【ガス】天然ガス復権が世界的潮流 どうする日本?


【業界スクランブル/ガス】

一方向に極端に振られた振り子は、バランスを取り戻すために揺り戻しを起こすものだ。まさに、脱炭素化の動きがそうした状況にある。典型的な事例がEVの勢いの鈍化だ。欧米自動車メーカーは極端なEV移行戦略からハイブリッドを主力化する現実路線へと軌道修正を進めている。

天然ガスを取り巻く環境も同様だ。トランプ次期米大統領は天然ガスの段階的廃止などバイデン政権下で制定された気候変動関連法や規制を見直す意向を表明している。豪州政府は2024年5月に「将来のガス戦略」を発表し、再エネへの移行を支えるために、50年以降も天然ガスの役割を維持するバランス戦略を明確に打ち出した。

欧州でも脱炭素化を推進しつつエネルギー安全保障を実現するため、再エネと天然ガスを組み合わせたバランス戦略へ移行、LNG輸入を増加させている。アジアも経済成長と脱炭素化の両立に向けLNGを将来の重要なエネルギーと位置付けている。上流側のシェルやエクソンモービルも、脱炭素化推進と収益性確保を両立させるため、再エネ投資一辺倒を改め天然ガス開発投資を復活させている。

一方、日本を見ると、将来の天然ガスの位置付けがいまだ明確になっていない。現在、「第7次エネルギー基本計画」策定に向けて作業が進められている。今後エネルギー需要拡大が予想される中、原子力発電所の再稼働は進んでおらず、日本ガス協会の内田高史会長が10月の記者会見で述べたように、天然ガスをエネルギー安定供給と脱炭素化実現の「最有力の手段」として、エネ基に明確に位置付けるべきである。(G)

【新電力】電源の脱炭素化へ FIP活用の着想に注目


【業界スクランブル/新電力】

温室効果ガスの削減目標として、2035年に13年度比60%減、49年に73%減という案が示された。カーボンニュートラル達成に必要な削減のレベル感を、数字に落とし込んだ形である。現行のエネルギー基本計画は、30年に13年度比46%削減するという21年の地球温暖化対策計画をにらみながら策定されたものだが、今回、さらに踏み込んだ目標の目線案が出たことで、第7次エネ基における再エネ・原子力比率に求められる水準が定まったと言えるだろう。現行エネ基の達成が不安視される中、実効性のある計画と対応が出てくることを期待したい。

脱炭素電源の導入促進につながるのは「Non―FIT/FIP」を活用した、持続可能性の高い再エネの活用である。その実現のために小売電気事業者が果たす役割は幅広くあるが、FIT電源とは異なり非化石価値を需要家が自ら評価し、自らに帰属させる「Non・FIT/FIP」の活用を促すようなビジネスモデルの推進が、より重要視されていくことになると考えられる。

FIPはいまだFITに対して2%程度の導入量にとどまっており、その活用の難しさが数字にも表れている。これを受け、政府は、国民負担を増やさないことに留意しながら、25%程度になるまでFIPの活用促進を支援することを表明した。 発電事業者や金融機関による理解促進もさることながら、最終的にその電源を活用する小売電気事業者が、FIP電源を活用してどのようなメニューを需要家に届けることができるのか―。エネ基の改定を横目に、注目していきたいところだ。(K)

COP29の苦い結末 1・5℃目標の「死」は近い?


【ワールドワイド/環境】

2024年11月にアゼルバイジャンで開催された地球温暖化防止国際会議・COP29の最大の焦点は25年以降の新規合同数値目標(NCQG)を決定することであった。

NCQGの議論において途上国は自分たちの緩和、適応行動、損失と損害を含め、少なくとも年間1・3兆ドルを先進国が支払うこと、1・3兆ドルは譲許的な公的資金であること―などを要求した。対し先進国は、NCQGのドナーを能力のある途上国にも広げること、民間資金を含む多様な資金源から調達すること、受益国を小島しょ国、低開発国などのぜい弱国に絞ること―などを主張。具体的な資金援助目標については交渉終盤に2000億ドルという数字を提示したが、途上国は「冗談か?」と相手にしなかった。

最終的な合意は、①全ての関係者に対し、途上国への気候変動対策のための資金を35年までに、官民全ての資金源から年間少なくとも1兆3000億米ドルまで拡大できるよう協力するよう求める、②先進国が主導する形で、途上国に対し35年までに少なくとも年間3000億米ドルの気候行動目標を設定する―というものだった。1・3兆ドルに言及はされたものの、資金ソースも資金の出し手も大きく拡大され、途上国の主張する先進国からの支援は3000億ドルにとどまったため、インドなどは「この合意を受け入れられない」と強く反発した。他方、先進国はCOP28に盛り込まれた化石燃料からの転換、野心レベルの強化などのフォローアップといった緩和行動の強化を強く主張していたが、全く盛り込まれなかった。

このようにCOP29は先進国、途上国双方に強い不満を残す苦い結末となった。それでも合意したのは25年1月にトランプ政権が誕生し、温暖化防止に関する国際合意が難しくなるとの計算が働いたと言われている。しかし3000億ドルという数字の実現可能性も決して楽観できない。トランプの米国は資金拠出を一切しないだろうし、日本やEUが米国の肩代わりもできない。先進国からの資金援助が積み上がらなければ途上国のNDC(国別目標)の野心レベル引き上げも期待できない。もともと実現可能性のなかった1・5℃目標の「死」が、いよいよ明らかになるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

