脱炭素・デジタル時代の企業誘致 再エネ100%地産地消で価値訴求


【石狩市のエネルギー基地を訪ねて〈後編〉】草野成郎(株式会社環境都市構想研究所代表)

脱炭素・デジタル時代への対応を視野に、新たな企業誘致を目指す試みが加速している。

再エネ100%の地産地消を実現する取り組みとは。前号に引き続き、草野氏が報告する。

 石狩湾新港地域を舞台にした「分散型エネルギーインフラプロジェクト」の委託調査事業の概要を見てみよう。

石狩市にあるさくらインターネットのデータセンター

主題は、「工業団地内でのエネルギーの需給に関する最適利用」「災害時におけるエネルギー融通」「災害時における食料・医薬品など必需品の安定供給と被害者救済拠点の整備」「工業団地内企業と石狩市庁舎を結ぶICT利用の具体化などの検討」とし、別件として「最新鋭技術としての超電導事業の可能性の検討」を加えた。具体的な作業は、次の通りである。

域内を区分して消費量分析 大規模洋上風力の検討も

①全体を特徴的な地域ゾーンに区分して分析する、すなわちエネルギー消費量が大きい食品工場群地域、電力需要が大きいデータセンター地域および冷蔵・冷凍倉庫群地域、市役所・給食センター等管理建物群地域などに区分して、それぞれのエネルギー消費量データを収集する。

②北海道ガスのLNG基地および北海道電力の火力発電所におけるエネルギー消費量と発生エネルギー量を収集する、併せて別枠の超電導事業との関連から必要となるLNG冷熱エネルギーデータを収集する。

③地域ごとの都市ガス配管系統および送電系統を図面上で整理し、地域ごとの利用容量と可能量データを作成する。

④以上のデータに基づき、年間および月間、状況に応じて時間別の熱需要と電力需要データを作成し、利用効率が最大となるようなコージェネレーション規模を算定する。

⑤適用コージェネに関する設備費用および年間費用を算定する。

⑥工場群ごとに算出される電力・熱コストと系統電力・系統ガスとの比較計算を実施する。

⑦工場群ごとのエネルギー費用に関する経済性比較表の作成。

⑧団地内企業群に対して、こうした事業への理解と意欲に関するヒアリングを実施する。

⑨超電導については、電線の冷却コストの観点から、北海道ガスLNG基地内の冷熱の利用および運搬について、従来型の液体窒素の利用との比較を行う。

⑩再生可能エネルギーの導入に関して、太陽光発電所の導入によるデータセンター電力の経済性の検討と工業団地沖合地区で予定している大規模洋上風力発電の可能性を検討する。

⑪石狩地域における再エネの物理的な賦存量の推定に基づくそれぞれの利用可能量の計算など。

 これらの作業は、石狩市のスタッフによって着実かつ精力的に進められ、併せて本委託作業の再委託先となった日本設計(東京都新宿区)の並々ならぬ意気込みが相まって実施された。改めて頭の下がる思いである。

画期的な共同センター構想 進出企業に多様なメリット

事業調査結果の概略は次の通りである。いずれの数値も全ゾーンの合計値であるが、炭酸ガス排出量は30~40%減、コージェネの規模は2万5000kw程度、設備投資額は熱供給配管を含めて約50億円と算定されたが、本方式による電力および熱費用と従来型の方式(系統電力による電力費用+ボイラ、冷凍機等による温冷熱費用)との比較において、残念ながら投資採算性が乏しいこと、一定の補助金によって一部は改善するものの、関連する業界からの出資の可能性も極めて低いことが判明した。

従って結論としては、この調査を進める過程において、団地内の企業群との真剣な議論が進んだおかげで、高いエネルギー効率を発揮するコージェネの導入や地元企業による再生可能エネルギーの活用についての理解は格段に深まったものの、今回の方式による分散型エネルギーインフラ事業の具体的な展開は、今の段階では困難となった。すなわち、電力需要および熱需要がこの程度の規模の場合は、投資採算性の確保が難しく、通常の製造業種に加えて、24時間操業となるホテルや病院など熱需要の多いエネルギー多消費型の工場や事業所の新たな進出がない限り実現は難しいことなどが明らかになったのである。

しかし今回の調査を通じて、こうした工業団地においては、進出企業がそれぞれ単独でエネルギーセンターを建設するよりも、各企業が共同化することによって、より規模が大きく、そして結果的に各企業のエネルギー使用量の月間および時間の振幅を吸収できるようなエネルギーセンターを建設することの方が、効率、コスト、リスク、安定性などの面で良策ではないかとの見解も議論された。すなわち、時期の整合性の問題があるものの、工業団地内の各企業の工場・事業所の増設や改造や老朽化に伴う新設などの機会を利用した共同エネルギーセンターの建設を考慮すべきであるという問題提起がなされ、これも成果の一つであった。

さらに論を進めることにより、仮に工業団地内に未分譲の土地があれば、初期投資額や回収の問題があるものの、工業団地の運営・管理側が分譲に先立って、当該地区に進出しようとする企業・事業所のために一定規模のエネルギーセンターを建設する。

官邸が主導するデジタル田園都市国家構想実現会議

つまり、進出する企業・事業所は自分自身で用意することなく、別に建設される共同エネルギーセンターから、脱炭素時代に向けた再エネを活用した安定的で低コストのエネルギーの供給を受けることができる、というシステムが新しい事業形態の画期的な方策も検討された。そして、これらの将来の事業システムの検討に関して、今回の委託調査の手法ならびにデータ集積などが極めて有効であることも、併せて確認したところである。

