【識者の視点】小笠原 潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事
データセンターのエネルギー源として原子力発電を活用する可能性が浮上している。
先行する米国では、系統費用負担を巡り議論が紛糾。一筋縄ではいかないようだ。
米国では電気事業の在り方を巡り「共立地負荷(Co―Located Load)」問題が議論を呼んでいる。これは、発電所の系統に接続する地点での計量器の背後に負荷設備が接続する仕組み。負荷設備の計量器の背後に発電設備を接続させる「ビハインド・ザ・メーター」の負荷版だ。
現在係争中の案件では、PJM(米国北東部地域の地域送電機関)に属するペンシルベニア州のTalen Energyが所有するサスケハナ原子力発電所からアマゾンのデータセンター(DC)が直接供給を受けている。今年6月3日、連邦エネルギー規制委員会(FERC)に発電所の連系申請書の修正版を申請した際に、DCは電力系統から電気を購入しない「非系統負荷(Not Network Load)」だと宣言して、託送料金や(周波数安定などの電力品質を維持する)アンシラリーサービス料金の負担から免除されるとした。

同申請は、PJMと送電会社PPLとの共同で提出された。これに対して、Exelonなど既存公益事業者が、DCは安定した周波数・電圧や停電時のブラックスタートなど、系統とつながることで利益を得ており、相応の負担をすべきとしてFERCに異議を申し立てた。Exelonなどの異議申し立てには、PJMの市場監視ユニットも支持を表明している。
非系統負荷という主張は分かりにくいが、サスケハナ原子力発電所は発電機が2基あり、DCは通常1号機から電気の供給を受けるが、1号機が停止している際には2号機から供給を受けること、そして両方の発電機が事故で停止した場合にはリレーで受電を停止することから、系統から一切の電気を購入しないと主張している。通常、託送料金とアンシラリーサービス料金は系統から購入する電気の規模(kW)と量(kW時)に基づいて支払い額を計算する。そのため系統から電気の受電規模・量がゼロである当該DCはこれら料金負担から免除されるという理屈である。
規則改正はないまま 賛成・反対双方の主張は
PJM内では、2021年12月の市場適用委員会で課題提起が行われたが合意に至らず、規則改正が行われないまま現在に至っている。共立地負荷に対応するための規則が無いにも関わらず、共立地負荷の問題を含むサスケハナ原子力発電所の連系申請の修正申請を行ったことが、問題を複雑化させた。PJMとしては既に原子力発電所からDCへ直接電力供給が行われていることと、サスケハナ原子力発電所から系統へ売電する規模が減少しているという事実があり、現行の規則で対応できる方法を模索したと言える。
この共立地負荷を認めることに対して、原子力発電協会やクリーンエネルギー購入事業者協会、一部電力会社は賛成の立場を表明している。特に原子力発電協会は、ライセンスの更新を控える発電所が増える見込みである一方で、再生可能エネルギー発電の増加によりエネルギー市場で卸売価格が低迷していることから、長期契約で安定的に電気を売ることができる共立地負荷の枠組みは魅力的だとしている。またDC側では、系統への接続申請を行っても、同様の申請の増加で申請から接続完了までの期間が長期化していることから、短期間かつ低費用で接続できる共立地負荷を希望する事業者が増えている模様だ。