英国で電力脱炭素化目標前倒し 道筋示されるも課題浮き彫り


【ワールドワイド/市場】

2024年7月の英国総選挙で政権交代を果たした労働党は、30年までの電力部門の脱炭素化を掲げている。化石燃料依存からの早期脱却を図り、低廉な電気料金を実現するとしている。

目標までの期間が短い中、労働党は政権発足直後から、再生可能エネルギー支援制度の予算増額や導入促進に向けた施策の見直しなどを実施している。

再エネプロジェクトへの投資を促進するため、再エネ発電公社の設立も予定している。公社の役割は、着床式洋上風力など成熟技術に民間プロジェクトの開発支援とサプライチェーンなどへの投資、グリーン水素製造や浮体式洋上風力などの未成熟技術に、先行投資・保有を通じた導入支援が想定されている。

他方、英国では10年代に老朽化した石炭火力や原子力が退役し、洋上風力を中心に再エネの導入が進んだが、調整電源としてのガス火力の重要性が増している。23年は発電シェアの約3割をガス火力が占めた。

前保守党政権はエネルギー安全保障を念頭に、現実路線として脱炭素目標を35年に設定、ガス火力の新設も厭わないとしていた。目標が前倒しされた現在、調整力の脱炭素化を短期間で如いかに実現するかが課題だ。

新政権に30年までの道筋を諮られた系統運用者は、11月に報告書を発表した。そこでは、洋上風力を最大限導入しながら調整力を需要側のフレキシビリティや電力貯蔵に頼るシナリオと、洋上風力をある程度導入しながら調整力をCCS(CO2回収・貯留)技術や水素発電の小規模な実用化に頼るシナリオの2通りが示された。いずれのシナリオも電化の急速な進展、国際連系線の活用、一部既存原子炉の運転延長、陸上風力の導入量倍増、太陽光の導入量3倍増、蓄電池の導入量4倍増などをベースとしている。既存のガス火力は厳冬期などにおける調整力の最終手段として維持されるが、年間発電シェアは5%以下となる想定だ。CCSや水素の実用化が前提となるが、既存ガス火力の脱炭素転換が本格化するのは30年以降とされる。

これらのシナリオでは30年時点の電力部門の排出量は500万CO2換算t程度となる見込みで、目標のおおよその達成とされる。報告書は、サプライチェーンを破綻させないよう、いかに必要技術の導入を同時並行で進めるかが課題と指摘している。英国政府は報告書を参考に近く政策をまとめるとみられ、その行方が注目される。

(宮岡秀知/海外電力調査会 調査第一部)

【電力】電力政策を歪ませる 不都合な真実


【業界スクランブル/電力】

「『原発〇基分の再エネ』と繰り返し報道される割には、石炭火力や原子力が減らないのはなぜ?」「なぜ欧州のように日本では洋上風力の開発が進まないの?」「今や一番安い太陽光発電(PV)が、もっと導入されないのはなぜ?」「再エネ普及に不可欠な送電網の拡充が遅れるのは誰のせい?」―。新たなエネルギー基本計画の議論と並行して、ちまたではこうした声が飛び交う。

本誌の読者なら「何をバカな」と言うレベルの話かもしれない。しかし考えてみると、例えばPVは設備能力の15%しか発電せず、火力や蓄電池がないと使えないと知る人は世の中に1%いるだろうか。PVの増加で昼間の電気は余りはじめていること、日本の洋上風力の設備利用率はせいぜい30%程度で欧州北海沿岸の約6割しかないこと、そしてその設備利用率の低さゆえ、大需要地までの長い送電線に投資をしても採算が極めて悪いことなどもほとんど知られていない事実であろう。

電力業界に関わる者ならば当たり前の前提であるにもかかわらず、政策決定の場ではほとんど議論されず、報道もされない。当事者の一角であるはずの大手電力会社は寡黙である。今や自ら風力・太陽光事業に関与するからなのか、再エネに否定的な発信は印象が悪いからなのか。はたまた、この手の話は業界出身のA氏やB氏に任せておけば良いとでも考えているのか。

政治家や官僚は“再エネ”という美しい言葉を決して手放さそうとせず、彼らから本当の話は聞こえてこない。このようにして、電力政策は軌道修正されるどころか、ますます歪んでいくような気がするのだ。(M)

急速な石油需要増の鈍化 中東情勢不安定化に懸念


【ワールドワイド/資源】

中国石油天然気集団(CNPC)傘下のシンクタンクCNPC―ETRIが、2024年12月12日に「世界・中国の石油展望」について報告した。中国の石油の輸送燃料需要はピークに達し、25年の需要は7・7億t(日量1546万バレル)と予測した。石化原料向けの需要は伸びているがEV販売シェアが自動車販売の5割を超え、LNG燃料トラックが増加したことで軽油需要の減少ペースが加速し、同機関の過去の予測に比べピークは5年前倒し、量も下方修正された。国家統計局によると1~10月の原油生産量は前年同期比2%増加したが、輸入量は3・4%減の日量約1109万バレル、精製処理量は2%減の日量1418万バレルだった。

中国の経済低迷、輸送分野のエネルギー転換、貯蔵インフラの充足などの構造的な要因による。公安局によると9月時点でEV、PHEV、FCV保有台数は1821万台で自家用車の5・5%に達した。ただし、輸送分野における石油代替の主役は天然ガス自動車である。石油消費の7割を輸入に依存(天然ガスは4割)しており、代替促進のため、自動車向けの天然ガス価格を軽油より低く統制した。その結果、天然ガス産地を中心にCNG車保有台数は600万台に増加。さらに近年の軽油価格上昇でLNG燃料トラックブームが起き、23年の販売量は20万台、保有台数は推計100万台に達した。

