【住宅】電力価格の高騰 家庭でできる対策


【業界スクランブル/住宅】

2021年初頭からガソリン価格高騰の話題がニュースになり、直近、電気料金も水面下での値上がりが顕著である。料金単価の改定ではなく、燃料調整費の変動なので水面下とした。燃料調整費が低かった21年1月と最新の22年の2月を比較すると下記の通り。原発の稼働していない東京電力、稼動している九州電力の代表2拠点を抽出した(低圧用の単価)。

東京電力は21年1月が1kW時当たりマイナス5.20円、22年2月が同0.74円で、値上げ幅は5.94円だった。九州電力は21年1月がマイナス1.87円、22年2月が0.89円で、値上げ幅は2.76円だった。

化石燃料が安価で調達できた昨冬から一気に価格が上昇したことになる。東京電力の場合、オール電化住宅用の深夜単価(最安)が17.78円の場合は昨冬よりも33%値上げに相当し、一般的な電力単価を27円としても22%値上げに相当する過去にない規模となっている。

当面の住宅用の対策であるが、燃料調整費の高騰は時間帯にかかわらず一律アップとなるため電力使用の時間シフトには効果がないので、省エネ生活を実践するしか対策は無いように思う。太陽光発電を搭載している住宅であれば、昼間に電気を使ってできることは全てやるという裏技は効果がありそうだ。

問題はこの値上がり傾向がいつまで続くのかということだ。50年カーボンニュートラルに向けてエネルギーの需給バランスが崩れるという構造変化が根本的な背景にあるので、燃料調整費が下がる要因は考えにくい。むしろ、世界的にカーボンニュートラルに向けた大きなゲームチェンジが昨年後半から始まり、元の状態に戻ることは無いと捉えるべきではないか。

住宅分野ではZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の推進が積極的に行われているが、それに加えて太陽光発電の余剰電力をできるだけ自家消費し、夜ピーク時の購入電力を減らすという対応がユーザーにとっても、社会にとっても有意義な根本的対策になるであろう。(Z)

【太陽光】新ガイドライン 普及促進に期待


【業界スクランブル/太陽光】

「カーボンニュートラル」が未来への方向性になっている。第六次エネルギー基本計画においては「再生可能エネルギーの主力電源化の徹底」で「国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す」との方針があり、2022年の岸田文雄首相の年頭の記者会見でも気候変動問題への対応の一つとして再エネの言及があった。その方策の重要なものの一つであろう太陽光発電のさらなる導入拡大が不可欠である。

その太陽光発電は、近年の建設に適した場所の減少などにより、傾斜地や農地、水上に設置されるケースが増えている。しかし、これらの設置環境では一般的な地上設置型に比べ、設計や施工上の難易度が高い。また、地方自治体の条例などで太陽光発電施設への要求事項として安全対策が求められている。しかし、現実にはこれらの設備の設計・施工に関する知見が極めて少なく、その知見も集約されているとは言い難い。

これらの課題を乗り越える方策の一つとして、NEDOが太陽光発電の安全性確保のため、19年に地上設置型のガイドラインを作成した。21年にはこれまでに得られた知見などをまとめ、傾斜地設置型、営農型、水上設置型の特有な構造や電気の設計と施工を含んだ三つのガイドラインが作成・公開された。

これらのガイドラインは経済産業省の産業保安・電力の安全を図るための「発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令」の逐条解説に設計・施工の内容を具体的に示した技術資料として規定され、解釈第2条~第7条には「要求性能に適合する設計を行う際や第10条に資料調査及び地盤調査等には、これらのガイドラインが参考になる」と述べられている。

太陽光発電システムの導入時に適切に基本設計することは、施工時や運用面での健全性につながる。新しい設置環境の太陽光発電の普及にはいまだ課題があり、より適用性を向上させるため、実証実験の結果などを反映し、ガイドラインが改定される予定である。安全・安心にシステムを設計・施工するためのガイドラインが普及の一助となることを期待する。(T)

【メディア放談】年末年始のエネルギーニュース 業界を騒がせた記事の裏事情


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ/4名

年末から年始にかけて、「LP無償配管」などの記事が業界を騒がせた。

だが、記事の裏側を探ると、新聞各紙の思惑が透けて見えてくる。

 ――年末年始、各紙にエネルギー関連の特集やニュースが出た。注目した記事は。

石油 12月30日付の朝日1面トップに、LPガスの料金問題がでかでかと掲載された。しかも3面にも関連記事というおまけ付きだ。記事を書いた記者は、前からSNSでこの問題を取り上げていた。だから嫌な予感はあった。だけど、まさか全国版の1面トップに載せるとは思っていなかった。

――業界関係者の反応はどうかな。

石油 もちろん衝撃は大きかった。だけど、大騒ぎにしたくないので、皆、これ以上突っ込まれないように取材にはノーコメントを貫いていた。

ガス 内容自体はおかしな部分はない。だけど、なにも目新しいものではない。なぜ朝日がこのタイミングで、あの扱いで載せたのかよく分からない。

LP配菅問題記事の謎 洋上風力の話題で持ち切り

――小誌編集部でもあの記事が話題になった。

石油 新聞社の仕事納めは29日で、その翌日の紙面は穴が開きがちだからといった理由だろう。それと気になったのは、記事のトーンが資源エネルギー庁石油流通課の言い分と似ていたこと。記事に石通課のコメントはないが、業界紙の新年号に企画官のインタビューが載っていて、「自助努力が足りない」と業界の体質を批判している。

ガス スクープではないが、年末に発表された洋上風力公募の結果、三菱商事グループが3地点総取りしたことも、年が明けても業界内で大きな話題になっている。破格の発電単価設定を巡って実現可能性を疑う声もあるけど、風力事業に詳しい人ほど「商事にしてやられた」といった反応だ。

マスコミ なぜこんなダンピングみたいな価格にできたのか、疑問は残る。年明けから単価設定の裏に迫ったダイヤモンドオンラインの記事などが出ているが、どこまで真相が明らかになるかな。

