豪雪と向き合い続けて60年 地域に貢献し続ける奥只見発電所


【Jパワー】

三島由紀夫が「超絶的な自然」と評した秘境で、60年前に産声を上げた奥只見発電所。電気の安定供給と地域との共生を続けてきたJパワーの挑戦はこれからも続く。

総貯水量6億100万㎥、堤体高さ157m、使用したコンクリート量163万㎥―。日本最大の重力式コンクリートダム「奥只見発電所」が60周年を迎えた。

60周年を迎えた奥只見発電所

ダムは福島・新潟県にまたがる奥只見湖を形成し、発電所は尾瀬湿原や越後山脈の豊かな雪解け水を力の源として、関東・東北地方に電力を供給し続けている。明治時代から只見川のポテンシャルに関心を寄せる事業者は多かったというが、実際に計画が動き出したのは昭和に入り戦後のこと。建設で最大の障壁となったのが、小出や浦佐といった市街地ですら2m、ダム周辺では3~5mも積もる豪雪。発電所の歴史は、雪と向き合ってきた歴史と言っても過言ではない。

「超絶的な自然」―。奥只見地域の大自然を文豪・三島由紀夫は小説の中でこう評した。市街地の小出地区から建設現場まで、発電所建設前に大量の資材を運ぶルートを築かなければならず、その急峻な山をいくつも越える必要があった。はじめの一歩は資材を搬入する道路工事から始まった。

現場へのルートは、冬季も通行できるよう道路の総延長22㎞のうちトンネル部が18㎞を占めるという独特な構造。この難工事は1954年12月から始まったが、わずか3年弱で完成。現在は新潟県に移譲し、奥只見シルバーラインと名前を変え、ダムや観光地に向かう貴重な交通路として重宝されている。

道路整備後の58年9月より発電所の本工事がスタートし、完成までには延べ数百万人もの労働者が携わった。復興と経済成長の中で早急な電力供給が求められていたため、雪が降りしきる12月中も、コンクリートの凍結を防ぐべく躯体表面に蒸気を当てながら工事を続けた。

こうした努力の甲斐もあり、本工事は約3年で終了。60年12月より、3基36万kWのうち24万kWが運転を開始し、翌年7月より全基が稼働。電力不足を解消し、戦後の経済成長を支えてきた。

冬季はヘリコプターも活用 環境と共生した施工管理

2003年には、出力20万kWの4号機と、河川水量を維持するための放流水を利用して発電する維持流量発電機を増設したため、総出力は56万2800kWにアップ。揚水式を除いた一般水力では日本一の出力規模を誇っている。

深山の同地はイヌワシの生息地であり、貴重な昆虫や植物も生息していて、地元からは釣りの名所として生態系保全の要請も強かった。このため、増設工事の際には、建設工事で日本初のISO14001認証による環境管理を行いながら施工するなど、先進的な環境対策も実施。現在も、景観を崩さないように機材の塗り替えを行い、猛禽類の専門家を招いてイヌワシの生息状況を確認するなど、地域の環境保全にも力を入れ続けている。

観光の中心地の奥只見湖には遊覧船も

そんな日本有数の規模を誇る奥只見発電所周囲には、大津岐、大鳥、田子倉や、信濃川水系の黒又川、破間川などの発電所もある。これらは、埼玉県川越市にある東地域制御所で遠隔制御されている。

とはいえ日常の保守・点検については、JR上越線の小出駅近くにある事務所から各発電所に赴かなければならない。さらに、積雪期においては、奥只見発電所までは冬季閉鎖されるシルバーラインを自社で除雪して移動できるものの、さらに奥地にある大津岐発電所などへは車で移動することすらできない。

そのため、冬季になると同社ではヘリコプターとエンジニアを常駐させ、空路で現地まで赴く。しかし、山の天気は変わりやすいだけに、天候の影響で予定通り点検に行けないケースや、現地に到着してから天候の変化が起きた場合、現地にとどまり休憩施設で朝を迎えることもある。技術が進歩した現在でも、奥只見の冬は過酷だ。

上限価格で落札の異常 容量市場巡り波乱不可避


今年7月に開設された容量市場の初のオークションの落札結果が、9月14日に公表された。当初の想定よりも大幅に高い約定価格で落札されたことで、容量拠出金を支払うことになる新電力に驚きと衝撃が広がるとともに、業界内からはあらためて容量市場の意義を問う声が噴出している。

電力広域的運営推進機関が発表したのは、2024年度を実需給年度とする容量市場のメインオークションの結果。全国の約定総容量は、1億6769万kW(目標調達量は1億7747万kW)、約定価格は全エリアで1万4137円と上限に近い価格となった。全体の8割近くが0円で応札したものの、石油火力やLNGを中心に929万kWが1万4000円以上で応札したためだ。

容量市場を巡る混迷は続きそうだ

これについて日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事は、

「逆数入札を認めたことで、石油火力などが落札対象となった場合、上限価格になることは十分あり得た。応札量が目標調達量を下回ることは異常事態であり、そこに価格高騰の要因がある」と指摘。まずは、なぜ応札量が少なかったのかを明らかにするべきだと語る。

