エネ政策の見直しで試される 菅首相の本格政権への覚悟


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞論説委員

歴代最長の安倍前政権が積み残した課題のエネルギー政策見直しにどう決着をつけるか。主要国が脱炭素化を進める中、本格政権を目指す菅義偉首相の覚悟が問われそうだ。

「世論の支持率を従来のように気にせずに済む政権末期のタイミングで、ようやくエネルギー政策の見直しに動き出したか」。梶山弘志経済産業相が7月、旧式の石炭火力発電所の廃止や、洋上風力発電の導入など再生可能エネルギー拡大方針を打ち出した際、そう取材意欲をかき立てられた。

7年8カ月にわたって「政治一強体制」を謳歌した安倍晋三前政権。だが、それまでエネルギー政策の見直しには全く踏み込んでこなかった。温室効果ガスを多く排出する石炭火力に依存し続ける日本は、温暖化問題の深刻化に危機感を高める国連や欧州各国から「石炭中毒」などと激烈な批判を浴びていた。

梶山経産相はそんな国際社会の厳しい目も意識して「脱炭素化シフトを進める」とアピールした。だが、将来に向けて原発をどう位置付けるかという肝心の点は不明なままだった。2011年の東日本大震災以降、先送りされてきたこの問題に安倍前首相が決着をつけるなら、「政治的なレガシー」になり得ると見られた。

世界第5位の温室効果ガス排出国の日本はパリ協定で約束した30年度の排出削減目標(13年度比で26%減)の引き上げを迫られている。これに対応するには、電源の脱炭素化を一段と加速させる必要がある。

電源構成目標が示されないと政策は立てられない

原発継続の経産省シナリオ 安倍前首相の退任で頓挫

一方で、経済活動の根幹を成す電力供給の安定化を維持するには、再エネ拡大だけでは限界があり、同じく脱炭素電源である原発を一定程度、使い続けることが現実的と指摘されてきた。ただし、東京電力福島第一原発事故以降、反原発世論が根強い中、新増設は言うに及ばず、既存の原子炉のリプレースを認めるだけでも政権支持率の急落を招くリスクがある政治的に厳しい決断だ。

安倍前政権は当時、任期があと1年余りと迫り、支持率の低下を以前ほどは気にしなくて済む立場にあった。この機に乗じて、脱炭素化を理由に原発活用方針を明確に打ち出してもらうというのが、経産省が期待したエネルギー政策見直しのシナリオだったはずだ。しかし、持病の悪化で安倍氏が首相を突然退任した結果、このシナリオははかなくも頓挫した。

新型コロナウイルス禍の克服と経済再生を掲げる菅首相は、就任早々から行政のデジタル化や地銀再編など看板政策の早期実現にフル稼働の様子だ。留任させた梶山経産相には再編も含む中小・零細企業の再生策を検討するように早速指示している。他方、菅首相はエネルギー・環境政策をどうするかにはほとんど言及してない。

菅首相の自民党総裁の任期は安倍前首相の残余期間である来年9月までだ。「ショートリリーフ」に甘んじたくないのであれば、来秋の総裁選を再びクリアする必要がある。そのためには、来年10月の衆院議員の任期満了までに解散・総選挙に打って出て勝利することが必須だ。

来秋までの解散にらみ エネルギー政策は沈黙?

前に触れた安倍前首相の政権末期時代と全く逆で、菅首相は政権支持率に敏感にならざるを得ない立場にあると言える。このため、霞が関や永田町では「世論の大きな不興を買いかねないエネルギー政策の見直し、とりわけ原発の位置付けの議論は先送りしたいのが本音ではないか」との見方もくすぶっている。

しかし、原発の位置付けが固まらない限り、日本は新たな温室効果ガス削減目標の設定も含めたエネルギー・環境戦略の策定・実行がままならない。

現行の第5次エネルギー基本計画では30年度に再エネ比率を22~24%、原発比率を20~22%などとする電源構成目標(エネルギーミックス)を掲げているが、これをどのように変えるのかが示されないと国の政策も企業の経営計画も立てられないからだ。

日本が足踏みを続ける間に各国は相次いで脱炭素時代をにらんだ野心的なエネルギー・環境戦略を打ち上げている。

欧州委員会は50年までに温室効果ガス排出量を域内全域で見て実質ゼロに減らし、気候変動に与える悪影響を取り除く「気候中立」目標をぶち上げた。巨額の基金も創設し、コロナ禍からの経済復興に絡めて再エネ拡大や水素技術開発など、脱炭素化を加速させるチャレンジングな内容だ。

世界の温室効果ガス排出量の約3割を占める中国も果敢だ。習近平国家主席は先の国連総会演説で60年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「炭素中立」目標を表明した。電源の約6割を石炭火力に依存するだけに実効性を疑う声もある。

ただ、共産党一党独裁体制の下、世論の反発を恐れずに原発拡大も可能なだけに侮れない。米中摩擦が激化する中、中国は温暖化問題で「責任ある大国」をアピールし、欧州への接近をはじめ外交面での影響力拡大を狙っている。それだけに言いっ放しでは終わらせないだろう。

さらに、トランプ政権がパリ協定を離脱した米国も11月の大統領選で民主党のバイデン氏が勝利すれば、脱炭素化へ急転換しそうだ。ポストコロナの経済再生策として「ビルド・バック・ベター(より良く立て直す)」を掲げるバイデン氏は、2兆ドルの環境投資などグリーン政策による雇用創出と経済活性化を目指している。パリ協定復帰も明言している。

米欧中は温暖化対策の国際交渉を舞台に脱炭素時代のグローバル外交・経済覇権を競うグレートゲームを演じようとしている。そんな中、日本がエネルギー・環境戦略を定められないままでは、このゲームに入れず、外交や経済面での大きな打撃を被りかねない。

