【マーケット情報/1月15日】ブレント反落、移動規制で原油需要に懸念


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物原油価格は続伸した一方で、北海原油の指標となるブレント先物価格は小幅に下落した。原油需給はひっ迫感が強まっているが、新型コロナウイルス感染者が世界各地で増加傾向にあり、先の需要に懸念が強まっている。

米国の原油在庫量が減少傾向だ。米エネルギー省が発表した、同国の原油在庫統計は今週も減少を示した。同国では冬季需要が強く、製油所が高稼働を続けている。

また、サウジ・アラムコ社は長期契約を結んでいる数社に対し、2月原油供給量を5~15%削減する。サウジアラビアは今月5日、2月および3月の原油生産量を追加で日量100万バレル減産させると表明しており、この追加減産が供給量削減の背景。

ただ、世界各国でコロナ感染者数が増加傾向にあり、ロックダウンや国境間の移動制限で原油需要の減少が懸念されている。週後半には、中国国家衛生健康委員会が来月の新正月に不要不急の移動を控えるよう呼び掛けた。移動による燃料需要が高い同期間の規制は、原油市場にはとって大きな痛手となる。

【1月15日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=52.36ドル(前週比0.12ドル高)、ブレント先物(ICE)=55.10ドル(前週比0.89ドル安)、オマーン先物(DME)=55.38ドル(前週比0.80ドル高)、ドバイ現物(Argus)=55.33ドル(前週0.83ドル高)

【コラム/1月18日】2021年度政府経済見通しを考える~対策不首尾で、遠ざかる「思って一出て三」


飯倉 穣/エコノミスト

 今年の経済動向に関心が集まる。昨年末、来年度政府経済見通しの発表があった。コロナ感染防止期待の消費増、グリーン化念願の設備投資、輸出待望に加え大規模な歳出でコロナ前の水準回復を見込む。実態を鑑みれば、消費は、コロナ感染防止の不首尾で、GoToトラベルの根拠でもある「思って一、出て三(おもっていち、でてさん)」に至らないだろう(大阪の慣用句:出かける前に予算千円と思っても、実際出かけると3千円使ってしまう)。企業業績から投資も弱そうである。財政支出頼りだけで、回復はおぼつかない。次年度は、今年度並みの喜怒哀楽の経済と考え、政府期待でなく、自立で負の波乱万丈を乗り越える努力が求められる。

1,今年の経済はどうなるのか。年末政府は2021度経済見通しを示した(20年12月18日)。コロナ前水準への回復を描く。今年度実質成長率△5.2%(見込み)の後、来年度4.0%増を見積る。内訳は、感染防止と活動の両立で民間消費3.9%増、デジタル・グリーン化等で設備投資2.9%増、総合経済対策で公的需要0.9%増、回復で輸出11.4%増(外需0.7%増)である。

その実現に向けて今年度補正予算3号19.2兆円(同15日)に続き、来年度政府予算案107兆円(前年度比3.8%増)(同21日)を編成し、また2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(同26日)を決定した。

2、政府見通しは、経済財政運営方針の前提となる経済状況を示す。政治・政策目標(願望)が絡むので、予測の正確性だけでなく政策的意味合いを踏まえた品定めとなる。

 5つの視点から、来年度の経済見通しを考える。①コロナ感染防止対策、②グリーン成長・投資の可能性、③金融緩和による資産価格上昇、④日銀頼りの財政運営、⑤バラマキによる企業経営・活力問題である。

3,再度の非常事態宣言で、コロナ施策の不首尾が明確になった。感染症対策の基本は、早期発見、早期隔離、早期治療である。早期発見はPCR検査以外に手がない。検査数制限で、無症状感染者等を放置した。且つ隔離施設の確保や治療(含む国内ワクチン・治療薬開発)でも課題が顕在化している。感染症専門家の頑なさと政治ショーが際立った。生活習慣頼りでは、ワクチン登場でも先行き懸念される。当面行動自粛解放は困難で「思って一出て三」は先となる。

4,グリーンで投資増に首を傾げる。「グリーン成長戦略」は、再エネ、電化、水素を掲げ、現預金活用(240兆円)の民間投資等を謳う。グリーン化は、市場経済に介入し、化石エネの市場縮小と再エネ化を目指す。為政者は、後者に焦点を当て民間投資・資金の多寡を喧伝する(ESG関連民間資金世界3000兆円、国内300兆円)。投資の経済的根拠は不明である。また再エネは、化石の代替であり、成長の牽引力という評価は過大である。当面経済成長に寄与しそうにない。繰り言だが、新規原子力発電建設こそ水準維持に効果的である。

5,金融緩和による株価上昇は、消費等に影響する。過去の経験では、上昇額の一定割合(1~3%)の消費増をもたらす。そして時価総額が名目GDPを超えるとバブル的と言われる。現相場は、マネーゲーム突入、かつ日銀・GPIF介入の官製相場と見られる。経済の実態から乖離し、今後株価崩壊も懸念される。

6,新年度予算規模は過去最大で、歳入の公債依存度は41%である。来年度末国債残高が990兆円に達すれば、国債残高/GDP比は177%となる。日銀の国債保有額は、昨年12月544兆円(12年3月末87兆円)である。日銀の保有額は、今年度末で国債残高の60%を超える。コロナ対応で急上昇している。

今後の財政不安は、第一次大戦末期の公的債務・財政問題を語ったシュムペーター「租税国家の危機」(1918年)を想起させる。彼は、浪費による国家の過大債務をインフレでなく一回限りの高率の財産税で解消すべきと考えた。コロナ戦争後の過大債務の解消は、インフレか増税の受容以外に道はなそうである。財政出動で、民需主導の成長軌道には戻らない。

7,過去の経済推移を概観すれば、経済停滞期における企業の創意工夫が次の経済の牽引力となる。オイルショック後が好例(自動車等)である。その後、企業は自助を忘却し公助を求め続けた。知恵なき行政に依存する体質は、企業活力を低下させた。企業に社会福祉は不要である。「自立自営」が基本である。現在必要な改革は、企業活動を制約する株主重視のコーポレートガバンスの廃止、株主代表訴訟の制限強化、四半期決算廃止・時価会計の弾力的運用、間接金融システムの再構築等であろう。

