【電力】再エネTFの提言 ゆがんだ事実認識


【業界スクランブル/電力】

 3月22日、東京電力と東北電力管内で電力需給ひっ迫警報が初めて発令された。これを受けて再生可能エネルギー等規制等総点検タスクフォースが提言を公表したが、冒頭の事実認識でつまづいてしまった。

火力発電への投資や原発の再稼働は解決策にならない、なぜなら地震発生前は関東地方は電源は足りていたからという立論はにわかに理解しがたいが、それ以前に、今冬の関東で最大需要が発生した1月6日は、電圧降下まで行って辛くも最低限の予備率を確保したに過ぎない。しかも翌日晴れたからよかったものの、そうでなければ揚水発電所の水を使いつくして需給バランスが破綻した可能性もあったほど。「足りている」とはとても言えまい。

また、「悪天候により太陽光が十分に発電しなかったと、再エネの責任を問う声があるが、筋違い」なのだそうだ。確かに3月22日のような日の需給に貢献することなど、端から太陽光に期待できるはずもない。急遽補修計画を取りやめて応援に入るような芸当も端から期待されていない。

そんな制約が大きい電源に多額の政策補助があり、各地でトラブルが起きている現状に疑問の声があっても筆者は理解するし、筋違いと開き直ったところで理解が進むとも思えない。

欧米諸国が急速に脱ロシアにかじを切ったことで、国際エネルギー市場は化石燃料の奪い合いの様相だ。途上国の中にはそのとばっちりで燃料調達が十分にできず停電が起きているところもある。世界のエネルギー需給を緩和するために日本が原子力の再稼働を急ぐのは、むしろ責務ではないのか。こんな火力・原子力サゲと再エネアゲのゆがんだ言説に、与党政治家の一部まで同調してしまっているのは率直に言って残念だ。(U)

現場からみた脱ロシアエネルギー


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

ウクライナにおけるロシアの蛮行が連日報道されるにつけ、ロシアの主要外貨収入であるエネルギー輸出への制裁を求める声が世界中で高まっている。「血の匂いがしないのか!」とは、シェルが戦争開始直後にロシアの石油をスポットで買ったことが判明した際に浴びせられた言葉だ。確かに、1日10億ユーロ(1350億円)といわれるエネルギー収入がある限り、ロシア経済は潤い続ける。そこで欧州はまず、比較的影響が小さいとみられる石炭の輸入の停止を決めた。これを受け、わが国も石炭の輸入については「ゼロを目指す」姿勢を打ち出した。

ところで、現場目線からいうと、受入ソースを変えるというのは、見た目ほど楽なものではない。一番大変なのは、ロシア炭を主力としてきた自家発やセメント製造など、小ロットで石炭を調達している事業だ。これらの会社が使う2~3万t級の小さな船は、豪州など遠距離に使うには運賃が高すぎる。

一方、大手電力は概ね10%程度の調達比率ではあるが、不足分はすでに供給余力のない豪州炭をもっぱら取り合うことになるだろう。インドネシア炭は熱量の低下が著しく(燃焼性が悪い)、南ア炭は揮発分が低い(着火性が悪い)など、ボイラーは意外に好き嫌いが激しいのだ。品位だけではない。欧州、日本とも、より遠距離の航路へ向かうので、船舶も不足するだろう。石炭を運ぶ“バラ積み船”は穀物も運ぶが、大穀倉地帯であるロシア・ウクライナの小麦の出荷が減るため、こちらも物流が大変わりして、用船市況の高騰に拍車がかかる怖れがある。

「まだロシアのエネルギーを買っているのか!」とエネルギー会社に向かって叫ぶ前に、国民全体で省エネや原子力の有効活用など、化石燃料の消費を減らすことを考えたい。

世界規模のエネルギー危機 問われる米ケリー特使の資質


【ワールドワイド/環境】

中間選挙を半年後に控え、バイデン政権の支持率低下が止まらない。その最大の理由はガソリンをはじめとするインフレの深刻化だ。バイデン大統領はロシアに責任を帰そうとしているが、共和党は「化石燃料を敵視するバイデン政権の政策により、ウクライナ戦争前からエネルギー価格は大幅に上がっていた」と政権攻撃を強めている。

エネルギー価格の鎮静化に躍起になっているバイデン政権は国内政策として戦略国家備蓄放出、石油・ガス企業に対する国産石油や天然ガスの増産要請を行う。国外政策では湾岸産油国への増産要請、ベネズエラからの石油調達など政権発足当初の脱化石燃料スローガンはどこへ行ったのかといった具合である。

ウクライナ戦争によってロシア産天然ガスへの依存脱却を打ち出した欧州委員会が代替供給源として米国産LNGを想定している。そのためには米国産天然ガスの増産が不可欠となる。バイデン政権の中にあって真逆に突っ走っているのがジョン・ケリー気候変動特使である。

彼は4月半ば「われわれはガス産業に対し6年か8年か、10年足らずしか時間が残されていないことを知らしめねばならない。30~40年続くガスインフラを作れば、雇用や投資家保護を理由にそのインフラを閉鎖できなくなる」と語った。このようなコメントを聞いて新規インフラ投資をしようという企業はいないだろう。