一方で、容量市場に期待される電源投資の予見性確保や将来の価格高騰リスクの回避といった役割を疑問視する声も。発電事業関係者の一人は、「容量価格がいくらであろうと、現状では電源投資計画は経営会議を通らない。新電力にとっては何の意味もないコストアップ要因であり、大手電力を利するだけの制度だ」と断じる。

いずれにしても、先行する海外の容量市場で上限価格に達した例はなく、次回オークションに向けて仕組みの見直し作業に迫られることは間違いない。

「反原発」新党に決別 国民民主党に支持集まるか


菅政権の発足と時を同じくして、野党に二つの政党、「立憲民主党」と「国民民主党」が誕生した。民主党という同じルーツを持つこの二つの政党、自公連立政権に対抗する野党として、本来は一つの政党として発足を目指していた。だが、政策の点で旧国民民主党の一部議員の間に、合流には越えられない大きな壁があった。

国民民主党には前原誠司・元民主党代表(左端)も参加した
提供:朝日新聞社

「どうしても譲れない点があった」。合流を拒み、玉木雄一郎衆議院議員を代表とする新たな国民民主党に参画した小林正夫参議院議員はこう話す。具体的には、①中道改革路線の方針が示されなかった、②エネルギー政策が現実的でなかった、③提案型の国会対策の方針がなかった―などだ。

中でも電力総連出身の小林氏にとって、合流新党が選択した原子力政策は容認できなかった。新たな立憲民主党は、党の綱領で「原発ゼロを一日も早く実現する」と明記している。「綱領は党の憲法のようなもの。原発の現場で働いている人たちや、立地自治体の関係者のことを考えると、綱領への原発ゼロの記載を受け入れるわけにはいかなかった」(小林氏)

新たな国民民主党には、衆参の国会議員15人が参加。連合の産業別労働組合の出身者では、小林氏のほかに浜野喜史参院議員(電力総連)、矢田稚子参院議員(電機連合)、浅野哲衆院議員(同)が加わっている。

立憲民主党は、共産党などと共同提出した原発ゼロ基本法案の成立を目指している。原子力を巡り「水と油」の両党が将来、再び合流を模索する可能性は低い。とはいえ、国民民主党も支持率は低迷気味。現実路線の改革政党として、どう国民にアピールしていくかが問われている。

仕事師揃いの菅内閣が発足 電力は携帯値下げ騒動を注視


菅義偉内閣が9月16日発足した。閣僚の顔ぶれを見ると、麻生太郎財務相、梶山弘志経済産業相、小泉進次郎環境相、西村康稔経済財政担当相ら8人が再任されたほか、加藤勝信官房長官、河野太郎行政改革担当相、平井卓也デジタル改革担当相ら8人が新任。岸信夫防衛相、井上信治万博担当相ら4人が初入閣となった。

国民の高い期待を背負う菅内閣

「安定感、経験重視の人選」(エネルギー関係者)、「選挙に強く、国会答弁能力の高い仕事師内閣」(経産官僚)など、総じて評判が良い。大手メディアの世論調査を見ると、菅内閣の支持率は7割前後で、国民の期待の高さを裏付ける。それは逆に、「敵に回したら、かなり手強い政権」(金融関係者)ということでもある。

「国民の財産である電波の提供を受け、携帯電話の大手3社が9割の寡占状態を長年にわたり維持して、世界でも高い料金で20%もの営業利益を上げ続けている事実。他にもこのような当たり前でない、いろいろなことがある。それらを見逃さず、現場の声に耳を傾けて、何が当たり前なのか、そこをしっかりと見極めた上で、大胆に実行する。これが私の信念だ」

菅首相は16日の就任会見で、既得権益の打破に向けた規制改革の必要性を声高に強調した。これを見た大手電力会社の元幹部は、こう漏らした。「今の携帯料金の騒動が、電気・ガス料金に波及しなければいいけどな。政治はどんな矢を飛ばしてくるか分からない」

携帯料金騒動の波及懸念 経過措置解除に暗雲か

新型コロナ禍における在宅時間の増加などで、一般家庭の光熱費は軒並み上昇している。2016年以降、電力・都市ガス事業では小売り全面自由化によって新規参入や相互乗り入れが進んだことで、サービス競争は活性化しているものの、利用者が実感できるレベルで劇的な値下げが起きているとは言い難い。逆に、電気料金に導入されたFIT賦課金の影響で、家計に占める光熱費の実質的な負担感が増している傾向もある。

「電気・都市ガスと、携帯では事業構造が全く違うし、利幅も携帯ほど大きくはない。政治的な要請があったところで、そもそも値下げの余地はほとんどないのが実情だ。まあ、プロパンガス料金は別かもしれないが……」

大手電力会社の関係者はこうけん制をした上で、一つの懸念に言及した。「大手事業者の料金については経過措置の名目で依然規制が残っており、都市ガスではこの措置の解除を巡り議論が巻き起こりそうな様相を見せている(32頁のフォーラムレポートで詳報)。事業者としては当然、経過措置を早く撤廃してほしいが、携帯料金問題によって、にわかに情勢は悪くなってきた。壊し屋の任を受けた河野行革相あたりが、外野から殴り込んでくる可能性もある」

