<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名
冬の需給ひっ迫にかかわらず、今年度の夏、冬も電力不足の可能性があるという。
新聞各紙も問題視しているが、どう解決するか正面から向き合う論説は少ない。
―今年の冬に電力需給ひっ迫があったにもかかわらず、夏も需給が危ないという。梶山弘志経産相が会見で厳しい見通しを明らかにしている。
電力 自由化の進展で競争が激しくなり、電力会社は効率の悪い老朽火力を廃止していく。一方、再エネの拡大は止まらず。原発の再稼働も遅々として進まない。すると需給が厳しくなることは必然で、誰もが分かっていたはずだ。
―「ならば、なぜ火力のリプレースを進めなかったんだ」という批判がある。
電力 福島事故で原子力規制委員会の規制が厳しくなって、原発の安全対策工事に膨大な費用がかかった。それで、火力のリプレースにまで手が回らなかったことがある。そのうちに脱炭素の潮流が急速に強まって、石炭火力は新設が難しくなっていった。
ガス 経産省は、「2024年からは容量市場が始まる」と繰り返している。「それまでは辛抱しろ、何とかしのげ」ということだろう。だが、関係者には「容量市場で需給のバランスが取れると思ったら大間違い」という人もいる。
結局、新型コロナ感染防止でのワクチンに匹敵するのは、原発の稼働しかない。ところが、希望の星だった柏崎刈羽原発が核物質防護体制の不備などで当面、再稼働がおぼつかなくなった。ほかに近々新たに再稼働しそうな原発は見当たらない。当面、今の状態が続きそうだ。
石油 6月8日の国会で、国民民主党の浜野喜史議員が需給ひっ迫について、「電力システム改革、自由化、再エネ大量導入の当然の帰結」と指摘している。その通りだ。もし停電が起きたら、それらを進めた経産省の自業自得というしかない。
原発報道の変わらぬ構図 朝日・東京の思想信条
―梶山大臣の発言もあり、マスコミも需給ひっ迫の問題を取り上げている。原発の扱いを巡っては意見が分かれている。
石油 やはり、朝日・毎日・東京対読売・産経の構図だ。朝日は社説(6月2日)で、「中長期的に需給を安定させる抜本策を講じる必要がある」とした。まったくその通りだ。
ところが続いて、大量のCO2を出す古い火力は頼みにできず、原発もリスクの大きさや国民の不信、廃棄物の問題から「当てにするわけにはいかない」と書いている。結局、結論は「再エネの拡大を急ぐべきだ」になる。
マスコミ 今年のゴールデンウィーク中の5月3日、四国電力で太陽光の出力(232万kW)が需要(229万kW)を上回った。四電はエリア外送電などで、何とか停電を回避した。
ところが2週間後、悪天候で太陽光はストップ。今度は関西電力から50万kW融通してもらっている。火力発電のトラブルなどが起きて、本州側の電力会社に余裕がなかったら、四国の電力供給は危なかったかもしれない。
―四電は供給力確保に血眼になったはずだ。
マスコミ 不思議なのは、朝日の記者・編集者が、このまま再エネが野放図に普及すれば、こういったことが全国で頻繁に起きることを理解しないことだ。あるいは、分かっていながら書かないのかもしれない。ならば、本当にたちが悪い。
電力 東京新聞に至っては、「電力不足への対応が原発再稼働につながらないよう、厳しくチェックすることも必要だ」と書いている。こうなると、もう客観的事実は意味がない。再エネ推進・反原発は思想信条に近い。
マスコミ それと同じことを、日曜日朝のTBS系「サンデーモーニング」で、造園家のWさんも言っていた。地上波は影響力が大きいから、自分の「思想」を述べるのはやめてほしいと思うけど、無理だろうな。
日経のあいまいな論説 再エネ偏重を見直し?
―日経も編集方針がよく見えなくなった。
電力 6月5日の社説で「中長期で供給力を安定的に確保する仕組みを整えなければならない」と書いている。続いて読んでいて「おやっ」と思ったのは、再エネに触れていないこと。あいまいな内容だけど、要するに高効率の天然ガス火力の建設を増やすべきだと言いたかったようだ。
マスコミ 無責任な社説だね。日経の記事は再エネ偏重で、再エネ関連の広告も多い。だけど、このまま増えていけばかなりの調整力が必要で、コスト面からもまずいことが分かったんじゃないか。
かといって、原発の役割は書きたくない。さらにSDGs信奉で「火力に頼らざるを得ない」とも書けない。それで結局、CO2排出が比較的少ない天然ガス火力に落ち着いたんだろう。
―一方、原発に理解のある読売・産経は。
石油 読売の社説(5月31日)は、「太陽光発電は天候に左右され、供給を不安定にする一因となっている」「出力が安定している原発の利用が有力な選択肢だ」と書いた。さらに、「国民に原発の必要性を説き、理解を得るのは政治の責任」とも主張している。
産経も主張(5月27日)で「安全性を確保した原発の早期再稼働を含め、安定電源の確保が急務」「基幹電源として活用できる原発の再稼働は当然」と書いている。
―電気事業にある程度理解があれば、正論だと思うだろう。だけど、国は動くだろうか。
電力 菅政権の支持率が低下している。総選挙で「自民党は50議席減らす」との分析もある。すると当然、不人気な原子力政策には触れなくなる。残念だが、政治・行政には期待できない。
―すると、また何も変わらずか。