CP導入を巡る環境省の深謀遠慮 黒子役の「ステルス作戦」が奏功

GX(グリーントランスフォーメーション)政策の一環としてカーボンプライシングの導入が決まった。

影が薄く見えた環境省は、実は「ステルス作戦」に徹し実を取ったとも。次なる野望も見え隠れする。

気候変動対策の国際枠組み・パリ協定が発効して7年。日本が脱炭素政策でようやくグローバルスタンダードになる時が来た。日本でも温暖化ガス排出量に課金するカーボンプライシング(CP)導入が決まったのだ。一連の政策を練り、導入までの折衝を一手に担ったのは経済産業省だ。世間では「経産省の一人勝ち」という見方が大勢だが、CP導入に向け水面下で政策の実現を後押ししたのは実は環境省だった。パリ協定の合意前後から始まった「ステルス作戦」が功を奏したといえる。

岸田文雄政権は通常国会に、目玉法案の一つのGX(グリーントランスフォーメーション)推進法案を提出する。新法はGXを推進する財源にGX経済移行債の発行や、CPとしてCO2排出量に比例して課金する炭素賦課金の導入などを盛り込んだ。具体的な課金額や方法などは、新法の施行後「2年以内」に示すとしている。2月10日前後に閣議決定し、2月中に国会に提出され審議入りするというスケジュールだ。

「経産省に主導権を握らせ、環境省は黒子に徹する。この戦略は正解だった」。永田町のある関係者は、一連のGX推進議論で環境省が存在感を発揮しなかったとする論調を打ち消すように語った。外形的には経産省が全てを取り仕切り、環境省が何もせずに事が進んだと見える。しかしこの関係者は「賦課金の配分で両省では話がついている」と述懐する。

賦課金の予算配分で合意  思惑通りの展開へ

賦課金は税金と似たような性格を持つが、国会や財務省の目に触れることなく所管する省庁の懐に入る。毎月の電気料金に上乗せされる再エネ賦課金と同じで、炭素賦課金も普通なら経産省が総取りできる財源だ。ところが、炭素賦課金の一部は環境省にも予算配分されることが合意されているというのだ。現行の地球温暖化対策税もエネルギー特別会計という形で、環境省もその恩恵に預かっており、今回の炭素賦課金も同様に予算配分されることになるという。

「要は省庁間のバランスの問題になる。経産省が独り占めするのは財務省が許さない。やるかどうかは別にして、環境省と財務省がタッグを組めば経産省にとって厄介な存在になる。そういうリスクシナリオを見越して配分するということだ」(前出の永田町関係者)

環境省にとってCP導入は悲願といえる。省内での有識者会議を立ち上げ、温室効果ガスの削減政策の切り札として理論を積み重ねてきた。本来なら先頭に立ってCP導入を推進する立場にあるはずだが、同省関係者は「実入りの問題ではないわけで、仮に全ての金が入っても執行できない問題がある。エネ特を見ても明らかだ」と言う。つまり形はどうであれ肝いり政策が実現でき、とりあえずは納得したということだ。

しかも今回の炭素賦課金はCO2排出量に応じて課金する「炭素比例」という仕組みが想定されている。環境省はかねて「炭素比例で導入しなければグローバルスタンダードにならない」と主張し、さらには上流産業に賦課金をかけるという主張も通っており、同省のある幹部は「良い制度になった」と評価する。世間的には存在感を発揮していないように見えても、実際のところは彼らの思惑通りに事が進んだということだ。

7年来の融和作戦が結実  次なる野望は官邸の中枢入り

そもそも規制官庁の環境省では産業界を説得できないという問題があった。同省が動くというだけで、産業界は警戒し反対に回る図式が出来上がってしまったからだ。小泉進次郎氏が環境相時代に先鋭的になりすぎたことも影響した。彼が「CP、CP」と声を大にするたびに、産業界が反発。環境団体の手先のような主張にアレルギー反応が出てCPの導入が遠のいていった。産業界の納得を取り付けるためには、経産省との協力が不可欠だったのだ。

2015年のパリ協定合意前後から環境省は、それまでの規制色を前面に出す戦略を転換し、水と油の関係だった経産省と融和する方向に舵を切った。これを「ステルス作戦」と呼び、環境省は前面に立つことなく、経産省との協力関係を構築していった。環境影響評価を巡る石炭火力発電所の新設計画への異議を乱発し、戦いを仕掛けた後、経産省と政策的合意を結んで軟着陸したのも、ステルス作戦の一環だ。

小泉大臣就任で一時は省内で「先祖返り」の空気が漂い、この戦略も水の泡になりかけた。だが人事配置を巧みにし、時には大臣の発言を打ち消す根回しに奔走するなど経産省との関係を何とか維持した。今回のCP導入は足掛け7年にわたるステルス作戦が凝縮した結果だ。

脱炭素政策を主導すべく長年根回しを続けた

CP導入という悲願を達成した環境省だが、具体的な制度設計の場面でもステルス作戦により、経産省との協力関係は継続することになるだろう。環境省にはさらに別の野望があるからだ。すなわち、首相秘書官の座を射止める―。

現在、事務の首相秘書官には財務、外務、経産、防衛、警察の5省庁で構成されている。官邸主導の現在の政治状況では、首相に近く、情報の一手を握れる首相秘書官を輩出する省庁の力がおのずと強くなる。経産省が権勢を振るうのはこのポストによるところが大きい。この先も国内外ともに重要な政策の一つである脱炭素で主導的な役割を果たすなら、このポストを獲得することが重要だ。

政界関係者は「政治側の有力な応援団がいないなど環境省にはまだまだ弱いところがあり、とても今の状況では実現できない」と評する。しかし「官邸の中枢に入ることで初めて自らが思う政策が実現できる。そのためには『霞が関野党』というレッテルを払拭しなければならない。政治側の味方も増やさないといけない。これからが本当の勝負時だが、今の戦略にブレが出なければ可能性はゼロとはいえない」とも語る。

ステルス作戦の本当の意味での結実はまだ先であり、CP導入は環境省が目論む戦略のほんの序章に過ぎない。

海底直流送電の実現なるか 電力系統増強へ制度整備

再生可能エネルギーの導入拡大に向けた電力系統増強の政策展開が本格化してきた。

内閣官房と経済産業省は1月23日召集の通常国会に、2本のエネルギー関連法案を共同提出する予定だ。一つは、GX経済移行債を柱とする新法案「脱炭素経済成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案(GX推進法案)」。もう一つは、①原発の運転期間延長などを目的とした原子力基本法・原子炉等規制法・電気事業法・使用済み燃料再処理法の改正案、②再エネの導入拡大支援と規律強化のための電事法・再エネ特別措置法の改正案―によるエネルギー束ね法案だ。

このうち②で系統増強への制度環境を整備する。具体的には、電力安定供給の観点から重要性の高い送電線について経産相が整備計画を認定する制度を創設する。認定を受けた計画のうち再エネの広域利用に資するものに関しては再エネ特措法に基づき着工段階から系統交付金を支給。また電力広域的運営推進機関が窓口となり、認定事業への貸付を行う方向だ。