所管の経産省では、エネルギー政策に精通する梶山大臣が再任された。今のところ菅政権が主軸に据える規制改革にエネルギーは入っていないが、万一、政治的な思惑で料金がやり玉に上がるような事態になったとしても、そこは筋の通った対応が求められる。

ガス料金規制解除で波乱の様相 経産省内で現行ルールに疑問の声


都市ガス小売り競争の激化で、大手3社も含めた経過措置料金規制解除に向けた機運が高まっている。しかし、電気の料金規制への飛び火を憂慮する経済産業省内では、これを阻止しようとする動きもあるようだ。

経済産業省は今秋にも、一部の都市ガス会社に課している経過措置料金規制の解除に向けた議論に着手する。焦点は、大都市圏の電力・ガス市場で熾烈な競争を繰り広げている大手都市ガス会社の規制撤廃が実現するかどうかだ。

2017年の都市ガス小売り全面自由化と同時に、地方都市ガス会社のほとんどで規制料金が撤廃されたが、経産省は東京、大阪、東邦の大手3社を含む12社を経過措置の対象に指定し、規制を継続した。LPガスやオール電化といった他燃料を含めた競争が十分ではなく、独占性が高いため、これらのエリアでは競争なき値上げが起こりかねないとの判断からだった。

全面自由化から3年半が経過した今、既に仙南ガス、浜田ガス、エコアの3社が基準を満たしたとして指定から除外。関係筋によれば、大手の中でも大阪ガスは既に指定解除の基準を満たし、東京ガスや東邦ガスもそれに近い状況に迫っているという。

一度解除のためのルールを設けたからには、企業規模の大小にかかわらず、電力・ガス取引監視等委員会で審議し条件を満たしていることが確認されれば、規制はなくすのが道理。それが、エネルギー自由化が大きく進展したことを象徴することにもなる。

ただ、資源エネルギー庁ガス市場整備室の下堀友数室長は、「基準をクリアしたかどうかは十分条件ではなく、状況を総合的に判断して決定することになる」と慎重姿勢だ。ほかの都市ガス事業者の参入がない地方エリアで、他燃料との競争状況を規制解除の指標としてきたこれまでとは違い、大手については大都市圏における都市ガス同士の競争状況を踏まえて判断する初めてのケースになる。それだけに、エネ庁としても大きな判断を迫られるわけだ。

査定権限の維持画策 経産省の裏の意図

しかし、大手都市ガス3社の規制解除が一筋縄ではいきそうにないのは、それだけが理由ではないようだ。大手3社の規制を撤廃するとなれば、当然、競合する大手電力会社の規制料金をどうするのかという問題にも波及する。それを何とか避けたいという経産省側の思惑が見え隠れしている。前出の関係筋はこう話す。

「大手都市ガス会社の料金規制が外れれば、競合相手の大手電力会社の規制も外さなければならなくなる。大手電力会社に対し、総括原価の査定権限を維持したい経産省としては電力料金規制の撤廃だけは絶対にしたくない。そのためにも、大手ガス会社の規制解除などとんでもないというのが、経産省側の本音だ」

そもそも、全面自由化では後追いだった都市ガスが電力に先駆けて料金規制撤廃に至ったのは、それが地方ガス会社に全面自由化を納得させるための取引材料だったからにほかならない。地域の都市ガス利用率や、それを踏まえた他燃料事業者による需要家獲得件数―などといった複雑な指標を作ることで、多くを指定外とした。

経過措置料金規制が課された事業者一覧

規制改革のアメとして地方ガスの料金規制を撤廃する―。そんな思惑で作られたルールには相当の無理があることは明白。そもそもルール策定時、大手の部類に入る西部ガスが対象から外れたことがエネ庁内で問題となり、幹部間で「こんな変なルールは納得できない」と騒動になった経緯もある。

「この自ら作ったルールの破綻を逆手に取って、大手都市ガス会社の規制解除を何とか阻止しようとするのはいかがなものか」と語るのは、ガス業界の関係者。いかなる理由があろうとも既にルールとして認定し運用している現状があることから、規制当局の勝手な思惑でそれをねじ曲げてしまっては行政機関としての筋が通らない。

この関係者は、「もし、どうしても料金規制を解除したくないのであれば、ルール自体を見直さざるを得ない。そのためには、審議会を早急に開く必要がある。もちろん、経産省側はルール見直しの合理的な理由について説明しなくてはならない。当時の議論が間違いでしたなどと言えるのだろうか」とやゆ交じりに語る。

不当な値上げは皆無 問われる料金規制の意味

もし解除ルールを見直すとなっても難しい問題がある。その一つが、既に解除してしまった都市ガス会社に対し、再び規制を課すことができるのかということだ。

自由化の当初から、消費者団体を中心に需要家保護を最優先に考えるのであれば、競争の起きづらい地方にこそ料金規制を残すべきだとの主張はあった。「規制なき独占」が起こりやすいのは、新規参入が進む大都市圏よりも地方であることは、プロパンガス料金の事例を見ても明らかだからだ。ルール見直しをきっかけに、消費者団体などは再規制を求めてくるだろうが、地方ガス側からしてみれば到底納得がいくものではなく、混乱は避けられない。

