米国で議論紛糾の共立地負荷 系統費用の負担に一石


【識者の視点】小笠原 潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事

データセンターのエネルギー源として原子力発電を活用する可能性が浮上している。

先行する米国では、系統費用負担を巡り議論が紛糾。一筋縄ではいかないようだ。

米国では電気事業の在り方を巡り「共立地負荷(Co―Located Load)」問題が議論を呼んでいる。これは、発電所の系統に接続する地点での計量器の背後に負荷設備が接続する仕組み。負荷設備の計量器の背後に発電設備を接続させる「ビハインド・ザ・メーター」の負荷版だ。

現在係争中の案件では、PJM(米国北東部地域の地域送電機関)に属するペンシルベニア州のTalen Energyが所有するサスケハナ原子力発電所からアマゾンのデータセンター(DC)が直接供給を受けている。今年6月3日、連邦エネルギー規制委員会(FERC)に発電所の連系申請書の修正版を申請した際に、DCは電力系統から電気を購入しない「非系統負荷(Not Network Load)」だと宣言して、託送料金や(周波数安定などの電力品質を維持する)アンシラリーサービス料金の負担から免除されるとした。

共立地負荷の仕組み

同申請は、PJMと送電会社PPLとの共同で提出された。これに対して、Exelonなど既存公益事業者が、DCは安定した周波数・電圧や停電時のブラックスタートなど、系統とつながることで利益を得ており、相応の負担をすべきとしてFERCに異議を申し立てた。Exelonなどの異議申し立てには、PJMの市場監視ユニットも支持を表明している。

非系統負荷という主張は分かりにくいが、サスケハナ原子力発電所は発電機が2基あり、DCは通常1号機から電気の供給を受けるが、1号機が停止している際には2号機から供給を受けること、そして両方の発電機が事故で停止した場合にはリレーで受電を停止することから、系統から一切の電気を購入しないと主張している。通常、託送料金とアンシラリーサービス料金は系統から購入する電気の規模(kW)と量(kW時)に基づいて支払い額を計算する。そのため系統から電気の受電規模・量がゼロである当該DCはこれら料金負担から免除されるという理屈である。


規則改正はないまま 賛成・反対双方の主張は

PJM内では、2021年12月の市場適用委員会で課題提起が行われたが合意に至らず、規則改正が行われないまま現在に至っている。共立地負荷に対応するための規則が無いにも関わらず、共立地負荷の問題を含むサスケハナ原子力発電所の連系申請の修正申請を行ったことが、問題を複雑化させた。PJMとしては既に原子力発電所からDCへ直接電力供給が行われていることと、サスケハナ原子力発電所から系統へ売電する規模が減少しているという事実があり、現行の規則で対応できる方法を模索したと言える。

この共立地負荷を認めることに対して、原子力発電協会やクリーンエネルギー購入事業者協会、一部電力会社は賛成の立場を表明している。特に原子力発電協会は、ライセンスの更新を控える発電所が増える見込みである一方で、再生可能エネルギー発電の増加によりエネルギー市場で卸売価格が低迷していることから、長期契約で安定的に電気を売ることができる共立地負荷の枠組みは魅力的だとしている。またDC側では、系統への接続申請を行っても、同様の申請の増加で申請から接続完了までの期間が長期化していることから、短期間かつ低費用で接続できる共立地負荷を希望する事業者が増えている模様だ。

【覆面ホンネ座談会】米国は「トランプ2.0」へ 石破政権との相性は?


テーマ:米国大統領選と今後のポイント

米国大統領選は、近年まれにみる接戦で大勢判明まで時間を要するという大方の予想を裏切り、即日決着でトランプ氏が勝利した。各国は「トランプ2・0」のアクションを固唾を飲んで見守っている。

〈出席者〉 A米国在住アナリスト Bエネルギーアナリスト C経済産業省OB

―日本では大統領選の結果が予想外というトーンで報じられたが、米国はどうだった?

A 現地でも驚きを持って受け止められた。民主党支持者の間では、2016年のトランプ勝利よりも衝撃が走った。民主党の支持基盤のラテン系や黒人系、若年層、あるいは低中所得者の票がトランプに流れた。物価高・高金利での生活苦、不法移民拡大に伴う不利益など、バイデン政権への強い不満がトランプを後押しした。対立軸の一つがエネルギーで、トランプは「ドリル、ベイビー、ドリル」と、脱炭素に傾倒したバイデンの政策を取り除くとアピール。実際に化石燃料が増産するかは疑問だが、インフレ対策の柱に位置付けた。一方、ハリス氏はトーンを弱めながらも現路線を継続。産ガスが基幹産業のペンシルベニアや、EV推進ノーの自動車産業労働者が多いミシガンなどで支持を失った。民主党が路線を修正しないまま現実の身近な不安への答えを示さず、中絶の権利などの理念的問題ばかり強調したことが、敗因の一つだ。

第二次トランプ政権のエネルギー・環境政策はどこへ向かうのか

B 民主党が勝つifの世界を考えた場合、まずバイデン氏が老衰問題で撤退を余儀なくされなかったら、展開は違っただろう。民主党の中でも左派がハリス、中道がバイデンと役割分担があり、バイデンの方が有色人種・マイノリティの支持は強かった。しかし左派がバイデン下ろしに動き、自ら中道の支持基盤を失った。二つ目のifは、ハリスがシャピロ・ペンシルベニア州知事を副大統領候補にできていたら、ということ。シャピロはシェールの水圧破砕法推進派であり、元々は反対派だったハリスが発言を変えてまで秋波を送ったが、結局失敗。しかもトランプから「ハリスはうそつき」と批判されてしまった。さらにイーロン・マスクなどのテクノ・リバタリアンがバイデン政権を評価せずトランプ支持にまわり、勝負あった。

C どちらが勝とうとも対応できるようにすることが役所の基本的な対応スタンスだが、一番恐れたのは「決まらない」こと。僅差での決着となり「投票結果がおかしい」と暴動が起きるなど、確定までしばらく時間がかかるようなことがあれば、世界各国もどちらを見たら良いのか悩み、政策が停滞しただろう。その点、すぱっと決まったことは良かった。

A 今回、脱炭素に伴うエネルギー高騰に抗議するフランスの「イエローベスト運動」を思い出した。「エリートが地球の終わりを語る時、私たちは月末の支払いに苦しんでいる」というスローガンを掲げたものだ。まさに米国民も、自分たちの苦しみを民主党は軽視し、トランプは理解していると受け止めた。


現政策を大幅見直し 内政どう変わる?

