温暖化で注目集まる電気の環境価値 需要家が分かりやすい電源構成表示を


【多事争論】話題:電源構成表示の在り方

再生可能エネルギーの導入拡大が進み、電気の環境価値への注目が高まっている。 FIT、非FITなどが混在する中、あらためて電源構成表示の在り方が問われている。

<FIT電気の環境価値は全電源平均 再エネと分け固有の電気として扱うべき>

視点A:市村拓斗 /森・濱田松本事務所弁護士

エネルギー供給構造高度化法(高度化法)に基づく中間目標の第1フェーズが今年度から開始し、原則5億kW時を超える小売り電気事業者は、3年度の平均で達成状況が判断される中間目標に応じた非化石証書を調達することが必要となる。そのため小売り電気事業者としては、事業戦略上、相対や非化石価値取引市場で調達したことにより発生するコストを、どのように小売料金に反映するかがポイントとなる。

また、近時はRE100や脱炭素化の流れにより、再エネ由来の電気を調達する需要家ニーズが高まりを見せており、非化石価値に付随する再エネ価値(再エネ指定証書のみ)やCO2フリーの価値(以下「再エネ価値等」と総称)をアピールして販売することが販売戦略上より一層重要となってくる。

今年度からすべての非化石電源が非化石証書制度の対象となり、再エネ価値などは電源構成とは完全に切り離されている。例えば、水力の電気を需要家へ販売する場合でも、非化石証書を取得していなければ再エネとして訴求することはできないとされる。もっとも、水力発電所から発電した再エネ由来であることは事実であるため、仮に非化石証書が充てられていない水力の電気であっても、「再エネ由来」であることを訴求することもありうるし、「再エネ由来」の訴求を認めるか否かにかかわらず、電源構成の表示としては再エネ100%になると思われる。

ただし、そうした場合、「再エネ」として訴求できないことと、「再エネ由来」であることを訴求できることとの違いは、一般消費者をはじめとする需要家にとっては、容易に理解しがたい。

電源構成表示に求められる

「正しさ」と「分かりやすさ」

需要家の誤解を回避するための解決策として、注釈(「この電気は非化石証書を充てていないため、再生可能エネルギーとしての価値を有しません」等)を付けることが考えられる。ただ、注釈が多いのも需要家にとっては分かりにくいし、そもそも再エネ由来とアピールしながらその価値を有しないという注釈はかえって混乱を生む懸念もある。電力の小売り営業に関する指針(小売りガイドライン)の環境価値表示については、「正しさ」は大前提であるが、同時に「分かりやすさ」が求められ、電源構成に関する表示は前提としつつも「再エネ由来」といった訴求は認めるべきではないように思われる。

また、FIT電気の表示の在り方についても、見直しが議論されている。これまで、非化石証書を充てる場合、「実質再エネ」という表示が認められてきたが、再エネにもかかわらず「実質」というのは、需要家に分かりにくいという指摘を受けてのものである。ただし、FIT電気については、国民負担で賄われていることを踏まえた制度設計が必要である。すなわち、需要家の負担するFIT賦課金を原資とした交付金による補てんを受けており、その環境価値はすべての需要家に薄く帰属すると考えられる。

そのため、CO2排出係数の算定上は、再エネの電気とは異なる全電源平均の環境価値を有する電気、いわばFIT電気という固有の電気として取り扱うことが必要と思われる。再エネ指定の非化石証書を充てた場合であっても、「実質再エネ」という表示を求めているのは、この点を踏まえたものと言える。

現在、再エネ表示などの議論が行われている電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合においては、「再エネ」としての訴求を認めた上で、FIT電気であることの明示や説明を行うことなどを求めることが案として取り上げられている。前記のように、FIT電気という固有の電気として取り扱うとの考えを踏まえると、非化石証書を充てた場合であってもFIT電気の説明を行うことなどは当然として、「再エネ」と「FIT電気」の表示は、「FIT電気(再エネ)」「再エネ(FIT電気)」といったように、最低限セットでの表示を義務付けるべきである。

以上、全非化石電源の非化石証書化に伴う表示ルールの見直しに関する私見を述べたが、再エネ価値などについては、電源構成とは完全に切り離されていることを需要家が正確に理解することは難しい。小売り電気事業者は、説明義務を履行するために最低限必要な内容にとどまらず、より一層分かりやすい説明をすることが求められる。

この点は、基本的には小売り電気事業者が総意工夫すべきものと言えるが、非化石価値・取引については政府の広報も重要であり、小売りガイドライン以外に小売り電気事業者が活用できるパンフレットを作成するといった対応も一案と思われる。

いちむら・たくと 森・濱田松本事務所弁護士。早大法科大学院修了。著書に『知らなかったでは済まされない!電力・ガス小売ビジネス116のポイント』がある。

【電力】環境相への要望 骨太の取り組みを


【業界スクランブル/電力】

上限価格に近い約定価格(kW当たり1万4137円)となった容量市場の第1回メインオークションに小泉進次郎環境相が大臣会見で疑義を挟んでいる。おそらく結果に不満な事業者が陳情したのだろうが、数年にわたって議論を積み上げ、やっと実施に移した制度を、もし政治が介入してひっくり返すことになれば、託送料金の発電側基本料金に続く事態となる。

これらはいずれも、インフラコストの負担について、現存する需要家間の不公平を適正化するためのものであることが見落とされていないか。再エネ主力電源化は国策だが、サイレントマジョリティの負担で再エネを甘やかし続けることが主力電源化ではないだろう。