ケリー特使は就任前から中国から温暖化防止で譲歩を引き出すために他の分野で妥協するのではないかとの懸念が根強くあった。アジア諸国の低炭素化の有効な手段は石炭から天然ガスへの燃料転換であるが、彼が国務省やエネルギー省に送り込んだスタッフは「天然ガスではなく一足飛びに再エネに転換せよ」との主張を展開した。

ウクライナ侵攻が秒読み段階となっていた2月半ばには「戦争は温室効果ガス排出を増大させる。プーチン大統領も温暖化防止努力を続けてほしい」という元国務長官らしからぬコメントで身内からの失笑を買った。

彼のような人物がホワイトハウスにいる限り、米国の石油ガス産業はバイデン政権を決して信用しないだろう。その結果、米国の石油ガス増産が遅れるとすれば、世界のエネルギー危機を深刻化させることになる。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

暗号資産のマイニング 米下院が電力ひっ迫を警鐘


【ワールドワイド/経営】

近年存在感を増している暗号資産(仮想通貨)。その採掘(マイニング)が環境に与える影響について、懸念の声が大きくなっている。中でも時価総額が最大の暗号資産であるビットコインのマイニングには、コンピューターによる複雑な計算処理過程で、膨大な電力が消費されている。ケンブリッジ大学によると、ビットコインによる世界全体の年間電力消費量は、2022年時点で1400億kW時以上と推定される。これは、ニューヨーク州全体の年間電力消費量に匹敵する規模だ。

マイニング事業の中心地は最近まで中国であった。しかし、21年半ば以降、中国政府がエネルギー需要抑制の観点から暗号資産のマイニングを禁止。多くの事業者が米国の電気料金が安い地域やカザフスタンなどの近隣諸国へ移転した。これに伴い、米国でのビットコインのマイニング処理量は急増し、中国に代わって世界シェアトップとなった。

こうした中、米国内ではマイニングによる電力需要の増加に対する連邦議会の監視の目も厳しくなっている。今年1月には下院エネルギー・商業委員会で暗号資産が環境に及ぼす影響についての公聴会が開かれた。暗号資産に批判的な議員は、マイニングに伴う膨大な電力消費と炭素排出が米国の気候変動対策を台無しにするかもしれないと警鐘を鳴らした。

また、バイデン大統領は3月、暗号資産に関するリスクとメリットの検討を政府に求める大統領令「デジタル資産の責任ある発展の確保」に署名した。そこには気候変動や環境への影響も課題の一つとして含まれている。

一方の大手マイニング事業者は、再エネ電源や余剰エネルギーを積極的に活用することで、環境に配慮したマイニングが可能であると主張。実際、米国内では多くの事業者が再エネ電力の利用を促進させる。クルーソー・エナジー・システムズ社では油田・ガス田から放出される余剰ガスによる発電電力をマイニングに活用している。

さらに、マイニング設備は瞬時に停止することが可能なため、デマンドレスポンス(DR)への活用も注目されている。22年冬のテキサス州で発生した需給ひっ迫では、複数のマイニング設備が下げDRに応じた。このように、マイニング業界側でも、エネルギー・環境面での課題への挑戦が広がりつつある。暗号資産の市場規模は今後も拡大するという予想は多く、米国をはじめ世界各国がそれによる電力需要の増加問題にどう立ち向かうのか、今後も注目される。

(三上朋絵/海外電力調査会 企画・広報部)

原油増産目指すクウェート 関係国との連携強化に奔走


【ワールドワイド/資源】

 クウェートは、原油生産量で世界第10位、OPECではサウジアラビア、イラク、UAEに次ぐ4番目の大産油国であるが、近年、原油生産能力の低下に直面している。国内の上流操業を担うクウェート石油会社(KOC)の生産能力は老朽油田の能力減退などにより、過去3年間で日量50万バレル以上減少し2020~21年は263万バレルにとどまった。

クウェートはOPECプラスの生産協定に従い、毎月一定量の増産を継続している。しかし現状では、OPECプラスで定められたクウェートの基準生産量である296万バレルまでの生産回復は容易ではなく、3月末で15万バレル程度とされたクウェートの生産余力(スペアキャパシティー)は数か月以内にゼロになると見られる。

石油部門を統括するクウェート石油公社(KPC)のCEOは、年間500本の坑井掘削計画や二つの集油センターの稼働、重質油開発などにより、今後2年間で50万バレルの生産能力増強が可能とした。また、アルファレス石油相は、中立地帯分を含む生産能力を25年に350万バレル、35年に400万バレルに引き上げることを目指すと表明した。3月末にはクウェートの原油増産に向け、日本主導の10億ドルの融資計画が明らかになり、日本貿易保険(NEXI)とKPCが覚書を締結した。

クウェートとサウジアラビアの間の中立地帯の原油生産は20年7月に陸上・海上両鉱区で5年ぶりに再開された。順調にいけば、25年までに陸上・海上合わせた中立地帯の生産能力は70万バレルに拡大が見込まれ、このうち、50%に当たる35万バレルがクウェートの生産能力に上乗せされる。