ただ経産省側の狙いは、あくまで大手に対する規制存続。そのためには、まず電気料金で明確な規制解除のルールを策定し、それをガスにも適用させる方法が考えられる。が、大手電力を巻き込んだ議論に発展するため、そう簡単に結論は出ない。

忘れてはならないのは、多くの都市ガス事業者で料金規制が撤廃されて3年半が経過したが、これまでに消費者団体が危惧するような不当な値上げなどは確認されていないということだ。

とすると、まして競争の激しい大都市圏で事業を展開する大手ガス会社が、規制撤廃によって値上げするとは考えづらい。これは電気料金についても同じことが言えるだろう。同業者間の競争、新規参入者との競争、競合エネとの競争―。料金規制自体がもはや無意味といっても過言ではない。 現行ルールを継続するにしても、抜本的に見直すにしても、経産省にとって前途は多難。自由化を急ぐあまりできの悪い指標を作ってしまったツケが、今まさに回ってきている。

【エネ庁長官 保坂伸氏】脱炭素化に挑むエネ行政 次期エネ基の青写真とは


世界的な脱炭素化の機運の中、安定供給と環境をいかに両立するか。保坂伸エネ庁新長官に考えを聞いた。

ほさか・しん
1987年東京大学経済学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。2013年秘書課長、19年貿易経済協力局長などを経て20年7月から現職。

―新内閣の下、エネルギー基本計画の見直しに着手することになります。

保坂 東日本大震災から10年が経過しようとしていますが、この間、エネルギー政策を巡り紆余曲折の議論がありました。これまでの議論を踏襲し、3E+Sをきっちり意識しながら政策を進めていくことが重要だと考えています。近年は国内外で環境への意識が高まっています。脱炭素という大きな流れの中で3E+Sをどのように実現するのかが、来年スタートすることになる次期エネルギー基本計画のポイントになります。

2050年にCO2排出量80%削減を掲げているため、次期エネ基議論のターゲットも50年になるでしょう。その時には、CO2排出を伴う発電そのものが許されなくなるかもしれない。かといって、再エネでこの国の電力を100%賄うことができるかといえばそれも難しい。さまざまな制約がある中でどのような電源構成が可能なのか検討することになります。

―電源ごとの見直しの方向性についてうかがいます。まずは原子力についてはいかがでしょうか。

保坂 世界最高水準の規制を敷く規制委の許可を経た設備から順次、稼働していくという基本方針が変わることはありません。特定重大事項等対処施設があるので休止している設備もありますが、PWR(加圧水型原子炉)9基が許可を得ていますし、BWR(沸騰水型原子炉)の中にも設置変更許可を得ているところがあります。今後も、地道に再稼働を進めていくしかありません。私がエネ庁総務課長を務めていた12年当時と比べれば、遅い歩みではありますが一歩一歩前進しています。

新増設は国民理解が前提 既存原発の再稼働に注力

―脱炭素社会を目指す以上は、再稼働だけではなく新増設にも踏み込む必要があると考えられます。

保坂 それは、国民の理解を得られるかどうかです。脱炭素を目指す中でどのような社会にするのかというコンセンサスを図る中で語られるべきであり、数字合わせであってはなりません。とにかく、今は再稼働の可能性があるものについて集中しつつ、技術の維持はもちろん、SMR(小型原子炉モジュール)などの新たな技術にもアプローチしていきます。

【電事連会長・九州電力 池辺社長】電気事業を通じて経済の持続的発展に貢献


今年3月に電気事業連合会会長に就任。自由化で厳しさを増す業界のかじ取り役を担う。先頭に立ち温暖化、レジリエンスなどの課題を解決し、電気事業の健全な発展を通じて、経済や国民生活向上に貢献すると力を込める。

いけべ・かずひろ 
1981年東京大学法学部卒、九州電力入社。2016年執行役員経営企画本部副本部長兼部長(経営戦略)、17年取締役常務執行役員コーポレート戦略部門長、18年6月から代表取締役社長執行役員。20年3月から電気事業連合会会長を兼務。

志賀 7月の豪雨に続いて、9月に史上最強クラスの台風10号が九州に襲来しました。最大約47万戸が停電しましたが、災害対応をどう振り返りますか。

池辺 台風10号に伴う停電で、多くのお客さまにご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます。復旧に当たっては、各自治体と連携し情報共有を図りながら対応を進めました。また協定に基づき、陸上自衛隊やイオンさまにご協力をいただきながら、早期復旧に取り組みました。協力会社を含め約7300人を動員して復旧作業を行った結果、停電がピークとなった7日早朝から2日余りの9日18時過ぎに、高圧配電線への送電を完了することができました。

志賀 新型コロナウイルスの感染拡大が継続しており、九州も福岡市を中心に多くの感染者が出ています。これも電力の安定供給を脅かしかねません。どのような対応をしていますか。

池辺 いわゆる「エッセンシャルワーカー」に位置付けられているわれわれとしては、さらなる感染拡大の可能性も懸念される中、電力を安定してお届けし続ける重責を改めて痛感しています。

当社では、政府が提唱する「新しい生活様式」の実践例を踏まえ、各職場で従業員がとるべき行動の留意点を取りまとめ、ウィズコロナにおける「新しい働き方」として周知・徹底を図っています。 