8、今回の政府見通しには、違和感がある。民間最終消費は、コロナ沈静化なければ、自粛継続で時間消費型中心に低迷が継続する。設備投資等も企業業績(利潤投資反応)や現在の技術革新状況では期待薄である。輸出量は、海外経済状況・為替・企業努力次第である。省察すれば、来年度経済は変動下降局面で今年度水準並みが精一杯と推察する。悲喜こもごもの経済ながら、個々人・企業が、「政府こそ問題だ」を意識して、負の波乱万丈を回避する取組が大切である。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【原子力】誤解と無理解 水素の製造法


【業界スクランブル/原子力】

自民党は総裁直属の「2050年カーボンニュートラル実現推進本部」を立ち上げた。20年11月の初会合では、参加議員から原子力を有力な選択肢とすべきという意見が続出した。50年カーボンニュートラルは量の問題が鍵で、そう簡単ではなく、原子力なしには到底実現できないという認識が共有されているわけで、それは正しい。

しかし、肝心の菅義偉首相は「原発新増設を今は考えていない」と語り、腰が引けている。一方、小泉純一郎元首相と進次郎環境相の父子は「原子力がなくても大丈夫」と言っているが、それは錯覚にすぎない。この肝心なことが分かっている人は国民の数%にすぎないと、永田町のある重鎮は語る。錯覚をデリートし、救国のイノベーションを努力と時間をかけても実現することが欠かせない。

しかも無理解は、意外と根強い。先日、麻生太郎副総理は、「わが国の困難は、人口減とエネルギーだと思うが、エネルギーについては、いずれ水素の時代がきて無尽蔵のものが手に入るだろう」と講演で語っていた。水素時代到来で全て丸く収まり、全問題から解放されると思い込んでいる。水素がどういったフローで製造されるかによって、多くの問題を発生する恐れがあることを全く認識していない。

どんな製造法を採用するかで、水素自体についての評価は分かれる。昨年夏まで、EUでは再エネ電力ベースの「グリーン水素」のみをクリーン水素としていたが、9月にフランスは「原子力で製造、30年650万kW規模」という軽水炉ベースの計画を進めた。EU委員会では、原子力から製造した水素を低炭素水素とする当局者の発言があった。製造する原料やプロセスで水素に色を付けて呼ぶ見解もある。 Green hydrogen=再エネから製造、Black hydrogen=石炭から製造、Grey hydrogen=天然ガスから製造、 Brown hydrogen=褐炭から製造、Blue hydrogen=化石燃料からCCS付きで製造、そして Purple hydrogen=原子力から製造―という具合だ。誤解や無理解を消し去り、錯覚をデリートすることが急務だ。(X)

【山際大志郎 自民党 衆議院議員】あらゆる可能性に張り続ける


やまぎわ・だいしろう 1968年東京都生まれ。95年山口大学農学部獣医学科卒、99年東大大学院農学生命科学研究科博士課程修了。2003年衆院選で初当選。12年内閣府政務官、13年経済産業副大臣。当選5回。

「生物の生命現象を知りたい」と獣医学の道を選ぶが、現代社会の在り方に疑問を持ち政治の道へ。 転換が進むエネルギー政策については、多くの可能性を追求し、広い視座から向き合い続ける。

高校卒業後、「生物はなぜ生きているのかという、生命現象を知りたい」と、山口大学農学部獣医学科の門を叩いた。

「生命現象は複雑だが、なぜか生物は生きている。それがたいへん面白い。生きるということはどういうことなのかという尽きない興味があったが、日本の法律では生物を扱う職業の中で、人間を扱うのは医者、人間以外の動物を扱うのは獣医と決まっている。自分は生命現象そのものに興味があり、多くの生物を扱える獣医の方が面白いと思い、獣医学を学ぼうと考えた」

大学卒業後は東大大学院農学生命科学研究科に進み、獣医学博士号を取得。研究者の道から、なぜ政治家の道を志すようになったのか。「生命現象を学んだ人間からすると、現代社会は人間という種だけが特別なものだと思い込んでいる節があると感じた。地球上の生物は自らの生存戦略に従って必死に生きているが、人間だけがそのバランスを保とうとせず自分勝手に生物界を牛耳ろうとしているのではないか」と、社会への疑問を感じる場面が多々あったからと語る。

「人間が行うこうした振る舞いは自然な姿ではない。人間だろうがほかの生物だろうが、自然の理から外れれば生き物は滅びる。このまま傲慢な生活を続けるとまずいのではという思いがあった。もう少しきちんとした振る舞いをできるよう、社会のルール作りをしたいと考えた」。こうした思いを抱いたことから、政治家の道を歩もうと模索を始める。

大学院修了から3年後の2002年には、自民党の候補者公募に応募し、神奈川県8区の衆議院補欠選挙に初出馬。しかし初めての選挙戦は落選。翌03年行われた衆院選では神奈川県18区から出馬し、初当選を飾った。

政権では経済産業副大臣、内閣府政務官を歴任。現在、党では政調会長代理や総合エネルギー戦略調査会事務局長を務めている。

原発・再エネの二元論に「待った」一本足ではなく幅広い可能性を

これまで日本のエネルギー政策は、原子力発電や石炭火力発電などをベースロード電源として運用し、負荷に合わせてLNG・石油火力、水力発電で調整する運用が行われてきた。しかし東日本大震災以降、原子力発電所が停止し、その代替となるべく再生可能エネルギーの導入促進が図られるなど、エネルギー政策は大幅な転換期を迎えている。

こうした経緯もあって、エネルギー政策を語ろうとすると「原発VS再エネ」という二項対立にフォーカスが当てられる。しかし、山際氏はこうした議論について「本筋とずれている」と喝破する。

