一時は予備率マイナス見通しのエリアもあった今冬の電力需給は、関係者の対応で辛くも3%を死守した。
ただこれで安心という水準ではなく、根本的な対策は示されないまま、電力危機が常態化している。
一昨年冬の電力ひっ迫以降、高需要期はもとより、端境期でも需給が危ぶまれる状況が相次ぐ中、政府が11月1日、今冬の電力需給対策を決定した。当初は東京エリアで1、2月に予備率がマイナスとなるなど、多くのエリアで安定供給に必要な最低ラインの3%を下回り、これまで以上に厳しい見通しとなっていた。
その後、各事業者が供給力確保などの対策を積み重ね、一番厳しい時期、エリア(東北、東京)でも4%台を確保できた。3月の福島県沖地震の影響で停止していた相馬共同火力の新地発電所1号機が発電を再開したほか、補修計画の変更、一般送配電事業者が実施するkW公募、原発の特重(特定重大事故等対処施設)設置工事の前倒しなどを講じた結果だ。
危機の経験重ね対応拡充 エリア全体の対策も深化
政府は供給対策だけでなく、需要側にも節電協力の呼びかけやDR(デマンドレスポンス)の普及などを働きかけ、今夏に続き、多くの小売り事業者がDRサービスを提供する。いざという時の調整力というより、「夏冬のDRを習慣づけ、特に太陽光が沈んだ際の需給が危ない、との認識が定着することが大事」(電力関係者)と、需要家への啓もう的な役割が期待されている。
関係者は今冬、昨冬・今夏よりも手厚い対応を実施する方針だが、具体的にはどう備えているのか。特に需給が厳しい東京エリアを抱えるJERAの野口高史・最適化統括部長は「供給対策としては、これまで以上に厚めに火力をラインナップするように準備してきた。今冬、kW公募で落札した供給力は、昨冬より200万kW弱増えている」と説明する。東京エリアは姉崎5号と6号、中部エリアは知多5号、知多第二の1号、四日市の4軸、5軸を追加供給力として確保している。
さらに、「営業運転が開始される2月までは安定的な供給力としては見込めないが、リプレース中の火力が約660万kWある。試運転中の姉崎新1号(65万kW)など、必要に応じて活用したい」と続ける。計画外停止の未然防止策も重要であり、①事前の不具合を取り除く、②予兆を見逃さない、③停止となった場合は早期復旧―といった基本的な対策を徹底することに尽きる。

提供:JERA
他方、燃料確保については、追加kW時公募で12億kW時、LNG船3隻分約18万t相当を落札しており、東京・中部エリアに全量玉出しする。こちらも昨冬、今夏と増加傾向だ。加えてJERAグローバルマーケッツ(GM)を活用した機動的な調達も図る方針。
そしてJERAは昨冬以降、エリア全体の安定供給の確保に向けた見直しにも着手している。東京エリアでは、JEPX(日本卸電力取引所)への玉出しに関して入札主体を東京電力エナジーパートナー(EP)からJERAに変更。スポット市場の入札価格に反映する限界費用の考え方を、追加的なLNGの調達価格を考慮するようにした。加えて、東電EPとの契約内容も見直し、EPからの通告変更のタイミングを前倒しし、EPへの供給力を早めに確定するようになった。「こうした対応で、基本的にはエリア全体で玉切れを起こさないようになった。ただ、米フリーポートでの火災に伴う供給支障といった不確実性も考えれば、同様の取り組みを全国大に広げることも重要になる」(野口氏)。
さらなる備えとして、電力・ガス間の連携強化も大事な視点だ。
今までも事業者の判断で業界の枠を超えた融通を実施してきたが、11月21日の燃料調達に関する官民連絡会議でも、改めて地域内連携を強化することを確認。全国的に燃料在庫を比較的高いレベルに維持することを目指す。
「需給対策は毎回ステップアップしており、政策にも同調している」(同)。ただ、kW公募などによりコストの回収可能性は高まっているものの、例えば容量市場で供給力を確保していくのは24年度以降で、費用回収の仕組みは限られている。さらに、公募で募集をかけるタイミングは高需要期の3~4カ月前で、設備によっては準備が間に合わない可能性も。予見性をさらに高めることが求められている。
対処療法より根本治療を CNとの両立どう克服?
関係者は目の前の危機に対し、できる限りの策を講じている。ただ、これらはあくまで〝対処療法〟だ。「全体の予備力をきちんと確保するというより、今は額面の帳尻合わせをしている状態だ」(電力関係者)。例えば今冬の予備率の状況では、仮に需要が少ないエリアで突発的に大型電源が脱落するようなことがあれば、一気に10%近く落ちる可能性もある。
求められるのは、電力危機を繰り返さないための〝根本治療〟だ。「本来なら高需要期のリスクはBG(バランシンググループ)が、稀頻度リスクは系統運用者がそれぞれ責任を負うべきだが、そのバランスが崩れている。改善に向けた議論は進んでいるものの、それぞれの役割分担を今一度見つめ直すことが重要だし、これらの範疇を超えたロシア危機のようなリスクもある」(JERA野口氏)。リスクごとの性質に合わせた対応を日本全体で考える必要がある。
中でもカーボンニュートラル政策との相性の悪さは深刻だ。政府は非効率石炭火力への対応で、一定の退出や稼働抑制を促す規制などを設けたが、関係者は石炭火力の過度な退出が進みかねないと警鐘を鳴らし続けているし、「DRや節電があれば火力が退出してもよい」と錯覚されることを懸念する声もある。振り返れば、1979年の第二次オイルショックを機に政府は石油専焼火力の新設を禁止。設備の老朽化と減少が進み、内航船などのサプライチェーンも失われた。このままでは、石炭火力で同じことを繰り返しかねない。
今冬を乗り越えた後、政府は需給検証を行う予定だが、その際に電力危機の本質的課題にどこまで踏み込むのか。それができなければ、GX(グリーントランスフォーメーション)の実現は遠のくばかりだ。