【省エネ】エコキュート昼利用 再エネ利用を最大化


【業界スクランブル/省エネ】

 東京電力エナジーパートナーから太陽光発電(PV)、蓄電池、昼間沸上エコキュートを初期費用無料の定額サービス料金で利用できるサービスがリリースされた。併せて、PVと昼間沸上エコキュートを設置した顧客を対象とした、新しい料金メニューも発表された。今後、一戸建て住宅へのPV拡大が想定されており、政府の有識者会議でも2030年の新築一戸建て住宅のPV普及率目標を6割としている。また自治体レベルでは、東京都が住宅供給事業者などへPV設置義務を検討している。なお新築住宅へPV設置を義務化しているカリフォルニア州では、23年から電化レディ(電化機器設置に備えた配線などを敷設)の義務化が決まった。

このように、住宅へのPV設置が標準的となった場合には、PV自家消費を進めるために、エコキュートの蓄熱運転を夜間から昼間へ移行するのが理想だ。

エコキュートの給湯熱量の約4分の3は「空気の熱」からの取得熱で、運転時の外気温度と貯湯温度の温度差が小さい方が高効率なシステムだ。つまり、「冬より夏」「夜間より昼間」に蓄熱する方が省エネとなる。ヒートポンプ・蓄熱センターが公表した報告書では、夜間蓄熱の給湯システム効率4.0に対し、昼間沸上主体に運転時間を変更した場合の効率を4.6と試算している。蓄熱運転時間を昼間にシフトするだけで、15%もの効率向上を達成していることになる。

もちろん使用者にとっては、いつもの入浴行動の時間に必要な湯量は確保されているので不便ではない。純粋な技術開発で15%の効率向上を実現するのは大変で、機器価格が上昇する懸念もある。よって、省エネルギー推進・PV自家消費拡大の観点からは、昼間沸上エコキュートの普及拡大が望ましい。一方、現状のJIS基準のAPFは夜間蓄熱が前提の効率基準であり、住宅の省エネルギー評価にも当該JIS基準が使われるため、昼間沸上エコキュートの実際の効率が反映されない。早急なJIS基準策定とエネルギー消費性能計算プログラムへの反映が必要である。(M)

【マーケット情報/3月25日】原油急伸、需給逼迫の見込み強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み急伸。需給が一段と引き締まるとの予測で、買いが優勢となった。北海原油の指標となるブレント先物は25日時点で、前週比12.72ドル上昇の120.65ドルを付けた。米国原油を代表するWTI先物、および中東原油の指標となるドバイ現物はそれぞれ、9.2ドル高の113.9ドル、5.87ドル高の112.05ドルとなった。

スロベニアやルーマニアなど、複数の欧州連合(EU)加盟国が、ロシア産原油に対する制裁強化を呼び掛けた。EU加盟国の間では、ロシアのエネルギー産業に対する制裁で意見が割れていたが、ここにきてドイツが、今年半ばまでにロシア産原油の輸入量を半減させると発表。加えて、年末までに、国内製油所をロシア依存から脱却させるとの方針を示した。

フランスのトタルエナジーズ社は、遅くとも年末までには、ロシア産原油および石油製品の輸入から撤退するとしている。日本のエネオスと出光も、ロシア産原油の新規購入を停止。需給逼迫観がさらに強まる見通しで、価格が急伸した。

また、イエメンを拠点とする武装勢力フーシが25日、サウジアラビアの石油施設をミサイルで攻撃。同国のエネルギー施設は20日にもミサイル攻撃を受けている。供給不安に対する懸念が広がり、価格にさらなる上方圧力を加えた。黒海ターミナルが台風で損傷し、23日から一時的に出荷が停止したことも、需給逼迫観を強めた。その後、輸出は再開したとみられるものの、復旧時期については不透明な状態だ。

【3月25日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=113.90ドル(前週比9.20ドル高)、ブレント先物(ICE)=120.65ドル(前週比12.72ドル高)、オマーン先物(DME)=112.29ドル(前週比5.64ドル高)、ドバイ現物(Argus)=112.05ドル(前週比5.87ドル高)

【住宅】急進した省エネ 需要家側も最適化へ


【業界スクランブル/住宅】

今回は直近の四半世紀における住宅の省エネについて考えてみる。省エネの発端は1973年と79年のオイルショックであるが、97年の京都議定書から目標がCO2削減に切り替わり、エネルギー使用量の削減とともに、利用するエネルギーの質も評価されるようになった。

底上げ政策としての断熱基準の改定に合わせ、ヒートポンプ性能の向上(エコキュート)、給湯器の性能向上(エネファーム)、LED照明といった個々の住宅設備が大きく進化した。また、住宅用太陽光発電という再エネを直接ユーザーが利用する画期的な発電設備の普及も始まった。

2011年にはエネルギー基本計画で「高効率家電・照明や高効率給湯器、太陽光発電の利用、住宅の省エネ基準の適合義務化等により、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及を推進する」とZEHの概念が導入され、個々の仕様、機器別の導入推進から、住宅全体の総合的な取り組みへと方向性が進化していった。21年の段階では、大手住宅メーカーの新築一戸建て住宅の約半数がZEH基準に達しており、30年には「(省エネ)新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB(ビル)基準(水準)の省エネ性能が確保され、(再エネ)新築一戸建て住宅の6割において太陽光発電設備が導入される」との高い目標が設定されており、ZEHの普及が加速するであろう。

今後の展望であるが、21年の第六次エネルギー基本計画では「50年にカーボンニュートラルを目指す」との野心的な目標が設定された。達成に向け住宅・建築物ではZEH・ZEB、太陽光発電などのより高レベルな導入促進を挙げているが、これで十分であろうか。

高い目標に向けては住宅・建築物というくくりを超えて、建物内で利用される家電機器などとの最適化(ピークカットの運転)、自家用車(EV)との連携、さらには通勤通学での消費エネルギー削減(テレワーク活用)まで含めた、居住者の生活シーンにも踏み込んだ総合的なエネルギー最適化が求められる。(Z)