小泉環境相の政治手法は、父親譲りなのか敵をつくってたたいて注目を集めようとするもののようだ。石炭火力しかり、今回の容量市場しかりである。そして、そのようなパフォーマンスが、すぐに対立の構図をつくろうとするマスコミの格好の材料になる。

容量市場については、10月3日の朝日新聞朝刊が「容量市場、電気料金に響くか 経産相『追加負担ではない』環境相『可能性ある』」と報じているが、これなど最たるものだ。内容をよく見れば、両大臣の発言は矛盾するものではない。それをあたかも見解の相違があるように演出する朝日も朝日だが、無駄に攻撃的な物言いでマスコミに使われる大臣も大臣だ。

小泉環境相の誕生時、筆者は福島第一原発のトリチウム水問題の進展を期待したが高望みし過ぎた。COPでは各国間調整に精力的に動き、各国から感謝されたと聞く。それには素直に敬意を表するが、国内については、本人も温室効果ガス削減効果に乏しいと認めてしまうレジ袋有料化とか、誰が見ても空手形と分かる自治体の2050年CO2ゼロ宣言とか、同じように入閣前の立ち位置が与党内野党的であった河野太郎大臣とはだいぶ差がついたように思える。

せっかく環境大臣に再任されたのだから、もっと骨太の課題、さしずめ、大型炭素税に本気で取り組んでいただけるなら、見直すこと必定なのだが。(T)

SDGsとは何か 持続可能な開発の意味


【羅針盤】三井久明/国際開発センター SDGs室長・主任研究員

持続可能な開発目標(SDGs)を、長期的な経営戦略作りの指針として活用する企業が増えてきている。SDGsを経営に活用するには、まず持続可能な開発の意味を理解する必要がある。

コロナ禍で先行きが見えない今日、将来の社会の持続性を考えるツールとして、SDGsへの関心が高まってきている。このたび、SDGsとは何か、これを企業経営にどのように活用するかといった課題を整理し、拙著『SDGs経営の羅針盤』として刊行した。今回を含め3回に分けてこの書籍の内容を紹介する。第1回では、SDGsとは何か、「持続可能」はどういった意味か、について解説する。

国連サミットで提示 17のゴールから構成

SDGsとは、2015年の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた、国際的な開発目標のことである。世界の150カ国を超える加盟国首脳の参加のもと、全会一致で採択された。貧困、飢餓、ジェンダー、教育、環境、経済成長、人権など、幅広いテーマをカバーしており、30年までの達成が目指されている。「誰一人取り残さないこと」が強調されている。

SDGsのポスター(17のアイコン日本語版)

国連で合意された国際的な開発目標には、これまでもいくつもの枠組みがあった。SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)がその代表的なものである。従来は、こうした開発アジェンダは、国や国際機関やNGOなどが対処するものという考え方が一般的であった。だが、近年の環境や経済、社会課題は、地球規模で影響が拡大しており、政府や国際機関だけでは対処できなくなりつつある。企業、市民社会、メディア、教育機関などのさまざまな組織の積極的な関与が必要となっている。特に、企業は環境、社会、経済への影響力が大きく、ビジネスを通じてSDGsに取り組むことが期待されている。

SDGsは17のゴールから構成されている。各ゴールには、カラフルなアイコンがセットになっており、それぞれのアイコンに簡潔にゴール内容が表記されている。例えば、ゴール1は「貧困をなくそう」、ゴール2は「飢餓をゼロに」、ゴール3は「すべての人に健康と福祉を」、ゴール4は「質の高い教育をみんなに」といった具合である。

近年、本邦企業を対象としてSDGsに関する意識調査が各種実施されている。「どのSDGsゴールを重視するか」といった質問には、13(気候変動)、8(働きがい・雇用)、12(消費・生産)、3(健康と福祉)、7(エネルギー)、5(ジェンダー平等)といった回答が多い。やはり地球温暖化など気候変動は日本企業にとっても身近なテーマと受けとめられている。また、「働きがい・雇用」や「消費・生産」も民間セクターが深くかかわるゴールであり関心が高い。

SDGsという言葉は、徐々に日本社会に浸透しつつあるように見えるが、そもそも「持続可能な開発」とは何なのか。実は、1987年に発表された国連の委員会の報告書の中で明確な定義がある。持続可能な開発とは、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことがないような形で、現在の世代のニーズも満足させるような開発」と示されている。つまり、開発が持続可能かどうかの焦点は、将来の世代のニーズを損なうか損なわないかにある。現代の世代のニーズばかり追い求めることで、我々の子供や孫といった将来の世代の暮らしが、甚大な悪影響を受けるようであれば、その開発は持続的でないことになる。

エネルギー参入で事業規模拡大 次の成長領域は地域密着型


【私の経営論(2)】吉本幸男/エフビットコミュニケーションズ社長

前回は、私が18歳で通信事業を立ち上げ、新規領域に積極的に乗り出すことで業容を拡大してきた経緯についてお話させていただきました。企業の成長には、新領域に進出する決断力、勇気が必要であると述べましたが、その経営理念は創業から56年が経過した今も変わりません。

IC(通信)事業、法人向けソリューション事業に続いて着手した、マンションISP(インターネット・サービス・プロバイダー)事業、チェーンホテル向けのビデオ・オンデマンド(VOD)事業でも市場競争が過熱化し、以前のような高い収益を生むことが難しい情勢となりました。そこで、満を持して乗り出したのが電力事業です。

2008年の高圧契約の自由化を機に、マンションなどの大型施設で電力会社と一括契約することで電気代を削減できる高圧一括受電とLED設置などを合わせて、エコとコスト削減を実現する電力ソリューションの提供を開始したのです。