来年11月にはパリ協定の目標達成の方策を議論する国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が予定される。その時までに菅首相は原発の位置付けも含めたエネルギー・環境戦略の見直しに踏み切れるか。国際社会に影響力を発揮できる本格政権を目指す覚悟が問われる局面だ。

【マーケット情報/11月6日】原油反発、需給逼迫観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反発。需給の引き締まりを意識した買いが優勢となった。

OPECプラスが、来年1月からの増産予定を6か月延期する可能性を示唆。また、米国では、週間在庫統計が減少。ハリケーンZetaの接近で、生産が一時停止していたことが背景にある。

一方、中国政府は、民間企業による来年の原油輸入枠を拡大する計画。需要増加への期待感が、価格を支えた。

ただ、新型コロナウイルスが再び猛威を振るっており、フランス、ドイツに続いて、英国がロックダウンを再開。イランもロックダウンの延長を決定し、経済活動の停滞にともなう石油需要の低迷に懸念が再燃。価格上昇を幾分か抑制した。

【11月6日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=37.14ドル(前週比1.35ドル高)、ブレント先物(ICE)=39.45ドル(前週比1.99ドル高)、オマーン先物(DME)=40.94ドル(前週比3.29ドル高)、ドバイ現物(Argus)=40.33ドル(前週比3.16ドル高)

【コラム/11月9日】電気事業のデジタル化と価値創造ネットワーク


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

電気事業のデジタル化への対応は、プロダクトやプロセスのみならず、組織、イノベーションマネジメント、価値創造ネットワーク、マネジメント改革、協調の文化の醸成、およびカスタマーセントリック思考などの様々な観点から論じられなくてはならない。組織、イノベーションマネジメントについては、それぞれ以前のコラム(2018/07/09、2020/10/05)で触れたので、今回は、価値創造ネットワークについて述べてみたい。

 企業が、新たなデジタルプロダクトを自力で作り上げるための十分な資源やノウハウを有していない場合、価値創造ネットワークは一つの解決策を提供する。通常、価値創造ネットワークは、新しいプロダクトを生み出すための異分野の企業とのコアコピタンスの融合である。また、同じ分野の企業が価値創造ネットワークで協調することもありうる。そのような場合は、競争と協調が同時に行われる”coopetition“と呼ばれる。

 デジタル化は、価値創造ネットワークのための技術的なベースを提供する。それは具体的には、拡張可能で、マルチクライアント対応で、汎用インターフェイスを介して他の多くのソフトウェアとネットワーク化できるクラウドベースのソフトウェアソリューションである。ドイツにおける電力会社と異分野企業との価値創造ネットワークの例としては、エネルギー自立を支援する包括的なソリューションを提供するために、Mannheim Energieが、2014年にBaywa r.e.およびGlen Dimplexなどとの協調で立ち上げたBeegy のほか、自動車メーカーBMWとsmartlab Innovationsgesellschaft(シュタットヴェルケが充電ステーション整備のために共同で設立した組織)との協調(公共充電サービスChargeNow)が挙げられる。

 ネットワーク化は、価値創造を目的とするものだけにとどまらない。日々の業務における企業とビジネスパートナー、顧客、従業員とのネットワーク化が進展しているが、そのドライバーとなっているのは、標準化されたインターフェイスを通じて、多くのシステムとのネットワーク化を可能にするソフトウェアプラットフォームのようなデジタル技術である。

ビジネスパートナーは、企業とのシステム間の相互接続を行うことで、自動購入(電子調達)やプロダクトデータの自動的な交換などを可能にする。顧客は、セルフサービスポータルを利用して疑問に対する回答を自ら見出したり、チャットサービスを利用して企業とリアルタイムでコミュニケーションしたり、プロダクトに関する評価をレビュープラットフォームやソーシャルメディアで行う。企業側では、トラッキングソフトウェア(Google Analytics, Webtrekk, intelliAd等)のような分析システムを用いて、すべてのコンタクトポイントを通じてリアルタイムで顧客の行動を分析し、コミュニケーションやプロダクトの最適化を行う。また、顧客が私生活で用いる簡単なデジタル技術(OneDrive, Office 365, Evernoteなど)は、使い勝手の良さ、低価格化などから企業内のソフトウェアにも浸透している(いわゆる”consumerization“)。

 さらに、従業員と企業とのネットワーク化については、在宅で、また外出先で仕事をする従業員が、企業のネットワークにVPN(virtual private network)を通じてアクセスできるようになってきている。リモートアクセスの活用により、場所、時間などでフレキシブルな仕事が可能となり、新しい働き方の模索が始まっている。このような動きは、今回のコロナ禍で一層加速していくだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

「2脚1/2面包み込み工法」を初採用 制約の多い土地での工事が可能に


【中国電力ネットワーク】

中国電力ネットワークは送電鉄塔の建て替え工事で「2脚1/2面包み込み工法」を初採用した。建設時とは異なる条件下にある経年インフラを、本工法を活用して更新する。

全国各地の送電鉄塔の大半は高度経済成長期に建設されたもので、それらは、ここ数年で築60年を迎えようとしている。

中国電力ネットワークは、中国地域の約2万1000基もの送電鉄塔を管理しており、2030年代までに約4200基の経年鉄塔を計画的に更新するよう、取り組んでいる。同社送電工事グループは、広島市と松江市をつなぐ山陰幹線(電圧220kV)で、広島県側の鉄塔建替工事を進めている。その中で同社は、既設の鉄塔の外側に新設鉄塔を組み立てていく「包み込み工法」を採用した。

作業工程の概要。2ラインのうち、1ラインは常に送電しながら工事を進めた

一般的な鉄塔建替工事では、まず既設鉄塔付近に新しい鉄塔を建設し、その後、既設鉄塔を解体する。しかし、用地の関係で新しい鉄塔を建てる土地がない現場も多い。また既存鉄塔の周辺に土地があったとしても、周辺住民の反対や、住宅などの建造物の上に電圧170kV以上の架空線を敷設することが法律で禁止されていることなどから、建設できない場所も多いという。

