【エネ庁長官 保坂伸氏】脱炭素化に挑むエネ行政 次期エネ基の青写真とは


世界的な脱炭素化の機運の中、安定供給と環境をいかに両立するか。保坂伸エネ庁新長官に考えを聞いた。

ほさか・しん
1987年東京大学経済学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。2013年秘書課長、19年貿易経済協力局長などを経て20年7月から現職。

―新内閣の下、エネルギー基本計画の見直しに着手することになります。

保坂 東日本大震災から10年が経過しようとしていますが、この間、エネルギー政策を巡り紆余曲折の議論がありました。これまでの議論を踏襲し、3E+Sをきっちり意識しながら政策を進めていくことが重要だと考えています。近年は国内外で環境への意識が高まっています。脱炭素という大きな流れの中で3E+Sをどのように実現するのかが、来年スタートすることになる次期エネルギー基本計画のポイントになります。

2050年にCO2排出量80%削減を掲げているため、次期エネ基議論のターゲットも50年になるでしょう。その時には、CO2排出を伴う発電そのものが許されなくなるかもしれない。かといって、再エネでこの国の電力を100%賄うことができるかといえばそれも難しい。さまざまな制約がある中でどのような電源構成が可能なのか検討することになります。

―電源ごとの見直しの方向性についてうかがいます。まずは原子力についてはいかがでしょうか。

保坂 世界最高水準の規制を敷く規制委の許可を経た設備から順次、稼働していくという基本方針が変わることはありません。特定重大事項等対処施設があるので休止している設備もありますが、PWR(加圧水型原子炉)9基が許可を得ていますし、BWR(沸騰水型原子炉)の中にも設置変更許可を得ているところがあります。今後も、地道に再稼働を進めていくしかありません。私がエネ庁総務課長を務めていた12年当時と比べれば、遅い歩みではありますが一歩一歩前進しています。

新増設は国民理解が前提 既存原発の再稼働に注力

―脱炭素社会を目指す以上は、再稼働だけではなく新増設にも踏み込む必要があると考えられます。

保坂 それは、国民の理解を得られるかどうかです。脱炭素を目指す中でどのような社会にするのかというコンセンサスを図る中で語られるべきであり、数字合わせであってはなりません。とにかく、今は再稼働の可能性があるものについて集中しつつ、技術の維持はもちろん、SMR(小型原子炉モジュール)などの新たな技術にもアプローチしていきます。

【電事連会長・九州電力 池辺社長】電気事業を通じて経済の持続的発展に貢献


今年3月に電気事業連合会会長に就任。自由化で厳しさを増す業界のかじ取り役を担う。先頭に立ち温暖化、レジリエンスなどの課題を解決し、電気事業の健全な発展を通じて、経済や国民生活向上に貢献すると力を込める。

いけべ・かずひろ 
1981年東京大学法学部卒、九州電力入社。2016年執行役員経営企画本部副本部長兼部長(経営戦略)、17年取締役常務執行役員コーポレート戦略部門長、18年6月から代表取締役社長執行役員。20年3月から電気事業連合会会長を兼務。

志賀 7月の豪雨に続いて、9月に史上最強クラスの台風10号が九州に襲来しました。最大約47万戸が停電しましたが、災害対応をどう振り返りますか。

池辺 台風10号に伴う停電で、多くのお客さまにご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます。復旧に当たっては、各自治体と連携し情報共有を図りながら対応を進めました。また協定に基づき、陸上自衛隊やイオンさまにご協力をいただきながら、早期復旧に取り組みました。協力会社を含め約7300人を動員して復旧作業を行った結果、停電がピークとなった7日早朝から2日余りの9日18時過ぎに、高圧配電線への送電を完了することができました。

志賀 新型コロナウイルスの感染拡大が継続しており、九州も福岡市を中心に多くの感染者が出ています。これも電力の安定供給を脅かしかねません。どのような対応をしていますか。

池辺 いわゆる「エッセンシャルワーカー」に位置付けられているわれわれとしては、さらなる感染拡大の可能性も懸念される中、電力を安定してお届けし続ける重責を改めて痛感しています。

当社では、政府が提唱する「新しい生活様式」の実践例を踏まえ、各職場で従業員がとるべき行動の留意点を取りまとめ、ウィズコロナにおける「新しい働き方」として周知・徹底を図っています。 

また、この未曽有の事態をチャンスと捉え、既存事業の進化や新規事業の創出、テレワークの拡大やオンライン化の進展などのデジタルトランスフォーメーションによる働き方改革など、あらゆることに挑戦していきたいと思っています。

【省エネ】新型コロナと共存 ニューノーマル社会


【業界スクランブル/省エネ】

継続的な感染抑制対策が必要となっている。ウイルスが付着した手で目鼻口を触る接触感染や飛沫感染などの防止が重要だが、「家庭内で冷暖房中の部屋を頻繁に換気する対策」は必ずしも効果的ではなく、単なる増エネルギーを招くだけとなる懸念がある。

