【コラム/1月5日】長期エネルギー需給見通しと電源開発


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

昨年の10月22日に、第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。また、これを定量的に肉付けするために、長期エネルギー需給見通しも同時に発表されている。第6次エネルギー基本計画では、1昨年10月に表明された「2050年カーボンニュートラル」や昨年4月に表明された新たな温室効果ガス排出削減目標の実現に向けた政策の道筋を示すことが一つの重要なテーマであった。これを踏まえた新しい長期エネルギー需給見通しでは、2030年度の電源構成として、再生可能エネルギー発電の割合を前回見通しよりも10ポイント以上引き上げ、36~38%程度とし、原子力発電については、前回見通し同様の20~22%程度とするとともに、火力発電は15ポイント引き下げ、41%程度(うちLNG20%程度、石炭19%程度、石油等2%程度)とした。

長期エネルギー需給見通しは、1977年以降しばしば発表されてきた。見通しは文字通り解釈すれば単なる予測でしかないが、実際は、将来のあるべき需給の姿を描いている。だからこそ、関係者の利害を反映して、その改定時には常に侃侃諤諤の議論がなされるのである。しかし、根本的な疑問は、これらの数値目標を自由化市場でどのようにして実現していくのかという点である。長期エネルギー需給見通しは、もともと電気事業が独占であった時代に策定されていたものである。独占時代には、総括原価主義が適用されていたから、確実に投資コストの回収が可能であった。そのため、長期エネルギー需給見通しで示された電源構成は、電気事業者が遵守すべき目標と位置づけてもその実現は(理論的には)可能だし、むしろ、それは官民共同で作成されていたといってよいだろう。しかし、自由化市場では、規制当局が電気事業者に電源(ミックス)の開発目標をアプリオリに決定し、明示的にまたは暗黙にその遵守を求めるべきではないだろう。自由化時代では、エネルギー市場での競争力の源泉は、なによりも発電であり、電気事業者による電源選択については、基本的にその経営判断(競争戦略)を尊重すべきである。例えば、電源の脱炭素化のために、原子力発電、再生可能エネルギー発電、合成燃料を用いたガス火力発電、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)付きの石炭火力発電等のいずれをどの程度使うか、またどのような電源ミックスが競争上優位と考えるかは各社の経営戦略に依存する。また、自由化時代では、特定の電源(ミックス)を選好する需要家に対しては、そのような電源を提供する電気事業者の選択を認めるべきだろう。

競争的要素を取り入れつつ、あるべき電源構成を計画通りに実現するとしたら、需要家の電源に関しての選好を認めないことが必要となる。すなわち、規制当局が電源構成のシェアを予め決めておき、送電事業者に各電源の必要容量を競争入札で調達することを義務づけ、すべての小売事業者は同一の電源ミックスからなる電力を送電事業者から購入することを義務づけることが必要である。この場合には、調達してくる卸電力コストには差がないことから、小売事業者は、他サービスとのバンドリング、省エネ、家電機器の販売など、電力の付加価値の部分で競う合うことになるだろう。これは、計画的な電源開発と市場自由化の一つの妥協策として、欧州での電力自由化議論が始まった当初、フランスが提案したシングルバイヤーシステムの考え方である。しかし、自由化市場では、電力本体に関しての選択肢を認めることは当然なことである。グリーン電力100%の電力がほしいとか、最も安い電源の組み合わせの電力がほしいと考えている様々な需要家のニーズを踏まえて、電気事業者は電力を供給すべきであり、シングルバイヤーシステムが一般に受け入れられるとは思えない。

それでは、市場の自由化と矛盾しない形で、カーボンニュートラルを達成するためにはどうしたらよいであろうか。そのためには、環境への外部効果を内部化した炭素税や排出量取引を導入するのが基本的に正しい考え方である。これら制度の下で、経営の自由な創意工夫により、電源の脱炭素化が図られるべきだろう。とくに、将来的には、デジタル化の進展とともに、発電と小売を組み合わせた様々な革新的なプロダクトやサービスが創出されることになるだろうが、競争こそがそれを促進することになるだろう。シングルバイヤーシステムの考え方では、現在の技術を前提として、入札という一回きりの競争で、将来的に開発する技術を既存のものにロックインしてしまい、現段階では出現していないイノベーションを排除してしまう可能性がある。

ただし、シングルバイヤーシステムの基本的な要素である長期契約は、ある種の電源に適用される場合もあることは付言しておく。その典型的な例は、原子力発電であり、英国ではシングルバイヤーシステムと類似の制度として、差額決済取引型固定価格買取制度(Contract for Difference Feed- in Tariff: CfD FIT)が原子力発電に適用されている。しかし、このような長期契約に基づき投資コストの回収を制度的に認める電源は、エネルギーセキュリティやカーボンニュートラルの観点から必要不可欠と理論的根拠をもって判断され、パブリックアクセプタンスが得られるものに限定されるべきであろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

再エネ普及の一翼を担う 給湯器の遠隔制御システムを開発


【四国総合研究所】

LPWAで電気給湯器を制御し、需要負荷を調整する「放送型通信制御システム」。

昼間の太陽光発電量に合わせ負荷を平準化し、再エネ電源を有効活用できる技術が登場した。

 2030年度の温室効果ガス46%削減目標や、50年のカーボンニュートラル実現に向けて、今後ますます再生可能エネルギーの導入が加速する。だが、太陽光や風力など、再エネによる発電量は天候などさまざまな条件によって変動する。20年と21年の5月には西日本で日照量が増え、太陽光発電量が大幅に増えたが、蓄電できない電力のため余剰電力となってしまった。

電力会社では火力など複数の発電方法を組み合わせ、エネルギーマネジメントを行い需給バランスを取っている。このような発電設備の出力調整に加え、需要負荷を制御することも再エネ普及の大きな前進につながる。

四国総研は、電気温水器やエコキュートなどの電気給湯器を遠隔制御し、太陽光発電量カーブに合わせた沸き上げを行う「放送型通信を用いた『電気給湯器・遠隔制御システム』」を開発した。需要家側の給湯器が自律制御して、電力使用全体の需要負荷を調整する。

