温室効果ガスの削減 海外に目を向けて取り組みを


【オピニオン】近本一彦/日本エヌ・ユー・エス代表取締役

 2050 年カーボンニュートラル(CN)に伴うグリーン成長戦略(21年6月)に続いて次期エネルギー基本計画の素案(同年7月)が示された。これは、30年度の温室効果ガス排出量を13年度から46%削減し、さらに50%の高みを目指すためのエネルギー政策の道筋を示すものである。安全性の確保を大前提に、気候変動対策を進める中でも安定供給の確保やエネルギーコストの低減(S+3E)にも取り組むとしている。

エネルギー分野から排出される温室効果ガスは全体の8割を占めており、その削減は気候変動対策の大きな鍵となる。「エネルギーと環境を考える」を社名の枕詞に据えるコンサル会社の人間として思うことは少なくない。CNを達成するためには、脱炭素電源(再エネや原子力)の活用、炭素排出電源における炭素削減技術(水素・アンモニア発電、CO2回収・利用・貯留(CCUS))の導入など、さまざまな技術を活用していく必要がある。気候変動対策は地球規模の課題であり、国内にとどまらず広く海外に目を向け、取り組む必要がある。

原子力は実用段階にある有力な脱炭素電源である。わが国は特に原子力に対する社会受容性が厳しいが、市民の監視レベルが高いことは、国や事業者がこれまでの経験を地に足の着いた安全な原子力技術の社会実装に生かせるプラスの力と捉えることもできる。安全確保を最優先して既設炉を再稼働した後は、長期サイクル運転、40年を超える長期運転、出力増強など、諸外国で実績のある効率的な運転管理技術を検討すべきである。また、将来の電源として安全性を高めた小型モジュール炉(SMR)、水素製造を併設するわが国の高温ガス炉(HTTR)、核融合技術など、諸外国では立ち止まることなくR&Dが行われている。廃止措置、核燃料サイクル、廃棄物処分なども重要な課題である。いずれも国際的な連携の下で着実に検討を進める必要がある。弊社は、SMRの実用化に関し、HTTRおよびNuScale業務に取り組んでいる。長期的なエネルギーの安定供給に貢献すべく、産官学のさまざまな側面でこれらの課題に向き合っている。

一方、東南アジア諸国は今後も化石燃料に頼らざるを得ないことから、CCUSに対する期待が高い。21年6月、アジア全域でCCUSを活用するための産官学プラットフォーム(アジアCCUSネットワーク、ACN)が設立され、その第1回フォーラムで弊社らが遂行中のインドネシア・グンディCCSプロジェクトの取り組みを紹介した。また、東南アジアの3カ国(インドネシア、ベトナム、マレーシア)における主要なCO2排出源(火力発電所、製鉄所など)、潜在的なCO2貯留先およびガスパイプラインの位置情報などを調査・整理し、その結果を可視化するポテンシャルマップを作成した。このマップはACNのウェブサイトに公開されている。今後もASEAN地域におけるCCUSプロジェクトの展開に貢献する活動を進めていきたい。

ちかもと・かずひこ 1986年東海大学大学院工学研究科修了、日本エヌ・ユー・エス入社。2009年リスクマネジメント部門長、14年理事新ビジネス開発本部長、15年取締役、20年代表取締役社長。

電化でCO2を7割削減へ ニチガス戦略に賛否両論


脱炭素時代への対応を視野に、「脱ガス」へとかじを切り始めた大手ガス会社がある。ほかでもない、東京電力グループとの連携強化に力を入れるニチガスだ。

7月に発表した経営戦略を見ると、「2030年に向けた脱炭素への取り組み」として、電気・ガスのハイブリッド給湯器の販売促進や、電気自動車(EV)の推進と充電拠点の整備を明記。需要家宅におけるガスの消費量を半減させる一方、EV向けを含め電気の販売量を大幅に拡大することで、需要家1件当たりの年間CO2排出量を現状の平均約1万3700㎏から同4000kgへと約7割削減する方針を打ち出した。

「ここまで鮮明に電化シフトを掲げたガス会社は、まだどこにもないだろう。東京ガスや大阪ガスがメタネーションや水素などで脱炭素化に対応していくのとは一線を画す意味で注目される」。市場関係者はこう評価する。

だが、同業のガス業界からは「LPガス自動車やエネファームに見切りをつけた裏切り者」「もはや〝身内〟ではない」などの批判が聞こえる。脱ガス戦略は吉と出るか、凶と出るか。

脱炭素政策が追い詰める貧困層 欧米の実情は対岸の火事にあらず


【識者の視点】山本隆三/常葉大学名誉教授

気候変動対策強化にまい進する欧米では、エネルギー貧困問題が深刻になるとの懸念が出ている。

今後、電気料金などの上昇が待ち受ける日本にとっても、対岸の火事では済みそうにない。

地方自治体などからの依頼で、「節電、省エネ」についての講演を市民の方を対象に行うことが時々ある。対面の質疑応答の際に、「ガス代、電気代を節約するために望ましい暖房方法は」「電気代をもっと節約したいが何をすればいいか」と、電気・ガス料金に直結した質問もあった。

こうしたエネルギー価格に関心を持つ人たちも、これから脱炭素政策を進めれば価格が上昇し、生活に影響を与える可能性があることを認識されていないように思う。欧州連合(EU)では、脱炭素政策が貧困層に大きな影響を与えるのではとの疑問が出始めた。脱炭素に熱心な欧州委員会(EC)が1990年比2030年温室効果ガス55%削減実現のための法案とEU指令改正案を7月14日に発表したが、労働組合、産業界からはエネルギー価格上昇を懸念する声が出ている。

EU55%減目標の弊害 価格上昇避けられず

EC提案の中には、輸送と住宅部門を対象に現在の排出枠の取引市場とは別の新たな市場を創設する改正案が含まれている。住宅、車などの使用者に直接排出枠を割り当てるのではなく、輸送と住宅部門へ燃料供給を行っている事業者に排出枠を割り当てる新市場を25年から運用する計画だ。

欧州労働組合連合(ETUC)は運輸、住宅部門でのCO2削減が重要な課題であると理解するとしながら、新市場への影響はあまりに大きいと次の声明を出した。「新たな排出枠市場の創設は、ガソリン、軽油に課税されていたフランスの炭素税引き上げが招いた黄色ベスト運動のような市民の抵抗を欧州全土で引き起こし、環境上の効果はほとんど生み出さないだろう」

ECによると、EUには適切な暖房あるいは冷房ができないエネルギー貧困と呼ばれる世帯が5000万軒ある。低収入、高エネルギー価格、住宅の断熱効果の悪さが貧困の原因を作っている。ポーランド経済研究所は、輸送、住宅分野において排出枠取引制度を導入すれば、エネルギー貧困世帯を中心に大きな影響が生じるとの分析結果を公表している。

