ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】関口博之/経済ジャーナリスト

ロシアによるウクライナ侵攻が世界経済を暗雲で覆った。核大国であるロシアの軍事力行使は、国際秩序を揺るがすだけでなく、平時には当たり前のエネルギーの安定供給がいかに死活的に重要かを、改めて思い知らせた。

プーチン大統領の戦争に、西側諸国はかつてない経済制裁で対抗した。全面的な軍事衝突の事態を避けるには、西側には経済制裁しか現実的な手立てはない。国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの大手銀行を排除したことは、ロシアを貿易体制から締め出す強力な手段だ。制裁は(露中銀保有の外貨準備凍結も含め)間違いなくロシア経済に打撃を与え、確実に効いていく。ただ、それは日本を含め西側諸国の経済にも跳ね返る。その「覚悟」は必要だ。

その際、いわば「人質」にされるのがロシアからのエネルギー供給だ。欧州は天然ガスの4割強、原油の3割弱をロシアに依存する。EUはSWIFTからの遮断でもロシア最大手のズベルバンクやガスプロムバンクは外した。エネルギー調達に決済の道を残すためだ。ガスや原油の途絶というリスクを自国民に背負わせるわけにはいかない。「覚悟」の一方でエネルギー安全保障上の「細心」の判断が求められる。EUはそのことを体現した。ただしそれも、ロシアが自ら供給を絞り、経済制裁への報復に出れば元も子もないが。

キエフ近郊から逃げる避難民
提供:ANA/時事通信フォト

日本にとっての「覚悟」と「細心」は何になるだろうか。WTI原油先物が3月7日、1バレル130ドルと13年8カ月ぶりの高値を付けるなど、エネルギー高騰が日本経済への一段の重石になるのは間違いない。政府はガソリン価格などの抑制に石油元売りへの補助金を拡充し、国民生活への打撃を抑える考えだ。ただ、この資源高は、ある意味、対ロ包囲網の国際連帯のコストを分かち合うものともいえる。

むしろ今、「細心」になるべきは、極東での石油ガス開発プロジェクトだろう。「サハリン2」からシェルが撤退を決め、「サハリン1」はエクソンモービルが撤退表明した。いずれもロシア国策企業と欧米メジャー、日本企業が権益を持つ。サハリン2は三井物産・三菱商事が参画し、LNG生産量の6割は日本の電力・ガス会社向けだ。サハリン1には国も間接出資する。長い経緯のある資源開発事業に欧米メジャーがいち早く撤退を表明したことは日本勢には衝撃だ。国際世論の風圧もあるが、ここは日本勢としては軽々に手を引くとは言えない。慎重な判断がいる。ロシアからのLNG調達は輸入量の8%余を占めているのだ。

このコラム、初回から歴史的局面に遭遇することになった。NHK解説委員時代も世界経済の外的ショックは多く経験してきた。リーマンショック、トランプショック、ブレグジットしかり。ただ達観してみると、どこかで世界経済に働く「復元力」「治癒力」も実感する。ウクライナ危機にもこれが効くだろうか。少し引いた目で見届けたい、と思った矢先に欧州最大級の原発をロシア軍が制圧。暗雲が晴れる兆しはない。

せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

原発攻撃への不安広がる 国は自衛隊活用など検討へ


ウクライナにある複数の原発をロシア軍が武力攻撃したことを巡り、わが国でも原発攻撃への不安が広まっている。

国内最多の原発が立地する福井県の杉本達治知事は3月8日、岸信夫防衛相や山口壮環境相兼原子力防災担当相を訪れ、原発の防御や安全対策、攻撃時の避難経路確立などを求める要請書を提出。「地域住民は大きな不安を抱いている」と訴えた。

すると翌9日、原子力規制委員会の更田豊志委員長が国会の場で、原発が攻撃を受けた場合「放射性物質をまき散らす懸念がある」と発言。山口環境相も11日の会見で原発攻撃による被害想定について「チェルノブイリの時よりもすさまじく、町が消えてしまうぐらいの話」との見解を示した。

一部報道によれば、政府は軍事攻撃を想定し、自衛隊を活用した原発防衛策を検討する構えだ。外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」などに反映させるという。原発を巡っては、エネルギー危機対策の一環として早期再稼働を求める政治的な動きが活発化しており、大前提となる安全安心の確保が急務となっている。

原子力再構築を国会で訴求 萩生田経産相の心動かしたか


【永田町便り 第一回】福島伸享/衆議院議員

今年の通常国会では「提案型野党」を標榜する野党第一党の物分かりが良すぎる国会対応のせいか、戦後2番目に早いタイミングで衆議院を予算案が通過した。国会の花形委員会とされる予算委員会の議論も盛り上がることはなかった。そんな中、私は萩生田経済産業大臣と以下のような原子力政策に関する議論を行った。

第六次エネルギー基本計画では、原子力の比率を2019年度の6%から20年度には22%にすると言っている。しかし私の地元の東海第二や柏崎刈羽など個々の状況を見れば、それが絵に描いた餅なのは明らかだ。私は「国が本気でやろうとしているのか。やるつもりがないんだったらやらなくてもいいんですよ、原発なんて。やるというんだったらちゃんとやるべきではないですか」と訴えた。

私は、拙著『エネルギー政策は国家なり』で、安倍政権時代、原子力をエネルギー政策の中核に据えながら、政権は安定しているにもかかわらず、肝心の原子力政策の無為無策を約10年間続けるうちに原子力産業は衰退し、なし崩しに「脱原発」が進んでいることを指摘した。

これらを萩生田大臣に紹介しながら、「この国自身が原子力政策全体の体系、今の現実を踏まえた上で、どういう産業として、将来どういう姿を描くのか……3.11の後、それがなくなってしまっている。それを示していないからこそ、どうせ国も本気でやらないだろう、絵に描いた餅だろう、そう思って受け入れられていないのが現実の姿だと思う」として、国が本気で原子力政策の再構築に取り組むべきことを渾身の思いを込めて訴えた。

再稼働かゼロの二項対立 本質的議論から逃げてきた

この訴えに、大臣も政治家としてちょっと心が動いたのか、官僚が書いた答弁を読み上げた後に、「これから先どうするのかと、熱い思いで話をされた。私も感ずるところはあります」として、「国際情勢を見ても、やはり国民の暮らしに電気は絶対必要です。それを守っていくために、コストと責任をどう見合っていくかということが政治家に課せられた使命だ」と、自分の役割として取り組む決意を語ってくれた。

この議論が、停滞する原子力政策をどれくらい動かす力になったかは分からない。原発問題では、再稼働かゼロかの政治の二項対立の中で、政治家たちが本質的な議論や判断から逃げ続けてきたことが、今の状況を生んでしまっている。萩生田大臣には、私との議論を通じて政治家として何かを感じていただき、自らの役割を自覚し行動することを強く期待したい。文部科学大臣時代の働きぶりなどから、それができる政治家であると思っている。