ガス需要の拡大が見込まれるクウェートは、能力580万tの既存FSRU(浮体式受入基地)に加え、21年7月に能力2200万tのアルズール受入基地を稼働させ、輸入LNGの確保に努めているが、同国は自前のガス開発にも注力している。サウジアラビアとは中立地帯のガス開発でも合意した。3月にサウジのエネルギー相とクウェートの首相が、ガス日量10億立方フィート、コンデンセート日量8万4000バレルのポテンシャルを有するドラガス田の共同開発に関する合意書に調印した。 ドラガス田の権益保有を主張してきたイランは、今回の合意は違法であると反発しているが、協議には応じる姿勢との報道もある。イランが独自開発に踏み切るとの見方から、イランを含めた3国による共同開発に発展するとの見方もあり、今後の動向が注目される。

(猪原 渉/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

負の印象強化の常とう手段 「核のごみ」と「汚染水」


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 印象操作が過ぎないか―。

5月2日東京「改憲機運『高まらず』70%、共同通信世論調査」である。「岸田文雄首相が目指す改憲の機運は『高まっていない』が『どちらかといえば』を含め計 70%に上った」とある。

改憲って何? 関心ないし議論も盛り上がってない。そう思わせようとの意図を感じる。

実際はどうか。調査の詳細を見ると、「問1、憲法改正に関心がありますか」の答えは「ある」23%と「ある程度」47%を合わせて70%。「問2、改正する必要があるか」については、「必要」24%と「どちらかといえば必要」44%で計68%が肯定的だ。むしろ機運は高まっている。

見出しの「国民の間で改憲の機運は高まっているか」の問いは21項目ある質問の20番目。そもそも機運を見積もる世論調査で機運を問う意味が分からない。

護憲派の朝日でさえ、3日に「改憲『必要』56%、本社世論調査、13年以降で最多」と報じている。「ロシアのウクライナ侵攻を受けて、日本と日本周辺にある国との間で戦争が起こるかもしれない不安を以前より感じるようになったか聞くと、『感じるようになった』80%で、『とくに変わらない』19%を上回った」と、世論激変の要因も指摘する。

東京の記事を読んで、2013年にフィンランドを訪ねた時を思い出した。業界団体の取材団に加わり、世界で初めて高レベル放射性廃棄物の最終処分地に選ばれたオルキルオト地域を取材した。

地元の見方はどうか。宿泊中のホテルで働く16歳の少女に話を聞くことになった。少女は「専門家を信頼している」「不安は感じない」と答えたが、記者たちは納得せず、少女を取り囲み、「福島の事故を知らないのか」などと詰問した。驚いたのだろう、「不安かも」と少女はつぶやいた。

使えない発言だと思ったが、後日、これを取り上げた地方紙記事を見つけた。強引過ぎる。

朝日も、原子力報道は強引さが目立つ。4月14日「処理水放出、審査大詰め、『受け入れ』『反対』地元分断」は、「東京電力福島第一原発で増え続ける汚染水を処理し、希釈して海に放出する方針を政府が決定して1年。原子力規制委員会による審査が大詰めを迎えている。一方、地元では理解が広がらないばかりか、『分断』も生まれつつある」と書く。

増えているのは「処理水」だが、敢えて「汚染水」を持ち出す。別のページで「処理水放出『超大型基金』で溝、政府『風評対策300億円』全魚連『別の話』」と、金絡みの対立も仕立てる。

風評被害が狙いか。処理水放出に関しては、原子力規制委員会も国際原子力機関も、本質的に安全上の問題はない、と評価している。議論は、そこが出発点である。

朝日らしいのは18日「記者解説、強まる原発回帰、脱炭素が追い風、『後処理』も直視を」だ。「後処理」は「『核のごみ』と呼ばれる高レベル放射性廃棄物の処分など」と解説したあと、説明なしに「見通しが立っていない」と断じ、「課題に、まず目を向けなくてはならない」と説く。

「核」と「ごみ」の組み合わせは、負の印象を強める常とう手段だが、フィンランドやスウェーデンのように既に処分地を決めた国があることには一切触れない。

多くの人がメディアの独善に飽いている。ネットで新聞やテレビがマスゴミ(巨大ごみ)と腐されるのはなぜか。自覚が要る。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【マーケット情報/6月10日】原油上昇、品薄感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給不足感が一段と強まり、価格が続伸した。

欧州連合によるロシア産原油、石油製品への禁輸措置で品薄感が広がる一方、国際原子力機関(IAEA)がイランに対する非難決議を採択。イランはこれに反発し、IAEAが同国の核関連施設に設置した監視カメラの撤去を開始した。米国は、核合意復帰に向け努力する方針は変わらないとしたものの、合意復帰はさらに遠のいたとの見方が大勢。イラン産原油の供給増加は当面見込めないとの予測が、価格を支えた。

また、リビアの一部輸出港では、治安悪化を背景に、計画外停止の可能性が台頭。供給逼迫感がさらに強まった。

一方、米国の週間在庫は増加。ただ、供給逼迫感を和らげる要因にはならなかった。

【6月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=120.67ドル(前週比1.80ドル高)、ブレント先物(ICE)=122.01ドル(前週比2.29ドル高)、オマーン先物(DME)=119.10ドル(前週比7.00ドル高)、ドバイ現物(Argus)=118.76ドル(前週比6.71ドル高)