 それと、EUタクソノミー。原子力と天然ガスが「グリーン」と認定されそうだ。ヨーロッパの動向は、日本の原子力政策にも影響すると思うよ。

石油 確かにそういう話題はあった。でも、去年の新年号では水素をはじめ脱炭素技術が結構大きく取り上げられたけど、今回のエネルギーの扱いは地味だった。ガス価格急騰などのニュースもあったが、1月2日から稼働している外信の方に圧倒的に軍配が上がった。日本のエネルギー報道はこれでいいのかと、年明けから物悲しい気持ちになった。

――ほかにも、読売の米テラパワー社の高速炉計画への日本の参画、日経の次世代送電網に2兆円投資構想の記事があった。

電力 高速炉計画の話は、読売の記者が米国でテラパワーの関係者に聞いたらしい。米国の原子力発電の歴史は、軽水炉ではなく高速実験炉から始まったが、その後長らく動きはなかった。しかしビル・ゲイツ氏のテラパワーで再び盛り上がり始めている。

 「もんじゅ」の廃炉が決まってから、日本が手を組んだフランスのASTRID計画も破綻した。その中で、高速炉計画でようやくこういうニュースが出たこと自体は歓迎したい。だが、日本が本格的に参加できるかは別問題。政府と電力のにらめっこや、メーカー間の縄張り争いに陥らず、業界一丸で取り組むことが必要だろう。

マスコミ 日経の送電網の記事は、読売に高速炉の記事が出て、抜かれたデスクが怒って記者に「何とかしろ」とはっぱをかけたものらしい。ただ、この記事の弱点は、2兆円を誰が出すのか書いていないこと。この投資規模とエリアで実行する可能性がある電力会社は見当たらず、NTTかENEOSくらいしかしない。

――月刊「S」の「日本原燃社長の引責辞任が不可避」という記事も波紋を広げている。

電力 六ヶ所再処理工場の2022年度上期の竣工が困難なことを理由にしていたが、福島第二原発を守った増田尚宏社長のほかに建設をきちんと進められる人は見つからない。もし仮に辞めたとしても、技術顧問として残るだろう。S誌が後任候補として名前を出していた人たちにも、首をかしげる関係者が多いよ。

マスコミ 青森県では、むしろ政治の動きに注意が必要。7月の参院選候補者には三村申吾・青森県知事の名前が出ているが、そうなると知事選になる。核燃サイクル政策にどう影響するか気になっている。

参院選までは「安全運転」 既設原子炉活用は封印

――クリーンエネルギー(CE)戦略が参院選前の6月に策定される予定だ。当初期待された既設原子炉の活用は大きく打ち出されない雰囲気が漂い始めている。

電力 岸田文雄首相の側近は、参院選までの政権運営は安全運転で行くと明言している。原子力について、CE戦略でエネルギー基本計画以上のことを書き込める地合いではない。

ガス 岸田首相は、コロナ、分配、そして温暖化の三つを挙げるようになってきて、徐々にCE戦略が「新しい資本主義」のセンターラインに乗りつつある。岸田氏自らCE戦略の会議に出ると口にするほどだ。それで経済産業省内はバタついている。

 もともと経産省は、新しい資本主義はCE戦略とは別物と考えていた。ところが、首相側は違った。確かに、分配重視で会社に賃上げを求めても、企業は簡単には応じない。ところが例えば「秋田沖に大型風力建設」となると、ある程度、経済波及効果が期待できる。

――昔は不況になると、電力会社の設備投資の景気刺激効果が期待されたけど、今も構図は変わらないのかな。

【再エネ】CE戦略で深堀を 施策の具体化


【業界スクランブル/再エネ】

 岸田政権は、脱炭素の実現に向けた「トランジション」という文脈でクリーンエネルギー戦略の策定を打ち出した。エネルギー基本計画やグリーン成長戦略の実現、温暖化削減目標達成へのオプションの拡充、また内外において浮き彫りとなった安定的なエネルギーの供給・確保といった課題に対処する観点から、実行的なロードマップを示すことは極めて重要である。

再エネに関しては、2030年36~38%、50年5~6割の導入実現に向けて、需要と供給の双方における環境作りが図られる見通しだ。供給側においては、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)による洋上風力の案件形成・開発支援など、電源ごとに丁寧な手当てを進める見通しだ。また需要側に関しては、省エネ法の見直しにより、幅広い需要家に対する再エネ導入の環境整備を強力に進める方針である。さらに、再エネ導入における自治体の主体的関与を促すべく、改正温対法によるゾーニング制度の準備も進む。

目標期限が迫る中、施策実行のカギを握るのは国と立地地域によるスピード感を持った対応である。例えば洋上風力では、立地地域との初期的な調整が極めて重要であり、入り口の対応を円滑に進められなければ、成果は思うように上がらないだろう。また改正温対法のゾーニング制度を巡る議論では、再エネのネガティブな側面を取り上げる議論が目立った。事業者団体からは「エネルギーミックスと整合したポジティブゾーニング」となるよう念を押す声も上がっており、こちらも国と自治体との間で目標達成の責任を明らかにして取り組まないと、かえって再エネの導入を阻害する結果となりかねない。

翻って、こうした施策を具体化するための議論の場が、揺り戻し的な論点への拘泥や、目標水準などの「そもそも論」への回帰により、施策の実行を遅らせる要因となっては本末転倒である。クリーンエネルギー戦略の策定にあたっては、施策の実行や目標達成をスピードアップするという観点から、上記のような課題にも目配せし、議論を深めてもらいたい。(C)

EV新時代の到来間近 この波に乗るための車探し


【リレーコラム】水町 豊/九電みらいエナジー社長

 カーボンニュートラルへ向けたさまざまな取り組みの中で、電気自動車(EV)普及の現実味が増してきた。筆者もエネルギー業界に身を置く一人として、地球温暖化防止に貢献しようと、真剣にEV購入を考え始めた。車両価格と補助金、航続距離と充電インフラ、維持費など多くの検討要素があり、いざ購入となると悩む点も多い。

例えば、月間走行距離が1000kmで、電費をkW時当たり5kmとすれば、200kW時の電力量が必要となる。充電に必要な電気料金は3100円程度で、現在所有するエンジン車と比較して約3分の1の費用で済む。これは筆者宅がオール電化向け電力契約のため、深夜帯に安価な電力を利用できるからだ。EVとオール電化の相性は抜群である。