本質的なエネルギー政策を国会で展開し、この欄で紹介していく予定なので、ご期待をいただきたい。

ふくしま・のぶゆき
1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

システム改革の集大成 大手ガス導管3社が発足


東京・大阪・東邦の大手都市ガス3社の導管部門の法的分離が4月1日に実施される。2020年の大手電力会社の送配電部門の法的分離に遅れること2年、電力システム改革に追従する形で進められてきたガスシステム改革が総仕上げを迎えた。

国内の都市ガス導管の総延長は約26.6万㎞(21年3月末時点)。このうち、60%近い約15.8万㎞を大手3社が保有している。法的分離の狙いは、大規模な導管ネットワークを保有する3社によるガス製造・小売り事業との兼業を禁じることで、導管運用の中立化の強化を図り、小売り事業者間の競争を促進することにある。

「単に導管部門を別会社化するだけでは意味がない」と語るのは、大手都市ガス会社の幹部。新設された導管3社は、導管によるガス供給の安定性と効率性の向上というこれまでの役割に加え、新たな需要開拓や脱炭素化に向けたメタネーション技術の確立、スマートメーターを活用したサービスなど、新規の事業分野に主体的に取り組んでいくことになる。

本格的な脱炭素化時代を見据え、3社が都市ガス業界発展のけん引役となることこそが、導管分離の真の意義だといえそうだ。

排出量取引か炭素税か 手法を明確化し議論深掘りを


【業界紙の目】濱田一智/化学工業日報 編集局行政グループ記者

「カーボンプライシング(CP)の賛否は?」との問いは、大ざっぱすぎて正確性を欠く。

政府内でCPの検討が進むが、どの手法に関する議論なのかを明確にしないと話がかみ合わない。

カーボンプライシング(CP)に関する議論がかまびすしい。CPを巡っては、やれ経済産業省が反対で環境省が賛成だとか、やれ経団連が前向きな姿勢を示し始めたとか、いささか雑に語られる傾向がある。だがCPは読んで字のごとく炭素価格付け政策の総称にすぎず、排出量取引や炭素税といった性格の異なるものが混在している。これらを区別しないと議論の解像度が低くなる。

さらに話をややこしくしているのが政府、とりわけ経産省が多用する「成長に資するCP」との表現だ。だがCPの中でも炭素税は明らかに税金であり、税金が「成長に資する」と言われても直感的には理解しにくい。どういうことだろうか。

CPの三つの手法 どれが「成長に資する」のか

始まりは1年半前にさかのぼる。翌年に控えたCOP26の開催も見据え、菅義偉前首相が2020年10月の所信表明演説で「50年カーボンニュートラル宣言」を行い、同年末、温暖化対策を経済成長につなげる「グリーン成長戦略」を政府が発表した。そこでは「CPなどの市場メカニズムを用いる経済的手法は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長に資するものについてちゅうちょなく取り組む」とした。

そして21年2月に経産省が立ち上げた「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等の在り方に関する研究会」が、端的に「成長に資するCP」と表現した。これ以降は「成長に資する」との枕詞を冠するのが通例になった。

さて、CPは冒頭に述べた通り、炭素価格付け政策全般を意味する。しばしば引き合いに出されるのが排出量取引、クレジット取引、炭素税だ。(他に企業が自主的に価格付けして投資家へのアピール材料に使うインターナルCPなどもあるが、とりあえず除外する)

排出量取引とクレジット取引の発想は近い。いずれも排出削減に金銭価値を付与して市場で取引させるというものだ。

排出量取引は、政府が企業ごとに炭素排出量の上限(キャップ)を決め、上限を超過してしまう企業と超過せず余裕がある企業との間で売買する「キャップ&トレード」に象徴される。

クレジット取引は、企業が削減策を講じない場合の排出量見通し(ベースライン)と、講じた場合の排出量の差を、クレジットと見なして売買する「ベースライン&クレジット」が典型だ。各国でクレジット取引の専門市場を設立する動きがあり、経産省もその流れに乗って「カーボン・クレジット市場」の創設を日本で進めている。

これらと比較すると炭素税は単純明快。炭素排出量に応じて税金を課すだけだ。日本では、石油石炭税の「上乗せ部分」に当たる温暖化対策税が炭素税としての性質を持つ。だが「本体部分」は排出量と比例しておらず、ここを改変して一層本格的な炭素税を導入すべしとの意見は強い。

炭素税で経済成長は強弁? 以前の議論と整合性取れるか

この三つをCPと総称するにしても、「成長に資する」という観点で見ると様相は異なる。排出量取引やクレジット取引は、なるほど成長に資する余地があるかもしれない。実際、経産省もカーボン・クレジット市場の狙いとして「世界のESG(環境・社会・統治)投資を誘導し、脱炭素時代の情報ハブを日本に引き込む」と気宇壮大な理念を掲げている。

翻って炭素税はどうか。実はCPについては経産省の研究会が発足する以前から、つまり「成長に資する」の枕詞が付く以前から、環境省の有識者会議が数年にわたり議論を重ねてきた。炭素税も当然議題に上ったが、あくまでも「外部不経済を内部化する」といったとらえ方で、経済成長に寄与するといったトーンは控えめだったはずだ。

従って「成長に資するCP」というときのCPが何を意味するかに注意を向ける必要がある。これが炭素税を指すとの解釈は、環境省の数年来の議論と、果たして整合性が取れるだろうか。

炭素税を肯定する論拠として、導入しないと気候変動対策に後ろ向きなメッセージになるとのレピュテーションリスクを挙げる論者もいるが、だからといって導入が「成長に資する」というのは強弁ではないだろうか。

反論はあり得る。「成長に資する」とは日本全体にとっての話であって、炭素税を課される企業にとっての話ではない、と。

確かに、いわゆる「二重の配当」論によれば、炭素税には環境改善効果(第一の配当)と、経済全体の活性化効果(第二の配当)が期待できるという。だが、大の虫を生かして小の虫を殺すには、それ相応の説得力が要る。「外部不経済の内部化」という理屈で押し通せるものだろうか。

環境省はCP議論を長年続けるが……

ここで改めて「成長に資するCP」の来歴を確かめておきたい。

まず20年末に政府のグリーン成長戦略がCPを「市場メカニズムを用いる経済的手法」と位置付け、「(CPで)成長戦略に資するものについてちゅうちょなく取り組む」と述べた。次いで21年2月に経産省が「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等の在り方に関する研究会」を立ち上げ、枕詞をつけて「成長に資するCP」と呼び始めた。通底するのが「経済的手法」という言葉だ。