【太陽光】国益を守る再エネ 太陽光を使い尽くせ


【業界スクランブル/太陽光】

一次エネルギーの9割近くを海外に依存しているわが国にとって、エネルギー価格の高騰はダメージが大きく、長引けば国民生活への影響は計り知れない。しかし、なぜかエネルギー業界からも有識者からも、純国産であり、かつ燃料価格高騰時でも価格が安定している太陽光発電などの再生可能エネルギーへの期待論があまり聞こえてこない。それどころが、「出力が不安定な再エネがLNG価格の高騰を招いている」など、おとしめるような論調の報道さえある。

地球に降り注ぐ太陽エネルギーは膨大であり、その1~2時間分を全て活用できれば、全世界の1年分のエネルギーを賄えるともいわれている。日本でも、人が居住できる平地の約4%の面積に太陽電池パネルを設置すれば、国内の電力需要を全て賄えるだけ発電することも可能だ。建物の屋根・壁面や耕作放棄地、溜池などの未利用地の有効活用もできる。しかし、「日本は太陽光に向いていない」「これ以上の導入は困難」など誤った認識を持つ人が多いのに驚かされる。

もちろん太陽光に加え、洋上風力や水力、地熱、バイオマスなどの国産の再エネ、揚水発電や蓄電池のほかEV、ヒートポンプなどの需要側資源を組み合わせれば、電力自給率8割だって夢ではないはず。なのに、再エネは頼りにならない、将来もエネルギー供給は海外に依存して当然といった考えの人がいまだにいる。

国民負担の観点から、太陽光発電の大量導入を問題視する人がいるが、これも誤った認識だ。新規に認定される太陽光のFIT価格は1kW時当たり10円程度に下がっており、同20円を超えるような足元の卸電力スポット価格より随分安く、国民にとっては負担どころか利益になり得るレベルとなっている。

カーボンニュートラル実現のための再エネ活用は当然だが、一次エネルギーのほとんどを海外からの輸入に頼っている日本だからこそ、純国産でかつ燃料価格の高騰から国益を守ってくれる太陽光発電のポテンシャルを正しく評価し、国民のために使い尽くすことを真剣に考える人が多数派になる日を切に願う。(T)

【メディア放談】加熱する資源高騰報道 問題の根本議論は深まらず


<出席者>石油・ガス・電力/3名

昨年来の化石燃料高騰を受け、一般紙では消費者への影響などを訴える記事が目立つ。

ただ資源高の深層に迫り、問題の根本的な解決を訴える記事は限られる。

 ――岸田政権が踏み切った異例の石油価格高騰対策がついに発動。だが業界内で評価する声は少ない。

石油 7年ぶりに指標原油が軒並み1バレル90ドル台となった。石油元売りや商社などに補助金を支給したが、末端価格は下がっていない。上昇した価格を発動要件のレギュラーガソリン1ℓ当たり170円に〝戻す〟という感じだ。業界の仕組み的に末端価格が下がりにくく、やはり筋が悪い。そして北国は大寒波なのに、灯油は1ℓ当たり100円ほどまで上がり、地方紙が批判的に報じている。

構造問題報じる業界紙 朝日はLP料金問題を続報

――元売りや商社の決算が良いことも批判の要因になりそうだ。

石油 消費者の不満が高まれば石油業界のイメージが悪くなるだけだ。ただ、消費者の問題以上に物流業界など産業・業務用部門への影響の方が重要。その点の突っ込みが一般紙は甘い。

――今は自然発生的なカーボンプライシング強化状態。そこに補助金を投入し緩和することはカーボンニュートラル政策とは矛盾する。

電力 一般紙にはそんな論調は出てこない。また、電気やガス価格の高騰も徐々に取り上げられているが、石油のような緊急対策はなし。欧州で深刻化する「エネルギー貧困」が対岸の火事ではなくなりつつある。

ガス 資源高騰の問題は複層的だ。欧州で風力の稼働率が下がったことや、ウクライナを巡るロシアとの関係悪化、こうした欧州事情のアジアへの伝播などもあるが、根本的な問題は化石燃料開発投資の世界的な停滞だ。一般紙は消費者の視点やウクライナ危機にフォーカスしすぎている。

 その点、業界紙は構造問題を取り上げている。電気新聞は「化石燃料に適切な投資を」という日本エネルギー経済研究所の小山堅氏のインタビューを掲載。ガスエネルギー新聞も、同じくエネ研のガスグループマネージャーの分析で、2021年のLNG生産部門への投資が拡張案件ばかりだったと指摘している。

石油 ところで朝日は、昨年末1面で報じたLPガス料金問題を、2月上旬に3回連載で続報。今回は不動産関係者の問題も指摘したものの、LPガスの末端価格が上がっている時期に再度記事が出て、業界には再びのイメージダウンだ。日頃から不透明な価格問題の解消に取り組んでいれば、経済産業省との距離も縮まり、こうした事態は防げたかもしれない。

電力 電力全面自由化から丸5年以上経ち、燃料在庫を余分に持つことが難しくなった。EUタクソノミーの素案では原子力が認められたが、日本も再稼働に本気で取り組まなければ。だが、電力会社内でも部門間の隔たりが大きくなってきている。松野博一官房長官が2月9日の会見で欧州へのLNG融通について述べた際、国内の安定供給については「原子力を含め、あらゆる選択肢を活用していくことが必要」と答えたようだが、政府内からこうしたコメントが続くことを期待している。

日経は路線変更へ 洋上風力入札への関心続く

ガス ウェッジ2月号には政策アナリスト・石川和男氏の「規制委に全てを委ねる姿勢やめ政府指示で原発再稼働を」と題した原稿が載っていた。12年に大飯3、4号再稼働を指示した野田佳彦元首相のような決断が、今の政府にもできればよいが……。

電力 難しいだろうね。クリーンエネルギー戦略で原子力関連はエネルギー基本計画以上のことを書かないだろうし、電力業界は参院選まで事は動かないと思っている。

石油 毎日、朝日、東京は相変わらず「SMRで原子力復活か」などと書いていて、石川氏のようなコメントは扱わないはずだ。

ガス タクソノミーを受けて日経はさすがに再エネ押しから路線変更し、化石燃料と原子力の重要性を再認識する論調になった。ちなみに日経は「脱炭素商売」とやゆされた「選択」の記事を巡って訴訟中だ。どんな決着になるのか興味を持っている。

