やまぎわ・だいしろう 1968年東京都生まれ。95年山口大学農学部獣医学科卒、99年東大大学院農学生命科学研究科博士課程修了。2003年衆院選で初当選。12年内閣府政務官、13年経済産業副大臣。当選5回。
「生物の生命現象を知りたい」と獣医学の道を選ぶが、現代社会の在り方に疑問を持ち政治の道へ。 転換が進むエネルギー政策については、多くの可能性を追求し、広い視座から向き合い続ける。
高校卒業後、「生物はなぜ生きているのかという、生命現象を知りたい」と、山口大学農学部獣医学科の門を叩いた。
「生命現象は複雑だが、なぜか生物は生きている。それがたいへん面白い。生きるということはどういうことなのかという尽きない興味があったが、日本の法律では生物を扱う職業の中で、人間を扱うのは医者、人間以外の動物を扱うのは獣医と決まっている。自分は生命現象そのものに興味があり、多くの生物を扱える獣医の方が面白いと思い、獣医学を学ぼうと考えた」
大学卒業後は東大大学院農学生命科学研究科に進み、獣医学博士号を取得。研究者の道から、なぜ政治家の道を志すようになったのか。「生命現象を学んだ人間からすると、現代社会は人間という種だけが特別なものだと思い込んでいる節があると感じた。地球上の生物は自らの生存戦略に従って必死に生きているが、人間だけがそのバランスを保とうとせず自分勝手に生物界を牛耳ろうとしているのではないか」と、社会への疑問を感じる場面が多々あったからと語る。
「人間が行うこうした振る舞いは自然な姿ではない。人間だろうがほかの生物だろうが、自然の理から外れれば生き物は滅びる。このまま傲慢な生活を続けるとまずいのではという思いがあった。もう少しきちんとした振る舞いをできるよう、社会のルール作りをしたいと考えた」。こうした思いを抱いたことから、政治家の道を歩もうと模索を始める。
大学院修了から3年後の2002年には、自民党の候補者公募に応募し、神奈川県8区の衆議院補欠選挙に初出馬。しかし初めての選挙戦は落選。翌03年行われた衆院選では神奈川県18区から出馬し、初当選を飾った。
政権では経済産業副大臣、内閣府政務官を歴任。現在、党では政調会長代理や総合エネルギー戦略調査会事務局長を務めている。
原発・再エネの二元論に「待った」一本足ではなく幅広い可能性を
これまで日本のエネルギー政策は、原子力発電や石炭火力発電などをベースロード電源として運用し、負荷に合わせてLNG・石油火力、水力発電で調整する運用が行われてきた。しかし東日本大震災以降、原子力発電所が停止し、その代替となるべく再生可能エネルギーの導入促進が図られるなど、エネルギー政策は大幅な転換期を迎えている。
こうした経緯もあって、エネルギー政策を語ろうとすると「原発VS再エネ」という二項対立にフォーカスが当てられる。しかし、山際氏はこうした議論について「本筋とずれている」と喝破する。
「エネルギー問題は戦争の原因になるほどの大事なテーマ。日本が小資源国である事実は変わらないため、科学技術を磨き続けることに将来が懸かっている。再エネはもちろん重要で、それと同じくらい原発や火力発電も重要だ。本当に必要なのは政策が一本足打法にならず、あらゆる可能性に張り続けること。こうした議論を単純な二項対立で語るのではなく、化石燃料に問題があるのであれば、その課題を解決できるよう研究を続け、あらゆる可能性を追求すべきだ」
国会議員として5期目を迎え、政策立案と同時に、党内外から寄せられる政策案を選ぶ側に回ることも多くなった。そうした中で、政治家と官僚の関係性について、思うところも多いそうだ。
「世間では官僚主導と呼ばれる政治手法に対する批判は多く、政治家がもっと政策について詳しくなるべきだとの意見がある。しかし、政治が持つべき本来の役割は、数ある選択肢の中から決断・選択をして全体のバランスを取ることではないか。政治家と官僚との役割分担を意識すべきだと思う」
この言葉の裏には、「政治に求められるのは判断することで、数ある選択肢を切り捨てるということ。だからこそ政治家は選択肢について詳しく知っている必要はあるが、選択肢を作るのは政治家である必要はない。最終的な判断を下すのは官僚ではなく、国民の審判を受けて当選した政治家。だからこそ政治に重みがある」との思いが込められている。
「その道の専門家であり、優れた選択肢を提示できる官僚と細部を競っても意味がない。政治家はそこと争うのではなく、全体最適を取るために一歩引いた地点から課題を俯瞰することが重要ではないか」と指摘した。
座右の銘は「大志貫徹」。名前にも大志という言葉があるだけではなく、「広く大きな志を持って、貫徹させることが世のため人のためになるのでは」と感じ入ったそうだ。
菅義偉首相が2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言するなど、世界各国で気候変動問題への対応が重要課題として挙げられている。政治の道を目指した大志を実現するのに、絶好の環境といえるだろう。