消費者が求める価値を追求 地域の輪の中心で発展サポート


【事業者探訪】青梅ガス

人口減少社会に突入する中、人々が地域に留まり続けるために何をすべきか―。

青梅ガスは「地域密着」から一歩踏み込み、多角的に地域作りをサポートする考えだ。

都心から西に約50㎞に位置する東京都青梅市。都内でありながら御岳の山や渓谷の四季折々の姿が魅力だ。他方、二次産業の割合が大きくハイテク産業が多く立地するという顔も持つ。この地で、青梅ガスは家庭向けの都市ガス供給を主力に60年間事業を営んできた。都市ガスは市内平坦部を中心に2・3万件に年間1600万㎥程度を供給し、家庭用が約4割。LPガスは2300件程度で家庭用の他、多くの特別養護老人ホームにも供給している。

市の計画づくりにも関わる中村社長

現社長の中村洋介氏はNECに20年勤めた後、関係者に請われ2003年に就任。「社長になるつもりはなかったが、とある講演で『同じ仕事をしているとどんなに優秀な人も20年で燃え尽きる』との言葉を聞き、決意した」と振り返る。自身は青梅に住み都心に通ったが、それは少数派だ。13万人弱の人口の流出を食い止め、地域で仕事ができる環境を促すことが、長い目で見て自社の利益にもなると考える。その点、地域のハイテク産業のエネルギー需要は電気が主で、ガスの供給拡大には直結しないものの、元気な企業の存在はアドバンテージになる。

一方、電力は家庭向けを中心に2500件ほどで、いち早く15年4月にスタートさせた。電力小売全面自由化が見え始めた頃から参入は不可欠と考えたが、ガスの卸元であるINPEXは電源を持っていない。そこで中村氏は、旧一般電気事業者で自由な社風が感じられた中部電力に協力を打診した。最終的にはINPEXを巻き込み、首都圏のガス事業者に電力を卸供給するスキームが出来上がった。中部子会社のダイヤモンドパワーのバランシンググループに入り、数年前の価格高騰時も大きな打撃を受けずに済んだという。


「地域密着」の在り方模索 CNの影響力を実感

ここ数年はカーボンニュートラル(CN)の波が押し寄せ、「環境に優しい都市ガス」とうたえず、社員には忸怩たる思いがある。今後の経営ビジョンをどう位置付け、単なる「地域密着」でなく具体的に何をすべきか―。社員のアイデアを募り、22年にその答えを示した。『個と個をつなげ、輪と成す』。青梅の人々がともに支え合い輪を成すような地域を目指し、そこに同社が寄り添い続ける、という絵姿だ。「単にスローガンを掲げるだけでなく、ある社員のお客さまとの実際のやり取りをストーリー仕立てにし、意識の共有を図っている」(中村氏)

コンサルの助言を踏まえガス展を見直した

他方でCNの威力を肌で感じた場面も。同社の提案で、電子部品大手の太陽誘電の子会社が23年、2000kWのコージェネレーションシステムを導入したのだ。同社は、企業がパリ協定に合致した目標を設定するSBTに取り組んでおり、30年に向けた現実的な計画としてコージェネの活用を選択した。

「以前はメーカーなどにコージェネのバックアップ機能をアピールしてもなかなか導入されなかったが、今やCNを目指すグローバル企業にとっては必要な投資だ」と実感する。30年以降については、オフセットガスやe―メタンなど、複数の選択肢を訴求していくという。

また、市のゼロカーボンに向け、INPEXとの3者で協定を締結した。脱炭素に加え、災害に強く、活気ある地域づくりも連携事項としており、多角的に市の計画作りをサポートする。

【原子力】新増設なく目標達成可能も 求められる規模拡大


【業界スクランブル/原子力】

エネ基の改定に伴い、2040年度のエネルギー需給見通しが公表された。温室効果ガス(GHG)排出量の13年比73%減を念頭に、五つのシナリオから、電力供給については再エネ4~5割程度、火力3~4割程度とし、原子力は2割を担うべきとされ、シナリオごとの電力需要の違いで幅はあるが、2100億~2400億kW時の貢献が求められた。

これを発電する原子力の設備規模は利用率に依存しておおむね3000万~4000万kWで、廃炉していない既設炉の全てと建設中の3基の合計3700万kWとほぼ一致する。40年に60年目を超える原子炉が4基あるが、福島事故後の停止期間を除外すれば40年の稼働が可能だ。

つまり、現在建設中の3基以外の新増設に期待しなくても原子力の40年目標は実現でき、そのためにも「原発依存度を可能な限り低減する」という文言は消された。

一方、原子力以外では革新技術によるコストダウンで再エネが4800億~5800億kW時を発電、水素供給が0・2億㎘(石油換算)、CO2回収が0・6億~1・2億tで、GHG排出削減コストは毎年10兆円前後としたが、これを産業界と国民が負担可能だろうか。コストダウンが現状技術の延長上にとどまる場合には、GHG排出の85%を占めるエネルギー起源CO2排出が56%しか減らないとするシナリオもあり、本来ならば原子力の大幅な規模拡大が必要である。

それにもかかわらず、新聞各紙の論調は原子力が脱炭素とコスト抑制に貢献することに触れず、「可能な限り低減」を消したとの批判的な見出しが踊るばかりである。(H)