通信とエネルギービジネスを多角的に展開

小売りから発電まで エネルギー事業も多角化

エネルギー分野への進出は、畑違いに打って出るように見えるかもしれませんが、ISPサービスを手掛けマンション管理組合との関係を構築していたので、実はとても親和性があり一括受電契約を獲得しやすい環境でした。

また、自動検針による電力メーターチェックや料金未納に伴う供給停止など、エネルギー事業には通信技術を必要とする要素も多く実はつながっています。そしてこれを起点に、当社はエネルギービジネスの多角化も進めていくことになります。

11年には、再エネFIT制度を活用し、全国の遊休地などを利用したメガソーラー事業を開始しました。建設を進めた山林は、境界線があいまいだったり、土地の登記がでたらめだったりと、開発許可を取得、造成し太陽光パネルを設置する以前に、権利を取得する段階で大変な苦労がありましたが、この7年間で15万kW程度を開発し、約750億円の特需を得ることができました。

さらにエネルギー小売り全面自由化に伴い、16年には電力小売り事業者として「エフビットでんき」を、17年には都市ガス小売り事業者として「エフビットガス」の販売をスタートしました。電力については現在、高圧需要家向けを中心に約40万kWの契約電力を獲得。これを24年には100万kW規模まで拡大したいと考えています。

また、電力小売りビジネスの競争力強化に向け、今年8月には新電力のFパワーが千葉県袖ケ浦市に所有していたガス火力発電所「新中袖発電所」を買収しました。発電所を保有、運用するのは当社としても初めてのことです。この件については次号で詳述しますが、地産地消のバイオマス発電所の設立に向けても動き出しています。

中小企業の省エネを支援 顧客に寄り添うコンサル事業


【エネルギービジネスのリーダー達】安孫子崇弘/エネルギーアンドシステムプランニング代表取締役

省エネ支援を通じて、これまで携わった需要家やパートナー企業に恩返しをしたいと起業した。

創業以来、「お客さまに寄り添うこと」を第一に、コンサルタント事業などを展開している。

あびこ・たかひろ 1998年東京電力入社。2000年新規事業会社のハウスプラス住宅保証に出向。06年日本ファシリティ・ソリューションに出向し、建物や設備の省エネ対策の実務を担当。13年東電に帰任後、同社を退職して起業し現職。

脱炭素化、省エネ法や「RE100」への対応など、企業は省エネに対してさまざまな取り組みを求められている。だが、情報収集力や資金力を豊富に持つ大手企業とは異なり、中小企業ではなかなか手が回らないのが現状だ。

エネルギーアンドシステムプランニングは、ここにビジネスの種を見いだし、中小企業を中心に省エネコンサルティング業務を展開する。これまで、製紙工場、味噌・醤油工場、電線工場、合金製造業、化学プラントなど、産業系の工場で実績を積み上げてきた。

創業から7年目。単身で立ち上げた安孫子崇弘社長は「お客さまに100%寄り添い、良質なサービスを提供すること」を信条とする。工場は、照明のLED化や設備の更新でも省エネが可能だ。だが、作業環境の改善と生産品の品質確保を両立するには、生産工程にまで踏み込む必要がある。

例えば、化学プラントでは、現場の安全確保のため、化学反応で発生した熱を冷ます「冷却工程」が欠かせない。一方で、エネルギー使用量が多く、削減の余地は大きい。提案に当たり、まずは生産工程を知ることからスタートする。

高校の教科書を開いて化学反応をおさらいし、それでも分からないことは、現場担当者から教わることも。「良い提案をしなければ」というプレッシャーをばねに、積極的に専門知識の習得に努めた。

長期にわたる出向経験 顧客ファーストを醸成

工場は企業秘密の塊だ。一方、現場から信頼され、徐々に情報が入るようになれば、提案の幅が大きく広がる。エネルギーは専門性が高い。「省エネの意義や技術的な内容などにビジネスの視点を入れて、分かりやすく翻訳すること」が同社の役割だ。企業と二人三脚で省エネを進めてきた。

時間も労力も費やすが、辛いと思ったことは一度もない。顧客と共に得る達成感。そこに仕事の楽しさがある。

大学卒業後、東京電力に入社。その2年後、東電が新たに立ち上げたハウスプラス住宅保証に出向し、ハウスメーカーへの住宅性能評価制度の普及や営業などに取り組んだ。約6年半の在籍後、子会社の日本ファシリティ・ソリューション(JFS)に出向。企業の省エネ診断やESCO提案とともに、改正省エネ法に関する新サービスの立ち上げにも携わる。新しいことにチャレンジするのが好きな性分。さまざまなジャンルの業務を意欲的にこなしていった。

約13年間の出向期間、顧客に近い業務が多かったことが、独立した時に掲げた「お客さまファースト」という理念を醸成。また、電力会社に在籍したことで、多種多様な工場や機械・設備を扱う機会に恵まれた。その経験から、今ではだいたいの設備の仕組みや構造を把握できるようになった。

東日本大震災の発生後、福島第一原発の廃炉関連業務に携わった。いったんエネルギーサービスの仕事から離れた時、これまで関わった企業担当者の顔が次々と浮かんだ。震災後、「JFSさんは関係ないよ」と変わらず取り引きを続けてくれた企業もあった。「エネルギーサービスで世の中にもっと貢献したい」。この思いが強くなり、独立への一歩を踏み出した。

審議会をレポートで配信 ビジネスのヒントに

初の取引先となった佐賀県の企業をはじめ、新潟県、栃木県、徳島県―と、顧客先は全国各地に及ぶ。「遠くても近くても、お客さまとの心の距離は離れないよう心掛けている」。各社の訪問は月に1回程度。これまで築き上げた関係があるので、コロナ禍であっても関係性に影響はない。