シナリオ別のHDVC構成案(広域機関のマスタープラン検討会の資料から) 

系統増強を巡っては、広域機関の検討会が昨年12月、広域系統整備に関するマスタープラン案を提示した。最大の焦点は北海道、東北、東京の各エリアをHVDC(高圧直流送電)の海底ケーブルで結ぶ構想だ。日本海側と太平洋側の両ルートを合わせ、ベースシナリオで2兆5000億円~3兆4400億円の工事費を想定している。

「費用対効果は? 事業主体は?漁業補償は? など、課題は山積み。構想倒れに終わった『日本~サハリン天然ガスパイプライン』の二の舞にならなければいいが」。大手電力関係者の間には、冷ややかな空気が漂っている。

原発「40年」の足かせ見直しへ 高経年炉の新規制体系を探る

運転期間原則40年、最長60年までとした高経年原子炉の安全規制の在り方が変わる。

原子炉等規制法上でこのくびきをなくすが、新たな規制枠組みは原子力事業の今後にどう作用するのか。

「これまで40年超運転を目指そうとしても、審査のタイムリミットから廃炉を決断せざるを得ないケースがあった。今回の見直しで、長期停止中の炉についてこの期限を気にする必要がなくなった意味は大きい」。ある原子力業界関係者は、政府が昨年末までに示した原子力の高経年炉の新たな規制方針をこう評価する。この見直しについて、事業者からはおおむね好意的な受け止めが挙がっている。

高経年炉の安全規制としては、①福島原発事故以前からの仕組みである、運転開始30年以降10年ごとの技術評価制度(プラントライフマネジメント=PLM)、②福島事故後に設けた原則40年、最大20年の運転期間延長認可制度―の二つの枠組みが存在していた。②の導入に際して、政府は2012年に原子炉等規制法を改正した。ただ原子力規制委員会は20年7月末、運転期間の判断は「原子力の利用の在り方に関する政策判断にほかならず、規制委が意見を述べる事柄ではない」との見解を提示。さらに自民党の「原子力規制に関する特別委員会」などでも運転期間に関する制度の見直しに向けた議論が進んでいた。

そして昨夏、岸田文雄首相がGX(グリーントランスフォーメーション)の一環で原子力政策を巡る課題解決を検討するよう号令をかけた。次世代革新炉へのリプレース方針なども示されたが、中でも短期の原発比率に影響する運転期間見直しのインパクトは大きい。経済産業省は利用政策、規制庁は安全規制の観点から、それぞれ制度改正する。

タイムアウトでの廃炉回避へ  円滑な制度移行を重視

経産省サイドでは、40年+20年の制限は残し、40年超運転については一定の要件を踏まえて経産相が認可する新制度を設ける方針で、電気事業法を改正する。他方、東日本大震災後の長期停止期間を運転期間から除外する「カウントストップ」を認め、「40+20+α」といった追加的な延長も可能になる。具体的には、新規制基準対応などの制度変更や、裁判所による仮処分命令といった事業者が予見しがたい事柄などに伴う停止期間を考慮する。

一方、規制側ではPLMと延長認可制度を統合した新たな枠組みを炉規法上に定め、事業者に義務付ける。今後は運転開始30年以降、10年以内ごとに、劣化状態の点検や、将来の経年劣化に関する技術的な評価などを踏まえた「長期施設管理計画」を事業者がつくり、規制委の認可を受けていく。認可はより詳細になり、頻度が増える一方、規制制度としては運転期間の上限は設けない。「純粋に技術的評価のみに基づき延長していく規制庁の方式がより論理的だ」(冒頭の関係者)

政府は、1月下旬に招集した通常国会に、改正電事法や炉規法などの束ね法案を提出する予定だ。では、これらの変更は原子力事業の今後にどう効いてくるのか。

従前は40年超運転を目指す場合、そのリミットの1年前までに申請しないと延長の権利を失い、廃炉せざるを得なかった。福島事故の後、事業者はまず比較的運転期間が短く出力が大きい炉の再稼働に向けた審査対応を優先させ、古い炉の運転延長の申請まで手が回らないケースもあった。

しかし新制度では、40年が迫っても即廃炉にせず、停止させたまま40年を迎えるという選択肢も取れるようになる。「特に新規制基準適合性審査や運転延長が未申請の設備にとっては大きな意味を持つ。例えば柏崎刈羽1号は運転開始から37年経つが、6・7号機などの再稼働後、審査対応をこなせる余裕が出てくれば、そこからさらに10年ごとの延長を目指すことも可能になる」(同)

なお、一般論として政府が制度改正を行う際、旧制度下で得た認可は失効しないが、今回は大幅な変更となることから、旧制度で40年超の認可を得た設備も、新たに認可を取り直す必要がある。この手続きが今後の稼働状況に影響を与えるかどうかも、事業者は注視する。

その点、当面新制度で審査される技術評価などの項目は従前と同様であり、事業者はこれまでのPLMの知見を活用することができる。さらに規制庁は、制度変更を理由に既に認可を得ている設備が停止する事態を避けるため、1~3年程度の「移行準備期間」を設ける方針だ。規制庁が1月11日に行った事業者との意見交換では、原子力エネルギー協議会(ATENA)が今後想定される申請や審査のスケジュールを示しており、当面、最大23基の審査が行われる見通しとなっている。

要求青天井の懸念も  60年以降の審査がカギに

ただし、規制委の山中伸介委員長は昨年12月21日の会見で「劣化の点検や予測評価手法などに新たな知見が得られた場合には、事業者に対して長期施設管理計画の変更や追加点検の実施などを求めることができるようになる」とも述べている。

山中氏は最新の知見を踏まえ新制度を運用していく考えだ

原子力技術開発に長年携わった元法政大学客員教授の宮野廣氏は、「そもそも高経年化炉の評価は、事業者が10年先を予見して技術評価を行い、その是非を規制側が判断する。本来は、規制側が技術評価で求める安全水準をガイドラインなどで示すべきだが、新制度ではそうはなっておらず、あいまいさがある。審査の過程で要求する対策レベルを上げていくようなことがあれば、審査の遅れにつながりかねない」と指摘する。

特に今回、炉規法での上限がなくなったことを踏まえれば、50年の段階で60年を、あるいは60年の段階で70年を見据えた経年劣化に関する技術評価がどう審査されるのか。その際、最大60年+αという上限を残す経産省側の新制度がどう効いてくるのかが、ポイントになりそうだ。

政府がGX戦略として持続的に原子力を活用する方針を改めて掲げた以上、高経年炉の新規制でブレーキが掛かることがないよう、丁寧な目配りが求められる。さらには、米国などのような80年運転に向けた仕組みづくりへの検討にも着手していく必要がある。

電気料金高騰に需要家悲鳴 値上げ査定への影響は

電気料金の請求額が前の月から一気に3倍に上がった。前の年の同じ月と比べると2倍。電気の使用量は減っているはずなのに」―。1月分の電気料金の請求明細を手に、困惑した表情を浮かべながらこう語るのは、東京都内在住の40代の男性だ。