また原油、石油製品タンク増設により石油在庫は国家備蓄と商業在庫を合わせ米国並みの13億バレル(23年石油消費の約90日)前後で推移している。

さらに中国は30年排出ピークアウト目標実現のため、30年に原油精製処理能力上限を日量2000万バレル(23年は約1850万バレル)とする目標を設定している。精力的に製油所の新設を進めてきたが、27年以降の予定はない。政府は25年以降、日量4万~10万バレル以下の製油所50カ所以上、処理能力合計日量260万バレル相当の統廃合を段階的に進める計画だ。 中国は過去20年、世界の石油需要をけん引してきた。IEA(国際エネルギー機関)によると23年に世界の石油需要増加の8割に当たる日量170万バレルを占めたが、24年は15万、25年は21万と2割未満に減速する。次のけん引役と目されるインドの需要増加は日量20万バレル程度。急速な需要鈍化が一部資源国を追い詰め、中東情勢不安定化につながらないか懸念される。

(竹原美佳/エネルギー・金属鉱物資源機構査部)

【コラム/1月16日】原子力発電に関する世論の世界動向とわが国の課題


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

最近、世界的に原子力発電を支持する世論が増大している。このことは、業界関係者には歓迎すべきものとして受け止められているものの、わが国の世論の実態を見ると、原子力発電に対するパブリックアクセプタンス(PA)は十分得られているとは言えない。本コラムでは、原子力発電に関する世論の世界動向とわが国における原子力PA向上のための課題について述べてみたい。

英国の調査会社Savantaが、20か国を対象に、2023年10月17日~11月14日に行った調査では、20,000人以上の回答者のうち、原子力エネルギーの利用への支持は46%、不支持は28%で、前者は後者の1.5倍以上となった(どちらか言えば支持、不支持を含む)。原子力への支持が不支持を上回る国は17か国で、世界で最も人口の多い中国とインドでは、支持が不支持の3倍以上となっている。エネルギー転換に際して重点を置くべき電源の選好に関しては、原子力は、陸上風力、木質バイオマス、CCS付きガス火力よりも高く、大規模太陽光よりも低い(大規模太陽光33%、原子力25%)。また、運転の安定性(信頼性)について肯定的な回答は66%に上る。そのうち原子力エネルギーの利用への支持は、不支持の4倍以上である。

原子力発電のコストについては、安価との回答が40%で高価との回答27%を上回っている。興味深いのは、過去に原子力発電の段階的廃止を決定したことのあるドイツ、日本、韓国、スウェーデンでは、安価との回答が高価との回答を大きく上回っていることである(ドイツ46%対20%、日本44%対15%、韓国51%対26%、スウェーデン54%対14%)。さらに、これらの国では、原子力は、大規模太陽光や陸上風力よりも安価と考えている回答者が多いことも特筆に値する。

また、健康への影響や安全性に関しては、回答者の79%が懸念していると回答しているものの、この回答グループでは、原子力エネルギーの利用への支持が40%と、不支持の33%を上回っている。さらに、原子力発電の利用国では、その維持を望む回答者は、廃止を望む回答者の3倍以上となっている。また、原子力発電を保有していない国では、新設を望む回答者は、禁止を望む回答者の2倍となっている。2023年12月のCOP28では、2050年までに世界の原子力発電能力を3倍にするという誓約が採択されたが、これは世界的な原子力に対する期待を反映したものといえるだろう。

原子力に対する支持が世界的に高まっているが、調査対象となった20か国のうち、不支持が支持を上回る国は3か国であり、それらは、日本、スペイン、ブラジルである。日本は、不支持40%に対して支持29%となっている。回答からは、わが国では、原子力の信頼性や安全性への懸念が大きいことがわかる。このことは、2011年における東日本大震災とそれに伴う原子力事故が影響しているようだ。

本調査からは、原子力PAの改善のためのヒントを得ることができる。調査回答では、世界的に、原子力発電の仕組みについて高い知識を有する回答者では支持が不支持を大きく(35%ほど)上回ることが示されており、知識の無い回答者では、支持と不支持はほぼ同数となっている。わが国については、原子力発電の仕組みについて高い知識を有する回答者では、支持と不支持がほぼ同数となっており、知識の無い回答者では、不支持が支持を20%ほど上回っている。このことは、原子力発電に関する理解レベルの深化が大変重要であることを示唆するものと言えるだろう。

ある目標達成のためには、一つではなく複数の手段を使うほうが効率的であることは明白である。一つだけの手段では、目標達成のための限界費用は著しく高くなるからだ。わが国では、CN達成のためには、再生可能エネルギーだけでなく原子力も主要な役割を担う。両者いずれかといった二項対立ではなく、利用可能な脱炭素電源は適切に活用していかなくてはならない。エネルギー転換を成功させるためには、必要となる技術の知識基盤の拡大と国民への教育が、必須条件となるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

理想のSDV実現 遠く険しい道


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

SDV(Software Defined Vehicle)には、いろいろなメリットがあると言われている。消費者にとっては、いちいちディーラーにクルマを持ち込まなくてもOTA(Over The Air)を利用して機能を向上させたり、新たな機能を取得できたりすることが挙げられる。また、自分の好みの特性にカスタマイズすることも可能となる。

