【覆面座談会】今冬の電力暴騰問題で激論 政治・行政の責務を問う


テーマ:電力不足と卸市場の異常事態

今冬の電力需給ひっ迫を受け、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格が年明け早々から連日のように100円超えの異常な高値局面に突入した。制度の欠陥と政治・行政の責務を巡り関係者が激論を交わした。

〈出席者〉  A官界人 B政界人 Cマスコミ人 D電力業界人

―卸市場価格が高騰した問題で、経営難に陥った新電力は公的な支援を求めて政治家に陳情する動きが活発化している。

A 事業者が陳情をすることに何ら問題はないが、これまで自由化市場下で利益を享受していたにもかかわらず、いざ高値になったら「自分たちを救済しろ」というのは虫のいい話。認識が甘かったと言わざるを得ない。本件について10社以上の大手電力・新電力の経営者らと話をした。市場依存度の低い新電力や市場に電力を卸している大手電力も、この騒動の影響で損をしている。JEPXの制度を見直すことに異論はないが、安易な新電力救済には反対だ。

C 新電力といえども、大手電力系や他業種の大資本が入っているところもある。事業形態はさまざまで真面目にやっている事業者も含め、この騒動で全て潰れてしまうのではというぐらい多くの新電力が影響を受けた。陳情内容にもろ手を挙げて賛成しないが、徹底した真相究明は必要だ。今回は市場への供給が落ち込んだため高騰が起きたが、新電力に話を聞くと需要予測を行う材料が公開されていないので、直前予測すらできないそうだ。これではフェアな競争にならないだろう。

D 今回の騒動が拡大した原因の一つは、経済産業省が手を下さなかった点にある。高値を放置したことで状況が悪くなってしまったのではないか。海外の電力卸市場は、基本的に電気不足が発生したときに必ず予備電源の市場が稼働して市場価格を抑える仕組みがある。制度設計の段階でこうした状況の対処法を誰も想定しておらず、玉切れ時の価格決定プロセスが完備されていないため起きた。新電力の経営責任と言い切れる話ではない。

B JEPXの価格高騰という短期的問題と、JEPXの市場設計という制度的問題を区別しなければならない。まずkW容量は足りているが、LNGが足らなかったため起きたkW時不足に対し、経産省が法的根拠をもってできることはほぼない。経産省の対応を疑問視する声もあるが、やむを得ない。

 またJEPXは売り手が圧倒的に強いマーケットだ。新電力などの買い手は同時同量の制約を守る義務が課せられているが、発電事業者にどれぐらいの余剰能力があるかを知るすべがない。そして発電事業者は寡占的だ。本来、市場はマーケットメカニズムによって需給を調整する役割があるにもかかわらず、情報の非対称性とプレーヤーの力関係のインバランスによってそれが働かないという欠陥が、今回の騒動で明らかになった。そうした観点から考えると、新電力が陳情すべき内容は救済ではなく、制度の見直しだ。

自民党、経産省の動向に業界の関心が集まっている

経産省不介入はなぜか 立ちふさがる「権限」の壁

D 東日本大震災の発生直後、JEPX価格が15円に跳ね上がると政府は市場に介入した事例もある。今回は200円を超えても放置した。市場を一時的に止める、ないしは適正価格を指導するなど、何らかの手を下すべきだったのではないか。

B 私は問題だとは思わない。それは今回の騒動が災害由来ではないからだ。日本には災害対策基本法で災害の定義がされている。洪水、地震、噴火などと異なり原子力災害は「政令で定める」として別カテゴリーで位置付けられているから大震災直後は災害対象となっただけで、事業者由来のアクシデントは一般的に災害とはなっていない。経産省もこの程度のことでは、市場調整メカニズムに委ねる基本姿勢を示したかったのだと思う。

―経産省は今回の事態について「数年に一度程度の寒波」と説明した。一方で有識者の一人は「災害級の事態」と話している。

D 人や建物に被害がなければ国は動かないのか。今回は全国で広範囲に電力がひっ迫するという、実質的には東日本大震災を超えるインパクトがあった。この状況を柔軟に判断し対処することも経産省には必要なはずだ。

B 原発事故の後処理も東京電力があれだけの責任を負っている。騒動の原因は電力会社がLNGのオペレーションを間違えたことと、制度設計に欠陥があった点に尽きる。国がすべきは、売り手・買い手が対等になれるような制度設計の見直しだ。

A 病気がはやらなければ対処法やワクチンが開発されないように、何か問題が起きなければ制度が是正されることはない。今回の事態はまさにそのきっかけになったので、ルール作りは変わっていくだろう。Bさん、Dさんの主張はよく分かるが、やはり現在の権限では経産省は介入しようがないと思う。

C 需給ひっ迫のピークを迎えた1月8日には電気事業連合会や大手電力各社が電気事業法第27条に基づく節電要請を経産省に求めた。しかし経産省は政治的な思惑を尊重してか、「それは絶対にダメだ」と突っぱねている。ウェブサイトなどでも需給ひっ迫関連の情報を一切出さなかった。事業者からは「極限の緊張状態にある」という切実な訴えが聞こえていたのに、おかしな話だ。

A その点は私もそう思う。コロナ禍による緊急事態宣言の発出などで国民の間に不満や不安が広まっている中で、全国的な電力不足が起きているというネガティブな話を表に出したくなかったのだろう。

―とはいえ、経産省はガス会社に対し大手電力会社にLNGを緊急融通してほしいとお願いしたり、石油元売り会社に対しても石油火力向けの燃料供給を要請したりしている。

C あくまで水面下の話だよね。一方で、梶山弘志経産相は連休明けの1月12日の記者会見で、記者から「なぜ節電要請をしないのか」と問われると、「切迫した状態にないので、効率的な電気の使用をお願いする」と答えた。この発言が事実上の政府から発出した節電メッセージになったが、既に需給ひっ迫はピークを過ぎていた。とにかく経産省はこの騒動で常にぼんやりしていた印象だ。