そもそも温暖化対策には規制的手法(法律など)や情報的手法(省エネラベルなど)もある。これらと違って経済的インセンティブに働きかけるのが経済的手法で、その代表格がCPということになる。それを前提に、CPならよろず良しではなく「成長に資するCP」に限定した。

こうした沿革を踏まえれば、CPというぼんやりしたキャッチフレーズをあげつらうことが不毛だと分かる。排出量取引の話なのか炭素税の話なのか、それは成長に資するのか――。主張がかみ合わない空中戦を避けるためにも、論点をクリアにしなければならない。

〈化学工業日報〉〇1937年創刊〇読者数:10万人〇読者構成:化学・総合・専門商社、電子材料、医療・バイオ、プラントエンジ、海外など

天然ガス価格と真逆の動き EU排出権価格が一時急落


ロシア軍のウクライナ侵攻以降、国際エネルギー市場は大荒れだ。そうした中、EU―ETS(欧州排出権)価格も乱高下しているが、興味深いことに、欧州の天然ガスの価格指標であるTTFと真逆の動きを見せている。

欧州排出権価格は昨年来上昇を続け、ロシアの軍事侵攻前は1t当たり約95ユーロと最高値に近い水準だった。しかし戦争開始直後に価格は急降下、3月7日には60ユーロを切る水準にまで下がった。その後TTF価格が落ち着きを見せると排出権価格は上昇に転じ、22日時点では80ユーロ程度まで戻している。

当初、軍事侵攻に伴い欧州のガス不足や価格高騰が予想される局面では、石炭の利用が拡大し、それを相殺するため排出権価格は上昇すると見られていた。しかし実際には一時急落した。理由としては、欧州のエネルギー価格急騰を防ぐために欧州委員会が排出枠の供給をコントロールした、または欧州の脱炭素化が進まなくなるとの認識が市場で広まった、などの見方がある。今後再びガス価格が上昇に転じた際、排出権価格がどう動くのか、要注目だ。

【コラム/4月8日】ポストFIT時代における太陽光発電ビジネスの展望


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長

先月、3月16日から18日まで東京ビッグサイトにてPV EXPOが開催された。コロナ禍でまん延防止等重点措置の実施期間中であるにもかかわらず、感染予防対策(受付の自動登録等)が施され、多くの方が来場した印象である。
 PV EXPOの2日目の3月17日のお昼の時間から弊社代表を務める眞邉勝仁がREASP(リアスプ:一般社団法人再生可能エネルギー長期安定電源推進協会)の代表理事として「ポストFIT時代における太陽光発電ビジネスの展望」と題して基調講演を行った。事前のWEB予約では満員御礼状態で、主催者側が直前に受付枠を増やしたようであったことからも(私も恥ずかしながら予約できずに直前に再度WEBアクセスしたら空席ありになって予約した)、表題に対する業界関係者の関心が高いテーマであったのではないだろうか。今回はこの講演でREASP代表理事として眞邉がお伝えしたかったことを聴講した者として改めて記したいと思う。

 講演の中でポイントとして伝えたかったことは次の2つである。①Non-FITのマーケットは確実に拡大する、②ただ徐々に、そして指数関数的に拡大する、ということである。

では、2021年はNon-Fitは進んでいたのだろうか?恐らく、総論としてはいずれそちらの方向に向かっていくのだろう、つまり「①Non-FITのマーケットは確実に拡大する」と思っていても、周囲を見渡すとなかなか実現していない、「②徐々に、そして指数関数的に拡大する」の「徐々に」の部分に対しても余り実感がないなあというのが一般的な見方ではないだろうか?

ではその要因は具体的に何なのか?ということで5つの要因を挙げていた。

  1点目はコロナ禍においてパネルや架台等の部材コストが上昇したことだ。FIT単価が年々下がっていく中で部材コストが逆に上昇するということは、事業採算性が悪化することを意味する。また講演した先月には顕著になっていなかったが、最近の急激な円安傾向はたとえドルベースでのコストが落ち着いたとしても円ベースでは悪化することを意味する。2点目はNon-Fitはスタートしたばかりの新しい仕組みであり、開発リスクをどうとるかということを試行錯誤している段階であるということ。3点目は系統・許認可等の事業者サイドがコントロールできない問題があること。4点目は金融機関がデッドサイドとしてNon-Fitの案件に取り組むようになるには事業者サイドに比べてタイムラグがあるということ。5点目は需要家の迷いがあるということである。

 ただし、その現状を悲観するのではなく、徐々に、そして指数関数的に拡大することを念頭におくべきであるとのことであった。なぜなら、第6次エネルギー基本計画では2030年度の再エネ比率は36~38%であり、その主力は太陽光(14~16%)と風力(5%)である。2019年度の太陽光発電導入量実績は55.6GWであるが、2030年度の太陽光発電導入目標(野心的水準)は117.6GWと約2倍、61.8GWの成長余地があることになる。仮に1MW=1億円の市場とするならば、6兆円のマーケットが今後約10年間で創出されることになるのである。その中で事業者として努力すべきことは、コストの削減、土地の確保、事業モデルの工夫であり、事業者では難しいことは、系統、許認可、土地利用の拡大ということであった。

 繰り返しになるが、Non-Fitの時代はまだ実感はないかもしれないが、どこかのタイミングでブレイクスルーが起こり、そこから指数関数的に拡大する6兆円市場なのである。その遠い先には、2050年のカーボンニュートラルの実現があるのだが、それはゴールではなく通過点である。その実現に向けて「信じること、諦めないこと」というのが何より大切なのである。

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

敦賀総合研修センターが開設10周年 原子力安全と人材育成の充実を図る


【日本原子力発電】

地元をはじめ国内の技術者や学生、海外からの研修生などが利用する敦賀総合研修センター。

原子力発電専業会社ならではの机上と実地を組み合わせた体系的で多彩な研修コースを設置している。

国の第六次エネルギー基本計画では、2030年におけるエネルギー需給見通しの原子力割合は20~22%と示されている。一方、現在、新規制基準に適合し、再稼働した原子炉は10基、19年度の電源構成では6%にとどまる。プラント運転経験のない者にどう技術を習得させるかが喫緊の課題だ。そうした中、今年の10月で10周年を迎えるという福井県敦賀市にある日本原子力発電(日本原電)敦賀総合研修センターを訪れた。

日本原電は、1968年に茨城県の東海村で研修業務を開始して以降、50年以上にわたる原子力安全と人材育成の経験および実績を持っている。

12年10月に開設された敦賀総合研修センターは、原子力安全の観点から人材育成のさらなる充実を図るため、社員研修はもとより、地元をはじめとする国内の技術者や学生、また海外からの研修生などを対象とした体系的な研修を実施する施設となっている。