友が問う大学教育の真価 自由に生きるための知とは


【リレーコラム】吉田善章/核融合科学研究所所長

「あなたのは、官製学問というのですよ」

敬愛する友であり、さまざまな事を教えてもらった先輩でもある社会学者の似田貝香門氏から言われた言葉を思い出す。

大学という権威をバックに、カリキュラム体系の中で、単位認定という教師と学生の間の契約関係に基づいて、学生たちは小難しい話を聞いている。講義の目的は専門技術の伝授であり、大学は国家に役立つ人材を生産するシステムである。こうした大学教育のあり様を憂いての指摘だったと思う。

「辻説法をやって聞いてもらえるか? それで学問の真価が問われる」―。なるほど、文学部の先生はそういうところに賭けているのかと感心した。最近では、アウトリーチの重要性が指摘され、サイエンスカフェなどもしきりに行われるようになった。だが、居心地の良い空間で、コーヒーの香りを楽しみながらサイエンスの面白さを語る、というプチ・ブルジョア的な情景と、寒風にさらされながら辻に立って説法する、というモノクロが似合いそうなシーンでは、気迫の違いというものがある。

プロの研究者を大量に生み出すシステムが出来上がってきたのは、ちょうど、マックス・ウェーバーが『職業としての科学』を著した20世紀初頭のようだ。本のテーマは、先述の学問論のアンチテーゼのように見えるが、当時のドイツの時代背景に思いを致しつつ、書かれている内容を読み込むと、わが国で一足早く、福沢諭吉が『学問のすすめ』に記したことと重なる。


人の心に響く「辻説法」のごとく

「一身独立して一国独立す」とは、リベラル・アーツ「自由に生きるための知の技法」のすすめだ。大学に学ぶ人たちは(学生のみならず、教師も一生をかけて学び続ける)、「一身」とともに「社会」の独立、すなわちさまざまな制限、干渉、圧力からの自由を求めて知の技法を磨こうとしている。大学の講義は、単に専門技術の伝授といった職業訓練ではなく、「戦って獲得すべき自由」というエスプリを持った説法でありたい。それは「楽しい科学」というものとも少し違う、もっと生活者としての人の心に響く「辻説法」のごときものだと、似田貝氏は言いたかったのではないかと思う。彼が亡くなって2年ほど経つが、友の言葉は深く心に残っている。

私も今年、大学および研究所という所属機関を離れるべき時を迎える。さすがに辻説法に出かける勇気はないが、残りの時間を何らかの仕方でリベラル・アーツ教育に捧げたいと思う。

よしだ・ぜんしょう 1985年東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻・博士課程修了(工学博士)。東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授を経て、2021年核融合科学研究所・所長。

次回は、理化学研究所計算科学研究センターの伊藤伸泰さんです。

【コラム/2月21日】物価上昇超え賃上げを再考する~楽しい日本になるために


飯倉 穣/エコノミスト

1、遅ればせながら~デフレ脱却インフレ認識

2025年の国際経済は、対中加墨トランプ関税の話題から始まった。実行は、経済縮小と当事国の物価上昇危惧である。日米首脳会談もあった。引き続き日本経済への注文も気になる。国内経済は、21世紀に入り24年間経済政策を支配し続けた所謂「デフレ」認識で、風向きが変わった。遅ればせの日銀の追加利上げがあった(25年1月24日)。その後報道があった。「日銀の植田和男総裁は4日の衆院予算委員会で・・昨年も話した通り、現在はデフレではなくインフレの状態にあるという認識に変わりはないと述べた」(日経com同2月4日)。「今の物価上昇について、赤澤経済再生担当大臣は「経済学的に言えば、インフレの状態というのはそのとおりで、植田総裁の認識と特にそごはない」と述べました」(NHK同5日)。

四半世紀経て公式見解(?)もデフレから漸く脱したようである。その要因が気に懸かる。輸入物価かコストプッシュかそれとも他か。日銀は「既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇“へ”(経済・物価情勢の展望 2025年1月)」と述べている。

この認識を前提とすれば、公正取引委員会の強権や下請法改正の趣旨にある物価を上回る賃上げや国を挙げての価格転嫁推進は妥当だろうか。過去のデフレ認識の経緯を見ながら、物価上昇超え賃上げの意味を再び考える。


2、デフレ宣言(2001年)の政治的継続

平成バブル崩壊後の90年代経済調整を経て、2000年ITバブル崩壊があり、企業収益低下と株価下落があった。マイナス成長転換となる。内閣府は「デフレ」定義を物価下落(2年以上)に伴う景気後退とした。そして「持続的な物価下落をデフレと定義すると、現在日本経済は緩やかなデフレにある」と述べた(月例経済報告01年3月16日)。その後07年まで米国サブプライムバブル・輸出好調等で経済は回復した。06年内閣府は「物価指標の動向をみると、90年代末から日本経済において顕在化した物価が持続的に下落するという意味でのデフレ状況にはない。今後の海外経済の動向によっては、デフレ状況に後戻りする可能性が残っていることから、デフレを脱却したとまでは言えず」と述べた(経済財政担当大臣報告06年12月)。同様の表現が07年も続く。経済変動看過の実に曖昧な表現だった。日銀は、経済・物価情勢が着実に改善と見て金融引締めに転換した(06年7月、2007年2月金利引上げ)。これも出遅れだった。