B 戦争などによる本当の緊急事態は、いずれ来ると思ったほうがよい。そのためには、新型インフルエンザ特別措置法のような、電力危機対応特別措置法のような緊急事態法制を定め、場合によっては発電命令を下す権限を経産省に持たせることなどが必要になる。そうした法制度を準備しなければならない時代になったことに気付かされた。

河野行革相率いるTFの暴走 風力アセス緩和に疑問の声


河野太郎・行政改革担当相が率いる「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」の議論が大きな波紋を呼んでいる。

昨年12月以来、会合では現行の「風力発電の環境影響評価法(環境アセス)」「農地法改正」「容量市場」の3点が再エネ導入を阻害していると断定。経済産業省、環境省、農林水産省に対し、導入拡大に資するよう各制度の早急な見直しを指示した。

うち環境アセスを巡っては、TFが主張する「出力1万kWから5万kWへの要件引き上げ」について、専門家の意見を募る会合を1月21日と2月8日に開催。再エネ事業者は「他発電より環境アセス適用件数が多い。英米、中韓などは5万kWが主流だ」といった点を根拠に規制緩和を訴えた。

これに対し、委員からは「規制を緩和した際、自治体が条例で定めるアセスを改正するまで空白期間ができる」「出力5万kW以下の事業でも計画の見直しなどを含む是正勧告がなされている」といった指摘が続出。「何度聞いても、要件緩和に値する合理的な説明だとは思えない」との厳しい意見も寄せられた。

TFの拙速な規制緩和案を、不安視する声は多そうだ。

風力でも太陽光の失敗が繰り返されるのか

【マーケット情報/3月5日】原油続伸、供給減少の見込みが強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。供給減少の予測が、買い意欲を一段と強めた。

サウジアラビアが、3月に続き4月も、日量100万バレルの自主的な追加減産を継続すると表明。また、ロシアおよびカザフスタンを除くOPEC+が、4月中の減産継続に同意を示し、供給逼迫感がさらに強まった。OPEC+の決定を背景に、米国の金融機関ゴールドマン・サックスとオランダABN Amroが、今年および来年の原油価格予測を上方修正したことも強材料となった。

加えて、中東では情勢が緊迫化。イエメンを拠点とする武装勢力フーシが、サウジアラビアの石油関連施設をミサイルで攻撃したと発表。また、イスラエルは、自国の船舶がオマーン湾で爆破されたとしてイランを非難し、中東産原油の供給不安が台頭した。

他方、米国では新型ウイルスのワクチン普及が進んでおり、経済回復にともなう石油需要増加への期待感が高まった。

ただ、最近の原油価格上昇を受け、中国の5月着カーゴに対する需要が後退。また、欧州では感染防止のためのロックダウンが続いており、原油価格の上昇をある程度抑制した。

【3月5日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=66.09ドル(前週比4.59ドル高)、ブレント先物(ICE)=69.36ドル(前週比3.23ドル高)、オマーン先物(DME)=66.41ドル(前週比ドル2.32高)、ドバイ現物(Argus)=66.39ドル(前週比2.25ドル高)

高まる洋上風力への期待 普及拡大に死角はないのか


【アクセンチュア】岩上昌夫/アクセンチュア マネジング・ディレクター ビジネス コンサルティング本部コンサルティンググループユーティリティー プラクティス日本統括

いわかみ・まさお 外資系コンサルティング会社、監査法人などを経て2016年入社。20年以上にわたり電気事業者、ガス事業者向けのコンサルティングに従事し、経営戦略からプロセス改革、システム導入などをリード。20年3月から現職。

前回は「CO2排出量の少ない電力への切り替えが脱炭素化を促進し、持続的な技術革新も必要」と提言した。2回目の今回は、電力セクターに関連する風力発電における技術革新についてレポートする。

2020年12月2日に経済産業省の資源・燃料分科会が開催され、50年カーボンニュートラルに向けた資源・燃料政策の方向性を議論した。電力セクターでは非化石電源の拡大、脱炭素化できない領域はCCUS(CO2回収・利用・貯留)をはじめカーボンリサイクルなどを最大限活用することが必要と報告した。

同会議は主に燃料の観点での議論だったため、CO2の捕集・貯留、水素、脱炭素燃料にやや焦点が当たったが、電力部門という観点では再生可能エネルギーの導入拡大に向けての技術的課題も多い。

脱炭素時代に必要な技術 再エネ拡大に向けた課題

再エネの中で、注目されているのが太陽光発電と風力発電だ。19年度の実績によると、日本の総発電量に占める太陽光と風力の割合は、おのおの7・6%、0・8%であり、太陽光の存在感が強い。太陽光発電は、12年7月にスタートしたFIT(固定価格買い取り制度)により導入が加速し、約7900万kWの太陽光発電が事業認定され、約5500万kWが稼働している(未稼働の太陽光発電は社会的な課題となっており、そのためにFIT法の改正や運転開始期限の設定などの措置が実施されている)。しかし、FIT制度がFIP(市場連動価格買い取り制度)に移行し市場に統合されることによって、投資インセンティブの確保が難しくなることが想定される。また、太陽光発電に適した土地も減ってきている。

これに対し、風力はグリーン成長戦略の柱の一つと位置付けられているほか、昨年12月15日に開催された第2回洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会において洋上風力産業ビジョン(第1次)が提出され、日本においても洋上風力の本格導入の機運が高まっている。