家庭内で飲食や会話を共にするのであれば、一番感染リスクが高い当該行動を残したまま、「しばらく空気中に滞留する微小飛沫やエアロゾルなどの換気排除」をしても、総合的な感染リスクの低減効果は小さい。よって、感染者と同居せざるを得ない状況でのみ、「各部屋での隔離生活」と併せて「頻繁な換気などの増エネ対策」を実施すべきである。なお、厚生労働省によると殺菌作用のある液体の室内噴霧(在室時)は推奨されておらず、室内空気中のウイルスが気になる場合はHEPAフィルターを備える空気清浄機で捕縛が可能である(エアコンの空気清浄機能ではフィルターを通過する空気流量が少ないため、空気清浄機の方が捕縛効果は高い)。

家具表面やドアノブへの懸念であればアルコールや界面活性剤(NITEが洗剤リストを公表済)での清拭の方が確実だ。家庭では「ウイルスがいないグリーンゾーン」を前提とし、外から持ち込むウイルスを帰宅時の手洗いなどで低減させる対策を継続するのがニューノーマルとして適切である。同居家族が無症状感染者である可能性まで懸念して、中途半端な感染防止対策は無意味だし、完全な対策をして家庭内コミュニケーションを極小化させ続けるのもニューノーマルとして不適切である(公共交通機関やオフィス、商業施設などは要注意であり、適切な対策が必要)。

近年の動物由来感染症は2003年SARS、09年新型鳥インフル、12年中東呼吸器感染症、16年ジカ熱、20年新型コロナと続いており、自然災害対策と同様に感染症対策を備えた社会実現が必須である。そのニューノーマル社会は省エネ・脱炭素も兼ね備えているべきであり、政府が省庁連携で強力に推進し、バランスが取れた社会を実現させる必要がある。(Y)

【住宅】変わるエアコン 換気機能に着目


【業界スクランブル/住宅】

夏を迎えてもコロナ騒動が収束する気配は全くない。そこで今回はエアコン冷房とコロナの関係に言及する。エアコン冷房といえば、いかに省エネ運転するかが毎夏恒例の話題であったが、今夏は換気がポイントとなっている。

背景を探ってみるとWHO(世界保健機関)が飛沫感染と接触感染以外に空気感染の可能性を示唆したことを発端に、メディアなどで一般的な家庭のエアコンは、「室内の空気を循環させて冷やしているだけで換気の機能は持っていない」という一般人が知らなかった事実が公知されたことで、換気性能を持つエアコンが売れ筋になっているようだ。これまで室内空気の質にこだわって製品開発を行ってきた機器メーカーの技術。その開発努力がコロナ騒動を契機にユーザーの機能選択の優先度の上位に食い込んできたと解釈した。

エアコンと換気の関係では、冷房運転中に換気を行えば(冷気の)熱損失が発生するため、消費電力量は増加することになり省エネとは相反することになる。皮肉な見方をすれば、換気=個人のウイルス感染リスク回避が、省エネ=地球環境の破壊リスク回避よりも優先するという不都合な事実がコロナ騒ぎで露呈しているとも解釈できそうだ。

ただ厚生労働省の資料を見ると、冷房時の換気の重要性に言及しているのは、不特定多数の人が集まる商業施設などが主であって、個人の住宅や家庭での換気までは踏み込んでいない。そういう意味では、家庭用エアコンで換気性能をアピールするのは、特別定額給付金10万円を狙ったコロナ便乗商法と言えなくもないか。

いずれにしろ、コロナ対策の視点では個人住宅に住む家族間での感染よりも家庭内にウイルスを持ち込ませない防御に注力する方が、効果があるように思う。

換気に関しては快適な室内環境を維持するためには必要な機能であり、今後も適切に強化されるべきである。しかし、今回の騒動で換気機能が偏重されることを危惧する。(Z)

【太陽光】保安と保守 新基準に期待


【業界スクランブル/太陽光】

毎年のように繰り返される豪雨被害や台風被害の中、太陽光発電システムも被災している。近年の太陽光発電の導入拡大に合わせて、事故事例も増えつつある中、政府は太陽光発電システムの保安の強化を進めるためにさまざまな取り組みを行おうとしている。太陽光発電が主力電源として長期安定的なエネルギー供給を担うために、より一層の効果的な保安と保守を進めていく取り組みは大変ありがたいことだ。

太陽光発電システムが普及し始めたころから、必要な保安基準などが整備されてきた。一般の電気工作物の一つとして位置付けられ、基準の各項目に太陽光発電システムについて随所に追記されてきた経緯がある。今日、普及が進みさまざまな事業者が発電事業に参加する中で、保安基準の周知は重要課題に挙げられている。

従来の保安基準が作られた経緯を考えると、相当に電気保安の基準について広範な知識を持つ専門家でないとしっかりとした理解を取得するのは難しい面があった。今回の政府の太陽光発電システムに特化した技術基準の策定は、太陽光発電システムの基準として集約され、編纂される。これは、さまざまな関係者が太陽光発電システムの保安に関して、体系的な正確な理解を得ることを大いに助けてくれることになると期待している。より体系的な正確な保安知識を広めるのにも役立つだろう。こうした保安知識のインフラ整備は、適切な保守にもつながるのではないか。またこうした整理は、実際に現場で電気保安の業務に当たる技術者の高齢化と人材不足に対応するための新たな仕組みづくりにも役立つと期待したい。

昨年末に業界団体にて太陽光発電システムの保守点検ガイドラインの改訂がなされたが、今回の改訂は、さまざまな場面の太陽光発電システムを想定し、使いやすさを念頭に改訂を行った。さらに政府の保安環境整備の取り組みに合わせて引き続きより良い技術情報の提供に努め、長期安定電源の普及に貢献できればと願っている。(T)