放送型通信による遠隔制御

電気給湯器を遠隔制御 需給の調整力として利用

家庭用の電気給湯器は、電気料金の安い夜間の時間帯に翌日分の湯を沸かし貯湯するしくみだ。夜間時間帯前の貯湯タンク残湯量から、沸き上げに必要な時間を計算し、夜間時間帯の明け方側に湯沸かしを行う。電力需要が少ない夜間の時間帯の負荷を構築し、負荷平準化にも貢献してきた。だが機器の普及が進むにつれ夜間の電力需要が増え、負荷平準化につながりにくくなっている。

四国総研は、湯切れを起こさず、湯沸かしでの電気料金が変わらなければ、電気給湯器を需要負荷の調整力として利用できると考えた。太陽光発電量の多い日は昼間に電気給湯器の沸き上げを行うよう制御して、新たな昼間負荷を構築し、電気給湯器を価値ある調整力として活用することができる。

電気給湯器の湯沸かし制御

開発したシステムは、低消費電力で長距離の無線通信ができるLPWA(920MHz・LoRa)を使って、中継局から制御情報を一方向で送信。受信エリア内の需要家機器が制御情報によって自律制御するしくみだ。

制御指令は前日の午後11時までに送信する。機器側がシフト制御情報を受信し、自器が制御対象だと識別すると、夜間時間帯の湯沸かしを中止する。必要沸き上げ時間を計算してアルゴリズムによって作り出された疑似乱数を用い、沸き上げ開始時刻を決定。翌日昼間の時間帯にシフトして湯沸かしを行う。

この仕組みにより、制御対象の集合体は、太陽光発電カーブに沿った負荷を構築する。太陽光発電の余剰分を無駄にすることなく有効利用できるのだ。

前日の太陽光発電の状況から、昼間シフトを行わない場合の夜間沸き上げにも疑似乱数の制御を導入して、明け方の沸き上げ負荷の軽減も図る。

各家庭の給湯利用に影響がないよう、残湯量検知による湯切れ防止制御なども考慮した設計になっている。

シフト制御の効果

安価を実現するLPWA 基板交換で既存品にも対応

軒)の需要家を対象に実施した。制御情報を送信する中継局から30㎞以上離れた地点や、建物内などの閉所に設置した電気給湯器、中継局からの制御情報を直接受信できない住宅でも、近隣の受信制御装置(リモート制御アダプター)を経由して、受信制御情報を再送信して確実に受信。機器を適正に制御し、太陽光発電カーブに沿った負荷構築ができることを確認した。スマートメーターの検針値で動作の事後確認もできる。

LPWAの活用で、エリア内に点在する多くの給湯機器を効率よく遠隔制御でき、安価で広いエリアのカバーが実現した。大量の機器制御に適した一方向の放送型通信を用いることで、VPP(仮想発電所)のような1対1の双方向通信を必要とせず、既存設備が利用できる。容易に上げDR(デマンドレスポンス)構築が可能な装置になった。

20年10月、四変テック社はこの制御プログラムを導入した電気温水器の販売を開始。既存製品は基板の交換で対応可能になる。03年以降製造の同社の電気温水器や、ECHONET Lite対応のエコキュートが対象だ。

電力技術部の吉田正志電力利用グループ長は「電気給湯器が需給運用対策や再エネの抑制回避、普及拡大への貢献機器となり、再エネ電源を多く持つ地域でこのシステムを活用してもらいたい」と意気込む。

再エネが主力電源となり、無駄なく安定的に利用できる電源になる大きな一歩になりそうだ。

全電化社会を目指すCE戦略 肝心要の「原子力」はどこへ?


岸田文雄首相が2021年10月8日の国会所信表明で打ち出した「クリーンエネルギー(CE戦略)」の議論がいよいよ始まった。経済産業省は12月16日、クリーンエネルギー戦略検討合同会合(座長=白石隆・熊本県立大学理事長)の初会合を開いた。

「クリーンエネルギーを中心とした社会システム全体での大きな構造転換に向け、現実的かつ段階的な移行・転換の道筋が求められている。昨年末のグリーン成長戦略、今年秋のエネルギー基本計画を踏まえ、供給サイドに加え、需要サイドでのエネルギー転換を意識した議論をお願いしたい」

保坂伸・資源エネルギー庁長官の冒頭あいさつが物語るように、議論のテーマは多岐にわたる。事務局が提示した検討用資料も計115頁に上る膨大な量だ。経産省の意気込みが伝わってくるが、具体的には一体何を議論するのか。

CE戦略合同会合であいさつする保坂・エネ庁長官(12月16日)

①エネルギーを起点とした産業のGX=再生可能エネルギー、水素、アンモニア、原子力、蓄電池などの分野ごとに、投資を後押しするためのビジネス環境整備の方策、②GX時代の需要サイドのエネルギー構造転換=製造プロセスで化石燃料・原料を用いる産業部門や民生、運輸部門について、海外事例なども踏まえ、具体的なエネルギー転換の処方箋、③GX時代に必要となる社会システム、インフラ導入=化石から非化石へのエネルギー転換などに必要となる新たな社会システム、インフラの導入への対応策―。

配布資料からは、これといったイメージが浮かんでこない。実は合同会合が目指す方向性については、岸田首相が12月6日の臨時国会の所信表明で分かりやすい言葉で表現している。それが、「目標実現には社会のあらゆる分野を電化させることが必要」。つまりCE戦略のポイントは「オール電化社会の実現」にあるのだ。

抜け落ちた「原子力」 注釈にこっそりと……

そう考えると、大量の資料も筋道立てたものに見えてくる。残念なのは、電化社会を支える供給力確保の抜本対策、すなわち「原子力をどうするのか」という論点が抜け落ちていることだ。

事務局が秋口に作成した当初の「アジェンダ案」には、安定供給確保の処方箋として「原子力は既存設備の徹底活用の方策(長期運転、再稼働の徹底推進)」が盛り込まれていた。しかし政府関係者によれば、衆院選を経て夏の参院選も控える中「原子力を前面に打ち出すのは時期尚早。CE戦略は需要サイドを中心に議論する」方向に。その後の事前資料では「脱炭素化に伴うコスト増への対応」の注釈として、「この議論の中で原子力を使わざるを得ないことを議論か」と書くにとどまった。

「こそこそやるから逆に怪しまれる。CE戦略では原子力の必要性を明示し、国民的議論を巻き起こしてほしいのだが…」。大手エネルギー会社の幹部は、ため息交じりにこう話す。あらゆる分野の電化に伴って、停電リスクが増大したら元も子もない。今こそ、政府としてのメッセージを堂々と国民に発信することが求められる。

新電力経営を襲う市場リスク 「供給責任」どう考えるか!?