同ビジョンでは直近の検討課題として、案件安定化スキーム、電源系統インフラの整備、港湾インフラの整備が挙げられている。

設備利用率向上に 浮体式の普及が必須

アクセンチュアでは、それに加え中長期的な技術課題として、欧州で注目されている浮体式技術の確立、タービン大型化への取り組みが非常に重要だと考える。浮体式は、水深50〜300mの海域に対応しているため、設置海域の自由度が広がるとともに強風に対応しているため、設備稼働率の向上に貢献する。

また、設置時の海底への浸食が少なく、海洋環境への影響が低減される。

これに加え、欧米ではタービンサイズが大きくなり最大出力が向上しつつある。大型タービンは、風の弱い状態でも従来の小型ユニットと比較して効率よく発電できるため、同じサイト条件で2~7%の設備利用率の改善が可能となる。同時に、タービン当たりの出力が高いため、伝送損失の低減によるスケールメリットが得られる。またMW当たりの運転・保守コストの削減が可能だ。

2050年カーボンニュートラルに向けた資源・燃料政策の検討・方向性に関する資料

浮体式風車のタイプ

風車容量の変化

18年度の北海道における年間設備利用率は26・5%だった。風力発電の設備稼働率は地域依存性が高いが、ほかの地域においてもおおむね同じ程度と考えられる。これは、スペインの25・4%(14年IEAの調査結果)に比べても勝っており、日本の設備利用率は国際的に見ても優秀だといえる。しかし、日本はタービンの大型化に後れを取っている。また、日本周辺の浮体式ポテンシャルも十分に生かしきれていない。そのため、設備利用率を向上させる取り組みが今後は求められる。具体的にいうと、IoTやデジタル技術を活用したO&M(オペーレーション&メンテナンス)の効率化と高度化だ。スペインのイベルドローラ社は運用中に洋上風力発電所から収集されたデータの分析と管理を可能にするO&M情報管理プラットフォームを開発し、これらの施設の運用および保守コストを削減する戦略を立案するためのプロジェクトであるロミオプロジェクトを17年6月に開始している。日本においても同様の取り組みが今後求められると考えられる。

このほか、風力発電の普及には産業レベルの蓄電池(蓄電所)の開発も必要だ。

日本には、風力発電用のタービンメーカーがない。過去には存在したが、全て撤退してしまっている。前述のデジタル技術や蓄電技術を含め、どこまで国内産業育成ができるかが今後の鍵になる。太陽光発電の二の舞いとなってはいけない。

年内の再稼働は絶望か 不正入室の重い代償


東京電力の再生に欠かせない柏崎刈羽原発の再稼働。「年内にも、まず7号機の運転再開を」。関係者はこう願っていたが、絶望的になりつつある。

柏崎刈羽原発の年内再稼働は困難に

東京電力の社員が昨年9月、柏崎刈羽原発の中央制御室に、他人のⅠDを使い不正で入室していた。1月にこの不祥事が明らかになると、今まで再稼働に協力姿勢を示してきた地元政界関係者も態度を一変。東電新潟本社の橘田昌哉代表が県政与党、自民党の県連合会幹部に謝罪に行くと、幹部は橘田氏を激しく叱責。小野峯生幹事長は「年内の再稼働はなくなった」と伝えたという。

2月25日から始まった県議会で、野党議員はこの件を厳しく追及する方針。ある県議は「あぜんとした。セキュリティをないがしろにするのは、あり得ないこと」と怒りを隠さない。同時に花角英世知事に対しても、「県民の安全・安心にかかわること。なぜ国、東電に対して厳しい姿勢に出ないのか」と批判の矛先を向ける。

ほかにも、7号機の安全対策工事が未完成にもかかわらず、「完了した」と公表していたことが明らかになっている。「今はとても、再稼働など言い出せる状況になっていない」。野党県議はこう言い切った。

エネ庁支援策の効果は 新電力を襲う「3月危機」


昨年12月下旬からの急激な電力需給ひっ迫を受けて発生した、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰。最高値でkW時当たり251円を記録するなど、1月初旬から中旬にかけては連日100円超の高騰局面が続き、これが電力小売り事業者にとって大きな打撃となった。

需給ひっ迫の背景にはLNG不足があった

新電力の苦難はこれだけにとどまらない。高額が予想される1月分のインバランス料金の請求と支払いが3~4月に控えているのだ。このため、新電力の事業撤退や譲渡などの淘汰が進む「3月危機」がささやかれている。

資金繰りが悪化した新電力の経営を支援しようと、経済産業省はインバランス料金の支払いについて最大で5カ月の均等分割払いを可能とする特別措置を設けることを決めた。ただ、この措置には直近の2会計年度のいずれかで黒字計上していることなど事業の健全性を要件として求めており、ある新電力関係者は「中小事業者の多くが支援の対象外ではないか」と話し、効果は限定的だと見る。

一方で、3~4月にドラスティックな再編・淘汰劇が起きる可能性は下がったと見る向きも。新電力からの相談に応じているエネチェンジ法人ビジネス事業部の千島亨太事業部長は、「新電力の事業撤退や譲渡のムードは少しトーンダウンしている。むしろ、加入するバランシンググループを変更し、再起を模索する動きが出ている」と明かす。

背景には、支援措置で支払い交渉の猶予期間ができたこともさることながら、2月に入りJEPX価格が大幅下落し短期的には利益が出せるようになった事情もある。業界再編の本格化は、もう少し時間を要するかもしれない。

電力市場混乱の真犯人は誰か? 需給ひっ迫と価格高騰の真相


今冬の電力需給のひっ迫と卸市場価格の高騰を巡っては、各所で原因や対策について激論が交わされている。エネルギーフォーラムでは2月3日に緊急セミナーを開催。有識者4人が問題の根幹に迫った。