規制料金値上げで記者会見する小早川社長ら東電幹部

暖房需要で光熱費が上がる冬に入り、あまりに高額な電気代の請求に家庭の需要家からは悲鳴が上がっている。規制料金であれば、燃料費調整額の上限によってある程度守られているが、上限が廃止されたオール電化住宅の家庭の場合、10万円超の請求もざらだ。

ただ、大手電力会社としても規制部門の赤字供給状態を放置したままでは財務基盤の悪化を招きかねない。昨年末の東北、北陸、中国、四国、沖縄の5社に続き、東京電力エナジーパートナー(東電EP)も1月23日、6月の家庭向け経過措置料金値上げへ経済産業省に料金改定を申請した。

同社の料金改定は、2012年9月に実施して以来。22年9月以降、燃料費調整単価が上限に達し、このままでは23年度は約2500億円の持ち出しになるという。平均値上げ率は29・31%。標準家庭(使用量260kW時)の月額料金は、28・6%値上がりの1万1737円となる。

原価算定に当たっては、柏崎刈羽原発7号機を今年10月、6号機を25年4月に再稼働する運転計画を織り込み、1kW時当たりの値上げ幅を2・1円程度圧縮した。会見した東電ホールディングス(HD)の小早川智明社長は、「国難とも言える状況だからこそ、グループ一丸となってお客さまや地域社会とともにより良い解決策を創造していきたい」と語った。

また、燃料費や卸電力市場価格が引き続き高水準で推移し、23年3月期の東電EPの収支が約5050億円の経常赤字となる見通しであることから、昨年実施した2000億円に続き、3000億円の追加増資をHDが引き受けることを合わせて発表した。これにより、収支の著しい悪化で棄損した、東電EPの財務基盤の立て直しを図る狙いだ。

値上げに世間の厳しい目 迷走する賃上げの扱い

値上げの主な要因が燃料価格高騰と円安とあっては、事業者の努力で圧縮できる余地は少ない。そんな中、既に始まっている先の5社の料金査定で一つの焦点となっているのが賃上げを原価に織り込むかどうかだ。

実を言えば、料金改定で用いられる「審査要領」では、消費者物価や雇用者所得の変動見込み(エスカレーション)の原価参入を認めていない。一方で、河野太郎消費者担当相が昨年8月、「公共料金の改定では、企業の賃上げが適正に見込まれているか検証する」と明言している。

査定を担う専門委員の間でも、政府方針に則り一定の賃上げを容認するか否かで意見が真っ二つに分かれている。物価上昇を受けて経済界全体に賃上げの機運が高まる中、これからのエネルギー業界を担う優秀な人材を確保し続けるためには、「適切な給与水準の維持は欠かせない」(学識者)。

SAF国内供給へ新会社を設立 サプライチェーン構築の基盤担う

【コスモ石油】

 従来燃料と比較し、ライフサイクルでのCO2排出量を大幅に削減できる「持続可能な航空燃料(SAF)」。コスモ石油は日揮ホールディングス(HD)、レボインターナショナルと共に、2022年11月に廃食用油を原料とした国産SAF製造供給を行う新会社「SAFFAIRE SKY ENERGY」の設立を発表した。商用規模で国内初となる年間約3万klの生産・供給を予定し、24年度下期の運転開始を目指す。

コスモ石油は20年9月から同事業に参画。翌月には菅政権(当時)によるカーボンニュートラル宣言があり、これを契機として国内でもSAFへの注目とニーズが急速に高まっていった。21年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業に当事業が採択され、また22年には国産SAF普及を目指す民間企業16社が有志団体「ACT FOR SKY」を設立するなど、業界を横断した取り組みも加速した。コスモ石油企画部の山本哲・次世代事業推進グループ長は「当社は燃料製造・供給者の立場として、燃料油精製のノウハウや安全・品質管理、製造・輸送インフラをSAFに活用できる」と話す。

「SAFの国内認知を上げたい」と話す山本哲氏

課題はSAF原料の確保 サプライチェーンを構築

課題は需要に対する供給の圧倒的な不足だ。その理由にはSAF原料確保の難しさがある。「日本国内の廃食用油は40~50万klほどしか存在せず、うち約10万klは海外に輸出されている」(山本氏)。世界中でSAF原料の争奪戦が始まっている中、「SAFFAIRE SKY ENERGY」は、国内での資源循環を重要視し、コスモ石油堺製油所内でSAF製造設備の建設に着手。レボインターナショナルと日揮HDが原料調達を担い、製造と販売をコスモ石油が担当する。

廃食用油の収集から製造したSAFを航空会社へ供給するまでの「燃料サプライチェーン」を一貫して構築していく。「コスモ石油、日揮HD、レボインターナショナルの3社が業界の垣根を越え、各社の強みを結集して取り組むことで実現した事業」と、山本氏は強調する。

コスモ石油は30年の達成目標として、現在の自社JET燃料販売シェアを上回る「年間30万klのSAF国内供給」を打ち出している。目標達成に向け、廃食用油原料のSAFだけでなく、三井物産と協業しバイオエタノールを原料としたSAF製造の事業化も検討している。山本氏は「今後はSAFの国内認知を通して『廃食用油が飛行機の燃料を作る資源になり得る』という事実を広く知ってもらい、各企業や個人の行動変容につなげていきたい」と展望を語る。今後ますます需要が高まるSAF。その国内基盤の構築をコスモ石油が担っていく。

アウトドアと防災対策を両立 ポータブル電源と太陽光に注目

【Jackery】

ポータブル電源、ソーラーパネルの製造販売で業界をけん引するJackery。

今後はBtoBビジネスで企業連携を模索し、持続可能な社会に貢献していく。

 「グリーンエネルギーをあらゆる⼈に、あらゆる場所で提供する」というビジョンを掲げ、2012年に米・カリフォルニア州で発足した「Jackery」。

16年に世界初となるリチウムポータブル電源を発売すると、その2年後にはポータブルソーラーパネルを開発した。その技術力と商品デザインが消費者から評価され、18年から22年6月にかけてのポータブル電源とソーラーパネル合計の累計販売台数は、全世界で200万台を突破している。(Jackery調べ)

2月に発売される新製品「Jackeryポータブル電源1500Pro」は、ほぼすべての家電を扱える定格出力1800Wの大容量・高出力電源だ。ソーラーパネルとポータブル電源を組み合わせ「Jackery Solar Generator」としてセット販売も行っている。これまでのモデルより機能が向上し、最速2時間の高速充電を可能とした。そのほか、過放電による温度上昇を抑える制御システムや耐衝撃、耐火性能など高い安全性を持つ。非常用電源としての長寿命化も実現し、キャンプ好きだけでなく、防災意識の高い消費者も満足できる商品となっている。

2月発売の大容量ポータブル電源「1500Pro」

ほかにもニーズに合わせた蓄電容量のポータブル電源(容量約240W時~2160W時)をそろえ、4月には、同社史上最大の容量と出力を備える「3000Pro」を発表する予定だ。

