなわち欧州・西側とロシアの分離に伴い、石油貿易ルートが新たに組み替えられた格好だ。

インド・中国などのロシア産石油輸入増を問題視する向きが多いが、それは自家撞着だ。非ロシア世界の域内石油供給不足という条件下では、ロシア産石油を追加的に引き取るインド、中国のような輸入国があってこそ、欧州・西側の脱ロシア依存が円滑に達せられる。両者は補完関係にあるのだ。

EU・英国はロシア産石油に対する海上保険を制裁対象に加え、これに米国が介入して上限価格(原油1バレル当たり60ドルなど)内であれば不適用とした。同制裁を事実上無効化する措置だが、これもロシア産石油輸出が阻害されれば、世界的な石油危機に直結し得る現実を反映している。本来、海上保険を制裁対象とする必要はなく、インド、中国などがリスクに見合う割引価格でロシア産石油を引き取れば済むことを、わざわざ西側が複雑にしている。西側自身の脱ロシア産石油依存は、ロシアに石油を外交的恫喝の「武器」として使われないように図る防御的措置だ。それをロシア経済に打撃を与える攻撃的措置として表明するので、取り組みが混乱する。

ロシアの石油輸出収入を断つとは、ロシア産石油の国際市場からの排除を意味する。それは、非ロシア世界の域内供給不足の解消と同義だ。大幅な石油増産と消費抑制がそこで並行して起こらなければならない。

これは少なくとも10年単位の射程を持つ中・長期的目標でなければならず、かつ、段階的な達成を順次図るほかない。また昨年時点で非ロシア世界の石油生産の4割はOPECが握っている。今後の増産にはとりわけサウジアラビアを筆頭とする中東OPEC産油諸国の同調が不可欠となる。

サウジアラビアの現実主義 OPEC減産報道の誤りとは

2021年6月から昨年10月までの間、サウジアラビアの原油生産量は日量200万バレル増加。米国の増産量・日量100万バレルをはるかにしのいだ。

同国は「OPECプラス」(OPEC側10カ国、非OPEC側からロシアを含む産油10カ国が参加)が合意した原油生産目標量に従って21年8月以降も継続的に増産し、その生産量はすでに21年12月時点で日量1000万バレルの大台に乗った。

昨年11月、OPECプラスは生産目標総量を削減し、これが「大幅減産」として広く報じられて波紋を呼んだ。削減されたのは名目的な生産目標量であり、基準とした昨年8月時点の日量4400万バレル弱から日量4200万バレル弱へと、確かに日量200万バレルの削減だ。しかし、同じ基準月の生産実績は日量4000万バレル強にとどまっていたため、もし当該の生産枠がそのまま実現すれば、日量約150万バレルの増産となった。

サウジアラビアのように実生産量と生産枠が合致する場合には減産だが、実生産が目標量と乖離して低迷する国々に対しては、反対に増産が求められた。実際、昨年11~12月の、ロシアを除くOPECプラス原油総生産量は、同年8月対比で日量50万バレル弱の減少にとどまり、対前年同期比では逆に日量100万バレルの増大を示した。つまり、かかる生産調整を大幅減産と見たのは誤りだ。

むしろサウジアラビアの動向から伺えるのは、自国の生産量を高位に保ちつつOPECプラスを通じた生産調整によって、国際石油需給の均衡を図る、いわば実務本位の冷めた姿勢だ。同国は緊急時の備えであるべき生産余力も堅持し、また27年を目途に、日量100万バレルの原油生産能力の増強計画を進めている。

このサウジアラビアの現実主義的な姿勢は、対ロシア産石油依存からの脱却と非ロシア世界の域内自給率向上という西側の目標に呼応している。この点はよく理解されなければならない。

※1 本稿での石油需給、貿易および在庫に関する数値はIEA統計(Oil Market Report)による。広義の石油は、NGLやバイオ燃料など、非石油由来の燃料を含む。

※2 ロシアに加えOPECプラスのうち8カ国が今年5月以降の追加減産を決めたが、昨年11月の減産がさほど大きくないと示した形だ。これも現状を供給過剰と見た実務本位の対応と考えてよいだろう。

こやま・まさあつ 1985年東京大学文学部社会学科卒、日本石油入社。ケンブリッジ・エナジー・リサーチ社、サウジアラムコなどを経て、2017年からウッドマッケンジー・ボストン事務所所属。石油市場アナリスト。

MOX燃料「在庫切れ」 プルサーマル一時停止へ

プルサーマル発電を行う国内原発4基のうち、2基がMOX燃料の使用を停止する見通しとなった。玄海原発3号機が11月、伊方原発3号機が来年7月までの運転で、海外に加工を委託したMOX燃料を使い切るためだ。通常のウラン燃料を用いた運転に切り替わる。一方、高浜原発3、4号機はプルサーマルを継続する。国策として各社が取り組むプルサーマルだが、なぜMOX燃料の「在庫切れ」が起きているのか。