同センター教務グループの和佐尚浩グループマネージャーより研修センターの特徴と取り組みについて説明を受けた本誌が、順を追って紹介する。

運転現場を模擬した設備 リアルな訓練に取り組む

まず、同センターの主要施設は、運転訓練設備、保修訓練設備、安全体感設備に大別される。

「運転訓練設備」では、敦賀発電所2号機運転員専用の中央制御室操作訓練施設「フルスコープシミュレータ」がある。ここでは、東日本大震災で経験した全交流電源喪失の他あらゆる事故時の訓練が繰り返し行われている。特徴的なのは、フルスコープシミュレータと別に現場盤室があり、中央制御室外の発電所現場にある操作盤や現場弁の操作がシミュレーションできる。中央制御室運転員と現場運転員が連携して訓練するもので、実際に現場操作盤や操作弁が現場のどこにあるかを理解していないと操作できない。さらに、現場機器が起動した際の様子を記録した動画で機器の運転音を確認するなど、原子力発電の運転経験の少ない運転員には有効な訓練である。

敦賀発電所2号機(PWR=加圧水型原子炉)と東海第二発電所(BWR=沸騰水型原子炉)の異なる原子炉を有する日本原電には、双方の解析データを使用し、原子力プラントの挙動を模擬することが可能な「教育シミュレータ」がある。これは、原子力発電の系統が俯瞰的に「見える化」された、日本原電のオリジナルだ。

全交流電源喪失を想定したフルスコープシミュレータ訓練

「保修訓練設備」では、机上では学べない現物による機器の構造や原理について実習を通して学ぶ。ポンプ、弁、水タンク、熱交換器、支持構造物、計測機器などにより構成されるループ設備は、発電所実機と同様の設備・機器で構成され、実動するポンプやモーター、バルブなどによりダイナミックな流体の流れを再現できる。保修員は、ループ設備を有効活用して機器の分解点検や機器の運転状態監視測定のスキルや勘所を学ぶ。

ループ設備は、保修員に限らず、運転員の現場での異常早期発見能力を向上させる訓練にも利用されている。ループ設備を現場に見立て、あらかじめ設備に仕掛けたトラップを運転員巡視で探させ、また、異常発見時の対処方法についても考えさせるという運転経験者の提案による自主訓練である。水と蒸気(熱)の挙動(水の流動・沸騰・相流・伝熱など)、ポンプ性能、キャビテーションを理解するための実習装置は、現象が視認できるため理解しやすく、若手社員や学生の基礎実習に有効である。

電気・計測制御設備を学ぶために、高圧・低圧開閉装置、電動機、電動弁、無停電電源装置、訓練用シーケンサー装置、炉外核計装盤、放射線監視盤などが備えられており、基礎的な知識の習得、実務訓練からトラブル対応の訓練が行われる。

原子力発電の専業会社である日本原電は、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を教訓に、社員およびグループ会社社員が避難された方々の放射線測定をできるように、放射線管理の実習としてスクリーニング研修にも力を入れている。この研修は、日本原電が「社員の多能工化」を図るために企画し、社員の専門外技量付与となっている。

ループ設備で異常早期発見訓練を行う運転員

「安全体感設備」では、高所・玉掛け・火気作業や電気工事などに潜む危険性を、安全に身をもって体感できる。ここでは、安全帯荷重体感(ぶら下がり)や、衝撃を体で覚える墜落荷重体感、アーク溶断による火花体感など、作業安全に必要な動作や安全のための感度を磨く体験ができるようになっている。これらの研修では、過去に経験したトラブル事例や、ヒヤリハット事例の振り返りも行われ、安全第一の発電所運営に大きく寄与している。

更田路線と決別できるか 問われる山中委員長の手腕


政府は原子力規制委員会の更田豊志委員長の後任として、現在委員を務めている山中伸介氏を充てる人事案を衆参両院の議院運営委員会に示した。後任については、元規制庁幹部などの名前が取り沙汰されていたが、核燃料の安全性研究の専門家として大阪大学で長く教鞭を取った山中氏が就任することになった。 

山中委員長で規制委はどう変わるか

原子力業界からは諦観と期待、両方の声が聞こえる。豊富な知見と人柄の良さから、阪大の教室を訪れる電力関係者は少なくなかった。しかし規制委の委員に就くと、「特重(特定重大事故等対処施設)の経過措置延長に反対するなど、電力会社に強硬姿勢だった更田氏に忖度し、学者として主体性がみられなかった」(ジャーナリスト)。

一方、期待する声も多い。審査・規制での予見可能性の欠如など、田中俊一前委員長、更田委員長の下では、電力会社と連携して安全性向上と再稼働を目指すという姿勢がみられなかった。「田中氏、更田氏の路線と決別して、NRC(米原子力規制委員会)のように事業者とのコミュニケーションを重視する組織にしてほしい」(業界関係者)。燃料価格高騰などさまざまな点から原発の重要性、必要性が増している。新委員長、どう規制行政を導くだろうか。

その場しのぎでとどまらせずに 石油政策の抜本的見直しを


【論説室の窓】吉田博紀/朝日新聞論説委員

脱炭素を目指す過程で、石油と今後どう付き合うべきか。ただでさえ、一筋縄ではいかない問題だ。

そこに新たな地政学リスクまで加わった今、石油政策を一から作り直す必要があるのではないか。

統計の発表を1日余り前倒ししてでも、周知を優先させた異例な対応ぶりに、政策のイレギュラーさが表れていた。

日本エネルギー経済研究所石油情報センターが発表する石油製品価格調査は、月曜日時点の全国と各都道府県の平均を、2日後の水曜日午後2時に発表するのが原則だ。しかし、1月24日の結果は、全国平均だけとはいえ翌25日午前、資源エネルギー庁から明らかにされた。

「初回は適用前にご理解いただけるような時間があった方がいいと考え、大臣と相談して集計を前倒しした」(担当者)

この日発表されたレギュラーガソリンの価格はℓ当たり170・2円。「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業」が、2日後の木曜日から発動されるという宣言だった。

事の起こりは前年11月16日。3日後の取りまとめに向けて、政権初となる緊急経済対策を検討する最中、萩生田経済産業大臣が岸田首相を官邸に訪れた。10兆円の大学ファンド創設や半導体の国内生産を支援する基金などと並ぶ対策の柱として、ガソリンなどに対する補助金が打ち出された。

ガソリン価格は直近まで10週連続で値上がりし、7年ぶりの高値水準になっていた。家計や企業収益の悪化を心配し、凍結されているトリガー条項を解除して店頭価格を引き下げるべきとの議論も起きた。そこで急きょ考えられたのが、新しい補助金だった。

ガソリンの全国平均価格が170円に達したら、石油元売りなどに対し、対象4油種で1ℓ当たり5円を上限に補助。その分卸値を下げてもらい、ガソリンなどの店頭価格の上昇を抑える。こう概要を書くと単純に見えるが、方針が報じられた後にはさまざまな課題が指摘された。

