東ガスがCN連携を加速 地域と「三方一両得」の関係へ


東京ガスによる脱炭素を軸にした広域戦略が本格始動だ。同社と卸先ガス事業者、自治体の3者による「カーボンニュートラル(CN)のまちづくりに向けた包括連携協定」が神奈川や埼玉、茨城などで広がりを見せており、これまでに7地域で協定を結んだ。「脱炭素化で地域を活性化させることが目標だ」。同社広域エネルギー事業部の馬場敏事業部長はこう意気込む。

東ガス、狭山市、武州ガスの提携会見

一連の動きの背景には、政府が進める「地域脱炭素ロードマップ」の存在がある。地域資源を最大限活用しながら脱炭素化や経済活性化を図る取り組みだが、自治体は何から手を付けるべきか苦慮している。そこで、自治体は大手や地元のガス事業者が有する先進技術、ノウハウなどを活用することで、脱炭素化を加速させたい狙いがある。

地域でのネットワーク力を有する卸先ガス事業者は、大手の力を借りることで自治体への幅広い提案が可能になる。東ガスにとっては連携地域を拡大させ、首都圏で自社のプレゼンスを高める効果も期待できる。

CNという新たなビジネス領域で、〝三方一両得〟の関係を築く包括提携。今後の行方から目が離せない。

【イニシャルニュース】 非常事態で表に出ない 東電社長への違和感


 非常事態で表に出ない 東電社長への違和感

「3月22日に国内初の電力需給ひっ迫警報が発令された前後、小早川(智明・東京電力ホールディングス社長)さんはなぜ表に出てこなかったのか。会見すら開かれなかったことには、個人的な違和感を持っている」

こう話すのは、元東京電力幹部のA氏だ。22日は、3月16日に福島県沖で発生した最大震度6強の地震の影響で、東北電力原町や相馬共同火力新地、東京電力広野などの大型火力が軒並み停止。そこに悪天候による寒波が重なって東北、東京両電力管内で電力需給がひっ迫した。

とりわけ東京は厳しく、22日午後には「使用率107%」という異例の非常事態に。揚水が底をつく午後8時以降の停電は避けられないとの見方が広まる中、萩生田光一経産相が午後3時に節電強化を求める緊急会見を開き、東電もウェブサイト上で「節電のお願い」を断続的に行った。JERAが停止中のLNG火力を急きょ稼働させたことも奏功し、停電を回避することはできたのだが……。

小早川社長は表に出てこなかった

「停電寸前の局面での強力な節電要請だったことを考えれば、小早川さんは直接需要家に語り掛けるべきだったのでは。仮に22日は対応に追われてそれどころではなかったとしても、後日に会見を開くなどして『皆さまの協力のおかげで何とか乗り切ることができました』といった謝意表明はあってしかるべきだったと思う」(A氏)

関係者の中には「東電は需給ひっ迫警報の責任者ではないため、会見を行う必要はなかった」と見る向きもあるが、発電や送配電、小売りも含めた東京電力グループの総責任者は小早川氏。経営者として相応の対応が求められるのはある意味、当然のことだろう。振り返れば、2019年9月の台風15号による千葉大停電の際も同じような指摘が聞こえていたような……。

火力政策に一抹の不安 専門家不在の審議会

3月22日の電力需給ひっ迫では、この間の自由化・脱炭素化政策で放置してきた課題が一気に噴出した。経産省は今回のひっ迫を検証するとともに、今年度も夏、そして冬の需給見通しが厳しくなるとして、対応策の検討に乗り出した。中でも火力の過度な退出を防ぎ、必要な規模の設備を温存して、いざひっ迫時に活用できるためには何が必要か、詰めていくことが重要になる。だが、火力政策の見直しに向けて一抹の不安を感じる一幕があった。

3月25日の電力・ガス基本政策小委員会は、今後の火力政策が議題の一つだった。その事務局資料の中に、休止火力の再稼働には「1年以上のリードタイムが必要」との一文があった。これに委員のM氏が「1年以上かかるのであれば、いざというときに役に立たないのではないか」との旨、指摘したのだが……。

ある電力関係者は、「再開までに要する時間は何年止めているかなど状況によって変わるもの。実際、昨年停止したばかりだった姉崎火力は1年もかからず稼働できた。さらに、数週間で再開できるような保管の仕方も可能だ」と話す。

しかし同日の会合ではM氏の指摘に対し、事務局はもとより、オブザーバー参加の電力関係者からも説明がなく終わってしまった。会合に、火力の専門家が参加していなかったためだろう。審議会の一場面にすぎないかもしれないが、されど神は細部に宿る。

原子力委員会の復権 エネ庁が後押しか

原子力関係者の間で注目されているのが、原子力委員会U委員長の意欲的な活動だ。まだ具体化していないが、原子力委の権限を強化し原子力復活の「司令塔」にしようと考えているらしい。エネ庁もその動きを支援するようだ。

20年に委員長に就任したU教授は真面目な人格者と周囲の評判は良い。もともとメーカーから大学に転じ、電力や原子力産業にも理解がある。「今の日本には原子力政策を長期にじっくり考え、実現する政府機関がない。このままでは日本の原子力全体が衰退する」と嘆いているという。

委員会では有識者を続けて呼び、各国の事例を調べ、政策の研究を進めているという。原子力委は1956年の設立当時、学者などを集めて原子力政策の理論武装と司令塔になることを期待された。その後、権限を縮小されたが、確かに日本の原子力政策の柱になり得る組織だ。

U委員長の意向に反応したのがエネ庁だ。原子力に関係するM部長、E課長は経産省内で原子力復権を唱え、自由化見直し論者として知られる。経産省はかつて原子力推進の政策を担ったものの、福島原発事故の責任を問われ、事故の後に規制部門を分離させられ、権限と社会的信用を失った。エネ庁の代わりに、原子力委を原子力規制委員会や関係者に物申せる機関にしようとの思惑が垣間見える。

しかし、U委員長の意欲に周囲は乗り気でないという。原子力委の常勤委員のS氏は元外交官で産業振興に関心がなく、事務局も文科省などの寄せ集め。「U氏の善意と熱意が空回りし、エネ庁に利用されなければいいが」(原子力学界関係者)と、心配する声も出ている。