30年に当該部門で05年比40%削減を実現するためには、170ユーロ(現在の3倍程度)のCO2価格が必要になるが、その家計への影響額はEU27カ国で25~40年の間で1兆1120億ユーロ(約145兆円)。年間負担額の増加は、1世帯当たり輸送関連で373ユーロ(約4万8000円)、住宅関連で429ユーロ(5万6000円)になる。

EU27カ国の下位20%に属する低所得者層では、輸送関連と住宅関連支出が、それぞれ平均44%、50%増加すると予測されている。

ECは、国、世帯による収入の違いを考慮し、55%削減策により影響を受ける層への対策として加盟国が総額1444億ユーロ(約19兆円)を拠出する社会気候基金を設立するとしている。

しかし、ポーランド経済研究所はECの対策では不十分とし、冬季の気候が厳しく大きな額の燃料支出が必要で、低所得者の多い東欧諸国に対しては、財政、気候条件なども考慮した上で対策が取られるべきだと指摘している。

脱炭素を進める米国も、エネルギー貧困の問題に直面することになる。バイデン大統領は35年電源の非炭素化を目標としているが、再生可能エネルギー導入、送電網強化などの投資が必要とされており、エネルギー価格にも結果的に影響を与えることになる。米国では州による制度の違いがあり、居住地域により貧困層の受ける影響は異なる。一部の州では健康上の理由があっても、料金を支払わなければ電気が止められてしまう。

米エネルギー省のレポートによると、エネルギー貧困世帯は所得の8・6%をエネルギー購入に当てており、平均的世帯のエネルギー関連支出2・5~3%の約3倍になっている。中にはエネルギー関連支出が収入の30%にもなる貧困世帯もあるとされている。

米国と日本の世帯所得分布

米国は2019年、日本は18年のデータ
出典:統計局(米国)、厚生労働省(日本)

貧困で省エネが困難に 低所得者多い日本では

貧困世帯のエネルギー関連支出は平均的世帯より絶対額は少ないが、相対的には高くなる。その理由は、プロパンガスなど相対的に高い燃料の使用が多いこと。貧困世帯の59%は賃貸住宅に住んでおり、住宅の家主が断熱など住宅の省エネに熱心ではないこと。省エネ機器の導入を行う資金を用意できないなど、貧困ゆえに省エネ、節電対策が難しいことをエネルギー省は指摘している。そんな中で、電源の非炭素化が進むと貧困世帯はさらに電気料金の支払いができず、地域によっては熱波、寒波による健康被害を受けることになる。

日本でも再エネ導入による電気料金上昇が懸念されるが、日本と米国の世帯所得の分布を比較すると、日本の方が低所得に分布が広がっている(図)。世帯所得の中央値も日本の437万円(18年)に対し米国は6万3761ドル(約700万円、19年)。平均世帯所得は、高所得者が多い米国の9万1406ドル(約1000万円)に対し、日本は552万円だ。

電気料金上昇の影響は低所得者が多い日本の方が大きいだろう。温暖化問題も重要だが、国民の生活に与える影響も十分に考慮した上で政策を決定するべきだ。

やまもと・りゅうぞう 京都大学工学部卒業後、住友商事入社。2010年富士常葉大学総合経営学部教授、21年常葉大学名誉教授。国際環境経済研究所副理事長兼所長も務める。

スマートメーター置き換え完了 ゼロから挑んだプロジェクト秘話


【東京電力パワーグリッド/藤木武博 スマートメーター推進室 室長


ふじき・たけひろ 1990年大阪大学大学院修了、東京電力入社。同電子通信部部長代理、TEPCO光ネットワークエンジニアリング常務取締役を経て、2018年4月1日より現職。

東京電力パワーグリッドは、自社サービスエリア内の電力メーターをスマートメーターに置き換えた。

設置台数は約2840万台。わずか7年で目標を達成した陰には、さまざまな工夫と苦労がある。

 ――東京電力パワーグリッド(PG)は自社サービスエリア内でスマートメーターを2021年3月末までに約2840万台設置したと発表しました。

藤木 当社サービスエリア内では14年4月にスマートメーター1号機を設置しました。推進室自体は13年7月に立ち上がり、当初の計画は23年度中をめどに設置する計画でしたが、お客さまへのスマートメーター導入効果をより早く実現するべく、設置目標を当初計画から3年間前倒しして20年度中に変更しました。

スマートメーター取り付けの様子

――プロジェクトはどのように推移しましたか。

藤木 14、15年度はプロジェクトがスタートした当初ということもあり、当社の体制およびメーターの生産ラインも整わず、設置台数は約200万~300万台にとどまりました。16年度から18年度にかけての3カ年は単年で約600万台設置しています。

 これは16年に電力小売り全面自由化が解禁され、新電力へのスイッチングを円滑に行うためにはお客さまにスマートメーターが普及している必要があったためです。実際にスイッチング申し込みがあると、8日以内に作業をする必要があります。しかし想定以上に交換台数が多かったこともあり、一部のお客さまにご迷惑をお掛けしたこともありました。

――20年には新型コロナウイルスの感染拡大もありました。

藤木 16~18年度はハイペースに設置を行ったこともあり、19、20年度の設置台数は落ち着きました。ただ、コロナ禍の影響で中国の武漢で作っていたスマートメーター用の部品が届かず、機材不足に陥る事態も一部で起きました。

通信網も独自開発 接続率は99・9%

――電力データを送受信する通信インフラも独自に開発されました。

藤木 通信ルートには、スマートメーターで計量した電力データを送配電会社に送信するAルートと、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)などに接続するBルートの2種類があります。

 Aルートで利用できる通信手段は①バケツリレーのようにスマートメーターやコンセントレーターを介して通信を行うマルチホップ方式、②通信事業者の回線を利用する携帯方式、③電力線で計量データを通信するPLC方式―の3種があります。当社サービスエリア内では①と②の方式を採用していて、市街地などネットワーク密度が濃い地域が①(約85%)、山間部などマルチホップで通信できない地域では②(約15%)というように使い分けています。

――どんな苦労がありましたか。

藤木 ①はコストが安いというメリットがある一方で、独自に通信網を構築する必要がありました。13年に推進室が発足してから専属の検討チームを作り、東芝と協力して、どの程度の密度なら円滑に通信を行えるのか、またデータを送信するコンセントレーターはどのように配置するのが効率的かなど、シミュレーションや試行錯誤を重ねました。