元売り各社が補助金分を全て卸値に反映させるのをどう担保するのか。卸値が下がっても、店頭価格は小売業者が自由に決めるため、消費者に恩恵が十分届かないかもしれない。電気・ガスや食品、日用品など幅広く値上がりしているのに、なぜ燃料油だけ税金で価格を抑えようとするのか―。実務面でも、対象の油種をどうするかなど、細かな調整がギリギリまで続いたという。

補助金制度は石油業界にも不評だ

「現場知らぬ人の思い付き」 業界からは不満の声も

補助金は石油業界からも不評だった。家庭で月50ℓのガソリンを自家用車に使うとして、補助額は月250円。業者にかかる手間と、消費者への恩恵が見合わないのでは、との疑問があった。ある業界関係者は「天下の愚策。現場を知らない人の思い付きだ」と言い切った。

実際に発動された後、ドバイ原油価格は上がり続けたが、ガソリンの店頭平均価格は2月中、170円近辺で踏みとどまった。同庁の担当者は「迅速に、かつ灯油や重油にまで幅広く補助が出せた。トリガー条項ではこうはいかなかった。ホッとしている」と話した。

とはいえ、小売価格に政府が直接、働きかけようとしたとも取れるやり方は、市場経済の原則から見て感心できるものではない。

「目的のためには手段を選ばず」のような手法は、これだけではなかった。

緊急経済対策が発表された翌日の11月20日、岸田首相は、同様に石油価格高騰に悩む米国政権からの要請を受け「法的に何ができるか、いま検討を進めている」と石油備蓄の放出に言及。そしてその4日後、「米国と歩調を合わせ、石油備蓄法に反しない形で国家備蓄石油の一部売却を決定した」と表明した。

石油備蓄法は備蓄の放出を、供給途絶の恐れや災害時に限定し、価格引き下げを目的とする放出は想定されていない。そこで、備蓄している石油の入れ替えを、各国の放出に合わせて前倒しするとの「理屈」をひねり出した。「正面から考えたら放出できないので、工夫したということだ」と首相周辺は打ち明ける。

日米だけでなく中国、インド、韓国、英国と協調したこともあってか、直後こそ原油先物価格は下落したが、年が明けると市況は再び値上がりに転じた。「口先介入」以上の効果は得られなかったといえる。

カーボンプライシングを意識 化石燃料課税の再整理が必要

この半世紀余りの世界経済の成長を支えてきた原動力は、増えるエネルギー需要に応える形で供給能力を増強させた石油だった。これからも世界のエネルギー需要は増え続けるとみられるが、世界が脱炭素を志向する中で主役は再生可能エネルギーに移り、石油の需要はその従属変数になる流れになっている。需要予測の不確実性が増せば、新たな投資が鈍ることは避けられない。

このように、需給双方の事情からかつてないボラティリティーにさらされることになる石油政策が、これまでの延長上にあっていいはずがない。3月4日には、ウクライナ侵攻を受けて激変緩和措置の補助上限を25円に拡大したが、そのようなその場しのぎの対応を続けていても、急激に変貌する現実からの乖離を解消することはできないだろう。

80を超える国や地域でカーボンプライシングの導入が進んでいることもあり、石油にはしばらく価格上昇圧力がかかると予想される。脱炭素を目指す上では、それは必ずしも悪いこととは言い切れないが、価格が急上昇すれば、エネルギー多消費産業や低所得者らが負担に耐え切れなくなる恐れもある。どんな構えで価格に向き合うべきか、腰を据えた対応が求められる局面だ。その中では、課税目的も税率も品目ごとにばらばらな化石燃料課税の整理も視野に入れる必要がある。

備蓄についても見直すべき点がありそうだ。取り崩せる要件は時代に合っているのか。今後の石油需要を見越した適切な備蓄量とはどのぐらいなのか。

産油国との関係を良好に保つ努力も忘れることなく、石油政策の新たなパッケージを作り上げる時期を迎えているのは疑いない。

洋上風力公募が基準見直し 経産相のトップダウンで決定


三菱商事グループによる3海域総取りが波紋を呼んだ、洋上風力プロジェクトの事業者公募。萩生田光一経済産業相は3月18日の閣議後記者会見で、この審査基準を見直す方針を発表した。

自民党再エネ議連として提言まとめる

三菱商事・中部電力陣営の独り勝ちの決め手となったのは、ほかの追随を許さない破格の価格だった。萩生田経産相は、「ウクライナ情勢を踏まえ、エネルギー安全保障の面でも脱炭素の国産エネルギー源として再生可能エネルギーの導入加速が急務」と、新たな審査基準では、価格のみならず早期導入の観点でも各社の競争を促す仕組みとする意向を示した。

実は今回の決定は萩生田氏のトップダウンだという。「価格偏重」の審査基準のままでは、資本力の弱い新興事業者は太刀打ちできない。こうした状況に、事業者の意を受けた自民党再エネ派議員らから不満の声が上がっていた。

既に公募を開始している「秋田県八峰町・能代市沖」は、新たな基準を適用するため締め切りが延長される。こちらには、三菱陣営のほか日本風力開発、ENEOSや東京電力系の再エネ事業者が参加を検討しているもよう。安さか、早さか―。勝者となるべく、事業者は大きな戦略の見直しに迫られることになりそうだ。

【覆面ホンネ座談会】業界常識・慣例が崩れ始めた! 電力・ガス人事の注目点


テーマ:電力・ガス業界の人事と評価

トップ人事という面では、結果として小幅な動きにとどまった2022年の大手電力・都市ガス各社。しかし内実に目を向けると、従来の業界常識や慣例が崩れ始めた現状が浮かび上がる。さて、今春人事の注目点とは。

〈出席者〉   A エネルギー関係者  B エネルギー関係者  C ジャーナリスト  D アナリスト

――まずは電力業界の話題から。電気事業連合会は、池辺和弘会長(九州電力社長)が続投となった。一時は中部電力の林欣吾社長の名前も挙がったが。

A 池辺さん、本当は今期で辞めるつもりだったとは思う。ただ、昨年4月に公正取引委員会が談合の疑いで大手電力・ガス会社への立ち入り調査を行った問題が続く中で、今このタイミングでというわけにはいかなかったのではないか。立ち入り調査の対象になっていない東北電力の樋口康二郎社長の名前も取り沙汰されたけど、電事連会長の職務が大変なためか、難色を示したといううわさもある。ただ池辺さんとしては、電事連の会長を辞めたら、社長も辞めざるを得ない。まだやり残したことがあるんだろう。

B 現状だと電事連会長は動かしようがないという大方の予想はその通りだったね。

C 中部電については、やはり公取委による調査が進行中という立場では、会長職を受けようがなかったのではないかと思う。関西電力にしても、元幹部の金品受領問題を巡る株主代表訴訟がまだ続いているし、今年は交代のタイミングではなかった。