こうした事例に対応できるのが、「包み込み工法」。既設鉄塔の外側に新たな鉄塔を建設するため、前述の課題がクリアできる。

さらに今回の工事では、同じ場所に既設鉄塔より高い鉄塔を建てることで、接近樹木の伐採頻度を減らすというもう一つの目的も達成することができた。実際に今回の建て替えでは、鉄塔の高さが29mから63mへと倍以上高くなった。

初採用工法で試行錯誤 既設鉄塔も有効利用

この工法が採用されたのは、送電鉄塔建設後にベッドタウンとして開発が進んだ広島市安佐北区の現場。送電網は従来、市街地から離れた山林や農作地などの郊外に設けられていることが多いが、鉄塔建設後に宅地造成が進んだ地域では、代替ルートを設けるケースや、新たに鉄塔を建てる場所のないケースもあり、この現場もまさにそういう場所だった。

さらに今回は、電力供給上、送電線路を2回線同時に停電できないという制約があったため、既設鉄塔で送電を続けながら新しい鉄塔の工事を行う「2脚1/2面包み込み工法」を初めて採用した。

本工法の最大の特徴は、既存鉄塔の構造を利用しながら、新しい鉄塔を片側ずつ建設する点だ。これにより、2回線のうち1回線は、建設作業中も送電を続けられる。

新設鉄塔の中に包まれた既存鉄塔は工事後、撤去している

電気料金が10年間で大幅上昇 再エネが競争効果を相殺か


日本国内の電気料金単価がこの10年間で大幅に上昇していることが、経産省が10月13日に公表した資料で分かった。それによると、2019年度の電力平均単価は産業用がkW時当たり17・03円、家庭用が同24・76円となり、震災前の10年度の水準と比べて、それぞれ3・68円(約25%)、4・39円(約22%)の値上がりだ。

主な要因は、FIT制度に基づく再エネの賦課金である。これが19年度現在kW時2・95円となっており、上昇幅の約7~8割を占めている。加えて、原発停止で火力発電のシェアが拡大したことに伴う燃料費の増加などが影響したとみられる。

従来指摘されていた通り、再エネの影響は甚大だ。20年度のFIT買い取り費用総額は約3・8兆円、賦課金総額は2・4兆円に達する。経産省は「賦課金総額を抑制・減少させていくためには、早期の価格引き下げ、自立化が重要」と提起しているが、事態の改善は容易ではない。

16年4月の電力小売り全面自由化を受け、電力会社間の競争は劇的に進展したが、再エネ大量導入と原発停止によって事業全体のコストが上昇。電気料金の値下げ効果が相殺されている実態が浮かび上がった格好だ。

需要家の負担感は軽減されていない

脱炭素と安定供給両立へ エネ基見直し議論が開始


経産省は10月13日、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)を開き、第6次エネルギー基本計画策定に向けた議論に着手した。冒頭あいさつした梶山弘志経産相は、「再エネ大量導入、電力完全自由化という大変革の中で、将来にわたり安定供給確保と脱炭素化を実現するにはどうすればよいか、考える必要がある」と述べ、委員らによる活発な議論に期待を寄せた。

同分科会では、昨今の情勢変化や将来的なエネルギー政策の在り方を見通し、改めて3E+S(供給安定性、経済効率性、環境適合性、安全性)の在り方を再整理。その上で課題を抽出し、「脱炭素社会」を実現するため2050年に向けたエネルギー需給構造について議論する方針。さらに、現行計画が掲げる30年目標について、その達成状況や取り組み状況などの評価も行う。

委員からは、低廉で安定した電力供給のために原子力発電所の活用が欠かせないとの意見が相次いだ。杉本達治・福井県知事は「政府が前面に出て原発の重要性、必要性について国民への説明責任を果たすべきだ」と述べ、再稼働への政府の関与を求めた。

原発を活用すべきとの意見が相次いだ

新電力が容量市場見直し要望 「年数億円負担で利益吹き飛ぶ」


9月14日に公表された容量市場の約定価格を巡り、業界内外に波紋が広がっている。実需給の2024年度に適用される約定価格が上限に近い1kW1万4137円となったからだ。これに対し、新旧電力の双方から驚きや制度の不備を指摘する声が聞こえる。中でも、市場調達を中心に運営する中小新電力の不満は強い。

「現時点で電源を持ち得ない新電力にとって、容量市場で一方的に負担が増加し、結果的に旧一般電気事業者に対して競争上不利な立場に追いやられてしまう懸念がある」。みんな電力やLooopなど新電力15社は9月28日、容量市場の見直しと運用の在り方に関する要望書を、梶山弘志経産相と小泉進次郎環境相に提出した。

容量市場は地域新電力の存続を左右するのか

具体的には①減価償却を終えた発電所やCO2排出係数の高い電源の市場参加に制約を設ける、②再エネ供給能力などを踏まえて容量市場の目標調達量を最小化する、③旧一電に有利、新電力に不利な容量市場を根本から見直す―の3点を求めている。

また今回の落札結果について、「小売り事業の粗利を超える水準であり、24単年度の拠出だけでも、多くの小売事業者にとって深刻な経営へのインパクトを与える」と指摘した上で、約定処理のやり直しを提起している。ある地域新電力の幹部は「想定される年間負担額は2億円程度。社員の総力戦でようやく生み出した利益が全て吹き飛んでしまう」と嘆く。

その一方で大手事業者を中心に、上限落札を招いた制度の改善を指摘しつつも、「将来の安定供給を確保する上で必要な負担」との見方が支配的だ。経産省は冷静に問題の本質を見極めた上で、検証を行うことが求められる。