日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場の価格変動リスクが高まり、新電力はその対策に苦慮している。

求められるのは、「供給責任」の在り方も含めた、システム全体で供給力を確保する仕組みの再構築だ。

昨冬の火力燃料不足に端を発した電力価格高騰を踏まえ、資源エネルギー庁は、発電事業者における燃料在庫状況の確認やインバランス料金への2段階の上限価格導入など、さまざまな再発防止策を講じてきた。だが、大手エネルギー系新電力の関係者は、「昨冬と状況は変わっていない。市場価格がフルタイムでインバランスの上限、80円/kW時に張り付いても不思議ではない」と、今冬も危機的状況は続いていると訴える。

実際、2021年9月に1kW時当たり7.9円(最高13円)だったスポット市場のシステムプライス(月平均)が、10月には12.1円(同50円)、11月には18.5円(70円)と上昇。特に11月22日には、東日本エリアでほとんどの時間帯で80円に達していた。太陽光の出力減などで買い札が売り札を上回り、売り切れ状態にあったためだ。

注意しなければならないのは、これが、本来であれば需要が減少し価格が低水準で推移しやすい端境期に起きたということ。10月ごろからアジアのLNGスポット価格指標である「JKM」の高騰が続き、「市場に卸電力を供出する大手電力会社が、自社の稼働ユニットを絞ったり卸価格の安い時間帯には逆に買い札を入れたりしながら、燃料の消費抑制に努めていた」(コンサルタント)。これを受けて、売り切れによるインバランスの発生を恐れた買い手側が上限価格で入札し、価格を吊り上げていたとみられる。

12月に入り、設備点検を終えた電源が復帰したためか、価格は17円(13日までの平均、最高は39.6円)と落ち着きを見せているが、寒さが本格化するのはこれから。独立系新電力の幹部は、「ここまで供給力が薄くなってしまった今、一つでもトラブルで停止すれば簡単にひっ迫する。それがこの冬起こらないという保証はない」と、戦々恐々だ。

今年も厳しい冬が予想される

日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事は、「欧州の電力やガスの先物取引を見ると、22年3月ごろまで約30円/kW時で推移している。日本でも、3月ごろまで15~20円を付ける可能性があり、半年間もの長期間にわたって高い市場価格にさらされるようなことになれば、新電力経営へのダメージは相当なものになるだろう」と見る。

供給力低下が顕著 リスクヘッジに限界も

昨年度の危機を踏まえ、新電力各社は、相対調達の拡大やベースロード・先物市場活用などを通じた市場依存リスクの低減に努めてきた。しかし、再生可能エネルギーの導入加速により火力発電が不採算化。老朽化した石油・石炭火力が退出する一方、新設火力がほとんど立ち上がらず、この1年で供給力は著しく低下している。前出の幹部も、「相対契約で供給力を押さえることが難しくなった。それが1年前との大きな違いだ」といい、調達交渉の場でそれを如実に感じているという。

さらには、JEPXでは電力需要の約20%が取引されているにもかかわらず、先物市場でヘッジできる量はその1%にも満たない。高圧系新電力関係者は、「先物ではとてもリスクをぬぐいきれないし、今はヘッジの意味をなさないほど高い。エネ庁は、『相対契約を結べ、先物で価格ヘッジしろ』とは言うが、実際にそのために必要な手段が十分にあるわけではない」と、「自己責任論」が独り歩きすることに不満げな様子だ。

一方、確かに供給力不足の実感はあるとはいえ、エリア需給は足りているにもかかわらず、市場で価格高騰や売り切れが発生することに疑念を持つ関係者も。その要因の一つとされているのが、複数の時間帯を指定しまとめて入札するブロック入札だ。

ブロック入札は、起動に費用が生じる上、短時間で出力を大きく増減させることができない火力電源の事情を考慮し導入された仕組み。これまでは、直前の需給を反映して停止中の火力の起動を促すなど卸市場活性化に一役買ってきた。ところが、燃料高騰の局面では、かえって市場での約定を妨げているのではと指摘されている。

電力・ガス取引監視等委員会は、前年から約2倍の価格上昇があった10月のブロック入札の影響を検証したところ、入札量全体に占めるブロック入札の割合が3.5%増加したのに対し、約定率の低下は3.2%にとどまったとし、ブロック入札が価格高騰の主な要因となった可能性は低いとの見方を示している。 ただし、ブロック入札の場合、指定する時間帯の全量が約定する必要があるため、約定しなかった場合には取引量が極端に減ってしまう。供給力が市場で取引されず調整力に回ってしまう実態には、新電力関係者も忸怩たる思いがあるようだ。

新電力業界再編は不可避 安定供給の仕組み再構築を

部分自由化当初は、自前の電源をある程度持たなければ参入できなかった電力小売り事業。全面自由化以降、持たざる者が市場の活用で利益を上げる「博打」状態を競争促進だといって放置し続けてきたことが、結果的に現在の新電力の苦境を招くことになった。

いずれにせよ、市場価格が安く、望めば相対取引で十分な量を確保できることを前提にした新電力のビジネスモデルは崩れた。既に、調達やリスクヘッジの負担を回避しようと、大手電力会社の取次ぎになったり、利益率の低い大口からの撤退に踏み切ったりする新電力が続出。今後も、撤退やバランシンググループ再編も含めた新電力業界の統廃合が加速しそうだ。

現状では、安定供給の最終的な責任の所在があいまいなまま、新電力は供給力確保義務の履行徹底を求められ、発電事業者は明確な需要予測に基づかない燃料調達に迫られていて、双方にとって事業の予見性が低い状態が続いている。

リスク分担の在り方も含め、システム全体で供給力、調整力を確保する仕組みの再構築が急務。その過程で、システムの安定化に寄与しない事業者のライセンス抹消など、強い措置を講じることも検討されるべきだろう。

【省エネ】次世代冷媒へ転換 地味だが重要技術


【業界スクランブル/省エネ】

 日本で「国民の食生活の改善のために食品流通体系の近代化が不可欠」であることから、科学技術庁資源調査会が昭和40年にコールドチェーン勧告を発表した。現在では、冷凍製品製造設備、冷凍・冷蔵倉庫、冷凍・冷蔵物流、店舗などによる冷凍・冷蔵保管で構築されたコールドチェーン網が完備され、食品物流だけでなく、医薬品物流や、個人利用の宅配便にも活用されている。また、冷凍・冷蔵の国際物流網も整備され、世界的なコールドチェーンも構築されている。当然、新興国の所得向上・経済成長に伴い、新興国内のコールドチェーンも整備が進むことは確実である。