また、この未曽有の事態をチャンスと捉え、既存事業の進化や新規事業の創出、テレワークの拡大やオンライン化の進展などのデジタルトランスフォーメーションによる働き方改革など、あらゆることに挑戦していきたいと思っています。

【省エネ】新型コロナと共存 ニューノーマル社会


【業界スクランブル/省エネ】

継続的な感染抑制対策が必要となっている。ウイルスが付着した手で目鼻口を触る接触感染や飛沫感染などの防止が重要だが、「家庭内で冷暖房中の部屋を頻繁に換気する対策」は必ずしも効果的ではなく、単なる増エネルギーを招くだけとなる懸念がある。

家庭内で飲食や会話を共にするのであれば、一番感染リスクが高い当該行動を残したまま、「しばらく空気中に滞留する微小飛沫やエアロゾルなどの換気排除」をしても、総合的な感染リスクの低減効果は小さい。よって、感染者と同居せざるを得ない状況でのみ、「各部屋での隔離生活」と併せて「頻繁な換気などの増エネ対策」を実施すべきである。なお、厚生労働省によると殺菌作用のある液体の室内噴霧(在室時)は推奨されておらず、室内空気中のウイルスが気になる場合はHEPAフィルターを備える空気清浄機で捕縛が可能である(エアコンの空気清浄機能ではフィルターを通過する空気流量が少ないため、空気清浄機の方が捕縛効果は高い)。

家具表面やドアノブへの懸念であればアルコールや界面活性剤(NITEが洗剤リストを公表済)での清拭の方が確実だ。家庭では「ウイルスがいないグリーンゾーン」を前提とし、外から持ち込むウイルスを帰宅時の手洗いなどで低減させる対策を継続するのがニューノーマルとして適切である。同居家族が無症状感染者である可能性まで懸念して、中途半端な感染防止対策は無意味だし、完全な対策をして家庭内コミュニケーションを極小化させ続けるのもニューノーマルとして不適切である(公共交通機関やオフィス、商業施設などは要注意であり、適切な対策が必要)。

近年の動物由来感染症は2003年SARS、09年新型鳥インフル、12年中東呼吸器感染症、16年ジカ熱、20年新型コロナと続いており、自然災害対策と同様に感染症対策を備えた社会実現が必須である。そのニューノーマル社会は省エネ・脱炭素も兼ね備えているべきであり、政府が省庁連携で強力に推進し、バランスが取れた社会を実現させる必要がある。(Y)

【住宅】変わるエアコン 換気機能に着目


【業界スクランブル/住宅】

夏を迎えてもコロナ騒動が収束する気配は全くない。そこで今回はエアコン冷房とコロナの関係に言及する。エアコン冷房といえば、いかに省エネ運転するかが毎夏恒例の話題であったが、今夏は換気がポイントとなっている。

背景を探ってみるとWHO(世界保健機関)が飛沫感染と接触感染以外に空気感染の可能性を示唆したことを発端に、メディアなどで一般的な家庭のエアコンは、「室内の空気を循環させて冷やしているだけで換気の機能は持っていない」という一般人が知らなかった事実が公知されたことで、換気性能を持つエアコンが売れ筋になっているようだ。これまで室内空気の質にこだわって製品開発を行ってきた機器メーカーの技術。その開発努力がコロナ騒動を契機にユーザーの機能選択の優先度の上位に食い込んできたと解釈した。

エアコンと換気の関係では、冷房運転中に換気を行えば(冷気の)熱損失が発生するため、消費電力量は増加することになり省エネとは相反することになる。皮肉な見方をすれば、換気=個人のウイルス感染リスク回避が、省エネ=地球環境の破壊リスク回避よりも優先するという不都合な事実がコロナ騒ぎで露呈しているとも解釈できそうだ。

ただ厚生労働省の資料を見ると、冷房時の換気の重要性に言及しているのは、不特定多数の人が集まる商業施設などが主であって、個人の住宅や家庭での換気までは踏み込んでいない。そういう意味では、家庭用エアコンで換気性能をアピールするのは、特別定額給付金10万円を狙ったコロナ便乗商法と言えなくもないか。

いずれにしろ、コロナ対策の視点では個人住宅に住む家族間での感染よりも家庭内にウイルスを持ち込ませない防御に注力する方が、効果があるように思う。

換気に関しては快適な室内環境を維持するためには必要な機能であり、今後も適切に強化されるべきである。しかし、今回の騒動で換気機能が偏重されることを危惧する。(Z)

【太陽光】保安と保守 新基準に期待


【業界スクランブル/太陽光】

毎年のように繰り返される豪雨被害や台風被害の中、太陽光発電システムも被災している。近年の太陽光発電の導入拡大に合わせて、事故事例も増えつつある中、政府は太陽光発電システムの保安の強化を進めるためにさまざまな取り組みを行おうとしている。太陽光発電が主力電源として長期安定的なエネルギー供給を担うために、より一層の効果的な保安と保守を進めていく取り組みは大変ありがたいことだ。

太陽光発電システムが普及し始めたころから、必要な保安基準などが整備されてきた。一般の電気工作物の一つとして位置付けられ、基準の各項目に太陽光発電システムについて随所に追記されてきた経緯がある。今日、普及が進みさまざまな事業者が発電事業に参加する中で、保安基準の周知は重要課題に挙げられている。