リーマンショックがあった(08年9月)。GDPマイナスに慌てふためき財政金融出動の経済調整に陥る。経済対策は、中身の吟味もしづらい巨額な事業規模となった。4回の経済対策の規模は、合計138.2兆円(金融以外32.5兆円:国費26.6兆円程度、金融105.7兆円)だった。財政出動規模の妥当性が問われた。やり過ぎの感があった。その中身を説明不足と民主党が批判した。

因みに各経済対策を挙げれば、「安心実現のための緊急総合対策:事業規模11.5兆円うち金融9.1兆円 」(08年8月29日)。「生活対策:事業規模26.9兆円うち金融21.8兆円」( 同10月30日)。「生活防衛のための緊急対策:事業規模43兆円うち金融33兆円」(同12月19日)。「経済危機対策:事業規模56.8兆円うち金融41.8兆円」(09年4月10日)である。


3、デフレ宣言再び(2009年)

民主党政権登場で経済実体無視の政策運営となった。経済の流れ読まずである。紆余曲折があった。菅直人経財相のデフレ宣言があった(月例経済報告09年11月20日)。必要性疑問符の事業仕分けをしつつ、確実な景気回復・デフレ克服を目指すと言い訳した。その前にデフレ脱却の宣言は見当たらずだが、「政府デフレ認定3年5か月振り」と報道があった。経済の戻りの中で、東日本大震災があった。経済低下は△1~2%程度だったが、政権による対応混乱と混迷助長があった。災害対応と財政金融政策の不慣れな対応に加え、不要な原子力発電停止で経済は混乱した。それでも経済変動論理の通り経済は回復に向かった。デフレどころでなかった。民主党政権の政治・経済運営不安が強く印象に残る。


4、デフレ脱却標榜(2013年)

安倍晋三政権となる。そしてアベノミクス(大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略)である。日銀に「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という「共同声明」を強要した(13年1月22日)。デフレ・円高解消と叫びながら、デフレ認識を事後10年以上継続した。その間賃上げ・消費増・投資増の好循環という根拠無き政策スタイルが罷り通った。金融緩和・財政出動頼りの意味不明な政策が続いた。何もせずとも経済基調は上向きの時期だった。経済の動きは、通常の景気変動等で多少の上下があったものの、水平飛行状態だった。

リーマンショック等の経済的ショック時は、やや恐慌的で物価下落は当然であるが、留意したいことがある。この四半世紀の“デフレ的”物価停滞状態の理解である。略ゼロに近い低成長経済(成長要因不足)なら、物価横ばいは当然である。その状態で日本特有の過当競争や不要な競争促進政策となれば、趨勢的不況(停滞)という現象は当然である。残念ながら、その政策の過誤が現在も継続している。


5、コロナ回復、エネ資源等輸入物価インフレ

20年1月新型コロナウイルス感染症に直面する。21年(第2四半期)以降コロナ回復過程で、国際資源エネ・食料品価格の上昇で、輸入物価が上昇し(前年比20%程度増加:円・契約通貨ベースとも)、企業物価上昇となる(同4.6%増)。このとき消費者物価への波及は、価格転嫁の遅れがあった(同△0.2%)。ウクライナ戦争(22年2月)が始まると、国際エネ価格の急騰があり、22年輸入物価は急騰し(同円ベース39%増、契約通貨ベース21%増)、企業物価も高騰する(同9.8%増)。消費者物価も、価格転嫁等で22年同2.5%増となる。明らかに輸入物価牽引インフレ現象だった。だがデフレ脱却宣言も金融政策変更もなしだった。物価上昇の原因を考えず、何故か政府主導の賃上げが喧伝された。

【石油】不透明感増す原油価格 トランプ氏の影響見えず


【業界スクランブル/石油】

今年の国際原油需給が一段と緩和すると予想される中、昨年末から年初の原油価格は意外にも堅調に推移。WTI先物価格は60ドル台後半から70ドル台に回復した。米国経済の好調維持や中国経済回復への期待に加えて、パレスチナ紛争やウクライナ戦争の激化、OPEC(石油輸出国機構)プラスの減産緩和先送りなどが影響したのであろうか。一方で第2次トランプ政権が原油需給を緩める可能性もあり、価格の不透明感が増しそうだ。

トランプ政権復帰の影響が全く見えない。選挙戦から原油やガスの生産拡大を主張してきたが、本当に増産できるのか。脱炭素を敵視する姿勢が政策にどの程度反映されるかも分からない。外交的には、中国への敵視が原油価格の低下要因に、逆にイラン制裁の強化が上昇要因となろう。

注視すべき問題は、日本国内のガソリン価格への影響だ。燃料油補助金を2段階で縮小する政府の方針で、年始の全国平均価格は昨年12月上旬比1ℓ当たり約10円上がり、新たな基準価格185円となった。補助金縮小を決めた11月時点では、原油価格が1バレル当たり約5ドル下落するか、あるいは10円程度の円高進行で、補助金が自然消滅する見通しだった。

185円を下回れば、補助金が自動的にストップになる。毎週の補助金単価は、油価上昇と円安進行で減少するどころか拡大傾向にあり、消滅から遠ざかった。原油価格が堅調と言っても、ドル建てではウクライナ侵攻以前より安い。いまや国内価格が高いと騒いでいるのは日本ぐらいだろう。企業の収益拡大と株高をもたらす円安の家計への影響は重大というしかない。(H)