電力 それにしても、首相経験者5人が欧州委員長宛てに、原子力のグリーン認定に反対する書簡を出したことには失望した。5人は福島の子供たちが甲状腺がんに苦しんでいるなどと主張したが、これに自民党政調審議会が非難決議を了承したり、環境相が差別や偏見につながるなどと指摘する書簡を送付したりと、非難轟轟だ。

――産経は論説で「首相経験者としてあまりにも軽率」「速やかな撤回・謝罪が必要」などと断罪。ネットでも「恥ずかしい」といった声が多く上がったようだ。

 一方、自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟は洋上風力入札の結果で盛り上がっている。

ガス 総裁選に負けた河野太郎氏や小泉進次郎氏、そして河野氏らの取り巻きの巣窟と化している。環境・温暖化対策調査会も同じようなメンバーだが、こちらは井上信治氏が調査会長でコントロールが効いている。

石油 メディアも注目したね。年明けから洋上風力関連の記事を複数目にしたが、東洋経済の特集は読みごたえがあった。三菱商事はもちろん、敗戦の理由をJERA担当者に聞いたインタビュー、レノバや東電の誤算に踏み込んだレポートなどは面白かった。

ガス 萩生田光一経産相が年明けの閣議後会見で、入札結果について「個人的にはいろいろな仕組みを見てみたかったという気持ちがある」と述べたことも印象深い。萩生田氏はほかの場面でも、資料を読み上げるだけでなくたびたび自分の考えを差し込んでいるね。

―洋上風力は次の公募が始まったし、資源高騰問題も継続。今後も数多の記事が出るだろうが、どの媒体が抜きん出るかな。

脱炭素時代のセメント生産 新たな価値創造を目指して


【リレーコラム】深見慎二/太平洋セメント環境事業部長

セメントは1t製造するために420kgの廃棄物・副産物を原燃料としてリサイクルしている。総量は年間2600万t、品目としては石炭灰、高炉スラグ、下水汚泥、都市ごみ焼却灰、廃プラスチックなどであり多岐にわたる。セメントは石灰石、粘土、珪石、鉄原料などを調合して、石炭を熱エネルギー源として製造するが、それぞれの天然原料に代替できるものは「廃棄物」ではなく「資源」として再利用できる。既存の製造設備を利用するので新たな廃棄物処理施設が必要なく経済的であり、可燃物の焼却残渣もセメント成分として利用できるため2次廃棄物を発生させることなく完全なリサイクルを実現する。セメントの品質は天然原料を使用したものと変わらない。ゼロエミッションを実現するリサイクル方法として評価され、CE(サーキュラーエコノミー)の実現に向けた取り組みに一定の役割を担っている。

一方、CO2排出の点で、セメントは石灰石が主原料であり、製造で排出される年間4100万tのCO2のうち、60%が石灰石の脱炭酸反応から生じる。CEでは合格点でもカーボンニュートラル(CN)ではその域に至らない。排出されるCO2のうち、熱エネルギー由来は回収して燃料化すれば循環して使用が可能だが、石灰石由来は燃料化しても生産拠点では消費できない。

地域のエネ拠点にセメント生産拠点

解決のヒントとしては、セメントは元来地産地消の商品であり全国に生産拠点が点在することにある。生産拠点をエネルギーも供給する地域ハブの一部に転換できないだろうか。再生可能電力で水素を作り、CO2を燃料とし地域に供給することで、需要と供給を同時に創出し、新たな炭素循環を産み出すことができる。災害時には瓦礫などの処理も行うとともにセメントとエネルギー供給することで、地域のレジリエンスにも貢献が可能となる。

もう一つのヒントはセメント・コンクリート中のカルシウムにCO2を固定化させることだ。コンクリートは共用並びに解体時には一定量のCO2を吸収することが知られている。また一部のセメント鉱物は炭酸化することで強度を発現することが判っており、生コンや製品の製造時にもCO2を固定化できる。

理想は描けるが、実装には解決すべき課題は山積みであり、到底セメント業界単独ではゴールに到達することはできない。産官学の方々との継続的な交流、連携が必要となる。新たなCSV(共通価値の創造)=CE×CNという共通の頂きを目指して、決して平坦ではない道のりを一歩ずつ進んでいきたい。

ふかみ・しんじ 1986年京都大学工学研究科分子工学科卒、太平洋セメント入社。新規分野研究開発・営業、環境分野営業を経て2015年海外事業本部企画部長、18年から現職。

※次回はパンパシフィックカッパーの副社長・新井智さんです。

【再エネ】欧州エネルギー危機 多様化の重要性


【業界スクランブル/再エネ】

 昨年来の欧州エネルギー危機により、域内の電気料金が軒並み高騰している。コロナ禍からの経済回復が進み電力需要が回復した半面、風が吹かず風力発電の稼働率が低下。これを補う火力燃料の天然ガスの需給がひっ迫し、価格が急騰したためだ。フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が「安定した供給源である原子力と、(再生可能エネルギーへの)移行期にはもちろん天然ガスも必要」と明言したことや、グリーン投資を定義する基準となるEUタクソノミーに、一定の条件を付して原子力と天然ガスを加える案を提案したことは、このエネルギー危機と無関係ではあるまい。

では、日本も今後同様に高騰が生じる可能性があるのだろうか。日本の場合、長期契約の比率が高いため、欧州の天然ガス価格の上昇が直接与える影響は限定的である。しかし、中期的にはどうだろうか。日本の需要は、夏は冷房需要で昼間の一点ピークが立つのに対し、冬は暖房需要などで朝晩含め長い時間高需要が続き緩やかなカーブが続くことから、kWよりもkW時の確保が重要となる。対する供給力は、冬場の太陽光発電の稼働率は天候に左右されやすく、特に朝の立ち上がりなどの変動が大きい上、直前まで予測が困難。また、超厳寒期になると日中の稼働も見込めなくなる。こうした変動を主に補うLNG火力の燃料不足に端を発した2020年度冬季の需給ひっ迫は記憶に新しい。