「電力暴騰問題を徹底討論」と題し、オンライン形式で開催された緊急セミナーには、日本エネルギー経済研究所電力グループマネージャーの小笠原潤一氏、エネルギーアナリストの大場紀章氏、社会保障経済研究所の石川和男氏、前衆議院議員の福島伸亨氏の4人が登壇し、激論を交わした。

まず話題に上がったテーマは、今回の需給ひっ迫を引き起こした原因は何かだ。これについては、昨年12月後半から今年1月にかけて、設備トラブルなどによる火力発電の停止が相次ぎ、そこに寒波による需要増が加わったことで需給がタイトになったことが、資源エネルギー庁などの公表データからも明らかになっている。

では、このような事態をあらかじめ予想することはできなかったのだろうか。小笠原氏は、昨年10月に電力広域的運営推進機関がまとめた「電力供給検証報告書」が、厳冬の場合、1月を中心に需給がひっ迫する可能性を指摘していたことを紹介。「報告書では、広域融通すれば予備率3%を確保できるとしており、実際に今回は融通指示により停電を回避できた」として、広域機関の見通し通りに推移したとの見方を示した。

厳冬を予想していれば、それに備えて燃料を確保することもできただろう。しかし、昨秋の時点で厳冬を予想しておらず、逆に大手電力会社は、昨夏ごろからだぶついていた在庫を絞り込んでさえいた。この需要の読み間違いが、結果として供給量(kW時)不足を招いてしまったわけだ。

需給ひっ迫が長期化 背景に過度なLNG依存

「今回の特徴は、需給ひっ迫や市場価格高騰が短期的に起きたのではなく長期間継続してしまったことだ」と語ったのは大場氏。「発電量の4割をLNGに依存している国は世界でも日本だけ。ほかの電源によるバックアップがない状態では、こういうことが数週間にわたって起きてしまう」と、図らずも日本の電力構造の弱さが露呈したと解説した。

福島氏は、①太陽光発電の導入量が劇的に増えたことで、供給力が厳しくなる季節が夏から冬に変わってしまったこと、②原子力発電が停止しLNG一本足打法であること、③電力システム改革後、供給責任を誰が負うのかが不透明であること―といった根本的な問題が潜んでいることへの危機感を強調。その上で、「放置すればさらに大きな問題が起こりかねない。一つひとつ課題を点検していくべきだ」と主張した。

司会役の石川氏は「3・11後、原発が停止し火力燃料の輸入に最大で4兆円もの国富が流出したにもかかわらず、(電気料金が)自動引き落としであることもあって国民はそれを実感していなかった。今回も結果的に停電などは起きなかったため、多くの国民は電力不足を実感しなかったのではないか」と、エネルギー問題に対する危機意識の低さゆえに議論が広がらないことに疑問を投げかけた。

この需給ひっ迫に伴い発生したもう一つの問題が、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格の暴騰だ。時間帯によっては1kW時当たり200円を超え、卸市場で調達する新電力の経営に大きな打撃を与えることになった。

小笠原氏は「需要側が高い買い札を入れマッチングしてしまうと、高い価格で約定することになる。供給側の限界費用を反映したわけではなく、価格高騰は人為的な供給曲線の設定にあった」と、その背景を説明した。

大場氏も「LNGの在庫量が減り、発電事業者が燃料節約のためにぎりぎりまで出力を落とした結果、市場に出す玉が減った。インバランス回避のために小売り事業者が高値で入札したことで暴騰した」と、小売り事業者の行動が価格高騰を招いたとした。ただ、聴講者からの「市場高騰の責任の一端は新電力にあるのではないか」との質問に対しては、「インバランスを絶対出さないよう求められる今のシステムでは、小売り事業者はどんなに高くても買うというマインドになる。それを新電力の責任というのは少しかわいそう」と否定的な見解を示した。

福島氏の見方は「小売り事業者と発電事業者の情報の非対称性や小売り事業者の寡占性による卸市場の不全にこそ、価格高騰の要因がある」というもの。「小売り事業者に供給力確保義務を負わせて、インバランスを出させないよう厳しく対応する一方、発電事業者側には責務がない。卸市場制度の設計を見直すことが必要」と話し、是正の必要性を訴えた。

討論はオンラインで開催した

システム改革の功罪 曖昧化した責任の所在

電力自由化が走り出し、安定供給は後回しにされてきた感は否めない。討論の終盤は、今回の経験を踏まえ電力システムはどうあるべきかに議論が及んだ。

福島氏が「仮に今回ブラックアウト(全域停電)が起きたとしても、エネ庁は法的には何もできなかっただろう。3・11のような想定外を繰り返してはいけない。オイルショック並みの危機や戦争などに備えるエネルギー危機管理法制が必要だ」と政府に注文を付けると、大場氏は「政府の公式見解は、長期的な供給力の担保は市場を通じて達成されるというもの。自由化によってエネ庁にも事業者にも、責任者不在のムードが醸成されてしまっているのではないか」と、現状への危機感を示した。

小笠原氏は「現状、安定供給維持の責任は広域機関が担っている。ただ、かつて広域機関が容量市場創設前に需給ひっ迫に陥るリスクがあるとの報告書を経産省に提出したが、所管する電力・ガス取引監視等委員会にはそれを受けて安定供給について議論をする部署がなかった。そういう構造的な問題もある」と組織の改善を求めた。

石川氏は「何らかの形で電源投資の回収を担保する仕組みが必要だ。それでこそ発電事業者は責任を持って供給しようとするだろうし、その責任を負うことが国家としてのエネルギー安全保障だ。次期エネルギー基本計画では、そうした政策を盛り込んでもらいたい」とまとめた。