石油とアナログ半導体 共通する需給ひっ迫の構造


【オピニオン】後藤康浩/亜細亜大学教授

世界経済に暗雲を広げるインフレの主因は化石燃料と穀物の需給ひっ迫だが、それ以上に自動車など産業界を悩ませているのが半導体の供給不足だ。化石燃料と半導体は一見、まったく異なるコモディティだが、需給ひっ迫の背景には共通性がある。とりわけ両分野で“古株”の石油とアナログ半導体には供給側で類似した構造問題が生じている。

「脱炭素」の標的にされ、EVの普及などで需要の将来性に不安が高まる石油は、油田への投資が細り、石油会社はSDGs、ESG重視の投資家の圧力で石油から再生可能エネルギーへの大転換を進めつつある。産油国すら「ポスト石油」時代に向けた経済構造の転換を加速させている。コロナ禍が出口に向かい、石油需要が回復し始めても油田などへの増産投資が進まない問題は、既に繰り返し指摘されてきた。今、顕在化しているのは、油田開発投資が盛り上がったとしても、開発資材や設備、人材が追い付かず、開発投資に着手できないという懸念だ。

半導体はスマホやパソコン、AI向けの最先端のロジック半導体や電子機器向けに加え、データセンター用にも需要が膨らむメモリーへの増産投資が加速、台湾のTSMCや韓国サムスン、米インテルなどは最先端製品の工場の新増設を進めている。だが、車載や生産ラインの自動化、電力制御などを主目的とするアナログ半導体の増産にはそれほどの勢いがない。半導体の設備メーカーはTSMC向けなどの最先端の装置生産に全力を注ぎ、アナログ半導体向けの装置生産は後回しにしているからだ。

現実はアナログ半導体の需要はロジック以上に急増し、半導体の中では車載用のアナログ半導体の需給が最もひっ迫している。アナログ半導体は車1台当たり、EVでは内燃機関の2倍、自動運転車では10倍の個数が使用されるといわれる。自動車が使う情報は映像、振動、温度、回転、重力、電流などアナログ情報ばかりだからで、今後さらに需給ひっ迫が深刻化しかねない。

考えれば、これからモータリゼーションが進展するアジアの途上国、アフリカなどは電力の慢性的不足が続き、電力インフラ整備には時間がかかるため、EVよりも成熟したガソリンエンジン車あるいはハイブリッド車が先行して普及するのは当然だ。石油需要は粘り腰で続く可能性が高いが、石油を生産する側、とりわけ生産するための資材や装置、人材の供給増は期待できない。

石油とアナログ半導体はともに業界人は状況を正確に理解し、打つべき手を発信しているが、生産を支える設備業界や金融、人材は先入観にとらわれ、動かない。需要はあっても業界外の要因で供給を拡大できない構造問題といえる。

ウクライナ侵攻によって、世界の関心は軍事や地政学、物流などに向き、石油やアナログ半導体の持続的な需要増やそれに応える生産体制の整備に目が向かなくなっている。今、必要なのは先入観にとらわれず、正しい認識を持つことだ。

ごとう・やすひろ 早稲田大学政治経済学部卒。豪ボンド大学経営大学院修了(MBA取得)。
1984年日本経済新聞社入社。中国総局駐在、編集委員、論説委員、編集局アジア部長などを歴任。
2016年から現職。

脱炭素型産業への転換を決意 臨海部に新エネ拠点創出へ


【地域エネルギー最前線】茨城県

茨城県臨海部を舞台に、需要、供給双方に新エネルギーの拠点を作り出そうという構想が動き始めた。

製鉄所の高炉休止など地域経済の転換に直面する中、県や市町村は脱炭素に活路を見出そうとしている。

臨海部に集積する産業を、化石燃料多消費型からカーボンニュートラル(CN)型へ―。茨城県が有する茨城港と鹿島港、二つの港湾を舞台に、CN化のプロジェクトが始動している。地域特性を生かし、新エネ分野での新たな産業創出を目指す大規模な計画だ。

県臨海部には、JERAの常陸那珂火力や鹿島火力といった発電所、東京ガスの日立LNG基地、石油精製所、製鉄所、石油化学などさまざまな産業が集積している。地域特性はCO2の排出実態にも表れており、県の排出量のうち産業分野が6割近くを占める。つまり産業分野の対策強化が、県のCO2削減の迅速化につながる。

企業にとってもCN化は喫緊の課題だ。そして臨海部には先述の通り、エネルギーの供給側、需要側双方の拠点が立地している。こうした実態を踏まえ、県は臨海部にはCN化での成長ポテンシャルがあると判断。また、国土交通省が進めるカーボンニュートラルポート(CNP)施策も後押しとなり、昨年5月に「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出プロジェクト」を立ち上げた。

洋上風力をはじめとする再生可能エネルギーの導入、水素・アンモニアなどのサプライチェーン構築、関連の技術開発、設備投資を促進。新エネ需要拠点、新エネ供給拠点、メタネーション(合成メタン)などのカーボンリサイクル拠点創出を目指す。県が呼び掛け、エネルギー企業やコンビナート立地企業、行政、研究機関などでつくる協議会を設置し、検討を深めている。