日本は英国とフランスに使用済み燃料の再処理とMOX燃料の製造・加工を依頼していたが、2011年に英国の加工工場が閉鎖。現在はフランスのメロックス工場のみで生産されている。昨年12月末時点で、フランスに所有するプルトニウム保有量は九州電力が166㎏、四国電力が96㎏となっており、関西電力の6418㎏と比べるとわずか。九電と四電がMOX燃料に加工可能なプルトニウム量の底をついた格好だ。

プルサーマル発電を一時停止する玄海3号機

事態打開の策はあるのか―。電気事業連合会は昨年2月、「名義交換」という手法を打ち出した。プルサーマルの実施見込みが当分ない事業者の名義(フランス所有分)を四電、九電の英国保有分と交換し、両社のフランス所有分とするのだ。自社の使用済み燃料から造られたプルトニウムは、あくまで自社原発で使用するという原則の中で知恵を絞った。26年度以降の実施を目指す。

わが国は、核兵器製造につながる余剰プルトニウムの削減を国際公約にしている。プルサーマルが実施されなければプルトニウム保有量は削減されず、手つかずの状態が続く。プルサーマルを予定する島根2号機などの原発を稼働させる意義が、ここにもある。

炭素価格付け政策が本格始動 「第二のNEDO」とGX投資の行方

これまで経済界が認めようとしなかったカーボンプライシングの導入が、昨年あっさりと決まった。

個別の制度設計はどうなるのか。そして巨額のGX投資の執行を一手に担う新機構の行方は。

排出量取引(ETS)や炭素賦課金導入、そして新たな国債であるGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債の発行へ―。昨年後半、官邸主導の有識者会議でいつの間にか決定した〝成長志向型カーボンプライシング(CP、炭素価格付け)〟を規定した「GX推進法」が、今国会で成立する見通しだ(4月18日現在)。CPの議論は、欧州連合(EU)の炭素国境調整措置(CBAM)導入に対する貿易措置の面から、また岸田文雄首相お膝元でのG7サミット(主要7カ国首脳会議)成功のため日本の気候変動政策の本気度を示す意味からも、従来のように先送りはできなかった。

新法では、①化石燃料輸入事業者に対して2028年度から炭素賦課金を徴収、②ETSでは発電事業者に対して33年度から一部有償でCO2排出枠を割り当て特定事業者負担金を徴収、③20兆円規模のGX移行債を23年度からの10年間で発行し①や②で償還―と方向性を提示。一方、附則第11条で、CPの詳細な制度設計は法律の施行後2年以内に必要な法制上の措置を行うとした。

つまり今回で大枠は決めるものの、細目を決めるのは25年までと猶予を持たせたわけだ。今後見直しもあり得るということで、特に賦課金の先行きが不透明となっている。環境NGO(非政府組織)関係者は「最悪の場合、33年のETS有償オークション開始まで追加的なCPの負担はゼロという可能性もある。加えてCO21t当たり数百円程度と、石油石炭税に毛が生えた程度にしては意味がない」と懸念を示す。

巨額の新国債を引き受けるのは

政府主導のETSが始動 市場活性化の取り組み進む

詳細設計の議論が始まる気配がない賦課金と対照的に、ETSについては官民で動きが活発化する。

議論が先行する経済産業省主導のGX―ETSは、東京証券取引所での「カーボン・クレジット市場」の実証を経て、まずは今年度に自主参加型で第一フェーズがスタート。ETSが本格稼働する26年度からの第二フェーズでは、目標からの超過削減分(政府目標の30年度46%減以上の削減率が条件)の企業間取引を実施する。そして33年度ごろからの第三フェーズで、いよいよ発電部門の有償化に着手するスケジュールだ。

経産省は市場環境整備に向けた検討を進め、これまでに第一フェーズのルールを公表。さらに3月下旬の有識者会合では、市場活性化策として先物取引の導入案などを示した。先物の導入で、幅広い主体の参加や、価格変動リスク回避などが期待できると説明する。

先物導入の狙いにもあるように、GX―ETSは市場価格安定化を重視。下限価格と上限価格の設定で5年程度の価格帯を示しつつ、上昇させていく構想だ。ある試算によると、こうした措置で第三フェーズの炭素価格はCO21t当たり1万円程度となる見込み。

また、民間でも市場活性化の座組みができてきた。昨年末設立された「ナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム(NCCC)」には現在、47企業・11自治体が参画。政府発行のクレジットも扱うが、欧米中心に取引が急増する民間プロジェクト由来の「ボランタリークレジット」に着目しながら、既存だけでなく独自認証のクレジット創出にも取り組む。

同組織の理事長を務める馬奈木俊介・九州大学主幹教授は「NCCCはGXリーグを補完する市場になる。今後、世界的にクレジット不足となる見通しの中、スピード重視、取扱量の多さを意識し、アジア・太平洋地域のボランタリー市場トップを狙う」と強調。今年度は実証的な取引を始めていく。