規制委が地震動策定を見直し 対応迫られる川内・玄海原発


電力会社はそれぞれの原子力発電所で定めている基準地震動(Ss)の見直し作業を進める。原子力規制委員会が地震動策定での規制基準などを改定するためだ。新たに耐震工事が必要な原発が出る可能性がある。

玄海原発は新たな耐震工事が必要になりそうだ

原発の地震動は、震源を「特定して策定」するものと、震源を「特定せず策定」する二つの手法で計測する。揺れのより大きい方がSsとなる。後者は、調査しても原発敷地周辺で活断層は見つからないが、発生する可能性がある地震動の検出方法。見直すのは、特定せず策定する地震動だ。

地震動は、解放基盤面(表層や構造物がないものとして仮想的に設定する堅牢な地盤、S波速度=毎秒700m以上)を設定して計測する。規制委は2019年、特定せず策定する地震動の応答スペクトルを提示。また解放基盤面に代わり、より硬く深い位置に地震基盤相当面(S波速度=毎秒22

00m以上)を設定、ここで地震動を計測するよう求めた。解放基盤面よりも硬い基盤で測ることで、地震動はより大きくなる。

どの原発に影響が出るだろうか。ほとんどの原発が、震源を特定して策定する地震動が、特定せず策定を上回っている。その中で川内・玄海原発は、特定せず策定(620ガル)が、特定して策定(540ガル)を上回り、620ガルをSsとしている。見直しにより地震動は620ガルを超えるとみられ、対応が必要になる。

一方、対応の必要がなさそうな原発もある。西日本の若狭地域の硬岩サイトに立地する高浜・大飯・美浜原発は、解放基盤面と地震基盤相当面の硬さがほぼ同じ。そのため、現在のSsを維持することになりそうだ。

「炭素価格付け」が急展開か 交錯する経産・環境省の思惑


首相の指示という政治介入で、カーボンプライシングが再びエネルギー・環境政策の表舞台に引っ張り出された。経済を痛めないよう現実解を探る経産省に対し、炭素税導入が悲願の環境省は、意外にも攻めあぐねている。

長年膠着状態にあったカーボンプライシング(炭素価格付け、CP)の議論が、政治介入で新たな局面を迎えている。昨年末に菅義偉首相が、梶山弘志経済産業相と小泉進次郎環境相に連携してCPを検討するよう指示。年が明け、菅首相が通常国会の施政方針演説で「成長につながるカーボンプライシングに取り組む」と正式表明したのだ。環境省幹部は「環境省単独で審議会を開く状況が長く続いてきたが、ステージが変わった」と強調する。

さらに2月5日の衆院予算委員会で、菅首相が踏み込んだ発言をしたとの一部報道もあった。立憲民主党の岡田克也氏が、地球温暖化対策税(温対税)の税収見込みでは温暖化ガスの削減効果が乏しいと指摘したところ、首相は「数千億円ではなくどんどん増やしていかないといけない」と回答。だが、どうも前後の文脈からすると、首相が「増やさないと」と語ったのはカーボンニュートラル(実質ゼロ)対策全般についてのようだ。「まさにこれから経産省と環境省で議論を始めるというタイミングに、国会で先取りするような発言をするわけがない」(霞が関関係者)。首相の年末の指示以降、官邸からCPの具体的な話は降りてきていない模様だ。

今回、どんな着地点に降り立つのかは議論の行方を見守る必要があるが、経産省の狙いは、昨年末の段階から透けて見えていた。

成長戦略で透けて見えた方針 経産省は時間軸を意識し検討

実質ゼロの実現に向け、経産省を中心に作成された政府の「グリーン成長戦略」のCPに関する記述にそれが表れている。従来は炭素税と並ぶ論点とされてきた排出量取引を、「クレジット取引」の一種と整理した点がポイントだ。課題が多い排出量取引より、非化石証書やJクレジットなど、既存制度の強化や対象の拡充を強調した書きぶりにした。

新たな論点として、炭素価格が低い国からの輸入品に課税する「国境調整措置」も取り上げた。EUで制度設計が進んでいることに加え、米国バイデン政権も公約に掲げており、世界的な動きを意識してのことだ。一方、炭素税は「専門的・技術的な議論が必要」と従来の見解をなぞるだけにした。

経産省は「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」を新設。6月ごろ策定される成長戦略に反映させるため、それまでに中間整理を行う予定だ。2月17日の初会合では、グリーン成長戦略からさらに肉付けする形で、いくつかのポイントが示された。特に強調されたのは、時間軸を意識したポリシーミックスの視点だ。

「CPには炭素税や排出量取引以外にもさまざまな手段がある。企業の行動を変えるには代替手段に導く必要があるが、現時点で選択肢はそれほどなく、いま炭素税などを入れても逃げ場がなくなるだけだ」(経産省幹部)。エネルギー諸税や、証書・クレジット、FIT(固定価格買い取り制度)など既存施策のほか、民間の取り組みも組み合わせ、ダメージを与えず行動変化を促す仕掛けを模索する。

エネルギー諸税などの扱いも整理する必要がある

例えば既存施策の活用は、トランジション(低炭素化への移行)を促す短期的手法としてイメージする。一方、国境調整措置は中長期のイメージだ。導入の是非ではなく、EUなどの仕組みが固まらないうちに、公平な競争条件を確保できるような原則論を日本側から発信したい考え。産業技術環境局だけでなく、通商政策局などとも情報共有しながら進めていく。

こんな見方もできる。「国境調整措置の話では、炭素価格がいくらなのかという話に触れざるを得ない。日本の公式的な価格は温対税のCO2t当たり28

9円だが、相手国に額面だけで低いと見られたら、日本の不利になる」(エネルギー業界関係者)。日本のエネルギー諸税はCO2t当たり約4

000円という水準にあり、FITなどの負担も大きい。だからこそ、これまで炭素価格としての扱いがあいまいだった既存施策もきちんと整理することが重要になる。ただ、「日本の温対税率では不十分だから炭素税が必要、と主張してきた環境省幹部は、この議論を嫌がるだろうけどね」(同)。