BPOサービスを強化 新電力と共に成長する関係の構築へ


【SBパワー】中野明彦/SBパワー社長兼CEO

ソフトバンクグループ傘下で電力小売りを手掛けるSBパワーは新電力向けBPOサービスに注力している。 今年10月には、CIS・需給管理システム事業の譲受で電気事業関連業務サービスをフルラインアップした。

ソフトバンクの子会社SBパワーは2017年から本格的に電力小売事業をスタート。親会社の通信事業の強みを生かし、スマートフォンなどとセット販売する「おうちでんき」により、順調に顧客を獲得してきた。19年度の販売電力量は26億6000万kW時と、低圧部門の販売電力量シェアで4位にまで急成長。そのノウハウを転用し、同年6月からは新電力向けにBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを開始した。

電力小売り全面自由化が開始されて以降、登録小売電気事業者数は増加傾向にある。事業者のライセンスを取得し電力を卸市場から調達すれば、大規模な設備投資をすることなく参入が可能なためだ。また自社製品とセット販売を行い、販促強化につながる商材として注目されたことも影響している。

求められる高度な運営 電気事業を包括サポート

半面、電気事業は激化する価格競争と電源調達価格の変動リスクをバランスさせるための綿密な収益管理、適切な需給管理のオペレーションなど、高度かつ専門的な事業運営が必要となる。そのため、参入したものの事業撤退や承継を迫られる事業者も出てきている。

この状況を受けて、SBパワーが開始したのが新電力事業者向けの同サービスだ。電気事業に関する業務プロセスを支援するもので、①電源卸供給サービス、②需給管理代行サービス、③CIS(顧客情報管理システム)、需給管理システム提供サービス、④カスタマーサポート代行サービス―などをラインナップする。新電力事業者はそれぞれのニーズに合ったサービスを選択し導入できる。サービスは企業ごとにカスタマイズして提供し、電気事業への参入を検討している事業者には、事業立ち上げに必要な全てを包括的にサポートするコンサルティング業務に近いものもあるとのことだ。

「BPOサービスは当社が電気事業を手掛けるために構築した基盤を利用します。立ち上げから数年が経過し、ノウハウが蓄積されてきました。それらが他の新電力事業者様にも役立つのではと考え、開始しました」。中野明彦社長はサービス開始の背景をこう話す。

①電源卸供給サービスは市場変動リスクの少ない相対卸価格で全エリアに提供。ベース・ミドルなどの受給パターンごとに、契約期間や時間帯なども柔軟に対応でき、事業者のニーズに合わせた見積りを依頼することが可能だ。

②需給管理代行サービスでは、自社のバランシンググループ(BG)を活用し、インバランス料金の負担、BG内の連帯責任や保証金、エリア追加料金などが一切かからないのが特長。新電力の事業運営におけるリスクを最大限回避できるのは大きなメリットだ。中野社長は「当社は一定規模のBGを持っており、AIなどを活用し高精度な需給運用を行うことで、サービスを低リスク、低価格で提供しています」と強調する。

③CIS提供サービスは今年10月から開始した。クラウド型の顧客・需給管理システム事業をエプコ社から譲り受け、これまでSBパワー自体も外部に委託していたシステムを内製化し、これを安価で新電力事業者向けにも提供する。顧客管理や料金計算などに加え、需要家向けのウェブサービスの提供などが一通り標準機能として備わっている。数件から数十万件までスケーラブルに対応できる上、事業者の要望に応じてカスタマイズできることは魅力だ。

④カスタマーサポート代行サービスでは、システム登録、料金計算・請求などの事務作業や、需要家からの問い合わせ対応など、事業運営に不可欠な業務全般の受託が可能だ。通信事業で培われた顧客対応ノウハウをベースに、高いセキュリティ環境下で高品質なCSサービスを提供している。

このほか、制度変更などを分かりやすく解説する情報配信サービスも既に開始。さらに、スマホ決済サービス「PayPay」などの付加価値サービスとの連携強化に加え、独自に開発した家庭向けデマンドレスポンスサービスや、グループ会社エンコアードジャパンが提供するホームIoTの提供なども視野にいれていく考えだ。

「CISと需給管理システムが加わり、電気事業の運営に必要な機能を網羅的に提案できるようになりました。当社自らが使用するシステムなので、安心してご利用いただきたい」(中野社長)。

中長期を見据えたサービス 競争だけでなく協調も図る

度重なる制度変更に対し、特に中小規模の新電力事業者がその対応を全て自前で対応することは容易ではない。事業継続がますます難しくなることも懸念される。中野社長は「新電力同士が競争するばかりではなく、お互いの得意な面で協業するなど、BPOサービスの提供が緩やかな関係性やネットワークを構築し、共に成長する機会にしたいと思っています。短期的な利益にとらわれず、このつながりを中長期的に意味があるものにしていけたら」と展望する。

一方、厳しい事業環境にあっても、新電力事業の立ち上げを検討する企業は依然多い。BPOサービスの顧客数は今年末には50社を超える見込みという。今後はさらに強化して、早期に100社まで拡大していく方針だ。

中野明彦/SBパワー社長兼CEO

なかの・あきひこ 1989年慶大経済学部卒。大手電力会社にて経営企画に長く携わる。2012年ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)

JOGMEC関連が大幅増 ポストコロナ予算要求への疑問


2021年度政府予算の概算要求を見ると、各省とも新型コロナウイルス関連で予算を引き出そうと、あの手この手で事業を絡めている。エネルギー・環境分野も同様だが、とりわけ「ポストコロナの資源確保」として石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)関連が大幅増額で計上されたことには、業界関係者の間から疑問の声が聞こえている。

経済産業省は、LNGの積み替え基地への出資といったJOGMECのリスクマネー供給の強化などに対し、今年度当初予算から120億円増の685億円を計上。足元の油価低迷で、民間の上流資源開発への投資意欲が減退する中、JOGMECのリスクマネー供給により自主開発比率を向上させる、との立て付けだ。