「エネルギー問題は戦争の原因になるほどの大事なテーマ。日本が小資源国である事実は変わらないため、科学技術を磨き続けることに将来が懸かっている。再エネはもちろん重要で、それと同じくらい原発や火力発電も重要だ。本当に必要なのは政策が一本足打法にならず、あらゆる可能性に張り続けること。こうした議論を単純な二項対立で語るのではなく、化石燃料に問題があるのであれば、その課題を解決できるよう研究を続け、あらゆる可能性を追求すべきだ」

国会議員として5期目を迎え、政策立案と同時に、党内外から寄せられる政策案を選ぶ側に回ることも多くなった。そうした中で、政治家と官僚の関係性について、思うところも多いそうだ。

「世間では官僚主導と呼ばれる政治手法に対する批判は多く、政治家がもっと政策について詳しくなるべきだとの意見がある。しかし、政治が持つべき本来の役割は、数ある選択肢の中から決断・選択をして全体のバランスを取ることではないか。政治家と官僚との役割分担を意識すべきだと思う」

この言葉の裏には、「政治に求められるのは判断することで、数ある選択肢を切り捨てるということ。だからこそ政治家は選択肢について詳しく知っている必要はあるが、選択肢を作るのは政治家である必要はない。最終的な判断を下すのは官僚ではなく、国民の審判を受けて当選した政治家。だからこそ政治に重みがある」との思いが込められている。

「その道の専門家であり、優れた選択肢を提示できる官僚と細部を競っても意味がない。政治家はそこと争うのではなく、全体最適を取るために一歩引いた地点から課題を俯瞰することが重要ではないか」と指摘した。

座右の銘は「大志貫徹」。名前にも大志という言葉があるだけではなく、「広く大きな志を持って、貫徹させることが世のため人のためになるのでは」と感じ入ったそうだ。

菅義偉首相が2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言するなど、世界各国で気候変動問題への対応が重要課題として挙げられている。政治の道を目指した大志を実現するのに、絶好の環境といえるだろう。

【LPガス】仏の新環境規制 器具販売に逆風


【業界スクランブル/LPガス】

NHK・BSのワールドニュースを見ていたら、2020年11月末の仏国営放送のニュースとして、仏国内ではCO2排出削減のため、21年夏から新築家屋ではガスの給湯・暖房器具の使用が禁止されると報じていた。建物(家庭・業務用)が排出するCO2が多く、新しい環境基準の実施(RE2020)に対応するための措置であるという。この規制では、24年には新築集合住宅でもガスの給湯・暖房器具が使用できなくなる。

ガス給湯・暖房器具によるCO2の排出はフランスにおける温室効果ガスの排出量の4分の1を占めていて、今後は電気式のヒートポンプ給湯・暖房器具が優遇されるという。報道の最後に都市ガス団体の責任者のインタビューがあり、「期待されるような環境への効果はないし、ガスの使用量の低下を懸念している」と述べていた。

11月末に仏国内で報道されたのは、11月24日にポンピリ環境相が新たな環境規制である新規則「RE2020」の説明を行ったからである。欧州諸国の給湯暖房器具は、温水暖房(日本でいう貯湯型ボイラー)が大部分で、日本と違い入浴はシャワーが主体なので、それ自体の使用量は少ないはずであり、大部分が温水暖房器具として使われているようだ。

日本のようにガス風呂給湯器で追い炊きをして湯舟にお湯をため、それに漬かる生活慣習がないことから、日本でのガスの給湯・暖房器具の使用実態と同一では論じられないと思われるが、家庭用のガス、さらには石油系燃焼器具類の販売を禁止にするのは、いくら環境規制といえども、相当厳しい規制だといえる。

おそらく日本では、風土、生活習慣の相違から、すぐにはこのような規制が出てくるとは思えない。しかし、30年に向けて徐々にガス燃焼器具販売などに逆風が吹いてくる時代になってきていることを、あらためて痛感せざるを得ない。

これからの中長期の販売戦略も、2050年ネットゼロに合わせた形で考えていく必要があるのではないだろうか。(D)

問題だらけの「不都合な真実」 正しくない記述に反証を


【気候危機の真相 Vol.10】伊藤公紀/横浜国立大学名誉教授

発行から10年以上経つ「不都合な真実」は、今なお温暖化関連で最も有名な書籍といえよう。だが、同書でのアル・ゴア氏の主張には不正確な記述が多く、反証にも目を向ける必要がある。

アル・ゴア元米国副大統領の手による本書は2006年の発行で、帯には故・筑紫哲也氏をはじめ、今見てもそうそうたる顔ぶれによる推薦文が記されている。筆者は、本書の内容について幾つかの論評(例えば渡辺正氏との共著「地球温暖化論のウソとワナ」第4章)を書いたが、改めて本書を読むと、もし現在このままの内容を信じている人が多いなら困ったことだ、と感じざるを得ない。 

そもそも前書きから、「ハリケーン・カトリーナのような強烈な暴風雨が大西洋、太平洋でももっと増えるだろう」「海面が6mも上がる恐れがある」とあり、恐怖心をあおる。本文には「アフリカのチャド湖はわずか40年で姿をほぼ消した」とか、「永久凍土が溶けてシベリアの建物が崩れている」とかの証拠としてきれいな写真が載せられている。装丁などを見ても良くできた本には違いない。

しかし内容には問題点が多過ぎる。図に見るように、気候変動の要因は自然と人為、また規模も局所的から地球的まであり、その結果や対策も多岐にわたる。しかしゴア氏はAのように、何でもかんでもCO2の人為的放出のせいにしている。

気候変動の考え方についての流域モデル
出典:「パリティ」2012年1月号

英国で下された判決 「教材とするには注意必要」

英国では、中学校の教材として本書の内容に基づく映画を使う際、教師はいくつもの注意をすべきだ、という裁判の判決が07年に出たが、日本ではあまり知られていない。担当のバートン判事が07年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書に基づいて書いた注意点を具体的に挙げよう。