自動車メーカー側にとっては、販売後も消費者とつながりを持つことで、継続的にいろいろなサービスを提供することで収益を得たり、運転データを取得・解析してその後の開発の指針を得たりと、新たなビジネスモデルの創出に寄与することも期待されている。しかし、このようなメリットを具現化するためには、さまざまな課題があることも事実だ。

SDVのメリット・デメリット

一つには、クルマの機能をソフトウエアで自由に設定できるという構造がもたらす、走行安全性の失陥への防護施策の困難さが挙げられる。ソフトのバグやハードウエアの欠陥、そしてサイバー攻撃などが、クルマの走行機能に直接影響することになるため、それが不安全性につながることを避けなければならない。そのためには、SDV機能を担うコンピューターのハードとソフトのシステム構成を工夫することが必要となる。SDVでは集中型のコンピューターの方がより柔軟な機能設定が可能となるが、上記の安全性の失陥につながる可能性は高くなる。コンピューターのハードとソフトをどこまで集約して、どの部分を分散させれば安全性の確保ができるかというシステムデザインの検討が必要である。

次に、ビジネスの観点からの課題として、車載コンピューターの容量をどこまで余裕を持たせるべきか、ということが挙げられる。これまでのクルマ作りでは、機能が満たされる最低限の容量にして、コストを低減するデザインが採られていた。しかし、SDVではバージョンアップや新機能追加のための余裕を持たせる必要があり、それにはコスト増を容認しなければならない。さらに、容量に余裕を持たせていても、スマートフォンなどの例でもわかるように、新たなソフトに対応するにはハードも刷新する必要がある。

もう一つ大きな課題は、国土交通省の道路運送車両法に基づくクルマの機能の認可への対応が挙げられる。例えばブレーキ装置など安全にかかわる機器は、モデルチェンジなどの際に同省の認可が必要となる。そのためには、その装置の試験データを添えて規定に適合させる手続きが必須であるが、ソフトの更新時に毎回その手間をかけられるのかどうか―、ということがメーカー側の課題となる。

このように、SDVの機能を柔軟にすればするほど、解決すべき壁はより高くなっていく。それゆえに、当面はSDVといってもナビゲーションシステムや表示系などの走行安全に影響の少ないものから取り入れていくことになると考えられる。そして、理想のSDVを実現させる道は遠く険しいものであり、その事実が現在の多くの自動車メーカーの技術開発陣を悩ませている。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2025年1月号)


【三浦工業/新型のガス焚き小型貫流蒸気ボイラーでCN貢献】

ボイラーメーカー大手の三浦工業は、産業用熱源として使用されている主力製品「ガス焚き小型貫流蒸気ボイラSQ-AS型」をモデルチェンジし、「SQ-CS型」を25年3月から順次発売する。CS型は排ガス中のO2濃度を常時計測し濃度が一定になるよう制御する「O2センサ」を搭載したことが特徴。これにより、細かな燃焼調整が可能となった。さらに排ガスと給水を熱交換する装置「エコノマイザ」を改良することで、従来機より1%高いボイラー効率99%を達成したという。同社は新製品を通じて、カーボンニュートラル(CN)の実現に貢献していく構えだ。


【NEDO/液化CO2大量輸送に向けた実証試験の説明会】

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、工場や火力発電所などから回収したCO2を液化し貯蔵や荷役を経て船舶で運ぶ一貫輸送システムの確立に向けた技術開発の説明会を開いた。CO2を低コストで大量輸送する役割が期待される実証試験船「えくすくぅる」で、京都府舞鶴市と北海道苫小牧市の間を往復する試験を開始した。NEDOの布川信サーキュラーエコノミー部CSSチーム長は、輸送船用貨物タンクの開発や液化CO2を安定した状態で運ぶ技術などを追求し、CCUS(CO2回収・有効利用・貯留技術)の社会実装を促すことへの意欲を示した。


【岩谷産業/LPガス配送の合理化へ横須賀デポステを新設】

LPガス配送の合理化に向け、岩谷産業はこのほど、神奈川県横須賀市内のLPガス充てん所を改良し大型トレーラーを受け入れるデポステーション(ボンベ置き場)としての機能を新たに追加した。出荷機能を高めるため、24年4月に横浜市内に整備した根岸LPガス液化ターミナルと横須賀デポステとの間を、トレーラーが毎日2往復をめどにピストン輸送する。1車両当たり12.5tを積載する大型トレーラーを8台活用する予定で、輸送能力は年間で約1万4000t。同社は、人口が約70万人の横須賀エリアにおけるシェアを現行の約4割から将来は6割まで高めたいとしている。


【東邦ガスほか/四日市市に地域新電力設立、公共施設に供給】

東邦ガスはこのほど、三重県四日市市、日鉄エンジニアリング、三十三銀行との共同出資で地域新電力会社「よっかいちクリーンエネルギー」を設立したと発表した。25年4月以降の電力供給を目指す。同市のごみ処理施設で発電した電力などを市内の公共施設に供給し、エネルギーの地産地消を進める。事業で得た利益は脱炭素化に役立つ取り組みなどに活用する。