【石炭】九州に50Hzが 周波数変換の変遷


【業界スクランブル/石炭】

夏季になり電力融通がタイトになるたびに話題になることがある。静岡県・富士川を境に日本の電力系統が50Hz地帯と60Hz地帯に分かれるということである。しかし60Hzの九州北部にあって50Hzが存在していたことは意外に知られていない。八幡製鉄所と筑豊の炭田地帯が50Hzで電化されていたからである。

日本では照明をはじめとする電灯から各種機械まで電気装置が多用されてきた。大規模炭鉱ではコンベヤーやトロッコ、照明・換気塔の動力として明治期から電力を大量消費してきた。多くの場合、炭鉱で産出する販売不適な粗悪炭の活用による自家発電を多く運用していたが、昭和に入ると、安価な電力会社からの買電が多くなっていた。米ウエスチングハウス社と提携していた三菱系会社が60Hzであるほかは40Hz、25Hzが混在し、各社は周波数変換装置を設置し受電していた。終戦直後は、異常渇水による水力発電所の能力低下などに対応して、広域給電の必要性が高くなっていた。隣接する中国電力はじめ本州中央部の水力発電所が60Hzであるから広域融通のため、1942年に九州島内は60Hzで統一することが閣議決定された。51年に九州電力が発足するや、北九州市内の路面電車や関門トンネル門司側が次々と60Hzに転換され、最後まで残っていた貝島炭鉱大之浦抗の転換が終わったのが60年6月のこと。

高圧・大電流で受電している企業では大型の動力用電動機の改造や更新が必要となり、大変な事業となった。鉱員の命に関わる換気装置や、生産量を左右する巻上機の運搬速度が変わることなど、周波数変換工事に伴う休業に対する費用的な問題もあり、現場ではかなり反発があった。また新日鉄構内や水力発電はしばらく50Hzで残った。余計なことだが東海道新幹線の東京電力管内では60Hzで架線が来ているが、これは九州電力の周波数変換装置が役立ったという。北陸新幹線開業時の碓氷峠は25 Hzで電化されていたが、現在では、周波数切り替えを難なく行っており、この間の技術の進歩を感じさせられる。(T)

【石油】適正マージン確保 新規投資に期待


【業界スクランブル/石油】

石油元売り各社は8月第1週の石油製品卸価格を前週比4円高と大幅に引き上げた。しかも、卸価格の計算前提となる前週の指標原油の円建て輸入ものが計算上ほぼ横ばいであったにもかかわらず、大幅な値上げが行われた。従来であれば、流通業界が反発して市況が乱れるところであるが、今回は比較的冷静に受け止められ、小売価格にも円滑に転嫁が始まっている。

値上げの理由は、OPEC(石油輸出国機構)プラスの協調減産強化に伴う7月分サウジ原油などの指標原油に対する割増調整金の値上がり分を、翌月月初の卸価格改定に反映させた結果だといわれている。通常、元売り会社がサウジアラビアなどの産油国の国営石油会社から原油を購入する場合、アジア市場の指標原油であるドバイ・オマーン両原油の原油積み込み当月のシンガポール・スポット平均価格に調整金を加減したフォーミュラで代金が決まる。

現在、元売り会社は、製品卸価格の改定は原油価格の変動を基本に、内外製品市況などを総合的に勘案した上で決定するとしているので、調整金の変動も原油価格の変動に含まれるとの考え方であろう。

今回の卸価格改定が比較的冷静に受け入れられた背景として、本年5月のゴールデンウイークの期間に指標原油の計算上の値下がりに加え、調整金引き下げ相当分2.5円を値下げした前例がある。今回はその逆だが、値下げの前例があったから、今回の値上げも受け入れられたとの指摘もある。さらに、ある業界専門紙の記者がこれを予想し、卸価格公表前日に値上げ観測記事を掲載したことも、環境醸成に貢献したといわれている。

2017年の業界再編以来、ガソリン小売価格が高止まりしているとの批判もあるが、むしろ価格形成の透明性は大きく高まった。従来、過当競争で取れなかった適正マージンが確保できるようになった。「脱炭素」が叫ばれる中、精製・流通両業界とも将来生き残るためには新たな事業展開が急務であり、将来への新規投資に期待したい。(H)

【火力】梶山大臣の表明 業界は大混乱


【業界スクランブル/火力】

梶山弘志経済産業相が7月に非効率石炭火力の休廃止を検討すると表明して以降、業界の内外は一種の混乱状況に陥っている。

大手のマスコミは、こぞって「エネルギー政策の大転換」と書き立てているが、発表内容を詳しく読んでみると、ほぼ第5次エネルギー基本計画に書かれていることであり、従来の方針を踏襲しているだけで何も変わらないとの見方もある。

このように、両極端な見解のはざまで多様な誤解や見落としが発生しているが、突っ込みどころが多すぎるので、この場でいちいち触れるのはやめておくことにする。いずれにしても同床異夢のような状況でいくら議論をしても、まともな結論に到達することはできないだろう。

今回の件で、石炭火力に注目が集まるのは当然であるが、「非効率」というキーワードがあるのに石油火力やLNG火力が蚊帳の外にされていることの方が気に掛かっている。

石油火力は、電気事業用としてはオイルショック以降建設されておらず、どこも筋金入りの老朽火力である。供給力確保やエネルギー源多様化の必要性がなければ、真っ先に廃止したいというのが発電事業者共通の本音だ。