しかし、EVで最も気になるのは、やはり航続距離だ。遠出を考えると急速充電は欠かせない。政府目標は急速充電拠点数を2030年までに3万基としているが、現状は約8

000基。給油所並みの約2万9000カ所まで普及すれば、電欠の不安は解消できる。しかし、もうしばらくは、道中の充電場所をあらかじめ決めるなど、多少の窮屈さがあるだろう。

また、地球温暖化防止という大義を掲げるのであれば、EV充電は、再エネ由来の電力で賄うことが理想だ。筆者の電力契約は、月額500円の特約で「まるごと再エネプラン」という再エネ由来の電力供給を受けることができる。これにより自宅で充電したEVは、走行中にCO2を排出しないことになる。

EV購入の決め手は何か

さて、自動車メーカー各社は、こぞってEV戦略を公表し、今後市販される車種は大幅に増加する。バッテリーの低コスト化と性能向上により、車両価格は低下し、航続距離は実用域に達するだろう。筆者は、これまで数種類のEVに試乗してきた。車重の増加が気になっていたが、重心が下がり、モーターのトルク特性と相まって、車が軽やかに動く。非常に滑らかで、低速から力強く静かな走りは、エンジン車とは明らかに異なる。結局、EV購入の決め手は、「この走りが、車としてエンジン車を超える魅力になるか」ということではないか(自問自答)。これがあれば、少々の不便は許容できる。

筆者は、エンジンの音と振動、そして回転数の上昇とともに盛り上がる高揚感が好きだ。しかし、時代とともに車の魅力は変わるのかもしれない。「乗りたい」と思うEVに出会えるまで、もう少し車探しを続けたい。この時間がまた楽しい。

みずまち・ゆたか 1989年九州大学大学院動力機械工学専攻修了、九州電力入社。火力発電本部や経営企画本部にて経営計画や長期エネルギー戦略の策定、域外電源開発などを担当。2020年6月から現職。趣味はツーリング、写真、登山。

※次回は太平洋セメント環境事業部長の深見慎二さんです。

【佐々木紀 自民党 衆議院議員】「原子力を当たり前の電源に」


ささき・はじめ 1998年東北大学法学部卒。企業経営者を経て2012年衆院当選(石川2区)。党経済産業部会副部会長、青年局長、国土交通大臣政務官などを歴任。党原子力規制に関する特別委員会事務局長。当選4回。

中小企業の経営者から、青年会議所の活動など経て代議士に転じた異色の経歴を持つ。

国政に当たっても、民間企業で苦労した経験を忘れずに政策に取り組む。

 バレーボールに打ち込んだ中学から大学の学生時代、将来、政治家になる考えはなかった。3人兄弟の長男として、父親が石川県小松市で経営するビルメンテナンスの会社を継ぐことになる――。漠然とそう思っていた。大学を卒業したのは、バブル崩壊後の就職氷河期。故郷に戻り父親にビルメンテナンス会社への入社を相談すると、「よその土地で事業を始めてみろ」と突き放される。もともと企業への就職は関心がなく、自分でも独創的な仕事をしたいという思いを持っていた。大学生時代から住み慣れた仙台市。この街で、父親からのれんを分けてもらう形で、ビルメンテナンスとイベントの仕事を始めた。

「何でもいいから仕事を取ってくる」。こう意気込んだが、なかなかお得意は見つからない。ようやく得た仕事では、取引先の企業が破産。残ったのは数百万円の売掛債権。実社会の厳しさを思い知らされる。だが、捨てる神あれば拾う神あり。友人と共に輸入ビジネスの会社を起業し社長に就く。メキシコから健康食品や雑貨などを仕入れると、これらがよく売れた。2011年9月の米国同時多発テロ後の円高も追い風になり、予想以上の利益を手に。仙台市で5年間事業を続け、結婚を機に小松市にUターン。父親のビルメンテナンス会社を手伝いながら、輸入ビジネスも続けた。また地元の若手企業人として、日本青年会議所(JC)や商工会議所青年部、ロータリークラブに所属。自民党石川県連の「石川政経塾」にも参加し、地元の将来について、同世代の仲間たちと話し合う時間も増えていった。

11年3月、東日本大震災が発災。まず思い浮かんだのは、10年間過ごした仙台市でお世話になった、東北の人たちの顔だった。石川県では、岩手県山田町に社会福祉協議会の職員を派遣していた。その縁で、JCとしてほぼ毎週、炊き出しなどのボランティアを山田町で行った。被災した人たちと接する中で痛感したのは、個人の努力や選択を超えたところで、人は逆境に陥ってしまうことがあること。山田町の人たちの姿は、ちょうど、勉強に励みながら就職難で将来に不安を抱えていた大学時代の自分たちに重なった。災害や社会の不条理で人生が左右されてしまった人たちに手を差し伸べたい―。政治家を志す気持ちを持ち始めた。

12年7月、衆院議員を14期務めた森喜朗元首相が引退を表明する。「だれか、後継候補に応募するものはいないか」。最終的に石川政経塾のメンバーに声が掛かった。公募に応募し面接を受け、最後は党員投票で衆院選候補者に選ばれる。12年12月の総選挙で、次点の候補者の約4倍の票を得て当選した。

永田町で感じた歯がゆさ 少人数の会合を繰り返し開催

民間企業出身の国会議員として永田町・霞が関を見ると、歯がゆさを感じることが多い。政治の分かりにくさ、不透明な意思決定のプロセス、スピード感のなさ――。「政治を分かりやすくして、政治家が国民にとって身近な存在にならなければいけない」。こう考え、地元では20~30人が集まる会合を繰り返す。有権者が抱えている問題は千差万別。一人ひとりの質問や疑問に答えようと、興味のあるなしにかかわらず、党政務調査会の部会にはまんべんなく出席するように努めた。

エネルギー政策については、「カーボンニュートラルで2~3年前と議論の前提が変わった」と考える。これまでは原子力発電所が停止しても、石炭・天然ガス発電などで代替ができた。しかし、今後はそれができなくなる。「原子力を当たり前の電源にすることは、政治家の責任」。こう力を込める。