Jackeryが手掛けるポータブル電源について、マーケティング部のジョイス・フー氏は「当社の商品はアウトドア用ではあるが、防災や環境への意識もあり、日本人を含む多くの方から支持を受けている」と反響を語る。また、ポータブル電源の普段使いにも触れ「利用者の中には、晴れた日にソーラーパネルを使って充電し、夜と非常時にはポータブル電源で過ごす方もいる」と話す。昨今のアウトドアブームに加え、環境面、防災面でも貢献するポータブル電源への需要は高まるばかりだ。

ソーラーパネルで技術発揮 両面パネルで効率アップ

Jackeryはソーラーパネル事業でも技術力を発揮。昨年9月発売の「Jackery SolarSaga 80」は、両面発電パネルで発電効率を約25%アップさせた。その高い発電効率が認められ、世界的な認証機関から、ポータブル太陽光発電として世界初の認定を受けている。

ソーラーパネルと、現商品の中で最大容量のポータブル電源「2000Pro」のセットは、23年1月に行われた世界最大級の家電・IT見本市「CES 2023」(米・ラスベガス)で、特に評価された商品を対象とした「CES 2023イノベーションアワード」を受賞した。

また、同展で最も高い評価を得た商品コンセプトに送られる「ベスト・オブ・イノベーションアワード」には、ガリウムヒ素系の超高効率太陽電池ソーラーパネルを搭載したポータブルインフレータブルテント「Jackery LightTent-AIR」が輝いた。そのほか、ポータブル風力発電アクセサリー「Jackery Air-w」と、車輪付きアウトドア用蓄電製品「Jackery LightCycle-S1」も「CES 2023イノベーションアワード」を受賞。この3商品の発売時期は未定だが、Jackeryの商品は世界中で高い関心を集めている。

ソーラーパネルとの併用で節電にも寄与

BtoBで企業連携模索 CSRで環境活動に貢献

Jackeryの商品設計は米国で行われているが、生産ラインを支えるのは中国・深センに建てられた約4万㎡の敷地に立つ大規模工場だ。生産された商品は自社ECサイトのほか、アマゾンや楽天市場などのオンライン、家電量販店でも店頭販売している。修理などカスタマーサービスに関しては、国内の修理代行と連携しているという。

現在は一般家庭へ向けた販売が中心だが、今年からはBtoB取引にも積極的に取り組んでいく。今後は3月開催予定の「スマートエネルギーWeek 春・二次電池展」の展示会に参加し、企業と連携を模索する。「企業CSR活動の一環として、自治体や防災団体に弊社のポータブル電源を提供することで、自社商品を他企業にも認知してもらう活動を続けている」(ジョイス・フー氏)

また、農業法人と連携した食品ロス削減企画や、植樹に取り組む「鎮守の森のプロジェクト」への寄付などを行ってきた。創業11周年を迎えたが、グリーンエネルギーを提供し、持続可能な方法で自然を楽しみ、地球を守る理念はこれからも変わらない。

19年の日本市場参入以来、確かな技術力と防災、環境への貢献で日本国内における「ポータブル電源」というジャンルを開拓してきた。個人で気軽にグリーンエネルギーを活用できる時代を作るため、これからも先駆者として走り続ける。

【マーケット情報/1月27日】原油混迷、強弱材料が混合し方向感を欠く

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の主要指標は、中東原油を代表するドバイ現物が上昇する一方で、米国原油を代表するWTI先物や北海原油の指標となるブレント先物が下落した。米中経済の見通しを背景に、強弱材料が混在する動きとなった。

中国でゼロ・コロナ政策の緩和が進み経済活動の再開が続いていることなどから、原油需要の回復が楽観視され、週前半は全銘柄で買いが優勢だった。欧州の購買担当者景気指数も1月は前月から上昇し、石油需要の増加へ期待が高まった。

今週発表されるOPECプラスによる生産計画で、需給の先行き不透明さを根拠とした協調減産の現状維持が見込まれていることも上方圧力になった。

一方、米国の昨年10~12月の経済成長率は2.9%と同7~9月より減速したものの、市場の期待を上回る上昇率を記録した。底堅い労働市場が消費を支えているが、市場では先行き懸念が残った。今週発表される連邦公開市場委員会(FOMC)での決定内容や、1月の米雇用統計を見極めようとする動きも相まって、週後半に売りが優勢となる銘柄が出た。

停電および設備不具合により計画外停止にあったノルウェーのヨハン・スベルドラップ油田第二系列での生産が再開されたことも、一部油価の下方圧力となった。

【1月27日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=79.68ドル(前週比1.63ドル安)、ブレント先物(ICE)=86.66ドル(前週比0.97ドル安)、オマーン先物(DME)=84.48ドル(前週0.23ドル高)、ドバイ現物(Argus)=85.00ドル(前週比1.04ドル高)

ガス業務と選手活動を両立 「小田原のヒーロー」目指す

【小田原ガス】佐藤 玲惟

 高校時代は主将として、チームを全国大会に導くゴールを決めるなど活躍。日本体育大学進学後もサッカーを続けていたが、かつて所属していた湘南ベルマーレフットサルクラブのサテライトチームから「本気でフットサルを目指してみないか」と誘われた。転向後すぐに頭角を現すと日本最高峰フットサルリーグ、Fリーグの選抜チームにも選ばれた。2016年には同クラブのトップチームに昇格。身体を張ったプレーで気持ちを前面に出し、チームを鼓舞するプレースタイルが魅力だ。

身体を張ったプレーが魅力
©SHONAN BELLMARE FUTSAL

そんな中、同クラブのスポンサーである小田原ガスと縁があり、20年5月から営業部の「くらしサポートチーム」に配属された。現役のフットサル選手ながら、ガス開閉栓や機器の見積もり販売など営業も担う「デュアルキャリア」を実現し、二足のわらじで奔走する。午前は選手としての練習、午後から勤務し、終業後もトレーニングを行うハードな毎日だが「小田原のヒーローになる」を合言葉に掲げ、住民の生活をサポートする。小田原市で生まれ育ち、地元愛は人一倍強い。

「地元のつながりを大切にできる今の仕事はとても楽しい」と笑顔で話す一方、「ガスは生活に密着しており、安全性が求められる分野。お客さまの不安を解消できるよう責任を持って取り組む」と、プロとして真剣な表情も見せる。同社の広報業務にも積極的に参加し、情報発信で貢献するほか、将来的には専門的な修理業務も担うため資格取得にも励む。「フットサル選手としても、街のガス屋さんとしても、一人でも多くの人を喜ばせたい。それが小田原で育った自分ができる恩返し」と意気込む。

22年5月には右ひざの前十字靭帯損傷、半月板バケツ柄状断裂と全治10カ月の大けがを負った。それでも「今自分にできることを全力で行う」とリハビリや社業に手抜きはない。2年連続でガス漏れ警報器の取り付け数社内トップを記録するなど、営業部門で優れた成績を残し「会社は一人の社員として扱ってくれている。もっと会社の戦力となれるよう貢献したい」と話す。フットサル選手としても今シーズン終盤の復帰へ全力を尽くす。

