【事業者探訪】青梅ガス
人口減少社会に突入する中、人々が地域に留まり続けるために何をすべきか―。
青梅ガスは「地域密着」から一歩踏み込み、多角的に地域作りをサポートする考えだ。
都心から西に約50㎞に位置する東京都青梅市。都内でありながら御岳の山や渓谷の四季折々の姿が魅力だ。他方、二次産業の割合が大きくハイテク産業が多く立地するという顔も持つ。この地で、青梅ガスは家庭向けの都市ガス供給を主力に60年間事業を営んできた。都市ガスは市内平坦部を中心に2・3万件に年間1600万㎥程度を供給し、家庭用が約4割。LPガスは2300件程度で家庭用の他、多くの特別養護老人ホームにも供給している。

現社長の中村洋介氏はNECに20年勤めた後、関係者に請われ2003年に就任。「社長になるつもりはなかったが、とある講演で『同じ仕事をしているとどんなに優秀な人も20年で燃え尽きる』との言葉を聞き、決意した」と振り返る。自身は青梅に住み都心に通ったが、それは少数派だ。13万人弱の人口の流出を食い止め、地域で仕事ができる環境を促すことが、長い目で見て自社の利益にもなると考える。その点、地域のハイテク産業のエネルギー需要は電気が主で、ガスの供給拡大には直結しないものの、元気な企業の存在はアドバンテージになる。
一方、電力は家庭向けを中心に2500件ほどで、いち早く15年4月にスタートさせた。電力小売全面自由化が見え始めた頃から参入は不可欠と考えたが、ガスの卸元であるINPEXは電源を持っていない。そこで中村氏は、旧一般電気事業者で自由な社風が感じられた中部電力に協力を打診した。最終的にはINPEXを巻き込み、首都圏のガス事業者に電力を卸供給するスキームが出来上がった。中部子会社のダイヤモンドパワーのバランシンググループに入り、数年前の価格高騰時も大きな打撃を受けずに済んだという。
「地域密着」の在り方模索 CNの影響力を実感
ここ数年はカーボンニュートラル(CN)の波が押し寄せ、「環境に優しい都市ガス」とうたえず、社員には忸怩たる思いがある。今後の経営ビジョンをどう位置付け、単なる「地域密着」でなく具体的に何をすべきか―。社員のアイデアを募り、22年にその答えを示した。『個と個をつなげ、輪と成す』。青梅の人々がともに支え合い輪を成すような地域を目指し、そこに同社が寄り添い続ける、という絵姿だ。「単にスローガンを掲げるだけでなく、ある社員のお客さまとの実際のやり取りをストーリー仕立てにし、意識の共有を図っている」(中村氏)

他方でCNの威力を肌で感じた場面も。同社の提案で、電子部品大手の太陽誘電の子会社が23年、2000kWのコージェネレーションシステムを導入したのだ。同社は、企業がパリ協定に合致した目標を設定するSBTに取り組んでおり、30年に向けた現実的な計画としてコージェネの活用を選択した。
「以前はメーカーなどにコージェネのバックアップ機能をアピールしてもなかなか導入されなかったが、今やCNを目指すグローバル企業にとっては必要な投資だ」と実感する。30年以降については、オフセットガスやe―メタンなど、複数の選択肢を訴求していくという。
また、市のゼロカーボンに向け、INPEXとの3者で協定を締結した。脱炭素に加え、災害に強く、活気ある地域づくりも連携事項としており、多角的に市の計画作りをサポートする。