①氷河の後退が人為的温暖化の証拠とされているが、例えばキリマンジャロ山の氷河が後退する原因は複雑である、②過去65万年のCO2濃度と気温の関係について、CO2が気温変化の原因と読者が誤解しそうだが、実際には気温変化が数百年先行している、③海水温が上がってハリケーンが強大化し、カトリーナは甚大な被害を与えたとあるが、個別の現象を気候変動に帰することはできない、④チャド湖の消失の原因については共通の理解はない、⑤ハリケーン、洪水、旱ばつ、山火事のような極端な気象やそれによる被害が気候変動のせいだという証拠は不十分である、⑥北極の氷が40年で40%減少し、シロクマが溺死したとあるが、シロクマについては元の研究が明確でない、⑦海洋コンベアベルトが不安定化し、急変してヨーロッパが氷期に戻るのではとあるが、科学者の大多数の意見では、氷期が差し迫っているというのは憶測にすぎない、⑧温暖化はサンゴ礁に影響するだろうが、乱獲や汚染の影響と区別するのは難しい、⑨南極の氷が急速に崩壊しており、海面が6mも上がる可能性があるとの記述に関連して、実際に海面がそんなに上がるにしても数千年はかかるし、「ニュージーランドに避難する太平洋の島嶼国」のような事実はない―。

【都市ガス】円の中のアリ どう外に出るか


【業界スクランブル/都市ガス】

紙に円を描いて、その中に一匹のアリを描く。四方八方を円に囲まれている状況下で、このアリはどうやったらこの円から出られるだろうか? こうした質問をさまざまな人にしてみると、意外にも若い人たちが答えに窮するケースが多い。答えは「円をまたいで出る」というものだが、2次元の世界に捉われてしまうと答えは出てこない。

職場内で現状実施困難な課題を提案してみる。すると、「規則があってできない」「契約上できない」「予算がなくてできない」など、できない理由がごまんと出てくる。しかし、こちらはできない理由でなく、どうしたらできるのかを聞きたいのだ。規則があってダメなら規則を変えればいい。2次元のアリを3次元の発想で円から救い出すことが必要なのだ。

今まで先達はこうした困難を乗り越えて、現在の都市ガス業界を築き上げてきてくれた。50年前にLNGを世界で初めて導入したときもそうだ。今まで慣れ親しんだ石炭・石油から熱量2倍の天然ガスへ原料を切り替えるという発想の転換により、大規模なパイプライン投資を行わずして倍の需要量への供給を可能にした。しかも、天然ガスはCO2排出量が化石燃料の中で一番少なく、環境に優しいエネルギーとしてさらに需要拡大に貢献したのだ。

今、「2050年温室効果ガス実質ゼロ」という難問がわれわれの前に立ちはだかっている。いかに化石燃料の優等生といえども、天然ガスを燃やせばCO2を排出する。メタネーションなどの新技術も見据えてはいるが、ブレークスルーしなければならない課題が多いのも事実だ。脱炭素化となると、現時点では都市ガス業界において有効な手立ては見えてこない、という声も聞こえてくる。

まさに、われわれは円の中に閉じ込められたアリだ。どうやったら、円の外に出ることができるのか。必ず解決策はあるはずだ。今、都市ガス業界にとってのこれからの50年間につながる発想の大転換が求められている。(G)

【新電力】脱炭素宣言で直面 市場変化の逆風


【業界スクランブル/新電力】

菅義偉首相は2020年10月26日の所信表明演説で、「2050年温室効果ガス排出量実質ゼロ」を表明した。これにより、さらなる再エネの導入拡大、エネルギー貯蔵開発に向けた投資支援が行われるものと考えられる。新電力への影響は甚大である。今後、さらなる再エネ導入拡大により、火力の「焚きしろ」は減少し、ミッシングマネーは増加、容量市場の重要性は高まっていくものと考えられる。

電力取引市場も大きく変化する。非効率石炭火力発電のフェードアウトにより、価格が低下する時間帯と高騰する時間帯に分かれ、価格ボラティリティが非常に大きくなる可能性が高い。デマンドレスポンス(DR)創出は容易ではないが、電源を持たない小売り電気事業者は、DR創出に向けた努力を続ける必要があるだろう。

欧州では、再エネの出力変化により前日スポット市場、インバランス価格がスパイクする事態が頻発している。今後日本でも、再エネ電源の出力変化に伴い、電力市場が大きく価格変化する事態が恒常的に発生する可能性がある。一方で、小売り電気事業者はさらなる効率化に向けた社会的要請を受けている。

20年10月30日に開催された電力・ガス基本政策小委員会において、大手電力10社における電気料金平均単価の推移が紹介されたが、燃料費の増大と再エネ賦課金導入によって、19年度の電気料金は10年度に比べて約23%上昇したと示されている(燃料費は1円上昇、再エネ賦課金は2.6円上昇)。これは再エネ導入拡大に伴い、電力業界全体でコストが上昇していることを示している。当然、再エネ賦課金抑制だけでなく、小売り電気事業者に対してさらなる効率化、それに伴う電気料金の低減が求められていると考えられる。

50年排出量実質ゼロを実現するに当たり、小売り電気事業者は電力市場の変化、さらなる効率化に向けた社会的な要請といった逆風に直面する。当然、新電力各社は生き残りに向け、次世代の小売事業の展望を描いていく必要がある。(M)