処分場文献調査に動き 伊豆諸島も候補浮上

北海道の寿都町、神恵内村に続き、他の自治体でも、使用済み核燃料の最終処分場選定のための文献調査を目指す動きが、水面下で活発化しているようだ。

伊豆諸島で文献調査もあり得るか

複数の関係筋によると、三重県A地域、島根県K町およびB地域、福岡県C地域に加え、東京・伊豆諸島でも文献調査の可能性を探る動きが出ているという。「各大手電力管内から最低1自治体に名乗りを上げてもらいたいところだ」。電力業界の関係者はこう話す。

最終処分場の選定作業は、①資料を中心にした2年程度の文献調査、②ボーリング調査などによる4年程度の概要調査、③地下施設での調査・試験を通じた14年間程度の精密調査―の3段階で進められる。調査開始から施設建設地の決定まで足がけ20年近くに及ぶ長期戦だ。調査に応じた自治体には、文献で最大20億円、概要で70億円の交付金が国から支給される。

20年8月の文献調査開始から間もなく2年がたつ寿都町では、近く調査の評価に取り掛かる予定。報告書を公表した後に、概要調査に移るかどうかを判断する住民投票を行う方針だ。

また寿都町から3カ月遅れで神恵内村の調査が丸2年を迎える。去る2月に行われた村長選では、現職で調査を受け入れた高橋昌幸村長が、脱原発派の新人に圧勝し6選を果たした。関係者によれば、北海道電力泊原発の近隣にある同村では、原発交付金の恩恵を受けてきた経緯から処分場調査に前向きな住民が少なくないという。

さまざまな事情を抱えながらも、最終処分場の選定作業は着実に歩を進めつつある。

後継者選びが難航 三村知事6選出馬か

7月に行われる参議院選挙で、自民党の青森県連は齊藤直飛人・県会議員を候補者として擁立することを決めた。齊藤氏は元大相撲力士で最高位は関脇。日本オリンピック委員会の委員を務めたこともある異色の経歴の持ち主だ。

しかし、対立候補の田名部匡代氏は青森政界の「名門」の出身で、国政選挙で合わせて4回の当選を重ねている。田名部氏に勝つことは、「まず難しい」(事情通)というのが下馬評。そのため県政界関係者の関心は、来年6月の知事選に移っている。多選に対する厳しい批判から当初、現職の三村申吾知事の6選出馬はないと考えられていた。しかし、「出馬の可能性がある」(同)という。

三村氏の後継として、以前からM市のM市長、A市のO市長、元知事の次男・K衆院議員などの名前が取り沙汰されていた。「M市長は県政よりも国政進出を狙っている。O市長は、もし三村氏が『出る』といったら逆らえない。K議員は元知事の意向次第だが、代議士の職を優先するはずだ」(同)。ふさわしい候補者が見当たらないことが、三村氏出馬を予想する理由だ。

青森県自民党の有力者、E衆院議員と三村氏が「犬猿の仲」(同)であることも、候補者選びを困難にしている。三村氏は知事選出馬について沈黙を守っているが、その心中は。

ガス業界が初のCNセミナー開催 合成メタン技術推進で目標達成へ


【カーボンニュートラルセミナー】

 日本ガス協会と東京ガス、大阪ガスの3者は3月24日、2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向け、業界内の取り組みを発信する報道機関向けセミナーを都内で行った。初開催となる同セミナーはオンラインでも同時配信し、ガス会社関係者を中心におよそ200人が参加した。

セミナーでは「『メタネーション』の社会実装に向けた都市ガス業界の挑戦」をテーマに、メタネーションの意義や業界の取り組みなどを説明した。メタネーションとは、水素とCO2を反応(サバティエ反応)させ、都市ガス用の合成メタンを生成する技術で、実用化すればCO2の排出量が回収量と相殺され、CN実現へ前進する。

最初に登壇した日本ガス協会の竹田剛CN推進センター長は、現在のガス業界の方針について述べた。既存インフラを活用できるメタネーションの利点を踏まえて「30年に都市ガスのCN化率を5%以上にして、50年までには都市ガス全体に占める合成メタンの割合を90%まで増やしたい」との目標を掲げている。

オンライン視聴含めおよそ200人が参加した

CN達成に合成メタン活用 都市ガス業界で技術開発

続いて、地球環境産業技術研究機構の秋元圭吾氏が講演し、50年CN実現に向けたシナリオを分析。CN化後も高温熱を使う産業用でガスの需要が高まると指摘した。秋元氏は「ガス業界はクレジットでオフセットしたCNガスから、合成メタンの移行へと、スムーズなCN達成の道筋が立つ」と説明。合成メタン活用は経済的な合理性があることを示した。

東京ガスと大阪ガスは、それぞれのメタネーション技術開発について説明。既存のサバティエ反応を用いたメタネーション実証実験を進めるとした。東京ガスは、将来的に高効率化や低コスト化が期待できる「ハイブリッドサバティエ」「PEMCO2還元」「バイオリアクター」など、革新的技術の開発推進を発表。大阪ガスも「バイオメタネーション」「SOECメタネーション」など新技術を、大阪市此花区内の研究拠点「カーボンニュートラルリサーチハブ」で開発していくと述べた。

3者はセミナー終了後、同セミナーを定期的に開催する方針を示している。大阪ガスの森田哲司エネルギー技術研究所長は「CN宣言で加速した流れに乗り、チャレンジ精神を生かして技術の実現化に動く。25年の大阪万博までに披露できるようにしたい」と展望を語った。今後は東京ガス、大阪ガスともに研究施設の見学会の開催も進める方針だ。

LNG先物が試験上場 取引高拡大へ多難の船出


日本取引所グループ(JPX)傘下の東京商品取引所(TOCOM)は4月4日、LNG先物を試験上場し、取引を開始した。上場したのは、北東アジア向けのLNG取引の価格指標「JKM」の先物。市場を通じて15カ月先まで価格を固定化でき、緊迫する国際情勢の下、エネルギー資源の価格変動リスクが高まる中で、低廉かつ安定的なLNG確保に資することが期待される。

