【イニシャルニュース】 COMSのモデルは? 『日本沈没』の裏事情


 COMSのモデルは? 『日本沈没』の裏事情

「わが国は地球物理学の権威、世良教授のもと、50年にCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、本格的な取り組みを進めてきた。それが『COMS』だ。9000mの海底岩盤の隙間に存在する、CO2を出さないエネルギー物質『セルステック』を、パイプを通して抽出するシステムが稼働した。セルステックの埋蔵量は日本のCO2排出量の120年分といわれ、これによりCO2排出量は飛躍的に抑えられることになる」

これはTBS系日曜劇場『日本沈没 希望のひと』の初回冒頭のシーンだ。俳優の中村トオルさん演じる東山首相が世界環境会議の場で、新エネルギーシステム『COMS』を発表、世界の温暖化対策をリードする決意の表明からドラマがスタートする。

1973年に刊行された小松左京氏の同名小説を、21年版にアレンジ。原作では日本沈没の口火を切った伊豆諸島の小島の沈没を自然現象として描いているが、ドラマではCOMSの稼働が海底プレートを刺激し、関東沈没を誘発していくストーリーに仕立てている。

COMSはもちろん架空のエネルギーシステムだが、業界関係者から見ると、どことなくメタンハイドレートやCCS(CO2の回収・貯留)を彷彿とさせる設定になっている。そんな中、エネルギー関係者X氏から興味深い話を聞いた。以前、某エネルギー団体に制作会社側から「CCSを題材にしたドラマを作りたいので詳しく教えてほしい」との問い合わせがあったというのだ。

つまり当初は、プレート崩壊の原因としてCCSを想定していたらしい。確かに、18年9月に発生した北海道胆振東部地震を巡っては、震源地近隣でのCCS実証が影響したのではないかと報じたメディアがあった。結局、CCSのイメージを大きく損ねると判断されたのだろうか。この案は見送られ、COMSに取って代わったようだ。

肝心のドラマは初回視聴率が15・8%(ビデオリサーチ調べ)と上々の滑り出し。霞が関を舞台に繰り広げられる官僚と政治家の駆け引きなど見どころ満載で、今後の展開から目が離せない。

小泉前大臣に寄せ書き 環境記者が異例の対応

菅政権の退陣に伴い、小泉進次郎氏が約2年間務めた環境相の任から外れた。この間、石炭火力輸出方針の見直し、原子力政策への言及、再エネ規制緩和、2030年46%減目標、カーボンプライシングなどを巡る発言の数々が大きく注目されてきた小泉氏。小泉氏が環境省を去るのと同時に、同省の記者会から退会する記者も多かったそうで、メディアの注目度の高さを物語っている。

そんな小泉氏は最後の閣議後会見でこの間の歩みを振り返った際、自身の成果を語った後、記者との思い出話に触れた。特に専門紙のベテラン記者であるK氏(K紙)とS氏(E誌)の名前をたびたび口にし、「環境省の今までの歴史をずっと見てきた方々から鍛えられて始まった、あの2年前の会見を忘れることはできない」「温かくこの2年間で鍛えていただいた、育てていただいたという思い」などと感謝を述べた。

さらに新大臣へのアドバイスを問われた際にも「K氏とS氏の話をよく聞いた方がよいと思う」と強調した。記者サイドも、小泉氏に寄せ書きを贈るなど異例の対応で2年間の重責を労った。

なお、小泉氏は「今後も立場を超えて環境行政に継続的に取り組んでいきたい」とも語っている。今後、どのような発言をしていくのか、引き続き注目したい。

環境省の記者には人気があった

太陽光に「反社」の影 FIT制度を悪用か

全国的な問題として広がりを見せている、山間部などでの太陽光発電所の乱開発。今夏も日本各地で、台風や豪雨の影響で太陽光パネルが損壊するなどの被害が相次いだ。のべつまくなしの開発の結果、日本の美しい里山が次々と破壊されていく様子は、目を覆うばかりだ。また自然災害の誘発は地域住民の生命をも脅かし始めている。

こうした中、反社会的勢力が太陽光開発に群がっている実態が、取材を通じて浮かび上がってきた。例えば、全国でメガソーラー事業を展開しているA社を巡っては、かねてから地元とのトラブルが頻発している。

「住民説明会がおざなりだったり、工事がずさんだったり、法令違反を犯したりと、とにかく問題だらけ」。乱開発問題に詳しいZ氏は、語気を強めてこう話す。「いろいろと調べていくうちに、A社の幹部が反社組織とつながりのある可能性が浮かび上がってきた。地元議員ら政治家との関係も深い。全国から寄せられる情報を踏まえると、こうした事例は氷山の一角だ」

もちろん太陽光事業者の多くは真っ当な企業である。温暖化防止に貢献するため、地域に根差したインフラビジネスを展開している。その一方で、参入障壁の低いFIT制度を悪用し、環境破壊もいとわず金儲けを企んでいる企業があるのも事実だ。

「サラ金やマルチ商法などでしのぎをやっていた連中が、太陽光ビジネスに目を付けた。国は傍観せず、早いとこ手を打たないと、取り返しのつかない事態になりかねない」。元警察関係者のQ氏は、こう警鐘を鳴らしている。

防災業務を一元化する専門部署 備えへの意識を高め早期復旧を目指す


【中国電力】

新設された保安防災部・防災グループは、非常時の災害情報を収集・集約・発信する役割を担う。

スムーズな復旧のために平時からの社内の意識付けや、人材育成にも取り組んでいる。

中国電力ネットワークは今年4月、「保安防災部」を新設した。防災の主管箇所となる「防災」グループの他、「保安」「配電研修」「送変電研修」の四つのグループから構成され、部には34人が所属している。

分社前の2019年12月、「非常災害対策室」を大幅リニューアルした。中国地方に甚大な被害をもたらした、18年7月の西日本豪雨の災害対応の経験を踏まえた対策だ。大型モニターやTV会議システムを完備し、災害対策本部と復旧活動にあたる現業機関との確実な情報共有のため、ICT(情報通信技術)を活用した支援ツールも数多く導入した。また、毎年実施している総合防災訓練での気付きを防災関連システムに継続的に反映させてきた。