LNG火力については、最近でも新たな発電所が運転開始したとか熱効率でギネスに載ったなどとの話題があり、新鋭火力の印象もあるが実はそうでもない。昨年はLNG導入50年の節目だったが、世界初のLNG専焼火力は今も現役だ。この発電所とギネス級の最新設備の性能を比較すると、熱効率でなんと1.5倍もの開きがある。  

一方、今回の件で石炭火力の新旧を分けている境界線は文字通り紙一重で、設備によっては性能が逆転しているケースすらある。このように物事の一面しか見ない議論は、あまりに乱暴だ。真に実現可能な未来を検討するのであれば、目先のことにとらわれず、複眼的な視点を持つ必要がある。(Z)

【メディア放談】石油事故と政策見直し 生態系破壊で日本に批判の矛先


出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

今夏は重油流出、LPガス爆発など、石油関連の事故が国内外で起きた。 またエネルギー政策の見直しの議論が始まる中、石炭・原発・再エネの報道も増えている。

―環境問題といえば、地球温暖化防止が最大のテーマになっているけれど、インド洋の島国モーリシャスの沖合で、商船三井が運航する貨物船が座礁して、8月6日から大量の重油が流れ出た事故があった。マングローブ林や、絶滅危惧種がいる海洋保護区の汚染が心配されている。

石油 日本ではあまり大きく報道されなかったが、ヨーロッパではバカンス先として知られていることもあって、イギリスのBBCやフランスの公共放送、アンテンドゥなどは、事故が起きてからすぐに大きく取り上げて伝えていた。環境問題にうるさい人たちは、かなり危機感を持っているようだ。

ガス 日本は政府、企業、メディアの対応が遅い。ようやく8月中旬になって取り上げられるようになった。船長をはじめ船員に日本人はいなかったが、商船三井がチャーターした船で、船主は日本企業。当然、日本に批判の矛先が向くことになる。

1997年にロシア船籍の「ナホトカ号」が難破して、重油が島根県から石川県に掛けて漂着する事故があった。あの時は海上保安庁や自衛隊、自治体の関係者、それに全国からボランティアが駆けつけて油を回収した。今回も、商船三井がジャンボ機をチャーターして、社員や家族のボランティアを現地に送ってもおかしくない事故だった。

電力 政府も商船三井も初めは「どの程度かな」と様子見だったようだ。モーリシャスは生物多様性の「ホットスポット」と呼ばれているらしい。日本は、2010年に名古屋市で生物多様性条約の10回目の締約国会議を開いている。それだけに損害賠償とは別に、道義的責任は免れない。

マスコミ 小泉進次郎環境相は地球温暖化防止で張り切っているけれど、現地に行くとか、もっと本腰を入れて対応すべきだった。それを進言しなかったのなら、環境省の役人のセンスを疑うね。

郡山でプロパン爆発事故 LPガスのイメージ悪化

―今年の夏は、石油関連の事故が世間の注目を浴びた。国内では、福島県郡山市でのプロパン爆発事故。LPガス業界にはショックだったと思う。

石油 まず原因究明が重要になる。だけど、実は業界も役所も事情をよく把握していなくて、報道ベースの情報しか分からない。

死亡者が出たので、地元の警察と消防本部の担当になる。それで詰めている地方紙の記者が情報を取ってくる。その記事を共同通信が報道して、関係者はそれを読んでいる。だからまだ対策の打ちようもない。

ガス LPガスのコンロの調子が悪くて、IHに転換する工事の中で起きた事故のようだ。すごい爆発だったから、中には、「これはテロにも使える」と心配する人もいた。LP業界はかなりのイメージダウンだろう。

マスコミ 「やっぱりIHがいいな」という声が世間で増えてくるかもしれない。小売り自由化前は、電力会社は「敵失」をよしとするようなことはなかった。でも、今は分からないね。

―7月に梶山弘志経済産業相が非効率石炭火力のフェードアウト、再エネ主力電源化の具体的検討を指示して、エネルギー関連の報道が増えている。

ガス 週刊東洋経済の「脱石炭、待ったなし」は良い特集だったし、週刊ダイヤモンドの連載「SDGsの裏側」にも良い記事があった。日経も「経済教室」で電源構成の連載を始めたけど、初回が東工大の柏木孝夫さんだったのには驚いた。

石油 柏木さんは以前からコージェネとか分散型電源の普及に力を入れていて、エネルギー関連の学者の中では本流から少し外れるからね。でも、しっかり原発の役割を主張していて、電力業界はありがたかったはずだ。

電力 国際大の橘川武郎さんが週刊エコノミストオンラインに投稿した「読売新聞のスクープはどこがミスリードだったのか」も、読売の報道の間違いを指摘して、経産省の狙いを分かりやすく説明していた。

しかし、敏感に反応したのは、やはり電気新聞。「岐路に立つ石炭火力」の連載は読みごたえがある。RITEの山地憲治さんから始まって、常葉大学の山本隆三さん、橘川さん、エネ研の小笠原潤一さんと続けていた。執筆者も順番も適当に選んでいるのではなくて、電気新聞なりに考えていることが分かった。