方向性見えない環境省 落としどころに悩み

では、1日に「カーボンプライシングの活用に関する小委員会」を1年半ぶりに再開させた環境省は、どんな戦略なのか。検討事項として、①成長に資するCPはどのようなものか、②国境調整措置や排出量取引などに関する世界情勢を踏まえ、日本はどんな対応を取るべきか、③それらを踏まえ具体的にどんな制度設計が考えられるか―を提示。「成長に資するかどうか、さまざまな手法ごとに課題を整理していく。間口を広く、丁寧に議論を重ねていく」(環境省幹部)方針だ。ただ、具体的な論点は示されなかった。

CP導入のチャンス到来かと思いきや、同省は落としどころに悩んでいるように見える。

2019年夏にまとめられた同小委の中間整理は両論併記にとどまり、考えられる炭素価格の水準や、そのCO2削減効果、影響などについて、「今後の定量的な議論が重要」としていた。しかし、「前回よりは具体的に示したいが、税率の目安といった生々しい話は難しい。定量的な議論をするかどうかは要検討だ」(同)。

同省の本命は炭素税のはずだが、コロナ禍で経済が痛んでいる今、「成長に資する」という条件をどうクリアするかは難題。ここで無理な勝負をしかけても、条件に引っ掛かり中途半端な形になりかねないし、経済界も交えて丁寧に積み重ねてきたこれまでの議論をぶち壊すことは望んでいない。

同省は年内にとりまとめを示すとしているが、夏には22年度税制改正要望のリミットもある。また、小泉氏はCPを今年の最重要課題と位置付けており、選挙のタイミングなども議論の行方に影響しそうだ。CPには税制が絡むだけに、これまでも節目では政治介入があったが、今回はどんな展開が待ち受けるのか。

【マーケット情報/2月26日】原油上昇、需給逼迫の見方が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需給逼迫の観測が強まり、買いが優勢になった。

寒波による影響で停止していた米国テキサス州の製油所が、徐々に稼働を再開している。3月初旬には概ね復旧する見込みだ。また、新型コロナウイルスに対するワクチンの普及が進んでいることも、経済回復にともなう石油需要増加への期待感を高め、価格に上方圧力を加えた。

他方、OPECの1月減産順守率は103%を達成。12月の99%から上昇し、需給が引き締まるとの予測を強めた。米国のバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ、ゴールドマン・サックス、および英国のバークレイズなど金融機関が、今年の原油価格予測を相次いで上方修正したことも強材料となった。

一方、米国エネルギー情報局が発表する週間在庫統計は、製油所の低稼働と輸出遅延を背景に増加。また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが毎週発表する国内石油ガス採掘リグの稼働数は、悪天候にもかかわらず2020年5月以来の最高を示し、価格の上昇を幾分か抑制した。

【2月26日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=61.50ドル(前週比2.26ドル高)、ブレント先物(ICE)=66.13ドル(前週比3.22ドル高)、オマーン先物(DME)=64.09ドル(前週比3.40ドル高)、ドバイ現物(Argus)=64.14ドル(前週比3.25ドル高)

【省エネ】炭素税の導入 処方箋の一つに


【業界スクランブル/省エネ】

欧州環境機関(EEA)の報告では、欧州の2020年までの気候変動対策主要目標(トリプル20)のうち、「CO2排出量20%以上削減」と「再生可能エネルギー比率20%以上」は達成見込みだが、「エネルギー効率20%以上改善」は達成困難と報告している。エネルギー効率を向上させ、EU全体の最終エネルギー消費量ならびに一次エネルギー消費量を、「07年に想定した20年のエネルギー消費量比」で20%削減する目標だが、気温影響による変動を考慮しても達成が難しい。

これは、再エネ電源増加のための施策は比較的コントロールしやすいが、建築物・運輸・産業の各分野において、多くの個人・事業者の多様な取り組みが必要となる「エネルギー消費量の削減」はコントロールが困難ということでもある。欧州委員会の分析では、建築物部門が増加しており、次いで運輸部門が増加している。一方、産業部門のエネルギー消費量はほとんど増加しておらず、発電部門に至っては再エネシフトにより減少している。

省エネによるエネルギー使用量削減は重要な取り組みだが、地道で継続的な取り組みが必要で、かつ難しい。CO2排出ゼロは、オール電化建物とEVに、再エネ電力メニューの購入を組み合わせて実現可能だが、各家庭や事業者のエネルギー消費量を2割削減(基準値比較ではなく、実消費量を2割削減)するのはとても難しく、地道な省エネ行動の継続も難しい。この努力の継続には金銭支出削減の見える化が一番だが、当然、削減額が小さい省エネ対策は実施され難い。

実際、日本では海外よりエネルギー価格が高いため、省エネが進んでいる面もある。よって、「コロナ対策の政府支出増の穴埋め」と「脱炭素社会への社会変革費用捻出」を目的として、欧州水準を超える炭素税の追加導入(低所得者対策の積み増し、特定業種への控除検討、国境炭素税対応検討などの関連施策とのパッケージが前提)により、エネルギー価格を大幅に上昇させることが、省エネ推進・脱炭素社会実現に向けた処方箋の一つでもある。(T)

【住宅】暖房需要で電力危機 省エネ義務化が急務


【業界スクランブル/住宅】

年末年始にかけて、日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格がかつてないレベルで高騰した。その原因として、LNG火力の燃料制約や、寒波の影響が取り沙汰されているが、電力需要を電力会社の想定よりも押し上げた一つの理由は、リモートワークの普及や換気の徹底などの「コロナファクター」による、家庭での暖房用電力需要の増加があると考えられる。そして、それを助長してしまったのが、日本の住宅の断熱性能の著しいまでの低さだろう。