岸田文雄総理・総裁の誕生とともに、党は原子力規制に関する特別委員会の体制を一新。鈴木淳司衆院議員が委員長に就任し、事務局長を務める。民間企業経営の経験から、原発再稼働の審査が遅れている原子力規制委員会・規制庁にはいら立ちを隠さない。「審査の遅れで国民や民間企業の負担が増しているという意識がない。人員が足りないのならば、増やす対応をすればいい」。今、世界的な脱炭素化の潮流を背景に、化石燃料の価格がじわじわと上昇している。一方、主力電源化を目指す再生可能エネルギーへの依存はコスト増を免れない。「早く多くの原発を稼働させて、国民、企業の負担を最小限にしなければいけない」。地元で多くの声を聞く中で、焦燥感を強くしている。運転期間の原則40年ルールについても、「人間の健康状態と同じ。年数ではなく、性能で見るべきだ」と見直しに積極的だ。

座右の銘は「一直線」。曲がったことをやらずに、一度決めたら真っすぐに進むことを信条としている。叔父・佐々木守氏が脚本を執筆した、人気を博したテレビドラマ『柔道一直線』から拝借した言葉でもある。

【石炭】ダム建設に貢献 石炭灰の循環利用


【業界スクランブル/石炭】

 治水や利水に大活躍し、近年では観光名所として知られている群馬県の八ッ場ダム。新たな観光スポットのこのダムに石炭灰が多く使われていることは意外に知られていない。本州四国連絡橋の橋部もそうであったが、大規模コンクリート構造には、セメントの水和熱を低減するフライアッシュという石炭灰を使う。セメントが固まるために水と反応する際には化学反応により熱を発する。これが固まるコンクリートにひびを入れる可能性があるので、セメントを水和熱の発生が少ないものにしたり、混和材としてフライアッシュを混ぜてできるだけ水和熱を減らすようにする。

フライアッシュに含まれるガラス相(非結晶相)が、セメントの水和反応によってできた水酸化カルシウムなどと反応し、主にケイ酸カルシウム水和物を生成するのだ。この反応をポゾラン反応という。これによりコンクリート組織が緻密化するため、コンクリートの強度や耐久性が向上する。神奈川県の宮ヶ瀬ダムに至っては、 製造するコンクリートを冷却していた。それについてはテレビなどで見たことがあるだろう。

ところが石炭火力が減少してフライアッシュの生産が減ると、その利用が難しくなる。現に石炭火力の積極的削減を進めている欧州では対応に苦慮することになる。その結果進められているのが、埋め立て地に埋められたフライアッシュを掘り起こして利用するものだ。しかし量に限りがあるので永続する方法ではない。

石炭を燃焼する際に生じる飛灰は、放っておくと大気汚染を引き起こすので電気集塵機で回収する、それがフライアッシュである。火山灰のように球形で中空の数十ミクロン大の非晶質の微細粒子は、中国・三峡ダムをはじめとして各地の水力発電ダムの建設に不可欠であった。原発などの大型発電所の土木工事などにも不可欠な材料であるにもかかわらず、入手が困難になりつつあるとは皮肉なことである。中国の逸話の花咲爺の花神でないが、枯れ木に花を咲かせてみせる石炭灰フライアッシュはマジックのようでもある。なんとか継続利用させていく方法が欲しいものだ。(C)

【コラム/2月24日】欧州における電気料金の動向


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

米国もそうだが、欧州の電気料金も長期的に上昇している。この12年間(2008~2020年)について見ると、家庭用電気料金は30%の大幅な上昇率を記録したが、これは消費者物価指数の上昇率を大きく上回るものであった。電気料金上昇の要因は、2007年頃までは主として燃料価格の上昇であったが、この10数年間は、主として、租税公課の増大である。とくに、再生可能エネルギー賦課金の増大は顕著であり、家庭用電気料金に占めるそのシェアは、2012年から2019年の間に6%から14%と2倍以上になった。また、ネットワークのコストも再生可能エネルギー電源の拡大で増強を迫られ増大している。一方、近年、再生可能エネルギー大量導入下で卸電力価格は低迷ないし低下し、電気料金上昇の歯止め要因として機能していた。しかし、最近、卸電力価格は上昇している。その要因を考察することで、欧州における将来の電気料金の動向を予想することができる。

欧州における卸電力価格は、昨年半ばから顕著な値上がりが見られるようになった。スポット価格は、2021年9月に、ドイツ、フランスで、メガワットアワー当たり100ユーロを超えた。直近(2022年1月)でも、ドイツでは、150ユーロを超え、フランスでは200ユーロを超えている。最近における卸電力価格の上昇の理由としては、経済活動再開に伴う需要の増大、風力発電の低迷、発電設備の保守作業による停止、二酸化炭素排出量取引制度(EU-ETS)の排出枠(EUA)価格の上昇など様々な要因が挙げられているが、天然ガス価格の高騰がもっとも大きな要因と指摘されている。欧州における天然ガスの価格(オランダTTFの先物価格)は、2021年初では、100万BTU当たり30ユーロを下回っていたが、10月に100ユーロを、そして12月には170ユーロを超えた。直近(2022年2月16日)でも70ユーロ程度となっている。天然ガス価格の上昇の理由としては、景気回復に伴う需要の増大、欧州におけるガス貯蔵量の低下、気候変動対策としての石炭から天然ガスへのシフトに加えて、ロシアから欧州への供給削減が挙げられる。