カーボンニュートラルの必須技術 CCS・CCUへの期待と課題


【多事総論】  話題:CCS・CCUの役割

カーボンニュートラル実現のためには、CO2を貯留、利用する技術も重要になる。CCS、CCUの社会実装に向けて、専門家の視点を紹介する。

<投資リスクの大きさが共通課題 技術同士の対立招かない視点が肝要>

視点A:秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構主席研究員

菅義偉首相が2050年までの実現を目指すと宣言したカーボンニュートラル(正味ゼロ排出)のためには、一次エネルギーは原則、再エネ、原子力、化石燃料+CO2回収・貯留(CCS)のみでの構成となる。完璧なエネルギーはなく、これらすべての組み合わせの追求が求められる。再エネ拡大は必須であるが、太陽光、風力発電は、間欠性の課題がある。設備コストの低下は期待できるものの、導入量を拡大していけば、条件が悪く単価が高くなるポテンシャルも利用することになるし、間欠性に対応するため、系統増強、蓄電池の導入、水素に転換するなど、さまざまな追加コストが必要になる。脱炭素電源の原子力の必要性は言うまでもないが、社会的な受容性の問題などから、その役割は限られる。そうした中、CCSの必要性が高まっている。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、05年に技術に焦点を当てた初の特別報告書としてCCSを取り上げ、その重要性を指摘した。しかし、その後のCCSの普及が早かったとはいえない。考えられる理由としては、①再エネのコスト低減が相当進んだこと、②米国ではシェールガスが普及し、CCSなしでも相応に排出削減が進んだこと、③CCSは地中を対象とするため状態の完全な把握が難しいこともあり、投資回収の不確実性が相対的に高いこと、④欧州では排出量取引制度(ETS)のオークション収入の一部をCCSに利用しようとしていたが、ETSの炭素価格の低迷により、その収入が当初の見込みよりも相当小さくなってしまったこと――などが挙げられる。日本では、CCSの実証試験が新潟県長岡市、北海道苫小牧市で行われ、多くの有用な知見が得られてきた。しかし、日本でも貯留における不確実性や、現実的な貯留ポテンシャルの点から、慎重な見方もあった。ただ、少なくとも技術的には、日本でも1500億tCO2程度ものポテンシャルがあると見積もられている。

燃料利用CCUは水素が必須 負の排出技術・DACCSも重要

一方で、CCSの課題も相まってCO2回収・利用(CCU)への期待も大きくなっている。CCUは、CO2を有効に利用するという良いイメージを持ちやすいし(実際にそうであるが)、正味ゼロ排出を目指す上での重要性は大きい。特に非電力での脱炭素化は容易ではなく、合成燃料製造のためのCCUは期待が大きい。ただ注意が必要なのは、CO2はエネルギー価値がほとんどないため、回収したCO2を使って、合成メタンや合成液体燃料として利用する場合は、エネルギー源として水素が必要な点である。そして水素も二次エネルギーであるため、一次エネルギーとしては、再エネ(グリーン水素と呼ばれる)、化石燃料+CCS(ブルー水素)のいずれかが必要となる。つまり、合成燃料用のCCUは、再エネもしくはCCSと組み合わせなければ成立しない。回収CO2は燃焼時に再び排出されるので、あくまで水素エネルギーを運ぶのを助ける役割となり、カーボンフリー水素が化石燃料を代替することによって排出削減効果がもたらされる。

CCUとしては、合成燃料のほか、化学品利用や、コンクリート部門での鉱物化もある。しかし、化学品の場合は燃料と同様に水素が必要であるし、用途としての量も限られる。鉱物化は、CCUの中では比較的経済性が高いと推計されるが、コンクリートは経年とともに自然にCO2を吸収するため、CCUの削減効果は自然吸収分を差し引くべきなので、必ずしも大きな量を稼げるわけではない。

最後に、大気中CO2の直接回収・貯留(DACCS)について触れておこう。化石燃料を脱炭素エネルギーに代替することでコストが急増してしまう部門・技術もある。そこで負の排出を実現できるDACCSを利用すると、その分だけCCSなしの化石燃料利用が許容され、あたかもCCS付き化石燃料のように取り扱えることを意味する。よって、特に正味ゼロ排出目標においてはDACCSの重要性は高いと考えられる。ただ、濃度の低いCO2を回収するのでコストは高くなりやすい。一方で、集中的なCO2排出源がなくても、貯留に向いた地点で実施でき、経済合理性の高い地点を選ぶことができるという利点がある。また回収エネルギーは大きく必要だが、世界で余剰の再エネや、将来的に余剰となる可能性もある天然ガスなどを活用することで、安価に実現できる可能性もある。

CCS、CCU、DACCSは、これらの技術間の関係性に加え、再エネや水素などとも併せた全体システムとして考えることが大変重要であって、これら技術同士が対立するような考えを採るべきではない。

あきもと・けいご 1999年横国大大学院工学研究科博士課程(後期)修了、博士。エネルギー関連の多数の政府審議会委員や、IPCC第6次評価報告書代表執筆者も務める。

SDGs経営の先駆的事例 持続的成長へリスクと機会の特定


【羅針盤】三井久明/国際開発センター SDGs室長・主任研究員

SDGsの17の目標には、社会、経済、環境の持続性に向けた課題が集約される。企業の持続的成長に向けて、何がリスクなのか、どこにチャンスがあるのかを検討する上で、SDGsは格好の参考資料となる。

SDGs(持続可能な開発目標)についての関心は着実に高まっており、企業の経営戦略を考える上で看過できない存在になっている。第二回では、なぜSDGsが民間企業にとって重要なのかについて解説した。第三回では、SDGsを踏まえたサステナビリティ経営の先駆者と見なされる4社の事例を紹介する。各社ともSDGsが登場する以前から、事業活動の社会・経済・環境面のインパクトを直視し、SDGsに資する経営が自社の持続的成長につながることを理解しているように見える。

BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)は、英国に本社があり、エネルギー関連事業を展開する多国籍企業である。

脱炭素社会への転換 脱石油キャンペーンを開始

石油やガスを主力製品とするエネルギー関連企業として、脱炭素社会への転換には強い危機感を抱いている。2000年からは脱石油キャンペーンを開始し、石油などの化石燃料依存から脱却する姿勢を示した。太陽光発電企業を買収するとともに、長年使ってきた企業ロゴを、太陽をイメージするロゴへと改め、再生可能エネルギー開発に取り組んでいく決意を内外に表明している。