熱の多くは窓から出入りする。窓の断熱性能は「U値(W/㎡・K)」という指標で比較し、小さいほど熱の出入りが少なく高性能であることを意味する。例えば、日本の既存住宅の8割はU値6.5の「アルミサッシ+単板ガラス」が使われている。また、新築の約7割はU値4.65の「アルミサッシ+ペアガラス」が「高性能窓」として使われている。

実は、この4.65という水準は、経済産業省が定める「省エネ建材等級表示区分」における星1つの最低ランクである。同区分の最高ランクの星4つは、U値2.33の「樹脂とアルミの複合サッシ+ペアガラス」となっている。しかし、この日本の最高基準の窓でさえ、欧米では人が住む家に使われる窓として使用することが禁止されている。つまり、日本の戸建住宅のほとんど全ては、欧米では人間が住んでよい家とは見なされていないということになる。

これ以上の断熱性能の窓となると、U値1.31の「樹脂フレーム+複層ガラス」か、U値0.90の「樹脂フレーム+トリプルガラス」となる。欧米の多くの国では1.3未満の窓の使用が禁止されている。韓国や中国でさえ2.5程度が最低基準になっている。しかし、日本では最低基準自体が存在しない。

世界的な新型コロナウイルスの第3波の到来で、わが国においてもさらなる巣ごもりを余儀なくされ、暖房需要が高まらざるを得ない。今こそ、住宅の省エネ性能を電力需給にも関わる問題として捉え直す好機ではないだろうか。(Y)

【太陽光】市場拡大への課題 電気使用で情報不足


【業界スクランブル/太陽光】

30年前、太陽電池の担当部門には太陽電池を使った電卓や時計などが所狭しと並んでいた。将来は住宅用太陽光発電が大きな市場に成長するとの予想もあったが、小型電子機器の稼働しかできない太陽電池が住宅向け設備に利用できるか懐疑的だった。しかし、太陽光を発展させようとする企業努力の結果、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)導入の後押しもあり2019年には太陽光発電は日本の電源構成の6.7%を占めるまでに成長した。既に18年の第5次エネルギー基本計画における30年度想定の電源構成比7%に限りなく近づいており、30年までにはその想定を大きく超えていることが予想される。

20年から太陽光発電は新しいステージに入ってきた。FIT開始当初の太陽光発電業界は、FITにて買い取りされる太陽光発電の電気を作ることが事業目的となっていたが、ここにきてRE100やRE Actionに参加している企業、太陽光発電で作られた再エネ電気を使う企業、自治体が増加している。さらに菅義偉首相の50年カーボンニュートラル宣言以降、日本社会において再エネの大きな柱である太陽光発電の利用拡大を目指す動きが一層加速してきている。

一方、太陽光発電の電気を作ることから使うことへ変化する中、使うための課題も見えてきている。太陽光発電の導入を検討している企業が必要な情報の入手ルートが少ないため導入に時間がかかっている例が散見される。また、供給側も誰が太陽光発電の電気を使いたいのか潜在顧客情報の収集手段が少ないなど、お互いの必要情報をマッチングさせることができていないことが再エネ導入の大きな課題になっている。もう一つは制度上の問題だ。企業間で再エネ電気を直接売り買いすることができず、小売事業者を通す必要がある。また、離れた自社設備から太陽光発電の電気を託送するために余分な費用が掛かることが、自家消費を目的としたオフサイトでの太陽光導入の阻害要因になっている。太陽光発電市場拡大のため、これらの課題解決に道筋をつける努力が求められている。(T)

【再エネ】効果大の省エネ 脱炭素で熱利用


【業界スクランブル/再エネ】

再生可能エネルギー熱は創エネか、省エネか。そして、再エネ熱は供給側のエネルギーか、需要側のエネルギーか。これらの質問にどう答えればよいだろう。

再エネ熱は多くの場合、自家消費されるので電気やガスのように供給事業者がいない。需要側で利用されるエネルギーは、通常は料金の発生する電気・ガスの世界であり、再エネ熱は木質バイオマスのように料金が発生するものもあるが、それ以外は太陽熱や地中熱のように利用料金を必要としない環境資源である。

利用者の意識はどうか。家庭やオフィスで空調や給湯に再エネ熱を使うと電気やガスの使用量が減るので、省エネと思ってしまう。省エネ法は化石燃料を規制の対象にしているので、再エネ熱の利用は省エネになる。だが、省エネという言葉の中に再エネ熱が包み込まれると、自然界からエネルギーを採り出している創エネとしての再エネ熱が見えなくなってしまう。

再エネ熱は創エネ、つまり供給側のエネルギーとして把握できる場合もある。地域熱供給や地点熱供給の事業者により再エネ熱は需要家に供給されている。ここで供給される熱には、電気と同様に計量法にのっとった取引が成立しており、需給構造が分かりやすい。地域熱供給は現在、全国に134カ所あり、うち22カ所で太陽熱・地中熱(地下水を含む)、バイオマス熱、下水熱(中水を含む)、河川熱、海水熱、雪氷熱が供給されている。2018年の年間熱供給量は2394テラジュール(原油換算6.2万㎘)である。

供給側として見た再エネ熱は、熱量を把握できている点で存在感があるが、年間利用実績で見ると、太陽熱とバイオマスがそれぞれ36 万 ㎘、258 万㎘(15年)で、大局的には需要側のエネルギーと見た方がよさそうである。再エネ熱の使用により、利用者にとってはガス代や電気代が安くなる。さらに、極めて効果の大きい省エネ手段である側面に着目するなら、脱炭素を実現する政策では、民生・産業部門のエネルギー需給構造の中で再エネ熱をしっかりと捉えておく必要があるだろう。(S)