【シン・メディア放談】メディアのエネ基・NDC批判 「結論ありき」と言うけれど……


〈エネルギー人編〉電力・石油・ガス

原発回帰とCO275%削減で決着したエネ基。

日本経済にとっては妥当な決着だった。

 ─第2次トランプ政権が発足した。皆さんの業界も戦々恐々としているのでは。

電気 いや、特には(笑)。

ガス 同感だ。

石油 私も。

電気 輸出産業ではないので影響を受けにくい。国内景気が関税や米国からの投資減で伸び悩めば、需要は減るかもしれない。その辺りが少し気になるだけ。

石油 環境政策にしても、アメリカがパリ協定から抜けたからといって日本や欧州諸国が続くわけではない。トランプ政権の4年間は脱炭素に向けた流れが緩やかになるというだけの話。トランプ氏の復活以前から、欧州では急進的な環境政策からの揺り戻しが起きていた。

ガス ただ資源価格の不透明感は増す。トランプ氏は全ての国に一律10~20%の関税をかけると豪語するが、相手国としてはアメリカ産の石油や天然ガス購入が交渉カードになるかもしれない。年末には欧州の一部の国で、ウクライナ経由のロシア産ガスの供給が止まった。

─日本の場合、アメリカからの購入量を増やすのはエネルギー安全保障上、悪くないのでは。

ガス そういう声は多いが、急に増やせるものではない。既に他国との契約で一杯で、購入できる量は限られている。

電力 市況で言えば、中国リスクが大きいのでは。景気減速が進む中、トランプ関税で追い込まれれば、需給バランスが一段と緩みかねない。

石油 日経電子版は、毎日ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の市況をコメント付きで掲載している。昔は滅多に見なかったが、ここ5年は中国ファクターが頻繁に書かれるようになった。原油価格は地政学リスクで一時的に跳ね上がる可能性はあるが、脱炭素もあって供給優位という長期的なトレンドは変わらない。


亡国から救国へ ガス・石油も納得

─まもなく第7次エネルギー基本計画が閣議決定される見込みだ。

電力 電力需要増が騒がれたが、あくまで電力の話。ガスや石油の需要が増えるわけではない。実際にエネ基を読んでも電力に主眼が置かれていて、「電力基本計画」のようだ。

石油 時代の潮目を感じたね。前回が「亡国のエネ基」なら、今回は「救国のエネ基」だ。第6次は書き出しが福島事故と気候変動対策だった。ただ今回は最初にエネルギー安全保障がドーンと書かれている。そして原発依存度の「可能な限り低減」削除と建て替えの条件緩和。朝日や毎日、東京は「国民的議論なき原発回帰はけしからん」という論調に終始していたが。

電力 朝日は相変わらず「福島事故を忘れるな」という感情論が多いね。投書欄じゃあるまいし、現実を踏まえた「論」を書いてくれ。

ガス 基本政策分科会の委員は原発推進派が多かった。あのメンバーで議論すれば結論は見えている。と同時に、日本は今回のような結論にせざるを得ない環境に置かれているのも事実。メディアにはそういうリアルを書いてほしいのだが。

石油 その点、読売の書きぶりはあっさりだった。事実を並べるだけで〝正力(松太郎)イズム〟は感じられない。頑張ったのは日経と産経。経済誌はエネ基に紙幅を割かなかった。

ガス エネ基全体のボリュームは落ちているが、電力とガスの個別の記述割合は変わっておらず一安心だ。業界として書いてもらいたいことはほぼ網羅されていたと思う。脱炭素技術があまり進展しない技術進展シナリオでは、LNGの供給量は40年度で7400万t程度だった。これはかなり現実的な数字だ。

石油 LPガスではrDME(バイオ由来ジメチルエーテル)を混入した低炭素LPガスの導入に触れていた。ほんの2行の記述だが、将来の補助金につながるので「書かれた」という事実が重要だ。


原理主義者に惑わされず 「下に凸」はあり得ない

─政府の温室効果ガス(GHG)削減目標が「35年度60%減(13年度比)」で決着。審議会は大荒れだった。

ガス 年末に急きょ3日間かけて集中審議が行われたが、結論は変わらず。環境原理主義者に惑わされずに良かった。環境省と経済産業省を褒めたい。

電力 環境派は「結論ありき」と言うが、イデオロギーで主張する以上、納得の上で決めるのは無理だ。

石油 とにかく、国連にNDC(国別目標)を提出する必要があるんだからさ。右も左も批判する気持ちは分かるが、こればかりは仕方ない。

電力 13年度を起点に50年GHG排出量ゼロに向けて「直線」を引いた例のグラフがある。60%減はその直線上に位置するが、環境派は「下に凸」を求める。一方で私のような現実派は「いやいや、上に凸だろう」と主張する。となれば、やはり結論は直線上の60%しかない。

ガス 下に凸になるとしても、技術が進展した45年付近の話。そもそも30年46%減も怪しいのに、そこから5年で14%も積み増せるわけがない。66%減や75%減となれば電力不足に陥るだろうし、電気代は急騰。日本経済は崩壊してしまう。