D 原発の問題や談合疑惑の問題などがなければ、他の事業者が引き受けた可能性もあるが、今の状況ではおのずとこうなる。池辺さんは人格者だし、九州電の経営が順調にいっている。以前だと、電事連のトップは経団連のトップに就くような立場だったけど、今はそういうポジションではない。会長職を受ける事情は変わってきている。

難局下で電事連会長を続投する池辺和弘・九州電力社長

しばらく続く東電の現行体制 「次」狙うのは守谷氏か永澤氏か

――そうした中で、東京電力の人事については、どう見ているか。

B このところ、小早川智明社長の評価が上がっている。ポジションは人をつくるよね、みたいな声が業界からも聞こえ始めた。現行の体制で、経営再建計画の「第五次総合特別事業計画」の策定まではやっていくのだろう。ただ福島原発の廃炉や処理水の海洋放出、柏崎刈羽原発の再稼働の関係があるから、どのタイミングで代わるのか。通常なら3年後で、そこが交代の一つの目安だと思うけど、一方で「小早川さんの次が見当たらない」という見方も少なくない。

D 小早川さんに関しては、当初はいろんな評価があったが、経営者として経験を積んで、少なくとも経済産業省の信頼は得ている。またお隣の東北電の幹部の評価も「小早川さんは信頼できる」と、この数年で変わっている。ただ昨年は危なかった。不祥事が重なり社長の首が飛んでもおかしくない状況だった。昨年に交代があれば、社内外の人望が厚い文挟誠一副社長はあり得たかもしれないね。小早川さんに対する評価は確かに上がってきたけど、ある意味、社内グループのまとめ役が文挾さんの仕事。東電が抱える問題に見通しがつくまで、小早川・文挟体制は代えないほうがいいだろう。

C 私も、東電は現行の体制がしばらく続くと聞いている。小林喜光会長、小早川社長、吉野栄洋取締役を中心に、あと3年ほどはこの体制でいくだろう。その間に小林さんを中心に、構造改革、あるいは解体というシナリオを描いて退いていく流れではないかな。小早川さんの後任を巡っては、文挟さん待望論があったが、この2年から3年のスパンというシナリオを考えると、年次から見て文挾さんの可能性は低い。手堅いのは、守谷誠二副社長かな。今回の人事で、ホールディングス(HD)専任の最高リスク管理責任者になった。関係者の中には、東京電力リニューアブルパワー社長に昇格した永澤昌さんの他、大穴で常務執行役員の長﨑桃子さんという声もあって、正直ちょっと分からない。永澤さんはすごく力のある方だと思うが、社内をまとめられるか微妙。優秀過ぎるので、敵をつくりやすいところがある。

A 守谷さんには、JERAの発足をうまくまとめ上げてきた実力がある。経産省側のウケもいいし、申し分ないのではないか。ただ昔に比べて、東電のトップ人事が業界に与える影響の大きさが激減していることには、一抹の寂しさも感じるね。

D 今年も来年も社長交代はないとなれば、年次からいって守谷さんもはじかれる可能性がある。となると、永澤さんの可能性が十分にあり得るし、世間に対する象徴的な人事としては長﨑さんもあり得る。総特の実施を軸としたHD経営の中心は結局経産省なので、経産省との関係性にさえ問題がなければ誰が社長になってもちゃんと回るだろう。

――他の大手電力の幹部人事で注目しるところはあるか。

B 大手電力会社の社長を見ると、交代して間もない人が多い。社長歴が長いのは、東電の小早川社長と、中国電力の清水希茂社長ぐらいだね。

D 中国電は三隅火力2号機の運転開始にめどが立ったので、それを花道に交代という見方もあったが、交代させてもらえなかった。では次は誰か、瀧本夏彦副社長を推す声が多く、最有力なのは間違いない。船木徹常務も抜群に実力があるが、ある意味敵も多い。また船木さんは交渉相手としては、とってもタフでやりづらいという話を聞くので、参謀として抜群に優秀。瀧本さんと船木さんは関係もいいので、瀧本社長、船木副社長という体制が最も落ち着くのではないかな。

C 中国電の社長交代がなかった背景としては、公取委の問題とも関係がありそうだ。その公取委の調査を受けていない東北電については、今回の人事で副社長に上がった石山一弘さんが、樋口社長の後任候補だと聞いている。50‌Hz地域で初となる女川原子力2号機の再稼働が目下の大きな経営課題だろう。

D 同感。経験や人望などからいって石山さんは有力だろう。ただ、他にも優秀な役員がいる。まだ分からないと思う。

B 次という意味では、中部電の伊藤久德さんが石山さん同様に今回副社長に上がったのは、林社長の次を見据えての準備だと見ている。中部電はとりわけ再生可能エネルギー事業に力を入れていて、2030年度までの10年間で1兆円という戦略投資を掲げている。そうした中で、系統畑で技術系の伊藤さんに期待する向きは多い。

A 私が注目しているのは、日本原子力発電とJパワー(電源開発)だ。原電の村松衛社長は、これまでも交代がささやかれながら結局は続投している。後任には、東電の文挟さんの名前が挙がっているけど、誰もやりたがらないので、人選は難航するかもしれない。

D Jパワーは今回の役員人事で大きな入れ替わりがあった。社長候補だった南之園弘巳さんが副社長から降りたことで、残念がっている人も多いようだ。でもこれで何人かに絞られた。次の社長は今年昇任した役員の誰かだろう。社長になれる人材は豊富なので、本当にタイミングだけだ。

「全国一厳しい」は本当か!? 静岡県盛り土改正案の問題点


昨年7月に静岡県熱海市で起きた土石流災害を受け、静岡県は「盛土等の規制に関する条例」の改正案を県議会に提出した。「全国一厳しい条例にする」(川勝平太静岡県知事)と7月の施行を目指しているが、その実態は「骨抜き」との批判が聞こえている。

盛り土問題を浮き彫りにした熱海市の土石流災害(2021年7月6日)

改正案では盛り土を知事の許可制とし、許可申請の予定者には周辺住民への事前説明を義務付けた。業者が行政指導や命令に従わない場合、土地所有者に対策を命じることができる。罰則も強化し、罰金だけでなく懲役刑も規定した。

これに対し「全国再エネ問題連絡会」の共同代表、山口雅之氏は「既に林地開発許可を受けている案件には条例が適用されないとする『附則(経過措置)4項』は大問題だ」と指摘。さらに「改正案第2条2項の土砂等規定で、産業廃棄物を処理した『再生土』を盛り土材の一つに明記していることも非常に危険。悪質事業者によっては『産廃で盛り土してもよい』と拡大解釈される恐れがある」と警鐘を鳴らす。