エネ基本計画の議論 原発比率をどうするか

―来年はエネルギー基本計画の見直しが始まる。これから非効率石炭火力の廃止と合わせて、再稼働、新増設が進まない原発と再エネの扱いの議論は避けられない。

ガス 2030年の電源構成は、いまは原発が20~22%の比率なっている。だけどそれが難しいことは皆、分かっている。すると原発の比率をどこまで落とすか、それと非効率石炭火力が減る中、石炭とガスのバランスをどう取るのかが最大の課題になる。

もし原発の比率を15%に下げると、いま22~24%の再エネを30%にしなければならない。原発嫌いの環境省は当然、それ以上に増やしたい。でも、経産省はそれくらいが限度と考えている。

マスコミ 経産省は洋上風力に力を入れるようだけど、ドイツやオランダなどと違い、遠浅の海辺が少ない日本でどれくらい設置できるのか、疑問に思っている人は少なくない。環境省がゴリ押しして無理に入れようとすると、電気料金を上げざる得なくなるかもしれない。

―コロナ禍の不況対策で消費減税を唱える人がいるけれど、まずそんなことを止めた方がいいね。

EVに必須のレアメタル コロナ禍で安定供給に新リスク


【リレーコラム】川口幸男/日本メタル経済研究所理事長

電気自動車(EV)の登場で、自動車産業の在り方が大きく変わろうとしている。現状では、新型コロナウイルスの感染拡大で生産や販売が影響を受けているが、長期的には広く普及することは間違いない。人々は環境や安全への意識を高めており、コロナ後の世界は「新常態」といわれるように、以前と様変わりすると想定されている。

本年7月、米国の電気自動車メーカーのテスラがトヨタ自動車の時価総額を抜いたというニュースが注目を集めた。テスラの年間販売台数はトヨタの30分の1にすぎず、株価急騰には過熱感もある。しかし、テスラは電動化や自動運転など「CASE」と呼ばれる自動車産業の百年に一度の大変革の先頭を走っており、その成長力や将来性が高く評価された結果と見られている。また、環境・社会・企業統治を重視するESG投資の広がりも追い風になっている。

現状のEVには、ノーベル化学賞を受賞された吉野彰氏(旭化成名誉フェロー)が開発した「リチウムイオン電池」が使われており、当面はこれが主流である。しかし、リチウムイオン電池は、製造コストが高いことと、航続距離の短いことや充電時間も長いという弱点がある。このため、全固体電池など、リチウムイオン電池に代わる革新的な二次電池の開発が進められているが、実用化までにはまだ相当な時間がかかりそうである。

資源確保には政府の政策が重要

リチウムイオン電池には、電池材料としてリチウムのほかにコバルトやニッケル、マンガンなどのレアメタル(希少金属)が多く使われている。これらのレアメタルは日本国内には資源がなく、すべてを海外からの供給に依存している。中でもコバルトは世界生産の6割以上がアフリカのコンゴ民主共和国に集中している。コンゴでは、政情の不安定さや児童労働による鉱石の採掘の問題などもあって、コバルトの安定確保が重要な課題である。

これまでは、レアメタルの安定供給上の課題といえば、国際紛争や政情不安などの地政学リスクや自然災害による供給障害への対応が中心であった。しかし、今回のコロナ禍によりパンデミックによるメタルの供給障害という新たなリスク要因が加わったといえる。

こうしたレアメタルの安定供給の確保には、グローバル化しているサプライチェーン全体をカバーするようなリスク対応が求められる。グローバル社会では、個々の企業による対応の限界を超える場合もあり、資源外交やリスクマネー供給などの政府による政策的な対応が一層重要性を増すものと考えられる。

かわぐち・ゆきお 1975年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁石炭課長、産業科学技術研究開発課長、中小企業庁経営支援部長、住友金属鉱山代表取締役専務執行役員など経て2015年から現職。

次回はアジア太平洋研究所の岩野宏さんです。

【原子力】行政権限を濫用 問われる規制委


【業界スクランブル/原子力】

東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原発6、7号機を巡り東電が作成した安全管理ルールである「保安規定」に問題ありとして、原子力規制委員会は去る5月28日に書き直しを求めることを決めた。規制委は2017年に6、7号機について安全審査合格の審査書を決定している。審査では、原発設備そのものよりも、むしろ福島第一原発事故を起こした東電という事業主体に再び原発を運転する適格性があるかが論争になり、規制委は適格性を認める条件として、再稼働とは何の関係もない福島第一の廃炉を完遂することや、原発の安全対策に継続的に取り組む覚悟などを保安規定に盛り込むよう要求していた。

それを受けて東電は今年3月、「廃炉をやり遂げる」「世界中の運転経験や技術の進歩を学び、リスクを低減する努力を続ける」など7項目を盛り込んだ保安規定を提出。規制委に認可を求めた。しかし、規制委は「表現が抽象的」「経営責任が明確でない」などと再度問題点を指摘し、更田豊志委員長は、どう具体化するのか東電がよく考えることだと、事実上、投げ返している。

更田委員長の気持ちは分からないではない。だが、原子力安全を統括する行政庁としての処分の在り方、法治国家日本の姿としては問題が多すぎる。行政指導なら行政庁のコメントを受け入れるかどうかの任意性が担保されていればいいといえるが、記者会見で規制委員長にここまで言われてしまえば東電に選択の余地はない。認可条件であるとすれば今回の決定は行政処分にほかならず、行政処分は裁量で何を決定してもいいというものでもない。