環境問題にいち早く対応し、温室効果ガス削減に貢献するビジネスモデルを構築することは、大きなビジネスチャンスにつながる。同社はリスク対応にとどまらず、さまざまな分野でビジネスチャンスを広げ、業界全体にも影響を与えているように見える。例えば、排出削減につながる新しい燃料や製品を開発している。同社が開発したBPバイオジェットは、従来のジェット燃料と再生食用油を混合した燃料であり、既に欧州各地の空港において提供されている。さらに再生可能プラスチックの開発や、炭素の捕捉、貯留にも率先して取り組んでいる。

ネスレは、スイスに本社を置く世界最大の食品・飲料会社である。ベビーフード、コーヒー、乳製品、アイスクリームなどさまざまな製品を取り扱っている。同社は「共有価値の創造(CSV)」経営の先駆者であると見なされている。共有価値の創造とは、日本の「三方良し(売り手良し・買い手良し・世間良し)」に通じる考え方である。企業が社会課題の解決に対応することで、経済的価値と社会的価値をともに創造するアプローチである。

同社の事業が社会と最も深く交わる分野として、「栄養と健康」「農村開発」「水と環境保全」の3分野が特定されており、各分野で持続可能な開発に向けた取り組みが進められている。例えば、「農村開発」では、製品の原材料である農産物の安定的な確保が、中長期的なリスクとして認識されている。世界各地の農業は気候変動や水不足、労働者不足などの影響を受けて疲弊しており、農業生産は低下傾向にある。こうした傾向に歯止めを掛けぬ限り、将来、安定的に原材料を調達することが困難になる。そこで、同社は世界各地の農家へ手厚い技術指導を行い、農業経営の安定化をサポートしている。

ユニリーバは、オランダと英国に本拠を置く世界有数の一般消費財メーカーである。同社は、世界に先駆けて持続可能な開発への取り組みを企業戦略の中核に位置付けている。SDGsが登場する5年前の10年に「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を発表し、持続可能な成長を目指す新たなビジネスモデルを提唱した。「サステナビリティを暮らしの『当たり前』にすること」を自社のパーパス(存在意義)と位置付けている。

トヨタの六つの環境チャレンジ
出所:トヨタ サステナビリティ データブック 2019

このサステナビリティ経営戦略は、同社のビジネスの拡大につながっている。サステナビリティを考慮したブランドは、ほかと比べてはるかにパフォーマンスが高いことが同社調査によって判明した。その要因として、同社は「ブランドが社会・環境に与えるインパクトや、日常の消費行動を通じた自らの影響力について、消費者が強く意識するようになったこと」を挙げている。サステナビリティに配慮した製品を開発し、これを市場に提供することは、社会や環境の持続可能な開発に貢献するだけでなく、ビジネスの成功につながることが、同社の経験で示されている。

自動車業界の将来に危機感 百年に一度の大変革の時代

トヨタは、自動車業界の将来に大きな危機感を持ち、今日を「百年に一度の大変革の時代」とみなしている。自動車産業はいわゆるCASE時代に突入しており、個人が車を所有して利用するという形態が変化しつつある。そこで、同社は全ての人々にモビリティ(移動の自由)を届けることを新たな使命と位置付け、産業用ロボット技術の転用など、自社の技術とノウハウを生かしつつ、社会分野の新たな事業機会を開拓している。

地球温暖化への危惧も同社にとっては明らかなリスクである。自動車は利用時のみならず製造過程でも大量の温室効果ガスを排出する。脱炭素の流れに対応できない企業は、中長期的に持続可能ではない。そこで同社は、15年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を公表し、クルマの環境負荷をゼロに近づけるとともに、地球・社会にプラスとなる取り組みを通じて、持続可能な社会の実現に貢献することを表明している。

SDGsの17目標の中には、社会、経済、環境の持続性に向けた課題が集約されている。企業の持続的成長に向けて、何がリスクなのか、どこにチャンスがあるのかを検討する上で、SDGsは格好の参考資料となる。拙著『SDGs経営の羅針盤』にはSDGsの経営活用のステップが解説されている。サステナビリティを踏まえた企業戦略を構築する上で活用していただければ幸いである。

みつい・ひさあき 早稲田大学政治経済学部卒、英国サセックス大学大学院開発学修士課程修了。政府開発援助に資する調査研究・技術協力業務に従事。GRIスタンダード認定講師。早稲田大学理工学術院非常勤講師。

【第1回】SDGsとは何か 持続可能な開発の意味

【第2回】民間企業にとってなぜ重要か SDGsに積極的に取り組む理由

【電力】排出枠に言及 経産省のサプライズ


【業界スクランブル/電力】

このところ、政府の政策決定が、審議会の議論の積み上げという従来の枠組みから、大きな方向性をトップダウンで決め、審議会は方向性を追認し詳細設計を行うというやり方にシフトしているようだ。菅義偉首相が2050年カーボンニュートラルを宣言して以降、その動きは加速しているようで、20年12月上旬の日本経済新聞だけでも驚くような見出しの連発だった。

「新車販売、30年代半ば全て電動車に 経産省目標」(12月3日)、「自動車に排出枠取引制度 20年代後半、販売目標課す」(4日)、「水素を30年に主要燃料に 目標1000万t、国内電力1割分」(8日)、「電力会社に排出枠 経産省検討、再生エネ拡大促す」(10日)といったところだ。観測気球の可能性もあるが、関連業界は気が気ではないだろう。

50年カーボンニュートラルをまじめに達成するつもりなら、経済社会の大変革は不可避である。かつ自動車にせよ発電所にせよ建築物にせよ、ストックの大きい分野は今から方向性を決断して実行に移さなければ50年には間に合わないから、このような一見拙速に見える政策決定にシフトするのはやむを得ない面もありそうだ。

加えて、環境省との関係で以前ならNGワードだったであろう排出枠取引制度という言葉が、経産省から出てきたことも驚いた。健全な炭素価格議論の地合いが整いつつあるのであれば、喜ばしいことであるが、自動車と電力に排出枠とは、経産省の裁量が及ぶ範囲で安易に考えているのではないかという疑問も湧く。経済活動全体をカバーし、エネルギー選択に中立的に働く炭素税が本命であるべきだ。