ただ、今はまだ県が青写真を示した段階。取り組みの具体化はこれからの作業だ。実際に企業がどの程度の投資を決断するかが、プロジェクトの行方を握る。県は、「港湾と周辺地域のCN化を実現することで、産業や雇用が無くなるのではなく、今後も稼げるという形を県として示した。できるだけ多くの企業を巻き込み、これを絵に描いた餅で終わらせないようにする」(地域振興課)と意気込んでいる。

日鉄高炉休止の衝撃 既存産業への危機感強く

これほどの大規模プロジェクトを自治体主導で進める背景には、既存産業の将来性への危機感がある。2021年春、日本製鉄が鹿嶋市の製鉄所の高炉2基のうち1基の休止を発表したことは、地元にとって衝撃の出来事だった。手を打たないままでは、県内のほかの企業が同様の決断を下してもおかしくはなく、「新産業を作り出さなければ、地域として脱炭素化時代に生き残れない」(同)。

その本気度は21年度の予算措置に表れている。CN関連のさまざまな新規施策を用意したが、中でも目玉事業である「CN産業拠点創出推進基金」には200億円を措置した。CN対応に必要な共用インフラの整備や各社の設備投資を支援するものだ。県の予算総額が1・3兆円というから、かなりの額を割いたことが分かる。

県は「企業の設備投資に1000億円を要すると仮定し、1割を県が負担すれば、2社を支援できるイメージ。企業へのコミットの姿勢を示すために思い切った予算措置に踏み切った」(同)と説明。基金以外の補助事業、規制緩和や地元調整などの伴走型支援にも力を入れる。

21年度の取り組みとしては、常陸那珂港区ではアンモニアのサプライチェーン構築の可能性を探る。港湾内施設の整備に関する調整を進めつつ、愛知県の碧南火力でアンモニア混焼の実証を進めるJERAに対し、常陸那珂火力でも同様の実証を行えないか提案する。ここが実現すれば、中小規模も含めた潜在的な需要掘り起こしに向け、ほかの企業にも打診していく考えだ。

既に複製水素のパイプラインが整備されている鹿島コンビナートでは、水素導入の拡大を働き掛ける。念頭に置くのは老朽化した共同火力のリプレースだ。まず石油コークスを使う北共同発電などのリプレースを促し、将来的な水素需要量の把握や、水素利活用の拡大を図っていく。

「第二の鹿島開発」の気概 洋上風力関連産業の創出へ

高炉休止に揺れる鹿嶋市も、CNにかける思いは強い。「第二の鹿島開発」といった気概で、洋上風力を軸にした関連産業創出を目指している。

基地港湾の工事が進む鹿島港外港地区(提供:鹿嶋市)

市が洋上風力を柱に据えたのは、20年に鹿島港が国土交通省から基地港湾の指定を受けたからだ。基地港湾とは、洋上風力発電設備の設置や維持管理に活用する港湾。鹿島港は太平洋側で唯一指定されており、再エネ海域利用法に基づく促進区域である千葉県銚子市沖など、近隣海域の風力発電産業の拠点となる予定だ。24年度の供用開始に向け、国交省事業として、外港地区の岸壁整備や地耐力強化などの工事を実施している。

市のビジョンでは、基地港湾機能である部品の輸入・移入、建設・風車積み出し、O&Mなどの拠点化だけにとどめず、関連するさまざまな産業の誘致を図る。鹿島灘沖で計画される洋上風力発電所の電力の地産地消や、水素製造、人材育成、観光などの拠点化も模索したい考えだ。

もともとの人口減に折り重なる形での高炉休止の影響をどう乗り越えるかは、市の最重要課題。かつて主たる産業がなかったところ、1960年ごろから鹿島開発計画がスタートし、現在に至っている。錦織孝一前市長は新たなCN化の挑戦を「第二の鹿島開発」として注力してきた。4月に当選した田口伸一市長も、前市長の路線を継承する意向だ。市は「洋上風力の総合拠点化で地域活性化を目指す上で、いかに鹿島港に注目してもらえるかが課題。また、地元企業にも積極的に参入を呼び掛けていく」(港湾振興課)考えだ。

既存産業の転換というピンチをチャンスに変えることができるのか。茨城発のCN化の動向に引き続き注目したい。

カーボンニュートラル都市ガスを供給 地域需要家の「脱炭素化」を支援


【西部ガスホールディングス】

 今年4月、西部ガスは北九州市でカーボンニュートラル(CN)都市ガスの供給を始めた。

東邦チタニウム若松工場と、同月オープンしたイオンモールの「THE OUTLETS KITAKYUSHU(ジ アウトレット北九州)」に供給する都市ガスの全量が、CNLNGによってカーボンオフセットされた都市ガスとなる。

西部ガスホールディングスは2021年9月「西部ガスグループカーボンニュートラル2050を策定。50年には脱炭素化したガスや水素、再生可能エネルギーなどを適材適所に使い分けながらCNを実現すると宣言している。

実現までの移行期の取り組みとして、①石油・石炭からの燃料転換を図る「天然ガスシフト」、②CNLNGやメタネーションなどを活用した「ガスの脱炭素化」、③再エネの普及拡大などによる「電源の脱炭素化」―の三つの柱を掲げる。

