〈エネルギー人編〉電力・石油・ガス
インパクトが大きいニュースが続いたが、日本のメディアは淡白な報道が目立った。
─秋田市新屋町の海浜公園で風力発電設備から羽根が落下。近くにいた81歳の男性が亡くなった。
石油 これは相当揉めるだろうね。ブレードはFRP樹脂という素材を使用しているが、見た目では劣化が分かりにくいようだ。温度変化や風雪などで、目視や打音では感知できない可能性もある。発電所には、同じ風車がずらっと並んでいる。20mくらいの風で折れたら、周辺住民は不安で仕方がないだろう。風車の落下事故は過去にも何回か起きているが、死者が出たのは初めて。とにかく、原因究明が急務だ。
ガス 死者が出たというのは重たい事実だ。もしかすると、既設風力の規制が変わるかもしれない。例えば、風車から一定距離が立ち入り禁止区域になれば、用地確保などが大変だ。周辺には風車見学が人気の公園がある。
電力 メディアは事故直後こそ盛んに報じたが、すぐ下火になった。今は秋田のローカル局や地元紙だけが追いかけている感じだ。それにしても、原子力で死亡事故が起きれば脱原発だと騒ぎ立てるだろうに、風車で人が亡くなっても「再エネ政策の見直しを!」とはならない。あくまで事故原因の追究という枠に収まっている。
石油 再エネよりも原発関連のニュースの方が書きやすいのだろう。事業者や原子力規制委員会からしっかりとリリースが出るからね。
ガス これまで風力に対する反対理由は、主に景観維持と野鳥保護の二つだった。今回の事故で、安全性が新たに加わることになる。再エネ主力化に向けてはネガティブな要因だ。
電力 役所が原因究明のワーキンググループなどを作ったとしても、再エネ主力化にブレーキがかからない結論に終わるだろう。政策全体に影響を及ぼすことはなさそうだ。
イベリア半島特有の事情 日本で起きる可能性は
─スペインとポルトガルで発生した大規模停電も驚いた。
電力 これも日本では、停電発生と復旧の事実を淡々と伝えただけだった。原因は究明中だが、再エネが原因だという説が根強い。スペインは風力と太陽光が供給全体の70%余りを占める。急激に太陽光の出力が落ち、周波数に悪影響を及ぼしたのではないか。さらにイベリア半島と欧州の他地域の電力相互接続容量の割合は、わずか2%だという。「陸の孤島」となっていて、急激な変化に対応できなかったのだろう。
ガス 停電が起きた日は、日中の出力の7割程度が太陽光だったようだ。そして前日の市場価格はネガティブプライス。発電事業者が、お金を払ってでも発電した電力を引き取ってもらう状況で、需給バランスが大きく乱れていた。毎度のことだが、脱炭素目標があるにせよ、変動性が大きい電源にどこまで依存するのかは真剣に考えた方がいい。でも、日本で起きる可能性を探るような記事が読めずに残念だった。
電力 私も詳細な情報は「フォーブス」などの海外メディアで読んだからね。
石油 日本もすでに電力の需給バランスが崩れかけている地域がある。遠い国の出来事では済まされないよ。
エネ補助金の垂れ流し BS―TBSは厳しく批判
─ガソリン補助金が形を変えて継続し、夏には電気・ガス料金支援が復活する。
石油 足元のガソリン価格は落ち着いていて、OPECプラスの増産やトランプ関税による先行き不安で需給は緩む。ただ暫定税率を巡る交渉で、自公と国民民主の幹事長が6月から年度末まで価格を引き下げると約束していた。暫定税率は地方税収に大きな影響を与えるので、自民としては下げずに逃げ切りたいのだろうが……。
電力 バラマキに対する批判としてよく見聞きするのが、「困窮者に対象を絞った支援を」というものだ。その手段としては住民税非課税世帯向けの直接給付があるが、自治体に手間をかけるし、非課税世帯には資産を持つ高齢者がそれなりに含まれる。でも電気・ガス料金なら、事業者に補助金を渡せば短期間で実行できてしまう。政治家が手っ取り早く使えるカードになってしまった。
ガス これまでエネルギー補助に投じた額は12兆円超だ。これだけの国費を、料金値下げという一過性の政策に使っていいのか。もっと持続性のある使途があるだろう。極端な話、太陽光パネルを全国民に無料設置すれば、20年くらいは使い続けられる。省エネ設備への買い替え、建物の断熱改修支援の強化などいくらでも方法はあった。
石油 マスコミは消費減税には社説を使って批判しているが、エネ補助金はそこまで熱を入れて報じていない。これだけの額になったのだから、本腰を入れてその是非を追及してほしいね。
ガス テレビも街角インタビューばかりで物足りない。「電気代高いですか」と聞けば、「高いので下げてほしい」と答えるに決まっている。もう飽きたよ。
石油 そんな中で、BS―TBSの「報道1930」(5月8日)が取り上げた会計検査院の田中弥生前院長のインタビューが良かった。効果があったのか分からない補助金を続けるのは問題。補正ありき、減税ありきではなく、落ち着いて考えてほしいと言っていた。ぐうの音も出ない正論だね。
─消費減税は自民が見送ったが、エネ補助金は参院選の争点にすらならない。