「選手とガス会社社員の両方に取り組める今の環境はとてもぜいたくでありがたいこと」。ガス会社社員として生活を支え、フットサル選手として夢を与える「小田原のヒーロー」となるまで、これからも精進の日々だ。

さとう・れい 1996年生まれ。神奈川県小田原市出身。2016年、湘南ベルマーレフットサルクラブのサテライトチームにてフットサル転向。同年、特別指定選手としてトップチーム昇格。Fリーグ選抜を経て21年より再び同クラブトップチーム所属。

次代を創る学識者/前 真之・東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授

健康・快適な暮らしに欠かせないのが冷暖房や給湯だ。

それらを太陽エネルギーで賄うため、研究に邁進している。

 環境にやさしい「エコハウス」に関する技術・設計手法の開発と、それを社会に普及させるための研究に取り組んでいる東京大学大学院工学系研究科の前真之准教授。日本における建築環境工学の第一人者である前准教授が目指しているのは、「暖房や給湯にエネルギーを使わない無暖房・無給湯住宅の開発」だ。

東大工学部に進学した当初は、ウィンドウズ95が登場し、ちょうど黎明期を迎えていた情報処理技術を専攻することも考えた。だが、もともと地球環境問題にも興味があったこともあり、建築の分野で情報処理や環境問題の課題解決に取り組もうと、建築環境工学の道を選び、まだ手付かずだった住宅の省エネルギーに関する研究をスタートさせた。

当然、当時は住宅のエネルギー消費に関する詳細なデータはあまりなく、特に、入浴の習慣がある日本ではエネルギー消費の3分の1を給湯が占めるにもかかわらず、各家庭のお湯の使い方や給湯器の効率性を評価する手法が確立されていなかった。博士課程では、給湯に特化したデータの収集とその分析に力を入れた。

「まだまだ、社会の要請に従い建築物を建てるというよりも、建築物で社会を変えてやろうというのが建築界のメインストリームの考え方だった。でも、私自身は建物はあくまでも人のためにある、自分の選択は間違いないという強い信念があった」と振り返る。

建築研究所の研究員として1年半勤務した後、2004年に東京電力の寄付講座が設けられたのを機に東大大学院に客員教授として着任。以降は、給湯のみならず、空調、通風、太陽光などの自然エネルギー利用といった、住宅の省エネや快適性向上につながる幅広い分野をテーマに、学生とともに研究を続けている。

健康で快適な暮らし 日本のどこでも誰でも

「電気が最高のエネルギー媒体であることは疑う余地はない」と言う前准教授。エコハウスを実現するためには、ヒートポンプ給湯器などによる設備の電化はもちろんのこと、躯体の断熱性・気密性を向上させるとともに、省エネのために太陽光発電設備を設置することも重要だと強調する。そうすることで、夏涼しく冬暖かい、健康で快適な暮らしを、電気代を心配することなく実現できるからだ。

そして、「一番難しいけど大事なことは、日本のどこでも誰もがそういう暮らしができることだ」とも。だが、技術的には既に実現可能であるにもかかわらず、その恩恵を全ての人に届ける仕組みがないことが、エコハウス普及の高い障壁になっている。

気候変動やエネルギーの価格高騰が社会にとって大きな問題となっている中で、建築物においても、エネルギー消費量の抑制と環境負荷低減は喫緊の課題だ。前准教授は、「建築や住宅で世の中の役に立てることはまだまだある。それに粘り強く挑戦していくしかない」と前を見据える。

まえ・まさゆき 1975年広島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。独立行政法人建築研究所研究員、東京大学大学院工学系研究科客員助教授を経て2008年4月から現職。博士(工学)。専門分野は建築環境工学。

【メディア放談】カルテル問題・料金値上げ申請 河野太郎が待っている!?

<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

カルテル問題、規制料金の値上げ申請と電力業界は師走もあたふた。

どちらにも関与する消費者庁のトップは〝あの〟河野太郎だ。

 ―電力販売でカルテルを結んだとして、中国電力、中部電力、九州電力に処分案が通知された。総額1000億円を超える課徴金は史上最高額だ。

石油 各紙が社説で論評していたが、莫大な課徴金の額からすれば、そこまで批判的な論調ではなかった。背景には供給不安と料金値上げがあるのだろう。「自由化に反する」という建前論的な論評で収まっていた。

マスコミ 関電は自らカルテルを呼び掛けておきながら、リーニエンシー(自主申告)制度で課徴金を免除された。大手電力会社を全て敵に回したと言っていいんじゃないか。

石油『選択』や『FACTA』でのエグい記事は免れないだろうね。

マスコミ 関電からはリーニエンシー制度で「逃げ切った」感すら漂う。でも関電に言わせると、最初にやめてくれと言ったのは他社だという説もある。また消費者からすると、関電のコンプライアンスが機能したという評価もある。

ガス カルテル問題はこれからも続く。課徴金を払うことになれば、株主代表訴訟もある。社長の責任問題に発展する可能性もあって、西日本の電力会社は落ち着かない状況が続くだろう。6月に予定される電事連の会長人事にも影響を与えそうだ。

松野官房長官の仰天答弁 河野太郎の〝復活〟に警戒

─東北、中国、四国、沖縄、北陸の5社が規制料金の値上げを経産省に申請した。

ガス カルテル問題が審査に与える影響について、中国電は「課徴金は規制料金の原価に入っていないから関係ない」という認識らしい。驚くべきことに官房長官の松野博一さんも、審査に影響を与えないという見解を示した。どこまで甘い認識なのか……。

マスコミ 消費者担当相が河野太郎さんというのも要注意だ。消費者庁は公正取引委員会を管轄し、値上げ申請の審査にも関与する。外務相やデジタル担当相の頃に比べるとマスコミへの露出度は低いし、カルテル問題や値上げ審査を踏み台にされる可能性もある。

ガス〝対河野〟に関しては、電力会社以上に経産省の危機感が強い。料金改定に向け、ずいぶんと気を遣っていた中でのカルテル問題で戦々恐々としているよ。

マスコミ 一方で、好意的に捉えている省庁も多いらしい。「KKコンビ」のもう片方、小泉進次郎さんはさすがに見限られているようだけど。

電力 小泉さんや石破茂さんが「終わった」という声は聞いても、河野さんでは聞かない。時にパワハラもあるが、省庁からは強いリーダーシップを敷かれた方がラクだという意見もあり、国民も小泉純一郎式の劇場型政治は嫌いじゃない。次の総裁選ではもう一度、有力候補として浮上するだろう。

マスコミ 前首相の菅義偉さんは相変わらず河野さんの改革力を評価しているらしい。菅さんが二階派を巻き込めば〝河野内閣〟の誕生もあり得る。

石油 そうなると、安易な岸田降ろしも考えものだ。

マスコミ ただ管さんは、政調会長の萩生田光一さんも評価している。菅さんと同じ叩き上げで、河野さんよりはよっぽど現実派だ。安倍派をまとめられれば、ポスト・岸田の最右翼に躍り出るかもしれない。