将来的にはメタネーションで製造した合成メタンなどを供給して脱炭素化を図るが、移行期においては、石油・石炭から天然ガスへの転換が現実的だ。

30年までの具体的な目標としては、CO2排出削減貢献量150万t、再エネ電源取扱量20万kW、ガスのCN化率5%以上を目指すとしている。

ガスのCN化率5%については、CNLNGやメタネーション、水素、バイオガスなどの手段によって、ガスを調達・製造することを検討している。

今回のCN都市ガスの供給について、営業計画部の北原憲三マネジャーは「お客さまが脱炭素化への方法を探る中で、CN都市ガスの導入は設備を更新することなく低・脱炭素化を図れる」とし、「環境意識が高い企業や、海外向けに製品を輸出するメーカーなどに対して積極的に勧めていきたい」と話す。

大学などと共同で技術開発 地域とつながり価値を創造

ガスの脱炭素化では、九州大学や日本炭素循環ラボ(九大発ベンチャー)と一緒に、新しいCO2回収技術の共同検討に取り組み始めた。都市ガス燃焼後、ガスボイラーやガスコジェネなどのガス機器から出た排ガスに含まれるCO2を回収し、変換・利用する技術の開発だ。

カーボンニュートラル推進部の石井直也マネジャーは「50年のCNという目標に対し、できることを着実に一歩一歩やっていきたい」と抱負を語る。

エネルギーと暮らしのサービスを通じて地域とつながり、信頼を築いてきた西部ガスグループ。そのつながりを力の源として、未来を変える価値の創造に挑みたいとしている。

2月に約7万tのCNLNGがひびきLNG基地に到着した

EUが国境炭素税前倒し 日本のCP政策にも影響


エネルギーの脱ロシア化で、欧州連合(EU)の脱炭素化にブレーキが掛かるかと思われたが、逆にギアを上げる展開を見せている。欧州議会環境委員会は5月17日、炭素国境調整メカニズム(CBAM)を1年前倒して25年に導入する法案を可決した。

CBAMは、EUの30年温暖化ガス55%減目標の一環で、温暖化対策が緩い国からの輸入品に課税するもの。域内の事業者に対し、対象品を輸入する際、同じ品目を域内で製造する場合に排出量取引制度(ETS)で課される炭素価格に応じた価格の支払いを義務付ける。法案ではこのほか、現在一部を無償化しているETSの完全有償化を30年と5年前倒すことも決定。また電力、鉄鋼、セメント、アルミニウムなどの対象品に、水素・アンモニア、プラスチックなども追加する。 日本のカーボンプライシング(CP)政策にも影響を与えそうだ。23年から始まるGX(グリーントランスフォーメーション)リーグについて、政府関係者は「排出量取引への移行や有償オークション導入の前倒しが必要となる可能性がある」と示唆する。

日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】関口博之 /経済ジャーナリスト

 かつて世界を席巻した日本の半導体産業が凋落して久しい。1988年世界で50%以上あった日本のシェアは2019年には10%。企業売上ランキングでも9位にキオクシアがやっと顔を出すのみだ。昨年には遂に政府が巨額の補助金を用意し、台湾のファウンドリー・TSMCの合弁工場誘致に踏み切った。それでも日本半導体の“復権”はあり得ると言うのがノーベル賞科学者、名古屋大学の天野浩教授だ。天野教授は青色発光ダイオード発明の功績で14年、赤崎勇氏、中村修二氏ととともにノーベル物理学賞を受けた。その天野氏が今取り組んでいるのが、「次世代のパワー半導体」の開発だ。

窒化ガリウム応用のEVを披露する天野名大教授(提供:時事)

パワー半導体はおよそ電力を制御するところには必ず使われる。つまりあらゆる電気機器の省エネにかかわる。国の半導体戦略でも省エネ化・グリーン化をいち早く達成することが競争力の源泉だとして、新素材による次世代パワー半導体を技術開発の柱の一つに掲げる。

天野教授らが目指すのは、窒化ガリウム(GaN)を材料に使う方法だ。そう、窒化ガリウムはあの青色LED(発光ダイオード)を実現した素材。それが今度はパワー半導体でも活躍するとは、何ともできた「孝行息子」ぶりだ。名古屋大学にある研究施設は1000㎡超のクリーンルームを備え、もはや“実験室レベル”を超えている。現場では共同研究企業からの出向者も加わり、結晶成長やデバイスの試作などが行われている。

高電圧・大電流で使おうとすると従来のシリコンでは発熱によるロスが大きいが、窒化ガリウムならばこの電力損失が少ない。ロスはシリコンの10分の1以下で、まずはEVへの導入を目指している。天野教授によれば、今のひと抱えもあるようなインバーターが、将来はモーターの一部になってしまうほど、小型化が可能だという。

この半導体には当然、高品質の窒化ガリウム結晶が不可欠だ。「実は結晶を磨き、ウエハーにする工程で、愛知の陶器の伝統技術が生きている」と天野教授は言う。微細回路を描く前の工程にこそ強みがあるというのだ。窒化ガリウムによるパワー半導体開発では、日本はまさに世界のトップランナー、と天野教授は自信を見せる。