電力 原発報道にも言えるが、自分たちに都合の悪い結論が出て「結論ありき」「議論が足りない」と叫ぶのは左派系メディアの伝統芸。もう飽き飽きしている。

─「オントラック」はいつ脱線するのか。

【ガス】阪神大震災から30年 危機管理で不断の努力


【業界スクランブル/ガス】

1月17日、阪神・淡路大震災発生から30年となった。この大震災において大阪ガスは、最終的な供給停止戸数85万7400戸という未曽有の復旧作業に、全国のガス事業者から最大約3700人の応援を得て取り組んだ。激しい交通渋滞、道路上の家屋倒壊のがれきや障害物、ガス管内に侵入した水・土砂の排出など、困難な状況下での業界挙げての取り組みだった。

都市ガス業界では、それ以前もいくつかの災害復旧で応援体制が取られてきた。そして阪神大震災という大規模災害での復旧作業などの経験を糧として、供給ブロックの細分化、PE管の積極導入、材料の共通化など、保安の高度化、災害時の対応力強化の取り組みを一段と加速させた。

阪神大震災以降も、新潟県中越沖地震、東日本大震災、熊本地震、大阪北部地震などで応援体制が取られ、復旧作業の熟度も増してきたといえよう。ただ、災害復旧や復興への対応に「万全」は存在しない。政府の地震調査委員会は、M8~9程度の南海トラフ巨大地震の30年以内の発生確率を80%程度とした。南海トラフや首都圏直下型地震など、複数の大都市が被災する、従来を上回る規模の災害が起こることも想定される。

復旧のみならず、その後の復興への対応も求められる。

大都市の復興局面では、阪神大震災でも大阪ガスが東京ガスに支援を要請したように、ガス工事の対応は難しい。また災害時、お客さまが求めるのは、自分の家がいつからガスを使えるかの情報である。ウェブなどでのよりきめ細かな情報提供が大手のみならず全事業者に求められる。災害の大規模化は、危機管理の不断の進歩を必要とする。(F)

転換期の世界の勢力図〈下〉 台頭する新興国と頭打ちの中国


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

分断と統合が同時進行した昨年。その中において、徐々に明らかになったのは、グローバルサウス諸国のしたたかさと、経済成長が頭打ちした中国が途上国市場でなお比較優位を維持している現状である。

昨年11月の米大統領選で、スイング・ステーツは激戦州を指したが、国際政治では案件ごとに連携する相手を変える国々をスイング・ステーツと呼ぶ用法が見られるようになった。EU(欧州連合)とNATO(北太平洋条約機構)の加盟国でありながら、ロシアに歩み寄るハンガリーが一例であり、QUAD(日米豪印戦略対話)を通じてG7(主要7カ国)と近いが、同時にSCO(上海協力機構)のメンバーであるインドを同様に捉える見方も現れている。

BRICSでは昨年1月、イラン、エジプト、エチオペア、アラブ首長国連邦が参加し、年明け6日にはインドネシアが10番目の加盟国となった。その中でサウジアラビアはBRICS加盟に関し立場を明確にしていない。米トランプ政権は、BRICSが脱ドル化を進めれば加盟国に100%関税を掛ける考えを明らかにしており、グローバルサウスの中で存在感を高めるサウジが加盟にどのような立場をとるか今後の展開が注目される。

グローバルサウスの国々は、G7側にも中露側にも全面的にはくみしない。これらの国々が大国間の対立を見定め、自国の安全保障や経済的利益を確保しようとするしたたかな外交政策をとることが昨年を通じて一層明らかになった。

一方、経済成長の頭打ちが顕在化した中国の動向に関しては、さまざまな評価がある。不動産バブルの崩壊、消費の低迷、人口動態など構造的要因に基づくデフレ現象は否定できないものの、その一方で中国はEV、ソーラーパネル産業などで圧倒的な競争力を持つ。こうした問題を内包しつつも、中国企業は熾烈な価格競争を通じて、国際競争力を強めている。欧米諸国が高額の関税を賦課して中国製品から市場を守ろうとしても、そうした保護政策は自国産業の国際競争力強化にはつながらないため、途上国市場においては、中国製品の競争力を相対的に高めるという皮肉な結果を招く。こうした展開は、日本企業にとっても他山の石であり、厳しい競争環境の中で、日産とホンダの統合が話題に上るようになった。

一方、NATOは昨年7月の首脳会議に、日韓豪ニュージーランドの首脳を招き、G7でも10月19日に国防相会議がイタリアで初開催され、中谷元防衛大臣が参加した。こうした新たな動きの背景には、ウクライナ危機の長期化によって、欧米の量産能力の乏しさが明らかになった事情がある。ウクライナに供与すべき砲弾が間に合わず、NATO側は日韓の生産能力に注目し始めた。

防衛に関するハード対応面で、日韓の貢献が求められている。防衛技術協力と経済安全保障の議論は今年どのような展開を見せるか、日本政府のかじ取りが注目される。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

米国を襲う脱炭素の教条


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

昨年1月、米バイデン政権は新規LNG輸出プロジェクトの承認審査を凍結。エネルギー省(DOE)による経済・環境上の影響評価の報告を待つ、とした。12月半ばに当報告書がようやく公表。当時のグランホルムDOE長官は、「公共の利益」に照らして「既往の取り組み方は推奨し得るものではない旨、裏付けられた」と声明を出した。これに米誌ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が社説で真っ向から反論。米国内のエネルギー価格上昇や地球温暖化への影響に関し、報告書の穏当な内容を誇張、曲解している。また、中東産LNGの輸送リスクなど、安全保障面でも報告書の指摘を無視している、と批判した。