従来の保安基準が作られた経緯を考えると、相当に電気保安の基準について広範な知識を持つ専門家でないとしっかりとした理解を取得するのは難しい面があった。今回の政府の太陽光発電システムに特化した技術基準の策定は、太陽光発電システムの基準として集約され、編纂される。これは、さまざまな関係者が太陽光発電システムの保安に関して、体系的な正確な理解を得ることを大いに助けてくれることになると期待している。より体系的な正確な保安知識を広めるのにも役立つだろう。こうした保安知識のインフラ整備は、適切な保守にもつながるのではないか。またこうした整理は、実際に現場で電気保安の業務に当たる技術者の高齢化と人材不足に対応するための新たな仕組みづくりにも役立つと期待したい。

昨年末に業界団体にて太陽光発電システムの保守点検ガイドラインの改訂がなされたが、今回の改訂は、さまざまな場面の太陽光発電システムを想定し、使いやすさを念頭に改訂を行った。さらに政府の保安環境整備の取り組みに合わせて引き続きより良い技術情報の提供に努め、長期安定電源の普及に貢献できればと願っている。(T)

【石炭】九州に50Hzが 周波数変換の変遷


【業界スクランブル/石炭】

夏季になり電力融通がタイトになるたびに話題になることがある。静岡県・富士川を境に日本の電力系統が50Hz地帯と60Hz地帯に分かれるということである。しかし60Hzの九州北部にあって50Hzが存在していたことは意外に知られていない。八幡製鉄所と筑豊の炭田地帯が50Hzで電化されていたからである。

日本では照明をはじめとする電灯から各種機械まで電気装置が多用されてきた。大規模炭鉱ではコンベヤーやトロッコ、照明・換気塔の動力として明治期から電力を大量消費してきた。多くの場合、炭鉱で産出する販売不適な粗悪炭の活用による自家発電を多く運用していたが、昭和に入ると、安価な電力会社からの買電が多くなっていた。米ウエスチングハウス社と提携していた三菱系会社が60Hzであるほかは40Hz、25Hzが混在し、各社は周波数変換装置を設置し受電していた。終戦直後は、異常渇水による水力発電所の能力低下などに対応して、広域給電の必要性が高くなっていた。隣接する中国電力はじめ本州中央部の水力発電所が60Hzであるから広域融通のため、1942年に九州島内は60Hzで統一することが閣議決定された。51年に九州電力が発足するや、北九州市内の路面電車や関門トンネル門司側が次々と60Hzに転換され、最後まで残っていた貝島炭鉱大之浦抗の転換が終わったのが60年6月のこと。

高圧・大電流で受電している企業では大型の動力用電動機の改造や更新が必要となり、大変な事業となった。鉱員の命に関わる換気装置や、生産量を左右する巻上機の運搬速度が変わることなど、周波数変換工事に伴う休業に対する費用的な問題もあり、現場ではかなり反発があった。また新日鉄構内や水力発電はしばらく50Hzで残った。余計なことだが東海道新幹線の東京電力管内では60Hzで架線が来ているが、これは九州電力の周波数変換装置が役立ったという。北陸新幹線開業時の碓氷峠は25 Hzで電化されていたが、現在では、周波数切り替えを難なく行っており、この間の技術の進歩を感じさせられる。(T)

【石油】適正マージン確保 新規投資に期待


【業界スクランブル/石油】

石油元売り各社は8月第1週の石油製品卸価格を前週比4円高と大幅に引き上げた。しかも、卸価格の計算前提となる前週の指標原油の円建て輸入ものが計算上ほぼ横ばいであったにもかかわらず、大幅な値上げが行われた。従来であれば、流通業界が反発して市況が乱れるところであるが、今回は比較的冷静に受け止められ、小売価格にも円滑に転嫁が始まっている。

値上げの理由は、OPEC(石油輸出国機構)プラスの協調減産強化に伴う7月分サウジ原油などの指標原油に対する割増調整金の値上がり分を、翌月月初の卸価格改定に反映させた結果だといわれている。通常、元売り会社がサウジアラビアなどの産油国の国営石油会社から原油を購入する場合、アジア市場の指標原油であるドバイ・オマーン両原油の原油積み込み当月のシンガポール・スポット平均価格に調整金を加減したフォーミュラで代金が決まる。

現在、元売り会社は、製品卸価格の改定は原油価格の変動を基本に、内外製品市況などを総合的に勘案した上で決定するとしているので、調整金の変動も原油価格の変動に含まれるとの考え方であろう。

今回の卸価格改定が比較的冷静に受け入れられた背景として、本年5月のゴールデンウイークの期間に指標原油の計算上の値下がりに加え、調整金引き下げ相当分2.5円を値下げした前例がある。今回はその逆だが、値下げの前例があったから、今回の値上げも受け入れられたとの指摘もある。さらに、ある業界専門紙の記者がこれを予想し、卸価格公表前日に値上げ観測記事を掲載したことも、環境醸成に貢献したといわれている。