【JPEC、産総研/液体合成燃料の製造プラントで連続運転に成功】

カーボンニュートラル燃料技術センター(JPEC)は、産業技術総合研究所と共同で、CO2と水から液体合成燃料を一貫製造するベンチプラントを開発し、連続運転に成功した。液体合成燃料は既存インフラを有効活用し、ガソリンや軽油、ジェット燃料などを代替できる利点を持つ。両者はシステムの規模を拡大し、社会実装に向けた取り組みを進めたい考えだ。


【茨城大学/カーボンリサイクルのシンポで最新動向を紹介】

茨城大学カーボンリサイクルエネルギー研究センター主催のシンポジウムが、11月末に開催された。元トヨタの中田雅彦氏が「エネルギー、CO2/気候変動問題などの最近の動向」をテーマに基調講演。また、同センターの田中光太郎教授が「湿度スイング式DAC(CO2の直接回収技術)」研究の進捗を紹介し、社会実装に向け企業と基盤技術を共有する意向を示した。

ロシアで進む気候変動の「時限爆弾」 国際社会は地球規模課題に集中を


【オピニオン】加藤 学/国際協力銀行 資源ファイナンス部門エネルギー・ソリューション部長

北極圏の海氷融解が指摘されて久しい。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、1980年代と比較し、現在の夏の海氷面積は約50%減少しているとレポートしている。地球温暖化の威力にがくぜんとする。

もっとも、ロシアの影響圏に敏感なプーチンの視座からみると、これは「安全保障上の脅威」にほかならない。ロシアの北極圏領土は、分厚い海氷が他国軍艦の侵入を許さず、自然の要塞となってきた。氷が溶け、近年これが脅かされているとプーチンは認識する。

2024年11月、露紙「ロシイスカヤ・ガゼータ」は、パトルシェフ大統領補佐官が北極圏での国益保護を目的とする「海洋参事会評議会」を設立したと報じた。北極圏のエネルギー資源と領土を狙う西側諸国への対抗策が協議されるという。パトルシェフといえば、タカ派中のタカ派として知られ、プーチンとともにウクライナ侵攻を決めた主戦論者。16年間にわたり安全保障会議書記を務めたが、24年5月、造船担当の大統領補佐官となった。降格人事とも目されたが、浮上する北極圏領土の防衛問題を任されており、その影響力は引き続き侮れない。パトルシェフは造船分野もカバーしているため、対ロ制裁をかいくぐり、ロシアの石油や石油製品を海上輸送する「シャドーフリート」(影の船団)のアレンジにも一枚かんでいる可能性がある。

北極圏で融解しているのは海氷だけではない。ロシアの陸地の65%を占める永久凍土も溶け出している。永久凍土には推定1.7兆tの炭素が、凍結した有機物の形態で閉じ込められているが、地表に出て温められると腐敗するため、メタンやCO2となって大気に放出される。この悪循環は、まさに気候変動の「時限爆弾」だ。また、永久凍土の融解により、感染症を引き起こす細菌やウィルスなどが解き放たれる恐れがある。16年にはヤマロ・ネネツ自治管区の先住民族が、トナカイの凍結死骸が溶けて放出された炭疽菌に集団感染し、死者も出ている。さらに、凍土中にある天然痘ウィルスが地表に出て活動を再開する危険もあるという。

言うまでもなく、これらは、ロシアにとどまらない「人類全体への脅威」である。ロシアもメンバー国である北極評議会は、今こそ、こうした北極圏の環境問題にアクティブに取り組んで欲しい国際組織だ。残念ながら、ウクライナ侵攻後、ロシアを巻き込んだ協議が進まず、その分野別ワーキンググループの活動も停滞気味とされる。

米国政権が変わる。国際社会は一致協力し、ウクライナでの紛争を一刻も早く終わらせ、ロシアの北極圏を発端とする地球規模の課題解決に集中すべきだ。

かとう・まなぶ 1996年日本輸出入銀行(現、国際協力銀行・JBIC)入行。延べ8年にわたりJBICモスクワ事務所に勤務。2022年から現職。近著に『ウクライナ侵攻 地政学×地経学の衝撃』。ロシアとエネルギーが専門領域。

開発機運高まる核融合 「産業化」目指す日本の強み


【脱炭素時代の経済評論 Vol.10】関口博之 /経済ジャーナリスト

「地上の太陽」「究極のクリーンエネルギー」と期待される一方、「いつまでたっても実用化まであと30年」と言われ続けた核融合。だがここに来て開発機運は高まり、投資も加速。世界中の投資額は62億ドル(9300億円)に上るとされる。2024年11月下旬、この核融合による発電をテーマにしたパネルディスカッションに司会として参加したが刺激的な経験だった。

国の核融合政策の司令塔・内閣府をはじめ、京都大学発のベンチャー「京都フュージョニアリング」、大阪府吹田市と浜松市を拠点にする「エクス・フュージョン」、核融合科学研究所の研究者らによる「ヘリカルフュージョン」と、日本を代表するスタートアップがそろって登壇とあって筆者にも得るところが多かった。「核融合=フュージョンという言葉を定着させたい」「従来は学会が発表の場だったが、企業が参加するこういう見本市でこそアピールしたかった」。京大教授から京都フュージョニアリングを創業した小西哲之氏は期待を口にした。

核融合は、例えば重水素と三重水素(トリチウム)の原子核が衝突しヘリウムになる際のエネルギーを利用する。原理的には原料1gで石油8t分のエネルギーが得られるとされる。国は23年に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を掲げ、開発計画の前倒しと世界に先駆けた「30年代の発電実証」の達成を目指している。民間スタートアップも発電実証に同様の目標を立てている。