複数の自治体が再生土の利用規制に動いている中で、事業者の利益を優先するような「附則4項」の条項を含めて、改正案は「全国一厳しい」とは言い難い。

附則の経過措置問題について、静岡県は「(盛り土事業者側の)適法に得られた法的地位およびそれに基づく期待は尊重に値する」との見解だ。しかし、国が閣議決定した盛り土規制法案は「法律の施行段階で着工していなければ、たとえ許可を受けていても適用対象になる」(国土交通省)という。「配慮すべきは事業者の利益ではなく、住民の命と財産だ」(山口氏)。全国一を掲げる川勝知事の本気度が問われる。

【イニシャルニュース】 規制委人事の舞台裏 中堅議員が状況動かす


 規制委人事の舞台裏 中堅議員が状況動かす

9月に任期が切れる更田豊志原子力規制委員長の後任に、規制委員の山中伸介氏(元大阪大副学長)が就任する人事案が3月1日、政府案として国会に示された。後任委員長人事では、さまざまな候補者の名前が挙がっていたが、政府案提出の背景には、環境省案をつぶした自民党の中堅議員の動きがあったようだ。

昨年末からエネルギー業界に流れていたのは、元規制庁高官のY氏の就任説。Y氏は、田中俊一前委員長の、強圧的ともいえる規制行政の推進を支えた人で、原子力業界は警戒した。ただ、この人事案は、「役人がよく行う当て馬。環境省の役人らの本心は、田中路線を継続した更田委員長の再任か、更田路線の継続が予想されるT委員の昇格だった」(エネルギー業界幹部)とされる。

環境省案に反発したのが自民党の「電力安定推進議員連盟」に属する当選3、4回の福井のT参院議員、新潟のH衆院議員、茨城のI衆院議員だった。エネルギー政策では原子力活用を唱え、考えの近い高市早苗政調会長のほか、保守派のI議員らを説得し、環境省案を阻んだ。電力会社や立地地域との対話が足りず、再稼働を遅らせているようにみえる更田氏に対し、彼らは不満を募らせていた。ただし、規制委批判を強めるT大O教授の委員長就任など、彼らの望んだ劇的な人事の転換は見送られた。

一方、今回の人事案については、「エネルギー政策決定に関わる自民の政治家の世代交代」(事情通)が影響しているとの見方もある。

「H議員、A議員、N議員、M議員らの重鎮が政策や人事などに影響力を及ぼしてきたが、彼らは世論に配慮しすぎる。推進を強く行うべきだと考える中堅議員が状況を動かした」(同)

エネルギー安全保障が重視される中で、原発活用を主張する中堅議員の影響力が今後、強まっていくかもしれない。

岸田政権で経産省失速? 強まる財務の存在感

ウクライナ戦争という未曽有の危機に直面する岸田文雄政権。経済面で見ると、エネルギー資源、素材、食品などの輸入を巡って価格高騰や供給不安が深刻化するとともに、スタグフレーション(景気後退下での物価上昇)への懸念が強まっている。

岸田首相の有事対応力が試される中、有力関係筋によれば「このところ、政権下での財務省のプレゼンスが高まっている」という。

岸田首相が信頼する官僚は

もともと、岸田首相自身が財務省とは密接な関係がある中で、最側近となる補佐官のK氏やM氏、重要政策である経済安全保障担当のK氏らはいずれも財務省出身。接待問題などで経済安全保障法制準備室長を更迭された経産官僚F氏の後任に財務官僚I氏が就いたのは、その流れと見る向きもある。

「とりわけ、岸田首相はK補佐官への信頼が厚く、彼の意見をよく取り入れている。政策の軸がぶれてしまいがちなのも、Kさんの影響ではないか」(官邸事情通)

一方で、首相秘書官を務めるS氏やA氏ら経産省サイドは、岸田首相が主導する「新しい資本主義」政策の下、クリーンエネルギー戦略やデジタル田園都市国家構想などの推進に注力しているが、「政権全体の中では、財務省サイドの勢いに押されている感が否めない」(前出事情通)。

そもそもは財務、経産両省の出身者ががっちりと脇を固める形でスタートした岸田政権。経産省失速と言われる背景には、経産相経験を持つ大物N議員やI議員の影響力低下も関係しているのか。

自治体の電力入札 新電力に参加呼び掛け

昨冬の電力価格高騰以降、日本卸電力取引所(JEPX)の価格変動リスクが高まり、市場から安く調達した電気を販売する新電力のビジネスモデルが崩れた。今や安値競争は終焉を迎えつつあり、その余波が自治体の電力調達にも波及しているという。

官公庁による電力入札を巡っては、再生可能エネルギーなど「価格より質」を重視する自治体がある一方で、やはり価格重視の傾向は依然強い。ただ昨冬以降、電力調達価格の上昇から業績が悪化する電力小売り会社が続出。需要家に対する値上げ交渉が相次いでおり、その波は自治体にも押し寄せる。

「電力調達の入札が不調に終わるケースが増えている」(中堅新電力幹部)。某地域の自治体Aでは、こうした状況を踏まえ、それまで不参加だった新電力にも入札に参加してほしいと声をかけるようになった。さらに近隣の自治体BやCも、同じように自ら心当たりの新電力に呼びかけ始めているそうだ。

「同様の動きは各地で起きている。自治体側は入札が成立しない可能性も見越し、こうした行動に出ているのだろう。ただ、声をかけられる側の新電力も経営状況が厳しい状況が続いているため、本音では困惑している」(電力業界関係者)

あるいは、これを機に価格より質を取り、再エネメニューを志向する自治体が増えるきっかけになるかも。

JEPXの価格変動リスクが高まりすぎた

経済界を二分するか 排出権取引論争

脱炭素社会を実現するためのCO2排出権取引の在り方を巡り、経済界の意見が真っ二つに割れている。一つは、経産省が主導する「グリーントランスフォーメーション(GX)リーグ」で十分との考え方であり、もう一つはEU(欧州委員会)が創設している排出権取引制度(EU―ETS)の日本版の創設を急ぐべきだとの意見だ。

「GXリーグ」は、官学のほか金融と企業が一体となって、GXに向けた経済社会システム変革のための議論と、新たな市場創造のための実践を行う場として設立されるもの。2022年度に実証事業を行い、23年度の本格稼働を予定している。既に大手エネルギー会社をはじめ、パナソニックなど、そうそうたる企業が賛同を表明している。

一方で、経済団体の中では、より強制力がある「日本版ETS」創設を押す声が、最有力団体のT会長をはじめとする執行部や会員企業の一部から持ち上がっているという。

ETSは、企業に割り当てる排出量の上限を定め、この上限に対する企業の排出量の過不足分を取引市場で売買する仕組み。経済界から早期導入の必要性を訴える声が上がる背景には、日本が排出権取引で世界から遅れを取っている中で、強制力がなく企業の自主的(ボランタリー)な取り組みに過ぎないGXリーグでは遅きに失するとの懸念がある。つまり、日本版ETS導入を見据え、準備を急ぐ必要があるということだ。

