【地域エネルギー最前線】茨城県
茨城県臨海部を舞台に、需要、供給双方に新エネルギーの拠点を作り出そうという構想が動き始めた。
製鉄所の高炉休止など地域経済の転換に直面する中、県や市町村は脱炭素に活路を見出そうとしている。
臨海部に集積する産業を、化石燃料多消費型からカーボンニュートラル(CN)型へ―。茨城県が有する茨城港と鹿島港、二つの港湾を舞台に、CN化のプロジェクトが始動している。地域特性を生かし、新エネ分野での新たな産業創出を目指す大規模な計画だ。
県臨海部には、JERAの常陸那珂火力や鹿島火力といった発電所、東京ガスの日立LNG基地、石油精製所、製鉄所、石油化学などさまざまな産業が集積している。地域特性はCO2の排出実態にも表れており、県の排出量のうち産業分野が6割近くを占める。つまり産業分野の対策強化が、県のCO2削減の迅速化につながる。
企業にとってもCN化は喫緊の課題だ。そして臨海部には先述の通り、エネルギーの供給側、需要側双方の拠点が立地している。こうした実態を踏まえ、県は臨海部にはCN化での成長ポテンシャルがあると判断。また、国土交通省が進めるカーボンニュートラルポート(CNP)施策も後押しとなり、昨年5月に「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出プロジェクト」を立ち上げた。
洋上風力をはじめとする再生可能エネルギーの導入、水素・アンモニアなどのサプライチェーン構築、関連の技術開発、設備投資を促進。新エネ需要拠点、新エネ供給拠点、メタネーション(合成メタン)などのカーボンリサイクル拠点創出を目指す。県が呼び掛け、エネルギー企業やコンビナート立地企業、行政、研究機関などでつくる協議会を設置し、検討を深めている。
ただ、今はまだ県が青写真を示した段階。取り組みの具体化はこれからの作業だ。実際に企業がどの程度の投資を決断するかが、プロジェクトの行方を握る。県は、「港湾と周辺地域のCN化を実現することで、産業や雇用が無くなるのではなく、今後も稼げるという形を県として示した。できるだけ多くの企業を巻き込み、これを絵に描いた餅で終わらせないようにする」(地域振興課)と意気込んでいる。
日鉄高炉休止の衝撃 既存産業への危機感強く
これほどの大規模プロジェクトを自治体主導で進める背景には、既存産業の将来性への危機感がある。2021年春、日本製鉄が鹿嶋市の製鉄所の高炉2基のうち1基の休止を発表したことは、地元にとって衝撃の出来事だった。手を打たないままでは、県内のほかの企業が同様の決断を下してもおかしくはなく、「新産業を作り出さなければ、地域として脱炭素化時代に生き残れない」(同)。
その本気度は21年度の予算措置に表れている。CN関連のさまざまな新規施策を用意したが、中でも目玉事業である「CN産業拠点創出推進基金」には200億円を措置した。CN対応に必要な共用インフラの整備や各社の設備投資を支援するものだ。県の予算総額が1・3兆円というから、かなりの額を割いたことが分かる。
県は「企業の設備投資に1000億円を要すると仮定し、1割を県が負担すれば、2社を支援できるイメージ。企業へのコミットの姿勢を示すために思い切った予算措置に踏み切った」(同)と説明。基金以外の補助事業、規制緩和や地元調整などの伴走型支援にも力を入れる。
21年度の取り組みとしては、常陸那珂港区ではアンモニアのサプライチェーン構築の可能性を探る。港湾内施設の整備に関する調整を進めつつ、愛知県の碧南火力でアンモニア混焼の実証を進めるJERAに対し、常陸那珂火力でも同様の実証を行えないか提案する。ここが実現すれば、中小規模も含めた潜在的な需要掘り起こしに向け、ほかの企業にも打診していく考えだ。
既に複製水素のパイプラインが整備されている鹿島コンビナートでは、水素導入の拡大を働き掛ける。念頭に置くのは老朽化した共同火力のリプレースだ。まず石油コークスを使う北共同発電などのリプレースを促し、将来的な水素需要量の把握や、水素利活用の拡大を図っていく。
「第二の鹿島開発」の気概 洋上風力関連産業の創出へ
高炉休止に揺れる鹿嶋市も、CNにかける思いは強い。「第二の鹿島開発」といった気概で、洋上風力を軸にした関連産業創出を目指している。
基地港湾の工事が進む鹿島港外港地区(提供:鹿嶋市)
市が洋上風力を柱に据えたのは、20年に鹿島港が国土交通省から基地港湾の指定を受けたからだ。基地港湾とは、洋上風力発電設備の設置や維持管理に活用する港湾。鹿島港は太平洋側で唯一指定されており、再エネ海域利用法に基づく促進区域である千葉県銚子市沖など、近隣海域の風力発電産業の拠点となる予定だ。24年度の供用開始に向け、国交省事業として、外港地区の岸壁整備や地耐力強化などの工事を実施している。
市のビジョンでは、基地港湾機能である部品の輸入・移入、建設・風車積み出し、O&Mなどの拠点化だけにとどめず、関連するさまざまな産業の誘致を図る。鹿島灘沖で計画される洋上風力発電所の電力の地産地消や、水素製造、人材育成、観光などの拠点化も模索したい考えだ。
もともとの人口減に折り重なる形での高炉休止の影響をどう乗り越えるかは、市の最重要課題。かつて主たる産業がなかったところ、1960年ごろから鹿島開発計画がスタートし、現在に至っている。錦織孝一前市長は新たなCN化の挑戦を「第二の鹿島開発」として注力してきた。4月に当選した田口伸一市長も、前市長の路線を継承する意向だ。市は「洋上風力の総合拠点化で地域活性化を目指す上で、いかに鹿島港に注目してもらえるかが課題。また、地元企業にも積極的に参入を呼び掛けていく」(港湾振興課)考えだ。
既存産業の転換というピンチをチャンスに変えることができるのか。茨城発のCN化の動向に引き続き注目したい。