フランスで建設中の核融合実験炉イーター
©ITER Organization

核融合にはいくつかの方式があるが、そのいずれにも技術開発の足場を持っているのは日本の強みだ。「磁場閉じ込め方式」の一つ、トカマク型では国際熱核融合実験炉・イーター(ⅠTER)計画に参加しているほか、茨城県那珂市に設けた実験装置では発生させたプラズマの体積のギネス記録を24年に達成した。またヘリカル型では核融合科学研の大型装置がプラズマ温度1億℃、保持時間3000秒以上を記録している。一方「レーザー方式」はエクス・フュージョンが手掛ける。「米ローレンス・リバモア研が世界で初めて投入量より多いエネルギーを取り出す『純増』に成功しているのが強み」(代表取締役・松尾一輝氏)という。

世界が研究開発にしのぎを削る中、今回のパネルディスカッションが主眼としたのは「核融合は実現できるのか」ではなく、その先の「核融合をどう産業化するか」だった。「研究開発と並行し製造業など幅広い企業を巻き込む必要がある。どういち早くサプライチェーンを構築するか、世界はその競争に向かっている」。フュージョンエネルギー産業協議会会長でもある小西氏はこう力説する。

一方で、国の責務が安全規制の確立だ。原発の核分裂反応とは異なり、核融合では連鎖反応が起こらず、燃料供給を止めれば反応が止まるため安全性が高いとされる。とはいえ「何となく怖い」という国民の漠然とした感覚もある。核融合の特性に合った新たな規制は不可欠だ。

パネルディスカッション終了後、外には登壇メンバーに名刺交換を求める企業関係者の長蛇の列が。「産業化」に向けた好機になったのではないか。


・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.08】これも「脱炭素時代」の流れ 高炉跡地が〝先進水素拠点〟に

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.09】割れる世界のLNG需給予測 日本は長期契約をどう取るか

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

EUA価格は60€台で推移 26年を境に急上昇の予測も


【マーケットの潮流】高井裕之/国際ビジネスコンサルタント

テーマ:EU―ETS

ガス需要の減少や一時的な供給量の増加により、EUにおける排出価格は低位で推移している。

ただ、2026年を境に急上昇する可能性も。日本企業は新たな規制環境にどう対応すべきか。

ガス需要の減少や一時的な供給量の増加により、EUにおける排出価格は低位で推移している。
ただ、2026年を境に急上昇する可能性も。日本企業は新たな規制環境にどう対応すべきか。

厳格な排出権取引制度を先行させた欧州は、脱炭素の分野で影響力を強めつつある。直近の制度改正では、欧州向けの輸出コストの上昇や新たな規制対応が避けられない状況が見えてきた。本稿では、欧州の最新の排出規制の動向と、それが日本企業に与える影響を考察する。

欧州排出権取引制度(EU―ETS)とは、2005年に導入され、EU加盟国27カ国にアイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェーを加えた欧州経済領域(EEA)内で運用される制度である。発電・産業・航空部門といった温室効果ガス(GHG)の排出が多い産業部門を対象とし、年間の排出量に相当する排出権(EUA)の取得を義務付けることで自主的に排出を減らす経済的インセンティブを与え欧州全域での排出量の削減を目指す制度だ。産業部門やGHGの対象範囲を拡大したり罰則を強化したりと、制度内容は徐々に厳格化される傾向にある。

EU―ETSにおける排出枠(EUA)の推移


CBAMの導入を決定 欧州向け輸出への影響は?

直近では、23年6月に採択されたEU―ETS改正指令に基づき排出削減目標が引き上げられたほか、その達成手段としてEUA流通量の年間削減率(LRF)の強化や無償割当枠の段階的廃止、海運部門の追加といった変更が加えられた。さらにEU―ETSを補完する制度として、建物・道路輸送・小規模産業部門を対象とするEU―ETS2を新設。欧州圏内に輸入される製品を対象に、生産工程で排出されたGHGの量に応じた課徴金を課する炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入も決まった。

この改正により、欧州圏外の事業者も巻き込まれることになる。例えば、海運部門が対象に追加されたことで、圏内の港に停泊する船舶を運航する日本の事業者はEU―ETSの下で排出量の報告義務とEUAの取得義務を負う。また、CBAMの課徴金額はEUA価格を基準とするため、その動向は欧州向けに対象製品を輸出する事業者に間接的に影響することになる。

EU―ETSはGHGの排出コストを可視化する制度だが、特徴的なのは、その金額を炭素税のように制度的に決めてしまうのではなく、市場メカニズムに委ねる点である。新規に発行されるEUAの一部は無償で事業者に割り当てられるが、大部分は欧州エネルギー取引所(EEX)が運営する有償オークション(1次市場)で割当てと価格が決まる。また、既発行のEUAを事業者間で直接売買する2次市場も存在する。いずれにせよ、EUA価格は需給バランスによって日々変動する。

送配電業務に欠かせない技能を競う 日頃の成果を披露する絶好の機会


【東京電力パワーグリッド】

東京電力パワーグリッド(PG)は12月4日〜5日の2日間、総合研修センター(東京都日野市)と給電技能訓練センター(東京都荒川区)で「全社技術技能競技大会」を開催した。今回は「レジリエンス強化」をテーマに送配電、系統運用など11種目に分かれ、大規模災害時の停電復旧や部門・地域を超えた連携などの課題に対し、日頃の対応業務の能力を競った。