取引開始に当たりあいさつする石崎隆社長

取引開始に当たってあいさつした石崎隆社長は、「このような時こそ、価格変動リスクのヘッジのため、産業インフラとして先物市場が重要だ」と強調した。だが、こうした期待の半面、4月半ばまでの間は、4、7日にそれぞれ最小単位の1枚が取引成立したのみ。事業者側の様子見姿勢がうかがえる。海外ではドル建てでの取引が行われており、円建てによる売買が可能になることで、どれだけエネルギー会社や商社などのヘッジニーズを取り込めるかが、成否の鍵を握ることになりそうだ。

この日は、2019年9月に試験上場していた電力先物が予定を半年前倒し本上場を果たした。こちらは、当初は13社のみだった参加者が2年半で140社を超えた。大手電力会社も参入しはじめ、取引量は前年比約1・8倍と徐々に拡大しているという。

JPXグループは、3月に策定した「中期経営計画2024」で、24年度の電力先物取引高を21年度比5倍にする目標を掲げている。石崎社長は、「世界第4位の電力需要がある日本における電力先物市場は、さらに大きな発展が見込まれると確信している」と述べ、電力とLNGをワンストップで取引できる総合エネルギー市場の活性化に意欲を見せた。

累計15兆円の国民負担どこへ 膨れ上がる再エネ賦課金


再生可能エネルギー普及のため、国民に負担をお願いする形で始まった再エネ賦課金。

一般家庭が年間1万円を超える負担額を強いられる背景に、制度を悪用する事業者がいる。

 「再生可能エネルギービジネスはようやく軌道に乗り始めたところ。一部の事業者が悪用しているだけで『国民の負担金でもうけている』と言われるのは心外だ」

固定価格買い取り制度(FIT)の恩恵について、大手太陽光発電事業者を直撃したところ、担当者は強い口調で不満をあらわにした。「国民の負担金」とは、FITの費用捻出のため作られた「再エネ賦課金」のことだ。

2012年当時、政府はまだコストが高く普及していなかった再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・地熱・バイオマス)を進めるためFITを導入。その費用の一部を電力会社が国民から徴収する形で、再エネ賦課金が始まった。FIT認定を受けた発電事業者は一定期間、市場価格より高額な固定価格で電力を電力会社に販売できたこともあり、再エネは指数関数的に拡大。それに伴い賦課金も、12年には一般家庭で年間684円ほど(1kW時当たり0・22円)が、22年には年間1万円を超える(1kW時当たり3・45円)負担額に膨れ上がった。

現時点で累計15兆円を超える賦課金の価格単価上昇は今後も続くとみられている。ただ今年4月からは現行のFITに代わり、卸市場の売電価格に一定額の補助金を付けるフィードインプレミアム(FIP)制度を導入。12年以降のFIT買い取りが終了する30年代半ばには、賦課金のピークアウトが始まる見通しだ。

透明性が高い賦課金の算定 電気料金「見える化」進む

「エネルギーのトランジション(転換)には費用がかかること、エネルギーは決して安くないことを、国民には丁寧に説明することが大切」。こう話すのは、公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)環境委員会の村上千里委員長だ。FIT賦課金について、「再エネ促進にコストがかかるのは想定内。それが何のために使われるのかが重要だ。公開審議が行われるなど賦課金は透明性が高い」と理解を示した。

資源エネルギー庁が公開する賦課金単価算定の根拠によると、FITで買い取られる年間電力量の想定費用から回避可能費用を引いた差額を、販売電力量で割ることで単価を算定する。22年の1kW時3・45円の負担額を例にすると、4兆2033億円かけてFITで調達する電力量を、火力発電で補う場合、1兆4609億円で済むため、差額の2兆7424億円を国民が広く負担しようと計算された額だ。村上氏は「例えば原子力にどれだけ費用がかかっているのかは消費者からは見えない。再エネは外出しされているので負担が見えやすく、説明責任が進んでいる」と意義を強調した。

FITを通じて再エネ促進が図られる一方で、村上氏は「FIPへの移行で事業者の再エネの機運が下がらないかは心配。また、卒FITの事業者が撤退するようなことにならないかも注視することが必要」と懸念した上で、「FITやFIPは電力の脱炭素を進める大切な施策。自国のエネルギー供給を支えるという社会的使命をもって参画してほしい」と訴える。

賦課金が太陽光乱開発の資金源にも

FIT狙う「ゾンビ事業者」 特措法改正も効果は限定的か

再エネ賦課金が脱炭素社会実現の呼び水となった半面、電気料金の値上げによる国民負担は甚大だ。無所属会派「有志の会」の北神圭朗・衆議院議員は、エネルギーフォーラムが主催するオンライン番組で「FIT制定まではよかった。問題はその値段。まるでバブルだ」として、制度初期のFIT価格が現在の賦課金高騰につながっているとの考えを示した。

同席した社会保障経済研究所代表の石川和男氏も「12年から14年の3年間の価格が足を引っ張っている。20年の買い取りが終了する30年代半ばまではこの状態が続く。12年認定案件のうち、いまだ稼働していない事業もあるのは大問題だ」と批判した。

自然エネルギー財団によると、20年に運転開始した20 kW以上の太陽光事業者の約6割が当初3年間で認定取得の、いわゆる「ゾンビ事業者」だ。この問題を追及する全国再エネ問題連絡会の山口雅之氏は「再エネ事業の請け逃げを許してはいけない。政府には、再エネ規制関連法に『遵守事項』の規定を盛り込んでもらい、違反した悪質事業者のFIT認定IDを取り消す仕組みが必要」と指摘する。

行政側にも言い分がある。資源エネルギー庁によれば、「22年4月から再エネ特措法を改正し、未稼働案件に対する措置を整えた」。運転開始期限を過ぎても、一定の進捗がない場合に認定IDを失効する制度だ。エネ庁はこれまでも未稼働案件の解消に尽力。16年には「原則17年3月末までに電力会社と契約できていなければ失効」とする措置や、18年には太陽光発電所を対象に「運転開始準備できていない案件は開始時期に沿ったFIT価格に変更」などの措置を取ってきた。それでも未稼働案件は減らず、今回の特措法改正の効果にも疑問は残る。

賦課金の値段を下げることができない以上、電気料金安定化のためには火力発電の燃料費を抑制することが求められる。最も有効な手段は、現在停止中の原子力発電を順次再稼働させていくことなのだが、「遅々として進まない原子力規制委員会の審査状況を見る限り、(原発稼働ゼロの)50 Hz地域を含めて原発が一定のシェアを担えるようになるのは、遠い先の話」(大手電力関係者)。結局、現状の打開策は見当たらず、政府部内には手詰まり感も漂う。