【メディア放談】電力需給の報道 電力危機は国民に伝わったか


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

今冬、電力需給は危機的な状況に陥ったが、マスコミは大きく報道せず国民の関心は薄かった。経産省と電力業界の対応も一枚岩でなく、今後に禍根を残しそうだ。

―年明けから電気の需給がひっ迫して、電力供給は綱渡り状態が続いた。しかし、マスコミはあまり注目しなかった。

電力 東日本も西日本も危機的な状況が続いた。国が節電要請を出してもおかしくなく、マスコミはもっと異常な状態であることを伝えるべきだった。もっとも、新型コロナの東京の感染者が1月7日から急激に増えて、マスコミにとってはコロナの報道が優先。大きく紙面を割いた。電力危機は後回しにされた。13日ごろから各紙が報じ始めたが、「もう少し早くから伝えてくれれば」と思っている。

ガス さすがに電気新聞は年明けからスポット市場の高騰を書き始めて、その後も継続的に需給の問題を追っていた。電力会社と近い関係にあるだけに、現場の人たちの切実な危機感を伝えていた。その後に日経が書き始めたが、ほかの一般紙は出遅れている。

石油 ただ、朝日、毎日、東京をはじめ、産経を除く各紙の電力需給の記事は歯切れが悪かった。今回は、LNG、石油などの燃料不足が大きな要因だ。原発は3基しか稼働していなかったが、多く動いていればこんな事態は起きなかった。燃料輸入が停止しても安定的に電力供給をする原発の役割について、原子力嫌いの大手紙は書こうとしない。しかも、再エネを盛り立てたいから、調整力として欠かせない火力発電の重要性にもあまり触れない。それで、結局何が言いたいのか分からない記事や論説ばかりとなった。

―電力業界関係者からは、国の節電要請を求める声も出ていた。

電力 経済産業省は需給ひっ迫を深刻に受け止めていなかった。梶山弘志経産相は会見で「電気を効率的に使ってほしい」と話したが節電には触れていない。それどころか、「暖房の利用などは普段通りに」と言っていた。記者も、大臣が「効率的に」と同じことしか言わないことが分かっているから、それ以上、踏み込んだ質問をしなかった。

マスコミ 経産大臣が効率的な使用しか言わないのは、官邸からクギを刺されているから。新型コロナ対策で7日に緊急事態宣言を出して、「とにかく家にいてください」と言っている。すると例年にない寒さだから、エアコン暖房の人たちは室温を上げる。それを「温度を下げてください」と言ったら、ただでさえ支持率が低下気味なのに、一気に政権批判が高まってしまう。

ガス 電気事業連合会は10日から節電の要請を始めたが、「節電」という言葉を使うか、経産省と電事連との間でかなり激しいやり取りがあったようだ。経産省の要請が「効率利用」で、電力業界が「節電」では国民は戸惑う。結果として需給ひっ迫は乗り切れそうだが、大停電を引き起こす可能性があった。今冬、経産省と電力業界が一枚岩になれなかったことは、今後に禍根を残したと思う。

ピンチに電力間で温度差 関電は頭を下げて燃料調達

―電力業界は停電阻止に懸命だったと思うが。

電力 いや、そうとは言えない。福島第一原発事故の前は、電力会社はとにかく安定供給が至上命題。予備率が5%を切ると「大変だ」と、社内は雰囲気が一変して、社員の顔色が変わった。ところがいまは、例えば東京電力の場合、どこか緊張感が足りない。経産省の支配下になって、供給義務もなく責任感が薄れて、「停電が起きてもエネ庁の責任。おれたちが悪いわけじゃない」という雰囲気を感じる。

マスコミ 会社によって温度差がある。例えば、発電と小売りが一体の関西電力は、停電阻止に会社が一丸となった。LNGを分けてもらうために、幹部が大阪ガスに頭を下げたと聞く。停電や台風などに使う高圧発電機車も出動させている。こんなことは、大阪北部地震でもなかったらしい。「できることは、全てやった」と社員が言っていた。ところが、持株会社の下に3社に分けた東電は、責任感、義務感もバラバラになった気がする。

激変するエネルギー業界 原発否定では解決せず

―需給ひっ迫で再エネは役に立たず、火力発電は石油火力まで動員して危機に対応した。それでも、原子力に否定的なマスコミの風潮は変わっていない。

石油 カーボンニュートラル宣言をしたこともあり、日本のエネルギー全体を取り巻く状況が大きく変わろうとしている。それをマスコミは直視しようとしていない。3月11日の福島第一原発事故10年に向けて、原子力に批判的な記事が出始めている。まだ避難している人たちが多くいることを考えると、仕方がない。だけど原発を否定するだけでは、日本が抱える課題は何も解決しない。

マスコミ 朝日が東日本大震災10年の連載で、原子力規制委員会誕生の経緯と現状を取り上げていた(1月17日)。福島事故の後、当時野党だった自民・公明党が規制機関を「3条委員会」にすることを求めたことなど、なかなか読み応えがある内容だった。ただ、再稼働が遅れている理由を、「(電力会社の)基準を満たす最低ラインを探るような姿勢」とするのは首をかしげた。遅れているのは主に、活断層の審査が進まないせい。個人の主観で判断がコロコロ変わるような内容の規制にしたため、一部の専門家などが「(活断層の)可能性は否定できない」と主張して止まっている。世の中に「可能性を否定」できるものはない。朝日には、そこまで突っ込んでほしかった。

―それを朝日に期待するのは無理だと思う。