原子力政策は前進 LNG供給不安は変わらず

―原発の運転期間のカウントストップや新たな規制制度を盛り込んだ法改正案が、年明けの通常国会に提出される見通しだ。

石油 日経のコラム「経済教室」は22年12月に3日連続で原発政策を取り上げた。国際大学の橘川武郎さん、龍谷大学の大島堅一さん、日本エネルギー経済研究所の山下ゆかりさん―が担当。特に新増設に前向きな山下さんは、建設費用を電気代に上乗せする英国の制度を紹介していた。政府の原発政策の転換を受けてか、全体的な論調も前回5月の同コラムと比べるとトーンが上がっている。

ガス ただ相変わらず、日経社内は再エネ原理主義者だらけと聞く。2050年の電源構成比で再エネ7割を目標に据え、脱炭素のためなら原発もOKという理屈だ。

―エネルギー危機は23年も続きそうだ。

ガス 電力予備率が3%を超え、冬場の需給は持つと言われる。しかし、これはあくまで机上の計算にすぎない。サハリン2からの供給途絶など、上流のトラブルが重なれば窮地に陥る危険な状況は変わっていない。

電力 3%というのは、通常時の需給変動を調整するための数字だ。老朽化火力の再復帰には限界がある。そう考えると、予備率は7~8%ないと不安だ。私が入社した頃なんて、7%を確保するように言われていた。

ガス 問題は原発が1基も動いていない東日本だ。カウントストップやリプレースは中長期的な対策にすぎない。目の前の問題を解決するには再稼働しかないが、厳しい状況が続く。

マスコミ 原子力政策の転換が明記されたGX実行会議の取りまとめが閣議決定され、第7次エネルギー基本計画にも影響を与える。原発依存度を「可能な限り低減」と記した第6次エネ基からどう変わるのか注目だ。

ガス 天然ガスの位置付けも気になる。今後、LNGの長契の更新時期を迎えたとき、日本は買い負けないだろうか。経産省ではオイルショック時の〝産油国詣で〟ならぬ〝産ガス国詣で〟が始まっていて、23年は首相も足を運ぶかもしれない。

―エネルギー業界は円安の恩恵もほとんどなく、カルテル問題も横たわる。23年も波に乗れない日々が続きそうだ。

【コラム/1月26日】物価超え賃上げ期待を考える~インデクゼーション類似志向の浅はかさ

飯倉 穣/エコノミスト

1,輸入物価、企業物価、消費者物価上昇の下で実質賃金が低下している。日本労働組合総連合会(連合)は、実質的な賃上げで経済を回すことが今まで以上に重要と主張する。政府も、経済活性化策不発の中、賃上げを奨励する。

報道もあった。「首相年頭会見「インフレ率超す賃上げ」要請」(朝日2023年1月5日)、

「首相要請「物価高上回る賃上げを」労働移動・学び直し一体で」(日経同)。

 資源エネルギー価格高騰に伴う物価上昇による実質賃金低下で、インデクゼーション(物価スライド制)類似の施策は適切だろうか。また賃上げ成長期待、賃上げ消費増・景気拡大等の思いは合理的だろうか。現経済状況の賃上げを考える。

2,最近の賃上げの論拠は、様々である。2010年代なら、アベノミクスの関連で、例えば賃金上昇で可処分所得増加・消費拡大、経済活性化目的で労働分配率の引き上げ必要。賃金と物価の相互作用で、賃金が上昇すれば物価上昇となり、デフレ克服可能。賃金上昇がなければ、旧来型の低生産性ビジネス継続の問題、賃金上昇で高生産性分野へ労働移動すれば生産性上昇実現可能等々である。

 現在、政府は賃上げで成長基盤作りを掲げる。「賃上げと投資という2つの分配を強固に進め・・力強い成長の基盤をつくり上げる・・実現を目指すのは、成長と分配の好循環の中核である賃上げで・・インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい(1月5日)等の言葉が散乱する。

いずれも生産・所得・支出という経済の基本的な流れや成長概念を捻じ曲げた考えで疑問である。

3,一般的に物価は需給、賃金水準は生産性を反映する。我国の従来の物価の合理的な見方を紹介すれば、企業物価上昇は、プルデマンド、コストプッシュ、輸入物価上昇のいずれかが要因である。そして消費者物価上昇は、経済成長に伴う産業間の生産性格差の調整(生産性の低いサービス産業等の賃金上昇)という見方であった。故に財政・金融政策の節度や生産性基準の賃上げが大切となる。今回のような輸入物価上昇は、海外への所得移転で国内経済の縮小となるが、受容せざるを得ない。(下村治博士の考え)

4,1970年代に欧米でスタグフレーション(景気後退とインフレの同時進行)があった。その打開策として所得政策が提案された。つまり「実質生産量の伸びを上回る名目配分所得の伸びを抑制することを意図し生産要素報酬率に直接影響を与える施策」(経済審議会物価・所得・生産性委員会報告:72年5月)である。実質生産量がポイントになる。目的は、物価安定でとりわけコストプッシュインフレの抑制である。

その一案としてインデクゼーション(物価スライド制)が主張された。インフレ時に賃金等の名目価値と実質価値の差を埋めるため、賃金等を一定の方式で物価指数(インデックス)にスライドする。米英で行われた。功を奏せず、オイルショックで最悪の循環となる。

失敗の理由は、物価上昇(インフレ)時に、インデクゼーションで物価上昇を抑制するために、金融引締め、財政支出抑制も必要なことをお座なりとしたことであろう。(J.A.トレヴィシク「インフレーション」78年10月参照)

5,第一次オイルショック(73年)が到来した。この時輸入物価上昇に対し、74年企業物価は前年比28%上昇、そして消費者物価は約23%上昇となった。賃上げ(ベースアップ込み)は、20%増(73年)、32%増(74年)となった。繰り言になるが、この時下村治は、輸入物価の状況を見て消費者物価の約3/4は、便乗値上げと指摘した。故に価格高騰・需要縮小で便乗分は剥落すると見越した。また輸入価格起因の物価上昇対応の賃金引上げは、スタグフレーションを招くと警告した。日本政府も理性的であった。緊縮財政・金融引締めを行い、また物価の下方を考え、賃上げ交渉時期を遅らせた。結果は75年消費者物価上昇11.5%、同年賃上げは13.1%に収まった。これで日本経済は、企業のエネ価格高騰対応もあり、コストプッシュインフレ、スタグフレーションを回避した。

6,今回はどうだろうか。コロナからの経済回復で、欧米は供給制約等から物価上昇傾向となった。22年2月ロシアのウクライナ侵攻が、資源エネルギー価格を高騰させた。原油価格(WTI)は、22年平均約94ドルと前年比1.4倍となった。天然ガス価格は、日本で18ドル/MBTUと1.7倍、欧州は40ドル/MBTUと2.5倍、石炭は、豪州炭が345ドル/トンと2.5倍となった。