―トランプはパリ協定脱退や化石燃料生産拡大、IRA(インフレ抑制法)見直しなどを示唆しているが、どう見るべきだろうか。

B 大統領権限では化石燃料生産をコントロールできない。バイデンが水圧破砕法を禁止した中でも生産量は過去最大規模となった一方、今年に入り生産は鈍化。トランプがいくら「掘れ」といっても生産量にはあまり影響しない。エネルギーでは内政より外交への影響が大きい。また、パリ協定離脱も世界的に織り込み済みで、脱炭素のトレンド自体は変わらず、というのが一般的な見方。ただ、日本の政策はとにかく米国の意向を気にする。NDC(国別目標)などの議論が進む中、トランプ路線に合わせていく可能性もあり得る。

C その通りで、実態はバイデン政権下でも化石燃料利用が拡大した。大統領がいくら発破をかけても、増産し価格が落ちれば誰も掘らなくなる。生産量は需給で決まるものだ。

B IRAに関しては、共和党系の州に有利に働いている部分もある。トリプルレッドの状況下で共和党自身がIRAを覆す事には反対だろう。EVや再エネに関して細かく条件を修正し、骨抜きにする程度ではないか。

A また、車の排ガス規制はEPA(環境保護庁)の権限ではないとし、力を削ぐ方向に動くと見ている。しかも連邦最高裁は6月、これまでの行政法の考え方の基となる「シェブロン法理」を覆す判断を下し、規制を巡る政府の裁量は制限されていく。中長期的には気候変動政策に積極的なカリフォルニア州などの裁量権も奪われていくのではないか。4年後に民主党が政権を奪還しても、こうした流れは変わらない可能性がある。

B EPA長官には、トランプが「法律に詳しい」と評価するゼルディン元下院議員を、さらにノースダコタ州のバーガム知事を、エネルギー・環境政策全般の権限を持つ国家エネルギー会議議長に任じた。憲法問題にまで発展するイシューとなる可能性が人事からも見えてくる。

【イニシャルニュース 】若者にもCO2懐疑論 支持集める識者S氏


若者にもCO2懐疑論 支持集める識者S氏

ここ数年、若者の間では「気候危機」の認識がすっかり定着したと思われがちだ。今夏には、「安全な地球で暮らす権利を持ちたい」との考えから、全国の若者16人が大手火力発電事業者10社を相手に、CO2排出削減を求める訴えを名古屋地裁に起こした。日本で全国規模の気候集団訴訟としては初だという。ただ、彼らとは真逆の考えを持つ若者も確実に存在している。

W大学のX教授は、温暖化対策の必要性を前提に講義したところ、学生から「人為的に地球温暖化が進行しているというのは正しくない」といった考えをぶつけられ、驚いたという。一体その発想の根拠は何なのかを聞くと、エネルギー・環境問題に関する意見を積極的に発信する有識者・S氏の動画配信チャンネルとのこと。

S氏のチャンネルでは、「人間活動が主に温暖化させてきたことには疑う余地がない」などとするIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書とは一線を画す見解などを、さまざまな点からそれぞれの専門家を交えて議論している。

太陽フレアも温暖化の一因か

今や日本の有識者やエネルギー業界の中で人為起源の温暖化そのものを公に否定する意見は少数派だ。しかし、むしろフラットな視点を持つ一定層の若者に刺さっているという事実は、注目に値する。

余談だが、今年は異例の高気温状態が続いている。気候変動論者は事あるごとにCO2の影響を口にするが、いま太陽ではフレア活動が活発化し極大期に突入中。光が強くなることで地球に温度上昇をもたらすわけだが、なぜかそれは話題にならない。おかしい。


原子力政策に暗雲? 関係議員落選の余波

「エネルギー、とりわけ原子力政策に造詣のある有力議員がいなくなってしまったのは大変残念。今後、党内の体制をどう立て直すかを真剣に考えていかなくてはならない」。

10月27日の衆議院選挙を受け、自民党関係者のS氏は頭を抱える。折しも、国のエネルギー基本計画見直しの議論が佳境を迎える中で、原子力政策に関係してきた重鎮、中堅議員が軒並み落選してしまった影響は小さくない。

何よりもエネルギー・経済政策を取り仕切ってきた甘利明氏が落選。ほかにも石川昭政氏、細田健一氏、鷲尾英一郎氏、鈴木淳司氏、高木毅氏らが落選した。原発立地地域の議員も多い。

安倍政権では、原子力には「中道」のⅠ議員が原子力規制特別委員会委員長に就くなど、人事面で積極性が感じられなかった。岸田政権では原子力活用派の人が党、政府内で経産省関係の仕事に就いた。しかし今回の選挙で御破算になってしまった。

自民党の中堅層ではY衆院議員、S衆院議員、T衆院議員の、党内のエネルギー関係の役職就任が下馬評に上がるが、「石破首相の人事は党内に知人が少ないためか、情報不足で変なことが起きる」(メディア)と警戒する声が聞こえる。

「改選を来年に控えるT議員らは選挙に注力しなければならず、次期参院選に向け自民は党勢の立て直しに大変な状況」(党関係者)。ともすれば原子力政策の行方に暗雲が垂れ込めそうだが、慎重派の公明党が議席を減らす一方、推進派の国民民主党が大躍進したという情勢もある。決して暗い話ばかりではない。

1Fでデブリ試験的取り出し 千里の道も〝ひとつまみ〟から


東京電力ホールディングス(HD)は11月7日、福島第一原子力発電所(1F)2号機で炉心溶融によって溶け落ちた燃料デブリの試験的取り出しを完了した。採取したデブリの量は〝耳かき一杯〟分の0・7g。デブリは茨城県の日本原子力研究開発機構(JAEA)大洗原子力工学研究所で分析され、同機構が1年以内に総括的な評価を行う。

1Fで採取した0.7gのデブリ
写真提供JAEA

1F内のデブリは安定状態と推定されるが、この状態が長期に継続される保証はない。東電HDは30年代に大規模取り出しを開始する方針で、その手法については3月、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の小委員会が報告書を公表した。同社は小委の提言に基づいて、デブリに水をかけながら作業する「気中工法」を軸に検討を進めている。

過酷事故を起こした原発の廃炉を巡っては、チェルノブイリ原発ではデブリが原子炉下に流れ込んで固まり、巨大なドームで原子炉を石棺化した。スリーマイル島(TMI)原発ではデブリが圧力容器の中にとどまり、原子炉内を水で満たす「冠水工法」で99%を回収した。しかし1Fは圧力容器や格納容器が損傷し、デブリには燃料だけでなく金属などが多く混ざっている。量もTMI原発の約6倍だ。