さらに、近年激甚化する自然災害への対応強化と昨年6月の「エネルギー供給強靭化法」の施行による電力業界に対するレジリエンス強化への社会的要請の高まりを受け、防災の専門セクション「保安防災部」の新設に踏み切った。防災に関する専門部署の設置は、大手電力では初めての取り組みだ。

防災の中枢となる司令塔 的確な判断が早期復旧に

防災グループは平常時には、非常時に備えた社内体制整備に従事する。例えば、防災に関する社内ルールの策定・改正、災害時に一体となって対応する全社総合防災訓練の企画・運営を行う。また、自治体や自衛隊、海上保安本部、NEXCO西日本との連携や協定が非常時に有効に機能するための関係づくりや共同訓練実施にも力を注ぐ。昨年7月に一般送配電事業者10社で国に提出した「災害時連携計画」に基づく一般送配電事業者間での相互応援など、新しい法制度に対応したマニュアルの更新も重要な仕事だ。

今年の総合防災訓練は部署設立後、わずか2カ月で行われた。同グループは災害時連携計画を念頭に、他電力への事前の応援要請や自治体へのリエゾン(情報連絡要員)派遣、自衛隊や海上保安本部への協力要請などを訓練シナリオに盛り込んだ。新しい制度や協定が有効に機能するかを検証するためだ。訓練は台風による設備被害を想定。社員が現地でドローンを操縦して故障箇所を撮影し、本社の非常災害対策室でリアルタイムに確認した。停電箇所や被害現場で復旧作業に当たる社員が撮影した写真や、高圧発電機車の位置情報をウェブ上の地図に表示。即座に復旧活動の情報を共有した。

総合防災訓練では社員がドローンを操縦し撮影した

訓練から2カ月経った8月、中国地方では、台風9号と線状降水帯を伴う記録的な豪雨といった災害が続いた。台風9号の際には、波が高く民間船は欠航したため、海上保安本部との協定に基づき、島根県隠岐諸島へ復旧応援要員を搬送した。豪雨では、同じく隠岐諸島で土砂崩れの発生により、1200戸を超える住宅が停電する事態となったが、1000kVAの高圧発電機車をフェリー輸送。即日の停電解消を実現した。この時も、位置情報をリアルタイムで地図上にマッピングするシステムを活用した。本社の対策本部で高圧発電機車が現場に到着するまでの一部始終を見ながら、現業機関における復旧計画の遂行状況を確認することができた。

非常時には司令塔として、情報を的確に収集・集約・発信する判断力が求められ、非常災害対策本部を運営する中心的役割である情報班として行動する。8月の台風襲来や豪雨の際にも、復旧活動に関わる情報を総本部速報として取りまとめ、社内に随時発信した。

同グループの小方美和マネージャーは「災害時は、土砂崩れや河川氾濫などのテレビ映像が次々と報道される。そのような状況下で自社の設備状況に関する迅速な情報発信は、社内関係者の安心と確実な状況判断につながった」と、部署が果たした役割を振り返る。

停電情報を知らせるアプリも提供

同グループでは週3回、中央給電指令所と日本気象協会との気象情報共有のためのオンライン会議にも参加。台風の接近や大雨の予報などの気象情報をもとに、離島への復旧要員の事前派遣など、災害対応への準備を全社的に指示することも重要な防災業務だ。

リエゾンの育成にも注力 専門部署で細やかに対応

一方で同グループは、自治体との調整力を持ったリエゾンの育成にも力を入れている。非常時に自治体などに派遣または駐在し、自社の対応状況を情報提供しながら必要な応援を依頼したり、自治体からの要請を自社に伝え、連携が最大限に機能するよう橋渡しをする重要な役割だ。

新たな試みとして、リエゾンに任命された社員を対象にした研修を企画した。研修では、リエゾンの役割や派遣の流れ、情報連絡経路、持参物など事前準備の具体的な実施事項の説明を行った。また、西日本豪雨災害や広島市土砂災害で実際に復旧活動を経験し、リエゾンという用語がまだ使われていなかったころに自治体との調整・対応に従事したOBを講師として招き、体験を語ってもらった。オンラインや動画配信を通じて200人以上が参加し、リエゾンの役割についての貴重な学びの場となった。

小方マネージャーは、部の新設が全社に防災を強く意識させるきっかけになったと感じている。「平時から非常時まで防災を一元的に取りまとめる組織として社内外の期待に応え、保安防災部の存在価値を高めていきたい」。今後のさらなる活躍に期待がかかる。

非常災害対策室での小方美和マネージャー

世界同時電力危機の実態 脱炭素で脆弱化する供給力


新型コロナウイルス禍で停滞した社会・経済からの復活を図る世界を、エネルギー危機が襲いかかっている。

性急すぎる脱炭素シフトが危機を助長しているとの声が上がるなど、移行期の戦略の重要性が再認識されている。

 北半球が本格的な冬を迎えるのを前に、世界各地で電力供給が危機的状況に陥っている。再生可能エネルギーの出力減少や異常気象など要因は複合的だが、最も影響が深刻なのが化石燃料資源の需給ひっ迫と価格高騰だ。今年に入り、新型コロナウイルス禍からの経済回復で化石燃料需要が軒並み急増。ところが、昨今の上流開発への過少投資があだとなり、供給が追い付かず争奪戦の様相を見せている。

歴史的な石炭高騰が誘因 広い地域で停電や供給制限

中国では、歴史的な石炭価格高騰で広い範囲で電力不足の状態にある。昨年10月に豪州産の輸入を禁止したのに加え、相次ぐ炭鉱事故に伴う安全基準の強化や、CO2排出抑制のために国内生産の停止、縮小が進むなどし、旺盛な石炭需要を賄いきれていない。

そして電力会社は、政府による料金の統制を受けているため燃料費増分を自由に需要家に転嫁することができない。赤字幅が膨らむことを憂慮した電力会社が燃料を買い控えた結果、9月末には全31のうち20の省などで停電や供給制限するに至った。

この事態を打開しようと、中国政府は石炭の生産増強に踏み切り、電力会社による料金値上げも認めた。さらに、港湾に保管されたままの豪州炭の通関を許可。10月に入ってからも、産炭地での豪雨被害により操業停止が余儀なくされており、電力不足回避に手段を選んではいられないようだ。

