<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名
3月22日、東北地方と首都圏は電力需給が極端にひっ迫し停電の恐れがあった。
火力発電の停止、悪天候と悪い条件が重なったが、底流には構造的な問題がある。
―3月22日に東北地方と首都圏で電力需給がひっ迫して、停電寸前にまで陥った。16日の福島県沖地震で太平洋岸の火力発電所が被害を受け停止したこと、季節外れの寒波に見舞われたことが原因だった。
電力 この日は非常に悪い条件が重なった。需給がひっ迫したこと自体は、仕方がなかったと思う。ただ、問題は国側の対応だ。22日は3連休明けの火曜日。本来ならば、連休に入るころに需要家に実態を説明して、節電を頼むべきだった。
それがずるずると遅れ、政府はようやく21日の夜に需給ひっ迫警報を出した。企業としては、前日の夜に節電を要請されても、とても対応できるものじゃない。
ガス マスコミ対応も同じだ。連休中は当然、記者の動きも鈍くなる。それを考えて、先手先手で事情を説明するべきだった。22日に萩生田光一経済産業相が緊急会見を開いて節電を要請して、経産省の事務方は午前と午後に2回、記者にレクチャーをした。
記者としても、急に電力需給について説明を受けても、なかなか理解は難しい。そんなこともあったせいか、節電への需要家の反応はいまひとつだった。
マスコミ 事情に詳しい関係者に聞くと、今回の電力危機の一因として、「人」の問題があったという。電力会社を除くと、需給に責任を負うのは広域機関(電力広域的運営推進機関)と資源エネルギー庁になる。しかし、広域機関に出向していた電気事業に詳しい経産省の幹部が去っていて、エネ庁の担当課も知識や経験が足りなかったらしい。
石油 週刊ダイヤモンド(電子版)が「電力不足を招いた真犯人は誰だ」との記事で、福島第一原発事故の後、電力会社から電気事業の主導権を奪うことに力を入れた官僚の責任を追及していた。まさにその通りだと思った。
太陽光発電は役に立たず 変わらぬ原発=悪の構図
―新聞各紙が電力危機について振り返っている。
電力 読売、産経は原発再稼働の必要性に触れて、朝日、毎日、東京は原発は論外とする。朝日、毎日、東京の原発=悪、再エネ=善とする構図は、もし停電があっても変わらなかっただろう。
石油 今回、FIT(固定価格買い取り制度)で数兆円も普及拡大に費やした太陽光発電が、悪天候で最大電力の2%ほどしか発電できなかった。何の役にも立たなかったわけで、これにはさすがに再エネ推進の新聞も、居心地が悪かったと思う。
ガス ただ、電力危機は太陽光が発電せず、原発が止まっていることだけが理由ではない。西日本は原発も稼働して電力に余裕があった。しかし、周波数変換所(FC)の制約で60万kWしか東日本に送れなかった。福島原発事故の後、東日本では需給バランスが悪い状態が続いているが、国は手を打ってこなかった。
―もし柏崎刈羽原発6、7号機が稼働していたら、ここまでの電力危機は起こらなかったはずだ。
マスコミ 朝日にHさんという経済担当の編集委員がいる。文章がうまく、財政規律などについて正論を主張する。さすが天声人語で有名な深代惇郎や辰濃和男を生んだ朝日の記者だな、と思ってHさんの記事を読むことが多かった。
そのHさんが、ウクライナで原子力施設が攻撃されたことを踏まえて、コラムで日本の原発がテロやミサイルで攻撃された場合の危険性を書いている。確かに、そういうリスクはある。だけど、原発が止まったままでは、夏場や次の冬に電力危機や価格高騰が起きるリスク、それに天然ガスなどの価格が高止まりして、円安も加わり膨大な額の貿易赤字になり、国富が海外に流出していくリスクがある。それらと比べてどちらのリスクが大きいだろうか。
原発破壊のリスクは 名文家のぎこちない文章
―原発は、沖合に海上保安庁の巡視船が配備されて不審船などから守っているし、サイト内では常に警察官が警備している。
マスコミ 電力会社は特重(特定重大事故等対処施設)までつくっている。原発が破壊されるリスクの方が大きいとはいえない。僕は、実はHさんもそのことが分かっていると思っている。しかし、朝日の編集委員として、原発の負の側面をフォーカスする記事を書かざるを得なかったのではないか。コラムの文章はどこかぎこちなく、名文とはいえないものだった。Hさんとしても、この記事は不本意だったと思う。
電力 急激な円安によって貿易収支の赤字が拡大しているのは、重大な問題だと思っている。1ドル126円台になった4月13日の翌日、日経は1面で貿易赤字の主因は原発停止によるエネルギー輸入の増加として、「円安を止めるために原発を再稼働すべきだという意見は今後、強まる」とみずほ銀行の唐鎌大輔さんのコメントを掲載した。
ただ、その後で「もっとも再稼働は政治的な合意のハードルが高い」と付け加えている。日経も、まだこの最後の一文を入れなければいけないんだなと思った。
―ウクライナ戦争は長期化しそうな気配だ。エネルギー需給や価格への影響が心配されている。
石油 週刊『エコノミスト』が「世界エネルギー大戦」として特集を組んで解説していた。日本が輸入するLNGプロジェクトと輸入ルートの地図は資料価値も大きい。一方、他の週刊経済誌はなぜか大きく取り上げない。エネルギーや原子力を特集にすると、売り上げが落ちるせいだろう。
―電力危機、価格高騰、国富流出、それに何より戦争。もう言葉も聞きたくない。