2017年の業界再編以来、ガソリン小売価格が高止まりしているとの批判もあるが、むしろ価格形成の透明性は大きく高まった。従来、過当競争で取れなかった適正マージンが確保できるようになった。「脱炭素」が叫ばれる中、精製・流通両業界とも将来生き残るためには新たな事業展開が急務であり、将来への新規投資に期待したい。(H)

【火力】梶山大臣の表明 業界は大混乱


【業界スクランブル/火力】

梶山弘志経済産業相が7月に非効率石炭火力の休廃止を検討すると表明して以降、業界の内外は一種の混乱状況に陥っている。

大手のマスコミは、こぞって「エネルギー政策の大転換」と書き立てているが、発表内容を詳しく読んでみると、ほぼ第5次エネルギー基本計画に書かれていることであり、従来の方針を踏襲しているだけで何も変わらないとの見方もある。

このように、両極端な見解のはざまで多様な誤解や見落としが発生しているが、突っ込みどころが多すぎるので、この場でいちいち触れるのはやめておくことにする。いずれにしても同床異夢のような状況でいくら議論をしても、まともな結論に到達することはできないだろう。

今回の件で、石炭火力に注目が集まるのは当然であるが、「非効率」というキーワードがあるのに石油火力やLNG火力が蚊帳の外にされていることの方が気に掛かっている。

石油火力は、電気事業用としてはオイルショック以降建設されておらず、どこも筋金入りの老朽火力である。供給力確保やエネルギー源多様化の必要性がなければ、真っ先に廃止したいというのが発電事業者共通の本音だ。

LNG火力については、最近でも新たな発電所が運転開始したとか熱効率でギネスに載ったなどとの話題があり、新鋭火力の印象もあるが実はそうでもない。昨年はLNG導入50年の節目だったが、世界初のLNG専焼火力は今も現役だ。この発電所とギネス級の最新設備の性能を比較すると、熱効率でなんと1.5倍もの開きがある。  

一方、今回の件で石炭火力の新旧を分けている境界線は文字通り紙一重で、設備によっては性能が逆転しているケースすらある。このように物事の一面しか見ない議論は、あまりに乱暴だ。真に実現可能な未来を検討するのであれば、目先のことにとらわれず、複眼的な視点を持つ必要がある。(Z)

【メディア放談】石油事故と政策見直し 生態系破壊で日本に批判の矛先


出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

今夏は重油流出、LPガス爆発など、石油関連の事故が国内外で起きた。 またエネルギー政策の見直しの議論が始まる中、石炭・原発・再エネの報道も増えている。

―環境問題といえば、地球温暖化防止が最大のテーマになっているけれど、インド洋の島国モーリシャスの沖合で、商船三井が運航する貨物船が座礁して、8月6日から大量の重油が流れ出た事故があった。マングローブ林や、絶滅危惧種がいる海洋保護区の汚染が心配されている。

石油 日本ではあまり大きく報道されなかったが、ヨーロッパではバカンス先として知られていることもあって、イギリスのBBCやフランスの公共放送、アンテンドゥなどは、事故が起きてからすぐに大きく取り上げて伝えていた。環境問題にうるさい人たちは、かなり危機感を持っているようだ。

ガス 日本は政府、企業、メディアの対応が遅い。ようやく8月中旬になって取り上げられるようになった。船長をはじめ船員に日本人はいなかったが、商船三井がチャーターした船で、船主は日本企業。当然、日本に批判の矛先が向くことになる。

1997年にロシア船籍の「ナホトカ号」が難破して、重油が島根県から石川県に掛けて漂着する事故があった。あの時は海上保安庁や自衛隊、自治体の関係者、それに全国からボランティアが駆けつけて油を回収した。今回も、商船三井がジャンボ機をチャーターして、社員や家族のボランティアを現地に送ってもおかしくない事故だった。

電力 政府も商船三井も初めは「どの程度かな」と様子見だったようだ。モーリシャスは生物多様性の「ホットスポット」と呼ばれているらしい。日本は、2010年に名古屋市で生物多様性条約の10回目の締約国会議を開いている。それだけに損害賠償とは別に、道義的責任は免れない。

マスコミ 小泉進次郎環境相は地球温暖化防止で張り切っているけれど、現地に行くとか、もっと本腰を入れて対応すべきだった。それを進言しなかったのなら、環境省の役人のセンスを疑うね。

郡山でプロパン爆発事故 LPガスのイメージ悪化

―今年の夏は、石油関連の事故が世間の注目を浴びた。国内では、福島県郡山市でのプロパン爆発事故。LPガス業界にはショックだったと思う。

石油 まず原因究明が重要になる。だけど、実は業界も役所も事情をよく把握していなくて、報道ベースの情報しか分からない。

死亡者が出たので、地元の警察と消防本部の担当になる。それで詰めている地方紙の記者が情報を取ってくる。その記事を共同通信が報道して、関係者はそれを読んでいる。だからまだ対策の打ちようもない。

ガス LPガスのコンロの調子が悪くて、IHに転換する工事の中で起きた事故のようだ。すごい爆発だったから、中には、「これはテロにも使える」と心配する人もいた。LP業界はかなりのイメージダウンだろう。

マスコミ 「やっぱりIHがいいな」という声が世間で増えてくるかもしれない。小売り自由化前は、電力会社は「敵失」をよしとするようなことはなかった。でも、今は分からないね。