一方で中国は、石炭の代替としてLNGの調達を拡大。これが、北東アジア向けLNGスポットの指標価格であるJKMの高騰を引き起こし、10月6日には100万BTU(英国熱量単位)当たり56ドルと過去最高値を付けた。

この結果、深刻なガス不足が一層加速してしまったのが欧州だ。昨冬の厳しい寒さで消費が予想以上に進み、今冬に向けガスの地下貯蔵が十分回復しきれていない。スポット調達に買い負けたままでは、来年早々にもガスが枯渇しかねないと、各国は警戒感を強める。

欧州の天然ガスの指標価格であるオランダTTFは、11月渡しの取引で1MW当たり155ユーロを付けるなど歴史的な高騰局面が続く。そこに、欧州全体の風力発電の稼働低下や、英仏間の送電設備の火災事故による一部機能の停止、北欧における貯水量不足などが追い打ちをかけ、各国の電力の卸価格を押し上げている。

各国政府はエネルギー価格高騰への対応に追われている。英国では、電力多消費産業である肥料製造事業者が生産ラインを一時停止。肥料生産の副産物である産業用CO2が不足し、食肉産業などへの影響が懸念されたことから、政府が補助金を投じ操業を再開させた。

スペインでは、ガス料金に上限価格を設定すると同時に、ガス価格上昇で利益を得ているエネルギー事業者から30億ユーロを徴収すると発表。イタリアは、低所得者層や中小零細企業支援に、30億ユーロの支出を決定している。

この危機に、欧州内外では「再エネ投資のみに傾注しながら、再エネシフトに必要なグリッドの冗長化にも適切に対応してこなかったツケが回った」と批判する向きは多い。ただ、欧州委員会は、「今回の電力価格高騰の要因は、再エネ推進や炭素価格の上昇ではなく、世界的なガスの需要増とロシアからの供給不足にある」と、自らの落ち度ではないとのスタンスを崩していない。

直近1年の主要国における大規模停電・需給逼迫事案
出典:エネルギー経済社会研究所

エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表取締役は、「スポット調達を拡大し続け、そもそも価格変動に脆弱であることが問題の根底にある」と指摘。スプリント・キャピタル・ジャパンの山田光代表は、「脱炭素エネルギーシステムへのシフトには、石炭と石油を代替するために十分な天然ガス(LNG)の供給が必要。再エネの大量導入のスピードより、石炭・石油火力の削減スピードが速すぎた」と、移行期戦略のタイミングとバランスの重要性を強調する。

厳冬の停電リスク 社会不安を招く恐れも

今冬は、欧州のみならず北東アジアや北米でも厳しい寒さが予想され、燃料獲得競争が熾烈さを増すことは想像に難くない。ヒロ・ミズカミの水上裕康代表は、「高値の燃料を買えない貧しい国から停電が広がっていく可能性がある」と、エネルギーのない冬が社会不安を招く恐れを指摘する。

日本は、原油リンクの長期契約を基本とし欧州のような極端なことは起きにくい。とはいえ、在庫は2週間分。想定以上の需要が発生すれば、いつこの混乱に巻き込まれてもおかしくない。改めて各国は、長期的なエネルギー政策の課題を突き付けられている。

原発緊急再稼働で危機回避!? 岸田政権に問われる英断


世界的なエネルギー危機に発展していくのか。石油、天然ガス、石炭などのエネルギー資源価格が秋の不需要期にもかかわらず、異常な高値を記録している。米ニューヨーク市場の先物価格動向を見ると、10月5日に天然ガスが100万BTU約6・3ドル、石炭が1t約270ドル、20日には原油が1バレル約83ドルと、いずれも年初来最高値を記録した。前年の同時期と比較すると、2~4倍程度の大幅な値上がりだ。

10月14日の衆院解散後にガッツポーズする岸田政権幹部。冬場の電力危機を回避できるか

アジア市場も同様だ。例えば、石炭では中国の山西省を襲った洪水で炭鉱閉鎖が相次ぎ、先物価格は一時1507元と過去最高値を更新。またLNGでも欧州や中国での需要増を背景に、アジア向けスポット価格「JKM」の先物が一時50ドルに達するほど急騰。10月中旬現在は38ドル前後の取引で推移している。

脱炭素化の潮流を踏まえ、環境派が訴えるように脱化石が世界的に進んでいるとすれば、石炭や天然ガスの価格は需要の落ち込みによって下落傾向にあっていいはずだが、現実は真逆。コロナ禍の収束に伴う世界的な経済回復、脱炭素化を見据えた資源開発投資の停滞、天候に左右される自然エネルギー発電の急増―。さまざまな要因が同時多発し異常な価格高騰を引き起こしている、というのが専門家の一致した見方だ。

需要期の冬場に向けては、さらなる需給ひっ迫・価格上昇も予想される。「日本が前年の冬以上の電力危機に見舞われる可能性も否定できない」(新電力幹部)。電力卸市場価格が10月に急上昇したことも懸念に拍車を掛ける。

有力候補は女川2号か 野田政権時代に実績も

エネルギー緊急事態ともいえる情勢下で、関係者の一部から聞こえているのが「原子力発電所の緊急再稼働」だ。「原子力規制委員会の適合性審査に合格しながら、地元同意など手続き上の問題から未稼働の原発がある。足元の有事に対応するため、政治判断による特例措置として緊急的に動かすべきではないか」。エネルギー会社の幹部はこう指摘する。

現在、審査に合格し未稼働の原発は、東北電力女川2号、東京電力柏崎刈羽6・7号、日本原子力発電東海第二、関西電力高浜1・2号、同美浜3号、中国電力島根2号―。うち、原発がいまだに1基も動いていない50 Hz地域にあって、訴訟やテロ対策などの大きな問題を抱えていない女川2号が、まずは緊急再稼働の対象として考えられそうだ。

2012年4月、当時の野田佳彦政権は夏場の需給ひっ迫に対応するため、定期検査で停止中だった関電大飯3・4号機を政治判断で再稼働させた実績がある。再エネ依存度が飛躍的に高まっている現在、電力ひっ迫のリスクは9年前どころではない。