新規輸出許可に否定的なグランホルム氏の見解は、それが世界の天然ガスの供給過剰を招くだけ、という認識に基づいていた。事実、報告書が検討した五つのシナリオのうち四つが、2050年までの間、承認済みの能力をフル稼働させるだけで米輸出に対する海外需要を上回る、と推計している。

WSJ紙は触れていないが、この四つのシナリオのうち二つはCOP26での各国の排出削減目標(米国は50年に炭素中立)達成、残り二つは全世界で50年に炭素中立達成を前提としていた。天然ガス需要見通しが劇的に減少するのは当然で、それは脱炭素化に極めて楽観的な前提条件の単なる裏返し。つまり「新規輸出は不要と前提したら、不要との推計結果を得た」と言うのと同じだ。

脱炭素化の教条が、思考停止をもたらす事例の一つだった。政権交代で米国の脱炭素化政策は撤回されても、狭隘な米国第一主義という別の教条が現れる危険は大きい。理想と現実をつなぐ生き生きとした思考力の回復が、米国はじめ各国のエネルギー政策に求められる。

(小山正篤/石油市場アナリスト)

【新電力】インバランス料金の機能こそ 再検証するべきだ


【業界スクランブル/新電力】

昨年8月以降、電力・ガス取引監視等委員会で次年度以降のインバランス料金の在り方についての検討が行われ、電力業界の注目を集めていた。制度設計側の上限値引き上げへの旺盛な意欲が各所に表れていたものの、細部を詰め切れず、次年度は現行単価に据え置きとしつつ継続検討になった。

専門会合の委員からは、容量市場との関係整理、前提となる広域予備率算定の実情確認、追加供給力の取り扱いについてさまざまな見解が示された。議論がかみ合わずに双方、言いっ放しになってしまった印象だ。何よりも、インバランス料金のあるべき機能を再検証するべきだと考える。

特に、業界で注目されるC値(上限値)は「緊急的に供給力を1kW時追加確保するコストとして、市場に出ていない供給力を新たに1kW時確保するために十分な価格」とされ、上昇による供給力発掘を期待している。果たしてこの世界観は妥当なのか。

生活空間では、希頻度事象への備えとして、保険、非常食、保存水などを事前に手当てしたいものだ。同様に、電力の場合も緊急時の供給力は容量市場の中で事前に手当すべきで、価格が高ければ供給力が出現するはずだという、危機断面のスポット手当に依存する発想に違和感がある。

バランシンググループ(BG)の同時同量達成を促す効果がインバランス料金にはあるが、需給ひっ迫時にはどう足掻いてもリソースが不足する場面があり、制度が担保できないものを個別BGがカバーする立て付けは持続可能ではない。BGの同時同量達成履行は、行為規制によって促す方が安定供給確保に沿っている。(S)

リスクシナリオの意義大きく 第7次エネ基は常識的にシフト


【ワールドワイド/環境】

昨年末、第7次エネルギー基本計画の素案が提示され、温室効果ガス排出量を2019年比で35年までに60%、40年までに73%削減するとの地球温暖化基本計画が閣議決定された。

素案においては第4次エネ基以来、日本のエネルギー政策を呪縛してきた「原発依存度の可能な限りの低減」が削除され、再生可能エネルギー・原子力ともに最大限活用するとの考えが明記された。福島事故以降、この二つは二者択一的にとらえる主張が世論に影響を与えてきた。

今回、この呪縛から脱却できた理由は、ウクライナ戦争などにより国際エネルギー情勢の不透明性が高まり、エネルギーの低廉かつ安定的な供給が喫緊の課題となったことだ。反原発派の理想であったドイツで電力コストが大幅に上昇し、製造業が苦境に陥っていることも大きい。

エネルギー需給見通しにおいては複数シナリオが提示された。国際情勢や技術のコスト低下に不確実性がある中、特定の温室効果ガス削減目標を前提に10年以上先のエネルギーミックスを特定することには無理がある。

削除目標は50年カーボンニュートラルに向かう直線上に設定され、そこに向けては大幅な技術コストの低下を前提に、①再エネ拡大、②水素・新燃料活用、③CCS(CO2回収・貯留)活用、④革新技術拡大―の四つのシナリオが提示された。40年度時点では脱炭素技術のコスト低減が十分に進まないケースも想定された。削減目標ありきの「都合の良いシナリオ」よりも、蓋然性の高い「リスクケース」を想定した意義は大きい。リスクケースでもエネルギー安定供給に万全を期すということは、温暖化目標を最優先するのではなく、コストいかんでは安定供給を優先することであり、ウクライナ戦争前の脱炭素最優先的な風潮から常識的な方向にシフトしたことを示す。

エネ基の実施においてはコストに対する目配りが重要となる。脱炭素政策による国内電力コストの高騰がデータセンターや半導体工場誘致を阻害し、ドイツのようにわが国の製造業が生産拠点の海外移転を考えるようなことは決してあってはならない。エネ基で示された方向に向かう際の「値札」を常にチェックし、何らかのベンチマークに基づき、国際的な負担の公平性を比較するプロセスが必要となる。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【コラム/2月18日】米共和党が指摘する気候危機説のウソ 議会公聴会で科学者が証言