これらの冷凍・冷蔵分野のエネルギー消費量は莫大で、この分野の省エネルギーは極めて重要だ。また、冷媒漏えいによる温暖化影響も注目されており、モントリオール議定書のキガリ改正により、先進国には対象冷媒消費量の大幅削減が義務付けられ、脱炭素社会実現のためにも次世代冷媒への転換が必要だ。

日本でも、NEDOで国プロを実施しているものの、コストも含めて、まだまだ多くの課題があるのが実情である。一方、ノンフロン冷媒も含めて一部の技術は製品化済みであり、高価格製品の普及拡大方策が課題となっている。よって、当該技術の省エネ化・低コスト化努力は継続しつつ、新設・既設更新については、ノンフロン冷媒などを使用した機器導入の義務化を段階的に実施すべきだろう。新規制は世界で最も厳しい内容となるが、長期的には各国も同様の規制が不可避であり、技術力に優れた国内メーカーが存在する、日本のコールドチェーンにおいて、ノンフロンなどの機器市場を早期に構築できれば、機器の普及・効率向上、機器価格低減が進むことが期待できる。そして、世界一厳しい国内市場で鍛えた、冷凍・冷蔵技術が世界の脱炭素化に貢献し、日本の成長と分配にも寄与する。グリーンイノベーション基金では夢溢れる単語が並んでいるが、「宝くじ」に投資するだけでなく、地味で華はないが、「より現実的な技術向上や成長戦略」の立案・推進も平行で進めるべきである。(Y)

【住宅】太陽光設置の義務化 あいまいな政策


【業界スクランブル/住宅】

 国土交通省の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」では「将来における太陽光発電設備の設置義務化も選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討し、その設置促進のための取組を進める」と示されたが、果たして太陽光発電の義務化は可能だろうか――。委員の意見は以下の通り。義務化賛成派は、「少なくとも新築住宅は義務化をしていくべき」「PPAモデルが普及すれば義務付けも可能」「日当たりによって義務化レベルを変える」。義務化慎重派は「地域や立地などにより発電効率に格差があり一律の義務化には無理がある」「義務化すると個人の負うリスクが顕在化する」「設備導入に係るコスト増は住宅取得を困難とする」といったものだった。

筆者なりに義務化の可能性を検討してみた。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)と同様に地域によって条件緩和するのは大前提になる。その上で、「太陽光発電設備導入によるコスト増」が最大の課題と考える。現実に、ZEHの普及率も住宅購入価格とリンクしており、費用負担の有無は重要である。これに関しては、第3者保有物(TPO)モデルの導入が始まっており、これが普及すれば建築主の追加負担なしで太陽光発電設置が可能になり、義務化のハードルは大きく下がると思われる。後は太陽光発電無し住宅を建築するかどうかである。自動車の世界では脱化石燃料が確実に進むであろう。理由は自動車メーカーがカーボンニュートラルに適合しない車をある時期から製造・販売しないと推測されるからである。

住宅においても、業界が太陽光発電の無い住宅は建築・販売しない、ただし設置費用は「負担有り自己所有」と「負担なしTPO」が選べるとなれば、義務化が現実味を帯びてくる。課題は住宅の業界が自動車業界のように変われるかどうかであり、実際にはさまざまな理由をつけて反対が起こるであろうが建築主由来でなく、業界由来の要因になったとき、反対を続けられるのか、義務化に際して最後は業界の覚悟が求められると認識すべきである。(Z)

【マーケット情報/12月24日】原油上昇、需給逼迫観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。新型コロナウイルス・オミクロン変異株の感染が拡大するも、需給が逼迫したことで、買いが優勢になった。

米国政府は、ロックダウンをしない方針。年末の休暇に向けて、移動用燃料の消費が増加するとの予測が強まった。また、インド国営製油所は、1月以降の需要増を見込み、高稼働を続ける計画だ。さらに、イタリアおよびフランスでは11月、車両用の燃料消費が前年比で増加し、2019年のパンデミック前水準を上回った。経済活動および石油製品需要が回復しているとの楽観が広がり、価格の強材料となった。

供給面では、リビアが政情不安を受け、生産を一部停止。加えて、リビア国営石油は、2か所の輸出港でフォースマジュールを宣言しており、同国からの供給が滞るとの見方が台頭した。さらに、OPECプラスの協調減産の順守率は11月、前月から上昇し、117%を記録。複数の加盟国が、変異株の感染拡大を背景に、生産設備の稼働を引き下げていたことが要因とみられる。米国の原油在庫が4週連続で減少したことも、需給を引き締めた。

一方、ドイツやポルトガル、フィンランドなど欧州の一部国家は、移動や経済活動の規制を再導入。中国の一部地域も、ロックダウンを再開。燃料消費の減少や、経済の冷え込みにともなう石油需要後退に対する懸念が強まり、価格上昇を幾分か抑制した。

【12月24日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=73.79ドル※、(前週比2.93ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.14ドル(前週比2.62ドル高)、 オマーン先物(DME)=73.54ドル(前週比0.30ドル高)、 ドバイ現物(Argus)=74.59ドル(前週比1.22ドル高)

※24日が祝日だったため、米国のみ23日との比較

【太陽光】FIT後の設備廃棄 保険加入努力義務化


【業界スクランブル/太陽光】

 2020年4月から太陽光発電設備の「火災保険・地震保険等の加入努力義務化」が施行された。また改正エネルギー供給強靭化法では、22年7月から10kW以上の事業用太陽光発電事業者に対して、太陽光発電設備の廃棄費用の外部積立が義務化される予定だ。