停電からの系統復旧技能を競った


過酷事故からの復旧 チーム力が勝負

系統運用部門の競技は、給電技能訓練センターにおいて実際の電力系統を再現したシステムを使って行われ、各エリアの給電所を代表し8チームが参加した。1チームは当直長、2人の操作担当者、情報発信担当者の4人で、日頃から一緒に勤務している当直チームのメンバーだ。台風によって広範囲にわたって停電が発生したことを想定し、系統を復旧させるまでの技能を「操作の安全」「迅速な復旧」「適切な情報発信」の三つの審査ポイントで競い、「多摩」チームが優勝した。

岸栄一郎系統運用部長は「これまで培ってきた技術・技能を一人ひとり発揮できている」としつつ、「発電・小売事業者など関係者が増え、自然災害が激甚化する中で給電所員にはより高度な対応力が求められている」と言い、さらなる技術技能の引き上げに意欲を見せた。

盛況だったドローン競技

総合研修センターで行われた、ドローン競技は、指定の時間内に全ての障害物・ゲートを通過し、安全かつ効率的に操縦できるかを競う。同社の各チーム対抗戦に加え、東京ガスネットワークやNTT、関西電力送配電など他のインフラ企業とのエキシビションマッチも行われた。人財開発室の山崎英明副室長は「ドローンのような発展途上のツールは、他者の取り組みを知ることで新たな気付きがある。切磋琢磨できる場を提供する狙いがあった」と話す。ドローン競技は昨年から始まった新しい種目。競技開始の前後に参加者にインタビューしたり、競技中に音楽を流したりなど、スポーツ会場のような雰囲気だ。競技種目でも異彩を放っていた。

大会終了後は全チームの競技内容を振り返り日頃の業務改善に生かしていく。技術の進歩とともに、使用設備や機材も変わる。新たに取り組むべき業務において、競技大会は刺激になる絶好の機会になっているようだ。

エネルギー政策こそ「国政の大本」 残念だった石破首相の所信表明演説


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

第二次石破政権が誕生し、この間2回の所信表明演説が行われた。2024年10月4日に行われた最初の演説では、エネルギーに関する項目が立てられ、「エネルギーの安定的な供給と安全の確保は喫緊の課題です」から始まり、省エネの徹底、安全を大前提とした原子力発電の利活用、国内資源の探査と実用化を挙げ、そのためのGXの取り組みの加速をうたっている。しかし、それらはエネ庁の部署ごとの現在の業務を列挙したものに過ぎず、石破政権として何に取り組むのかエネルギー政策の理念や方向性はうかがえない。あえて言えば、「わが国が高い潜在力を持つ地熱など再生可能エネルギー」という表現で、再エネの代表例としてなぜか地熱が挙げられていることくらいか。

総選挙後、11月29日に臨時国会で行われた所信表明演説では、エネルギーに関する項目はなくなり、石破政権が目玉とする「地方創生2・0」の中でエネルギー政策は述べられている。「地方の取り組みが花開くためには、国としての環境整備も必要です」と始まってGXの話をひとしきりした後、最後に「エネルギー基本計画……もまとめてまいります(傍点筆者)」とオマケのように付言されているだけだ。なお、ここでもなぜか地熱が例示されている。石橋湛山の言葉で始まり締められるこの演説は、最初の演説より多少石破首相の政治家としての思いがこもったものであり、防衛大臣経験者として外交・安全保障から始まるのも、新鮮だった。それだけに、今夏のコメ不足の話題から食料安全保障のことは話すのに、エネルギー安全保障に関する言及がほとんどないのは、残念だった。


GXは問題解決の一手段 究極の目標は国家の自立

少資源国のわが国にとって、エネルギー政策は国の存立そのものである。臨時国会で審議されるエネルギーなどの物価高騰対策のための補正予算案の元凶も、国富の膨大な流出と引き換えに大量の化石燃料を輸入せざるを得ないわが国のエネルギー供給構造にある。石破首相や最近の政府が盛んに言うGXは、わが国のエネルギー問題を解決するための一手段に過ぎない。エネルギー政策は安定供給の確保であり、究極の目標はエネルギーの自給による国家の自立である。

演説の冒頭、石破首相は「国政の大本について、常時率直に意見をかわす慣行を作り、おのおのの立場を明らかにしつつ、力を合せるべきことについては相互に協力を惜しまず、世界の進運に伍していくようにしなければならない」という石橋湛山の所信表明の一節を引用している。

エネルギー政策こそ、「国政の大本」だ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年1月号)


NEWS 01:大間原発の基準津波了承 安全対策工事開始に前進も

原子力規制委員会は2024年11月29日、大間原子力発電所の審査で基準津波を7・1mとするJパワー側の説明を了承した。大間原発は出力が国内最大級(138万kW)で、完成すれば世界で唯一MOX燃料だけで運転できる最新鋭の発電所。まさに日本の未来を担う原発と言っていい。

Jパワーはこれまでに6度、安全対策工事の開始時期を延期してきた。基準津波や基準地震動が未策定のままでは、工事に取り掛かれないからだ。ただ大型クレーン設置の基礎工事を事前に進めるなど、工事開始から運転開始までの時間を短くする方針を打ち出している。大間原発は地元にとっても、財政や雇用に影響を与える「最重要課題」(大間町の野﨑尚文町長)だ。