「石棺化の方が合理的」との声がある中で、デブリ全量取り出しに向けて一歩を踏み出した1Fの廃炉作業。今回使用した「釣りざお式装置」の接続順のミスなど東電の対応の甘さは否めないが、生命の危険を伴うだけに静かな環境下で安全第一での作業が望まれる。

都心の地域冷暖房で新たな一歩 50年の蓄積土台に提供価値を拡大


【丸の内熱供給】

丸熱はビジネス街「大丸有」などで熱エネルギーを絶え間なく届けてきた。

培った経験と技術でサービスを拡充し、脱炭素社会づくりも支援する構えだ。

「都心の地域冷暖房を通じ、より良い都市環境の創造をめざす」―。そんな基本使命を掲げて約50年にわたり街づくりを支えてきた丸の内熱供給(丸熱、東京都千代田区)が、次の半世紀へ向けて新たな一歩を踏み出した。防災機能の強化や脱炭素化など、数々の時代の変化に向き合いながら事業を成長させてきた丸熱の歩みに迫った。

都心の地下に広がる配管網

日本を代表するオフィス街で知られる東京都千代田区の大手町・丸の内・有楽町地区。3地区の頭文字をとって「大丸有」とも呼ばれる同地区の地下にはエネルギー供給用のトンネルが張り巡らされ、その中を総延長約30‌kmに達する配管が走っている。その配管ネットワークを通じて、冷暖房用の熱エネルギーを絶え間なく届けているのが丸熱だ。 

現在は、大丸有以外も含めて23カ所のプラントで熱を製造し周辺の建物へ供給している。1970年代当時の大丸有地区は、皇居の松が枯れるなど大気汚染が深刻化し、公害防止の観点から地域冷暖房を推進する動きがあった。そこで、親会社の三菱地所をはじめとする同地区の地権者が中心となって、73年に丸熱を設立した。


大手町にプラント第1号 環境要請で役割が変化

営業を開始したのは76年。同年に丸熱初の地域冷暖房プラントである旧大手町センターが完工し、大手町に建つ複数のビルを対象に蒸気と冷水の供給を始めた。これが、常駐する専門技術員が供給状況を監視して冷暖房需要に対応する「メインプラント」の第1号だ。80年代に入ってからは、内幸町や丸の内一丁目にもプラントを構え、業容を拡大していった。

大丸有地区はその後、国内外の有力企業が集積する国際ビジネスセンターとして存在感を発揮。同地区の整備強化が望まれる中、88年には「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」(現大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会)が立ち上がった。丸熱もインフラ部会のメンバーとして同協議会に参画し、再開発に積極的に貢献した。

2000年代に入ると、環境庁が省に昇格し、先進国に温室効果ガス排出量の削減を課す「京都議定書」が発効されるなど、国内外で環境問題を重視する機運が醸成。こうした動きを背景に熱供給事業者へ期待する役割も、当初の都市公害対策から省エネルギー化や地球温暖化防止へと変化していった。

丸熱がそうした要請に応えて、大手町を舞台に追求してきたのが、「スパイラルアップ効果」だ。既存・新設の7カ所の冷水プラントを連携させて高効率の最新プラントを優先的に運転することで、エリア全体のエネルギー効率を高める取り組みだ。

東日本大震災が発生した11年以降に防災や事業継続への対応を強化する意識が高まる中で丸熱は、供給体制の強靭化や効率化に向けた取り組みを強化し始めた。

そうした狙いで機能を強化したプラントの一つが、18年に新設した「丸の内二重橋ビルプラント」。コージェネレーションシステムを導入したことが特徴で、そこで発電した電気を非常時に周辺ビルの帰宅困難者受け入れスペースへ供給できるようにした。20年5月には、旧大手町センターを高効率プラントに更新し敷地内移転する工事を終えたのを機に、重油とガスの両燃料に対応した非常用発電機を取り入れた。

丸熱の視線の先にあるのが、脱炭素社会という潮流だ。20年10月には、新時代を見据えた中長期計画「MARUNETU VISION 2030」を発表。同計画を通じて、従来から重視してきた「強靭化」「省エネ」「環境」という三つの価値を深掘りするとともに、「熱供給エリアへの貢献」と「三菱地所グループ内外のパートナーとの共創」という展開に力を注ぐ方針を明示した。

丸熱の中長期ビジョンの概要


外部パートナーとも共創 AIシステムの活用に意欲

エリア貢献に向けては例えば、熱利用に伴うCO2の排出量を相殺する「カーボンオフセット熱メニュー」を用意し、25年度からの供給を目指す。共創の成果の一つが、地域冷暖房プラントの効率を高める「AI最適制御システム」だ。新菱冷熱工業(同新宿区)と共同開発したもので、既存プラントへの採用拡大を狙う。

「時代の変化やニーズに的確に対応しながら、脱炭素社会をリードする新しい丸熱へと進化していきたい」と広報担当者。都市インフラの未来を照らす挑戦から今後も目が離せない。

原子力はエネ安保の要 必要性を分かりやすく伝える


【巻頭インタビュー】川井吉彦/日本原子力文化財団 理事長

資源小国の日本にとって原子力活用の意義は大きい。

政策の前進のために国や事業者に求められる情報発信とは。

かわい・よしひこ 1943年、千葉県生まれ。68年早稲田大学政治経済学部卒業、東京電力入社。同社広報部長、同社取締役、日本原燃代表取締役社長などを経て24年6月から現職。

―原子力を取り巻く現状をどう見ていますか。

川井 エネルギーを巡る安全保障環境の激変が最大のポイントです。ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、イスラエルとイスラム組織ハマスの紛争の終結も見通せません。象徴的だったのは欧州とロシアの関係です。ウクライナ侵攻前、EU(欧州連合)の天然ガスの対ロシア依存度は約40%、ドイツにいたっては55%でした。こうした中でロシアは欧州向けの天然ガス供給を遮断しました。その結果、エネルギーの安全保障で危機感を覚えた欧州を中心に、原子力発電所の運転延長や新増設の流れが急速に広まっています。