2年ほど前から制度情報配信サービス「制度TRACKER」を開始した。経済産業省や環境省では、エネルギー・環境分野に関する審議会が同時並行で開催されており、聴講だけでも大変だ。そこで、審議会を毎回ウオッチし、月に1回、レポートで配信する。

各審議会が関連するジャンルを表で表すほか、その内容はポイントをまとめて箇条書きで表記。さらに、今後の見通しや将来展望なども記載されている。

新規参入企業にとって、規制領域だった電力事業は分からないことが多い。「自由化で参入した企業が、制度を知らないことで事業上のリスクを負わないようにしたい」という。議論の結果を踏まえ、今後のビジネスを考えるヒントとして省エネ以外のエネルギーサービスにつなげていく狙いもある。

一方で、新規事業にも動き出した。昨年、IoT化を支援する子会社「マーカーシステムズ」を設立。工場のIoT化による生産性向上とデータ収集分析は、設備更新や省エネ改修などの低コスト化につながると考えている。

「頼んで良かった」。この言葉が何よりうれしい。「より多くのお客さまに品質を落とさないサービスを提供していくこと」が、今後の課題であり目標でもある。「顧客に寄り添う」という創業当時の思いは、これからも変わらない。

原子力界でのロスアトムの実力 核燃サイクルで世界をリード


【ロスアトム】

日本ではこれから六ヶ所再処理工場の稼働が始まり、核燃料サイクルのスタート地点に立つ。だが、隣国ロシアのロスアトム社は、核燃料サイクルで既に世界をリードする存在になっている。

ロスアトム社には、ウラル地方とシベリア地方に使用済み燃料の再処理工場がある。いずれも六ヶ所工場と同じように、ピューレックス法(PUREX法)で使用済み燃料からプルトニウム、ウラン、そして高レベル放射性廃棄物(HLW)を分離する。ただ、六ヶ所工場と違い、シベリアの工場では液体試薬をループすることにより、液体廃棄物を全く出さない。

高速炉用のMOX燃料の集合体

再処理により分離されたウランは濃縮され、核燃料として再利用されている。RBMK(黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉)は、全てこのウラン燃料を使用している。また、VVER(ロシア型加圧水型原子炉)の燃料に転換することも計画されている。

人工元素であり、ウランの核変換によってのみ生成されるプルトニウムは、エネルギー強度の面でウランよりもさらに価値がある。核分裂時にはウランの核分裂より14%も多くエネルギーを生む。

しかし、軽水炉では十分なパワーが出ず、高速炉で実力を発揮する。ロシアの高速炉、BN−800は再処理で作り出されたプルトニウムを燃料に使用している。

廃棄物から有用元素を分離 アクチニドを高速炉で燃焼

再処理により出るHLWの中には、現在世界で最も高価なカリフォニウムの原料になるキュリウムなどの元素を含んでいる。また、同じようにセシウム、ストロンチウム、アメリシウム、プロメチウム、キセノン、クリプトンなどの成分も産業利用ができる。

課題はそれらの分離だ。ロスアトム社は、HLWから、まずマイナーアクチニド(ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム)と、「ホット」フラクションと呼ばれるストロンチウム、セシウムを分離することに取り組んでいる。アクチニドは高速炉で燃焼し、ホット成分は強制冷却する。

これらの作業により、使用済み燃料のうち約3%とごく一部だけを最終処分にでき、放射性廃棄物の危険性を大幅に減らせられる。ロスアトム社は廃棄物の組成をこのようにすることを目標にしており、その廃棄物は300~350年後には地表近くで処分できる。

また、原子炉ではMOSART(溶融塩アクチニドリサイクル転換炉)の開発を進めている。核燃料物質を溶融塩に溶解させた液体燃料炉で、フッ化リチウム塩、核分裂生成物(主にプルトニウム)、マイナーアクチニドを燃料とする。

燃料塩が下から上にゆっくりと移動し、核反応を起こしてマイナーアクチニドを危険性の低い核種に変換していく。2022年に概念設計を作成し、31年の運転開始を目指している。

【マーケット情報/11月13日】原油続伸、ワクチンに対する楽観が強材料


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。新型コロナウイルスに対するワクチンに期待が高まったことが、価格を支えた。

米国の製薬会社PfizerとドイツBiotechが、共同開発しているワクチンが高い有用性を示したと発表。新型ウイルスの感染拡大が収束に向かい、石油需要が回復するとの楽観が台頭した。

ただ、世界では感染者数の増加が続いている。また、国際エネルギー機関はワクチンの効果に悲観的で、来年の石油需要予測を下方修正。さらに、米国の金融会社ゴールドマンサックスは、リビアの増産と、冬季の感染拡大で、来年も需給緩和が続くと予想しており、価格の上昇が幾分か抑制された。

【11月13日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=40.13ドル(前週比2.99ドル高)、ブレント先物(ICE)=42.78ドル(前週比3.33ドル高)、オマーン先物(DME)=43.49ドル(前週比2.55ドル高)、ドバイ現物(Argus)=42.93ドル(前週2.60ドル高)

【コラム/11月16日】2050年CO2ゼロ宣言を考える~技術楽観論でなく科学的・現実的選択論を


飯倉 穣/エコノミスト

 地球温暖化の影響による災害が日常化する中で、菅総理がインパクトある所信を表明した。2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにすると宣言した。また再生可能エネルギーのみならず原子力を含めてあらゆる選択肢を追求すると答弁した。経済水準維持に必要なエネルギー量の確保は容易でない。今後のエネルギー選択は、化石エネなしで、再生可能エネルギーと原子力となる。限られた選択肢の下で当たり前のエネルギー政策の確立が肝要である。今後は再エネ拡大は無論のこと、原子力縮小政策を見直し、安全な新規原子力発電の建設を推進したい。 