あらかじめ決めた行政基準に沿って裁量処分を行うのが法治国家の在るべき姿であり、行政事件訴訟法第30条は、憲法の定める人権規定、信義則、平等原則などに照らして、裁量処分に裁量権の逸脱・濫用があった場合は、裁判所が当該処分を取り消せると規定する。東電だけに厳しい対応をすることを法は認めていない。(Q)

間違いは素早く打ち消すべし 「確かな事実」のリスト化の提案


【気候危機の真相Vol.06】小島正美/ジャーナリスト

温暖化報道の常識が「CO2犯人説」である限り、「気候危機」に傾く世論を覆すことはできない。状況を改善するには「反論の余地のない事実」をリスト化し、メディアに突き付ける手が有効だろう。

いったん人々の脳に刻まれたイメージを覆すのは容易ではない。地球温暖化の犯人はCO2だというのも、その例であろう。ではどうしたら凝り固まったイメージを解きほぐすことができるのだろうか。いまだ悪魔のようなイメージで見られる遺伝子組み換え(GM)作物を例に考えてみたい。

GM作物は1996年から米国を中心に普及し始め、今では約30カ国で栽培され、世界中で流通している。家畜のえさや食用油の原料など幅広く浸透しているにもかかわらず、今なお「がんを起こす」とか「自閉症の原因」とかトンデモ言説を信じる人が多い。

GM作物での失敗に学ぶ 温暖化報道の「常識」崩せるか

それは、誤った言説が登場したときに「それは間違いなくウソです」と打ち消す作業を科学者やマスコミがしてこなかったからだ。例えばGM作物では、2012年にフランスの大学教授が「組み換え作物を食べるとがんになる」とマウスの実験を発表した。当時西欧で大きく報道され、その悪いイメージは一気に人々の脳内にインプットされた。しかしその後、世界中の政府機関が実験の不備を指摘した。さらにEUの欧州委員会は完璧なマウスの再現試験を行い、当該の実験は完全に否定されたが、マスコミは一行も報じない。

おかしな言説を流布させないために必要なことは、そのおかしな言説が発生するたびに科学者集団が素早く打ち消し、マスコミに取り上げてもらうよう巧みに広報していくしかない。

では、温暖化問題はどうだろうか。言うまでもなく新聞やテレビは洪水や台風で大災害が起きるたびに温暖化のせいだと報じる。森林火災があれば、これも温暖化の影響だと簡単に報じる。これは、すでにメディアの記者たちの頭に「CO2のせいで地球が温暖化し、やがて海面が上昇し、異常気象が頻発し、地球は危機的状況に陥る」という構図が出来上がっているためである。CO2犯人説は科学的に正しいと思い込んでいるからだ。

CO2犯人説を否定する「確かな事実」リスト案

では、記者たちの頭の中の構図をひっくり返すには、どうすればよいのだろうか。そのためには、記者たちが信じていることに対して、「それはウソだ」と示し、そのウソをニュースにしてもらうしかない。GM作物でも記者たちが危ないと思っている限り、一般市民の考えが変わるはずはない。

その実現手段は、ウソだという確かな事実を記者たちに突き付けることだ。反論の余地がないほど確かな科学的事実なら、記者たちの心も揺れるはずだ。

温暖化問題で一般に信じられている言説とは異なり、「えー、そうだったの」と皆が驚くであろう確かな事実とは何か。それを明確にして示すのが「科学重視派」の科学者の役割である。一般的には「温暖化懐疑派」と呼ばれるが、彼らは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の言説を疑っているのではない。「こちらの言説の方が科学的で正しい」と主張しているわけなので、懐疑派という言葉はやめたい。

では、記者たちに知ってほしい確かな事実とは何か。私なりにその「確かな事実」を見つけようと、『地球温暖化「CO2犯人説」は世紀の大ウソ』(丸山茂徳氏ら著)や『「地球温暖化」の不都合な真実』(マーク・モラノ著)、『CO2温暖化論は数学的誤りか』(木本協司著)を読んでみた。それぞれ説得力を感じたが、私のような門外漢が特に知りたいのは、どの論が、CO2犯人説(IPCC派といってもよい)からの反論を跳ね返すほど確実性に富む科学的事実なのかという点だ。

反論の余地ない事実提示を 共感得るかは科学者の腕次第

例えば、温暖化で絶滅すると危惧されるホッキョクグマは絶対に減っていない、いやむしろ1950~60年代よりも増えているという事実が確実であるならば、これは「確かな事実」のリストに加えることができる。

温暖化と異常気象の発生の関係はどうだろうか。坪木和久・名古屋大学教授が著した近著『激甚気象はなぜ起こる』を読むと、「温暖化懐疑論はもはや無意味である。温暖化という気候変動は現実に進んでおり、それに伴って気象が激甚化している。その原因は人間活動にある」(4ページと338ページ)と述べているが、過去100年の統計を見れば、おそらく無関係だと主張できるだろう。仮にそうならば、「異常気象と温暖化は無関係」という確かな事実をリストに載せることができる。