国内の太陽光発電設備の導入は、12年の固定価格買い取り制度(FIT)の開始により急速に拡大が進み、10〜50kWの低圧設備だけでも、現在62万件以上が存在する。低圧設備は、売電収入を目的にした個人所有のものも多く、発電事業者が、事業運営に関する知識を十分に持っていないケースや、設備の保守、点検が行われていないなど、問題の設備も多いようだ。大型設備に比べて低圧設備の保険加入率もまだまだ低く、自然災害に伴う設備の廃棄や、パネルの飛散による近隣住宅への賠償対応などの備えも十分ではないのが現状だ。そのような中、今後買い取り期間の終了に合わせて、発電事業からの撤退を考える事業者から、廃棄される設備が大量に出て来ることが懸念される。設備の廃棄やリサイクルの検討は、発電事業者の責任において確実に行われる必要がある。太陽光発電協会(JPEA)は、東京海上日動火災保険が開発した、FIT認定事業者向けの新たな保険制度「太陽光発電設備 廃棄費用&賠償責任保険」の団体契約者となった。この保険は、国が定めた「火災保険、地震保険等の加入努力義務化」に備える業界初の保険で、「廃棄費用の外部積立前や積立中における廃棄費用」、「太陽光発電設備の所有・使用・管理等や急増するサイバーリスクに備える賠償責任」を補償する保険制度で、発電出力10kW以上2000kW以下のFIT認定設備を対象として、50kWで約1万7000円と安価、かつウェブで簡単に加入できる。

発電事業者は、地域との共存共栄を目指し、安心、安全な設備で事業運営を行うことが求められている。そのためにも万が一に備えて、賠償資力の確保を行い、健全な事業運営を最後まで行っていく努力を怠るべきではない。(T)

【メディア放談】衆院選の結果 総選挙「自民・維新勝利」の波紋


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ・ジャーナリスト業界関係者/5名

衆院選では事前の予想に反して、自民党が過半数を上回る議席を獲得した。

野党では日本維新の会が躍進し、エネルギー政策でも期待が高まっている。

 ――衆院選では自民党が事前予測以上に票を伸ばした。ほとんどの政治評論家が予想していなかった。

石油 自民に支持が集まったというよりは、「敵失」に助けられた面が多いんじゃないか。中でも立憲民主党は大きく議席を減らした。代表の枝野幸男さんの演説を聞くと、さもありなんという感じがする。とにかく、何でも批判から始める。自公政権のすることは全て否定する。

 では、民主党政権のとき、枝野さんは一体何をしたというんだ。そういうところを見透かされてしまったのだと思う。

マスコミ 確かに人の悪口ばかり言う人間は信じられない。枝野さんは若者を意識した発言が多かったが、若い人たちは「どこか信用できない」と思ったかもしれない。

電力 午後8時にテレビの開票速報が始まって、各局とも自民は30議席近く減らす見通しと報じた。しかし、だんだん議席を伸ばしていった。テレビ局の予想は出口調査や事前の取材を元にしているが、安倍晋三さん、菅義偉さんの長期政権が続く中、「モリカケ」や桜を見る会などの問題があって、岸田文雄政権になってもメディアにはどこか「自民に負けてほしい」という期待感があった気がする。

ガス 静岡県での参院補選の大敗もあって、開票前は自民党内でも悲観論が多かった。接戦区の状況が読み切れず、幹部が「単独過半数は取れるか」と真剣に話し合っていたという。開票日の夜、テレビを見ていると、9時ごろの岸田さんの表情はまだ暗かった。

 ところが10時くらいになると、笑顔が見え出した。それくらい、自民の幹部も票を読めていなかったはずだ。

マスコミ ただ、静岡の参院補選で負けて、与党は気を引き締めた。一方、立憲は楽観的になって気が緩んだ。それに立憲・共産・社民・れいわの共闘が、立憲敗退の理由だと思う。中国海警局の船が尖閣列島の周辺海域に侵入し、北朝鮮は新型ミサイルを発射するというのに、「日米安保廃棄、自衛隊解消」と唱える共産と手を組んだ。国の安全保障については、立憲や共産などよりも、普通の国民の方がはるかに危機意識を持ってよく考えている。立憲は国民を甘く見たとしか言いようがない。

自民「大物」が落選 党政調人事に難航

――自民も「大物議員」が落選している。

石油 比例で復活した甘利明さんは良かったと思う。石油業界にとって痛かったのは、野田毅さんの落選。業界に理解があって、LPGでも議連の会長だった。党税調の会長を務めたことあって、頼りになる政治家だった。

 前回の選挙で、野田さんと同じ財務省出身の西野太亮さんに追い上げられて、大分危機感を持っていた。今回、西野さんに5万票差を付けられてしまった。

電力 原子力規制に関する特別委員会の会長だった原田義昭さんも落選。自民党ではベテラン議員の多くが議席を失ったことで、政調の部会長、調査会長、特別委員会の会長の人選に大分、苦労したらしい。

―日本維新の会が大きく議席を伸ばした。中でも大阪は、「維新旋風」が吹いた。

ガス 維新の大勝で、大阪の自民は全滅状態。自民には投票したくないが、理想論を掲げる立憲、共産にも入れたくない層が支持したようだ。主張する政策も現実的なものが多くて、これから党勢を伸ばしていくかもしれない。

ジャーナリスト 維新は衆院選では原発は市場原理でフェードアウトを目指すとしたが、核燃サイクルを含めて、現実的な路線を進めるのではと期待している。

 関西電力は、福井県にたまり続ける使用済み燃料の中間貯蔵施設の立地に頭を痛めている。2023年末までに立地点を決めると福井県の杉本達治知事に約束しているが、最有力の青森県むつ市の施設の共同利用案は進展していない。維新ならば、この問題を解決できるかもしれない。

関電の中間貯蔵問題 維新の躍進で解決も?

――なぜ中間貯蔵の問題を維新の会が。

ジャーナリスト 松井一郎代表は、福島第一原発のトリチウム水処分の議論が難航した時に、「科学が風評に負けてはだめだ」と反発して、「大阪湾で放出してもいい」と言った。松井さんは大阪市長。普通、自治体の首長で、ごく微量で全く無害とはいえ、他の地域から出た放射性物質の放出を認めるような人は、地元の住民や漁業関係者などの反発を考えるといない。

 今は党から退いているが、元代表の橋下徹さんに至っては、ツイッターで「大阪湾だと兵庫県や和歌山県からクレームが来るというなら、(大阪の)道頓堀や中之島へ」とつぶやいている。維新なら、「もともと関西圏で使った電気で出たもの。安全なものなのだから、関西圏で預かってもいい」と考えるかもしれない。

――トリチウム水と使用済み燃料では、住民の受け止め方が大分違うと思うが。

ジャーナリスト 乾式貯蔵される使用済み燃料は、もう十分に冷却されて安定した状態にある。中間貯蔵が周辺住民の健康に影響を与えることは考えられない。

電力 確かに使用済み燃料の中間貯蔵は全く周囲に影響を与えない。松井さんがそう考えてくれるなら、大阪で維新が躍進したため議論になるかもしれないが、実際は難しいだろうな。