確かに資源開発への民間投資は減衰。数年後に需要ひっ迫の局面が訪れる可能性もゼロではない。しかしJOGMECの権限強化は、コロナ以前に検討された「新・国家資源戦略」をそのまま踏襲したものだ。エネルギー需要が以前の水準に回復するのか、脱炭素化の取り組みで経済回復を目指す「グリーンリカバリー」などの国際動向をどう捉えるべきか、といった検討も行われていない。

使途の一つとして想定されるのは、前政権下で今井尚哉・首相補佐官らが対応を担ってきたロシア案件だ。北方領土問題の進展がないまま、菅政権となり今井氏も表舞台を去った。しかも東京五輪が今夏開催されていた場合、ロシアがサイバー攻撃を計画していたとの英政府の発表まで飛び出した。

そもそも脱化石・再エネ主力化時代に、資源開発予算をそこまで増やす必要があるのか。旧石油公団問題の再来が懸念される。

今後もロシア案件に巨費を投ずるのか(2019年6月の北極LNG2プロジェクトに関する署名式)
提供:朝日新聞

高レベル処分場の文献調査 厚い扉開けた北海道の2町村


長年原子力政策のアキレス腱となってきた、高レベル放射性廃棄物の最終処分場問題。2007年に高知県東洋町が選定に向けた第一段階の「文献調査」に応募したが、反対派から猛烈な攻撃を受けて撤回に追い込まれた。それから13年。北海道電力泊発電所周辺の2町村が、厚い扉をこじ開けた。

10月9日、上京した寿都町の片岡春雄町長は、処分事業の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)を訪れ、応募書類を提出した。同日午後には神恵内村の高橋昌幸村長が国からの調査申し入れの受諾を表明した。

調査誘致を成功に導いた勝因は、寿都町の場合、片岡町長のキャラクターだろう。8月13日に北海道新聞が同町の応募検討をすっぱ抜いた後、片岡町長は自ら先頭に立って応募への理解を得るための活動を展開した。当初は、周辺自治体や漁協などから激しい批判にさらされた。北海道の鈴木直道知事からも応募撤回を求められた。それでも、「ワンマン」(地元町議)の町政運営で、5度の当選を重ねてきた豪腕。集中砲火を浴びても心は折れなかった。

寿都町長の性格が原動力に 神恵内村は国から申し入れ

気さくな町長の性格が地元マスコミに愛されたことも、誘致成功の原動力となった。連日のようにテレビや新聞に登場。町長室に気軽にメディアを呼び寄せ、自らの率直な思いを語っていたという。

文献調査への応募を表明する寿都町の片岡春雄町長
提供:朝日新聞

誘致に向けた神恵内村の動きも、北海道新聞が9月11日に真っ先に報じた。村では地元商工会が同8日、調査の受け入れ促進を求める請願を村議会に出していた。片岡町長とは対照的に、高橋村長は黒子に徹した。請願について見解を問われると、「村議会の決定を尊重する」と繰り返した。代わって前面に出る場面が目立ったのは国だ。住民説明会の主催者も、寿都町では町だが、神恵内村では国とNUMOだった。その帰結が応募ではなく、国から村への調査申し入れという形の選択だった。

国は11年3月の東日本大震災直前、統一地方選挙を経て、同年夏に「複数地点、同時申し入れ」を行うシナリオを検討していた。この時点ですでに神恵内村は文献調査に関心を抱いていたようだ。

だが、福島事故で原子力政策への信頼が失われ、応募は具体化しなかった。それが今回、水面下で進んでいた寿都町の応募検討が新聞報道で表沙汰となり、事態が動き出すことに。寿都町の動きに呼応して神恵内村が清水の舞台から飛び降り、2町村とも早々に調査実現に至ったのは「良い意味での驚き」(電力関係者)だった。

寿都町が応募検討を表明して以降、道内で反対運動は盛り上がるどころか、沈静化しつつある。普段は反原発の旗を掲げる北海道新聞も「比較的冷静な報道スタンス」(同)を保つ。鈴木知事も自民党道議の意向に配慮し、反対の声をトーンダウンさせている。寿都町では反対派住民の動きが一部で活発だが、広がりは見せていない。

次のステップは概要調査。その段階に進めるか―。そこにまた、もう一段高いハードルがある。

太陽光乱開発を防ぐ手立ては? 国も自治体も及び腰の現実


茨城県笠間市でのメガソーラー乱開発を巡る問題を、前号に引き続き報道する。経済産業省、環境省、農林水産省などを取材すると、再エネ政策が抱える問題点が浮上した。

「市には太陽光条例があるが、乱開発を抑制しているかと言われれば微妙だ」。茨城県笠間市の元役所職員で笠間市議を務めた菅井信氏は、こう疑問を投げかける。

前号で報じた来栖ザク沢地区のメガソーラー開発は市条例適用後の案件で、事業者と地元の間に市が調整に入り、合意をしている現場だ。その意味では違法性は全くなく、制度上の手続きも踏んでいる「適正なプロジェクト」だ。

関係者によると、問題は風力・火力発電所のような環境アセスメントが課せられていないことにある。条例では敷地面積1万㎡以上の発電所建設に「市との協議や地域住民の合意を得なければならない」と規定されているが、発電設備の保安規定や林地開発許可さえパスすれば、環境破壊まがいの開発もできてしまうのが実情だ。

菅井氏は「メガソーラーの開発に当たっては、ゴルフ場や宅地造成と同じように、環境や防災対策をクリアしないと建設できないようにするなど規制は必要だ」と、再生可能エネルギー特別措置法や自治体条例など関連制度の見直しの必要性を強調する。 一方、市の担当者は条例について「あくまで自然環境の保護および地域関係者との調和に努め、社会の発展に寄与することを目的としたもの」だと説明。その上で、「地方公共団体が直面している問題に法的根拠をもって対応できるよう、法整備を進めていただきたい」として、国側の対応が必要との見解を示した。