 21年3月末までに約2840万台を設置し、メーターの接続率は99・9%となるなど、非常に安定した運用ができています。プロジェクト発足当初はトラブルも多々あったので「これで大丈夫か」と心配もしましたが、原因を一つ一つ解決したことで、現在の通信品質につなげることができました。システムベンダーや計器メーカー、工事会社の皆さま、何より設置にご協力いただいたお客さまのおかげで達成できました。心から感謝しております。

スマートメーター設置台数の推移

生産性向上に工夫 価値あるものをデザイン

――通信網整備と同時に、約2840万台のスマートメーターを設置しています。設置作業で工夫はありますか。

藤木 設置年数が3年間短縮されたことで、作業の生産性をどれだけ上げられるかが重要でした。スマートメーターの交換は、現場作業だけでも1台につき10~15分かかります。工事会社の皆さまが効率良く作業できるように、移動時間が少なくなるルートを選定するなどして、できる限り負担が減るように工事会社と協調して対応しました。

 工事に関わった2000人以上の工事会社の皆さまには感謝しています。

――現在、スマートメーターの検満を見据えて、次世代スマートメーター仕様策定の議論も進んでいます。スマートメーター推進室の今後の展望は。

藤木 具体的な工程はまだ決まっていませんが、次世代スマートメーターの更新計画も推進室が担当します。メーターは一度設置すれば10年間使われる機器です。お客さまと事業者の双方にとって使いやすいものでなければなりません。価値があって使いやすいものをデザインしたいと思います。

廃炉に伴う放射性廃棄物 リサイクルで有効活用


経済産業省は、原子力発電所の廃炉で出る蒸気発生器など大型の放射性廃棄物を、リサイクル資源として海外に輸出することの検討を始める。

現在、放射性廃棄物の輸出は原則として禁止されている、しかし、欧米では既に例があり、除染などの処理をされた後、リサイクルされて有効に利用されている。

原発に使用される機器には、非常に材質の良い合金などが使われる。そのためリサイクル資源として有用。例えばスウェーデンのCyclife Sweden社は、1990年代から各国からBWR(沸騰水型炉)のタービン、ボイラー、蒸気発生器、熱交換器などを受け入れて再利用している。

重さ310t、体積430㎥の蒸気発生器を処理すると、約2

45tが再利用され、残りの約65tが放射性廃棄物となる。廃棄物の体積は36㎥と10分の1以下に減容される。

経産省は、蒸気発生器、給水加熱器、輸送・貯蔵用キャスクを対象にするもよう。本来ならば貴重なリサイクル資源として国内で利用されるべきだが、「風評被害を恐れて、国内では引き受ける鉄鋼会社がない」(電力業界関係者)という。

2021年は「脱炭素住宅元年」 次世代社会の担い手の意識を


【業界紙の目】若林利通/新建新聞社 記者

民間では高性能住宅の標準化などが進み、政策面では住宅への省エネ基準義務化も決まった。

2030年度46%減目標のハードルは高いが、官民一体で脱炭素社会を構築する時が迫っている。

 住宅業界ではHEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)の断熱基準・G2以上の住宅を提案・建築できる工務店・設計事務所が増えている。技術面から脱炭素社会を担うベースはできつつあるが、工務店の意識は脱炭素加速派2割、反対派2割、残りは様子見といった状況にある。

住宅の脱炭素施策はこれまで、省エネ基準の説明義務化にとどまっていた。しかし内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」での東京大学大学院前准教授のプレゼンを受け、同TFを所轄する河野太郎行政改革担当相が国土交通省の脱炭素施策に疑問を呈したことで、流れが変わった。

25年度に省エネ基準義務化へ 家庭部門6割減と整合するか

まず、住宅施策の大本の「住宅生活基本計画」に50年カーボンニュートラルの目標実現のためのロードマップ作成が盛り込まれた。さらに国交省・経済産業省・環境省合同で通称「脱炭素住宅あり方検討会」が開催され、その取りまとめ案で省エネ基準適合義務化と省エネ性能表示制度の導入が示され、この2点については実施が既定路線となった。

7月20日に示された「あり方検討会」の取りまとめ案では、中長期的に50年の目標を新たに「ZEH・ZEB(ネットゼロエネルギーハウス・ビル)基準の省エネ性能を有するストックの蓄積」と記載された一方、30年目標では「新築の住宅・建築物については平均でZEH・ZEBの実現を目指す」と従来案のままとなった。ZEHについては「再生可能エネルギーを考慮しない」「外皮性能と設計一次エネルギー消費量20%削減」(BEI・省エネ性能指標=0・8)のみが明記され、「創エネ抜きのZEH」にとどまった。

既定路線となった省エネ基準適合義務化では、現行の省エネ基準を義務化の水準とする方針で、25年度の実施が盛り込まれた。先駆けて23年度から補助事業や住宅ローン・フラット35で適合を要件化するとしている。

ただし、現行省エネ基準の義務化だけでは中長期目標の達成は不可能なため、誘導基準や長期優良住宅認定基準などの引き上げを経て「遅くとも30年度、誘導基準への適合義務化が8割を超えた時点」でZEH水準に引き上げる考えが示された。既に長期優良住宅は別途検討が始まっており、住宅性能表示制度でもZEH水準の上位等級が創設される見通しだ。

このように「最上位の省エネ水準はZEH」とする3省の取りまとめ案に対し、検討委員会委員の竹内昌義・東北芸術工科大学教授らは、ZEH水準を上回るHEAT20・G2の必要性を訴えている。この指摘については、HEAT20に基づく独自制度を推進する鳥取県の平井伸治知事も「決して高い目標ではない」と支持しているが、3省としては「寒冷地と温暖地では断熱性能の確保によるエネルギー消費量の削減効果に差異が大きい」ことを理由にZEH水準を上限としたい考えだ。

また、太陽光発電については義務化ではなく、「50年において設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となること」とあいまいな目標だったが、8月10日には指摘を受けて「新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されること」が追加された。

取りまとめ案に沿って対策を進めた場合、50年には住宅ストックの8割近くがBEI=1・0以下(平均0・9程度)になると試算され、住宅対策のエネルギー消費削減量は原油換算で344万klを見込む(再エネを除く)。そのうち新築は着工減の影響などを考慮した結果、現行の地球温暖化対策計画(314万kl)から253万klまでダウンした。

一方、改修による削減量を現行計画の43万klから91万klに積み増すことでバランスを取った形に。ただ、既存住宅の省エネ改修はハードルが高く、ストックの推移、削減量の積み増しともに計画通りに進むのかは疑問が残る。