一方で先行きが明るいのは、賦課金の恩恵を受けている再エネ事業者だ。「開発規制が強化されたとしても、太陽光発電自体はそれなりに拡大するだろう。また洋上風力ではこれから建設ラッシュの時代を迎えるし、バイオマスや地熱、水力にしても、小規模分散型を含めればまだまだ捨てたものではない。賦課金の批判があってもなくても、われわれは進むだけだ」(再エネビジネス関係者)

累計15兆円の賦課金の多くが結果的に外資系の太陽光発電メーカーに流れ、山間部での乱開発を引き起こし、一部の反社会的勢力の資金源にもなっている状況は悲劇というほかない。賦課金を減らすことができないのであれば、地熱や水力など日本の国情に合い、ベースロードを担える安定的な再エネ電源に重点投資し、地域経済を循環させる使い方のほうが、はるかに国益に寄与しよう。

これからの再エネ政策のキーワードは、「地域共生型ベースロードの普及拡大」だ。

「原燃料費リスクの分担を」 経産省審議会が指針を提起


電力事業の経過措置規制料金などに導入されている原料・燃料費調整制度を巡る議論が盛り上がりを見せている。焦点は同制度の上限価格だ。需要家保護の観点から、電気で基準燃料価格の1・5倍、都市ガスで基準原料価格の1・6倍で上限を設定。超過分は料金に転嫁されず、事業者が負担する仕組みになっている。

ロシア産禁輸強化でエネ価格上昇は不可避(写真はアークティックLNG事業)

4月中旬現在、北陸、関西、中国、四国、沖縄の電力5社の平均燃料価格が上限を突破し、東北、九州の2社が上限に迫る。一方で北海道、東京、中部の3社、および都市ガス各社は上限に達するまで比較的余裕も。事業者によってバラつきがあるのは、各社が現行規制料金を策定した際の原燃料価格が基準となっているためだ。

現在の調達価格が料金に反映されるまでには、半年程度のタイムラグがあることから、上限未達組の料金は夏場に向けて値上がりを続けることになる。半面、上限突破組では事業者の負担額が増え続け、業績悪化に拍車を掛ける。

「燃料費上昇のリスクは、事業者と需要家で分担すべきだ」。4月14日に開かれた経済産業省の専門家会合が原燃料費調整制度の問題を議論した際、多くの委員からリスク分担の必要性が提起された。

「(全面自由化以前は)燃調の基準価格を荒い替えるために値下げ届け出を行い、実質的に上限を回避した例があった。だが、あえて洗い替えをしない選択をされてしまうと、新電力はもう対応できない。ある種のガイドラインで一定の縛りを設けることは合理的な対応」(松村敏弘・東京大学教授)

経産省事務局は今後、原燃料価格を巡る問題に指針策定で対応する方針。利用者にとって分かりやすい体系づくりが求められる。

停電エリアをマップ上に表示 災害時の要援護者支援を速やかに


【中部電力パワーグリッド】

 中部電力パワーグリッドは、インターネットイニシアティブ(IIJ)が提供する在宅医療介護連携プラットフォーム「IIJ電子@連絡帳サービス」と連携し、同サービス上に中部電力管内の停電エリアを重ねて表示できるようにした。

同サービスのオプション「災害時連携」システムでは、疾患がある障害者や高齢者(要援護者)の位置情報を把握できる。今回、災害時連携システムと管内の停電情報を連動させたことで、要援護者の位置情報と停電情報を地図上で重ねて表示できるようになった。

これにより、停電エリアに人工呼吸器や酸素吸入器などを必要とする要援護者がいるかを地図上で把握でき、行政や医療従事者などによる、電気が必要な要援護者への速やかな対応が可能となる。

IIJ電子@連絡帳サービスは医師、看護師、薬剤師、介護ヘルパー、ケアマネジャーなど在宅医療に関わる多様な専門職が情報共有するためのクラウド型プラットフォーム。IIJは中部電力パワーグリッドが自社ウェブサイトで公開する停電についての最新情報を数分間隔で取り込んでいくよう機能を拡張した。

災害時連携イメージ
出典:株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)

台風被害の教訓で導入 蒲郡市が使用を開始

要援護者の位置情報と停電エリア情報を重ねる機能は、全国に先駆けて愛知県蒲郡市が今年3月1日から運用を始めた。同市では、地域でのデジタル活用に積極的に取り組んでいる。

18年9月の台風24号の停電被害を受け、「蒲郡電源あんしんネットワーク」を展開。医療機器による在宅治療者を対象とした情報登録と支援体制整備を進めている。今回の機能利用もその一環だ。蒲郡市の鈴木寿明市長は「停電情報の連動が防災や見守り支援につながることを期待している」と話している。

現在、愛知県内の市町村をはじめとする全国70自治体が、電子@連絡帳サービスを導入。うち中部電力パワーグリッドエリアでは、愛知県のほかに三重県、長野県など管内の55自治体が利用し、地域の在宅医療・介護連携推進事業に活用している。

中部電力パワーグリッドとIIJは、今後、これらの自治体に対し、停電情報を加えた災害時連携システムの導入を推進していく構えだ。

新電力経営に市場高騰の試練 JEPX離れ・顧客切りが加速


市場価格高騰などを背景に新電力のJEPX離れや、大口部門での「顧客切り」が加速している。

相対的に安価になった最終保障供給の利用も急増。自由化政策の立て直しはいよいよ待ったなしだ。

 新電力経営がいよいよ苛烈な状況に陥っている。2021年1月の需給ひっ迫に伴う市場価格高騰局面で是正しきれなかった課題が、さまざまな場面で噴出している。

日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰は昨春以降いったん落ち着いたものの、世界的なエネルギー価格高騰や、市場へ供給される電力量の減少などを背景に再び上昇基調に。そこへ加えてのロシア有事でさらに価格が急騰し、スポット市場の月平均価格(全国)は、2月の1kW時20・64円から3月は同26・19円と一段と高まっている。

価格のボラティリティも拡大傾向だ。スポット市場の需給曲線を見ると、太陽光が発電する時間帯のシステムプライスは同0・01円に張り付く一方で、太陽光が発電しなくなると20~30円に跳ねる状況が散見される。