 今年の球磨川豪雨(7月)や 台風10号(9月)は、温暖化による大気中水蒸気量上昇と海面水温上昇の影響を見せつけた。自然災害が日常的となり、居住・生産環境の変化や被災者になった場合の不安を掻き立てる。CO2削減で閉塞感が覆う中、インパクトある所信表明演説があった。

「菅首相、温暖化ガス2050年ゼロ、初の所信表明、産業・社会に変革」(朝日2020年10月27日)、「首相、温暖化ガス2050年ゼロ表明、成長へ技術革新号砲、エネ政策抜本見直し」(日経同)。

 東日本大震災以降、公論は原子力縮小、省エネ・再生可能エネルギー傾斜に引き寄せられた。そして再エネの夢と現実を浮き出した。コストと国民負担の限界(19年度賦課金約2.4兆円)、国土利用未考慮の乱開発と地域紛争等に直面している。国土環境に適応した利用の姿を描き切れていない。また科学技術としての原子力利用を蔑視し、化石エネ依存を継続した。

政官民に温暖化ガス削減のお題目はあったが、強い意思はなかった。「福島の復興なくして日本の再生なし」に代表される政治的・社会的情緒の下、時は流れている。福島浜通りの復興は、原発再構築が鍵である。原発は、地場産業だった。なければ自然経済に戻るか、自然に帰るであろう。政府の施策、地元の期待は、地域資源・経済の根本を見間違えている。将来残るは公共投資の所産のみである。

 菅義偉首相は、演説7主題中の3番目「グリーン社会の実現」で、温暖化ガス排出を実質ゼロにすると宣言した。また達成に向け「再生可能エネルギーのみならず原子力を含めてあらゆる選択肢を追求する」(11月28日代表質問に)と答弁した。

とりあえずゼロ宣言は政治的目標で、今後人口、経済水準、産業構造、エネルギー需給、研究開発状況、都市構造、インフラ、国土利用等の検討があろう。留意点は経済水準とエネ選択である。

経済水準は、投入エネルギーの価格と量に大きく依存する。石炭時代は産業革命、石油時代は大量・安定・安価原油で戦後高度成長を起因し、現水準がある。オイルショック後ゼロ成長に近い。再エネも原子力も石油代替の域を出ていない。

課題は明快で、水準維持に必要な経済的エネルギー量の確保である。エネルギー供給は、50年非化石エネルギーだけとなる。核エネルギーと再生可能エネルギーの選択しかない。電中研の19年試算が好例になる。50年CO2量80%削減の場合、発電量約1兆2千億Kwhに対し、再エネで最大限供給可能量8千億Kwh(地熱、風力、太陽光等:現在の10倍)と見る(実現性は?)。残りは、原子力とLNG火力である。発電規模は、水力・バイオ・地熱59百万Kw、風力75百万Kw、太陽光356百万Kw、蓄電池215百万Kw、揚水25百万Kwを見込む。少なからず原子力(29百万Kw)を必要とする。

大胆に試算しても現技術水準延長の再エネのみでは、不十分である。化石エネは使用禁止である。経済水準維持に原子力発電の展開が鍵となる。困難なら人口抑制・経済水準低下の選択も検討せざるを得ない。

故に技術開発に期待が高まる。研究開発状況は、将来のエネルギーに係る「革新的環境イノベーション戦略」(内閣府20年1月)が参考となる。5分野16の技術課題を挙げる。再エネ主力電源、水素、原子力・核融合、CO2分離回収、人工光合成、バイオ等である。代わり映えしない寄せ集めの感もある。技術開発に成功すれば、世界CO2排出量10年490億トン(エネ起源以外も含む)に対し、総計850億トンの削減効果を目論む。過去の米国(ブッシュ・ジュニア、オバマ政権)のような技術楽観論は慎みたい。

当たり前に考えれば、緊要の課題は原子力の扱いである。福島第一原発震災事故で、推進は頓挫した。自然災害だったが、科学者・技術者の信用と志気が低下した。その状況で菅総理の「ゼロ宣言」は、地球生態系の保持と経済水準の維持を立案する上で、原子力の再活用を図る契機と言える。今、CO2削減に必要なことは、安全な新規原子力発電の建設である。

「国民から信頼される政府」は、科学的思考の下に現実的な政策をまず作成・推進すべきである。菅総理の宣言が、鳩山首相「温室効果ガス25%削減、世界に宣言」(09年9月)の二の舞にならないことを祈念したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

エネルギー業界で世代交代が発生?