制度改正も拘束力に限界 過去事例は野放図のまま

前述した環境影響評価については、環境アセスメント法で定められた「法アセス」と、自治体が条例で定めた「条例アセス」に分類される。これまで法アセスには太陽光発電設備に対するアセスメントは定められていなかった。

アセス制度を所管する環境省はこの制度を改定し、2020年4月から第一種は4万kW以上、第二種は3万kW以上の設備が対象となった。しかし今年手続きに入ったのは3件のみで、許可済みの案件への拘束力はない。今年3月には地域とのトラブル事例や、環境配慮のポイントを整理し、自主的な環境配慮の取り組みを促すことを目的に、法アセスや条例アセスの対象外である事業用太陽光(10 kW以上)を対象としたガイドラインを策定。ガイドラインチェックシートも用意し、「地域とのコミュニケーション」という合意形成に関する項目を最初に挙げている。

「トラブルの背景にあるのは住民への説明不足だ。太陽光開発では専門外の事業者が多く、何が課題か分かっていないと思われる。そうした事業者は特にガイドラインを参考にしてほしい」(環境省環境影響評価課)

また山林を開発する際には、林地開発許可が必要になる。ゴルフ場や宅地造成、工場建設など、事業者が山林で開発する種目ごとに、最低限守るべき開発要件を規定。本戸不動坂・臼木地区、来栖ザク沢の案件はすべて開発許可を得たものだが、その種目には太陽光発電所はなく、過去に許可が降りている案件で太陽光発電に適した工事が行われているのかは、事業者の良心によっていた。

そんな中、本制度を所管する林野庁は19年12月、太陽光特有の条件に沿った開発要件を根拠法である森林法に追加。各都道府県に通知し「本通知の基準をもとに、許可申請に当たってほしい」(林野庁治山課)と対応を求めた。

あくまでもこの通知は、新たに許可申請をしてきた案件が対象である。過去に許可した案件に対し通知を遡及させるのかという質問に対して、治山課担当者は「地域の実情に沿った判断が求められるため、自治体の判断にゆだねる」とコメントしている。一方、茨城県の林政課は「通知の内容をさかのぼって適用させる考えはない」との見方だ。通知に沿った開発工事を自主的に行った事業者はまだなく、効力は発揮されていないもようだ。

林発許可は得ていても納得はできまい(来栖ザク沢)

トラブル解決は現場任せ 地域共生は夢のまた夢

FIT制度を所管する経済産業省の見解はどうか。乱開発の抑止については「電気事業法改正や技術基準を改定することで、災害が起きないように不断の努力を続けている」(資源エネルギー庁新エネルギー課)とする。地域との共生では「法令を抜きにして地元の理解は大前提」と重要性を強調したが、具体策となると、「国が直接考えるのは領域を越えていると思う。各地域が実態を踏まえて対応したほうがいい」という。あくまでも、自治体、事業者間の話し合いで解決を求めていく姿勢だ。

あまりにも悪質な事例については、認定後に違反が認められれば取り消しを行うことで、悪質な事業者に対処している。だが、その体制は万全ではない。新エネルギー課でFIT認定に掛かる人員は十数人程度で、全国で九つある各地方経済産業局にいる関係職員も各局に数人程度。その体制で全国に数十万件ある認定案件の精査を行うのは事実上不可能だ。

自治体は根拠法がないため対処することができず、国も悪質な業者を排除する対策には及び腰。本戸不動坂地区の案件のように、地域に被害が発生したところで、事業者は倒産してしまえば責任が及ぶことはない。

さらにFIT適用期間が終了する20年後、認定を受けた膨大な数の再エネ事業案件がどうなるのかは、現時点で全く不明。「少なくとも高価格での買い取りはなくなっているため、事業撤退の続出が懸念される。有害ごみとなるパネルの廃棄もままならず、ソーラー放棄地が大問題化する可能性も否定できない」(再エネ関係者)。本来守られるべき地域住民が置き去りにされているのが、現在の再エネ開発政策の実態といえよう。

新たにFIT認定される案件には厳しい要件が付けられるようになったため、事態は改善に向かいつつある。その一方で農地法改正などを通じて、さらなる設置規制の緩和を進めようとする動きも出始めた。脱炭素が環境対策の主役であり続ける限り、乱開発の火種が消えることはないのか。

掲げる理想と現実は大きく乖離している

東電再生の鍵握る柏崎刈羽再稼働 花角知事が背負う重い「公約」


花角英世新潟県知事は、柏崎刈羽原発の再稼働について、「県民の信を問う」と公約し当選を果たした。しかし、具体的にどう信を問うかは示されず、次の知事選を前にして、公約が知事の肩に重くのしかかっている。

「(福島原発事故の原因、健康・生活への影響、避難計画の)検証結果は広く県民の皆さんと情報共有するとともに、県民の皆さんの評価をいただき、納得いただけるか見極めます。その上で、結論を得て〝県民の信を問う〟ことを考えます」―。

2018年の新潟県知事選。花角英世知事(自民・公明支持)は柏崎刈羽原発の再稼働についてこう公約し、再稼働阻止を訴えた池田千賀子氏(立憲民主・国民民主・共産・自由・社民推薦)との接戦を制した。

福島第一原発事故の後、東京電力の同型の原発が立地する新潟県には、原発への逆風が依然強く吹く。再稼働について明言を避け、「県民の信を問う」とした戦術が、勝利に大きく貢献したことは明らかだろう。

知事選から約2年半。花角知事は、その「信を問う」時期を迎えようとしている。再稼働の前提条件となる国、県による安全性などの検証、確認の作業が最終局面に入ったためだ。

柏崎刈羽6、7号機は原子力規制委員会による新規制基準の適合審査に「合格」し、今年に入り保安規定も了承された。7号機は設計・工事計画も認可されている。 知事が県民の評価を求めるとした県の三つの検証委員会(①県技術委、②健康・生活委、③避難委)も検討が進む。最も重要視される県技術委は9月、福島事故の原因などについて報告書案を了承。柏崎刈羽原発の安全性確認の作業を本格化させる。

