日本政府は2035年までに乗用車新車販売で電動車100%の実現を目指す。
取材で浮かび上がったのは、一筋縄ではいかない充電器設置の障壁とEV社会の課題だ。
「マンションに充電器がないことが不安で……」
知人に電気自動車(EV)の購入について尋ねると、こんな答えが返ってきた。EVには乗ってもいいが、充電に対する不安が消えない─。同じ思いを抱える人は少なくないはずだ。
まずは日本の充電インフラ整備の現状を見てみよう。政府は30年までにガソリン車並みの利便性を実現するため、公共用の急速充電器3万基、普通充電器12万基の設置を目指している。
ところが、日本に設置されている充電器は、昨年3月時点で急速充電器が1万台弱、普通充電器が2万台強と目標には遠く及ばない。日本のEV事情を語る際、この数字が独り歩きして「充電器不足」という単語が枕詞になっているが、実は不正確だ。
国際エネルギー機関(IEA)が昨年発表したレポートによると21年、日本の充電スポット当たりのEV台数は11・9台となっている。これはノルウェーの33・6台には及ばないが、世界平均の9・6台やオランダの4・6台を上回り、データ上は充電器不足とは言えない。
では、なぜ日本が〝EV後進国〟と言われるのか。それはEV普及台数と充電器設置基数がともに少ない、つまり「全体のパイが小さい」からにほかならない。

加速する集合住宅への設置 設置の障壁なくす規制緩和
充電インフラを拡充させるためには、充電器をやみくもに増やせばいいのだろうか。イーモビリティパワーの四ツ柳尚子社長は、過度な設備投資は最終的に利用料金の増額などユーザーの負担増につながるとして、国情に合った充電インフラの整備を訴える。
日本では、短距離移動に適した軽自動車が多く普及している。近くのスーパーやデパートに買い物へ、そんな使われ方が多い軽自動車社会では、特に住宅の充電設備が不可欠だ。
住宅向け充電器は、戸建てでは所有者一人の判断で設置できるが、マンションなどの集合住宅は設置のハードルが高い。管理組合の同意が必要で、理事会では全会一致、その後の総会で半数以上の賛同が求められるケースがほとんどだ。数年前まで、理事会では「本当にEV時代が来るのだろうか」という不安が充電器導入の障壁となっていた。
しかし、住宅向け充電器の設置を手掛けるユアスタンドのデニス・チア社長室長は「この3年で〝三段跳び〟のように不安が払しょくされつつある」と語る。デニス氏の言う三段跳びとは、①50年脱炭素宣言(20年)、②トヨタによるEV販売台数目標の大幅引き上げ(21年)、③日産・軽EVサクラの発売(昨年)―の三つだ。昨年、ユアスタンドの住宅向け充電器の設置件数は、前年比で2~3倍に膨れ上がった。
ただ細かな規制が、充電器の設置を阻む例が少なくない。例えば、日本の集合住宅の駐車場は、区分所有法によって駐車マスの「所有者」が決められている。このため充電器は共有部に設置する必要があるが、共用部は点在し、配線などが複雑になり費用がかさむ。充電器を1カ所にまとめて設置するには、利用者が敷地内の駐車マスを自由に使えるようにするなど、区分所有の規制緩和が必要だ。
スーパーやデパートへの充電器の設置も、似たような問題を抱えている。大規模小売店舗立地法(大店立地法)の規制がその一つだ。大規模小売り店では、充電器を設置した場合の駐車マスが、駐車場の収容台数から除外される。このため、収容台数を確保したい店舗からは、設置を断られてしまう事例があるというのだ。
充電の安定供給は可能か 環境面以外では多くの懸念
冒頭で「データ上は充電器不足とは言えない」と書いたが、実際にはサービスエリアなどで〝充電のための渋滞〟が発生するケースはある。今後、EV時代が到来したとして充電の〝安定供給〟は可能なのだろうか。ここには短期的・中長期的それぞれ二つの課題が横たわっている。
短期的な課題は、マンションやビルなどの変電・配線システムへの影響だ。建物ごとに変圧器の容量や配線の太さなどは異なり、一度に複数のEVを充電すると負荷に耐えられないことがある。充電器の使い方に工夫が必要だ。
例えば、東京電力パワーグリッドは車両のデータを収集し、効率的に充電を制御・管理するシステムを開発した。またユアスタンドでは、充電する時間が集中しないように、充電料金に差をつける「ダイナミック・プライシング」も検討しているという。
中長期的な課題は、配電系統への負荷だ。日本では充電インフラの増設が配電系統に与える影響評価が不十分だが、大手電力の関係者は、市中の自動車が全てEVに入れ替わり、普通・急速充電器に接続された場合、「ざっくり言うと、管内の電力需要の20~40%に相当するのでは」と推測する。急速充電器に蓄電池を併設するといった対応策が考えられるが、安定供給の観点からは諸刃の剣と言わざるを得ない。
経済安全保障上の問題では昨年4月、BMWのオリバー・ツィプセCEOがロイター通信のインタビューで、「(EV推進は)ごく少数の国々への依存度を高めることにつながる懸念も認識する必要がある」と語った。車載電池で高いシェアを持つ中国を念頭に置いた発言だ。ウクライナ戦争でロシアが制裁への対抗手段としてエネルギーを持ち出したように、台湾有事が発生すれば、中国は同じような動きに出るだろう。これは自動車産業の首の根を抑えられることを意味する。
日本の自動車産業はこれまで、ハイブリッド車の展開に力を入れてきた。しかし国際競争力の観点から、欧米の加速度的なEVシフトに追随せざるを得ない現実がある。そんな中、国内EV市場のパイを拡大させるには、車両と充電インフラが「鶏と卵」の関係ではなく、まさに「車の両輪」で推進されることが必要だ。車の全電化時代はすぐそこまで来ている。