【ワールドワイド/コラム】

今年6月、イーロン・マスク率いる電気自動車(EV)企業のテスラが、トヨタ自動車の時価総額を抜いたと大きな話題となった。「自動車産業の世代交代か」ともささやかれたニュースだが、エネルギー業界でも同様の事態が起きている。

ロイター通信は10月2日の取引において、油価下落で苦しむ米メジャー・エクソンモービルの時価総額を米国で風力・太陽光事業を展開するネクステラ・エナジーが上回ったと報じた。本件についてスイス大手銀行・UBSは「投資の矛先が、より持続可能なニュー・エコノミーへのシフトが見受けられる」と分析。世界市場の脱炭素社会に対する期待が、クリーンエネルギー企業の株価を下支えしているといえるだろう。

そもそも、コロナ禍による石油需要の低迷もあり、エクソンに限らず米シェブロン、英蘭シェル、英BPなど、石油大手各社の決算は惨憺たる結果に見舞われた。9月末にシェルは経営合理化で最大9000人、10月5日にエクソンが欧州の人員1900人のリストラを見込んでいると報じられるなど、各社ともに苦しい経営環境にあるのは間違いない。こうした中、シェル、BPは世界で巻き起こる金融の環境シフトを受け、2050年までにCO2排出ネットゼロを目標に掲げるなど、投資を呼び込もうと環境分野への注力を発表している。

今年7月、シェル、BP、エクソンも参加する業界団体「石油・ガス気候イニシアチブ(OGCI)」は業界大の温室効果ガスの削減目標を策定した。しかし、「目標設定が甘い」との指摘も多い。日頃から批判にさらされる石油業界だけに、より意欲的な目標設定を行い世間の理解を得られない限り、厳しい状況は今後も続きそうだ。

核燃料サイクルの意義と有用性 熱い「語り部」の養成が課題


【核燃料サイクル】小島正美

ウラン資源の節約、放射性廃棄物の減容化で核燃料サイクルにはメリットがある。一方、経済的な利点については、分かりやすい費用対効果の説明が求められている。

核燃料サイクル問題をどう考えたらよいか。非常に難しいテーマだ。長く記者生活を送ってきたものの、専門外ということもあり、実のところ、あまり深く考えたことはなかった。もし私が核燃料サイクルの重要性を伝えるコミュニケーターという任務を与えられたなら、何が必要なのだろうか、という観点で考えてみた。

7月29日、青森県六ヶ所村にある日本原燃の使用済み核燃料再処理工場の安全対策が新規制基準に適合していることが、原子力規制委員会によって認められた。このニュースを読んで、その意義を理解できる人は少ないだろう。私自身もその一人だ。

さっそく「核燃料サイクルとは何か」をネットで探ってみた。まずは当事者の日本原燃、9電力会社で組織した電気事業連合会、日本原子力文化財団、青森県庁のウェブサイトを見た。概略は理解できたが、サイクルにどういう意義や経済的利益があるかについては、いまひとつよく分からない。

六ヶ所村での再処理事業は投じた費用に見合った効果を得られるだろうか

エネ庁の充実したサイト 核燃サイクルの意義を理解

次いで資源エネルギー庁のサイトを見た。思った以上に充実していた。「『六ヶ所再処理工場』とは何か、そのしくみと安全対策(前編・後編)」や「資源エネルギー庁がお答えします! 核燃料サイクルについて、よくある3つの質問」など数多くの解説があり、ようやくサイクルの意義を理解できた。

それによると、核燃料サイクルとは、原子力発電所で使い終えた使用済み燃料から、再利用可能なプルトニウムやウランを取り出して(再処理して)、「MOX燃料」(プルトニウムとウランの混合物の呼び名)に加工して、もう一度、発電所の燃料として再利用することだと分かる。MOX燃料を軽水炉と呼ばれる原子力発電所で利用すれば、もともとのウラン資源の使用を1~2割節約できるという。

さらに使用済み燃料をそのまま直接処分するよりも容積が3~4分の1になり、最終的に地下深くに埋められるとみられる高レベル放射性廃棄物の量を減らすことができる。

また、使用済み燃料をそのまま処分すると、その放射能レベルが天然ウランと同程度になるまでに約10万年かかるのに対し、再処理を経れば、その期間が約8000年に縮まることも分かった。

つまり、再処理工場の主な意義は①燃料の節約・再利用、②最終的な廃棄物量の削減、③放射能レベルの低下で地層処分がしやすくなる―の三つだ。

習主席の炭素中立化宣言 石炭火力の開発と矛盾


【ワールドワイド/環境】

9月22日のバーチャル国連総会において、中国の習近平国家主席が「中国は2030年までにCO2排出をピークアウトし、60年までにカーボンニュートラルを達成する」と発言して世界を驚かせた。

 今年12月に開催予定であったCOP26が1年延期されるなど、地球温暖化に対するモメンタムが損なわれることが懸念される昨今。世界の排出量の28%を占める中国が初めて長期目標を表明したことを歓迎する論調が多い。

 しかし、このプレッジを額面どおり受け止めるのは時期尚早である。中国には昨年末時点で1億5000万kWの石炭火力発電所の開発計画があり、本年第1四半期に昨年1年分の合計に相当する1000万kWの石炭火力の新設にゴーサインを出している。これらは60年以上稼働が可能であり、60年のカーボンニュートラルとどう整合させるか不明である。

 中国を取り巻く国際環境は厳しさを増している。米中対立は新冷戦ともいうべきレベルに達し、超党派で厳しい視線が送られている。また中国は新型コロナ感染拡大の初期段階での情報 や、マスク外交の失敗により、国際的な評判を大きく落とした。さらに香港国家安全維持法の導入や新彊ウイグル自治区における非人道的な政策などにより、これまで中国批判に及び腰であった欧州諸国も批判のトーンを強めている。

 こうした中で習主席が国連総会で多国間主義の重要性を強調し、温室効果ガス削減の長期目標を表明したのは、明らかにトランプ大統領の米国第一主義と温暖化問題を軽視する姿勢との対照を演出し、温暖化に強いこだわりを持つ欧州諸国や米国民主党に擦り寄ろうとしたのであろう。

 事実、9月14日のEU-中国サミットにおいて、EU側は中国に25年ピークアウト、60年カーボンニュートラルを迫り、さもなければ検討中の炭素国境調整措置の適用対象になると示唆したもようだ。