「ベースロード電源に厚みを持たせることが、停電リスクを回避する最良の手段。いま頼りになるのは原発しかない」(前出の新電力幹部)。岸田新政権は、国益を守るための政治判断に踏み切れるのか。「国民の声を聞く内閣」の英断が問われる。

【コラム/11月1日】再エネ最優先は強制労働排除に矛盾 エネルギー基本計画に漂う暗雲


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

G7(主要7カ国)貿易相会合が10月22日に開かれて、「サプライチェーンから強制労働を排除する」という声明が発表された。名指しはしていないが、中国のウイグル新疆自治区における強制労働などを念頭に置いたものだとメディアは報じている。

ところで、経済産業省の報道発表でも国内の報道でもなぜか書いていないが、声明を読むと、下記のように太陽光発電は農産物、衣料品と並んで、名指しになっている。

おおむね世界の太陽光発電の8割は中国製であり、半分は新疆ウイグル自治区で生産されていて、強制労働に関与しているとされる(図1)。残念ながら、太陽光発電の現状は、屋根の上のジェノサイドと呼ぶべきおぞましい状況にある。

図1 結晶シリコンの世界市場シェア(ヘレナ・ケネディーセンター報告による

G7声明を受け、新疆ウイグル自治区からの巨大な太陽光パネルの供給が消滅するのだろうか?だとすると、価格は暴騰して、かつての石油ショックならぬ、太陽光ショックが起きるのだろうか。

エネ基でもれた人権侵害の論点 グリーン技術全体に波及も

さて、日本では、菅政権時に検討されたエネルギー基本計画が岸田政権によって閣議決定され、再生可能エネルギーは最優先で大量導入されることになった。でも、いったいどうやって、それを強制労働排除と両立するのか。エネルギー基本計画では、まともな議論は全くなされていない。

そして、問題は太陽光パネルに止まらない。風力発電、EV、AI・IoTによる省エネなどの「グリーン」テクノロジーは、中国産の鉱物資源に大きく依存しているのが現状だ。特にモーター用の磁石に使われるネオジムなどのレアアースは、人権侵害が問題視されている内モンゴル自治区が主要な生産地になっている。

だが、この内モンゴル自治区では、モンゴル人に対する人権侵害が問題となっている。モンゴル語での教育禁止、それに反対する人々への弾圧などである。犠牲者も複数出ている。海外ではこれは文化的ジェノサイドと呼ばれ非難されている。

日本でも、高市早苗衆院議員を会長とした南モンゴル議連が今年4月に発足している。設立総会では、文化的ジェノサイドに加え、日本国内に在住する南モンゴル出身の留学生や家族が中国政府からどう喝を受けている、といった問題が指摘された。同議連では外交および国内法整備で対処するとしている。

米国ではかつて銅の副産物として安価にレアアースが生産されていた。だが、環境規制が厳しくなり、1980年代からレアアース生産は経済性を失った。今ではレアアース生産は大幅に縮小している。

米国に代わって世界市場を席捲したのは中国だ。中国が世界に占めるレアアースの生産シェアは、2019年時点で7割強となっている。そして、これは急激には変えようがない。鉱山の開発には5年から10年はかかるからだ。

そして、生産工程よりも中国に一極集中しているのは、環境負荷が高い選鉱工程である。これは中国が世界の9割近くを占めている(図2)。

図2 レアアースの選鉱工程のシェア(データはIEAより

現時点でグリーンエネルギー技術を大量導入するならば、そこで使われるレアアースの供給はかなりの程度、中国、それも人権問題を抱える内モンゴル自治区からの供給に頼る可能性が高い。

これは日本の国策として適切なのだろうか。企業はそのようなサプライチェーンをどう考えるべきか。G7も、いずれ中国産のレアアースの排除に動くかもしれない。詳細な情報収集に基づいた、熟慮による判断が必要だ。

「グリーン技術」の性急な大量導入は避け、中国に一極集中してしまったレアアースのサプライチェーンを再構築することから手掛けるほうが賢明なのではないか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。

【マーケット情報/10月29日】原油下落、供給増加の予測が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。供給増加の見通しにより、売りが優勢となった。

イランは、欧州連合との核合意復帰に関わる会談を、11月中に再開予定。米国の対イラン経済制裁解除、それにともなうイラン産原油の供給増加に対する見込みが強まり、価格の重荷となった。また、米国の週間在庫は増加。堅調な輸入と生産が背景にある。さらに、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から1基増加し、444基となった。

一方、英国は11月1日を以て、全ての国からの渡航者に対し、入国時の隔離措置を解除。また、供給面では、リビア国営石油がパイプラインの漏えいにより、一部油種の生産を72%減少させた。ナイジェリアでは、Shell社が10月25日から輸出のフォースマジュールを宣言している。需給逼迫感が、価格の下落を幾分か抑制した。

【10月29日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.57ドル(前週比0.19ドル安)、ブレント先物(ICE)=84.38ドル(前週比1.15ドル)、オマーン先物(DME)=82.34ドル(前週比0.41ドル安)、ドバイ現物(Argus)=82.55ドル(前週比0.13ドル安)

【省エネ】給湯での太陽熱利用 普及しない理由は


【業界スクランブル/省エネ】

8月末に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」が取りまとめられた。数ある対策の一つとして、「太陽熱利用設備の拡大」が挙げられている。家庭や病院など給湯消費が多い需要において、太陽熱利用による給湯負荷の低減は期待されるところではあるが、なかなか難しい。

生産動態統計による2020年度の太陽熱温水器販売台数は1.5万台である。1980年度には約80万台に達していたが、現在は、既存導入顧客の更新需要が多いと推察される。なお、世界最大の太陽熱温水器市場は中国であり、過去には国内温水器市場の5割に達していたが、中国でも縮小傾向となり、19年には約13%まで低下している。

日本において導入が進まない理由は経済性である。太陽熱温水器が賄える年間給湯負荷は半分程度であり、必ず燃焼式給湯器と併用することになる。つまり、本来、燃焼式給湯器だけで十分だが、太陽熱温水器・工事費用がそのまま純増コストとなる。また、補助熱源を燃焼式熱源とするため、結局、脱炭素は実現できない。一方、補助熱源を「PV+エコキュート」とすると、「太陽熱+PV+エコキュート」という、極めて高価なシステムとなり、これも普及しない。