そもそもIPCCの気候予測モデルがパラメーターをちょっと変えれば、どんな予測でも可能にしてしまう怪しげなものだ(いわゆるチューニング問題)という印象を、丸山氏らの本を読んで持ったが、このことを一般市民に分かる形でどう解説するかが科学者の腕の見せどころである。コンピューターを用いた温暖化シミュレーションに根本的な誤り(雲や水蒸気と気温の関係など)があれば、それもリスト化できるだろう。マーク・モラノ氏は「『科学者の97%が人為的温暖化説に合意』はウソだ」と言っているが、その辺りもリストに加えられたら面白い。

こうしてリストを作っていけば、文句が出ようのない確かな事実をメディアに突き付けることができる。その案を作成してみた(別表)。大事なのは、それを大衆の面前に分かりやすい形でビジュアルに示すことだ。このリストづくりは、記者たちに向けてはニュースのネタになるはずだ。

最後に再度強調したい。CO2犯人説を確実に否定できる「えー、そうだったの」という確実な事実だけを分かりやすく解説した本をぜひ緊急出版してほしい。ニュースの素材になるような本なら反響を呼ぶはずだ。

こじま・まさみ 1951年生まれ。愛知県立大卒業後、毎日新聞社入社。生活報道部編集委員として食の安全、健康・医療問題などを担当し、2018年退社。「食生活ジャーナリストの会」代表。

【気候危機の真相Vol.01】

【気候危機の真相Vol.02】

【気候危機の真相vol.03】

【気候危機の真相vol.04】

【気候危機の真相Vol.05】

【新電力】非効率石炭の廃止 小売りへの影響は


【業界スクランブル/新電力】

7月3日、梶山弘志経済産業相から非効率石炭火力のフェードアウトに向けた検討を開始することが発表された。対象となる電源は超臨界圧(SC)以下の効率の電源とみられるが、供給力の減少に伴う影響は、スポット価格上昇、容量価値の上昇など、新電力に対して非常に大きな影響をもたらすであろう。環境アセス第二種事業のアセス逃れの石炭火力も対象になるとみられ、かつて電源不足に苦しみ、小規模石炭火力を建設してきた新電力は大変大きな影響を受ける。

並行して基幹送電線の利用ルール抜本的見直しに向けた検討が開始される。再エネ立地の適地は火力発電設備の立地と重なるケースが多く、今後系統慣性の低下も課題となると考えられる。

これら政策はもちろん、国際的な脱炭素の流れを受けたものではあるが、諸外国では容量市場の入札条件に炭素基準を設けるケースが出ている。

英国では、2024年から「炭素排出制限」を設けることとなった(ビジネス・エネルギー・産業戦略省20年5月20日発表)。kW時当たりCO2排出量が550gを超え、kW当たりの年間平均排出量が350㎏以上の電源は容量市場の支払いを受けることができない。対象となる電源は石炭火力に限られるが、英国では陸上・洋上風力の大量導入により、既に石炭火力の稼働率は相当に低下。残る石炭火力は4地点であり、影響は大きくないとみられている。

また、米国東海岸では、トランプ政権の石炭火力支援策に反発し、ニュージャージー州、イリノイ州、メリーランド州はPJMの容量市場から離脱し、独自で容量を調達する体制への移行検討を開始した。

仮に、日本でも容量市場において炭素足切りの基準が実行された場合、特に大きな影響を受けるのは電源を持たない新電力である。米国のPJMではFRR(小売り事業者が各々供給力を確保する仕組み)を併用することができる。日本でも、小売り事業者間の連携を促すべく、容量価値の相対取引を認めるような検討があってもよいのではないだろうか。(M)

投資確保と効率化は両立できるか レベニューキャップ制度に盲点あり


【多事争論】話題:託送料金制度の見直し

電力・ガス取引監視等委員会は新たな託送料金制度の詳細設計の議論を始めた。目的である再エネ主力電源化・レジリエンス強化には、解決すべき課題が多い。

<エネルギー分野の最重要改革の一つ 必要な投資費用は回収できる仕組みを>

視点A:松村敏弘/東京大学社会科学研究所教授

長年の懸案だった託送料金制度改革が本格的に始まる。レベニューキャップ制度の導入、定期的な料金改定などの基本方針は決まっているものの、詳細制度設計はこれからだ。

将来の超低炭素社会実現の一つの有力シナリオは「電化社会」+「電源のゼロエミッション化」で、託送料金制度改革はこのための重要なピースとなる。改革に失敗して送配電部門の効率化が停滞すれば、電力価格のさらなる高騰を招いて電化社会実現の障害となる。

また投資が滞れば、安定供給の懸念を引き起こし、これも電化社会実現の障害になるだけでなく、送配電部門の投資不足が再エネ電源投資の障害となれば、電源の低炭素化の妨げになる。託送料金制度改革は、エネルギー分野における最重要改革の一つといえる。

望ましい託送料金制度改革を議論する前に、現行制度の特徴を確認する必要がある。この認識を誤ると、現行制度よりも悪い制度を作ることになりかねないからである。

現在は総括原価に基づく価格規制で、厳しい査定を経た上で資本費用も含めた費用を積み上げた料金が設定されていると認識している人もいるが、必ずしも正しくない。実際には料金は値下げ届け出制で値上げ申請しない限り、厳しい審査は行われない。過去の想定に基づいた現状に合わない料金でも、現行料金を据え置く限り、審査は回避できる制度だ。