また、温暖化ガス30年46%削減目標を踏まえた第六次エネルギー基本計画の素案では、30年度に家庭部門のCO2排出量を、13年度比66%減の約7000万tまで削減する目標が掲げられた。しかし7月20日の検討会の取りまとめ案のままでは「66%削減」は不可能な数字で、施策の整合性をさらに追求していく必要がある。

今後については、エネルギー基本計画素案とあり方検討会取りまとめ案、同TFなどの議論を踏まえながら、国交省の社会資本整備審議会で施策内容が議論される予定だ。

脱炭素の鍵握る住宅分野 長野県が先進的取り組み

脱炭素社会を目指す先進的なシナリオとして紹介したいのは長野県の事例だ。

長野県は、建物に関して30年に全ての新築建築物(年間住宅1万2000戸・ビルなど1000棟見込み)でZEH・ZEB化を描いており、その実現に向けた具体策として「仮称・信州型健康ゼロエネ住宅」の普及を目指している。

仙台駅東口に今年完成した木造ビル

このほど示された指針の基準案では、外皮性能についてはZEH、ZEH+、HEAT20・G3の三つの基準があり、基準には外皮性能だけでなく、自然エネルギーや建産材の活用、耐震性の確保、長寿命化、パッシブデザインの採用などの条件が盛り込まれているのが特長だ。構想では50年に新築でパッシブハウス(ドイツパッシブハウス研究所の規定基準を満たす省エネ住宅)相当、既存住宅で省エネ基準を上回る性能へのリフォームを目指している。

国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が8月9日に公表した報告書では、「地球温暖化による世界の気温上昇幅は産業革命前と比べ21~40年の間に1・5℃を超える可能性が高い」という。温度上昇で予想される極端な高温や大雨で被災する人の多くは社会的な弱者だ。脱炭素社会を一刻も早く実現するために、官民一体となった適切な目標設定と、実現に向けた具体策を期待したい。

〈新建ハウジング〉〇1995年3月創刊〇発行部数:1万8000部〇読者層:工務店・住宅会社、建材メーカー・販売、建築設計事務所など

石炭価格高騰が影響か BL市場約定量が大幅減


ベースロード(BL)市場の2021年度(22年度受け渡し分)第1回オークションが、7月30日に実施された。1kW時当たりの約定価格は、北海道、東日本、西日本のいずれのエリアも、昨年度1回目よりも約3円上昇。約定量は3億4000万kW時と、同約65%減少した。

20年度冬にスポット市場の高騰を経験し、新電力の価格ヘッジへのニーズは高まっている。実際、買い手事業者は45件から69件に増え、売り入札も10%増加した。それにもかかわらず取引が低調に終わったのは、売り手が提示した価格が高く、買い手の期待通りではなかったから。

その背景にあるのは石炭をはじめとする燃料費の高騰だ。ある新電力幹部は、「燃料相場を踏まえ、売り手と買い手の双方が合理的な行動を取れば約定しないのは当然だ」と、受け渡し期間を通じて燃料費を固定している現行制度の見直しの必要性を強調する。

資源エネルギー庁は、「約定量が少なかった要因は今後調べていく。残り3回の結果も踏まえ、さらなる市場活性化に向けた手立てを講じていきたい」としている。

想像力を働かせ万全な備えを 他企業と連携した防災訓練を実施


【東京ガス】

 東京ガスが毎年7月に実施し、子会社や協力会社を含む同社グループの従業員約2万人が参加する総合防災訓練。今年度の想定は、東京五輪・パラリンピック大会が開催中の昼間、東京湾北部を震源とする最大震度6強の地震が発生したという内容だった。

初の試みは、他事業者との連携だ。東京電力パワーグリッド(東電PG)、東京電力エナジーパートナー(東電EP)、首都高速道路が訓練に参加した。さらに、2022年4月の導管部門の法的分離を見据え、それぞれの関係事業者とも連携方法などを確認・検証する訓練になった。

事前にシナリオを用意せず、当日知らされる被災状況に対して、非常事態対策本部の各班が要領などに基づいて対応。災害に対するレジリエンス(強靭性)をより一層高める訓練を目指した。

被災状況は、最大震度6強の揺れにより、101万件分の低圧管が自動停止。中圧導管の無事を確認しブロック化して供給を継続した。サテライト基地や火災地点の供給状況を確認するなど緊迫感が続く中で進行した。

訓練は2部構成。「初期段階」の訓練では、発災から約2時間後の非常事態対策本部会議(対策本部会議)で、ガスの供給停止状況や、ガス製造・供給設備・発電設備などの被害情報を把握し事業継続計画を発動。発災6時間後を想定した対策本部会議では、さまざまな被災状況から同社グループ各社と連携し、災害方針などの重要事項を意思決定した。

続く「復旧段階」の訓練は発災翌日の設定だ。早期復旧のための復旧基本計画を策定し要員を調整。グループ各社や日本ガス協会からの応援隊やほかのガス小売り事業者の災害対応要員を含めた復旧体制の構築などを行った。また、首都高速道路と災害対応の車両移動で重要な高速道路の被災状況や通行可否などの情報を連携。電力については停電状況などを東電PGとオンライン会議システムで共有し確認した。東電EPとは、ガス事業者間の保安確保のため連携・協力に関するガイドラインに基づき、情報連絡方法などを確認した。

二次災害の防止が重要 想像力を働かせて対応する

当初予定していた訓練は、東京五輪・パラリンピック大会開催中、多くの観客や関係者が訪れる中での対応だった。だが結局、無観客開催となり、関係人数も絞られた中では、他社との連携に重点を置く訓練となった。

内田高史社長は、「災害対応で最も大切なのは、二次災害の防止だ。さまざまな情報の収集方法や対応方法についてさらに検討を深め、危機対応力強化につなげてほしい」と、いつ起きるかわからない自然災害に対して想像力を働かせ、万が一への対応を万全にする必要があると呼び掛けた。

コロナ対応も万全な対策本部会議(中央:内田社長)

「脱炭素」も「安定供給」も危うい エネルギー基本計画を練り直せ


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞 論説副委員長

エネルギー基本計画の改定案は「脱炭素」も「電力の安定供給」も展望できないお粗末な内容となった。

日本の「エネルギー敗戦」を避けるには、2050年を見据えた戦略を抜本的に練り直す必要がある。

 「政治的な思惑を優先したつじつま合わせだ。こんな計画なら策定しない方がマシ」。経済産業省が7月に公表したエネルギー基本計画の改定案は、審議した総合エネルギー調査会基本政策分科会委員でさえこう酷評する代物だ。

国の中長期のエネルギー戦略を示すエネ基は2003年に初めて策定され、ほぼ3年ごとに見直されてきた。改定に伴う第6次計画は、菅義偉政権が公約した50年の温室効果ガス排出実質ゼロに向けたロードマップの一環を成すもので、30年度の電源構成が焦点となっていた。