長期的には30年以降、洋上風力が本格的に導入される。年間を通じて比較的安定して偏西風が吹く欧州と比較し、日本は夏場にあまり風が吹かず、稼働率は大きく低下するため、実は夏場のピークにはほとんど寄与しないといわれている。こうなると、洋上風力を大量導入した後も、これを補完する役割の電源が必要ということになる。

30年のエネルギーミックスによれば、火力はおよそ半減する。では、何で風況や日射量の不足を補うのか。デマンドレスポンスやバッテリーで足り得るものなのか。安定供給の基本は、電源の多様化だ。いま一度、欧州の事象からあるべき姿を考えたい。(N)

【石炭】褐炭から液体水素 豪州輸送始動


【業界スクランブル/石炭】

 原子記号「H」の水素は、原子番号「1」の元素で、原子が二つ結び付いた水素が 水素分子である。水素分子は、無色無臭で、地球上で最も軽く、宇宙全体で一番多く存在している物質である。HII領域では太陽をはじめとした恒星が水素をエネルギー源として輝き、炭素などほかの元素が形成していく。水素は、燃焼させても空気中の酸素と結び付いて水となり、地球温暖化の原因となるCO2を一切出さない。また、貯蔵性、可搬性(運搬)、柔軟性(利用) といった優れた特性を有している。そのために、現在世界的な課題となっている脱炭素社会の形成に向け、最有力な候補として水素に関わる技術開発が進んでいる。

その中でもオーストラリアの石炭利用の技術は注目される。ビクトリア州の褐炭から液体水素を製造し日本へ大規模輸送を目指すものだ。このプロジェクトは川崎重工業が日豪の政府による金融支援を受けて進めているもの。ビクトリア州に賦存する世界有数の埋蔵量の褐炭を、Jパワーの技術を活用してガス化。それを液化して日本に輸送するもので、日本が2050年までに炭素排出を実質ゼロとする目標を達成する上でも重視されているプロジェクトである。日本は、年間の水素需要を50年までに2000万tに増やすことを計画している。一方でオーストラリアは主要な水素輸出国を目指すきっかけにしたいところだ。

褐炭はエネルギー含有量が比較的少ないため低品位な石炭とみられており、産出箇所近くの発電所の一部で長らく利用されているものの、発電所の中には既に閉鎖されたり、閉鎖が予定されているものもあり扱いづらいとされてきた。石炭中の炭素ではなく、水素に注目し、脱炭素社会の形成に役立てていくことになるプロジェクトの成功に期待したい。

石炭を必要とする国々や機関と協力・連携して、引き続き重要なエネルギー源として、革新的なクリーンコールテクノロジーのイノベーションでゼロエミッションに挑戦し、世界のSDGsに貢献する社会を形成していく必要があろう。(C)

【吉川ゆうみ 経済産業大臣政務官 参議院議員】「CNで日本企業が勝つ仕組みを」


よしかわ・ゆうみ 2000年東京農工大学大学院修了。日本環境認証機構、三井住友銀行などを経て13年参院当選(三重県選挙区)。参院文教科学委員長、党女性局長を経て、21年10月から経済産業大臣政務官兼内閣府大臣政務官。当選2回。

学生時代から一貫してサスティナブルな企業経営を広げることに心血を注いできた。

政府の主要議題となったカーボンニュートラルや日本の環境・エネルギー技術の普及に尽力する。

 1992年の国連環境開発会議(地球サミット)が転機となった。高校卒業を控えたころ、報道を通じて酸性雨の森林被害や、先進国と途上国の立場を超え「持続可能な開発」を目指す難しさに触れ、「地球環境は私が守らなければ!」と一念発起。決まっていた進学先ではなく、当時は珍しい環境問題を扱う学部を探して進路変更した。東京農業大学、東京農工大大学院修士課程で学び、「環境に配慮した企業経営の広がりが地球全体のサスティナビリティにつながる」との思いを強めた。大学院修了後はコンサルティングやドイツの第三者審査機関に在籍。大学院在籍中に審査員資格を取得した国際規格・環境マネジメントシステムISO14001や、有機JAS(日本農林規格)などの業務に携わる。

他方で「企業の環境部などの取り組みが経営に直結していない。社会全体のエコシステム化には、金融が方針転換して環境に配慮した企業を評価することが必要だ」と考えるように。今でこそESG(環境・社会・統治)投資などは当たり前だが、15年以上前の日本の意識は希薄だった。そうした危機感を抱く三井住友銀行から声が掛かり、金融界に足を踏み入れる。この分野で欧米の主流はネガティブチェックだったが、ポジティブチェックで努力した企業の金利優遇などをする金融商品を次々と開発。融資先が評価を年々上げていくように、改善のアドバイスまで行う世界初の商品も作った。同時に、環境省や国土交通省などの審議会委員を務めたり、予算事業の相談を受けたりする中で、国に現場の声が届きにくいと痛感。国連の責任投資原則(PRI)など世界では環境金融の仕組みづくりが進むものの、日本の歩みは遅い。「強制的ではなく、環境に配慮した企業がもうかる、頑張った企業が報われ、自主的に努力した結果、社会や環境が良くなるサスティナブルな流れをつくる必要がある。そのためには国政で予算化や法制化に携わらなければ」。政治の世界に飛び込む決意を固めた。

初選挙から掲げる「環境と成長」 日本企業の底力に期待

2013年の参院選で、民主王国の三重県選挙区で初当選。三重で初の女性参院議員となった。「環境などサスティナビリティの取り組みと経済成長の両立」の実現を目指し、時代を先取りした「環境と成長」が、初選挙からのキャッチフレーズだ。