フランスは、2022年に6基の新設を発表し、再処理工場も40年以降の稼働を決定。イギリスは設備容量を50年までに最大2400万kW、電力需要の25%を原子力で賄うことを目指し、北欧のフィンランドは旧ソ連時代に建設したロビーサ1、2号機の70年運転を決めました。東欧のエストニアはSMR(小型モジュール炉)建設を検討しています。最近では、これまで原子力発電所がなかったポーランドが日本と建設に向けた覚書を結びました。

─日本については。

川井 日本のエネルギー供給構造は依然として脆弱です。1次エネルギーの8割が化石燃料で、そのうち原油は9割超を中東に依存している。エネルギー自給率も12%。こうした中、原子力の活用方針を明確に打ち出した岸田前政権については高く評価したいと思います。

政府の「エネルギー白書2024」には、昨今のエネルギー情勢について「日本はオイルショック以来のエネルギー危機が危惧される緊迫した事態に直面している」という記述があります。原子力の価値を明確化し、原子力発電所の運転期間などを見直したGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法も「オイルショック以来の危機が危惧される」という厳しい認識の下で作られました。石破政権には岸田前政権の路線を継承してもらい、新たに誕生する米国のトランプ政権に対しては、しっかりとした関係構築を期待したいです。

─最大限活用に向けた課題は何でしょうか。

川井 まずは再稼働ですね。福島第一原子力発電所と同じBWR(沸騰水型軽水炉)の女川2号機が12月に、島根2号機が来年1月に再稼働することとなりました。しかし震災後に再稼働を果たした炉は、これらを合わせてもわずか14基にとどまり、審査中が10基もあります。また安全審査が終了した柏崎刈羽6、7号機は、首都圏に電気を供給する東日本の電力需給の要です。東京電力には引き続き地元の理解獲得のため最大限の努力を続けてもらいたい。

また日本の原子燃料サイクル政策の中核を担う青森県六ヶ所村の再処理工場ですが、日本原燃はこの8月に竣工時期を2年半延期し「26年度」としました。新規制基準による原子力規制委員会の審査が長引いている結果ですが、何としても次こそは予定通りの竣工を強く望みます。一方で、むつ市にあるRFS(リサイクル燃料貯蔵)の中間貯蔵施設の操業開始は、原子燃料サイクルの実現に向けた大きな一歩となります。次のステップに進むためにもまずは安全第一に安定した操業を期待したいです。


規制委の組織改革検討を フランスの処分場に注目

─既設炉の再稼働や再処理工場の竣工には、規制委員会の審査が立ちはだかっています。

川井 独立性の高い、いわゆる三条委員会という位置付けは理解できます。しかし、日本が置かれた厳しい現実を踏まえた効率的な審査をお願いしたい。これは決して審査を緩める、手を抜くということではありません。監視機関の設置や外部の有識者を交えた審査の実施など、アメリカの原子力規制委を参考にした組織改革もそろそろ検討すべきと思います。

─他の課題は。

川井 最終処分場については、北海道寿都町と神恵内村に続いて、佐賀県玄海町が文献調査に名乗り出てくれました。実施主体であるNUMO(原子力発電環境整備機構)は、今後ともしっかりと腰を据えて国民の理解度を高めていかなければなりません。また海外を見渡すと、この8月にはフィンランドの最終処分施設「オンカロ」が試験操業を開始しました。ただフィンランドは日本と異なり使用済み燃料を直接処分します。この点、日本と同じくガラス固化体を最終処分するフランスでは、ビュール村で処分場の建設計画が進んでいます。理解活動などいろいろな面で日本の参考になると考えています。

─どうすれば原子力に対する国民の理解を高められますか。

川井 例えば原子燃料サイクルについては、これまで何度となく再処理路線の是非が議論されてきました。六ヶ所再処理工場の竣工が近づけば、再び議論の的となるでしょう。そのためにも、エネルギーにおける日本が置かれた厳しい現実を、広く国民に分かりやすく説明することが重要です。太平洋戦争やオイルショックを経験した日本のエネルギー政策の根底にあるのは、エネルギーの安全保障です。これを確立するために再稼働や再処理といった原子力政策を前に進める必要があり、その一助となれるように職員一丸となって頑張りたいと思います。

当財団は創立55周年を迎えました。これを大きな節目として、先輩の皆さんの志を引き継ぎ、原子力の一層の理解活動に取り組んでまいります。

長期需給見通し巡りバトル 現実路線はエネ研かIEAか


日本エネルギー経済研究所が10日18日、2050年までのエネルギー需給見通し「IEEJアウトルック2025」を発表した。前日には国際エネルギー機関(IEA)が「2024年版世界エネルギー見通し」を公表。関係者からは、50年ネットゼロ達成という「理想の未来」から逆算した「ネットゼロ排出シナリオ(NZE)」があるIEAの見通しよりも、「エネ研の推計の方が現実的で正確だ」との声も聞かれる。

研究報告会であいさつするエネ研の寺澤達也理事長(10月18日)

そんな中、第7次エネルギー基本計画の議論が行われた10月23日の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本政策分科会では、エネ研とIEAが〝対決〟する一幕があった。ゲストとして招かれたIEAのラウラ・コッツィ持続可能・技術・展望局長に対して、エネ研の寺澤達也理事長が「IEAは3年前、(石油・ガス田への)新規の上流投資はいらないと言った。引き続き必要でないと考えているのか」と、厳しい質問を投げかけたのだ。ラウラ氏は「脱炭素テクノロジーへの投資が倍増すれば、化石燃料の需要はピークに達した後に急減するため新たな投資の必要はなくなる。ただこれはNZEだ」と一歩も譲らかなった。

エネ研の「アウトルック」は「気候変動対策の余波などで投資が進まなければ、化石燃料供給がひっ迫する可能性が高い」と警鐘を鳴らす。需給ひっ迫は価格高騰につながり、経済活動に与える影響も甚大だ。次期エネ基では脱炭素に向けた技術進展が進まない場合も念頭に、化石燃料の安定供給維持に向けた目配りが必須だ。

静かでゆったり過ごすキャンプ場 地域活性化の施策として開設


【東海ガス】

東海ガスは今年3月、静岡県藤枝市に「びく石山静かな夜のキャンプ場」を開設した。

キャンプ場を通して、過疎化が進む中山間地域の活性化にも取り組んでいる。

藤枝駅から中山間地域に向けて車を走らせること30分。市街地から離れ、整備された山道を進んだ先に「びく石山静かな夜のキャンプ場」はある。深緑に包まれて耳を澄ますと、木々の揺れる音や風の音が聞こえる。街中の喧騒を忘れさせてくれるようなロケーションだ。同キャンプ場を手掛けるのは地元・藤枝市で都市ガス事業を展開する東海ガスだ。公益性の高いエネルギー事業者には、自治体から地元を活性化する施策を先導してほしいと期待が高まっている。東海ガスでは、地域貢献になるさまざまなアイデアを社内で募集をかけた。この中から、キャンプ場という案が浮上。藤枝市とも中山間地域の活性化に寄与すると意見が一致し今回の開設に至ったという。