ガソリン車から電気自動車へのシフトに象徴されるように「脱炭素化」とは大雑把に言えば、経済や社会活動の電化にほかならない。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)も重なり、人口減少が進む日本でも電力消費は容易に減りそうにない。そんな中で、電力の安定供給と脱炭素を両立させる戦略を描くのは至難の業で、昨秋始まった改定案の審議はもともと難航が予想された。

発電時にCO2を出さない太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの「主力電源化」を進めるのは既定路線。問題は、「脱炭素電源」かつ、天候や昼夜を問わず発電できる「ベースロード電源」でありながら、国民の不信が根強い原発をどう位置付け、CO2を排出する火力発電をどう抑制するかだった。

首相が「30年度46%削減」表明 つじつま合わせに走る経産省

関係者によると、今年4月上旬までは「ある程度根拠を積み上げた上で電源構成案を議論していた」という。ところが、菅首相が同月下旬に「30年度に温室効果ガスを13年度比で46%削減する」と表明した途端、経産省はつじつま合わせに走った。結局、菅首相が出席する11月のCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)に間に合わせるべく、「46%削減」と平仄が合う格好の構成案が仕立て上げられた。

実際、矛盾が早くも露呈している。まず、前提となる30年度の電力需要見通しを13年度比12%減の約8700億kW時と過小評価した点が問題だ。「(企業や家庭の)省エネの野心的な深掘り」を目指すというが、従来はほぼ横ばいと見込んだ需要を大幅に減らすのは現実離れしている。46%削減目標と整合性を取るために分母(需要)にまで手を付けた形だが、専門家は「経済・社会活動を厳しく制約しなければ達成は困難な数字」と指摘する。

再エネ36~38%▽原発20~22%▽火力41%―。構成案自体も「絵に描いた餅」だ。

原発は政治や立地自治体への配慮から15年に策定した第4次エネ基以来の比率が維持されたが、新規制基準で審査中の11基を含む27基を高稼働率で運転しなければ達成し得ない「希望的観測」。東京電力福島第一原発事故以降の再稼働停滞で19年度の原発比率は6%、稼働した原発は10基にとどまる。再稼働には原子力規制委員会の審査や地元同意などハードルが高い上、事故時の住民避難計画の不備を理由に運転差し止めを命じる判決も出ている。

改定案は原発の建て替え・新増設を見送った一方、「必要な規模を持続的に活用」と書き込んだ。経産省や与党内にはこれを足掛かりに、運転期間(原則40年、最長60年)の延長を探る動きがあるが、国民の理解が得られるとは思えない。識者は「安全性に不安が強い老朽原発を延命するくらいなら、新増設を正面から議論する方がまだ誠実」と指摘している。

比率が従来から14ポイント引き上げられた再エネも問題含みだ。30年度まで時間が限られ「洋上風力の実用化にはリードタイムが足りない」との理由から、太陽光増設に過度に依存する内容となったためだ。12年の固定価格買い取り制度(FIT)導入以降に急増した太陽光は、面積当たりの設備容量が世界一の規模となった。荒廃農地の転用や公共施設の屋根への設置を進めても実現できるかは不透明だ。先進地の欧州では、夜間に発電量がほぼゼロとなる太陽光への依存を避け、風力との「ベストミックス」を探るのが潮流となっており、太陽光「一本足打法」は供給面のリスクが大きい。

深刻なのは、「聖域視」された原発のしわ寄せで、火力を従来に比べて15ポイントも削減する想定となったことだ。CO2排出量が多い石炭火力比率を19%(従来26%)に縮小するのは分かるとしても、排出量が少ないLNG火力まで従来比7ポイント減の20%に減らして支障がないのか。

LNG火力は天候に発電量が左右される再エネを支える調整電源としても貴重な存在だ。蓄電技術の革新による再エネの「リアル基幹電源化」や、アンモニア・水素を使った次世代エネルギーへの移行までの「トランジション電源」として重要視されてきた。にもかかわらず、帳尻合わせで大幅に削減するのは理にかなわない。

ゴールの50年を見据えて オールジャパンの議論を

再エネ100%は難しく、原発回帰もできない日本のエネルギー戦略は袋小路に陥っている。そうならば、当面はLNGを最大限有効活用しながら、アンモニア燃料の導入による火力の低炭素化を急ぐなどして活路を見いださねばならないはずだ。しかし、改定案にはそんな意気込みもうかがえない。これでは、企業や家庭に電力不足への不安を広げるだけで、電力会社を含む企業の脱炭素化の取り組みも進まないだろう。

経産省だけに策定を委ねていいのか

温暖化防止と電力の安定供給の両立に必須であるエネルギーの構造転換は、国民生活に大きな影響を及ぼす。その指針としてエネ基の重要性が高まっているにもかかわらず、従来通り経産省だけに策定を委ねていていいのか。

政府が今回のお粗末な改定案を反省するのであれば、産業界や国民が幅広く参加できるオールジャパンのエネルギー国民会議のような場を新設すべきだ。その上で近い将来の30年度だけでなく、ゴールの50年を見据えたより大きなエネルギー戦略を一から練り直すのが賢明だろう。

経産省と内閣府が泥仕合!? 第六次エネ基を巡り対立激化


経済産業省の基本政策分科会委員と、内閣府の再エネ総点検タスクフォース(TF)構成員の対立が泥沼化の様相だ。

電力市場の混迷を象徴する両者の対立

発端は、第六次エネルギー基本計画案を審議する8月4日の分科会会合で、秋元圭吾委員が、再エネ大量導入のために必要な施策や分科会議論の問題点などを指摘したTF構成員を痛烈に批判したことだ。「事実誤認も甚だしい。こういうものが出てくるのが正直信じられない。最低限の知識さえも有さないような委員で構成されたような組織は存在していること自体がどうかと思う。まさに行政改革すべき対象ではないか」

これに、構成員が激怒。17日のTF会合で、秋元委員、白石隆・分科会長、梶山弘志・経済産業相に対し「侮辱的な内容を含んだ不適切な本発言がなされたことについて強く抗議」するとして、発言の撤回や謝罪、分科会運営に関する適切な対処などを求めた。

一連の騒動を巡り、某大手エネルギー会社幹部は「秋元氏の発言は確かに度を越したもので、構成員が怒るのも無理はないが、彼らの主張が全て正しいわけではないのも事実。分科会は冷静な議論を通じてTFの問題点をあぶり出してほしい」と苦言も。果たして、両者舌戦の行方はいかに。