現在、天然ガスの需給動向がとりわけ注目されているが、長期的な電力価格の動向を見る上で、より目を向けなくてはならないのはEUAの動向である。EUAは、2012年から2017年までは1トン当たり10ユーロ未満の水準で推移したが、2018年から価格が上昇、2020年12月に30ユーロを、2021年3月に40ユーロを超え、そして5月に50.05ユーロの史上最高値をマークした。その後、9月に60ユーロを、11月に70ユーロを、12月には90ユーロを突破し、史上最高記録を更新し続けた。その後、一時値を下げたものの、2022年1月26日も一時90ユーロを超えている。欧州は、2050年カーボンニュートラルの野心的な目標を掲げており、将来的にも、EUAの需給の引き締まりは変わらないだろう。カーボンニュートラルのシナリオを見ると、EUAは長期的に100ユーロ程度、場合によっては150~200ユーロにまで上昇していく可能性がある。EUAは、将来的に欧州の卸電力価格を引き上げる大きな要因となるだろう。また、カーボンニュートラルの実現のためには、再生可能エネルギー電源やネットワークの一層の拡大・増強、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)、Power-to-Xや蓄電池などの種々のフレキシビリティ技術の 開発・導入も求められる。これらを考慮すると、欧州では、これまで以上に電気料金は上昇していく可能性がある。脱炭素化の目標が野心的であればあるほど、電気料金は顕著な上昇を見せるであろう。EU同様、わが国も、2050年カーボンニュートラルを目指すことになったが、やがて電気料金の継続的な上昇は当たり前の時代になるだろう。カーボンニュートラルは耳ざわりのいい言葉ではあるが、それを達成するためのコストに関する議論があまり聞かれないのが残念である。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

輻射熱で圧力容器下部の破損 注水で水素爆発が発生


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.11】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島1号機は圧力容器の底が抜け、炉心が格納容器に落下した。

その主因は、高温の物体による大きな輻射放熱だ。

 1号機は炉心の冷却水が全て蒸発して高温となり、圧力容器の底が抜けて炉心が格納容器に落下した。半日後に入った注水で水素爆発が起きた。今回はその主役である輻射熱の説明から入る。

やかんから湯気が出るのは見慣れた光景だが、湯気になるのは蒸気の熱が空気に伝わって冷えるからだ。この現象を伝熱という。ほかに真空を通して熱を伝える輻射熱があるが、われわれが住む低温の世界では量的に小さい。

輻射熱の代表は太陽だ。温度6000℃の太陽の表面から放射される熱は、真空の宇宙を通過して地球に届く。その距離、実に1億5000㎞。スペースシャトルで200日かかる。こんな遠方に届く太陽の熱を温かいと感じる人は多いが、太陽に言わせれば、輻射熱を出して己を冷やしているというであろう。輻射熱という言葉は、熱の出し手(冷える)と受け手(温める)では意味が正反対となる。間違いやすいので、本稿では出し手を輻射放熱と書く。

輻射熱にはステファン・ボルツマンの法則がある。輻射熱量は、色や形など物体の表面状態と、出し手と受け手の温度(絶対温度)の4乗の差で定まるというものだ。この4乗が利いて、温度が高くなると輻射放熱はがぜん大きくなる。

表面状態を同じとして、常温の物体(300K(ケルビン度))と溶融炉心(UO2:融点約3000K)とでは輻射放熱はどれほど違うか。10の4乗の比較だから、違いは1万となる。低温の世界に住むわれわれが、1万倍大きい輻射放熱を感覚的につかむのは困難だが、1円と1万円の差と考えれば、何となく頭で理解できる。

NHKの流したフェイク映像 崩壊熱でメルトダウン起きず

水が流れるのはわれわれには常識だが、高温の世界では、発熱を失った液体は輻射放熱ですぐ固化する。流れを見ることはまれだ。その好例が融点の高い物質の液体物性の測定だ。融点が2000℃を超える材料は液体の維持が困難で、レーザー照射で溶かした途端に、試料は重力で照射範囲外に移動し、測定する間もなく固化する。このため試料を浮遊させて照射し、測定を行うという。最近は国際宇宙ステーションでの実験が可能となり、少量の試料を無重力空間で溶かして測定しているという。

高温の溶融物が出す輻射放熱はかくも大きい。大見当だが、輻射放熱が伝熱を超えるのは1500℃くらいと覚えておくと便利だ。

高温の炉心に冷水を注ぐとジルカロイ・水反応が起き、その反応熱で溶融が始まるが、反応が終わると溶融していた炉心はすぐに固化する。確かに、TMIのスケッチ図に描かれた溶融燃料の流下距離はわずかだった。融点約3000Kの溶融炉心の輻射放熱はかくも大きい。僕がメルトダウンはないと主張する根拠はここだ。

事故直後にNHKが毎日のように放映した福島の映像は、溶けた炉心が流れて圧力容器を溶かし、格納容器の床に落ちる動画であった。輻射放熱を無視したフェイク映像だが、映像を見て炉心溶融を信じる視聴者は非常に多い。

輻射放熱の説明は以上だ。高温物体が出す輻射放熱の大きさは理解されたと思う。この説明を下敷きに1号機の溶融を考えよう。

空っぽ状態の1号機の炉心温度を約2000℃と推定したのは、0・8%に低下した崩壊熱と、輻射放熱の大きさとの比較からだ。この温度で輻射熱の均衡状態を計算すると、圧力容器が約600℃、格納容器が約150℃となる。炉心溶融(融点2880℃)には程遠いが、炉心シュラウドや下部支持盤といったステンレス鋼製の炉心構造体(融点約1400℃)は、溶けた部分が多かったであろう。支持盤が溶ければ、燃料棒は落下する。

鉄は700℃になると構造材としての強度を失う。600℃の圧力容器は落ちてきた燃料棒や炉心材料で熱されて、重量を支え切れずに底が抜けたに違いない。燃料棒や炉心材料は、底と一緒に格納容器の床上に落下したに違いない。

この時刻が、圧力上昇のあった3月12日午前2時半だ。異見ありと前報で書いたのは、圧力容器は炉心溶融でなくとも壊れ得るからだ。借問するが、原因を炉心溶融と考えた人は、半日後の注水で起きた爆発をどう説明するつもりか。溶融して変質した炉心が、半日もの輻射放熱で冷えた状態で、爆発前の1時間の注水で大量の水素を発生させるとは考えられないが。

ここで再び輻射放熱が登場する。格納容器の温度は150℃と低いから、格納容器床での輻射放熱は増大する。午前2時半から注水の始まる午後2時半までの半日、落下燃料は冷えて、温度は200℃くらいに下がっていたと考える。

ところが午後3時36分、注水開始の約1時間後に1号機は爆発した。注水で水素が大量発生したのは明白だ。床上の燃料棒は冷えて反応できないから、圧力容器の中に残った燃料棒が反応するしかない。推測だが、炉心に残った燃料棒は相対的に多く、崩壊熱により互いに高温を維持し合っていたのではなかろうか。