「キャンプ場で地元貢献したい」と丸山社長
木を基調としたコテージ


安心・安全、マナーを訴求 他と一線を画すコンセプト

一口にキャンプ場と言ってもさまざまな形態の施設がある。ファミリー・若者向け、学校や団体向け、グランピングなど、アウトドアブームも相まって種類は多彩だ。そうした中で、同キャンプ場が打ち出しているのが名称にもある通り「静かなキャンプ場」だ。

丸山一洋社長は「キャンプ場を宴会場のように利用する人もいるが、ここは『静か』で、プライベートな空間があって、ゆったりとした時間が過ごせることを訴求ポイントにしている。安全・安心で、マナーの良いキャンパーが集まるキャンプ場がコンセプト」と語る。

これに合わせて、設備の建設や運営・管理も徹底している。テントを張る区画サイトでは、全て隣接するサイトの間に2m幅の通路を設けた。隣人の視線を感じたり、話し声が聞こえたりしないように配慮したという。少しでも他人の物音が聞こえると、「静かな自然を楽しむ非日常ではない」からだ。

キャンプ場にはコテージもある。全室エアコン、トイレ、シャワールーム付きで、ビジネスホテルと比較しても遜色がない設備が用意されている。全室ウッドデッキがあり、陶器製の湯舟で、星を眺めながら入浴できる露天風呂付きコテージもある。これらもプライベートな空間がきっちり確保されている。

キャンプサイトには直火を楽しめる区画もある

キャンプ場のクリンネスへの意識も高い。トイレは1日数回点検する。共用の炊事場などの汚れがちな場所もとてもきれいだ。「こうした面に少しでも落ち度があると、女性客はリピートで来場してくれない。SNSの口コミでの評判にもつながっていく」とのことだ。

キャンプ場がオープンして半年以上が経過した。利用状況について聞くと、「週末はほぼ満室で出足は好調。県内はもとより、東京や名古屋からの来場者もたくさんいる。SNSによるプロモーションも奏功している」と話す。

広々した区画のキャンプサイト
静かに星空を眺める空間も好評


地元名物の陶芸で活性化 キャンプ場も応援

キャンプ場のある藤枝市瀬戸ノ谷地区は古くから陶芸が盛んで、同地域の活性化に生かしていきたいと考えている。同市が掲げている「ふじえだ陶芸村構想」では、陶芸を軸にさまざまな事業展開を行い、地域活性化、交流、定住者増加、地域課題の解決や地域ブランドの強化を図ることを目指している。

設備面でも、既存の市営温泉施設「瀬戸谷温泉ゆらく」の隣接地を拡張し、新陶芸センターと道の駅を新設する計画があるなど、強化の様子がうかがえる。東海ガスも、同構想に寄与するように、キャンプ場から宿泊者を複合施設への誘導などを考えている。「キャンプ場は元々市営の牧場があった土地。これを有効活用してキャンプ場を建設した。今後の運営を含めて、地元の皆さんと対話を続けている。同地域の発展に貢献していきたい」と丸山社長は意気込む。

東海ガスでは、キャンプ場に続く、新たな事業も計画中。藤枝市をはじめとする同社エリアの地域貢献に今後も積極的に取り組んでいく構えだ。

むつ中間貯蔵施設が操業開始 安定運営で地元の信頼獲得へ


青森県むつ市に立地する使用済み燃料の中間貯蔵施設が11月6日、操業を開始した。同施設は8月に青森県とむつ市、事業主体のリサイクル燃料貯蔵(RFS)が施設の使用期限を50年とする安全協定を結んでいた。核燃料サイクルに携わってきた有識者は「操業開始はサイクルの運営に柔軟性を持たせ、中長期的なエネルギー安全保障に貢献する大きな一歩だ」と意義を強調する。

むつ市の中間貯蔵施設に入る使用済み燃料を入れた容器
提供:毎日新聞社/アフロ

一方、県内からは「50年という保管期限は守られるのか」と心配する声が上がる。六ヶ所村の再処理工場が稼働しなければ、中間貯蔵施設に保管された使用済み燃料が行き場を失うからだ。そこで宮下宗一郎知事は7月に「搬出先の明確化」を斉藤健経済産業相(当時)に要請。斉藤氏は再処理工場を念頭に、次期エネルギー基本計画で具体的に盛り込む方針を示した。

とはいえ、肝心の六ヶ所再処理工場については日本原燃が8月、原子力規制委員会の審査長期化を理由に竣工時期を「26年度中」へと約2年半延期。中間貯蔵施設に使用済み燃料を搬出した柏崎刈羽原子力発電所は燃料プールの貯蔵率こそ低下したものの、再稼働には地元同意のハードルが残る。東京電力ホールディングスとともにRFSに出資する日本原子力発電は東海第二原発の再稼働が見通せず、敦賀原発2号機は規制委から「不許可」通知を受けた。

原発の稼働から再処理までは、依然として地元同意と規制委という二つのハードルが立ちはだかる。だが「とにかく中間貯蔵施設の安定操業で実績を積むしかない」(原燃関係者)

需要、供給、産業政策、潮流…… 改定への四つの追加検討ポイント


【論点】マスタープランの見直し〈中編〉/長山浩章・京都大学大学院総合生存学館教授

需要や供給など、マスタープランを決定付ける要素は激変している。

今後、追加検討が必要となるポイントとは。

本号では第7次エネルギー基本計画をにらみ、マスタープラン(MP)において追加検討が必要となる点に言及したい。MPは電力広域的運営推進機関(OCCTO)が昨年3月、広域での電力系統の長期的な増強方針を示す「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」として公表した。11貢の図は、B/C(費用便益分析)の評価対象となる再生可能エネルギーポテンシャルを活用するための新増設と、地内増強の全体イメージ(ベースシナリオ)だ。

地域間連系線及び域内増強の全体イメージ(ベースシナリオ)