 エネ価格上昇を主因とする我国の輸入物価指数(22年12月)の前年総平均比は1.41倍、企業物価指数は、1.14倍である。また消費者物価指数の上昇率は4%程度である。輸入物価上昇が、国内消費者物価上昇に影響している。目の子算なら、数量一定と置けば、22年推定投入量価格520兆円、輸入物価上昇約35兆円とみれば、国内物価は3~4%程度上昇と試算される。故に現在の物価上昇は、便乗もなく経済の流れに沿っている。

7,他方賃金は生産性基準が基本である。生産性は実質GDP伸び率で捉えることが適当である。実質GDP伸び率は21年度2.1%、22年度見込み1.7%、23年度見通し1.5%である。賃上げは、21年1.6%、22年1.9%(厚労省賃金引上げ等の実態に関する調査)、民間主要企業春季賃上げ妥結状況でも、21年1.86%、22年2.20%である。民間主要企業の賃上げは、実質GDP(生産量)の伸び率≒賃金伸び率なら、合理的な範囲である。

8,23年度の賃上げで、連合・政府・経済界等に積極的なあるいは前向きな発言が目立つ。発言内容を考察すれば、生産性、賃金と物価の関係をマクロ的にどう捉えているのか甚だ疑問とである。前提となる経済認識の思い違いに加え、政治・社会情勢、マスコミの煽りも問題である。

また国民所得で雇用者報酬割合を増加すべきという考えは一時的な分配率変更である。企業の在り方に関係する。従来は売り上げ増重視の下で、利益と雇用維持があった。今は利益増を狙い、雇用をカットしている。そこに日本型経営システムの揺らぎがある。投資金融重視の会社の在り方を反省し、働く人重視に転換すべきではなかろうか。 

日本経済の現実の実態(経済成長率、経済の均衡状況、エネルギー状況、国際競争力、技術水準)をもう一度冷静に調査し、課題を明確にし、対処すべき理論も熟考し、政策を見出して頂きたい。マクロ政策について、議論もあろうが過去の経済企画庁的な機能を有する岡目八目的で且つ理性的・中立的・独立的に政策の調査・立案を考える機関の創設と人材育成(人への投資)が必要であろう。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

三度のエネルギー危機を経験 感じた安定供給の重み

【リレーコラム】揚 鋼一郎/大阪ガス理事 再生可能エネルギー開発部長

 エネルギー業界に入って30年近くになるが、その間、少なくとも三度、「危機」と呼ぶべき事態に遭遇したと思っている。

一度目は1995年の阪神・淡路大震災である。当時、導管部門の新人だった私は、地震発生直後、半壊した自宅を飛び出して会社に駆け付けた。約86万戸へのガス供給が停止する中、そのまま復旧作業に従事し、3カ月間、自宅に戻れなかった。

各地の復旧基地を転々としながら雑魚寝する生活は過酷ではあったが、自身を含め現場の士気は極めて高かった。何より目の前にガスが使えずに凍えているお客さまがおられ、復旧時には手を合わせて感謝される。自分はこれほど社会的に重要な仕事をしていたのだと改めて気付かされた社員は多かったと思う。

二度目の危機は、2011年の東日本大震災。被災地の映像を呆然と見つめながら、その時はこれが自分の仕事にどう影響するのか想像できなかった。やがて日本中の原発が停止に追い込まれ、代替エネルギーとしてのLNGの需要が一気に高まった。当時、私はLNG調達部門で北米のシェールガス由来のLNGについて調査していたが、それまでどこか絵空事のようだった北米からのLNG輸入が突如として喫緊の課題となり、それからの数年間、その確保に奔走することとなった。エネルギーは国全体でひとつながりのもので、どこかで不足が生ずれば必ずその担い手が必要になるのだと実感した。

三度目の危機は現在進行形である。昨年2月、ロシアのウクライナ侵攻に伴う欧州向けパイプラインガスの途絶により、世界のエネルギー需給は一変した。わが国では円安の進行も重なり、あらゆる輸入燃料が高騰し、状況によっては必要量の確保も危ぶまれる事態となっている。

三度の経験から痛感するのは、危機は思いのほか頻繁にやって来ること、そしてエネルギーというのは、何が起ころうと、なしで済ませる訳にはいかないということである。

国産電源としての再エネの価値

私は現在、国内の再エネ電源開発に携わっている。これまでは主に脱炭素化という文脈で自分の仕事を捉えていたが、足元で三度目の危機を経験し、国産電源としての再エネという側面も強く意識するようになった。

エネルギーの安定供給には結局、調達ソースの多様化を進めていく他に特効薬はないと思うが、国際情勢の激変を見るにつけ、わが国の今後のエネルギー安定供給において、再エネもその一翼を担うことができるよう微力ながら貢献したいとの思いを強くしている。

あげ・こういちろう 1993年早大政経学部卒、2003年ノースウェスタン経営大学院卒。大阪ガスの海外電力事業、上流事業、LNG調達などに従事した後、16年から国内電源開発に携わる。

※次回は関西電力エネルギー需給本部燃料部長の工藤信一さんです。

【岩田和親 自民党衆議院議員】「国民生活と経済活動守る」

いわた・かずちか 1996年九州大学法学部卒。大前研一氏の秘書を経て、99年25歳で佐賀県議会議員(3期)。2012年衆議院初当選(佐賀1区)。19年防衛大臣政務官、21年経済産業大臣政務官兼内閣府大臣政務官兼復興大臣政務官を経て現職。

著名な経営コンサルタント・大前研一氏の薫陶を受け、佐賀県議を経て国政の道へ。

防衛大臣政務官、自民党経産部会長ら要職を歴任。エネルギー安保に全力を尽くす。

 九州大学に在学中、佐賀県議会議員の父・英則氏が在任中47歳で亡くなった。父の政治に対する姿勢は、当時20歳の自身に大きな影響を与えたという。「卒業したら実家に戻り稼業を行う選択肢もあったが、政治の勉強をしたかった」。父の遺志を継ぐように、政治の世界に飛び込んだ。

大学卒業後は経営コンサルタントの大前研一氏の下で秘書として活動。政治だけでなく経済も含めた幅広い分野で薫陶を受けた。大前研一氏からは「毎日が受験、一生学生」と生涯勉強することの大切さを学び、1999年、当時全国最年少の25歳で佐賀県議会議員初当選を果たした。以降3期にわたり県議として働く中で、「政治生命をかけてチャレンジしよう」と2012年の衆議院選挙に立候補。民主党政権で総務大臣などを務めた原口一博氏を破り国政に進んだ。