経済性判断では、投資回収年数が重要となるが、灯油や都市ガスに比べて熱量単価が高いLPガスと、比較的安価な「自然循環式」で試算しても5年以上であり、高機能な「強制循環式」などの比較ケースでは耐用年数期間で投資回収できないこともある。また、屋根の上への重量物設置や水配管敷設に伴う課題、限られた屋上スペースをPVと取り合う課題もある。

燃焼式給湯器は極めて安価で、都市ガス、灯油の燃料費用も経済的であることから、給湯器市場において燃焼式給湯器が支配的な状況が続くことが確実である。ドイツの再生可能エネルギー熱法や米国の一部自治体規制などのように、単純な燃焼式給湯器の新設・更新禁止ぐらいの強力な政策誘導がなければ、太陽熱温水器の普及拡大は困難である。 (N)

【住宅】一次エネ20%削減 太陽光義務は保留


【業界スクランブル/住宅】

8月23日、国土交通省、経済産業省、環境省は合同で「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方・進め方」を公表した。4月から6回にわたり行われてきた議論のとりまとめであり、2050年カーボンニュートラル、30年温室効果ガス46%減という政府目標を踏まえ、今後中長期に目指すべき住宅・建築物の省エネ性能や、太陽光発電設備などの設置のあり方と、その実現のための進め方の方針が示された。

具体的には、新築住宅に関して、かつて2020年度開始予定だったが見送られていた省エネ基準の適合義務化を25年度から行うこと、30年度以降はZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準の省エネ性能として、強化外皮基準および再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を現行の省エネ基準値から20%削減を目指すことが示された。

一方、既存ストックの住宅に対しては、UR賃貸住宅などの国や地方自治体が管理する建物の窓の複層ガラス化や部分断熱などの省エネ改修の促進などを行うこととされている。そして、これらの施策を通じ、50年にはストック平均でZEH基準の省エネ性能が確保されることを目指すとしている。

また、住宅分野における再エネの活用に関して、30年時点の新築住宅の6割に太陽光発電設備が設置することを目指すとされた。新築住宅の太陽光発電設置の設置に関して、当初は義務化を望む意見もあったが、地域・立地条件の差異といった導入時に生じる課題や、後から建つ建物の日影で発電量が減少するといった導入後に生じる後発的な課題、また、屋上緑化との空間専有の競合、個人がコストリスクを負うこと、などの問題が指摘され、慎重論も根強く、「将来の選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討」するという表現にとどまった。

いずれにしろ、諸外国と比べ著しく遅れていた住宅分野の省エネ基準義務化の定量的な道筋が示されたことは大きな前進と言える。今後の具体的な取り組みに期待したい。(Z)

【太陽光】技術革新に期待 安定供給への貢献


【業界スクランブル/太陽光】

第六次エネルギー基本計画の素案が固まり2030年の電源別導入見通しが発表された。開発期間が比較的短い太陽光の導入量は1億kWで、再エネ追加見込み200〜400億kW時を加えると、現行エネルギーミックスの約2倍となる1億2000万〜1億3000万kW程度になりそうだ。

日本のエネルギー政策「S+3E」において、燃料費ゼロの脱炭素電源である太陽光は、今後のエネルギーミックスを支えていく役割と責任がある。地域経済やレジリエンスにも貢献し得る分散型エネルギーとして導入拡大への期待も高いが、自然変動電源であるが故の指摘・課題もあるので主たる見解を述べてみたい。

安定供給では、次世代電力システムの最適化でさらに安定供給のレベルが上がり、調整力においてはデジタル制御(グリッドコード)で瞬時に調整可能となる。

発電コストでは、規制緩和や政策強化・業界自助努力が前提になるが、日本特有の気候風土に伴う追加コストなどを除き30年には欧米水準に近づく見込み。政策支援は、国内産業に寄与せず国費流出になるのではとの懸念もあるが、ペロブスカイトなどの次世代太陽光パネル技術で巻き返すためにも必要だ。機器以外で総コストの約60%を占める設計・施工・維持管理などを含め、国内産業競争力アップへの貢献度はとても大きい。

地域との共生では、約150の自治体から太陽光設置に対する規制条例が出ているが、業界・国・自治体が連携・協力して、地域住民に迷惑をかけている発電所への改善・対策を実施していくべきだ。その上で、来年春の温対法改正に伴う自治体ごとの脱炭素化に向けた実行計画策定や促進区域の設定への取り組みを、業界・環境省・自治体が一体となって加速させていく必要がある。

日本で初めて発電所が誕生してから130年余りになるが、太陽光発電は未だ60年余り。技術革新は想定を上回るスピードで社会を安全で豊かなものにしてくれるだろう。(T)

【メディア放談】自民党の総裁選 駆け巡った「河野首相」の悪夢


<出席者>電力・石油・マスコミ・ジャーナリスト業界関係者/4名

自民党総裁選で河野太郎氏が、党員、国会議員から多くの支持を集めている。

核燃サイクルを否定する河野氏の動向を、業界関係者は息をひそめて見つめていた。

 ――自民党総裁選に出馬した河野太郎氏は「核燃料サイクルを手じまいする」と発言した。河野氏を支持した党員・党所属議員は多く、業界関係者はショックを隠さなかった。

電力 核燃料サイクルを止めることは河野氏の持論だから、出馬した時、業界関係者は表面上、冷静さを保っていた。しかし、支持を集めて新総裁の「有力候補」となっていくと、「ほかの候補なら誰でもいいが、河野氏だけはだめだ」と言い出すようになった。

――原発については再稼働を容認したが。

電力 確かに、カーボンニュートラル実現のために、原発に一定の理解を示して再稼働を容認した。しかし、使用済み燃料の再処理を中止する持論は変えていない。

 もし青森県六ケ所村の再処理事業を止めると、三村申吾知事は、「では、県内の使用済み燃料は各原発に持ち帰って下さい」と言い出す。県はあくまで、再処理をしてプルトニウムでMOX燃料をつくり、出てくる高レベル放射性廃棄物は青森県外で地層処分することを条件にして、使用済み燃料を「一時保管」として引き受けているからだ。