中央の丸い光が溶融試料(宇宙STa.での測定写真)
出所:ISASニュース467号

【石油】価格の高止まり 産油国の逆襲


【業界スクランブル/石油】

 原油価格は昨年12月、オミクロン株の登場で10ドル強軟化したが、経済への影響は小さいとして、年末と年初めでほぼ回復した。昨年来の原油価格は、基本的に、順調な需要回復で堅調に推移している。同時に、供給増加が遅れており、その背景には脱炭素化の動きが大きく影響していると指摘されている。

最大の価格上昇要因は、経済の堅調な回復による需要増加であろうが、供給側の増産の遅延も指摘できる。まず、サウジアラビアなどのOPECとロシアなどの非加盟国から成る「OPECプラス」の減産緩和(増産)の慎重姿勢がある。OPECプラスは、コロナ禍による需要減少に対応して協調減産を続けているが、昨年8月以来、需給均衡に配慮しつつ増産は月間日量40万バレルにとどめている。

脱炭素を踏まえ、サウジもロシアも、従来のシェア優先を価格優先に転換したものとみられている。しかも、従来であれば、価格回復とともに違反増産が横行するのが常であったが、今回は各国とも減産緩和合意を順守している。

さらに、リビア、ナイジェリアなど一部参加国には、メンテナンスの遅れや増産余力の欠如で、増産できない国も出ている。また、米国のシェールオイルの生産回復も遅れており、コロナ前の水準には戻っていない。脱炭素の動きによる金融機関の投融資への消極姿勢が原因であるといわれる。

国際金融の側面からは、コロナ対策の観点で緩和状態にある余剰資金が株式市場とともに商品先物市場にも流入が続いている。ただ、インフレを警戒する米国の金融政策の行方には、注目が必要であろう。地政学リスクの側面からは、米国・イラン間に対立の継続が指摘できる。両国の核合意復帰を巡る交渉は続いているものの、イラン原油の輸出禁止は続いており、イランは反発している。

脱炭素化に備えた産油国、金融機関の対応が、供給増加を阻害し、原油価格の高止まりを招いているといえよう。産油国の「逆襲」かもしれない。(H)

【火力】電源の組み合わせ 勝利へ手堅い作戦


【業界スクランブル/火力】

 多少旧聞となるが、昨年の日本プロ野球は、ヤクルトスワローズが大激戦の末に日本シリーズを制し20年ぶりの日本一となった。野球は四番打者だけを集めても勝てないということは以前からよく言われていたが、今回のスワローズは、「2桁勝利投手、3割打者ゼロで日本一」という珍しい記録を初めて達成し、強いチームをつくるためには、ずぬけた選手を集めるより選手の個性をうまく引き出す方が大切であることを証明する結果となった。

さて、そんなことを考えつつ電気事業を振り返ると、電力も火力、原子力、水力、太陽光、風力とさまざまな電源種を組み合わせている一方、S+3Eの観点で絶対的エースが存在しない点がよく似ている。

そうであるにもかかわらず、エネルギーの議論になると、どの電源が一番安いのかといった話題ばかりで、多様な電源をうまく組み合わせることが大切との意見は世間ではマイナーであり、さらには何かの言い訳だと言われることすらある。しかし、野球より電気事業の方がよほど複雑なのだから、さまざまな電源種の特性を生かす工夫をせず、特定の電源に頼るばかりでは、S+3Eの実現など到底できるものではない。

ここでさらに懸念される話題がある。昨年末に立ち上がった長期の電源投資を検討する委員会において、CO2を発生する発電設備を対象電源から排除すべきではないかとの提案がなされていることだ。確かに長期を対象とするのだから、いずれは脱炭素をすることになるが、足元で再エネの拡大にも影を落としている供給力・調整力不足の懸念を払しょくすることが先決であり、そのためには、当面既設も含めた火力を活用しつつ、その間に将来に向けた技術開発や設備更新を着実に進めていくことが必要となるのではないか。

野球にも一つのアウトを献上しつつチャンスを広げる送りバントという作戦がある。脱炭素達成のためには、やみくもに脱炭素というホームランを毎打席狙うのではなく、勝利までの過程を見通し、今できることを積み上げていく手堅い作戦こそが必要となる。(S)

原子力とガスは「持続可能」 波紋広がるタクソノミーの評価


【多事争論】話題:EUタクソノミー

持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー」の行方が注目されている。

欧州委員会は条件付きで原子力と天然ガスを含む方針を発表したが、専門家の評価は。

〈 EU脱炭素政策でロシアの脅威拡大 現実解として期待集める原子力推進〉

視点A:杉山大志 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

何が持続可能な技術かを政治・行政エリートがブリュッセルで交渉し決めるというのは、いかにもEU(欧州連合)らしい馬鹿げた方法だ。なぜなら発電技術はどれも一長一短だからだ。原子力はもちろん安全に気を使わねばならないが、安価でCO2も出ない。再生可能エネルギー技術にだってもれなく欠点はあり、完璧な技術など無い。景観問題や生態系破壊を起こす風力発電は持続可能なのか?ジェノサイド認定を受けている新疆ウイグル自治区で生産・精錬された太陽光発電が「持続可能」なのか? EVにもハイテク省エネにもレアアースが必須だが、EUはその9割以上を中国、これまた人権問題を抱える内モンゴル自治区に依存しているが、「持続可能」なのか?