さらに4月からはインバランス料金の算定方法が変わった。従来のJEPXスポット価格ベースから、今後は実需給の電気の価値が反映されるよう、通常時は調整力の限界費用をもとにし、需給ひっ迫時は電力使用制限などを踏まえ補正して算定する。新電力にとっては需要計画を外した場合のペナルティー性が高まることになる。

21年1月の高騰局面は救済措置で乗り越えた新電力も多かったが、事業環境が改善する兆しが見えない中、倒産などが続出。帝国データバンクの3月末の発表では、21年度の新電力の倒産は過去最多の14件、31社が事業撤退などに至った。それに伴いJEPX取引会員の脱退が急増している。

「顧客切り」のツケは結局託送料金で支払う羽目に

撤退以外でも脱退急増 裏で進む新電力再編

ただし「JEPX離れ」は事業を継続する新電力でも増えており、中には販売量ランキング上位の事業者もいる。どういうことか。

エネチェンジの千島亨太・法人ビジネス事業部副事業部長は、「恐らく旧一般電気事業者系のグループに所属する新電力の場合は、親会社の発電部門から卸供給を受け、高くても定額で調達する方向にシフトしている」と分析する。親会社が需給のしわ取りも含め、新電力の供給力確保を担う。一方で親会社にとっても、新電力単体での赤字が回避しやすくなる。

他方、「JEPX離れは、大手事業者のバランシングループ(BG)に調達を集約化する動きの一環ではないか」(新電力関係者)との見方もある。ただ、千島氏は「もしBGの再編であれば相対卸の玉が減るはずだが、そうはなっていない」と指摘。いずれにせよ、新電力のさらなる再編が進みつつあることは間違いなさそうだ。

JEPXを巡っては、ゲタをはかせた限界費用ゼロのFIT(再生可能エネルギー固定価格買い取り制度)電気が、火力などと同じ市場で取引されることの弊害が以前から指摘されていた。「市場が安いから新規参入が進んだことも事実だが、他の市場では急な変動を防止するサーキットブレーカーなど、後から規制を入れるのが基本。JEPXで再エネを切り分けるなど、監督側は立て直しに動かなければならない」(千島氏)。このままではJEPXは廃れる方向に向かう可能性もある。

「ラストリゾート」へ誘導 「サイレント撤退」が加速か

さらに法人向けでは、新電力はもとより大手電力でも新規受付を停止する対応が目立ち始めた。新たな顧客を受け入れても供給力の確保が難しいためだ。

その裏で顕在化するのが、一般送配電事業者による最終保障供給の利用拡大だ。昨年来増加し、全国の販売量ランキングで40位以降に送配電事業者がランクインする事態となっている。

最終保障供給は、新たな契約先が見つからない需要家のセーフティーネットで、標準料金の1・2倍で原則1年間供給を受けることができる。しかし本来割高になるはずの最終保障供給の価格が、自由料金よりも安くなる逆転現象が発生。これは本来の趣旨にそぐわず、電力・ガス取引監視等委員会は最終保障供給料金の改定を検討している。3月末の制度設計専門会合では、最終保障供給約款に長期間とどまる場合に料金単価を段階的に上げたり、市場価格と連動したりといった可能性を示した。

しかし当面は「ラストリゾート」に頼らざるを得ない状況が続く。電取委は4月8日、供給先が見つからない需要家に対し、最終保障供給義務を案内するリリースを発表。「一般送配電事業者と契約が成立すれば、需要家の皆様への電気の安定供給は確保されますのでご安心ください」として、各送配の問い合わせ先まで掲載した。

資源エネルギー庁も、足元の課題の検討を進めるとしつつも、「送配電事業者には需要家からの申し出があれば、1年以上経過したとしても最終保障供給で対応する義務がある」(電力産業・市場室)と説明する。

ただ、一部の新電力では「大口需要家を最終保障供給に誘導する『サイレント撤退』を進めている」(千島氏)という動きも。契約解除を3カ月前に通告しなかったり、代替案を紹介せずすぐ最終保障供給を案内したりと、悪質なケースもあるようだ。軽負荷期の春になっても市場価格が下がらず、ロシア有事の長期化が予想され始めたころから徐々に増えだした。次に需給ひっ迫で市場価格が跳ねる可能性がある夏の赤字回避に向け、事態の加速が懸念される。

エネチェンジは、需要家に対し最終保障供給のデメリットに注意し安易に選択しないよう注意喚起する。千島氏は、「最終保障約款への規制が今後入ることも想定される。新電力メニューの人はこれから一層急激な値上げの可能性にさらされることになる」と強調した。最終保障供給に関するコストも結局託送料金で回収されるため、他の需要家も負担を背負う羽目になる。

電力システム改革の目的には「安定供給の確保」や「需要家の選択肢の拡大」があったはずだ。新電力保護重視の段階から卒業し、安定供給マインドを持った小売り事業者が選別されるよう、制度の立て直しを急ぐべきだ。

原発再稼働へ潮目変わる CE戦略会合で意見相次ぐ


 それは、明らかに潮目の変化を象徴する審議会だった。

4月15日に開かれた経済産業省のクリーンエネルギー(CE)戦略合同会合。事務局は配布資料の中で「ウクライナ危機・電力の需給ひっ迫を踏まえた、政策の方向性の再確認」と題するメモを提示。その最後に、岸田文雄首相が4月8日の会見で「再エネ、原子力などエネルギー安保および脱炭素の効果の高い電源の最大限の活用」に言及した部分を引用しながら、「エネルギー安定供給確保に万全を期し、その上で脱炭素の取り組みを加速」と提起した。

エネルギー分野でのロシア依存低減を求めた岸田文雄首相(4月8日)

これに対し、委員やオブザーバーから原発の再稼働などを求める意見が相次いで表明されたのだ。

「自給率を上げるためには、安全性を確保しながら原発をできるだけ早く再稼働させていく。エネルギー資源を海外に依存していくことが本当にいいのか」(伊藤麻美・日本電鍍工業代表取締役)

「原子力の再稼働の必要性や安全性について、国が前面に立って国民にしっかりと説明していく必要がある」(大下英和・日本商工会議所産業政策第二部部長)

