サウスストリームが中断し、ナブッコが足踏みする中で、アゼルバイジャンのカスピ海沖シャーデニス(Shah Deniz)ガス田の天然ガスをジョージア、トルコ、ギリシャ、アルバニア、イタリアに運ぶSCP/TANAP /TAP(南回廊) が着実な進展を見せた。SCP(South Caucasus Pipeline)は、シャーデニス・ガス田の天然ガスをトルコに(そして将来的に欧州に)輸送するもので2006年5月に開通している。また、SCPに接続し、シャーデニス・ガス田の天然ガスをトルコ・ギリシャ国境まで輸送するパイプラインについて、2012年6月に、アゼルバイジャン、トルコ両首脳は、 TANAP(Trans Anatolia Natural Gas Pipeline)建設に関する政府間協定に署名している。TANAPは、2015年3月に建設を開始し、 2018年6月に完成している。 TANAPの建設決定に伴い、ナブッコは、ブルガリア以西のみをカバーする会社となった(Nabucco West)。さらに、トルコ・ギリシャ国境からアルバニアを経由しイタリアまで輸送するパイプラインについては、2013年2月に、ギリシャ、イタリア、アルバニア政府が、 TAP (Trans Adriatic Pipeline)建設に関する政府間協定に署名している。2013年6月になると、シャーデニス・ガス田のオペレーターは、その天然ガスを欧州に輸送するパイプラインとしてTAPを(Nabucco Westを退け)選定した。この時点で、ナブッコプロジェクトは、最終的に中断された。TAPは、2016年5月に建設を開始し、2020年10月に完成し、同年11月に営業開始している。
南回廊の完成により、ナブッコは中断されたが、欧州委員会は、非ロシア産ガスをロシアを経由しないルートで欧州に運ぶパイプラインが出来たことを歓迎した(2013年10月、EUは南回廊を”Project of Common Interest”に指定している)。南回廊開通時には、年間約100億立方メートルのガスがこのルート(TAP)を流れている。これに対して、ノルドストリームは、2021年に約600億立方メートルのガスを欧州に輸送している。この点で、南回廊の開通が、EUのロシア依存を大きく引き下げることはできなかったは明白である。欧州委員会は、南回廊を将来的に拡充していくことを計画しているが、ノルドストリーム1を通じてのガス供給量の削減分を補うようになるには、何年も要するであろう。