ともあれ、原子力と天然ガスが必要だという当たり前のことがそれなりに位置付けられたのは、EUの人々にとって幸いだった。今EUは拙速な脱炭素政策の失敗でエネルギー危機にある。安定で安価な現実的なエネルギー開発を進めなければ、EU経済は崩壊の憂き目に遭う。

日本などにとっても、おかしなEUの政策を押し付けられる心配が減るのは良いことだ。政権方針が脱原発のドイツとオーストリアでは、今回の発表に対して猛然と反対の声が上がっているようだが、規則上は過半数のEU加盟国が反対しないと方針が覆ることは無いらしい。すると、フランスや東欧諸国をはじめEUでも実は原発推進派の国の方が多いので、そのままの決着となる。

東欧諸国で高まるEU脱炭素への懸念 原子力の合理的規制体系こそ重要

しばしば日本では誤解(ないしは意図的に曲解)して報道されるが、世界においてもEUにおいても、脱原発は潮流などではない。むしろ原子力利用こそ世界の潮流だ。IAEA(国際原子力機関)のまとめでは、原発を利用しない方針の国はドイツ、韓国、オーストリア、イタリアなど9カ国。一方、今後も利用する方針の国は39カ国に上る。この中には米国、フランス、中国、ロシア、インド、カナダ、英国、そしてチェコやポーランドなど複数の東欧諸国などがある。特に東欧諸国では原子力利用の機運が高まり、新規の建設計画が次々に発表されている。背景にはEUの脱炭素政策の深刻な失敗がある。執筆現在、EUのエネルギー危機は収まる気配がなく、全域でガス・電力価格が高騰している。

ポーランド議会は昨年12月、EUのエネルギーシステムが「新しい気候政策手段の採用と実施に伴い、ポーランドにとって大きな脅威となった」とする決議を採択した。隣国のチェコでも、閣僚たちがエネルギー価格の急上昇を警告し、この冬、電気をつけ家を暖かく保つための化石燃料の使用に対して、EUがより寛大な態度を取るよう要請した。

現在の危機の要因は複数指摘されている。パンデミックの規制が緩和されて経済活動が予想以上に再開されたこと、エネルギー市場の自由化に伴い天然ガスの在庫が減少していたことなどである。だが何よりも天然ガスへの依存度が高まったのは、EUの脱炭素政策の結果だ。石炭火力発電を減らし、出力が不安定な再エネを大量導入したことで、両者の代わりに天然ガス火力に依存せざるを得なくなった。これは大きな地政学的影響を伴う。EUの天然ガス供給量の約半分はロシアからのものだからだ。

かくして欧州の電力供給の主導権はクレムリンに奪われつつある。かつてソ連に支配された苦い経験を持つ東欧諸国は、EUで策定された脱炭素政策のせいでロシアの地政学的脅威が高まることを警戒している。その現実的な打開策として期待を集めているのが、原子力発電の推進だ。

さて、EUタクソノミーは「原子力は持続可能な技術か」という実に大雑把な議論に過ぎないが、本当に重要なのは、いかにしてS+3E(安全性+環境性、経済性、供給安定性)の観点から合理的な原子力事業の規制体系を作り上げるか、という制度作りの国際的な競争である。

今、小型モジュール炉(SMR)などの安全・安価な原子炉の開発については、日本だけでなく米国、カナダ、フランス、ロシア、中国など多くの国がしのぎを削っている。不合理な規制のある国では電源開発はもちろん、技術開発も進まない。米国やフランスでは、過剰な規制によって原発の建設コストが高騰する一方、新型のSMRの許認可にも長い年月と費用がかかるようになってしまった。このようなことが続くと、ロシアや中国に負けてしまう。制度間の裁定が起きることを意識し、日本においても、可能な限り規制体系を合理的なものにする知恵が問われている。

すぎやま・たいし 1993年東大大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。

【マーケット情報/2月18日】原油下落、イラン産原油増加の見込み


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物が下落。中東原油を代表するドバイ現物も、前週から小幅に下落した。米国とイランの核合意復帰に向けた会合に進展があり、イラン産原油の供給が増加するとの期待が高まった。

イランの核合意復帰に向けた会合は、最終段階へ。米国が対イラン経済制裁を解除し、イラン産原油の出荷が増えるとの楽観が広がり、価格の下方圧力となった。

また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から4基増加し、520基となった。

ただ、政情悪化にともなう供給不安は根強く、価格の高止まりが続く。ロシアは15日、演習を終えた一部軍隊をウクライナ国境から撤収させると発表。これを受け米国は、ロシアとの首脳会談を表明し、緊張緩和の見込みが原油価格の重荷となった。しかし、18日には、ロシアとウクライナは互いに攻撃を受けたと非難。ロシアのウクライナ侵攻に対する懸念が一段と強まり、米国の対ロ経済制裁、およびロシア産原油の供給減少の予測が大勢となった。

WTI先物とブレント先物は、14日時点でそれぞれ95.46ドルと96.48ドルを付け、2014年9月以来の最高価格を記録した。また、ドバイ現物は15日、92.71ドルとなり、2014年10月初頭以来の最高値となった。

【2月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=91.07ドル(前週比2.03ドル安)、ブレント先物(ICE)=93.54ドル(前週比0.90ドル安)、オマーン先物(DME)=90.89ドル(前週比0.42ドル高)、ドバイ現物(Argus)=90.10ドル(前週比0.04ドル安)

原発訴訟で立証責任の在り方に変化 「責任所在は住民側」の原則に回帰


【羅針盤】森川久範(TMI総合法律事務所弁護士)

原発運転を巡る訴訟では、近年事業者に「立証責任」を負わせる傾向にあったが、変化し始めている。

2021年3月の広島高裁決定と11月の広島地裁決定を題材に、原発訴訟に詳しい森川弁護士が解説する。

 山口県内や広島県内に居住する住民が、伊方発電所3号炉について、地震等に対する安全性を欠いているため、住民の生命、身体等が侵害される具体的危険があるとして、原子炉の運転差止を命ずる仮処分命令を申し立てた。この事案に対して、2021年3月18日に広島高裁が、同年11月4日に広島地裁が、いずれも運転差止を認めない決定を出した(以下併せて「両決定」)。

両決定では、民事保全(仮の地位を定める仮処分、以下「仮処分」)における原子炉の運転差止の申し立てに対して、裁判所の判断枠組み、特に主張立証責任(主張立証に失敗した場合に不利益を被ること。民事保全における立証責任は疎明責任であるが、本稿では単に「主張立証責任」という)の判断について、従前の裁判所の判断とは一線を画する判断がなされたため、主張立証責任の判断におけるこの二つの裁判例の意義を解説したい。

東日本大震災機に変化 運転差止認める決定増加

両決定は運転差止の「仮処分」命令申立事件であったが、原子炉の運転等を争う裁判の類型は三つに分かれる。一つは、国が行った原子炉設置許可処分の取消しを求める行政訴訟であり、他には、私人である電力会社に対する裁判として、原子炉の運転差止を求める民事訴訟と、両決定のように、その差止の仮処分を求める暫定的な民事保全がある。これらの裁判類型の差異は表の通りである。