国会議員となって以降は防衛大臣政務官、経済産業大臣政務官などを歴任。防衛問題や安全保障で手腕を発揮してきた一方で、国土交通の分野でも活躍し、衆議院国土交通委員会理事も複数回務めた。中でも「有明沿岸道路の整備促進は、思い入れを持って取り組んできた仕事の一つ」と話す。佐賀と福岡をつなぎ、有明海経済圏構想の実現に寄与する幹線道路の整備は、災害に強い地域づくりに貢献し、九州全体の経済活性化にもつながるという。「国土強靭化のために、地方の安全安心と将来への投資は重要だ」と地域活性化の必要性を訴える。

また、佐賀県に立地する玄海原子力発電所についても、県議時代から課題の解決に取り組む。「09年の玄海原発3号機での、日本で初めてのプルサーマル実施について、県の自民党政調会長として議論を重ねてきた」。原発に関しては、安全性の問題にはこれからも厳しく目を向けて、正式な手続きを経て再稼働すべき、という考えを支持する。

自民党経産部会長として多忙な日々 エネルギー価格負担軽減に奔走

現在は自民党の経済産業部会長として、与党内、政府や省庁間で政策立案に奔走する毎日だ。10月には岸田文雄首相が総額39兆円の総合経済対策を発表。30兆円規模の補正予算のうち、11兆円ほどが党の経済産業部会として関わった部分だ。「今の価格高騰に対し、少しでも国民の生活負担を軽くする試みが必要だ」として、電気代2割引き下げやガソリン価格抑制など、標準家庭で約4万5000円のエネルギー価格負担軽減計画の策定に向き合った。

そのほか①物価高に対応する中小企業対策、②円高のメリットを生かし、生産拠点の国内回帰を促す投資、③グリーントランスフォーメーション(GX)関連企業への予算確保による国際競争力の向上―などを推進。「国民生活に還元されるよう、取り組みを力強く進めたい」と意気込む。

また、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにした世界的なエネルギー危機を前に、日本としてエネルギー資源の確保と安全保障に取り組むべきだと訴える。「エネルギー危機は日本経済における喫緊の課題だ。国民の生活と経済活動を守るため、真剣に考えなければいけない時期に来ている」。トラブルが多発する太陽光発電では、地元との合意形成が重要と分析。今後の再エネには安定性確保のための系統強化、蓄電池利用などが必要と指摘した。エネルギー政策の基本である「S(安全)プラス3E(安定供給、経済、環境)」の四つの要素を前提に、原子力、再エネの活用を提言する。

「22年11月25日に予算委員会で質問をした際、あえて原子力はリプレース・新増設に触れず、再稼働に絞った。エネルギー安全保障対策を確実に進めることが大事だ」。目の前のエネルギー危機に対し具体的な対策を迫り、覚悟を政府に問いただした。他国のミサイルによる原発攻撃が現実味を帯びる中、元防衛大臣政務官として「日本はミサイルに対し多層的な備えを持っている」と防衛システムがきちんと準備できていると話す。今後は政府によるGX実行会議の中で、安全保障に関する議論が活発化することに期待している。

これまで、佐賀空港のオスプレイ配備計画による住民・漁業関係者との対話など、国防や安保、経済など国の重要政策と地元住民との要請の間に立ち、粘り強く交渉を行ってきた。「直接見知った人ばかり」の中で、地元議員出身として胸襟を開き、住民の心配を丁寧に受け止めることが政治家の使命と話す。根底には「是の処は即ち是れ道場なり」の座右の銘がある。法華経の言葉で「自分の生活するところ、生きているところが自らを磨く道場である」という考えだ。多くの県民の意見を受け止め、その意見で自らを磨き、政策に反映する。佐賀と国の発展のために、これからも研鑽を続けていく。

【需要家】省エネ情報正しく伝える工夫 今こそ見直しを

【業界スクランブル/需要家】

個人的な経験だが、音楽プレイヤーをMDウォークマンからiPodに換えた時、分厚い取説が無いことに驚いた。膨大な音楽データを扱うことができ、高度な機能を有するiPodが、使い方に関する情報をほとんど出していないにもかかわらず、全く使い方に困らなかったからだ。操作に困らないよう設計側で工夫がされており、使用者が必要な情報を自ら発見できるよう促す仕組みがあった。これは分厚い取説とは対極にある。ネットでの会員登録などで長文の規約を表示して「確認しました」とボタンを押させることは、消費者への責任転嫁だと感じているが、程度の差はあれ、分厚い取説も同類の問題をはらんでいそうだ。

昨今、省エネ・省CO2のために多くの対策施策が検討されているが、中には、機器の買い替えや再生可能エネルギー導入、省エネ行動実施など、一般消費者の主体的関与が必要なものも多い。そのためには、機器性能情報、電気やガスの消費量情報、さらに啓発情報など、多数の情報を消費者に正しく理解してもらう必要がある。これらを正しく伝える工夫を、発信側はどの程度重視しているだろうか。

最近、ある設備関連の方から、当該設備の性能について「消費者が誤解している」という旨の話をうかがった。それは伝え方にも一因があると思う。仮に情報が正しくても、正しく伝えるための工夫がなければ、その情報は消費者の前で霧散してしまう。消費者にとってエネルギーに関する情報は関心事にはなりにくい一方で、社会的要請は重く、消費者の行動選択にかかる期待は大きい。今こそ、当時のiPodに感じた驚きがエネルギー業界には必要だ。消費者の主体性に委ねるような情報発信のあり方について、工夫がなされることを期待したい。(O)

【再エネ】小売り事業者が調達拡大へ 23年は転換年に

【業界スクランブル/再エネ】

値上げの年となった2022年。電気料金についても、年の瀬の規制料金の変更認可申請で、値上げはひとまず一巡した。そんな中、さまざまなメリットから再生可能エネルギーのニーズが高まっている。

例えば、一部の小売電気事業者で、相対的に安価な住宅用太陽光の余剰電力の買取価格を引き上げる動きがあるほか、新設の産業用太陽光の相対取引に関しても、同様に買取単価の水準が22年後半以降徐々に上昇している。加えて、FIP(フィードインプレミアム)により実質的に上限価格が機能する仕組みを用いて、再エネを「価格ヘッジできる電気」として活用しようとする動きも活発化。また、22年12月、トヨタ系自動車部品メーカーの東海理化が、太陽光の電気をオフサイトPPA(電力購入契約)によりサプライチェ―ンで共同調達する取り組みを公表するなど、需要家による再エネ調達の動きも高度化し始め、料金値上げが再エネ活用の追い風になりつつある。

さらに、改正省エネ法の下での非化石エネルギーへの転換に向けて、「非化石電気の割合」を目標や報告指標として用いる整理が進む。再エネの自家発電やPPA(オンサイト・オフサイト)については、改正省エネ法上の評価を上乗せする扱いになる方向で、再エネ活用にドライブがかかることが予想される。それだけではなく、国は23年度からFIT(固定価格買い取り制度)非化石証書の最低価格を引き上げる方針を示しており、政策面からも、PPAなどでの再エネの直接調達を後押しする風が吹き始めている。

実利面からも政策面からも、23年は再エネ活用の転換の年になると期待される。とりわけ需要家においては、この大きな風を捉えて、脱炭素を着実に進める1年とすべきだろう。(C)