来年の前半にも全ての検証結果が示され、再稼働に向けての課題が整理、提示される見通しだ。結果が出そろえば、残るステップは県、柏崎市、刈羽村の「地元同意」だけになる。

福島事故の賠償・廃炉の負担を抱える東電は、企業存続のために年5000億円の収益確保を目指す。柏崎刈羽の再稼働は、その大前提となる。また国にとっても、「原子力政策での最優先事項」(経済産業省幹部)。非効率石炭火力のフェードアウトなど低炭素化の政策を進めるうえで、柏崎刈羽の再稼働は、安定・低廉な電力供給に欠かせない。梶山弘志経産相も運転再開を重視し、自民党県連の小野峯生幹事長は、「この半年間で経産省の柏崎刈羽再稼働への力の入れようが、大きく変わった」と話す。

国土交通省出身の花角知事は二階俊博運輸相(当時)の秘書官を務め、今も与党、霞が関に太いパイプがある。知事は再稼働について、「検証結果が出てから議論を始める」と言葉を濁している。しかし、国の意向、中央政界との密接な関係、運転再開による経済効果などを考えると、既に再稼働の意向を固めたと考えるのが自然だろう。

どう信を問うのか 戸惑う県政界関係者

では、知事はどう具体的に信を問うのか―。県政界関係者は「分からない」と口をそろえる。だが、県政与党の自民党県連には、できるだけ避けたいことがある。再稼働が「ワンイシュー」になる選挙をしないことだ。

16年の知事選で、自民・公明党は長岡市長の森民夫氏を推薦した。これに対して、原発問題を争点化したい共産・自由・社民党などは米山隆一氏を擁立。再稼働容認の考えを示した森氏は、元建設省官僚、全国市長会長などの経歴、実績を掲げながら落選。連合新潟の支持も取り付けた森氏の敗北は、県政界に衝撃を与えた。「知事選で(再稼働が)ワンイシューになったら、結果が厳しくなることは分かっている」。小野幹事長はこう漏らす。

一方、東電関係者の胸中には再稼働のモデルケースがある。新潟県中越沖地震(07年7月)後の柏崎刈羽の運転再開だ。

最大震度6強のこの地震で、柏崎刈羽原発は設計時の想定を超える揺れを観測した。3号機変圧器が火災を起こし、使用済み燃料プールの水が漏れ、微量だが放射性物質が海に流出。県民の原発に対する不信感が一気に高まった。

東電は地震で受けた被害の修理や耐震補強工事を行い、県も独自に技術委員会を設け、安全性の検証、確認を実施。それら一連のプロセスを経て、再稼働の最終判断は泉田裕彦知事(当時)に一任されることに。

中越沖地震後の08年10月の知事選で、泉田氏は再稼働への言及を避けて再選を果たした。その泉田氏は、09年5月、次の知事選(12年10月)を待たずに県議会全員協議会で同意の考えを表明している。

花角知事が判断する時期が近づいている

柏崎市・刈羽村は容認 知事同意には反発も

櫻井雅浩柏崎市長、品田宏夫刈羽村長は、既に再稼働容認の意向を示している(11月15日に柏崎市長選があるが、櫻井氏の当選が確実視されている)。花角知事が県議会の了承を得て、首を縦に振れば、再稼働は実現する。

しかし、中越沖地震後の泉田氏のように、選挙を経ずに運転再開に同意すれば、「信を得ていない」と反発は避けられない。次期知事選(22年6月)での再選にも大きく影響するだろう。

自民党県連は、泉田知事、米山知事とはぎくしゃくした関係が続き、県政は停滞した。それだけに花角知事への信頼は、「ぜひ再選してほしい」(小林一大県連政調会長)と厚い。知事だけが再稼働判断の重荷を負わないよう、「場合によっては、われわれが盾になる」(同)とも考えている。

新潟県の抱える課題は柏崎刈羽だけではない。財政難は深刻で、またコロナ禍の不況が経済、暮らしを直撃している。

そこで、こんな案がある。東北電力が主体となり、東電が出資して電力小売り会社をつくる。そこに柏崎刈羽の電気を卸供給し、県内の企業・工場などに割安の価格で販売して経済の活性化を促す―というものだ。

県民の間には、再稼働しても電気は首都圏で使われ、リスクだけでメリットがないという不満がある。国、東電がこういったプランを多く示すことが、「同意」への反発を和らげるかもしれない。

【マーケット情報/10月30日原油急落、コロナウイルス感染再拡大で売り加速】


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み急落。新型コロナウイルス感染再拡大による需給緩和観が強まり、売りが加速した。

新型ウイルス感染拡大の第二波を受け、フランスが30日から、1か月のロックダウンを開始。ドイツも11月2日から移動制限を導入し、経済活動の縮小、および石油需要後退に対する懸念が、価格を一段と下押した。米国でも、ガソリン消費の中心地である中部で、感染者が急増している。

需要低迷の観測が強まるなか、リビアでは26日、El Feel油田のフォースマジュール解除を以って、全ての油田と輸出設備が再稼働となった。また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表する国内石油ガス採掘リグの稼働数は、7週連続で増加。相場へのさらなる重荷となった。

【10月30日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=35.79ドル(前週比4.06ドル安)、ブレント先物(ICE)=37.46ドル(前週比4.31ドル安)、オマーン先物(DME)=37.65ドル(前週比4.68ドル安)、ドバイ現物(Argus)=37.17ドル(前週比4.45ドル安)