原発運転を巡る裁判類型の違い

原子炉の運転の民事差止は、東日本大震災前から提起されていた。震災前に民事差止を認めたのは、民事訴訟での地裁レベルの判決1件のみ(後日高裁にて取消し)であった。これに対し、震災後には、原子炉の運転の民事差止が仮処分で争われることが多くなり、これまでに仮処分決定は地裁レベルと高裁レベルとを合わせ29件、高裁レベルの決定だけでも11件出されている。

また、震災後は原子炉の運転差止を認めるものも増えている。これまでに、民事訴訟で運転差止を認めたものは地裁レベルの決定が2件あり、仮処分では、地裁レベルの決定3件と高裁レベルの決定2件がある(なお、仮処分で運転差止を認めた決定はいずれも高裁において覆っている)。

震災後に原子炉の運転差止を認める決定が増えているのは、仮処分での主張立証責任の判断枠組み、いわば土俵の設定も影響していると思われる。というのも従前は、訴訟と異なり、立証の程度も一応確からしい疎明で足りるとする暫定的な仮処分でも、主張立証責任の判断枠組みについては、住民側の立証負担を軽減した、原子炉設置許可処分の取り消しが争われた行政訴訟における最判1992年10月29日(いわゆる伊方最判)の判示を参考とした。これを仮処分用に修正し、やはり住民側の立証負担を軽減した枠組みを採用する裁判例が大勢を占めていた。

その大要は、①原子炉の運転によって生命、身体等に対する侵害が生ずる具体的危険性があることの主張立証責任を住民側が負うことが原則であるとしつつも、事業者側が安全性についての資料を全て保有するという証拠の偏在等を理由に、この原則を修正し、②事業者において、原子力規制委員会が用いた審査基準に不合理な点がないこと及びこの基準に適合するとした同委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠に基づいて主張立証しなければ、具体的危険性の存在を事実上推定される―などとして、事実上の主張立証責任を事業者側に負わせ、住民側の証明の負担を軽減していた。

立証責任を事業者に負わせず 両決定の意義大きく

このような仮処分における主張立証責任に関する土俵設定について、両決定はいずれも、具体的危険性の主張立証責任を原則通り住民側が負うとして、事実上の主張立証責任を事業者側に負わせたり、住民側の証明の負担軽減を図ったりすることはなかった。その理由付けは両決定で異なるが、広島高決3月18日は、具体的危険があるとの法的判断においては、規制委における判断やその判断の合理性の有無等は具体的危険性の存在を判断する上での重要な事実の一つにとどまるとした。

その上で、原子力発電所の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生の時期や規模については現在の科学的知見では具体的に予測できず、科学的には、直ちに、いずれの見解が正しいともいえないと指摘。独自の科学的知見を有するものでない裁判所において、原子炉の安全性についての具体的な検討を離れて、直ちに、住民の生命、身体等が侵害される具体的危険があると事実上推定するなどということは相当でない、とした。

そして広島地決11月4日は、具体的危険を巡る評価が合理性を有することについて事業者側に主張、疎明責任を負わせ、それが遂げられているかを裁判所が審査することは、結局のところ、規制委による多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断の過程を、そのような知見を持ち合わせていない裁判所が事後にやり直すことと実質的に等しいことになると説明。

しかし、そのような司法審査のありようは、原子炉等規制法が原子炉施設の安全性に関する基準の策定および安全性の審査の権限を規制委に与える趣旨に反し、相当でないとした上で、規制委が関与しない手続である民事保全事件において、住民と事業者との間のいわゆる「証拠の偏在」なるものや、地元に対する働きかけの態様を強調することに決定的な意義を見いだし難いとした。

今後の原子炉の民事運転差止への影響が注目される。

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て、15年4月TMI総合法律事務所入所。17年11月から原子力規制委員会原子力規制庁にて原子力発電所に係る訴訟などに従事。20年11月同法律事務所に復帰。22年1月カウンセル就任。

【LPガス】「虎視眈々」の対応 業界一丸に期待


【業界スクランブル/LPガス】

昨秋以降コロナウイルス感染者数が急減、国内の沈滞ムードは一変したに見えたが、2022年が始まるとオミクロン株が猛威をふるい混沌とした情勢が続く。本年の干支は壬寅。「冬が厳しいほど、春の芽吹きは生命力にあふれ、華々しく生まれる」ことを示すというが、さて、どんな年になるのだろうか。

エネルギー業界はコロナ禍に加え、脱炭素化への社会的要請、カーボンニュートラルの実現に向けた課題が山積し、特に化石燃料であるLPガス業界は、その取り組みを加速させる必要がある。昨年末に全国LPガス協会の「LPガスのカーボンニュートラル対応検討会」が中間報告書をまとめた。報告書では「国は、温室効果ガス排出削減の観点から脱炭素化されたグリーンLPガスの研究開発や社会実装に取り組む産業界を後押しするとされているが、開発には時間がかかること、グリーンLPガスの製造原価が高くなることなどが予想される。また、競合エネルギーの脱炭素化、電源の脱炭素化、エネルギー全体の電化動向次第ではグリーンLPガスの商用化・本格普及前にLPガスの市場が消滅するリスクもある」と危機感を募らせる。

さらに、LPガスの市場が残るにせよ、現行のLPガスに炭素税が課されたものを継続して販売せざるを得ないため価格競争力を失う可能性や、将来的には行政による販売規制などが行われる可能性もゼロではないと指摘している。特に空調用、給湯用の石油、ガス機器のほとんどは電化に置き換えることが可能だ。LPガス業界では、トラジション期間中は燃料転換、省エネ機器の拡販で需要を守るとしているが、そもそも燃転は石油からLPガスへの転換であり化石燃料だ。50年のエネルギー業界の構造は全く異なるものになっていると専門家は予測している。

今後LPガス需要が急減することはないが、オール電化の流れを防ぐといった発想では劣後してしまうのは間違いない。今こそ元売りから卸売り・小売りの各LPガス事業者が一体となり、「虎視眈々」とチャンスをうかがうような取り組みに期待したい。(F)