追加検討が必要となる一つは、需要面での現状想定に合わせた改定だ。現行では、2050年時点の社会全体の電化率を46%とし、非電力部門からの電化需要を2607億kW時と算定している。だが、直近では、半導体工場やデータセンター(DC)などの立地により需要想定が大幅に変わった。OCCTOの今後10年の電力需要の見通しによると、昨年1月と今年1月に発表した予測の比較では、全体量の増加に加えて北海道、東京、中国、沖縄で最大需要が急拡大する想定となっている。

AI(人工知能)の利用拡大により、これらの電力需要はさらに大幅に拡大する予想もある。図のMPの前提となる50年の発電設備量も当然、これを反映して変更する必要がある。それだけではなく、需要に関してはより現実的な要素を入れる必要がある。 例えば、DAC(CO2の直接回収)がエネルギー転換に伴う需要増の26・7%を占めているが、ベースシナリオではそのうち20%がその一般送配電事業者エリアでのCO2貯留ポテンシャル、80%が需要実績比率で各地域に電力需要として割り振られている。他の脱炭素技術と比較したDACの技術優位性や費用対効果は不明であり、現状に即した技術を考慮すべきだ。


50年の最適な電源構成 透明性のある議論が不可欠

二つ目は供給面での再検討だ。系統計画の前提である発電設備の構成が、現状の50年の想定で本当に最適であるかの議論が必要である。OCCTOのMPは、50年度断面における系統整備について、この便益と費用を評価期間(36年)にわたって合計(割引率を考慮)し評価したものである(50年度断面を36年間評価している)。従って、50年度の設備形成は妥当性があるものでなければならない。例えば、日本風力発電協会が「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」の20年7月17日の会合で示した、「洋上風力の主力電源化を目指して」では、着床式で1億2800万kW、浮体式で4億2400万kWと、計5億5200万kWのポテンシャルがあるとしている。

だが、現行のMPに反映されているのは、洋上合計で4500万kWに過ぎない。この点、発電事業者とOCCTOとのより密なコミュニケーションが求められるだろう。MP構築の前に、しっかりとした長期電源計画モデルによる発電設備の形成の議論が、より透明性のある形で行われるべきだ。

三つ目は、産業政策的観点から産業立地を誘導する必要性だ。DC、半導体工場、再エネポテンシャルの大きい地域への立地を推進するとともに、最適配置を考慮しなければならない。どの洋上風力を開発し、どこにDCなどの需要を誘導するか、いくつかのシナリオを決めた上で、どの連系線を新設、増強するかを検討するべきだ。 通信事業者、自治体との連携も不可欠だ。一般に電力ケーブルの敷設にはコストと時間がかかるが、通信ケーブルの敷設コストは100分の1程度だ。再エネが豊富な地域にDCを建設し、都市とは光ファイバーで情報をやり取りし、電力とデジタルインフラを最適化し、全体的なコストを下げるなどの検討も必要となるだろう。ただし、建設コストだけを見れば再エネ適地にDCを立地するのは有利だが、そのエリアはVRE(変動型再エネ)集積地域にもなるため、曇天無風時の供給力や短周期変動の調整力確保も必要だ。こうした点も包括的に考慮、電力と通信の統合を踏まえた国家戦略としての50年の長期電源計画を構築するべきである。


複数シナリオを提示 シミュレーションの実施を

さらに現在、半導体工場やDCの誘致は国際競争になっているため、ある程度送電ネットワーク会社が国と協力して送変電投資をしなければならない部分があり、両者の負担責任を明らかにしなければならないことも今後、重要な論点となるだろう。

最後に、全体の需給と融通の結果の提示だ。現行のMPは、再エネの近傍における需要(水素製造とDACのみ)有無でケースを分けているが、50年の需要の具体的な立地をどのようにノードごとに振り分けているか、明示する必要がある。その上で特定の連系線、基幹送電線のB/Cだけでなく、全国的な潮流の動きを見なければならない。 さらに、それらの前提データを大学、研究機関など、第三者機関がデータ結果を再現し、シナリオを検討できるような情報公開も必要ではないだろうか。欧州の系統運用者の協調機関である欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO―E)では、シナリオ設定、結果、使用データについて全てウエブに公開し、自由に使用が可能となっている。

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ながやま・ひろあき 慶応大学経済学部卒後、三菱総合研究所入所。企業戦略構築のコンサルティングなどに従事。エール大学経営大学院修了(MBA取得)。京都大学大学院エネルギー科学研究科博士後期課程修了(博士)。2008年から京大国際交流センター教授。20年から現職。

共和党が「トリプルレッド」 トランプ2・0で政策転換必至


米国の次期リーダーがトランプ氏に決定した。11月5日に投開票され、6日未明(現地時間)に勝利宣言した。直前まで勝負は五分五分と見られていたが、ふたを開ければ激戦7州全てでトランプ氏が勝利。得票数でも過半数を獲得し、大統領職・上下両院を共和党が押さえる「トリプルレッド」となった。温暖化防止国際会議・COP29開幕直前にこの報がもたらされ、8年前のフラッシュバックとなった。

勝利宣言するトランプ次期米大統領
提供:AFP=時事

民主党候補がバイデン氏からハリス氏に代わった直後はハリス氏に追い風が吹いたが、徐々に失速。一方、トランプ氏は終盤、現政権の政策が国民の生活不安を招いたことに焦点を絞った。エネルギーでは「ドリル・ベイビー・ドリル(石油の大量生産)」に代表されるグリーン政策を翻す方針を訴えた。

来年1月20日に大統領に就任後、実際にどんな政策が展開されるのか、世界中が注目する。パリ協定からの再離脱で、国際交渉への影響は。インフレ抑制法(IRA)見直しが浮上する中、既にEVの税額控除を外すと報じられており、その他の支援も後退するのか。米国内での石油・ガス開発が促進し、自由貿易協定(FTA)非締結国向けのLNG輸出許可申請の凍結が解除されるのか。そして外交ではどう立ち回るのか―。

論点は枚挙にいとまがないが、アナリストからは「エネルギー関係では米国内政より外交への影響が大きい」「特に中東情勢への関与の仕方が注視される」といった見方が出る。トランプ2・0で世界はどう変わるのか(覆面ホンネ座談会で詳報)

設立4年目の新生労組 多様な人材抱え試行錯誤


【電力事業の現場力】JERA労働組合

東京・中部電力からの社員の転籍を受け、2021年に誕生した。

旧一般電気事業者の枠組みにとらわれない、福利厚生制度の構築が課題だ。

発足から間もなく10年を迎えるJERA。労働組合の活動には新たな船出に胸が躍るとともに〝生みの苦しみ〟もあった。

2021年4月、東京電力や中部電力からの出向者の多くがJERAに転籍した。JERA労組は半年後の10月に誕生することになるが、それまでに東電労組と中電労組で「新しく労組を作る」という難作業があり、時間をかけて丁寧に対応した。発足後は、会社側との交渉の末、高年齢期雇用制度や退職給付制度などを統合・構築。新たにJERA健康保険組合を設立した。