【覆面ホンネ座談会】第四次総特をどう読むか 行間に見える解体シナリオ


テーマ:東京電力第四次総合特別事業計画

 東京電力ホールディングス(HD)の第四次総合特別事業計画がようやく発表されたものの、第六次エネルギー基本計画案の発表と同じタイミングで、かつ五輪報道に埋もれ、ほとんど取り上げられなかった。そんな今回の総特を、どう読み解けばよいのか。

〈出席者〉Aアナリスト  B事情通  C電力関係者

――今春には第四次総特はおおむね出来上がっていたが、柏崎刈羽原子力発電所での度重なる不祥事で足止めに。7月21日にようやく発表されたが、内容にサプライズはなかった。

A 見るべき内容がほぼない、というのが第一印象。従前の延長線上で積み上げた数字がそのまま残る一方、柏崎刈羽の運開時期は見直しのたびに先送りとなり、今は2022年度運開が前提になっているが、できると思っている人はいない。また、国が保有する東電の株式売却や、事業の売却による資金調達もやはりもくろみ通りに進みそうもない。市場から見て総特の手詰まり感は明らかだが、有効な策は今回も全く盛り込まれなかった。

 新しく加わった内容は、カーボンニュートラル(実質ゼロ)と、柏崎刈羽での不祥事対策だ。ただ実質ゼロについては、大手電力会社が再生可能エネルギ――事業で大幅な利益を生み出せる可能性は少ない。実質ゼロは成長領域でなく、コストと認識されているからだ。

 中には実現できた計画もあって、例えばコスト削減目標は毎回超過達成している。しかし本質的には、従前のコンセプトを踏襲し、それを断念、という繰り返しに陥っている。

B 昨年の段階で第四次総特の素案を読んだが、正式発表の内容はそこから変わりがなかった。この間に起きた実質ゼロ対応や不祥事対応を少し盛り込んだという印象だ。ただ、驚いたのは「不採算の事業については撤退・縮小する」という一文だ。これは東電内からはあまり出てこない表現で、小林喜光・新会長や、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の嶋田隆・特別顧問の意向が感じられる。

 柏崎刈羽の1基再稼働で500億円の利益を見込み、年5000億円の廃炉・賠償費用を捻出。さらに将来的には再編・統合などで年4500億円の利益を生み出し、これを除染に充てる。この福島の必要資金21兆5000億円の調達スキームが立ち行かないことが背景にあり、いよいよ不採算事業の撤退にまで手を付けなければならない段階なのだろう。

C この総特を見て、晴れて東電は「資源エネルギー庁内幸町分室」になったと感じた。福島関連予算の提案書にしか見えず、このままでは次回もメディアにスルーされるだろう。

 かつての東電の中期経営計画は、各部門からの短冊が企画に上がり、総務と一緒にメリハリをつけ仕上げていた。東電が示す戦略が、日本の電気事業の方向性になるからだ。官僚や政治と付き合いのある部署が最終的な色を付けてきた。しかし、今回の総特には魂がない。キャッチーな言葉は当然なく、役所が予算を取るための短冊をそのまま束ねただけ。それが前回より露骨だ。中には忸怩たる思いを抱えている社員もいてほしいと思う反面、福島第一原発事故を起こした以上、仕方がないようにも思う。

 少なくともエネジーパートナー(EP)の分社化についてはもっと書き込むべきだったろう。ただ料金改定にも絡む話だし、巷間ささやかれる売却話がまとまる前に変な話題を出す必要もないとの判断なのかな。

梶山弘志経産相との会談後に取材に応じる小林喜光会長(右)と小早川智明社長(7月21日) 提供:朝日新聞社

資金スキームの限界 水力アセット売却論も

――今回の総特の行間を読むと、次回への布石が読み取れるという意見も。それはアライアンス加速の先に待つ東電の解体だ。さらに福島廃炉事業の国有化を口にする人もいる。

C しかし福島まで切り離してしまったら、東電を倒産させなかった意味がなくなる。キャッシュフローの仕組みが算段通りになっていないことは事実だが、それはあり得ないでしょう。

 その点、リニューアブルパワー(RP)の水力はゼロエミ電源として魅力的なアセットだ。償却が終わっている上、調整力価値もそれなりの利幅がある。しかし、福島対策費用は桁違い。今の資金スキーム以外に、良い策が見つからないのが現状だ。

B 東電の元幹部らキーマンに話を聞くと、経産省はRPを売却して資金を捻出する考えのようだ。実質ゼロ化に向けて水力は最強の調整力であり、丸紅やNTTなどが欲しがっていると聞く。

 EPについては、再開発や、長期間一括受電の大口といった優良案件を洗い出して、ENEOSや東京ガスなどに売る手はずを整えている。ただ、当座の資金は捻出できるが、焼け石に水。だからRPの売却が本丸で、嶋田氏が中心となり画策しているようだ。しかし東電OBは「虎の子事業まで差し出すのはかつての東芝のようだ」と嘆息している。

A 任期の3年ほどのスパンで物を考える、いかにも役人らしい考えだ。RPは持ち続ければ長期のキャッシュをもたらす。それを売ってしまっては、東電には将来性のない事業ばかりが残り、ぼろぼろになってしまう。

 一方、JERAは悪くない発想だった。東電内に火力・燃料部門を抱え込む意味はなく、動き出したら実際に中部電力と東電双方を補完し合っている。

B そもそも東電を残した意味は、公式には福島のためだが、裏の目的は電力再編だった。原賠機構の発足当初からの狙いが、完成に近づいていると感じている。しかしそれで福島の責任が果たせるのかというと、クエスチョンだ。

C 事故を起こしてしまったことが全て。かつての東電は、日々数百億円のキャッシュが入ってきていたが、こんな企業は極めてまれだ。東電に金や情報が集まるから、かつては経産省の方からアポを取りに来ていたこともある。しかし今はその立場が逆転。事故を起こし、官僚の発想による経営を許したのは東電自身だ。後は福島のために生きていくほかない。東芝は、キヤノンに優良な医療関連事業を売り払ってしまった。東電はそれよりはましだろう。

A 事故を起こしたことに加え、東電が当事者責任を認めたことで勝負はついた。事故直後、東電幹部と、嶋田氏、当時の官房副長官の仙谷由人氏(故人)の会議で、東電は押し切られてしまった。

C 今の真の東電社長は、経産次官やエネ庁長官。小早川智明社長は、強いて言えばEPの会長かな。

A 確かに。ただ、小早川氏は取締役でなく執行役社長だ。与えられた仕事はよくやっていると思うよ。

大規模駐車場で自家発電を カーポート一体型の太陽光発電


【中電Looop Solar】

 中部電力ミライズ株式会社と株式会社Looopが共同設立した株式会社中電Looop Solarは、大規模駐車場を対象としたカーポート一体型の太陽光発電設備(ソーラーカーポート)を活用した自家消費サービスの提供を7月15日より開始した。カーポートとは簡易車庫の意で、壁がなく、屋根と柱でできている。その屋根の上に太陽光パネルを設置されているのが特徴だ。