特に、これから電化を強力に進めることが求められているのに、電力会社に排出枠はいただけない。欧米の一部の国で実施されているような「新築住宅にガス管敷設禁止」とセットにするならまだしもだが、これで最終消費におけるガスや石油の直接燃焼に制限が掛からなかったら、単に電力需要を縮小するだけで終わってしまうだろう。(T)

公害のない太陽光発電に全力 動植物への悪影響も防ぐ


【私の経営論】吉富政宣/吉富電気代表取締役

太陽光発電設備の設計・施工に取り組み始めて30年余りになる。将来の石油の枯渇が叫ばれ、国産エネルギーとして太陽光発電が脚光を浴び始めた頃のことである。

その頃、北アルプスの山小屋では、太陽光発電による独立電源の試行錯誤が続けられていた。大学卒業後そこに参加し、物に触れ、その働きを体感することが私の経験の始まりとなった。

当社は技術者不足の頃に、個人事業として創業した。やがて法人化を果たしたが、そのきっかけは、事業拡大ではなく大手メーカーとの商取引の要件であったからという消極的なものだった。

経営学と経済学の違い 自然調和と万人利益

私の関心事は経営ではなく、経済であった。経営と経済とは、互いに反対の目的を持っている。経営は私益と独占の科学、経済は公益と分配の科学である。あらゆる取り組みは、自然との調和、万人の利益を目指すものでなければならない。私は「巨大独占資本からの自由」「エネルギーの自給自足」「持続可能性」といった経済学の大きな思想に魅せられていた。

仕事の勉強は徹底的にやった。最初は、一人前の電気屋と認めてもらうために電気数学に取り組んだ。でも、電気数学さえできればそれでいいのかというと違う。

形ある物を作る際には、目的に応じた機能とともに危険も作り込まれる。太陽電池架台にあっても同様である。

計画中の架台がいかほどの強風に耐え、いかほどの豪雪に耐えられるかも分からないようでは困る。私は自ら構造計算を行って耐力が外力を上回ることを確認するが、これは、顧客を安心させ受注を容易にする動機からではない。専門外だからといって外注任せで製作した架台が倒壊し、周辺住民にけがをさせることがあってはならないという考えからだ。

風工学・雪氷工学・構造力学といった公害防止に必要な物理学は、のちに基準改正の委員を務め、後進の指導に当たるほどまで力を付けた。

ところで、こうした物理学上の正しさが社会生活上の適切さを保証するとは限らない。何万年に一度という風水害にもびくともしない要塞並みの太陽光発電設備など、誰も欲しがらないだろう。問題はどこで安全と不安全とを線引きするかだ。その答えを導こうとするのが法律だった。法学もよく勉強し、改正FIT(固定価格買い取り制度)法の策定にも貢献させてもらった。

なお、この改正では、太陽光発電以外の他法令も順守することが認定要件であることが明確化された。それまで業者都合でつまみ食いの法解釈が行われていたことが、公害と環境破壊の原因となっていたことへの対策である。

電気・構造・法学。ここまでやれば鬼に金棒。私よりも広くかつ細やかに見えている者がほかに見当たらなくなった頃、外国政府、そして、国や県の機関からも問い合わせが来るようになった。気が付いたら食うには困らないところまではたどり着いていた。

昨今、メガソーラーをはじめとする地上設置型太陽光発電による自然環境破壊が取り沙汰されている。公害を防ぐだけでは不十分であり、開発予定地に生息する動植物に悪影響を与えない取り組みが求められている。

研究者や役所の職員と共に開発予定地の調査と保全を行う

環境アセスメントの重要性を訴えようとしているのではない。開発が決まってからのアセスは手遅れであり、むしろ自然破壊の片棒を担ぐようなものだと思える。場当たりの調査では、土に埋もれた希少植物の種子が発芽チャンスを待っていることは分からず、目にする時期の短い昆虫の存在を見逃してしまうかもしれない。

【マーケット情報/1月11日】原油急伸、サウジ減産で買い強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

11日までの一週間の原油価格は、主要指標が急伸。サウジが追加減産を決定したことで、買い意欲が強まっている。ブレント先物価格は8日、55.99ドルの終値となり、昨年2月以来約10か月振りとなる高値更新となった。

サウジアラビアは5日、2月および3月の原油生産量を追加で日量100万バレル減産させると表明。その翌日には米エネルギー省が同国の原油在庫量の大幅減少を発表した。市場では供給ひっ迫感が一気に強まり、買い優勢、価格の上昇につながった。

ただ、日本を含む世界各国でロックダウンが相次ぎ、経済の先行き不透明感が強まっていることが上値を重くしている。また昨日、国際通貨基金(IMF)は原油の主要消費国である中国の経済成長が「依然として不安定」との見解を示したことも、警戒材料となっている。

【1月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=52.25ドル(前週比4.63ドル高)、ブレント先物(ICE)=56.66ドル(前週比4.57ドル高)、オマーン先物(DME)=55.24ドル(前週比2.69ドル高)、ドバイ現物(Argus)=55.22ドル(前週2.78ドル高)

【コラム/1月11日】予知保全の評価


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

 電力設備の保全方式として、わが国では、予知保全(predictive maintenance)の考え方が受け入れられるようになってきている。予知保全とは、設備に遠隔から監視するセンサネットワークを構築し、これらセンサ群により収集した情報から故障の予兆を発見・推定する考え方である。定期的に検査・保守を行う時間計画保全から「壊れる予兆が出たら」取り換えるという保全方式への転換により、供給信頼度を維持しつつ保守コストを抑制することができる。

 デジタル化の進展とともに、予知保全が注目されるようになってきているドイツの電気事業で、この予知保全はどのように評価されているだろうか。予知保全は、大手の電力会社での適用例はあるが、現段階で、シュタットヴェルケでは広まりを見せていない。実際には、状態に基づく保全のほうが明らかに広範囲に用いられている。ここでは、保全のための予測は使われておらず、リアルタイムでのセンターの通報により対応している。すなわち、専門家の経験値により対応している。双方の保全ともに、一定期間に予め決められたプランで設備の保守を行う従来のサイクルベースの対応を回避でき、保守コストの低減が図られる。