岸田政権が打ち出した温暖化対策を経済成長につなげる「クリーンエネルギー戦略」。その具体化の議論が各所で進められており、6月をめどに中間取りまとめが予定されている。その前に提出する提言書の執行部案には、何らかの形で「日本版ETS」の創設が盛り込まれる見通しだ。

とはいえ、欧州諸国が主導してきた脱炭素化は、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、事実上棚上げになる公算が大きい。前提が変わってしまう以上、それほど拙速に決めないことも一つの選択肢か。

厳しい立場の日本原燃 増田社長にパワハラ疑惑

日本原燃は22年度上期の六ヶ所再処理工場の完成を目標としている。だが、規制委での審査は進展していない。東京電力出身の増田尚宏社長は「目標達成の確信がある」と話すが、「難しい」(業界関係者)との見方が出ている。

こういう状況の中で、「増田社長が部下を激しく叱責している。もはやパワハラ」(同)との声が聞こえる。原燃社長は事務系が続いていたが、増田氏は福島第二原発の所長を務めた原子力の専門家。目標達成に向けて、ときに社内で技術陣らに非常に厳しい態度で接するらしい。

しかし、ある東電OBは「スパルタ体質は増田氏に限らない。経産省の官僚と対峙しなければならなかった東電の宿命」と話す。

電力業界を代表して規制当局と丁々発止のやり取りをしてきた原子力部門だけでなく、営業部門でも、「対外的には非常にソフトで、後に日銀審議委員に転じたM副社長も、社内で見せる顔は違った」(東電OB)という。

厳しい立場にある日本原燃。スパルタ体質となることで、目標を達成できるか。

カーボンニュートラル支援を収益化 分散型リソースで事業の発展目指す


【四国電力】

四国電力は顧客のカーボンニュートラル実現を支援し、VPP事業の拡大につなげる。

次世代電力取引のプラットフォーム構築に向けて、グループが一丸となって力を合わせていく。

 分散型エネルギーリソースであるPV(太陽光発電)や蓄電池、EVは、カーボンニュートラル(CN)への切り札として注目されている。

四国電力は2021年3月、分散型エネルギー事業を今後の成長領域と捉え、利用拡大を目的に「分散型エネルギー事業推進室(DER室)」を設置した。

篠原義人DER室長は「電力ビジネスの環境が激変する中で、系統電力による一方通行の電力供給だけでなく、分散型エネルギーリソースとデジタル技術を駆使して、CNをはじめとする顧客の多様なニーズにしっかりと応えていくことが、電力会社の新たなミッションになっている」と説明する。

自治体や法人からはCN実現のために何から取り組めばいいのかという問い合わせが増えた。より一層の提案力の強化と迅速化を図るため、今年3月、四電はDER室を新規事業部から営業推進本部下に置く組織体制とした。

CNコンサルティングを得意とするグループ会社などと連携し、よんでんグループが一体となって、現状把握や計画策定からソリューションの提供まで一元的に提案活動を実施する構えだ。

DER室の大元峰司総括・EVユニットリーダーは「営業車をEVにすることや、自社の屋根に第三者がPVを設置して自家消費するオンサイトPPAが取り掛かりやすい。まずは簡単なところからスタートさせたいという要望や、コンサルによる設備改修や運用改善の支援、非化石証書の提供まで、幅広く対応しています」と、顧客のニーズに合わせた提案を行う。

EVは甚大な被害をもたらした18年の西日本豪雨災害で、“動く蓄電池”として注目された。自治体や法人では、EV利用をBCP(事業継続計画)の一環として捉え、導入の検討が進む。四電も充電器とセットでEVをリースできるサービスや、充電にCO2フリー電気を供給するオプションなど、CNへの取り組みにつながるソリューションをラインアップする。

リソースを束ね事業を拡大 鍵を握るのは蓄電池

四電は自治体や法人に分散型エネルギーを提案する一方、これらを活用したVPP(仮想発電所)事業に取り組んでいる。

VPPでは既に産業用自家発電や工場の需要家設備によるデマンドレスポンスを用いて、容量市場と調整力公募電源`Iに参入。19~20年度には、VPPアグリゲータとしての技術・運営に関する知見の習得と、ほかのプレーヤーとの関係構築のために、国のVPP実証事業に関西電力コンソーシアムのリソースアグリゲーターとして参画した。NAS電池やリチウムイオン電池を導入している顧客3者の蓄電池合計2650kWを活用したVPP実証を行い、需給調整市場の要件に適合した制御ができることを確認した。

また、需給調整市場への参入・収益化に向けては、リソースの絶対量を増やすことを必須とし、21年度は自家発電を組み合わせたより高度な実証も行った。

篠原室長はVPP事業の主要なターゲットになるのは需給調整市場で、その鍵を握るのは蓄電池だと言う。国の方針でも30年までにPVを最大4400万kW増やす計画があることを挙げ、「PVを蓄電池と組み合わせれば、発電を無駄にすることなく使えるとともに、VPPでも制御しやすい有力なリソースになる」と強調する。

現在の蓄電池の導入は家庭用が先行しているが、脱炭素への関心の高まりや低価格化によって自治体や法人への導入が加速的に進むとみている。

「BCP対策やピークカットでの活用を切り口に、第三者所有モデルなどのスキームを使いながら蓄電池の拡大を図っていく。さらに蓄電池としてのポテンシャルを持つEVについても、VPP活用の肝となる制御技術はグループ会社と協力して見極めていく」。利用時間帯の予測が比較的容易なバスや営業車などのEVを束ね、複数拠点の遠隔充放電制御が可能なシステムの検討も進める。将来は個人のEVもVPPリソースとして活用することを見据えている。

PVを全国展開 次世代電力取引へ発展

設置が拡大しているPVについては、シンガポールのサンシープ社、住友商事とともに「サン・トリニティー合同会社」を設立し、今年3月、事業を開始した。サンシープ社は屋根置きソーラーを中心に幅広く事業を展開。シンガポールを拠点に東南アジアで圧倒的なシェアを誇る。資機材調達の面でも複数の有力メーカーと取引があり、その調達力が強みだ。

四電は住友商事と共にPV事業を全国展開し、オフサイトPPAやため池を活用した水上ソーラーなども手掛けていく。顧客のCN実現を支援しながら分散型エネルギーのリソースを増やすことで、VPP事業の規模拡大を図り、容量市場や需給調整市場での収益化につなげる。将来的にはこれらリソースを有機的に結び付け、個人間電力取引(P2P)や、環境価値の取引まで行う次世代電力取引のプラットフォーム構築を目指す。

脱炭素×分散型エネルギーのサービス開発ロードマップ