DXが進展する中、デジタル関連の電力消費量も急増し、30年には1兆4800億kW時、今の36倍になるとも試算されている。EVに加えデータセンター、鉄道、産業機器、さらには電力系統向けなどグリーン化を支えるパワー半導体の活躍の場は広がる。天野教授は国や企業の投資の在り方にこんな注文をつけた。「数千億円の投資でなくてもいい。例えば1~2世代前のクリーンルームの装置でもわれわれに使わせてもらえれば、従来品を凌駕するデバイスが作れる。もし稼働率が低い工場があるなら、そこに少し投資をすれば新素材のパワー半導体生産は一気に進む」。競争力を失ったレガシー工場の再活用、一考に値するアイデアだろう。ノーベル賞科学者は次の“勝ち筋”もしっかり見据えている。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

米子市でバイオマス発電所を運転 安定供給と地域活性化に貢献


【中部電力】

 中部電力、三菱HCキャピタル、東急不動産、シンエネルギー開発、三光は共同で、米子バイオマス発電合同会社を設立。鳥取県米子市にバイオマス発電所を建設し、4月2日から運転を開始している。

同発電所は、木質資源や植物残さといった生物由来の資源(木質バイオマス燃料)を燃焼し発電する木質バイオマス発電所だ。燃焼時に排出されるCO2は、燃料となる植物が成長過程で行う光合成によって吸収し、相殺される仕組みとなっている。

化石燃料の代わりに木質バイオマス燃料を利用することで、カーボンニュートラルを実現しつつ、安定した出力で発電できるため、ベースロード電源としての利用が可能だ。同発電所の発電出力は5万4500kW、想定年間発電電力量は約3・9億kW時で、再エネの固定価格買い取り制度(FⅠT)による売電を行う。

自然由来のクリーンなエネルギーを地域に供給

持続可能性に配慮し調達 国際認証制度に基づき購入

米子バイオマス発電所で使用する燃料は、木質ペレットおよびパーム椰子殻(PKS)だ。木質ペレットは乾燥させた木材を細粉し、円筒状に成形したもの。熱と圧力によって木材に含まれる成分を固めるため、粘着剤などを使用することなく成形が可能である。また、乾燥しているため、燃焼時の発熱量が大きい。さらに、同発電所では、植林・伐採を計画的に管理するなど持続的な森林資源を原料とした木質ペレットを購入。国際的な森林認証制度によって、製造から納入まで、適切に管理されていることを確認する徹底ぶりだ。

もうひとつの燃料であるパーム椰子殻は、パーム椰子の果実からパーム油を搾った種子殻である。かつては廃棄物として処理されていたが、水分量が少なく発熱量が大きいことから、現在はバイオマス燃料として有効活用されている。

米子バイオマス発電所は、生態系破壊などの懸念もあるパーム椰子殻の調達では、現地の持続可能性に留意。国内外の燃料供給事業者と連携し、パーム椰子殻の発生地と流通経路を確認。国際的な認証制度下で持続可能性が認められたパーム椰子殻の調達に努める。

同社はクリーンなエネルギーを供給することで、地球環境改善はもちろん、発電所の運営や燃料の運搬などで新たな産業・雇用を生み出し、地域の活性化にも貢献。中部電力は共同出資者とともに、同発電所の運転を通じて、持続可能な社会の実現に寄与する。

【コラム/6月10日】電力逼迫(ひっぱく)と出力制御、電気足りない?電気余っている?


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長

 2020年の冬、電力料金高騰のニュースが流れ、2021年5月当時の経済産業大臣である梶山大臣が会見で夏の電力逼迫(2021年の夏)の懸念とその対策を早急に立てるように指示している。そして今年2022年も直近で「夏の電力逼迫、節電要請、閣僚会議 全国規模は7年ぶり」や「エネルギー危機・日本の選択(上)電気不足、冬に110万世帯分 火力閉鎖・動かぬ原発…節電頼み 停電回避へ政策総動員」(いずれも日本経済新聞)といったように電力逼迫のニュースが流れている。2011年の東日本大震災などは地震という災害に伴う電力逼迫であったが、この数年における電力逼迫は、海外から燃料を輸入して火力発電を主として電気を供給するというこれまでの構造、ウクライナ情勢も踏まえて、エネルギーの安全保障という観点からも現実的かつ長期的な課題であるという認識あるいは危機感が一般の方々にも肌感覚で感じるようになってきていると思う。電気が足りないことが慢性的な(生活習慣病みたいな感じになってきた?)ものとなりつつあるのかもしれない。
 一方で、「出力制御、四国と東北に続き中国エリアでも開始。大型連休にはさらに拡大か」(ソーラージャーナル)や「東北電力、10日に初の再生エネ出力制御」(4月9日)、「中国電力、17日に初の再エネ出力制御へ」(4月16日)、「北海道電力も初の再エネ出力制御、最大19万キロワット」(5月8日)といったように今年の4月から5月のGWにかけて、出力制御のニュースが流れている。出力制御は主に九州において実施されていたものが、今年になっていよいよ本州や四国、北海道にも本格的に実施されるようになってきた。これが業界の方の肌感覚だと思う。好天となって太陽光発電の出力が高くなり、供給が需要を上回ると見込まれる、それに伴い需給バランスが崩れて停電が起きることを防ぐために出力制御を実施するのであるが、その実施回数が増加しつつあるのは、太陽光発電の導入がそれなりの規模になってきたことを示している。出力制御を実施するということは、電気が一時的に余っているということになる。この「電力逼迫:電気足りない」と「出力制御:電気余っている」というニュースを比較した時、一般の方々からすると何か矛盾に感じるであろう、あるいは、子供に「電気って足りないの?余っているの?どっち?」って聞かれたら何と答えるのだろうか?「脱炭素社会の推進で再生可能エネルギーの導入を進めているのに、燃料費タダで発電できる再生可能エネルギーの電気を制御するのはもったいない」ということを素朴に思う人は多いのではないだろうか?