規制委は24年秋、大間原発以外にも浜岡原発と泊原発の基準津波を了承した。どのサイトも審査申請から10年が経過している。もちろん審査の進展は歓迎すべきだが、事業者が地元の同意を得て建設に動く中で、災害時に最大でどれくらいの津波が押し寄せるかの判断に10年掛かる─。行政手続法上の標準処理期間2年を持ち出す前に、常識的に考えて異常ではないか。安全性の重要性は語るまでもないが、これでは民間企業の収益機会や地域の経済活動を制限していると見られても仕方ない。

こうした現状に政治がメスを入れてほしいのだが、それどころではなさそうだ。

着工から16年が経過した大間原発
提供:Jパワー


NEWS 02:第7次エネ基原案を提示 複数シナリオ用い抜本見直し

資源エネルギー庁は12月17日の総合エネ調・基本政策分科会で、第7次エネルギー基本計画の原案を提示した。30年度のエネルギーミックスは維持しつつ、40年度は複数シナリオを用いた見通しを提示した。

40年度に13年度比73%減の方向で検討が進む新たなNDCを念頭に置きつつも、自給率や発電電力量、電源構成、最終エネルギー消費量など各項目に幅を持たせる。電源構成では再エネ4~5割、原子力2割、火力3~4割程度などとした。

今回は、地政学リスクの高まり、データセンターや半導体製造などで電力需要増に転じる可能性にフォーカス。第6次から軌道修正し、第7次では野心的なCN目標は維持しつつ、多様かつ現実的なアプローチを拡大する。S+3Eは、安全性を大前提に、「エネルギー安定供給を第一とし」と表現が変化した。

さらに、「再エネか原子力かといった二項対立的な議論でなく、あらゆる選択肢を追及する」と強調。再エネは引き続き主力電源として最大限導入しながら、特定の電源に過度に依存しないよう、バランスの取れた電源構成を目指す。原子力も「最大限活用する」とし、第6次の「可能な限り原発依存度を低減」という一文は姿を消した。

加えて原子力政策の変更点が、リプレース方針だ。これまでは「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えを具体化する」としていたところ、今回は「廃炉を決定した原発を有する事業者の原発のサイト内」と修正。つまり同じ事業者なら廃炉とは別のサイトでの建て替えも可能となる。

エネ庁は24年内にもう一度会合を開き、ミックスに関する複数シナリオや、NDCを実現できなかった場合のリスクシナリオなども提示する予定だ。


NEWS 03:排出量取引制度の論点整理 25年通常国会で法改正へ

26年度に本格稼働する排出量取引制度(ETS)の概要が固まった。内閣官房GX実行推進室は12月19日、ETSの論点の整理案を提示した。制度の基本フレームを書き込んだGX推進法改正案を、25年初頭の通常国会に提出する予定だ。

対象は、直近3カ年平均でCO2の直接排出量が10万t以上の法人で、当面は排出枠を全量無償で割り当てる。発電事業者は、33年度から一部有償割当となる。対象者は毎年度自らの排出量を算定し、排出枠の償却義務量を確保。過不足分は市場で取引し、余剰分は翌年度に持ち越し可能だ。義務未履行の場合は、応分の負担金を支払う。

EUのような強力な規制は避け、排出枠はNDCとリンクさせない方針だ。他方、NDCとの整合性は、削減目標などを掲げる移行計画の提出を毎年度求めることでバランスを取る。目標年度は当面30年とする。

割当量については、エネルギー多消費分野は業種別のベンチマーク方式で算定し、他分野は、基準から毎年一定比率で引き下げるグランドファザリング方式とする。電力会社や石油元売り、そしてガス会社の発電事業についてはベンチマークとなる。ただし、ガス事業自体は直接排出量がそれほどの規模ではないため、別途28年度から化石燃料賦課金を徴収する。

排出枠価格の安定化に向け、上限・下限価格を設定。価格高騰時は、上限価格を支払うことで義務の履行を可能とする。他方、一定期間下限価格を下回る場合は、リバースオークションを実施し需給を引き締める。

ただし、具体的な業種別の割当量や、上限・下限価格の水準は今回示さなかった。規制の強度を左右するこれらの水準は、25年度引き続き専門家を交え検討する。


NEWS 04:電源別発電コストを試算 エネ政策への影響は?

40年度の電源構成比(エネルギーミックス)はどうあるべきか―。資源エネルギー庁は12月16日、その議論の叩き台となる電源種類別発電コストの試算結果を公表した。

注目すべきは、新たな発電設備を建設・運転した際の1kW時当たりのコストに加え、総発電設備容量に占める変動再生可能エネルギー比率が4、5、6割の3ケースについて、統合コストの一部を考慮し算出していることだ。

それによると、事業用太陽光のコストは「4割」のケースで15・3円と全ての電源の中で最も安くなるが、5割を超えると原子力、LNGよりも高くなる。電力システム内に変動再エネが増加するほど、火力の効率的運転が困難となり燃料使用量が増加するためだという。

再エネのコストは安いのか?

一方、21年度に試算した30年度の試算では、コスト優位性が高かったLNGにはCO2対策費を反映。これにより、専焼で20・2~22・2円、水素10%混焼で20・9~23円と、原子力の16・4~18・9円よりもコスト高になるとの結果が示された。

こうした情報が出ると、ともすると世間では電源間の優位性を巡る議論に陥りがちだ。だが、この試算が示すのはあくまでも一定の前提を置いた上での経済性という一面に過ぎない。電力システム全体で安定供給性、環境性をいかに追求するべきかという視点を持ち、今後の政策議論を見守る必要がある。