15年は環境問題の転換点といえる年だった。9月の国連総会で、SDGs(持続可能な開発目標)を採択。これに先駆け、自民党内に立ち上がったESG研究会に携わる。研究会の提言も踏まえ、当時の安倍晋三首相が国連総会のスピーチでサスティナブルな金融にかじを切ると述べた。「議員として携わった仕込みが結実し、世界に日本の存在感をアピールできた」と達成感を味わった。

そして同年12月には、温暖化防止国際会議・COP21に際してパリで開催された地球環境国際議員連盟(GLOBE)で決議書をまとめ、COP21に提言。パリ協定が採択される。GLOBE日本支部長だった小池百合子氏とは銀行時代からの付き合いだ。京都議定書と異なり先進国、途上国全てが関わるというパリ協定の理念にはGLOBEの申し入れも反映されたと、手応えを感じた。

その後も、党の資本市場・ESG投資プロジェクトチームで座長を務めるなど、ESG投資拡大やサスティナビリティと経済成長の両立に力を入れてきたが、現岸田政権もカーボンニュートラル(CN)を主要議題に掲げる。経済産業大臣政務官としてその一翼を担う。水素・アンモニア技術や、鉄鋼、セメントといったエネルギー多消費産業の脱炭素化などを、2兆円のグリーンイノベーション基金やR&D(研究開発)投資などできちんと支援することが重要だと強調。再生可能エネルギー政策では、送電網や蓄電池などのインフラ整備に加え、人材育成などにも一層リソースを割くべきだと説く。

万博担当大臣政務官も務める。25年の大阪・関西万博は「Society 5・0」の実証の場として、「日本のエネルギー・環境技術などを世界に体感し知ってもらい、投資などを検討してもらう機会にしたい」。

資源輸入国かつ再エネ適地が限られる日本の事情や、京都議定書時代などの努力がなかなか世界に伝わらず、歯がゆさも感じてきた。ただ、「日本の技術はもちろん、生産性向上や省エネなどの工夫を徹底するといった企業の在り方は他国から注目されている。ハード面だけでなく、日本のソフト面などの対応も、グローバルスタンダードにすることができる」。民間での多様な経験を生かし、製造業を締め付けるのではなく、CNの芽を育て、世界でもうかるように導く仕掛けに汗をかく考えだ。座右の銘の「為せば成る」はCNにも通ずると、日本企業の底力に期待を寄せる。

【石油】激変緩和策を発動 時代錯誤の補助金


【業界スクランブル/石油】

 ガソリン店頭小売価格は、1月24日調査で170.2円となり、基準価格を上回り、燃料油価格激変緩和対策が発動された。原油価格高騰対策として、ガソリンなどの石油製品の小売価格を170円に抑制すべく、石油元売り会社に卸価格の抑制のため原油価格の上昇分を補助金として支給するという緊急かつ異例の措置である。小売価格はスタンド経営者が自主的に決めるものだから、元売りに補助金を出しても、170円に抑制される保証はない。

確かに、制度上はよく考えられてはいるが、流通機構に直接介入するのは、いかがなものかというしかない。過去、日本を含め先進消費国が批判してきた、開発途上国の消費者対策である燃料価格補助金と変わらない。

30年前の湾岸危機の際には、国際的に、価格メカニズムへの介入は望ましくない、原油価格上昇は国内小売価格に転嫁されるべきであるとして、国内的にも月決め原油価格連動方式が奨励された。そうした中で今回の補助金が措置された背景としては、やはり、新型コロナウイルスの感染拡大からの経済回復に水を差してはならない、高い支持率を維持したいとする岸田政権の意向があろう。

ただ関係者によれば、現在適用停止中である160円を超えた場合の揮発油税暫定税率撤廃措置の復活要求を封じ込めるための措置だという。この暫定税率適用の一時停止は、消費者の要望が強く、過去2008年に1カ月間行われたが、石油業界・消費者間で大混乱をもたらした。

もともと、揮発油税免税措置を廃止すれば暫定税率撤廃は可能であるとする当時の民主党の鳩山内閣の政権公約であったが、免税の多くが石化ナフサで国際競争力維持上不可能となったことがあった。そういった経緯から、2000年代の原油価格高騰を背景に、民主党の顔を立てるための措置といわれた。

こうして見ると、今回の筋の悪い補助金は、民主党政権の亡霊といえるかもしれない。(H)

福島1号機のイソコン作動せず 冷却水蒸発で圧力容器が破損


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.12】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島1号機のイソコン(IC)は頼れる装置と信頼されていた。

しかし、不作動に気付くのが遅れ炉心の冷却に失敗した。

前回では輻射放熱の大きさを紹介しながら、空っぽになった1号機の溶融と爆発を述べた。今回はその破壊状況を主体に述べる。

正直にいって、高温状態が長時間続いた炉心挙動はよく分かっていない。米国PBF(Power Burst Facility)でのPCM実験(第8回参照)が数例あるが、冷却水が完全に蒸発して圧力容器が壊れたのは、福島1号機が最初だ。

なぜ1号機は空っぽになったのか。答えは簡単で、注水する設計ではなかったからだ。1号機の炉心冷却設備はイソコン(IC)と呼ばれる復水器で、2号機以降の隔離時冷却系(RCIC)と呼ばれる注水設備とは違う。バックアップの注水ポンプは存在したが、津波による停電で動かなかった。

イソコンは日本原子力研究所のJPDRや日本原電の敦賀1号機で使われた、一世代古いBWR(沸騰水型炉)の設備だ。水をためたタンクの中に原子炉の蒸気が流れるチューブを配して、自然循環で蒸気を復水させる熱交換器だ。僕はイソコンの運転を見たが、タンクの水が蒸気となって噴き出てよく冷えた。水は建屋の外から補給できるので、運転員からは頼れる装置と信頼されていた。