22年以降は新卒・中途採用者が急増し、他社で経験を積んだ人材がJERAの門をたたく。働く人の多様性は企業の課題解決力や生産性向上につながる一方で、労組に求めることはさまざま。「他社に比べて労働条件が劣後しているのでは」―。時にはこうしたストレートな声も寄せられ、「制度を作る上で、何が正解なのか」(松井秀典書記長)と、しばしば悩まされる。

燃料アンモニア転換実証試験を開始した碧南火力発電所

「職場が原点」という理念の下、労組役員は国内の現場はもちろん、これまで、台湾、インドネシア、シンガポール、米国、インド、タイ、英国、ベルギーで働く組合員のもとを回ってきた。JERAは海外で法人を設立し、現地の人材を雇用して事業を展開することが多い。社員が配偶者とともに海外へ赴任し、そこで子どもが産まれることもある。しかし、福利厚生や給与体系などは旧一般電気事業者の制度設計を参考にしたものが多く、「現状との整合性が取れなくなっている」(同)。いかに現場の声を聞き、〝JERA流〟の制度を構築するかが課題だ。

国内の発電所での意見交換会


語学力よりも技術力 労組の役割とは何か

JERAが成長する中で、近年は発電事業、再生可能エネルギー事業、燃料事業など各部門の「個」の強みが増してきた。とはいえ、JERAの強みは、あくまでも上流から下流まで自社でバリューチェーンがつながっていることにある。個の強さゆえに、全体のつながりが途切れてしまっては本末転倒だ。この点、労組は管理職以外の社員全員が同じ組合員。組合活動は社内の一体感醸成にも一役買うことのできる存在なのだ。

人材育成にも課題がある。海外勤務には語学力ととともに技術力も欠かせない。「現場では英語で上手く伝わらないことが図面を書けば伝わり、信頼を得ることができる」という、海外の現場で働く組合員の言葉はそれを象徴している。海外勤務を夢見て入社した社員も、まずは国内の現場でこれまで積み上げ、連綿と継承されてきた運転・保修技術の習得が重要。海外への気持ちがはやる中で、学ぶ姿勢、それに応える真剣な指導と教育、人材を生かすローテーションや仕組みが不可欠だ。

チレボン火力発電所(インドネシア)の中央制御室
組合役員は海外組合員の声を聞きに行く

松井氏は労組の活動で悩むと、事務所の壁に掲げた綱領を見上げる。「働く者の団結をはかる、組合員と家族のよりよい生活をめざす、社会の平和と発展のために貢献する」と記されている。「綱領を実現するために動けばいいんだ」と前向きになれるといい、〝育ての喜び〟をかみ締めながら試行錯誤を続ける。

労組は「会社のチェック機能」と言われる。設立9年目のJERAの成長は早い。そんな中でJERA労組は「常にブレーキを踏むのではなく、いざという時よく効くブレーキ」(栁沼宗昭委員長)であり続ける。

国は原子力に「本気」なのか 政策遅滞でたまる福井の鬱憤


使用済み燃料の県外搬出を巡る関電のロードマップ見直しを巡り、福井県が揺れている。

実効性の担保だけでなく、国が立地地域に寄り添う「誠意」を示すことが肝要だ。

「こうなることは分かっていた」というのが率直な感想ではないか。

関西電力による「使用済燃料対策ロードマップ」の見直しである。原子力発電所から出る使用済み燃料の県外搬出を求める福井県は昨年10月、関電が提示したロードマップを容認。ところが、今年8月に青森県の六ヶ所再処理工場の竣工時期が延期となったため、ロードマップに狂いが生じた。県議会では自民党県議が資源エネルギー庁と関電の幹部らを前に、「『もう一度出すから信用してくれ』では信用できない。3基(40年超運転となる美浜3、高浜1、2号機)を直ちに止めていただきたい」と迫った。

福井県に立地する関電の3原発の使用済み燃料プールは、5年程度で満杯になる見込み。同社は今年度末までにロードマップを見直すとしているが、福井県の了承を得られなければ稼働継続に暗雲が立ち込める。

福井県は原子力の最前線だ(敦賀市役所)


「むつ」共同利用案から4年 「上関」は掘削調査が終了

ロードマップの要旨はこうだ。①再処理工場が2026年度から使用済み燃料の受け入れを開始、②使用済み混合酸化化合物(MOX)燃料のフランス搬出(積み増しも検討)、③中間貯蔵施設の他地点を確保し30年ごろの操業開始を目指す、④発電所構内に乾式貯蔵施設の設置を検討─。

④の乾式貯蔵施設については3月、福井県が3原発全てのサイトでの建設を了承した。だが、ロードマップの見直しを受けて杉本達治知事は「今回の話に決着がつかなければ、乾式貯蔵の事前了解はない」との考えを表明。建設に向けて動き出した時計の針が止まってしまった。とはいえ、あくまで乾式貯蔵は県外搬出までの「つなぎ」の施設で問題の根本解決にはならない。

それは②のフランス搬出も同じだ。搬出量を積み増したとしても3000tを超える使用済み燃料の一部に過ぎず、継続的な搬出は望めない。①の再処理工場の竣工は関電が日本原燃に協力するにせよ、基本的には原子力規制委員会マター。最終的には、やはり③県外の中間貯蔵施設への搬入しかない。

思い出されるのが、青森県むつ市に立地する中間貯蔵施設の共同利用案だ。20年12月、電気事業連合会が共同利用の方針を発表したが、同市の宮下宗一郎市長(現青森県知事)の猛反発などにより棚上げとなった。あれから約4年……。同施設は11月8日に操業を開始した。「(中国電力と共同で建設を計画する)山口県上関町の中間貯蔵施設完成には相当な時間がかかるし、現実的には『むつ』しか選択肢はないのでは」(電力関係者)との声も聞こえてくる。ただ共同利用を再提案するにしても、安定操業の実績を積むまでは動きにくいか。

上関町の建設候補地では11月、ボーリング調査が完了した。今後、中国電力が「適地」と判断すれば町が建設の認否を最終判断することになるが、「むつ」の建設時には現地調査の開始から貯蔵建屋の完成(1棟目)まで8年近くを要した。規制委の審査もあり、「上関」の操業がロードマップで示した「30年ごろ」に間に合うかは不透明だ。