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

トランプ大統領が誕生し、米国のエネルギー政策は完全に変わった。これまではバイデン政権のもとで「グリーン・ニューディール(日本で言う脱炭素のこと)」にまい進してきたが、これを撤廃して「エネルギー・ドミナンス(優勢)」に舵を切った。石油・天然ガス・石炭を掘りまくり(drill baby drill)、経済を発展させる、という考え方だ。

よく日本では「トランプ大統領が変人なので科学を無視して気候変動を否定するのだ」という調子で報道されるが、これは全く違う。
米国共和党は、総意として、「気候危機説」をでっちあげだとして否定しているのだ。
そしてこれは「科学を無視しているから」などではない。「科学をよく知っているから」こそである。


日本の通説は本当か ヘリテージ財団の報告書

米国の議会公聴会では、共和党が招聘した科学者も証言をする。そこで「ハリケーンの激甚化など起きていない」とか、「数値モデルによるシミュレーションは過去の再現すら出来ない」といったことをはっきりと、データを示して証言する。
だから共和党の議員はみな、気候危機説などウソだとよく分かっている。日本の政府御用学者が、データを隠し、気候危機をあおり、脱炭素の説教をして、オールドメディアも国会議員も皆それを信じ込んでいるのとは対照的だ。 

米国の科学者の証言は、これまで何度もまとめられてきた。さらに現在進行形で、共和党系の有力なシンクタンクであるヘリテージ財団が一連の委託報告書を発表しているので、以下に概要を紹介しよう。


ほとんどのコンピューター気候モデルは、過去50年間について、地球の気温上昇の速さが観測よりも速い。つまり「温暖化しすぎ」である。公共政策は、気候の影響を誇張する気候モデルではなく、気候の観測結果に基づくべきである。

https://www.heritage.org/environment/report/global-warming-observations-vs-climate-models


IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は世界規模で気温が上昇していることの検出と、その原因が何かについて「科学的に決着がついた」と主張しているが、この議論はまだ満足に解決されていない。産業化以降の気温の変化には、都市熱が少なからず混入している。また地球温暖化の原因が、ほとんど太陽活動の変化といった自然現象によるものなのか、ほとんどがCO2排出などによる人為的なものなのか、あるいはその両方が混在しているのか、まだ確定できていない。

https://www.heritage.org/climate/report/the-unreliability-current-global-temperature-and-solar-activity-estimates-and-its


ハリケーンの頻発化・激甚化は、統計を見れば、起きていないことが分かる(図1)。米国でハリケーン被害「金額」が増加したのは、所得が増加し、資産が増えたことが主な要因である。地球温暖化よりも、エルニーニョなどの自然変動が、ハリケーンの頻度や強さを決定していることが分かっている。

図1 米国に上陸したハリケーンの数 左:全数 右:カテゴリー3以上の強いハリケーン。

https://www.heritage.org/energy/report/keeping-eye-the-storms-analysis-trends-hurricanes-over-time


寒冷な気候の方が、温暖な気候よりも、人間の健康にリスクをもたらし、多くの死者を出す(図2)。地球温暖化が進んだとしても、マラリアのような媒介感染症の範囲が大幅に拡大することはない。むしろ、手頃な価格で信頼できるエネルギーを利用できるようになった結果、平均寿命は飛躍的に伸びた。

図2 寒さによる超過死亡と暑さによる超過死亡。

ちなみに図2について、日本のデータを見ると、寒さによる超過死亡が全死亡の9.8%に上るのに対して、暑さによる超過死亡は0.3%にとどまる。つまり寒さによる死亡は暑さによる死亡よりも30倍も多い。

https://www.heritage.org/environment/report/human-health-and-welfare-effects-increased-greenhouse-gases-and-warming-0

【電力】6次から大転換のエネ基 安定供給を強く意識


【業界スクランブル/電力】

公表された第7次エネルギー基本計画案は、ロシアのウクライナ侵攻による世界のエネルギー情勢の変化やDXなどの進展による需要増加を見込むなど3年前の第6次から前提が大きく見直されている。

エネルギー政策の基本的視点は、S+3Eである。政策が検討される時期の情勢によって、何を最優先で考えられるかが変わってきた。そして第7次は「安定供給」に重点が置かれた計画になりそうだ。

序文では、日本において歴史的にエネルギー安定供給の確保が課題であったことが示され、その後も「安定供給」が繰り返し登場する。後半でも「エネルギー安全保障に重点を置いた政策の再構築が求められる」ことが記され、Energy Securityに重点を置いてエネルギー政策を実行していくことが宣言されていると言える。

これは、第6次の序文が「気候変動問題への対応」を最大のテーマとして掲げ、もう一つのテーマである「エネルギー需給構造が抱える課題の克服」よりも多くの字数を割いたことと対照的だ。

安定供給を実現するための目玉施策が原子力である。第6次の「可能な限り原発依存度を低減」の文言が消え新設に言及するなど、原子力に対する姿勢は全く異なる。CCSや次世代エネルギーに加えて、天然ガスを含む化石燃料の備蓄の記載があり、火力発電の安定的な活用を継続する方向性も示されている。 電源比率で再エネが初めて最大になるなど脱炭素の重要性が後退したわけではないが、今回のエネ基は安定供給・安全保障の重要性が改めて強く意識されたものとなったことが分かる。(K)