言い換えれば、大幅な費用増があれば、厳しい査定を覚悟すれば値上げ申請できるという、事業者にとっての安全弁はあるものの、基本的には、物価調整条項も効率化係数もないプライスキャップ制に近い。費用を削減すれば、その分株主、役員、元役員、従業員などのステークホルダーに配分可能な利益が増えるので、一定の効率化の誘因は存在する。現行制度では効率化の誘因がないから、レベニューキャップ制度でそれを与えるとの理解は誤りだ。

明確な効率化係数はないものの、現行制度にもそれに代わるものがある。託送費用の多くが固定費だが、収入は従量料金の割合が高い。その結果、系統電力消費量が減ると送配電部門の採算性が悪化する。送配電事業者は需要縮小を補う程度の効率化をしないと、厳しい査定を受ける値上げ申請に追い込まれる。つまり現行制度には、需要の縮小率に対応する効率化係数がビルトインされている。

現行制度では、投資調整条項がないため、投資費用がかさむほど託送料金を維持するのが困難になる。逆に言えば投資費用を節約できればステークホルダーに配当する利益の原資が増える。これが投資量を所与として、効率化により費用を削減する誘因を与える点では望ましいが、必要な投資を怠っても同様の利益が得られ、送配電部門に可能な限り投資を回避する強い誘因を与えてしまう。再エネ主力電源化や設備の高経年化に伴い、今後も継続的な送配電投資が不可避となる中、社会的に必要な投資を誠実に行う会社が不利になる制度は不合理で、持続可能ではない。

投資計画は経済産業省・広域機関も関与して、発電費用も含めた総費用の最小化も考えて合理的に策定され、必要な投資費用は料金などで適切に回収できる仕組みを作る必要がある。投資計画策定の仕組みと、それと整合的な託送料金制度が設計されるはずだ。 もう一つの柱であるレベニューキャップ制度は、資源エネルギー庁の見解として、プライスキャップ+需要調整条項と基本的に同じと整理された。ということは、需要調整条項導入は既定路線だ。現行制度では需要縮小率が事実上の「効率化係数」の役割を果たしているが、効率化係数が実際の需要縮小率と連動するのは歪んだ制度だ。コロナ渦で電力需要が構造的に縮小したら、必要な効率化も上昇するのは理屈に合わない。

需要調整条項付加では不十分 意味ある効率化係数が試金石に

しかし、需要調整条項を付加するだけでは、現行制度でかろうじて存在した効率化による託送料金低下効果、つまり需要減少に伴う託送料金値上げ効果をキャンセルするだけの事業効率化による値下げ効果を削いで、値上げ効果だけが残る結果になりかねない。従来予想されていた需要縮小率に相当する程度の効率化係数を課した上で、投資量増加の費用が回収できる仕組みにすれば、持続可能性を高めたよりよい制度となるかもしれない。

しかし、効率化係数が名目だけの小さな値に設定されれば、この改革は、高コスト体質と疑われている事業者に対する効率化圧力を除くだけの、消費者の利益を無視した事業者のためだけの改革になりかねない。その試金石が、意味のある効率化係数を設定できるかになるだろう。

まつむら・としひろ 1988年東大経済学部卒。96年東工大大学院助教授、98年東大社会科学研究所助教授、2008年から現職。博士(経済学)。

【電力】CO2排出削減へ 炭素税導入は王道


【業界スクランブル/電力】

この夏の人事で就任した環境省の中井徳太郎新事務次官が7月22日の就任後初の記者会見で、炭素税も含めたカーボンプライシングについて、「脱炭素社会の実現に有効だと本当に思っている」と述べたところ、SNS上でちょっとした騒ぎになった。「#中井次官の免職を求めます」というハッシュタグまでできたのにちょっと驚いた。

どうも「官僚が国会や国会議員を差し置いて税制に言及するのは憲法違反」という論があるようであるが、筆者にはよく理解できない。環境省の官僚がカーボンプライシングに言及したことなど過去にいくらもありそうだし、言論の自由の範疇ではないか。

それ以上によく分からないのが、炭素税の議論をすると、賛成する側も反対する側も「炭素税導入=増税」という前提に立っているとしか思えない点だ。諸外国では、税収中立措置つまり、炭素税の増税とほかの税(所得税、法人税など)の減税と組み合わせてマクロな税収を調整することが普通に行われている。こうした税収中立措置を講じることを前提とした炭素税導入論への反論を、筆者は寡聞にして知らない。

税収中立措置前提の議論になりにくい背景に、日本の石油石炭税が特別会計の財源になっていることがあるのかもしれない。そうであるならば、少なくとも現行の石油石炭税からの増税分は一般会計に繰り入れるのが筋だ。あるいは無駄がまま指摘される特別会計はこの際廃止して、全額一般会計繰り入れでもよい。欧州の炭素税は筆者の知る限り全て一般会計財源だ。

梶山弘志経済産業相の発言に見られるように、石炭火力への政治からの圧力は相変わらず強いが、CO2排出という外部不経済が大きいゆえに石炭火力を減らしたいなら、外部不経済に課税するのが王道だ。 そのことを主張せずに、託送料金の発電側基本料金や容量市場のような全然目的の違う政策措置を、再エネいじめだとか石炭火力への補助だとか的外れなレッテル貼りをしてやり玉に挙げる人たちがいる。それは有害無益でしかない。(T)