【北陸電力 金井社長】新たな価値を創造し 地域社会との共存共栄と課題解決に貢献する


地域の産業・生活の発展を支える北陸電力。再エネを含む最適な電源構成で低廉な料金水準を実現するとともに、多様なサービスを積極的に打ち出している。

かない・ゆたか
1977年東大工学部卒、北陸電力入社。2004年原子力部長、07年執行役員原子力部長、10年常務取締役、13年副社長、15年6月から現職。

志賀 新型コロナウイルス禍における電気の安定供給に向け、どのような対策を講じていますか。

金井 電気の安定供給は、当社の使命の一丁目一番地です。安定供給確保に必要な業務運営体制を確保しつつ、電力供給の要となる発電所の中央制御室、ネットワーク部門の中央給電指令所や総合制御所などの交替勤務の職場においては、従業員の立ち入りを必要最小限にとどめたり、交代要員を分散して執務させることでほかの班に所属する従業員同士が接触しないようにしたりと、対策を講じてきました。

一方、ほかの従業員には、通勤時の混雑回避のため時差出勤や在宅勤務を推進、交代勤務者を除き当社の約4割の従業員が在宅勤務に取り組みました。加えて、会議室を執務スペースにするなどし、事務所内でも従業員同士の距離を確保するなど、できる限りの対策を講じています。

志賀 ウィズコロナ時代に合わせた働き方改革が不可欠です。

金井 在宅勤務により、通勤時間を有効利用できることや、より業務に集中できるといったメリットが明確になり、その半面、通信環境のさらなる充実の必要性など課題も見つかりました。通信環境については現在、自宅から安全に社内システムへ接続する環境を構築中です。ウィズコロナ時代において在宅勤務の実践は不可欠であり、業務の在り方を大きく変えるチャンスでもあると認識しています。定着を図りながら、柔軟な働き方や労働生産性向上につなげていきたいと考えています。

北陸エリアの電力需要 産業用中心に減少

志賀 コロナ禍による経済活動の低迷で、電力需要にはどう影響したでしょうか。

金井 北陸地域は産業用需要の比重が高いのですが、当社をはじめとする小売事業者全体の北陸エリアにおける電力需要は、第1四半期(4~6月)の前年同期比5・6%減に対し、7月には9・0%減まで減少幅が拡大しており、地域経済の低迷の長期化を懸念しています。当社の小売り販売電力量だけを見れば、首都圏エリアで新規契約を順調に拡大していることもあり、北陸エリアほど悪くはない状況です。ただ、この先何が起きるか分かりませんので楽観視はしていません。

志賀 経済産業省が進めている非効率石炭火力のフェードアウト政策についてはどう受け止めていますか。

金井 既に第5次エネルギー基本計画でも非効率石炭火力のフェードアウト目標を掲げていましたが、突如として2030年と年限を切り、非効率石炭を「亜臨界圧(Sub-C)」「超臨界圧(SC)」と型式で定義されたことに大変驚きました。例えば当社の敦賀火力1号機は、外形上は「非効率石炭火力」に該当することになりますが、建設時の設計発電効率は42・2%と、当初から超々臨界圧(USC)とそん色ない水準です。その後も高中圧タービンの改造を実施し、21年度にはさらなる効率向上のため低圧タービン改造を予定し、改造後は43%程度まで上昇する見込みです。  電力会社の社会的使命として、CO2削減とともに、低廉で安定的に電力を供給することも重要です。石炭火力は、安定供給と電気料金の低位安定に非常に大きな役割を果たしていますので、効率の高いプラントについては残していただけると確信しています。 本政策の目的はあくまでCO2排出削減であることから、石炭火力単独で検討するのではなく、大きな効果を見込める原子力の再稼働の推進と事業環境の整備についても積極的に取り組まなければなりません。原子力の再稼働には不確実な点が多く、供給力確保に責任を負う立場からは、非効率火力の削減計画策定に当たってこのようなリスクも考慮する必要があると思います。

定期点検時のタービン取り替えによる石炭火力の高効率化も(七尾大田火力2号機)

【省エネ】需要家の義務 合理的な政策を


【業界スクランブル/省エネ】

米国の一部の州や欧州などの一部の国では、エネルギー供給事業者に「需要家の省エネ義務」を課す制度がある。1994年に英国が初めて実施した制度だが、電力・ガス料金に加算して、需要家から「エネルギー事業者が実施する需要家省エネ対策費用」を徴収する制度である。各エネルギー事業者は規制当局が定めた目標省エネ量を達成するために、高効率機器購入時や建物断熱改修時の補助金、省エネアドバイスプログラムなどを実施する。国内の再エネ電力固定価格買い取り制度(FIT)も再エネ電力購入時の追加買い取り費用を全需要家から徴収しており、その省エネ対策版と考えるとイメージしやすい。また、他事業者の需要側省エネ量を「ホワイト証書(再エネにより削減される削減量証明書がグリーン証書で、省エネにより削減される削減量証明書がホワイト証書)」として取引する制度を導入しているケースもある。

国内導入是非の論点としては、国民に対する省エネの推進実務を誰(例えば経産省・環境省、省エネルギーセンターのような団体、エネルギー小売り事業者など)が担うのか。また、「短期で投資回収可能な自立的普及状態の省エネ対策」や「規制により導入義務がある省エネ対策」以外は補助金などによる経済的な支援措置が必要となるが、この追加的な費用をどう徴収(例えば、石油石炭税などを値上げしてエネルギー対策特別会計から捻出、電力・ガス購入時の賦課金としてエネルギー事業者が追加徴収)するか。国の温暖化対策目標でも省エネは重要な位置付けを占めており、省エネの実質的な目的は温暖化対策であることから、「再エネ100%のグリーン電力メニューを購入している電化住宅+EV所有」と「燃焼式熱源を使うCO2排出量の多い住宅+ガソリン車所有」などのモデルケースを比較して負担金額がどう変わるか。当該負担の差は政策的に妥当・公平と言えるかを検討しながら、海外制度の導入是非を検討し、日本にとって、合理的で政策費用対効果の高い省エネ促進方策を実現する必要がある。(Y)