ドイツの冬に潜む電力危機 再エネ拡大への活路開けるか


【ワールドワイド/市場】

再生可能エネルギー大量導入と脱原子力(2023年4月に完了)、脱石炭を目指すドイツにとって、安定供給上の課題の一つとされるのは「暗い凪」(ドゥンケル・フラウテ)と呼ばれる事象だ。ドイツは冬季の日照時間が短く、太陽光出力が低下する一方、寒波などで電力需要は増加する傾向にある。風が全く吹かないなどの悪条件が重なると、ドイツひいては連系する欧州全域で電力需給がひっ迫する可能性がある。

17年1月には、風力・太陽光の出力低下のほか、フランスなど周辺国における複数の原発停止、アルプス地方の貯水池の水位低下が重なり、深刻な需給ひっ迫が発生した。送電系統運用者(TSO)は安定供給確保のためのリザーブ電源(平時は運転を停止しているが、非常事態に備えて待機している石炭・ガス火力発電所など)を稼働させ、辛くも危機を乗り切ったが、同国西部を制御するTSOのアンプリオンは「需要があと少し多かったら大停電が発生していた」とコメントしている。冬季における変動性再エネ電源の出力低下は2週間にわたり続いた例もあり、電力貯蔵やDR(デマンドレスポンス)といった対策のみでは不十分とされる。

至近では、昨年12月に風力出力の低下が一因となり、卸電力価格が一時、1MW時936ユーロの高値を付けた。過去12カ月の平均価格は同75ユーロ台のため、平時の10倍以上だ。風力の出力低下と電力需要増加のほか、中東情勢を背景としたガス価格の上昇、発電事業者による市場操作の疑いも取り沙汰されているが、ドイツでは11月にも同様の事態が発生している。

現状、こうした非常事態への対応を担っているのは主にガス火力であるが、電力市場から退出した石炭火力も最後のとりでとして確保されている。ドイツは38年の脱石炭を掲げるものの、法律上は「電力市場における」石炭火力の設備容量をゼロにすることが脱石炭と定義づけられている。つまり、廃止が決定した石炭火力であっても、規制当局が安定供給に関する分析を行い、必要と判断された場合はリザーブ電源として維持される。

連邦政府は将来的には再エネの調整電源も含めた脱炭素化を目指し、ガス火力の水素転換や水素火力の新設などを支援する「発電所戦略」を策定した。しかし、政治的混乱により法制化は遅れており、電気事業者は明確な方向性を一刻も早く確定すべきと訴えている。

(佐藤 愛/海外電力調査会・調査第一部)

米ガス最大手エクスパンド誕生 エネルギードミナンスの推進役


【ワールドワイド/資源】

1月20日に米トランプ政権が始動した。大統領として今後4年間、トランプ氏はエネルギーでドミナンス(優位性)を保とうとするのか。シェール企業はそれを見据えて、1年前から動き始めていた。

昨年1月、シェールガス大手のチェサピークとサウスウエスタンの大型合併が伝えられた。数カ月前には、エクソンモービルとシェール専業大手のパイオニアの統合が発表された。ガス価格低迷にあえぐ企業が多い中、両社はいち早く、巨大化しLNG市場に進出し、将来の収益を取り込む狙いがあった。

同年11月にようやく、ガス生産量日量2・6bcf(10億キュービックフィート)のチェサピークとガス換算日量4・1bcfのサウスウエスタンが合併し、日量約6・75bcfの規模を持って新生エクスパンド・エナジーが誕生した。今年はその生産量を日量7bcfに増やし年間27億ドルを投資する計画である。同社は、エクソンモービルの国内ガス生産量日量3・1bcfの2倍強を誇る。世界でもエクソンモービルの日量8・3bcfや英国メジャーBPの日量7bcfを追いかける、インディペンデント発の全米最大のガス会社である。

エクスパンドのガス資産はテキサス州やルイジアナ州に広がるヘインズビルと北東部のアパラチア。LNG用に日量1・5~1・8bcfを供給するが、将来的にLNG需要増によって価格上昇を見込む。また価格上昇したらすぐ生産できるよう、フラッキング(仕上げ)を施さない井戸を多数有し、その増産ポテンシャルは最大日量1bcfに上る。一方でガス価格の乱高下に備えて昨年第4四半期で生産量の45%相当をヘッジし、安定した経営にも腐心する。

現在のところ、LNGによる収益構造は、計画中のテキサスLNGの年50万tをヘンリーハブ価格連動で引き取り、トレーダーのガンバーにJKM価格連動で売却する構想で、さらに販売量を増やす意向である。トレーダーのビトルとも同様のJKM価格リンクの売却に基本合意する。しかしまだ規模は小さい。

エクスパンドはトランプ政権の「ドリル・ベイビー・ドリル」に呼応し、世界ドミナンスの推進役となるのか。同社は国内のガス田とパイプライン網を拡充しながら販路を増やし、LNG進出にも乗り出した。複数の新規LNG基地の立ち上がりを目前に控える米国最大のガス企業は収益基盤の強靭化を急ぐ。

(高木路子/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)