「原子力の再稼働を急ぎながら、長期的には新増設・リプレースの議論をしっかりと行っていく」(秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構主席研究員)

「原子力は避けて通れない議論。社会的情勢も含めて、今やらないのであれば、二度とやらないという決断になるのではないか」(白坂成功・慶応大学大学院教授)

G7が再稼働要請の可能性 「最大限活用」へ政策転換

注目は、河野康子・日本消費者協会理事の発言だ。「原子力を選択肢として射程に入れるとしたとき、国民が抱いている危惧に対し、正面から向き合うところから始めないとうまくいかない。テクノロジーアセスメントの考え方でしっかりと進めてもらいたい」と、慎重な姿勢ながらも、原子力推進への理解を示したのだ。

これを受け、長谷川雅巳・経団連環境エネルギー本部長は「河野委員が言われたように、国民の理解が極めて重要。政府は前面に立って国民の理解醸成を図りながら再稼働、新増設、リプレースを進めていただきたい」と要望した

CE戦略を巡っては、当初から原子力議論の重要性が指摘されながら、今夏に参院選を控えるという政治的な事情も絡み、主要な論点に浮上してこなかった経緯がある。それが、ロシア産資源の禁輸強化や国内初の電力需給ひっ迫警報発令、エネルギー価格上昇などを契機に、安定供給の確保、価格高騰の抑制、脱炭素化の3条件を満たす主力電源として原子力が一躍脚光を浴び始めた。

自民党・電力安定供給推進議員連盟、日本維新の会、国民民主党などから原発再稼働の推進を求める声が高まる中、ついには英経済紙も欧州の脱ロシア産ガスの観点から、日本の原発再稼働の必要性を指摘した。「もしG7(先進7カ国)が同様の決議をすれば、強烈な追い風になる」(政府関係者)

「可能な限り低減」から「最大限活用へ」。日本のエネルギー政策は3・11以来の転機を迎えた。

【マーケット情報/4月29日】原油上昇、需給逼迫感が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需給逼迫の見通しが強まり、買いが優勢となった。

ドイツは26日、ロシア産原油への依存率を、ウクライナ侵攻前の35%から、12%まで低減させたと表明。完全な禁輸措置に向けて、ロシアからの調達削減を進めている。スイスを拠点とするエネルギー商社トラフィグラは、ロシア国営石油ロスネフチからの原油調達を、5月15日までに停止すると発表。また、欧州石油メジャーBPとシェルは、ロシア産原油を原料としたジェット燃料を、購入の際の条件から除外した。

こうした欧州諸国の動きを受け、ロシアはアジア太平洋地域、特にインドと中国へ向けた供給を増加させている。ただ、同国の4月1~29日における原油およびコンデンセートの生産は、3月と比べて減少している。

ロシアからの供給減少に加え、需要回復の見込みも需給を引き締めた。インドの国営製油所は4月中、最大出力で稼働。新型ウイルス感染拡大防止のための移動規制が緩和されたことが背景にある。また、欧州の製油所も、軽油の精製マージンが過去最高となったことを受け、稼働率を引き上げている。

一方、中国では、上海や北京など一部地域でロックダウンが続く。経済活動の冷え込で、石油需要が一段と後退するとの予測が広がり、価格の上昇を幾分か抑制した。

【4月29日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=104.69ドル(前週比2.62ドル高)、ブレント先物(ICE)=109.34ドル(前週比2.69ドル高)、オマーン先物(DME)=103.08ドル(前週比1.89ドル安)、ドバイ現物(Argus)=105.96ドル(前週比0.83ドル高)

日本パラ水泳界のエース 金メダル糧に開く未来


【東京ガス】木村 敬一

 日本大学在学中の2012年、ロンドンパラリンピックで銀と銅の二つのメダルを獲得。大会終了後、日本パラスポーツ協会会長を務めた鳥原光憲・東京ガス元会長から「次の大会で金メダルを目指すなら、一緒に頑張ってみないか」と声を掛けられた。金メダルを取る目標だけでなく、将来設計にも大きな可能性を感じ、13年4月、日大大学院進学とともに東京ガスに入社した。

東京大会では金メダルに輝いた

「入社時は人事部で、社内のスポーツ部をサポートする業務に就いた。国内大会では社内の人にたくさんの声援を送っていただいた」と当時を振り返る。15年3月まで大学院生、水泳選手、東京ガス勤務の3足のわらじを続けた。「これ以上ないくらい頑張った」と16年のリオ大会に臨んだ。結果は日本人最多となる銀二つ、銅二つのメダル。悲願の金には届かなかった。「何かを変えなければ水泳を続けられない」―。リオ大会で金メダルを獲得した選手のコーチに指導を受けるため、18年から単身アメリカへ練習拠点を移した。東京ガスは生活費、栄養費、通信費など生活回りをバックアップ。異国の地でも多くのサポートを受け、記録も伸びた。

コロナ禍の東京2020大会、100mバタフライでライバル・富田宇宙選手との激しいトップ争いの末、金メダルに輝いた。入社から8年越しの悲願に「金を取るまでは終われない、何もしてはいけないと取りつかれた感じだった。うれしさよりほっとした気持ち」と吐露する。金メダルの呪縛から解放された現在は「サステナビリティ推進部」に所属。東京ガスの、共生社会実現を目指すミッションに賛同し、イベントや講演会に出席するなど、大忙しの毎日を過ごしている。

今後は東京ガス内の部署と情報交換を行い、「視覚障害を抱える自分ならではの視点から、東京ガスで何ができるか」と新たな取り組みを模索している。選手としては、3月5日の選考会で派遣標準記録を突破、ポルトガルで開催される世界選手権の出場を決めた。24年パリ大会での2大会連続金メダルを期待する人も多いが、今の目標は「目の前の課題をクリアし、金メダリストにふさわしい人間になる」ことだという。

「東京ガスという生活に密着した会社で、生活の力になれる仕事がしたい」。支えてもらった恩を返し、今度は自分が人を支える番だと、日本パラ水泳界のエースは日々の仕事に全力で挑んでいる。

きむら・けいいち
1990年滋賀県出身。2歳の時に視力を失う。小学4年生から水泳を始め、ロンドンパラリンピックで銀・銅二つ、リオ大会で銀・銅四つのメダルを獲得。東京大会100mバタフライで悲願の金メダルに輝く。