――根拠のない楽観論ばかり唱える政党が多いから、その点でも維新の地に足の着いた主張は受け入れられたのかもしれない。エネルギー政策でも、現実的な政策を期待したい。

【再エネ】風力の出遅れ 巻き返しなるか


【業界スクランブル/再エネ】

国内の風力発電はこれまで陸上風力発電が中心で、昨年度末の累積でも約450万kWにとどまっている。これは世界の導入量の0.6%程度に過ぎず、欧米の主要風車メーカーから見た市場価値は低い状況にある。

理由は、2012年に再エネ電源の固定価格買い取り制度(FIT)が施行されるも、同時に環境アセスメント法が施行され、アセスメント調査や都道府県知事意見、大臣勧告を集約しての是正措置が求められ、実質7500kW以上のプロジェクトが停滞したことが主要因である。特に各地域の調整力と送電容量の問題で系統接続が出来ないことも大きな要因になっており、さらに風力事業の環境アセス長期化の間に太陽光発電など他の再エネ電源の導入が進み(太陽光発電は既に6000万kWを超す導入量である)、結果的に風力が系統接続できにくい状況にある事も背景にある。

このような事業環境の中、50年カーボンニュートラル宣言により40年、30年にバックキャストする形で、脱炭素化の各事業分野の目標議論が行われ、30年の電力部門の電源見通しでは、野心的目標として再エネ分の発電電力量比率で36~38%を目指す方向が示された。この結果、エネルギー基本計画では、風力発電設備が陸上で1330万kW(政策強化1590万kW)、洋上で170万kW(政策強化370万kW)の導入見込みとなっている。

一方、これを確実に実現する課題解決の手段として、①洋上風力地点を含む再エネ促進区域の設定、②事業規律の強化、③FIP(市場連動価格買い取り制度)対応のコスト低減・市場統合、④系統利用ルールの見直しを含む系統制約の克服、⑤環境アセス適正化を含む規制の合理化、⑥次世代太陽光パネル、浮体式構造物の要素開発を含む技術開発―などが国の指針として示されている。

特に系統制約の課題克服は、整備と制度変更にも時間を要するため、将来の洋上風力の遠地大量導入も見据えた送電線の整備、調整力の確保の道筋を付ける事が非常に重要だと考える。(S)

理念としての脱炭素 2100年は視野に入るか


【リレーコラム】古關惠一/ENEOS中央技術研究所技術戦略室

エネルギー需要、企業家精神、ライフスタイル変化、イノベーションを手掛かりに考えてみる。人口減少下、需要喚起には魅力ある付加価値品が必要だ。歴史的に需要喚起も容易でなく、国民は、普通は置換の需要分しか求めない。例えば、1588〜1668年のスパイス交易におけるオラニエ家&オランダ東インド会社の東南アジアへの海洋交通変革とビジネスに目が留まる。13〜18世紀の「マルサスの罠」から産業革命時代に至る前段で資本蓄積を可能にした点は特筆すべきで、「ライフ変化」の光の部分でもあった。これらは「肉の食文化」の価値を目指し企業家がつくった市場だ。これらは陸上から海上の物流のモビリティを変革しエネルギーを変革し、後の産業革命に向けた成熟を準備した。産業革命以前に「成長」が達成されたのである。

しかし一方、米国や南米での奴隷貿易は、今日もある人権問題や経済格差の問題にも波及があり、植民地支配の歴史に連なることは影の部分。大企業・グローバル企業活動とは何ぞや、という問いも必要で利益優先がもたらした苦難の歴史があることも忘れてはならない。科学・技術が人間の諸問題を解決するほど万能ではなく両刃の剣なのは常識であるのと同様「企業家精神によるマーケット創出」もその面がある。問題はこれら「企業家精神の熱狂・技術が需要を産む」成長には副作用があるという点。そして脱炭素やカーボンニュートラルも単純ではないし例外でもない。

新資本主義議論への接続

さらに今回の再エネの社会実装にイノベーションは不可欠と見えるが、「イノベーション」は頻繁に起きず不確実・不可視なのが、エネルギー分野である。イノベーションが不透明な中、脱炭素の歩みが「企業家精神」による事業頼みでは実現に危うさがある。

一般の想像以上にしわ寄せは弱者に行く。安全保障の等閑、高コスト・エネルギー欠乏、エネルギー獲得競争を不用意に加速、などの危険は、エネルギーは市況品かつ生存に不可欠であるがゆえに弱者に大きく影響する。レジリエンス重視をいうのはこの理由でもある。内閣も変わり「新資本主義議論」の入り口である今だからこそ、特に「ライフの変化」を主導する「企業家精神」とその陥穽に注意し、地道な「イノベーション」特にコストが比較的かからない基礎研究部分を愚直といわれても重視してはどうか。特に「単体」ではなく様々な科学・技術の組み合わせを土台に「人体」並みに精妙かつ精緻にするエネルギーシステムが中長期では特に重要であり、欧米に主張できる考え方=べき論であろうと思う。

こせき・けいいち 1985年東京大学工学系大学院修了、88年東亜燃料工業入社。2003年東燃ゼネラル石油中央研究所首席研究員、戦略企画・調査部長を経て、17年JXTGエネルギーフェロー。21年から早稲田大学招聘研究員を兼任。

※次回は出光興産フェローの柳生田稔さんです。

【石炭】ガイドライン改定 海外融資の展開


【業界スクランブル/石炭】

英国でのCOP26で、相変わらず石炭攻撃が目立つ。各国の地政学的立地を考慮せずに政治的に他国の石炭利用を攻撃する動きにはあきれるばかりだ。脱炭素戦略の必要性は理解できるが、そのやり方は各国が自国のエネルギー事情を鑑みて、選ぶ権利があるはずだ。

日本のECA(輸出信用機関)である、日本貿易保険(NEXI)と国際協力銀行(JBIC)の動きには注目すべきものがある。現在、先進各国を中心にESG経営の一環で各社の株主総会で環境対策、特に地球温暖化対策が議題になっている中、石炭火力に対する課題が多くあり、新規融資停止を提案する株主が多い。そのような中、NEXI/JBICが日本国の海外融資のための環境ガイドラインの改定に着手し、原案を、説明会の形で公開していることは意外に知られていない。