ただ、原子炉の運転中に間違って働くと発電に支障を来すので、チューブがつながるヘッダー(元管)に電動弁を置いて、非常時に蒸気を流すよう設計されていた。不運なことに、電動弁が閉じているときに津波がきて、停電が起きた。これが福島事故の発端だ。電動弁の問題は多くの議論を呼んだが、廃炉と関係ないので割愛する。

イソコンを気にしていたが 気付いたときは手遅れに

1号機の事故原因は、イソコンの不作動による冷却失敗だけだ。運転員はイソコンの作動状況を気にしてはいたが、運転制御室は真っ暗で、信号は全て消え、発電所本部との連絡もままならない状態であった。不作動に気付いた11日午後11時ごろには、原子炉の水はほぼ蒸発していて、手の打ちようがなかった。

1号機の圧力容器の底が抜けて、炉心の一部が格納容器に落下したことは前に述べた。BWRは、圧力容器の下部に細長い制御棒駆動機構が多数取り付けられているので、これも底抜けで落下した。従って格納容器の床上は、長い駆動機構が折り重なって横たわり、その上下や周辺に燃料デブリや溶融燃料、変形した炉心構造材料などが一緒になって、あるいは入り混じって、溶着したり落下したりしているのであろう。

これら落下物は、放射能で強く汚染し、さびているであろう。これらは全て炉心からの落下物であるから、圧力容器の真下に山積していることであろう。床上には水があったので、コンクリートの溶融はあまりないであろう。

水素爆発により5階フロアが破壊された

爆発による破壊は5階フロアだけで、ほかにはない。水素爆発としては極めて軽微だが、その理由は水素の発生時間が短く格納容器の気密が良好で、外部への漏出が少なかったことによる。格納容器圧力は、底が抜けた午前2時30分からベント減圧の始まる午後2時30分までの約半日間、7気圧のほぼ一定値に維持されていた。その記録が、唯一データが残った1号機の圧力計に表示されている。

格納容器の内部は、溶融燃料の放射能が付着して線量が高い。いまだに調査に入れないのは残念だが、事故の痕跡が残る宝庫だ。将来の事故解明ために、時間をかけて入念に調査して欲しい。

格納容器床上への燃料落下が2度あったことは、前回で述べた。先行落下した燃料は発熱の高い炉心中央部分だが、落下後に輻射放熱で冷えた。後発落下は出力の低い炉心外周部の燃料棒が多いが、注水の初期、蒸気と被覆管の反応による温度上昇で逐次炉心から落下し、格納容器床上で注水と反応して燃料溶融を起こした。

燃料溶融は、注水の始まった12日午後2時30分以降に始まり、爆発後もある程度持続していたと思われるが、詳細は分からない。

爆発についても前回で述べたが、後発の燃料棒が注水と反応して発生した水素が、格納容器上蓋を押し開けて5階フロアへ流出し、爆発したものだ。爆発の影響は格納容器内部には及んでいない。

廃炉工事への注意だが、制御棒駆動機構は地震対策のために、圧力容器の下部で格子状に鉄板で連結されていた。この連結により、底抜け位置の駆動機構はつながれて落下しない。圧力容機の底が一挙に抜けるとは考えにくいから、固着していている駆動機構にぶら下がる状態が続き、最終的に全体が落下したと思われる。この落下状況次第で、炉心落下物の散乱状況が変わるから、床上の状況は写真を注意深く検討する以外にない。その片付には格子の切断など神経を使う工事が予想される。

オークション価格が大幅低下 容量市場の問題点と改善策


【多事争論】話題:容量市場

2025年度を実需給年度とする容量市場の約定価格が、前回よりも大幅に下落した。

果たして現行のまま、供給力の安定的な確保という目的を達成する市場となり得るのか。

〈 市場への過度な行政介入 排除を意識した改善が必要〉

視点A:穴山悌三 長野県立大学グローバルマネジメント学部教授

わが国の容量市場について、2025年度分の第2回オークションの経過措置考慮後の約定総平均単価がkW時当たり3109円と、第1回の9533円から大幅に低下したことが耳目を集め、審議会などでもその評価が行われている。「市場なので価格が変動するのは当然である」とか、「過度なルール変更を都度行うのは適切ではない」といった審議会委員の意見はもっともであるものの、「この価格シグナルが4年後を的確に表しているかよく検討してもらいたい」との声にも矢面に立つプレーヤーの実感が込められている。

価格低下の背景には、電力・ガス取引監視等委員会が報告するように「事前監視の導入がNetCONE以上の応札に対するけん制を一定程度もたらしたことで、全体として、昨年度応札価格が高かった電源が低い価格で応札した」ことや、ゼロ円入札を含めて「NetCONE×50%(4686円)以下の供給量が約2700万kWも増加し、供給曲線が大きく右にスライドした」ことがある。

なお、CONE(Cost of New Entry)は、容量市場に新たに参入するプラントの長期的な限界供給費用を、Netはほかの市場(kW時を販売するエネルギー市場やΔkWを評価するアンシラリーサービス市場など)で得られる期待収益を差し引いたもの。新設電源は、kW時やΔkWの取引で得られる報酬の不足分を容量市場でカバーする必要があり、NetCONEはその見積評価額から導出される。

容量市場は「市場」とはいえ、人為的に設計されたメカニズムを通じて最適な電源容量確保へと導くことを期待するものであり、わが国に限らず容量市場を採用する当局はその設計に工夫を重ねる必要がある。米国PJMも、価格の不安定の解消などに細やかに修正を重ねて今日の制度を築いているが、なお人為的な設計に起因する各種の問題が存在し、さまざまな批判も続いている。

米国でも当局の恣意的な判断に懸念 数十億ドルの超過費用発生との分析も

トッド・アーガード、アンドリュー・クレイト両教授は共同執筆の論文「Why capacity market prices are too high」(22年)で、容量市場は「政策市場」であり、米国FERC(連邦エネルギー規制委員会)とRTO(地域送電機関)が価格が低すぎるという懸念にとらわれていると指摘。将来需要の想定やCONE計算の過大化傾向を検証して、これらが所要の容量を膨らませたために消費者に数十億ドルの超過費用が発生したと分析している。