このサービスは、工場や店舗の駐車場にソーラーカーポートを設置し、太陽光発電による電気の自家消費につなげるというもの。設置の際にかかる初期費用は架台部分も含めてなんとゼロである。設置するソーラーカーポートは同社が所有・運営し、発電状況を遠隔監視し、顧客に使用量などのデータを提供する。太陽光パネルの保守・メンテナンスも同社が行う。

2050年カーボンニュートラルに向け、多くの企業が脱炭素経営に注力し始めている。「カーポート一体型太陽光発電自家消費サービス」を利用することで、CO2排出量ゼロの電気を消費し、導入企業のブランド向上につなげることができる。さらにパワーコンディショナーに非常用コンセントを設置しているため、非常用電源としても活用できる。例えば近隣住民に電気を開放するなど、地域社会へ貢献することも可能だ。

ソーラーカーポートは、特許権利を取得した前方の支柱を省略した特殊形状を採用している。そのため、従来と比べて駐車台数を多く確保でき、ドライバーにとっても、駐車がしやすく、接触事故の低減やドアの開閉スペースが広がり、快適な利用体験が約束される。

顧客の相談を受け開発 多様化するニーズに応える

このサービスは、顧客からの相談を受けて新たに開発された。中部電力(現:中部電力ミライズ)とLooop社は19年から店舗や工場の屋根に太陽光パネルを設置するサービスを展開してきたが、「屋根の老朽化や強度不足によって設置が難しい」「目に付きづらいので、環境への取り組みを分かりやすい形でアピールしたい」との顧客からの声があった。そこで、駐車場にカーポート一体型の太陽光発電設備を設置することで、これらの課題を解決するサービスを生み出したのだ。

中電Looop Solarは、太陽光発電自家消費サービスを提供してきたこれまでの実績とノウハウを生かし、多様化する顧客のニーズに応え続ける構えだ。

【マーケット情報/9月3日】米国、中東原油上昇、供給減予測広がる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物と、中東原油の指標となるドバイ現物が、供給減少の見通しを受け上昇。一方、北海原油を代表するブレント先物は、前週から小幅に下落した。

ハリケーン「アイダ」の影響により30日、米国メキシコ湾における原油生産の約95%が停止。5日時点でも依然、88%が止まっており、供給逼迫の観測が強まった。また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から減少し、394基となった。さらに、27日までの一週間における米国の週間在庫は、4週連続で減少。2019年9月以来の最低を記録した。

加えて、イランで新たに就任した外相が、核合意復帰に時間がかかることを示唆。イラン産原油の出荷は、当分見込めないとの予測が台頭した。

他方、OPEC+は当初の予定通り、10月に日量40万バレルを追加増産することで合意。背景に、2022年の石油需要予測に対する上方修正があるものの、近く供給が増加するとの見込みが、ブレント先物価格の重荷となった。また、欧州連合は加盟国に対し、一部地域への渡航制限を再導入するよう推奨。米国やイスラエルなど、新型コロナウイルス変異株の感染が拡大している国が含まれており、ジェット燃料需要後退の見方が広がった。

【9月3日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=69.29ドル(前週比0.55ドル高)、ブレント先物(ICE)=72.61ドル(前週比0.09ドル安)、オマーン先物(DME)=71.39ドル(前週比1.04ドル高)、ドバイ現物(Argus)=71.21ドル(前週比0.60ドル高)

【コラム/9月6日】幸か不幸か、エネルギー政策が政局の争点となった


福島 伸享/元衆議院議員

 10月21日の衆議院任期満了が迫る中、これを執筆している現在、菅首相が自民党総裁選への不出馬表明で事実上退陣となり、新総理を決める自民党総裁選に岸田氏が名乗りを上げ、河野太郎大臣、高市早苗氏が推薦人を確保し、石破茂氏なども立候補に向けて調整を続けている。衆議院の任期満了間近の異例の大政局となり、風雲は急を告げている。

現時点での二人の有力候補のうち、岸田氏は安倍政権時代の政調会長、河野氏は菅政権のワクチン担当大臣であるから、菅政権が国民から見放される原因となったコロナ対策は、大きな争点になりえないだろう。党内政局に敗れた菅首相は、カーボン・ニュートラルなどの自らの政権の看板を河野氏に託すようであるので、有力候補たちの争点は自ずからエネルギー政策になる。私見では、自民党内で脱原発の旗を振ってきた河野氏は、先週の週刊文春で報道された第6次エネルギー基本計画策定をめぐるパワハラもどきのやりとりに見られるように、既存のエネルギー業界や経済産業省を抵抗勢力に見立てて、先鋭的なカーボン・ニュートラル路線を主張することであろう。それに同じ神奈川県選出で、共に菅内閣を支え、記者会見で涙を浮かべて菅首相退陣を惜別した小泉環境相が、共闘する可能性も高い。

一方の岸田氏は、こうした河野氏との対立軸を掲げなければならないが、よく言えばバランス感覚があり、悪く言えば煮え切らない政治家であるため、各方面に配慮をした穏健のエネルギー政策を掲げるのではないだろうか。かつて私もやっていたように、今頃霞ヶ関の官僚たちが総裁選の公約の下書きをしている姿が思い浮かべられる。

そして、総裁選後ほどなく行われる衆議院選挙も、総裁選の争点に引きずられて、エネルギー政策となっていくであろう。自民党に対する野党は、政権の金看板に対抗するには、同様に先鋭的な政策を掲げるしかない。仮に河野政権となった場合、再生可能エネルギーの導入では新政権以上の具体的な促進策を策定することは、現在の野党の政策立案能力では無理だろうから、焦点はやはり脱原発となってくる。電力総連を抱える連合と薄皮一枚の折り合いを付けながら、脱原発に向けた自民党政権では提示できない具体策を掲げることになるであろう。岸田政権になったとしても、9月29日の総裁選から1ヶ月で菅政権と違う政策を党として策定するのは困難であろうから、この構図は変わらない。

本エネルギーフォーラムの「選挙に振り回されるエネルギー政策は問題だらけ」と題するコラム(https://energy-forum.co.jp/online-content/6137/)では、「このまま選挙でエネルギー問題については盛り上がらずに、専門家や事業者が冷静に問題を議論する状況ができればよい」という声もあるが、残念ながらそうはならない。近年の日本の政治にはあまりなかった、エネルギー政策を争点とした選挙が行われることになるだろう。