次代を創る学識者/馬奈木俊介・九州大学教授


「社会に貢献したい」と研究者の道を歩んできた馬奈木俊介・九州大学教授。

数値モデルを活用し、政策・経営の科学的判断を後押ししていく。

 豊かで持続可能な経済・社会を評価するSDGs(持続可能な開発目標)の成果指標「新国富指標」研究の世界的な第一人者。現在、政府の「『クリーンエネルギー戦略』に関する有識者懇談会」、環境省の「炭素中立型経済社会変革小委員会」、経済産業省の「グリーントランスフォーメーション推進小委員会」に名を連ねる唯一の学識者委員として、岸田政権肝いりの「クリーンエネルギー戦略」の具体化に深く関わっている。

学生時代から「社会に貢献する専門家になりたい」という思いが強く、選んだのが研究者の道だった。大学の飛び級制度を利用して九州大学大学院工学研究科に進み、修了後は、米国ロードアイランド大学大学院で経済学を専攻。都市工学・交通工学に加え、環境経済学の専門性を培った。

「政治家、企業経営者が科学的な根拠に基づいた判断をするための情報を提供する立場として、経済と技術双方に精通し政策や経営戦略を俯瞰して見ることができる『専門家』であるべきだと考えた」のが、その理由だ。

もう一つ、研究者を志す上でのこだわりは、「日本でも海外でも通用する人になりたい」ということだった。エネルギーや気候変動の分野で、英語の学術論文を積極的に執筆してきたのはそのため。分析データや数値モデルが米エネルギー情報局(EIA)の政策資料として活用されるなど、着実に成果を上げた。

企業のSX転換後押しへ SDGs支援会社取締役に

研究活動の先に見据えているのは、SDGsの社会実装の実現だ。昨年4月、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が設立した「サステナブルスケール」の取締役に就任。企業のSDGsの取り組みを適切に評価し、持続可能性を重視した経営への転換、いわゆる「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を促す取り組みを共に進めている。 「SDGs経営の実現に向け、企業にとってさまざまな社会課題の解決に取り組むことが非常に重要であることを金融機関が認識し、行動に移したことは大きな変化」と、これまでの活動に手応えを感じている。

脱炭素化をはじめ多くの問題に直面するエネルギー政策については、「カーボンニュートラル社会を実現するには、多くの技術的な課題がある。目標とする未来像からバックキャスティングしてその実現に必要な技術開発に注力し、解決できずに諦めなければならないことを減らしていくべきだ」と主張する。

持続的に研究活動を進めるには、科学的なエビデンスに裏付けられた論理展開が欠かせない。そのためには、学術論文の執筆が何よりも大きな意味を持つ。自身の今後の活動について、「海外とのつながりを大事にしつつ国内向けにも積極的に発信していきたい」と語り、学術雑誌のみならず、都市研究センターとしての情報発信にも力を入れていく考えだ。

まなぎ・しゅんすけ
1975年福岡県生まれ。1999年九州大学大学院工学研究科修士卒、米国ロードアイランド大学大学院博士卒(経済学専攻)。国連「新国富報告書2018」代表、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」代表執筆者などを歴任。環境経済学、都市工学・交通工学。

【新電力】資源価格の高騰 原発稼働中審査を


【業界スクランブル/新電力】

ロシアのウクライナ侵攻により、西側諸国ではロシア産の天然ガス・原油の禁輸に向けた動きが活発化しており、特に米国・英国はロシアに対して厳しい態度で臨んでいる。英国はロシアを出港した船舶の入港を禁止する厳しい措置を取っている。本政策は突如として発表・施行されたため、2隻のLNG船がフランスなどへ転売された。

これらの動きにより、欧州の天然ガス価格スポットが高騰し、JKMも急騰した。また、石炭を購入する動きが世界的に拡大し、石炭価格も過去最高水準が続いている。

当然、これら資源価格の高騰の日本への影響も大きい。複数の大手発電事業者でLNG調達のスポット比率が高水準であるとみられ、日本卸電力取引所(JPEX)スポット価格も連日高値が続いている。また、当然ながら資源価格の高騰は燃料調整費に反映されることから、経済・産業への影響が懸念される。

ここで大変気になるのは原子力発電所再稼働の動向だ。電気料金低減には原発再稼働が必要不可欠だ。しかしながら、特重施設設置期限に間に合わない電源の稼働を認めず、稼働中審査を頑なに認めない原子力規制委員会によって、稼働台数は低水準で推移している。規制委にガバナンスが働いているのか大変疑問を感じる。規制委では機密文書紛失、原発検査官の検査官証紛失など、不祥事が続いているが、原子力事業者に対しては厳しい対応姿勢を見せ続け、合理的ではない運用を行っている。 それら規制委の課題を放置した結果、損害を被るのはわれわれ新電力であり、最終的には需要家である。当事者の原子力事業者には規制委の課題は主張できない。新電力こそ、規制委に対して原発の稼働中審査を求めていくべきではないか。(M)

【メディア放談】ウクライナ侵攻とエネルギー どこにいった! 気候変動問題


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

ロシア軍のウクライナ侵攻はエネルギー安定供給の重要性を再認識させた。

エネルギー環境政策での中心議題だった気候変動問題は、すっかり影をひそめてしまった。

 ――ロシア軍のウクライナ侵攻で、悲惨な状況の映像が連日、テレビで流れている。一方、欧米と足並みをそろえて日本も経済制裁を行ったことで、国内のエネルギー市場に大きな影響が出そうだ。

電力 電力・石油・ガスの値段が上がることは避けられない。政府はさまざまな対策を考えるだろうけれど、国際市場で高騰することには打つ手がない。新聞の首相の動向欄を見ると、毎日のように資源エネルギー庁幹部が官邸を訪れている。7月の参院選に向けて、エネルギー価格を抑えることが大きな政治課題になっている。

――新聞もエネルギーを巡る問題を大きく取り上げている。

ガス 各紙取り上げているけれど、誰のコメントを載せるか、それと、自社の編集・論説委員がどこまで踏み込んだ記事を書けるかで、差が出始めている。やはり、ダントツは日経。「ウクライナ危機を聞く」のコーナーで、『石油の世紀』で有名な石油アナリストのダニエル・ヤーギンのインタビューを掲載していた。