習主席の表明はEUの要請に応えた形だが、目標を表明するだけで炭素国境調整措置が適用除外になるのであれば、EU域内の野心レベルの引き上げに伴うコスト増分とのレベル・プレーイング・フィールド確保という国境措置の本来の趣旨とかけ離れた恣意的な運用となる。WTO(世界貿易機関)との整合性は主張できなくなるだろう。

有馬 純/東京大学公共政策大学院教授

ラオスの水資源を活用 ASEANに系統接続の構想


【ワールドワイド/経営】

ASEAN諸国では、各国の送電系統を接続する「ASEAN Power Grid(APG)」構想が加速し始めている。

もともとは各国のエネルギー資源の有効活用を目的として1990年代に始まったものだが、費用対効果の面から最近まで進展は見られなかった。しかし、電力需要の増大やそれに伴う国際電力取引需要の増加、そして近年では急増する再エネへの対応という観点から期待が急速に高まりつつある。

APG構想の中でも中核となっている国は、水資源が豊富なラオスだ。これまでの取引は隣国タイやベトナム、カンボジアなどとの2カ国間取引がメインであったが、近年はマレーシアやシンガポールもラオスに関心を寄せている。価格もさることながら、その起源が再エネであれば輸入電力でも再エネ目標の達成手段としてカウントできることが背景にある。ASEAN諸国では、2025年までに一次エネルギー供給量の23%を再エネで賄う目標を掲げており、その進捗が遅れている各国はラオスの水力に目を付けている。

最初の多国間取引プロジェクトとして動き出しているのがラオスの電力をタイを経由してマレーシアやシンガポールへ送電するというものであり、既にマレーシアとは取引が開始されている。今後、多国間取引に向けて、マレーシアとシンガポール間の連系容量を拡大するとともに、取引ルールの整備などが進められることになっている。将来的には、海底ケーブルを介して、インドネシア、ブルネイ、フィリピンとも連系し、ASEAN大のネットワークを構築する構想が描かれている。

水力は再エネ電源が増大する中において系統安定化という面でも大きな意味を持っている。水力電源を多数保有するラオスは、ASEANのパワーセンターとして戦略的に生きる道を探ることも重要である。この貴重な電源をいかに賢く使うことができるかが、今後のラオスの発展にも大きく関わってくることになろう。

一方、このような動きに目を付けているのがラオスと国境を接する中国である。ラオスでは、ラオス電力公社(EDL)の送電部門を分社化する動きがあるが、この株式を中国の南方電網が所有する方向で話が進んでいるという。実現すれば中国がASEANの電力セクターで大きな存在となることは想像に難くない。

 APGは単にASEAN各国の系統を連系するプロジェクトにはとどまらない。経済的、政治的な思惑が大きく絡み合っている。

山本孝徳/海外電力調査会調査第二部

経済制裁で苦しむイラン 石油生産能力の拡大なるか


【ワールドワイド/資源】

2018年5月に米国が、イランの核開発に関する「包括的共同作業計画(JCPOA)」から単独離脱して以降、米国は「最大の圧力」政策を掲げ、イランへの経済制裁を強化した。

経済制裁は現在も続いており、弱まる兆候はなく厳しさを増している。とりわけ標的とされてきたのが原油輸出で、国際エネルギー機関(IEA)によると18年4月の時点で日量240万バレルだった原油輸出量は、20年7月には過去30年来の最低水準となる日量20万バレルまで下落。原油生産量も同様に急落しており、18年4月に日量平均385万バレルから、20年7月にはわずか日量190万バレルにとどまっている。

なお、現在イランは原油生産・輸出量に関するデータを公表しておらず、いずれも各機関が船舶情報などから推計値を独自に算出している。よってその値は各機関によって異なるが、実際の輸出量は推計値の2倍程度との指摘もある。

JCPOAの発効と米・EU・国連制裁の一部解除を機に、イランは16年以降、外国資本による石油開発事業の推進を見込んでいた。これによりイランは原油生産能力を、当時の日量約400万バレルから日量470万バレルまで5年間で引き上げるもくろみだった。しかし、米国の厳しい経済制裁により外資参入が叶わなくなり、国内企業が開発を請け負っている。

イランが特に注力しているのが、隣国との国境地帯に位置する油ガス田の開発だ。21年に任期を終えるロウハニ政権のうちに、それらの油ガス田全てで増産に向けた開発契約を締結する構えで、今年の7月から8月にかけて、イラクとの国境沿いにあるアザデガン油田やヤラン油田などで相次いで契約が締結された。開発が進めば日量40万バレル弱の生産能力が加わる。技術的、資金的制約がある中、国内企業のみで実際にどれだけ実現できるか不明だが、ある程度の生産能力拡大は期待できよう。

しかし、現在の石油市場は、弱含みな需要の中で産油国間のシェア獲得競争が繰り広げられている。経済制裁が解除されイランが市場へ復帰すれば、さらなる競争激化が予想される。「経済制裁は一時的なもの。産油国の国力とは埋蔵量ではなく生産能力である」とザンギャネ石油相は述べる。

米国の経済制裁により失った市場シェアの奪還はイランにとって非常に重要な問題であり、原油生産を引き上げる余地がどれだけあるかはイランのみならず競争相手となるほかの産油国にとっても興味深い課題だ。

芦原雪絵/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部

産業用HPの情報を一元管理 情報集約型専用サイトを開設


【日本エレクトロヒートセンター】

日本エレクトロヒートセンターは、産業用ヒートポンプ(HP)の情報を集約した、廃熱・未利用熱利用総合サイト「産業用ヒートポンプ.COM」(http://sangyo-hp.jeh-center.org/)を新たに開設した。

