<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ/4名
年末から年始にかけて、「LP無償配管」などの記事が業界を騒がせた。
だが、記事の裏側を探ると、新聞各紙の思惑が透けて見えてくる。
――年末年始、各紙にエネルギー関連の特集やニュースが出た。注目した記事は。
石油 12月30日付の朝日1面トップに、LPガスの料金問題がでかでかと掲載された。しかも3面にも関連記事というおまけ付きだ。記事を書いた記者は、前からSNSでこの問題を取り上げていた。だから嫌な予感はあった。だけど、まさか全国版の1面トップに載せるとは思っていなかった。
――業界関係者の反応はどうかな。
石油 もちろん衝撃は大きかった。だけど、大騒ぎにしたくないので、皆、これ以上突っ込まれないように取材にはノーコメントを貫いていた。
ガス 内容自体はおかしな部分はない。だけど、なにも目新しいものではない。なぜ朝日がこのタイミングで、あの扱いで載せたのかよく分からない。
LP配菅問題記事の謎 洋上風力の話題で持ち切り
――小誌編集部でもあの記事が話題になった。
石油 新聞社の仕事納めは29日で、その翌日の紙面は穴が開きがちだからといった理由だろう。それと気になったのは、記事のトーンが資源エネルギー庁石油流通課の言い分と似ていたこと。記事に石通課のコメントはないが、業界紙の新年号に企画官のインタビューが載っていて、「自助努力が足りない」と業界の体質を批判している。
ガス スクープではないが、年末に発表された洋上風力公募の結果、三菱商事グループが3地点総取りしたことも、年が明けても業界内で大きな話題になっている。破格の発電単価設定を巡って実現可能性を疑う声もあるけど、風力事業に詳しい人ほど「商事にしてやられた」といった反応だ。
マスコミ なぜこんなダンピングみたいな価格にできたのか、疑問は残る。年明けから単価設定の裏に迫ったダイヤモンドオンラインの記事などが出ているが、どこまで真相が明らかになるかな。
それと、EUタクソノミー。原子力と天然ガスが「グリーン」と認定されそうだ。ヨーロッパの動向は、日本の原子力政策にも影響すると思うよ。
石油 確かにそういう話題はあった。でも、去年の新年号では水素をはじめ脱炭素技術が結構大きく取り上げられたけど、今回のエネルギーの扱いは地味だった。ガス価格急騰などのニュースもあったが、1月2日から稼働している外信の方に圧倒的に軍配が上がった。日本のエネルギー報道はこれでいいのかと、年明けから物悲しい気持ちになった。
――ほかにも、読売の米テラパワー社の高速炉計画への日本の参画、日経の次世代送電網に2兆円投資構想の記事があった。
電力 高速炉計画の話は、読売の記者が米国でテラパワーの関係者に聞いたらしい。米国の原子力発電の歴史は、軽水炉ではなく高速実験炉から始まったが、その後長らく動きはなかった。しかしビル・ゲイツ氏のテラパワーで再び盛り上がり始めている。
「もんじゅ」の廃炉が決まってから、日本が手を組んだフランスのASTRID計画も破綻した。その中で、高速炉計画でようやくこういうニュースが出たこと自体は歓迎したい。だが、日本が本格的に参加できるかは別問題。政府と電力のにらめっこや、メーカー間の縄張り争いに陥らず、業界一丸で取り組むことが必要だろう。
マスコミ 日経の送電網の記事は、読売に高速炉の記事が出て、抜かれたデスクが怒って記者に「何とかしろ」とはっぱをかけたものらしい。ただ、この記事の弱点は、2兆円を誰が出すのか書いていないこと。この投資規模とエリアで実行する可能性がある電力会社は見当たらず、NTTかENEOSくらいしかしない。
――月刊「S」の「日本原燃社長の引責辞任が不可避」という記事も波紋を広げている。
電力 六ヶ所再処理工場の2022年度上期の竣工が困難なことを理由にしていたが、福島第二原発を守った増田尚宏社長のほかに建設をきちんと進められる人は見つからない。もし仮に辞めたとしても、技術顧問として残るだろう。S誌が後任候補として名前を出していた人たちにも、首をかしげる関係者が多いよ。
マスコミ 青森県では、むしろ政治の動きに注意が必要。7月の参院選候補者には三村申吾・青森県知事の名前が出ているが、そうなると知事選になる。核燃サイクル政策にどう影響するか気になっている。
参院選までは「安全運転」 既設原子炉活用は封印
――クリーンエネルギー(CE)戦略が参院選前の6月に策定される予定だ。当初期待された既設原子炉の活用は大きく打ち出されない雰囲気が漂い始めている。
電力 岸田文雄首相の側近は、参院選までの政権運営は安全運転で行くと明言している。原子力について、CE戦略でエネルギー基本計画以上のことを書き込める地合いではない。
ガス 岸田首相は、コロナ、分配、そして温暖化の三つを挙げるようになってきて、徐々にCE戦略が「新しい資本主義」のセンターラインに乗りつつある。岸田氏自らCE戦略の会議に出ると口にするほどだ。それで経済産業省内はバタついている。
もともと経産省は、新しい資本主義はCE戦略とは別物と考えていた。ところが、首相側は違った。確かに、分配重視で会社に賃上げを求めても、企業は簡単には応じない。ところが例えば「秋田沖に大型風力建設」となると、ある程度、経済波及効果が期待できる。
――昔は不況になると、電力会社の設備投資の景気刺激効果が期待されたけど、今も構図は変わらないのかな。