 仮に三村知事が使用済み燃料をそれぞれの原発に送り返したら、どうなるか。どの原発も保管するスペースは限られているし、地元は猛反発する。全てが徐々に停止していくだろう。読めないのは、河野氏がそこまで見通して再処理の中止を言い出したかどうかだ。

――河野氏の真意を読むのは難しいようだ。

マスコミ 自民党議員の中には、「そこまで考えている」と断言する人がいた。一方、「河野さんは原子力を進める上で、青森県や地元が果たす役割をよく理解していないのではないか」と見る関係者もいる。

 こういう話を聞いたことがある。かって河野氏は、「再処理を中止する場合、まず大切なことは、青森県や関係する地自治体に謝罪にいくことだ」と言った。すると、それを聞いた三村知事が「正直な男だ」とほめたという。もっとも、聞いたのは大分昔のことだ。今、再処理事業を止めたら、もう三村知事に謝罪で済む話ではなくなっている。

サイクル中止宣言 有識者から賛同も

ジャーナリスト 河野さんが核燃サイクル中止を言い出したことで、マスコミや有識者、さらに業界の中にもある再処理事業に否定的な声が大きくなっている。アゴラ研究所の池田信夫さんが、ウェブで「新首相『核のゴミ』問題を解決する簡単な方法」という記事(9月17日)を載せている。

 核燃サイクルは大赤字の事業だから、原子力事業を守るためにも使用済み燃料の再処理を止めて、直接処分に方針を変更すべきだという内容だ。池田さんはもともと再処理事業に難色を示していたと記憶しているが、総裁選の真っただ中の時期に記事が出たので、驚いた。

マスコミ 池田さんは、原子力事業に占める地元自治体の重要性をよく理解していないと思う。確かに、電力会社の中にも、できれば再処理事業から撤退したいと思っている人たちがいる。どの原発も新規制基準に対応するため、安全対策に膨大な費用をかけている。それでも、稼働できるか不透明な原発もある。

 加えて、小売り市場の競争激化で、体力は疲弊していくばかりだ。それでいながら、国は核燃サイクルを維持する費用を捻出する仕組みをつくろうとしない。そう考えると、撤退を考えるのは当たり前のことだ。

ジャーナリスト だが、問題は地元がどう反応するかだ。もし河野さんが本当に青森県やほかの原発立地道県を説得できるというなら、電力業界は再処理断念・直接処分に方針を変えるのではないか。

「改革者」でアピール 調整能力に難点も

――河野氏についてはエネルギー政策以外にも、政治家としての資質の点でほかの候補よりも批判が多かったようだ。

ガス 「改革者」のイメージが強くて、実行力、突破力で党内外の人気を集めている。だけど首相になれば、複雑な利害を調整する能力が必要になる。その点を評価する人たちは、まずいない。

 ある政治家からこんな話を聞いた。河野さんが防衛大臣の時、北朝鮮のミサイルに備えて、打ち落とすため陸上配備型のイージス・システムを自衛隊の秋田県の新屋演習場と山口県のむつみ演習場に建設する計画が持ち上がった。ミサイルの発射基地が地元に造られることを歓迎する人はいない。それで両方で、政治家や防衛省関係者が地元への説明や説得に当たっていた。

 ところが、新屋演習場の施設から発射すると、ブースターが陸地に落下する可能性が分かった。それで河野さんは何の相談もなく、導入を断念すると言い出した。これに激怒したのが、山口県で懸命に地元の説得に当たっていた政治家だ。その後、菅政権が出来た時、河野官房長官という話が浮上した。だけどこの政治家は、「それだけは絶対にない」と断言していた。

――マスコミはどうか。原子力に否定的な朝日、毎日、東京は「河野支持」の論調では。

石油 いや、中立的なスタンスで記事を書いている。ただ、右寄りの人が多いネットの世界では、圧倒的に人気があるのは高市早苗さんだ。「虎ノ門ニュース」という右派の論客が出るユーチューブ番組がある。そこでアンケートを取ると、98%が高市支持だった。

――この座談会が掲載された雑誌を発行する時には、もう総裁選の結果が出ている。今は「河野総裁」が誕生しないことを祈るばかりだ。

【再エネ】再エネ市場の新設 追加性に疑義


【業界スクランブル/再エネ】

再生可能エネルギーを企業が直接、安価に調達可能とするべきだ。需要家が再エネを低価格で調達できなければ、わが国の産業そのものが空洞化しかねない。時間的な猶予はない――。再エネに関する規制等の総点検タスクフォース(TF)における指摘を受け、従来の非化石価値取引市場は分割、需要家が直接FIT非化石証書の取引に参加可能な「再エネ価値取引市場」が新設される。非FIT非化石証書は、エネルギー供給構造高度化法の非化石電源比率目標達成を目的とした「高度化法義務達成市場」で取引されることとなった。前者のFIT非化石証書取引の下限価格は、kW時当たり0.3~0.4円とする方向性が示され、従来の1.3円から大幅に引き下げられることになる。

そもそも、非化石価値取引市場は、非化石という価値の訴求による証書取引が行われ、小売り電気事業者が非化石電源比率44%を達成するために創設されたもので、パリ協定に基づく温室効果ガス削減目標(当時は2013年度比で30年26%削減)と整合するものであった。他方、今回新設された再エネ価値取引市場では、FIT非化石証書は、カーボンフットプリントの計算を目的とした、電源の種類や産地を示す、いわゆる電源証明型の市場を目指し、再エネ価値を訴求するものではないという。これに伴い、個別の電源情報に関するトラッキング情報をFIT非化石証書の全量に付与する方向となった。

国際動向を踏まえ整合を図ったとされる今回の制度設計。しかし、実は海外の電源証明では、複数の助成受給防止の観点などから、基本的にFITなど国の補助政策を受けた電源は対象外となっているのだ。加えて、電源の産地証明にすぎないFIT非化石証書は、需要家が購入したからといって、再エネ電源の拡大に寄与するわけではない。こうした「追加性」のない安価な証書により「実質再エネ」とうたうことは、グリーンウォッシュに当たるのではないかとの批判もある。安価な証書購入の加速により、逆に非化石電源の増加に歯止めが掛からないかも懸念される。(N)