産業用ヒートポンプの情報を集約した

これまで、ホームページ上で別々に掲載されていた情報を一元的に集約。見やすくまとめることで、産業用HPに対する認知度の向上や、製造現場を持つ企業がHPを導入するきっかけにつなげる狙いがある。

エネルギー消費量の多い産業分野の省エネ対策において重要となるのが、工場の生産工程で発生する廃熱を活用し、その量を減らしていくことだ。こうした未利用熱の有効活用において、HPの導入はその解決策になり得る。とはいえ、企業に

とっては「何から手をつければいいのか分からない」というのが本音だろう。

工場の課題点を明確化 手順を踏んで導入サポート

そこで、同サイトではHPの導入までの手順を三つのステップに分けて示している。ステップ1では、まず工場が抱える課題を明らかにすることが目的だ。低温廃熱やボイラー・配管からの蒸気ロス、加熱・冷却の重複供給といった主な課題点を紹介。課題ごとにHPを活用した解決策を示している。

続くステップ2では、導入に向けた計画を立てる際のポイントを提示。産業用HPの代表的な使い方をはじめ、保温や加熱、洗浄、乾燥といった生産プロセスごとの設計ポイントなどを細分化して紹介している。そして、最後のステップ3では、依頼先となるエンジニアリング会社、メーカー、電力会社などへの相談・問い合わせサイトへのリンクが集約されている。

3月下旬のサイト開設以降、アクセス数は順調に伸び、9月末時点で1万2000件にのぼっている。今では「産業用ヒートポンプ」で検索すれば、同サイトがトップに表示され、認知度が徐々に向上していることがうかがえる。中でも閲覧数の多いコーナーが「導入事例」だ。業種・工程ごとの一覧表や条件を入力して検索する仕組みにより、見たい事例が探しやすい。また、一部事例は動画で紹介。HPの活用方法が具体的にイメージしやすいのが特徴だ。

省エネや脱炭素化を進める上で、エネルギー消費量の削減は、環境対策だけではなく工場の運用コスト削減や作業の効率化、生産品質の向上といった副次的効果にもつながる。産業分野へのさらなるHP普及に向け、同サイトの活用が期待される。

中国の温暖化対策で対照的 エコノミスト誌と朝日、毎日


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

一言で表せば、羊頭狗肉。毎日9月24日一面トップの国連総会に関する記事だ。

中国の習近平国家主席による22日のビデオ演説を大扱いした。「2060年までに国内の二酸化炭素の排出量を『実質ゼロ』とする」と表明したという。

記事の通り、中国は「温室効果ガス排出量の3割弱を占める最大の排出国」だ。その国が初めて大胆な目標を「明言」し「30年までに排出量を減少」に転じさせる方針も示した、とある。

中国との対立を深める米国は「トランプ政権が地球温暖化防止の国際枠組み『パリ協定』からの離脱手続きを進める」。中国離れは欧州連合(EU)諸国でも顕在化しており、「存在感を演出する狙い」と好意的に書く。

問題は、「ただ、中国は二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電の新設計画を加速させており、目標達成に向けた具対的な政策は不透明」の部分。無策らしい。

記事は続けて、トランプ米大統領がビデオ演説で「中国の排出量は米国の2倍近くに及び、急速に上昇している」と指摘したことも紹介する。実際、2000年以降の中国の排出量増加は世界で突出している。それでも、二面で習氏演説を「ビッグニュース」と称えるセンスには首をひねる。

むしろ、怒るところだろう。例えば、汚水で水質が悪化した川があったとする。町内の住民が協力して、汚水を減らす活動をしてきた。が、一軒だけ大量に汚水を出す家がある。習さんだ。しかも年々、汚水量を増やしている。町内会が開かれ、習さんの演説。

「あと10年くらい汚水の量は増える。仕方ない。でも、その後は減らすつもり。30年くらいかけてゼロを目指す。具体策はこれから。責任を果たします」

たぶん、「まだ汚水を増やすのか」と非難轟々になると思う。

同日付け英経済誌エコノミストは毎日と対照的だ。「(中国の)目標達成は容易でない」と、演説を冷ややかに紹介する。

まず、「30年までに排出量を減少させる目標は、以前から25年に減少に転じると国内外で予測されていて問題はない」という。実際、経済の急成長期が過ぎると、どの国も排出量は安定する。米国、日本のほか欧州も、多くは既に排出量は横ばいか、減少傾向だ。

あえて、その時期を5年先送りにした意図は何か。

エコノミスト誌は、習氏が、減らす対象を二酸化炭素に限定したことにも「慎重に言葉を選んだ」と疑問を呈した。世界はメタンガスなどの削減にも取り組む。

そして「60年までにゼロ」だ。同誌は、「中国はどんな草の根活動も抑圧可能で、原子力発電所も反対運動を気にせず増やせるなど、変革を実行できる国だ」と皮肉りつつ、「二酸化炭素を大規模に吸収して地中に埋める革新技術を開発するとか、途方もない規模の造林をして炭素を固定するとか、そんな方法がなければ、実現はほぼ不可能」と断じた。

その3日後、朝日9月27日一面トップは「温室ガス『ゼロ』、中国の野心」である。習氏演説にあらためて着目し、「最大の排出国の野心的な宣言が各国の背中を押し、米国の『パリ協定』離脱表明で停滞していた温暖化対策が動き出す気配もある」と書く。

見出しの「温室ガス」は二酸化炭素だけに言及した習氏演説の拡大解釈だ。本文も「ほかの途上国の参考になる」など中国への期待に満ちる。大丈夫か、朝日。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。