「政策市場」は、従来の規制上の義務の下での遂行よりも効率的に、すなわちより低コストで政策目的(安定供給に十分な発電容量の確保)を達成するためのものである。そしてわが国の容量市場の設計・運営・規制には、ISO/RTOとしての広域系統運用の実績を重ねてきた米国以上に留意すべき点があるが、ここでは規制当局介入の増大に伴う諸課題について指摘したい。

わが国の公益事業の多くは規制産業として発展を遂げ、その後、いわゆる規制緩和を進めてきた。この過程で、許認可などの事前規制の緩和や事後的なチェックへの移行などの合理化を進めてきた。電気事業について見れば、旧一般電気事業者のアンバンドリングなどの構造変化もその一環であるはずであるが、安定供給不安に対処する容量市場のような制度設計において過度に規制当局の介入を強めることになれば、いわゆる政府の失敗を招いて事業者の主体的な経営活力を損なう恐れもある。

PJMにおいても、政治的なプロセスや当局の恣意的な判断に対する懸念が表明されている(上述論文)。容量市場の管理・運営について、また各市場参加者への事前介入について、裁量的な判断を伴う不透明なプロセスを許容することは、旧規制下における一般電気事業者が、透明化されたルールの下での意思決定を通じて安定供給責任を負っていた状況以上に非効率な結果を招きかねない。

「売り惜しみ」の事前監視や電源休廃止などの意思決定・実施のタイミングに過剰な制約を与えたり、「価格つり上げ」の監視と称して事前監視対象電源をもとにした維持管理コストの内訳を詳細に問うたりといった行政関与がいき過ぎると、実質的な退出規制や許認可規制時代の料金査定と同様になりかねない。減価償却費を含めないとルール化することも、原価回収できない事業者にとって不採算判断の材料となり得る。

当局には当初の自由化の趣旨に鑑みて、容量市場の引き続きのチューンアップに際しては過度な介入の排除という観点もぜひ意識してもらいたいと願っている。

あなやま・ていぞう 1987年東京大学経済学部卒、東京電力入社。96年東大大学院経済学研究科修士課程修了。2019年から現職。専門は公益事業論、規制の経済学、エネルギー経済、産業組織論。

【火力】技術軽視の発言 コメントに辟易


【業界スクランブル/火力】

 今年の冬は寒い日が続いた。心配されていた需給ひっ迫は起きずに過ぎようとしているが、世界的なエネルギー資源の高騰や慢性的な供給力不足の影響により、スポット市場の価格は高い水準が続いている。

このような状況も加味し、せんだって行われた電力・ガス基本政策小委員会において、国から来年度の電力需給見通しと対策、さらに今後の火力政策と小売り政策の論点を示す資料が提示された。

火力発電に関する記載に注目してみると、非効率石炭火力のフェードアウトと過度の電源退出防止という相互に矛盾している内容を、何のひねりも無くしれっと並べて記載してある点など若干不満なところもあるが、全体として火力発電の現状をよく拾い上げてくれており、今後の議論に期待したいと思う。

しかしながら、某委員の発言には辟易とさせられた。今年度運開した勿来と広野のIGCCについて、いまだ運転実績が不十分なため供給力としてカウントできていないとの説明に対し、「相当な失望」「石炭への期待値が下がった」「水素やアンモニアも似たようなことが起こるのではないか」との厳しいコメントがなされたことだ。

勿来と広野のIGCCは、当初から大型商用機として計画された世界で初めての発電設備であり世界最高水準の技術が詰め込まれている。しかし、最新鋭であるが故に運用や補修に関わることについては、実際に動かした実績から得られる知見を積み上げていくことも必要となる。商用機なのだから、ちゃんと動いて当たり前と言われるのももっともではあるが、トラブルなどの経験がさらに高度な技術につながっていくというのもまた事実なのである。

カーボンニュートラルには非連続なイノベーションが不可欠といわれているが、非連続に見えたとしても、何も無いところから新技術が生まれてくることなど無い。真にイノベーションを期待するのであれば、一時的な不具合をそしるのではなく、それも未来への種としてポジティブに受け止めてほしいものだ。(S)

【マーケット情報/3月21日】原油上昇、逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

3月14日から21日までの原油価格は、主要指標が軒並み上昇。米国原油を代表するWTI先物と、北海原油の指標となるブレント先物は前週比で急伸し、21日時点でそれぞれ112.12ドルと115.62ドルを付けた。需給逼迫感の強まりが、価格を支えた。

国際エネルギー機関は、ロシア産原油に対する制裁により、同国における生産が最低でも日量300万バレル程度減少する可能性があると指摘。夏季の燃料需要期、および在庫の記録的な低水準と合わさり、今後数か月で、需給が一段と逼迫すると警告した。

また、イエメンを拠点とする武装勢力フーシが20日、サウジアラムコ社のエネルギー施設をミサイルで攻撃。政情不安にともなう供給減少への懸念が強まった。

加えて、インドでは移動規制の緩和が続く。同国における2月のガソリンと軽油消費量は、前月比、前年同月比で増加した。また、27日には一部国際便の再開を予定しており、さらなる需要回復が見込まれる。 ただ、中東原油を代表するドバイ現物の上昇は、欧米原油と比較して限定的。中国では、新型コロナウイルスの感染者数が過去最多を記録。一部地域でロックダウンが再導入され、経済の冷え込みを背景とした需要後退の予測が台頭。ドバイ現物の上昇をある程度抑制した。

【3月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=112.12ドル(前週比9.11ドル高)、ブレント先物(ICE)=115.62ドル(前週比8.72ドル高)、オマーン先物(DME)=110.36ドル(前週比0.45ドル高)、ドバイ現物(Argus)=109.96ドル(前週比1.44ドル高)