【マーケット情報/10月22日】欧米原油が続伸、需給一段と引き締まる


先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物と、米国原油を代表するWTI先物が続伸。需給逼迫感が一段と強まり、買いが優勢となった。一方、中東原油を代表するドバイ現物は、前週から小幅下落した。

天然ガス価格が上昇し、北半球のアジアと欧州で、石油への切り替えが一段と進む。アジアの一部電力会社は、ガス火力発電所の稼働率を抑えるため、石油火力発電所の稼働率を引き上げている。

冬季需要に加え、新型コロナウイルス感染防止の規制緩和も、燃料消費増加の見通しを強めた。欧州では、航空機の稼働数が増加。豪州カンタス航空も、国際便の運航再開の前倒しを検討している。さらに、原油処理量増加の見込みも、需給を引き締めている。米国の製油所が、ハリケーン「アイダ」の影響から続々復旧。中国・浙江省では、中国石油化工が、新たな原油蒸留装置の稼働を開始させた。

品薄感が強まるも、サウジアラビアは原油の追加増産を改めて拒否。供給増加は期待できないとの予想が広がった。

一方、インド国営石油のParadip製油所が19日、パイプラインからの漏えいが要因で計画外停止。インド需要後退の予測が台頭した。さらに、モロッコは、英国、オランダ、ドイツからの渡航制限を導入。新型ウイルスの感染再拡大が背景にある。燃料需要の回復に歯止めがかかるとの見方が、ドバイ現物の弱材料となった。

【10月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.76ドル(前週比1.48高)、ブレント先物(ICE)=85.53(前週比ドル0.67)、オマーン先物(DME)=82.75ドル(前週比ドル0.35安)

【コラム/10月25日】岸田新政権の経済政策を考える~教祖と呼ばれた下村治博士の視点から


飯倉 穣/エコノミスト

1,岸田文雄新政権が発足し、所信表明(2021年10月8日)があった。報道は、「岸田首相が所信表明 新しい資本主義を」(朝日同9日)、「首相所信表明「改革」触れず 給付金・賃上げ 分配前面 成長と好循環の道筋見えず」(日経同)と伝えた。

過去、日本経済は、マクロ的に「雇用、物価、国際収支、成長、財政等でパフォーマンスが相対的に良好」、「努力すれば報われるという環境が個人レベルでの活力を生み出す」、「過当競争の言葉がある程の企業間競争が技術革新スピード、伝播、品質向上、現場での創意工夫を生起している」「独自の雇用慣行が高い勤労意欲生み出す」(「2000年の日本」1982年)という時代もあった。

岸田経済ビジョンの中には、その展開次第で、経済パフォーマンスを向上させ、雇用・社会の安定に寄与する考えもある。新資本主義の主張は、80年代前半のような良好な経済パフォーマンスを取り戻せるだろうか。下村治博士の見方で新経済政策を考える。

2,アベノミクスは、財政出動(12~19年7年間の国債残高181兆円増)で、GDP年平均成長率名目1.6%、実質0.3%だった。GDP前年比増加額の合計額は、名目59兆円、実質23兆円に留まった。18年ピーク後下降局面となり、19年第10~12月期に行き詰まる。

この間消費者物価の安定、失業率の低下もあったが、正規雇用149万人増に対し非正規雇用369万人増(雇用者比率35.2⇒38.3%)で不安定雇用が目立った。また構造改革標榜の下、企業ガバナンス規制強化、働き方改革等を実施したが、見込み違いであった。

20年に新型コロナウイルス感染が拡大し、大幅な財政投入で経済の下支えを継続している。残されたものは、財政収支赤字継続(国債依存度19年度36%、21年度当初予算41%)と公債残高(19年度末886兆円、21年度末見込990兆円)である。アベノミクスは、一種の借金花見経済で一時的な経済膨張の後、経済不均衡拡大(負の遺産)に終わった。

3, 岸田政権の経済政策(所信表明演説)は、当面デフレ脱却のため金融緩和・財政政策・成長戦略の推進を継続し、経済の立て直しと財政健全化に取り組み、そして新しい資本主義の実現を目指す。

「成長と分配の好循環」のコンセプトの下、成長戦略4本柱として①科学技術立国(10兆円規模の大学ファンド、クリーンエネルギー戦略等)、②経済安全保障確保、③デジタル田園都市国家構想推進、④人生100年時代の不安解消を挙げる。また分配戦略4本柱として①三方良し経営(下請けいじめゼロ等)、②住居費・教育費支援、③公的価格の抜本的見直し、④財政の単年度主義の弊害是正を呼び掛けた。そして日本企業の萎縮を招来した企業法制・会計制度への言及もあった。四半期決算の見直しである。この制度導入は、投資家要求由来で、企業経営に短期戦略と利益至上主義を余儀なくさせている。

4,下村博士は、戦後経済の4転換期(1960年高度成長、70年成長屈折、74年オイルショック後ゼロ・低成長、86年前川レポート起因のバブル生起と崩壊)を適切に予測した(89年死去)。教祖があと数年存命だったら、今日の日本経済はある程度均衡のとれた姿を留めたであろう。下村の経済論を我流解釈すれば、経済の流れ、経済水準論、経済成長論、経済変動論、経済運営論に展開できる。経済水準は、技術体系の反映である。水準維持は、資源・エネルギーの有様と生産方法に依存する。クリーン・エネへの変革期では、原子力活用が鍵である。

経済成長は、技術革新・(企業家精神)・設備投資増が決め手である。それが生産性向上と価格ダウンを現実化し、物価安定、所得上昇・賃金増を惹起し、購買力増となる。まず技術革新ありきである。

経済変動は、ある均衡から次の均衡に移行する過程である。需給に係る利潤投資反応が基本である。通常の変動であれば、政府介入は不要である。他方今回のコロナのような経済ショックがあれば、一定の経済対策(均衡回復補完)が必要な場合がある。概して経済均衡を重視した経済運営が肝要である。

そして経済の目的は、新自由主義登場まで、基本は第一に雇用の確保、第二に物価の安定、三、四なくて次に自由貿易かという考えだった。近時自由貿易重視の考えが強くなったが、現在でも各国の雇用重視第一は変わらない。