NEXI/JBICの環境ガイドラインは、2001年に制定されたのち、15年の改正の検討にあたっては、民間企業、NGO、政府機関など広く参加して改訂。コンサルテーション会合を、13年12月の準備会合を含め、翌14年11月まで計11回開催。国民の意見聴取を行い、これらの議論や意見をもとに改正した。

2021年1月、NEXI/JBICは環境社会配慮ガイドラインの見直しをすることを発表し、2月より公開にてコンサルテーション会議が開催されている。赤道原則などOECDルールをもとに作成されており、モニタリングチェックシートはNOx、SOxのような項目がある。会合第1回は2月16日からWEB形式で開催され、結果は全て公開されている。

その内容は、他国のガイドラインや日本が出資し社会問題化しているインドネシア、ベトナムなどについて解析されている。温暖化問題だけでなく、住民立ち退きなどの人権問題を含め、環境NGOが積極的に議論に参加しているのが特徴だ。中でも環境NGO、メコン・ウォッチの質問が目立つ。石炭を進めるミャンマーに対して、「石炭マネーが軍事政権のクーデターの温床になる」との懸念も出ており、議論が複雑に絡み合う。今後の展開が気になる。(T)

【佐藤 啓 自民党 参議院議員】「原子力がなければ国を守れない」


さとう・けい 2003年東京大学経済学部卒、総務省入省。16年参議院議員(奈良選挙区)。参院経済産業委員会理事、党参院国会対策副委員長などを歴任。20年経済産業大臣政務官・内閣府大臣政務官・復興大臣政務官。

「国のために自分は何ができるか」と考え、大学卒業後、総務省の官僚に。
国会議員としては、経済を立て直すため「予防医療」など新産業の創出に力を入れる。

奈良県のサラリーマン家庭で育った。中高一貫の西大和学園を出て、東大に入学。早くから、卒業後の進路は国家公務員に決めていた。国民のために働く仕事を目指した背景には、故郷・奈良での学生時代に出会った友人の存在があった。

その友人は、学業に優れていながら、家庭の事情で危うく進学を断念するところだった。傍らにいながら十分に力になれなかったことに、世の中の理不尽と無力さを感じた。「国を良くするために自分は何ができるか」。結論は、官僚となり、真面目に努力している人たちが報われる社会に貢献することだった。

総務省に入省し、地方行政の道に進む。役人としての基礎的な知識、スキルをたたき込まれた。2011年7月には、東日本大震災と福島第一原発事故の傷跡が残る、茨城県常陸太田市に政策企画部長として赴任する。

被災者の支援、被害を受けた生活・産業基盤の復旧と復興、土壌の除染、風評被害対策―。やるべきことは文字通り山積していた。それらの課題に取り組む日々が続く。やがて、新しい取り組みをはじめると、住民からダイレクトに反響がある自治体行政にやりがいを感じはじめた。常陸太田市も全国の多くの自治体と同じように、少子化・人口減少に頭を痛めている。そこで、子どもを育てやすい環境への支援を政策の柱に据えた。キャッチフレーズは「子育て上手、常陸太田」。市は宝島社が行う住みたい田舎ランキングで、18年に人口10万人未満の部門で子育て世代が住みたい田舎の第1位に選ばれている。 2年8カ月を過ごした常陸太田市では、「総務省はバックアップはするが、自治体が良くならないと地域は良くならない」と肌で感じた。また、「自治体自身の努力では限界があり、国による政策立案が欠かせない」ことも痛感。国政への参加の意思を固める。地元選出の代議士の推薦を受け、16年7月の参院選に出馬。初当選を果たした。

日本の地位低下に危機感 「予防医療」を新たな産業に

参院では外交防衛委員会、経済産業委員会などに所属。国会議員となり、あらためて日本が世界の中で置かれている立場を見ると、明るい景色は目に浮かんでこなかった。米国・中国に明らかに後れを取ったデジタルテクノロジー、欧州諸国などに主導権を奪われたグリーン関連の制度や技術――。だが、戦後、先人たちが苦労を重ねて築き上げた日本を、このまま二流国に転じさせるわけにはいかない。

今力を入れているのが「予防医療」だ。少子高齢化が進む一方で、「人生100年時代」を迎えている。これからは高齢者に健康で長く活躍してもらうことが欠かせない。総務省の先輩、上野賢一郎衆院議員とタッグを組み、病気の予防と健康づくりで持続可能な社会保障制度を目指す「明るい社会保障改革推進議員連盟」を立ち上げた。事務局長を務めるこの議員連盟を、世耕弘成参院議員や加藤勝信衆議院議員も応援。厚生労働省も前向きで、要望を踏まえて予算措置が取られている。

予防医療は新たな産業としても期待している。診断・検査・医療の分野は、日本が世界の先端を走っている。国内の需要だけでなく、海外へのノウハウ移転や輸出などへの期待も大きい。「新しい産業として立ち上げたい」と強調する。また、国を守る観点から防衛産業の強化にも力を入れている。自衛隊だけが納入先では、装備品の高コスト化は免れない。そのため、防衛用レーダーなどの輸出促進にも取り組んでいる。

エネルギー政策については、20年9月に経済産業大臣政務官に就任してから「見る目が変わった」。電力・ガス事業での自由化、資源価格の高騰などが進む中、エネルギー安全保障の重要性を強く認識。その中で原子力については、「50年カーボンニュートラルの達成、エネルギー安全保障を考えると、原発の新増設・リプレースは欠かせない」と考えている。

心配しているのは、長く国内でプラント建設がないため、原子力に関わる技術が廃れていってしまうことだ。「日本の原子力技術は先人が長く積み上げてきたもので、これを捨てるのは国として大きな損失。軽水炉だけでなく、HTTR(高温ガス炉)、SMR(小型モジュール炉)などでも、世界の最先端をいく可能性がある」。エネルギー安全保障の要として、原子力については「維持、発展させなければ日本を守れない。若手の同僚議員を啓発したい」と話す。

休暇の息抜きは、子どもの服・靴などをインターネット通販で買うこと。愛読書は宮本輝の『青葉散る』。「主人公がテニスに打ち込んだ自分の学生時代と重なる。ハッピーエンドでないところがいい」と、ロマンチストの一面ものぞかせた。