――ヤーギンは石油アナリストでは大御所的な存在。「米シェール産業は重要な意味を持つ」など、コメントにも説得力があった。

ガス 自社の記事にしても、ヤーギンに話を聞いた米国ヒューストン駐在の花房良祐さんをはじめ、記者はよく取材している。編集・論説クラスでも松尾博文さん、西條都夫さんらが中身の濃い論説を書いている。改めてエネルギーについて日経の執筆者の層の厚さを認識した。一時、再生可能エネルギー推進に大きく偏重して、違和感を覚えていたけれど、ようやく元に戻ったなと思った。

――他の新聞はどうかな。

石油 よく分からないのが朝日。紙面では、被災した市民の写真を載せて、ウクライナの惨状について紙面を割いている。けれどウェブ版では、この戦争を分析して、海外の識者のコメントを載せたり、かなり突っ込んだ記事を載せたりしている。なぜ、これを本紙に載せないのか不思議だ。

マスコミ 読者が求めていることを考えているんだろう。朝日の読者層からすると、ウクライナ侵攻はまず人道上の問題になる

石油 ただ、本紙ではないけど、朝日新聞出版の『AERA』が、ロシアの肩を持つような記事を載せたことには驚いた。

 旧ソ連圏に詳しい教授と国際紛争が専門の教授二人が対談をして、「気になるのは、私たちは西側視点のニュースだけで『悪いロシア』のイメージを作っていること」「『悪玉プーチン』だけに偏ると見えてこないことがある」と、右翼が聞いたら激怒しそうなことを語っていた。

マスコミ 何を考えているのかな、この新聞社は。

サハリンから購入継続⁉ 広ガスに消費者が反発も

――サハリン1、サハリン2からシェルやエクソンが撤退した。欧米から圧力がかかった場合、日本の対応も問われそうだ。

ガス サハリン1・2から日本が撤退することは、まずないと思う。ただ、今回の戦争で痛感したのは、ロシアと取引をしながら消費者を相手にしている企業が、非常に難しい立場に立たされること。例えばユニクロは、侵攻後、いったんロシアでの商売継続を決めながら、批判が殺到して方針を転換した。

 エネルギー企業は、ロシア産の石油や天然ガスを購入している。中でも広島ガスは、買っているLNGの約半分がサハリン2のものだ。サハリンから日本への供給は継続されるだろうが、広ガスは消費者から反発を受けるかもしれない。経済産業省に、そういう指摘をする人がいる。

マスコミ 商社関係者が「サハリンから撤退しても、中国を利するだけ」と政治家や役人に吹き込んでいるらしい。ロシア産石油・ガスは日本に欠かせないけど、ウクライナ情勢の行方によっては、撤退もあり得るんじゃないか。

――エネルギー政策の基本はS(安全)+3E(安定供給、経済性、環境性)とされている。今までは環境性、地球温暖化問題が議論の中心だったけれど、この戦争で安定供給がかつてないほどクローズアップされることになった。

石油 「ウクライナの次は台湾」という人たちがいる。経済性も環境性も、安定供給がまず維持されてからの話だ。ウクライナの人たちには申し訳ないが、今回、それを日本人が理解し始めたことはよかったと思う。

ガス だけど、温暖化問題がなくなったわけではない。この戦争で最も影響を受けたのは、ロシアから天然ガスを買っていたEU諸国だ。中でもドイツは、今年中に原発を全廃すると言っている。温暖化対策をリードしてきた西欧の国が、2030年に向けてどうエネルギーミックスを考え直すのか注目している。

原発の再評価はいつに 参院選まで音無しか

――電力業界としては、この機会に原子力の役割が再認識されることを期待していると思う。

電力 産経論説委員の井伊重之さんがコラムで「原発の緊急稼働を検討せよ」と書いてくれた。全くその通りだと思っている。だけど、まだ業界としてそれを言い出せる状況にない。

ガス エネルギー基本計画策定のときに、原発の役割拡大で盛んに活動していた自民党の議員が今回はおとなしい。自民党にとって最大の課題は7月の参議院選。これに勝てば、次の衆議院選まで「黄金の3年」がくる。だから7月までは、音無しの構えを決め込んでいる。だけど選挙が終われば、再稼働や運転期間延長に向けて一気に動き出すだろう。

――「動かざること山のごとし、はやきこと風のごとし」。武田信玄の戦術みたいだな。

【電力】まず「脱ロシア」 その後の「脱炭素」


【業界スクランブル/電力】

 突然のウクライナ侵攻開始から1週間余り後の3月4日、岸田文雄首相、山口那津男公明党代表と会談した玉木雄一郎国民民主党代表は、ガソリン価格抑制のためのいわゆるトリガー条項発動に加え、原発の再稼働を含めたエネルギー政策の検討を求めたと報じられた。

自民党の高市早苗政調会長はこれについて、「安全が確認された原発を再稼働するのは従来からの方針だ」とテレビ番組でコメントしていたが、それにとどまらず、稼働できる原発は稼働させ、新たな安全基準への対応は稼働と並行して進めればよしとする方向転換をすべき地合いに来ていると感じる。

今後ロシアのウクライナ侵攻がどのような経過をたどるにせよ、痛みを甘受してでも、脱ロシアを進めることを国際社会は求められよう。一方的な侵略を許してしまう選択肢は国際秩序維持の観点からあり得ない。世界の脱炭素化をリードしてきた欧州も優先順位が変わっている。

脱ロシアの痛みは化石燃料の国際的な高騰と供給制約の形で、少なくとも数年継続するであろう。その後には、脱炭素の痛みが控えている。言うまでもなく、原子力再稼働と再エネの推進はどちらの「脱」にも有効だが、道はますます狭くなっている。

しかるに日本では、この10年ほどのエネルギー政策の迷走で、再稼働は遅々として進まず、賦課金の負担が年間3兆円を超えても再エネのFIT卒業も見えない。このような中で原子力か再エネかのイデオロギー的二項対立は不毛だ。どちらも本腰を入れて取りに行く必要がある。

昔から続いている深夜のテレビ討論番組が先日脱炭素化をテーマに取り上げた。司会者がまさにこの二項対立に頭が凝り固まっていて痛かった。名物司会者と言われた人だが、もう潮時だろうと思った。(U)