 では、どうしたら良いのかということになるのだが、それについては、「再エネがもったいない!広がる太陽光発電の停止・出力制御 NHK解説委員室」を是非ご覧いただきたい。
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/467520.htmlそこには具体的に4つ書かれている。①火力の出力のさらなる低下②電気の料金プラン、電気の余る昼間の料金を安くする(これまでは夜間を安くする料金プランが主流であったが)③送電線の増強(余った電気を足りない所に流す)④電気を貯める、すなわち蓄電池である。私はこの4番目の貯めるということをもっと促進していくべきではないかと思う。再エネが増えて電気の需給バランスを取るのが大変になったような論調が多く見受けられるような気がするのであるが、であれば、貯めるという技術を積極的に導入することで、自然現象に依存して発電する太陽光や風力、いわゆる変動電源を蓄電池をセットにして安定電源にしていくということをもっと議論しても良いのではと思う。2020年3月時点で太陽光56GW、風力4.2GWの導入量実績があり、この既存設備に対して蓄電池の導入を促すような施策を実施するのはいかがだろうか?FIT制度との絡みでこれ以上の国民負担をという議論は当然あるかもしれない。しかし、電力価格が高騰し、電力小売りとの契約がない法人に必ず電気を届ける「最終保障供給」の利用が1万3045件に上る(5月20日時点)、いわゆる「電力難民」が発生している状況が続くのであれば、また結局のところ脱炭素の実現を進めて行かなくてはいけないという前提に立つならば、再エネ導入の促進と貯めることによる安定電源の実現を目指すということはもっと優先順位を上げて議論していっても良いのではないかと思う。

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

再エネの乱開発防止へ国が動く 「関係省庁で横串を通す」規制見直し


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

私は落選中、選挙区内の各地で森林開発による太陽光発電所の設置に関する地元とのトラブルを見聞きしてきた。本誌でも、2年前からこの問題を大々的に特集し、警鐘を鳴らしてきた。FIT制度導入以降、森林を大規模に伐採してメガソーラーなどを建設する事例が各地で増えてきたが、農水省の森林法、環境省の環境アセス法、経産省の電気事業法、国交省の建築基準法など各省の既存法令でバラバラに対応しており、実際に生じている問題を既存法令では解決できなくなっていた。

そうしたことを受けて、昨年10月末に国会に戻った私は、早速この問題について2月14日の予算委員会で取り上げ、萩生田光一経産相、金子原二郎農水相、山口壯環境相らと議論を行った。その場において、「FIT法の中には、再生可能エネルギー発電事業計画の認定基準に、関係法令の規定を遵守するとあるが、関係法令で25の法律がある。省庁横断的な制度、法律がなければ(適正な)再エネは推進できない。大臣がリーダーシップを取って各省が連携して、太陽光や風力など、再エネに関わるさまざまな事情がある中で、環境を守り、住民との関係を円滑にするための、省庁の縦割りを超えた制度、法律を作るべきだと思います。萩生田大臣の見解をお聞かせください」と問うたところ、「その問題意識は極めて大事で、そうした横串を通すような法律が果たしてなじむかどうかも含めて、関係する省庁と、しっかり議論を交わして、必要があれば法律で対応する。検討を続けてみたい」と、萩生田大臣から前向きな答弁をいただいた。

萩生田氏の迅速な対応 新制度を含め検討へ

それから約2カ月後。4月19日の閣議後会見で、萩生田大臣は「4月21日から、経産省が中心となって農水省、国交省、環境省との共同で再エネ発電設備の適正な導入及び管理に関する検討会を立ち上げます」と表明した。さらに、「関係省庁で横串を通す形で、必要となる制度的対応や運用の在り方などについて検討会の場で議論し、スピード感を持って対策を具体化していきます」として、新たな制度の創設を含めた検討を行うことまで踏み込んだ。

5月号で報告した洋上風力発電事業者の公募基準の見直しに続いて、政治家として国会での議論などを受けて自ら迅速に判断し物事を進める、萩生田大臣の政治的リーダーシップに改めて敬意を表したい。

肝心なのは、これからの検討会での議論である。森林法、環境アセス法、この国会で成立した盛土等規制法などの法令は、実際の太陽光発電の開発には合致していない規定が多い。大臣がおっしゃるような、再エネの特性に特化した「関係省庁で横串を通す形」の制度を新たに創設する必要がある。省庁の縦割りを超えた結論が導かれることを期待したい。

ふくしま・のぶゆき
1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。