【石油】追加増産を拒否 OPECプラスの意図


【業界スクランブル/石油】

11月4日にオンラインで開催されたOPEC(石油輸出国機構)プラスの会合は、毎月40万バレルという通常の減産緩和に上乗せして、消費国から強い要請のあった追加増産は実施しないことで合意した。新型コロナウイルスの感染再拡大による石油需要急減を懸念しての決定とコメントされているが、専門家からは不安定な石油収入の補てんも意識しての決定ではないかとか、英国で開催中だったCOP26における脱炭素政策の議論へのけん制も意図しているのではないか、との観測も出されている。

1970年代に猛威を振るったOPECに対抗するため、石油市場ではIEA(国際エネルギー機関)の設立や先物市場による取引価格の透明性確保といった対策が取られ、さらに2000年以降は米国を中心にシェールオイルの生産も急拡大して、人為的な価格設定や石油を政治利用することへの歯止めが幾重にも掛けられ、石油市場は比較的安定的に推移してきた。昨年の新型コロナウイルスの感染急拡大に伴う石油需要の急減でも大きな混乱が生じたが、感染拡大に一定の歯止めがかかることで、石油市場は徐々に秩序を回復するかに思えた。

しかしこれに脱炭素の流れが加わり、市場の混乱は複雑化の様相を呈し始めている。かつて石油市場の安定を最優先に掲げていたIEAが化石燃料開発への投資抑制を呼び掛けたことは、先進国の石油・天然ガス生産、とりわけシェールオイルの生産に影響しており、産油国に再び市場の主導権を与える結果になりつつあり、これによりようやく作り上げたエネルギー市場でのパワーバランスが変化してしまう懸念が出てきている。無論、再生可能エネルギーは高コストであることから、そのコストレベルへの移行を意図して価格変動を容認すると見ることもできるが、急激なエネルギーコストの上昇は、途上国をはじめとする経済的弱者が最もしわ寄せを受けるものであり、安定供給に向けた市場の再構築が、政策決定者とエネルギー供給者に早急に求められているのではなかろうか。(H)

炉心急冷で何が起きたか 福島2・3号機「溶融」の経緯


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.9】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

高温の炉心を水で急速に冷却すると炉心溶融が起きる。

福島2・3号機がどう炉心溶融に至ったか、その経緯を解説しよう。

原子炉の炉心溶融は、高温の炉心を急冷することで起きる。この結論を基に福島第一の溶融までの経緯を説明するが、都合上、2、3号機から述べる。

2号機の冷却状況が悪化し始めたのが事故から3日目、3月14日午前10時ごろだ。事故から3日が経ち崩壊熱は0・4%程に減っているから、燃料棒は冷却水とほぼ同じ温度になったと考えてよい。

18時、蒸発で原子炉水位は減少し、炉心最下部に下っていた。海水注入を決意し、安全弁を開いて原子炉圧力を低下させた。30分後、圧力は5気圧に下り、冷却水温度は150℃に下がった。この時、消防ポンプによる海水注入が実施されていれば、炉心溶融が起きなかったことは前号で述べた。残念ながら、注入は1時間半遅れ、その間に燃料棒温度は再上昇して1000℃以上になっていた。

この状態で海水が注入された。この後の説明は無用だろう。酸化皮膜が破れてジルカロイ燃焼が始まり、炉心は溶融した。なお、原子炉水位は炉心溶融後も記録されているから、圧力容器は健全であり、メルトダウンはない。

TMIと酷似する2号機 「殻」の形成は不明

2号機の溶融状況はTMI事故と酷似している。TMIの溶融は注水直後に起きたが、2号機の溶融は注水の2時間後だ。この遅れは、前述の注水遅れに加えて、海水が炉心に到達するまでの時間である。両者ともに反応は激しかったが、2号機は消防ポンプの容量が小さいので、殻に包まれた溶融炉心が形成されたか否かは不明だ。形成されていれば、TMIと同様に、炉心の取り出しは比較的容易であろう。

なお、2号機は水素ガスが気団となって原子炉建屋の開口部から流出しているから、爆発による原子炉建屋の損壊はない。

2号機は水素ガスが建屋の開口部から流出した
提供:東京電力

流出した気団は、溶融炉心から出てきた水素ガスだから、濃い放射能を伴っていた。従って、その放射能の通過後は汚染による放射線量が高い。格納容器の内部や5階フロアーの線量は現在も強く、人の立ち入りはできないと聞く。

原子炉の西、約800m離れた発電所正門にモニターカーが配置されていて、放射能の放出を自動測定していた。測定された2号機の放射線量は、1、3号機に比較して約100倍高い。

2号機の放射能は溶融炉心から直接放出されたものだが、1、3号機は水ベントを通過して放出されているので、この差が水ベントの除染効果となる。水ベントは、2mほどの深さの水に放射能を潜らせるだけだが、その除染効果はけっこう大きい。

「たら、れば」の話しになるが、もし2号機の放射能がベントを通っていれば、線量は1、3号機と変わりなくなるから、福島第一からの放出放射能はIAEA(国際原子力機関)勧告の許容被曝線量値、20ミリシーベルト(mSv)を超えなかったことになる。

2号機の汚染は5階だけだったので、発電所の施設を利用したロボット調査がいろいろできた。

数年前に、俗称「マンボウロボット」が白色のデブリを見つけたとマスコミが報じたが、これは勇み足だろう。おそらく、2号機の原子炉が高温となったために、圧力容器を包む断熱材のアルミが溶け落ちたものであろう。デブリの素材であるウランも溶融燃料も、色は黒い。白くはならない。原子力報道となると記者が常識を失って、白黒の見分けすらつかなくなり、風評を勝手につくる。

咋年、格納容器の壁際に燃料棒頂部が落下しているのが2号機で発見された。熔融炉心の残渣発見との報道もあったが、これも間違いだろう。熔融炉心の残渣なら真下に落ちる。壁際に落ちない。詳述は避けるが、気団流出の慣性の戻しで、少量の空気が圧力容器に流入し、液面上で水素爆発が起きて容器下部が壊れ、その爆風で燃料棒の頂部が飛び出し、壁に当って落下したものであろう。

3号機は2号機と同設計の姉妹炉だが、直流電源が生き残ったので事故時のデータも残っている。安全設備も自在に操作できたので、格納容器スプレーを作動させるなど事故対応上の操作も多く、運転経緯は極めて複雑だが、廃炉と無関係なので説明は割愛する。