【多事争論】話題:電源構成表示の在り方
再生可能エネルギーの導入拡大が進み、電気の環境価値への注目が高まっている。 FIT、非FITなどが混在する中、あらためて電源構成表示の在り方が問われている。
<FIT電気の環境価値は全電源平均 再エネと分け固有の電気として扱うべき>
視点A:市村拓斗 /森・濱田松本事務所弁護士
エネルギー供給構造高度化法(高度化法)に基づく中間目標の第1フェーズが今年度から開始し、原則5億kW時を超える小売り電気事業者は、3年度の平均で達成状況が判断される中間目標に応じた非化石証書を調達することが必要となる。そのため小売り電気事業者としては、事業戦略上、相対や非化石価値取引市場で調達したことにより発生するコストを、どのように小売料金に反映するかがポイントとなる。
また、近時はRE100や脱炭素化の流れにより、再エネ由来の電気を調達する需要家ニーズが高まりを見せており、非化石価値に付随する再エネ価値(再エネ指定証書のみ)やCO2フリーの価値(以下「再エネ価値等」と総称)をアピールして販売することが販売戦略上より一層重要となってくる。
今年度からすべての非化石電源が非化石証書制度の対象となり、再エネ価値などは電源構成とは完全に切り離されている。例えば、水力の電気を需要家へ販売する場合でも、非化石証書を取得していなければ再エネとして訴求することはできないとされる。もっとも、水力発電所から発電した再エネ由来であることは事実であるため、仮に非化石証書が充てられていない水力の電気であっても、「再エネ由来」であることを訴求することもありうるし、「再エネ由来」の訴求を認めるか否かにかかわらず、電源構成の表示としては再エネ100%になると思われる。
ただし、そうした場合、「再エネ」として訴求できないことと、「再エネ由来」であることを訴求できることとの違いは、一般消費者をはじめとする需要家にとっては、容易に理解しがたい。
電源構成表示に求められる
「正しさ」と「分かりやすさ」
需要家の誤解を回避するための解決策として、注釈(「この電気は非化石証書を充てていないため、再生可能エネルギーとしての価値を有しません」等)を付けることが考えられる。ただ、注釈が多いのも需要家にとっては分かりにくいし、そもそも再エネ由来とアピールしながらその価値を有しないという注釈はかえって混乱を生む懸念もある。電力の小売り営業に関する指針(小売りガイドライン)の環境価値表示については、「正しさ」は大前提であるが、同時に「分かりやすさ」が求められ、電源構成に関する表示は前提としつつも「再エネ由来」といった訴求は認めるべきではないように思われる。
また、FIT電気の表示の在り方についても、見直しが議論されている。これまで、非化石証書を充てる場合、「実質再エネ」という表示が認められてきたが、再エネにもかかわらず「実質」というのは、需要家に分かりにくいという指摘を受けてのものである。ただし、FIT電気については、国民負担で賄われていることを踏まえた制度設計が必要である。すなわち、需要家の負担するFIT賦課金を原資とした交付金による補てんを受けており、その環境価値はすべての需要家に薄く帰属すると考えられる。
そのため、CO2排出係数の算定上は、再エネの電気とは異なる全電源平均の環境価値を有する電気、いわばFIT電気という固有の電気として取り扱うことが必要と思われる。再エネ指定の非化石証書を充てた場合であっても、「実質再エネ」という表示を求めているのは、この点を踏まえたものと言える。
現在、再エネ表示などの議論が行われている電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合においては、「再エネ」としての訴求を認めた上で、FIT電気であることの明示や説明を行うことなどを求めることが案として取り上げられている。前記のように、FIT電気という固有の電気として取り扱うとの考えを踏まえると、非化石証書を充てた場合であってもFIT電気の説明を行うことなどは当然として、「再エネ」と「FIT電気」の表示は、「FIT電気(再エネ)」「再エネ(FIT電気)」といったように、最低限セットでの表示を義務付けるべきである。
以上、全非化石電源の非化石証書化に伴う表示ルールの見直しに関する私見を述べたが、再エネ価値などについては、電源構成とは完全に切り離されていることを需要家が正確に理解することは難しい。小売り電気事業者は、説明義務を履行するために最低限必要な内容にとどまらず、より一層分かりやすい説明をすることが求められる。
この点は、基本的には小売り電気事業者が総意工夫すべきものと言えるが、非化石価値・取引については政府の広報も重要であり、小売りガイドライン以外に小売り電気事業者が活用できるパンフレットを作成するといった対応も一案と思われる。