―7月に梶山弘志経済産業相が非効率石炭火力のフェードアウト、再エネ主力電源化の具体的検討を指示して、エネルギー関連の報道が増えている。

ガス 週刊東洋経済の「脱石炭、待ったなし」は良い特集だったし、週刊ダイヤモンドの連載「SDGsの裏側」にも良い記事があった。日経も「経済教室」で電源構成の連載を始めたけど、初回が東工大の柏木孝夫さんだったのには驚いた。

石油 柏木さんは以前からコージェネとか分散型電源の普及に力を入れていて、エネルギー関連の学者の中では本流から少し外れるからね。でも、しっかり原発の役割を主張していて、電力業界はありがたかったはずだ。

電力 国際大の橘川武郎さんが週刊エコノミストオンラインに投稿した「読売新聞のスクープはどこがミスリードだったのか」も、読売の報道の間違いを指摘して、経産省の狙いを分かりやすく説明していた。

しかし、敏感に反応したのは、やはり電気新聞。「岐路に立つ石炭火力」の連載は読みごたえがある。RITEの山地憲治さんから始まって、常葉大学の山本隆三さん、橘川さん、エネ研の小笠原潤一さんと続けていた。執筆者も順番も適当に選んでいるのではなくて、電気新聞なりに考えていることが分かった。

エネ基本計画の議論 原発比率をどうするか

―来年はエネルギー基本計画の見直しが始まる。これから非効率石炭火力の廃止と合わせて、再稼働、新増設が進まない原発と再エネの扱いの議論は避けられない。

ガス 2030年の電源構成は、いまは原発が20~22%の比率なっている。だけどそれが難しいことは皆、分かっている。すると原発の比率をどこまで落とすか、それと非効率石炭火力が減る中、石炭とガスのバランスをどう取るのかが最大の課題になる。

もし原発の比率を15%に下げると、いま22~24%の再エネを30%にしなければならない。原発嫌いの環境省は当然、それ以上に増やしたい。でも、経産省はそれくらいが限度と考えている。

マスコミ 経産省は洋上風力に力を入れるようだけど、ドイツやオランダなどと違い、遠浅の海辺が少ない日本でどれくらい設置できるのか、疑問に思っている人は少なくない。環境省がゴリ押しして無理に入れようとすると、電気料金を上げざる得なくなるかもしれない。

―コロナ禍の不況対策で消費減税を唱える人がいるけれど、まずそんなことを止めた方がいいね。

EVに必須のレアメタル コロナ禍で安定供給に新リスク


【リレーコラム】川口幸男/日本メタル経済研究所理事長

電気自動車(EV)の登場で、自動車産業の在り方が大きく変わろうとしている。現状では、新型コロナウイルスの感染拡大で生産や販売が影響を受けているが、長期的には広く普及することは間違いない。人々は環境や安全への意識を高めており、コロナ後の世界は「新常態」といわれるように、以前と様変わりすると想定されている。

本年7月、米国の電気自動車メーカーのテスラがトヨタ自動車の時価総額を抜いたというニュースが注目を集めた。テスラの年間販売台数はトヨタの30分の1にすぎず、株価急騰には過熱感もある。しかし、テスラは電動化や自動運転など「CASE」と呼ばれる自動車産業の百年に一度の大変革の先頭を走っており、その成長力や将来性が高く評価された結果と見られている。また、環境・社会・企業統治を重視するESG投資の広がりも追い風になっている。

現状のEVには、ノーベル化学賞を受賞された吉野彰氏(旭化成名誉フェロー)が開発した「リチウムイオン電池」が使われており、当面はこれが主流である。しかし、リチウムイオン電池は、製造コストが高いことと、航続距離の短いことや充電時間も長いという弱点がある。このため、全固体電池など、リチウムイオン電池に代わる革新的な二次電池の開発が進められているが、実用化までにはまだ相当な時間がかかりそうである。

資源確保には政府の政策が重要

リチウムイオン電池には、電池材料としてリチウムのほかにコバルトやニッケル、マンガンなどのレアメタル(希少金属)が多く使われている。これらのレアメタルは日本国内には資源がなく、すべてを海外からの供給に依存している。中でもコバルトは世界生産の6割以上がアフリカのコンゴ民主共和国に集中している。コンゴでは、政情の不安定さや児童労働による鉱石の採掘の問題などもあって、コバルトの安定確保が重要な課題である。

これまでは、レアメタルの安定供給上の課題といえば、国際紛争や政情不安などの地政学リスクや自然災害による供給障害への対応が中心であった。しかし、今回のコロナ禍によりパンデミックによるメタルの供給障害という新たなリスク要因が加わったといえる。

こうしたレアメタルの安定供給の確保には、グローバル化しているサプライチェーン全体をカバーするようなリスク対応が求められる。グローバル社会では、個々の企業による対応の限界を超える場合もあり、資源外交やリスクマネー供給などの政府による政策的な対応が一層重要性を増すものと考えられる。

かわぐち・ゆきお 1975年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁石炭課長、産業科学技術研究開発課長、中小企業庁経営支援部長、住友金属鉱山代表取締役専務執行役員など経て2015年から現職。

次回はアジア太平洋研究所の岩野宏さんです。