  これまで私は、このコラムや拙著『エネルギー政策は国家なり』などで、何度も原発対再生可能エネルギーの観念的な二項対立の政策論の不毛さを論じてきたが、再生可能エネルギー対脱原発の構図も同様に、いやそれ以上に不毛だ。言うまでもなく、エネルギーは絶え間なく今も国民の生活や産業を支えているものであり、国の基盤となるものであるが、近年の我が国の需給の状況の変化や供給システムの変革、国際情勢などにより、近い将来ですら我が国のエネルギー供給は安定したものではない。そうした現実の課題に、どう対応していくのかということこそが、本来のエネルギー政策の政策目的であるべきだからだ。カーボン・ニュートラルのような格好のいいスローガンを叫びながら、現実にはちょっとした気候の変動で電力の需給がひっ迫するような状況では、政治は国民のためにはたらいているとは言えない。

もとより、これまでのさまざまな選挙結果やアンケート調査が示しているように、「原子力維持か脱原発か」のような観念的なエネルギー政策は、有権者の投票行動を変えたり、促したりする要素にはなっていない。つい先日行われた東海第二原発の再稼働が争点となった私の地元の茨城県知事選挙でも、ほとんど盛り上がりがない中で再稼働反対を掲げた候補は大敗した。原発の再稼働に反対する意見は多くても、実際の投票はその1点で判断するのではなく、総合的な政策の実現可能性やその政策を掲げる政党や政治家への信頼で行われている。有権者は、現実的で冷静なのだ。東日本大震災前には積極的に原子力政策を推進しながら、原子力災害への対応に手間取り、その後脱原発を掲げるような政治勢力は、なかなか信頼を得るのは難しい。同様に、コロナ禍への対応に手間取る政権が、いくら先鋭的な再生可能エネルギー導入を掲げても、国民が何かを期待することはないだろう。

そうであるからこそ、総選挙後に政権を担う覚悟がある政党は、現時点での日本の需給の現状、エネルギー資源をめぐる地政学的条件、技術上の優劣や進歩の度合い、産業構造などを踏まえた現実的なエネルギー政策を掲げる責務がある。党勢を回復するために、誰かに「抵抗勢力」というレッテルを貼って「改革ごっこ」をする小泉政権の二の舞となってはいけない。そうなりはしないかという危惧は、私も今強く感じる。現在の日本郵政グループの有り様にみられるように、「抵抗勢力」のレッテルを貼られた業界は、その産業にとっても、消費者にとっても悲惨な状況になっている。

「政治家はエネルギーにしばらく関わらないでほしい」という声も理解できないではないが、最終的に立法行為を通じて制度を作るのが政治である以上、またその時々の内閣の基本方針や閣僚の言動が政策の方向性を大きく規定する以上、エネルギー政策と政治の間に一線を引くことはできない。しかし、政治家が一番恐れるのは、選挙での反乱だ。これまで我が国のエネルギーの安定供給に地道に尽力し続けてきた関係者、エネルギー政策の混乱で大きな経済的な影響を受ける関係者などは、身近な政治家一人一人に、現実的で責任を持ったエネルギー政策を掲げることを呼びかけていくべきだ。その上で、政党ではなく政治家個人のそれぞれの政策や行動を見極めて投票行動をする運動を起こす必要がある。

エネルギー政策が争点となる政局とは、エネルギー関係者が本気で政治的行動を起こさなければならない時なのだ。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

【イニシャルニュース】 環境実証事業で疑惑浮上 水力関係で利益相反か


 環境実証事業で疑惑浮上 水力関係で利益相反か

環境省が所管する「環境技術実証(ETV)」事業を巡り、とある疑惑が浮上している。関係筋によると、水力分野で同事業を受託する団体Aの役職員X氏が水力関連機器商社の幹部を兼務するという利益相反の事案が、過去数年間にわたって続いていたというのだ。

具体的には、X氏はAの責任者として同事業を担当。一方で5年ほど前、水力関連機器の輸入販売会社を自ら設立し代表を務めていた。「実証機関の担当責任者が審査対象の機器を扱う企業の代表を兼務していたことで、審査や試験に手心を加えられる可能性が否定できない。ETV事業の社会的信用を損なう恐れがあった」(事情通Z氏)

昨年夏、水力機器メーカーからの指摘により事態が明るみに出たことで、A側もこれはまずいと感じたのか、X氏は秋に役職を退いたという。ただAのウェブサイト上は依然、役職者扱いになっていることが気になる。

「有力再エネ推進組織Iの関係者でもあるX氏は、水力業界でそれなりの力を持っている人物だけに、業界内では波紋が広がっている。再エネ関係で、国の補助金を巡る流用や利益相反の話は、枚挙にいとまがないほど聞こえている。どこかでしっかりと歯止めをかけないと、真面目に再エネ事業を運営している人たちほど馬鹿を見る事態になりかねない」(Z氏)

太陽光や風力に比べ、何かと地味な存在の水力だが、ベースロードで使える安定的な再エネ電源としてのポテンシャルはあなどれない。社会的信用を維持するためにも、国や自治体の行政側としては補助事業が適切に行われているかどうか、厳しい目を光らせることが必要だ。

水力分野で疑惑が浮上

反原発運動の内紛 ゴシップ誌が関与

『Kの爆弾』という月刊ゴシップ誌がある。発行部数は非公開だが、「かなり売れている」(マスコミ関係者)。ゴシップ誌では、最盛期の発行部数が『文藝春秋』に次いだ『Uの真相』があったが、名誉棄損などの訴訟費用捻出が困難になり休刊。その後、K誌は数少ない政治家、芸能人、著名人などのスキャンダル専門誌として、書店の片隅で独自の存在感を示している。

発行元のR社は、『NO NUKES voice』という反原発雑誌も出版している。再稼働時に原発を取り囲むような過激な反対派の中には、1970年代の学生運動を経験し、新左翼の活動に関わった人たちが少なくない。R社の社長、M・T氏もその一人。関西の名門、D大学在学中に学生運動で逮捕・起訴され、有罪判決を受けている。

福島第一原発事故の後、首相官邸前などで首都圏反原発連合(反原連)などによるデモが繰り広げられた。R社は反原連と連携し、「資金提供もした」(同)。しかし、デモを主導したM・R氏は後に日本共産党に接近。新左翼にとって同党は不倶戴天の敵であり、R社はいまや反原連を批判の対象としている。

一口に反原発市民運動といわれるが、その実態は新旧左翼活動家が多数を占め、左翼特有の近親憎悪に満ちている。「彼らが一致団結することはない」(同)という。