未だに状態に基づく保全が多く用いられていることは、シュタットヴェルケの多くの専門家は、状態に基づく保全と比べて予知保全の費用対効果が今一つ明確でないと考えていることを示している。しかし、将来的には、予知保全は、その費用対効果が向上するにつれ、状態に基づく保全に取って代わるようになることは確かだろう。

 電力だけでなく、ドイツの産業全体で見たときも、現段階では、予知保全の適用は限定的である。Staufen-Neonex社の調査によると、「予知保全に関しては、残念ながらデタラメレベルが非常に高い」とのことである。同社が、製造業394社を対象に「予知保全の状況」を調査したところ、 3分の2の企業は、すでにそのようなソリューションを使用している、あるいは少なくともそう思うと回答している。しかし、よく調べてみると、多くは、せいぜい状態監視、つまり、センサや予測アルゴリズムを使わずに、純粋に機械の動作を観察しているだけとのことである。また、「現在市場に出回っている予知保全のパフォーマンスをどのように評価しますか」という問への回答の74%は、利用可能なアプリケーションは改善可能であると考えているか、その有用性はまだ低いと考えており、パフォーマンスが高い、または非常に高いとの評価はわずか6%に過ぎなかったとのことである。

多くの企業は、欠陥が発生しているときにしか反応しないが、Staufen-Neonex社のシニアパートナーJochen Schlick氏によると、「ほとんどの故障は損耗によるものではなく、ヒューマンエラー(工具が適切に調整されていないなど)によるものであり、これらのエラーをすべてなくすことができて初めて、予知保全を考える価値がある」とのことである。

 電力設備は安定供給が至上命題なので、ヒューマンエラーはまず考えられないだろう。しかし、予知保全が状態に基づく保全に取って代わられるようになるには、その費用対効果が明確に示されることが必要であることは確かなようだ。デジタル技術を駆使した革新的なサービスは、やがては広範囲に用いられるようになるとしても、その導入初期段階においては、過大評価されている可能性があるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【コラム/1月5日】日本はカーボンニュートラルで何を目指すのか?


福島 伸享/元衆議院議員

菅首相が10月26日の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」とぶち上げて以降、にわかに「カーボンニュートラル」すなわち温室効果ガスをネットでゼロにすることがブームになっている。日本人の特性なのかもしれないが、こうして一斉に同じような方向を向いて多くの情報が流れてくる時こそ、冷静に現実を見据えなければならない。

まず第一に、日本がカーボンニュートラルを目指す目的を明確にしなければならない。言うまでもなく、1992年の気候変動枠組条約の採択によって国際的に温室効果ガスの削減に取り組む取り組みが始まり、1997年の京都議定書、2015年のパリ協定によって削減に向けた具体的な枠組みが定められているが、これらの条約交渉の過程で繰り広げられたのはまさに国益と国益のぶつかり合いであり、自国がいかに利益をあげられるかという観点から国際ルールや枠組みが作られてきた。言い換えれば、国際ルールや枠組みという土俵をうまく利用して、自国産業が利益をあげることを目指してきた。学校の校則のように、単にルールを守ればいいというものではないのだ。

今、世界中で再生可能エネルギーなどカーボンニュートラルに関連する新たな産業が勃興しているが、これらは京都議定書以降に作られた国際ルールや枠組みという土俵の中の競争であり、風力発電やグリッド技術など多くの分野ですでに日本は欧米各国のみならず中国などの新興国にも大きく遅れを取っている。技術や産業のみならず、石炭火力の位置付けなど規制や制度の分野でも、ドッグイヤーの世界のエネルギー政策の分野で周回遅れとなっている。菅総理は、所信表明で「世界のグリーン産業をけん引」などと言っているが、井の中の蛙か厚顔無恥でない限り、こんな恥ずかしいことを総理に言わせる原稿は書けないだろう。

 だから、私は、カーボンニュートラルを掲げるのであれば、今の世界の中の日本の位置や現実を冷静に見つめた上で、2050年までに一体今の状況から日本の産業構造やエネルギー供給構造をどのようなものにして、それが世界の中でどのような位置を占めるものになるのか、政策目的を明確に示すべきであると言っているのである。

 その第一歩になるのかどうかわからないが、12月8日に閣議決定された第三次補正予算では、コロナ禍に対応する喫緊の財政需要があるにも関わらず、「グリーン社会の実現」という項目で目玉政策として大盤振る舞いがなされている。しかし、その中身を見てみると、「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発事業」などの旧来型の政府主導型技術開発予算や、各省ごとの「海事・港湾分野のカーボンニュートラルの推進」、「畜産バイオマス地産地消対策」「産業・業務部門における高効率ヒートポンプ導入促進事業」といった補助的事業の羅列である。この30年間にすでに失敗したか、成果の見られない政策の延長の先に一体何が生まれるというのか。

 カーボンニュートラルの実現とは、国際ルールや枠組みを利活用した自国産業の発展である。それを実現するための政策は、たとえば膨大なグローバルマネーを活用した民間による技術開発や世界的な企業のアライアンスを促進するための環境の整備であり、あらたな科学技術をいち早く社会において活用するための前例にない社会的な規制や制度の創設である。総合的な戦略の下、それらの政策を相互に結び付け、自国に有利な土俵を作るための国際交渉を行うことこそが政府の役割である。平成の30年間に、ITだバイオだと惰性で繰り広げられ成果を上げてこなかった政策の延長に、日本の未来は何もない。2050年に、日本の温室効果ガスの排出は著しく減ったけど、日本の産業も著しく衰退して、アジアの二流国になっていたということにならないようにするためには、相当な危機感をもってこれまでの政策体系そのものを転換し、政策立案の仕方そのものも変えなければならない。残念ながら、これまでの菅総理の言動や政府が打ち上げられる政策からは、そのような兆しは見えない。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。