また下村は、所謂米国要求を嚆矢とする経済構造改革に当時懐疑・否定的であった。これまでの枠組み(制度・規制等)変更が、経済活性化や成長に貢献したであろうか。思い付きの改革が事態悪化の連鎖となっている。

5,この下村経済論の視点から岸田政権の経済政策を考えると、まず経済水準維持では原子力再稼働も含むエネルギーの確保を重視しており、成長戦略で科学技術重視を謳っている。また三方良し企業経営で雇用を重視しているようなら、望ましい方向にある。

そして財政均衡を重視した経済均衡への接近が、最大の課題である。現在の経済フローを、生産→所得(分配)→支出の流れで見れば、借金(30兆円強/年)頼りの財政でGDPを6%程度押し上げている。財政均衡なら、その調整が必要となる。精々1%前後か以下の成長率で、経済水準を維持しながら財政再建は可能だろうか。低成長下の財政均衡への試みを再考すべきである。

6,岸田新政権は、アベノミクスの言葉を使用しながら、成長と分配の好循環を謳う。理念的に新自由主義でなく、新しい資本主義、日本型資本主義を主張する。また意味・効果の疑わしい構造改革という決まり文句を使用していない。そこに経済政策の変更を思う。政治的には、支持者に配慮し、他方経済的には過去の経済政策の行き詰まりを打開する狙いも感じる。日本型資本主義に内容を与える下村博士のような経済専門家の登場を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

モータースポーツ界でも急進 カーボンニュートラルの取り組み


【リレーコラム】井上裕史/三菱総合研究所主席研究員

 カーボンニュートラル(CN)に向けた動きがさまざまな分野で加速化している。ここではモータースポーツにおけるCNに向けた動きを紹介したい。一般車両の分野では、①電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)など電動化、②カーボンフリー燃料の利用│の取り組みが盛んだ。モータースポーツでも基本的に変わるものではない。

EVレースの「Formula-E」は国際自動車連盟が設立し、2014年9月から始まった。燃焼排ガスがないことから市街地レース主体となっており、ニューヨークやロンドンといった大都市でも開催している。直近のシーズンでは、メルセデス、アウディ、BMW、日産自動車といった大手自動車メーカーなどが参戦している。設立当初は充電量の問題で1台のマシンでは完走できず、途中でマシンを交換する必要があった。

モータースポーツの最高峰とされるF1でも、30年までにCNを達成するという方針を打ち出している。ハイブリッドパワーユニットによる内燃機関自体は維持しつつ、バイオ燃料の利用を想定して開発が進められている。また、25年までに全てのF1イベント自体を持続可能な形(使い捨てプラの廃止、廃棄物の削減・再利用など)で実施する予定である。なお、F1イベント開催に伴う全CO2排出量のうち、F1車両自身の燃料消費による排出は0・7%に過ぎず、車両のトレーラー輸送などロジスティクス面での排出が半数近くを占めているが、これらも含めたネットゼロが目標となっている。

FCVや水素自動車によるレースも欧州を中心に準備が進んでいる。フランスでは24年のル・マン24時間レースにて、燃料電池自動車クラスのレース開催を目指しており、ドイツでも全く新しい燃料電池車両レースが発表されている。国内では21年5月に富士スピードウェイで行われたスーパー耐久シリーズ2021にて、トヨタ自動車は水素エンジン車で参戦し、24時間のレースを完走した。

先進的な取り組みが他分野に波及

このように、モータースポーツという、一見するとCNとは相反する分野でも、対応が始まっている。特にF1は莫大な資金が投入される分野であり、CNに対応する上で資金的に恵まれているわけだが、その中で進む先駆的な取り組みが、一般車両の分野や他の大規模イベントに波及する効果も期待できるだろう。多くの人が関心を持っている意外な分野でも、CNに向けた動きが始まっているかもしれず、そうした動きが社会に受け入れられる形で広まっていくことを期待したい。

いのうえ・ゆうし 1999年東京工業大学大学院土木工学専攻修了、三菱総合研究所入社。2002年から3年間エネ庁総合政策課(当時)でエネルギー需給見通し等を担当。帰任後は主に再エネ導入見通しや政策動向調査、電力需給シミュレーションなどを担当。

※次回は名古屋大学未来材料・システム研究所の加藤丈佳さんです。

【石炭】日本の画期的技術 CO2吸収のコンクリ


【業界スクランブル/石炭】

「既に排出されたCO2をまるで植物のように吸い込む」―。そんなコンクリートが注目を集めている。環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM」のことで、中国電力、鹿島建設、デンカ、ランデスが、経済産業省公募事業「平成26年度二酸化炭素回収・貯蔵実証総合推進事業補助金(二酸化炭素固定化・有効利用技術実証支援事業)」より参画し、開発・実証実験に取り組んでいる技術である。地球温暖化防止に向けて、CO2削減は急務となっている。そのような中でまさに画期的な技術であろう。

CO2の吸収とCO2排出量の少ない材料を積極的に使用することで、材料由来のCO2排出量をマイナスにすることができるプレキャストコンクリートである。CO2-SUICOMのようにCO2を吸収・固定化し有効活用する技術は「カーボンリサイクル」と呼ばれている。現在、世界中で注目が集まっており、研究開発が進んでいるが、CO2をマイナスにまでできているのはCO2-SUICOMだけ。コンクリートが街中に設置されてからではなく、製造する段階でCO2をコンクリートの中に閉じ込めている。

この材料にはもう一つ大きな特徴がある。通常のコンクリートではセメントをたくさん使用するが、セメントは製造時に多くのCO2を排出している。そこで、セメントの使用量を減らし、火力発電所の産業副産物として生成される石炭灰や製鉄所の副産物である高炉スラグも材料に用いる。セメントの使用量を減らすことでCO2排出が大幅に削減される。CO2削減に加えて、産業副産物が有効活用できるという面でも環境性貢献度の高い製品となっている。

一般的なコンクリート(高アルカリ性)と異なり、ほぼ中性であることから、植物にやさしく高い環境親和性を有する点も特徴である。植栽を鉄筋コンクリートに利用できないのは、通常のコンクリートがアルカリ性であるためだ。通常のコンクリートと比べ、表面に経年変化が少なく、美観が保てて滑りにくいという長所もあり、今後各所で使用が進むであろう。(C)