原子力問題に関心なし!? 問われる石破首相の政治手腕


エネルギー業界的には不安の中での船出だ。10月下旬の衆院選を受けた特別国会が11月11日召集され、石破茂首相(自民党総裁)が衆参両院で第103代首相に指名。皇居での首相親任式と閣僚認証式を経て、第2次石破内閣が発足した。

しかし、衆院で少数与党となり、第2次石破内閣は政策面や国会対応で野党の主張への配慮が避けて通れない。しかも、衆院予算委員長に就いたのは、立憲民主党の安住淳・前国会対策委員長。来年夏の参院選を見据え、国会での与野党の攻防が激しさを増しそうだ。

少数与党として厳しいスタートとなった第2次石破内閣

「岸田(文雄)前政権時代にかじを切った原子力推進路線が引き続き堅持されるのか。石破首相の姿勢や官邸スタッフの陣容、原子力理解派議員の軒並み落選などを見る限り、政治主導の勢いが急減速しそうな気がしてならない」。大手電力会社の幹部は、こう懸念を隠さない。

石破氏は最初の首相就任直後こそ、10月4日の衆参両院本会議における所信表明の中で、「安全を大前提とした原子力発電の利活用」に触れたものの、日本経済新聞が12日に報じたインタビューでは「(エネルギー基本計画について)原発比率の低減があり得る」と語り、電力関係者を驚かせた。そして11月11日の国会召集後の会見では、エネルギー・原子力問題への言及が全くなかったことも特筆される。


官邸主導期待できず 鍵握る国民民主と維新

岸田前首相が2022年10月3日の臨時国会の所信表明の中で、「ロシアの暴挙が引き起こしたエネルギー危機を踏まえ、原子力発電の問題に正面から取り組む。そのために十数基の原発の再稼働、次世代革新炉の開発・建設などについて、年末に向け、専門家による議論の加速を指示した」と力説したのとは大違いだ。

その言葉通り、昨年5月の通常国会では原発の「60年超」運転に道を開くGX脱炭素電源法が成立。8月には、関係者の多くが難しいと考えていた、福島第一原発から出る処理水の海洋放出を実現させた。

「岸田政権では、政務秘書官の嶋田隆氏が中心になって原子力政策をリードしてきた。彼が官邸から抜けた影響は大きい。しかも石破氏はそもそもエネ政策に関心がない。これまでのような官邸主導体制はもう期待できないだろう」(永田町関係者)

こうした状況に追い打ちを掛けるのが、エネ政策に造詣の深い議員の相次ぐ落選だ。重鎮の甘利明氏をはじめ、原子力正常化に精力を注いできた鈴木淳司氏、党の電力安定供給推進議員連盟事務局長の高木毅氏、同事務局次長の細田健一氏―。

「政治的には、原子力推進に黄信号が灯った格好になった」(自民党関係者)。再稼働、新増設、中間貯蔵、再処理、最終処分など課題は山積みだ。幸い、国民民主党、日本維新の会は原子力推進を公約に掲げている。どうする! 石破首相。

【北海道電力 齋藤社長】北海道をCN拠点へ 脱炭素技術を社会実装 GXビジョンを実現する


最先端の半導体工場やデータセンターの建設が相次ぎ、
今後、大幅な電力需要増が見込まれる北海道。

これまでの知見や技術を最大限活用し
企業の円滑な進出をサポートするとともに、
脱炭素技術の社会実装を着実に進める。

【インタビュー:齋藤 晋/北海道電力社長】

さいとう・すすむ 1983年北見工業大学工学部卒、北海道電力入社。2015年苫東厚真発電所長、19年常務執行役員火力部長、21年取締役常務執行役員火力部・カイゼン推進室・情報通信部担当などを経て23年6月から現職。

井関 今夏は全国的に記録的な猛暑となり、各地で電力需給がひっ迫しました。冬季に向けた供給体制は盤石ですか。

齋藤 10月29日の電力・ガス基本政策小委員会において、今年度冬季の需給に関する見通しが示されました。北海道エリアは最も厳しい1月でも、10年に1度の厳寒を想定した最大需要に対する予備率を10%以上確保できる見通しです。北海道においては暖房機器の稼働などにより、冬季が電力需要のピークとなります。引き続き、ほくでんグループ各社が緊張感を持って設備保全などに努め、安定供給を果たしていきます。

井関 昨年度の長期脱炭素電源オークションで、石狩湾新港発電所2号機の新設と苫東厚真発電所4号機の既設改修で応札し、落札されました。

齋藤 北海道エリアは電力需要の増加に加えて再生可能エネルギーの導入拡大が見込まれていますが、それぞれがいつ、どの程度の規模であるかを見通すことは難しく、予見性の観点から新規電源投資のリスクが大きい状況です。

長期脱炭素電源オークションで落札した電源は、原則20年にわたり、他市場収益(卸取引市場・需給調整市場・非化石収入など)を約90%還付する必要があるものの、建設費用や運転開始後の維持費、事業報酬を回収できる制度であるため、投資回収の予見性が確保できるものと考えています。

井関 石狩湾新港2号機の前倒し稼働を決めました。不透明な電力需要にどのように対応していくことになりますか。

苫東厚真発電所4号機ではアンモニア混焼を予定している

齋藤 石狩湾新港2号機の運転開始時期を、2034年12月から30年度まで前倒しすることにしました。電力広域的運営推進機関が公表している北海道エリアの需要想定では、経済成長やデータセンター(DC)・半導体工場の新増設が続くことによる需要増が、人口減少や節電・省エネなどの減少影響を上回ると見込まれ、当社として、将来の需要増を踏まえ前倒しが必要だと判断したものです。社長に就任した昨年6月ごろは、今後需要が縮小していく中で地域に寄り添いながらどう生き残っていくかが課題でしたが、ラピダスの千歳進出を機に半年ほどで状況は一変したと感じています。 こうした需要増に対しては、まずは既存の発電設備を活用しながら供給していく方針です。それでも、北海道の300万~400万kWという需要規模の中に100万kW規模のハイパースケールDCが立地すれば電力システムへの影響は甚大です。発電設備、ネットワーク設備の在り方を考え、効率的かつ迅速に産業を誘致する観点からプッシュ型で増強を進めていく必要があると考えています。とはいえ、それには資金調達と資金回収の面で大きな課題があります。